- 1 日時
- 平成14年9月24日(火) 13:30〜17:30
- 2 場所
- 司法制度改革推進本部事務局第2会議室
- 3 出席者
-
- (委 員)
- 塩野宏座長、市村陽典、小早川光郎、芝池義一、芝原靖典、成川秀明、萩原清子、福井秀夫、福井良次、水野武夫、深山卓也(敬称略)
- (外国法制研究会委員)
- 中川丈久神戸大学教授、橋本博之立教大学教授、山本隆司東京大学助教授
- (事務局)
- 松川忠晴事務局次長、小林久起参事官
- 4 議題
- 外国事情調査報告
(中川丈久神戸大学教授、橋本博之立教大学教授及び山本隆司東京大学助教授)
- 意見募集結果報告
- 今後の日程等
- 5 配布資料
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資料1 | 行政訴訟に関する外国事情調査結果(アメリカ合衆国)(中川教授説明資料) |
資料2 | 行政訴訟に関する外国事情調査結果(フランス)(橋本教授説明資料) |
資料3 | 行政訴訟に関する外国法制調査結果−ドイツ(山本助教授説明資料) |
資料4 | 行政訴訟に関する外国事情調査結果一覧表 |
資料5 | アメリカ・合衆国法典・司法審査関連部分抜粋(事務局翻訳) |
資料6 | フランス行政訴訟法典(橋本教授仮訳) |
資料7 | 行政訴訟関係法令−ドイツ(山本助教授翻訳) |
資料8 | 韓国・行政訴訟法(2002年7月1日改正 事務局翻訳) |
資料9 | 行政訴訟制度の見直しについての意見募集の結果について
〔概要〕〔項目による分類〕〔意見提出者毎の意見内容〕 |
資料10 | 平成13年度行政事件の概況(最高裁判所事務総局行政局)
(法曹時報第54巻9号(平成14年9月1日発行)から引用) |
- 6 議事
- (1) 外国事情調査報告
(中川丈久神戸大学教授、橋本博之立教大学教授及び山本隆司東京大学助教授)
- 【アメリカ・中川教授】
- 〔説明〕
- 資料1に沿って説明。
- 〔質疑応答〕(□:座長、○:委員、●:説明者)
-
○アメリカで、行政訴訟ないし取消訴訟がどういった形で現れてくるのか関心があるが、例えば原発訴訟がアメリカであるとした場合、個別法が定めるところによるのか。個別法で司法審査訴訟が認められるのであれば、そこで争われるのは違法性か、または妨害排除のような民事訴訟の場合と同じような訴訟原因なのか。
●原発については原発関係の規制法の中に個別法の訴訟規定があるが、資料1の5頁に挙げた要素が入っており、日本の取消訴訟の規定と全く同じ形になっている。付近住民や環境団体が訴えを提起し、そこで主張されるのは違法性である。民事の妨害排除(ニューサンス)、不法行為で訴訟ができるかは州法の問題になり、州裁判所に行くので、アメリカの場合、なかなか同じ裁判所にのらないが、仮にのった場合、司法審査訴訟と民事訴訟の両方できるということを否定する理屈はどこにもないのではないか。
○裁量の審査では、現実の理由が審査されるとのことだが、これは司法審査訴訟特有のものなのか、民事訴訟でも見られるものなのか。
●裁量の現実の理由の審査は全て判例上理屈から導かれたもので、立法でその現実の理由のみ審査せよ、ということになったわけではない。そういう意味では、たとえば株主総会の決議取消の訴訟が、アメリカでは判例法上できるらしいけれども、後から理由つけてはいかんというようなことが仮にあったとすれば、株主総会の場合、議事録が残っているので、現実の理由で判断することになろうが、それとそう変わったものではないという発想ではないかと考える。
○出訴期間がある場合にそれを経過した後は、民事訴訟で争うことはできるのか。
●個別法上出訴期間が定めてあれば、それを過ぎてから判例法上の司法審査はできない。
□資料1の6〜7頁に「(民事訴訟と行政訴訟で)特に性質が違わない」とあるが、アメリカの場合でも、完全な民事訴訟手続とは違う要素が手続上色々あり、行政側はそれなりに真摯に対応しなければいけないというルールがあるという理解でよいか。
●よろしい。ただ、行政活動の司法審査にふさわしい手続の工夫をしなければいけない、という意味では特殊性はあるが、それは、だから民訴ではないということではなく、民訴でも事件ごとに色々な特徴があるということだ。
