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行政訴訟制度の見直しのための考え方


平成16年1月6日
司法制度改革推進本部
行政訴訟検討会


 行政訴訟制度について、行政に対する司法審査の機能を強化して国民の権利利益の救済を実効的に保障する観点から、今次の司法制度改革における立法課題として、次のような考え方で見直しをすべきである。


第1 基本的な見直しの考え方
 行政訴訟制度につき、国民の権利利益のより実効的な救済を図るため、その手続を整備する。


第2 具体的な見直しの考え方


 救済範囲の拡大


(1) 取消訴訟の原告適格の拡大
(見直しの考え方)
 国民の利益調整が複雑多様化している現代行政にふさわしい考え方として、法律の形式・規定ぶりや行政実務の運用等にとらわれずに法律の趣旨・目的や処分において考慮されるべき利益の内容・性質等を考慮するなど、原告適格が実質的に広く認められるために必要な考慮事項を規定する。
(見直しの概要)
 取消訴訟の原告適格を判断する際の考慮事項として、次のような内容を基本とする規定を設ける。
1) 処分の根拠となる法令の趣旨及び目的
2) 処分において考慮されるべき利益の内容及び性質
3) 処分の根拠となる法令と目的を共通にする関係法令の趣旨及び目的
4) 処分が違法にされた場合に害されるおそれのある利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度


(2) 義務付け訴訟の法定(救済方法の多様化−その1)
(見直しの考え方)
 給付行政など国民の行政に対する権利が拡充し、国民の権利利益の保護に行政が果たすべき役割も増大している現代行政に対応して司法による救済の実効性を高めるため、行政庁が処分をすべきことが一義的に定まる場合に、一定の要件の下で行政庁が処分をすべきことを義務付ける訴訟類型として義務付け訴訟を新たに法定する。
(見直しの概要)
第1類型(申請に対する処分を求める義務付け訴訟)
 法令に基づく申請をした者がその申請に対する一定の処分を行政庁がすべきことを義務付けることを求める義務付け訴訟について、次のような要件で訴えを提起することができることとする。
1) 原告適格に関する要件
 法令に基づく申請をした者であること
2) 本案に関する要件(一義性)
 行政庁が一定の処分をすべきことが一義的に定まること
3) 救済の必要性に関する要件
 (i)当該申請を拒否する処分がされた場合において、当該拒否処分が無効であり、若しくは取り消すべきものであるとき、又は、(ii)行政庁が当該申請に対し、相当の期間内に処分をすべきであるにもかかわらず、これをしないときであること
4) 取消訴訟等との関係
 申請に対する処分を求める義務付け訴訟は、申請拒否処分の取消訴訟等とともに提起しなければならないこととし、弁論及び裁判は、両者を一体としてすることを原則とする。ただし、審理の状況等を考慮してより迅速な争訟の解決に資すると認めるときは、裁判所は、申請拒否処分の取消訴訟等についてのみ判決をすることができることとし、この場合における義務付け訴訟の手続の中止に関する規定を設ける。


第2類型(その他の義務付け訴訟)
 義務付け訴訟の第1類型に当たらない場合でも、次のような要件で、行政庁が一定の処分をすべきことを義務付けることを求める義務付け訴訟を提起することができることとする。
1) 原告適格に関する要件
 処分の義務付けを求めるにつき法律上の利益を有する者であること
2) 本案に関する要件(一義性)
 行政庁が一定の処分をすべきことが一義的に定まること
3) 救済の必要性に関する要件
 処分が行われないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その重大な損害を避けるために他に適切な方法がないこと


(3) 差止訴訟の法定(救済方法の多様化−その2)
(見直しの考え方)
 行政の多様化に対応し、取消訴訟による事後救済のほかに行政に対する事前の救済方法を定めることによって司法による救済の実効性を高めるため、行政庁が特定の処分をしようとする場合で、その処分をしてはならないことが一義的に定まるときに、一定の要件の下で行政庁が処分をすることを事前に差し止める訴訟類型として差止訴訟を新たに法定する。
(見直しの概要)
 行政庁が特定の処分をしようとする場合に、次のような要件で、その処分の差止めを求める差止訴訟を提起することができることとする。
1) 原告適格の要件
 処分の差止めを求めるにつき法律上の利益を有する者であること
2) 本案に関する要件(一義性)
 行政庁が特定の処分をしてはならないことが一義的に定まること
3) 救済の必要性に関する要件
 処分が行われることにより重大な損害を生ずるおそれがあること
4) ただし、個別法において特別の救済手段等が定められている場合など、上記の重大な損害を避けるため他に適切な方法があるときは差止めを求めることができないこととする。


