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行政訴訟検討会(第4回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり


1 日 時

平成14年5月20日(月) 15:00〜17:30

2 場 所

司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者

(委 員)
塩野宏座長、市村陽典、小早川光郎、芝池義一、芝原靖典、成川秀明、萩原清子、 福井秀夫、水野武夫、深山卓也(敬称略)

(説明者)

阿部泰隆(神戸大学大学院法学研究科教授)
松倉佳紀(日本弁護士連合会副会長)
斎藤浩(日本弁護士連合会司法改革実現本部事務局次長)

(事務局)

松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官

4 議 題

1 阿部泰隆神戸大学教授及び日本弁護士連合会からのヒアリング
2 行政訴訟の基本的な論点に関する判例について
3 今後の日程等

5 配布資料

資料1行政訴訟の新しいしくみの提案(阿部教授説明資料)
資料2行政訴訟改革立法への道筋とその内容(日本弁護士連合会説明資料)
資料3行政訴訟の基本的な論点に関する判例
資料4行政訴訟検討会開催予定(第7回以降)

6 議 事
 (1) 阿部教授からの説明

○わが国の行政救済制度は極めて不備なので、これまでのものに拘泥しないで、世界に冠たる法制度を創設してほしい。

○日本の制度は、英米流の司法国家でありながら大陸流の行政訴訟手続を有するという、ヌエ的なものだ。改革に当たっては、この歴史的な事情から離れて考えてほしい。

○公法上の当事者訴訟などは、歴史的なものだからもう廃止した方がいい。

○従来の発想では、公権力を行使する行政と国民の関係は支配関係にある、公権力には公定力とか第一次判断権とか優越性等があり、それを争うには民事訴訟はふさわしくない、という前提に立って抗告訴訟がつくられていたが、それが妥当しないのではないか。

○公定力とか称して、違法行為を取り消されるまで国民を拘束するというのは、法治国家原理に反し憲法違反だ。公権力であろうと取り消されれば遡及的に消滅するということは認めているわけだから、取り消されるまで国民を拘束する効力はない。公権力は優越的だという議論もあるが、公権力が法律に適合しているかどうかが争われている場面では、国民と行政は対等だ。

○義務づけ訴訟などでは第一次判断権が議論されるが、行政側が給付処分はできないと主張し、裁判所はその理由はないとして判断するわけであるから、そこで行政の第一次的判断は済んでいる。第一次判断権の問題が義務づけ訴訟の立法を阻害することはあり得ない。

○民事訴訟でも行政活動の適法違法を判断できるにもかかわらず、行政訴訟制度を維持するのか。もし維持するなら行政訴訟の根拠を改めて明らかにし、どのようなシステムが望ましいかもう一回考えるべきだ。

○行政訴訟は、行政機関が憲法上・法律上与えられた権限を守っているか、適切に執行しているかどうかを審査するものであり、民法上の権利を守るという民事訴訟とは実体法上の問題が違う。行政訴訟は行政活動の違法の除去・是正を求める訴えと考える。

○行政に対する救済制度は、憲法32条の裁判を受ける権利に基づき、権利救済の実効性に立脚して構築されなければならない。そこで、行政と原告の対等性の原理、権利救済ルール明確性の要請が導かれるが、これは立法にあたって、最初の条文に示しておくべきだ。

○今までの行政事件訴訟法の改正の議論では、対原告、対処分性というようなやり方、あるいは取消訴訟、義務づけ訴訟という言い方をしていたが、行政と国民の間、あるいは私人間の争いは、1対1の場合と第三者が絡む場合とに分けた方がクリアになる。

○申請に対する給付処分を求める訴えの仕組みを作り、義務づけ訴訟を全面肯定説に立って立法すればよい。その他に仮救済の整備があるが、これは、公益性の要件が入るから、民事保全法の定める仮処分とは違うものにしなければならない。

○不利益処分の排除を求める訴えについては、第三者にとって利害関係は生じず、いわゆる処分を受けた人だけについてのものであれば、民事訴訟でも不合理ではない。

○不利益処分に対しては、その救済が遅れても、困るのは被処分者であるから、出訴期間は一般的には不要である。

○不利益処分の自力救済の場合、後から違法とされた場合は無過失責任を負うとすることに決めるべきだ。

○外国人の退去強制処分のようなものは、執行停止のルールを作るべきだし、あるいは出訴する前に執行されてしまうと困るから、出訴前に執行することを禁止する規定も一般的には必要だ。

