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行政訴訟検討会(第31回)議事録



1 日 時
平成16年10月29日(金) 15:00〜16:30

2 場 所
永田町合同庁舎第1共用会議室

3 出席者
(委 員)
塩野宏座長、市村陽典、小早川光郎、芝池義一、芝原靖典、成川秀明、萩原清子、福井秀夫、藤井昭夫、水野武夫、深山卓也(敬称略)
(事務局)
山崎潮事務局長、松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官、村田斉志企画官

4 議 題
検討のまとめ

5 配布資料
資料1 行政訴訟検討会最終まとめ−検討の経過と結果−(案)
資料2行政事件訴訟法の一部を改正する法律の施行に当たって(通知)
 (2−1)各府省庁等事務次官等宛(平成16年10月15日付け閣司本第152号)司法制度改革推進本部事務局長通知
 (2−2)各都道府県知事宛(平成16年10月15日付け閣司本第153号)司法制度改革推進本部事務局長通知
 (2−3)行政事件訴訟法の改正の骨子と行政運営に当たっての留意点

6 議 題

【塩野座長】 それでは、時間になりましたので、第31回「行政訴訟検討会」を開催いたします。事務局から本日の議題と資料について説明をお願いします。

【小林参事官】 お手元の「行政訴訟検討会(第31回)次第」にございますように、本日は検討のまとめをお願いしたいと思います。配布資料につきましては、資料1「行政訴訟検討会最終まとめ−検討の経過と結果−(案)」を配布しています。この資料1につきましては、参考資料が1から11まで付いています。資料2は「行政事件訴訟法の一部を改正する法律の施行に当たって(通知)」と題する司法制度改革推進本部事務局長通知です。ここにございますように、各府省庁等事務次官等宛、それから各都道府県知事宛で、司法制度改革推進本部事務局長から、この行政事件訴訟法の一部を改正する法律の施行期日が、来年の4月1日とする政令が公布されたことを受けて、本年10月15日付けをもちまして、「行政事件訴訟法の改正の骨子と行政運営に当たっての留意点」について通知を発出したものです。「行政事件訴訟法の改正の骨子と行政運営に当たっての留意点」は、資料2−3となっております。それぞれへの通知文が資料2−1と資料2−2です。それから、本日付けで水野武夫委員から、お手元にございます「今後に残された行政訴訟等の改革の主な課題」と題します資料をいただいておりますので、これを皆さんのお手元にも配布してます。

【塩野座長】 それでは、今、事務局から御案内がありましたように、今日の中心的な議題は、「行政訴訟検討会最終まとめ−検討の経過と結果」、現在は「(案)」となっておりますが、これについての御検討をお願いするということでございます。なお、今日は最終回を予定しておりますので、時間があった場合には、皆様方からそれぞれ簡単な御感想をいただければというふうに思っておりまして、よろしくお願いしたいと思います。
 それでは、前々回、前回にわたり御議論をいただきました「行政立法・行政計画に対する司法審査の在り方」と「裁量の審査」の問題、そして「団体訴訟」につきまして、皆様方からいただきました意見の趣旨を踏まえまして、修正をしております。それから、前回お伝えしましたとおり、検討のまとめとして、前回お出ししました「検討の趣旨(イメージ)」に検討会での議論の経過を客観的かつ簡潔に記述したものを付け加えるということで、この検討のまとめのようなものをつくったらどうかというふうにお伝えいたしまして、事務局で資料を作成したというわけでございます。それでは、資料の説明をお願いいたしたいと思います。

【小林参事官】 資料1「行政訴訟検討会最終まとめ−検討の経過と結果−(案)」と題する資料につきまして、御説明をしたいと思います。順次読み上げさせていただきます。
 「行政訴訟検討会(資料1)は、平成13年6月に内閣に提出された司法制度改革審議会の意見(資料2)において「行政事件訴訟法の見直しを含めた行政に対する司法審査の在り方に関して、「法の支配」の基本理念の下に、司法及び行政の役割を見据えた総合的多角的な検討を行う必要がある。政府において、本格的な検討を早急に開始すべきである」との意見が述べられたことを受け、内閣に設置された司法制度改革推進本部事務局において開催された」というものです。参考資料1として「行政訴訟検討会委員名簿」を付けることを考えております。名簿も御確認いただきたいと思います。「司法制度改革審議会意見書(抜粋)」を、参考資料2として添付しています。
 次の文ですが「行政訴訟検討会では、行政訴訟制度の見直しのための検討を行い、その成果を法案等に反映させるため、平成14年2月18日の第1回会合以降、平成16年10月29日まで31回の会合(資料3)を開催して検討を行った」というものです。参考資料3「行政訴訟検討会開催経過」に検討会の会合の回次、日時、議題、資料について一覧で示しております。
 次の文ですが、「行政訴訟検討会では、平成15年4月25日の第16回会合において、「行政訴訟制度の見直しについて検討の方向性が概ね一致していると思われる事項」(資料4)について確認した。その上で、さらに検討を進め、平成15年7月4日の第19回会合において、行政訴訟制度の見直しについて行政訴訟検討会の検討状況を踏まえて広く意見等を募る際の資料とするため、検討の方向性が概ね一致している事項と更に検討が必要な点を掲げるとともに、その他の主な検討事項について検討会で意見が出されている考え方と更に検討が必要な点ないし指摘されている問題点を掲げた資料として、「行政訴訟検討会における主な検討事項(資料5)をとりまとめた。行政訴訟検討会では、これを参考資料として行政官庁等からのヒアリングを行うとともに、事務局において行った国民の意見募集の結果をも参考にして、さらに検討を重ねた」。資料4「行政訴訟制度の見直しについて検討の方向性が概ね一致していると思われる事項」と資料5「行政訴訟検討会における主な検討事項」はいずれもこれまでの検討会の資料です。
 「これらの検討の結果を踏まえ、平成15年10月24日の第24回会合において、座長が事務局と協議しながら行政訴訟制度の見直しの考え方と問題点を整理した資料として作成された「行政訴訟制度の見直しのための考え方と問題点の整理(今後の検討のためのたたき台)」(資料6)をたたき台として示し、それ以降、今次の司法制度改革における立法課題について検討を進めた。その結果、行政訴訟検討会は、平成15年12月22日の第27回会合までの検討結果を踏まえ、行政に対する司法審査の機能を強化して国民の権利利益の救済を実効的に保障する観点から、今次の司法制度改革における立法課題について、平成16年1月6日付けの「行政訴訟制度の見直しのための考え方」(資料7)をとりまとめた」。資料6「行政訴訟制度の見直しのための考え方と問題点の整理(今後の検討のためのたたき台)」と資料7「行政訴訟制度の見直しのための考え方」もこれまでの検討会の資料です。
 2ページに移ります。「「行政事件訴訟法の一部を改正する法律」(平成16年6月9日法律第84号)は、このような行政訴訟検討会の検討の成果を踏まえて立案されたものである。行政事件訴訟法の一部を改正する法律により、義務付け訴訟・差止訴訟を法定し、確認訴訟を当事者訴訟の一類型として明示し、取消訴訟の原告適格について適切な判断を担保するための考慮事項を規定するなど、行政事件訴訟による国民の権利利益の救済範囲の拡大が図られた。また、審理の充実及び促進を図るため、裁判所が、釈明処分として、行政庁に対し、裁決の記録や処分の理由を明らかにする資料の提出を求めることができる制度が新設された。これらの改革は、行政に対する司法審査の機能を強化して国民の権利利益の救済を実効的に保障するという、行政訴訟制度の見直しの目的を実現するために重要な意義を有すると考えられる。行政訴訟検討会では、行政事件訴訟法の一部を改正する法律の成立を踏まえ、行政訴訟制度に関し更に議論を深めておく必要があると考える論点について、平成16年7月23日の第28回会合以降、引き続き検討を行った。検討を進めた論点は、行政立法・行政計画の司法審査、裁量に関する司法審査及び団体訴訟である。今回の行政訴訟制度改革の意義の上に立って、行政訴訟検討会において上記の論点について更に議論を深めておくこととした趣旨は、次のようなものである。すなわち、行政立法・行政計画は、行政過程の初期の段階で行われる行政活動であり、行政立法については、国民の多様な利益調整が一般的抽象的な形で行われるという特徴がある。また、行政計画については、国民の多様な利益調整が一般的抽象的な形で行われる場合も多く、行政計画は多種多様であり、個別の制度における各計画の性質・位置付けや具体的な法的効果が様々であるという特徴がある。一方で、このような行政立法・行政計画についても、国民の権利利益に影響を及ぼすものについては、法律上の根拠が必要とされ、その根拠となる法律に従って制定・立案されなければならないことは、他の行政作用と同様である。行政立法・行政計画の司法審査に関しては、その制定・立案の過程ないし内容において違法があった場合における国民の具体的な権利利益の救済の在り方について、行政立法・行政計画の特徴やそれが多様な国民の利害に幅広い影響を及ぼすものであることも考慮しつつ、新たに法定された差止訴訟や当事者訴訟として明示された確認訴訟の活用との関係も含め、適切な司法審査の在り方の観点から、更に議論を深めておく必要があると認識されたことによるものである。また、裁量に関する司法審査に関しては、行政事件訴訟法の改正により、義務付け訴訟・差止訴訟や確認訴訟の活用などにより、多様な行政活動が司法審査の対象として取り上げられるようになっていくことが予想される中で、行政作用の基準・考慮事項などが抽象的に規定されている行政活動についても、適切な司法審査が行われる必要が増大すると考えられる。そこで、処分又は裁決の理由を明らかにする資料の提出等を行政庁に対して求める新設された釈明処分の特則の活用により裁量に関する審理の充実を図ることとの関係も含め、裁量に関する適切な司法審査を担保する観点から更に議論を深めておく必要があると認識されたことによるものである。団体訴訟については、処分などにより侵害される利益が特定個人の利益でなく、広く消費者、地域住民など一般的に共通する集団的利益として把握できる場合に、そのような多数人の共通利益を法律上又は事実上代表する消費者団体、事業者団体、環境保護団体、住民団体等に訴えの提起を認めることができないかという問題である。現在、消費者問題の分野では、同時多数被害への対処という観点から具体的な検討が行われているところであるが、行政需要が多様化してきている中で、必ずしも特定個人の利益に還元し難い集団的利益についてどのような対処が考えられるかという問題意識から、民事訴訟制度における団体訴訟の位置付けや、行政事件訴訟法の改正により適切な判断を担保するための考慮事項が法定された一般的な取消訴訟の原告適格との関係を含め、更に議論を深めておく必要があると認識されたことによるものである。これらの論点について、検討会において議論をした結果をとりまとめた資料は、資料8ないし11のとおりであり、よりよい行政訴訟制度の在り方を考えるに当たって、今後の参考に資することが期待される」。資料8は、参考資料8「行政立法の司法審査」、前回までの検討の経過を踏まえ更に論点、表現等を事務局で直したものです。資料9「行政計画の司法審査」も同様に、これまでの議論の内容を踏まえて、更に論点を適切に指摘するような記述に改めたものです。資料10「裁量に関する司法審査」も同様に、これまでの検討結果を踏まえてまとめたものです。資料11「団体訴訟」は、前回、事務局で整理した参考資料に基づき、その前の回の検討会で事務局から参考となる裁判例を集めた資料も添付して、論点の指摘、それから参考の判例を併せた資料として整理したものです。
 なお、この「行政訴訟検討会最終まとめ−検討の経過と結果−」資料の取り扱いにつきましては、これまでの検討会でも御指摘がありましたように、なるべく多くの方に活用していただくということを考えております。そのためにどういう方策を取るかということですが、本日おまとめいただけましたら、直ちにこれを検討会のホームページに公開するとともに、事務局としては、これを冊子にした資料をつくり、それを活用していただけるような方に配布することを考えております。

