○わが国の行政救済制度は極めて不備なので、これまでのものに拘泥しないで、世界に冠たる法制度を創設してほしい。
○日本の制度は、英米流の司法国家でありながら大陸流の行政訴訟手続を有するという、ヌエ的なものだ。改革に当たっては、この歴史的な事情から離れて考えてほしい。
○公法上の当事者訴訟などは、歴史的なものだからもう廃止した方がいい。
○従来の発想では、公権力を行使する行政と国民の関係は支配関係にある、公権力には公定力とか第一次判断権とか優越性等があり、それを争うには民事訴訟はふさわしくない、という前提に立って抗告訴訟がつくられていたが、それが妥当しないのではないか。
○公定力とか称して、違法行為を取り消されるまで国民を拘束するというのは、法治国家原理に反し憲法違反だ。公権力であろうと取り消されれば遡及的に消滅するということは認めているわけだから、取り消されるまで国民を拘束する効力はない。公権力は優越的だという議論もあるが、公権力が法律に適合しているかどうかが争われている場面では、国民と行政は対等だ。
○義務づけ訴訟などでは第一次判断権が議論されるが、行政側が給付処分はできないと主張し、裁判所はその理由はないとして判断するわけであるから、そこで行政の第一次的判断は済んでいる。第一次判断権の問題が義務づけ訴訟の立法を阻害することはあり得ない。
○民事訴訟でも行政活動の適法違法を判断できるにもかかわらず、行政訴訟制度を維持するのか。もし維持するなら行政訴訟の根拠を改めて明らかにし、どのようなシステムが望ましいかもう一回考えるべきだ。
○行政訴訟は、行政機関が憲法上・法律上与えられた権限を守っているか、適切に執行しているかどうかを審査するものであり、民法上の権利を守るという民事訴訟とは実体法上の問題が違う。行政訴訟は行政活動の違法の除去・是正を求める訴えと考える。
○行政に対する救済制度は、憲法32条の裁判を受ける権利に基づき、権利救済の実効性に立脚して構築されなければならない。そこで、行政と原告の対等性の原理、権利救済ルール明確性の要請が導かれるが、これは立法にあたって、最初の条文に示しておくべきだ。
○今までの行政事件訴訟法の改正の議論では、対原告、対処分性というようなやり方、あるいは取消訴訟、義務づけ訴訟という言い方をしていたが、行政と国民の間、あるいは私人間の争いは、1対1の場合と第三者が絡む場合とに分けた方がクリアになる。
○申請に対する給付処分を求める訴えの仕組みを作り、義務づけ訴訟を全面肯定説に立って立法すればよい。その他に仮救済の整備があるが、これは、公益性の要件が入るから、民事保全法の定める仮処分とは違うものにしなければならない。
○不利益処分の排除を求める訴えについては、第三者にとって利害関係は生じず、いわゆる処分を受けた人だけについてのものであれば、民事訴訟でも不合理ではない。
○不利益処分に対しては、その救済が遅れても、困るのは被処分者であるから、出訴期間は一般的には不要である。
○不利益処分の自力救済の場合、後から違法とされた場合は無過失責任を負うとすることに決めるべきだ。
○外国人の退去強制処分のようなものは、執行停止のルールを作るべきだし、あるいは出訴する前に執行されてしまうと困るから、出訴前に執行することを禁止する規定も一般的には必要だ。
○執行停止は、本案判決確定までとか第一審判決までとかに限らずに、数日間の執行停止などいろいろなものがあってよい。課税処分については敗訴の場合に延滞税を負担させることにより、執行停止するかどうかを利子によって決めさせる仕組みにすればよい。
○差止め訴訟は処分の前に提起されるだけであって、義務づけ訴訟とは性質が異なるものであり、「不利益処分の排除を求める訴え」の範疇に入れた方がいい。処分がなされた後では実効的な救済を得ることが困難で、法律的な判断に熟する限りで認めるものと考える。東京都の外形標準課税の件については事前の差止め訴訟の本案に入れるはずだ。
○公売処分や土地収用裁決のように、一方から権利を取って他方に与えるという私人間の権利関係を形成する不利益処分は、三面紛争という性質を生じ、取消訴訟で処理するのは不都合なので、出訴期間をつけて民事訴訟で三者間で争う方がいい。
