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行政訴訟検討会(第3回)議事録



1 日 時
平成14年4月8日(月)15:00 〜17:30

2 場 所

司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者

(委 員)
塩野宏座長、市村陽典、小早川光郎、芝池義一、芝原靖典、成川秀明、萩原清子、福井秀夫、福井良次、水野武夫、深山卓也(敬称略)
(説明者)
宇賀克也(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
有田芳子(全国消費者団体連絡会司法担当)
辻公雄(全国市民オンブズマン連絡会議代表幹事)
秋田仁志(全国市民オンブズマン連絡会議幹事)
青山貞一(環境行政改革フォーラム代表幹事)
(事務局)
松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官

4 議 題

(1)宇賀克也東京大学教授、全国消費者団体連絡会、全国市民オンブズマン連絡会議及び環境行政改革フォーラムからのヒアリング
(2)今後の日程等

5 配布資料

資料1行政事件訴訟法改正について(宇賀教授説明資料)
資料2行政訴訟についての問題意識(全国消費者団体連絡会説明資料)
資料3市民からみた行政裁判と納税者訴訟の創設(全国市民オンブズマン連絡会議説明資料)
資料4司法制度改革推進本部行政訴訟検討会ヒヤリングレジメ(環境行政改革フォーラム説明資料)
資料5行政事件に関する統計資料(最高裁判所事務総局行政局)
資料6行政事件訴訟法案提案理由説明
資料7行政事件訴訟法案逐条説明

6 議 事

【塩野座長】所定の時刻になりましたので、第3回行政訴訟検討会を開催したいと思います。
 まず、事務局から本日の資料について簡単に説明というか、御確認をいただきます。

【小林参事官】お手元の配布資料を御説明いたします。
 お手元左側に本日の「座席表」と「行政訴訟検討会委員人事異動表」がございます。
 真ん中に本日の行政訴訟検討会(第3回)次第の下に配布資料がございます。
 資料1は、宇賀教授の説明資料。
 資料2は、全国消費者団体連絡会の説明資料。
 資料3は、全国市民オンブズマン連絡会議の説明資料。
 資料4は、環境行政改革フォーラムの説明資料。
 資料5は、「行政事件に関する統計資料」と題する最高裁判所事務総局行政局の説明資料。
 資料6は、行政事件訴訟法案提案理由説明。
 資料7は、行政事件訴訟法案逐条説明、このようになっております。
 そのほか、お手元右側の方に若干の論文等が参考資料として配布してございます。「判例タイムズ166、168号」「ジュリスト925号」「公法研究52号」「民商法雑誌119 巻第4・5、6号」、それから、いつもどおり配布しております「ジュリスト」の特集 でございます。
 以上でございます。御確認ください。
 それから、全国消費者団体連絡会の方から参考資料としてただ今お手元にパンフレットが2つほど配布されておりますので、それも御確認ください。

【塩野座長】資料を御確認いただき、もし、ない場合には事務局の方に個別にお持ちいただきたいと思います。
 委員の変更がございましたので、御紹介いたします。
 お手元にお配りした行政訴訟検討会委員人事異動表にありますとおり、小池委員が4月1日付で法務省大臣官房審議官から大阪法務局長に異動されたため、代わって、法務省民事局民事法制管理官深山卓也さんが新たに検討委員会の委員になられました。

【深山委員】深山です。よろしくお願いいたします。

【塩野座長】次に司法制度改革推進本部事務局に4月1日付で新たに次長が着任されたということで御紹介いたします。古口章次長でございます。

【古口次長】古口と申します。不慣れですが、一生懸命勉強して役割を果たしたいと思います。よろしくお願いいたします。

【塩野座長】更に4月1日付で当検討会を担当する事務局の職員として新たに、村田斉志参事官補佐が着任されておりますので、御紹介いたします。

【村田参事官補佐】参事官補佐の村田でございます。よろしくお願いいたします。

【塩野座長】本日の議事日程でございますが、東京大学の宇賀克也教授、並びに全国消費者団体連絡会、それから全国市民オンブズマン連絡会議、及び環境行政改革フォーラムの各団体から、行政訴訟制度の見直しの検討課題等につき、御意見をいただくことになっております。
 御案内していると思いますけれども、宇賀教授からは30分程度の御説明をいただいた後、15分程度の質疑応答の時間。
 それから、3つの各団体からは15分程度の御説明をいただいた後、10分程度の質疑応答の時間をそれぞれ設けたいと思っております。
 そういうことでございますので、御協力方よろしくお願いいたします。
 なお、全国消費者団体連絡会からの御説明の後、10分程度の休憩の時間を設けたいと思います。
 それでは、早速でございますけれども、宇賀教授に説明をお願いいたします。宇賀教授の説明資料は、先ほど御案内いたしましたように、資料1にございます。よろしくお願いいたします。

