首相官邸 首相官邸 トップページ
首相官邸 文字なし
 トップ会議等一覧司法制度改革推進本部検討会行政訴訟検討会

行政訴訟検討会(第5回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり


1 日 時

平成14年6月17日(月) 15:00〜17:30

2 場 所

司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者

(委 員)
塩野宏座長、市村陽典、小早川光郎、芝池義一、芝原靖典、成川秀明、萩原清子、福井秀夫、福井良次、水野武夫、 深山卓也(敬称略)

(説明者)

松本英昭(財団法人自治総合センター理事長)
福井良次(行政訴訟検討会委員・総務省行政管理局審議官)
藤井昭夫(総務省行政管理局審議官)
高木光(学習院大学法学部教授)

(事務局)

山崎潮事務局長、松川忠晴事務局次長、大野恒太郎事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官

4 議 題

  1. 松本英昭財団法人自治総合センター理事長、総務省行政管理局及び高木光学習院大学教授からのヒアリング
  2. 今後の日程等

5 配布資料

資料1総務省行政管理局説明資料
資料2判例法理を生かした改正を(高木教授説明資料)

6 議 事

 (1) 松本理事長からの説明

○現場の行政をやってきた経験では、行政庁は、いかなる場合であっても国民や住民の権利・利益を侵害しないように、また、全体の公益を一番最初に念頭に置いて仕事をしている。しかし、判断違い等はあり、その適法性について司法がチェックしていくのは当然だ。

○行政庁が裁判に訴えられるのは、行政にとってとても恥ずかしいことである。行政に携わる者は、裁判になる前に一生懸命調整等の努力をするが、これは行政指導とは程遠い話だ。場合によっては怒鳴られたり等、色々危険を感じることさえある。

○ある地方公共団体で大変優れた施策をやろうとしたら、既得権のある者から、そんなことをしたら住民訴訟で訴える、と言われて諦めたとのことだが、これが現実の行政だ。

○ある先生は、立法論としては、性悪説に立った立法的工夫をするべきだと言っているが、行政庁について性悪説的な議論は避けてほしい。

○このヒアリングに当たり、いくつかの地方公共団体の関係者から意見を聞いたが、ある地方公共団体の人によると「今後行政訴訟改革が進み、国民にとって使い勝手がよい行政訴訟制度が構築されれば、それは行政側にとって厳しい環境の変化を意味するが、行政訴訟改革の動きはもはや否定しようがなく、それを前提とする以上、現行制度の問題点が行政側にとって都合の良いものであったとしても、今後は同じく行政側にとって改革すべき問題点であるという認識を有することが重要である」とのことだった。

○改革の内容に関しては、2つの視点から申し上げたい。一つは〔基本的制度に係るもの〕について、他の一つは、〔行政庁の側からの使われ勝手の問題〕についてだ。

○〔基本的な制度に係るもの〕の総論の1番目。個人の権利利益については公益との調整の必要があるが、それがまさに行政であり、行政側が公益の確保・保護を主張するのは当然で、主張する義務が行政にはある。これは行政訴訟の場において当然に言えることであり、それをしっかり踏まえた制度改革であってもらいたい。

○〔基本的な制度に係るもの〕の総論の2つ目だが、裁判所は専門技術的判断であろうと、政策的判断であろうと、専ら法治主義的見地から国民の利益を救済する必要があるかどうかを審査する責務があるが、あくまでそのことを前提として、行政側にとっても、専門的判断であれ、政策的判断であれ、適法かどうかということの黒白を速やかにはっきりさせてもらいたい。もっともこれは迅速にということが絶対の必要条件だ。

○国民が利用しやすいようなチャネルの多様化や入口要件の緩和は、色々な行政とそれに対する法理論的な論議、及び実際の対応の可能性といったことを大いに検討して、最も適切な改革が進められるべきだ。

○裁量について、行政の政策的見地、専門技術的見地等から法が行政の判断に優先的な意義を認めている事項やケースが存在することは否定できない。日弁連の改正試案では、裁量処分について不合理な事実調査に基づく場合や合理的な判断形成過程を欠く場合、裁判所はその処分を取り消すとされているが、不合理とか合理的とかといった裁判所の判断に裁量的な要素が入るならば、行政庁の裁量に代わって、裁判所の裁量が置き代わるだけだ。裁判所がこうした判断をすることが適当か、できるのか、十分な論議が必要だ。

