首相官邸 首相官邸 トップページ
首相官邸 文字なし
 トップ会議等一覧司法制度改革推進本部検討会国際化検討会

国際化検討会(第14回)議事録



1 日 時
平成15年5月14日(水)10:00〜12:30

2 場 所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委員)
柏木昇、ヴィッキー・バイヤー、加藤宣直、孝橋宏、大塚和也(下川委員代理)、下條正浩、乗越秀夫、玉井克哉、波江野弘(敬称略)
(説明者)
山下輝年(法務省法務総合研究所国際協力部教官)
赤根智子(国連アジア極東犯罪防止研修所次長)
矢吹公敏(日本弁護士連合会国際室長)
竹下守夫(駿河台大学長)
(事務局)
齊藤友嘉参事官

4 議 題
法整備支援の推進について

5 議 事

○柏木座長 それでは所定の時間になりましたので、第14回国際化検討会を開催いたします。
 本日は御多忙の中、御出席いただきまして誠にありがとうございます。
 早速ですが、今回の議事予定につきまして、事務局から御説明をお願いいたします。

○齊藤参事官 ご説明申し上げます。本日の議事予定の前に、弁護士と外国法事務弁護士との提携・協働の推進につきまして、外弁法の一部を改正する法案を去る3月14日に閣議決定し、国会に提出させていただきましたことを御報告申し上げます。
 この課題の検討のために、10回を超える会合を開催させていただきましたが、委員の皆様には、御多忙にもかかわらず、これまで精力的に会合に御参加いただき、御検討・御議論いただきましたことを厚くお礼申し上げます。どうもありがとうございました。
 さてそこで、本日の議事予定でございますが、本日は法整備支援の推進につきまして関係者からヒアリングを行った後に、御議論をいただく予定でございます。
 ヒアリングには、法務省の法務総合研究所国際協力部の山下教官と、国連アジア極東犯罪防止研修所の赤根教官、日弁連の矢吹国際室長、司法制度改革審議会の会長代理で、カンボジアの民事訴訟法の起草支援に御尽力されました、駿河台大学学長の竹下守夫先生にお越しいただいております。
 ヒアリングの時間でございますが、質疑応答の時間を含めまして、それぞれ30分程度を予定しております。そして、その後の御議論を1時間程度予定しております。
 なお、本日は下川委員が都合により御欠席でございますので、その代理といたしまして、外務省経済局サービス貿易室の大塚補佐に御出席いただいておりますので、御了承いただきたいと思います。
 以上でございます。

○柏木座長 それでは、まず初めに、事務局から配布資料の確認をお願いいたします。

○齊藤参事官 資料14−1は、法務省法務総合研究所の本日の説明資料でございます。
 資料14−2は、日弁連の本日のヒアリングの際の説明資料でございます。
 資料14−3は、竹下守夫先生の説明資料でございます。
 資料14−4は、外弁法の一部改正についての概要ペーパーでございます。
 資料14−5は、今後の国際検討会のスケジュール (案) でございます。
 資料14−6は、外務省から提出いただいた資料でございます。この資料は、当検討会の第3回検討会の際の外務省説明資料の内容を更新したものでございますので、御参照ください。
 そのほかに、「法整備支援の推進の在り方について議論のポイントメモ」というペーパー、そのほか参考資料を席上で配布させていただいております。
 以上でございます。

○柏木座長 それでは、議事に入ります。まず、法整備支援の基盤整備等につきまして、法務省法務総合研究所からのヒアリングを行いたいと思います。御説明いただきますのは、国際協力部教官の山下さんと、国連アジア極東犯罪防止研修所教官の赤根さんです。御説明時間は20分程度を予定しております。その後、質疑応答を10分程度と考えております。それではよろしくお願いします。

○山下氏 それでは、まず国際協力部の山下から説明いたします。国際協力部は、民商事法の分野を中心とした法整備支援、国際協力を行っています。本日は、ある意味では夢を語るつもりで来たわけですけれども、ほかの検討事項と違いまして、別に法制度や法律をつくるわけではありません。ただ、せっかくこのような国際化検討会の場があるわけですから、皆様に現状と、あるいはどういうことで困っているかを御理解いただければと思います。夢といいましても、実現困難ではないという意味でささやかな夢ですので、その点は御了承いただきたいと思います。
 資料に基づいて説明いたしますと、最初に法整備支援の意義が書かれております。1番目にはその在り方ということで書いておりますが、それと既に第3回検討会でも説明いたしたことでもあります。我々が現在直面している問題は、開発途上国を相手にしたときに、対象国ごとに法制度が違いますし、相手が求める内容が違い、要請内容が非常に広範にわたりますので、法務省にいる検事あるいは裁判官、弁護士だけで対応できるものではなく経済産業省などいろいろな省庁の協力も必要です。それから学界の協力も必要となるのです。ところが、それをまとめるといいますか、組織的に応援態勢を構築する体制にないということが、まず直面している問題です。
 2番目に書いてある問題点に移ります。我々の活動はほとんどJICAのODAを基盤とした支援を行っております。つまり、我々がJICAの枠組みの中で実施機関という立場に立つわけです。ODA大綱を基本として行っていますので、どちらかといえば市場経済化促進の面から支援することになり、そうすると民商事法が中心になっていくのです。ただ、WTOあるいはASEANという問題もありまして、我々は法務省ですけれども、法務省が所管している法令だけで対応できるものではないということも、また同じような理由として問題となってきています。
 それと法整備支援というのはごく最近始まったものでありますから、ODA枠組みと知的支援としての法整備支援はシステムがなかなかうまくかみ合わないという印象を持っております。この資料の3番目に書いておきましたが、あくまでもその特徴を際立たせるために書いたもので、従来のODAが物造りだけをやってきたという意味ではありません。ただ、物造りのようなものが多く、知的支援の方は人造りであるわけです。JICAも過去40年来、「稲作からITまで」と言っているように、人造りを重視してきたのですが、法整備支援では物造りはほとんどなくて人造りが大半であるという意味で強調している次第です。
 それから工事受注型と知的支援型とあえて分けていますが、工事受注型ではそれを行う企業が入ってきて、企業としては利益になるということで引き受けるのでしょうが、知的支援型ではそういうものは別になくて、例えば学者が自らの研究あるいは大学での講義の合間を縫ってボランティア型で行っており、そういうものの結集であるという意味です。
 次に書いてある「通訳・翻訳態勢、日本法の発信と専門家の育成」が強調したい2点です。
 評価手法の研究はまだ確立されておりませんので、具体的なことを言うことも難しいのですが、やはり物造りとは違ってすべての点において難しいということがあります。
 最低限として御理解していただきたいということで、3と4に、こういうことがもし対応できたらよいし、あるいは対応すべきではないかという内容です。3が物的態勢とすれば4が人的態勢ですし、物的態勢の中でも日本法の発信にとどめています。法整備支援をしておりますと、もちろん英語圏でない国も相手にしますが、やはり現在の情勢からは英語の資料がないことには、例えば現地に行って講義で説明するしかないのです。日本へ招いたところで、やはり講師が通訳を使っていわば口移しで説明するしかありません。長期的に日本に滞在してもらって勉強させるにも、英語の文献がないと始終誰かが対面して教えなければいけない。つまり、その労力が多大なものとなり、やはり英語の資料が必要になります。
 英語の資料は全くないわけではありません。それぞれの所管省庁がそれなりに英訳しておりますが、これがすべて非公式訳になっておりまして、ある意味、個人的なつてがないとなかなか入手できないのです。仮に入手できたとしても、使用目的は限られるということがあります。民間会社はもちろん発行していますが、翻訳しているということでその翻訳権の問題がありますので、すべて購入して対応しています。
 こういう活動をしておりますと、自由に使える英文法令あるいは英文資料が切実なものになってきています。ですから、もしできるのであれば専門部署を設け、日本で法令の英語訳ぐらいはそこにアクセスすれば入手できるような態勢を整えるのが、法整備支援に限らず国際化に対応するためには必要なのだろうということになります。
 (2)の支援対象国の法律情報の蓄積及び発信については、皆、先進諸国に目が向いておりますけれども、アジア法に目を向ける方が少ない。恐らくアジア法を研究しても業績にならないのだと思いますが、これを促進するような態勢が大学でもいろいろな機関でもできればよろしいのではないかという意見を持っています。
 人的基盤のことは繰り返しになるかもしれませんが、先ほど申し上げたとおり、例えば学者の方は自らの研究、大学での業務、講義の合間を縫って行っているという意味で個人のボランティア的な活動を強いられている面があります。弁護士も自らの業務を持ち、その合間にやっているわけで、仮に弁護士業務をやめて打ち込もうとすると、その後の保障はなかなかできないということがあります。
 法整備支援では、法律の字面だけを見て行っているのではだめで、現地での調査が不可欠になってきます。相手の運用、文化を知らなければ適切な助言もできませんので、長期滞在型の専門家が必要になってきます。それは数カ月でも1年でもよろしいのですが、本当は数年単位のものが必要だと思っています。ただ、それを官として行うとなると、外国出張旅費は極めて微々たるものでありまして、2〜3人が1週間行けば使い切るような金額で、そういうものはできないような状態です。もちろんJICAのODAを使えばよろしいのでしょうけれども、将来の本格的なプロジェクトがまず前提にありきということになりますので、単なる研究・調査のシステムではないのです。
 ですから、最低限英文による日本法の発信を取りまとめる機関があって、それを自由に使えるような体制にする必要があるであろうし、現地調査あるいは大学、法曹実務家が一体となってこの業務に携わることができるようなシステムづくりが必要なのではないかと申し上げておきたいと思います。以上です。

○赤根氏 それでは続いて、国連アジア極東犯罪防止研修所(アジ研)の赤根から少し御説明させていただきたいと思います。
 レジュメにあることはほとんど山下教官から説明がありましたので、アジ研特有のお話をさせていただきたいと思います。アジ研の活動につきましては、去年3月20日の第3回検討会で当時の教官から若干御説明しているとは思いますが、法整備支援の関係ではアジ研はさほど名が知られていないものですから、若干の御説明をしたいと思います。
 アジ研は昭和36年3月に開設というか、国連と日本国政府との協定により設置され、実際にはその翌年9月から研修を始めた機関です。そして運営については、日本の法務省法務総合研究所が任されている特殊な機関です。その目的は、アジア太平洋地域における刑事司法制度の改善や向上を目指すとともに、名前が示すとおり国連の刑事司法分野における活動に協力することとなっています。ですから、今から40年以上も前に、ODAを日本が始める前に既にあって、かつもちろん法整備支援という概念などは到底ない時代に設立されて今日まで続いているという、世界でも希有なインスティテュートではないかと考えています。
 先ほど山下教官からも話がありましたけれども、この40数年間アジ研が何をやってきたかというと、研修あるいは短期専門家派遣を通じてひとえに人づくりを行ってきました。そして、ODAが始まってからはODA予算を使って行ってきたということです。最近になって法整備支援という概念が出てきまして、これが重要性があることが認識されるようになりましたけれども、アジ研がやってきたのはある意味ではまさに法整備支援の一部と言えるようなことで、法律をつくることそのものではないのですが、ある国の刑事司法制度の運営をさらに改善することに対しても支援をしてきました。それとともに、長年にわたって繰り返しアジア太平洋地域の開発途上国から研修生を招いて研修を行ったり、こちらから行って、ある意味では大きなというか、現地の刑事司法関係者数十人を集めて行うセミナーなどを通じてアジ研同窓生という形のネットワークを広げてきました。近時は、それらのアジ研卒業生が各国で活躍することにより、その国の刑事司法の発展や改善に大きく貢献しています。また、国際組織犯罪あるいはサイバークライムが世界的に取り上げられて、多国間条約やそれらを話し合うための国際会議などが開かれておりますが、そういうところにアジ研卒業生が国の代表としてどんどん出てきて、アジ研で学んだことも念頭に置きながら活躍しているということで貢献してきたと考えております。
 さらに近年はテロや国際組織犯罪、汚職、サイバークライム等々により国際協力の枠組みがさまざまな国際フォーラムでつくられつつありますが、その中で国際協力をよりよく進めるためには各国の法整備がまず必要なわけですから、その場合にアジ研に対してさらに日本の知見を伝えてくれと求めてくる国も増えつつあります。そういう中で、従来は職種としてマルチの研修を行ってきたのですけれども、最近では1つの目的、例えば汚職防止や保護司の制度の活性化等々の問題に対して、1つの国に対する支援も何年間か引き続いて行う形での研修あるいは短期専門家派遣を行うようになってきています。
 そこで、問題となる点については山下教官が申し上げたのと同じようなことなのですが、情報発信の難しさがありまして、アジ研では40年以上にもわたって研修の成果や、研修の際に集められたさまざまなデータなどがあるのですが、これをどうやって海外に発信していくかということが大きな問題です。英語版で毎年3回ほど「リソース・マテリアル・シリーズ」と称して出版していますけれども、そのほかにホームページを立ち上げて「リソース・マテリアル・シリーズ」の内容を全部盛り込むような制度を現在つくりつつあります。ただし問題はやはり予算と人の問題で、これらを維持して常にアップデートしていくのは相当困難な事業です。
 それとともに、これもまた繰り返しになりますけれども、アジアにおける英文資料の少なさ、アジア研究の少なさ、日本の法律についての英文資料の少なさが大きな壁となっておりまして、これらについても研究なり英文化なりをどんどん図っていくようにしたいと考えております。これについても、政府がさらに促進化を図っていただけるのであれば非常に助かると考えております。
 概略の説明は以上でございます。