○執行停止は、本案判決確定までとか第一審判決までとかに限らずに、数日間の執行停止などいろいろなものがあってよい。課税処分については敗訴の場合に延滞税を負担させることにより、執行停止するかどうかを利子によって決めさせる仕組みにすればよい。

○差止め訴訟は処分の前に提起されるだけであって、義務づけ訴訟とは性質が異なるものであり、「不利益処分の排除を求める訴え」の範疇に入れた方がいい。処分がなされた後では実効的な救済を得ることが困難で、法律的な判断に熟する限りで認めるものと考える。東京都の外形標準課税の件については事前の差止め訴訟の本案に入れるはずだ。

○公売処分や土地収用裁決のように、一方から権利を取って他方に与えるという私人間の権利関係を形成する不利益処分は、三面紛争という性質を生じ、取消訴訟で処理するのは不都合なので、出訴期間をつけて民事訴訟で三者間で争う方がいい。

○行政訴訟は行政法規遵守を担保する制度であるから、行政法規違反を理由に訴訟を提起できる者は、これによって保護されている範囲の者に限られると考える。従って「法律上保護された利益説」は理論的には正しいと思う。ただ、判例のいうような「法律の個々の文言で判断」などと言わず、法律の趣旨全体で解釈すればよい。濫訴の弊については、普通遠くの人だけが争うことはないので、コアの住民が争っていれば、気にすることはない。

○民事訴訟で争える場合と行政訴訟で争える場合とで、争える人の範囲が違ったりする等のことがおきるが、民事法のほかに行政法を作ったのだからしょうがない。

○原告適格については、「行政処分の名宛人以外の者であって、行政法規により保護される範囲内に入る者は当該行政法規違反を主張して行政訴訟を提起できる」という規定をおけばよい。

○地域住民ではなく、もっと広い範囲を保護する法律の場合は、団体訴訟と一緒にしたらどうか。これは行政法規の遵守を団体の力を借りて実現することが妥当かどうかという政策判断によるが、法律が適切に執行されていない弊害が大きく、団体がその是正に大きく寄与できるなら、導入すべきである。

○建築確認、原発の設置許可等、名宛人に対する受益処分の排除を求める第三者の訴えについては、処分の名宛人と第三者の利害調整が問題になり、この場合は出訴期間がいるし、執行停止についても「本案について理由があると見えるとき」という積極要件を導入すべきではないか。

○処分が取り消されたり、執行停止された場合、名宛人は予測外の不利益を受けるが、これは訴訟制度上予測すべきもので、保護に値しないと考えるのか、それとも、投資は行政の許認可が適法であるとの前提によるものだ、と考えるのか。後者の場合は補償は必要だが、額が莫大になることを避けるため、信頼利益に限り補償する制度をおいた方がよいのではないか。

○建築基準法違反を理由とする改善命令を出せなどの不利益処分の発給を求める第三者の訴えは、義務づけ訴訟の一種だが、今の民事訴訟だと恐らくうまくいかないだろう。この義務付け訴訟についても、仮の命令の制度が必要だが、公益性の観点から、特例で書かなければならないと思う。

○計画は多数人の多面的な利害を調整するが、その計画自体も権利制限効果が発生することがある。また計画に続く行為の段階では、もはや違法是正・権利救済が実際上ほぼ不可能になることも多いし、あるいは後の段階で違法とされると、計画を信頼して行動した者、投資した者が不利益を受けるので、紛争の根元を一挙に解決するため、計画に対する訴えを創設すべきである。

○行政訴訟の対象は、法令に基づく行政庁の決定で、外部に表示され、適法性の判断に熟するもので、権利救済の実効性を確保するために争わせる必要があるもの、とする。行政指導の違法確認とか除去とかの訴えでも構わない。行政指導が実際上不許可処分と同じような機能をもっている場合があり、これは争わせなければいけない。通達も、内部行為だと言われているが、争わせるべき場合もある。ただし、成熟性の判断になると思う。