 審理の充実・促進(処分の理由を明らかにする資料の提出の制度の新設)
(見直しの考え方)
 審理の充実・促進の観点から、訴訟の早期の段階で、処分の理由・根拠に関する当事者の主張及び争点を明らかにするため、新たに釈明処分の特例を定め、裁判所が、行政庁に対し、裁決の記録や処分の理由を明らかにする資料の提出を求めることができることとする。
(見直しの概要)
 民事訴訟法第151条の釈明処分の特例として、裁判所は、取消訴訟において次のような処分をすることができるものとし、これを無効等確認の訴えのほか、処分又は裁決の適否が争いとなる当事者訴訟又は争点訴訟についても準用する。
1) 裁決の記録の送付
 裁決の取消しの訴え又は裁決を経た処分の取消しの訴えの提起があった場合には、必要がないことが明らかなときを除き、裁決をした行政庁に対し、裁決の記録の送付を求めることができるものとする。
2) 処分の理由を明らかにする資料の提出
 処分の取消しの訴えの提起があった場合において、当該処分に関し、訴訟関係を明瞭にするため、必要があるときは、行政庁に対し、処分の内容、その根拠となる法令の条項、その原因となる事実その他処分の理由を明らかにする資料の提出を求めることができるものとする。


 行政訴訟をより利用しやすく、分かりやすくするための仕組み
(1) 抗告訴訟の被告適格の明確化
(見直しの考え方)
 被告適格を有する行政庁を特定する原告の負担を軽減し、訴えの変更などの手続をしやすくするため、抗告訴訟について処分をした行政庁を被告とする現行の制度を改め、処分をした行政庁の所属する国又は公共団体を被告とする。
(見直しの概要)
 取消訴訟の被告適格者について次のように定め、これを他の抗告訴訟についても準用する。ただし、個別法において被告適格者を明確に定める規定が設けられている場合には、個別法の趣旨を踏まえて取扱いを検討する。
1) 国又は公共団体に所属する行政庁の場合
 処分の取消しの訴えは、処分をした行政庁の所属する国又は公共団体を被告とする(処分があった後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁の所属する国又は公共団体を被告とする。)。
 この場合、原告は、処分をした行政庁を訴状に記載すべきものとするが、この記載がない場合又は誤っている場合でも原告に不利益はなく、この記載の有無又は内容にかかわらず、被告とされた国又は公共団体は、提訴後一定の期間内に処分をした行政庁を自ら特定しなければならないものとする。
2) 国又は公共団体に所属しない行政庁の場合
 処分権限を委任された指定機関(指定法人等)が処分をした場合など、国又は公共団体に所属しない行政庁が処分をした場合には、処分をした指定法人等を被告とする。
3) 1)及び2)によっても被告適格者が定められない場合
 1)及び2)によっても被告適格者が定められない場合には、処分に係る事務の帰属する国又は公共団体を被告とする。


(2) 抗告訴訟の管轄裁判所の拡大
(見直しの考え方)
 行政訴訟における裁判所の専門性を確保しつつ訴えを提起する原告の便宜に資するため、国を被告とする抗告訴訟の管轄裁判所を拡大する。
(見直しの概要)
 国を被告とする抗告訴訟について、行政事件訴訟法第12条の定める現行の管轄裁判所に加えて、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも訴えを提起することができるものとする。独立行政法人等の国に準ずる公共団体についても同様とする。あわせて、判断の統一を図るため、所要の移送の規定を整備する。ただし、個別法により管轄の集中が図られている場合は、管轄裁判所の拡大の対象とはしない。


(3) 出訴期間の延長
(見直しの考え方)
 出訴期間の定めによる行政の安定も考慮しつつ国民が訴訟による権利利益の救済を受ける機会を適切に確保するため、「処分があつたことを知つた日から3か月」とされている取消訴訟の出訴期間を6か月に延ばす。
(見直しの概要)
1) 出訴期間の延長
 「処分があつたことを知つた日から3か月」とされている取消訴訟の出訴期間(行政事件訴訟法第14条第1項)を6か月に延ばす。ただし、出訴期間について、個別法で行政事件訴訟法の特例が定められている場合には、個別法の趣旨を踏まえて取扱いを検討する。
2) 正当な理由がある場合の出訴期間の例外
 行政事件訴訟法第14条第1項の出訴期間を不変期間と定める行政事件訴訟法第14条第2項の規定を改め、出訴期間内に取消訴訟を提起することができなかったことにつき正当な理由があるときは、出訴期間を経過したときでも取消訴訟を提起することができることとする。
3) 裁決を経た処分の取消しの訴えと裁決の取消しの訴えの出訴期間の起算日の統一
 審査請求に対する裁決を経た処分の取消しの訴えの出訴期間の起算日について、「裁決があつたことを知つた日又は裁決の日」(行政事件訴訟法第14条第4項)と定める現行の規定を改め、裁決があったことを知った日の翌日又は裁決の日の翌日を起算日として、裁決の取消しの訴えの出訴期間の起算日(同条第1項及び第3項参照)と同様とする。