○実際に起きる行政訴訟は、個別法による訴訟規定と、そうでない判例法あるいはAPAのものと、どちらが量的、質的に多いのか。
●統計がなくてわからないが、行政法の教材になるのは圧倒的に判例法上の訴訟であり、いわゆる著名事件はほとんどそうである。個別法上の訴訟の方はあまり訴訟要件的に問題にならない。
○議会が規制法律を作る場合、権力的規制についてはその個別法に、司法審査の規定を置くということが一般的だと考えてよいか。
●個別法上の司法審査は、ほとんどの法律には付いていると考えた方がよく、個別法上のものは数は非常に多い。ただ、判例法上の訴訟が非常に重視されるのは、個別法以外のものもあっていいのではという形で訴訟が起きた場合に非常に関心を呼ぶという意味では質的に非常に重要だということだ。極めて例外的だという印象では全くない。
○例えば、典型的な争い方は個別法に規定しているが、それをもう少し広げたいというときに判例法が出るということか。
●そのとおりだ。
□日本だと制定法で決まっている範囲を超えるのは、立法趣旨に反するとされるが、アメリカでは、制定法準拠主義の考え方はしないのか。
●それはおよそない。制定法があるからそれ以上のものはできないという反対解釈は全くない。
□禁じたときに憲法問題は起こるのか。
●起こる。禁じたという解釈をするためには、よほど理由がなければならない。
○判例法なりAPAの手続の場合、インジャンクションなり、宣言判決なり求めるときに、出訴期間の制限はあるのか。
●出訴期間に関しては問合せ中だが、誰からも、わからないと言われた。州法、連邦法、一般理論のいずれの制限によるのかわからない。
○日本だと、処分時に存在していたはずだとして、あらゆる理由、事情について、後から、鑑定等で証拠作成することが割合広く行われているが、そういうことはアメリカでは一切ないと考えてよいか。
●原告が重要な証拠を持っていたが、それを行政が採用しないまま決定をした場合、追加証拠申請の手続を踏み、それを裁判官が認めた場合、追加証拠の手続を踏んで、行政機関にもう一度考え直させることはあり得る。しかし、行政庁のイニシアティブではない。
○段階的決定の場合、ある段階で争うことが認められたら、それ以降の段階で争ったらもう遅すぎるとされてしまうのか。
●そういうことはない。ある行為が審査対象として司法審査が認められても、それはその行為だからではなく、紛争の成熟性に基づいてその事件で認められただけであるので、定型的に認められる保障はなく、その後の争いを止めることはない。
○納税者訴訟は、連邦と州でなぜ考え方が違うのか。
●納税者訴訟は、州については自治体については全部、認めているが、アメリカの場合自治体というのは、企業ではないが、連邦破産法にものっていて、自治体の破産も当然あるように、我々のイメージする市町村とは随分違う。自治体の財産が住民からの信託財産であるという説明がしっくりくるものがある。しかし、州は主権国家であり、主権国家について、信託関係が成立するのかどうかということなる。これは判例法上、そんなのは関係ないというところと、そうじゃないところがあるようだ。ニューヨーク州しか見ていないので、残り49州がどうなっているのかはわからないが、法律であえて、いやそれは信託関係があるんだというふうにコモンローの変更という形で、正当化することはもちろん有り得る。それをしなければ州によってない、それだけの違いではないかと思う。
- 【フランス・橋本教授】
- 〔説明〕
- 資料2に沿って説明。
- 〔質疑応答〕(□:座長、○:委員、●:説明者)
-
○行政裁判所の審理の対象になる行政決定に該当するかどうかについて、民事裁判所で行政決定に当たらないとして手続を進めたり、行政裁判所に移送されて来たりする場合もあると思うが、交通整理はどうなっているか。