【宇賀教授】東京大学の宇賀でございます。本日はこのような機会を与えていただき、ありがとうございます。
 お手元に簡単なレジュメをお配りしておりますので、それに沿ってお話しをさせていただきたいと存じます。
 初めに「行政事件訴訟法の耐用年数」ということですが、1982年に開かれました日本公法学会の第47回総会シンポジウムにおきまして、行政事件訴訟法の立案に携わられました故雄川一郎教授は、立案当時、同法は20年、30年ともつものではなく、そのころには当然見直し作業が必要だろうと考えられていたと述べられていました。
 行政事件訴訟法は、行政事件訴訟特例法時代に多かった農地買収や課税処分のような事例を典型的なものと想定して制定されており、環境訴訟のような、いわゆる現代型訴訟への対応を十分に念頭に置いたものではございませんでした。
 しかし、実質的な改正は一度も行われることのないまま、40年が経過してしまいました。このたび司法制度改革審議会の答申を受けまして、ようやく行政事件訴訟法の見直しが行われることになったことを喜び、その成果に期待しております。
 行政事件訴訟法の見直しを行う場合に出発点となるのは、憲法の保障する裁判を受ける権利であると思います。この点は当然ではありますが、行政事件訴訟法の立案過程では、行政事件訴訟特例法の下で生じた問題点の解決に主眼が置かれ、行政事件訴訟特例法も、平野事件を契機として占領政策への司法の介入の排除が重視されたために、憲法32条の裁判を受ける権利を行政作用との関係で、いかに実現するかという視点は稀薄であったように見受けられます。憲法32条の裁判を受ける権利を基礎に、包括的実効的な権利保護を付与するという視点を基本に据えて、訴訟制度の見直しが行われることを期待しております。
 行政作用を巡る紛争に包括的、実効的な裁判による救済を与える場合、すべての救済のルートが民事訴訟と区別された行政訴訟により確保されなければならないというわけではなく、我が国におきましても、戦後の一時期、行政作用に関する紛争について、民訴応急措置法で、行政処分の取消し、または、変更を求める訴訟の出訴期間についての特例を定めるのみで、他はすべて民事訴訟法を適用していたことは周知の事実であります。
 したがって、初めから行政訴訟の存在を前提とするのでなく、民事訴訟で対応可能か、民事訴訟で対応可能であっても、それとは異なる行政訴訟制度を設けることに意義があるのかを検証することが必要になると思われます。
 民事訴訟とは異なる行政訴訟制度を設けることが国民の裁判を受ける権利という視点から見たとき、かえってマイナスにならないか。仮にそのような面があるとしても、行政法関係の早期安定等の公益的配慮の要請から、正当化し得るのかという問題意識が必要になるということです。
 すなわち、初めに行政訴訟ありきではなく、民事訴訟と区別される行政訴訟の存在意義についての説明が必要になってくると思われます。
 以上のような視点から見たとき、現行の行政事件訴訟法が果たしてその存在意義を十分に立証し得るものであるかについては、大いに議論の余地があるところかと思います。
 しかし、その点はさておき、一般論としては、当事者間の権利義務関係に還元するのではなく、行政作用を直接対象としてその司法審査を求める訴訟、これを抗告訴訟と呼んでもよいのですが、現行の行政事件訴訟法の抗告訴訟と区別する意味で、ここでは直接審査訴訟と呼ばせていただきます。このような訴訟を設けることには意義が認められると考えております。
 国民の権利救済という観点から見ても、例えば原子力発電所の差止めを求める場合に、民事差止訴訟も認められるべきですが、それとは別に原子炉設置許可処分の取消しを求める訴訟によって、早期に行政庁の行為規範違反を理由として、許可の効力を失わせる訴訟類型を用意しておくことが有効であると思われます。
 更に行政作用を直接に対象として実体、手続の両面において、その行為規範適合性の司法審査を行うシステムを設けることが、法律による行政の原理を担保するという観点からも大きな意義を認めることができると思われます。すなわち、主観訴訟であっても、直接審査訴訟には、国民の権利利益の救済機能のみならず、法律による行政の原理を担保する機能も認められ、この機能を軽視すべきではないということです。
 国家賠償請求訴訟につきましても、私は同様に、単に国民の権利利益の救済機能という視点のみから捉えるべきではなく、法律による行政の原理を担保するという機能を重視すべきであるという観点から、その違法性の認定について、公権力発動要件欠如説を唱えておりますが、直接審査訴訟と国家賠償請求訴訟とは、いずれも行政救済制度の重要な構成要素を成すと同時に、法律による行政の原理を担保するという機能を共有していると見ることができると思います。
 まして、国家賠償請求訴訟における違法性の認定について、職務行為基準説を取る場合には、法律による行政の原理の担保機能についての直接審査訴訟への期待が一層大きくなると言えると考えられます。
 さて、現行の行政事件訴訟法は、行政作用を直接対象として審査する訴訟として抗告訴訟制度を設けています。3で述べた理由から、私は民事訴訟と区別された行政訴訟を設けること自体の意義は認めているわけですが、現行の抗告訴訟制度や、それについての判例の解釈には問題が少なくなく、2で述べました裁判を受ける権利の保障という観点から見ても疑問を抱く点がございます。
 現行の抗告訴訟は、古典的な行政行為論に立脚し、行政行為には公定力があるというドグマから出発して、行政行為の公定力排除訴訟としての取消訴訟を制度化したと思われます。
 そのため、行政作用は、行政行為に限らず多様な形式で行われるにもかからわらず、行政行為以外の行政作用に対応することが困難な状況にあります。もっとも、学説や一部の判例はこうした状況を克服するために、処分性の要件を緩和する解釈論を展開する努力をしてきたわけですが、十分な成功を収めてきたとは必ずしも言えず、立法による抜本的な改革を行う必要性が大きいと考えております。
 また、行政事件訴訟法は、行政事件訴訟特例法下で議論のあった抗告訴訟の類型について整理し、法定するとともに、それ以外の無名抗告訴訟については、学説・判例の発展に委ねることといたしましたが、この40年間の状況を見ますと、判例の解釈は厳格にすぎ、実効的な権利救済を求める原告の期待を裏切ることが稀でなかったように思われます。
 また、国民の生命・身体の危険がある場合のような、一部の例外を除いて、一般的には判例により取られてきた行政事件訴訟法9条の解釈は、原告適格を認めるのに相当に慎重であり、包括的、実効的な権利救済という観点からも、法律による行政の原理を司法により担保するという観点からも、原告適格の要件の緩和が必要ではないかと思われる例が少なくありません。このことは、とりわけいわゆる現代型行政訴訟への対応について顕著と思われます。
 次に、大阪空港訴訟最高裁判決で民事差止訴訟が不適法とされ、日本原演習場訴訟最高裁判決で抗告訴訟が不適法とされたことに見られるように、訴訟類型の選択を誤ったとして、訴えが不適法とされるような事態は改善されるべきと思われます。
 抗告訴訟の対象となる公権力の行使については、仮処分が認められず、執行停止制度が法定されていますが、この点についても、抗告訴訟における仮の救済が十分に行われず、実効的権利救済の道が閉ざされているように思われる例が稀でありません。更にグローバリゼーションの進展に伴い、行政訴訟の分野におきましても、国際的ハーモナイゼーションが求められるようになってまいりました。我が国の行政訴訟がこの要請にかなうものであるかについては疑問の余地があり、現状のままでは条約上の義務違反となったり、国際摩擦を生ずる危険すらあるように思われます。国際的ハーモナイゼーションという観点からも、行政事件訴訟法の改正が急務であると考えております。
 国際的ハーモナイゼーションという観点から行政訴訟の在り方が問題になる具体例をお示しするために、お手元に国際経済法学会で報告したものをまとめた論文をお配りしてあります。
 「アンチダンピング手続と司法救済」でございます。詳しくはそれをお読みいただければと存じますが、簡単にそこで述べました問題意識について御説明いたします。
 その論文の137ページに、アンチダンピング協定13条の翻訳が掲げられています。ちなみに補助金相殺措置に関する協定23条も同様の規定です。
 このアンチダンピング協定13条で最終決定という言葉が出てきて、それについて独立の機関による審査が義務づけられているわけでございますが、ここで言う最終決定が何を意味するかについては、解釈が分かれるところですが、税関長が行う個別具体的な課税処分が含まれることには異論はないと思われます。かかる課税処分は輸入者に直接に納税義務を課すものであり、処分性を有し、その名宛人である輸入者が取消訴訟を提起する原告適格を有するということも疑いありません。
 このように、税関長がなす課税処分につきましては、処分庁から独立した裁判所による審査を受ける機会が輸入者に保障されています。したがって、アンチダンピング協定13条にいう最終決定が、税関長が行う個別具体的な課税処分のみを念頭に置いており、かつ、輸入者に対する救済の付与のみを対象として想定しているのであれば、我が国の行政事件訴訟法は、アンチダンピング協定13条の要請に応えているということになります。
 しかし、このアンチダンピング協定13条の最終決定を、税関長が行う個別具体的な課税処分に限定して考えることにはかなり疑問があります。なぜならば、アンチダンピング課税を行う場合には、関税定率法の8条1項に基づきまして、政令で課税の対象となる貨物、当該貨物の供給者または供給国及び機関を指定しまして、更に税率も定めることになっており、この政令のことを発動政令というふうに呼んでおりますが、実際には発動政令が制定されますと、この段階で輸入が止まってしまう可能性が高く、そうすると輸入が行われないわけですから、税関長が行う個別具体的な課税処分に対して、取消訴訟を提起するという救済ルートは、画餅に帰するということになってしまうからです。
 それでは、この発動政令に処分性が認められるかですが、この点については解釈が分かれるところです。しかし、これまでの判例に鑑みますと、処分性を厳格に解し、事実上の損害が生じても、個別具体的な課税処分がなされて、初めて処分性が認められるという解釈が取られる可能性は否定できません。アンチダンピング協定の13条にいう最終決定が、我が国の発動政令に対応する確定措置を含み、かつ我が国において発動政令の処分性が否定されるということになりますと、民事訴訟による救済も困難と考えられるため、我が国はこのアンチダンピング協定13条により課されている義務を履行していないということになってしまうわけです。
 また、アンチダピング協定の13条による最終決定には、不当廉売の有無についての調査をしないという決定や、調査の結果、違反事実なしと認定して調査を終了する旨の最終的な決定、いわゆるシロ決定ですが、これも含まれると考えられますが、我が国の行政事件訴訟法の下で、このシロ決定を争えるかに関してもかなり疑問があり、この点について否定的に解されますと、やはり条約上の義務を果たすことができないことになります。
 更にアンチダンピング協定13条が輸入者のみならず、生産者・輸出者にも原告適格を認める規定と解しますと、果たしてこれまでの行政事件訴訟法の下での判例法理において、生産者・輸出者の原告適格が肯定されるか定かではありません。発動政令の方に処分性が認められる場合には、輸出者の原告適格は認められるでしょうが、輸入者や生産者の原告適格が肯定されるかについてはやはり明確ではなく、否定されてしまう可能性もあります。
 また、このアンチダンピング協定13条に基づく義務の履行という点とは別に、貿易に関する制度の国際的ハーモナイゼーションという観点からも処分性、原告適格を制限的に解する我が国の判例の立場が、国際摩擦を生じさせる危険があるように思われます。
 アンチダンピング課税について見ますと、アメリカでは商務省や国際貿易委員会によって課税の必要があるという決定、いわゆるクロ決定がなされた場合には、個別具体的な課税処分を待つことなく、この段階で国際貿易委員会に出訴することが可能であり、また、輸出者にも原告適格が認められております。EUの場合には、クロの仮決定の段階で司法審査が可能であり、やはり輸出者にも出訴が認められております。また、調査を行わないという決定につきましても、アメリカ、EU共に司法審査を認めております。
 もとより実体法の改正によって国際的なハーモナイゼーションを個別に図っていくことも検討すべきですが、アンチダンピング課税は一例にすぎず、今後多くの分野で外国企業が日本の裁判所に司法審査を求めるようになるだろうことを考えますと、行政事件訴訟法の改正に当たりましても、比較法的な考察を踏まえて、国際的ハーモナイゼーションに配慮することが必要ではないかと思われます。
 それでは、もう少し具体的に現行の抗告訴訟をどのように改正すべきかについての私見を述べさせていただきます。
 現行の抗告訴訟は行政庁の公権力の行使に関する国民の訴訟とされており、行政庁の行為によって、直接国民の権利義務を形成し、またはその範囲を確定することが法律上認められているものを言うとするのが判例の立場です。
 このように抗告訴訟の対象を限定しますと、行政立法や行政指導のように、行政行為以外の行政作用によって私人に重大な不利益が生じており、当該行政作用の行為規範適合性についての司法審査を行うことが可能であり、私人の救済のために司法審査が要請されている場合にも、一般的にはそれが否定されてしまうことになるわけです。
 また、行政過程の早期の段階において司法審査を認めなければ、実効的救済が与えられないにもかかわらず、行政行為がなされる段階まで司法審査の機会を先送りし、実効的救済の時期を失することが稀でありません。そこで、行政行為概念を基礎とした公権力の行使を直接審査訴訟の要件とするのでなく、行政作用全体を直接審査訴訟の対象とした上で、紛争の成熟性という観点から対象を限定することも検討すべきではないかと考えております。
 レジュメでは、直接審査の対象を行政作用の種類によって限定するのではなく、行政機関の最終的な行為で成熟性が認められるものであれば対象とするアメリカにおいて、成熟性に関する判断基準がどうなっているかについて簡単に説明しております。
 レジュメの2枚目にございますように、1967年のアボット判決以来、司法判断適合性があり、司法判断を拒否することによって、当事者に困難が生ずる場合には成熟性が認められています。これ以後、行政立法につきましても、その具体的適用を待たずに、プリインフォースメント訴訟が広範に認められるようになっております。
 土地区画整理事業計画、墓地埋葬等に関する法律に関する通達、道路交通法の反則金納付通告、海難審判法に基づく原因解明裁決等、我が国の判例で処分性が否定された事例は、アメリカの判例の基準に当てはめて考えますと、いずれも直接審査訴訟の対象とされることになると思います。
 行政作用についての直接審査訴訟を認めるとしても、論理必然的に直接審査訴訟の排他性を認めなければならないということにはならず、排他性を認めるか否かが立法政策の問題になると考えられます。
 現行の行政事件訴訟法の制定に際しては、行政行為に公定力があるというドグマから出発して、制度を構築したために、公定力排除訴訟としての取消訴訟の排他的管轄が論理必然的に帰結することになりましたが、今日では行政行為にアプリオリに公定力が認められるのではなく、取消訴訟の排他的管轄の結果として、そのような効果が認められるにすぎないことが広く承認されるようになっております。そうであるとすれば、行政行為についても、取消しうべき瑕疵と無効の瑕疵の区別を否定し、違法即無効という前提で制度を構築し、違法確認訴訟としての直接審査訴訟と、無効を前提とする間接審査訴訟を併存させることも考えられないわけではありません。
 他方、違法即無効という前提で制度を構築する場合であっても、行政法関係の早期安定等の要請から、直接審査訴訟の排他性を認め、出訴期間を徒過した場合には不可争とする制度も想定できないわけではありません。
 取消し得べき瑕疵と無効の瑕疵の区別をしないアメリカにおきましても、事前の適切で排他的な司法審査の機会が与えられている場合には、間接審査は認められないこととされており、先ほど述べましたプリインフォースメント訴訟につきましても、排他的プリインフォースメント訴訟が法定され、出訴期間が限定されている場合があることが、そのことを示しております。
 また、行政行為以外の行政作用につきましても、直接審査訴訟と間接審査訴訟との関係をどうするかについての整理が必要になってくると思われます。
 次に6と7で述べた点以外につきまして、現行の抗告訴訟を具体的にどのように改正すべきかについての私見を述べさせていただきたいと存じます。
 訴訟類型につきましては、義務付け訴訟にしましても、予防的不作為訴訟にしましても、極めて例外的にしか判例で認められてこなかったのが、無名抗告訴訟としての位置づけに起因する面があると思われ、これらを法定訴訟として正面から認知することが望ましいのではないかと考えております。
 原告適格につきましては、現行の行政事件訴訟法の規定の下でも、解釈により要件を緩和していく余地はあり、実際判例の中にも新潟空港訴訟やもんじゅ訴訟の最高裁判決のように、そのような傾向を示すものがあります。
 ただし、判例が固まってしまったと思われる分野において、原告適格の要件が厳し過ぎると考えられるものが稀でありません。私の印象では、公益保護と区別された個別的利益保護要件の解釈がやや厳格にすぎるように思われ、この点について判例の軌道修正を図る方法はないか思案しております。
 また、環境保護や消費者保護の分野で市民訴訟や団体訴訟の制度化も併せて検討する必要があるのではないかと思います。
 なお、訴訟要件を緩和しましても、本案審理において原告が勝訴する見込みがないのであれば、意味がないのではないか。裁判所が訴訟要件を厳格に解する傾向がある要因も、この点にあるのではないかという見解もあり得ます。私もこのような見解には確かに一理あると考えます。
 しかし、後に述べますように、本案審理を充実させるための条件整備も進みつつあり、まず土俵に乗せて相撲を取らせれば、いろいろな技も発展してくることが期待されると思います。したがって、本案審理を充実させるためにも、訴訟要件を緩和することが重要と思われます。
 狭義の訴えの利益については、現在の判例は名誉信用の回復のみが問題になるときは、行政事件訴訟法9条括弧書きの適用を否定する傾向があります。確かに係る問題は、国家賠償の問題として対応することも考えられますが、国家賠償の場合、公権力発動要件欠如説を取りましても、故意・過失がないとして原告が敗訴する場合には、社会的には原告敗訴という結果が与える印象が強く、名誉・信用の回復という目的が十分に達成されない恐れがあり、まして職務行為基準説が採用される場合、故意・過失が否定されるときには、違法性も否定されてしまい、国家賠償による名誉・信用の回復は全く期待できないことになりますので、直接審査訴訟において訴えの利益を否定してしまってよいかについては、検討する必要があるのではないかと考えております。
 被告適格につきましては、行政主体と行政庁の区別は一般には理解しにくいので、裁判所の釈明を義務づけるか、または、いずれでもよいとすべきではないかとも思います。もっともこの点は教示制度により対応可能なようにも考えられます。
 すなわち、現在、行政不服審査法に一般的教示制度が定められていますが、これは行政上の不服申立についての教示にとどまっていますので、これを改正し、出訴期間、管轄、不服申立前置主義が取られている場合にはその旨、と並んで直接審査訴訟において被告とすべき行政庁についても、教示を義務づけるべきではないかと思います。
 もっとも私のように、直接審査訴訟の対象とすべき行政作用の形式を限定せず、成熟性という観点から対象を絞る場合、行政庁自身、直接審査訴訟の対象となるか明確でないことがあり得ますので、教示義務を課するのは、当面行政行為に限定してもよいと思います。
 なお、現在、一般的教示制度は、行政上の不服申立について限定されているために、行政不服審査法に置かれていますが、訴訟についての教示も含めるのであれば、むしろ行政手続法に置く方が適当ではないかと思われます。
 管轄につきましては、行政機関情報公開法36条、独立行政法人等情報公開法21条で行政事件訴訟法12条に定める裁判所のほか、特定管轄裁判所の管轄の特例が認められたこととの均衡からしても、行政事件訴訟法におきましても、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも提起することができることとすべきではないかと考えております。
 行政機関情報公開法の36条が設けられようとしましたときに、私はそのこと自体の意義は認めるものの、行政事件訴訟法12条との均衡が気になりました。情報公開法が主観訴訟とは言いましても、開示請求は何人でも理由を示すことなく行うことができますので、実質的には客観訴訟としての性格を持っており、免許申請が拒否されたり、あるいは営業停止処分を受けた者よりも、管轄の面で、情報公開訴訟の原告の便宜を図る理由を見出すことは困難であるからです。
 現状では管轄について、理論的な説明が困難な不均衡が生じており、したがって、行政事件訴訟法12条を改正して、拡大均衡を図るべきだろうと考えております。
 出訴期間につきましては、主観的出訴期間が行政事件訴訟特例法では6か月であったものが、行政事件訴訟法では3か月に短縮されたわけですが、一般の国民を念頭に置いた場合に、これで十分かについても検証する必要があるように思われます。
 執行停止の要件も緩和を検討する必要があるように思われますし、内閣総理大臣の異議の制度は、今日の学会では違憲論が有力であり、実際にも田中内閣以降使用されておらず、廃止すべきと考えます。
 また、仮命令制度の導入も重要な検討課題であると思います。
 次に、本案審理のところでございますが、いかに訴訟要件が緩和されても、本案審理が充実しなければ、実効的権利救済を実現することはできません。これまで訴訟要件を充足しても、本案において行政裁量の壁や情報の非対称性の上に、実効的な司法審査が困難なことが少なくなかったと思われます。しかし、本案審理を充実させるための基礎的条件の整備が進みつつあります。行政手続法の施行後、審査基準を公にしていなかったことを理由として処分を取り消す判決が出されるなど、手続的審査の基盤が強化されております。
 また、行政手続法、行政手続条例の審査基準、処分基準についての規定は、裁量審査にとっての基盤整備の意味も持っています。審査基準、処分基準に関しましては、量的な拡大よりも質的な充実が課題となっており、行政評価・監視の対象とすること等を通じて、より具体的な基準の作成を促進することが重要と思います。
 公共事業につきましても、環境影響評価法や、環境影響評価条例が手続審査の1つの有力な手がかりとなると思います。
 行政訴訟の本案審理において、原告である私人と被告行政庁の間の情報の非対称性が原告の救済にとって障壁となることが少なくなかったと思われますが、この点につきましても、情報公開法、情報公開条例をディスカバリー目的で利用して行政文書にアクセスするということが可能となったこと。また、民事訴訟法の公文書提出命令の制度が拡充されたこと。政策評価法によって、政策評価の結果のみならず、評価過程の情報の公表も義務づけられたこと等によりまして、事態は改善されつつあります。
 また、国・地方公共団体の双方におきまして、政策評価が進み、例えば公共事業におきましても、費用便益分析による事前評価が広く行われるようになっております。政策評価の手法が充実していくことは実効ある司法審査にとっても重要と言えます。
 更に環境影響評価法に横断条項が設けられたこと、戦略的環境アセスメント(SEA)のガイドラインの作成が進みつつあることも環境面での裁量審査の基礎的条件の整備としての側面を持ち得ると思います。
 このように、行政訴訟の本案審理を充実させるためには、行政手続法、情報公開法、環境影響評価法、政策評価法等との連携を図ることが重要であるということを最後に指摘いたしまして、私の報告を終わらせていただきます。

【塩野座長】どうもありがとうございました。大変広範にして、かつ深い論点の指摘がございましたので、御質問の向きも多いかと思いますが、予定どおり15分ということで進めさせていただきたいと思います。
 既に第1回から御出席の委員には、御自分と行政訴訟の関係みたいなものについて、ひとあたり御意見、あるいは感想を承ったところでございますが、今日は深山委員が初めて御出席でございますので、造詣の深い方でいらっしゃいますから、宇賀さんに対する御質問でもよろしいし、あるいは一般的なお話でもよろしいですし、まず、口火を切っていただけますでしょうか。

