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国際化検討会(第3回)議事録



1 日 時
平成14年3月20日(月)14:00〜17:30

2 場 所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委員)
柏木昇座長、ヴィッキー・バイヤー、加藤宣直、久保利英明、下條正浩、道垣内正人、乗越秀夫、西謙二、波江野弘(敬称略)
(説明者)
山下輝年(法務省法務総合研究所国際協力部教官)
城祐一郎(国連アジア極東犯罪防止研修所教官)
大塚和也(外務省経済局国際機関第一課サービス貿易室)
上柳敏郎(日本弁護士連合会国際室長)
前田陽司(太陽法律事務所)
ジョンH.スティード(ポール・ヘイスティングス・ジャノフスキー・アンド・ウォーカー外国法事務弁護士事務所)
近藤浩(東京青山・青木法律事務所)
垣貫ジョン(ベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所)
ロバートF.グロンディン(在日米国商工会議所代表)
アランD.スミス(在日米国商工会議所金融サービス委員会委員長)
(事務局)
松川忠晴事務局次長、齊藤友嘉参事官

4 議 題
1.開 会
2.法整備支援の現状について
3.特定共同事業事務所からのヒアリング
「特定共同事業事務所から見た弁護士と外国法事務弁護士等との提携・協働について」
4.在日米国商工会議所からのヒアリング
「米国企業から見た弁護士と外国法事務弁護士等との提携・協働について」
5.司法制度改革推進計画について
6.その他
7.閉 会

5 議 事
【柏木座長】 それでは、まだ道垣内委員とバイヤー委員がいらっしゃっておりませんが、時間になりましたので、第3回の「国際化検討会」を開会させていただきます。本日は御多忙の中、御出席いただきまして、誠にありがとうございます。それでは、早速今回の議事予定について事務局より御説明をお願いします。

【齊藤参事官】 それでは、今日の予定を御説明申し上げます。
 本日はまず冒頭に法整備支援の現状につきまして、法務省、外務省、それから日弁連の順にプレゼンテーションを予定しております。その後に、特定共同事業事務所と、在日米国商工会議所の方からヒアリングをさせていただく予定であります。当初の予定ですと、本日は特定共同事業を営んではいない日本の渉外法律事務所からのヒアリングも予定していたんですが、そのためにヒアリングを要請しておりました長島・大野・常松法律事務所の長島安治先生が、一応お引き受けいただける見込みなんですけれども、本日は都合がつかないということですので、入れ換えに在日米国商工会議所の方からのヒアリングを先に行わせていただくという運びになりましたので、御了承いただきたいと思います。
 本日、特定共同事業事務所としましては、太陽法律事務所の前田陽司先生、ポール・ヘイスティングス・ジャノフスキー・アンド・ウォーカー外国法事務弁護士事務所のジョン・スティードさん、それから東京青山・青木法律事務所の近藤浩先生、ベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所の垣貫ジョン先生をお招きしています。ちなみに在日米国商工会議所の関係者としましては、ロバート・グロンディンさんとアラン・スミスさんをお招きしています。これらの方々からヒアリングをさせていただこうと思っております。以上です。

【柏木座長】 それでは、まず始めに事務局から配布資料の説明をお願いいたします。

【齊藤参事官】 配布資料ですが、本日お配りしておりますものは、資料3−1、これが法務省からの本日の説明資料でございます。資料3−2が、外務省からの説明資料でございます。資料3−3が日弁連からの説明資料でございます。日弁連の説明資料につきましては、添付資料が1〜9までございます。よろしいでしょうか。それから、資料3−4は、太陽法律事務所とポール・ヘイスティングス・ジャノフスキー・アンド・ウォーカー外国法事務弁護士事務所の説明資料でございます。資料3−5が、東京青山・青木法律事務所とベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所の説明資料でございます。資料3−6が、在日米国商工会議所の説明資料で、枝番が3−6−1ないし3−6−3ということになっております。最後に資料3−7が、司法制度改革推進計画、昨日閣議決定を経たものでございます。資料は以上でございます。

【柏木座長】 それでは、議事に入ります。まず法整備支援の現状について、法務省、外務省、日弁連から説明を受けたいと思います。質疑は三者のプレゼンテーションの後でまとめて行いたいと思います。まず、法務省の山下さん、城さんからお願いします。