○請求の趣旨について、原告は、どのような行政活動によりどのような不利益を受けているかを示し、その除去・是正を求めれば、裁判所は審理の結果、原告にもっとも有利な解決策を取ることとすればよい。

○公権力の行使については民事訴訟で争えないというドグマをなくせば、行政法規違反を民事訴訟でも争える。民事訴訟のルートを禁止するには、行政訴訟のルートが明確に開かれていなければならず、民事訴訟禁止の趣旨も明確であることが必要だ。

○行政訴訟と民事訴訟のいずれを提起すべきか曖昧な場合が残るが、従来は原告が判断しなければならない等、法の不明確性のリスクと負担を一方的に原告にだけ負わせていたが、原告は、行政訴訟と民事訴訟のどちらかを、又は、両方起こしても構わないとすべきだ。裁判官が原告の訴えとは別の訴えが適法だと考えた場合、門前払いではなく、訴えの変更を求めることにしなければならない。

○空港訴訟とか自衛隊の演習の差止訴訟では、民事訴訟か抗告訴訟かという議論があったが、適切な行政訴訟もなく、民事訴訟の適用を禁止する規定もないから、民事訴訟を適法とすべきだ。その判決の執行は間接強制ができると決めればよい。

○公共事業例えば道路事業に対し周辺住民が民事の差止訴訟を提起すると、道路計画の差止めで公権力を争うので許されないという議論があるが、地域住民の方に騒音をまき散らしてよいかという点については公権的な判断はなされていないのだから、民事訴訟はどんどんできるはずだ。

○処分理由の差替えについては、第一審の最初の段階で被告に追加する理由を全部言わせ、後は言わせないということにして争点整理をしていく、というのがルールでないか。理由が変えられたことによる原告の損害については無過失損害賠償の制度にすべきだ。

○係争中に、更正、再更正で処分が変えられ、原告の方はまたそれを争うということになってしまうが、最初の訴えのままでよいこととし、新しい処分は被告庁がやったことであるから被告庁が新しく主張し、それをまとめて判断するのがいい。

○出訴期間は、一般的にはもう要らないのではないか。特に必要だったら何か理由を説明して個別法で入れた方がよく、その場合でも一般的には3か月では短い。行政不服申立期間が60日間というのも短いと思う。

○行訴法14条4項は初日算入になっており、一般的には初日不算入だから、立法ミスだと思うので、直してほしい。

○教示についての規定は、誰にでも分かるように書くべきで、しかも「3ヶ月以内に訴えることができる」ではなく、「訴えなければ失権します」というような書き方にすべきだ。

○役所の方が作為的に「訴えの利益なし」に持ち込むときにも訴訟費用は原告負担という判決があるので驚いているが、その場合、訴訟費用はもちろん被告負担の上、無過失補償制度を置くべきだと思う。

○逗子市長が訴訟を起こした例で、原告は逗子市であるべきだとして、最高裁が却下してしまったが、これはひどい。上級審がこのような理由で却下するのは裁判を受ける権利を侵害する。

○不服申立前置主義が本当に役立っているか調査してほしい。不服申立をしたが、3ヶ月応答がないために訴訟を起こしている例が結構あるはずであり、また、訴訟が提起されると不服申立の審理が進まないこともあるはずなので、この制度はやめた方がいい。

○「管轄」について、行政庁のある所に訴えるのはお上に直訴する時代からの産物ではないか。むしろ逆に行政庁は適法な処分を原告に送付する義務があるのであるから、債務の履行地を管轄する裁判所も管轄権を有するとなるのではないか。被告の方は全国に代理人を送れば、困らない。

○行政裁量というと、役所は自由裁量だけで審理できると思われてしまうので、この言葉と、現行の行訴法30条はやめる。行政は、法律に従って判断し、判断・行動の選択の余地がある場合でも、それは自由な判断が許されているのではなく、それぞれの具体的な事態にふさわしい判断が求められているのであるから、判断の根拠、事実をきちんと説明する責任がある。