○柏木座長 ありがとうございました。それでは、ただいまの御説明につきまして御意見、御質問がございましたら、挙手で御発言願います。

○下條委員  改めて司法制度改革審議会意見書を読んでみますと、もう結論は出ているんですね。つまり、「法整備支援については積極的にこれを推進していくべきである」という結論が出ております。そうであればこの場で何をするかというと、ここはそれを実践に移していく場だと思いますので、先ほど山下さんは「夢を」とおっしゃいましたけれども、夢ではなくて具体的に実践に移していくためにどういうことを要望されるのかをもっと具体的におっしゃっていただきたいと思うんです。そうでないと、この場が実践に移していく場でありながら、単に意見書の意見を唱和するだけに終わってしまうということになりますので、夢とか遠慮された物の言い方ではなくて、法務総合研究所としてはこれとこれとこれを要望する、そしてそれについては予算措置を講ずることを要望するとか、はっきりと言っていただいた方がいいのではないかと思います。
 おっしゃったことは多分、いろいろな機関の協力が必要だからそれをまとめる機関が必要であるということでしたし、英文による日本法の発信も必要であると。実を言いますと、私どもの事務所でもある省の依頼を受けてある基本法の翻訳をやっております。これはおっしゃったように膨大な作業で数カ月にわたってやっております。そういうこともありますので、すべて予算が大きな決め手になると思うんですね。ですから予算も具体的な数値を示して、こういうことについては幾らぐらいとはっきりおっしゃらないと、この場がなかなか実践する場になっていかないと思うんですね。ですから、そういうことを言っていただきたいと思います。

○柏木座長 難しい問題ですが、いかがでしょうか。

○山下氏 実は私は予算のことは余り知りませんし、与えられた中でこの業務を担当するということでやっている状況です。私が法務総合研究所を代表して予算面がどれだけ必要かというのは、ここでは言えないと思います。ただ、少なくとも言えるのは、日本法の発信ということで言えば、日本語の法律は総務省で所管して法令検索システムなどができているわけですから、それを英語に変えていく作業はできるであろうということです。もし総務省でやるのならば総務省でやるということでもよいと思います。それが無理であればほかの省でも結構ですし、あるいは公益財団を使うなりしてやっていくという体制でもよいのです。元となるものは日本語で存在するわけですから、それを英語に翻訳するための予算が必要となるということです。それは少なくともやるべきではないかと考えています。法令の英訳は外国人にとっても、いろいろな民間会社、省庁を当たって法律を集めるよりも、一括してアクセスできるようなシステムができれば重宝されるわけでして、日本が国際化に向けて国際社会できちんとした地位を占めるには不可欠であろうと思います。
 実際にどうするかというと、金額のイメージがつかめませんが、一番簡単なのは、総務省で法令検索データシステムをつくっていますので、予算をつけてそれを英語にする、みんなが共有できるようにする。これは最低限だと思っております。

○波江野委員 今、下條委員がおっしゃったことは誠にもっともなことで、ただ、司法制度改革推進本部の国際化検討会は各論について具体的に何をどうするという場ではないと思いますが、司法制度改革審議会で出た意見書の中で、下條委員のおっしゃったことはきちんと書いてあり、四角で囲って結論まで出ていることで、それをどのようにやっていくかという方向づけ等について議論するのがこの国際化検討会の場だと思っております。昨年3月に御報告いただいたときに私もちょっと申し上げたと思うのですが、非常に予算が少ないという話で、その予算について今おっしゃったようにこの件は総務省ですとか、まさに縦割りの縄張り行政を打破するためにこういう推進本部ができたわけでしょうから、これを追い風として、もっと元気よく、全国を巻き込むぐらいの形で意見を発信していただく必要があるのではないかという感じがいたしました。せっかくの機会ですから、具体的に何億よこせと言う必要はないにしても、こういうことについてはこういうものが必要だということをこの検討会の場でもはっきり言っていただいて、議事録に残すことが大事なのではないかという感じが私はしています。
 それが1つともう一つは、幾らお金をつけても人材の養成が非常に大事で、日本語というのは致命的なところがあると私自身思っていますし、英語が必要だということもよくわかります。これは今後の課題になるかと思いますが、弁護士の国際化検討会の中に入っているわけですが、弁護士だけでなくお役所や学界についてもトータル的に国際化を考えなければいけないだろう。その場合に第一線として取り組んでいらっしゃる法務総合研究所やアジ研から具体的なニーズをお出しいただくべきではないか、そういう感じがしますけれども。

○山下氏 総務省と言ったのは、現在あるシステムを前提としたものを言っているわけで、各省庁に所管法令があって法をつくるわけですから、そういうときに本当は所管省庁が同時並行で英語にしていれば、あるいは英語訳を義務づければ自然に集まるわけですけれども、それも大変な作業なのだろうとは分かっています。ただ、そういうシステムができれば一番簡単なことであると思っております、これは個人的意見ですけれども。
 それと、国際的業務に携わると常に感じることなのですが、そもそも日本の国の組織というのは、全体的にジェネラリストをつくるシステムになっていて、転勤転所ばかりで、要するに2〜3年単位で入れ替わって専門家が育たないわけで、これはある意味では無駄というと強い表現になりますが、非効率的ではないかと思います。国際的業務に携わる場合には、最低5年あるいは10年単位で専門家を育てるシステムが必要であると個人的には考えております。それは各省庁の努力と言われればそれまでですけれども、まずそういう発想の転換が必要だと思います。
 まずここまでが日本側の発信のことですけれども、実際に法整備支援に携わりますと、アジアの人たちが日本に関心を示していて、日本で勉強する機会、日本のことを知りたいと思う機会があるわけです。ここでは日本側からは英語の発信ということで問題にしていますけれども、一方でアジアの人の側からは日本語で学びたいという要求もあります。これは多分両輪でやっていかなければいけないのだろうと思っています。ところが日本語は特殊な言語ですから、ある期間だけでできるものではないのです。留学生のときから育てるとか、アジアにいる司法官を日本に数年招いて教育できるようなシステムも必要になってくると思います。
 10日ほど前にテレビで放映していましたが、海上保安庁が2年プログラムでアジアの人たちを呼んで船に関する技術を伝授しており、日本語から教えていました。あのシステムがどうして実現したのか調べたいとは思っています。法律の世界では実は医療や農業等の技術を示すところと違いまして、お手本を示すことはできず、すべて思想というか、考え方の伝授なわけですから難しいことはありますけれども、一方でアジアの人が日本語で学べるようなシステム、同時に英語の発信という両輪でいくべきだということを感じています。
 そういうことをやるとすればあらゆる省庁にまたがることで、文部科学省にもまたがるでしょうし、もちろん予算の関係では財務省にまたがるでしょうし、WTOというと経済産業省、普通の司法制度となると最高裁や法務省などの連携が必要になると思います。

○乗越委員 法整備支援というのは具体的に何をやっているかが、今のお話を聞いてちょっとわからなくなってきたんです。といいますのは、まず法律の英訳をつくって資料を整備して勉強する素地をつくる、これはわかります。その後、先ほどおっしゃっていたのは法律の作成に直接関与するのではなく、それを改善していくための手伝いをするということでしたが、それはアジ研特有のことなのか、私が思ったイメージでは、ある分野についての法律、例えば担保法がないということがあったら担保法をごっそりどこかの国から学んで、それを改善しながら自分の国の法律にしていこうという法律作成の過程が恐らく一番重要なことだと思っているのですけれども、そういう理解でいいのかが1つ。
 それから、専門家の育成の必要性について強調しておられましたが、そこで言う「専門家」がどういう意味かよくわかりませんで、おっしゃったようにいろいろな分野にまたがることですから、それぞれの分野で実際に仕事をしておられる方がまさに法整備支援の仕事に携わるべきであるような気がするのですが、法整備支援の専門家という発想とは少し違うのではないかと思うのですが、そこでおっしゃる専門家がどういう意味かを教えていただけますでしょうか。

○山下氏 まず1点目の法整備支援が何をやるかは先ほどおっしゃったとおりで、原則論は結構だと思います。ただ、アジア諸国の中では、後ほど竹下先生が説明されると思いますが、そもそも起草からしてできないような人材枯渇の状況もありますので、そうすると日本を含めた外国が草案を起案するという作業も含まれます。一国の法律の起案をするわけですから大変なことで、ボランティア活動のようなものに頼っていては本当はだめなのだと思います。政府としてやらなければいけないと思います。
 違うタイプとしては、例えばベトナムなどは、法律は自分たちで起草するが、その前提となる市場経済に即応するような法概念、法律制度がわからないため、その情報を提供してほしいというニーズもあります。もちろん、アメリカとか欧米の方もやるわけですけれども、アジアの人は日本が明治以来やってきたことに非常に興味がある、同じアジア人であるのに、なぜ日本にできて自分たちにできないのかということで、日本のノウハウを知りたいということがありますので、そのニーズは非常に高いのです。ただし、それに対応する人つまり法曹が少ないということもありますけれども、学者の方でも研究分野がかなり狭いといいますか、すべてにわたっているわけでないという問題があります。これが第1点目に対するお答えです。
 第2点目の法整備支援の専門家とは何かということですが、それは今、対象としているベトナム、カンボジア、ラオスを例にとりますと、まず相手国の実情を的確に把握する能力のある人たち、そして相手との対話を進めて相手のニーズを聞き出せる能力、何でもアジアということでまとめたくはありませんが、ある意味で人間関係が必要で、継続的な協力関係が必要です。つまり、一国の専門家も必要ですけれども、彼らが直面する問題の根を探っていくと共通した問題がありますので、そこを取り上げ、くみ上げてどこに支援したらいいかという企画ができるような専門家と言った方がよろしいかと思います。

