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国際化検討会(第11回)議事録



1 日 時
平成14年10月17日(木)14:00〜16:50

2 場 所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委員)
柏木昇座長、加藤宣直、久保利英明、孝橋宏、下川真樹太、下條正浩、道垣内正人、乗越秀夫、波江野弘(敬称略)
(事務局)
古口章事務局次長、齊藤友嘉参事官

4 議 題
(1) WTOサービス交渉におけるリクエストの概要について
(2) 弁護士の国際化と法整備支援の推進について(自由討論)

5 議 事
○柏木座長 それでは所定の時刻になりましたので、第11回国際化検討会を開催させていただきます。本日は御多忙の中、御出席いただきまして誠にありがとうございました。
 早速ですが、今回の議事予定につきまして事務局から御説明をお願いします。

○齊藤参事官 御説明申し上げます。前回の検討会におきまして、本日弁護士と外国法事務弁護士等との提携・協働の推進に関する制度改正の方向性ないし基本方針につきまして事務局から御説明することを御案内申し上げておりましたけれども、基本方針を固めるに当たりまして、これまでの制度の施行状況や規制緩和に伴う弊害のおそれの有無などを総合的に勘案しながら判断する必要がございますところ、これらの状況の見極めにいましばらくの時間がかかる見込みですので、今回基本方針の報告を行うことは保留させていただきたいと存じます。
 ただし、いずれにしましてもこの問題につきましては平成15年通常国会に法案の提出が予定されておりますので、本検討会の議論を踏まえつつ、できるだけ速やかに結論を固めてまいりたいと考えておりますので、御理解を賜りたいと存じます。
 そこで、本日の議事についてですが、まず下川委員からWTOサービス交渉におけるリクエストの概要につきまして御説明いただくことにしております。次に、前回時間の関係で意見交換ができませんでしたが、弁護士の国際化と法整備支援の推進につきまして自由に討論をしていただきたいと考えております。本日は、現段階で想定される検討のポイントという簡単なペーパーを事務局で作成し、お配りしてございます。このペーパーなどを御参考にしていただきながら、検討すべき項目や検討の進め方などにつきまして忌憚のない御意見をいただければと存じます。以上でございます。

○柏木座長 ありがとうございました。

○乗越委員 法律の準備の話なのですけれども、この検討会として私が感じている限りでは、かなり明確な方向性というものは7月の段階で出たような気がいたします。それから既にもう3か月近くたっておるわけですけれども、まだこの段階に至って準備が終わっていないというのはどういう点がもめているのかとか、その辺の背景についてできればお話を伺いたいと思うんですけれども、可能でしょうか。

○齊藤参事官 余り詳細に説明するというのもちょっと難しい面がございます。いずれにしましても、先ほど申し上げたようにこれまでの外国法事務弁護士制度の施行状況といったものをどう評価するか。それから、やはり規制緩和に伴う弊害のおそれというものを、考え方としてはかなり弊害のおそれを大きく評価するような考え方もあれば、それほど憂慮する必要はないのではないかという考え方などもございました。そういう考え方についての議論は大体尽くせているのではないかと思います。
 ただ、実際に弊害のおそれというのを実証的に検証するということもなかなか一面困難な面があるのではないかと思います。そういったことなども総合評価したり、それからある程度政治情勢なども勘案しなければいけないとか、そういったことをもろもろ今、検討しているところでございます。

○孝橋委員 先ほどおっしゃいました平成15年の通常国会の法案提出ということからすると大体時期的にはいつ頃が何らかの方向性を出すリミットになるということなんでしょうか。

○齊藤参事官 その意味では、ちょうど今頃がそろそろ時期だったんだと思います。ただし、最終的に立案作業などをどんなペースでこなしていくかによってはまだぎりぎり間に合うのかなという気もしています。

○乗越委員 7月に出た当検討会しての大体の方向性との関係で、特にこういう点がなかなか収まらないとか、そういうふうなところというのは今の段階では指摘できますか。例えば、この点については大体政府部内でコンセンサスはできているけれども、この点についてはまだもめているとか、そのようなことはありますか。

○齊藤参事官 それはいろいろと状況そのものを御説明するとまた議論の蒸し返しになってしまうかもしれません。ですから、そこは事務局の方で責任を持って整理をつけていきたいというふうに一応は考えています。

○柏木座長 よろしゅうございますか。それでは、事務局から配布資料の確認をお願いします。

○齊藤参事官 資料11−1は国際化検討会の名簿でございます。波江野委員に転勤がございましたので、その部分は訂正してございます。御参照ください。
 資料11−2は「WTOサービス交渉におけるリクエストの概要」でございます。外務省の方で作成していただいたものでございます。
 資料11−3は「弁護士(法曹)の国際化と法整備支援の推進について」、現段階で想定される検討のポイントを事務局で整理を試みたものでございます。
 それから、お手元に参考資料として欧州委員会委員のボルケスタイン氏からの書面を参考として配布させていただいております。仮訳が付いてございますので、御参照ください。 それから、もう一つ参考資料として「法整備支援関連文献リスト」というものを配布させていただいております。これは事務局の方でリストアップしたものでございますので、今後の参考にしていただければと存じます。以上です。

○柏木座長 ありがとうございました。
 それでは議事に入ります。まず、WTOサービス交渉におけるリクエストの概要につきまして、下川委員より御説明をお願いします。

○下川委員 それでは、WTO交渉におけるリクエスト内容について簡単に説明させていただきたいと思います。
 今年の6月末の初期リクエスト提出を踏まえましてリクエストオファーの交渉が正式に始まったわけでございますが、日本はこれまでのところ22か国からリクエストを受けております。そのうち、法律関係について何らかのリクエストを行ってきている国が9か国ございまして、その概要の主要な点をある程度類型化してまとめたものが席上にお配りしているリストでございます。必ずしも網羅的ではございませんで、いろいろと細かいところで落ちているところもございますが、要求してきている国との整理をして類型化すると大体このような項目が出てきております。
 主に国の名前が出てきているところで申し上げますと、米、EC、豪州、それから最近加盟したばかりで法律分野について何らかの約束をした台湾、中国辺りが名前がよく出てくる。あとはニュージーランド、星と書いてあるのはシンガポールでございますが、シンガポールとかメキシコ等からリクエストがきているということでございます。
 類型化して申し上げますと、ここにございますように1つには外国法事務弁護士と日本弁護士との提携の自由化、パートナーシップとかアソシエーションとかという言葉を使っておりますけれども、その自由化を求める。それから、外国法事務弁護士が母国法、第三国法、国際法を扱うための参入、事務所設置の自由化というようなことが出てきます。
 ちなみに、ここで外国法事務弁護士というふうに書いてありますけれども、我々はそういうことであろうと理解してこういうふうに一応まとめて整理して書いてありますが、リクエストの中では必ずしも明確ではない場合もあります。フォーリン・ロイヤーと書いてあったり、フォーリン・レジスタード・ロイヤーと書いてあったり、コンサルタントと書いてあったり、そこは若干言葉の用語は違うこともございますけれども、基本的には外国法事務弁護士を想定しているという想定の下で整理いたしております。
 2番目はやはり雇用禁止の撤廃でございまして、この関係では米、EC、豪州、台湾から雇用禁止を撤廃してほしいということが出ております。
 更に3番目には外国法事務弁護士、ロー・ファームの法人化及び複数支店設置の自由化、それから外国ロー・ファームの名称使用の自由化といったようなリクエストもきております。
 更には、これ以降は日本の現在のウルグアイラウンドに基づいて約束表に基づいたものが多いかと思いますけれども、自然人がサービス提供を行うということがすべからく書いてありますので、そこの部分についての制限の撤廃、これは法人の設立を認めるということとも関係してくると思いますけれども、自然人に限るというのがウルグアイラウンド当時の約束表の書き方になっておりまして、その部分についての撤廃の要求、それから第三国法に関しましては、これは第三国法に関する業務禁止といいますか、より正確に言うと日本の弁護士と同等の条件での業務提供を許容することといった方が正確かもしれませんけれども、第三国法のアドバイスに関する規制の撤廃といいますか、そういうようなリクエストが米、豪からきております。更にEC、豪からは外国法事務弁護士に関する職務経験要件の撤廃というようなリクエストもございます。
 あとは、いろいろな約束表にございます180日間の居住要件の撤廃、それからここには書いておりませんけれども、第1モード、第2モードでのサービス提供において拠点設置が必要であるということが条件として書いてありますが、そういう拠点設置要件を第1、第2モードについては撤廃してほしいというようなリクエストも受けているところでございます。
 以上が主要な項目でございまして、大体リクエストしてきている国というものもここに表れているようなところでございまして、リクエストをしてきている国はこれで9か国網羅されているかと思います。
 2の方は御参考でありますけれども、我が方から出している法律関係のリクエストということでございまして、これは法律に限らずサービス分野において重点的に多くのリクエストを行っている国というのが大体20か国ほどあるわけでございますが、その20か国を大体中心にしてここの4つの累計のリクエストを行っている。1つには、そもそも現地の法律の弁護士ならば弁護士資格を取れるようにする、そこの約束がなされていない場合があるので、その部分を約束していない場合には約束をすべしということ。
 2番目にいわゆる外国法事務弁護士制度といいますか、母国法、原資格国法の法律サービスを提供できるように、そこの部分について約束していない国について約束せよということ。それから、職務経験要件についてその際、直近3年とか、最長の場合ですと5年とか7年とかいろいろな条件が付いている場合がございますので、通算で3年以内に職務経験要件を緩和すべしということを該当する国については要求しています。更に米、EC、豪州等についてはこの外国法のサービス提供についてすべての州ないしはすべての加盟国においてそういう制度をつくるようにということをリクエストしているところでございます。 3番目については第三国法ないしは国際法についての資格ということ、プラクティスといいますか、コンサルタンシーを十分約束していない場合がありますので、約束表にそこが明示されていない場合についてはその約束を行ってほしいということを言っております。 4番目は先ほども申し上げたことと重複するところでございますが、州ないしは連邦制、ないしはEC等についてすべての州、国において同水準の自由化約束、高い水準の約束をしてほしいということをリクエストしているところでございます。
 以上がこちらの方から行っているリクエストでございまして、まだ二国間交渉というのは端緒についたばかりでございまして、7月に第1回目の意見交換というのをこの法律に限らずすべての分野についてやったところでございますが、今後更に交渉が進んでいくことになろうかと思います。簡単ですけれども、以上でございます。

○柏木座長 ありがとうございました。ただいまの下川委員の説明につきまして何か御意見、御質問がございましたら発言をお願いします。

○乗越委員 1点だけ、短期リクエストの中で先方がフォーリン・ロイヤーとかカウンセルとか言っているときに外国法事務弁護士というふうに整理している、とおっしゃいましたけれども、それはちょっと危険なのではないかという気がいたします。恐らく外国政府の方から見れば外国法事務弁護士という概念はよくわからないでしょうし、それからこういう要求を出してきたときにテクニカルにどこにレジスターされているかということを念頭に置いて言ってきたのではないと思いますので、フォーリン・レジスタード・ロイヤーと書いていない限り、全部外国法事務弁護士というふうに整理するのは若干危険なのではないかという気がいたします。

○下川委員 今のは確かに2つ大分次元が違う問題があるというのは認識しておりますので、そこは個々のリクエストを読み解く中では十分気をつけて見ていきたいと思っております。
 ちなみに、ECのリクエストの中では雇用禁止の撤廃及び完全なパートナーシップの自由化という文脈の中ではレジスタード・フォーリン・ロイヤースという言葉を使っていますので、恐らく外国法事務弁護士を念頭に置いているということは言えるかと思います。

○柏木座長 ありがとうございました。ほかに御質問ございませんか。

○下條委員 意見ですけれども、サービス交渉ということで普通の経済原則に支配されるようなサービス産業、つまり弁護士も医師もコンサルタント業みたいに見られて、経済原則が支配するものとしてこういうWTOサービス交渉でとらえられるということについては非常に違和感がございまして、弁護士職というのは前から申し上げておりますように非常に公益的な側面も持っている。アメリカなどでもオフィー・オブ・ザ・コートと言われたりしております。そういう面で、普通の経済原則に支配されるサービス産業とは非常に違うのではなかろうかということがございまして、前に弁護士会同士が自分たちの規律は自分たちで決めようということで世界各国の弁護士が集まって会議を持ったりしたこともありましたけれども、そういう意味から言うと、例えば世界各国の弁護士が集まって弁護士のこういった国内規律といいますか、そういうもののあるべき姿というものを世界各国の弁護士会同士である程度合意して、それをとりあえずはWTOサービス交渉から外して弁護士会同士で合意する。そのようにしてでき上がったものをまた各国のWTOサービス交渉に持っていくということは可能なのでしょうか。

○下川委員 恐らく各国それぞれ弁護士、法律サービスというものが通常の純粋な経済的な産業活動とは違う性質を有している。弁護士の独立性の問題ですとか、相互に不当関与してはいけないとか、そういう基本的な原則については恐らくだれも疑問視していないということは言えるかと思います。また、各国においてそれぞれの法律協会なり団体が高度の自治を持って規律を定めてその独立性を守るための活動をしている。そのことについても、恐らく異論はないんだろうと思います。
 他方で、どういう程度でその市場アクセスないしはその交流を認めるべきなのかということについては、まさにウルグアイラウンド交渉のときから議論があった末に、このWTOサービス交渉の一つの重要な分野として組み込まれたわけでございまして、いったんこれを交渉の対象から外して関係団体同士でまた話し合いをした後で最終的にそれを戻すという御趣旨だとすると、これはなかなか事実上無理なのかなというふうに感じております。 ただ、先ほど申し上げたようにそれぞれ独自にいろいろと規律を設けているという部分について更に各国の団体などでいろいろと協調を進めていただいて、その分野で協力を進めていただくということについては別にこのWTO交渉と矛盾するものではないと思いますし、それ自体は今後どんどん進めていかれるべき話なのではないかと思っております。

