○柏木座長 それでは所定の時間になりましたので、第15回国際化検討会を開会させていただきます。
本日は御多忙の中、御出席いただきましてありがとうございます。
早速ですが、今回の議事予定につきまして、事務局から御説明をお願いします。
○齊藤参事官 ご説明します。本日の議事予定でございますが、前回御案内いたしましたとおり、弁護士(法曹)の国際化への対応強化について、日本弁護士連合会からヒアリングを行った後に、御議論をいただくことを予定してございます。
ヒアリングには、日弁連の矢吹国際室長と大谷美紀子弁護士にお越しいただいております。ヒアリングの時間でございますが、説明時間を約30分程度、その後、質疑応答の時間を20分程度予定しております。そして、その後の御議論を1時間程度予定しておりますのでよろしくお願いいたします。
○柏木座長 それでは、初めに事務局から配布資料の説明をお願いいたします。
○齊藤参事官 本日配布させていただいております資料は、資料15−1が司法制度改革審議会意見書及び司法制度改革推進計画の抜粋でございます。
続きまして、資料15−2は本日のヒアリングにつきましての日弁連からの提出資料でございます。
そのほかに、参考資料としていろいろなものをるる用意させていただきました。後の議論の参考にしていただければと存じます。
以上でございます。
○柏木座長 それでは議事に入ります。弁護士(法曹)の国際化への対応強化につきまして、日本弁護士連合会からヒアリングを行いたいと思います。御説明いただきますのは、矢吹弁護士(国際室長)と大谷弁護士です。日弁連の立場から弁護士の国際化のために必要と考えられる方策を中心に御説明をお願いしたいと思います。
それではよろしくお願いします。
○矢吹氏 おはようございます。本日は日本弁護士連合会にこのような機会を与えていただきましてありがとうございました。前回発表いたしました矢吹でございます。日弁連で国際室長を務めております。今回は弁護士の国際化についてお話をいたしたいと思います。よろしくお願いします。
私どものお話は、ビジネス部門からの話と国際人権という話の2つに分けてお話しさせていただきます。約20分から30分の間で私たちのプレゼンを終わらせていただきたいと思います。
その前に、前回の法整備支援で若干御議論いただいた中で、3つほどクラリファイしたい点がございますので、簡単に申し述べたいと思います。
1つは、この法整備支援に戦略論があるかというお話がありました。戦略論につきましては、1992年のODA大綱をもとに2年ほど前から、法務省、法総研、外務省、名古屋大学を中心とする大学の方々、そして日弁連と月に1回ほど法整備支援の戦略会議を開いておりまして、既にペーパーが出ております。もし必要であればお出しすることもできると思います。
2つ目に、大学と実務家の協調はあるのかというお話がありましたが、今お話ししたとおり、名古屋大学、早稲田大学とを中心に大学と実務家との法整備支援に関する協議は頻繁にしており、お互いのセミナー等についても参加・交流しているということもあります。
3つ目ですが、アカデミア・学者の先生の中で法整備支援がどういう評価をされているかという点につきましては、柏木先生のおっしゃるような状況だと思いますが、特に開発援助の先生方と法律、実体法ないしは訴訟法の先生方との間の交流がなかなかないということは現象としてあろうかと思います。
以上お話しさせていただいて、今回の発表に移らせていただきます。
レジュメの中で、私からビジネス法務関係の方からお話しさせていただきたいと思います。レジュメの中盤からです。そのほかに資料として、長島安治先生が「法の支配」でお書きになった「国際弁護士業務の展望」という記事をお出しいたしました。これは日本の弁護士事務所の国際化ないしはそこで働く弁護士の国際化のこれからの在り方について、1つの見識であると思いまして、お出しした次第です。
では発表させていただきます。審議会の意見書に弁護士の国際化の問題について幾つかのレファレンスがあります。その中でも特に55ページで、「弁護士が国際化時代の法的需要を十分満たすことのできる質の高い法律サービスを提供できるようにすべきである。このような見地から、弁護士人口の大幅増員、弁護士事務所の執務体制の強化、弁護士の国際交流の推進、外国法事務弁護士等との提携・協働、法曹養成段階における国際化の要請への配慮を進めるなどにより、弁護士の国際化を抜本的に強化すべきである」という一文が一番重要であろうかと思います。
まず第1ですが、果たしてビジネス面でどういうイメージを持って弁護士の国際化を考えなければいけないかという点が重要かと思います。弁護士の国際化、国際化と言っても、どういう形をもって国際化なのかというイメージを共通化しないと議論が進まないのではないかという問題意識であります。
そこで、まずイメージとして、弁護士が国際化した後の現象面について具体的なイメージづくりをしてみました。
幾つかありますが、まず、弁護士が国際的な企業取引(企業買収、金融取引など)で内外の依頼者を代理し、契約書作成、交渉などを行っている姿。2つ目、弁護士が内外の国際的な紛争事例(日本企業・外国企業間の裁判、仲裁案件、ダンピング手続など)で依頼者を代理して参加している姿。3つ目ですが、多くの弁護士が内外の国際的な企業の法務部門でコンプライアンスを含む幅の広い法務を扱っている姿。4つ目に、多くの弁護士が外国人の法律相談や法律事務を扱っているというイメージ。5つ目ですが、多くの弁護士が国際機関や国際的な団体で活躍している姿。次に、多くの弁護士が、日本の省庁で国際的な問題を取り扱っている姿。次に、多くの弁護士が国際的な司法支援活動に従事している姿。これは法整備支援のことを指します。次に、法律事務所の中で、外国人の弁護士と対等に議論し協働している姿。最後に、多くの日本の法律事務所が海外に支店を有し、海外での案件に直接関与している姿。
こういった10のイメージをまず念頭に置いてみました。ここに共通する要素は何かということを次に検討してみました。
現在のところ、WTOの貿易交渉など純粋国際条約の締結、運用及び解釈を除いて、世界の法務サービスは各国の法律をもとにしたサービスであるということは間違いのないことではないかと思います。英米法系、大陸法系など法体系の類似性はそれぞれの国にあっても、具体的なサービスを提供する面では資格を得た自国の法律についてのサービスを実施しています。
上記の理解のもとに、考え得る弁護士の国際化の要素を抽出してみました。
まず、弁護士自身の素養、個人としての素養は何か。これは、まず他国の依頼者、同業者などと自由に意思疎通をすることができることだと思います。2つ目に、他国の依頼者、同業者などに対して専門的な助言、意見交換をすることができる。そのためには、先ほど申し上げましたように自国の法律に精通すること、及び比較法的な知見があることが必要であると思います。2つ目ですが、弁護士が働く場という見地から、弁護士が内外の国際的な環境で働くことができることが要素として挙げられると思います。3つ目ですが、弁護士事務所という組織から考えますと、この弁護士事務所が海外進出することがあろうかと思います。弁護士個人だけでなく、弁護士事務所が国際舞台で活躍することができることが1つの要素ではないかと思います。
こういった要素をもとに、課題として考え得る点を9つほど挙げてみました。共通する問題として考えたわけですが、まず語学力です。2つ目に、コミュニケーション力。3つ目に法律専門性、これは国際取引法、渉外紛争法などを含みます。弁護士雇用機会の拡充は、企業だけではなく省庁、国際機関を含みます。弁護士が国際的な場で働くために情報提供の拡充。外国の法律事務所での働く場の拡充。日本の法律事務所での外国弁護士の働く場の拡充。日本の法律事務所の組織力強化。日本の法及び紛争処理システムの国際化という9つの問題点があろうかと思います。
これは現在、課題と書いてあるとおり、これらが日本において十分進んでいないことの問題意識があるからです。
こういう課題に対する対応策として私どもが考えた点が4に述べた幾つかの点です。
まず語学力につきましては、語学力の問題は実はもちろん弁護士に限ったわけではなくて、日本人全体の問題として検討しなければいけない。ですから、一般的取組みを実施することは当然だと思います。しかし、司法制度改革において何ができるかと言えば、まず法科大学院の受験に語学力(会話力を含む)を考慮するという点があります。次に、法科大学院で英語で講義する科目を設けることも対応策としては考えられると思います。
次に、コミュニケーション力の向上。英語力があったからといってコミュニケーション力があるわけではなく、コミュニケーション力の不足も日本人の足りない点であろうかと思います。そこで、高校・大学レベルでディベートなどを内容とする科目を授業として入れたらどうかという一般論があります。今回の司法制度改革の中では、法科大学院の授業にディベート、依頼者とのコミュニケーション、交渉というコミュニケーションにかかわる科目を設けることも一案かと思います。
次に、法律専門性をいかにつけるかということですが、この点は先ほど申し上げたように、無国籍な弁護士実務はないのですから、日本法の実務にまず精通する環境が必要かと思います。他方、比較的視野を持てる環境の整備も必要だと思います。まず、弁護士事務所での経験の豊かな日本の弁護士からトレーニングを受けることが可能となる法整備を行うべきであろうと思います。日弁連が以前から申し上げているように、外国法事務弁護士による単独雇用の場合に果たして日本の法実務をトレーニングする弁護士がいるのだろうかということが危惧されると思います。次に、専門性を持つためには弁護士事務所の規模が拡大することが必要であり、方法として弁護士の人数の拡大が考えられます。留学制度の拡充も必要なことで、外国での法学教育を受ける機会を拡大すべきだと思います。外国の弁護士と働く場を拡張することは、外国法事務弁護士との共同事業の拡充が必要だと思います。次に、研究の場と実務の場がこれまでの日本ではきれいに分かれていたわけですけれども、この人事交流を拡大することで比較法的見地を実務に入れることを考えたらどうかと思います。幸いなることに、法科大学院では実務家が教員として働く場がありますので、そこにおいてそういうことが可能であると考えます。法科大学院で比較法的な科目を設けることも一案かと思います。日弁連としましては、国際的な分野において今後、専門家研修も考えていきたいと考えています。
次に、弁護士の雇用機会の拡充です。これは法整備支援の問題でも申し上げましたけれども、任期付公務員制度の導入が図られたのですから、そういう制度を利用してより多い弁護士が省庁で働き、国際的な問題に直接取り組むことが必要かと思います。
次のページですが、できれば登用人数の数値目標なども検討して、実質的な結果を出していただければと思います。同様に、この前の御説明では既に給与制度も特別のものがあるということですので、その充実も考えていただきたいと思います。国際機関からの法律分野の人材派遣要請も弁護士が容易に応募できる制度をつくっていただければと思います。
これも先日申し上げましたが、官庁の方々に弁護士を実務家として登用することが有効であるということを考えていただきたいと思います。
(5)ですが、ホームページ等を利用してこういう働く場の情報提供を幅広くしていただければありがたいと考えています。
(6)と(7)につきましては、外国人弁護士と弁護士とが共同して働く場をいかに拡充するかという視点です。これは外国法事務弁護士の方々との協働化という点で、外国法事務弁護士との共同事業、日本の現在の法律事務所で外国の弁護士の方々が働く機会をより拡充していくことが挙げられようかと思います。