○柏木座長 この問題につきましては、下條委員が指摘しましたように、まさに方向性は既に決まっているのだろうと思います。これから具体的に何をやるかという段階で、しかもこの検討会のファンクション、つまり各省庁に指示とか提言まではできない。その範囲内でこの検討会が一体どういうことができるかということが問題になってくるのだろうと思います。何をしたらいいかは、今日の山下さんのレジュメの2ページに(イ)として、日本法の発信に関してはどういうことをしたらいいかと支援対象国の情報の蓄積・発信、つまり情報の輸出入に関して具体的にどうしたらいいかということがまとめられていると思います。私もこれはまだちょっと抽象的なような気はいたしますけれども。
 それと、今日の参考資料の真ん中ぐらいにパワーポイントで法務総合研究所国際協力部の田中嘉寿子さんがおつくりになった資料がありますが、これが今までの法整備支援の問題点を実によくまとめていると思います。これらを見ながら次々回あたりで、一体我々がどういうことができるのかということをディスカスしてみたらいいのではないかという気がいたしますけれども、時間も大分超過しておりますので、法務省からのヒアリングはこの辺でよろしゅうございましょうか。
 それではどうもありがとうございました。
 続きまして、日弁連からのヒアリングを行いたいと思います。御説明いただきますのは、国際室長の矢吹さんです。「日弁連における法整備支援」ということで法整備支援の基盤整備に関する日弁連の取組状況や課題を中心に御説明をお願いしたいと思います。御説明の時間は20分程度、その後質疑応答時間は10分程度を予定しております。それではよろしくお願いします。

○矢吹氏 4月1日から日弁連の国際室長になりました矢吹です。よろしくお願いします。私からは、日弁連における法整備支援について御説明したいと思います。事務局から日弁連の取組事例と支援体制も含めて説明してほしいということがございましたので、第3回と重複することがあるかもしれませんが、時間の中で御説明したいと思います。
 レジュメの最初のページですが、日弁連の場合はNGOでありますので、NGOとしての日弁連がどういう法整備支援の関与をしてきたかという点について幾つの特色を申し述べたいと思います。
 まず第一に、基本的人権の擁護が私たちの使命ですので、ヒューマンライツの保護に重きを置いています。1999年に国連の経済社会理事会との協議資格を有するNGOにも承認され、その点でも活発に活動しておりまして、法整備支援についてもそういう精神的基盤に基づいて活動してきています。
 2点目ですが、ODAの協力とNGOとしての活動の両面について参加し、その2つを有機的に結びつけて活動している点が挙げられると思います。ODAにつきましては、法総研と協力してカンボジア、ベトナム、ラオス、モンゴル、インドネシア、ウズベキスタンというプロジェクトに参加してきましたし、経済産業省の委託を受けてインドシナ4国に対するIT法の調査という案件も最近こなしております。
 他方、NGOとしてはカンボジア王国弁護士会に対する協力プロジェクトという独自の活動を実施しています。中身については後ほど手短に御説明いたします。
 3番目ですが、日弁連が弁護士の団体であることから、他の機関の協力と重複しないように、弁護士及び弁護士の団体に対する協力を中心に実施している点が挙げられます。カンボジア王国弁護士会に対するプロジェクトでも、弁護士養成校の支援、リーガルクリニックの運営等について実施していますし、ウズベキスタン弁護士会との交流も積極的に行っています。また、後ほど述べますアジア弁護士会会長会議(POLA)を通じた情報交換も行っているところです。
 4番目ですが、日弁連独自に行っている活動のほかに、弁護士個人及び弁護士グループの法整備支援活動があります。こういう活動とも連携をとっている点が特徴として1つ挙げられると思います。
 5点目ですが、必ずしも日弁連独自で行っているものばかりではなく、他の国際的な法律家の団体と協力している分野が幾つかあります。例えば、International Bar Association(IBA)が2年前に設立した International Leagal Association Consortium(ILAC)という組織がありますが、これは紛争解決直後の国々に対する平和構築活動の一環として法整備支援活動を実施するということで、最近はアフガニスタン、スリランカというところに対する活動を行っていますが、ここにオブザーバー参加をしています。また、米国法曹協会(ABA)も長年、中東欧司法支援をCEELIプロジェクトとして行っていますが、その情報交換をするとともに、UNDPプロジェクトをABAが行っていますが、そのプロジェクトから専門家の派遣要請も日弁連は受けています。また、世界銀行からの専門家派遣の要請にも応えております。
 こういう特色が日弁連としてあるわけですが、取組事例といたしましては、資料に書いた幾つかを例示させていただきたいと思います。
 1つは、アジア弁護士会会長会議。これはアジアの弁護士会長が毎年集まって情報交換をしている会ですが、ここで各国の法制度についての意見交換をするとともに、お互いの長所・短所について忌憚のない意見交換をしています。
 カンボジア王国につきましては、さまざまな形で支援をしていますが、ODAについては外務省、JICAの重要政策中枢支援で民法及び民事訴訟法を起草しています。ここに国内支援委員会への委員、事務局へのアドバイザーということで弁護士を派遣していますし、これまで2名の弁護士がJICAの長期専門家として4年にわたって現地に滞在しております。また、先ほど話したカンボジアの王国弁護士会に関する協力活動では、2000年のプロジェクトでカナダ弁護士会、リヨン弁護士会と協力して3弁護士会による弁護士の継続教育を行いました。これは大変評価されたと自負しております。
 その結果を得まして、昨年度からJICAのパートナー事業。これは3年間で1億円の委託を受けて実施している事業で、弁護士養成校への支援、同校内のリーガルクリニックの支援、そして弁護士の継続教育の実施、それとドメスティックバイオレンスと人身売買の多い地域ですので、ジェンダー問題を扱う弁護士の育成を行っています。
 今日配布したお手元のリーフレットは昨日やっとでき上がってきたものです。これは現地の弁護士養成校のもので、写真の中に50名の新しい弁護士の卵がいますが、現在カンボジアでは180名しか弁護士がおりません。50名が出れば230名になり、来年度は70名を予定していますから大変な数に増えようと思います。この裏面にJICAと Japan Bar Associations ということで日弁連が協力していることが記載されております。
 そのほかにも、弁護士の団体として日本カンボジア法律家の会が協力していますし、UNTACへの人権担当官としての赴任、1998年の総選挙への国際監視団への参加、UNISEFのプロジェクトへの参加というさまざまな個人の活動も行っています。
 ベトナムにつきましても、JICAの重要中枢技術支援プロジェクトでこれまで約6年にわたり3名の弁護士が現地に長期専門家として勤務しています。
 ラオスにつきましても、JICAのプロジェクトに参加して短期専門家として弁護士が派遣されております。
 そのほかに、国際開発法研究所、欧州復興開発銀行等への勤務を経た弁護士が数多くいて、現在も法整備支援に関与しております。
 お手元の資料に日弁連新聞の国際交流委員会ニュースが配布されていると思いますが、最近ではウズベキスタンへの司法調査で、現地でちょうど弁護士法の改正があり、弁護士法の改正に当たってテレビインタビュー等を受けた記録、2ページ目がASEAN4カ国のIT調査。特筆すべきことは、その右上に参加人数がありますが、現地調査だけでも12〜13名の弁護士が行っていますし、バックアップも含めて10名程度の弁護士が短期間で参加し、約4カ月で30センチぐらいの調査報告書を英文で作成しております。同じようにインドネシアについてもJICAに協力して活動が始まったことがその下に記載されています。
 こういう活動履歴ですが、その体制としては幾つかの特徴ある制度があります。1つは、国際交流委員会の国際協力部会が中心でいろいろなプロジェクトを構築している点。それから人材が数多く必要ですので、1999年から国際司法支援活動弁護士登録制度を設けてデータベース化しています。現在約100名の弁護士が登録し、この中から長期専門家、短期専門家等への派遣をしております。研修会、連絡会等も大きなものを年に1回開き、それ以外でもアドホックで研修会を開いています。
 お金の面でも、お金を預かるということで透明性が必要ですので、一般会計から切り離して国際協力活動基金をつくっています。
 また、弁護士が現地へ行って、現地で利益供与を受けて現地のビジネスと結びつくということがあってはいけないので、帰国後ある一定期間はその国の仕事に従事してはいけないという利益相反のガイドラインもつくろうと考えています。
 以上がこれまでの履歴及び体制ですが、課題と対策について具体的に申し上げたいと思います。
 課題は人材登用制度の充実。いずれも法総研の山下さんがおっしゃったことと重複してしまいますが、人材登用制度についても十分な人材が確保できているということではありません。これに対してどうしたらいいかと考えました。任期付公務員制度の導入により弁護士がいろいろな省庁に登用されるのはよい傾向で、こういう制度をより有効に使っていただいて、国際的な法律実務に関するポジションに弁護士をより一層登用することを考えていただきたいと思います。具体的には外務省の条約局などがあります。
 目標としては、登用人数の数値目標も検討できないかと思います。
 もう一つは、登用される側の立場に立ちますと、資格を有する経験者に応じた給与制度を設定していただきたいと思います。
 こういう人材登用情報を弁護士がより入手、応募できる制度が必要だと思います。今、ホームページ等で出始めましたが、十分アクセスがきかない、各省庁別であるという不便さがあります。
 最後に、これが最も大きいのかもしれませんが、実務家として弁護士を登用することが有効であるという意識の改革が必要ではないかと思います。
 2番目は財政援助ですが、財政規模が欧米に比べて十分でないと思います。対応策は、法整備支援(ガバナンス全体)の予算の拡充が必要ではないか。箱もの支援からソフト支援へのシフトだと思います。これについても、予算配分の数値目標を検討すべきではないかと思います。
 2つ目は、限られた資金源を有効に利用できるように、資金提供機関の存在、活動、資金供与条件などの情報公開が必要ではないかと思います。現在あるものとして私たちが知っているのは、JICAのパートナー事業、国際交流基金、外務省の草の根無償資金援助がありますが、なかなか時間がかかり、形が決まっているものが多いので、十分使い勝手のいいものとはなっていないと思います。
 これは難しい問題ですが、寄附金に対する優遇税制など、民間からの資金の供給がしやすい制度をつくることが長期的には望ましいと思います。アメリカでは、アジア財団、フォード財団のような財団が中心で法整備支援の資金を提供しています。日本でも日本財団、トヨタ財団などがありますが、こういう活動に資金が流れてこない点が問題かと思います。
 3つ目は国内情報交流の強化。これも山下さんがおっしゃったことと同じですが、さまざまな省庁がさまざまなプロジェクトを実施していますが、各プロジェクトに相互の情報交換がない点が挙げられます。対応策としては、縦割的なODA予算の配分及びプロジェクト構築を改善することが大きいのではないかと思います。各省庁のプロジェクトの共同化も検討していただきたいと思います。そのためには定期的に関係省庁間の法整備支援に関する情報交換会を開催することが重要かと思います。
 4番目ですが、日本法の国際化。これがとても重要で、山下さんも強調していたところです。ご存じのように、法整備支援は各国の法律制度・法文化の輸出であるとも言われ、それに対する批判も大いにあります。他方、各国の法制度が国によって異なっている以上、法整備に当たって自国の法律制度・法文化をもとにして支援することはやむを得ない現実です。そこで、相手国にとっては受け入れやすい法律制度を有している国が支援する際に優位に立ちます。例えば、大陸法系、英米法系と分かれますが、相手国がもともと大陸法系であれば大陸法系の法律がやりやすいということになるわけです。しかし日本法の場合は、すべての法律が日本語であって、大学教育も日本語で実施されています。法整備の現場では日本法に対する理解を得ることは難しいという現状があります。これは法整備に限ったことではなく、日本法の国際化全体の問題であると認識しています。
 そのための対応策ですが、日本法の公定訳を作成するという点があります。公定訳は信頼できる翻訳であって、誰もが利用できる著作権フリーであるということです。したがって、機関として私個人は法務省の法総研がいいのではないかと思いますが、そこに難しさがあれば、民間におろしていただいて、例えばその外郭団体である国際民商事法センターですとか、日弁連の法務研究財団等を利用していただければと思います。
 実際に難しいのは、まず日本語の法律用語に対応する英文用語がない場合が多い。「抵当権」といっても「モゲージ」と訳しても全く意味をなしません。ですから、そういう用語をつくる必要があります。また、英文用語の辞典も信頼できるものが必要です。これを統一して使用した各法律の翻訳作業が必要です。それには、実務家、学者、ネイティブスピーカーの共同チームが必要です。こういう継続的な作業をする恒久的な機関がぜひとも望まれるし、それについての予算配分も不可欠です。また、大学での英語での教授コース、留学制度も随分多くなってきましたが、資金援助も含めて必要ではないかと思います。
 ただ、実際に現場では日本語で日本法を勉強したいというカウンターパートが多いのも実情です。例えばフランスの場合は、フランス文化の輸出が法整備支援のテーゼでありますから、まずフランス語を教えるということがあります。日本語を教えることが必要とは思いませんが、相手国の方々が日本法を勉強するために日本語が必要だと痛切に感じているときにはそういうことも必要かと思います。具体的には、現地で日本センターが現在つくられつつありますが、そういうものの利用が考えられます。
 5番目ですが、情報の蓄積・発信という点があります。法整備支援というソフトの支援について国民全体が十分理解していないのが現状です。また、国際的に見ても日本の法整備支援の認知度が低いと言えます。こういうものを改善する努力として幾つか挙げられると思います。
 まず、法整備支援を実施する中心的組織を設立して情報の集約化を図る。そこで英文ホームページ等を利用した広報活動を広く行うべきであります。また、法整備支援を実施している国際会議に積極的に参加して我が国の意見を述べることも必要だと思います。具体的には、ワールドバンクが毎年開いている会議があります。これからの分野として、戦後復興・平和構築の際の法整備支援という今日的な分野にこれも積極的に研究し、参加する。具体的にはイラクへの法整備支援等についても検討すべきではないかと思います。
 以上、時間を超したかもしれませんが、発表させていただきました。