○柏木座長 ほかに御意見、御質問ございますか。

○久保利委員 1つ質問ですが、リクエストはお互いに出しているわけですが、これに対して、ではこういうふうにするというオファーというんでしょうか、自由化の要請に対する提案の提出の時期はいつごろというふうにお考えですか。

○下川委員 イニシアルオファーは来年3月末ということになっておりますので、1回目の各国の回答といいますか、まさにオファーを来年3月末に出すことになっております。

○久保利委員 3月末までに出すということですか。

○下川委員 リクエストは6月以降五月雨式に出てきておりまして、オファーも3月末以降出していこうということですけれども、基本的には一斉に出すことが期待されているということです。

○久保利委員 さきほど参事官の方から、来年の通常国会に法案を出すというお話がありました。その通常国会は1月から始まるのでしょうが、1月から6月あたりまでの通常国会でこの外国法事務弁護士法の審議をしている最中にオファーが出てきたり、あるいはそのオファーに対するさらなる二国間交渉が始まったりという状況と、時期的にはオーバーラップする感じになるんですか。

○下川委員 それは国会の審議日程がいつになるかにもよりますけれども、極めて近接しているということは間違いないと思います。

○久保利委員 これはよく国会関係筋にお話を聞きに行くと言われる話ですが、まさに先に手の内を出す馬鹿はおらぬのだから、国会の審議が来年の通常国会だとすれば、少なくともこちらがどこまでお譲りするかというオファーの話は、あるいはそのオファーをやることが前提になっているときに、何もそんなに早く骨格をつくらなくてもいいではないかという議論をなさる方もいらっしゃるように聞いているのですけれども、その辺のことを参事官はさっき政治的状況も含めてというふうなニュアンスでおっしゃったのですか。それとは別な話なのですか。

○齊藤参事官 私が申し上げたかったのは、外国法事務弁護士法の改正そのものについてもやはり順調に国会で審議され、承認され、可決されるという見通しの中で政治情勢がどういうふうに影響してくるかという点について申し上げたつもりです。

○久保利委員 わかりました。

○柏木座長 ほかに御質問、御意見ございますか。
 どうもありがとうございました。WTOの交渉の動向につきましても、今後適宜御報告をお願いしたいと思います。
 それでは、次に弁護士の国際化と法整備支援の推進につきまして、委員の皆様で自由に意見を交換していただきたいと思います。まず事務局より資料の説明をお願いします。

○齊藤参事官 資料11−3をごらんいただきたいと思います。簡単なものでございますが、事務局の方から説明させていただきます。
 この資料は、弁護士の国際化と法整備支援の推進というテーマにつきまして、現段階で想定される検討のポイントを一応示したものです。ただし、議論の範囲をこれに限定してしまうというような趣旨ではございませんので、ここに記載された以外の検討のポイントにつきましてもアイデアをお出しいただいたりして御意見をいただければと思います。
 まず1の「弁護士の国際化への対応強化」についてですが、司法制度改革審議会意見書におきましては今後国際的な法律問題が量的に増大し、かつ内容的にも複雑、多様化することは容易に予想されるところ、弁護士がこの法的需要を十分に満たすことができる質の高い法律サービスを提供できるようにする必要があると、このように指摘されております。また、今後は弁護士が社会的なニーズに対応して公的機関や国際機関といった社会の隅々に進出して多様な機能を発揮することが期待されております。まず、このような弁護士の国際化の意義について確認したりすることはいかがかと思います。
 それから、国際化への対応強化の方策につきましては、国際感覚の豊かな弁護士の養成及び国際的舞台への弁護士の進出という2つの切り口からのポイントが考えられるのではないかと存じます。括弧内に記載してございます基盤整備としての執務態勢の強化等ですが、これらは司法制度改革審議会意見書に記載のある、更に具体的なポイントを幾つか記載してみたものでございます。
 「国際感覚の豊かな弁護士の養成」につきまして、語学力や国際的な法律問題を処理するために必要な専門的知識を有する弁護士の数がまだまだ十分とは言えないのではないかという現状認識から、そのような弁護士の養成の在り方や具体的な方策を検討するということも考えられるのではないかと存じます。
 「国際的舞台への弁護士の進出」につきましては、例えば国際感覚の豊かな弁護士が国際機関や国際交渉の現場で活躍することも弁護士の国際化の重要な要素の一つであると思われますので、そのための方策を検討してはいかがかという趣旨でございます。
 次に、2の「法整備支援の推進」についてですが、第3回の検討会で法務省の法務総合研究所などから現状の報告を受けたところでございます。その際に多少お話がございましたが、いま一度法整備支援の意義や目的を確認する必要があるのではないかと思います。そして、法整備支援の歴史は特に民事法の分野におきましてはまだまだ浅く、10年にも満たないもののようでございます。これまでに試行錯誤を繰り返しながら支援が行われてきたとの指摘もございますので、「法整備支援のための基盤整備」について検討するのはいかがかということで指摘させていただいております。括弧内に更に具体的なポイントの一例が記載されておりますが、特に財政・人的基盤の充実化につきましては第3回の検討会におきましても委員の皆様より御指摘をいただいたところでございますので、指摘させていただいております。これらを参考にいろいろと御議論いただければと思います。以上でございます。

○柏木座長 ただいま事務局から、現段階で想定される検討のポイントの説明がございましたが、これは議論の範囲を特にこれに限るという趣旨ではありません。11−3の下の方にも「その他」というところが記載されております。更に付け加えるべきポイントや、ここにあります検討のポイントについての御意見、または検討の進め方についての御意見など、御自由に御議論いただければと思います。
 事務局から用意いただいた検討のポイントの第1番として「弁護士(法曹)の国際化への対応強化」、2番が「法整備支援」ということになっております。それで、1番の「弁護士(法曹)の国際化への対応強化」の最初の○ですけれども、「弁護士の国際化の意義等」ということになっております。ちょっとこの表題ははっきりしないのですけれども、現状認識としてどういう問題が今あるのかというようなことから御議論をいただくのがいいのかと思うんですが、ほかに議論の進め方についてアイデアがございましたらお願いします。

○道垣内委員 個別の項目に入る前に何を目指して議論するかということなのですが、全体の枠組みは理解しているつもりで、意見書に盛り込まれている提言を具体化するということだと思うのですけれども、具体化する場合に今までの外国法事務弁護士法については法改正につなげるということでしたが、同じように、ここで決めたこと、あるいはそれがそのままつながるようなしくみではもちろんないと思いますが、相当実効的に実現されるということが保証されているような前提で議論していると思うのです。こちらの今日の2つの問題あるいは3番目以降もあるのかもしれませんが、これについては必ずしも法令改正につながるとは限らないのですが、しかし、法改正につなげようと思えばつなげることもできる項目もありそうでございまして、そういうことにもなり得るということで議論ができるのか。それとも、それはお任せください、あるいは将来の課題ですということでその理想論をまず言いましょうということなのか。何でも言えそうなテーマなものですから、現実性のあるものを固めていくのかどうか、その辺を御説明いただければと思います。

○齊藤参事官 この2つの検討事項につきましてどういう成果を想定できるのかという点ですけれども、改革審の意見書におきましても、あるいは推進計画におきましても、所要の措置を講ずるという程度の表現ぶりになっておりますので、必ず立案課題は除く、とも含まれ得る、とも、そこはある意味で明確ではないというふうに今の時点ではお答えしておくべきなのかと思います。ですから、確かにこの検討項目の趣旨に沿って実現可能な立案課題ということがもしも明確にとらえられれば、その方向で更に検討が進むということもあり得ないわけではないと思います。
 ただし、何らかの立案課題を必ず措置せよというふうに要求されているわけでもないと思いますので、その辺はまずは自由に御検討いただくということの方が先なのかなという気がしています。

○道垣内委員 わかりました。

○下條委員 それは我々の間で自由に議論をして、その結果、例えば事務局の方で何か提言をまとめるとか、そういうことにはならないのですか。

○齊藤参事官 提言ないしは何らかの運用改善措置のようなものをまとめて、それを活かしていくという、これも一つの措置事項としてあり得るのではないかと思っています。

○久保利委員 そういう前提で考えるとすると、御本人を目の前に置いて大変言いづらいのですが、『ジュリスト』の10月15日号「日本法の国際化」という特集で道垣内先生の司会で座談会がされていて、大変示唆に富んだ議論がなされているというふうに私は理解しているのですが、それを読んで、かつ今日の資料11−3というものと比較してみると、1つ抜けているものがこの中にあるのではないかと思うのです。すなわち、日本法の空洞化といいますか、日本法そのものを国際的に使い勝手の良いものにする、あるいは日本の裁判所そのものを国際的に使いやすいものにしていく、あるいは日本法を法整備支援ということではなくて、日本の判例なり日本の法令というものを世界に発信をしていくという日本法そのものを国際水準にしていく。弁護士だけではなくて裁判所も含めてそういう日本法あるいは日本の裁判所、あるいは裁判所にまつわる全体というものを国際的な空洞化から取り返す動きというものがやはり国際化として必要なのではないか。それは、この1と2とはちょっと違う切り口なのかなと思っています。
 この検討会の最初の段階でも、たしか柏木座長が、日本の例えば「債権」という言葉を英語に訳すときに正しく訳せるのかどうかとか、そういう問題、あるいは日本法を全部英文で翻訳をしてきっちりとそれを出しているような、そういう権威ある書物というか、そういうものさえも実は十分ではないのではないかという指摘もあったように思うので、そういう部分についての議論というのも一項目立てていただきたいというよりも、立てるべきだと思うのです。そういうふうに考えていくと、それはかなり具体的な提言なり、予算を必要とするかもしれませんけれども、日本のすべての法律を全部英訳をして、それを国際的に発信できるような予算措置をする、あるいはそれだけのマンパワーを集めてそういうものを作っていく、あるいは少なくとも日本の最高裁の判例くらいは全部英文で出せるようにしていくとか、そういうような提言措置につながるのではないかということも考えるのですが、そういう議論もしてよろしいのですね。

○柏木座長 確かに最初の議論のときに、例えば道垣内委員からも日本の法律がどこまで適用になるのか、はっきりしない法律が非常に多いというふうな指摘などがありました。恐らくそういう問題も議論することになると思いますが、それは第3番目になるのではないか、次の議論かなという気がしたんですけれども、それでよろしいですか。第2回検討会の検討事項案では1が外国法事務弁護士問題、2が弁護士法曹の国際化への強化、3が法整備支援の推進、4がその他になっています。そのその他に、こういうまさに日本の法制度自体の国際化というものが入ってくるのかなと思っていたのですが、いかがですか。

○齊藤参事官 検討項目に明確に掲げてよろしいかどうかは私の一存では決めかねるところもございます。やはりいろいろと幅広に課題を取り込もうとすればある意味で際限ないかもしれませんので、どこかで一通りの区切りのようなものを設けながら議論を深めていただく必要もあるかもしれません。
 ただ、少なくとも全く議論もできないということではないと思うんです。ですから、この日本法を海外に発信するという視点から、一通りの御議論もある程度していただくということ自体は私は差し支えないかとは思うのですが、どこまでそれを明確な検討事項としてとらえ得るかという点は少し御議論をいただいてから判断させていただく方がよろしいのかなという気がいたします。

○久保利委員 私が申し上げているのは意見書の55ページの9行目ぐらいに、また司法制度等に関する情報を一層積極的に海外へ提供し、共有していくべきであるという2行がありますので、当然これも意見書の範囲内に入っているんだろうと思ったものですからそう申し上げたわけでありまして、参事官の一存でもよろしいとおっしゃっていただけるのかなと思ったものですからそう申し上げたのですが。

○下條委員 私も今の久保利委員の意見に賛成でして、この表題を見ますと弁護士の国際化ということで、弁護士の国際化ができていないということで、弁護士に指が向けられているような気がするんですけれども、プライベート・プラクティショナーズのレベルでは私どもの事務所で言えば、ほかの渉外事務所でも同じですけれども、海外に4、5年経験をした弁護士を送り出して海外のロー・スクール、それから海外の事務所、そこでの研修を積ませたり、そういうことをいろいろやっております。これは私自身が20年前に行ったわけですから、その先達と言われる方々はその更に10年前、つまり30年ぐらい前からそういうことはずっとやってきているわけです。
 ですから、そういう意味で弁護士の国際化と言われてもちょっと戸惑う面があるわけですけれども、このようにプライベート・プラクティショナーズのレベルではそういうことはずっとやってきているということで、むしろその前提となる今、久保利委員のおっしゃったような制度とか基盤とか、そういったものの国際化が図られないと、単に弁護士の国際化というのは結論のところだけで指を差しているような気がいたしまして、是非もう少しおおもとに戻って制度とか基盤、そちらの方を国際化するということの方をメインにとらえた方がよいのではないかと考えております。