【深山委員】今、御紹介いただきましたとおり、私、今日から参加させていただくことになりまして、皆さん最初のころ、自己紹介的なことをされたということで、それも兼ねて少しお時間を拝借したいと思います。
 私は今、法務省の民事局で民事立法の立案作業を担当しております。元々、裁判官で14年ほど、民事を中心に裁判所で裁判をしておりまして、5、6年前に法務省民事局に移りまして、それ以降は法務省では民事手続法の立案、宇賀先生のお話にも出ていましたが、公文書の文書提出命令の拡充をした民事訴訟法の一部を改正する法律案なども私が立案を担当しました。民事手続法の法律改正、その立案事務を担当するということを法務省ではこの5、6年ずっとやっておりました。現在は倒産法制、民事再生法、現在の会社更生法ですが、そういった倒産法制の改正作業を直接には担当しております。
 それと、行訴との関係では、裁判官時代に、ごく短い期間ですけれども、東京地裁の行政専門部にいたことがございます。法務省に移ってからは、行政事件訴訟法が法務省民事局の所管法律であるということで、他省庁の行訴の特例に関するいろんな合議を受けて、行訴の所管省庁の立場で色々、意見を申し上げる。あるいは、地方分権推進審議会で法務省の意見を述べるときの起案をすると言いますか、あるいは司法制度改革審議会でも、法務省の民事関係のいろんな事項について法務省の意見を申し上げるときには、その案を考えるということも内部では担当しておりました。
 そういうようなことで、私自身は、行訴についての若干の実務経験と、最近は手続法の立案ということをしていますので、その両面から多少関係はあるのかなと思っておりますが、何分、今、塩野先生は過分なことを言っておりますけれども、行訴は倒産法と違いまして、直接専門的に毎日考えているわけでありません。この機会にこの場で一生懸命勉強して、皆さんのレベルに何とか追い付こうと思っております。
 せっかくの機会ですから、宇賀先生に1つだけ伺いたいんですが、最後に触れられた本案審理について、行政手続法、環境影響評価法等々との連携を図るということが、この分野では重要だと。行政事件訴訟法と連携を図ると、これらの個別法、実体法、手続法かもしれませんが、これは具体的にどういうことをおっしゃりたいのかなと思います。

【宇賀教授】1つには、行政訴訟の審理において、例えば行政手続法の規定を活用して、手続的な審査を行うということもございますし、それから、連携という言葉を使いましたのは行政訴訟の本案審理を充実させるためには、行政手続法の側において、例えば審査基準とか処分基準を充実させる必要があるということです。行政手続法の審査基準でいうと、5条の2項で、できる限り具体的に定めなさいということになっております。現在、審査基準や処分基準の作成について、量的な面では、かなりいい線をいっているんですけれども、実際に作成されました審査基準、処分基準について、必ずしも十分に具体的になっていると言えない面があると思います。
 そこで、そちらの方が具体化してきますと、裁判所が本案審理において裁量審査する際に非常に手助けになってきます。ですから、行政手続法の方からも、行政訴訟の本案審理を充実させるためにそうしたことをやっていく必要がある。
 また、行政訴訟を審理する裁判官の方においても、せっかく行政手続法という手続審査の非常に重要な道具ができたわけですから、それを活用してほしいという趣旨でございます。

【塩野座長】実は活用していないじゃないかという不満が、多少、行政法学者には判例研究などをやっているとあるものですから、そういう御発言だと思います。

【芝池委員】宇賀先生の8のところで書いておられます具体的論点につきましては、共感する点は多いのですが、1つは理論的な問題なんですが、取消訴訟も公定力排除訴訟として触れられまして、それに代えるような形で直接審査訴訟というものを提起されていますが、この両者は具体的にどういうふうに違うのかということなんですが。

【宇賀教授】私がここで想定しております直接審査訴訟というのは、行政作用の行為規範適合性を審理するという面では、現在の抗告訴訟と共通しておりますが、現在の抗告訴訟でいっている公権力の行使という絞りは外してしまって、行政作用をすべて対象とし得るようにするという点が大きく違うわけです。そうしますと、行政作用は何でも争えることになって大変なことになりますので、そこは当然絞りを掛けることを考えておりまして、そこは紛争の成熟性という観点から絞りを掛けるという考え方でございます。

【芝池委員】成熟性によって司法審査の対象性を判断するということですが、現在はその点は問わずに、処分であれば取消訴訟の対象にする。それを成熟性の基準を使うと、広がる場合はあると思うんですけれども、逆に狭くなり、従来行政処分だから行政訴訟は認められると考えられていたものが、この成熟性の基準によって、認められなくなる可能性を感じますが。

【宇賀教授】理論的に考えていくとそういうこともあり得るかもしれませんが、私は一般的に成熟性の観点で言った場合には、広がっていくだろうと思っています。アメリカの判例で言っている成熟性の要件で出ているいろんな判例と、それから日本で処分性について出されている判例とを比べてみますと、やはりアメリカの方が圧倒的にと言っていいくらい広いんです。ですから、理論的には確かに詰めていくと、そうしたケースが出てくるのかもしれませんが、私は専ら広げる方向で考えております。

【水野委員】行政訴訟と民事訴訟との区別で、民訴応急措置法を考えると。初めに行政訴訟ありきではない。民訴で対応可能かどうかを考える。行訴はかえってマイナスにならないか、こういう御指摘があったと思います。行政訴訟が民訴と区別して存在意義があるのか。例えば原発訴訟の例をお出しになったんですが、これも建設の差止訴訟で、許可処分の違法性を争うことができるものとすれば解決することは可能なんです。
 手続的な問題がよく言われるんですけれども、現に民事訴訟で行政庁側の手続違反が1つの違法性を強める要素として判断されているケースもあるわけで、そういった手続的な違法、あるいはアセスの欠如みたいなことを、民事訴訟の中で争えないことはないだろうと。そうしますと私ども実務家から見ますと、行政訴訟を認めたために、かえって、いわゆる門前払いになるケースがあり、マイナスになっている部分がかなりあるんじゃないかという印象を持っておるんです。先生から見られて、その辺りどうお考えになっているのかということと、もし、出発点に戻って、なぜ行訴が必要か。行政訴訟はやめてしまった方がいいじゃないかという議論についてはどのように考えますか。

【宇賀教授】論議の筋道としては初めに行政訴訟ありきではなくて、民事訴訟で対応できないかというところから出発すべきであるというのは、先ほど申し上げたとおりです。結論としては、それでは民事訴訟だけでいいかというと、そうではなくて、私は行政訴訟というのは存在意義があるだろうと考えておりまして、いろいろな差止訴訟につきましても、実際に侵害が差し迫って、人格権に基づいて差し止めを求める必要性が認められる前の段階で行政訴訟でその許可について実体的な要件が欠けているではないかとか、あるいは手続的な要件が欠けているんではないかということで、その許可の取消しを求めるルートもあった方が権利救済という面ではやはりプラスになるんではないかというふうに考えております。
 ですから、初めに行政訴訟ありきではないと申し上げましたけれども、それは行政訴訟の存在意義をやはり国民に対して説明する必要があるという趣旨でございまして、行政訴訟不要論に立っているというわけではございません。それから、単に権利救済というだけではなくて、やはり行政作用の行為規範適合性を直接審査する訴訟というのは、より直接に法律による行政の原理を担保するという機能を持っていて、私はその機能をかなり重視しているものですから、やはり民事訴訟だけではなくて、行政訴訟には固有の存在意義があるだろうと考えております。

【水野委員】もう一つ、市民訴訟、団体訴訟を検討すべきだという御指摘があったと思いますが、具体的にはどういう形で制度化したらいいと思いますか。

【宇賀教授】市民訴訟についてはアメリカの環境法に実際に、かなりの数の市民訴訟の規定があるわけで、そこでは訴訟を提起できるものは何人もとなっているわけです。ただ、それでは客観訴訟かというと、そうではなくて、非常に薄められた主観訴訟であろうというふうに私は考えておりますけれども、今、アメリカの場合、日本と比べますと、原告適格の要件は一般的に言ってもかなり緩いんですが、市民訴訟が認められている場合には、それ以上に緩くなる。事実上の損害、インジュリー・イン・ファクトの要件と、それから日本で言う保護規範に当たるゾーン・オブ・インタレストのテスト、この2つがあるわけですけれども、後者の方が、市民訴訟の場合には問われなくなるという意味で、より一層原告適格を拡大していると言えると思います。
 日本の場合に環境訴訟につきまして、原告適格というのは非常に厳しく判断されていますので、より一層アメリカの場合以上に、市民訴訟を認めることの意義は大きいんではないかと考えています。

【塩野座長】あと1人だけ質問を受けます。福井さんどうぞ。

【福井(秀)委員】どの論点も大変共感を持って聞かしていただいたんですが、4点個別にお伺いできればと思います。
 原告適格について、客観訴訟との境目というのが米国の場合もそうだと思うのですが、どこまで具体的に広げるという程度の問題が1つです。
 あと若干問題意識だけ申し上げますと、処分性について、先生のおっしゃることは共感するんですが、無名抗告訴訟なりあるいは民事訴訟とどう区別していくのかというところについてお考えがあればということと、3点目は、本案の基準について、裁量を統制する場合に、具体的に不確定概念をどういう基準で統制していくのか。手続的にはさっきおっしゃられたようなことだと思うんですが、中身についての裁量の統制基準についてどのようなお考えかということ。1つ減らして、3つお伺いしたいと思います。

【宇賀教授】最初の原告適格の点についてですけれども、現在の行政事件訴訟法9条、法律上の利益となっておりまして、私はこの規定の下でも相当、解釈によっては広げていけるというふうには思っています。まず、損害が生じて、それについて行政作用との間に因果関係があるということは当然でございますけれども、それから後、現在、いわゆる法律上保護された利益説で保護規範を問題にしているわけです。この保護規範の考え方そのものを否定するということまでは考えておりません。というのは、この法律上保護された利益説の下でも相当程度広げていけると考えているからです。ただ、現在の判例のように、処分の根拠法規に限定するのはやはり問題であろうと思います。
 それから、当然そこでは個々の法律だけではなくて、憲法上保障された基本権というものもこの中に埋め込んでいくべきではないかと考えているわけで、これが2のところで申しました、裁判を受ける権利というものを基礎に据えるということの1つの意味でございます。
 それから、現在の判例では、保護規範の解釈に際して、公益と個別的保護利益というのは区別しているわけです。これの考え方も理解できる面があるんですけれども、どうも個別的保護利益というのが非常に厳格に解釈され過ぎているので、これをもう少し緩めていけないかなと考えております。
 それから、処分性と民事訴訟との関係というのは非常に重要な論点で、特にこれはもし直接審査訴訟の対象を広げていって、そこに排他性を認めますと、かえって、これまで民事訴訟で救済されたものが救済されなくなるという問題が出てくる可能性があると思います。ですから、そこのところは十分に注意しなければならないと思っているんですが、私はどこまで排他性を認めるかという点について、行政行為の公定力のドグマから解放されますと、立法政策の問題としてかなり柔軟に考えていけるのではないかと思っておりまして、民事訴訟によって救済がこれまで認められていたものが、直接審査訴訟の対象を広げることによって、かえって狭まってしまって、国民の権利救済にとってマイナスになるということがないように交通整理をしておく必要があると考えております。
 それから、最後の本案審理に際しての裁量審査の問題ですが、これについては、9のところでも若干述べましたように、手続審査のほかにも、その実体的な裁量審査をするための道具がだんだん整ってきているのではないかと考えておりまして、特に私が非常に注目しているのが、やはり政策評価でございます。この政策評価のところで、特に公共事業の分野などでは、事前審査が一般的に義務づけられておりますので、そこでこれまで不確定な概念で使われていた公益というものが、例えば費用便益分析を用いて評価されることになります。その際にどういう手法を用いたのか、それからどういうデータを用いたのかということも全部公表が義務づけられているわけです。ですから、これまで不確定概念について、どういうふうに行政庁が判断したのかは、ブラックボックスに入っていたわけですが、かなりこれから見えてきて、そうすると、裁判所もかなり実体審査の面でいろいろ工夫する余地が出てくるのではないかと考えております。

【塩野座長】どうもありがとうございました。いろいろ御質問もあろうかと思いますけれども、時間がまいりましたので、宇賀教授に対する質問はこれで終わらせていただきます。どうもお忙しいところありがとうございました。
 次に、全国消費者団体連絡会に御説明をお願いいたします。資料は2にございます。
 全国消費者団体連絡会の有田芳子さんですね。今日は大変お忙しいところ、私どものお願いを快く引き受けていただきまして、ありがとうございました。
 それでは、前もって御案内しているかと思いますが、15分ほどお話しいただき、10分くらいの質疑応答の時間を用意させていただきたいと考えます。レジュメは皆様のところに渡っております。