○柏木座長 どうもありがとうございました。それではただいまの御説明につきまして、御意見、御質問がございましたら、挙手の上発言願います。

○乗越委員 細かい点になるのですが、今おっしゃったことの中で気になる点がございまして、弁護士がどこかの国へ行って法整備支援の活動をして帰ってきて、その後でそこから依頼を受けると利益相反になり得るから、基本的にはそれを禁じるようなガイドラインをつくるということでしたが、私は果たしてそういうやり方が正しいのかどうかちょっと疑問を感じました。法整備支援を受けた方にしてみれば、日本の法曹の方と人的な関係ができたわけですから、さらに質問があるときとか、さらに支援がほしいときには、まずその人に電話をして、さらにアドバイスをもらおうと思うのは当然のことですし、そういうことを阻害するようなガイドラインをつくるという趣旨がよくわかりません。利益相反についてはもちろん利益相反になり得る点もあるわけでしょうけれども、それについては既に弁護士の間のルールとして利益相反のルールがあるわけですから、それに加えて、原則とてどこかで法整備支援の活動をしたらその国からの依頼を受けられないとするのは、わざわざ不必要な規制をかけているような気がしてなりませんが。

○矢吹氏 今の点につきましては、ABAが同じようなガイドラインをつくっておりまして、それを参考にして、つくるべきかつくるべきでないかも含めて検討中です。おっしゃるように、確かにその国の専門家になるわけですから、その後何もしてはいけないということはないと思います。ただ、法整備支援の対象国は特に賄賂が横行している国が多くて、お金の問題は非常にセンシティブです。例えば日本の専門家がそれに染まっているということになると、日本全体の法整備支援の汚点になります。気になるのはそこなので、そこをどのように除外するかという点だけであろうと思います。

○バイヤー委員 結構細かいことですけれども、翻訳の場合はコンピュータの技術を使うことは考えられていますか。

○矢吹氏 コンピュータも現在の自動翻訳コンピュータもありますが、法律の翻訳にはまだ十分ではないということですね。

○バイヤー委員 コンピュータ翻訳と言えば、どの分野でもうまくいっていないと思いますが、技術そのものは結構使えるところがあると思います。例えば、こういう大きなプロジェクトだったら、日本の立法というと数人の翻訳者が必要になると思います。その辞書をつくるところでは、コンピュータに載せると調べやすいし使いやすいのではないかと思っているのですが、そのようにきちんと使えば助かるのではないかと思っています。

○矢吹氏 おっしゃるとおりで、すべてをコンピュータに入れて、例えば法律用語で「抵当権」と出ますと、「抵当権」をポッと押すと、いろいろな法律に抵当権があるのですが、そのリストが一挙に出てくるというような使い方はできると思いますし、ぜひ使うべきであると思います。ですから、コンピュータは不可欠であると思います。

○孝橋委員 細かいことですけれども、日本弁護士連合会の場合、カンボジアとの関係で非常に古くから長く支援をされているようですが、これはどういうきっかけでそういうことになっているのか。その対象国の選定についてどのようなことをお考えになっているのかということについて教えていただければと思います。

○矢吹氏 カンボジアにつきましては、1995年にちょうど国連の機関の研修でカンボジアの方々が来て、日弁連が外務省とお話をさせていただいて最初の小さいプロジェクトが始まりました。それは向こうから人を呼んで研修をするプロジェクトです。それがだんだん大きくなってきた経緯があるのが1つと、2点目は、カンボジアは非常に援助ウェルカムという国ですので、私たちがいろいろ話をしても抵抗感なく援助が進むということが挙げられると思います。3つ目は1番目にも関係しますが、関係が長いのでいろいろなところに知り合いが多くなって、そういう方を通じてまた違うプロジェクトが来るという点が挙げられると思います。
 2つ目の御質問ですが、どの国に援助をするかは日弁連でもよく議論になりますが、やはりアジアが中心ではないかと考えております。アジアでの日本の存在が大きいし、そこに私たちも貢献できたらと思います。ただ、これはアジアに限ることではなくて、限られたリソースをどのように配分するかということです。例えばイラクやアフガニスタンもアジアの一部ですが、イラクやアフガニスタンに行くということであれば、これは大変意義のあることですから考えるべきであると思います。

○柏木座長 ほかに御質問はございませんか。
 1点だけ確認したいのですが、相手国がコモンローの国であるとどうしてもコモンローの国に親和性があるので、日本から法整備支援を受けるよりも英米法系の国になびいてしまうということをおっしゃいましたが、今の法整備支援の活動状況は、アジアの国ではコモンローの国もインドなどありますけれども、そこで法整備支援を要求してくる国は余りないと了解してよいのですか。

○矢吹氏 法律の起草としては、インドシナが中心ですからフランス系の大陸法系になります。インドネシアもオランダですから同じですが、例えばフィリピンは英米法系で、これは起草支援ではなくて、例えば日弁連で言えば人権関係の活動援助があって、これはどこの法系かは関係なく支援しています。ですから、分野によって大分違うのではないかと思います。

○加藤委員 日弁連の場合には、民間という立場で支援を行っておられますので、何か限界もあるのではないかと思います。その観点から、本来国でやるべき支援は何か、この分野は国でやるべきだということがあれば少し御紹介いただければと思います。

○矢吹氏 国でやるべき分野があるかについては、私はないと思っています。行うべき仕事を誰がやるのが一番適材適所で効率がいいかという点で、国の機関がやるのがいいのか、民間がやるのがいいのかというふうに選ぶべきであると思っています。確かに日弁連の場合は、手弁当と山下さんがおっしゃったように、ほかの仕事を持ちながらやっている人が多いわけで、そういう意味で集中して短期的に行う態勢がなかなかつくりにくい。そうであれば法総研のように、それだけをやっている人がやると効率がいいと思います。そういうように、プロジェクトごとに決めるべきではないかと思います。

○加藤委員 それでは質問を変えますが、どういうプロジェクト、どういうものの場合に国がやる方が良いのでしょうか。

○矢吹氏 まだそこまで具体的に考えていませんが、例えば今、私たちはODAの仕事をしています。ODAの仕事は国の仕事ですが、私たちが委員になったり現地で活動をしています。もしこれが国でやるべきであるという範疇に入るのであれば、それはお金がすぐに必要で、関係機関が多いプロジェクトについて、例えば法総研、最高裁、日弁連等集めて行う、ある程度規模の大きいものについては国が中心で行うべきであると思います。他方、例えばカンボジア王国弁護士会のように相手方としては小さいものを支援するのは民間でも十分対応できると思います。

○大塚補佐(下川委員代理) 寄附金に対する優遇税制をつくる必要があるという御指摘があったのですが、少なくとも、海外における文化紹介活動についてはそういう優遇税制があることは承知しているのですが、法整備支援に関しては優遇税制の制度はないということなのでしょうか。

○矢吹氏 私たちも具体的には調べていないので正確にお答えはできないのですが、例えば弁護士の会員が集まって、100〜200万円の小さなお金ですけれども活動に充てたいというときに調べた場合には、そういうものは税法上の費用として扱われないので税金を納めた後のお金を皆さんが寄附することになって、恒久的な機関が必要であるとか、認定が必要ということが他に比べて日本では厳しいのではないかと思っているのですけれども、違うかもしれません。ですから、ここは要調査だと思います。

○大塚補佐(下川委員代理) 私の文化活動での経験を申し上げると、NPO法人をつくって、その上で認定を受けると寄附した企業等に対して税金が還元されるということで企業からの寄附金が税制面で優遇されるという制度は、少なくとも文化面ではありますので。また、もしそれが文化面だけに限られているのであれば、その対象範囲を広げるなど検討の余地があるのかもしれませんが。

○柏木座長 それでは時間になりましたので、どうもありがとうございました。
 それでは続きまして、竹下守夫先生からヒアリングを行いたいと思います。竹下先生は司法制度改革審議会の会長代理でいらっしゃいましたが、カンボジアの民事訴訟法の起草支援にも御尽力されました。その御経験を踏まえて法整備支援を推進していく上での課題などにつきまして御説明をお願いしたいと思います。御説明時間は20分程度、その後質疑応答時間は10分程度を予定しております。それではよろしくお願いします。