○事情判決の制度はあってもやむを得ないと思うが、特別に既成事実ができて、取消請求権を収用したということだから、割増補償でせめて5割増しにすべきだ。

○和解について、正面から認める代わりに、談合されないように和解の内容を事前に公告して広く意見を求めるのが妥当だ。

○印紙代は非常に高い。行政訴訟は勝てば公共のために寄与する面もあるので、一律8200円にすべきだ。民訴費用法の改正に盛り込んで頂けないのであれば、行政訴訟法の最後に民事訴訟費用法の特例の規定を入れてほしい。

○行政訴訟のかなりは法治国家違反ということを指摘し、他の国民が助かるのであるから、勝訴報奨金を出すべきだ。

○弁護士費用の敗訴者負担制度が導入されるととても行政訴訟は起こせなくなる。むしろ、原告が勝った場合は取り返す、負けた場合は払わなくてもいいという片面的敗訴者負担制度を提案している。

○民事訴訟一本では紛争を適切には解決できない場合があり、行政上の紛争の特質と行政法の存在理由に合わせた新しい行政争訟制度、民事訴訟と共存しながら行政活動を実効的に法治国家の視点から統制するのにふさわしい制度を考えるべきだ。

○民事訴訟が分かれば、あとは条文だけ読めば行政訴訟を追行できるように、行政手続法と同様以上に、詳しく、丁寧で明確な条文を作ってほしい、そうすれば後は、実体法に重点を置くことになる。

○この検討会では、とりあえず結論が出ても、また外部の意見を踏まえて検討することをお願いする。条文化に当たっては、討論会等も行い、行訴法14条4項のようなミスが起きないように要望する。

○自分の検討はまだまだ不十分なところがあり、とりあえず今まで考えたことを整理したので、他の人の意見をいっぱい勉強して、書き直すという作業をこれからもやりたい。

【質疑応答】(●:委員、○:説明者)

●あるべき行政訴訟と民事訴訟の関係が分かりにくい。

○農地買収とか公売処分のようなものは、私人間の権利関係を形成するもので、民事訴訟で争えるとする方が紛争はうまく解決できる。逆に、パチンコ屋が出店する際に診療所との調整が要るような場合は、取消訴訟の方がいいが、そのような民事と行政の調節は今のところ難しいので、両方の途を残すという趣旨である。

●行政訴訟による行政のチェック機能の発揮は、十分と思うか。また、行政訴訟と民事訴訟とどちらがチェック機能がより強くなると思うか。さらに、行政事件は専門の裁判官にやらせた方がいいのか、それとも民事と同じ裁判官にやらせた方がいいのか。

○行政訴訟のチェック機能については、極めて不十分だ思う。行政訴訟か民事訴訟かは、単純な生活の経費に関する訴えや課税処分に関する訴えなどは、公権力のドグマをやめれば、民事訴訟と変わらない。また、行政裁判所はつくらなくてもいいが、これだけ世の中複雑になってきているので、裁判官についてはもっと専門化した方がいい。

●民事訴訟でもいいし、行政訴訟でもいいと書いているが、行政訴訟の理念をきちんと書ききっているので、論理の一貫性が疑問になるが、どうか。

○例外というか、民事訴訟の方がはるかに適切に解決できる場合はそちらでやる形にしなければならない。

●行政訴訟の位置付けだが、違法是正を徹底するのなら客観訴訟と異ならなくなり、権利救済を重視するのなら民事訴訟と非常に相対的に考える方向に近づく。そのように、立法論として極めて異質な二元的な基準をなぜ置かないといけないのか。

○民事訴訟ではうまく争えないが行政訴訟の形にすると争うのにはるかに効率的だというのが多くある。例えば大気汚染防止法の例などだ。訴訟形式、原告適格、本案の勝訴事由が違うから、民事訴訟と行政訴訟を両方並行するということであり、それは制度の趣旨が違うのだからおかしくない。

●仮の救済について「公益性に配慮すべきだ」としているが、具体的にはどのような角度から、どういう要素として配慮すべきなのか。

○例えば、飲食店について、仮の許可をしたら衛生上問題だったという場合もあるので、仮の許可を与えないとか、逆に生活保護とか公会堂の使用許可は仮救済をやってもいいとか、うまく整理して条文をつくらないといけないと思うが、まだ詰めていない。