【全国消費者団体連絡会(有田氏)】本当に簡単なレジュメで申し訳ありません。私、今御紹介にあずかりました全国消費者団体連絡会の司法担当をしております有田芳子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 今日はこういう場所に呼んでいただいて、非常にありがたく思っております。けれども、最初に申し上げないといけないのは、専門家ではございませんので、本当に一市民がどのように行政訴訟について感じているかという視点で今日は御報告したいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 私たちの日常生活というのは、社会保障とか環境とか、行政訴訟というイメージから言えば、各省許認可行政というので密接に関わっているというのは分かっています。けれども、行政訴訟というのは、通常では難しくてぴんと来ないというような、実際には行政に対しては非常に不満を感じているんですけれども、どこかに訴えていきたいなというふうに、テレビを見たり、新聞を読んだりしながらいつも思っているにもかかわらず、それで終わってしまうということが多々あるかなと思います。
 私自身は許認可行政などに関わったり、支援などもしてきていますけれども、直接に原告になったということはありませんので、そういうイメージからということでお話ししたいと思います。
 そういうふうに何となく起こしにくい、行政訴訟が難しいと感じてしまうのは、非常に不透明というか、イメージとしてはですけれども、不明瞭な形でいろんな行政の決め事が進められているというイメージがあります。その手続きについて、消費者として市民側も行政訴訟がそういうのがはっきりしないために、踏み切れない。専門家が、ここにも書いておりますが、相談できる専門家の不足というのは、弁護士の方だけではなくて、行政訴訟といっても色々あると思うんですが、要するに、アクセスというか、どこに相談していっていいか分からない。この問題については、訴訟してもいいのかどうかとか、勝訴率が少ないというようなイメージがすごくあるんですね、行政訴訟に関しては。
 そういうことで、そういう専門家が不足しているということもありますので、弁護士の方とか、色々なところで専門の方がたくさんできることが必要になるんじゃないかなと思いますし、裁判所も行政訴訟の窓口というのがあればいいなと、専門窓口があればいいなと思います。
 それから、提訴手数料なんですけれども、印紙代というか、スライド制というのは聞いておりますけれども、金銭の給付というか、要するにそういうものが絡んでくるものは、民事訴訟法と同じでいいと思うんです。けれども、できればそれ以外の、お金が絡んでこないけれども、どうも行政がおかしいんじゃないかというものについては、できれば一律に定額で、印紙代が2,000〜3,000円であればいいなと思います。
 複数の原告が同一の処分を争うときには、住民訴訟並みに1人でよいとする。要するに印紙代を全員の人がそれだけ払うというのではないと、そういうふうになった方がいいなと思っています。
 裁判の管轄なんですが、私は神奈川に住んでおりますのでいいのですけれども、例えば地方の方などは、行政の所在地、私のイメージでは、今、住民訴訟というよりも、全体の大きな国の訴訟についてイメージして話しているんですが、行政の所在地が東京である場合が多いので、その場合、東京地裁が管轄となって、地方の者には交通費というものが非常に負担になって、そもそも交通費が負担になるということは、その時点で裁判を拒否されているように思います。原告の住んでいるところの管轄裁判所でも提起できるようになればいいなと思います。
 それから提訴できる期間というのが、今は3か月という形で間違いないと思うんですが、以前は6か月だったと聞いているんですが、消費者契約法とかも、本人が気づいてから半年ですね。できれば、やはりそういう行政訴訟に関しては、情報が入ってから、ある程度時間が経つというのが当たり前で、いつもいつも住民・市民、消費者というのは情報があるわけではありませんので、できれば半年から1年くらい、期間の延長がないことには、行政訴訟が非常に少ないといろんなものに書いてあるんですけれども、それは当たり前だと思うんです。もう期間が過ぎているということもありますし、できれば、重大な違法があったとき、金銭がらみとか環境の問題だというようなときには、2年くらいあればいいなと思います。
 次に、いろんな要件があって裁判に行かないということもあるんですけれども、原告適格などで門前払いの心配、これも本当にありまして、私、今日は資料をお配りしている中で、消費者団体連絡会というのは、主婦連とか、いろんな43の団体で構成しているんです。以前主婦連合会が無果汁ジュースに無果汁と表示しなくてもよいという規約の違法性を問う裁判を起こしたときに、資格が一般消費者にはないということで却下されたということがありました。そういうことで、本当にそういうのが原告適格ではないのか。今、色々な食品の安全の問題とかいろいろありまして、まさに原告ではないかなと思ったりすることが一杯あるんです、表示の問題だとか。そういうような原告適格というのはどういうものか。もう少し考えていただきたいと思います。
 そういう意味では、団体訴権も、それぞれ議論されるところもあるかもしれませんが、どうも具体的にされない恐れがあるので、今日はお願いしたいと思います。団体訴権も必要だと思いますので、ここで検討していただければいいなと思っています。
 消団連でも、原告適格というのはどういうものかというのは、いろいろあると思いますので、研究もしております。是非団体訴権の適格要件については、ここでまた発言をさせていただければと思います。
 「裁判においても行政の説明責任を重視してほしい」ということで、やはり法規上の被告行政庁の特定は、これは聞いた話なんですけれども、弁護士の方でも非常に難しいと聞いているんです。被告を間違えて却下されると、訴えも却下されるケースが多いとも聞いていますので、処分を分担した機関や上級行政庁に被告が誰かを聞いて、それはこうですよと教えていただけることを求めることができるようにしていただきたいとは思いますし、それから、司法が行政をチェックするという機能を強化するということであれば、ドイツのように原告が主張していない違法性も、裁判で審理していただきたいなと思います。
 素人では、何回も読んだり、いろいろお話を伺っているうちにはだんだん分かってくることもあるんですが、専門的なことはよく分からない、何かおかしい、社会常識ではおかしいなと思っていても、訴訟を起こしにくい。最初にも申し上げたように、そういうことがあります。裁判所が原告の主張する違法理由だけではなくて、職権でその他の違法理由も審理していただきたいなと思いますし、文書提出命令は、現行の民訴法では不十分な点があると思います。記録保有行政庁、要するに、文書の提出とか経過の報告義務を是非課していただかないと、要するに証拠が住民・消費者側にはほとんどありませんので、訴訟を起こしようもないわけですし、それはやはり要件としてないことには、難しいと思いますので、立証責任については、行政庁としていただけることが必要かなと思っています。
 最後になりますけれども、パブリック・コメントなんですが、今すごくパブリック・コメントはいろんなことを決めるに当たっては広がってきているんですが、法制化するというふうにはなっていないので、是非パブリック・コメント自体も、この推進本部の検討会の云々ということではなくて、行政が何かを決めるときには、必ずパブリック・コメントを求めて、それを立法作成に生かしていただくということを義務づけたらいかがかなと思います。それともう一つ、裁判員制度が、現在刑事事件に限定されていますが、消費者・市民として一番考えるのは、社会常識とか、刑事事件もそうかもしれませんけれども、行政訴訟には、市民の感覚が入れられる必要性があると思いますので、それも是非議論していただきたい。今の司法制度改革審議会の中身では、刑事事件と限定されておりますので、ここで云々ということではないかもしれませんが、消費者・市民としてはそういうふうに考えているということです。
 以上です。

【塩野座長】どうもありがとうございました。短くまとめていただきまして、どうもありがとうございました。今の御意見の中では、細かいことを言いますと、我が検討会の所掌事務の範囲を超えるものもございますけれども、しかし、そういう御要望があったということは、この議事録にも残りまして、また、インターネット等々でも見られると思いますので、しかるべきところできちんとフォローしてくれると思っておりますので、どうもありがとうございました。
 それでは、10分という短い時間ではございますけれども、何か御質問、論点等あれば受けたまわりますが、私が伺っているところでは多少、もう少し行政側が今まででも情報を提供していれば、今のようなご不満、あるいは多少は薄まるのではないかという気がしてきました。勿論、それが完全にうまく言っているというわけではございませんけれども、行政相談員という制度がございます。また私は総務省の行政苦情救済推進会議に出ておりまして、かなり細かな、いろんな苦情を承っているところでございます。福井さん、行政相談員は何人おられましたかね。

【福井(良)委員】5,000人ちょっとです。

【塩野座長】そういう制度があって、日本型オンブズマンというものがあります。そういうものもどうぞ活用していただきたいという点もございます。
 それから、文書提出については、これは深山委員の方から説明してください。

【深山委員】不十分だということで伺ったと思いますが、まだ、施行間もないんですが、どの点が不十分なんでしょうか。もう少し何かあれば。

【全国消費者団体連絡会(有田氏)】例えば1つ国に、化学物質なら化学物質のデータというか文章を出してくださいというと、それがまた県に戻りますね。1つの例ですけれども、そういうものが県の判断で出す出さないというのが決められてきてということで、例えば環境の被害などのときに、なかなか出てこない。機能していないというか、そこの部分で私はそういうふうに感じているんです。

【塩野座長】そういうお感じを持っておられるということで。

【全国消費者団体連絡会(有田氏)】きちんとしていますというか、そうおっしゃられればそれまでなんですけれども、そういうイメージがありますということなんで、申し訳ありませんが。

【福井(秀)委員】行政の説明責任について、これも例えばどういう事件で、どういう情報が出てきにくかったとか、具体的にお困りになったケース等を御存じでしたら教えていただけるか、あるいはまた後ほど、そういうものを調査されたものがあれば事務局なりにいただければと思うんですが。

【塩野座長】恐らく連絡会などでいろいろ情報をお持ちだと思いますので、今日、我々から御質問申し上げたような事柄について、後日、こういうことですというふうに御説明いただければ大変ありがたいと思います。

【全国消費者団体連絡会(有田氏)】はい。もう一つ、今日は市民オンブズマンの方とか、環境の方も出席されているようなので、ちょっと安心しました。本当に私がばくっとしたところからしか申し上げておりませんので、そういう細かなところでもっとヒアリングをしていただきたいということを今日はお願いしようかなと思っていました。そういう方が入っていたので少し安心はしたところです。今後とも、また都度都度、時間も限られた中だとは思うんですけれども、是非ヒアリングをお願いしたいなと思っております。

【塩野座長】私もごく、ざくっとした御質問なんですけれども、最初に何となく行政は不透明、あるいは何となく行政訴訟を起こしにくいという、それはどこから来ているのですか。例えば、ある大銀行の対応などというのはもっと不透明のような気もします。

【全国消費者団体連絡会(有田氏)】そうですね。大銀行の手前に行政が関わっているというイメージがありますので、別に銀行だけではありませんよね。その手前で、例えば国の機関が関与しているわけですから、そこのところはどうなんだろうと思います。そこが不透明というか、あくまでもイメージですから、具体的なことをもっとというのであれば、それは文書にしてまた提出したいと思います。

【塩野座長】私が申しましたのは、情報公開法や行政手続法が制定されて、市民の方がやる気になればかなりいろんな透明性を確保するだけの仕掛けはできつつあるんですね。それが情報公開法、あるいは行政手続法がまだ不十分なので、そこをこういう点を明らかにすれば、不透明性はかなり解消されるので、訴訟も提起しやすいのだと、そういう具体的な御指摘があれば是非おっしゃっていただければと思うんです。
 私は別に行政側ではないですから、中立の立場に立っているつもりなんですけれども、お互いに不透明な、あるいはこっち側は丸裸になってやり切れないと言っているんでは、余り進歩がございませんので、この検討会もいろんな形でパブリック・コメントに類したもの、あるいはそのものをするつもりでございますので、是非具体的にいろいろ教えていただきたいと思います。

【全国消費者団体連絡会(有田氏)】今日はちょっと問題点というか、日ごろ感じているところの大きな視点だけしか用意しておりませんので、本当に申し訳ないと思っているのですが、そういうイメージだけでは本当に不十分だというのは十分分かっているんですが、具体的なところで、証拠開示でも出していないときに、バックデータとか、そういうのもないというのもあって、不十分だというのがあるんですけれども。

【塩野座長】どうもありがとうございました。

【成川委員】飲料水か何かの表示問題で、行政訴訟のようなことを起こしたけれども、訴訟にならなかったという説明だったんですが、その理由を簡単に。

【全国消費者団体連絡会(有田氏)】表示をしなくてもよいという違法性を争う資格は一般消費者には、だから、表示法というのは、表示はメーカーとか国にあって、一般消費者にはないというのが当時の判断だったんです。

【塩野座長】その事件は主婦連ジュース訴訟事件と言って、前回問題判決と言ったのでしかられたんですが、要検討判決ということで、御提示して、いつの時点か約束できませんけれども、近いうちにそれをやるつもりです。
 では、時間になりましたので、どうもありがとうございました。また、機会を見て御意見を伺うこともあろうと思いますし、また、パブリック・コメントにも是非積極的に御意見を出していただきたいと思います。

【全国消費者団体連絡会(有田氏)】どうもありがとうございました。

【塩野座長】それでは、ここで10分間ほどの休憩を取らせていただきたいと思います。16時20分に会議を再開いたしますので、よろしくお願いします。

(休 憩)

【塩野座長】引き続き意見聴取を行っていきたいと存じます。
 次は、全国市民オンブズマン連絡会議からの御説明をお伺いするということになります。全国市民オンブズマン連絡会議から今日は、辻さん、秋田さんにおいでいただいております。どうもわざわざお越しいただきまして、ありがとうございます。連絡会議からいただいた資料は既にお配りしてある資料3でございますが、今、追加の資料が配られております。どちらをどう見たらいいかは辻さん、適宜よろしく指導をしていただきたいと思います。
 それでは、15分程度の御意見の開陳があり、10分程度の質疑応答ということにさせていただきます。よろしくお願いいたします。