○竹下氏 ただいま御紹介いただきました駿河台大学の竹下でございます。本日は国際化検討会で法整備支援についてお話をする機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。法整備支援一般につきましては、既に法務省法務総合研究所国際協力部の山下教官、あるいはただいまの日弁連の矢吹弁護士からお話があったことと思います。私は、お手元のレジュメのサブタイトルに書きましたように、カンボジア民事訴訟法典の起草支援をいたしましたので、その経験を踏まえて、いわばケーススタディのようなことから問題点等として、考えていることをお話しさせていただきたいと思います。
 まず、一口に法整備支援と申しましてもいろいろな分野があることは既にこれまでのお話に出てきたことと思います。法整備支援とは何を言うのかということにつきましては、法務総合研究所国際協力部の前部長でいらした尾崎道明さんが「法の支配」という日本法律家協会の雑誌にお書きになったのが一応スタンダードな考え方だろうと思います。それによりますと「開発途上国が行う法令及びこれを運用する体制の整備を支援する活動」ということでございます。
 これにも多様なものがございますが、2本の柱の一つは法典整備支援です。これにも私どもがカンボジアで経験しましたように、新しい法律を全部つくることの支援の場合と、相手国が一応自分なりにつくった法典に対するアドバイスを与える場合と両方あると思いますが、いずれにせよ、法典整備支援が1つの柱になります。いま1つは人材養成です。それ以外にも、いろいろな国が行っているところを見ますと、法令集や判例集の整備を初めといたしまして、法令・判例に関する情報提供の方法をどうするか、CD−ROM等に取り込んでなるべく多くの人に提供する方法を支援したり、あるいは我が国の内閣法制局のような法令審査の仕組みをつくることが恒久的に立法活動を続けていくために必要というので、その制度づくりあるいは運用のノウハウを教示するようなことも含まれるかもしれません。そういうこともそれぞれ非常に重要なことだと考えております。しかし今日は、法典整備支援に重点を置いてお話しさせていただきたいと考えております。
 その具体的な話に入る前に、法整備支援の理念ですが、かねがね私は法整備支援は「法の支配」の原則が妥当する民主国家体制を確立することの支援だと考えるべきだろうと思っています。あるいは民主的法治国家体制と言い換えてもよろしいかもしれません。市場経済制度を確立するための支援を中心に考えるという考え方ももちろんありまして、被支援国の多くは社会主義体制から市場経済体制に移ろうとしている国ですから、直接的には市場経済体制を確立して国民の生活をとにかくグローバル化した市場経済社会の中で成り立つようにすることの重要性はもちろんですけれども、終極の目的はそれぞれの国が民主国家になることを目指すものだと考えております。
 総論的な話はその程度にいたしまして、次に私どもが実際に行ったことの内容を御紹介したいと思いますが、お手元に既に配布されております「ジュリスト」1243号の座談会で、私どもの作業部会のメンバーに、法総研からは田中加寿子教官、日弁連からは矢吹弁護士に参加していただいて、かなり詳しく紹介しておりますので、本日は、そのポイントだけをお話し申し上げたいと思います。
 このプロジェクトの全体像ですが、若干の前史があったようですけれども、直接的には1997年にカンボジア王国政府から日本政府に対して司法改革の援助の要請があったのが端緒のようです。これを受けまして、翌1998年11月に国際協力事業団(JICA)が「カンボジア重要政策中枢支援『法整備』」というプロジェクトを立ち上げました。既に民法と民事訴訟法の起草支援をすることが視野に入れられておりましたので、民法作業部会、民事訴訟法作業部会がそれぞれ設置されたわけです。
 カンボジアとの協定はその翌年の1999年3月に「民法及び民事訴訟法の起草援助のための具体的な実施協定」が締結されました。それによりますと、計画期間は1999年3月5日から3年間ということになっておりましたが、その後1年延長されて本年3月5日までの4年間になりました。
 実施機関は、日本側はJICA、カンボジア側はカンボジア司法省です。
 私どもの民事訴訟法作業部会は、既に協定前の1999年1月に第1回会合を開きまして、本年4月に至るまで合計53回開催いたしました。作業部会の構成員は、法務省あるいは法総研等に所属の方々の出入りが多少ありましたが、3月1日現在で申しますと12名で、学者が9名、裁判官ないしは裁判官から法務省の局付検事になっている人が2名、法総研の教官が1名という構成です。
 私どもは起草支援の基本方針として3つのことを決めました。1つは、起草する法典のレベルといいますか、基本的考え方の問題であります。この点につきましては、現在でももちろんカンボジア王国では司法が行われているわけですから、現在行われている民事裁判に法的基礎づけを与えて若干の修正をさせるという内容のものにするという考え方と、いま1つは、先ほど申しました法整備支援の理念とかかわることですが、今の段階で民事訴訟法典をつくるのであれば、民主的法治国家の訴訟原則に基づく民事訴訟法典を起草すべきではないかという考え方とがあるわけでです。しかし、この点については、カンボジアの司法省側も、将来の国際的な評価に耐えうるような民事訴訟法典を自分たちは持ちたいと思っているということでしたので、そういう方向にすることにしました。
 基本方針の第2は、起案作業の日本側とカンボジア側との協同作業として行うということです。つまり、原案は日本側が用意するけれども、日本側が一方的に起草してでき上がったものをカンボジア側に渡すということではなく、原案を少しずつカンボジアに持っていきまして、現地のワークショップでカンボジア側のメンバーと意見交換をしながら確定案をつくっていく。そういう意味で日本側、カンボジア側の協同作業としてカンボジア王国の民事訴訟法典を起草するという方針を立てたわけです。
 第3は、起草作業とあわせて人材養成の役割をも果たすということです。法典ができた場合にそれをすぐ解釈・運用する人が必要になりますから、起草作業は、同時に人材養成をも兼ねる必要があり、事実カンボジア側からも、そのように要請されました。
 これらの基本方針は4年間一貫してとられてきたところでございます。
 では、このような方針の下で具体的にどういうことをやってきたかといいますと、まず日本内部では、毎月1回、大体土曜日の1時から6時までの半日を使って、場合によると午前中から一日ということもありましたが、日本側で条文案を起草する。そして50条ないし60条ぐらいたまったところで、それをクメール語に翻訳して現地ワークショップの2週間前までにクメール語版をカンボジア側に渡す。その2週間にカンボジア側で準備をしてもらってワークショップに臨むというやり方です。
 具体的な条文の起草に入る前に約半年、1999年3月から8月までは民事訴訟制度をつくるための基本原則について意見交換をいたしました。つまり、陪審制、参審制のような国民の司法参加制度を採用するのかどうか。あるいは第1審の構成を単独制にするのか合議制にするのか、さらには刑事の附帯控訴を前提として民事訴訟法を起草するのかどうか、あるいは事件を担当する裁判官をどのように決めるかというようなことについて、ワークショップで言うと3回を費やして議論いたしました。一応結論を得たところで、この年の9月から具体的な条文の起草作業に入りました。
 実際の作業の詳細は「ジュリスト」の座談会に譲りまして、そういう過程を通じて法整備支援の課題として考えたものを、3点ばかり大くくりにして資料にお示ししました。
 第1は人材確保の問題で、ある意味ではこれに尽きると言ってもいいぐらい重要な課題でございます。「人材確保」という場合に2通りありまして、1つは法典起草支援あるいは法典起草の助言という形で支援をする場合に、それを直接担当する人材であります。先ほども12名と申しましたのは、まさにこのメンバーですけれども、ここで人を得るかどうかが支援作業の質を左右することになります。我が国として責任のある支援をしようと思えば、やはりいい人材を集めなければいけないことになります。私どもの場合は、幸いなことに学者9名のうち7名は何らかの形で法制審議会のいろいろな部会の委員、幹事を務めておりましたから、立法はどうあるべきかということについて心得を持っておりました。裁判官2人のうち1人は現在の民事訴訟法の起草を担当した参事官であった方ですから、もちろんプロ中のプロですし、いま1人も現に法務省の民事局参事官室で立法に関与している局付き検事です。そういうメンバーでしたから、この点では非常に恵まれていたと言うことができます。
 しかし、必要な人材は直接に起草支援作業に当たる人だけではありません。まず第一に通訳が必要になります。後にも述べますように、法典を起草していく場合には英語を媒介にするのではなく、「相手国公用語主義」とでも言いますか、初めから相手国の公用語で書いていく。そして日本と相手国との直接の通訳を介して、相手国の言語で行うことが必要だろうと考えました。そうすると、その通訳を確保しなければなりません。これは法律にも通じていなければいけないわけですから、この場合の通訳は本当に専門的なコミュニケーションの媒介者としての役割を担う非常に重要なものです。
 それと、こういう作業を進めていくときにはいろいろ細かい事務が出てきます。例えば、一旦起草した条文を何回も修正しますが、そうすると誰かが全体を管理していて、修正の都度それを間違いなく起草した法案に組み入れていかなければなりません。そういうことを的確に処理してくれる人材も確保しなければなりません。
 また多分、矢吹弁護士のお話にも出てきたと思いますが、JICAの制度では現地派遣専門家というものがあり、1年単位で現地にとどまってこちら側の作業と現地との間を仲介したり、または現地側の担当者をいろいろな面で指導する役割を担ってくれる人がいます。これも人を得ることがなかなか困難でありまして、いい人材を確保しなければいけません。
 課題の第2は使用言語の問題です。ただいまも申しましたように、英語を媒体にいたしますと、日本語から英語、英語から相手国公用語という二重の翻訳作業が必要になりますので、どうしても不正確にならざるを得ないという問題が出てきます。そこで私どもは、相手国公用語主義といいますか、日本語から直接クメール語に翻訳し、クメール語から直接日本語に翻訳するという作業の進め方をいたしました。
 こうなりますと、我々はクメール語でできた法典を直接にチェックすることができませんから、それをいかに正確なものにするかということをやらなければいけないという問題が出てきます。同時に、他方では、英語を補助的に使用せざるを得ないということもあります。これは先ほどの矢吹弁護士の話にも出てきましたように、相手国の中でも司法省以外の省庁の人たちに、我々がやっている作業の内容を理解してもらう。また、他のドナー国、あるいは国際機関に向けての情報発信が必要で、この場合にはどうしても英語を使わざるを得ないということになります。それからいささか微妙な問題になりますが、英語を使わないと情報が壟断されてしまう可能性があります。つまりお互いにわからないわけですから、間に入った人が情報を全部握ることになりますので、英語を介して相手の政府なら政府の真意はどこにあるかということを確認できるようにする態勢をつくっておく必要があるだろうと思われます。
 課題の第3は、管理運営体制の問題です。これも座談会の中で触れていますように、対内関係と対外関係の両方で管理運営体制の整備が重要な意味を持ちます。対内関係つまり日本側については、相手国と国際的な取り決めをしたわけですから、それがきちんと順守できるようにスケジュールを管理する。もちろんでき上がった成果物の品質もチェックできる体制が必要になります。対外関係には2通りありまして、相手国自体が多くの場合、法整備支援を求めてくる国では直接の作業の担当機関、カンボジアの場合で言うと司法省でしたけれども、司法省が必ずしも国内で私どもの支援に基づいてでき上がった法典を法律の制定にまでもっていくだけの実力を持っていない場合が出てきます。そういう場合に援助国がそこまで支援してあげないと、結局は成果は得られないことになります。
 また管理運営体制が問題となる対外関係としては、さらに他の援助国とか国際機関との対応の問題があります。これらの国や機関もいろいろな形で法整備支援をしていますので、そちらの方針と我々が支援している法案の起草の方針が抵触する場面がしばしば出てきます。こういう場合、本来から言えば相手国の司法省なら司法省が調整をすべきものですけれども、そうは言ってもそれだけの力がないということになると、こちらが国際機関等とある程度接触することがどうしても避けられない場合が出てきます。そういう場合に、責任体制がきちんと確立し、一貫した方針に基づいて対処しないと混乱を生じることになります。そういう意味で管理運営体制を確立する必要があるのですが、私どもの経験では、必ずしもそのような体制が確立されていたか疑問に思うところがあり、その確立が喫緊の課題だろうと感じておりました。
 最後に、司法制度改革と法整備支援の関わりについて申し上げ、それに関連して、お願いといいますか要望を申し上げたいと思います。法整備支援という事業は、ODAの1つという側面と司法の国際的な役割の遂行という側面という二つの側面を有していると私は考えております。政府開発援助(ODA)という側面で見ると、法整備支援は、質的に高度な支援だと思います。建物を建てたり橋をかけたり、道路をつくったりということに比べると、非常に知的な高度な支援になります。しかし、ODA全体の予算から見ると法整備支援に充てられる予算はわずかだろうと思われます。アフガニスタンやイラクの復興支援という国際的にも注目される大きなODA活動に比べれば、それに必要な予算はごくわずかだろうと思われます。しかし、質としては高度で、その意味では非常に経済的効率のより政府開発援助だということになると思います。
 他方、司法とのかかわりから言いますと、法整備支援は法の支配する民主的法治国家体制を相手国に確立させることを終極の目標としており、今回の司法制度改革の理念である「法の支配」の敷衍を国際レベルにまで拡大するという意味合いを持つものですし、また、とりわけアジア諸国に対する法整備支援は、しばしば言われますように、我が国が明治期に近代国家確立に向けて欧米先進諸国からいろいろな形で支援をしてもらったことのいわば恩返しをアジア地域にするという意味を持つわけで、我が国の司法の国際的な使命であろうと考えています。
 そこで、自分の経験を踏まえて法整備支援の現状を見た時、何を望むかといいますと、私は政府が法整備支援の意義を公的に認知をし、人材の確保と責任ある支援作業を可能とするような一元的な組織体制づくりをすることが必要ではないかと考えております。いろいろなセクションが法整備支援にかかわってネットワークをつくるという考え方もあり、もちろんそれはそれで意味のあることですけれども、ネットワークには限界があって、結局どこが最終的な責任を負うのかがはっきりしなくなるという問題があるように思われます。先ほど申しましたように、法整備支援を実際に進めていこう、しかも責任を持って進めていこうとすると、どこが責任を負うのかを明確にして、一元的に責任ある判断をなし得るような体制を確立することが必要だろうと思います。これには政府が法整備支援の重要性を認知して、そういう体制をつくるように働きかけてくれないとどうにもならないという気がいたしております。現在でもODAの重点課題の一つとして「人材育成、知的支援」の必要性がうたわれており、「法制度整備を含む政策・体制整備への支援を重視する」ということが言われておりますけれども、実際には、東南アジア地域に対する法整備支援は国際協力事業団の中でもインドシナ課の一部が担当しているに過ぎず、法整備支援を独自に担当するセクションがあるわけではないというのが現状であります。これでは有為な人材は集まらないと私は考えております。
 先ほど申し上げたような作業は、実際には40代、50代の我が国の学界でも第一線で最も活躍している人たちが毎月1回土曜日の半日または一日をつぶして行っているわけです。その上、年に1回はカンボジアへ1週間行き、向こうでワークショップをやってくるのですから、これは大変な負担で、そんな生やさしいものではありません。政府において、よほど本腰を入れた取組みをしてもらわないと、それだけの負担を引き受けようという人は出てこないと思います。
 そこで、この司法制度改革推進本部の「国際化検討会」の皆様に対するお願いですけれども、ぜひ司法制度改革の一環として、政府がもっと法整備支援を公的に認知して、これを責任をもって遂行できるような体制をつくるよう、提言をしていただければ大変ありがたい次第であります。
 時間をオーバーしましたが、これで私の話を終わらせていただきます。