●民事訴訟以外に行政訴訟を残す必要があるのはどの点なのか。

○民事訴訟の現状を前提にすると、行政訴訟によるべきものは多い。少なくとも今の民事保全法の仮処分の要件だと、当事者間の失権や利害だけ考えており、広範な国民の利益が考慮されない点だ。

●阿部教授が類型化している4種類の訴えのうち、民事訴訟との関係で整理した場合に、行政訴訟として残すべきと考えているのは、「法律の保護を求める第三者の訴え」と「計画に関する訴え」の二つだけか。

○民事訴訟でいける場合も行政訴訟でいける場合も、また、どっちでもいい場合もあると思う。だから民事訴訟か行政訴訟か議論する実益はない。

●国の行政全体として個人の権利を十分に尊重しながら、動く制度ができるかどうかだが、無理やりに民事訴訟をやるとすればできないことはないが、実体権を作らなければならないから弁護士は大変だ。それに対して、許可等について取消と一言言えば、後は裁判所が引き受けてくれるというのは非常に簡明な制度だ。

 (2) 日本弁護士連合会からの説明

○立法作業と検討会との関係については、行政訴訟改革に関する立法作業について検討会の意見が優先して反映されるべきだ。

○この検討会では、この立法作業をリードする形で事務局と共同して行うという姿勢に立っていただきたい。

○「司法の行政に対するチェック機能の強化」は、強化された司法あるいは国民主権、主権者たる国民が行政に向けていわば共同戦線を張る課題であり、行政総体を相手にする性質のもので、その結果、行政の適法性の担保にもなる。

○この課題は、司法改革であると同時に行政改革だ。従って、国家公務員が大半を占める事務局が中心となってこの課題を進めては所期の目的が達成できない恐れが非常に強い。推進本部では検討会とともに立法作業を行うことを方針として堅持されたい。

○「行政訴訟の実状」について、国民あるいは弁護士ともこの実態については大変失望感を抱いている。

○日弁連は、司法審の「『司法の行政に対するチェック機能』質問項目に対する回答」の中で、行政訴訟の現状について述べ、行政事件訴訟制度の改革は喫緊の課題であるとしているが、第3回検討会で最高裁事務総局から提出された「行政事件に関する統計資料-最高裁判所事務総局行政局調べ」という資料を見ても、当該回答を基本的に訂正すべきところはない。

○わが国において行政に対する不満がないか、といえば決してそうではない。国レベルの行政相談数が毎年10万件近くあるほか、自治体レベルの苦情相談、オンブズマン事例、その他テーマ毎の中にも数多くあり、これらを合計すると、形に現れているものだけでも年間50万件をはるかに越えている。これらの大半が、司法を利用した行政事件になっていない、というだけであり、その理由がわが国の「司法の行政に対するチェック機能」の弱さにかなりの程度起因していると理解できる。

○大阪国際空港訴訟で最高裁は「航空行政権」なる概念を作り出して、民事訴訟法を不適法却下とした。現在、国民は民事訴訟、行政訴訟のいずれを通じても航空行政に対しては救済されない状況にある。

○高円寺青写真判決では、最高裁は、不動産権利者等に対する権利制限は付随的な効果に過ぎず、処分性がない、争訟の成熟性がないとして行政訴訟の対象にならないと判断したが、事業が進行して処分がなされた時に行政訴訟を提起しても、事業は執行不停止原則の下で訴訟係属中も進行し、訴えの利益の消滅や事情判決により適切な救済を受けられない恐れが高くなる。用途地域の指定に至っては、後続の処分も予定されておらず、裁判所による救済を受けることも出来ないに等しい。このような厳格な処分性概念により行政訴訟の対象は著しく狭くなっている。

○近鉄特急料金事件、伊場遺跡事件、環状6号線訴訟、パチンコ店に対する風俗営業許可処分、公有水面埋立免許処分、伊達火力事件など、狭すぎる原告適格のために、多くの行政訴訟が入口論争に終始して終っている。

○訴訟要件が認められて本案審理が行われたケースでも、広範な行政裁量が認められて、適切な行政統制がなされていない。奈良県の上牧町の郷土出身者の大臣就任祝賀行事における祝賀費用の支出につき、裁判所は「社交儀礼の範囲」だとして、自由裁量の範囲内として違法ではないと判断した。