【法務省(山下教官)】 法務省法務総合研究所国際協力部教官をしております山下輝年と申します。法整備支援のことについて、若干御説明申し上げます。
 「法務省による国際協力」という題名で資料3−1を用意いたしましたが、実際に申しますと、法務総合研究所における国際協力と言い直した方がよろしいかと思います。
 法務総合研究所につきましては、皆さん御存じかと思いますが、このパンプレットの7ページに組織が書いてありますが、基本的に総務企画部分と、そのほかの現局部門、その中に研究部と研修部が分かれておりまして、研修部が更に国内と国際に分かれております。国際が更に刑事司法分野と民商事法分野に分かれております。刑事司法分野が、私の後に御説明申し上げますUNAFEI、国連アジア極東犯罪防止研修所が担当しておりまして、民商事法分野を国際協力部が主に担当しております。
 法整備支援という言葉は非常に新しい言葉でありますが、実際にこの説明資料の2番に簡単に歴史を書きましたけれども、1994年に法総研が始めたということになっておりますが、そのときはまだそういう言葉はありません。実際に言葉が確定してきたのは、1998年辺りくらいからであります。
 法整備支援のきっかけを申し上げますと、3ページの4番にありまして、ここには活動の内容が主に書いてありますが、1993年ごろに名古屋大学法学部長でありました森島教授が、ヴィエトナムで民法をつくろうとしているという状況で、民法の専門家として、別のプロジェクトで訪れまして、日本の民法を紹介したところ、非常に関心を持たれたのです。それまではヴィエトナムはアメリカの法制やヨーロッパの法制度を勉強していたのですが、日本のことはほとんど知らなかったので、アジアの文化を共有するということもあって非常に日本に関心を持たれました。その理由は、やはり大陸法系から戦後50年かけて徐々にコモン・ロー、英米法系を取り入れていったという経緯に着目しまして、その後支援要請が来るようになりました。もちろん、この支援要請というのは、国際協力事業団のJICAを通じて入ったわけです。
 そのJICAがプロジェクトを始めるわけですけれども、最初の1994年段階では年に1回、日本で研修を行うだけでした。研修を行う実施機関というものとして、法務総合研究所が引き受けた次第であります。その後、7年経ちますと、かなり様相が変わっておりまして、ヴィエトナム以外にカンボジア、ラオス、モンゴル、ヴズベキスタン、タジキスタン、つい最近でありますが、インドネシアからも要請が来るようになっています。
 このように増えるようになりました関係で、法務総合研究所の当時の陣容では無理だということで、昨年4月でありますけれども、法整備支援を専門的に取り扱う部署として法務総合研究所に国際協力部が新設されました。したがいまして、御理解いただきたいのは、国際協力部はまだ1年の部であるということです。
 このように法整備支援のきっかけは7年前になりますが、本当に活動し始めたのは、1999年辺りからであるということで、まだ模索状態で活動をしているということであります。ですから、型にはまった支援の概要、業務の概要というものはありません。その都度相手の要請に合わせて、あるいは相手の制度を研究しながら、一番いいであろうという方法を考えつつ行っているという状況であります。
 その活動の方法なんですが、3ページに記載してあります。まず第一の態様としましては、法案の起草支援というのがあります。これは具体的な法令を起草するわけですけれども、カンボジアで行っております。実はカンボジアにおきましては、法律家が大量殺戮されまして、実際に生き残ったのは4〜5人だと言われていた状態でありまして、司法省には法律を起草できる人材がいないということから、各国に起草の要請をしておりました。それで民法と民事訴訟法につきまして、日本に要請がありまして、現在、その3年プロジェクトが終わりにかかろうとしております。現時点では民事訴訟法部会というのが日本にあります。これは大学教授を中心にして、かつ、実務家も参加した十数名程度の部会であります。同じく民法部会というのも森島教授を筆頭に立ち上げております。
 そういう部会を中心に具体的に日本語で起草して、それをクメール語に訳して相手に引き渡すという作業をしておりまして、本年8月末までには、両法案とも、相手の司法省に対して引き渡す予定になっております。これが第1の形態でございます。
 第2の形態でありますが、これは国内研修でありまして、昔からヴィエトナムでも採用されている方法だと思いますが、相手国から日本へ呼びまして、日本の制度を教えつつ、かつ相手の法制度に関する情報を得て、研究をしていくという態様の研修であります。通常1回で10名程度招聘しております。期間は約一か月で行っております。これは国別研修と言いまして、現在ヴィエトナム、ラオス、カンボジア、来年度からはウズベキスタンも入るということになっております。それから、「多数国研修」というのがあります。我々は通常マルチと呼んでおりますが、マルチにつきましては、各国2名程度ずつ呼びまして、英語で実施しております。これらの国内研修はすべてJICAから受託したものであります。
 第3の態様としましては、職員の海外派遣でありますけれども、教官、あるいは他の分野の協力を得まして、現地にセミナー講師として派遣するのがイの態様ですが、そのほかにも駐在型、アドバイザー型専門家を派遣しています。ヴィエトナムに対しては、派遣期間は最低1年、そして、更新して大体2年くらいずつ派遣しておりますが、現時点では4名派遣しております。これは日弁連の方からもお1人ヴィエトナムに行っておりますし、カンボジアにも行っております。それから、最高裁の方からも協力を得まして、ヴィエトナムに派遣しています。その滞在型の専門家の研究情報もこちらに集まってくるシステムになっております。
 4番目に、研究活動というのがありますけれども、これはJICAの枠組みに入らない。例えば開発途上国に入らない韓国などとの間に、対等の立場で共同研究という形で、登記制度を現在行っております。
 それから、当方では、まだできたばかりでありますけれども、今年の1月に機関誌として『ICD NEWS』、これは部数に限りがありますので、皆さんにお配りできませんけれども、3部ほど回覧のためお持ちしていると思いますが、これを発行し、来月には第2号、次には第3号と順次発行していく予定です。中身はアジアの法律、司法制度に関する情報、研修で得られた成果を順次掲載していく予定です。
 法整備支援というのは非常に分野が広いものであります。法律分野は多種多様にわたっております。それから、対象機関も多種多様にわたります。刑事法で言えば警察から始まりますけれども、通常は司法省、裁判所、検察庁、弁護士会、多種多様にわたりますので、我々の部だけでは到底対応は不可能であります。したがいまして、法整備支援の始まりのころから、法曹関係者の協力を得て、総力を挙げて実施しているというのが実情であります。協力をいただいている機関は、もちろん最高裁であり、日弁連であり、検察庁、大学教授の方々、それから民間の支援としては、財団法人ICCLCと呼んでいますが、国際民商事法センターというものがありまして、同様の目的で活動しているところがありますので、そこと協力してやっております。この分野におきまして、大学の協力というのは、名古屋大学がしております。
 我々の活動については以上でございます。

【法務省(城教官)】 では、続きまして、刑事法の分野における国際協力という観点から、法務総合研究所内国際連合研修協力部、別名、国連アジア極東犯罪防止研修所と呼ばれています当研修所の活動について御紹介したいと思います。
 本日の趣旨は法整備支援という観点からということでありますが、そういう観点から言いますと、いささか当研修所の活動は、必ずしもその趣旨に沿うものではないのではないかと思っております。国際協力部はまさに法整備支援、ただいま山下教官から説明があったように、法整備支援を中心としておりますが、当研修所、通称アジ研と呼ばれておりますが、アジ研の活動は各国刑事司法分野の中枢を担う人たちを日本に集めて、その各国の刑事司法制度の発展のために国際協力を行う趣旨であり、必ずしも法整備云々ということをメインの目的としたものではございません。
 当研修所は1962年、国際連合と日本国政府との協定により、国連の地域研修所として設立されたものであります。そして、同63年から研修を実施し、現在ではその研修回数のメインのコースが年3回ございますが、120 回を超えるに至っております。卒業生も約二千名近くに及んでいるのではないかと思いますが、いずれにせよ、東南アジアを中心とする各国の刑事司法分野における貢献を意図した研修を行っております。
 当研修所においては、政府開発援助、ODAの一環として実施されるものであり、JICAと連携して研修を実施しております。
 当研修所においては、刑事司法、中でも捜査。公判に関する部門、及び矯正と保護関係の部門、両部門において各国の発展のために研修を行っているわけですが、具体的には国際研修と呼ばれるものが3本、これは先ほど山下教官も言っておられましたが、マルチと呼ばれる各国1、2名ずつの参加者を14〜15か国を対象として集め、日本において8週間、少ないものは5週間ですが、以前は12週間の期間で実施していたこともありましたが、府中にあります当研修所において寄宿した上で実施しているものであります。その実施の内容は、各国の実情の報告や、国内外の客員専門家による講義、グループ・ワークと呼んでおりますが、一定のテーマを設定して、それについての討論といったものなどから構成されております。
 ただいま申し上げたようなマルチの研修のほかに、特定の国を対象とする研修も行っております。中国などの特定の国に対して約10名の研修員の参加を求め、ただいま申し上げた内容と同様の国際研修を実施しております。
 このような研修等においては、各国の刑事司法事情の中枢を担う立場の人の育成という観点から、世界的な刑事司法の流れ、もちろん日本の制度の説明、及び問題点、並びに各国における固有の問題点等を明らかにした上で、それを総合的に討論した上で一定の方策を各自ごとに見つけてもらうという観点から行っております。決して日本の制度を押し付けるとか、日本の制度を優先的に推薦するという趣旨ではなく、参加した研修員において、何が一番自国の法制度、今後の刑事司法の発展に役立つかという観点から、何らかの知識、もしくは討議結果を得てもらうという観点から行っているものであります。
 これがメインの研修ではございますが、海外におけるジョイント・セミナーも行っております。これは研修においては各国から年に1名、もしくは2名といった者しか研修参加者となり得ないわけですが、それでは各国の発展にならないので、むしろアジ研等の教官等の専門家が海外の国に出向いて、そこで3日、ないし4日間集中的に講義、及び討議等を繰り返し、他の国の刑事司法関係者を集めてセミナーを実施するというものであります。本年度はフィリピンにおいて去年の12月に約4日間にわたって実施しております。
 そのほかに当研修所においても研究報告等については、出版しておりますし、各国の法曹界、関係するアジア刑政財団という刑事司法の発展を目指す団体とも共同して地域に密着する形での研究等もしております。
 法整備支援という限られたテーマに限定されているわけではないんですが、もちろん、新たな法制度を模索している参加者も当然いるわけでありまして、1つの例を挙げるとすれば、去年の1月に実施しました国際研修において、マネーロンダリングとその対策というセミナーを約5週間にわたって実施したのですが、この際、多くの参加者の中に、まだマネーロンダリング対策法がない国もあり、また、法案はできたもののまだ審議中という国もあるという状態でしたので、当研修所における情報及び知識の提供、並びに討議の結果、更には客員専門家による見解が非常に各国の法制度の策定等に当たって参考になったという意見も聞かれております。そういった意味で、法制度支援の一環を担うことにもなると思いますが、いずれにせよ、当研修所は約40年、今年は40周年となるんですが、40年間にわたる国際協力を行っている次第です。
 私の方からの説明としては以上でございます。