○原告となる住民とそれを取り巻く住民との利益調整はまさしく行政の真髄の部分であり、柔軟な裁量の余地が認められないと、行政の任務が果たせない。

○費用便益分析を裁量の適否の基準に取り上げる考え方もみられるが、行政はたとえ事業などでも費用便益の視点からのみ行うものではなく、例えば箇所づけを取っても当該区域の実情とか、民生の安定等や他の事業をも考慮した地域バランス、過去の経緯等などが重要な視点となることにも留意していかなければならない。

○昨今では住民との協働の関係の構築が各方面の行政分野で進められ広まっており、その中で行われる行政庁の活動について裁量の幅が狭いと、どれも違法になって協働の関係の構築を否定することになるので、行政の活動は裁量の幅が広いものでなければならない。

○基本的事項の第3は審理の迅速化。審理が長期間になることは市民の権利利益の救済の観点のみならず、行政庁側においても不安定な状態が続き、その間の負担も大きくなる。裁判所も色々と努力され、迅速化のための方策について検討されているようだが、多面的に方策を講じて、審理の迅速化を図って欲しい。

○〔行政庁側から見た使われ勝手の問題〕について。第1に、3ヶ月の出訴期間について、原告がとりあえず急いで訴訟を提起したが、それからの準備に時間がかかり、裁判が遅れることがあるので、行政側も3ヶ月が必ずしもいいとは思っていない、という見方もある。

○第2に、本案の審理に相当の時間と労力を費やした後、訴訟要件で却下され、時間と労力の無駄となることがあるので、訴訟要件の存否についての中間確認判決を制度化して欲しいという意見がある。

○第3に、情報公開に関する不服申立てについては、情報公開法及び各地方公共団体の条例でインカメラ審査が採用され、これにより不開示決定の適法性・妥当性を判断することが可能となっているが、情報公開に関する裁判については、インカメラ審査が採用されていないため、不開示決定等の適法性・妥当性に係る主張立証が不十分なまま裁判官の心象が形成されるおそれがある。

○第4に、行政庁の訴訟参加の問題。職権により、訴訟の終盤になって突然、行政庁が訴訟への参加を求められることがあるが、訴訟の進行状況も分からず困ることが少なくない。参加決定に当たっては、現に提出されている訴訟資料は行政庁に交付しなければならないとするとともに、どのような訴訟資料の提出を求めることとなるか、理由を付して知らせることとする制度にできないか。

○第5に、地方公共団体特有の問題だが、国の法令に係る立法の経緯等の資料は国に求めざるを得ないのに、必ずしもよく対応してもらえない。何か立法的な解決ができないか。

【質疑応答】(●:委員、○:説明者)

●原告適格については、特定の処分の相手方、狭い範囲の関係者だけではなく、ある程度広い範囲の住民・利害関係者に認める方がいいが、それについては現行法の解釈論の問題というより、政策論的に行政訴訟にそういう役割を担わせるべきではないかとの意見がよく言われるが、どうか。

○第三者に原告適格を認めていくかは、判例等がかなり固まっているので、なかなか解釈でいかないということになれば、個人的な意見としては、そういう利害調整向きの第三者をめぐる訴訟が今少し広く認められてもいいと思う。その場合、今のように当該法令の規定・実体法に従ってのみそれを判断するのか、訴訟法的に解決することがいいのか、一つの大きな論点だ。

●審理が遅いことについては、行政庁側に帰責すべきところが多いのではないか。出訴期間の3ヶ月は行政から見ても短すぎるとのことだったが、行政庁側から見てどのくらいの期間が必要か。

○確かに(行政側の原因で審理が)遅れることもある。3ヶ月の件については、中立であり、行政庁として当然に3ヶ月がいいとも短い方がいいとも思っているのではない、との意味だ。

●今後、地方公共団体が、被告の立場に立ったり、国を訴えたりすることも増えてくるが、そういった訴訟が増えていくときの環境は備わっているか。もし備わっていないとなるとどういう点に力点をおくべきとお考えか。

○機関委任事務制度が廃止されて全部団体事務になり、以前のように訟務検事にお願いするわけにはいかなくなったため、地方団体特に都道府県は、体制整備を急いでいるが、十分ではないだろう。環境が整備されるよう、制度的な手当てをしてほしい。