○柏木座長 どうもありがとうございました。それでは、ただいまの竹下先生の御説明につきまして、御意見、御質問のある方は挙手の上どうぞお願いいたします。

○波江野委員 先生がおっしゃいました最後の問題で、知的で高度な支援であり、ODAは箱ものが多いけれども、こういう知的高度な支援はなかなか力が入らない。その成果といいますか評価の問題が必ずついて回るのかなという感じがいたしました。ダムや道をつくるとか橋を架けるというと、経済的に幾らかけてどういうものかというのが出てくるわけですが、法整備支援の場合の効果・成果に対して、行った立場としてこれだけのことがあったということを世間的にアピールするというか、公表する努力も必要ではないかと思いますが、それについてはどのようなことでやっていらっしゃるのでしょうか。

○竹下氏 私どもも、実際にやってくれた若い人たちのことを考えると社会的な評価を是非獲得したいと考えておりますね。しかしそういう機会がなかなかなくて、実は「ジュリスト」の座談会もこちらから話を持っていきまして、ぜひ取り上げてほしいということで誌面を提供してもらったわけです。マスコミが散発的に取り上げることもありまして、ある大新聞から昨年の暮れだったでしょうか、年がかわったら特集を組むからという話があって、ぜひPRしてくれと言ったのですが、どういう事情だか結局その新聞では取り上げられないで終わってしまいました。私どもとしては機会があるたびにと思っているのですが、なかなかチャンスがなくて、むしろどういうやり方をしたらよろしいか教えていただければありがたい次第です。どうも雑誌やマスコミを通じてやることぐらいしか思い付きません。法務省の法務総合研究所国際協力部も一生懸命いろいろな形でやってくださっているのですが。
 現地では昨年10月に記念セミナーのようなことをやりまして、超一流ホテルの大ホールを借り切って、フン・セン首相、ヘン・サムリン国会副議長にもご来場頂き、国会議員、内外のプレス等も呼んで大々的な発表会を行ったのですが、国内的にもそういうことはやっておりません。むしろ、私どもから言わせて頂くなら、私どもとしては、政府の国際的約束を履行する作業を遂行したのですから、それを世間にアピールすることは、政府なり国際協力事業団がやるべきことではないかと思います。

○乗越委員 まさに聞くだにすごいプロジェクトだなという気がしたのですけれども、そういうプロジェクトをやるに当たって驚いたことが2つございます。1つは皆さんが土曜日の午後に集まって仕事をされたことと、この作業は向こうから要請があってから6年かかったということに驚きました。
 それは、まさに先生が最後におっしゃったように、立派な人材を集めて頼んで、後で頼みっぱなしになって全く支援がないなどの事情があったのでそういうことになったとお考えなのか、あるいは法整備支援自体について作業をされた方々の中で、これは自分の本来の仕事ではなくてエキストラで役に立つことだからやってくれということで、プロボノ活動のような形で引き受けたという発想があったから土曜日の午後しかあいていないということになったのか、その辺を先生のお考えではどういうふうにサポートする側と作業する側の認識があったのかをお伺いしたいのですが。

○竹下氏 まずお断りしておきますと、このプロジェクトが始まったのは確かに1999年ちょっと前ですけれども、実際に私どもが作業を始めたのは1999年一月からですから、これまでのところ4年半ぐらいということになります。ただ、現在できたのは民事訴訟法典そのものだけですので、附属法令など、例えば民事訴訟法で言うと執行官法等々をつくらなければなりませんので、これからまだ作業は続くことになります。
 私どもが始めてから、JICAが放置しているというようなことではありません。現在のJICAの枠組みの中では、一生懸命サポートしていただいたと思います。問題は、その枠組み自体が十分かということです。われわれの作業部会のメンバーがこれだけ時間を使ってやった動機付けは何かと言われれば、最終的にはやはり使命感でしょう。とにかく現地へ行ってみますと、現地の人たちは日本に非常に大きな期待を寄せているのですね。ぜひ10年後、20年後の国際的評価にも耐えるような民事訴訟法典を作りたいので、支援して欲しいと言われますと、われわれとしても、よし、それでは多少負担になっても頑張ろうかという気になりますので、それでやってきたということでしょうか。弁護士会でいうプロボノ活動とも少し違うような気がいたします。ただし相当な負担で、座談会にも書きましたとおり、作業部会は毎月1回と、夏休み、春休みに集中的に3日と2日しまして、合計53回やりましたけれども、海外出張等の場合を除いて毎回全員出席でしたから、相当大変だったと思います。まだ続くことは続くのですが。

○柏木座長 学者は土曜日の午後しか暇がないということはありますね。

○竹下氏 ええ、全員が集まれるのは、どうしても土曜日か、日曜日その他の休日ということになりますね。ですから夏休みに集中してやったりしましたけれども。それだけの犠牲を払って貰っていますから、私自身はまた別のプロジェクトがあれば引き受けてもいいかという気はないわけではありませんけれども、同じメンバーにはちょっともう頼めないという感じですね。それは余りにも犠牲が大き過ぎて。そこを何とか考えて頂かないと……。

○下條委員 今の点に関することですが、このように12名の方が参画されて、学者が9名、裁判官2名、法務省1名ということですけれど、JICAからお金は出ているわけですね。そうすると、この方たちは全く手弁当でされたのですか、それとも何らかの実費以外の……。

○竹下氏 もちろんJICAと、それから財団法人「国際民商事法センター」から、普通の審議会などに比べれば高額の手当はいただいておりました。

○下條委員 そういうものは出たわけですか。

○竹下氏 はい。ですから、そういう意味では全くの手弁当というわけではありません。ただ、学者の立場から言うと研究業績になるわけでもありませんし、そういうところがちょっとつらいのですね。知的作業ではあるのですが、なかなか学者の業績としては評価してもらえない。それがあれば、皆さんかなりやってくださると思うのですが。

○柏木座長 それでは竹下先生、どうもありがとうございました。これでヒアリングを終了したいと思います。御多忙の中ありがとうございました。
 それでは時間が厳しくなってきましたので、5分休憩いたしたいたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

(休 憩)
(再 開)

○柏木座長 それでは時間になりましたので、検討会を再開したいと思います。
 これからの残り時間は、本日のヒアリングを踏まえまして、今後法整備支援を推進していく上での課題やその方策について御議論いただければと思います。
 まず、ここでの検討の結果の取扱いについて事務局より御説明をお願いします。

○齊藤参事官 それでは、現時点で考えておりますことを御説明します。本日、資料14−5として今後の国際化検討会のスケジュール (案) をお配りしております。ここに記載されておりますように、7月23日に予定しております次々回の検討会では、本日御議論いただいております法整備支援の推進と、次回の予定でございますが、弁護士の国際化への対応強化についての議論の整理を行うことを考えております。
 この議論の整理ということでございますが、検討会の場で出された委員の方々の御意見を整理するペーパーを作成することを考えております。このペーパーは法整備支援の推進と弁護士の国際化への対応強化等に関する各委員の発言内容を適宜項目別に要約・整理するようなイメージで考えておりますが、その要約・整理の方法につきましては、さらに工夫等させていただくべく詰めさせていただきたいと考えております。
 そして議論の整理のペーパーができ上がれば、このペーパーといいますのは、この検討会自体が意見書を作成するとか提言のようなものを取りまとめることは本来の性格として有しておりませんので、検討会の提言とすることは予定しておりませんけれども、いずれにしましても、でき上がったものは関係省庁や関係機関におきまして、法整備支援を含めて司法制度改革を進めていく上での貴重な参考資料として活用していただけるようなものにしていきたいと考えております。