【塩野座長】 資料の説明は、以上でございます。今回、とりまとめに当たりまして、中身についていろいろ御議論をいただいたのは、「行政立法・行政計画に対する司法審査の在り方」、それから「裁量の審査」の問題。そして、「団体訴訟」ということでございまして、これを議論していただいた上で、まとめについての若干の経緯等を書き、またなぜこういうものを取り上げたかということの趣旨を説明したものを用意して、今日皆様方に正式に案としてお示ししているところでございます。この全体を作成する過程、あるいは案文の作成の過程で、委員の方々にも御相談申し上げ、御協力をいただくことがありましたので、その点は御礼を申し上げたいと思います。
 そこで、議題としては、こういう形で用意いたしましたので、私としては、これで御了承いただければ幸いでございますけれども、いかがでございましょうか、御了承いただけますでしょうか。

(委員から異論なし)

  どうもありがとうございました。これで実質的な議論は終わらせていただくということになります。一昨年の2月以来、31回にわたって議論をしてまいりました。いろいろな経過がございましたけれども、皆様の御議論の賜物として、行政事件訴訟法、約40年ぶりの改正ということになったわけでございます。多少時間もございますので、皆様方から、31回やりましたので、それぞれの思いもあるし、言い足りなかったこともあろうかと思いますので、お一人大体5分ということで、余りお一方に長広舌を振るわれますと後がないものですから、その辺は十分御留意いただきながら、しかし、後でこれを言えばよかったというようなことがないように、御発言をいただきたいと思います。
 小早川委員からお願いしたいと思いますが、よろしゅうございますか。

【小早川委員】 私も行政訴訟の研究はずっと続けてきたのですけれども、今、座長がおっしゃいましたように、40年ぶりの、でき上がった改正もさることながら、やはり制度のどこが問題で、何が欠けているかということをかなり大規模に見直した、大規模な見直しを40年ぶりにやったということ自体が非常に意味があると思います。もう少し改正につなげたかったなというところもなくはございませんけれども、とにかく大見直しの議論をやったと。かなりいろいろな角度からの意見を突き合わせて、論点がはっきりしたというだけでも大いに意味があるという部分もかなりあると存じます。
 それで、一委員として参加させていただきましたけれども、この検討会の進め方について、やはり非常に印象が強いというものがございます。一言で言えば、理論倒れにならないで、実際的観点を堅持したということだと思います。これは、私ではなくて、若い方が言っているのを聞いたことがあるのですが、とにかく議論の進め方を見ていて、そのときはたしか座長の運営の仕方がすごいというふうに聞いたのですが、座長だけなのか、それとも事務局と手を組んでなのか、そこはわかりませんが、ともすれば、理屈っぽい議論をしたくなって、やり始めるとぴしゃっと叩かれまして、もう少し実際的観点に戻れということを何度も言われたことがありますが、そこは本当に私も運営はすごいと思いました。せっかくそういうプロセスを経てでき上がった改正ですので、その趣旨を生かして、とにかく実務に携わる方々に積極的に改正を活用していただき、その実践を通して改正の意味を更に明らかにし、かつ育てていくということをお願いしたいと存じます。研究者の立場からしますと、ここですぐに理論的にこうだというふうな縛りをかけてしまうのは、それをやり過ぎると御趣旨に反すると思いますけれども、とにかく柔軟闊達な実務の展開を見ながら、おいおい理論的な整理を後づけしていきたいというふうに思っている次第であります。これまで行政訴訟の研究をしてきたのですけれども、そもそも前回の昭和37年の改正のときの議論から、その後の行政法学の議論も、今から考えますと、どういう比喩がいいのか、何かすばらしいテーマパークを設計して、いろいろ全体の構想も細かいところも考えてつくって議論しているのだけれども、なぜかお客が来ないと。それで、つくったところも使い勝手がいいのか、悪いのか、それはわからないというところもあったかと思います。今後は、是非、今回の利用者本位で考えた改正が成果を上げて、利用者がどんどん増えて、その結果利用する側からの感覚と、それから研究者としての感覚等をうまく突き合わせて、それぞれの立場で対応していくというような状況が出てくることを切に期待するという次第でございます。