○波江野委員 今の下條委員のおっしゃった御意見はもっともだと思います。司法制度改革の意見書として国際化が必要だ、と指摘されている。それから弁護士ですね。「弁護士(法曹)」というのはどういう意味かちょっとわからないのですが、弁護士の国際化が必要だと、これは弁護士について国際化が不足しているということだと思います。しかし今、下條委員のおっしゃったような、特に東京、大阪とか、大都市における渉外系の弁護士事務所、法律事務所であれば今、伺ったようなプラクティスというのはごく当たり前のようにされていて、個々のレベルではかなり国際化は達成されているだろうと私も思います。しかし、全弁護士の中で国際化された弁護士がどれぐらいいらして、司法制度改革の意見書に出てくるような社会のニーズにどれだけ応えられているかということがひとつ問題なのかなと思います。
 ですから、問題意識の差があるような感じがいたしまして、一体どのぐらい今、下條委員がおっしゃったようなレベルの国際的に通用する弁護士がおられるのか、私どもが存じ上げている中ではたくさんいらっしゃいますけれども、ざっと大雑把に言って全弁護士の5%なのか、1割なのかというようなことについて事務局の方では把握されていますでしょうか。

○齊藤参事官 日弁連などが作成している資料の中では、大体渉外関係の仕事をしている弁護士は1,500ぐらいという数字が紹介されていることはありますね。ちなみに、弁護士の会員数というのは全体で今1万九千数百だと思います。

○柏木座長 議論の対象なんですけれども、皆さんの多数の意見は少なくとも今まではこの法曹の国際化と法整備支援に限られず、むしろ法律、司法制度のインフラとしての司法制度の国際化についても議論を及ぼすべきではないか。事務局の方も議論をすることは構わないというような御意見だったと思いますので、その中のどういう点に重点を置くか、あるいはどういう議論の進め方をするかということについてはまたちょっとお考えいただいて。

○齊藤参事官 少し検討は必要だと思うのですが。

○柏木座長 ただ、どういうポイントがあるかというようなことをここで一応洗ってみるというようなことは非常に有益なことなのではないかと思っております。

○孝橋委員 国際化への対応のところで、司法制度改革審議会の意見書にまとめてある項目の中で、民事司法の国際化、刑事司法の国際化と別途項目がございますね。民事司法に関しては知的財産権の問題とか、あるいは仲裁の問題について具体的な指摘があって、それは別の検討会で検討される課題になっていると思います。
 それから、民事司法の国際化は、特に私のような訴訟に関係している者からすると、最近は訴訟の迅速化を強く求められている状況がありまして、それは日本が特異だというふうに指摘されている部分についてなるべくその是正を図るべきだということでそういう議論がされていて、その検討はまた別途されていると思うんですけれども、検討会の割り振りからいきますと、この「国際化への対応」の中の3の法整備支援の推進、それから4の弁護士(法曹)の国際化というところがこの検討会のメインのテーマなのかなと認識しております。裁判所とか検察庁とかにも改善すべき点はいろいろあるということはあるのですが、それはそれといたしましてとりあえず3番、4番、つまり法整備支援の推進と弁護士(法曹)の国際化のところにスポットライトを当てた形の議論をする検討会なのかなというふうに私は理解しております。
 その点は、別に今の弁護士さんの状況について問題だというよりも、むしろ今後の国際的な法律問題が量的に増大するということについてどのように対応するべきかということを検討しようというのがこの検討会の当面のテーマなのかなと思っていたものですから、一言申し上げたいと思います。

○下條委員 先ほどの波江野委員と今の孝橋委員の意見についてですけれども、先ほど申し上げました日本の弁護士事務所が海外に若手の4、5年の経験を有する弁護士を派遣してロー・スクールに1年やり、そして現地の法律事務所で1年くらい研修をさせる。そういうことをもう30年くらい前からずっとやってきているわけですけれども、これはそろそろ限界にきているわけです。
 と言いますのは、先週私どもの事務所にも研修所を出たばかりの人が入所しましたけれども、18人入ってきたわけです。1年に18人入ってまいりますと、この18人をどこのロー・スクールに推薦状を書いてどういうふうに送り込んで、そしてそのロー・スクールを終わった後、ではどこの事務所に頼んで入れてもらうかとか、そういうふうなことは1年に18人も入ってくるとそろそろ限界なわけですね。ですから、やはり弁護士の国際化を図ろうと思ったらむしろ制度とか、そういうものとして何かをつくっていかないと、プライベートな事務所のレベルではそろそろ限界ではなかろうかと感じており、やはりもっと大きな制度とか基盤とか、そういうものをつくっていかないとなかなか弁護士の国際化を今以上に図ろうと思うのは難しいのではなかろうかという趣旨でございます。

○柏木座長 確かに司法制度改革審議会の意見書で、具体的には「民事司法の国際化」、「刑事司法の国際化」、「法整備支援の推進」、それから「法曹の国際化」の所と、その前の53ページの前段の最初のイントロダクションのところで、国家間の制度間競争というものを強く意識しなければいけないというようなことが書いてありまして、そのために具体的には1、2、3と今、言いましたようなことが列挙されているわけです。けれども、やはり第1回の検討会での皆様の御議論も外国法事務弁護士問題、法整備支援の推進、それから法曹の国際化だけではどうも足りないのではないかという意見が非常に強かったように思いますし、今もまたそういう意見が強いように思います。繰り返しになってしまいますけれども、一応議論をしてみて、余り議論が拡散するようであれば、その中のポイントをまた絞り込む必要がありましょうが、問題を洗ってみるということは必要なのではないかと思います。
 この意見書に具体的な問題の指摘がありますように、法曹の国際化と、それから法整備支援というのは非常に明確に打ち出されておりますので、まずこれを議論して、それから3番目にその他もろもろということで司法制度の国際化なインフラの整備というようなことについて議論してみてはいかがかと思いますが、いかがでしょうか。よろしゅうございますか。
 それでは、事務局が用意してくださった資料11−3に基づきまして、最初は「弁護士(法曹)の国際化への対応強化」、最初が「弁護士(法曹)の国際化の意義等」です。今も既に議論が始まっておりますけれども、議論のスタートは波江野委員と下條委員が指摘されましたように、弁護士事務所の教育の国際化ということが最初の切り口になるのでしょうか。既にアメリカのロー・スクール依存が限界にき始めているという指摘がございました。これについて、ほかに御意見ございますか。
 ちょっと座長の立場を離れてもう一つ関連の問題を指摘させていただくと、11月、12月というのは我々大学教授にとっては推薦状の季節でありまして、アメリカのLL.M.に留学をしたいという昔の学生が推薦状を書いてくれという依頼がくるわけであります。それで、1人大体10校程度申込みますので、5、6人の依頼がくると60通ぐらい書くことになるわけです。最近起こっている現象はここ数年、急速に日本人同士の競争率が高まっているのですね。アメリカのロー・スクールに対する日本からの希望者が殺到している。それで、以前であれば1月に入りますと大学からアクセプタンスの通知がきはじめるのですけれども、一昨年、去年辺りからそれがだんだん遅れ始めてきている。その傾向がますます強まるのではなかろうかということが心配されます。
 ましてや、これで法曹人口が非常に増えますと、ますますもってアメリカのロー・スクールへ殺到するのではないかと思われます。日本の大学あるいは大学院が見捨てられているというような気すらするんですけれども、弁護士の継続的法学教育において英米のロー・スクール頼りという現象が非常に強まっているという問題点がございます。

○久保利委員 まさにそういう時代だと思うのです。それで、法曹養成の検討会の方でいろいろ議論をして、やっと立ち上がることになったロー・スクールの問題、それはやはりこの検討会としても無視はできない問題だろう。今、座長もおっしゃったとおり、ではなぜアメリカのロー・スクールにそんなにニーズがあるのかということを考えると多分2つの側面だろう。1つは、日本人の弁護士になるような人たちは基本的には英語がもともとできない。法律だけ一生懸命勉強してきましたから語学力が非常に低いというところがあって、語学力をつけるために行くということがあります。
 もう一つはディベートといいますか、弁護士として必要な資質である議論をしていく。この能力というのを実は日本の大学は教えてこなかった。その両方とも日本の大学では教われないということからニーズが出てくるんだと。そうすると、むしろこれから法曹を養成していく中でロー・スクールの役割というのは非常に強くなってくる。そのロー・スクールは幸いなことに、基本的には法学部の学生を対象にするわけではない。3年制というのがむしろ標準だ。すなわち他の、要するに法学部以外の学部で英語を勉強していてもいいわけですし、そういうバイリンガルのような方でも法律を知らなくてもいい。その人を3年かかって、しかも議論のできる法曹にしていこうというのがロー・スクールの理想なわけですから、その意味で言うと実はロー・スクールが競争している相手というのはアメリカのロー・スクールと競争しているということになる。そういう意味でいいロー・スクールをつくっていくということがとりも直さず大勢の英語のできる、語学力のある、そしてディベートに強い、そういう弁護士群、法曹群というものを育成していく揺りかごになっていく。
 それを国際化検討会としてはどういうふうにつくっていけばそういうニーズに合致できるようになるのか。多分、法曹養成制度検討会の方ではそこまでの中のカリキュラムだとか、教育のやり方とかまでは踏み込まないと思いますので、むしろこの検討会でロー・スクールを中心に今のような語学の問題、ディベートの問題、あるいは留学生の問題、特にアジアからの留学生に対して日本法を入れていくということも含めて、ロー・スクールというものを中心に議論を展開していくと、あるいは学校の先生の問題ですね。教授の問題、あるいは下條先生のような渉外をやっている人たちが実務家教員として国際取引をじかに教えるような、そういうカリキュラムと教員の問題というふうに非常に幅広く実は国際化の問題を議論できる切り口になるのではないか。あくまでも、今これは中身に入ろうという話ではなくて、国際化の切り口としてたまたま下條先生、柏木座長から出たお話なので、教育制度というものを中心に切り結んだら、何か国際化について一定の集約できるような結論が出てくるのではないかと、こんなふうに考えましたものですからあえて発言をしました。

○加藤委員 弁護士あるいは法曹の国際化、あるいはその対応強化という観点が一体どういうことなのか、改めてその辺を教えていただきたいと思います。今まで外国法事務弁護士の問題をずっとやってまいりましたが、弁護士あるいは法曹の国際化を推し進めようということなら、ユーザーサイドから言いますと、外国法に通じたあるいは外国文化に通じた外国の弁護士が日本国内で十分な活動をしていただくということが大変よろしいのではないかという結論になると思います。その方向性に対してある規制が要る。その規制についてかなりの緩和をしましょうという結論にこの会ではなったと私は理解しております。けれども、それについてはかなりの抵抗もあるし、全面的な解禁というわけではなくて外国法事務弁護士制度というものを残した上で解禁していきましょうという議論が今までされてきたわけです。
 一方で、日本の弁護士については、国際化、国際的な感覚を持ったり、あるいは国際的な法的な知識を習得しよう、そういうことを進めていきましょうということをこれから議論しようということのようですけれども、一体その両方の物の考え方の間にはどういう整合性があるのか。つまり、ここで言う弁護士あるいは法曹の国際化への対応強化というのは一体何をどう目指そうとしているのかという辺りが実は私にはよくわかりません。どなたかその辺をお教えいただければと思います。

○柏木座長 乗越委員、いかがですか。

○乗越委員 私の理解では2つあるのではないかと思います。1つはまさに下條委員がおっしゃったように、個々の弁護士の方についてみれば、ほとんど半分以上外国のクライアントの仕事をしておられるという方も相当おられますし、個々の人について見れば国際化を今更何なのかという感じもあるのだと思います。ただ、私も日本の弁護士サービスのユーザーの一人ですけれども、その目から見ますと、そういうことをやっていただける弁護士の方というのは圧倒的に数が少ないというのが一つあると思います。ですから、そういうふうな仕事をやっていただける弁護士の方をいかに今後増やしていただけるかというのが国際化の一つだと思います。
 もう一つは、ちょっと矛盾するようなことを言ってしまうかもしれませんけれども、個々の弁護士の方について、例えば何か国際的な交渉の場でどういうふうにやればうまく交渉が進められるかというふうな技術的なものも含めて経験と知識を積んでいただくという、その2つの面があるのではないかという気がいたしております。今までの議論ではその2つが若干ごっちゃになって渾然一体として議論されているような気がいたしておりました。

○下條委員 逆の面といいますか、私どもの事務所ではやはり久保利委員が御指摘になった語学の面とか、そういう面がございますので、大体数人の外国弁護士を雇っているわけですね。ですから、出身国はばらばらでアメリカとかカナダとかオーストラリアとか、そういった外国の弁護士を雇っているわけですけれども、それは私どもが英文の契約書をドラフティングするなり、英文のメモランダムをドラフティングするなり、そういうときにレビューしてもらうとか、つくってもらうとか、そういうところで私どもの場合は特定共同はやっておりませんけれども、そういう形で外国の弁護士を雇って、そしてそういう語学面とか、そういったプレゼンテーションの仕方というか、外国のクライアントによくわかるようなプレゼンテーションの仕方とか、そういったものについて助けてもらっているわけです。そういう意味で、私どもの国際化への一助として外国弁護士を雇っているという側面があります。
 それで、その場合に前回経験要件とか、そういう話が出ましたけれども、私どもとしてはロー・スクールを出たばかりの人を雇うつもりはないわけです。やはり原資格国において何年か、少なくとも3年ぐらいの経験を積んだ人を雇っていきたい。そうすることによって初めてよいサービスが提供できる。今とちょっと逆の側面ですけれども、そういう面もあるということをお伝えしたいと思います。