次に、日本の法律事務所そのものの組織力強化のために何が必要かということですが、海外進出するほどの力をつけるためには人数の増員が不可欠だと思います。イギリス、アメリカの事務所が何百何千という単位の弁護士を抱えて世界中で活躍していることを考えれば当然のことかと思います。同様に、弁護士と外国法事務弁護士との共同事業の定着化はこの目的にも有効であると考えます。弁護士法人制度の利用は十分ではないと思いますが、これを利用することで組織力強化につながればと考えています。
最後ですが、そもそも弁護士だけのことを考えているようですが、やはり日本の法、紛争処理等のシステムの国際化が本当は必要なのではないか。実は紛争解決に日本の仲裁が利用されない、日本の裁判が敬遠されるということが日本そのものの国際化を遅らせているのではないかという視点であります。そのために、現在既に他の検討会でも討議されていますが、仲裁制度の改善と英語で十分に仲裁のできる仲裁担当者の育成や費用面の改善が必要かと思います。裁判につきましても、迅速で公平な裁判をできるよう改善することが必要かと思います。国際的な問題としては通訳の問題があり、法廷通訳の質が上下するという状況のもとで、一定の高い質を持った通訳が法廷で活躍することが必要かと思います。
最後に、日本法の英文化、留学生制度の充実。これは先日申し上げたとおりですが、こういうことも日本全体の法制度の国際化には役に立つと思います。
以上です。ありがとうございました。
○大谷氏 続きまして、国際人権の分野につきまして私の方から御報告申し上げたいと思います。
まず最初に、私は日本弁護士連合会の中では国際人権問題委員会の幹事として国際人権の分野で活動しているほか、日常業務としましては、特に国際家族法、渉外家族法の分野で、外国人の依頼者を含む依頼者のために業務活動を行っております。私の方は、矢吹さんから御報告のありましたビジネスの分野でお話しされた例えば語学力ですとかコミュニケーション能力という共通する部分もございますけれども、特に国際人権の分野において意見書が求めているような日本の司法・法曹の国際化のために、具体的な方策として考えられることについて述べさせていただきたいと思います。
大きく2つの柱に分けてお話ししたいと思います。1つは、意見書の中にございますように、特に53ページに述べられていることですが、「国際社会との価値観の共有を深め、公正なルールに基づく国際社会の形成・発展に向けて主体的に寄与する」ために、という点に関し、この1つの分野が国際人権法の分野であり、国際人権法システムの形成・発展に対して日本の法曹がどのような主体的な寄与ができるか、そのためにどのような具体的な方策が必要かということを最初に述べさせていただきたいと思います。
その第1に具体的に必要と思われることが、国際人権法・システムに関する法曹研修の促進です。
この問題は、例えば1994年に国連総会で決議されました人権教育のための国連10年、これは1995年から2004年で現在もまだその途中にございますが、その行動計画の中に、各国が取り組むべき人権教育実施の対象として法曹が挙げられていることからも、この必要性が国際社会で認識されております。特に日本との関連で申し上げますと、国連の規約人権委員会が1998年に、それと社会権規約委員会、これらは2つとも日本が批准しております国際人権規約に基づいて設置された条約機関ですけれども、この社会権規約委員会から2001年に、それぞれ日本政府に対して法曹に対する人権教育の必要性が勧告されております。これを実際に進めていくための基盤整備として教材の整備ですとか研修体制の確立等が必要になると思われます。
さらにそれを具体的に進めていくためには、国連の方で既に作成して刊行されております法曹関係者向けの研修資料の和訳ですとか、国連人権高等弁務官事務所や欧米の大学院で国際人権のコースを持っているところと共同研修をしていくとか、あるいは国際機関での研修を支援していくですとか、そういう具体的な方策を検討・実施して、もって日本語教材及び日本人教授陣の充実を図っていくこと、そして日本の法曹向けのプログラムを策定・実施していくことが必要であると考えます。
2番目に、外務省・法務省及び国際機関における国際人権分野の職務への弁護士の登用です。人権条約の起草や条約批准のために国内法整備を進めておられるのは、外務省を中心として法務省、その他の省庁だと思いますが、そのポストに現在実施されております任期付の弁護士を特にこの分野のポストに採用していくということで、人権分野について既に専門的・実務的知識と経験を有する弁護士の能力を生かしていくことができますし、またさらにその任務を通して専門性を高めていくことも可能になります。国際機関における人権関係のポストに日本の政府から派遣される場合もございますけれども、その場合にも弁護士を登用して派遣することも検討されるべきではないかと思います。
3番目に、国際機関の人権分野の職務への弁護士の派遣、就職をサポートしていくことが考えられます。現在、国際機関に就職するための1つのルートとしては、ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー、アソシエート・エキスパートという呼び方もされておりますが、この試験からの就職と競争試験からの就職がございますけれども、こうした試験を受けて就職していく以外に、特に中間管理職、上級管理職につきましては、相当程度の実務経験が求められておりますが、弁護士というのはある意味で法律分野について実際に長く実務経験を有しているわけですから、さらに国連から求められる語学力ですとか学位の点で応募資格のあるような法曹がいれば、これをぜひ発掘して送り出すということも検討していく必要があるのではないかと思います。
特に法律分野、人権関係について国連機関、国際機関の職務に送り出すような具体的な方策は今まで特になされてこなかったと思いますが、その意味では日弁連と外務省、国際機関人事センターが中心となって、日本にあります国連機関の各事務所からスピーカーをお呼びして、国際機関に勤務することについて関心を持っております弁護士や修習生に対してセミナーを開催し、そのセミナーにおきましては語学、専門分野の学位取得、実務経験の習得など、国連から求められている人材像を明確にして、応募を考えている弁護士や修習生に対して具体的な準備についてアドバイスをする形でのサポートが必要であり、また大変有用であると考えます。
特に法律分野からの人材を募集しているポストや競争試験、日本へのリクルートミッションがある場合には、そうした情報を迅速に関心のある弁護士に提供するシステムを構築していくことが必要であると考えます。さらに国際機関への就職を希望する弁護士は、実際に勤務が確定するまで非常に時間がかかり、いつ実際に勤務が始まるかわからない不安定な状況に置かれることがございますので、そうした弁護士がスタンバイして、いつでも自分がやっている事件を引き継いでもらって、国際機関での勤務が開始できるようにするという制度づくりという意味では、公設事務所でこれらの弁護士を受け入れて、語学ができることが前提になっておりますので、外国人向けの法律相談・事件を担当してもらうというような形でのバックアップ体制の充実も検討されるべきであると思います。
最後に、国際人権条約の批准です。日本は、既に国連がつくっております主要な国際人権条約を批准しておりますが、自由権規約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約など、その中で個人通報制度があるものについてはまだ受入れがなされておりません。これらの個人通報制度につきましては、現時点で国連の加盟国が191カ国ございますが、自由権規約の個人通報制度の場合ですと104カ国、半数以上が既に批准しており、ヨーロッパの国はほとんど、いわゆる先進国の中でもカナダですとか、アジア太平洋地域で言いますとオーストラリア、ニュージーランド、韓国などはもう批准をしております。先進国の中でこれを受け入れていない国はアメリカ、日本という状況になっておりますけれども、日本が個人通報制度を受け入れることによって日本の法曹が日常の事件処理のために国際人権法の専門的な知識を習得することが必要となり、ひいては国際社会において人権の分野で発展・確立してきた共通の価値観でありルールである国際人権基準が、我が国の法曹の間で本格的に共有されることにつながると思います。
こうした観点から国際人権の分野における法曹、弁護士、制度の国際化という意味で個人通報制度の受入れは大きな意味を持っていると思いますけれども、その準備として必要な問題点の整理や克服についての議論、それから個人通報制度受入れに備えて必要となってくる国際人権条約の解釈や先例に関する資料の和訳、人材育成体制の確立などを進めるに当たっては、法曹三者、学者、外務省などによるプロジェクトチームを設置して協議を開始するというような具体策が考えられると思います。
国際人権分野のもう一つの大きな柱は、同じく意見書の53ページで述べられております「自らのうちに多様・異質な意見や生き方を許容する、独創性と活力に満ちた、自由で公正な社会を、法の支配の理念の下に形成・維持するために」という部分に関連しまして、いわゆる内なる国際化、日本において生活している外国人への法的サービスのために日本の法曹がどのような国際化を進めていく必要があるかという点でございます。
その具体的方策として考えられる第1番目は、法曹に対する語学トレーニング及び実務研修です。渉外弁護士は事務所から派遣されて留学して、そのときに語学力を磨いてくるという経験を持つことが多いわけですけれども、日本で生活する外国人のために法的サービスを提供する日本の法曹全体の語学力をアップしていくためには、何らかの公的なサポート体制が必要なのではないかと思われます。特に日本で生活する外国人に対する公的サービスという観点では、英語以外にも中国語ですとか韓国語、タガログ語といった日本で生活する外国人の多い言語に合わせて公的サービスを提供する必要性がどの程度あるのかという調査、その調査を踏まえての語学研修の検討も必要だと思います。
さらに、入管法、渉外家族法等の分野に関する研修や事例を集めての勉強会、弁護士相互間での情報交換、実務研修などのほかに、日本で生活する外国人の多い出身国であるフィリピンとかタイなどとの関係では、2国間ベースで大使館やその国の法曹との情報交換を行っていくことも有用と思われます。
さらに子の奪取に関するハーグ条約の批准の問題など、日本で生活する外国人及び外国で生活する日本人家族のために、国際的な基準を受け入れて国内法・制度の整備を行っていく必要性も検討・協議を進めていく必要があると思います。
2番目が、在日外国人向け法律相談、法律扶助等の充実とそれを担う弁護士の養成、研鑽体制の確立です。リーガルサービスを提供する各機関においては、外国語によるリーガルサービスの提供の充実を今後図っていく必要があると思われます。
法律相談、法律扶助の拡充は、具体的なニーズに応えるものであると同時に、これを進めることによって相談・扶助を担当する弁護士の研鑽や研修の蓄積を進めていくことによって、弁護士会全体の経験・蓄積のプロセスとしていくことができます。このためにも、人権、生活関連法規の外国語データベースを構築することが必要になってくると思われます。
最後に、司法(法廷)通訳士 (仮称) 制度の導入と弁護士との協力体制の確立の検討が必要であると考えられます。司法通訳の充実は既に各方面からいろいろなところで提唱されておりますが、そうした通訳の養成、研修、各国語での用語確定作業等を進めるために、関連しております関係各省庁と弁護士会が協力して検討を開始することが有用であると考えます。
以上で終わらせていただきます。