(4) 出訴期間等の情報提供制度の新設
(見直しの考え方)
 処分の相手方に取消訴訟によって行政を争う方法について適切な情報を提供し、権利利益の救済を得る機会を十分に確保するため、取消訴訟の被告、出訴期間等に関する情報提供(教示)の制度を新設する。
(見直しの概要)
 行政庁が処分又は裁決を書面でする場合には、その相手方に対し、次の事項について情報提供しなければならないものとする。
1) 当該処分又は裁決の取消しの訴えの被告とすべき者
2) 出訴期間
3) 不服審査前置の定めがあるときはその旨
4) 処分に関しては、これに対する審査請求に対する裁決に対してのみ取消しの訴えを提起することができる旨(裁決主義)の定めがあるときは、その旨についても、同様に情報提供しなければならないものとする。


 本案判決前における仮の救済の制度の整備


(1) 執行停止の要件の整備
(見直しの考え方)
 行政活動や社会の多様化に対応し、個別事情に即してより適切な権利利益の救済に資する執行停止決定をすることができるようにするため、執行停止の要件につき、損害の性質のみならず、損害の程度や処分の内容及び性質が適切に考慮されるような規定に改める。
(見直しの概要)
 行政事件訴訟法第25条第2項本文の定める執行停止の要件(「処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」)に該当するか否かを判断するに当たって、損害の回復の困難性のみによって判断するのではなく、損害の程度や処分の内容及び性質も考慮されるような規定とするため、「回復の困難な損害」との文言を「重大な損害」のような文言に改める等の改正を行う。


(2) 仮の義務付け・仮の差止めの制度の新設
(見直しの考え方)
 義務付け訴訟又は差止訴訟の本案判決を待っていたのでは償うことができない損害を生ずるおそれがある場合に迅速かつ実効的な権利救済を可能にするため、一定の要件の下で、裁判所が、行政に対し、処分をすべきことを仮に義務付け、又は処分をすることを仮に差し止める裁判をする新たな仮の救済の制度を設ける。
(見直しの概要)
 義務付け又は差止めの訴えの提起があった場合に、次のような要件及び手続により、裁判所は、申立てにより、決定をもって、処分をすべきことを仮に義務付け、又は処分をすることを仮に差し止めることができることとする。
1) 仮の救済の必要性に関する要件
 償うことができない損害を避けるため緊急の必要があるとき
2) 本案の勝訴の見込みに関する要件
 本案について理由があると見えるとき
3) その他の執行停止の要件及び手続に関する規定の準用
 仮の義務付け・仮の差止めは、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときはすることができない」(行政事件訴訟法第25条第3項参照)ものとする。その他、執行停止の手続に関する規定は、仮の義務付け又は仮の差止めの手続について準用する。


(その他の検討結果)
 確認訴訟の活用
 行政の活動・作用が複雑多様化したことに伴い、典型的な行政を前提として「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」を対象としてきた取消訴訟を中心とする抗告訴訟のみでは国民の権利利益の実効的な救済をすることが困難な局面への対応の必要性が指摘されている。
 行政の活動・作用の複雑多様化に対応し、国民の権利利益の実効的な救済を図る観点からは、確認訴訟を活用することが有益かつ重要である。確認訴訟を活用することにより、権利義務などの法律関係の確認を通じて、取消訴訟の対象となる行政の行為に限らず、国民と行政との間の多様な関係に応じ、実効的な権利救済が可能となる。


 執行停止に関する不服申立て
 内閣総理大臣の異議の制度(行政事件訴訟法第27条)を含む執行停止に関する不服申立てに関しては、国民の重大な利益に影響を及ぼす緊急事態等への対応の在り方や三権分立との関係も十分に考慮しながら、制度の在り方について、引き続き検討する必要がある。