○道垣内委員 弁護士さんの国際化はもちろん必要ですが、裁判官で国際感覚のない方というのもいるやに見受けられます。検事さんの場合は私はよくわからないのですけれども、広く法曹三者あるいは大学の中にもいるかもしれないので四者か五者かわかりませんが、法律に携わる人たちにもう少し国際感覚がある方がいいですねという提言だとすれば、それは確かにそうだろうと思うんです。
 それで、そのやり方ですが、国際感覚のある人を法律家として採用していくというやり方と、最初はないかもしれないけれども、法律家になってから国際感覚を身に付けさせる。その2つは大分方法が違いまして、制度に組み入れるとすれば前者の方がやりやすいと思うのです。例えば、試験において、弁護士試験でも司法試験でもいいのですが、語学の試験も課して、取るか取らないかは自由ですが、ある一定以上のいい点を取れば10%加点してあげるとか、全体の得点を上げてあげるとか、あるいは1年以上か、例えば半年以上外国でボランティアとかをした経験があれば、それもプラス何%にするかはわかりませんが、それをやるかやらないかは自由だけれども、しかしそういう形で少しずつ国際感覚のある人を法律家に取っていくような仕組みをつくるということも考えられると思うんです。
 しかし、事後的にはなかなか難しくて、いったん弁護士さんとか裁判官になった後、何か努力しないとその資格を失わせるぞと、そんな仕組みはなかなか難しゅうございまして、それは人によっては必要かもしれませんけれども、必要でない人もいらっしゃるので、やはりやり方としては前者で、先ほど久保利委員もおっしゃったようにロー・スクールの中でそのことを考えるということも一つのやり方だろうと当然思います。
 それで、何が国際感覚かなんですけれども、そういうことから考えますと視点といいますか、見る角度が複数持てるといいますか、少なくともどこかの国のことをよく知っていれば、彼らが考えていることはこちらが考えていることと違うかもしれないといいますか、発想の原点が違って、彼らの言っていることは表面的には皆、同じことが読み取れるわけですが、しかし、その背後にあることはもしかするとこういう違う発想から出てきているかもしれないなどということが分かるか分からないかは、大分対応の仕方が違うと思うんです。それは本当はそういう比較文化あるいは比較法的な知識だけではなくて、もしかすると歴史的な、過去にこんなことがあってとか、そんな知識がいっぱい入っていればまたそれなりに違う対応もできる。
 そういう法律家がたくさん出てくれば、クライアントにとってはいろいろなメニューが提供できるわけで、柔軟な対応もできるでしょうし、そういうことを国際化とは何かということから言いますと、仮にそういう能力がありそうな人はどういうところでチェックできるのかを考えればその制度ができる。最初に申しましたように、制度に組み込まないといけない。これはやった方がいいですよというだけでは、当たり前でしょうというだけのことで、やる人とやらない人と今と同じ状況で、必要がある方はやっていらっしゃるし、そうでない方はやっていらっしゃらないので、全体としてレベルを上げるためにはそのようなことが必要かなと思うのです。
 それからもう一つ、あえて言えば法曹界の中で言うと国際関係の法律問題については一般的に余り知識がないのではないか。国際司法の単位を取った人が少ないというのは当たり前かなと思いますが、国際公法の感覚がほとんどないのではないかと思います。裁判官も判決を書くときには一生懸命勉強して書いていますけれども、それが関係がありそうで議論すればできそうな事件でも、弁護士さんも言わないし、裁判官も気が付かないのか、言わないのだから書かないということになるのかもしれませんが、何か見過ごされていくようなところにもう少し国際法なり国際司法の知識があれば別の議論ができるのになと思うような事件がございました。
 今ロー・スクールでは基本科目重視ということで、しかも何度も何度も教え込もうということでますますドメスティックな弁護士さん、あるいは法曹の関係者が出てくるのではないかということが危惧されますので、私のような立場から見ますともう少し国際的な法律問題を考える機会を持たせることも必要かなと思います。以上です。

○柏木座長 ありがとうございました。少し前に戻って加藤委員の御意見ですけれども、こういうことだと思います。つまり、国際化というのは例えば国際問題を外国の弁護士さんに任せればよいという問題ではなくて、法律問題というのは非常に文化と結び付いている。だから、例えば商社マンなどというのは国際化が一番進んでいる人たちですけれども、それでも日本人の法務マンのところに相談に来る。それで、日本語で日本のしきたりや社内のやり方をよく知っている人の説明を受けるとよくわかる。そこで、一番求められているのは外国の弁護士であれ、日本の弁護士であれ、道垣内委員が言われましたように、複数の視点を持って複数の文化を理解できる人が橋渡しをするということなのです。
 ところが、日本ではそういう橋渡しをできる弁護士が今、極端に不足しているということなのだろうと思うのです。だから、外国の弁護士に対する規制を緩和して日本で活動してもらうのも一つの方法だし、それと同時に日本の弁護士が国際的感覚を身に付け、技術を身に付けるということが必要で、それがあいまって日本の企業のニーズが満たされるのではないかという気がいたします。
 それで、その次に道垣内委員の今の議論なのですけれども、この配付資料の表題は「弁護士(法曹)」と書いてありますが、これはそういう意味では括弧が逆ですね。「法曹(弁護士)」で、私も全く同じ意見です。日本の裁判官の国際性がどうも乏しいのではないかという危惧を抱いております。道垣内委員の指摘の点は全く同感です。それと、国際取引をやっていますと、例えば国際ファイナンスで日本の契約書には出てこないようなリプレゼンテーション・アンド・ワランティーズとか、コーベナンスとか、そういう条項がたくさん出てくるわけですね。それで、日本の裁判官の方がそれを日本語に翻訳したものをお読みになるのであれば、本当に正確に書いてあることのバックグラウンド、ニュアンス、そういうところまで理解していただけるのかなということが非常に危惧されます。だから、国際ファイナンスを教えるときには準拠法はニューヨークかイギリスにせよ、と教えます。それで、管轄裁判所もニューヨークの連邦地裁かロンドンのハイコートにする方がいいですよ、と教えざるを得ない。自信を持って東京地方裁判所にしろ、これが日本の企業にとって、あるいは日本の貸手にとっていいのだということが私には言えないのです。そういうところが非常に問題だろうという気がいたします。
 それから、おっしゃるとおり国際的感覚を身につけさせる制度が大切であります。一番簡単なのは司法試験の中にTOEFLを入れるとか、そういうことなのかなという気もします。ちょっとこれは極論ですけれども、今の道垣内委員の意見についてほかに御意見はございませんか。

○孝橋委員 いろいろと耳の痛い話を聞かせていただいているわけですけれども、御指摘のところは多くの方が指摘されているところでして、余り私も全部の反論はできないのですが、ただ、私の裁判官としての経験から申しますと、裁判官は実はいろいろな分野の仕事をやっておりまして、それぞれの分野の人からやはり裁判官は分かっていないという指摘、医療過誤をやると、医療の専門家からは裁判官は分かっていない、技術的な問題ですと、やはり技術のことは分かっていないという指摘がありまして、国際取引関係についてのご指摘も私どもからするとそれと同種のレベルの問題の部分があると思っています。それで、どういう分野が裁判官は強いかというと、やはりやり慣れている部分ですね。たくさんの事件があって、それをいろいろ悩みながら経験を積み重ねている分野についてはある程度自信を持ってできるわけですが、国際取引関係についてはケースが少ないということが一つはあろうかと思います。
 それで、先ほど道垣内先生あるいはほかの委員の方もおっしゃったかもしれませんが、まず司法試験の試験科目をいろいろと増やすことで国際化に対応したらどうかということ、それも一つの方法だと思うのですけれども、私どもは扱う分野がますます広がっているなという感じがしておりまして、それに対応するためにはやはり専門化で対応するしかない。一人の人間の能力であれもこれもというのは限界があると思いますので、むしろ国際的なことが詳しい人を育てるということが例えば裁判所についても必要なのかなと。今は国際取引関係の事件がまだ少ないんです。それは日本の裁判所が敬遠されている結果かもしれないんですけれども、もしもっと裁判所にそういう国際取引案件が増えれば、それに対応する専門的な裁判官を育てるための態勢が充実してくるというふうに私などは思うわけです。
 今度は弁護士さんの話をさせていただくんですけれども、弁護士事務所についても今、日本の企業が例えばアメリカで訴訟を起こすなり、あるいは外国でビジネスを展開するなりするときに、日本の弁護士事務所に相談するかというと、やはりアメリカでも訴訟になるとアメリカの弁護士さんの方がいいとか、いざというときに日本の弁護士さんではなくて海外の弁護士さんに依頼するという部分があろうかと思うんですが、それはやはり日本の弁護士さんは非常に専門化されているが、その専門化されている弁護士さんの質と量がまだニーズに合っていないという部分があるのではないか。それを補うのにはそれだけの人を確保して、そしてそれなりの専門家を育てていくというシステムを考えないといけない。それは裁判所についても同様の問題があろうかと思いますけれども、以上のような感想をとりあえず申し上げたいと思います。

○柏木座長 ありがとうございました。裁判官ばかりではなくて法曹全体として、弁護士も含めて、要するに専門化が不足しているのではないかということで、日本でもBig4と呼ばれているところはどんどん専門化が進んでいると認識しておりますけれども、やはりそれ以外のところでは専門化がかなり遅れているのではないか。これも国際化、日本の法曹が国際競争力に不足していることの一つの原因ではなかろうかと思われるわけですが、下條委員いかがですか。

○下條委員 孝橋委員のおっしゃった外国で訴訟を起こすときに日本の事務所に頼まないというのは当然のことで、日本の弁護士が外国の法廷に立てるわけはないからです。それはもちろん依頼者から外国での訴訟ということで頼まれればやはり現地の弁護士事務所を紹介して、あとは証拠とか、そういったものが当然、日本の会社ですからいろいろな証拠書類等が日本語でできていれば、それに対して裁判所に提出するために英訳するとか、あるいは日本の会社の役員がデポジションを受けるということであれば、それについてのお手伝いをするとか、そういうことはあり得るわけですけれども、やはり現地での裁判というのはあくまでも現地の弁護士しかできないわけですから、そういう点はちょっと誤解ではないかと思います。

○久保利委員 ちょっと話題はずれますけれども、司法試験に外国語を入れるという話で、座長はかなり難しいというか、夢みたいにおっしゃいましたが、私がこの間、韓国に行ったところでは、韓国では司法試験の中に外国語を入れることが現にもう始まる。しかも、あの国の中で1,000人から3,000人まで今、増やそうとしているわけですね。その試験の中に、要するに非常に厳しい試験になりますから、そこで外国語が問われるということは大きなインセンティブになるわけで、多分韓国の人たちの中には相当英語のできる弁護士がどんどん増えていくのだろうという点で、決して荒唐無稽なことではないのではないか。ましてやロー・スクールの入学試験においてはLSATをやるにしてもそれにプラスアルファしてTOEFLをどう考えるか、TOEICをどう考えるかという試験をやってもいいわけで、そういう道があるのではないか。
 基本的にはさっきの加藤さんの問題とも絡むのですが、私は日本の法曹の国際性のなさというのは単に国際取引事件についての話だけではないのではないか。また、さきほど申し上げた道垣内先生が司会をされた座談会で私は勉強したことですけれども、この検討会にも参考人でお見えになったグロンディンさんが非常に良い指摘をしておられます。要するに、この国は「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」を批准していないではないか。これに入っていない。これに入っていないのはリビアとかイランとかイラクとか、ああいう国だけだということをおっしゃっているわけです。別にリビアやイランを誹謗するつもりはありませんけれども、なぜ日本がそれをしていないか。
 そういうと、どうも日本国内でも行政はそういう奪われた子どもを戻すために努力をしていないので、その国際的なことだけはなかなかできないのではないかというふうな解説も道垣内先生はしていらっしゃいます。あるいは戸籍法の問題、民法750条の問題等も今、東京都内で結婚している人の10組に1組は国際結婚だというわけです。それで今、国際司法でそういう離婚問題とか家族の問題というのを扱っている人はものすごく忙しくて大変な数が出てきている。それについても、実は日本の法曹は十分対応できていない。
 そういうふうに考えていくと、単に企業の対象としている企業法務の国際性の問題だけではなくて、日本人がこれだけ中国人とかいろいろな人たちが来る中で市民生活が国際化しているときに、ロイヤーも法制度も、そして条約の批准の問題もうまく国際相場に合っていないというところがこの司法改革の原点になっているんだろう。そういうふうに見ると、やはり国際性というのを道垣内先生がおっしゃったように複眼で見るということからすれば、その素養というのは実はビジネスローをやるかやらないかという問題とは全然別に、まともな法曹として絶対必要なのではないだろうか。それは仮に英語でなくてもいいわけで、中国語であってもいいしハングルであってもいいわけですけれども、そういう視野で育成していくという視点がなければ、いつまでたっても国際性のない法曹にしか頼めない日本国民の不幸が続くのではないかという感じがして、この問題はある程度時間はかかるかもしれないけれども、司法試験に英語を入れても中国語を入れても外国語を入れてもいいのではないかということを本気で考えるべき時期がきているのではないかという感じがします。