○行政訴訟は行政法規遵守を担保する制度であるから、行政法規違反を理由に訴訟を提起できる者は、これによって保護されている範囲の者に限られると考える。従って「法律上保護された利益説」は理論的には正しいと思う。ただ、判例のいうような「法律の個々の文言で判断」などと言わず、法律の趣旨全体で解釈すればよい。濫訴の弊については、普通遠くの人だけが争うことはないので、コアの住民が争っていれば、気にすることはない。
○民事訴訟で争える場合と行政訴訟で争える場合とで、争える人の範囲が違ったりする等のことがおきるが、民事法のほかに行政法を作ったのだからしょうがない。
○原告適格については、「行政処分の名宛人以外の者であって、行政法規により保護される範囲内に入る者は当該行政法規違反を主張して行政訴訟を提起できる」という規定をおけばよい。
○地域住民ではなく、もっと広い範囲を保護する法律の場合は、団体訴訟と一緒にしたらどうか。これは行政法規の遵守を団体の力を借りて実現することが妥当かどうかという政策判断によるが、法律が適切に執行されていない弊害が大きく、団体がその是正に大きく寄与できるなら、導入すべきである。
○建築確認、原発の設置許可等、名宛人に対する受益処分の排除を求める第三者の訴えについては、処分の名宛人と第三者の利害調整が問題になり、この場合は出訴期間がいるし、執行停止についても「本案について理由があると見えるとき」という積極要件を導入すべきではないか。
○処分が取り消されたり、執行停止された場合、名宛人は予測外の不利益を受けるが、これは訴訟制度上予測すべきもので、保護に値しないと考えるのか、それとも、投資は行政の許認可が適法であるとの前提によるものだ、と考えるのか。後者の場合は補償は必要だが、額が莫大になることを避けるため、信頼利益に限り補償する制度をおいた方がよいのではないか。
○建築基準法違反を理由とする改善命令を出せなどの不利益処分の発給を求める第三者の訴えは、義務づけ訴訟の一種だが、今の民事訴訟だと恐らくうまくいかないだろう。この義務付け訴訟についても、仮の命令の制度が必要だが、公益性の観点から、特例で書かなければならないと思う。
○計画は多数人の多面的な利害を調整するが、その計画自体も権利制限効果が発生することがある。また計画に続く行為の段階では、もはや違法是正・権利救済が実際上ほぼ不可能になることも多いし、あるいは後の段階で違法とされると、計画を信頼して行動した者、投資した者が不利益を受けるので、紛争の根元を一挙に解決するため、計画に対する訴えを創設すべきである。
○行政訴訟の対象は、法令に基づく行政庁の決定で、外部に表示され、適法性の判断に熟するもので、権利救済の実効性を確保するために争わせる必要があるもの、とする。行政指導の違法確認とか除去とかの訴えでも構わない。行政指導が実際上不許可処分と同じような機能をもっている場合があり、これは争わせなければいけない。通達も、内部行為だと言われているが、争わせるべき場合もある。ただし、成熟性の判断になると思う。
○請求の趣旨について、原告は、どのような行政活動によりどのような不利益を受けているかを示し、その除去・是正を求めれば、裁判所は審理の結果、原告にもっとも有利な解決策を取ることとすればよい。
○公権力の行使については民事訴訟で争えないというドグマをなくせば、行政法規違反を民事訴訟でも争える。民事訴訟のルートを禁止するには、行政訴訟のルートが明確に開かれていなければならず、民事訴訟禁止の趣旨も明確であることが必要だ。
○行政訴訟と民事訴訟のいずれを提起すべきか曖昧な場合が残るが、従来は原告が判断しなければならない等、法の不明確性のリスクと負担を一方的に原告にだけ負わせていたが、原告は、行政訴訟と民事訴訟のどちらかを、又は、両方起こしても構わないとすべきだ。裁判官が原告の訴えとは別の訴えが適法だと考えた場合、門前払いではなく、訴えの変更を求めることにしなければならない。