(委員の意見)
福井秀夫委員の意見
 行政訴訟制度に関して立法すべき今般の課題としては、「行政訴訟制度の見直しのための考え方」(以下「考え方」という)前半部分に列記された項目に止まらず、これら以外にも本来今般立法すべき重要な事項、例えば目的規定・解釈指針の法定、裁量統制規定の導入、事情判決の改善、理由追加の制限、第三者に影響する処分か否かによる出訴期間の有無の区別、訴え提起手数料の合理化、弁護士費用の片面的敗訴者負担制度の導入などが存在する。以下は、差し当たりの取りまとめ対象としてあえて特定された考え方前半部分に列記された項目に関しての意見を述べるものである。
(原告適格の拡大について)
 原告適格については、考慮事項を規定するのみでは足りず、行政事件訴訟法9条の「法律上の利益」という条文上の文言を「法的利害関係」などに変更すべきである。掲示されている考慮事項は従来の最高裁判例を踏襲したものであるのに加え、現行法で原告適格を定義する唯一の法令上の文言である「法律上の利益」をそのまま維持する以上、従来の法令と最高裁判例により画されている原告適格の範囲が判例により今後適切に拡大されると想定することは困難である。文言の変更は原告適格を拡大するための少なくとも必要条件であり、十分条件でない恐れがあるからといって、これを否定する論拠にはならない。
 処分の根拠となる法令のほか、これと目的を共通にする関係法令の趣旨、目的を考慮する場合、環境影響評価法は目的が共通とまで断言できず、同法のすそ切りのために適用されないが、条例や憲法が保護する利益が害される場合、公物管理法がない里道が廃止され、出口が塞がれる場合などで原告適格が承認されないおそれがあり、この考え方では狭すぎると思料する。広く、憲法、当該処分に関係する法令も考慮することが必要である。
 また、考え方前半部分で示された考慮事項では、「利益の内容及び性質」を考慮すべきことが打ち出されているが、実定法により保護することとされている利益について、それが違法に侵害されている以上、「利益の内容及び性質」の差異によって差別する理由はなく、実定法の趣旨目的、利益の侵害の内容及び程度に即して、原告適格が判断されなければならない。生命、身体は保護されるが、財産権、生活環境が十分に保護されない理由はない。訴訟法において、利益の内容や性質で序列をつけるかのごとき考慮事項を記載することは問題が多いと考えられる。
(義務付け訴訟について)
 義務付け訴訟については、これまでのいわゆる制限的肯定説は、取消訴訟原則主義のもとでの例外的な解釈方法によるものであり、訴訟類型の多様化を図る今時の改正においては、本案要件は行政庁が一定の処分をすべきことが一義的に定まることで足り、重大な損害がある場合や、取消訴訟や民事訴訟による救済方法が機能しない場合に限定しなければならないという本質的な理由は見当たらない。
 また、義務付け訴訟の審理の結果、特定の処分をすべきところまでは判断に熟するに至らなくても、処分をしないという判断の過程に看過すべからざる過誤がある場合には、第二類型においても、選択の余地のある一定の効果をもつ処分の発動を命じる義務付け判決も許容すべきである。
(差し止め訴訟について)
 差し止め訴訟についても、仮にその処分を行えば、それが違法となるという意味での一義性を要求するのみで、本案認容の要件は足り、重大な損害を生ずる恐れなどの過重な要件を課すべきではない。仮に重大とはいえない損害ではあっても、行えば違法となるような処分をすることを漫然と原告に甘受せしめるべき理由は見当たらないというべきである。
(審理の充実・促進について)
 資料の提出については、処分の理由を明らかにする資料に限定せず、広く訴訟の対象である行為をするに当たって行政庁が利用した資料は、すべて提出を求めることができることとすべきである。訴訟の争点を明確化するためには、単に「理由を明らかにする」資料のみならず、行政庁の判断を左右しえたであろう参考資料も含めて、適法な行政行為を基礎付ける資料はすべて、法廷で明らかとすべきであるからである。
(執行停止について)
 執行停止の要件の有無を判断する余裕がない場合でも、執行により不可償の損害を生ずると予測される場合には、暫定的な執行停止制度を導入すべきである。また、租税など、金銭の強制徴収については、執行停止が本案敗訴により取り消された場合に負担する延滞金により濫訴を防止することができるので、差し押さえにより債権を確保する限りは、申請があれば、原則として執行停止することとすべきである。
(仮の義務付け・仮の差し止めについて)
 「償うことができない損害を避けるため緊急の必要がある」という要件は、極度に限定的であるため、「償うことが困難な損害を避けるため緊急の必要がある」といった現実に想定され得る要件とすべきである。
(確認訴訟について)
 行政計画、行政指導、行政契約、通達などの行政の活動や作用についての違法等の確認訴訟は、これまでの実務でも、判例でも現実にほとんど活用なされてこなかったことから、仮に確認的なものであるにせよ、その確認、是正などを求める必要性があるかぎり、違法等の確認等訴訟ができる旨の立法を明文で行うべきである。
 この受け皿を公法上の当事者訴訟とすると、それと民事訴訟の区別という、公法と私法の争いが生じて権利救済を阻害するので、その受け皿は公法上の当事者訴訟と民事訴訟とを問わないとすべきである。 
 また、今般、新しい訴訟類型が創設される結果、取消訴訟と義務付け訴訟、不作為の違法確認訴訟の間、取消訴訟と違法確認訴訟・民事訴訟の関係が曖昧で、訴訟類型間のキャッチボールの弊害が予想されるので、いずれか一方で却下された場合他方では受理しなければならないこと、却下する前に裁判所は釈明する義務を負うことなどを定めて、訴訟ルールの不明確性による権利救済の拒否を防止すべきである。
 さらに、大阪空港訴訟最高裁判決に見られた裁判の拒否を防止することなくして、権利救済の実効性の確保という考え方が一貫性をもつとは考えられないので、「行政処分に対しては、民事訴訟法の定める民事訴訟、民事保全法の定める仮処分により直接にこれを差し止めることはできない」という規定を導入して、行政処分への影響が間接的なものは許容されることを明示するべきである。