○下條委員 今の点について補足したいと思いますけれども、私が聞いたところでは韓国では2004年からTOEICの試験を考慮するというふうに聞いております。どちらが正しいかよくわかりませんけれども、その点が1つと、それから今日資料として国立国会図書館のホームページから引き出したのですが、我が国が未批准の国際条約という資料があるんです。ですから、これは是非次の会に資料として提出していただいて、外務省の条約局の方にもなぜこんなに未批准なのか御説明いただいたらいいのではないかと思います。
 私と道垣内委員は例のハーグ国際私法会議の国際管轄条約の方の部会の委員をしておりますが、その関係で今、久保利委員のおっしゃった、子の奪取に関する条約というのは長い間たな晒しになっていていまだ批准されていないということを聞いておりまして、条約局などの説明によれば、やはり国会では必要性とか緊急性のあるものしか取り上げないためにそういうふうにどんどん遅くなっているということだそうですので、その辺も含めましてそのハーグの国際私法会議で採択された条約で未批准のものは幾つかあるわけですし、それだけではなくてこれはすべてのいろいろな関係のものを網羅しておりますので、是非その辺も次回のときに取り上げていただけたらと思います。

○柏木座長 そうですね。これは先ほどお話しした日本法の空洞化あるいは日本の法制度、インフラストラクチュアが国際化していないという第3番目の問題に入るかと思いますけれども、確かに私も同じことを感じております。

○道垣内委員 せっかく下條委員からお話がありましたので、よろしいですか。
 聞いた話では、国会に年間通せる条約の数は限度があるということ。国会の審議日数等から見て外務省の能力、キャパシティの問題ですが、それから見ても、ですね。そうしますと、年間できている条約の数と、国会で通せる数とに差があれば、いつまでたっても残るし、解消されないのではないかと思うのですが、何を変えればいいのか。国会の仕組みなのか、そこはもう限界があると思い込んでいらっしゃるだけなのか、その辺が何かネックになっているのかなと思うのですけれども。

○下川委員 今日は必ずしも準備をしていないのできっちり答えることはできないと思います。別に幾つならば通せるという決まった数があるわけではないと思うのですけれども、もちろん御存じのとおり条約を通すに当たっては法制局の審査を始め、種々の手続があるわけですので、やはり条約局であるとか、それぞれの担当の部署であるとか、もっと遡ればその条約を主に国内法で担保している主管官庁における対応能力とか、いろいろな問題があって、交渉の段階、それからそれが今度条約として完成して国会に通す段階、それぞれの段階でやはり人的なリソース、制約というのはどうしてもあるということであろうと思います。
 したがって、幾つかの場所でどんどん国際条約を取り入れていくときにボトルネックがある。それを解消するために、もちろんできるだけ体制を強化してやっていくようにする。努力はしているのですけれども、突き詰めると、これも人間の数の問題になってくるのかなと思います。それは法制局の人間の数も関係してくるでしょうし、条約局の人間の数も関係してくるでしょうし、それぞれの担当される省庁における国際部門、国内法の関係している部署のところの話にもなってくるのではないかと思います。いずれにしましても、またリストを見させていただいて、もう少し勉強してみたいと思います。

○柏木座長 ちょっと気になるのは、意見書の中に弁護士の執務態勢の強化が国際化との関係で出ていますね。この執務態勢というのは数の問題なのか、あるいはワープロが足りないということなのか、私はよくわからないのですけれども、下條委員、何か意見はございますか。

○下條委員 多分それは前に参考人として来ていただいた長島弁護士がおっしゃっていましたけれども、千代田生命か何かの破綻のとき以来、日本における法律事務がものすごく増加して、それに対応できる弁護士の数がどうしても限られているためにということをおっしゃったかと思うんですが、その辺りのことじゃないかと思うんです。つまり、日本ではいろいろな面で先送り先送りをしてきて、その後バブルが崩壊して、それでいろいろな法律的に解決しなければいけない問題が山積みというか、非常にたくさん一気に出てきた。 それで、例えば商法もしょっちゅう改正されまして、株式交換とか合併を改正するとか、いろいろ企業再編に関しての商法改正が行われる。それはニーズがあって行われているわけですから、そのような商法改正が行われるとそれに対してどっと仕事が出てくる。それから、いろいろな法律が整備されて証券化関係の仕事もばっと出てくるとか、それから企業の倒産に絡んでまさに倒産した企業の一部の事業を売却するとか、そういったM&Aタイプの仕事とか、そういったことがここ数年来一挙に出てきたために、それに対応し得るような大きな事務所、つまりそういった大きな事件になりますとデューディリジェンスとか、そういうことがありますので、どうしても10人くらいがチームにならないといけない。そのようなことに対応できる事務所が割と限られている。多分そういう御指摘じゃないかと思います。

○柏木座長 ということは、全体の弁護士の数の不足のしわ寄せ、あるいは弁護士にならないまでもパラリーガルの数の不足のしわ寄せが法曹の国際化にひとつ足を引っ張っているというか、そういう障害になっているということですか。

○下條委員 そうでしょうね。

○乗越委員 それに関連して今ちょっと思いましたのは、私がお会いした複数の方からお聞きした話なんですけれども、イギリスとかアメリカに留学されて日本に帰って来られて、その過程でアメリカやイギリスの事務所に行って一番切実に感じたのは、ノウハウの蓄積と、それからその共有のシステムが日本の事務所はまだできていないですね、というふうなことを複数の方から聞いたことがございます。執務態勢の強化というのは確かによくわからないんですけれども、そういうふうな各事務所の中でノウハウを共有してそれを蓄積して共有するというふうなシステムというのもこれに入るのではないかという気が今ちょっといたしました。

○久保利委員 恐らく意見書の82ページのところに「弁護士の執務態勢の強化、専門性の強化」という項がありますが、ここで言っている、共同化、法人化、専門性の強化、異業種との協働化、総合事務所化、というふうなことが取られていない。要するに、お1人でやるソロプラクティスの事務所あるいは2人、3人というのが多いとか、そういう意味での協働化、法人化が進んでいない、総合化ができていないということを指して、したがって国際化するためにはある程度の多人数による総合化が必要だ、1人、2人だけで裁判所を門前町のような形で弁護士がやっている限りは、そういう国際化に向かえないのではないかという指摘なのだろうと思います。

○柏木座長 それから、これも意見書に指摘があることですけれども、法曹の国際交流の推進ということも指摘されております。それで、これはIPBAとか、ローエイシアとか、結構私はやっているのではないかなという気がするのですが、下條委員はいかがですか。

○下條委員 そうですね。私も実は昨日バンコクから帰ってきたばかりなのですけれども、バンコクでアジア弁護士会会長会議というのがありまして、アジア地域の弁護士会の会長が一堂に会して最近のディベロップメントというか、それぞれの国における法律面での進展状況を報告し合う会議があったわけですけれども、そういうのもありますし、今、座長がおっしゃられたように、このような世界の弁護士会の会議というのは沢山あるわけですね。IBAの会議は今月末に行われることになって、日弁連を代表して理事が出席することになっておりますけれども、IBAの会議もあれば座長がおっしゃいましたIPBAというインター・パシフィック・バー・アソシエーションですね。これの会議も毎年やっておりまして、日本の弁護士もかなり出ております。
 そのほか、ローエイシアの方は道垣内先生も非常に御尽力されていますけれども、ローエイシアの方も来年の9月1日から5日にかけて東京大会をやるということで、これは2年に1回大会を開いていまして波江野さんも駆り出されていますが、ローエイシアの大会を来年日本で行うということで、そういう面でかなり交流という面では行われているのではないかと思います。

○柏木座長 その次の国際機関への派遣等は確かに少ないのかもしれませんね。派遣というのは、日弁連から派遣するということですか。要するに、国際機関で働く日本の弁護士さんが少ないと。

○下川委員 そうかもしれないですね。柏木座長と御一緒いたしました例の中国のWTOセミナーのときに松下教授が来られていましたけれども、松下教授みたいに例のWTOのパネルを務められるとか、そういう形での活躍というのは割と少ないのかなという気がします。

○波江野委員 今、下條委員がおっしゃったように弁護士の国際交流は非常に盛んに行われているということですが、その場合の費用負担などはどういうふうになっているんですか。弁護士会とかが、組織として積極的にやろうということで費用を出すのか、それとも個々の弁護士が自発的に自腹を切ってなさるのか。この意見書の最後の方に財政的云々などというものがあって、これは将来の、次回以降の問題のときに出てくるとは思いますけれども、そういったところで積極的にできるような仕組みをつくるというようなことも必要なのかなと思います。

○下條委員 それは会議によって違います。ですから、例えば日弁連が会員になっているとか、そういう会議であれば当然日弁連が支弁するわけです。したがって、今回のアジア弁護士会会長会議も日弁連として出ているわけですから、これは日弁連の方で費用が出るということになります。
 これと極端なのはIPBAですね。これは私的な団体ですので、IPBAの関係は出席する各弁護士が自分で負担するということになっております。ですから、会議の性質によってまちまちだと思います。ローエイシアも今回日弁連は正式会員になりましたので、ローエイシア関係も恐らく日弁連でかなりの程度、出していただいて、個人負担は少なくなるのではなかろうかというふうに考えております。

○柏木座長 ありがとうございました。大分法曹、弁護士の国際化について御議論をいただきましたけれども、そのほかにこういう点について議論が必要ではないかという点はございますか。

○加藤委員 弁護士に特定するのもどうかとは思いますけれども、弁護士が国際的な感覚を持つなり何なりしまして、資質が向上されるということはユーザーにとって当然よいことだと思うのですが、最終的に先ほどの外国法の試験の問題も含めてですが、全弁護士が国際的感覚を持つ必要はある意味ではないのかもしれない。純粋にローカルでその地域のそれぞれの法的なサービスをすればいいんだという弁護士さんも当然おられるのだろう。
 そういう中で、一方で弁護士の数も増やさなければいけないというニーズの中で、外国語的なものを付加し、それをすべてやる必要まであるのかどうかということについて、私自身は疑問に思います。それはそれとしていずれにしても自分が一体どういうところに強みがあるのかとか、これこれこういう研修を現実にやってきたとか、あるいは自らどこで修行をしてきたとか、そういうことの情報開示があれば、それを基準にしたユーザーサイドでの選択ということは十分にあり得て、我々ユーザーからしますと大変に使い勝手がいいというか、まさに意見書で言われているように国民が使い勝手がいい制度になっているということなのだと思います。
 ただ、そこで情報開示されていることが、レベルもまちまちであるとか、現実に研修とはいうものの本当に意義ある研修であるのかどうかとか、そういったところはある程度の基準があって、日弁連なら日弁連が認定するとか、そういうようなものの担保がないと、勝手に自分はこんな修行をしたと言われても困るという面もありまして、そういう情報開示というところを一つ議論していただけると、ある意味では国際化のその次のステップかもしれませんけれども、よろしいのかなというような気がいたします。
 それから、先ほど座長から私の意見に対してお話をいただきましたが、まさにそのとおりでございまして、我々日本のユーザーは必ずしも青い目のところには行かないのよというような話を今まで何回もしてきておりますが、日本人弁護士で我々のニーズに合致するような方がおられればそちらをチョイスすることは間違いないということであります。逆に言うと日本人が外国法に関連する弁護士資格を取得することを大いに慫慂していただいて、これも外国法事務弁護士ということになるのかもしれませんが、日本国内における活動をある意味で保障するというような仕掛けができれば、まさに座長がおっしゃるようなことと我々ユーザーサイドとのニーズがぴったり一致することになるのではないかと思います。
 最後に、裁判所の問題等々も先ほどございましたけれども、この会の1回目か2回目のときに申し上げましたとおり、知的財産の問題についてはまさに国際的感覚が非常に重要でございます。これは弁護士サイドというよりは裁判所あるいは裁判制度の問題でございまして、是非そういった観点で国際化を、制度としてどういうふうにするのか、あるいは経済交渉的なものの圧力をどうするのか。そういう観点での議論も是非進めていただければと思っております。以上です。

○道垣内委員 加藤委員のおっしゃった情報開示が大切だというのは私も賛成なのですが、それに関連しておっしゃったすべての弁護士あるいは法曹関係者が国際化をしなくてもよいではないかという点なのですが、これは少し議論をした方がいいと思うのです。要するに底上げ、全体を上げていくのか、頂点をもっと上に上げるのかなんですが、今は頂点は相当高いのだろうと思うのです。けれども、その頂点はすごく鋭角で皆が共有できないリソースしかなくて、それが困るのではないかと思うのです。それが情報開示されてもなかなかお忙しくてすべてには対応できないし、あるいはコストも高いでしょうから、そうではなくて制度としては全体を少し上げたらどうでしょうか。
 その上げ方はいろいろありますが、国際化という視点で少し上げたらどうでしょうかということなので、田舎の方は田舎でよいのではないですかということではなくて、やはり田舎の方も複数の視点がある人がいるということでいいサービスを受けられるようにした方がよいのではないかという議論の方が私はよいのではないかと思います。それが私の意見です。

○加藤委員 特に反論はありません。

○齊藤参事官 ちょっと私の方から申し上げたかったのは、弁護士会あるいは日弁連でも専門性を高めるための研修制度を充実化させていこうという方向はかなり進んでいるように思うんです。ただ、国際的な案件とか、国際問題についての専門性を高める研修、カリキュラムというのが私は余り見受けられないような気がするんです。もしもこれを充実化させようとすれば既存の渉外事務所あるいは日弁連、単位弁護士会、これらが何かうまく協力あるいは協調すれば、それを更に進めていく方策、更にうまく専門を高めるための研修制度を充実化させていく余地がないかどうか。この辺はお知恵を出していただけないものかという気がします。