 (2) 総務省行政管理局からの説明

○行政不服審査法は、昭和37年、簡便な手続きによる国民の権利利益の救済を目的して制定されたが、裁判手続きと比べ、簡易迅速性が特色で、処分の適法性のみならず、妥当性も対象となっている。手数料はとらないので誰でもただで申立てができる。

○不服申立てについては、行政処分の他に、人の収容、物の留置等のいわゆる事実行為についても対象となる他、行政庁の不作為についても対象となる。ただ、刑事事件その他独自の手続が用意されているもの、教育、訓練等その性格上なじまないものは適用除外だ。

○不服申立ての種類は、審査請求、異議申立て、再審査請求。

○申立て期間は、処分を知った日から原則60日以内。

○処理手続きについては、原則として書面による審理を行うこととされている。

○裁決ないし決定の種類は、却下、棄却、容認の3種類で、容認する場合には原処分の一部または全部の撤廃になる。不作為については、容認する場合には何らかの行為をするか、あるいは不作為とすることの理由を示さなければならないとなっている。

○施行状況の調査は、最近は10年ごと、直近は平成6年度に行った。国は全省庁、地方は都道府県、政令市、県庁所在市について調査をしている。

○平成6年度1年間の不服申立てについては、行政不服審査法自体に基づくものが11,713件であり、このうち国税通則法と労災補償保険法の関係がかなり多く、この2つで、全体の87%であり、工業所有権関係等行服法以外の体系に基づく申立ては、23,865件。

○不服申立ての処理状況について、行服法に基づく10,835件のうち、容認は約11%、行政不服審査法に基づかない工業所有権等については、容認率が76%と高い数字となっている。

○都道府県については4,109件が対象期間内に申立てられているが、このうち、社会保険関係がかなり多い。行服法に基づかないものは地方の場合は公職選挙法関係が若干ある。

○行政手続法については、平成6年10月に施行された。行服法が処分後の事後救済を目的とするのに対し、行政手続法は処分前の手続きを定めることにより、国民の権利義務保護と行政の公正・透明性を確保することを目的としている。

○行政手続法は、許認可等の申請に対する処分と、許可の取消しなどの不利益処分に分けて、手続きを規定している。

○申請に対する処分については、審査基準及び標準処理期間を定めて公表することになっており、申請を拒否する場合には理由を付して行うことが規定されている。不利益処分については、処分基準を設定するとともに、処分の性格に応じ、聴聞ないし弁明の事前手続きを踏まなければならない。また、処分を行う場合には理由を付すことが規定されている。

○その他、行政指導、届出の取り扱いについても規定がある。

○行政手続法の施行状況調査は平成11年度に行った。調査範囲は本省庁は全部、標準的な地方支分部、地方については都道府県、政令市、その他標準的な市。

○審査基準の設定状況については、都道府県が81%、国は87%。

○標準処理期間につきましては都道府県が67%、調査対象市は45%、国は79%。

○不利益処分における聴聞ないし弁明については、これをせずに終結している例が現実にはある。聴聞相当処分については都道府県が25.7%、国の場合は45%、弁明相当処分については都道府県65%、国の行政機関の場合96%が不出頭ないし弁明書の未提出によって終結している。

○情報公開法の制度の趣旨は、国民主権の理念にのっとり、政府の諸活動を国民に説明する責務が全うされるように、政府の主権者たる国民に対するアカウンタビリティを確保するものだ。制度の中身は開示請求権制度と情報提供制度であり、不服申立て手続に諮問機関である情報公開審査会を設け、民主的な意見を加味できるようにしている。

○開示請求権制度以外の積極的な情報提供に関しては、情報公開法第40条に抽象的ながら規定がある。今年10月施行の独立行政法人等情報公開法は、情報提供施策を重視した制度であるし、自分のところでも、行政の情報化の流れの中で行政情報の電子的提供を推進し、それによる行政の公開についても近頃取り組んでいる。

○情報公開制度の開示請求権制度のポイントは、開示請求手続と実施手続の二つがあること、申請行為である開示請求とそれに対する処分である開示決定があることであり、これについては不服申立て手続で情報公開審査会の諮問答申手続を加味して行う。