【全国市民オンブズマン連絡会議(辻氏)】私が、全国市民オンブズマンの代表幹事をしております辻公雄と申します。今日は私の方から5分くらい総論と、それから秋田弁護士から各論を言ってもらいたいと思います。
 資料としましては、今渡したのが私が述べようとすることが書いてあるもので、前回に渡した3ページ以降が秋田さんのレジュメということになっております。
 本日は市民オンブズマンとして市民運動をやってきたんですが、そういう立場から行政の裁判についての意見を陳述させていただきたいと思います。
 まず、市民オンブズマンと言いますのは、1980年にロッキード事件の裁判の途中で大阪でつくられたんです。その後、全国的な連絡会議が形成されて、現在では日本の都道府県全部に市民オンブズマンの組織があります。構成者と言いますと、主婦とか年金生活者等々、それから弁護士、学者など、さまざまな職業の人が入っております。目的とするところは、行政の違法や不正を正すということ、行政を透明化すること、市民の意思を反映した行政をつくりたいということでございます。
 市民は行政に対するさまざまな思いを持っております。批判もあり、不満もあり、また、このように変えたらいいという積極的な提案も持っておりますが、その意思の実現方法として、私どもは住民訴訟と情報公開訴訟を道具として活用して、市民の意思の反映する行政の確立に一定の貢献ができたのではないかと考えております。
 行政は市民の生活にどのように関与しているかということなんですが、非常に範囲が広くて、生まれてから死ぬまで、ちょっと思っただけでも、ここに書いてあるようにいっぱいあるんです。母子手帳、医療、各種保険、保育園、学校、奨学金、自動車免許、交通文化、公共施設、建築許可、道路や町づくり、パスポート、選挙、事業認可、失業保険、生活保護、老人介護、埋葬、いっぱいあるんです。
 これらの傾向は今後どんどん大きくなっていくだろう。また、重要性を増していくだろうと思われます。ですから、行政が適正に行われるということが最大の課題なんですけれども、まずこれだけの広い分野のことを全体的に正しくやっていくということは物理的には困難な時代に入っているのではないかと思います。また、昨今の自治体での無駄使いや談合、癒着、監査制度が全く機能していない現状です。
 中央省庁でも財務省や外務省、農水省、警察など、不祥事は色々出ているのを見ますと、行政には自浄作用とか、これからの改革を責任を持ってやっていくことはできないのではないかと思っております。また、大きな流れとしても、社会的に官から民への社会構造の転換が図られていくということ自体も、これからは行政の優越性を認めて信頼していこうという時代ではないと思います。
 ここで登場してくるのが、市民感覚のある司法ということになると思うんです。私たち市民は、何か困ったことや不祥事が起こると司法に期待しております。裁判所に行けば何とかやってくれる、正義を実現してくれるんじゃないかと思っておるんです。こういう市民の要求に応える責任が司法にあるのではないかと思っております。
 市民の要求に対する答えとしての行政裁判の実情はどうかと言いますと、それは例えば公害規制が間違っていると言っても裁判はできない。パチンコの営業許可反対について、民事では違法とされても、行政裁判では原告適格がないとされた。
 また、私たちの大阪でモノレール設置に反対しても、やはり裁判はできないと言われた。それから近鉄の特急料金の値上げの認可無効の裁判をしたんですが、利用者は反射的な利益を持つにすぎないということで、原告適格がないとされたんですが、この点について、市民は全く怒っているんです。利用者が一番直接的な大きな利害関係があるのではないかと素人は考えるんです。その素人の感覚というのは、やはり法的にも重視していかなければならないと思っております。
 また、せっかく土俵に乗っても、町長の年間交際費の2倍以上使って郷土大臣の祝賀費用を使ったと。それでも自由裁量とされている。土地の価格の2倍以上で購入していも自由裁量とされている。
 談合のことなんですが、談合については、なかなか直接証拠が出てこない限り認めようとしない。このように市民が最後に望みを掛けている司法がなかなか市民に対して正当に応えていないのが現状ではないかと思います。
 これらのことが続いてきますと、市民も弁護士もやる気がなくなってくるんです。そして、残るのは行政への不信と司法に対する絶望感だけで、このようなことで今後の社会の前途は非常に危ないものとなると思います。だから、行政裁判の改革が必要なんですが、それには市民の視点を持って、行政や社会のことも熟知した、また法律知識も豊かな独立性のある裁判官の養成、これは重要なことだと思います。しかし、それだけではやっていけない。やはり制度改革は不可欠だと思います。制度改革については、いろいろ言われております。原告適格とか処分性とか自由裁量とか、地元管轄とか、提訴管轄等の行政事件訴訟法の改正は是非必要だと思いますし、それらに加えて、弁護士費用の片面的な敗訴者負担、法律扶助、裁判員制度の採用、法曹一元等々が必要だと思います。
 このように、行政が市民の生活に関与する範囲はこれからますます大きく、重大になってくると思われます。このような中で、市民感覚のある司法の羅針盤的な機能が今、期待されていると思います。司法による行政のチェック、行政の透明化、行政改革はこれからの社会を切り開いていくものだと思います。
 最後に司法審で、国民は統治の客体であってはならない。主体になれと言われておりますけれども、そういうことができるかどうかは、納税者訴訟も含めて、行政事件訴訟法がかっちりできるかどうかに掛かっているんじゃないかと思います。
 半世紀に一度のこの機会をとらえて、是非歴史的な審判にも耐えて、また、これからの社会を現実につくっていく行政事件訴訟法が改正されるように、私たちはこの改定作業を熱い眼を持って見詰めていきたいし、共に頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

【全国市民オンブズマン連絡会議(秋田氏)】秋田と申します。私の方からは、全国市民オンブズマン連絡会議の一員といたしまして、住民訴訟制度を利用してきた経験を踏まえて、国の行財政行為を国民がチェックするための納税者訴訟の創設を求める意見を申し述べたいと思います。
 現在の行政訴訟は抗告訴訟、国民の個人の権利・利益の救済制度を中心として組み立てられ、住民訴訟のように行政事件訴訟法5条が定める国・自治体の法律に適合しない行為の是正を求めて自己の法律上の利益に関わらない資格で提起する訴訟、民衆訴訟、あるいは客観訴訟というものは、立法政策により認められるもので、行政訴訟としては例外的なものとの位置づけがなされております。
 この住民訴訟は言うまでもございませんが、自治体の住民が、住民としての立場において、公金支出と補助金、公共事業契約など、自治体の財務行為が違法に行われた場合に、自治体に生じた損害を自治体に代わって住民が被害回復する等の措置を裁判所に求める訴訟であります。地方自治法242条の2に定められておりますが、今回、地方自治法が今国会で改正され、私たちはオンブズマンとしては、住民訴訟の効力を弱めてしまうものであるということで、改正を行わないように強く求めておりましたが、今回の改正によって、住民訴訟の構造は変化したものの、やはり住民訴訟の目的、住民訴訟を提起できる権利というのは維持されております。
 このような住民訴訟が行政訴訟の中で例外的なものと位置づけられているためでしょうか、国民の行政監視、改革の要求、市民オンブズマン活動として多数の住民訴訟が提起されている状況を抗告訴訟の機能不全状況に対して、住民訴訟の機能肥大化現象である。あるいは行政訴訟のアンバランス現象であるなどと言われたりすることもあります。
 また、住民訴訟について、制度の積極的な展開というものについて、これまで活発な議論はなされてこなかったのではないかなと思います。確かに抗告訴訟の機能不全状況に対して住民訴訟では、裁判所、司法が、法に基づいて行政の財政・財務行為の適法性を実体的に判断し、行政の違法な行為による損害を認定し、法に照らした行政の正しい在り方を示して、原告、住民を含む住民全体、社会全体の在り方、公共の利益を実現されてきたと思います。その結果として自治体行政の改革は大きく進んだと思います。
 時間が余りありませんので、本日配布させていただきました「住民訴訟はどんな役割を果たして来たか」という資料を基に、簡単に御説明させていただきますが、この資料の1ページから23ページに掛けて、さまざまな住民訴訟で、自治体のどのような行為について住民が是正被害の回復を求め、裁判所がこれに応えてきたかということについて紹介しております。
 最初の部分では、議員や首長らによる観光というケースでは買春旅行に対する公金支出が違法とされて費用を返還させた事例であるとか、架空接待であるとか、官官接待、幹部職員、議員らの私的な飲み食い費用を返還させた事例であるとか、このケースでは、3ページに書いてあります96年2月8日の大阪地裁の和解の事案というのは、私が代理人の1人として担当したものですが、これも随分ひどい公金不正事案でございました。大阪市では平成1年ごろ、約七億円の食糧費が使われていたわけですが、議員、幹部職員が連日のように料亭やクラブで公費飲食を行い、議員らが、職員を引き連れてクラブなどの4次会まで行って、一晩で約100万の税金を使ってしまうということが発覚し、8年がかりの訴訟で、そのうちの2,000万円は返還が実現されたという事案です。ちなみに大阪市ではその後、食糧費は従来の6分の1以下に減り、官官接待の廃止を求める全国の市民オンブズマンの運動の成果として、全国的にも食糧費が激減することとなったことは皆さんも御承知のとおりです。
 違法な給与、これは議員秘書に限らず、法令に明らかに反する根拠のない給与であるとか手当、あるいは自治体が保有している公有財産、あるいは取得する財産が利権の対象とされる事案、法律でははっきりと禁止されているにもかかわらず、必要悪とされて、官民一体となり続けられ、現在の公共事業依存社会を醸成してきた談合問題、この談合問題も住民訴訟によって裁判所が損害をはっきりと認めるようになったことから、ようやく自治体、社会全体がその改革に着手することになったと私たちは考えています。
 住民訴訟によって自治体行政がこの10年で随分大きく改革が進んだだけでなく、住民、国民がお任せ民主主義ではなくて、主体的に政治・行政に関わっていかなければならないという自覚を持ち、更に行政がそれを積極的に受け止めていくという大きな循環が生み出されつつあると思います。
 住民訴訟は違法行為から原則として1年以内に行わなければならないという住民にとっては非常に厳しい制限があります。また、証拠がすべて行政内部にあって、住民にとっては非常に立証が難しい。そのような悪条件の中でも、住民が主権者としての自覚だけを拠り所に行ってきたのがこの住民訴訟です。決して濫訴と言われるような状況はありません。
 そして、抗告訴訟におけるような原告適格や処分性など、行政訴訟の形式的な制限がない住民訴訟では、裁判所が実体について判断する。真相・問題点が明らかにされる。そのことによって国民は、司法が社会の中で生きている。法が生きているということを実感することができました。
 だからこそ、行政訴訟の中で、情報公開訴訟とともに、住民訴訟が積極的に活用されるようになったものだと思います。
 司法制度改革審議会が21世紀の司法の役割として述べた、公共的価値を実現する公共性の空間としての司法の役割を住民訴訟は先導的に果たしてきたのではないかと思います。
 国に目を転じますと、近時の外務省の莫大な裏金、機密費の不正支出、あるいは詐取事件、公共事業を巡る不正、旧厚生省、農水省、労働省、建設省、大蔵省、防衛庁、更には日本道路公団などの特殊法人などを舞台にした補助金、公共事業、裏金などの不正事件が、贈収賄事件とも合わせまして、次々と発覚し、改革の兆しが見られない状況にあります。先ほど辻さんからもありましたが、国民の行政不信、政治不信は強まるばかりで、司法制度改革審議会が展望するような、法の支配が行き渡る状況にはかけ離れていると言わざるを得ません。
 国民は国の行政行為に明らかに不正があり、国民、自分たちが受けた被害が放置されていることが分かっている場合においても、主権者として司法に対して適法性、被害の回復を求めることができない状況にあります。
 昨年から情報公開法が施行され、ようやく国民も情報の公開を求めることができるようになりましたが、現状では情報の公開はなかなか進んでおりません。仮に公開されたとしても、国民はその先には進むことはできない。ちなみに裏金の問題、これは自治体では1996年から全国各地の自治体で、市民オンブズマンの調査で明らかにされ、住民訴訟でも取り上げられて、既に解決済みの問題となっておりました。ところが、外務省、国では、何ら変わることなく、この不正が続けられてきたというのが事実であります。
 当時、国に情報公開制度と、及び国の住民訴訟制度があれば、現在の外務省の問題も起こっていなかったのではないでしょうか。
 そこで私たちは国の行政に対する住民訴訟、すなわち国の行政機関における違法な会計行為に対する国民の被害回復、予防措置を裁判所に求める訴訟制度。今日の私のレジュメでは納税者訴訟としておりますが、住民訴訟とパラレルに命名するならば、国民訴訟の創設を、この検討会でも是非積極的に提言していただきたいと思います。
 司法制度改革審議会は、司法を公共性の空間とし、司法の行政に対するチェック機能を強化するための方策を具体化すること。行政に対する司法審査の在り方に関して、司法・行政の役割、法の支配の基本理念の下に、司法・行政の役割を見据えた検討を求めております。
 納税者訴訟の創設は、司法を公共性の空間とし、司法の行政に対するチェック機能を強化するための具体的方策として、司法・行政のあるべき役割分担として、司法にふさわしい、国民にとって必要かつ有効な制度であると考えます。
 司法の性質としては、具体的事件に対する当事者による主張・立証に基づく審理、対審手続、そして事実と法原理に基づく判断にあると理解されておりますが、住民訴訟、そして私たちが求める納税者訴訟は、まさに具体的な事件、つまり、国と国に損害を与えたものとの具体的事件の解決であり、これを国民が納税者として解決を求めるもので、司法、裁判所が果たすのにふさわしい役割であると考えます。住民訴訟制度の60年近い歴史と議論の蓄積、そして、実績を見るならば、納税者訴訟を制度として我が国に導入することに困難な問題は多くないと考えます。
 法の支配があまねく国家社会に浸透する司法改革のための司法改革、国民の一人ひとりが統治客体意識から脱却して、自律的で、かつ社会的責任を負った統治主体として、社会構築に参加することを求めた司法制度改革審議会の意見書に沿い、司法改革を具体化されるよう要望いたします。
 以上です。

【塩野座長】どうもありがとうございました。
 それでは、ただいまお二人からの意見の表明がございました。辻さん、秋田さん、どちらでも結構でございます。あるいは共通の御質問でも結構でございます。どうぞ。

【芝池委員】今、秋田先生の方からは、納税者訴訟の創設について、御意見を述べられたのですけれども、市民オンブズマン連絡会議としては、納税者訴訟の創設を最重点に主張されるという趣旨でしょうか。

【全国市民オンブズマン連絡会議(辻氏)】最重点ということはないですけれども、極めて重要な項目だという趣旨です。

【全国市民オンブズマン連絡会議(秋田氏)】今日は全国市民オンブズマンとしての正式な会議でこれを機関決定して出してくるような団体ではないんです。ネットワーク団体なので、住民訴訟を活用してきた経験の中から、私たちが最も納税者訴訟については、具体的な意見を言えるんじゃないかということで重点を置いて今日は申し上げたということです。

【福井(秀)委員】2つなんですが、1つは、先般改正された自治法改正の評価ですね。具体的にどういう点に支障が出そうかという予測を持っておられるのかということと、もう一つは国民訴訟を創設するとして、そのシステムとして、例えば被告を誰にするかとか、現在の自治法の制度とどこまで並びで、どこまで違えるのかという辺りはどういう御提案を持っておられるのか、お伺いしたいんです。