○柏木座長 ありがとうございました。それでは、ただいまの日弁連からの説明につきまして、何か御意見、御質問がございましたら挙手の上発言をお願いします。
○乗越委員 後半の部分について質問を1つしたいのですが、国際人権について強調しておられるのですけれども、弁護士あるいは法曹の国際化という問題を議論する上において国際人権を特に取り上げられる理由は何かあるのでしょうか。もちろん国際人権が大事だとよくわかりますし、それについてはもちろん検討していくべきだと思うのですが、例えば国際人権条約の批准をすべきかどうかという話は、法曹の国際化という問題よりはむしろ日本の政策の問題であって、国際人権の中身の話と法曹の国際化の話がどういうふうに結び着くのかがよくわからなかったのですが、御説明いただけますでしょうか。
○大谷氏 まず、弁護士(法曹)の国際化という中で特に国際人権を取り上げていることについて先にお答えしたいと思います。意見書の中で、今日のペーパーですと1ページの「序」で、意見書の4ページを引いてございます。「多様な価値観を持つ人々が有意的に共生することのできる自由かつ公正な国際社会の形成に向けて我々がいかに積極的に寄与するか」ということがありまして、その後、私が先ほど引かせていただきました53ページがさらに敷衍されているわけですけれども、国際社会での価値観の共有、公正なルールに基づく国際社会の形成・発展の1つの機軸が人権の分野であるという観点から、その形成・発展に日本の弁護士がどのように寄与していけるのかということで、国際人権を1つの大きな柱として今日報告させていただいております。
次に、例えば国際人権条約の批准が、それでは弁護士(法曹)の国際化にどう関係があるのかという御質問につきましては、1つには、弁護士(法曹)の国際化と言いましても、司法制度の国際化と切っても切り離せないと申しますか、制度が箱で中身がそれを動かしていく弁護士(法曹)だとしますと、そこは切り離せない関係があるのではないかと考えております。個人通報制度の受入れも、いわば制度に関連することではありますけれども、日本の法曹が国内裁判の中で実際に国際人権法を活用して、そこでの知識経験を蓄積して、それをもって国際人権法システムの形成・発展に国際社会で主体的に寄与していく、そのための本格的な力をつけていくためには、国内において実際に裁判等をしている中で、さらに国際人権保障システムにつながっていく、国内裁判の結果によっては、それが条約機関が設置した委員会に持ち出され、そこで議論されることにつながっていく可能性があるということがあって、初めて本格的な国際人権法を学んで使っていくことの必要性が痛感されて血肉になっていくのではないかと考えております。
○下條委員 私は国際人権のことは余り詳しくないのでお尋ねしたいのですけれども、まず、ここで言っておられる個人通報制度がどういうものか教えていただきたいと思いますのと、個人通報制度の受入れとおっしゃる場合、これは条約を締結することを意味するのか、国内法を立法することを意味するのか、そのあたりがどういうことなのかということです。それと、なぜ個人通報制度の受入れが重要であるとお考えになるのか。その3点をもう少し説明していただきたいと思います。
○大谷氏 1点目ですけれども、個人通報制度と言われておりますのは、国際人権条約に基づく履行システムの1つでございまして、この制度に加入している締約国の管轄内にある個人で条約に基づく権利を侵害されたと考える個人は、国内的な救済手段、すなわち国内裁判での権利の主張を尽くして、それでも認められなかったときには条約が設置した条約機関にその事件を通報することができます。それを受けて条約機関ではその通報の中身を審査し、それに対して見解を出すことになります。この条約が設置した条約機関はいわゆる準司法的機関と言われておりまして、この審査の手続も厳格な意味での司法的な審査ではありませんが、それに近い制度と言われております。
ここで出されます見解は、したがって判決とは違うわけで、法的な意味での拘束力はなくて、仮に実際に条約違反の人権侵害が認定された場合であっても、その意味するところは、効力としてはあくまで勧告的な力を持つものにすぎない、すなわちその加盟締約国に対して是正を求める勧告にすぎないと考えられております。したがいまして、日本の司法制度との関係で言いますと、これは今の日本の三審制度の上に4つ目の裁判所が存在するかのような、そういう意味ではありません。あくまで日本の司法の独立、三審制度はそのままであって、ただそれに対して国際機関からのさらなるレビューがあって、場合によって人権条約違反ということになりますと、それを是正するようにという勧告がなされる制度でございます。
2番目の、具体的に受け入れるためにはどういう手続になるかという御質問ですけれども、これは条約によって異なります。自由権条約の場合、女性差別撤廃条約の場合、個人通報制度のために選択議定書という附属の条約がつくられております。これに加入すること、批准することによって受入れが可能になります。拷問等禁止条約及び人種差別撤廃条約の場合は、条約の中に個人通報制度に関する規定が設けられていて、これを受け入れない国はこれを留保すること、それから条約の中の1つの条文に対して受入宣言をするというやり方で、批准とは異なるやり方で受入れをすることになります。ですから、そのために必要な手続は国際的な手続であって、国内法整備が必要なわけではありません。
3番目に、どうしてこのことが必要と思われるかという御質問で、先ほどの乗越委員への私の説明でも不十分だったのかなと思いますので、少し観点が違うのですが、1つの例を挙げて御説明したいと思います。
それはイギリスの例で、イギリスは国連がつくっている国際人権条約にも個人通報制度にもすべて加入しておりますけれども、それ以外にもヨーロッパ人権条約を批准しております。ヨーロッパ人権条約にも同じような個人通報制度がありまして、締約国の国民はその条約違反を主張してヨーロッパ人権裁判所、これは完全な司法手続ですけれども、そこに事件を通報することができます。イギリスの場合、皆さんよくご存じかもしれませんが、条約を批准してもそのままでは国内法としての効力を持っておりません。国内法化する立法手続が必要ですけれども、そのためにイギリスではヨーロッパ人権条約を早くから批准していたにもかかわらず、ヨーロッパ人権条約そのものはイギリスの国内裁判所ではそのままの形では適用することができなかった時代がずっとありました。それが1998年にヒューマン・ライツ・アクトというヨーロッパ人権条約をそのまま国内法化したイギリスの法律ができまして、それ以後イギリスの国内裁判所の裁判官は、つまり中身は全くヨーロッパ人権条約ですけれども、それを適用解釈することができるようになりました。
その背景といいますのが、これは私がイギリスの人権法を研究しておられる憲法学者からお聞きした話ですけれども、イギリス国内の裁判所では、これは人権侵害ではない、違法ではないと判断されたことがヨーロッパ人権裁判所に持ち出されると、ヨーロッパ人権条約違反だといって返されてくることがあったわけです。それに対してイギリスの裁判官が、その条約の解釈が違う、自分たちはもっと条約の解釈をきちんとできる、それなのにヨーロッパ人権条約がイギリスで国内法化されていないためにそれをすぐにヨーロッパ人権裁判所に持っていかれてしまって、裁判官の言葉によれば、そこでいいかげんな解釈で条約違反だと言われるのは困る、そういう感想があったとお聞きしました。1998年にヒューマン・ライツ・アクトができたことによって、裁判官は条約について直接解釈適用ができるになりました。そこで、裁判官に対するヨーロッパ人権条約のトレーニングが行われて、裁判官の方もヨーロッパ人権裁判所の裁判官に負けないような正確な条約の解釈をするのだ、むしろイギリスの国内判例がヨーロッパ人権裁判所の判例に影響を与えていくのだという気概を持ってトレーニングを受けられたとお聞きしています。
話が長くなりましたけれども、大変わかりにくいと言われると思うのですが、個人通報制度を日本が受け入れることによって、日本の裁判官のみならず弁護士もここで議論していることがそのまま国連の条約機関での議論につながっていくという緊張感が出てきて、だからこそ正確な議論をしなければいけない、正確な知識をもって使いこなしていかなければいけない、場合によっては、日本国内での判例、条約についての解釈が国際社会にも影響を持つことになる、そういう本当の意味での活用が生まれるのだと思います。それがひいては日本から発信する国際人権法全体への発展に主体的に寄与していくことになるのではないかと考えております。長くなりまして申し訳ありません、以上です。
○柏木座長 質問が人権問題に集中したきらいがありますけれども、ビジネス法務関係についての日弁連の御報告について御質問はございますか。
○波江野委員 中身に関する点で、座長からビジネス法務に関してということだったのですが、今日の御報告を伺いまして、いずれの報告についても問題提起、「べきである」とか「こうしなければならない」ということはありますけれども、日弁連としてどのように取り組んでいらっしゃるか、どういう問題意識で自発的にやっているかが、私は聞き方が悪いのかもしれませんが、どうもよくわかりませんでした。
ビジネスの方で3ページの4(3)の最後に、「日弁連において専門家研修を導入する」とあります。これは日弁連が主体的になさるという意味かなと思ったのですが、それ以外には一般的な問題提起にとどまっているような感じで、法曹の国際化について日弁連として、先ほどの人権の問題でもよろしいのですが、どういうことを具体的に取り組んでいらっしゃるかについて、もし進んでいるのであれば御説明いただきたいと思います。
○矢吹氏 私から御説明いたします。専門家研修につきましては、知的財産の専門家研修を既にしておりますが、今後、国際取引分野での研修を考えていくことが1つであります。それ以外に、まず2のコミュニケーションの向上、法科大学院の授業での科目設定ですね。これは日弁連でも法科大学院のカリキュラムづくりないしはシラバス等の作成に当たって、こういう科目を対象としたテキスト等の作成を担当グループで行っているところです。これがそのままそれぞれの法科大学院で利用されれば1つの方法かと考えます。
雇用機会の拡充につきましては、日弁連の方では、1つは最近始まったものとして、外務省にお願いをして外務省と情報交換をして日弁連からよりよい弁護士を推薦する制度があります。一番最近では、フリー・トレード・アグリーメント(FTA)を担当される部局に弁護士を1名推薦させていただいております。既に5年間、JICAの現地専門家を日弁連から推薦しておりまして、既に6名程度の長期専門家を派遣しています。こういう情報を日弁連のホームページでも積極的に開示して弁護士全員に開示しているということがあります。
弁護士と外国法事務弁護士との共同事業はここで十分に議論していただいた後の話ですので、これから日弁連が何をすべきかを検討していくことになろうと思います。仲裁制度、裁判制度も他の検討会で日弁連が委員を派遣し、意見を述べておりますので、そこでの議論に回したいと思っています。以上です。
○柏木座長 ほかに御質問はございませんか。
○玉井委員 いただいた資料の4ページの(8)で、日本の法律事務所の組織力強化として、「弁護士事務所が海外に進出するためには弁護士事務所の規模が拡大することが必要であり、方法として弁護士の人数の拡大が考えられる」とあります。それ自体は全く異論はないのですけれども、弁護士の人数の拡大そのものについてはもちろん別の検討会でも議論されているところですし、率直に言って限界はあると思いますが、もう一つの方法として外国法事務弁護士の人数の拡大はお考えにならないのか、あるいはそれは日弁連としては考えないということなのか、何か方針がおありなのでしょうか。