○情報公開法の施行後の1年間の状況だが、情報公開法に基づき、毎年1回、総務省が全体的な施行状況を調査することになっている。平成13年度分の速報によると、開示請求件数は、1年間で48,650件、開示決定件数は45,071件となっている。ただ、請求件数と決定件数は、統合したり分離したりする場合がある。不服申立て件数は1,342件、訴訟件数は14件、そのうち情報公開審査会に諮問されたものは384件であり、答申件数は178件だ。そのうち、いわゆる逆転をしたものは、大体3分の1ぐらいであり、審査会としての機能は果たされていることは間違いないと言える。

○1,000件ぐらいの不服申立受付件数に対して諮問件数が少ないのではないかという議論があるが、不服申立の際に統合するものもあり、実際の諮問件数は少なくなるのが通例だ。

【質疑応答】(●:委員、○:説明者)

(行政不服審査法及び行政手続法について)

●国民の権利救済との関連における不服審査の有効性について、不服審査は租税と社会保障を除くとあまり意味がないのではないか。また、不服申立の前置主義の例が現行法上ある程度あるが、この前置主義を今後も維持すべきかどうか。

○確かに、制度の広がりに比べて、利用の状況がどうかについてはなかなか判断が難しいが、窓口が開いているという意味はある。容認率は10%程度だが、容認率が高いことは、行政としていい加減なことをやってきたことになるので、容認率が低いことの判断は一概には難しい。国税不服審判など、不服申立前置については、個別法で前置の規定を設けているが、そのことの是非については、個々の制度として判断するべきだ。

●裁判だけでなく行政不服審査についても、時間が非常に長くかかっている。裁判の場合はまだ次回判決があと何ヶ月後と分かるが、不服審査の場合はある程度の審理を終えた後実際に結果が出るまで何をやっているか分からないという不満が結構あり、それについて迅速化を図るべきとの問題意識及びそのための方策はあるか。

○確かにかなり長期を要しているものもあるが、それについて色々なところから不満が来たという状況では必ずしもなく、本格的に検討したことはないが、例えば立法的に処理の期間を義務づけるなどの方策が一つあると思う。

●不服申立の処理期間についての統計的なものはないか。

○調査していないが、毎年度の繰越しを見ると、確かにかなり翌年度繰越しというのがあり、そういう状況からすると、相当かかっているものもあると思う。

●是非そういう統計を取り、その観点からの改善もお願いしたい。

●行政不服審査法については、各省で、各担当セクションが審査を担当するのが基本的な形だが、それに対して、国の行政全体についての統一的な審査、あるいは各省で担当セクションから多少距離をおいた各省の審査機関システムを作ってはどうか等の意見は前々から出ているが、どういう問題点があるか。

○専門技術的なことを要するものについては、審査会として第三者が審査を扱ったり、または国税については国税不服審判所で専門的にやっているので、処理能力についての話は聞いたことはないが、たまに不服申立があるようなところでは、少しそういうことがあり得るかもしれない。

●行政手続法が出来、行政事件訴訟法の使い勝手がもっと良くなると、行政不服審査法がそのままでいいか、行政管理局として、今後何らかの再検討の用意はあるか。

○当検討会の議論を踏まえ、柔軟に検討していきたい。

(情報公開法について)

●情報公開法に関する不服申立の受付処理状況を説明いただき、検討中というものがかなり挙がっていたが、どのくらいそこで滞留しているのかという期間的なものはわかるか。

○調査していない。

●裁判管轄について、行政情報公開部会の答申と、それから最終的な法律の仕上がりとは違ってきたが、裁判管轄が変わったことについて、使い勝手が行政庁にとって悪くなったとか、国民の側にとっては大変結構だとか、それでは足りないのでもっと地裁レベルまで下ろせとか、何か意見が出たか。

○そのような具体的な意見は把握していない。

●情報公開審査会には口頭陳述の機会があり、地方から出てこられる場合もあるが、それについて不満のようなものはあるか。

●裁判管轄問題も念頭にあり、一度出張審理をやったが、喜ばれた。

●情報公開訴訟の件数14件の中に、不服申立て後の訴訟というケースはないか。

○どれも、直接裁判所に訴えたものだ。

 (3) 高木教授からの説明

○改正が必要と思われる事項のうち、行政事件訴訟法の基本的構造に直接関係せず、それとして検討が可能なものについて成案を求め、より根本的なものはその後も継続して検討を進めるという「段階的改革論」が適切だ。