●民事のルートで上がって行くと、最後は権限裁判所で判断することになるし、行政側に来たり、移送されて来た場合には、下級審のレベルの行政裁判所がコンセイユ・デタに対して一種の重要な法律問題についての申し立ての手続きがあって、一旦審理を執行停止にかけた上で、コンセイユ・デタが法律問題に対して判断し、答申を出す、という仕組みがあるので、そのルートを使って交通整理をすることになるが、かなり法技術的に非常に複雑な問題になるので、微妙な交通整理は簡単にはわからない。それが行政裁判制度を持っている国の最大の弱点だ。ただ、結局最後は権限裁判所で、民事か行政かの判断が行われる。
○民事裁判所の裁判官と行政裁判官との人事交流、あるいは、行政裁判所の裁判官と行政官との間の人事交流はあるのか。
●一般的にはおそらく行政裁判官の方がステイタスが少し高い。司法裁判官が、幾つかのルートで行政裁判官になる手続きがあるが、逆は多分ない。民事の裁判官と行政裁判官とは、基本的には独立しており、民事裁判官から行政裁判官になるパターンは、基本的にはない。他方、行政裁判官と行政官との人事交流は、かなり行われている。
○拒否決定の執行停止が明文で認められ、各種の申請拒否処分につき行政庁に一定の処分を仮に命令することが可能になっているとのことであるが、全面審判訴訟の場合の行政裁判官の権限には実際上制約があるとの説明との関係で、ここでいう申請拒否処分とは日本での本案の訴えとしてどちらの類型に入っているものを考えているのか。そしてまたどういう命令ができるのか、最後的な本体の判断との繋がりはどうなるのか
●執行停止令が2000年に成立し、法典は2001年の1月1日から施行された。今まさに議論されているところである。執行停止の場合の緊急性と違法性に関する重大な疑義という2つの要件があり、その意味では通常の全面審判訴訟の本案判断とはやはり異なる。実際の例としては、通常の建築許可などについて明らかに違法に拒否した時に、下級審レベルでは改善命令できる。これはおそらく本案は切り離されて、あくまで仮処分、仮の救済の手続の一部としてやっているので、全面審判訴訟でできるところとできないところは最後は出てくると思う。
○全面審判訴訟で最終的に実際上の制約があるということで、できないとされている部分について、その手続が仮だからといって、拾える部分はあるのか。
●緊急性と重大な疑義がある場合には、多少はある。ただ、仮の命令のところは非常に理屈がわかりにくいし、今後どういう事例が出てくるのかというのは見ないとわからない。
○判決の執行確保のための命令権限強化と、執行停止・仮救済制度の一環としての命令権限の強化については、密接に関連したものと考えてよいのか。
●両者は方向性が違っている。後者は、ドイツ的なスタンダードに近いものを作るべきとのベクトルが働いている。
○原告適格について、一人では認められないが、非営利社団の方式を使うと広がるということは、理論的にそうなっているのか。
●非営利社団の方式は、最初、有資格者のグループについて認められて以来、かなり古くから認められている。古い議論では、一人ではだめだがアソシアシオンとして目的を掲げてその目的との関係で訴えの利益を認めるという方向性はあったのだろうと思う。
○日本の大阪空港訴訟のような事例は、フランスでは民事訴訟で争うのは可能なのか。
●大阪空港のような事例は、民事訴訟で空港自体の差止めを認めることはおそらくできない。
○運航についてはどうか。
●運航については、運航の根拠となっている行政立法が部分的に取り消されれば、それに基づいた運航は出せなくなり、全面的にではなく夜間だけ等であれば、可能性はあると思う。ただ、公の営造物の理論があるので本体として民事訴訟に乗る例は全体としては考えにくい。
○原発も同様と考えてよいか。
●原発も、つくる時には争えるが、できてしまった後は、損害賠償だけ認められた例はかなりあるが、民事差止め訴訟という形にはならない。
○規律法令があるからそうなのか。
●そうだ。
○ゴミ焼却場建設などの単なる国や自治体の工事の差止めを求めるのは民事訴訟に乗るか。
●事実行為であれば乗るかるかもしれない。営造物という概念が入ってくるとうるさい。ただ、フランスでは、民事では争えない感じはするけれども、色々な形で行政訴訟で争う可能性がたくさんあるので、そのことはあまり問題にならない。
○日本のように民事で行くべきか、行政で行くべきか迷って、訴える方が救済の機会をなくしてしまうという議論はないか。