○矢吹氏 外国法事務弁護士につきましては、日弁連は承認について意見を述べる立場でありまして、人数を制限するとかそういうことをやっているわけではありませんので、外弁の方が申請をして、その条件に従えば外弁登録されるという手続ですので、1つは人数を制限する権限もないし、その気もない。もう一つは、それを増やしていく努力を日弁連としてするかということにつきましては、今のところ具体的な案を考えているわけではありませんが、先ほど申し上げたように、これから弁護士と外弁の共同化を推進するということがありますので、日本の弁護士と外国法事務弁護士の共同事業が定着化するためにお互いに国内でパートナーシップを組んで日本の弁護士と外国の弁護士が共に仕事をするという環境整備をどういうふうにして整備したらいいかという点について検討することになろうかと思います。そのことによって、来られる外弁の方も増えればとは思います。
○玉井委員 例えば人数を増やしていく方策として、外国法事務弁護士の要件としての国内の経験年数が1年しかカウントされないようですが、それを3年まで認めるというようなことで人数を増やす、そういう方策が考えられますけれども、それについて何かポリシーはおありでしょうか。
○矢吹氏 その点についての改正の意思はございませんが、外弁の方も日本の弁護士もそうですが、専門的知識を持ってこの国で働いていただくことと働きやすい環境の整備とのバランスだと思いますので、どこが落ちつけどころかはまた議論を待つところですが、今のところは現在の状況を変える予定は日弁連としてないと理解はしています。
○玉井委員 変える予定はないということは、制度改正には中立白紙であるということですか。
○矢吹氏 今の制度がよいと思っています。
○玉井委員 現行制度が最善であると。
○矢吹氏 はい。
○下條委員 私どもの法律事務所としては、優秀な外国人弁護士であれば、それは外国法事務弁護士の資格のあるなしにかかわらず採用したいとは思っています。しかし現実問題として、日本はファーイーストですから優秀な人が来ないんですね。アプリケーションはたくさん来ますけれども、そういうアプリケーションで雇ったりするとひどい目に遭うという現実があります。ということで、優秀な人であれば採用したいと思っていても、現実問題としては優秀な人はなかなかアプライしてこないというギャップがあります。
○柏木座長 玉井委員がお話ししたように、基準を緩和すれば優秀な人が来るということはないのですか。
○下條委員 そういうことではないですね。
○道垣内委員 人権のペーパーの後半部分で、まだ質問がないところですが、3ページの下から5行目に「何らかの公的なサポート体制が望ましい」とお書きになっていて、この意味ですけれども、税金を投入しろということなのか、日弁連として何かバックアップをお考えなのか。(1)から(3)までは人とお金を相当要することで、自然に行っていけば活性化するというか、ビジネスの方はニーズがあれば動くと思いますが、こちらはニーズがあってもお金等の関係でなかなか動かないのではないかと思います。何か具体的にお考えのことがあればお話しいただきたいのですが。
○大谷氏 まさに今おっしゃられたように、自然にそういうことができていくということはありませんので、その意味で「公的なサポート」という抽象的な書き方をさせていただいたのですが、それを日弁連がやるのか、あるいは税金を使った形でのやり方になっていくのか、そこまでの具体的な考えを持ってここで書いているわけではございません。日弁連としてもできることはやっていくための検討が必要になってくると思いますが、ただし、それも限界があるのではないか。そうしたことについて役割分担がどこまでどういうふうに税金を使って、それと日弁連の自助努力でということになっていくのか、そういうことも含めての検討が必要ではないかと考えております。
○矢吹氏 1つお話ししますと、通訳の問題につきましては、私たちの理解が間違いなければ、過去に法務省の方も通訳の質を保つ制度を何らか検討しなければいけないという報道もされたように記憶しています。ですから、これも関係する官庁と通訳の質をどうするかということは検討して具体化していきたいと思います。
○柏木座長 ほかにございますか。
○齊藤参事官 日弁連では研修制度の充実を目指して総合研修センターですか、そういうものを構想して準備を進めておられるやに聞いていますが、そのあたりのことをもう少し詳しく御紹介いただけませんでしょうか。
○矢吹氏 研修センターの中身の検討状況については私はよく認知していないものですから、もし必要であれば今日は軍司副会長が見えていますので、発言をお許し願えればと思います。よろしいでしょうか。
○柏木座長 御説明いただけることがあればお願いします。
○軍司氏 本林会長が研修制度を重視して力を入れていまして、この国際化と直結するかは別として、組織的にも予算的にも今度の日弁連の総会で変更する内容の承認をもらいました。既に新聞にも出ていますが、知財、税務、行政訴訟等の面で日弁連は専門家養成が足りなかったのではないか、要するに強い弁護士をつくらなければいけないという発想です。ですから、国際的なことにももちろんつながっていくと思います。今まで随時必要に応じて研修、研修と、組織の問題ですが、ばらばらにつくってばらばらのお金と人を活用して使っていたのですが、これをもっと効率よく組織を一本にして研修センターをつくりまして、予算面も、日弁連は財力はないのですけれども、それなりの予算措置をしたということです。
○柏木座長 ほかに御質問はございませんか。
それでは、日弁連からの御説明に関する質問も一応尽きたようなので、これでヒアリングを終了したいと思います。日弁連におかれましてはますます国際化の強化につきましてぜひお力を出していただきたいと思います。ありがとうございました。
これからの残り時間は、弁護士の国際化への対応を強化していく上での課題や方策などについて自由に御議論いただければと思います。これに関連して、その他の課題につきましても適宜御発言いただければと思います。
まず、この課題に関する現状認識について確認したいと思いますが、議論の前に事務局より若干の説明をお願いいたします。
○齊藤参事官 本日、資料15−1としまして、司法制度改革審議会意見書と司法制度改革推進計画の関連部分の抜粋を配布させていただいております。そちらもごらんいただければと思いますか、司法制度改革審議会意見書におきましては、弁護士の国際化への対応強化につきまして、「今後、国際的な法律問題が量的に増大し、かつ、内容的にも複雑・多様化することは容易に予想され」「このため、弁護士が、国際化時代の法的需要を十分に満たすことのできる質の高い法律サービスを提供できるようにすべきである」という指摘がなされております。
具体的には、主として、弁護士事務所の執務態勢と弁護士の専門性の2つにつきまして問題が指摘されております。このあたりを踏まえて御議論いただければと思います。
○柏木座長 ただいま事務局から弁護士の国際化に関する現状認識について御説明がありましたが、この点につきまして何か御意見はございますでしょうか。
○下條委員 前から申し上げておりますように、弁護士の国際化ということで弁護士ばかりがやり玉に挙がっているわけですけれども、やはり大きなところから、司法改革審議会の意見書にありますように、まず国際化への対応ということから、どうしても日本の法制度その他が国際標準になっていないといけないのではないかということが制度の問題として取り上げられなければいけないのではないかと思います。
先ほど日弁連のプレゼンテーションにもありましたが、国際仲裁は今まで日本に全然来ない、年間10件ぐらいしかないということで、そのために今回新たな仲裁法の案ができまして、ようやくUNCITRALの仲裁モデル法に従った仲裁法の案が国会に上程された状況です。今まで日本の仲裁はどういうものであったかというと、明治何年か100年ぐらい前につくられた法律でもって、仲裁人は各当事者が1名ずつ選ぶということで2名の仲裁人を原則としているような、国際標準から非常に離れた仲裁制度であったわけですね。ですから、まさにそういう制度そのものを変えていかないと、弁護士の国際化ばかり幾ら言ってもなかなかできないものがあると思います。そういう意味で仲裁制度と並んで裁判制度も国際標準に近いものにしていく必要があるのではないかと考えます。
隣におられる道垣内先生が中心になっておられる例の国際裁判管轄に関する条約はハーグの国際私法会議で議論しているのですが、そういうものを議論していっても、今まで日本の民事訴訟法は非常に国際標準から離れたというか、余り近代化されてこなかった面が浮き彫りになっているかと思いますけれども、そういう意味で裁判制度自体を国際標準に近づけていく。それがなされて初めて弁護士の国際化も徐々にできていくのではないかと思います。
前にも言いましたように、訴状受領代理人等の制度がきちんとできていない。例えば外国法事務弁護士が増えるわけですが、外国法事務弁護士も例えば法務省を訴状受領代理人にしておけば、国へ帰ってもいろいろな損害賠償請求を追及できるとかそういうこともあるわけです。また、送達制度などもどうしても時間がかかり過ぎる、アメリカからレジスタードメールで来たら、送達条約でもって争うよりは受けてしまった方が早いとか、そういう面もございます。ですから、そういう裁判制度の面でもまず国際標準に近づけていく、そちらの方から始めないと、弁護士の国際化といっても実現できていかないのではないかと考えます。
○柏木座長 制度というのは、1つだけ改善しようと思ってもなかなかうまくいかないわけで、いろいろな制度が関連し合いながら進化していくものだろうという気がするのですが、そういう点につきましては、まさに下條委員のおっしゃるとおりではないかという気がしますが、ほかに御意見ございませんでしょうか。
道垣内委員、いかがですか。
○道垣内委員 制度全体はおっしゃるとおり、もっと風通しをよくしていけばいいのではないかと思います。ハーグの条約はうまくいくかどうかはまだわかりませんけれども、日本が判決の承認執行をお互いにしましょうという条約に入るとすれば、向こうの制度も相当研究しなければいけませんし、こちらも相当説明しないとわかってもらえないというか、例えばハーグのプロジェクトが失敗した場合に、ヨーロッパでできている条約に日本が入るとなりますと、こちらの制度を相当説明しないと受け入れてはもらえないわけで、そういうことを強制的にやってみると、外からの圧力でわかりやすくなるのではないかというふうには思います。それが制度全体のことですね。
法曹の国際化について直接のところで申し上げれば、今制度改革をやっている最中で、これからロースクールを出た人たちが法曹界に入ってくるわけで、10年ぐらいたてば新しい人たちになるわけですから、今がチャンスではないかと思います。ロースクールの教育のやり方について意見を言う余地はまだまだあると思いますので。
前にも私申しましたけれども、国際化という場合、先ほどの説明にもあるようにいろいろな意味合いがありますが、複数の視点を持って物事を見られるような法律家をもっとつくっていく必要があると思います。新しい切り口といいますか、今の日本の問題について今までにない発想を持ち込む余地があるにもかかわらず、同じ問題に対する諸外国での対処方法を知らないと、複眼的な視点がないと発想が浮かばないわけですから、そういう複数の視点を持てる人たちが一定数以上存在するようにすべきだと思います。みんなそうなる必要は必ずしもないと思いますが、アメリカ法に詳しい人がいたり、ドイツ法に詳しい人がいる、あるいはタイの法律に詳しい人もいればいいのですが、いろいろなタイプの法律家をつくっていけるようなことにもっていければいいのではないかと思います。