【柏木座長】 ありがとうございました。それでは、次に外務省の大塚さんから説明をお願いします。

【外務省(大塚事務官)】 外務省の大塚と申します。本来であれば本検討会の委員である下川サービス貿易室長から説明が行われるべきところですが、現在ジュネーブで開催中のWTOサービス貿易理事会に出張中ですので、代理として私の方から説明いたします。
 本日は法整備支援において、外務省の果たしている役割、それから我が国の経済協力の全体の中での法整備支援の位置づけとその意義について御説明させていただきたいと思います。また、WTOにおきまして、最近、途上国支援の人材要請プロジェクトの取り組みを強化していこうという動きがありまして、これもやや側面的な面があるかもしれませんけれども、法整備支援とも関係してくる部分もございますので、この点についても御紹介させていただきたいと思います。
 ただいまの法務省からの説明にもありましたけれども、我が国が行っている法整備支援はJICAを通じてやっている法整備支援が相当程度占めていると思いますが、これは外務省が所管している実施支援事業ということになりまして、手続的には相手国の要請があって初めて行うということで、在外公館を通じて相手国の要請をとりまとめ、関係する法務省、法務総合研究所、あるいは日弁連等の関係機関等と相談して、JICAを実施機関として具体的な支援内容を特定して実施しております。この予算は外務省のODA予算、具体的にはJICA予算から拠出しています。
 すべてが必ずしもこのODA予算というわけではなく、それ以外にも法務省所管の財団法人国際民商事法センターでやっている日韓のパートナーシップ研修とか、あるいは法務総合研究所がアジア開発研究所等国際機関とやっておられるプロジェクトとか、それ以外のプロジェクトもございますけれども、必要に応じて可能な限り法務省等との情報交換をして、全体としての効率的な支援が可能となるような取り扱いをしていきたいと思っております。
 我が国の経済協力全体における法整備支援の位置づけでございますけれども、我が国の経済協力の基本方針は、閣議決定である政府開発援助大綱が平成4年6月30日に決定されておりまして、その中に明記されております。経済協力の基本方針としては、重点項目として、環境と開発の両立、あるいは国際平和と安定を維持強化していくということ。更には民主化の促進等々がありますけれども、その中に幾つか重点課題として挙げられている項目の中で、人材育成知的支援というものがございまして、この知的支援の重要な柱としてこの法整備支援が位置づけられております。長くなりますが、その大綱の中の一節を読ませていただきます。
 「市場経済移行国のみならず、経済の急速なグローバル化が進む中で経済発展を進めてきた開発途上国においては、そのような変化に経済・社会体制を適応させるためソフト面での支援の重要性が高まっている。我が国の経済発展の過程において蓄積されてきた経験やノウハウには開発途上国の発展に有効に活用しうるものがある。具体的には法制度整備を含め各種制度・政策の形成のための支援などが重要であり、我が国の人材を活用した政策アドバイザー等の派遣を含めた取り組みが有効である。なお、こうしたソフト面での支援は、貿易投資分野での相互依存関係の高まりの中で、WTOに基づく多角的貿易体制といった世界経済システムを支えるためにも重要となっている。」
 このような方針に基づきまして、法整備支援が行われておりますが、経済協力支援全体の中でどのような意見を持っているかとうことに関しましては、特に90年代以降、経済協力をやっていく上で、途上国が自立的にやっていなければ、なかなか成果は上がらないということで、途上国における良い統治、いわゆるグッド・ガバナンスを推進していくことが重要であるという認識が高まっておりまして、そのためにも社会的な重要なインフラである法整備というのが非常に重要であるという認識が強まっております。特に東西冷戦が終結した後、旧共産圏の国が市場主義経済に移行していますので、そういった国々にとっては新しい法体系が必要になってくるということで、そういった面からもこの法整備支援の必要性はますます高まっていると考えられます。我が国としては、これまで援助要請を踏まえてカンボジア、ヴィエトナム、ラオス等のアジア諸国を中心に人材養成プログラムも実施してきておりますし、今後とも二国間の要請を踏まえて、積極的な協力を行うことが望ましいと考えております。
 もう一つ、最近のWTOにおける動きですが、法整備支援というか、人材養成支援が非常に重要であるという認識が非常に高まっておりまして、去年の11月のドーハのWTO閣僚会議で新ラウンドの開始が合意されたわけですが、その際に途上国との関係がラウンド全体の交渉に重要な影響を与えるという認識が強まってきたことから、貿易関連の人材養成支援、キャパシティ・ビルディングを強化していかなければいけないという合意ができました。WTOでやっていることは必ずしも法制度そのものに焦点を当てているわけではありませんけれども、法整備支援をやや広い意味でとらえると、法をつくるという観点と同時に、法が実際に社会の中で生きていくためには、それが着実に実施されなければいけないわけですので、執行面を担う行政官等の人材養成という意味からも、法整備に強い関係があるのではないかと考えます。
 合意された内容は、単に政治的な合意ということだけではなくて、実際にドーハ開発アジェンダ・グローバル・トラスト・ファンドという新しいファンドができまして、日本からは150 万スイスフラン、日本円にしまして約1億1,700万円の拠出を3月11日に発表しまして、WTO全体としては3,000 万スイスフラン(約23億4,000 万円)以上ということで、これは主にWTOの今後のラウンド交渉に資するという観点から、投資、競争等の新しい分野に対する途上国の理解を得るためや、あるいは既にあるWTO協定の実施がなかなか難しいということですので、途上国においてそういう実施が円滑に進むように、そういうセミナー開催等を通じた人材養成のプロジェクトをやっていくということで、実際に話が進んでおります。これらの中で、法整備支援の重要性はますます高まってくるのではないかと言えるのではないかと思います。
 お配りしました資料の中に、最後に個別プロジェクトの例を国ごとにまとめて書いておりますけれども、この辺につきましては、実際に支援に携わっておられる法務総合研究所及び日弁連からの御説明がありますので、割愛させていただきます。