【全国市民オンブズマン連絡会議(秋田氏)】先ほど少し申し上げましたように、今回、今国会で成立しました地方自治法の改正法については、市民オンブズマンとしては、これははっきりとして反対を申し上げてきました。その理由は、1つは、住民訴訟の効力が非常に弱められてしまうんではないか。これは関係しているのかそうでないのかというのは分からないんですけれども、第1次訴訟と第2次訴訟の2段階の訴訟に峻別されて、しかも第2次訴訟には、住民が全く関与できない。第1次訴訟で結果が出た場合に、その後がどうなっていくのか。あるいは第1次訴訟の途中でも自治体が請求をするという対応をされた後に、では、その後の本当に被害回復が最終的にきちっとなされるかどうかという制度的な担保がないんではないかということが1点と、従来被告としては、個人の不正な行為を行ったのではないかと指摘される町であるとか談合業者であるとか、これが被告になっておりましたけれども、それが自治体が組織そのものが機関として被告になってくるということでは、訴訟における原告の経済的な負担も含めて非常に重いものになるのではないかという恐れのある点はありますけれども、私たちは今回の改正は必要なかったと。住民訴訟の効力が非常に弱まってしまうということを危惧しています。
 納税者訴訟については、地方自治法の改正と関連づけたことは、率直に言ってまだないんです。この2月に通ったばかりで、私たちもこの改正というのは通らないということを期待していましたけれども、住民訴訟については、今年の9月から施行される結果を踏まえて、それで大きな弊害が、現実問題として自治体の方も適正に運用するというような状況があったとして、大きな弊害がないんであれば、納税者訴訟についても住民訴訟と同じような構造というのは前提に考えられるのではないかな。
 それから、監査委員が自治体の場合には、監査請求前置ということで、監査員に対する監査請求は前置されているわけですけれども、それに代わるものして、国の場合には、どういう制度と関連させていくかということについても、具体的な定見を持っておりませんけれども、大学の先生方にも色々教えていただいて、何でもかんでも訴訟になるのがいいとは思いませんけれども、これはおかしいと。誰が見てもおかしいという事案については、最終的には司法が行政をチェックする道が開かれている必要があるんじゃないかなと思います。

【塩野座長】せっかくの機会でございますので、特に辻さんはオンブズマンで住民訴訟も、情報公開法も行政訴訟も全部やっておられると思いますから、その辺からお伺いしたいんですが、せっかく情報公開法ができまして、そこで行政訴訟の場面で、情報公開法を使って、あるいは情報公開条例を使って訴訟を展開したという例がおありなのかどうか。もし、そういう例が仮にあるとすると、それによって行政訴訟の審理は深まったとお考えなのかどうか。その辺をちょっと。

【全国市民オンブズマン連絡会議(辻氏)】国の情報公開の条例を使ってされましたという事例はまだないんですけれども、地方の段階における自治体における情報公開請求で情報を入手していろんな住民訴訟をやったという例はかなりあります。非常に重要な書類が出てきてそれに基づいてやるということは非常に多いです。

【塩野座長】それなりに裁判所の審理も深まったということですか。

【全国市民オンブズマン連絡会議(辻氏)】そうですね。かつまた、そういう情報が出てこなかったら、裁判自体もできなかっただろうという場合が多いです。

【塩野座長】分かりました。もう一点お伺いしたいんですが、先ほど納税者訴訟の法の支配から理論づけがなされておりましたが、法の支配は日本人が言っているように住民訴訟を導くものだという考え方はどこかで見ておられるのか。もし、分かれば教えていただきたい。どこかの国でそういう議論をして、住民訴訟制度をつくり上げるという例があれば教えていただきたい。

【全国市民オンブズマン連絡会議(秋田氏)】率直に申し上げて、委員の先生方の前で諸外国の法制度であるとか、深い理論的な、きちんと御意見を申し上げる立場にないんですけれども、納税者訴訟、タックスペイヤーズ訴訟に関しては、私らはアメリカの状況というのを、直接は勉強できませんけれども、学者の先生方の論文を見て知る程度です。アメリカでは州政府のレベルでは、ほぼすべて認められているけれども、連邦政府については、判例法の問題として、すべて認められているわけじゃなさそうですけれども、州政府と連邦政府の関係等も私たちまだよく分かりませんし、日本は日本で独自に住民訴訟でこれだけ積み上げられてきた実務の蓄積を基に真剣に考えれば、日本ではできると考えております。

【塩野座長】言葉にこだわるわけではございませんが、法の支配というところから導き出されましたので、それについて御知見がおありになれば是非教えていただきたいという趣旨でございますので、また今後何か文献等、そちらの方で見つけられましたら、どうぞ随時こちらの方にお寄せいただければと思います。司法の範囲はどういうものかということを考えたいと思います。

【全国市民オンブズマン連絡会議(秋田氏)】理論的に詰めて考えたのではなくて、今回の司法制度改革審議会の基本的な方向というのは、社会の隅々に行政にも民間にも、官にも民にも法の支配を行き渡らせましょう。そうでないと、国民というのは、本当に行政に対する信頼をしていくこともできないんじゃないかという基本的な方向があると思うんです。私たちは市民オンブズマンとして強く共感しますので、今の日本の公金支出問題を含めて、司法統制を何らかの形で入れるべきであるという見解なんです。

【小早川委員】質問ではありません。お願いでございます。国レベルでの納税者訴訟の制度、どういう制度があり得るかというのは大いに関心があるところでございまして、ただ、この検討会で突然制度設計を始めるというのもなかなか大変なものですから、是非具体的な案をお示しいただきたい。多分、地方と並べるのであれば、監査委員に並ぶのは会計検査院ですから、会計検査院をかませるか。会計検査院の検定ですね、あれは賠償命令に相当することでしょう。他方で住民監査請求に相当するものは会計検査院に対してはない。ないというか、会計検査院法で似たような規定がありますけれども、その辺をどう動かすことができるか。それとも、会計検査院をかませないでその意味で地方の制度と違うものを構想できるのか。具体的な案をお示しいただけると今後のためにもなります。

【全国市民オンブズマン連絡会議(辻氏)】一遍検討してみますので、よろしく。

【塩野座長】付け加えさせていただきますけれども、今の小早川委員の御発言は、それでは我々として住民訴訟、あるいは国民訴訟というものを検討対象として取り上げるという趣旨でございません。この検討委員会の守備範囲というものをどう考えるか、あるいは何を取り上げるかというのは、これからまた色々検討会で議論しなければいけないところでございまして、限られた時間で答案を書かなければいけません。ただ、今の小早川さんの御発言の趣旨は、大変重要な問題なので、もう少し具体的な点があれば、資料等を出していただければ、長い目で見れば非常に意味のあることではないかという趣旨に御理解をいただければと思います。
 それでは、どうもありがとうございました。

【全国市民オンブズマン連絡会議(辻氏)】どうぞよろしくお願いします。

【塩野座長】では、次に、環境行政改革フォーラムの御意見を承りたいと思います。今日はお忙しいところ、こちらのお願いを快く引き受けていただきまして、ありがとうございました。
 それぞれの関係の方から15分ずつ伺っております。それで10分の質疑応答ということでございますので、環境行政改革フォーラムでも、そのような形で進めさせていただきたいと思います。
 委員には御案内しておりますが、今日の口述のものと、それから前にいただいた資料と両方渡しておりますので、両者お使いいただいて結構です。よろしくお願いします。

【環境行政改革フォーラム(青山氏)】私は環境行政改革フォーラムの代表幹事をしております青山と申します。この度は「行政訴訟検討会」で貴重な発言の場をいただきまして、大変感謝いたしております。
 私の本業は環境政策の民間シンクタンク、環境総合研究所の代表をしております。同時に、首都圏の4つの大学で環境科学、環境政策、公共政策の講義を非常勤で担当しております。
 この環境行政改革フォーラムは環境行政の質的な改革を目的といたしまして、11年前に設立されました非営利、いわゆるNPOの環境政策団体であります。環境科学、環境政策、環境法の分野の専門家と、全国各地で公共事業がもたらす環境問題の解決に努力している住民団体や個人により構成されております。
 フォーラムでは、設立の趣旨、目的を達成するため、行政分野の改革だけでなく、立法や司法の改革についても、さまざまな取り組みを日夜しております。具体的には省庁の政策立案過程での審議会、検討会への意見、パブリック・コメントの提出、公聴会への参加、立法分野では、国会の予算委員会、環境委員会、国土交通委員会、総務委員会などでの重要法案における参考人や公述人としての参加、更に行政訴訟、民事訴訟を問わず、裁判に証人として出廷するなどを行っております。
 本日の陳述との関係では、財政負担と環境負荷、環境影響のもたらす政策や、大規模な公共事業の社会経済的な必要性、科学的環境面からの妥当性、適正手続面での正当性を第三者的立場で評価判断する手段としての司法の役割、またひとたび著しい影響、被害が起きてから事後的に救済することから脱し、予防的、未然防止的な措置を取ることについての司法の役割が課題となると思います。
 資料1が別添資料であります。これは実は私どもが司法制度審議会に出した意見書でございます。既に今日いらしている委員の方々はお目通しのことと思いますので、時間の関係で詳細には触れません。その資料1では、過去我が国の環境関連訴訟の実態を、道路、ダム、埋立て、廃棄物処理、処分など、事業分野ごとに整理し、その課題と問題解決の方法を示しております。
 御承知のように行政訴訟、とりわけ環境問題に関連した取消訴訟、差止訴訟などの抗告訴訟では、訴えの利益、処分性に関わる問題で、大部分が訴訟そのものに入れない現実があります。これは現在でもほとんど代わっておりません。行政訴訟、とりわけ環境行政訴訟はその意味で、機能不全に陥っていると言っても過言ではありません。稀に初審で勝つことがあっても、上級審で引っくり返る。せいぜい和解で実質的に勝訴することがある程度と言います。
 最近の小田急の高架化を巡る行政訴訟のように、初審で行政訴訟に勝訴しても、裁判中も事業が進み、勝訴した時点では事業が完了しているといったことも起こっております。環境問題は事が起こってからの対応では遅く、どうしても未然防止的、予防的な対応が必要となります。対象が国、自治体の公的予算をつぎ込む公共事業の場合には、費用対効果の観点からも、このことは重要なものとなると思います。
 司法的に申せば、差止訴訟や取消訴訟などの抗告訴訟や、環境アセスなど、行政計画の策定過程での行政訴訟が有効に機能することが重要なものとなることです。
 昨今、大規模公共事業が国、地方の財政に及ぼす影響が問題となっていますが、これらの事業の多くは、同時に環境にも著しい影響をもたらすものが多いと言えます。
 しかし、資料1にあるように、環境に関わる行政訴訟、とりわけ抗告訴訟は実質的に機能不全となっており、住民は事後救済的な措置として民事訴訟や国家賠償訴訟、更には住民訴訟、情報公開に基づく訴訟しか有効に使えない状態にあると言っていいと思います。
 住民や環境団体にとって、最後の頼みの綱であるはずの裁判が、資料1にあるように、その大部分が機能不全に陥っていること自体、極めて遺憾であり、社会的に見ても大きな損失であると言えます。
 環境問題では本質的に未然防止、予防的な対応が重要なのに、事後的な救済でしか対応できないこと、事後救済であるほど費用が掛かるということは大きな社会問題であると同時に、経済問題でもあると考えます。したがって、環境問題の観点からは、抗告訴訟、処分取消しや差止訴訟を活発化させることが問われると思います。
 以下に改革のポイントについて述べます。
 まず第一は立法行為に関するものであります。現状では大部分の行政法が政府提案法案として制定されております。ここでの問題は、よく言われるようにどろぼうに金庫番、猫にカツブシの番をさせるに等しい現実があります。その結果、実体法、手続法を問わず、行政機関や官僚の裁量が大きなものとなり、行政の都合で法の解釈がねじ曲げられる可能性が大きくなります。
 したがって、読み方によって結果が決まる現行の政府提案法案ではなく、実体法にきめ細かく権利、特に環境に関わる権利を書き込み、また、行政の義務、行政法の場合には計画策定の期限、規制法の場合には明確な基準などをきめ細かく書き込む必要があると思います。
 環境権、人格権といった権利を明確にする必要もあると思います。
 また、現行の都市計画法には環境のカの字もないことが問題となっています。21世紀は環境の時代であり、まちづくりの基本となるべき都市計画関連法制に環境保全、環境配慮を明確に書き込む必要があると思います。
 私はこの5年で6回、環境法の政策過程で国会の環境委員会、予算委員会に参考人や公述人として出て意見を述べてきましたが、その大部分は内閣提出法であり、意見を述べた直後に委員会裁決となり、環境法の意見はアリバイ的にしか使われておりません。また、法案が国会の委員会で審議される以前に省庁間での各種の覚書が取りかわされており、委員会審議そのものが形骸化、空洞化している現実も見逃せません。
 更に議員提案法案の場合でも、法の骨格を仮に議員がつくっても、皮、肉、更に血、具体的には政令、省令、規則、技術指針などの制定が行政の専管的事項になっている現実があります。これをどうするかも大きな問題です。
 したがって、司法制度改革と並行し、立法改革、すなわち立法による行政の徹底したコントロールが不可欠となります。そこでは行政の裁量をいかに極小化し、誰が見ても読んでも分かる実体法とすることが問われています。その実体法の存在を基に裁判を起こせるようにすることです。
 第2の問題は原告適格性です。
 しかし、行政訴訟の機能を回復するためには、単に原告適格を拡大するということだけではだめです。具体的には上述のように、個別の実体法を拡充するとともに、その中に米国の環境法のように、市民訴訟、客観訴訟制度を組み込むことが望まれます。この市民訴訟は日本の住民訴訟が財務会計上の問題に限定されているのに対し、例えば大気浄化法、クリーン・エアー・アクトや水質汚濁防止法などの実体法の目的、政策、施策にまで踏み込んで審議ができるものです。日本では残念ながら住民訴訟制度が今国会で大幅に改正、私は改悪と言っておりますが、米国では実体法、及びその規則において権利義務を明確に書き込むだけでなく、私人、住民が行政訴訟を起こしやすくするために、実体法の中に市民訴訟条項を入れることにより、訴訟を起こしやすくしているのが大きな特徴と言えます。
 一方ドイツでは、団体訴権と言って、あらかじめ環境NPO、NGO、住民団体などを一定の要件の中で登録し、それらの団体に行政訴訟の原告適格をあらかじめ認めています。我が国では行政訴訟を、国民、市民、NPO、NGOなどに近づきやすくするためには、市民訴訟、呼び名は国民訴訟、住民訴訟でもよい、を環境法、行政計画法の中に組み込むことが不可欠です。
 3つ目のポイントは処分性であります。
 我が国では、行政計画、法定計画の立案過程での処分性が絶えず問題となってきました。私は実は30年間、霞ヶ関や自治体の政策立案を支援してきました。私の経験からすると、多くの問題の本質的原因は、実はこの政策立案や計画立案過程にあると思います。したがって、この段階で裁判を起こせるようにすることが問われます。計画段階で情報公開と合意形成をおろそかにしておいて、土地収用法を改正し、土地の強制的収用をしやすくするのは本末転倒であります。
 私は30年以上前に、アメリカのジャクソン上院議員らが議員立法で制定した国家環境政策法、通称NEPAを環境庁からの委託調査の中で詳細に調査してきました。このアセス法は手続法です。当時、大統領府(CEQ)にいた専門家、後にコーネル大学で公共政策の教授になった方によれば、このアメリカの環境アセス法、すなわち国家環境政策法を生かすも殺すも、それは官僚や環境コンサルタントを裁判の場に引きずり出し、証拠を出させ、議論することにあると言っていました。同法の大きな特徴は、個別の開発事業だけでなく、政策、計画など行政行為全般、それも政策及び意思決定過程を対象に、政策代替案の作成を義務づけた上で、司法審査ができることにあると言えます。ジャクソン議員の立法趣旨説明にあるように、連邦行政のより高い、より早い段階から環境配慮を盛り込むことが可能になりました。
 NEPAを巡る行政訴訟の実態を資料2に示してあります。これは後ほど読んでください。資料にあるように、この法律では原告適格を大幅に認め、実質審議に入ることでアセスメントの不備が明らかになっており、是正されております。例えばNEPAを根拠に、1970年から、この法律は1970年に施行されています。1970年から1977年末までに行われた連邦行政行為の環境アセスメント全体の約9%、938 件が提訴を受け、その32%に原告適格が認められ、更にその25%(1/4)で原告側の主張が認められております。つまり勝訴しているわけです。
 行政手続法、情報公開法、環境アセス法は、日本はいずれも米国に比べ30年以上遅れて制定、施行されてきましたが、アセス法を生かすためには、これらの行政法でいかに敏速に司法審査が可能となるかが重要だと思います。
 最後のポイントは、行政訴訟における原告、被告の間での訴訟実務を巡る公平性の問題であります。
 環境関連の訴訟は、行政、民事を問わず、科学的、専門的なものが多いのが特徴です。これが裁判の長期化の原因となっていると言っても過言ではありません。被告となる行政側が多くの人材、費用、情報を有しているのに対し、住民側はすべての面で厳しい状態にあります。したがって、原告適格が認められた行政訴訟における公平性をいかに確保するかが問題になります。住民側を専門的、実務的に支援する人材と資金の確保が大きな課題となります。
 具体的な解決の方向性といたしましては、住民側が行政に勝訴した場合、行政側が住民側の弁護費用とともに、専門家が証拠、意見書、陳述書などの作成に要した費用を一定の基準の下に負担するということが望まれます。
 実は私はこの5年で20件くらいの行政訴訟、民事訴訟に証人として出てきましたけれども、その都度これを膨大な調査をやった上で出廷しているわけです。それはほとんど住民からお金が、例えば行政でやる場合の10分の1程度しかもらえません。
 米国の行政訴訟では、これが現実化しており、上述のNEPA訴訟で有名な環境訴訟専門家集団のNRDC、これはナショナル・リソース・ディフェンス・カウンシルと言いまして、ハーバードのロースクールとか、コーネル大とかの法学部を出た方々が中心になっている弁護団体です。
 Earth Justice 、これはアメリカの環境訴訟で有名なシエラクラブを支援している弁護士を抱えた団体です。などの弁護士や専門家を要するNGO/NPOの財政負担を、アメリカではお金を支援する制度があるがゆえに、その方々の組織が成り立っているという現実があります。
 なお、これについては、日弁連でも国民が利用しやすい司法の実現及び国民の期待に応える民事司法の在り方の片面的敗訴者負担制度の項で、行政訴訟、国家賠償訴訟にも上記の趣旨に類する内容が書かれております。
 以上であります。