○久保利委員 その点について言うと、さっき道垣内先生がおっしゃったけれども、要するにオール日弁連のニーズというふうに考えてみると、全国津々浦々に至るまで国際的業務についてのニーズがあるのかというと、これは確かにそうとは言えない状態に今あると思うのです。ただ、東京について言いますと、東京3会で外国法事務弁護士委員会と国際交流委員会というのがありまして、こういう委員会が共同で研修委員会とセットになって、例えば外国法事務弁護士を招いて外国の法律あるいは外国における証券化であるとか、金融取引だとか、こういうものについての講演をしていただき、合わせて日本法のそういう分野の専門家も入れて、そこでアメリカあるいは海外での状況と日本の状況がどういうふうに絡んでいるかというふうなセミナーを、たしか昨年やったことがありますが、超満員です。
 そういうニーズはすごくあるのです。自分は英語ができない。だけれども、海外の手法というのを日本の中に活かしていきたい。十分日本法として使える手法もあるというふうなことについてのニーズはありまして、これはむしろ外国法事務弁護士も日弁連のメンバーなわけですから、率先して協力をしてくださる先生もいらっしゃって、日本の弁護士と外国法事務弁護士がいがみ合うなどということは全く意味のないことでありまして、まさにパートナーとして協力し合いながら一緒にそういう講演会もして、大勢で大変いい勉強会だったということもあります。ですから、もっとそれが増えていけばよくて、かつそれが、では本当に地方の今、弁護士過疎と言われているような地域にまでそれが必要なのかどうかというと、加藤さんがおっしゃるとおりまだ今の状態はそこまでいっていないという弁護士会の弱さというのがあると思うのですが、長期的に見れば決して英語だけではなくて海外、国際的な視点というのと複眼で見ることは、多分過疎地に行ってもそういう問題は出てくるだろう。現にフィリピンから来た花嫁の問題とか、過疎地でもあるわけです。日本は別に都会だけ国際化して地方は違うという状態ではないので、長期的にはそれをできるだけの弁護士の増員と質のアップというのは必要なのだろうし、それは大事なことだと思います。大阪でもやっているのではないかと思いますが、日弁連の大阪の会長が来ていますから、もし何かあったらおっしゃってください。

○日弁連 大阪でも外国法事務弁護士委員会で研修をやっております。それから、さっき言われたようにやはり国際的ないろいろな事件についてほとんどボランティアでやっている事件が多いんですね。大阪はビジネスロイヤー的なそういう渉外事件が余り大阪自身にないものですから、その点で今、久保利先生が言われたような、どちらかというと国際的な人権問題について多くの弁護士がボランティアで働いております。

○乗越委員 弁護士会として何かできるかという観点に関連して申し上げますと、今、久保利委員のおっしゃったような共同セミナーとか、そういうのは非常にいいことだと思うのですが、それは要するに国際商取引的な側面が中心になります。
 私の方に個人的にいろいろ照会が来て、いつもどうやって助けてあげたらいいのか困るのは、例えば私の弟は昨日、東京で亡くなったという連絡を受けたのだけれども、誰かその後の法律的なことについて処理する人はいないかとか、あるいはよくある家族法の関係の話でどういうふうに紛争とか処理していいのかわからないので助けてくれないか、誰か紹介してくれないかという話がよく来ます。私どももいつもおつき合いをしている事務所というのは渉外事務所がほとんどなものですから、そういうことをやってくださる事務所というのはほとんど存じ上げないで、時々日弁連でしたか、弁護士会でしたか、覚えていないのですけれども、無料相談みたいなものがあって、そこに話を聞いてやってくれとか、あるいは私が自分で説明するからだれか弁護士事務所を紹介してくれないかとか、そういうことをしますと拒否されるのです。そういう無料サービスにはまず本人がそこに出頭しないとできない。それから、中身を聞かないで弁護士を紹介できないというふうなルールがあるらしくて、結局イギリスから電話をしてきて助けを求めてくれた人に対して何もできないとか、あるいは日本で路頭に迷っている人についてはどこからどうしていいのかわからないというふうな問題がよくあります。ですから、そういう非常に生活に密着した面でも弁護士会とか日弁連のレベルでかなりサービスを向上させることができる面というのはあるのではないかという気がいたしております。

○柏木座長 先ほど加藤委員の言われた、弁護士さんの情報開示と結び付くわけですね。
 大分時間がたってしまいましたけれども、そのほかに法曹の国際化についてのディスカッションポイントはございますでしょうか。

○孝橋委員 私は実際に今、渉外事務をやっているわけではないものですから、個人的にもう少し知りたいというか、教えていただきたい点なのですけれども、日本の弁護士さんが海外で活躍する場面というのをどのように増やしていくか、あるいは現状でいいのかどうか知りませんが、そのパターンというのを、現状もよくわかっていないんですけれども、それを今後どうしていったらいいかということについてちょっと関心があります。
 先ほど下條先生が、今、日本の弁護士がロー・スクールに留学した後、アメリカの事務所の就職先の確保が難しいという趣旨でございますか、そういうふうな実態があるということで、今までですと大体ロー・スクールを出て、それからアメリカの弁護士事務所でしばらく修行をしてまた日本に戻ってきて、それでずっと日本で仕事をされるという形が多かったと思うのですが、それが今は希望者が多いのでなかなか受け入れが難しいというようなことがあるようなことを漏れ聞くのですけれども、他方で、日本の弁護士の資格がありながらアメリカの弁護士資格を取ってずっとアメリカなりで活躍しておられる方がどれだけあるかというと、余り増えてもいないのかなという認識を持っています。それはそれでいいのかなということについてちょっと疑問がありまして、それは将来的にはどのように考えていったらいいのかなというのが私の個人的な疑問としてあるんです。そういう海外における日本の弁護士の活動の展望みたいなことを、議論のテーマとしてはふさわしいかどうかよくわからないんですが、ちょっと個人的に関心がありますので、もしいろいろ御意見を伺うことができればと思っております。

○柏木座長 下條委員、いかがですか。海外での日本の弁護士の活動ですが。

○下條委員 海外で現地の法曹資格を取られてそのままやっておられる方、そして現地の事務所のパートナーになっておられる方を何人か存じ上げておりますけれども、そういう方も増えた方がいいということにこしたことはないのでしょうが、やはり海外に住むとなるとどうしても日本の弁護士でありながら日本法のことは疎くなってしまうわけですね。そうすると、どうしても現地のニューヨークならばニューヨークの弁護士としてやっていくということになるかと思います。そうなると向こうに住みついてということになりますから、だんだんそういう生活的なことが問題になってまいりまして、では子どもの教育をどうするかとか、そういうことがあって、そういう意味では余り海外に住みついて海外の事務所でパートナーとしてやっていくという方は余り増えないのではなかろうかというふうに思っております。

○柏木座長 確かに2つ問題があると思うんです。国際機関などで働く弁護士さんが少ない。これは何か制度的な問題で解決はつかないかもしれませんけれども、少し改善はできるのかなと。もう一つは、海外の弁護士事務所で働く日本の弁護士さんの数というのはニーズに左右されますでしょう。今は日本の景気が悪いので、どんどんニーズが少なくなっていますね。日本の景気が悪くなっていますから、バブルの時代であればとにかくアメリカの弁護士事務所でもイギリスの弁護士事務所でもたくさんの日本の弁護士さんを雇ってくださったけれども、今はそれが非常に難しくなっている現実があるんじゃないかという気がいたします。
 ほかに法曹(弁護士)の国際化について議論のポイントはございますでしょうか。

○久保利委員 1点だけいいですか。国連の人権セクションで、国際的な人権を守るというのは非常に崇高な使命だと思うのですが、私の聞いたところだと日本の弁護士でそういうポジションで働いた人は多分一人もいないのではないかと言われていました。結局、今まで日本で国際的、渉外的というとすべてがビジネスローだった。その人たちと違う国際人権という切り口でのロイヤーというのは非常に少なかったと思うんです。それで、やはりこれから3,000人体制等々になってくるときに、マンパワーとしてそういう部分は日本の弁護士が担う、と。これは次の法整備支援等々とも絡むのですけれども、そういう人権に絡んで国連あるいはそれ以外の国際的な機関の中で国際公務員として3年なり5年なり働いてきて、その蓄積を基に今度は日本における人権問題、難民だとか外国人の人権だとかというものに関わり合うというふうな流れができてこないと、いつまでたってもそういう社会生活上の位置としての外国人のトラブルをきっちり考えられるようなロイヤーというのは増えてこないのかなと思います。
 そういう意味で、今までは国際と言うと企業ニーズというふうにいつも言っていたわけですが、やはり国民的ニーズあるいは市民的ニーズというものを考える。その一つとして国際機関でどれだけの活躍ができるのか、そういうモデルケースのような人たちを少し育成をしてそこへ派遣をしていくという作業が必要なのではないか。それは日弁連という全くの自治団体だけに任せていいのか。それこそ外務省であるとか法務省であるとか、そういうところから人を派遣していくというときに弁護士もその対象の一つというふうにお考えいただいて、単に検事から出すとかということではなくて、弁護士からもそういう形でお出しいただくというものがあると、もう少し視野が日本の弁護士も広くなって、ビジネスだけでない国際弁護士が出てくるのではないかという感じがします。

○柏木座長 それはロー・スクールの教育も関係してきますね。アメリカでは人権問題に関する国際人権問題インターンシップというようなことで、学生を海外に連れて行って訓練するというようなプログラムを持っているところもありますし、そこまで法科大学院がたどり着くのは随分時間がかかるのかなという気がします。

○久保利委員 私が関与する二弁が主導する法科大学院では是非それをやりたい、難民クリニックとか、外国人の家族法クリニックとか、これをやりたいと思っています。

○下川委員 今ちょっと国際機関の話がございましたが、今、久保利委員から御指摘のあった点は必ずしも法律の専門家に限らず、日本人職員の国際機関での活躍という問題にもつながっておりまして、外務省においてはできるだけ日本人の職員を少なくとも財政的貢献に見合う水準まで持っていこうということで、国際機関の採用情報を流したり、各機関からリクルートミッションに日本にわざわざ来てもらって、それで面接するとか、そういう積極的な働きかけを行うようにしているわけです。
 それから多くの国際機関、例えばWTOなどもそうですけれども、法務部というのは非常にパネルなどをやっているということもあってまさに非常にプレステージが高いところで、そういうところにどんどん日本の弁護士の方を含む法律の専門家の方が出て行っていただければ、これは国益にもかなうし、非常によろしいことなのではないか。
 ただ、恐らく受け入れる側、それから送り出す方、双方にその応募している間の給与をどうするかとか、行っている間の仕事の継続性をどうするかとか、そういうふうな問題があるのだろうと思いますので、一般的な国際機関への送込みという話と、法律職のキャリアデベロップメントの中で国際機関へ行っている期間というものを組み合わせていくのか、これから検討していかなければいけないのではないかと思います。

○柏木座長 それでは、時間もかなりたちましたので、ここで10分間の休憩を入れたいと思います。4時5分から検討を再開したいと思います。

(休憩)

○柏木座長 時間になりましたので、弁護士の国際化・法整備支援の推進について、また議論を再開したいと思います。
 それでは、第2番目の問題としまして「法整備支援の推進」に議論を移したいと思います。法整備支援の問題ですが、「法整備支援の意義・目的等」と、かなり広い抽象的な題が付いておりますけれども、いかがでしょうか。議論の口火を切る意味でお話させていただきたいと思います。常日ごろ私が感じているのは、日本の法律というよりも、大陸法がコモンローにどんどん負けているということでして、先ほどの日弁連のセミナーでもそうですが、アメリカの制度を学びたいという人は非常にいるわけですね。留学生も全部アメリカ、イギリスに行ってしまう。新しい法律現象というのはすべてアメリカ発であります。それで、ちょっと古いビジネスローに関するものはイギリス発でありまして、どうも大陸法が負けている。
 それから、冒頭にも日本法の発信が少ないということがありましたけれども、これは日本ばかりではなくて、どうも私が観察するところ、ドイツ、フランスも同じであります。法律、法文化の輸入ばかりやっている。しかし、そういう中で、明治維新のときに日本が英米法、コモンローを継受できたかというと、多分これはできなかっただろうと思います。やはり英米法、コモンローというのはイギリスの歴史と文化と非常に密着したものでありますから、それを明治のときに輸入することはできなかったのではないかと思うのです。
 一方、ドイツ法、大陸法というのは非常に理論的であったがために割と輸入が楽だったとは言わないまでも、輸入できたのではないか。同じことが法整備支援についても言えるのではないか。コモンローが今、非常に強いけれども、多分、新しい法制度を入れる、あるいは法制度を新しく大きな改革をするときにはコモンローよりも大陸法の考え方を導入する方がやりやすいのではないか。特に日本は大陸法を輸入して根付いたかどうかは異論があるところかもしれませんけれども、何とか根付かせたという経験のある国として非常にユニークな立場を持っていて、それが法整備支援では大きな武器となるのではないかというようなことを考えるわけであります。多分そういう経験は東南アジアの国々、あるいはほかの地域の国々でも評価されるのではないかと思いますが、いかがでございましょうか。

○乗越委員 今のお話と少しずれるのかもしれませんけれども、一歩前に戻って質問をしたいのですけれども、そもそも法整備支援をした方がよい、あるいはすべきであるという発想というのはどこからきているのでしょうか。一言で言えば、どこかの法整備のできていない国に行って日本型の法律をつくってあげる手助けをするということだと思うんですけれども、その背後にあるのは、要するにそういうふうに日本と考えを共有するような法律制度がよその国にもできれば、日本人としていろいろと仕事がしやすいとか、生活しやすいとか、そういう効果があるだろうということを願って法整備支援をしようとしているのでしょうか。
 それであれば私はいいと思いますけれども、あるいは全くのチャリティーとして困っている人がいるから何かつくってあげようということなのか。どちらの発想なのでしょうか。