●あまりそういう議論はしない。
○日本の、運転免許効力停止処分、検査済証交付後の開発許可処分のような事例について、フランスでは訴えの利益が消滅しないとすると、判決の効力は一体どのようなものになるのか。
●そのような事例については、フランス人は訴えの利益はなくならないと考えている。そもそも越権訴訟というのが処分時の行政庁の決定が違法であるかどうかというのを判断する訴訟だから、処分時に違法であるかどうかを本案で言うことになる。
○運転免許などだと、期限が切れてから取消してもらっても、復する状態がないと意味がないのではないか。
●意味はないが、判決は出すことになる。そもそも制度の趣旨として、処分時に違法だったということを、行政裁判所として、宣言することになる。ただ、それでも訴えの利益が残っているという説明をなぜするのかはわかりにくいが。
○開発許可などで、検査済証交付後であっても、開発許可を根本から取り消す、現状復帰せよ、という効力があるのであれば、訴えの利益は残っているという議論は非常に意義を持つと思うが、フランスでもそこまではいかないのか。
●いかない。
○そうすると何のために認めるのか。
●そこは一種のすれ違いであり、逆に、違法なのに何故、処分時について判断しないのか、と言われてしまうことになる。
○裁判手続による執行停止決定をエンフォースメントの手段に利用する、とは何か。
●例えば、フランス行政訴訟法L551−1及びL551−2は地方公共団体がEU指令を守らずに変な行政契約をしたときに国が裁判所に訴えを提起し、命令を出させて自治体に守らせるというものであるが、これらの手続のことである。
- 【ドイツ・山本助教授】
- 〔説明〕
- 資料3に沿って説明。
- 〔質疑応答〕(□:座長、○:委員、●:説明者)
-
□確認訴訟は、行政指導に関する事案も含むということだが、具体的にはどういうような事案か。
●例えば、処分はなかなかしないが、私人がある義務を負うかどうかの争いが確実に存在する場合に、その義務が存在しないことの確認を求めるような場合だ。
□日本では「ある会社の重役は辞めるべきである」などということもあり、およそ義務がないのに行政指導をすることがあるが、あのようなものに訴えの利益は認められるのか。
●ドイツの場合、行政契約、行政指導、両方に通じて言えることだが、何となく背後に権限があるから従うということはあまりなく、かなり具体的な何らかの権限を持ち出すのが普通だ。仮に何か具体的に不利益を及ぼすことがあれば、訴えの利益は認められるのではないか。
□行政指導とはちょっと違うが、いわゆる計算尺みたいなものはドイツではどうか。
●あれなどはまさに認められるケースではないかと思う。先程も、ちょうど計算尺の事例に当てはまるかと思う。
○有名な豚小屋事件について、日本だったら住宅建設について民事訴訟で争われるのに、ドイツの場合には行政訴訟で争うこととなるというのは、民事訴訟ができないからか。
●特別法で特別の規定がある場合には、事後的に何らかの改善措置を求める民事訴訟を除き民事訴訟の差し止めはできないが、豚小屋事件など、特別法がない場合、例えば、普通の都市計画がそうだが、この場合には、民事訴訟を排除するという規定はなく、この場合、民事訴訟は排除されず、むしろできるというのが連邦通常裁判所、最上級審の判決である。
○法規命令の違法確認訴訟と用途地域指定の違法、無効を理由とする特定の地域のステイタスの確認は、別の話か。前者は、命令の違法確認、命令そのものを対象にすることが認められるのか。
●法規命令であれば、およそ違法確認訴訟がすぐにできるということではなく、例えば空港周辺の発着経路を定める法規命令のようなかなり具体的で、もう既に紛争が起きている、などのような場合に、その時点で争える、というものだ。それに対し、用途地域の場合は用途地域の指定があったからといって、すぐに紛争が起きるとは限らず、個別の判断になる。権利侵害が既にあるという場合には、それを除去するのに必要な範囲で訴訟が起こせるということだ。規範統制訴訟とは全くの別のものだ。
○自分に対する適用の違法確認が求められるかの判断基準は、多分、確認の利益で決まると思うが、そういう方式よりは命令そのものの取り消しの方が合理的のような気がするが、そういう議論はあるのか。