○当面の改正の主要な論点は、第1に、処分の取消訴訟を中核とする基本構造を維持する、第2に、処分性は拡大しない、第3に、原告適格を拡大する、第4に、取消しの利益を緩やかに認める、第5に、憲法上の「包括的な権利保護」という要請を満たすことをめざし、原告側の「訴訟類型選択負担」を軽減する、第6に、義務づけ訴訟を法定する、第7に、処分の差止訴訟を法定し、差止要件を緩和する、第8に、行為形式の多様化に即した行政処分の所在を前提としない訴訟類型をいくつか新設する。

○行政事件訴訟に関する判例の現状には、多くの学説から強い不満が表明されているが、立法による改革となると、従来の判例理論の全てをご破算にすべきとは考えない。理由は、第1に、最高裁の判断枠組みは、それなりに学説を意識しつつ、理論的な整合性をめざして形成されており、結論の妥当性に賛成できない場合でも、それを支える論理には傾聴に値するものが多く含まれている、第2に、結論の妥当性という場合にも、その評価は個々の判断枠組み自体について行うだけでなく、いくつかの判断枠組みを全体として行う必要がある場合も多々ある、第3に、訴訟法が裁判官に指針を与えるものである点に着目すると、可能な限り従来の判例法理の蓄積を生かす形での法改正が望ましい、という点だ。

○行政事件訴訟法の改正の検討の際には、現在の判例法理によって個々の条文がどう書き換えられているか検討し、書き換えられた条文を機械的に適用するとどのような不都合が生じるかを明らかにする作業が有効。例えば、処分性についての行訴法3条2項では、「行政庁の処分又は公権力の行使に当たる」が「公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうちで、その行為により直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」と、原告適格についての同法9条本文では、「処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」が「当該処分によって自己の権利若しくは法律上の利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」と書き換えられ、「法律上の利益」とは「当該処分の根拠法規が個々人の個別的利益として保護している利益」とされている。

○最高裁判所の判断枠組みとそれを機械的に適用する裁判例に対しては、「包括的な権利保護」又は「実効的な権利保護」という憲法上の要請が満たされていないとの批判がある。

○処分性が否定される行為を争う他の手段がない場合には「包括的な権利保護」という憲法上の要請に反する、というのが「処分性拡大論」であり、この立場からは、行訴法3条2項の条文は、機械的に適用する裁判例によって「硬化」していると診断される。

○原告適格を否定される者に自己の権利利益を守る他の有効な手段が与えられない場合は「実効的な権利保護」という憲法上の要請に反する、というのが「原告適格拡大論」の発想。そして、行訴法9条本文も元来は柔軟な解釈をとる余地を残している条文であったが、最高裁判所の判断枠組み、そしてそれを機械的に適用する裁判例によって「硬化」していると診断される。

○処分性については、現状維持、あるいは見方によっては処分性の縮小による「処分概念の純化」が望ましく、「包括的な権利保護」という憲法上の要請には、取消訴訟以外の訴訟類型の充実によって応えるべきだ。わが国における処分性をめぐる議論の錯綜の主たる原因は、「取消訴訟の負担過重」あるいは「行政行為論の負担過重」だ。

○取消訴訟の概念等については、日独両国で大きな相違が生じている。ドイツでは、争訟の存在と訴訟類型適合性が論理的にレベルを異にし、権利保護を与えるために取消訴訟の対象である「行政行為」の概念を拡大する必要性は低い。しかし日本では「取消訴訟か民事訴訟かの二者択一」又は「取消訴訟なければ権利保護なし」という発想の影響力が強く、処分性が争われる場合に、ここで処分性を否定すると裁判の拒否になるのではないか、という配慮のもと、最高裁の判例の中には、多少無理をして処分性を肯定したものもある。

○以上の状況は、現在の行政事件訴訟法の基本構造である「抗告訴訟と当事者訴訟の区別」「包括的抗告訴訟概念」、そして「取消訴訟中心主義」によってもたらされている。

○現在のドイツの行政裁判は、1960年の行政裁判所法で基本構造が定められたが、日本の行政事件訴訟法の立案作業は1955年から開始されたのであり、当時日本が参考にしたドイツの行政裁判の仕組みは、現在のそれとは異なったものである。

○処分性の拡大という解釈論上の主張をそのまま立法論上の主張とするのは適切でない。アメリカをモデルに権利保護を与えるべきものを裁判官の柔軟な判断で拾い上げる等のドラスティックな変革は、副作用の方が大きい。日本には、行政処分・公定力という特殊な法的取り扱いの存在を前提に数多くの法律が存在している。行政手続法は、行政法の「行為形式論」の成果を、ようやく見やすい形で示したが、このような行為形式と訴訟類型の有機的な結びつきを切断することは賢明でない。小早川委員の提唱する「連続=協働型」を実現するために、行為形式と訴訟類型の有機的な結びつきが活用されるべきだ。