○久保利委員 道垣内先生もおっしゃいましたが、現状は非国際的であることはそのとおりだと思うので、これを打ち破っていくビークルとしては法科大学院だろうと思います。若干御紹介したいのですが、第二東京弁護士会が佐藤栄学園というところと提携してつくろうとしている大宮法科大学院があります。ここは3年制しかやらないのですが、法学部出身者を拒否するわけではない。日本の制度では法学既習者と認定しない人であっても、法学部を出ているとアメリカンロースクールでは一定の資格を持つ者としてLLMに入れてくれるわけですね。LLMに行きますと、最も有効にやると9カ月ぐらいで実は資格がとれる。おまけに、そこへ行っているとアメリカのBARも受けられる。そして優秀であれば受かるということで、3年間で日本の法曹資格、すなわち司法試験受験資格とアメリカのBARと両方をとれるようにする。その場合にはアメリカの大学と、もちろん行かなければいけませんから、単位交換を認めてもらって、日米の法科大学に行くことによって、3年間でうまくやれば両方をクリアできるかもしれないという制度にする。今、テンプル大学と提携契約を結べました。あとはサンタクララとか知財のところもやっているのですが、そういう新しい発想でやれば、英語の力もつく、そしてアメリカ法も理解ができる。そして日本法についてもロースクールで、法学部を出ていようと出ていまいと、とにかくトータルで3年間の教育を受けるという形で、インターナショナルな弁護士がつくれる制度、システムができるのではないか。
先ほど大谷先生に日弁連の説明員としてるる御説明いただきましたが、要するにアメリカにおける人権法は非常に進んで、大変すばらしい学校がたくさんあるわけですね。そういうところへ行って学び、かつ日本でも学び、そのことは国際公務員といいますか、国連を含めたところへ出ていく。ある意味でいうと「国際」というのは先ほどの語学力とかコミュニケーション能力、ディベート能力といろいろなことがあるように、日本でだけ一生懸命勉強していてもなかなか難しい。それをいつどこでやるかということになると、弁護士になってからアメリカへ留学して、そこで一生懸命勉強しても年齢的に語学の能力を磨くにはやや遅い年になりかねないということからすると、このロースクール構想をうまく使い、有効に活用していけば、日本の国際化あるいは日本の法曹も、あるいは法律制度も含めた国際化に非常に大きな役割を果たせるのではないかと考えていまして、当検討会もそういう意味で言うと国際化の切り口からロースクールをどうつくっていくべきかということについては発言権があるだろうと思いますので、そのあたりも十分議論をして、せっかく日弁連から国際的なものをつくっていく上では法科大学院の役割が非常に重要であるという御指摘もいただいたものですから、ぜひその辺も検討委員の御議論をいただければと思います。若干御紹介をかねてお話ししました。
○乗越委員 方法論についてお願いがあるのですが、国際化というのはふわっとした課題ですので、私としては、あれも言いたいこれも言いたいというのが断片的にあるのですが、どういうふうに整理していいのかわからない状況です。日弁連の方で出していただいたビジネス法務関係のペーパーの流れは非常に上手に分析をしておられるのではないかという気がいたしまして、特に2ページの3の弁護士の国際化に必要とされる共通項目は、最後にも先ほど下條委員のおっしゃたような点も入っておりますし、これがこの検討会のコンセンサスとして、確かにこれは目標だねということで大体のコンセンサスが得られるのであれば、それについてどういう問題点があって、どういう方法が考えられるかというふうにするとか、議論の方法について整理していただけると……。
○柏木座長 その前に、先ほどからもいろいろ言及されておりますが、ほかの検討会やほかの省庁でも国際化に関連する問題が検討されているわけで、そういう状況について事務局から御説明をお願いします。今までやっていたこと、国際化の対応についての現在の取組状況ですね。
○齊藤参事官 各検討会という意味でしょうか。
○柏木座長 そういう意味ではなくて、一般的な弁護士事務所の執務態勢の強化や専門性の向上についてどういうことがなされているかとか。
○齊藤参事官 まだ整理ができておりませんので、要領を得ない説明をしてもいかがかと思いますので。
○柏木座長 今までいろいろな議論が出て、ほかのところでも出ているわけですが、それでは最初に、久保利委員が提起されたことが面白い問題なので、これを議論するということでよろしいですか。
法科大学院の問題で、これは座長の立場を離れますけれども、1つ問題があって、私も久保利委員のおっしゃることに感銘を受けたのですが、この間もある法科大学院の説明を受けましたら、この法科大学院は地方の法科大学院で、自分たちはこの地方に役に立つ弁護士を育てる法科大学院をつくるということで、国際性に対する配慮が全くないんですね。これはこれで見識があるのではないか。まさにそこに住んでいる人たちが日常抱えている問題を解決するための法曹を養成する、要するに地方の問題を解決する法曹を養成するという目的を掲げている。いろいろな法科大学院があっていいのではないかという気がするので、すべての法科大学院が、久保利委員がおっしゃったようにアメリカの大学と提携してというようことにはならないのだろうという気がするんですね。
ただ、国際化を看板に掲げている法科大学院は結構ありまして、その法科大学院にとっては、久保利委員がおっしゃったようなアイデアは非常に参考になるのではないかと思いました。といいますのは、今の国際化というのは実は「アメリカ化」なんですね。新しい法律の流れがほとんどすべてアメリカ発ですし、新しいビジネスのやり方もすべてアメリカ発ですし、新しい法律問題が起こると、まずアメリカを見てみると判例あるいは法律雑誌の議論が出ているということがありまして、それを皆さん察知しているものだから、若い弁護士や企業にいる法務部員の人たちがこぞってアメリカのLLMに入学する。そして日本の大学院には来てくれないという現状があるわけです。
国際化イコールと言うと言い過ぎですけれども、アメリカ化という現象が今起きている。そういうところで提携をしながら若いうちにアメリカで訓練を受けさせるのは、語学の面もこれあり、非常に有効なことではないかというぐあいに感じました。
すべての法科大学院に当てはまるわけではないという前提で、今の点、ほかに御意見はございますでしょうか。
○久保利委員 1点補足させてください。地方のロースクールで国際性にウエートを置かないで、というお話がありましたが、これは大谷先生にも補足していただきたいのですけれど、地方の問題として言うと、例えばタガログ語のできるフィリピンから来ている人たちは実は地方に相当たくさんいらっしゃるわけで、そういう意味で言うと国際化というのは単に欧米化と見ると地方は関係がないように思えるかもしれないけれども、ブラジルから来た人たちが一生懸命働いている部分は結構地方にもあるわけですね。
そういう意味で、地方イコール非国際というふうに分けてしまうことは、ビジネスの部分ではあるのかもしれませんが、国際人権の部分から言うと必ずしもそうではないのではないか。しかも地域に根ざして深く掘り下げていけばいくほど、実はそこで問題になっている日本人だけの国内人権問題が実は国際条約も含めた国際性を持っている問題であるということは幾らもあるのではないか。その意味で、地域に根ざしたということは大賛成ですけれども、だから国際性とは無縁でいいのだというふうには承認しがたい部分があると思うんですけれども。
○柏木座長 おっしゃるとおりで、私の説明が足りませんでした。私の出した例は、確かにその地域には外国人が余りいらっしゃらなくて、出稼ぎの方もいらっしゃらない地域でありまして、別の地域で法科大学院をつくろうとしている方は、やはり同じような考えに根ざして英語ではない語学を重視しようしておりました。補足いたします。
○久保利委員 大変よくわかります。
○柏木座長 ほかに、法曹養成というよりも法科大学院について何か御議論はございますでしょうか。
○玉井委員 久保利委員がおっしゃったように、具体的にそういう試みがあるのはとても立派なことだと思います。この場で立派なことだと言うのは非常に簡単なことですけれども、本当にそういうことをおやりになるのは大変なことだと思いますので敬服しております。この国際化検討会でやるべきことは、もちろん法科大学院は多様であっていいので、うちは国際化は一切関係ないというところがあってもいいと思いますけれども、ただし放っておくと、外国に学生を出す、そして海外の大学と国際交流の協定をするのは大変手間隙の要ることですし、しかもそういうことをやってみても、必ずしも司法試験の合格率が上がるわけではありませんから、ある意味でそういう方向にエンカレッジするような、あるいはもしディスカレッジしているようなものがあるとすれば、そういうものを除いていく制度的な工夫が必要ではないかと思いますので、もし実際におやりになる上でこういうところで御苦労があったとか、こういうことがあるのでうまくいかない、あるいはエンカレッジするこういう方策があるとよろしいということがもしおありであれば、久保利委員から率直に言っていただければと思います。
○久保利委員 司法試験の問題が出ましたが、法科大学院をつくろうとしている多くの大学関係者にお話を聞くと、四の五の言っても司法試験に受からなければ始まらないというスタンスから、どんどん法科大学院が司法試験のための予備校……結局今まで失敗して法学部が果たし得なかった機能を、今度は本当の意味で専門職大学院としてのプロフェッショナルスクールが担うといっているのに、また試験のためのというふうになっている。非常にディスカレッジしている部分がある。
そういうことではないということになるためには、司法試験に手を入れることも必要なのだろう。そうなると、選択科目をどういうふうに考えるか。例えば選択のウエートをうんと上げて、その中で知財であるとか国際取引、国際人権等の点数をうんと増やすことによって、そこでアメリカまで行って勉強してきた人の能力は明らかに優位を占めると思いますので、そういう形での司法試験をつくり上げるのは、先ほど申し上げたようなタイプの国際性を視野に入れたロースクールをつくっていく上ではエンカレッジする方法ではないかという気がいたします。
○柏木座長 司法試験につきましてはまた座長の立場を離れてしまいますけれども、コンフリクトがありまして、別の委員会で司法試験の中身を検討することになっておりまして、そちらの方でも検討しなければいけないことになっています。そこでもいろいろな意見がありまして、先ほどのような多様な人材をつくらなければいけないという要請もこれあり、今真剣に検討している段階でございます。
○久保利委員 国際性を学ぶことが、もちろん長い目で見れば非常に有利であることはそのとおりなのですけれども、さはさりながら、受からないようなことを言われますと、それは大変なネックになってしまう。ですから、そこは法務省も最高裁も日弁連も文科省も、そして国民みんなが考えないと、せっかくそういう意図を持ってもそれが育たないということになりかねない。その意味で、国際化検討会としてはそういう形で……司法試験だけとは言いませんけれども、玉井委員がおっしゃったような形で、国際性をエンカレッジするような法曹養成制度は一体どうあるべきなのかということを、ロースクールとの絡みでもぜひ発言していくべきだろうと思います。
○柏木座長 ほかに御意見ございますでしょうか。
ほかにもたくさんの論点があります。例えば、弁護士事務所の執務態勢の強化なども司法制度改革審議会意見書にメンションされておりますけれども、この点についてはいかがでございましょうか。