【柏木座長】 ありがとうございました。それでは、最後に日弁連の上柳さんから御説明をいただきます。

【日弁連(上柳室長)】 日弁連の上柳です。私は資料3−3ということで、最初の3枚がレジュメ、あとは資料で、是非お読みいただきたいと思います。後ろの方の縦書きになっているものが、これまでの日弁連がここ数年やってきました活動であります。
 いきなり、結論めいたことになるかもわかりせんが、しかも、これは日弁連の方のプレゼンテーションで、人のものを使うとあちこちからしかられそうですが、山下さんがお持ちいただきました法務省の国際協力部のパンフレットの2ページのところを見ていただきますと、法整備支援とは何かということが書いてあるんですね。法律をつくることだけではなくて、それを実際に動かしていくということが大変大事であるということで、実際には法律家をつくること。
 これは弁護士の分野で言いますと、できれば今年の秋に、カンボジア弁護士会との協力を進めているんですが、カンボジアでも弁護士養成学校をつくろうと。1年コースで50人くらいの新しい弁護士さんを、今カンボジアには200 人くらいしか弁護士がいないんですけれども、それをつくっていこうと。
 それから、弁護士が多くても実際に人々が弁護士が高くて利用できないということではしようがありませんので、リーガル・エイドと言っているんですけれども、庶民、あるいはお金持ちでない方が弁護士を利用できるような制度をカンボジア弁護士会でつくる。そのときにリーガル・クリニックと呼んでおりますけれども、弁護士を安く使うのはなかなか難しいもので、それもやるんですけれども、弁護士養成校の学生さんたち、研修生の人たちに法律相談活動とかをやってもらうというのも1つじゃないか。これは研修と具体的に法律サービスを提供するということを両方重ねてやれるんじゃないかということで、そんなことを今、新しい取り組みとしてやろうとしているところです。
 私なりに今まで御紹介がありました日本がやってきました法整備支援、あるいは国際協力の一番目玉と言いますか、ポイントだと思うのは、一言で言えば人づくりを重視するということだろうと思っております。
 これも法務省のパンフレットにあるものですが、その4ページのところに、これをいただいて、私も意を強くしているんですけれども、4ページの一番左上の方に、青の見出しで「法制度を動かすのは人」こういうふうに書いております。まさに日弁連もこれを言いたかったわけですけれども、そんなふうに思っています。
 例えばこの数年間、カンボジアに民法とか民事訴訟法をつくろうということで協力しているんですけれども、そこでは用語確定会議という名前のグループがあります。これは何をやっているかといいますと、日本の研究者の方々が、日本の民法によく似たような案をつくられて、それを日本に来ているカンボジアの人たち、帰化した人たちを中心に翻訳をしているんですが、それを更に現地の裁判官、法律家の方に検討してもらうんです。その部屋には日弁連からも行っておりますけれども、日本の専門家がいるような部屋でやっておりますから、その人たちも協力するんですけれども、日本の人たちがつくった文案が正しいのかどうか。あるいはカンボジア語、クメール語でどういう言葉を当てはめたらいいのかどうかということを、ああでもないこうでもないとやっているんです。これは単に日本の法律をクメール語に訳すということではなくて、そこで換骨奪胎が行われていて、現地に合ったような言葉にする。法律は言葉の技術ですので。それから、現地に文化的に合ったようなものにするという試みをしているんです。
 これは欧米のやり方とかなり違うんです。実は民訴法については、ヨーロッパのある国がカンボジアに対して既に何年か前に起草したものがあるんです。ところが、カンボジアの人たちはそれに見向きもしないと言うと語弊がありますが、実際には使われようとしていない。それは恐らくその国のエキスパートの人が、これは大変短期間にできたわけですけれども、つくってきたものについてカンボジアの方が余り対応していない。日本の場合はそうじゃなくて、随分時間が掛かって、世界銀行からしかられて山下さんが苦労されたりしたんですけれども、現地の方にもう一回読んでもらって確定していく。その中で先ほどのような現地化もしておりますし、かつ、現地のリーダー格の法律家の方が法律を勉強してしまうわけで。これが欧米の言うトレーナーズ・トレーニングにもなっておるわけです。
 という意味で、掛け値なしにこれはすぐれたやり方ではないかというふうに思っております。
 同じようなことかもしませんけれども、先週弁護士養成学校をつくるために私カンボジア弁護士会を尋ねまして、一緒に協力活動しているカナダの弁護士会、あるいはフランスのリヨンの方とお話をしたんですが、今年の10月に何とか弁護士養成学校を立ち上げたい。カナダの人が言うには、カンボジアの人たちに任せておいたらいつまで経ってもできませんよと。だから、準備委員会を外国人、日本人、カナダ人を含めてつくろうじゃないかとあせられるんですね。私は、あるいは日弁連は、そうだからこそ、現地の方々に任せるべきであるということで、最終的に決めるのは現地の方々ですので、現地の方々5人で、弁護士会長、事務局長、裁判官2人、検察庁からも1人。
 私がそういうふうに主張したのは、単に理屈の問題もあるんですけれども、実際にその5人の方をよく知っているんです。ここ10年くらいお付き合いがあるわけですけれども、95年にJICA事業として初めて日本に何人かのカンボジアの方をお呼びしたんですけれども、日弁連が担当したところは、京都への研修旅行というのを担当いたしまして、私の実家がたまたま竜安寺のそばなんですが、帰りに寄っていただきまして、私の家の仏壇を見せたり、風呂を見せたり、そういうふうにした仲間が司法省の人事局長になられて、それまでは裁判官を送るのを躊躇されていたんですが、どんどん送る。あるいは、もう一人は次官になって、もう一人はプノンペン大学の法学部長になっておられます。そんな関係でずっと人間的なつながりがある。これはちょっと我田引水になりますけれども、そういう意味で弁護士の役割というのは、役所と違いまして、配置転換がありませんので、長期的関係がつくりやすいということと、それから語弊があるかもわかりませんが、飲み食いを含めてお付き合いができるということで、ある程度の役割を果たしてきたのかと思っています。
 これはまた余談かもわかりませんが、カンボジアへの支援が始まったというのも、1993年UNTACのときに、UNTACの人権部門に佐藤さんという弁護士が一人行ったんです。私もそれを尋ねていきまして、国連の人権センターから司法省の人たちとつながりができ、人的なつながりができていった。
 最初に日本が提唱してお呼びしたのも、JICA事業になる前ですけれども、名古屋にあります国連地域開発センターというところを使いまして、これは実際には外務省の中の先見的な方が、日本の予算は出せないけれども、国連予算なら出せるだろうということで、呼んでいただいて、その研修生の方に日弁連でも講演をしてもらうということで、日弁連の方の支援活動が始まったんです。