○原告適格については判例法理による「硬化」への治療が9条本文に施される必要がある。

○原告適格の拡大は、取消訴訟の対象の拡大とは異なり、行為形式と訴訟類型の有機的な結びつきに直接の影響を与えるものではないので、副作用は少ない。

○改正案の中には、原告適格について判例がとる「法律上保護された利益説」的な枠組みの否定を提言するものが見受けられ、魅力的であることは確かだが、多くの提言が、現在と同様に一般条項のみによって原告適格を規律しようとしている点は気になる。

○第三者の原告適格については、「規律的侵害」と「事実的侵害」の類型化の視点で見直す必要がある。「規律的侵害」とは、行政処分の法的効果による不利益で、不利益処分の名あて人が争うような、「公定力の排除」の類型のほか,距離制限規定がある場合に、申請に基づく許認可を競業者等が争う類型など。これに対し、隣人訴訟あるいは環境訴訟のような類型で問題なのは、許認可を受けて事業者等が行う活動によってもたらされる不利益であり、これら「事実行為」による「事実的侵害」がどのような条件の下で第三者の原告適格を基礎づけるかは、理論上必ずしも十分に解明されていない。

○最高裁判所の判断枠組みについても、「権利利益の侵害」が「実態としての被害」を想定しているのか、あるいは与えられるべき保護が与えられないという「観念的な地位の喪失」を問題としているのか、はっきりせず、無意識にアメリカの原告適格の一部である「事実上の損害」的な実務感覚を示しているのではないか。本検討会では比較法研究が予定されているとのことであり、このあたりの疑問をぜひ解明して頂きたい。

○類型化のアイデアにより、従来の判例法理を生かしつつ、比較法的に恥ずかしくないレベルまで原告適格を拡大することが可能ではないか。9条を「処分の法的効果によって自己の権利利益を侵害された者」「処分の存在を前提とした行政機関の活動によって自己の権利利益を侵害され又は侵害されるおそれのある者」「処分の存在を前提とした第三者の行為によって自己の権利利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」などという例示を設け、その他に、「各号に掲げる者のほか処分の取消しを求めるにつき正当な利益を有する者」にしてはどうかというたたき台を示したところだ。

○運転免許の停止処分を争う場合のように、「規律的侵害」が消滅しても、「事実的侵害」が残っていたら、事後的に違法の確認の訴えができるとする方が望ましいのではないか。その際、処分の法的効果がなくなった場合についても「取消し」では違和感が伴うので、直截に「処分の違法確認」を求めることができるという表現が望ましい。

○自分は処分性は拡大しないとしており、その受け皿として、行為形式に応じた多様な訴訟類型を用意することが必要になるが、訴訟類型が多様になると、その選択について原告の負担が増すので、「訴訟類型選択負担の軽減」が不可欠の条件となる。これをどのように行うか更に検討を要するが、最も有力な解決策は、「行政訴訟の教示制度」だ。

○差止訴訟の法定は、法定抗告訴訟の類型を増やし、行政事件訴訟法3条1項という一般条項への依拠をなるべく避けるという意味を有している。義務づけ訴訟は多くの場合申請に対する拒否処分の場合であり、一方で不利益処分の名あて人が争う取消訴訟と分かれることに着目すると、行政手続法との有機的関連を重視した改正という意味を有する。

○差止訴訟につき、最高裁判所は「事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がなければ認めない」という要件を示したことがあるが、それは昭和47年であり、時代も変わっているので、見直しが必要。東京都の外形標準課税条例に関する訴訟では、このような厳格な要件を機械的に適用するとどのような不都合が生じるかが示された。

○現行法の基本構造は「抗告訴訟と当事者訴訟の区別」だが、むしろ一歩進み、行政処分権限の発動・不発動をめぐる訴訟である「処分権限訴訟」とそれ以外の権利義務関係をめぐる訴訟である「権利義務訴訟」に大別した方が、将来の訴訟類型の整備にとって有益だ。