水野武夫委員の意見
 この「考え方」について、検討会で確認されたが「考え方」の文面上必ずしも明確となっていない点、及び、なお改善を要すると思われる点につき、以下のとおり、若干の補足意見を述べる。なお、これ以外にも、訴え提起手数料の合理化、弁護士費用の片面的敗訴者負担制度の導入等、すぐにでも実現可能なものについては、できる限り法制化すべきである。
1.原告適格(第2−1(1))
(1) 「考慮事項」を書き込む場合、その内容は、従来の判例の到達点を追認するだけで今後の判例の発展を阻害するようなものであってはならない。したがって、考慮事項は、「行政法規が個々人の利益を個別具体的に保護していることを要する」という従来の原告適格の厳格な解釈を前提とせず、原告適格を実質的に拡大する趣旨のものとすべきである。このことは検討会において何度も確認された重要事項であり、法制化に当たり、この点を十分留意する必要がある。
(2) 原告適格を拡大する立法者の意思をより明確なメッセージとして伝えるため、「法律上の利益」という文言を「利害関係を有する者」等の他の文言に変更すべきである。
2.義務付け・差止訴訟(第2−1(2)・(3))
(1) 「一義性」の意味を巡って、いわゆる抽象的義務付けないし指令判決及び申請権のない者の不作為の違法確認判決が可能であることは、検討会で度々確認されているところである。法制化に当たっては、その趣旨が明確になるよう十分配慮すべきである。
(2) 「救済の必要性」などの厳格な本案判決要件を設けることは、その利用が制約されることになりかねない。審理の結果、処分をすべきこと(義務付け)、してはならないこと(差止め)が明らかになった場合には、その旨の判決を下すことができることで十分なのであり、法制化に当たっては、その要件が不当に厳格なものとならないようにすべきである。
3.本案判決前における仮の救済の制度の整備(第2−4(1)(2))
(1) 執行停止の要件について、「回復の困難な損害」の文言を改めるべきであるが、法制化に当たっては、厳格な要件と運用のために国民が執行停止制度の利用を諦めがちであること、執行停止制度の機能不全のため事情判決がされる場合が少なくないことを考慮し、その要件を緩和し、国民にとってより使いやすい制度とするための工夫がなされるべきである。
(2) 仮の義務付け・仮の差止めの「償うことができない損害」という要件は、あまりに厳格であり、法制化に当たっては、より緩やかな文言を工夫すべきである。
4.確認訴訟(その他の検討結果)
 確認訴訟を積極的に活用していくべきであるという共通理解が得られているが、何も法改正を行わないのに、今後これが現実に活用されるかは、大いに疑問である。したがって、抗告訴訟の対象に該当しない行政の行為について、公法上の当事者訴訟として、その違法確認訴訟が可能であることを条文に明記する必要がある。法制化にあたっては、条文化について検討すべきである。


行政訴訟検討会委員(11人)(五十音順)


市村  陽典(東京地方裁判所判事)
小早川 光郎(東京大学教授)
(座長)塩野   宏(東亜大学教授)
芝池  義一(京都大学教授)
芝原  靖典((株)三菱総合研究所取締役)
成川  秀明(日本労働組合総連合会参与)
萩原  清子(東京都立大学教授)
福井  秀夫(政策研究大学院大学教授)
福井  良次(総務省大臣官房審議官)
水野  武夫(弁護士)
深山  卓也(法務省大臣官房審議官)