【芝池委員】 今、小早川委員もおっしゃいましたけれども、42年ぶりの大改正でありまして、そういう意味では、感慨深いものがあります。改正法の附則で、5年経過後の見直しが定められておりますので、次の改正は、今度は40年後ではなくて、もっと早く行われることになるだろうと思っております。今回の改正法につきましては、1つはどういうふうな評価を学界なり実務界において受けているかということが気になるところであります。今まで出ております論文などを見ますと、行政法の学界の皆さんは非常に心優しいと言いますか、例外もおられますけれども、優しい方が多いわけでありまして、そう厳しい批判にはさらされていないと受け取っております。全体としましては、今の議論というのは、急速に新しい法律の解釈論に傾斜しているというような印象があります。ただ、今後、いつ改正の問題が出てきても対応できる準備が学界においても必要であろうと感じております。
 2つ目の点として、私自身が今回の改革にどの程度貢献できたかという問題があります。一種の自己評価でありますが、幾つか提案したことは採用していただいたように思っておりますが、ただ、それが十分な理論的な準備をした上での提案であったかというと、必ずしもそうではないわけであります。先ほどの小早川委員のおっしゃったことと、ちょっと違うのですが、山村恒年弁護士が、民商法雑誌におきまして、この検討会での議論につきまして、ドグマティックであったとおっしゃっておられるのです。これはどういうことだろうと、いろいろ考えたのですが、要するに実証的ではなかったということだろうと思うのです。立法論において、実証性をどうやって確保するかというのは非常に難しい問題でありまして、恐らく、塩野座長は、実証性を確保するために、外国法研究をされたのだろうと思いますけれども、いずれにしても実証性を確保するというのは非常に難しいわけでありまして、その点で、先ほどの山村弁護士の御意見には耳を傾けるべきところがあるだろうと思っております。確かに、従来の学会の研究を見ましても、あまり今回の改革に役立つものはなかったと言うと語弊があるのですが、少なかったように思います。私自身は、実務上役に立たない研究も重要であるという立場を取るものですけれども、ただ、研究のレベルの如何によりましては、やはり実務に使えるだけの緻密さを持った研究が必要でありまして、その点、私自身大いに反省をするところがあります。
 それから、今度の改正法の中身でありますが、改めて条文を読んでみますと、やはり解釈適用が非常に難しいところがあります。例えば、原告適格の定め方1つを見ても、これはなかなか難しいです。こういうものができたのかという、一種忸怩たる思いがあるのですけれども、しかし、立法する場合には、やはりああいう形にならざるを得ないのではないかという気もしております。実務家の皆さん、特に裁判官の方は、改正法の解釈適用に当たりましては苦労されると思いますけれども、そういう中で、制度がますます発展していくことを願っている次第であります。今回、改正されなかったけれども、非常に重要だという問題が幾つか残っております。例えば、内閣総理大臣の異議もそうでありまして、それから仮の救済で言いますと、行政事件訴訟法44条の問題も残っております。そういう点も今後の改正においては取り上げられることになるだろう、あるいはなってほしいと思っております。それから、法律の改正の在り方でありますが、今回は、やはり2年という非常に限られた時間でありまして、その意味では、個人的には不完全燃焼という気持ちもありますし、でき上がったものがどこまで、大げさに言いますと、歴史の審判に耐えるものかどうかという問題もあります。法務省の方もおられますので、申し上げたいのですが、やはり改正はもう少しゆっくり時間をかけてやっていただきたいと思います。そういう感想を持ちました。
 あと、笑い話でありますが、私の今の個人的な関心は、自分の教科書をどういうふうに書き直すかということでありまして、これも非常に難しいなと感じております。以上でございます。

【芝原委員】私も今回こういう形で参加させていただきましたけれども、当初の目的でありました国民に開かれた、分かりやすくて使いやすい、あるいは利用しやすいシステム、法令になったかということについて、できたばかりのものがどういう評価になるかというのは非常に難しいと思いますけれども、実際的には、使い込む中でそういう評価がなされるのだろうと思います。そういう意味で、40年に一度のペースで見直すというのではなくて、例えば1年ごとに学識者の方々とか、あるいは日弁連の方々が年次的に実際の立法趣旨に合った運用ができているか、あるいは実態運用としてどうなったか等について、毎年チェックしながら積み重ねていくことにより、次の改正をするときに、非常に実務的に積み上がった議論が具体的にできるのではないかと思います。そういうことを行うことが、残された課題のどこかに入っていたかと思いますが、PDCA的やり方ということでございまして、是非、司法の世界にもそういう仕組みが入ればいいのではなかろうかというふうに思っております。そういうことにより、法をつくった後、いかに魂を入れるかということが実際的にはできるのではなかろうかというふうに思っております。なおかつ、果たして行政事件訴訟法だけで、行政を牽制しながら本当に国民にとって役に立つ権利利益の救済システムになるかというと、多分難しいのではなかろうかと思っています。是非、情報公開法とか、行政手続法とか、そういうものとの一体的な運用の中で、より実を上げていくという、もう少し広い視野の司法の使い方、あるいは実運用されているシステムの中で実行していただければありがたいというふうに思っております。
 あと個人的なレベルでの感想は、最初から最後まで、ほとんどの資料が文章ばかりで、私としてはちょっと違った資料のつくられ方で、なかなか大変だったというのが実感でございます。もう少し絵解きをした図とか、最後の団体訴訟のところでは、塩野先生がおっしゃるポンチ絵がございますが、一般の国民の人は、なかなか法令文書的なスタイルで全て説明されると、多分最後まで読み切れないです。そういう意味では、もう少し国民に分かりやすい図解・絵解きをしたような図があって初めて理解できると思いますし、絵解きをして初めて文章で、論理的には直列的につながっていましても、立体的にみれば、どこに穴があるかということが、図を書いて見て初めて分かるというのもありますので、是非そういう感覚も、これからは取り入れて欲しいというのが、私の感想でございます。以上でございます。

【成川委員】 行政事件訴訟法の検討会に参加する時点では、私自身、ほとんど中身について、これまで考えたこともない形で参加をさせていただきました。そういう意味で、それぞれの検討会、それぞれのところで一歩一歩勉強しながら、自分なりの判断で、皆さんの議論を聞かせていただき、感想など若干述べるというふうな参加になりました。私の感想としては、これは当然国民の権利、あるいは国民と行政の関係、司法の関係が、ここで論じられたということだと思うのですが、当事者としては、これまで大変苦労したところで判例などを見させていただいて、その中での問題点なども私も事実認識をしたわけであります。そういう意味で、この改正が、先ほど先生方からもありましたけれども、本当に国民にとって利用しやすい形になったのかどうか、本当に国民が自分の権利擁護なり、あるいはおかしいではないかと考えた形で、訴訟に持ち込んだことの中で、納得がいくような手段や、あるいは審理ができるような状態になったのかどうか。私自身の力が及ばず、そこまでチェックできないのですが、是非そういう形で今回の改正が生かされてほしいと思っています。ほとんど知らない者が、こういう審議会に最初から入るというのは、いいことかどうか、私自身あまり役に立たなかったかなという感じもあるのですが、やはり専門家だけでなしに、何らかの国民という中で生活している人が、法律、行政、あるいは司法への思いを是非言うような、そういう適切な方を今後の検討会においても、是非参加させていただきたいと、最後に感想を述べさせていただきました。以上です。