○行為形式の多様化に応じた多様な訴訟類型の整備といっても、土地利用計画の決定や公共事業の計画・実施、技術基準の策定をめぐる利害調整のように、行政訴訟自体が果たしうる機能には限界があり、行政手続の整備や、個別の行政実体法の見直しが併せてなされなければならない。このような観点は、団体訴訟をどう取り扱うか検討する際にも有益だ。

○行訴法の改正論点は、ほかに、適正手続、手続的な瑕疵の扱い、裁量などの本案の審理、裁判管轄等々、技術的な点についても論ずべき点が多く残されている。

【質疑応答】(●:委員、○:説明者)

●処分性を拡大しないとのことだが、例えば計画の前段階や公共事業などについて、どういう差止訴訟の類型を想定しているのか。

○処分が後からされる場合については差止訴訟による。後から処分が出てこなくても、権利侵害が予想される場合には、権利義務訴訟で前段階の確認訴訟を認め、現実に被害が出ている場合には、給付訴訟のアナロジーで妨害排除的なものを権利義務訴訟として認めるということだ。

●客観訴訟的なものは想定していないのか。

○さしあたりはそうだ。ただ立法により新たな訴訟類型をつくる場合については、必ずしも主観訴訟である必要はなく、計画関係で新しく訴訟類型をつくる場合には、若干はみ出しても、一定限度で計画の違法確認を争えることにすれば、立派な訴訟だ。

●「訴訟類型の新設」の提案だが、具体的なイメージはあるか。

○例えば河川区域に該当しないことの確認を求める訴えや、あるいは2項道路に該当しないことの確認訴訟を求める訴えだ。

●今、原告適格がなくて救済すべきだという具体的な例は何か。

○例えば、違法な診療所の許可により、距離制限でパチンコ屋が出店できなくなることについてパチンコ屋が争えないのはおかしい。また伊場遺跡の訴訟も誰も争えないのはおかしい。これは9条の手直しだけでは難しく、団体訴訟的な仕組みが必要。客観訴訟による行政統制、司法による行政のチェック機能を重視すれば、従来の学説がこだわる権利利益侵害の有無を越えられるのではないか。

●多用されている類型という言葉に縛られて議論が進むのは非常に奇異だ。物事の原理原則を理解するための類型化なら分かるが、パターン類型が先に既定要件的にあるのはおかしい。限定列挙をしていかないと現実の世の中の流れに追いつかない法律体系と、そのようなパターンは運用の中で認めていくのと、どちらがいいのか。

○訴訟法の規定の仕方は色々あるが、今までの部品をなるべく生かした方が使いやすいのではないか。道具に縛られてはいけないが、従来のものを一挙に捨ててというのは難しい。

●段階的改革とあったが、今のように構造的に世の中の仕組みを変えようという流れの中、司法だけがそういう段階的改革で世の中の大きな流れにのっていけるのか。

○司法の改革というのは、社会、経済の改革の後、一番最後に出てくるのではないか。

●今の質問は大変重要なポイントだ。行政法の分野ではパターン化すると、一種の排除効を持つということが起こってくる。

●段階的改革論とのことだが、今回無理でも根本的に解決すべきと考えているものは何か。

○今まで、行政訴訟の独自の存在意義は何か等の議論があったが、限られた期間ではけりがつかないので、今回の改革で、どういうものが当面必要かの議論をすべきという趣旨だ。

●「行政訴訟の教示制度」は、不服申立の教示と違い、その教示に裁判所が果たして拘束されることになるかの問題があるのではないか。

○確かに、行政訴訟の教示が有効に働くのは教示によって出訴期間を走らせたり、排他性を出す部分であり、「こういう訴訟で争うべし」という点は難しい。

●提言に「行政裁判所と通常裁判所の二元的構成」とあるが、行政裁判所ができない場合、権利義務訴訟と民事訴訟とはどう違うのか。

○行政裁判所までいくべきか迷っており、当面は一元的な裁判制度のもとで改革するしかない。その場合、民事訴訟と権利義務訴訟の区別は、訴訟手続ではなく、実体法が違ってきて初めて意味のある区別になる。その区別の議論は、今回の改正では避けるべきだ。