●あまりそういった議論はない。やはりドイツでは、権利侵害というところの歯止めを重視するので、これを外すということはしない。ただ、それでは都市計画などの場合に、それではどうもうまくいかないということで、特別に規範統制訴訟をするということだ。
□原告適格について、ドイツは日本と同じ保護規範説だということだが、それを法律で書こうという考え方は、ドイツではあるのか。
●具体的にこれを法律に書くというのは非常に難しいだろうと思う。一般法及び個別法のいずれについても、それを規定したら原告適格が拡がるとは考えられていない。
○資料の「訴えの利益」の箇所で「違法状態により権利を侵害される私人」とあるが、この違法状態というのは、手続上の違法ではなく、実体上の権利についての違法な状態と考えてよいか。
●そうだ。
○日本の場合、取消しを経ずとも、実際上の権利侵害があれば、民事訴訟でストレートにいけるが、ドイツの場合、建築許可・開発許可の取り消しを経ないと次に進めないとの制限がかかっている気がするが、どうか。
●そこがかなり発想が違うところだ。民事訴訟で解決すればいいという議論は、すなわち行政庁が違法な行為をした後始末をしなくていいという理由にはならないというのがドイツの考えだ。
○行政庁がつくり出した違法な状態を取り消した後、除却なり除去なりの是正権限を発動することについては、日本の場合には、例えば聴聞等の段階を踏むことになっているが、ドイツはどうか。
●ドイツでも、段階を踏まないといけない。
○そうすると、行政庁が最初の違法な処分を与えたことによって、ある特定の私人がそういう段階を踏んで、是正命令を発すべきだという権限を保証されている、という理解でよいか。
●その理解でよい。ただ、ドイツでは、違法状態に対する原状回復という考え方が非常に強いから、損害賠償等で片づけるという発想があまりない。あくまで、何かやったらそれは元に戻せというのが原則だ。
○しかし、日本でも除却命令という行政庁の力をかりてやるという方法だけでなく、ダイレクトにそのものを被告にして除去を求めるという訴訟は現実に行われているし、それが不適法だという議論はないと思う。それにプラスアルファでさらに行政の持っている権限を行使してもらうというのは、それは訴訟法の問題なのか、実体法の問題なのか、境界がよくわからなくなってくるが、どうか。
●実体法の問題である。しかし、それは特別に根拠がないと認められないというのではなく、一般法理として認められるということだ。
□ドイツ人が開発した実体法上の請求権で、日本人はまだそこは受け入れてないということだと思う。
それから、日本の場合には、運転免許の停止などがそうだが、取消訴訟にいけなくても国家賠償という方法があり、それで日本が全体として救済の率が上がっているとみるか、やはりそこはおかしいので、さらに国家賠償請求訴訟が少し違法性の判断を抜かしていくような状況のあるときに国家賠償があるからいいじゃないかということになるか、これは今後の大きな問題の一つだ。
○ドイツで、建築許可の取消判決があった場合、その効力として当然に除却命令の発動義務が生ずるということになるのか。日本の場合は除却命令に裁量があり、建築物に除去命令が発動されることはめったにないのが実態だが、日独でかなり実態に差異があるのか。
●この点は、ドイツでも学説が分かれている。かつて結果除去請求権を最初に言った学者はこれには裁量がないと言っていたが、最近の学説はむしろ、措置を取るか否か、また、特にどんな措置を取るか、事情に応じた柔軟性が必要で、裁量があると言っている。したがって、取消判決が出た後で、行政庁が何も措置を取らないとか、あるいは近隣の住民からみて不十分な措置しか取らないなどと争いになって、さらに義務付け訴訟を起こす、という形でその実体法上の請求権を訴訟法上、貫徹することがある。
○大阪空港事件のような事件については、民事訴訟が排除されるようという理解でいいか。増便等の計画策定手続段階で出てこなかった事情について争う場合もそうか。