○多数の周辺住民が提起した林地開発行為許可取消訴訟においても、最高裁は、原告らの主張する利益が全員に共通とはいえず、訴額は人数分の利益を合算して算出すべきだとしたが、私ども一般の常識に非常に反している判断だ。

○これらの問題は、行政事件訴訟法にのみ起因するものではなく、行政統制に消極的な裁判所の態度にも由来する問題であり、問題の抜本的解決のためには裁判所の姿勢の変更を図る法改正が必要だ。

○「この国のかたち」の再構築に関わる一連の諸改革の最後のかなめとしての司法改革の中で、「司法の行政に対するチェック機能の強化」はその背骨と位置づけられなければならない。

○外務省の例にもあるように、今国際的な嘲笑を呼び、わが国の現在の沈滞の大きな要因である政治と官僚との不正常な関係について、刑事事件のほかに司法がたとえば行政事件として国民の情報公開要求や公金の使途のチェック要求に応じて大きな役割を果たせるならば、この国の国家としての威信の回復にも資することは明らかだ。

○実力あるしかも使いやすい行政訴訟制度の改革は、国民の立場からも、国家の立場からも、早急に実施される必要がある。

○戦後、通常裁判所で行政事件の判決ができるようになった時の国民の期待は大変大きく、大きな努力の下に1962年に現行の行政事件訴訟法ができたが、この運用の過程では期待感は消失し、失望感に変わった。

○行政事件訴訟法は、環境訴訟のような現代型紛争は前提にしていない時代遅れのものになっており、この点は、例えば司法制度改革審議会では、塩野宏教授、園部逸夫教授、藤田宙靖教授、山村恒年弁護士が述べた。

○失望感を与え続けている運用には、最高裁判所を頂点とする司法の姿勢、キャリア裁判官制度、国民参加のない制度内容なども大きく影響しているが、同時に法律の内容、法体系も抜本的に改正されなければならない。

○本検討会における、総合的多角的な検討を進め、ある段階にくれば論点を相当絞っていくという立法作業の方式について、「司法の行政に対するチェック機能の強化」の課題は巨大であると同時に差し迫った国民的要求でもあるから、検討は総合的多角的にしたものの具体的立法が行われなかったという結果は避けなければならない。

○当面の検討会における審議・作業は、行政に関連する実効的で包括的な国民救済と行政統制の法体系の全体像を国際的水準を踏まえて作り上げるという視点から、遺漏無く検討されることが重要。日弁連は、司法制度改革審議会へ回答文書を提出したが、これが現段階での公式見解だ。

○検討の過程の中で、検討会が委員の大方の合意の下に、推進本部設置期間内に立法化する事項と、今少し時間をかけて検討し立法作業を進める事項とを区分することはやむを得ないと判断される状況が来ることが十分予想されるが、この場合の区分は事務局主導ではなく、委員の作業グループが発案し、それを推進することが極めて大事である。

○今少し時間をかけるべき事項については、例えば3年後など、政府が明確に立法予定時期や具体的法案作成機関を明示して国民に約束すべきだ。

○行政改革でもあるこの課題を公務員主体で法案の具体化を図ることは極めて適切でない。

○訴訟要件の大幅な緩和等が課題であり、訴訟対象については、いわゆる厳格な行政処分性ではなくて行政上の意思決定を対象とすることだ。

○原告適格については、現在の行訴法の9条を改正し「現実の利益を有する者」と改めるべきだ。

○個人の権利侵害等に係わらず、環境団体等が環境政策の是正を求めて出せるといった制度を導入すべきだ。

○管轄について、現在は行政庁の所在地を管轄する裁判所に訴えるが、それでは全国の住民から見ると非常に不便なので、情報公開のような特定管轄の制度をつくり、各住民の住んでいる近い地域でも訴訟が提起できるとすべきだ。

○出訴期間については、現在は知ってから3ヶ月だが、最低限、その倍の6ヶ月にすべきだ。

○国民のための行政訴訟制度として利用しやすいようにするため、訴訟類型の拡大、義務付け訴訟、行政立法取消訴訟、予防的不作為訴訟の導入をすべきだ。

○公定力(いわゆる排他的管轄)を廃止すべき。行政処分については、国民の選択によって行政訴訟、民事訴訟両方で争っていきながら、裁判所が審理の過程でどちらの事件に属するという判断が固まったときに、そちらへの変更を促すという制度を導入すべきだ。