【萩原委員】 私もこの検討委員会の委員ということで、お話がありましたときに、本当にどうしようかなと一瞬思ったのですが、とにかく違った分野の話もちょっと聞いてみようかなと、ある意味では非常に気楽なつもりで参加いたしましたが、まず、第1回目に、ここでいろいろ飛び交った言葉が、ほとんど今まで聞いたことがないような言葉で、非常に戸惑ったということを覚えております。そういうこともありまして、少し法律の勉強もしなければということで、塩野先生の本も3冊揃えたりいたしましたが、もう31回にもなったということに驚いてもいるのですけれども、初めの方に、友人といいますか、法曹関係の友人ですけれども、恐らく私が委員になったということは、そんな専門的なことを要求されているのではなくて、一国民という立場での意見を求められているのだろうと思って議論についていけばいいのではないかというふうに、慰めかと思うのですけれども、そういうふうに言われまして、ある意味では開き直ってきたわけです。法律の専門的なことについては、なかなか難しくて分からないのですけれども、ただ、私自身が研究している分野と結び付けたときに、例えば原告適格の問題とか、団体訴訟の問題とか、行政計画とか、その辺りのところが非常に関係するところも多く、特に原告適格をどういう範囲にするかとか、あるいは団体訴訟について、団体をどういうふうにするかというところは、私自身の今やっています、便益がどの範囲に及ぶのかとか、あるいは公共事業でどういう被害を受けるとか、そういういろいろ影響の評価をする、あるいは環境の評価をするときの評価をする範囲をどうしたらいいのかということが、やはり私どもの研究の分野でも非常に大きな問題で、非常に安易な場合には、ある河川で、例えば、こういう便益が発生したと。それを数年前の初期の研究ですけれども、例えば北海道の河川であったら、北海道の人口を全部かけてしまって、こんなにすごい金額が出たよという話をしてみたり、あるいは極端に言うと、日本全国の人口をかけてしまうというような、そうすれば、幾らでも億でも兆でも金額は大きくなるというような形で、その評価額を出してしまうと。そんなときに、そんなに幾らなんでも広げ過ぎじゃないかと。だけど、どこまでなんだと言ったときに、やはり同じように法律の分野で議論されているような、文言とか、そういうことは違いますけれども、やはり同じような問題があるということで、私自身は、違う角度から、そういう意味で勉強させていただいたということになります。
 曲がり何にも何とか改正が実現しまして、その後の検討会でも、これからもいろいろ検討を進めるべきだということが議論されてきたのですけれども、願わくば、法律はでき上がりましたので、それは目に触れることもあるのでしょうが、その過程で議論されたこと、それからその後で、いろいろこの検討会で議論されたことが、多くの人に触れるように、それがやはり力があると言いますか、これからいろいろ実務とか、法曹界などで、実際にいろいろ運用をしていくというような形の人々に、特に目に触れるような形で、何らかの文書でも、今はいろいろな媒体がございますけれども、そういうものを使って周知せしめていただきたいなと思っております。結果として、多くの国民が救われるような、そういう法律であってほしいし、また、そういう日本であってほしいなというふうに思っております。以上でございます。

【福井委員】この勉強会で大変勉強させていただいたと思います。元々私は大学で、塩野先生の授業を、数えましたら10単位分いただいたことがございました。ゼミはたまたま芦部先生の憲法だったのですが、塩野先生が、憲法は価値を価値として追及する学問だけれども、行政法はその価値の実現の技術に関する法であるという非常にクリアーな整理をされていたのが、印象的です。当時、行政法が実定法の中でも最も好きな科目であったと、塩野先生のお陰ですが、考えております。たまたま私は、その直後、学部を卒業してすぐの81年に建設省に入りまして、土地収用を担当することになったものですから、そこで、事業認定、審査請求裁決、処分の取消訴訟や国家賠償訴訟の被告代理人、行政代執行の実施等、かなり行政法周りとぴったり一致する仕事をたまたまやることになりました。塩野行政法理論を実践する仕事を経験できたことも印象深いことでした。そのときに、つい勘違いしたのは、大学で学んだことは社会で役に立たないとよく言われるけれども、全く嘘である、そのまま役に立ったという印象を持ってしまったことです。実はその後異動したところでは、あまり関係がないことが多かったのですけれども、少なくとも行政法周りのことをやると、塩野先生が整理された体系というのは、大変有益であったという強い印象があります。当時は、まだ先生が教科書を出版されておられず、自分でとった万年筆のノート10冊ぐらいが職場の座右の書で、行政法は有益だと、行政官としても思ったわけです。特に、訴訟の準備書面を書くときに、大変威力を発揮しました。当時は田中二郎先生のものは公務員試験のときには必携だけれども、実務では余り役に立たないと言われておりまして、塩野先生のノートが、私のみならず、こういう仕事をする人にとっては、一種の必読書でした。私のノートも随分コピーして、何人もの関係者にお渡ししたりしたことが、著作権の問題があるかもしれませんが、ありました。塩野先生のノートの再構成をすると、そのまま法務省訟務検事にも準備書面としてOKだと受け入れていただけることがほとんどで、しかも、それが最終準備書面などになりますと、ほとんど判決にそのまま結実するという形で、面白いように全戦全勝するという職業体験をさせていただきました。その後、87年からしばらく、長良川水害訴訟の控訴審で、一審で国が負けていたのを、ちょうど完全に引っくり返すときの最終準備書面を書いたりしましたし、輪中堤の文化財的価値の最高裁判決の国の代理人もやりましたが、私の関わった時代のものはすべて勝訴しました。ちなみに、このときの名古屋法務局の京都大学出身の訟務検事に、お前の持っているもののもう少しきれいなものがほしいと言われ、東京出張のついでに、東大出版会の教材部に塩野先生の講義ノートを買いに行ってプレゼントしたという思い出もあります。
 その後、96年から大学で行政法を担当しておりますけれども、勿論行政法の理論、塩野先生の理論の完璧さは当然ですけれども、行政でない第三者の立場に身を置くと、やはり行政が非常に強いことについて、内心忸怩たる思いを持つようになりました。その根っこは行政事件訴訟法だということを折に触れ考えるようになりました。行政法による権利配分ないし手続的な合理性について、私人と行政との間の権利調整を、いかに効率的で国民の便宜にかなうようにやるかという問題意識からすると、今の行政事件訴訟法には、まだ使い勝手がよくない点があるという問題意識を持つに至りました。検討会で、節目の改正作業にコミットしたことは、有意義で、かねてより考えていたことについて、意見を言い、また取り入れていただいたりということで、私としても感無量のものがあります。委員各位、事務局含めて学ばせていただいたのですけれども、特に、いろいろな課題が明らかになったことが結果として面白かったと思います。若干申し上げると、原告適格と処分性が意外に連続していることですとか、民事の差止めの基準や受忍限度の考え方が、意外に行政法の一部領域と連続していることです。気がつくことも多くて勉強になったと思っています。
 私事にわたりますが、共著の改正行訴法の注釈書をちょうど脱稿したばかりでして、その中にここでの議論で得させていただいた内容を随分盛り込ませていただきました。恐らく実用性の観点での議論を、考え得る限り網羅しており、その中ではいろいろ改正法の中身について、立案の段階では気が付かなかったような、重要な論点、有益な論点を提示できたと思っています。大変有益な経験ができましたが、塩野先生始めに感謝申し上げております。

【藤井委員】 感想というのも、ちょっとおこがましいのですが、多分期待されているのは2点ぐらいかなということで、2点について触れさせていただきたいと思います。
 1つは、当検討会の検討の成果ということで、非常に重要な行政事件訴訟法の改正というのが行われたのですが、これは一般に言われていますように、制度というのは、つくれば終わりということではなく、むしろやはり運用が趣旨に沿ってなされて定着していくかということが一番大事なことかと思っております。当然、この検討会に参加させていただいたという栄誉を受けた一員としては、やはり運用状況というものを注視していきたいと思いますし、あとどういう御協力の仕方があるのか分かりませんけれども、何らか制度の趣旨が徹底されるように、協力できることがあれば、やはり協力していくべきだと考えております。
 第2点目は、「行政訴訟検討会における主な検討事項」の関係でございますが、こういう問題について、この検討会で議論なされて、深められて、公式の文書として残されるということ、それ自体が非常に重要な意義があることだろうと思っております。私ども、行政手続法、行政不服審査法等を所管しているのですが、今後いろいろな場面で調査研究なり、検討なりする機会があろうかと思いますけれども、その際には、是非参考にさせていただきたいと思っております。以上でございます。