○柏木座長 これも初回に議論があって、チャリティーではいけない、教えてあげるという態度はいけないというような御意見が出ていたように思いますが、いかがですか。

○下川委員 法整備支援というのをどういう切り口でとらえるかということはいろいろな切り口があり得るのだろうと思いますけれども、1つは経済協力政策の中でも一定の位置付けがございまして、政府開発援助大綱などの中にも大きな柱として貧困対策、社会開発分野への支援、それから経済社会インフラへの支援というようなことと並んで人材育成、知的支援というのが重要な柱というふうに位置づけられておりまして、結局、経済協力を推進していく上でそういう社会的インフラというのか、制度整備というものが非常に重要であるという位置づけがなされておりますが、その一環に位置づけるものとして、この法整備支援も行われているというふうに我々は理解しております。
 では、具体的にどこをやるのか。制度がもう整備されているところにはなかなかやる余地はないということになってくるのだと思いますけれども、現実問題として今、一番焦点になっているのはアジア、特にインドシナ半島のカンボジア、ベトナム、ラオス辺りが中心になってこれが行われている。これをまた更にほかの中央アジア諸国とか、まだ法整備をいろいろとこれからやっていかなければいけない国があればやっていく余地があるのではないかということではないかと思います。
 したがって、今の乗越委員のあれには答えていないのかもしれませんけれども、いろいろな切り口で見ることができるのではないか。そういう協力を通じてもちろん究極的には、例えばインドシナ半島においては日本法と比較的、法令面でも制度の面でも親和性が強いレジームができることを間接的、直接的に支援していきたいということじゃないかと思います。

○柏木座長 この問題につきましては、法務総合研究所や日弁連あるいは国連アジア極東犯罪防止研修所等からお話をいただいたと思いますけれども、まず現状の問題点というのを考えてみる必要があるのではないかと思います。問題点と言えば、これはディスカッションするまでもなくお金が足りない、人が足りないということなんだろうと思うんですけれども、この辺についていかがでございましょうか。財政的基盤としては今はODA予算、それから文科省の科学研究費も一部使われているように思うんですけれども、それが中心になるわけでしょうか。これを増やしてくれと言うしかないですか。人材不足につきましては、先ほどの法曹の国際化とも関連してくる問題だろうと思います。
 もう一つは、いろいろなところのプレゼンテーションを受けましたけれども、私の印象としてはかなり多くの機関がこれに携わっていると感じました。そこの協調関係はどうなっているのかなというようなことがちょっと気になりました。例えばJICAがやっていますし、国際民商事法センターもやっているし、名古屋大学も積極的にやっている。それから国連アジア極東犯罪防止研究所もやっているというようなところで、あるいは個々の研究者もやっているのかもしれませんね。何か少しばらばらなような気がしたのですが、いかがでしょうか。

○久保利委員 これはむしろ日弁連の上柳室長が一番現場でよく御存じなのではないですか。現実に行っているから。

○日弁連 やっているものから言うと、本当にいろいろあちこちでやっていることをまとめようとしているのではないかという努力はしているつもりです。特に人的には本当にまだ関わっている人数が少ないことは良くないのですけれども、その反面としてどこでどういうことをやっているかというのはかなり把握できています。特に法総研が今、半年に1回くらい交流会のようなことを主催してくださっていますし、それから少し理論的な研究をしようということでJICAあるいは法務省が中心にやっていただいています。ですから、それなりの努力をしているということは言えると思います。
 ただ、一方で、では本当にこれがニーズに合致しているのかということで考えれば、日本全国でそれこそ20人、30人程度でやっているのが現状だと思いますので、もちろんそれではだめなんでしょうね。もっともっとそれこそあちこちで何をやっているのかわからないというぐらいになっていて、かつ先生がおっしゃる協調というのか、そういうことについてもまたシステムづくりということになるかと思いますけれども、それを是非検討していただきたいというか、つくらなければいけないというふうに思います。

○柏木座長 むしろ、人的基盤が不足しているがゆえに連絡協調体制は非常によろしいという皮肉な現象が起きているのかも知れません。人的基盤の充実化というのも難しい問題ですね。一体何をすればよいか、何かアイデアのある方はいらっしゃいませんか。

○乗越委員 アイデアというか、御紹介ですけれども、法律を一つつくるという作業は、やはり一つの法律について言っても相当人的な資源が必要だと思うんですね。ですから、今どういうふうに法整備支援というのを実際にやっているのかわかりませんけれども、例えば1人の日本の弁護士がどこかの国に行って、では刑法をつくりましょうとか、そういうふうな話をしても、恐らくそれでできる支援というのは相当限られたものではないかという気がするんです。ですから、やはりある意味で相当な規模のグループを作る努力をして、そのグループを集中的にどこかに資源を落とす努力というのは必要なのではないかと思います。
 これがいいのかどうかわかりませんけれども、アメリカとかイギリスの事務所に時々くる依頼は、途上国から依頼を受けて、政府から依頼を受けて、うちには担保法がまだありませんからどうにかドラフトしてくれませんかとか、それからうちには石油業法というのがまだないので、それをちょっとつくってくれませんかとか、そういうのがあります。そういうのはもちろん大きな案件ですから、事務所の中で相当大きなチームをつくってリサーチなどをしてやるんですけれども、例えばもし同じ金があるのであれば、そういうふうなどこかの、あるいは日本の大きな事務所にそういうことを依頼させて、そこのフィーとか何とかという形を支援してやるとか、そういうような形で、既にある、集まった人的資源というのを確保するというやり方もあるのではないかという気がします。余り薄くばらまいても意味がないのではないかなという気がしまして、現状がどうなっているのか分からないまま発言しておりますけれども。

○柏木座長 現状が分からないまま発言しますけれども、英米系の弁護士事務所にお願いすると非常に高くつくのではありませんか。

○乗越委員 本件について言えばもちろん日本の法律事務所に、例えば日本法に似たような法体系をつくるということを奨励するのであれば、日本の法律事務所に頼んでドラフティングなどをしてもらうときに、フィーを例えば半分出しますとか、そういう形で金を出しつつ、人的基盤については既にあるものを利用するとか、私のイギリスでの経験ではそういうものを見たことがありますので御紹介したまでですけれども。

○久保利委員 まさにそれは実は裏腹になっていると思うのですね。乗越先生のおっしゃるとおり日本の弁護士の国際化が遅れていて、海外において日本の法律事務所というのはそういう知名度もなければ、能力において評価もされていないから、したがってそれでは日本のそういう大渉外法律事務所にそれをお願いしましょうという発想にはならないわけですね。したがって、逆に言うと欧米の大事務所にお願いをすると、欧米系のまさにコモンロー的な法律がつくられていって、結果的にはインフラが英米系でつくられていく。それで、結局日本の弁護士はその国についても基本的な法律を同じにしませんので、その後のトラブルについて介入することも関与することもできないというふうになっていく。
 ですから、1番と2番は実は別の話ではないので、そういう意味から言うとここでとにかく2番という流れを使いながら1番を強くしていくということも含めて言えば、今、乗越先生がおっしゃったことはすごく正しい国家戦略なんだろう。ところが、国家戦略としてそれを取り入れていない。結果的には小さな予算の中で、かなり日弁連的に言えばこれはほとんどボランティアに近いと思いますけれども、そういう形で少数の人が頑張るしかないというのは、私は国家戦略として非常にマイナスだと思います。よってもって人も金もというふうになるのですが、その位置づけというのはやはり橋を架けたり、道路をつくったりするのと同じ、あるいはそれ以上に重要な国家の基本インフラをつくるんだというふうに考えたら、それは決して日本だけのためではなくて、その国にとっても、国民にとっても大変役に立つことなのではないか。そういう意味で、土建国家から日本も少し司法国家になろうというのであれば、そこに予算をたくさん付けるということは一挙両得な話であって、それは非常に意味があるというふうに私は思います。
 いずれにしても、ほんの少しのお金でも実は日弁連でも1億円もらったと言って、それでロー・スクールができるんでしたか、要するに、日本にロー・スクールができないうちにカンボジアにロー・スクールができるわけで、それは1億円あればできてしまうんです。そういうふうに非常に予算の費用対効果の高い国なので、その意味で言うととんでもない金を使わなくてもそれができて、その結果としてその教育で日本法的な考え方を教え、そしてそれがインフラとして社会に根付いていく。こんなうまい話はないと思うんです。何で1億円ぐらいで喜んでいるのかと日弁連には言ったんです。あと10億か20億もらえば20校くらいできるので、日本よりロー・スクールができるのではないかと言ったのですが、そんなに予算はとてもないという話です。それくらいのことは外務省も法務省も日弁連も人は出しますから、是非そういう方向でやることが国際化に対する非常な意味を持ってくるのだと思いますが、下條先生、違いますか。

○下條委員 おっしゃるとおりで、特にありません。

○波江野委員 今の法整備支援ということで言うと、この意見書の中にも法整備支援をすることによって、円滑な民間経済活動の進展にも資すると書いてあります。まさに日本法の考え方というか、日本法で今まで我々が経験してきたことを、外国の方たちにも伝授する、普及するというのも非常に大事だと思います。それに加えて、私が法整備支援で大事だと思うのは人的交流が活発化するというところがあるかと思います。特に先ほどから出ているローエイシアでございますとか、国際民商事法センターといったようなところで何回か出入りしていますと、私どもなどは会社の立場で顔を出すのですが、各国の極めてトップクラスの法曹の方たちが見えて、3か月とか半年日本で研修を受けるとかというような形によって、その後、懇親会でお互いに不自由な英語で話をするだけでもかなりコミュニケーションが向上したような感じになるわけです。法律の問題というのは基本的には人と人との関係ですから、人的交流が深まるというようなことも非常に大事なことなのだと私は思いますので、制度としてこの法整備支援を充実させるということについて、立法の支援をするとかいろいろな内容もあるでしょうけれども、それ以外のもう少し地道な、例えば、お金を出して向こうから研修生を受け入れるとかも含めてやっていくことも大事なのではないかという感じがいたします。

○柏木座長 お話を聞いていますと、財政、人的基盤がとにかくない。お金もなければ人もないという状況のようでありますけれども、これはお金の方が先ですね。お金があれば日弁連や、多分学者の方もかなり協力的になるんだろうと思います。実際に名古屋大学は科研費を取って今かなり活発にやろうとしていますし、実際にやっていますね。昔からやっているのでしょうか。森嶌先生も名古屋大学でしたし、道路やダムの建設もいいけれども、むしろ久保利委員がおっしゃるように、建設よりもわずか1億円でロー・スクールが建つならば、はるかにその方が支援としてはいいのではないかという気がいたします。
 ほかに御意見ございますでしょうか。

○下條委員 お金がないということですから、1つは日本には寄付制度がないですよね。すべて税金でいったん国が取り上げてそれを配分するという形ですから、あるいは寄付のような制度をつくって、例えばこういった東南アジアの国々の法整備支援に当てるというような特別のファンドみたいなものをつくって、弁護士事務所がそこに寄付をすれば、それは税法上控除できるとか、そういうようなことをしてお金を集めるというのも一つの方法じゃないかと考えます。

○柏木座長 そうですね。寄附制度というか、寄附に対する税制上の優遇制度がないというのはいろいろなところで影響を及ぼしていますけれども、本件にもそういう制度ができれば、今のこの苦しい経済状況の中でどれだけ寄附が集まるかはひとつ疑問としても、非常にプラスになるだろうという気はいたしますね。ほかに御意見はございますか。
 ないようでしたら、先ほどから出ています3番、今日の資料11−3には出ていないのですが、その他、というのがありますね。日本法の空洞化とか、日本の法律の国際化とか、先ほど下條委員からも御紹介がありましたように条約の批准が圧倒的に少ない、そういう法律のインフラについても少し御議論をいただいた方がよいのかなという気がいたします。道垣内委員がいらっしゃらなくなってしまったのですけれども、この点については今までもぽつぽつと意見が出されておりましたが、いかがでしょうか。それから、日本法の翻訳がない。日本の法文化というか、法律制度の発信が非常に足りないという意見、御指摘もございました。乗越委員、どうぞ。

○乗越委員 日本の法律についての英文がないというのは私どもも非常に切実に感じていることでございまして、昨日ちょっと漏れ聞いた話では、今もウェブサイトをうまく探せばあるのではないかというふうな話は伺ったんですけれども、私は昨日はそれを試していなかったのですが、幾つか日本の法律について翻訳しているものはありますが、それについては民間でやっていて、民間が悪いというのではないんですけれども、それをどこまで信用していいのかというのが常に疑問が残りまして、私ども例えばクライアントから日本の法律について知りたいんだけれども翻訳がないかと言われても、責任を持ってこれ、と渡していいのかわからないというふうな現実的なトラブルというのは常に起こっております。ですから、もし可能であれば、もちろん日本の法律ですから日本語の成文というのは当たり前なのですけれども、ある程度何かオーセンティシティを与えられるような機関が迅速に法律、政省令も含めて何か皆で使えるような翻訳みたいなものをつくってくれるような組織ができると非常にありがたいし、それから外国人にとっても日本法に対するアクセスというのが非常にやりやすくなるのではないかという気がいたします。