○地方自治体の住民訴訟のような国民による国の財務行政のチェック、国民訴訟の創設が必要。

○国民が裁判所を通じて行政活動をチェック出来るようにする(本案審理の実質化・行政統制の強化)ために、裁量基準の解釈・運用の国民的原則の定立、裁量の適法性に関する行政側による主張・立証責任(説明義務)の導入、行政側の証拠開示義務の導入、行政手続法の整備(行政計画・行政立法)が必要だ。

○判検交流を廃止すべきだ。また、指定代理人制度の廃止も必要だ。

○行政裁判は長期化する場合が多く、結局、訴訟中に事業が完成してしまうと本来的な救済が受けられないことから、執行停止の原則化が必要。

○生活扶助の受給の申請をして拒否をされた者がこの処分の取消を求めて争うのは極めて経済的に困難であり、そういう点から仮の権利保護制度を設けるべきだ。

○行政不服審査の中で行政処分が取り消される例は、日頃業務をやっている感覚では、少ないと思う。最近各自治体で情報公開の制度ができ、これについては情報公開審査会の前置を経ずに訴訟ができることになっているが、こういう中での救済例もあるので、行政不服審査法の改正についても検討すべきだ。

○国民の行政訴訟に関する経済的な負担を軽減するために、印紙代の一律低額化が必要。行政訴訟は、自分の権利救済よりむしろ行政の適法性を求めるという公益に基づく訴訟だから個人の負担を軽くする方向で考えるべき。

○法律扶助を充実させること、また、片面的敗訴者負担制度の導入が必要である。

○民事訴訟とは違い、行政の適法性を担保するという行政統制的な訴訟をきちんと整備する必要があり、少し時間をかけてこういった制度の導入についても検討してほしい。

○個別の行政領域における行政訴訟において裁判所が行政の適法性を確保し、国民の権利・利益を保障するためには、最終的には個別行政実体法において法規の行政規律密度を上げることが必要だが、現在の個別行政法規は、国民の手続の保障とか、権利・利益の保障などの行政救済に十分な配慮がされていない。裁判所が適切に行政裁量の審査をするためにも、行政裁量における考慮事項が法規で規律されていることが重要であるから、膨大な個別法規の体系を少し時間をかけて検討されたい。

○行政事件の特殊性に配慮した専門的裁判機関の整備が必要。

○日本には非常に多数の行政型ADRがあるが、最近、各自治体の情報公開審査会などは第三者的な諮問機関化しているし、事務局自体も一般の行政から相対的な独立性を有していて、かなり全国的にいい決定例が多いことから、そういった方向性での行政型ADR見直しをお願いする。

○学術的な論争は委員である学者の内部で大いにやっていただくことは当然だが、どの論点でも是非何らかの改革をする、まとめるということをもって大同について改革案をつくって頂きたい。

○行政訴訟の改革も立場が違えば色々な考えがあるが、本検討会は「司法の行政に対するチェック機能の強化」が課題であり、従って行政の立場に立つことは背理であるから、是非国民的視座に立つということをお願いしたい。

○「司法の行政に対するチェック機能の強化」は、現下のわが国の政治経済にわたる混迷を克服する一つの重要な場面であり、是非諸外国の制度を参考にこの検討会が実のあるものになるよう、グローバルスタンダードの重視をお願いしたい。

【質疑応答】(●:委員、○:説明者)

●「裁量の適法性に関する行政側による主張・立証責任」とあるが、民訴法の立証責任と異なる行政事件特有の立証責任の原則を考えているということか。

○そういうことだ。

●「公定力の廃止」というふうに項目が上がっており、民事訴訟でも争えるという話があったが、そうすると裁量統制は民事訴訟法で何か規定を置くのか。そのための民訴法改正の提案もするのか。

○そうだ。民事訴訟、行政訴訟、いずれでやる場合にも、裁量基準を定立する作業は両方で必要だ。

●「専門的裁判機関の整備」の提案だが、同時に提案している「公定力の廃止」ということになった場合、民事部でも先決問題として審査できることになるが、それとの関係はどうなるか。