弁護士の専門性の向上は日弁連から御報告がありましたけれども、研修体制を強化する、そこで知財を初めとするいろいろな研修を強化して専門性を強化していくというお話がありましたが、そのほかに御意見のある方いらっしゃいますでしょうか。
波江野委員、いかがですか。
○波江野委員 今日の資料で、参考資料にいただいた日弁連のデータで拝見しますと、日本の場合は弁護士そのものが少ないし、体制としても事務所の規模も余り大きくないというところで、個人事務所は大分減っているというデータも拝見しておりますけれども、専門性といった場合にどういう観点で何を求めるかは少し難しいことなのかなと思います。知的財産などについては裁判所もかなり専門化して特別なものをつくる仕組みになっていますので、知的財産についてはそういう動きがあるとして、例えば先ほど座長がアメリカとおっしゃったので、アメリカのローファームへ行って相談しますと、いただいた参考資料のトヨタ自動車の牧野さんが書いていらしたように、1件の相談で行くといろいろな分野の専門家が出てきて、その人たちがチームをつくってやってくれる。日本の場合にも大きな渉外事務所あたりになるとそういう系統も少しずつ出てきてはいますが、今までの流れでは大先生とその弟子と2人ぐらいしか出てこないということがよくありまして、話をしているうちに、この先生たちはこの分野についてはどういうお考えであるか心配になったりすることがあったこともあります。
そういう点では、私自身は会社をやめて中小企業へ移ってしまいましたが、前の会社にいたときも労働問題や税務、知的財産、あとは独禁法などは個別に専門家を使う形でやっていたわけで、国際的に対応していくためには、どこまで明確にそこだけということをやるのがいいのかは別として、弁護士になるときにこういうことをやりたいという志を持って専門的に進んでいただく必要もあるでしょうし、それを育成する仕組みというか、風土を国民的コンセンサスと言ってはオーバーですけれども、そういう中でつくっていく必要があるのではないかという感じはいたします。
やはり何でもできますというよりは、ここの部分がきちんとできるという格好で、それが組織的に連携をとって活動していただけるような態勢は必要だろう。そうしていかないと、海外との対応の場合に太刀打ちできないのではないかという感じはいたします。
○柏木座長 アメリカでも、弁護士事務所の小さいうちは何でもこなしてきたわけですが、弁護士事務所のサイズがだんだん大きくなるに従って専門分化がなされ、しかも専門分化がなされてくると、ワンストップサービスということで1つの事務所の中にいろいろな専門家ができてくるのと同時に、今度はブティックファームといって専門的な小さな弁護士事務所も出てくるという経過をたどっています。日本でもそういう経過をたどるのかなという気がするのですが、実際に弁護士事務所の中では専門教育がなされている、あるいは専門家を育てようという努力がなされているように思いますけれども、下條委員いかがですか。
○下條委員 私どもの事務所でも専門化はどんどん進んでおりまして、昔は例えば国際金融という大雑把なくくりだったのですが、最近はどんどん専門化の間口が狭くなりました。例えば証券化といっても、不動産の証券化はこのチーム、売掛債権の証券化は別のチームというように、専門化はどんどん進んでおります。そういう意味で私どもの事務所ではこういう専門化や執務態勢の強化はやっておりますので、特に国家権力でもって云々ということは少し筋が違うのではないかと考えております。
国家権力云々と言うのであれば、むしろインフラを整えてもらいたいということで、例えば前から出ておりましたような、日本法のいろいろな法律を英文化するとかそういう面で、国の方の施策としてはやっていただきたい。個々のプライベートな法律事務所がやることはプライベートな法律事務所でどんどんやっておりまして、そこまで国が口を挟むのはどうかと考えます。
○柏木座長 先ほど御説明しましたアメリカの現象を見ていましても、むしろ自然発生的に、事務所が大きくなればなるほど専門化が進んでいくような現象が起きていますので、日本も多分同じようなことになるのではないかという気がしております。
その次の論点は「弁護士の国際交流の推進」が挙がっておりますが、これについてはいかがでございましょうか。
○孝橋委員 前の論点で申し上げてよろしいですか。先ほどの専門化の関係で一言発言させていただきます。私ども裁判所に長く勤務していたわけで、先ほど下條先生からも裁判制度についていろいろ御批判がございましたけれども、大きな問題点は専門化がまだ十分進んでいないところにあるのではないかと思っております。例えば、国際的な中身を含む案件が少数ですけれども各裁判部に係属しているわけですね。しかし大多数の事件は国内案件でありまして、例えば租税事件を扱っている部ですと、まれに外国の法人を使って租税回避を図っているような事件が少数混じっていると、どうしてもそういう事件がとっつきにくいということで時間がかかる傾向が一般的にあると思います。ですから、基本的には専門化を今後も進めていくことによって社会の要請に応える体制をつくっていくことになるのではないかと思っているのですが、他方、裁判所の場合は転勤という制度がありまして、各地方でいろいろな事件を担当するということもございます。ですから、専門家の養成と、他方で一通りオールラウンドにできるという最低限必要な部分と両方を兼ね備えることが今後も必要になってくるのではないか。弁護士につきましても、専門家として進むにしても、最低限このぐらいの知識は必要という部分は残るのではないかという感じがいたしまして、そのあたりが日本の司法試験の制度の関係でも問題点として考えなければいけない点ではないかということを一言だけ申し上げたいと思います。
○柏木座長 おっしゃるとおりだと思います。法曹としてのミニマム・スタンダードのようなものがあって、その上に専門性ということが問われるのだろうと思います。そうすると裁判官につきましても、弁護士と同じように専門性の向上のためにはサイズが大きくなければそもそもいけないということのようですね。
○久保利委員 その点について同感なのですけれど、ただ自分の身に引き比べて考えると、もし弁護士が3年ごとに各地を歩く。今は例えば東京で大ローファームにいる、3年後には地方の小都市で支部か何かに行かなければいけないかもしれない。また次はどこへ行くかわからないというときに、専門化するインセンティブは一体どういうふうにしてわいてくるだろうか。この大事務所の中で自分はこのディビジョンをしっかり守ってやっていけば、足りない部分については他の専門家が助けてくれて、5人なり10人なりでチームを組んで一定の仕事ができていくという担保があって、その分野に特化するというインセンティブは出てくる。ですから、裁判官は大変だろうという気がするんですね。その中でも知財部等々について言うと、かなり長期間そこにいらっしゃることによって理科系の知識もついてきて、非常に優れた、アメリカと比べも遜色のない知財裁判官が日本でもたくさんできてきていると思います。そういう点から言うと、では税務についてはどう、○○についてどうとなると、専門性と3年ごとの転勤は必ずしも両立し得なくなる時代がくるのではないか。
そのことも踏まえて、国際という切り口で国際部を果たしてつくるのか。そうすると、単に英語ができるからといってそれを専門的に国際部、英語部、ドイツ語部のような感じが果たしていいのかというと、これもやはり問題だろう。そういう点で、実は弁護士の国際化よりは裁判所の国際化の方、特に裁判官の国際化は大変な問題なのではないかということがあるので、同情しながら、しかし頑張ってくださいというエールを送りたいと思います。
○柏木座長 確かにおっしゃるとおりですね。知財とか破産とか、特に国際倒産などは割と専門部をつくりやすいのでしょうけれども、その他諸々国際一般というのはつくりづらい問題があるのではないかと思います。
次の議題に移ってよろしいでしょうか。国際交流の推進につきましては、むしろ下條委員が詳しいのではないかと思いますけれども、国際法曹協会(IBA)とか今でも盛んに活動されていると思います。これについてご意見はございますでしょうか。
○下條委員 実は私も、IBAのバーリーダーズ会議が先週金曜日にありまして、日曜日にブラッセルから帰ってきたばかりなのですが、そういう意味で日弁連もIBAのメンバーになっておりまして、国際交流という面でいろいろ進めております。
それとローエイシアという組織がありますが、これも今まで日弁連は会員でなかったのですけれども、昨年から正式に日弁連が会員になりまして、こちらの方も今年9月にローエイシア東京大会を行うことになりまして、そちらの方でも日弁連がかなり関与して進めているところです。
国際交流はそういう意味で日弁連としてもどんどん進めて、特に海外に出ていかないと、日本は島国ですのでどうしても考え方が「井の中の蛙」的になってしまう面がありますので、そういう機会がある都度、IBAなりいろいろなところの大会に出かけていって、海外からの情報収集、特に海外の法曹では今一体どういうことが問題になっているのか、どういう潮流にあるか、そういうことをリアルタイムで情報を収集する必要があるかと思います。そういう面で私どもも及ばずながらいろいろやっているわけですけれども、現実に海外へ出ていって自分の肌で海外の動きを感じてくることが非常に大事だと思っております。
○柏木座長 これは制度として日弁連からの補助とか、あるいはサポートシステムはあるのですか。
○下條委員 我々が海外に行く場合にはケース・バイ・ケースで違いますけれども、原則的に言うと、ほぼ半分ぐらいが日弁連から補助され、残りの半分は自分の負担になる。大体そういう感じでやっている場合が多いです。
○柏木座長 今の体制で国際交流について不足している面は感じられますか。
○下條委員 日弁連の中でも国際交流をやっている人間はどうしても一部に限られてしまい、その枠をだんだん広げていくことが必要なのだろうと思っています。そういう意味で先ほど説明していただいた矢吹室長が中心になってやっておられますけれども、法整備支援について協力する用意があるという弁護士の名簿もできて、100人近くが登録されているということもありますので、これからそういう面での活躍も徐々に期待できるのかなと思っております。
○柏木座長 今の国際交流の点につきまして、道垣内委員からお願いします。
○道垣内委員 私の個人的体験ですが、アメリカのシンポジウムなどへ行きますと弁護士がたくさんいらしていて、登録のようなことをしています。どうやら弁護士会で年間に勉強のための活動を単位数に換算して、一定単位数以上の取得を義務づけているようで、その種のシンポジウムに参加すると何単位か取得できるので、その登録をしているようでした。日本でもそういう制度があれば、もっと日本で国際的なシンポジウムを開こうということになるのではないかと思います。最近は日本の学会でも外国からのお客様というか、プロフェッサーだったり弁護士だったりするわけですが、来ていただいて報告・質疑応答という研究活動をするのですけれど、日本の弁護士は余り参加されていません。それは全くインセンティブがないからではないでしょうか。もしアメリカのような制度があれば、弁護士の方々も参加されるようになり、しかもできたら学会に参加費という形でお金を少しぐらいは出していただいて、もっと外国から異なる視点を持った法律家をたくさん日本に呼べるようになれば、日本から一人一人外国に出ていくよりはよほど効率的だと思います。日本の法律家が外国の法律家と話をする機会も多くなりますし、向こうの方にも日本のことを理解していただくといういい点もあるので、そういうふうに動くような仕組みを日弁連でも考えていただければいいのかなと思います。先ほどの専門化という点でも、学会に出席することが何ポイントつくということであれば、学会のほうも活性化するでしょうし、お互いにいいのではないかなと思います。