●大阪空港のようなケースでは、法律上、差止め請求権等が排除され、つまり、差止め訴訟というのは基本的には認められない。しかし、事後的に事情が変化した場合、行政庁に対して計画を補足する措置を取ることを求め、それよりさらに争いがあれば、義務付け訴訟を提起することになる。
○裁量基準について、比例原則と衡量原則ということで一般則としては非常に単純だということだったが、個別法の中での裁量基準は、日本などと比べるともっと詳しいのか、それとも日本並みにかなり不確定概念が採用されているのか。
●網羅的に詳しく調べたわけではないが、個別法に裁量基準をかなり細かく書き込むということはあまりしていないと思う。やはり日本並みではないか。
- 【全体を通しての質疑応答】(□:座長、○:委員、●:説明者)
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□フランスにおいて、行政庁の第一次判断権の尊重、あるいは取消訴訟中心主義という言葉使いはあるか。
●言葉使いとしてはないと思うが、決定前置主義が原則だから、実際上その考え方はある。
□全面審判訴訟が限定的だというのも、取消訴訟を経てこいということか。
●それは違う。全面審判訴訟の場合は、できるけどやらないというものだ。
□そうするとドグマティックはないということか。
●そうだと思う。
□ドイツにはそういう言葉はないのか。
●そういうことを言う人がいないわけではないが、処分について、取消訴訟を起こせるのにもかかわらず不作為を求める訴訟は基本的にはできないが、それ以外の局面では、実際それに反するようなことがかなり出てくる。
□アメリカは確認するまでもないか。
●そうだ。取消訴訟中心主義といっても、取消訴訟自体ない。第一次的判断権に関しては、行政機関に権限が与えられているから、まず反論させるということは一般的な理解としてあるが、それに言葉をつけることはない。
○個別法による訴訟がまずあり、それに対する補充として、判例法上の司法審査がある。だから個別法で、日本で言う取消訴訟のようなものは当然想定されていて、それを第一次判断権とは言わないが、構造は同様だ。
●しかし「個別法訴訟中心主義」というか、個別法に書いてあるから、なるべくそれに持ち込もうというような発想はない。
○先決問題として行政処分の効力を争う「争点訴訟」のようなものは、ドイツではどうなるか。
●調べたことはあるが、あまり出てこない。争点訴訟で出てくる一番典型的な例は農地買収の例だが、同様のものが出てきた場合には、当然行政庁に対して措置を求めることになるだろう。ドイツの場合、あくまで行政庁が原状回復を負うという発想が強いのではないか。
○行政訴訟はかなり広いから、原則的に行政訴訟を起こすので、民事訴訟で起こしていく例がないということだな。
●あまり普通には出てこない。
○取り消した後は当然、民事訴訟になるということでよいか。
●その後も、行政機関の側がちゃんと責任をもって元に戻せ、と、いうことで、結局行政訴訟に乗ってしまう。
○行政裁判所の方で1回でけりがつくと言うことか。
●1回、あるいは2回になる可能性はあるが、とにかく行政裁判所の方でけりをつける。
○ドイツで行政裁判所で1回、通常裁判所で1回ということで、間違った場合に移送とかという制度があるようだが、それをする不都合は指摘されていないのか。
●これはフランスと同じで、非常に制度が複雑だが、裁判所構成法の中に規定があり、ドイツの場合は権限裁判所はなく、ただ要するに裁判所が一旦判断したら、もうそれでいくんだという仕組みである。それであまり問題があるという指摘はないと思う。
□外国比較法研究、外国法研究で、いいところだけ全部日本にいただこう、という議論がたまに起こることがあるが、比較法研究あるいは外国法研究として必ずしも正当な方法ではないのではないか。それなりにでこぼこがある。フランスはフランスなりにへこんでいるところがあり、アメリカも大変綺麗な制度だが、弁護士でないとなかなかわからず、国民には決して親切ではない。あるいは裁量統制については、アメリカの場合はむしろ事実認定の手続を重んじるので、ドイツのような形で、突っ込んであるわけではない。日本は随分、凹の方に収斂しているという感じがするが、それぞれの国の満点のところだけ取り上げてやろうとしても、これはそれぞれ一種の人体のようなものだから、そうはうまくいかないだろうと思う。それぞれの国でそれぞれなりに共通の理念を追求していった結果、多少の凸凹があるのだろう感じる。