 そういう意味で、日本の役割、弁護士の役割を生かしたような協力をしようとしているということについて御了解をいただければと思います。
 引用をしたんですけれども、私のレジュメの1枚目の下の方、司法制度改革審議会の意見書は、人の重視と、日本が諸外国から近代的な法体系を受け継ぎつつ、国情に即した法整備及び運用を確立した経験を生かしてやっているんだと。この経験ということは大変大きい意味だと思うんです。単に、ドイツ、フランス、アメリカのを混ぜたというだけではなくて、私たちの先輩が、例えば私の例で言うと過労死の裁判をよくやっているんですが、フランスでは仕事場で倒れたら業務上になるはずだと、ドイツでは因果関係が弱いとか、いろいろ言って、そうではないという方とけんかをしながら、大変な苦労を積み重ねて今の法律なり法律家ができているんだと思うんです。
 もう一つ、これも変な話ですけれども、私どもが、あるいは委員の先生方はどうかわかりませんが、それこそハエとかカとかいるようなくみ取り式便所さえも御存じなわけですね。一方、そういったものが飛んでいないような水洗トイレの時代も御存じで、両方を知りながら、しかも、あちこちも法律を知りながらということで、バイヤー先生いらっしゃって、日本は優れているというのも良くないかもわかりません。逆にバイヤー先生も恐らく日本の法律に興味をお持ちなんだろうと思うんです。まさにそういう我々の先輩の経験を生かすようなものにしていく必要があるのではないかと思っています。
 ただ、あえて課題を申しますと、2枚目のところですけれども、日弁連が例えばカンボジアに今3人目の弁護士を送っておりまして、女性の方なんですが、大変頑張っているようですけれども、現地のニーズに応え切れているかというと、それこそいろんな御迷惑を掛けております。
 1つは、日本からきっちりとバックアップする体制を、これは法務省が努力されておりますけれども、日弁連でもやらなければいけない。そのときに少なくとも日本法について外国語で説明できるような資料がそろっていないと、いちいち断片的に訳しているような状況では、本当にお寒い感じがいたします。長期的には人材育成ということで、後で見ていただきたいと思いますが、我々の先輩格になります医療分野は法律よりも10年くらい進んでいるようですけれども、日本人でそういうことに役に立つような人材を育成するコースを設定されております。かつ、そのカリキュラムは日本の先端分野ではなくて、現地のいわゆる地元の要請に応えるようなカリキュラムをやっておるんです。こういうことも是非考える必要があるのではないかと思っているわけです。
 そういう意味で言うと、この法整備支援、あるいは国際協力というのは、まさに日本の司法の国際化、あるいは力量が問われているんだと思いまして、そういう点からも、私はあえてレジュメの2枚目から3枚目に「司法及び弁護士の国際化へのニーズと対応の必要性」を指摘させていただいております。
 2ページの下の1番のところは、例えば外国人向けの法律相談をもっともっと充実させるべきであって、これは初めて出す資料ですけれども、東京三弁護士がこの1年、どういう相談を受けてきたかというのがあります。細かい説明は省略いたしますけども、例えば言葉の問題、中国語と英語の通訳が付いているんですけれども、その利用率が大体3割くらいなんです。本当はもっともっとほかの言語についても需要があるんだろうと思います。
 もう一つ指摘したいのは、外国人の方だけではなくて、外国人法律相談に日本人の方が見えるんです。これは日本人と外国人がたくさん結婚しているからなんです。朝日新聞の記事に、東京都区内だと、今結婚10組のうち1組が外国人との結婚であるという世の中で、何か外国人のために金を使うのはもったいないという論調が、この間どこかの見出にありましたけれども、そんなことではなくて、まさに日本人のためにも、外国人の方と共に生きていけるようなやり方が必要なんではないか。
 ということで、2ページのところに意見書から幾つか引用しておきましたけれども、私が注目するキーワードとしては、国際社会と価値観の共有であるとか、多様な意見や生き方を許容するとか、司法の国際対応力を強化するとか、人権保障、こういうものについても、是非検討会で議論いただいて、勿論、日弁連も議論しなきゃいけませんし、提言もつくりたいと思いますが、幅広い、骨太の提言を先生方からもちょうだいしたいというか、まさにそういう課題が国民から与えられているのではないかと、偉そうなことを言う次第です。
 3ページのところに、幾つかその具体化、外国法の情報を整備するということと、日本の法令を外国法に翻訳する。特に六法の系統というのは、法務省を含めて共同作業ができるのではないかと思っております。
 もう一つは、国際人権の関係でして、カンボジアとのお付き合いができましたのも、私自身で言えば、国際人権とのNGOでの活動を日弁連が80年代後半からやってきまして、そこでの人脈でたまたま現地に行ってみたら、よく知った顔がいて、そこから司法省、国連人権センターにつながっていったという個人的な経緯がありますけれども、そういうお付き合いという側面もあります。司法制度改革審議会の意見書の中でもここに引用しましたように、特に刑事法分野についての指摘なんですが、人権保障についての国際的動向を踏まえるとか、あるいは適正手続の保障であるとか、あるいは去年の暮れにはサイバー犯罪条約に加入したんですが、これは組織犯罪、あるいはサイバー犯罪に対する対応なんですが、そこには人権を守れということで、訳はいろいろありますけれども、いわゆるヨーロッパ人権条約とか、国連の人権規約を守りなさいということがこの条約の根底の中にあるんです。
 そういう観点からも、是非この検討会で、人権のことは関係ないということではなくて、日本が世界から求められている、あるいは、そういう機関から宿題として与えられている。規約人権委員会の、98年日本への勧告。
 特に日弁連が重要だと思っていますのは、国際人権法について弁護士を含めて研修をするということ。それから、日本の個人が直接国連の人権機関に人権侵害だと申立てができるという申立権の問題。更に、民訴法、刑訴法の上告理由のところに、条約違反などを追加すべきではないかということを提言しております。是非立法課題として検討いただければと思います。
 人権の問題だけではなくて、ビジネス・ローの分野でも3番のところに書きましたけれども、日本の司法を利用していただく、準拠法を日本にするとか、管轄のところ、あるいは東京での仲裁にしていただくと。絶対にこっちへ来いというわけじゃないですけれども、少なくともその可能性も考えていただけるような、内外に対する適切な情報提供。それからわかりやすいものにして、透明にしていくということも、他の検討会でやられる分野も多いと思いますが、国際化検討会で検討するようにしていただきたいと思っております。日弁連も国際仲裁の問題であるとか、あるいは弁護士の秘匿特権の問題等について、研究を温めているところです。
 そういう意味で、むしろ今申し上げたところは、日弁連のこれまでの活動というよりも、これからの活動ということになるんですけれども、是非検討会からの叱咤激励、あるいは十分なる御検討をちょうだいできればと思っております。以上です。