○下條委員 その点について追加で補足しますと、アメリカの各州は州によって違いますけれども、私の場合はカリフォルニアで、ミニマム・コンティニュイング・リーガル・エデュケーション(MCLE)という制度があります。ですから、弁護士になった後も毎年12単位だったと思いますが、それだけのクレジットアワーをとらないとMCLEの要件を満たさないということがあるわけです。そういうふうにMCLEの要件を満たすセミナーに出席すると、そのうちの3クレジットアワーがもらえるというような制度ができているわけです。
日本でもそういう研修制度がだんだんできつつあると聞いておりますが、詳しいことは存じあげておりませんので、日弁連の方に現在の研修制度の動向等をお聞きになっていただければと思います。
○柏木座長 これはどなたがよろしいでしょうか、日弁連から御説明いただけますか。
○軍司氏 的確には答えられませんが、日本でも国際的なシンポジウムをというお話でしたけれども、私が弁護士になったころに比べれば、日弁連主催のシンポジウムや会議が相当行われるようになってきていると思います。今、既に私の頭の中に、今月にも2つ、もっとあるかもしれませんが、裁判員についての国際シンポジウムを行います。もう一つは、今朝報告されていましたが、労働裁判の関係で海外から職業裁判官をお招きします。そういうことが目白押しというほどではありませんが相当行われて、海外から来ていただく学者にはもちろんそれなりに日弁連の財政的なものを出しております。
○矢吹氏 専門家のクレジット制度については、日弁連でも従来検討してきたというふうに理解していますが、それと同時に専門家の認定制度もありまして、専門家として例えば医者であれば耳鼻咽喉科の専門性のクレジットの証明書があって医院内の壁にかかっているような、そういうものを一案ではないかということを検討はしています。ただ、専門家認定の方法などの問題もあり、なかなかそれを導入するところには至っていないわけです。
○久保利委員 第二東京弁護士会としては、これは単位会ですけれども、今の12単位は研修義務化に踏み切っておりまして、これはもう義務であります。したがって、その中には国際会議等々で研修委員会が相当であると認定したものであれば、申請することによってその単位が12単位のうちにカウントされる制度になっておりますので、基本的には弁護士会主催が中心ですけれども、中には弁護士会の中の会派が主催して、そこで立派な先生をお呼びした場合には認定される。ですから当然、国際的な学会等については出席をすれば認定されることになりますので、これは日本では第二東京弁護士会だけなのですけれども、恐らく他の会もそういう方向になっていくだろう。あわせて日弁連がそういう形で一致団結できれば、道垣内先生がおっしゃったようなことは現実性を持ってくると思います。
○柏木座長 問題は2つあって、1つはコンティニュイング・リーガル・エデュケーションのクレジット制度をつくって、一たん弁護士になった人に強制的にさらにそういう研修を受けさせる、その中に国際的な研修も取り込むという問題と、もう一つは日本でコンティニュイング・リーガル・エデュケーションの対象となるようなシンポジウムをもっと盛んにするということがあったと思います。後半の方につきましては、日弁連の説明からも既に大分取り組んでいる。ただ、もう少し進めていただきたいと思うのは、これはかなり難しいことなのですけれども、外国から講師を呼んで一方的に講演を行うというのでも、確かに交流はできるのですが、できれば外国から参加者が来るような、今度のローエイシアはまさにそうですけれども、外国からの演者ばかりではなく、まさにオーディエンスの方も外国から来るようなシンポジウムがこれから増えればもっと交流が盛んになるのではないかという気がします。
ただ、日本も大分国際化してきましたから、先ほどのローエイシアの大会も何回か日本でやっていましたね。これもこれから……。
○久保利委員 ローエイシアは初めてでしょう、パンパシフィックはやったんですね。
○波江野委員 ローエイシアは20年以上前に世界大会の前身のようなものを一回やったことがあるようですね。最高裁判所長官会議と同時で行う世界大会を東京でやるのは今回初めてだと私は聞いています。ビジネスロー・コンファレンスというローエイシアの中の1つの部門が中心になって行ったものは経団連会館で、あれは確かに4〜5年前に開催しています。
○柏木座長 いつもそのときに問題になるのは語学ですけれども、語学も英語でやる限り同時通訳も大分アベイラビリティが増えてきましたし、英語自身を理解する人が増えてきましたし、これも自然と増加するのかなという気はいたします。
ほかに論点はございますでしょうか。
○下川委員 国際交流と若干関連して、別の視点からかと思いますが、コメントと質問です。国際機関への弁護士の派遣ということで前回も外務省の国際機関人事センターの取組みも御紹介する機会があったかと思いますが、今日の提言であった、例えばセミナーを国際機関からスピーカーを呼んできて行うとか、いろいろな情報提供を行う。これなどもロースター制度で派遣されることを希望している人間のリストをつくったり、メールで情報提供をしたり、そういうことをしているわけですけれども、そういう一般的な取組みはやってきていますし、いろいろ議論していく中でさらにきめ細かくプラスアルファはどういうことができるかと検討する余地があるのではないかという感じがしております。
したがって、国際交流の1つとしての国際機関への送り込みについても、具体的に何ができるか検討していきたいと思うのですが、そこで1つ問題になるのは、ここからはむしろ質問になるのですけれども、一般的にそういう取組みはできるのですが、どういう分野、ないしはどういう機関、どういう方面を焦点にするか。その絞り込みというかフォーカスを当てていく作業がある程度必要になってくるのではないかということと、それとの関係で、そもそもどういう分野であれば出していく側で、こういう機関なら行きたい、こういう機関ならいいというインセンティブがあるのか。そこをある程度具体的に考えていかないと、一般的に国際機関はどこでもいいから行きたい、何でもいいから国際的な体験を積みたいということで言うと、とる方も出す方もなかなか真剣にならなくて、実際は実現しないということもあろうかと思います。
一般的に国際機関への人の送り込みを外務省なり政府としてやる場合も、これが本当に実現するのは、本当に人を絞り込んで強い意図を持ってやらなければなかなかうまくいかないわけですので、弁護士の国際機関等への送り込みについても、こういう分野を特にやりたいとかと、こういう人を送り込みたいという絞り込みを行っていく必要があります。例えば知財をやりたいからWIPOにいきたいとか、そのぐらい具体的な動機づけが必要になってくるのではないかと思っています。
その関係で言いますと、一般的に弁護士の先生方の方で国際機関にいきたいというインセンティブはどの程度あるのか、先ほどのクレジットを認めるというのはそういう動機づけともかかわってくると思うのですが、一般的にどの程度あるかを聞きたかったものですから、これは私の質問ですけれども。
○柏木座長 ここの人たちよりも矢吹さんのほうがよろしいでしょうか。
○矢吹氏 大谷弁護士がそういうことに取り組んでいますので。
○大谷氏 先ほど下條委員が御紹介してくださいましたように、もともと法整備支援のための登録制度に現在登録している弁護士が100名ぐらいいると思いますし、その中に特に国際機関で働きたいという人も何人か含まれています。この登録制度につきましては、実際に登録制度の存在を知っている人しか登録していないものですから、登録している人以外にも個人的に私が接触する若い弁護士、修習性、さらにはロースクールへの志望を考えている学生まで広げて言いますと、国際機関で働きたいという人が相当多いです。
具体例を申し上げますと、この間も司法研修所で国際人権について特別講義ということで行かせていただいたのですが、その後に修習生が来まして、国際機関で働きたいのだけれども具体的にどういうところに就職したらいいかという質問をしてきます。こういうことが日常茶飯であります。
分野の関係で言いますと、例えば知財などビジネス関係は私は余り知りませんので、私の知る範囲は限られていると思いますが、人権、難民問題。人権の中でも特に女性、子ども、最近では人道法のエリア、こういう分野での国際機関での就職を考えている人が多いので、国際機関の方で言いますと、事務局になりますが、人権高等弁務官事務所のオフィス、UNHCR、ユニセフの例えばチャイルド・プロテクション・オフィサー、法整備支援も今は二国間ベースが多いのですが、それを国際機関という観点で考えますとUNDP、そういうところが具体的な機関だと思います。
○矢吹氏 少し補足しますと、この前、世界銀行主催のリクルーティングが東京であり、ああいう形で大々的に行っているときに弁護士がどれだけアプライしたかを知りたいのですけれども、ビジネスの面では国際金融機関のワールドバンク、アジアで言えばアジア開発銀行、ヨーロッパで言えば欧州開発銀行等にどれだけの人が行くか。もう一つはWIPOのような機関やWTOもありますが、問題はそこに行く専門性を持たないと、行ってもどうしようもないわけですね。しかし、専門性を持っていろいろやっていく、その架け橋が今はないと思います。その架け橋を何とかリクルーティングと、先ほど大谷さんが言ったように、少しシニアの人たちが気軽に行けるということで日本の弁護士がそういう機関のシニアないしは中堅の役割を担う、そういう架け橋づくりをしていただければと思います。実際は、そういう分野にたけた人が渉外事務所を中心にかなりいると思いますし、これからそういう分野に出したいというインセンティブも渉外事務所にある……渉外事務所に限りませんが、弁護士個人にもあると思います。
○柏木座長 ありがとうございました。
○下條委員 資料をお出ししましたので、それに関して申し上げたいと思います。
これは我が国が未批准の国際条約ということで資料をお出ししました。いかにたくさんの未批准の国際条約があるかということで驚かれると思いますが、重要性に限って今回は特に3つだけ、早期に批准のための努力がなされることを要望したいと思います。3つの条約は、まずハーグの国際私法会議関係で言いますと、国際的な子の奪取の民事面に関する条約、国際的養子縁組に関する保護及び協力に関する条約、国連のUNCITRALの関係で言いますと、国際動産売買契約に関する国際連合条約の3つの条約については、なるべく速やかに批准に向けての動きをぜひしていただきたいと考えます。
まず国際動産売買に関する条約ですが、これを調べてみましたら、1989年のNBLに法務省の原さんという方の論文が出ておりまして、この当時から、国連からの問い合わせに対して法務省民事局ではウィーン売買条約の締結を最優先に考えているとの回答をしているわけです。1989年で今はもう2003年ですから、それから10年以上もたってしまっているわけですけれども、いまだ何もなされていないということで、ぜひ国際動産売買に関する条約の批准に対して必要な措置がとられることを要望するものです。
子の奪取に関する条約も、1980年のハーグ条約でなされていて、この条約の締結国は既に57カ国に上ると言われております。ところが我が国はまだ署名すら行っていない状況です。しかも、日本はハーグ国際私法会議のメンバーでありながら、メンバーの国がほとんどこれに加盟しているにもかかわらず、日本はいまだに署名すら行っていない状況があります。ですから、国境を越えた子どもの奪い合いといいますか、これに関してぜひ措置が進められるようにと要望します。