○確かにそのとおりだ。裁判をする担い手の違いがそれぞれの国にある。行政裁判制度をとっているか、また、それが司法権かどうかというところが違う。また、司法権の一部だとしても、そこで裁判をする裁判官が日本で行政裁判をやっている一般の民事裁判官と同じような人達なのかどうか、ということもある。制度は、実際上どのように運用されているのか。フランスは明確に違うが、アメリカ・ドイツはどうなのか。
●アメリカは、印象でしかわからないが、行政事件は特に連邦高等裁判所にいくので、連邦高裁の裁判官は何でも担当し、特に行政事件が多いという印象はある。私人間の訴訟は州裁判所である。ただ、連邦裁判所の裁判官が特別に行政法を勉強しているわけではない。アメリカのロースクールで行政法は選択科目だ。連邦裁判所には行政事件が多いということ以外、特に日本と違ったことはない。
●ドイツも、印象に過ぎないが、日本の裁判官と違い、異動があまりなく、かなり一つのポストに長いこと居続けるということが普通だという印象がある。行政法はドイツでは主要な科目だ。
●アメリカは、異動が少ないという面は同じだ。異動がないので、連邦高裁の判事はものすごい行政事件のスペシャリストで、ハーバードの学者などもしており、非常に高い地位だ。
○ドイツの行政裁判官の養成方法は通常裁判官とは異なるのか。
●初めから別だろう。異動しているという気配がほとんどない。しかもドイツの場合にはさらに細かく裁判管轄が分かれているので、わりと初めからスペシャリストという形で養成されるのではないか。
○社会裁判所、財政裁判所の裁判官はどうか。
●財政裁判所の裁判官もあまり動いていないという印象だ。
□外国法制研究会の3人の委員については、今後の個別の論点についての検討の際にも対応してもらえるよう今後も検討会に出席してもらうことで良いか。(委員了承)
- (2) 意見募集結果報告
- 〔事務局からの報告〕
- 資料9に沿って報告。
- 〔意見交換〕(□:座長、○:委員)
-
□国民の皆様にいろいろご意見を頂き、大変ありがたく思っている。今後ともいろんな形で委員の皆様方、あるいは団体の方々からのご意見をお待ちしている、ということを申し上げたい。
○頂いた意見については、委員がこれを読んで参考にするのは当然だが、意見をお寄せ頂いた方は、それだけでは満足しないだろう。パブリックコメント手続のような何らかの対応方法を考えているか。
□パブリックコメントはいろんなやり方があり、閣議決定に定めるパブリックコメントの場合と異なり、審議会あるいは研究会、検討会等が意見をまとめる際のパブリックコメントの場合には、こういう形で披露し、さらに議論の過程でご意見を参照すれば、それはそれとして議事録等に載る、ということになろうかと思う。各意見について、回答するのは、今の段階ではまだ無理ではないか。
○要望については実現してほしい。総数96件はやや少ないという印象だが、議論が進んでいくと、また出てくると思う。したがって、いずれまたもう一遍募集する機会を是非設けてはどうかと思う。
○今回は具体的なことを何も示さずに意見を求めたので、意見を出す方も大変だったと思う。本来のパブリックコメントは、原案を示して、それに対する意見について回答する形になるものなので、さらに適当な時にもう一度、もっと具体的な形でパブリックコメントをやれるかどうかだ。
□やれるかどうかを含めて、検討する。原案ができるのを待ってパブリックコメント手続をしたのでは、任期切れということもあるので、しかるべき段階で意見を聞く場合もある。意見はいつでも受け付けており、その点が普通のパブリックコメントとは違うということを前提にしていただきたい。
- (3) 今後の日程等
-
・10/21の検討会でイギリス及びEUの行政訴訟制度についてのヒアリングを行うこと及び論点(行政訴訟の対象及び類型について)についての検討を行うことが了承された。
- 7 次回の日程について
- 10月21日(月)13:30〜17:30
以 上