○柏木座長 ただいまの事務局からの説明も踏まえて御議論いただきたいと思います。どなたからでも結構ですので、御意見があればお願いいたします。

○大塚補佐(下川委員代理) 本日、日弁連より任期付公務員制度を利用して弁護士の省庁への登用を推進すべきであるという御提言がありまして、特に外務省の条約局について例として挙げられていましたので、現状についての御説明をさせていただきたいと思います。
 現在、外務省に弁護士2名に来ていただいているのですが、FTA交渉の関係ですので法整備支援に直接関係していないというところがあって、次回の課題である弁護士の国際化への対応強化について関係する部分も相当あると思いますけれども、いい機会ですので御説明させていただきたいと思います。
 一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律が施行されまして、本年4月と5月に1名ずつ、アジア大洋州局と条約局に、任期は、1年ないし2年ということで採用させていただきまして、自由貿易協定(FTA)関係の業務で、国内法との関係が密接な分野を中心に御活躍いただいております。背景としましては、FTAをまずメキシコとの間で現在交渉が進んでおりまして、さらにASEAN各国との間で交渉を開始するための検討を続けている状況があって、そういう中で特に国内法との関係でリーガルマインドをお持ちでプロフェッショナルな弁護士の方に御活躍いただきたいというニーズが強かったということがございます。今後もグローバル化が進展していくことによって、外国との条約交渉の結果が国民生活に直接的な影響を及ぼす案件が増加しておりますので、一般論としてはプロフェッショナルとしての弁護士に御協力いただくニーズが今後とも増大すると思われます。外務省は、今年3月に外務省の機構改革について最終報告を発表いたしましたが、その中で条約局の後継として位置づけられる国際法局が任期付職員法の活用等による弁護士の積極的な受入れ等を通じ、人事交流を促進することを打ち出しております。
 今後、法整備支援のために弁護士を採用する可能性については、支援先の国からどの程度の要請が行われて、全体としてどの程度のニーズが生じるのかという問題にもかかわってきますけれども、外務省としても法整備支援の重要性は十分認識しつつ、関係部局が引き続き検討していくことになると思います。
 弁護士の採用に当たっての給与制度に関しましては、任期付職員法の枠内の運用にならざるを得ない面がありますけれども、少なくとも収入が大幅に減少することのないように、制度の柔軟な運用を通じて一定のレベルは維持できるように努力しております。
 次に、JICA本部への弁護士の採用も提案に含まれていたかと思いますが、JICAは特殊法人であり、10月移行は独立行政法人になりますが、そういう関係で任期付公務員制度の適用の対象外になってしまいますので、制度的な枠組みとしてはちょっと難しい面がございます。ただ、JICAは法整備支援に関する外部の有識者を交えた意見交換の場を設けておりまして、弁護士を初めとする有識者の知見の活用に関しても積極的に取組んでおりますし、今後ともそのような活動は続けていきたいと考えております。
 もう1点、国際機関に弁護士が進出できるように何かできないかというお話があったかと思いますが、一般論として国際機関で活躍する日本人の数が著しく過少の状態であることから脱却するために外務省としても問題意識は有しておりまして、国際機関人事センターという組織を設けて、そこを通じて国連等国際機関の空席ポストに関する情報提供、あるいは日本人の国際機関への就職の側面的な支援を行っております。国際機関への弁護士の進出についても、現状の実績はまだ十分とは言いがたいので、外務省としてもできるだけの協力を行っていきたいと考えております。
 具体的にはインターネットのホームページ、あるいはメールアドレスを登録した方へのメールの配信等の情報発信を実施しておりますし、さらに具体的にどのような協力が可能かにつきましては、日弁連と国際機関人事センターとの間で率直な意見交換を行っていくことが有効ではないかと考えております。

○柏木座長 ありがとうございました。そこで、今日は3人の方からヒアリングを行ったわけですけれども、そのヒアリングの内容に関して、これからの法整備支援に関し、御意見はございませんでしょうか。

○加藤委員 まず一番感じましたことは、最後に竹下先生がおっしゃいましたように、公的に認知するための組織づくりが必要だということです。その前提として法整備支援の意義づけ、理念等もう少し明確になって、それに従って認知するのかしないのか、あるいはどの程度の力を入れるのか等の評価がされて、その結果、プロジェクトごとにあるいは国の政策の中での法整備支援の位置づけそのものかもしれませんけれども、体制整備がなされ、あるいは資金的・組織的な手当がされるべきではないかと思います。理念の部分がどう整理されているのだろうかというところに少し疑問を感じました。そこをもう少し整理する必要があるのではないかという気がいたします。

○柏木座長 竹下先生が御報告されたことでもありますけれども、法整備支援の意義として、「法の支配」の論文を引用されておりますが、これではちょっと不十分でしょうか。

○加藤委員 概念としてはそういうことだろうと思います。認知せよということは国の政策として認知せよということだと思いますけれども、国の政策として認知するためには、我が国が国際社会において法整備支援を行わなければいけないとか、あるいはどの程度の力をもって行わなければいけないのか等を判断するために、もう少し具体的な理念、言い方をかえれば国としての戦略が策定されることが必要だと思います。

○玉井委員 私も似たようなことを考えておりました。今日お話を伺っておりまして、法整備支援は大変大きな事業だと思いますが、その目的といいますか理念といいますか、それには2通りのものがあるような気がいたしました。1つは、日本国が国際社会において名誉ある地位を占めたいと思うということで、いわば全人類のため、あるいはもう少し落として言えば相手国のためという面と、もう一つは我が国の国益のためにやるということと2通りのものが実はあるのではないかと思うのですが、恐らくカンボジアでの事業は相手国のためである。そうであるならば、例えば対象国によっては、うちは民事訴訟法などよりむしろ水道がないために安全な水がないのだからそちらの方にお金を使ってくれという要望があれば、それはそうしましょうということになるかもしれません。他方で、しかし我が国の国益のためであるということであれば、それはあなたの国の政府はダムが欲しいとかそういうことを言っているけれども、ダムや橋よりも我々はあなたのところできちんと司法をやってほしいのだ、日本国民の権利も含めてきちんと司法のプロセスを踏んでほしいのだということで、いわばこちら側の都合で事業にお金を使うことになるかもしれません。
 私は見聞きする世界が限られているのですけれども、知的財産権の分野などですと、例えばアメリカは中国人を大分受け入れていて、アメリカの多少得意な特許法を、これが世界の標準だと言って英語で教え込んで、またそういう人をアメリカを経由してジュネーブの世界知的所有権機関に送り込む。そういうことをかなりやっていまして、優れた人をアメリカばかりにとられるのではちょっとかなわないという気持ちもしますが、これはまさに国益だろうと思うんですね。そちらの方は割と説明がつきやすい。しかし、当然のことですけれども、どちらもなおざりにしてはいけないので、我が国として結論的にはどちらにも十分な資金を使うべきだと思います。

○柏木座長 ほかに、この意義・目的について御意見はございますか。
 多分、意義・目的はかなりはっきりしているのでしょうね。私は竹下守夫先生の「『法の支配』に妥当する民主国家体制の支援」ということで、あるいはいいのかなという気がするのですけれども、玉井委員がおっしゃった相手の国のため、日本の国のためというのもなかなか区別がつかない。例えばアフガニスタンを考えてみると、アフガニスタンに民主国家体制で、しかもそれが「法の支配」が妥当する国家が確立することは世界の平和にプラスになるだろう、それが間接的に日本のプラスにもなるのだろうという気もするし、それが相手国のためでもある。だからアフガニスタンが水道が欲しいと言っても、水道もいいけれどもほかの国からもらってちょうだい、日本は法整備支援をやるということがあってもいいのかなという気がします。
 ただ、加藤委員の言うように、これでは「法の支配」の妥当する民主国家体制の支援という意味では抽象的過ぎる、もう少し具体的にという要請もあるのかもしれません。これはどういうところがつくるのでしょうね。どうもこの検討会が理念を打ち出すということでもなさそうな……これは難しい問題というか、ちょっとわからない問題ですけれども、何か御意見はございますか。

○下條委員 私自身も、日弁連が行っている例えばカンボジアから人が来るとか、ベトナムから人が来るとか、それぞれの国の司法省の人たちが来ますね。そういうときに講演を頼まれてスピーチをしますけれども、そういうときに私は自分の利益とかそういうことは何も考えていないわけです。まさにプロボノでやっているわけですね。ですから、今おっしゃったように、国益とか戦略とかそういうものはちょっと関係ない世界ではないかと思います。やはり竹下先生がいわれたような「法の支配」の妥当する民主国家体制の確立の支援という理念で、一種のノーブレス・オブリージュというか、そういう面からやることではないかと思っております。

○乗越委員 確かに個々のなさっている活動の中では、かなりプロボノ的要素が多くて、まさにそれが私が先ほど竹下先生のお話を伺っていて気になった点で、旗を振っても人は集まらないということが現実としてあるのであって、日本の国家として何か理念を持って法整備支援をする、その理念が全く人のためであってもそれはいいのですけれども、それはそれで大筋は国なりそういうことをやるところに決めてもらえばいいと思うんです。ただ、法整備支援がやるべきものというコンセンサスがあるのであれば、そこから先は人がちゃんと集まって仕事をしてくれるような体制をつくる必要があるので、そこは私は先生のお話を伺っていると、まだ何か欠けているのではないかという気がいたしました。

○玉井委員 ノーブレス・オブ・リージュというのは全くそのとおりだと思いますし、特にカンボジアでの事業のお話を聞いて深い感銘を受けますけれども、竹下先生が最後におっしゃったように、それでは国を変えて次から次へと同じメンバーでやれるかというとそれはできないだろうというのも、実感として非常によくわかります。このメンバーの中に私は個人的に知っている人が何人もいますし、それは大変だろうなというのも実感としてわかります。もし彼らが非常に気高い精神に燃えて、次はベトナムで、その次はラオスで、その次はミャンマーだと。しかし日本国の民事訴訟法も今は大きな変革期で大変なのだから、そういう有能な人たちが外国のことばかり面倒を見ないでほしいと、私は納税者の1人として言いたいと思いますね。
 我が国のためになるということがあって、それで順位づけなり何なり、つまり限られた貴重な資源をどこに投入するかということが決まってくるのではないかと思うんです。例えば、「法の支配」が必要なのは世界中どこでも必要だし、まだまだ足りないところはたくさんあるわけです。例えばアジアの中で言っても、ある基本法制を整備するときに、次に例えばバングラデシュにするのかベトナムにするのかという選択があったときに、バングラデシュの方が人口は多いかもしれないけれども、将来の市場として、あるいは将来のいろいろな関係を考えるとベトナムの方を優先すべきであるという判断がどこかでなされなければいけないわけですが、その基準としては我が国と関係が深い……平たく言えば我が国にとっておつき合いが深い、我が国のためになるという基準で選ばざるを得ないのではないかと思います。
 いずれにしろ、法律家の数全体が足りませんし、研究者も足りませんから、どこに資源を投入するかは、非常にせちがらい気高くない言い方ですけれども、国益だと言わざるを得ないのではないかと思います。

○柏木座長 おっしゃるとおり、人の資源の問題ばかりではなくて、まさにお金のリソースも非常に少ないわけで、これをどう効果的に配分するかということを総合的にプランニングするということがどうもなさそうですね。実際に法整備支援をやっているところもたくさんの部局があって、ネットワーキングすら余り活発になされていない。もう一つ、たしか名古屋大学が法整備支援を一生懸命やっていますね。この辺は皆さんがてんでんばらばらにやっているような印象だけかもしれませんけれども、どうもヒアリングを通じてもそういう印象があるのですが、やはり限られたリソースをどう有効に配分すべきかというプランニングは非常に重要なのではないかと思いますね。これはやはり法務省の仕事になるのでしょうか……ちょっと問題発言かもしれませんが。確かにセントラルな統一的な方向づけ、プランニングが非常に大切だという印象を私も抱きました。
 ほかに御意見はございますでしょうか。

○孝橋委員 今日伺った中でアジ研の教官のお話がありまして、私も実は18年前にアジ研に研修生として3カ月ほど参加したことがございます。アジ研というのは非常に歴史の古い支援機関で恒久的な機関として存立しているわけですが、日本の法律制度を紹介しながら、アメリカ人やイギリス人の講師なども招いて、刑事司法に関してですけれども、人権の保障とか残虐な刑罰の禁止とかの基本的なポリシーについての啓蒙活動を粘り強くやってきている機関であると理解しているのですけれども、最近は法整備支援がここまで活発になっているということは私も実はこの検討会の準備の段階で初めて承知したところなのですけれども、かなり以前とは違う側面の活動が行われるようになっていると理解したわけです。
 いろいろな機関でやっていることをどこかで統一してやることが効率的であることは、まさにそうだと思うのですが、具体的に特定の国に対して特定の法案の起草支援をするということになると、また次はどこにどういう形でやるのかということについて、それぞれいろいろな考慮がその時々によって働くのかなと。それをどこで調整するかはまた難しい問題なのかなと。アジ研の場合は比較的当たりさわりのないようなところでやっている……と言っては失礼かもしれませんが、割に大方のコンセンサスを得られるようなところでやっているからこそ長く続くのだと思うのですけれども、具体的にどこの国に対してどういう援助をするかは、経済界などいろいろな考慮がまた働いてそれなりに難しいということで、基本的な方向としてはどこか統一的な機関があればいいと思うのですが、そこをうまくまとめていくためには、強力なリーダーシップが必要だと思います。それをどこが握るべきかということについて、今よくわからないでいるような状況です。