○柏木座長 ほんのちょっとお金を付ければすぐにできることなんじゃないかという気がするのです。そんなに何億円もかかるようなプロジェクトじゃないと思うのですけれども、どういうわけか、憲法を除けばほとんどいい翻訳というのはないですね。むしろ逆に言えば、この間もちょっと議論がありましたけれども、最新の法律で欧米系の弁護士事務所が翻訳したなどというのもあるかもしれませんが、民法とか商法とか、あるいは民事訴訟法、刑事訴訟法、ああいう基本的なものの信頼できる翻訳というのがありませんね。

○乗越委員 それはもちろん先ほど申しましたように、政府がやるということになると翻訳に間違いがあるとトラブルが起こるからとかというふうなことになりますけれども、現実に仕事をしている人にとってはそこまでの厳密性は要求されていないので、例えば日弁連が統一翻訳をつくりますとか、そういうふうな形で何かお墨付きを与えてもらえれば、皆、大体これを使って仕事をしているのだなということさえわかれば安心してそれを見ることができるのだと思います。ですから、別に政府でなくても、日弁連とかでそういうことができれば非常に助かるのではないかなという気がします。

○久保利委員 逆に、皆さんがそれが欲しくて、しかしそれがないということが問題だというのは大変なビジネスチャンスなので、まさに渉外法律事務所が手分けをして日本の主だった法律ぐらいはさっと翻訳をしてお売りになったら相当なビジネスになるのではないかというふうには思うんですが、なぜ日本の巨大法律事務所はそれぐらいのことをなさらないのでしょうか。

○柏木座長 それは、多分やはりペイしないからだと思います。

○久保利委員 コピーライトが取れなくて、結局。

○柏木座長 コピーライトではなくて、そのリライアブルな英語の翻訳をするための労力と、コストと、それから売れ行きとの間でやはりマッチングが起こらない。利益が出るようなお値段をつけたら買う人がいないということになるのだろうと思います。

○久保利委員 事務所のステータスというか、それはものすごく上がって日本を代表するBig1だということになるのではないでしょうか。

○柏木座長 昔、ゼミでアメリカ人も含めて日本の製造物責任法の翻訳をやりましたけれども、あの製造物責任法は数条の非常に短いものですが、あれを翻訳するのに半年かかっています。その翻訳というのは、やはり脚注を付けないとどうにもならないんですね。その脚注を考えながら翻訳をやっていきますと大変な労力と時間がかかる。だから、やはりそこは日本の法文化の発信ということで、どこかからの経済的援助がないとうまくいかないのだろうという気がいたします。

○久保利委員 なぜそういうことを言うかと言いますと、私が理事をしております日本コーポレートガバナンスフォーラムというのがコーポレートガバナンス原則というのをつくって、初めは日本文だけしかつくらなくて全く日本のドメスティックな反響しかなかったのです。ところが、この第1版のものは少々拙速だったのですけれども、それでも出しましたら反響がありました。今度、新しいバージョンアップを今年やったわけで、その新しいバージョンについてはザルームさんにお願いをして翻訳をしていただいて、それを英文版として配ったら本当に世界中のガバナンスに関連する団体から送れ送れということで皆、送りました。そうしましたらものすごい反響があって、日本のガバナンスフォーラムというのがそういうことをしていて、日本的なガバナンスの中で社外取締役というのをこう重視しているのかということを世界に発信することができたわけです。
 やはりそういうのを見ると、日本法のそういう翻訳が英文で、ダッと出ていくということは、日本法というのはそういう構造で、そういうことを考えているのかということを世界の人たちが皆、理解ができて、これはいいねというふうになる可能性だってあるわけですね。現に倒産法だとか著作権法だとか、中国とか韓国はそれを入れているわけですから、ワールドワイドに通用する立派な法律を我が国会なり法務省なりが皆つくっていると思うのです。それをなぜ発信しないのか。そのためのコストがかかるのならば、それはペイしないというのならばやはり国がやるべき話だろうと思いますし、この検討会として日本法発信のために予算を幾ら付けようというのを全員一致でこれは提言ができるのではないでしょうか。

○柏木座長 そうですね。今の話を聞いて思ったのは、ザルームさんを翻訳者に使ったというのは大変ぜいたくな翻訳ですね。

○久保利委員 非常に格安にしていただきまして、ボランティアでやっていただきました。

○波江野委員 英語と日本語の関係で1つ言いますと、裁判所などの英語のレベルと、英語に対する評価というか、価値観というのは、孝橋委員の前で「いかにいいかげんか」などと言ったら失礼ですけれども、このような例があります。アメリカからPL裁判で訴状が英語でダイレクトに会社に送られてきたりするのですが、その場合にはいろいろな作戦もあって受け取りを拒否して、ハーグ条約に基づく裁判所経由の送達を求めることがあります。そうすると、裁判所を経由するときには日本語訳を付けないと裁判所は受け付けないということで、しばらく後になって訳付きで来るのですが、その日本語たるや、日本語としてもおかしいし、英語の翻訳としてはとてもわからない。英語の不得意な私などは日本語を結構一生懸命読みますが、英語のできる人たちは、「こんなのを読んでいたらだめですよ」と言って英語の方を一生懸命読む。内容には関係なく、日本語の体裁をとっていさえすればそのまま右左で通してしまうというようなところにも、やはり日本の裁判所における英語に対する評価の問題があるのではないでしょうか。
 ですから、法律を英訳したものをちゃんと発信しようとか、先ほどの1番の話とは少し私のスタンスは違うかもしれませんが、法曹界全体として英語に対する慣れのようなものが必要なのではないか。柏木座長が最初におっしゃったように、法律の世界というのはアングロサクソン系がどんどん凌駕しているような状態です。例えばコーポレートガバナンスや何かの関係でもグローバルスタンダードと言って、そのうちの大部分はアメリカンスタンダードに近いと言っても過言でない状況です。我々はこれからは英語というのは避けて通れない部分ですから、英語に対する取り組みというのはもっとお金をかけてでもやるべきではないかなという気はいたします。

○孝橋委員 今の点は私は事実関係は分かりませんけれども、アメリカからの訴状の送達を日本の裁判所が取り次いだと。それで、翻訳をつくったのは原告側の関係者ですよね。裁判所が作ったわけではないとは思うのです。ですから、一般的に。

○波江野委員 英語と日本語が付いていれば通す、というだけですね。英語をちゃんと翻訳したかどうか、まじめに翻訳されているかということでチェックすらしていないということです。

○孝橋委員 そこのチェックが十分でなかったということですね。

○乗越委員 そもそも波江野委員のおっしゃっているのは、日本語が付いていないと受け付けないという制度自体がおかしいからそういうことになるのではないかということではないでしょうか。

○孝橋委員 それは、日本の裁判手続は全部日本語でやるということになっていますので、日本の裁判所がそれを送る場合は日本語の翻訳を求めているということではないかと思います。それをだれがどういうふうに直すかということですけれども、実際に相当語学力のある人というのは裁判所全体の中では人数的に限られていますので、本来ならば当事者の方でしっかりやってほしいというのが裁判所の基本的なスタンスかなと思いますが、一面はおっしゃるとおりかなと思いますけれども、日本の裁判は日本語でやるというのがルールであるということと、それと日本の裁判所にはそこまで十分チェックできるスタッフが必ずしもそろっていないことによるものではないかと思います。
 それで、先ほどの、日本語で日本法を英訳するという話ですけれども、私の承知している範囲では、以前ワシントン大学のロー・スクールに留学したときに、ワシントン大学というのは日本法の教育に力を入れているところですけれども、日本法の翻訳、英訳があったと思いますし、それ以外にも弁護士さんで何か日本法の英訳をつくってもうけようかなという話をしている人は、平成5年ぐらいでしたけれども、おられました。
 ただ、やはり本当にビジネスとしてそういうことが成り立つためには相当売れないといけないということだと思うのですけれども、恐らくアメリカ国内で日本法の単に英訳だけのものを買う人がどれだけいるのかなという問題はあるのかなという感じはいたしております。
 それから、裁判所も重要な判例については英訳するという作業をやってはいるんですけれども、ただ、余り広くは知られていない。そういう意味では情報発信が余り十分でない面もあったかもしれません。ただ、他方、そのニーズとの関係で、先ほど久保利先生がおっしゃった、うまく翻訳にも有名人を選んで、その注釈とか解説も付けて頒布すれば非常にニーズがあると思うのですけれども、単に日本法の条文の翻訳というだけでは、実際のニーズがどれだけあるのかが疑問だと思いますから、例えばもう少し日本法の解説書ですね。日本法を解説した教科書が英訳されたものがどれだけあるのかは知りませんけれども、最初はもちろん条文あるいは判例自体でしょうが、それを解説したものの英文化されたものがもっと出るということも必要かなという感じがいたします。それは単に役所だけの問題ではなくて、学者の先生方とか弁護士さんのお力添えも要る話かなという感じはいたしております。

○柏木座長 学者の線からいきますと、これもコストと合わないんですね。コストと合わないということは、翻訳の作業というのは評価されないわけです。業績にほとんどならないわけです。ところが、翻訳に使う時間と能力というのはものすごい能力が要るわけですね。結局、日本法をよく理解して、しかもそれを例えば英語に訳すとするとコモンローの深い知識がないと、こういう現象を規制しているんだけれども、同じような現象をイギリスで規制するときにどういう表現を使うかというところまでわからないと翻訳ができないわけですね。だから、大変な能力を必要としながら、しかも評価されない。だから、そういう能力を持っている人はそんな面倒臭いことをするんだったらもう論文を書いてしまうよと。論文を書いた方がよほど楽しくて評価されるわけですね。そういう現状にあるわけです。
 それから、条文の日本語から英語の翻訳にしても、乗越委員がおっしゃったように需要はものすごくある。ただ、こんな本に5万円とか10万円とか払いたくはないと、こういうジレンマなんだろうと思うんです。だから、やはり文化の発信についてはコストが非常にかかって、それは経済原則ではペイしない。そこに国としての何か補助金、サブシディーズを与える制度が多分必要なんだろうという気がします。
 ほかにもいろいろと日本法の空洞化とかありましたけれども、司法制度改革推進室として一体何ができるか。日本の法律の空洞化について何ができるかというようなところもありまして、どうもこの国際化検討会で有効な提言、提言をするのかどうかもまだ決まっていませんけれども、そういうことを考えると、今の法律の発信ぐらいについて有効な意見が出る可能性もあるのかなというようなことを感じますが、ほかに御意見でこういうポイントがあるというようなことがありましたらどうぞ。

○下條委員 1回目のときにも申し上げましたけれども、やはり先ほど波江野委員がおっしゃった送達関係をもう少しすっきりさせないといけないのではないでしょうか。ですから、こちらが訴状を受け取る場合ですと、やはり日本語のサーティファイド・トランスレーションができるような制度をつくるとか、そういうことをしないとさきほどおっしゃったようなめちゃくちゃな翻訳で、何でも日本語が付いていればよかろうということで、全然こちらにとっては助けにならないわけですね。ですから、そういった翻訳を認証する機関とか、そういったものが認証した翻訳でないと正規の送達と認めないとか、そういうようなことが必要になるのではないかと思います。
 それから、逆の場合も、やはりこれはハーグの送達条約によると現在非常に時間がかかるわけですね。これは例の外国法事務弁護士の話も出ましたけれども、事後的に措置するとなれば外国法事務弁護士を本国に追いかけて損害賠償請求とかをしないといけないわけですね。ところが、いったん本国に帰ってしまうと今、申し上げましたハーグの送達条約によらざるを得ない。それだと6か月も7か月もかかってしまう。そうなると、やはり事後的規制と言っても絵にかいた餅にすぎなくなるのではないかということです。そうであれば、やはり訴状受領の代理人という制度をきちんと認めるとか、そういうことをして外国法事務弁護士が日本で登録したときには、例えば法務省ならば法務省を訴状送達の受領代理人と任命するとか、そういうことをきちんとやっておかないと、事後的規制があるからよいではないかとかと言っても、それは絵にかいた餅にすぎないということが言えるのではないかと思います。
 それからもう一点、これは前に上柳弁護士が出した資料の中にも書いてありますけれども、アトーニ・クライアント・プリビレイジというのがありまして、これは弁護士依頼者秘匿特権というものです。ですから、座長がおっしゃったようにどんどんコモンローに侵食されていけば、こういったアトーニ・クライアント・プリビレイジでもって訴訟になったときに、確かに依頼者がそういう特権を持っているということもきちんと手当てされていかないと、コモンローは入ってくるわ、日本の依頼者はそういう依頼者特権を持っていないということになりますと非常に日本の依頼者にとって不利益になりますので、その辺をきちんと措置する必要があるのではなかろうかと思います。

○柏木座長 ありがとうございました。非常に重要な点だろうと思います。ほかに検討ポイントの御指摘はございますでしょうか。
 なければ時間も大分押し迫ってまいりましたし、この辺で区切りをつけたいと思います。それでは、次回以降の予定について事務局から御説明をお願いいたします。

○齊藤参事官 次回の検討会は、11月21日木曜日の午後2時から5時を予定しております。次回以降は、今日御議論いただきました弁護士の国際化、法整備支援の推進につきまして、具体的なポイントについての検討を深めてまいりたいと思います。検討の要領等につきましては、今日の御議論なども踏まえまして少し事務局の方でも準備をさせていただきたいと思います。よろしくどうぞお願いいたします。
 それから、冒頭申し上げましたように、外国法事務弁護士制度の改正の基本方針につきましては、固まり次第御報告させていただきますのでよろしくお願いいたします。

○柏木座長 それでは、第11回国際化検討会を閉会させていただきます。本日はどうもありがとうございました。