【塩野座長】どうもありがとうございました。
 今日のお話、色々内容の濃いものでございますので、多方面からの質問もおありかと思いますが、10分ということで、また、今日決まっていない質問等は改めてこちらからお伺いすることもございますので、よろしくお願いします。
 それでは、どなたからでも結構でございます。

【小早川委員】私が伺いたいのは、アメリカは確かに環境訴訟が非常に活発で、それが個別のプロジェクトだけじゃなくて、全国的な政策に対しても成り立っているというふうに認識していますが、今日のお話にもありましたように、訴訟を支える専門家集団、環境保護団体も強力ですが、専門家集団がそこにいる。それと比べて日本の現状は、青山先生は頑張っておられると思いますが、法律家集団というものがしっかりしてこないと、なかなか難しいということですが、どの辺がネックで、どういう見通しでしょうか。逆に行政訴訟制度を、柔軟に門戸を開いたものにすれば、よくなっていくのか。その辺の戦略的な見通しがあれば。

【環境行政改革フォーラム(青山氏)】先生おっしゃるように、原告適格性だけが仮に間口が広がっても、実質審議に入ったときに、審議できないなり、とっ掛かりがないということではまずいという意味で、原告適格性とか処分性がとかくこの分野の、私たちの仲間、例えば阿部泰隆先生などもおっしゃるわけですけれども、私とか隣にいらっしゃる福井先生は、その次の話をいつも議論しているわけであります。
 今、小早川先生がおっしゃられた点は、私は実務の中にいる人間として、絶えずそれを腐心していると言いますか、私は弁護士ではないんですが、例えば最近では廃棄物の処理処分に関わる裁判が非常に多くて、ごみ弁連と言いまして、その分野の100人くらいの弁護士の方の、私は実は技術顧問ですが、1円ももらってないんですけれども顧問にされていまして、事あるたびに青山さん、青山さんというふうに来ます。実は弁護士さんがそういう科学技術的な問題とか環境でも、細かい話を一から勉強されても大変な話ですし、実際証拠を取るために現地に行って、土を持ってきて分析するということもやっているわけですけれども、私たちのような環境問題の実務にいて、ある程度法的なことも分かる、政策も分かる人間が、そういう方々といかにタイアップするかということが1つ重要だと思います。
 それで言いますと、弁護士が増えるというだけではなくて、もしくは行政訴訟というのは、ほとんど勝ち目がないし、簡単に言いますとお金も取れない。だからということで、その分野はほとんど弁護士さんも余りいらっしゃらないということも問題なんですけれども、仮に間口が広がった場合でも、次の話として、勿論、実体法の中にいろんなきめ細かく書くということは前提でありますが、私たちのような、自分で自分のことを専門家というのは問題なんですけれども、環境問題なり、都市計画の分野にいる方で、それは大学にいようとシンクタンクにいようといいんですけれども、全面的にサポートを一緒にできるような人たちが同時に増えないと、裁判は時間は掛かるし、更に言いますと、判事が重要なわけですから、判事に分かりやすく難しいことを示すということが大変なんです。
 そういうものはあらかじめそういう人材がいるわけではなく、私も30年間この世界にいて、最初は霞が関だけを、金がいっぱい出ますし、支援していたんですけれどけも、この国で幾ら霞が関を支援しても、自治体を支援しても、行政の計画と立法とか条例を支援しても、全くこの国はよくなる見込みがないということをあるとき、あるときというのは福井さんと出会ったときなんでありますが、感じまして、それ以来今のようなことを10年やっています。10年の中で感じたのは、大学にいらっしゃいる方も、法律ではなくて私らの世界、環境科学でありますが、なかなか司法との間でのやりとりとか、有機的な連携というのは難しいんです。
 ですから、司法制度だけを改革しても無理というのは、例えば立法をちゃんとしなくちゃいけないということは当然なんですけれども、同時に私たち実務にいる人間がもっと行政訴訟に参加しやすいこととして最後に申し上げました、少なくとも片面負担でも結構ですから、片面負担じゃないと逆に住民側は負けたときに金の負担ということでしり込みするわけですから、少なくとも片面負担は我々の立場にしていただける、勝訴した場合にしていただけるということはすごく重要かなという実感は持っています。

【水野委員】市民訴訟を提言しておられるんですけれども、この提言によると、アメリカにならってというか、実体法の中に決めていくべきだというご趣旨です。確かにアメリカの環境法では、個別法に入れているかと思うんですけれども、日本で今、これを実現していく場合、実体法に一つひとつ入れていくんじゃ、なかなか現実問題としては困難じゃないか。
 むしろ行政事件訴訟法の中に、そういった規定を設けるとか、あるいはもう少し広く例えば環境影響評価法とか、もう少し一般的な法律の中にそれを設けていく。NEPAの訴訟が現に機能しているわけですから、そういった提言がないのかなと思うんですけれども、いかがでしょうか。

【環境行政改革フォーラム(青山氏)】私たちの考えでは、今先生がおっしゃったことが一番理想だと思っているんです。情報公開法とか行政手続法とかアセス法のように、例えばさまざまな都市計画法制とか、土地利用法制とかを貫くものとして、そういうものがもし入れ込めれれば、行政事件訴訟法の中に入れ込めれば、これが一番いいと思います。
 しかし、ここまで行政訴訟が萎縮と言いますか、できない現実があると、私たちの側も、余りできそうもないことと一見思ってしまって、シュリンクするとか、勿論、今、委員の言われたことの方がいいでしょうね。ただ、1つでも2つでも入れれば、たまたま環境法をやっているということで、環境方の中で、廃掃法とか、ダイオキシン類対策特別措置法とか、幾つか問題になっている分野でそれが入るとという気持ちはあります。

【福井(秀)委員】1つは、米国ではかなり容易に環境訴訟が提起できるらしい。全くそうだと思うんですけれども、結局、例えば米国の原告適格が日本よりは広目であるとか、 あるいは裁判にできる段階がもっと早いというようなものに近づけるべきだという御議論かどうかというのが1つ。
 もう1つは、環境訴訟なんですけれども、これは日本の住民訴訟類似の財務会計上の違法だけではなくて、環境に対する侵害も客観訴訟と呼ぶかどうかはともかくとして、現在の訴訟範囲よりも広げた訴訟類型として認めるべきだという御主張であるかどうか。2点お伺いしたいんです。

【環境行政改革フォーラム(青山氏)】両方とも福井さんがおっしゃる意味ではイエスだと思いますけれども、客観訴訟的に、環境権とか人格権というのは明確じゃないんですけ れども、権利侵害以外でも環境問題に関わる権利を何らかの形で明確にして、客観訴訟的に対応できれば一番いいと思います。
 あと、個別法制にビルトインするよりは、行政事件訴訟法の中に市民訴訟条項を入れ込めれば、これは一番いいと思いますけれども、この半年と言いますか、1年間、住民訴訟の改正、地方自治法一部改正の、オンブズマンの方もおっしゃっていたと思うんですけれども、それを必死に立法府の議員の方々との間で議論してきて、結果的に私ども の考えているものより遠い方に、しずらくなる方向に行った現実があるので、今後とも頑張ろうと思っていますけれども、是非この部会で前向きの提言なり方針を出していただければと思います。

【塩野座長】どうもありがとうございました。では、芝池さんで終わりにします。

【芝池委員】今日はこういう場ですから、行政訴訟、環境行政訴訟ということですが、大規模公共事業にも言及されておられまして、大規模公共事業は、民事訴訟でやっておられるんですが、民事訴訟の方について何か問題はないでしょうか。

【環境行政改革フォーラム(青山氏)】差止めと言いますか、こっちの方は難しいですけれども、私自身、実は川崎公害訴訟とか、日本を代表するような公害訴訟の控訴審、高裁にも証人に出て、頑張りましたけれども、1つ言いたいことは、国側が訟務検事で私に反対尋問されていました。それは民事訴訟ですけれども、訟務検事の方が何でそういう場に出てこられるのかというのは非常に疑問を感じました。私は膨大な調査をやって、都合5時間くらいですかね、1日でですよ。午前・午後、反対尋問を頑張りましたけれども、1つだけ言うとすれば、やはりそれは国側が別途弁護人を使うべきであって、判事の方がそこに来られて、私のような、本当に丸腰の方の側に反対尋問をされるというのは疑問を感じました。ちょっと質問の趣旨に合っていないかもしれませんが。