○空港訴訟とか自衛隊の演習の差止訴訟では、民事訴訟か抗告訴訟かという議論があったが、適切な行政訴訟もなく、民事訴訟の適用を禁止する規定もないから、民事訴訟を適法とすべきだ。その判決の執行は間接強制ができると決めればよい。
○公共事業例えば道路事業に対し周辺住民が民事の差止訴訟を提起すると、道路計画の差止めで公権力を争うので許されないという議論があるが、地域住民の方に騒音をまき散らしてよいかという点については公権的な判断はなされていないのだから、民事訴訟はどんどんできるはずだ。
○処分理由の差替えについては、第一審の最初の段階で被告に追加する理由を全部言わせ、後は言わせないということにして争点整理をしていく、というのがルールでないか。理由が変えられたことによる原告の損害については無過失損害賠償の制度にすべきだ。
○係争中に、更正、再更正で処分が変えられ、原告の方はまたそれを争うということになってしまうが、最初の訴えのままでよいこととし、新しい処分は被告庁がやったことであるから被告庁が新しく主張し、それをまとめて判断するのがいい。
○出訴期間は、一般的にはもう要らないのではないか。特に必要だったら何か理由を説明して個別法で入れた方がよく、その場合でも一般的には3か月では短い。行政不服申立期間が60日間というのも短いと思う。
○行訴法14条4項は初日算入になっており、一般的には初日不算入だから、立法ミスだと思うので、直してほしい。
○教示についての規定は、誰にでも分かるように書くべきで、しかも「3ヶ月以内に訴えることができる」ではなく、「訴えなければ失権します」というような書き方にすべきだ。
○役所の方が作為的に「訴えの利益なし」に持ち込むときにも訴訟費用は原告負担という判決があるので驚いているが、その場合、訴訟費用はもちろん被告負担の上、無過失補償制度を置くべきだと思う。
○逗子市長が訴訟を起こした例で、原告は逗子市であるべきだとして、最高裁が却下してしまったが、これはひどい。上級審がこのような理由で却下するのは裁判を受ける権利を侵害する。
○不服申立前置主義が本当に役立っているか調査してほしい。不服申立をしたが、3ヶ月応答がないために訴訟を起こしている例が結構あるはずであり、また、訴訟が提起されると不服申立の審理が進まないこともあるはずなので、この制度はやめた方がいい。
○「管轄」について、行政庁のある所に訴えるのはお上に直訴する時代からの産物ではないか。むしろ逆に行政庁は適法な処分を原告に送付する義務があるのであるから、債務の履行地を管轄する裁判所も管轄権を有するとなるのではないか。被告の方は全国に代理人を送れば、困らない。
○行政裁量というと、役所は自由裁量だけで審理できると思われてしまうので、この言葉と、現行の行訴法30条はやめる。行政は、法律に従って判断し、判断・行動の選択の余地がある場合でも、それは自由な判断が許されているのではなく、それぞれの具体的な事態にふさわしい判断が求められているのであるから、判断の根拠、事実をきちんと説明する責任がある。
○事情判決の制度はあってもやむを得ないと思うが、特別に既成事実ができて、取消請求権を収用したということだから、割増補償でせめて5割増しにすべきだ。
○和解について、正面から認める代わりに、談合されないように和解の内容を事前に公告して広く意見を求めるのが妥当だ。
○印紙代は非常に高い。行政訴訟は勝てば公共のために寄与する面もあるので、一律8200円にすべきだ。民訴費用法の改正に盛り込んで頂けないのであれば、行政訴訟法の最後に民事訴訟費用法の特例の規定を入れてほしい。
○行政訴訟のかなりは法治国家違反ということを指摘し、他の国民が助かるのであるから、勝訴報奨金を出すべきだ。
○弁護士費用の敗訴者負担制度が導入されるととても行政訴訟は起こせなくなる。むしろ、原告が勝った場合は取り返す、負けた場合は払わなくてもいいという片面的敗訴者負担制度を提案している。
○民事訴訟一本では紛争を適切には解決できない場合があり、行政上の紛争の特質と行政法の存在理由に合わせた新しい行政争訟制度、民事訴訟と共存しながら行政活動を実効的に法治国家の視点から統制するのにふさわしい制度を考えるべきだ。