【水野委員】この検討会は、今日で最終ということでございますので、今後に残された課題を私なりに整理しておくのが有益ではないかと思いまして、今日、お手元に「今後に残された行政訴訟等の改革の主な課題」というペーパーを配布させていただきました。これについて若干お話をさせていただきたいと思いますが、まず、第1には、行政事件訴訟法の改正の積み残しの課題がございます。これについては、6つの項目に分けて整理いたしました。
 まず第1は、「行政訴訟制度のあり方について」という根本的な議論であります。1つは「行政訴訟の目的について」であります。「民事訴訟とは別に行政訴訟がなぜ必要なのかについて検討し、行政の適法性の確保という行政訴訟の目的を独立のものとすること、10条1項(自己の法律上の利益に関係のない違法主張の制限)を削除すること、民事訴訟との関係を整理し明確なものとすること等について更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。民事訴訟とは別に行政訴訟、これは勿論抗告訴訟ないし当事者訴訟を言うわけでありますけれども、それが必要なのかどうかということについて検討するというところから出発すべきだろう。これは、当初のころに、宇賀東大教授が参考人として出られて、そういう御指摘をいただきましたけれども、議論はやはりそこから出発して、行政の適法性の確保という行政訴訟の目的をどう考えるのかといった根本的な議論を改めてもう一遍し直すべきではないかというのが、1つであります。それから、「行政訴訟の訴訟形式について」であります。「形成訴訟である取消訴訟に代えて、行政決定ないし行政上の意思決定の違法を確認し違法を是正(違法行為の除去、原状回復、作為の義務付けなど)することを目的とする訴訟類型を新設し、裁判所が判決で必要な是正措置を命ずるものとする是正訴訟を導入すること及びその方法等について更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。これにつきましては、今回の改正で義務付け訴訟その他の新しい訴訟形式が明文化されたわけでありますけれども、やはり、形成訴訟である取消訴訟というのがまだ残っているわけでありまして、取消訴訟を形成訴訟として残す必要があるのかどうか。仮に残すとすれば、行政処分一般ではなくて、特に必要のあるものだけを明文の規定で残していくということも検討すべきではないか、そういった辺りの訴訟形式についても、なお検討していく必要があるのではないかと考えております。
 2番目は「訴訟を提起し易くするための方策について」ということでございます。1つは、「訴え提起の手数料の合理化」の問題。「行政訴訟につき一律に少額の定額手数料を定めるとすることや、複数の原告が同一の処分等の違法を争う場合に訴額の基礎となる利益が共通である(民事訴訟法第9条第1項ただし書参照)とみなすものとすること等について更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。これは、一律に少額の定額手数料ということを提案していたわけでありますが、そういった点、あるいは、同一の行政処分の違法を争うのに、複数の原告がいる場合に、訴額が合算されるという最高裁判例が出ましたので、かつては行政訴訟の場合には、1個でいいというのが実務の取り扱いだったのでありますけれども、そういった判例が出ておりますから、そういった点についても検討する必要があるだろう。それから、「弁護士費用の片面的敗訴者負担制度の導入」。「行政訴訟について、被告行政側が敗訴した場合にのみ弁護士費用の敗訴者負担を認める片面的敗訴者負担制度を導入することについて更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。これは、例えば住民訴訟では認められているわけでありますけれども、そういったことも検討する必要があるだろう。それから、「法律扶助の拡大」。「行政訴訟に関する現在の法律扶助制度の運用状況を検証した上で、行政訴訟における原・被告間の情報格差、力の格差に鑑みて、国民の司法アクセスを保障すべく、法律扶助を適切に拡大することについて更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。これについても、特に行政訴訟については特段の配慮が必要ではないかということであります。
 3番目は「訴訟要件等について」でございまして、1つは「団体訴訟の導入」。「本検討会の論点整理における議論を参照しつつ、環境保護、消費者保護等の分野で団体訴訟制度を導入することについて更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。これについては、この検討会の終盤にいろいろと詳しく検討いたしました。これも、やはり導入の方向で検討する必要がある。それから、「訴訟対象の拡大」の問題です。「行政立法、行政計画、通達、行政指導等の行政作用のうち、判例により取消訴訟等の対象と認められていないものについて、確認訴訟による救済の可能性及び実際の運用状況等を踏まえ、行政計画、行政立法等の策定手続の整備とあわせて、その争訟手続を別に定めることについて更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。行政立法、行政計画といった問題についても、この検討会の終盤で検討いたしました。これを踏まえて、更に検討を進めていく必要があるだろうと思っているところであります。
 4番目は「本案審理について」ということでございまして、これは非常に重要な点ででありますが、今回の改革では、この点が必ずしも十分ではなかったのではないかと思っております。1つは、「主張立証責任」をどうするのかという問題であります。「行政訴訟においては、国又は公共団体が、その行為が適法であることの主張・立証責任を負う旨を定めること等について、釈明処分の特則や文書提出命令制度等の運用状況を踏まえつつ更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。これは、立証責任についての明文の規定を設けるべきではないかということが1つ。2番目は、「処分等の理由の変更制限」についてです。「処分等の理由の変更制限について、処分の同一性の範囲等についての考え方や義務付け訴訟の運用状況を踏まえつつ更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。これも、一応議論はいたしましたけれども、最終的な結論には至らなかったということで、これも検討課題だろうと思います。それから、非常に大きな検討課題が「30条(裁量の審査)の改正」であります。「行政の裁量に対する裁判所の審査を充実させるため、「裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限り」処分を取り消すことができるとする行訴法30条(裁量処分の取消し)の規定について、合理性の基準、比例原則、代替案の検討等の裁量に関する司法審査の基準を法定することを含め更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。これはかなり議論をしたわけでありますけれども、なかなかまとまらなかったということでありますが、これについては、当然実体法も絡むわけでありますけれども、議論を更に重ねていく必要があるだろう。4番目は、「調査命令制度・開示命令制度(ディスカバリー)の創設」。「裁判所が、原告又は参加人の申立てにより、決定で、被告又は第三者に対し、被告の費用負担において、訴訟の審理に必要な調査をするよう命ずることができる調査命令制度を創設すること、並びに、申立てにより又は職権で、行政庁に対し、その行政決定に際して収集した資料及び審理に必要な資料の一切を裁判所及び原告に開示すべきことを命ずる開示命令制度を創設することについて、新法の施行状況を踏まえつつ更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。これも行政訴訟には特有の制度として設けるべきではないかということでございます。これは、原告たる国民の側と、被告たる行政庁の側とでは、いわゆる情報、あるいは人的、財的資力が全く違うわけでありまして、訴訟の対等、当事者対等ということを実現するためには、こういった制度が必要であるということを検討すべきではないかということであります。
 5番目に「判決について」でありますが、「事情判決」がございます。「事情判決をすべき事案においては、中間判決として処分等の違法を確認したうえで、違法な処分等により生じた損害の無過失賠償を同一の訴訟内で求めることができるものとするなど事情判決制度の改善につき更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。今は事情判決だけで終わっているわけでありますが、事情判決を残すのであれば、やはりそれに伴う損害賠償の手続などを一緒に付けるといった制度も検討する必要があるだろうと思います。それから「和解」についても検討する必要があるだろうと思います。「法令に違反しない限り、訴訟上の和解をすることができるものとし、和解の手続を法定することについて、いわゆる取下的和解の行われている実状等を踏まえて更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。
 6番目の「仮の救済について」でありますが、「内閣総理大臣の異議制度の見直し」。「違憲説もある内閣総理大臣の異議制度については、これを廃止することを含め更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。これについては議論はいたしましたけれども、改正には至らなかった。これはもう一遍議論をし直す必要があるだろうと思いますし、「暫定的執行停止制度」というのも導入の検討をする必要があるだろうと思います。「仮の救済の審理に必要な期間について暫定的な執行停止を認める暫定的執行停止制度を導入すること及びその方法等について更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。
 大きな2番目は、「行政訴訟の運用面等における改革」ということでありまして、「陪参審制度ないし裁判員制度」を行政訴訟にも導入すべきではないかということでございます。「行政訴訟の審理において、国民の健全な社会常識を反映させることにより、より公正で適切な裁判を確保するため、陪参審制度ないし裁判員制度を導入することについて、裁判員制度の実施状況を踏まえつつ更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。行政訴訟は専門的な訴訟だから陪参審というのは馴染まないといった議論もあるわけでありますけれども、行政訴訟は現実にやっている立場からいたしますと、事実認定に関する訴訟が結構多いのです。これは、陪参審にまず馴染むだろう。それから、行政法規の解釈が争点となる訴訟についても、これは専門家だけの解釈ではなくて、一般の健全な国民から見て、この解釈はおかしいのではないかということを言ってもらうということは非常に有益だろうと思うわけでありまして、行政訴訟にこそ、こういった陪参審制度ないしは裁判員制度を導入するということを検討する必要があるだろうと思っております。それから、「裁判所の専門性の確保〜行政裁判所の設置」ということで、行政裁判所の設置についても検討する必要があるだろう。「行政訴訟の専門性と行政訴訟件数の増大傾向に鑑み、行政専門部を設置するほか、行政裁判所の設置を含む裁判所体制の整備について更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。元最高裁判事の園部さんはそういう御意見でありますし、この点も検討課題だと思います。それから、実際上の運用としては、いわゆる「判検交流、指定代理人制度」といったものがございます。「行政訴訟では、行政側に多数の指定代理人がつき、コスト感覚もなく無尽蔵の人的物的リソースが投入されている現状に鑑み、指定代理人制度の基礎にある判事と検事とのいわゆる判検交流を中止すること、及び、指定代理人制度そのものを廃止することについて更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。これについての問題点もありますし、裁判所の「調査官制度」についても、いろいろと問題点があるということでありますので、こういった運用面における改革も必要だということであります。「裁判所の調査官制度の運用状況及びその問題点を踏まえ、これを改善するための方策を更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。
 大きな3番目は「行政訴訟の前提となる行政法規の整備」ということでありまして、これも随分いろいろと議論されてきたわけでありますが、「行政手続法の改正」として、「行政手続法の積み残し課題である行政立法、行政計画、行政調査、行政契約等に関する行政手続法制を整備し、より透明で適正かつ合理的な行政過程を確保するとともに、必要に応じて争訟手続の整備を図ることについて更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。あるいは「国税通則法その他争訟に関する個別行政法規の見直し」があるわけであります。「改正法により出訴期間が延長されたが、たとえば、行政不服申立て前置を温存し不服申立期間を2月又は1月とする国税通則法の規定を改正しなければ、改正法の趣旨は生かされないことに鑑み、国税通則法等の個別行政法における争訟手続に関する規定について総点検し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。例えば、行政訴訟のかなりの部分を占める税務訴訟については、出訴期間は、なるほど6か月に延びた。ところが、異議申立て前置主義でありますから、これは2か月、それから次の審査請求期間は1か月ということになっているわけでありまして、6か月に延びたのは、その後の話なんです。そういったアクションを起こすか、起こさないかで迷うのが納税者でありますから、元のところを広げなかったら6か月に延ばしてもあまり意味がないということにもなるわけでありますので、こういった点の改正も検討する必要があるだろう。それから、「行政実体法の見直し」も当然に必要だと思います。「高度に複雑化し利害が錯綜する今日の社会においては、行政処分等により影響を受ける関係者も多いため、行政はできる限り透明で恣意的な裁量がないよう運営されなければならない。そのため、個別の行政実体法が、そのような要請に応じうるものか否かについて見直しを行い、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。
 大きな4番目が「納税者訴訟の創設」ということであります。「国レベルの財務会計行為を国民が監視し是正するための制度(住民訴訟の国バージョン)として、納税者訴訟を創設することについて更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。これは御議論いただきましたけれども、引き続き検討していく必要があるだろうと思います。
 それから今回の行政訴訟検討会の管轄外になるかもしれませんが、やはり行政訴訟以外の救済制度の整備も、違法な行政の救済という観点からは必要ではないかと。1つは、「行政不服審査法の改正」であります。「個別行政法に規定されている不服申立前置制度を廃止することや、不服申立制度を実効あるものに改革することについて、実際の運用状況を踏まえつつ更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。それから「行政審判庁の創設等」。「わが国で余り利用されていない行政審判の活用について、統一的な行政審判庁を創設することを含めて更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。あるいは、「行政型ADRの整備」も必要だと思っております。「個別法において既に多数存在する行政型ADRについて、その制度運用状況を踏まえて、その充実改善につき更に検討し、法改正を含む所要の措置を講じる必要がある」。更にいろいろと考えていきますと、こういった点を検討していくための恒常的な改革機関が必要ではないのかといった考えに到達したわけであります。これは、「行政法制の恒常的改革機関の設置」ということでございまして、アメリカには、Administrative Conference of the United Statesという合衆国行政会議といったものがあり、そういう役割を果たしていた。これは予算の関係で中断してしまったらしいのですが、神戸大学中川教授のお話によりますと、復活の動きがあるということでありまして、日本でも、やはりこういった点をこれから検討していく必要があるということを、今回の検討会のいろんな議論を通じて痛感したところであります。「複雑高度化した現代の法制度は、不断のメンテナンスを必要としており、行政法制とその運用状況について、常にチェックし改革していくことが必要である。そのため、たとえば、アメリカの「合衆国行政会議(Administrative Conference of the United States)」のような恒常的改革機関を設置することについて検討し、法制定を含む所要の措置を講じる必要がある」。
 今回の改正法については、いろんな意義づけができると思いますが、私は、一言で言って、行政訴訟というのが、そう硬いものではないのだ、いろんな自由な発想で原告が訴え、提起していけばいいのだというメッセージがかなり出せたのではないかと思うのです。我々弁護士の方は、行政訴訟というと、なにか行政処分を探して取消訴訟をやらないといけないみたいな意識が非常に強かったわけでありますけれども、そうではなくて、自由な発想でどんどんとやっていけばいいのだということがメッセージとして出せたのではないか。これが非常に大きな意義だったのではないかと思っています。これから、改正行訴法を活用していくという重要な課題があるわけでありますが、これは勿論裁判所にも大いにやっていただかなければいけませんが、やはり私は、この改正法が有効に働くかどうかの第一次的な責任は、我々弁護士にあると思っているのです。先ほども言いましたように、弁護士の方で勝手に身構えていたというような過去のことは清算しまして、新しい行訴法の下では、柔軟な発想でどんどんと訴訟提起をしていく。これが弁護士に求められているのではなかろうかと思っておりまして、日弁連でも行政訴訟センターというのを設けて、行政の専門的な弁護士を育成していこうという気運が盛り上がっておりますので、是非そういう方向で活用していきたいと考えます。今回の改革が、行政事件訴訟の改正ということで実ったわけでありますが、御案内のように、検討会の意見書では、行政訴訟の改革の検討に着手しろということしか書いてなくて、他の改革課題は全部大体書いてあったわけでありますけれども、行政訴訟については、その程度の記載しかなかった中で、この2年余りの議論で、具体的な改革として結実したことを、私としては、大変良かったと思っている次第です。これは塩野座長を始め、各検討会の委員の方々の御尽力があったわけでありますし、山崎局長を始め、推進本部の事務局の方々、とりわけ行政訴訟を担当された小林参事官、村田企画官、山崎参事官補佐、吉田主査という事務局の方々の御尽力もあったと思います。いろいろと難しいことも申し上げましたけれども、改めて心から感謝を申し上げたい。外国法を担当していただきました3人の先生方にも心からお礼を申し上げたいと思います。