【柏木座長】 どうもありがとうございました。それでは、ただいまの説明につきまして、御質問がございましたら、挙手の上、発言をお願いします。

【乗越委員】 今御説明いただきまして、例えば法令の整備ですとか、人材の育成、システムの構築を各国においてやるのを支援されていて、非常によかったんですけれども、日本の法律に対する理解の促進とか、人脈をつくるとか、そういうふうな面について何か御意見おありでしょうか。と申しますのは、例えば私のおります事務所は、いろんな国から弁護士を受け入れて、1年なり半年なり2年なり、そういう長さでずっと事務所の中にいてもらって、自分たちの仕事を理解してもらうことによって、イギリスの事務所というのはこういうふうに働くのかということを理解した上で帰っていただくと。そういうふうに1年もいていただきますと、友達も増えるし、何かあったときにこの人に電話しようとか、そういうふうな関係もできるわけです。そういうふうなことを長期的にやることによって、例えばイギリスの事務所がほかの国の事務所とネットワークをつくって、いろんなことで仕事がしやすくなるという状況があると思うんですけれども、そういうふうな形で人脈をつくるとか、あるいは日本のシステムを理解してもらうとか、そういう点について何かお考えをお持ちでしょうか。

【柏木座長】 どなたに対する御質問ですか。

【乗越委員】 それでは、日弁連の上柳さんにお願いします。

【日弁連(上柳室長)】 御指摘のとおりで、そういう効果というのは十二分にあるんじゃないかと思います。特に踏み込んだ関係、継続的な関係、あるいは現地に日本の法律家を置くということで、少しずつかもわかりませんが、大分効果があるのではないかと思いますし、先ほど法務省の方からも御指摘がありましたけれども、何も日本語を使ってくれとか、日本語が優れているんだと言わなくてもいいんです。むしろ言わない方が、究極のところ、何となく日本のやり方がよさそうだと。あるいは日本の法律家の考え方が一番バランスが取れているようだと思ってもらえているのではないかと考えております。

【法務省(山下教官)】 先進諸国の弁護士同士の交流とか、法律家の交流というのは、多分簡単なんだと思います。アジア諸国から日本に1年間来てもらうというのは、どうしてもお金の問題がつきまとうわけです。貨幣価値や物価などを総合して換算しますと、10倍から20倍、ひどいところでは40倍違います。御指摘の意味での交流がなされているのは多分大学であろうと思います。名古屋大学であり、横浜国立大学であり、九州大学では、留学生を受け入れまして、1年、2年のマスターを取得するコースを持っています。そうしますと、彼らは日本のことについてある程度知って帰っていくわけで、日本のためのコンタクトパーソンになって帰っていく。ただ、残念なのは、大学で受け入れると、やはり実際に実務のところをやっているところとの交流が余りない。そうすると、法律というのがどういうふうに動いているのかというのを本当に知って帰るのかというところは若干疑問があります。ただ、そういうシステムは多分、長期のことになると大学、あるいは文部科学省も絡むんでしょうけれども、そういうことが一番可能性があるのではないか。ですから、アジ研、こちらでは2か月講習なんですが、そこでは寝食を共にしますので、非常に日本のファンになって帰っていきます。我々の方は1か月の研修でありますが、それでも相手の国を訪れたときには、非常に情報を取得しやすいですし、良好な関係がつくれるという状況にはあります。ただ、それだけでは多分だめなんでしょう。その後も継続的な連絡を取るような体制を作っていくように考えます。

【柏木座長】 ほかに御質問、御意見ございますか。

【下條委員】 今、人が非常に大事だというお話がありましたけれども、それと並んでお金も大事なわけですので、それぞれ法務省、外務省、日弁連で、どのようにお金を調達されておられるのか、予算規模と言いますか、その辺りをそれぞれお伺いできたらと思います。

【法務省(山下教官)】 国際協力部に関しましては、通常の予算は6,000 万円から7,000 万円くらいです。試験研究費が中心でありまして、研究に関する予算であります。ただ、研修を行うにつきましては、外国から招聘しなければいけませんので、それはすべてJICAの、9割5分くらいはJICAの枠組みでやっておるところでございます。あとはADBつまりアジア開発銀行と共同出資でやったり、研修を開いたり、あるいは韓国の大法院つまり日本でいうと最高裁になりますが、大法院と当所などがそれぞれ分担して交流しています。こういう形でしかできません。あとは外国に行っての調査研究というのは、職員の外国旅費ですが、これはかなり少なく、2人、3人くらいしか行けないような予算です。

【外務省(大塚事務官)】 外務省の方では、予算につきましては、法整備支援という特別の枠があるわけではございませんので、総額を出すためには、それぞれ個別に、専門家派遣とか研修生受け入れとか、個別のプロジェクトごとに分散しておりますもので、それを集計作業するのはなかなか大変であるため、今回は具体的な数字を準備することはできませんでした。

【日弁連(上柳室長)】 私どもでわかっておりますのは、カンボジアの弁護士会との協力、共同事業というのをJICA事業として実施をしていますけれども、これは今年度が年間約一千万円、来年度が3,000 万円です。これは少ないと言えば少ないんですが、来年度はそれで、先ほど申しました50人規模の弁護士養成校の予算半分くらいを賄おうとして、それが1,000 万弱でできるだろうと。それから、リーガル・クリニックも1,000 万弱である程度のことができるんじゃないかということで、そのくらいのお金でもかなりのことができる。日弁連自身が拠出している予算というのはよくわからないんですけれども、多分数百万円もないんだと思いますし、あとは個々の弁護士が自腹でカンボジアまで往復しているというのが実情です。