○民事訴訟が分かれば、あとは条文だけ読めば行政訴訟を追行できるように、行政手続法と同様以上に、詳しく、丁寧で明確な条文を作ってほしい、そうすれば後は、実体法に重点を置くことになる。
○この検討会では、とりあえず結論が出ても、また外部の意見を踏まえて検討することをお願いする。条文化に当たっては、討論会等も行い、行訴法14条4項のようなミスが起きないように要望する。
○自分の検討はまだまだ不十分なところがあり、とりあえず今まで考えたことを整理したので、他の人の意見をいっぱい勉強して、書き直すという作業をこれからもやりたい。
【質疑応答】(●:委員、○:説明者)
●あるべき行政訴訟と民事訴訟の関係が分かりにくい。
○農地買収とか公売処分のようなものは、私人間の権利関係を形成するもので、民事訴訟で争えるとする方が紛争はうまく解決できる。逆に、パチンコ屋が出店する際に診療所との調整が要るような場合は、取消訴訟の方がいいが、そのような民事と行政の調節は今のところ難しいので、両方の途を残すという趣旨である。
●行政訴訟による行政のチェック機能の発揮は、十分と思うか。また、行政訴訟と民事訴訟とどちらがチェック機能がより強くなると思うか。さらに、行政事件は専門の裁判官にやらせた方がいいのか、それとも民事と同じ裁判官にやらせた方がいいのか。
○行政訴訟のチェック機能については、極めて不十分だ思う。行政訴訟か民事訴訟かは、単純な生活の経費に関する訴えや課税処分に関する訴えなどは、公権力のドグマをやめれば、民事訴訟と変わらない。また、行政裁判所はつくらなくてもいいが、これだけ世の中複雑になってきているので、裁判官についてはもっと専門化した方がいい。
●民事訴訟でもいいし、行政訴訟でもいいと書いているが、行政訴訟の理念をきちんと書ききっているので、論理の一貫性が疑問になるが、どうか。
○例外というか、民事訴訟の方がはるかに適切に解決できる場合はそちらでやる形にしなければならない。
●行政訴訟の位置付けだが、違法是正を徹底するのなら客観訴訟と異ならなくなり、権利救済を重視するのなら民事訴訟と非常に相対的に考える方向に近づく。そのように、立法論として極めて異質な二元的な基準をなぜ置かないといけないのか。
○民事訴訟ではうまく争えないが行政訴訟の形にすると争うのにはるかに効率的だというのが多くある。例えば大気汚染防止法の例などだ。訴訟形式、原告適格、本案の勝訴事由が違うから、民事訴訟と行政訴訟を両方並行するということであり、それは制度の趣旨が違うのだからおかしくない。
●仮の救済について「公益性に配慮すべきだ」としているが、具体的にはどのような角度から、どういう要素として配慮すべきなのか。
○例えば、飲食店について、仮の許可をしたら衛生上問題だったという場合もあるので、仮の許可を与えないとか、逆に生活保護とか公会堂の使用許可は仮救済をやってもいいとか、うまく整理して条文をつくらないといけないと思うが、まだ詰めていない。
●民事訴訟以外に行政訴訟を残す必要があるのはどの点なのか。
○民事訴訟の現状を前提にすると、行政訴訟によるべきものは多い。少なくとも今の民事保全法の仮処分の要件だと、当事者間の失権や利害だけ考えており、広範な国民の利益が考慮されない点だ。
●阿部教授が類型化している4種類の訴えのうち、民事訴訟との関係で整理した場合に、行政訴訟として残すべきと考えているのは、「法律の保護を求める第三者の訴え」と「計画に関する訴え」の二つだけか。
○民事訴訟でいける場合も行政訴訟でいける場合も、また、どっちでもいい場合もあると思う。だから民事訴訟か行政訴訟か議論する実益はない。
●国の行政全体として個人の権利を十分に尊重しながら、動く制度ができるかどうかだが、無理やりに民事訴訟をやるとすればできないことはないが、実体権を作らなければならないから弁護士は大変だ。それに対して、許可等について取消と一言言えば、後は裁判所が引き受けてくれるというのは非常に簡明な制度だ。