【深山委員】 私は、行政事件訴訟法の所管をしている法務省の民事局にいるということで、おそらくこの検討会のメンバーに選ばれたのだろうと思っておりました。ただ、私自身は、裁判官時代に行政訴訟を少し担当したこともありまして、その当時から我が国では行政訴訟が非常に少ないと感じておりました。それはなぜなのかということについて書かれた文献等もいろいろあって、読んでみても、どれもそうかなという感じでよく分からないところもあったのですけれども、少なくとも1つの理由が行政事件訴訟制度の問題、すなわち、国民からみて行政訴訟にアクセスしにくい、あるいは使い勝手が悪いというようなことにあるのではないかと考えておりました。もっとも、行政訴訟が少ないのは我が国の国民性による、という意見もあるぐらいですから、それがどれほど決定的要因なのかは分からないのですけれども、何がしかそういうことがあるのではないかという気がしておりました。この間、検討会での2年半余りの議論を振り返ってみますと、最初は正直言ってどういうことになるのかなと思いまして、先ほどの水野委員のお話の中でもありましたけれども、司法制度改革審議会意見書の中で、行政訴訟について書かれていることは極めて僅かで、しかも、私は、審議会の時代から、法務省の担当ということで関与していましたが、その当時、審議会の関係者の間では、行政訴訟の見直しは、議論はするだろうけれども法改正ということにはならない可能性もあるのではないかということすら言われていた状況でした。先ほど水野委員からそれに関するお話を伺って、確かにそのとおりだったと思いますし、検討会が始まったときも一体どういう形で結実するのかということを、自分でもよく分からない状態で議論に参加させていただいたわけです。その過程では、本当にどうなってしまうのか、まとまるのだろうかとか、あるいは逆にこういうまとめ方で本当にいいのだろうかというようなことを個人的に思った時期もありまして、事務局に資料のつくり方について苦言を呈したこともありました。ただ、その後、塩野座長の議論をとりまとめる手腕というもの、専らそれによっているような気がしますが、最後は、やはり全体で意見が一致を見ることができるところを手際よくまとめていくということになりまして、事務局もそれに沿う形で、非常に資料なども整備されていって、結果としてできたもの、すなわち「行政訴訟制度の見直しのための考え方」、そしてこれらをたたき台とした行政事件訴訟法の改正法自体は、私個人的にはこの時間内にできたものとしては、ほぼ最高の成果ではないかと考えております。ちなみに、改正法成立後、この検討会で2〜3回議論した問題というのは、やはり取りまとめを見ても、それではあと2、3か月の時間があれば法案に取り込めたかというと、そういう類いのものではなくて、もう少し時間をかけなければ成案が到底得られないというような課題であったということが判明したような気がしますし、そういう意味では、2年半ぐらいの間に法制度化できる改正事項というのは、考えられるところはほぼ拾い上げることができたのではないか、そして、私が議論の途中段階で抱いていた思いというのは、本当に杞憂にすぎなかったということで、非常によかったと思っています。改正の中身についても、皆さん言われているとおりですが、私は、理論上も重要な原告適格、訴えの類型論の大きな改正以外にも、実務上は非常に大きな影響があると思われる改正、すなわち、行政訴訟へのアクセスの容易化につながるような、管轄の拡大であるとか、被告適格者の見直しであるとか、教示の制度の新設であるとか、こういうものも非常に重要だと思っています。先ほど水野委員も言われていましたが、裁判官あるいは弁護士も、行政訴訟と民事訴訟との違いは大きいという観念がありまして、弁護士の側からも裁判官の側からも行政訴訟を何となく、毛嫌いとまで言いませんが、ちょっと異質なものとして遠ざけがちであるということがありました。こうした実務家の心情は、制度的に言えば、やはり民事訴訟とは違って被告適格者が原則処分庁であるとか、管轄について極めて大きな例外があるとか、こういうところに原因があったような気がします。したがって、こういうアクセスの容易化につながる改正が実務に与えるインパクト、すなわち、一般の民事訴訟との距離が極めて近くなるというインパクトは非常に大きいのではないかと思います。この制度ができた後のことですが、先ほど芝池委員のお話の中でもありましたが、この法律の附則の最後に検討条項がありまして、「施行後五年を経過した場合において、新法の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」とされています。これは、立法府から政府の側に課されている宿題だと思っております。この法律を所管することになる法務省としても、当然そのつもりで今後5年間の運用を見守っていくことになりますし、今回の改正法が最終的にどういう評価を受けるかは、3年、5年といった単位で、この制度が運用された後、行政事件訴訟の姿がどう変わっているかということにかかっているのだろうと思います。私個人的には、ここまでいろんな手当をした以上、今までよりもずっと多くの利用件数が見られるようになってほしいと思いますが、いずれにせよ、法務省としても、5年後には何らかの検討を考えなければいけないと思っております。