●公法と私法の区別の議論を避けた場合、行政事件訴訟法の中に権利義務訴訟という仕組みを入れておかないと救えないことになるのか。

○救うために、行政事件訴訟法の中に権利義務訴訟という仕組みを入れておくのは、理論上必要ない。

 (4) 委員の意見交換

○これからこの検討会をどうしていくかについて、色々な考えがあると思うが、ある程度、時間の制約を念頭に置きつつ、優先順位を決め、実現可能性を見通した上で議論をしていくべきだろう。また、現在の行政事件訴訟法の制定当時、非常に細かい議論を積み重ねていると思うので、当時、どのような議論があったかを踏まえてやっていくべきだ。

○行訴法制定時の議論は、民事訴訟理論と行政訴訟のあり方のすり合わせについての学理的関心の強さと、戦後10何年かの行政訴訟の実務をいかに定着させるかということによるものだったが、今回は利用者の立場から、訴訟の組み立て方自体の改革が課題になっている。色々な注文が色々な方向から来るが、理論的に制御するのは難しいので、戦略的な議論をして、方向性を少し強引にまとめていくしかないのではないか。

○ヒアリングで色々な意見が出てきたのは大きな収穫だが、時間的な制約がある中での作業なので、論点をもっと整理し、何らかの形で優劣を付けざるを得ないのではないか。行政訴訟制度の改革というのは、解答がある作業ではなく、解答を模索する試みであるから、委員には、解答に向けての協力ないし協働というのが非常に重要になるのではないか。

○現場実務の方が末端で一番苦労されているので、ヒアリングについては、行政側の意見ももう少しあっても良かったのではないか。行訴法と他の関連法令がどういう住み分けになっているかを整理してもらえると、行訴法がどこをカバーすべきかが明確になって議論がしやすいのではないか。また、原理原則と実務的・技術的な運用論が一緒になっているので、それを整理すると議論しやすいのではないか。

○今までに色々な意見を聞いたが、普通の国民が司法に参加しながら行政をチェックしていく、または、司法を利用する中で権利関係を明確にする、こういう視点から見ると、もう少し自分で使える制度で納得のいく根拠はこうなっている、というふうな点で自分でも整理工夫していきたい。

○この検討会では素人に徹し、人間としておかしいことはおかしいと言おうと思う。経済学の立場から、特に環境問題に関しては、行政訴訟制度の検討等の対応だけでは済まない。もっと金銭では明確に計れない利益を、実体法等に何々権という形で明確に規定する必要あり。検討すべきことに実現可能性という観点から優先順位をつけて進めて頂きたい。また、人間味のある判決・対応ができるような法律の体系を考えて頂きたい。

○行政事件訴訟制度の国民側にとっての使い勝手に光を当てて頂きたい。行政事件訴訟法は私人の権利救済を阻むのに極めて有効な武器になっている。実利に徹した改正が重要だ。当面重要なことを急ぐのも重要だが、5年、10年かける課題についても、方向として出せればいい。現在、まだ論点が煮詰まっていないが、これまでに出た論点はなるべく広く提示し、事務局で事前に論点を縛らないようにしてほしい。

○5回の検討会で行政事件訴訟法及びそれ以外の大変幅広い問題提起が出され、非常に有益だった。この検討会には、時間的な制約があること、実現可能性の問題もあることも十分承知しているが、どの論点が重要か、どの論点が実現可能性があるか、この検討会の委員の自由で活発な議論をする場を作って頂きたい。検討会資料は、十分な議論がないまま一人歩きしていくことのないように、十分慎重な配慮をしてほしい。

○経験則上、初期に何を実現したいかの実質的な議論が不十分だと、最後、大混乱になるので、分かりやすい形で、こういう規範をつくりたい、またはこういう事例をこうふうにしたいというのをはっきりさせておいた方がいい。したがって、一体何をどう変えたいのかの議論をしやすい資料を、是非事務当局で作ってもらいたい。また、大まかな最終出口までの全体のスケジューリングを示して頂くと有り難い。

 (5) 座長より、次回のフリートーキングでは、多少なりとも事の軽重についての時間軸を含めての意見を頂きたいが、白地で臨むのは適切ではないので、今までの議論を整理したフリートーキング資料を各委員の意見を伺った上で座長の責任で用意したいとの提案があり、各委員により了承された。

7 行政に対する司法審査の在り方についての国民からの意見募集について

 事務局から、行政に対する司法審査の在り方についての国民からの意見募集を、7月初めから行う予定である旨説明があった。

8 次回の日程について

  • 第6回の検討会は、次の日時に開催することとなった。
       7月11日(木)15:00〜17:30
  • 第6回検討会では、フリートーキングを行う予定である。

以 上