○柏木座長 リーダーシップのとり方も、1つの機関をつくってそこに集中する完全なリーダーシップのとり方と、実施は各機関に今までどおり任せておいて、そのコーディネーションを行う緩やかなまとめ方と、いろいろなものがあるのではなかろうかという気がするのですが、いずれにしても、少なくともそのコーディネーションぐらいは必要ではないかという気がしたのですけれども。
 ほかに法整備支援について御意見はございますでしょうか。
 実際問題としては、プロボノによらざるを得ないのだろうと思いますね。カンボジアの民事訴訟法についても、学者としては土曜日の午後しかあいていないし、みんなが集まるのはその機会しかないし、貴重な土曜の午後を1カ月1回つぶされるのは非常に苦痛だし、謝礼をもらったとしても、できればもらわないで自分の研究をした方がいいというのが本音ではないかという気がしますけれども、それは先ほどの理念ではありませんが、これは日本の国のためにもなるし、カンボジアの国のためにもなるというノーブレス・オブ・リージュの精神でやってきたのではないか。
 私も乗越委員の意見に賛成で、人の善意ばかりに頼っていると長続きしないし、経済合理性も無視することはいけないだろうという気はするのですが、その辺のバランスというか、完全に経済合理性だけでうまく運営はできない。やはり陰の面は、協力者のまさに善意に頼らざるを得ないのではないかという気がします。

○乗越委員 その点は、私は正直言って疑問でして、6年かかってその間に担当者もいろいろ変わって大変だとおっしゃいましたね。それはまさに6年かかったからそういう問題が新たに生じてしまったと思うんです。こういう仕事は、どこかで善意の人がやると決めたら、まあ政府なのでしょうけれども、カンボジアに対して支援すると決めたのであれば、それは誰か専門家に発注して請け負ってもらうという発想になるべきではないかと思うんです。ですから、少なくとも素案については1年の間に、十分たたき台になるようなものを出せと。もちろんそれには財政的な裏づけは必要なのですが、そういう発想で発注して請け負うということで実際の作業をやらないと、こういう仕事はできないのではないかという気がしますね。ですからプロボノの部分はもちろんあるのですが、それは言ってみれば上の方の段階の話であって、実際に作業をする方に対しては、もう少しシビアな発想でないとなかなか効率的にいかないのではないかという気がします。ですから、学者の先生方が土曜日の午後でないと時間がとれないというのも実際にそうなのかもしれませんが、それは本来そうあるべきではなくて、大学で講義を毎週されるのと同じ比重で、それは請け負って仕事をしていただくということができるように体制をつくっていかなければいけないのではないかという気がします。

○柏木座長 かなり難しい気もしますけれども……。

○波江野委員 竹下先生のお話の最後の部分でちょっと気にかかってといいますか、教えていただきたいのですが、カンボジアの法整備支援をやっても学者としての業績評価に結びつかないということで、司法制度改革審議会の意見書では、国際化というときに弁護士が目のかたきになって弁護士はちゃんとしろと書いてありますけれども、学界などについてもそういう体質があるのだとすれば、なぜ評価されないのかは私はわからないのですけれども、例えば英米法とかフランス法、ドイツ法をやっている先生がいらっしゃって、それはきちんと評価されて、カンボジアの法整備支援が評価されないというのはどういう根源でそうなっているのか教えていただきたいと思います。それも評価すればいいじゃないかという感じがするのですが、なぜできないのかがよくわかりませんので。

○柏木座長 ここに学者は……まず玉井先生から、どうしてでしょうね。

○玉井委員 論文にならないですね。

○柏木座長 そうなんです。

○波江野委員 「その辺でやりました」というのではいけないということなんですね。

○柏木座長 論文でなければ業績にならないシステムがおかしいとおっしゃるのは全くそのとおりですけれども、これを変えるのは学者の文化を変えないといけない。それともう一つは、例えばカンボジアの法整備支援をやることによってカンボジアの法制を研究する、それを日本に紹介する。そして、紹介論文というのは業績としては割と低く見られるんです。例えばこれが法社会学者になりますと、カンボジアの法制はこういう社会とこうなっているのだ、日本でもこうじゃないかという研究をすると評価されるんですね。だから、そういう学者の評価システムをガラッと変えなければいけないのですが、これは学者の文化を変えるようなもので非常に難しいのじゃないかという気がします。

○波江野委員 今申し上げましたように、司法制度改革審議会では弁護士についてはかなり辛口のことを言っていますけれども、そういう点で法曹界全体を見た場合に、学者に対してその辺の問題提起すらされていないところが問題ではないかという感じがいたしますけれども。

○玉井委員 反省いたします。

○柏木座長 これは多分次回で、学者や弁護士ではありませんけれども、学者の国際化という議論になるのかという気がいたします。
 ほかに法整備支援について、情報の蓄積・発信のあたりで御意見はございますでしょうか。各報告をしてくださった方に共通の問題意識として、日本からの法律の発信、国際的な発信が足りない、英文のデータがそろっていないという指摘がありましたが、この辺についていかがですか。

○大塚補佐(下川委員代理) 英語によるテキストなり教材がないということですが、中曾根内閣の時代に外国の留学生を大幅に増やそうということがあって、外国の大学からの留学生を増やす方向でのいろいろな努力がなされていると思うのですが、そういう中で英語で日本の法律を説明するテキストが大学の中でもつくられていないのかどうかと若干疑問の点があるのですが、その現状はどうなのでしょうか。

○柏木座長 外国からの留学生に、ですか。

○大塚補佐(下川委員代理) 外国からの留学生に対して日本の法制度なりを説明するようなテキストです。例えば私がドイツへ行ったときには、ドイツの図書館に入ってたまたま国際法の高野教授の本がドイツ語に訳されてあってすごく感激した記憶があるのですけれども、あるいは外国の研究者で日本の法律を勉強している人がそれを説明するテキストを英語で出しているとか、そういうものは何かないのでしょうか。

○柏木座長 労働法では菅野教授の「労働法」が英語に訳されていますね。これは2〜3年前ですけれども、非常に少ない。なぜ少ないかというと、これまた波江野委員に非難されるかもしれませんが、業績にならない。というか、業績として低く評価される。翻訳は低く評価されるということがあるんですね。その割に大変な時間と労力をとるということで、学者としては非常に効率の悪い仕事になるわけです。もう一つは留学生に対する英語での日本法の教育ですけれども、これも2つの考え方があって、先ほどの報告に出ていましたが、法律を本当に理解するためにはその国の言葉で理解しないとどうにもならないんですね。だから、どの程度日本法をしっかり勉強しようと留学生が思っているかによるわけですけれども、少なくとも日本の大学院レベルに留学してくるのだったら、やはり日本語で文献なり判例なりを読めないとだめだという考え方が強いと思います。
 それからもう一つは、これまた労力の問題で、例えば過渡的に留学生に対して英語で教育するということになりますと、教える方の負担がとても大きいんですね。つまり、まさに問題になっている教材がない。例えば判例を学生たちに読ませようとしても、教師が自ら判例を英訳しなければいけないわけです。これは、そんなことをしていたのではとても時間が足りないわけで、教材がない。しかも英語で日本法の授業ができる先生の数もまた限られている。ということで、これまた費用対効果の面で、それを過渡的に大学で日本法を英語で教える意味が、それだけの努力をして努力に見合うものなのだろうかという疑問があるわけですね。そういうことから日本では今、九州大学しかやっていないと思います。

○バイヤー委員 もちろんそのかわりに、例えばアメリカではアメリカのロースチューデントが日本語の法律についてアメリカで勉強したい場合がありますね。そのためには英語で書いてある日本の法律制度についての教科書がいろいろつくられていますけれども、あとワシントン大学はよく判例を翻訳して比較法の教科書をつくっているんです。

○柏木座長 柳田先生の訳ですね。

○バイヤー委員 そうです。柳田先生の本、あと会社法だったら龍田先生が結構手を入れたものがありますし。

○大塚補佐(下川委員代理) もう一つは英語ということではなくて、アジアの国に目を向けると、例えば韓国は日本の法律と非常に近親性が強い国がありますので、例えばドイツの大学の先生から聞いた話では、昔は日本からの留学生が多かったけれども最近は韓国からの留学生が増えている。それは、韓国は日本の法律が導入されたことがあって、日本はもともとドイツから相当程度の影響を受けていますから、韓国もその反射でドイツからの影響も受けている、そういう関係で韓国からの留学生が非常に多いという話がありましたので、そういうことを考えると、韓国あるいは台湾のように日本の法律の影響を割と受けている国の人にとっては日本の法律について学んで自分の国と比較するというニーズは相当高くあると思うので、そういうもので何かできることがあるのではないかという気はしますが。

○柏木座長 実際に韓国や台湾からの留学生は非常に多いんですね。彼らの場合は、最初から日本語で勉強したいと言っていますね。

○齊藤参事官 先ほどバイヤー委員が、英訳にコンピュータ技術の利用が考えられないかという趣旨の御指摘があったと思いますが、もう少し詳細にお話しいただければ……コンピュータ技術はどのように利用するのでしょうか。

○バイヤー委員 自動的なコンピュータ翻訳の技術はまだ全然進んでいないのですけれども、プログラムによってメモリーはつくられる、前に同じような表現ができたものは、コンピュータを使えばコンピュータのメモリーに入っているから、似ている表現がもう一度出てくるときは、前のときはこのように訳した、今回も同じように訳してほしいかというような技術は今のところで結構進んでいますね。そのような技術は、データベースをつくれれば、いろいろな人がいろいろなもので翻訳していると、似ている表現が出てくるときには似たような翻訳はできるようになると思います。特に立法を翻訳すると似ている表現をかなり使っているでしょう。だから、そういう技術を使えばエンドプロダクトがしっかりしているものになるのじゃないかと思います。

○柏木座長 それからもう一つ、市販の英語辞書も出ていますが、多くは和英法律辞典ですね。これが今、日本ではリライヤブルなものはほとんどない。昔昔、今から50年ぐらい前の伊藤重治郎という方が編纂した厚い本があるんですが、そのぐらいではないかと思うんですね。これをコンピュータでオープンにしますと、いろいろな人からアクセスが来て、その人たちが意見を言うことができる。それで語彙をどんどん増やしていけるし、間違いを指摘するということで、辞書の編纂ができるというアイデアもあるのじゃないかと思います。
 ほかに御意見、ございましょうか。
 それでは予定の時間も過ぎましたので、次回以降の予定につきまして、事務局から御説明をお願いします。

○齊藤参事官 次回以降の予定でございますが、資料14−5の今後の国際化検討会のスケジュール (案) に記載されておりますように、次回の検討会は6月5日(木)午前10時30分から12時30分を予定しております。残りの課題であります「弁護士(法曹)の国際化への対応強化・その他」につきまして、日弁連からのヒアリングを予定しておりますとともに、御議論をいただくことを予定しております。また、次々回の検討会は7月23日(水)午後2時から5時を予定しておりまして、ここでは、本日御議論いただいた法整備支援の推進と弁護士(法曹)の国際化への対応・強化についての議論などの整理を行いたいと考えております。よろしくお願いいたします。

○柏木座長 それでは第14回国際化検討会を閉会させていただきます。本日は御多忙の中お越しいただきましてありがとうございました。(了)