【市村委員】 私も30回を超える議論に参加させていただきまして、いろいろなことを教えていただきました。普段、法壇の上から当事者の議論というのを見ていますと、それぞれ自分の立場から見た世界というのを語っているわけで、原告と被告の違う立場から見たものを突き合わせていくというところに真実を発見する優れた妙味、あるいはそういうふうに仕組んだ制度としてのミソがあるのかなというふうに感じております。自分がこうした議論の中の意見を言う一人として参加させていただいて、実に様々な考えがある、立場が違うとこれほどに見方が違うということがあるのかなということもいろいろ感じることができました。私は、先ほどもどなたかがおっしゃられましたが、この検討会は仮に1条の条文ができなくとも、30回ものこれだけの議論をしたということ自体がこれから非常に大きな成果を生んでくるのではないかと思っていました。踏み固められた畑が40年ぶりに鍬を入れてさんざん耕されたということが、間違いなくあったと思います。そういう中から実りが出てくるだろうという気はしております。ですから、今回の中で、立案化されなかった部分についても、今後に残るものがあるのではないか、今後のいろいろなものが、ここから芽を出してくるのではないかなと、そういう気がしております。しかしながら、それだけではなくて、幸いにして現実に意見が一致したかなり重要な部分について法案化することができたということは、大変意義があったと思います。それは、決して小さなことではなくて、原告適格の解釈の規定、あるいは新しい訴訟類型、釈明処分の特則など、そうしたものも入りましたし、被告適格を変えたというのも、実務家からすれば非常に大きいことだと思います。これらの改正は、実務的に見て、変えたということだけで、いずれも非常に大きな影響を与えるものだというふうに思います。ただ、もう一面、先ほど芝原委員も御指摘になられましたけれども、1つの同じ楽譜を演奏しましても、演奏家によって全く違った曲に聴こえるように、これらの改正点を、どういうふうにして、本来の課題である国民の権利救済にとって実効性のある制度となるように運用していくかということは、まさにこれからの実務の使い方そのものにかかっているのだろうという気がします。そうした意味で、これから私の方は現場に戻って、こうした仕事をやるということで、何か仕事が終わったのではなくて、さあこれから仕事が始まるぞという気になっております。本当に3年間いろいろとお教えをいただきまして、ありがとうございました。

【塩野座長】 どうもありがとうございました。ひと当たり御感想を承りましたが、他の人が聞いていると、もう一言言いたいというようなことがあれば、まだ時間も多少ありますので承ることはやぶさかではございませんが、いかがでしょうか。

【水野委員】 行政事件訴訟法の改正に結実したのは、1つは行政訴訟検討会というのが設けられたということが大きかったと思います。これは、非常に手前みそなんですが、日弁連がかなり強力に要求しましてつくったものであるということを一言申し上げておきたい。
 もう一つは、先ほどもちょっと言おうと思っていて忘れてしまったのですけれども、私も今回の改革で、いろいろな重要な改革はたくさんあると思っていますが、被告適格の改革というのは非常に大きいと思っているのです。これは、とりわけ我々弁護士の立場からしますと、非常に大きな改革ではなかったのかと思っているところです。ここら辺りがちょっと学者の先生と実務家との温度差があるところだと思うのですけれども、私はその点は非常に大きな改革だったと思っています。