最後は、国際養子縁組に関する条約ですが、これも締約国が既にかなりの数に上っておりまして、今朝インターネットで調べてもらいましたら、ラティフィケーションが30カ国ですか、署名したのが17カ国だそうです。こちらの方もぜひ何とか早い取組みがなされることを要望するものです。特に国際養子縁組については、国連から日本に対する勧告がございまして、これは子どもの権利条約に関するものですが、その勧告の中で「国際養子縁組に関する児童の保護及び協力に関する1993年のヘーグ条約の批准を検討することを勧告する」という勧告まで出ているわけです。これについてもぜひ前向きな取組みがなされ、なるべく早い機会に対応することが望ましいということであります。
いずれにしても、先ほど日弁連のプレゼンテーションの一番最初にありましたが、「公正な国際社会の形成に向けて」ということが意見書にも書いてございまして、そちらの方に動くにはこういう国際条約も締結して、国際的に通用するルールを確立していくことが重要だと思いますので、特に今の3つの条約についてはなるべく早い機会に批准に向けての措置がとられることを要望いたします。
○柏木座長 今の点について下川委員、どうぞ。
○下川委員 具体的に個々の条約の検討状況について情報がございませんので、関係の方面には伝えたいと思います。
○柏木座長 一般的に、確かに日本の条約は下條委員がお出しした資料のように非常におくれている。私の専門の関係でも、先ほどおっしゃったウィーン売買条約が1988年に有効になってからもう十数年たっていて、先進国で批准をしていないのは日本とイギリスだけという状況ですけれども、これが法曹の国際化のインフラストラクチャーということなのだろうと思います。インフラとしては下條委員がおっしゃった条約以外にもたくさんの条約があって、これをなるべく早く批准していただきたいのは山々なのですが、国会の状況などを考えると一体どういうふうになるのかなという心配も少し感じております。いずれにしても、条約全般について批准を推進することはかなり重要な問題ではないかという気がいたします。
○齊藤参事官 事務局から補足的に申し上げたいのですが、個別の条約の取り扱いにつきまして、具体的に当検討会でその扱い方について結論めいたことを取りまとめるには難しいものがあると思いますので、そのことは下條委員もご留意いただきたいと思います。
○柏木座長 これで大体時間がきましたが、私の時間の配分というか座長役のやり方がよくなくて、執務態勢の強化について先ほど全然意見が出ておりませんでしたが、これについてはどうでしょうか。法人化が大分進んで大型の弁護士事務所もたくさん出ておりますけれども、これについて御意見ございますでしょうか。
○道垣内委員 実態はわからないのですが、欧米の特にアメリカの800とか900、一番大きいのは2,000ですか、これは本当にきちんとパートナーで個々の仕事をコントロールできているのですか。私はそこがわからない。100でも大変かなと思うのですが、どういうふうに仕事をされているのか、そういう方向にまでいくということが日本にとっていいことなのかどうか。やはり限度があるのではないかと思うのですが。
○乗越委員 私どもの事務所も世界的に言えば2,000人のロイヤーがおりますけれども、パートナーは400から500の間ぐらいです。ですから、コントロールが行き届くかという点については、単純に比率で比較すれば目が届かない案件はないと思います。すべての案件はパートナーが見ていることはできていると思いますので、その点はそれぞれのオフィスの中のまさに執務態勢の問題として処理できる問題だと思います。
難しい問題は、むしろパートナー同士の500人をどうやってマネジメントしてまとめていくかということで、それはどちらかというと内部運営の問題になりますけれども、それはうちの事務所も相当問題も起こって、全体として意思決定はどうすればいいのかという問題は時々起こります。案件についてコントロールができているかという点については、私は実務的には特に問題なく処理できているような気がしますけれども。
○柏木座長 アメリカでもマネジメントについて問題が出てきているという、業界誌のことを言っていいのかどうかわかりませんけれども、例えば「アメリカン・ロイヤー」とか「ナショナル・ロー・ジャーナル」にもそういう問題の記事は余り出ていませんね。ですから、うまくやっているのだろうと思います。それから、最近の傾向としましては、むしろ専門のマネジメントの人を雇う傾向が出て、そういう人たちに非法律的な問題は任せることで対処しているのかなという気がしますけれども、今のところ大きな問題が出ているということは聞きません。しかも、日本では弁護士の母数が少ないですから、アメリカのように数千人単位の弁護士事務所はできるわけがないのではないかという気がいたしますが、当面問題にならないのだろうという気がいたします。
○乗越委員 今の点ですが、問題が起こっているというよりも、むしろ自分のパートナー500人全部を個人的に知っているわけではないという意味で、これが本当に伝統的な意味でパートナーシップになるだろうかというところで組織論的な疑問点があるとは思います。ただ、まさにおっしゃったように、そのぐらいの規模になりますとマネジメントの専門家とか、あるいは会計士の方を雇ってマネジメントについてはお願いしているシステムはどこでもとっていると思います。
○柏木座長 例えばこういうことは言えるのでしょうか。つまり、法曹の国際化について議論しているわけですが、中国を見てもほかの国々を見ても、海外進出をしているローファームはそういうメガ・ローファームが大部分ですので、法曹の国際化と弁護士事務所の拡大はある程度相関関係がある、法曹の国際化のためには弁護士事務所もある程度大きくならなければいけないという関係があるのではないかと思いますけれども、その点はいかがですか。
○乗越委員 ある程度規模が必要というのは、大きな規模の案件を処理するためにチームを十分つくるために必要なのと、専門化を推進していくためにはある程度の規模がないと専門家を抱えておけないという意味では、規模と国際化のそういう面については関連性はあると思います。ただ、各国に支店があるかないかという意味で国際化しているかどうかはちょっと間違いで、イギリスにおいてもイギリス国内だけでやっている大きな事務所で国際的な案件をやっていて、常に外国のクライアントや外国の事務所と日常的に協働しているところはありますので、そういう意味で海外に事務所を置きたいから人数が必要かという意味では、それは関連性は必ずしもないと思います。
○柏木座長 ほかに今の問題、すなわち弁護士事務所の執務態勢の強化と国際化について御意見のある方はいらっしゃいますか。
○久保利委員 基本的に事務所の執務態勢の問題を考えると、結局はコストパフォーマンスとの問題なんですね。アメリカの事務所があれだけ巨大になり、あるいはイギリスの事務所があれだけ巨大になってというのは、リーガルコストの負担をする企業が支払ってくれるからだろうと思います。もちろんそれは役に立つからということはあると思いますが、日本の場合、私が前にいたのは大事務所でしたけれども、そのときにもクライアントがアメリカの事務所に幾ら払ったかの帳簿を実は見てしまいまして、そのときに我々がもらっているものと比べると桁が2つぐらい違っていたということがありました。それは彼らがそれだけ役に立ったので、我々が役に立たなかったと言われればそれまでなのですけれども、とうも向こうから来るビルについてはほとんどチェックしないで払うのが、大分前ですけれども、当時のクライアントの慣習だった。
これから日本の企業がリーガルコストにどれだけ耐えられるかということと、その支払いに見合うだけのサービスを法律事務所が出せるかという問題と、この相関関係なのだろう。専門家の問題にしても、知財が劣っているという問題にしても、今まで日本の企業は知財弁護士などはばかにして必要ないと言ってきて、みんな談合で片づけてきたわけですから、それが突然こういう時代になって必要だと言っても、人はすぐにはできてこない。そういう点では下水道工事とは少し違うところがありまして、そういうインフラとしての人をやるためには、誰かがコストを負担し、一定の時間をかけてつくっていくしかない。それに日本の企業と日本の法律家がセットで耐えられるかどうかが、事務所として、弁護士としてやっていけるかどうかの決め手なのだろうと思いますね。
ですから、ユーザーの側も実は今までのようなコストで、専門化して巨大な事務所で使い勝手がよくて、ワンストップでなどというものがそう簡単に手に入ると思ってもらっては困るということを私は言っておきたいと思います。
○バイヤー委員 私の会社では経験が全然違いますよ。法律事務所は高過ぎて、いつも耐えているんです。
○久保利委員 やめたほうがいい、変えたほうがいいですね。
○柏木座長 私の昔の経験でも、外国の法律事務所の請求書を持っていくと高い請求書でもさっと払ってくれるんですね。日本の弁護士事務所の請求書を持っていくと、これは高いのじゃないかと。金額自体は半分以下なのですが、それでも日本の弁護士事務所には文句を言うけれども、何となくアメリカの弁護士事務所には文句を言わないというメンタリティが日本のクライアントの中には確かにあったような気がします。ただ、これも随分変わってきているのではないかという気がしますので、おっしゃるとおり、クライアントの方もコストパフォーマンスに厳しい目を向け始めてくると、執務態勢もそれに応じて変わってくるのかなという気はいたします。
○波江野委員 久保利委員のおっしゃることも、柏木座長のおっしゃることも全くそのとおりで、私の前の経験でもそうだったのですが、これは理由が2つあって、1つは日本の弁護士のやっていることだとそこそこ自分たちで評価ができて、あの先生は頼りなかったのにこんなにきたというようなことが言える、それが1つ。それと、海外からだと劣等感か何かですね、請求されるとそのまま支払うことが殆どでした。ところが、今回の司法制度改革でユーザーの立場ということで久保利委員がおっしゃいましたけれども、その中で出てきている流れは、日本の弁護士の数を増やして競争を活発化させる、競争によって品質の向上とコストの低減を図るということで、久保利委員のおっしゃったような形で、相対的に力が高くなってきてサービスがよくなってくることによってコストが上がるのは、ユーザーとしても当然受けなければいけないのでしょうけれども、規模が大きくなることによって単純にコストがアップすると言うのでは、やはり司法制度改革の意見書の基礎を流れる考えとしてそのままお受けすることはできないのかなと、そういう感じがしています。ユーザーの立場として一言だけ申し述べさせていただきます。。
○柏木座長 議論も尽きませんが、時間も大分超過しております。本日の討論はこの辺にとどめたいと思います。
それでは次回の予定につきまして、事務局から御説明いただきますでしょうか。
○齊藤参事官 次回の予定でございますが、既に御案内いたしましたとおり、7月23日(水)の午後2時から5時を予定しております。前回御議論いただいた法整備支援の推進と、本日御議論いただきました弁護士(法曹)の国際化への対応強化、その他につきまして次回は議論の整理を行いたいと考えております。議論の整理でございますが、検討会における委員の方々の発言に基づきまして、議論の大まかな内容が御理解いただけるようなものを作成したいと考えております。ただし詳細につきましては、さらにいろいろ詰めさせていただきたいと思っております。次回もよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
○柏木座長 それでは、第15回国際化検討会を閉会させていただきます。本日はどうもありがとうございました。(了)