【柏木座長】 かなりの面はプロボノ的な面があるんですか。

【日弁連(上柳室長)】 実際にはそうです。ただ、現地に専門家として行っております弁護士は、1,000 万円強の給料をもらっていますので、不満を言えばきりはないですけれども、そこそこの生活はできると思います。

【柏木座長】 よろしゅうございますか。ほかに御質問は。

【波江野委員】 先ほど御紹介いただいた法務省法務総合研究所の資料の法整備支援のところで書いてある法整備の支援というのは、日本の法体系や手続などを相手に押し付けるものではないというのは全くそのとおりだと思います。しかし、、上柳さんが最後におっしゃったように、例えば準拠法の問題だとか、管轄の問題について、日本法が適用される可能性を拡大することは重要です。この会合の冒頭に座長もおっしゃったと思いますが、日本の法制度というか、日本の法律を輸出するようなことも法整備支援の中で取組むべきと考えます。そういう観点からいきますと、今伺った予算規模というのは、かなり力が抜けているのではないかという感じがいたします。金額としてどの程度が妥当なのかは申せませんが、もう少し長期的な視野に立って、戦略的と言うとオーバーですけれども、強化する方向で、例えば法務省などもお考えになって頂いては、という感じが致しますが。

【法務省(山下教官)】 法務省と言われると私が答える立場にはないのですが、直接に担当している部署としては、確かにこれは人員も足りませんし、お金も足りません。これは間違いありません。常に出てくる問題は、やはり日本の資格を持った法律家の絶対量が足りないということが一番大きな原因だと思います。実際にアジアの国に行ってみますと、欧米の法律家は、非常に沢山おります。特にアメリカのロイヤーはものすごく幅をきかせておりまして、しかも英語で、自分の言葉でどんどんできますので、英語を母国語としていない日本の法律家などは、それも微々たる数が行っても、全体量としては太刀打ちできない。そこで、我々がやっていることは、先ほどありましたように、参加型というか、単に条文を作ってぽんと渡すんではないんだ。相手と協議しながらやっていくんだ。そういう姿勢を示すことによって信頼を勝ち得てきたと思っておりますので、数は少ないながらも、日本法に対する期待は非常に大きいものがあると思っておりますので、予算なり、人なり、それが伴わないと、将来はせいぜいうまく行って今の状態を維持する程度であろうと思っております。

【柏木座長】 マンパワー的にも、資金的にもかなりお寒い状況であるということがよくわかったのではないかと思いますが、時間の関係もございまして、法整備の支援につきましては、これで終了させていただきます。この問題は後日更にこの検討会において議論することになります。本日の御説明と御議論も、後日検討の参考としたいと思います。それでは、次に弁護士と外国法事務弁護士等との提携・協働について、特定共同事業事務所からのヒアリングを行いたいと思います。まず、太陽法律事務所の前田陽司さんと、ポール・ヘイスティングスのジョン・スティードさんからお話をお伺いしたいと思います。