【塩野座長】 どうもありがとうございました。いろいろな思い出話等は、また別にいろんな機会があろうかと思いますので、そのときに改めて伺うといたしまして、最後に私の方から座長を務めさせていただきまして、一言だけ御挨拶させていただきます。個人的には、いろいろな思い出がございます。特に、先ほど来話題になっております被告適格につきましては、割合簡単にと言いますか、あまり議論をしないで、こうなってしまったことにつきまして、美濃部先生の書物、あるいは前の行政事件訴訟法改正案の検討の経過、それから学者のドイツ法の紹介等々を読んだりしておりまして、私は一番最初に、美濃部、田中、雄川先生に報告をする年齢になっていると思いますけれども、天国に行って報告したときに、これを何て説明したらいいのか、自分なりに被告適格の在り方を考えながら解釈論をもう一度自分でも展開していかなければならないというふうに思っております。ただ、座長として、そういった個人的な感想を述べる場でもないと思いますし、また、ここはやり残したとか、ここは突っ込みが足りなかったなどということは、皆様の検討の賜物でございますので、申すわけにはまいりません。そういう意味で、私といたしましては、せっかくの皆様の検討の成果が、特に法曹関係、裁判所、弁護士、更には行政の訟務担当の皆様方に十分理解をしていただいて活用していただくということを皆様とともに期待をしたいというふうに存じております。ただ、個人的には、これから解釈論ではいろいろなことを申し上げたいと思っておりまして、今日の御発言も、また、今まで検討でいろいろな角度で御発言していただいたいろいろな御意見を踏まえながら、私なりの個人的な解釈論は展開させていただきたいと思っております。それはともかく、この検討会というのは、本当に、変というと語弊があるのですけれども、組織規定がないのです。それから、先ほど既にお話がございましたけれども、司法制度改革審議会意見書の中では、指摘はしておいていただいておりまして、大きな方向性は十分明らかになっていたところでありますけれども、具体的にどうこうということは、いろんな御考慮の結果、ああいうふうにしていただいたのではないかというふうに私は思っておりますけれども、非常に大まかなところがございました。それから、よく聞いてみると、検討会を諮問事項に答えるべく検討して、報告書を出すものではないという御託宣が山崎局長からございまして、これまたびっくり仰天をいたしました。そうすると、座長は一体何をするのかと、本当に手探りの状況でございました。それから、もう一つ大事なことを忘れていましたが、委員構成については、本当にいろいろな背景をお持ちの委員がお集まりいただいたということで、通常の審議会的なものとは大変様変わりのものでございました。そこはやはり日本人だなというふうに思いましたのは、それぞれの役割分担というものを十分御認識いただいて、会議に参加していただいたということでございます。本当にそれぞれの背景を控えた御発言をいただきまして、私も随分勉強をさせていただいた次第でございます。それから、先ほど水野委員もちょっと言及されましたけれども、外国法制研究の方は、ちょうど勉強のときだからいいではないかということで、私は無理にお願いしたこともございますけれども、大変時間を割いていただきまして、ありがとうございました。先ほど、なかなかいいことを言っていただいたわけですけれども、やはり実証性を与える。つまり、世間的な相場感というものがどうなのかということについては、どうも我々は余り気にしないで、日本の行政訴訟を検討してきたわけですけれども、個別の外国法研究は勿論ございましたけれども、全体としてみて日本の行政訴訟制度は一体どの変に位置づけられるのかということについての相場感を形成していただきたいということで、若手の方にお願いをいたしまして、本当にありがたく感じているところでございます。勿論、その間、事務局には大変お世話になりました。行政事件訴訟法改正のときには、白石、杉本という実務家のまさに下支えの下に行政事件訴訟法改正が成り立ったわけでございますけれども、それと同じような役割を山崎局長以下、とりわけ小林参事官、村田企画官に担っていただいたということで、改めて御礼を申し上げる次第でございます。
 それから、もう一つ、私が常々気になったのは、傍聴の方がおられるのです。出席率がいい傍聴者がおられまして、大変感謝しているところでございますけれども、御発言の機会を与えず大変申し訳ないとは思っておりましたけれども、それなりに風圧は感じておりました。そういうわけで、私としては、大変幸せな座長であったというふうに、皆様方に御礼を申し上げたい次第でございます。どうもありがとうございました。
 それでは、事務局長に一言お願いいたしましょう。

【山崎事務局長】 塩野座長を始め、委員の方々、それから外国法の研究をしていただいた先生方、本当にありがとうございました。もう31回もやったということでございまして、本当に御熱心な御討議をありがとうございます。その間、結構ハードスケジュールで、毎回毎回大変分厚い書類がお手元にありまして、先ほど芝原委員の方から読むのも大変だと、そのとおりだろうと思います。本当にそれに耐えていただきまして、ありがとうございました。これは、やはり反省が残りまして、政治の世界では、なるべくポンチ絵をカラーコピーでやるようにはしているのですけれども、この行政事件訴訟法の関係は、どうも絵にならないところがありまして、今後の工夫を考えたいというふうに思っております。
 この検討会は、思い起こすと、先ほど水野委員、それから深山委員からも御指摘がございましたけれども、この意見書の中で、際立って違うところがございまして、意見書で他のところは、こういう項目についてこの方向でということがある程度示されているわけでございますけれども、この行政事件訴訟関係では、ほとんど抽象的な文言が並んでいるだけということでございました。この中で検討するということは、実に大変な話でございました。まず、この検討会が立ち上がったのが平成14年2月、その前に塩野先生ともお話ししているのですけれども、本当にそのときに成果品が出るのかという議論もしております。しかし、何が成果品というのは、まだ頭の中になかったわけでございまして、何かあるだろうと、とにかくやってみようというのが正しいところでございまして、本当に走りながら考えようというところがあったと思います。そういう意味で、本当に大変な検討会であったということでございます。それと、これだけの改正を、考えると実質2年ないのです。それで行ったということは、また驚異的なことだろう。それだけ皆様方のお力添えがあったということだろうと思います。私、この20年間、大部分の仕事が改革に絡んでおりますので、自分のことを改革屋と言っているのですけれども、壊してはつくり、壊してはつくりとやっているのですけれども、ただ壊すにも、やはり仕込みが必要なんです。仕込みをある程度やってから壊しにかからないといけないのですけれども、とにかく仕込みと案をつくるのが一緒になったわけでございますので、これは大変な作業でございます。それで事柄が非常に重要で重い話でございます。それをとにかく法改正に結び付けたということは、私は大変大きな意義があるだろうというふうに思っております。
 もう一つは、司法界全体に言えることでございますけれども、ため過ぎなんです。物事が起こって、全然改正をしないまま、たまって、たまって最後に来るのです。今回の司法制度改革全体ですね、50年ぶりと言われていますけれども、50年ものをためると、今の時代のスピードの中で、本当に許されることかどうかということも反省しなければならない。国会筋でもいろいろ言っています。私どもの改革はよくやっているというふうには評価していただいておりますけれども、物事をため過ぎだと、10年に一遍ぐらい見直すような、今後はそういうようなシステムにしていかなければいけないということを再三言われております。まさに、そういう点が残るわけでございまして、ただ、これで一回経験をいたしましたので、今後は改革に弾みが付きますから、やはりあるエポックが来たら、きちんと見直すということが必要かなというふうに感じているところでございます。
 いずれにしましても、普通であれば、法律改正が終わって、御報告申し上げれば、普通は検討会が終わりなんですけれども、その後も将来に向けた議論をいただきまして、これはまた我々の方できちんとしたものをつくりますので、将来に残るものをつくることができるということで、大変良かったというふうに思っているわけであります。今後は、先ほどから皆様方の方から話が出ておりますけれども、まさに仏に魂をどうやって入れるかという問題でございまして、これは裁判所の問題でもあれ、弁護士の問題でもあれ、行政庁の問題でもある、この三者が努力をせざるを得ないということでございまして、私も改革の趣旨を大いに進めていただくことを期待したいというふうに思います。残り、ちょうどほぼ1か月で、私どもの本部を終わることになります。まだ、この国会には法案が3本かかっておりまして、まだ、法案の審議は始まっておりません。残された期間は非常に短いわけでありますが、我々として、最後全力で仕事をきちんと終わらせたいと考えております。また、いろいろな形で御支援を賜わればというふうに思っております。どうも本当に長い間ありがとうございました。御苦労様でございました。

【塩野座長】 どうもありがとうございました。それでは本日は閉会でございます。