【芝池委員】訴訟手続上は何か問題は感じておられますか。

【環境行政改革フォーラム(青山氏)】訴訟手続と言いますか、やはり公平性の問題ではないでしょうか。私は環境アセスメントでも、ざまざまな行政手続でも絶えず同じことを感じるのは、公共事業などは特にそうですけれども、相手は、福井さんはつい最近、日弁連で何時間かヒアリングを受けた議事録を全部いただいて、これは福井さんに許しを得ないと細かいことはお話できませんけれども、国がそういう場面で膨大な人的資源、情報資源、調査費用を使って出てくるわけです。住民側は、本当に民事であっても、その3つがほとんどないわけです。ですから、初めから公平性という観点で見ますと、勝負があるようなものであります。
 ですから、民事であっても、最後に申し上げました片面負担みたいなものについても考え方を入れていただきたいというのは、これは何も行政訴訟についてだけではないんですけれども、公平性という問題が相手に対して勝訴のときでいいんですけれども、入らないと、勝負にならないんじゃないでしょうか、通常は。
 小早川先生が言っていましたけれども、私みたいな人間は自分で言うのもおかしいですけれども、めったにいないわけですから、そういう人間が出てこないと、こっちはそれだけやっていますと、本当に息絶え絶えになってくる現実は、この検討会の方々の理解していただきたいなと思います。
 逆に言うと、私が出ていった高裁では実質勝訴になって、住民側は二十何億円だか、それは国からではないんですけれども、和解金というのでとって、それは喘息の患者の方々ですけれども、そういうことになっています。
 スモンでも国賠ですが、そうなっていますが、それなりのアシストと言うか、アドボカシーがあれば、まともに闘える場があれば、それなりのことはできるという実感は私自身持っています。
 小早川さんと「ジュリスト」でアセス法ができた直後に座談会をやったことがあるんですけれども、アセス法に間しては、99年に施行されましたけれども、ほとんどまだ裁判がゼロの段階ですから、できれば私自身も個別具体の事業で提訴してみたいと思っていますけれども、やはり取っ掛かりが今のままでは恐らく原告適格がなしということで裁判になじまないかなと思っております、我が国では。

【塩野座長】どうもありがとうございました。まだ色々御質問があるかと思いますけれども、時間がまいりましたので、ここらで終わらせていただきます。
 どうも青山さん、お越しいただきまして、ありがとうございました。
 前回の検討会で成川委員から、日本における行政訴訟の件数は他の国に比べて極めて少ない、今日もそういったお話がございました。理由は何かという御質問がございました。これに関しまして、本日は最高裁判所の方がお見えになっておりますので、まず、件数について御説明を伺いたいと思います。その後で、では、なぜそうなのかというのを最高裁を問い詰めてみても致し方のないことでございますので、私の方で用意をした資料が若干ございますので、それを御紹介するというやり方をしたいと思います。
 それでは、最高裁の方、どうぞ。

【最高裁判所(事務総局行政局増田第二課長)】最高裁行政局第二課長の増田でございます。
 座長の御依頼がございましたので、行政事件に関する統計資料について私の方からデータ的な説明をさせていただきたいと思います。
 本日は資料5ということでお手元に資料を用意させていただきました。この統計資料でございますが、本日時間の関係でおおまかなものしか示しておりません。詳しい数値につきましては、第1回の「行政訴訟検討会」の資料5で、平成12年度の行政事件の概況ということで配布された資料がございますので、そちらを御参照いただきたいと思います。
 まず資料の1ページ目でございます。行政事件の第一審新受件数の推移を棒グラフで示したものでございます。昭和23年から平成12年までのものでございます。この中には、高等裁判所を第一審とする行政事件も含まれております。このグラフから読み取れますように、我が国は第一審の行政事件の件数は長期的に見ますと、昭和20年代の後半以降、集団的な提訴があったことなどによって、件数が単発的に多くなった例外的な年がございますが、大体1,000件前後で推移しておりました。
 それから、最近では、ここ15年程度、昭和62年以降は、件数が右肩上がりにずっと増えておりまして、平成12年には2,014件という事件数を記録しております。増加に転ずる前の昭和61年と比較いたしますと、約2倍の新受件数となっております。
 事件の種類別はこの中に示しておりませんが、最近の事件の増加の理由となっておりますのは、住民訴訟、あるいは情報公開訴訟といった、地方自治関係の訴訟の増加が顕著になっております。
 諸外国との比較ということで、資料の4ページ目に表を用意させていただきました。これはアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスと比較するということで、各国の行政関係事件の新受件数、これは新しく提訴があった件数ということでございますが、件数について表をつくらせていただきました。ただ、アメリカの連邦地方裁判所、アメリカの左の方のものでございますが、注で書いておりますが、合衆国を被告とする事件の数値でありまして、この中には日本の分類で言うと、必ずしも行政事件に分類されないものも含まれているという点を御承知置き願いたいと思います。
 この表をごらんいただきますと分かりますように、件数を見ましても、各国によって非常にばらつきがあるということで、行政事件について、確かに我が国の場合に他の国、特にドイツ辺りと比較しますと、非常に件数が少なくなっているという事実がございますが、国によって件数の多寡は色々であるということは、この表をご覧になっていただいてもお分かりになるのではないかと思います。
 まずは客観的なデータの説明ということでよろしいでしょうか。
 データの説明ということで示させていただきますと、資料の2ページをご覧いただきたいと思います。これは既済事件ということで、裁判所の方で事件を終局させたものについての統計でございます。平成8年から平成12年までの既済の件数と既済理由、認容、棄却、却下、取下げ、その他ということで、既済、終局内容別の件数と割合を示したものでございます。
 日本の行政訴訟の場合、勝訴率が低いという御指摘がございますが、勝訴率については、3ページ目に別に表を御用意させていただいております。これは平成7年から平成12年までのものでございますが、行政訴訟第一審の勝訴率でございます。多少分かりずらいところがあるかもしれませんが、勝訴率Aというものを挙げて、判決で終わった事件の全体の中で勝訴判決がどれだけあったかというものを示すものでございます。勝訴率Bは、判決以外で終わったものも含めて、終局した事件の中で勝訴判決がどれだけあったかということを示すものでございます。これによりますと、平成12年におきましては、判決で終わったもののうちの勝訴判決の割合というのは22.5%ということでございます。既済事件全体に占める割合としては、平成12年においては17.4%ということでございます。
 なお、比較のために4ページの「各国の行政関係事件の新受件数」の比較表でございますが、この表の下の部分に、各国の行政訴訟の原告勝訴率を判明した部分について記載させていただきました。イギリスについては、21.0%、ドイツの行政裁判所については、10.6%、日本については17.4%ということで、この割合は全既済件数中に占める認容判決の割合ということでございます。
 戻っていただいて、2ページ目の表でございます。下に行政訴訟事件の審理期間についてのデータを記載させていただきました。平成12年における行政事件の第一審の平均審理期間はここに記載しておりますとおり、17.8か月でございます。丸い円グラフで示しておりますように、半分以上の事件が1年以内に終わっております。4分の3以上の事件が2年以内に終結しているという状況にございます。新しい民事訴訟法の下で、争点中心型の審理が行われておりまして、審理期間については、短縮化の傾向にございます。今後もこの方向で事件の審理期間の短縮に努めてまいりたいと思っております。
 以上、客観的なデータの説明をさせていただきました。

【塩野座長】何か主観的なことはおっしゃいますか。

【最高裁判所(事務総局行政局増田第二課長)】なかなか主観的な説明をするのは難しい立場ではありますが、1、2点お許しをいただければ御説明させていただきますと、まず、我が国では行政事件が少ない理由でございますが、これは後ほど文献で御紹介があると思いますが、色々な分析がされております。その中で、勿論、訴訟制度に関わる部分もございますが、それ以外にも、例えば日本の場合には行政指導が多かったり、あるいは税金事件であれば更正処分をする前に修正申告をしたりとかいうようなことで、行政側の柔軟な対応によって行政処分に至らないで終わっているものが非常に多い。不利益処分自体の数が少ないということが1つ指摘されております。
 他方、先ほど表でもお分かりだと思いますが、ドイツについては非常に行政訴訟の件数が多うございますが、ドイツについては、例えば庭に小さな物置を建てるようなこと1つについても、逐一建築法上の規制があって、違反に対しては例外なく除却命令が発せられると。国民において、それが不服であれば、行政訴訟でそれを争っていくというようなことで、国民生活の細部にわたって行政が関与しているという状況があると指摘されております。
 このように、行政事件の件数については、国民生活と行政の関わり方といったものによって大きく異なるものでありますので、こうした大きな視点で比較検討していただきたいと思っております。
 もう1点は、却下率のことでございますが、先ほどの表の説明のところで却下率の説明をはしょってしまいましたが、資料の2ページのところで、却下率を挙げておりますが、大体、行政訴訟第一審全体で見ますと、14、15%ということでございます。この割合が高いか低いかというところは色々議論があるところかと思いますが、前回の検討会で市村委員から御発言がありましたように、裁判所としては一見不適法に見える訴えにつきましても、構成を変えたり、工夫をすることによって、適法な訴えになると思われるものについては補正命令を出すなどして、できるだけ努力をしているところでございます。
 しかしながら、原告適格の範囲等につきましては、法律で定められているところでありまして、法律の解釈にも限界がございますので、法定の訴訟要件を欠くという判断をしたものについては、却下の判断をせざるを得ないという事情を御理解いただきたいと思います。
 以上でございます。

【塩野座長】それでは、引き続き私の方から資料説明という形で、今の問題について私の方から御説明いたします。
 幾つか取り揃えました。「判例タイムズ166号 」、「公法研究」それから「ジュリスト925 号」、「民商法雑誌」、最後のものは小早川さんが書いておられる。これで「ジュリスト」は終わりですね。

【小早川委員】終わりです。

【塩野座長】この他にも探せば色々、なぜ受理件数が少ないかとか、そういった点についての分析があろうかと思いますが、急ぎ事務局にお願いして、これだけのものを用意していただいたわけです。
 それぞれ多少ニュアンスがありますが、同時にかなり共通している点もございます。代表選手というわけではありませんけれども、裁判官もおやりになり、更に弁護士もやっておられる濱さんの論文、「公法研究第52号」というのが皆さんの共通的な事項を拾っておられるように読めました。それの169ページをごらんいただきますと、終わりの方から出ています。「争訟として顕在化しない理由として」、何があるかというと引用が並んでおりますけれども、不服訴訟、あるいは不服審査の対象とならないような方法で行政庁が問題処理を行うということで、行政指導等々でこれが済まされている場合があるということです。
 それから、第2は、紛争の解決に、まず政治家が乗り出すと。これは御自身の御経験で、やや主観的になるかもしれません。客観的な数字が挙がっているわけではありません。
 それから、相談を受ける弁護士が対応できなかったり、あるいは訴訟要件の問題についての判例調査の結果、弁護士があきらめてしまう場合があるというのが(ニ)に出ております。
 170ページに、「江戸の敵を長崎で打たれるおそれもある」という点も挙げておられます。
 更に長期化の問題が掲げられておりまして、この点につきましても、更に具体的にそれを何故長期化するかという点も含めまして、176ページに、裁判官側の問題、それから弁護士側の問題、それぞれ数、能力、熱意などが挙げられております。裁判官には熱意がないようですが、弁護士は熱意は別にマイナス要因として掲げられていないので、弁護士は熱意はあるけれども、能力がないといったふうにも読めます。要するに、裁判官、弁護士双方とも、必ずしも行政訴訟に慣れていないという問題があろうと思います。
 「判例タイムス166号」は、裁判官の座談会の形を取っておりますが、基本的には同じような感想を述べておられますし、また「ジュリスト925号」は、南さんのものですが、この受理件数の少なさだけではありませんで、むしろ行政訴訟制度の改革が中心でございますけれども、簡単に触れておられますので、御紹介をしております。
 それから、「民商法雑誌」の三木義一さんの論文は、税務訴訟よりも、税務行政の在り方の問題という形で、先ほど最高裁判所の方から御紹介のあったところとやや似ているところでございますけれども、ドイツは処分数と異議申立て数自体がけた違いに多いという意味で、単純に受理件数のことだけを比較するのはいかがなものかということです。
 私もかねて日本に行政事件訴訟が少ないということについては、日本人はそういう紛争がないということではなくて、日本の行政指導を中心とする行政スタイルの点が問題と言いますか、原因としてあるのではないか。その場合に、国民の方はそれで満足して行政指導に従っているということではなくて、そこはまた色々考慮の上、行政指導に従うということで、結果として紛争が顕在化しないということも、私も思っているところでございます。この点については、それぞれの学者の方、実務家の方、それぞれの御感想もおありかと思いますけれども、成川委員から、前回御質問がございましたので、一応私の方でこういった御説明をさせていただきました。
 なお、別の機会に取り上げて、こういった問題について議論することもやぶさかではありませんが、何しろこの検討会、時間が限られておりますので、余り学問的な、しかし、定性的なお話でやりとりするよりは、むしろ中身に入って、どういう点が具体的に問題があるのかということで、国民の権利、ないし利益を救済すべき場合でも司法救済を困難にしている要因が現行の行政訴訟制度にシステム的にあるのかどうかという点を、今後は中心に議論していっていただければと思っている次第でございます。
 一応、成川委員の御質問には、こういう形でお答えさせていただきました。本当は御質問を受けなくちゃいけないんですが、時間がないので。

【水野委員】いろんな要因があることは事実です。ただ、私ども弁護士からしますと、行政裁判をやっても勝てないというのが基本的にあるんです。先ほど最高裁判所の方は、行政指導とか修正申告とかいうのを行政事件が少ない理由として挙げられたのですが、これは例えば行政指導に従わずにやる。あるいは修正申告の慫慂というのは強力になされているんですけれども、それに従わずに行政訴訟をやる。これは勝てる見込みがあるんであれば、弁護士もやるんです。しかし、実際には勝てる見込みは非常に少ない。これは単に法律論だけではなくて、例えば税務訴訟などの場合、大半の訴訟は事実認定の裁判になりますが、私どもに言わせると、課税庁の言うとおりの事実認定しかなかなかしないというのが実態だと感じています。
 ですから、弁護士の能力という点も色々ありますが、かなり弁護士があきらめている。もう行政訴訟はやってもだめだという意識があるということをちょっと紹介しておきます。

【塩野座長】なぜ事実認定で弁護士、あるいは原告が負けてしまうのかという点について、それがシステム的な問題であれば、是非ここで取り挙げなければいけないということでございますので、その点またよろしくお願いしたいと思います。
 それでは、大変時間も超過いたしましたので、最後に次回の日程でございますが、細かな日程は別といたしまして、神戸大学の阿部泰隆教授、日本弁護士連合会から意見をお伺いすることになっております。

【小林参事官】次回は5月20日でございます。今、座長から説明があったとおりの予定をしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

【塩野座長】それでは、今日はこれで終わりにします。どうも長時間ありがとうございました。