○矛盾する点は十分あろうと思うが、資料には日弁連として到達する平均的な意見が入っており、その平均的なところで考えたとご理解いただきたい。

●「出訴期間を延長」とあるが、全面的な廃止ではないということか。そうすると民事訴訟で争う場合にも出訴期間はかぶるということか。

○立法政策の問題だと思う。

●取消訴訟だと出訴期間がかぶるが、民事訴訟だと出訴期間はかぶらない、という制度になるのか。

○その辺も制度の決め方だ。

●取消訴訟以外の義務づけ訴訟なども拡充するが、今の取消訴訟に相当するものも残し、ただし、その対象は狭い処分からもっと広げる、という考えだと思うが、どこまで広げるのか。例えば公営住宅関係の事件などは、従来は民事訴訟だったが、行政上の意思決定となると、どう線引きするのか。

○公営住宅の入居関係については、両方で争える、どっちでもやりたい方でやったらいいのではないかということだ。国民の選択に任せるという立場は維持しつつ、この部分については行政処分あるいはこれについては意思決定というふうに直したらいいのではないか。

●中長期的な課題と、この場で具体的結論を得る課題を分ける時期が来るだろうが、その区分は事務局が行うのでなく委員の作業グループが発案することが極めて重要だということだが、それはこの場で決めることを当然前提とした上で、その原案を誰がつくるかという話でいいか。

○そうだ。

●「具体的法案作成機関というものを明示して約束すべき」という意見だが、要するに広く国民の声を反映できるような、例えばこういう検討会のようなものを設けた形での法案の作成が望ましく、役所の中だけで決めるのはよろしくないという趣旨か。

○そういう趣旨だ。

●「行政の立場に立つことは背理である」と書いてあるが、現行の行政事件訴訟法の立案のときに前提となったような、行政の優越性、あるいは第一次的判断の尊重、そういう思想を今回の改革の議論では持ち込まないようにという趣旨か。

○司法審の審理の中で、行政事件訴訟法をつくる時点で既に行政の優越性を認めることから出発してしまった点が問題であると言われており、この検討会ではそういった配慮はいらないんじゃないか、国民的視座だけでいいのではないか、ということだ。

●出訴期間を設ける、公定力を廃止する、行政側の主張・立証責任、これらは全部、民事訴訟でも同じようにし、行政訴訟でも選択的にできる様にする、という趣旨か。

○なかなか悩ましいところだが、なるべく両方選択できるということとともに、民事訴訟を選択したときにも行訴法でいう出訴期間をどうするかの問題はあるが、個人の意見としては、一定の出訴期間の制限を定めてもおかしくはないと考える。

●裁量について、訴訟法での裁量についての提案はあるか。

○行政事件訴訟法の中に裁量統制についての国民的な立場の条文を入れるべきだ。具体的には、裁量についての幅の解釈の基準を定立して、その特定の部分については厳格な当てはめをしなければならないと明示的にし、また、行政庁の前項にいう処分に当たっては判断理由を形成した文書やその根拠となった基準となる文書を、行政庁の費用で処分の相手方に開示するとか、一般法の中にも取り込んだらどうか。

●民事訴訟でも行政訴訟でも、行政の判断が問われているときには専門機関で判断するという趣旨か。

○まあそういうことだ。

●推進本部の設置期間内に立法化すべきということだが、具体的には既存の行政事件訴訟法なり、行政手続法などの改正を考えているのか、それとも設置期間内に別途の法律も必要だと考えるか。

○この資料に書いてあることが実現されれば、今の行政事件訴訟法であろうと新法を作っていただこうと構わない。

7 行政訴訟の基本的な論点に関する判例について

事務局から、資料3に基づき、行政訴訟の基本的な論点に関する判例について説明がなされた。

8 今後の日程等

事務局から、第5回以降の日程等について説明がなされ、了承された。

9 次回の日程について

  • 第5回の検討会は、次の日時に開催することとなった。
       6月17日(月)15:00〜17:30
  • 第5回検討会では、松本英昭財団法人自治総合センター理事長、総務省行政管理局及び高木光学習院大学教授から意見等を聴取することになった。

以 上