【前田氏】 前田でございます。私の方からひととおりのことを御説明さしあげて、その上でスティードがある程度補足ないしは追加の説明をするという形で進めさせていただこうと考えております。早速ですが、始めさせていただきます。
 我々はポール・ヘイスティングス・ジャノフスキー・アンド・ウォーカーという、ちょっと長い名前の外国法事務弁護士事務所と特定共同事業をしております。これはもともとカリファルニアのロスアンゼルスに本拠があったところなんですが、もともと使用者側、会社側の労働事件を出発点として、戦後に始まった割合新しい事務所でございます。カリフォルニアにあるという関係もあって、日本の関係の法律事務というのも70年代から扱ってきて、その関係で東京にも外国法事務弁護士事務所を設けられるようになった87年当初から事務所を開いております。
 資料に従って説明させていただきますが、まず、現在の事務所の概要についてですけれども、今のところ太陽法律事務所という日本の弁護士の集まりで弁護士が11名おります。それから、ポール・ヘイスティングス側のアメリカの弁護士の方が、外国法事務弁護士の有資格者が5名、その下で働いているアメリカの資格を持っている弁護士が13名という構成です。
 後の方にも出てまいりますが、我々がこの形で特定共同事業ということを始めたのが98年という割合最近の段階でして、しかも、既存の何人か弁護士がいる事務所と一緒にやるということではなくて、最初は弁護士1人から始まりました。具体的に言いますと、98年、99年辺りは弁護士が1人だけで、2000年で大体4、5名程度、去年でその倍くらいの10名、11名になったという履歴であります。我々の考え方としましては、日本で企業法務の分野で総合的に案件処理ができる法律事務所というのを目指してやっております。
 この陣容でははなはだ力不足ではあるんですけれども、将来的には日本法で日本の弁護士を中心としたプラクティスで、しかもアメリカの弁護士と一緒に仕事をしていくことで、依頼者にとっての価値を目指そうという考え方でやっております。
 次に、弁護士と外国弁護士のアソシエートなどの雇用関係ですが、これは日本の弁護士の方は太陽法律事務所に雇用されており、アメリカの弁護士の方はポール・ヘイスティングス外国法事務弁護士事務所に雇用されているという関係でございます。
 あと、弁護士の経験年数等については、資料の(3)に書いてあるとおりでございまして、おおむね太陽法律事務所の方は、一人28期の先生がおられますけれども、あとは大体40期代以降の、比較的若い世代が多くなっております。53期、54期辺りから研修所を出た新しい弁護士についても、研修所時代にリクルートして雇用するということも始めています。それから、外国法事務弁護士事務所の方は、外国法事務弁護士の資格を持っているのが、ごらんのとおり現在のところ5名ということであります。
 現在取り扱っております主な法律業務でございますが、ここに書いてございますのは、何でもかんでもやっているようなことが書いてあります。それは一面真実ではあるんですけれども、もう少し詳しく御説明申し上げます。もともと98年に特定共同事業を始めたのですが、98年と言いますと、前年に山一証券とか、長銀とか、いろんな大きな会社が破綻いたしまして、不良債権の処理が本格化し始めたというときでございます。その直後で、主に不動産を何とかして市場で売却しましょう。それから、市場で売却するに当たって、資金を調達しなければいけない。不動産もいろんなものがありますので、いわゆる権利関係がきれいなものばかりではございませんので、そういったものを整理しながら、どうやって売っていけばいいだろうかということが問題になっていた時代です。そのときにちょうど始めたもので、同じようなことが実はアメリカで90年代の初めのころに起こっていたわけなんですが、そのときの経験を生かして、日本の弁護士と共同しなから一番最初伸ばしていったのは、不動産の処理、不良債権の売却でありますとか、担保付き不動産の売却、それらの証券化といった分野です。
 それに加えて、企業法務関係、企業買収でありますとか、訴訟でありますとか、そういった分野も日本の弁護士の数が拡充するにつれて、徐々に伸ばしていっているという段階に今のところございます。
 (5)にいきまして、特定共同事業開始の経緯ということですが、先ほどちょっと申し上げましたけれども、既に60年代、70年代から、主にカリフォルニア、その他、アメリカ本土での事務所で、日本からアメリカに進出した会社向けのアドバイスを行っておりましたけれども、それを拡大するという意味合いもありまして、1988年に初めて外国法事務弁護士事務所を開設しております。ここにはポール・ヘイスティングス・ジャノフスキー・アンド・ウォーカーと書いてありますが、88年当時は、その当時の規制の関係もございまして、別の名前でありました。その後の10年間というのは、特定共同をやっていなかったので、主に日本からアメリカに進出していく企業、日本企業でアメリカで法律的な問題を持っている会社、あるいは訴訟を抱えている会社という依頼者の日本における窓口をやっておりました。1998年から太陽法律事務所との間で特定共同事業を開始して、1人から始めていったというのは先ほど御説明したとおりでございます。この前に、特定共同事業の制度が始まった直後に、一度別の弁護士の先生と特定共同事業ということでやったことがあったんですが、それはいろいろな経緯がありまして、一度終了いたしまして、その後でもう一度太陽法律事務所という形で始めたという経緯でございます。
 我々の事務所をつくっていく場合に、どういうような事務所にしようかということで考えておりますのが、依頼者から見て、一番よい、英語で言うと「シームレス」という、「継目のない」という表現をしているんですけれども、ここまではアメリカであるけれども、ここまでは日本であるというような違和感を依頼者の方が感じないで済むような仕事の仕方というのを、現在の法的な枠組みの中で行うにはどうしたらよいかということを考えて今までやってきております。そのためにやってきたことの1つが、既存の事務所と提携するのではなくて、中堅以上の弁護士経験、ある程度の経験を積んだ弁護士を、しかも特定の分野に一定の専門性を持っている人を外部からリクルートしてきて、それらの弁護士の間で新しい事務所をつくっていこうということです。その新しい事務所と外国法事務弁護士との間で共同関係を築いていこうというのが基本的な姿勢でございます。
 次に、事件の受任の手続、方式ですが、これは言うまでもないことかと思いますけれども、当然日本法の案件については太陽法律事務所と言いますか、日本の弁護士がやりますし、アメリカ法の案件については、ポール・ヘイスティングス側の米国法の弁護士が処理をするということになっております。これについても、実際の適用の場面では、そう簡単に割り切れるわけではないところがございまして、例えば日本法が準拠法になっていますけれども、契約は英語で、当事者も実際に出てこられるのは外国人の英語をしゃべる方だということもございます。そういうようなときには、しっかり日本の弁護士が日本法の本質的なところは見ておるわけですけれども、現に英語で作文をしたりとか、英語で交渉したりというのは、母国語を英語とする人の方が得意なのは決まっておるわけで、それはその場に応じて、アメリカの弁護士、日本の弁護士が、お互い得意なところを出し合いながら、一番効率のいいやり方でサービスをしていこうということでやっております。
 収入分配とか経費の分担ですが、一口で言いますと、みんなでいろいろ話し合って、それからもともと一定のルールがあるわけですが、そのルールに従って、収入の分配、経費の分担というのも行っております。言うまでもないことですが、太陽法律事務所が扱うべき案件については、収入は太陽法律事務所に入りますし、共同事業の案件とか、外国法事務弁護士事務所の案件については、外国法事務弁護士の口座に入るということになっております。そこのところが、あとでもお話ししますが、銀行口座の数が増えてしまって、依頼者が混乱するというような実務上の問題につながっております。
 それから、経費の分担についても同じように、ルールに従って、細かいところは話し合いで決めておりますが、1つ私の方から申し上げておきたいのは、こういう日本の若い弁護士が1から事務所を立ち上げようと、本当に独立しようとすると経費の面で非常に大変なわけですけれども、その面で、本当に細かいところで事務所の家賃でありますとか、本を買ったり、コンピュータを導入したりとか、そういう経費について、立ち上げの段階ではかなりポール・ヘイスティングスの方に負担してもらっているところがございまして、そこのところは我々の世代の比較的若手の弁護士にとっては非常にありがたいことではあります。
 それから、4.の運営に関する事項の決定の在り方でございますが、これについては、太陽法律事務所についてもパートナーがおりますし、ポール・ペイスティングス・ジャノフスキー・アンド・ウォーカー外国法事務弁護士事務所の方についてもパートナーがおります。そのパートナーで毎週月曜日の朝に集まって会議をやっております。そこで今のところは事務所が立ち上げの段階でございますので、かなり細かいところまで話し合って一緒にやっていくという状態です。それ以外の日々の事項については、ここにおりますスティードと私とで分担してやっております。ここでもお互いの得意な分野と言いますか、スタッフはみんな日本人なわけですが、日本人の人事の関係については私が担当しますし、アメリカの事務所との折衝とか、そういうことについてはスティードが担当するとか、それは適宜協力してやっております。
 特定共同事業に対するニーズということで、ここに1番、2番として書いておりますが、一口で言いますと、日本でビジネスをする外資系企業、ないしは外国企業というのがクライアントとしては一番多いです。ただ、依頼者にとっては、特定共同事業は何なのかという説明は理解が非常に難しいものでございまして、何回説明しても結局よくわかってもらえない面がございます。ただ、現実には依頼者の関心は、特定共同事業というのは何なのかというのを理解することよりも、むしろ依頼者自身が抱えている法的な問題をいかに解決してくれるかというところにあるわけです。それを解決してくれる限りは、別に日本の事務所であろうが、外国法事務弁護士事務所であろうが、特定共同であろうが、依頼者としてはそんなに気にしていないということは日々感じております。
 では、特定共同が扱うのに最もふさわしいものはどういうニーズを持っている依頼者なのかということですが、具体的に申しますと、日本を舞台にしたいろんな取引や訴訟について、一方でクロスボーダー、国境をまたいだ事件に経験がある日本の弁護士と、他方で日本の事情に精通した外国の弁護士とが共に働くことによって、クライアントに身近なと言いますか、クライアントに理解しやすいサービスを提供することができると考えておりますので、そのようなニーズを持った依頼者こと、特定共同で扱うにふさわしい依頼者と言えると思います。
 日本に外国人が進出しようとする場合、まず、言葉がわからないというのがありますし、文化や習慣もわからないし、しかも法律もわからないといういろんなハンディを抱えているわけです。そこで日本人にするのと同じような法律のアドバイスをしても理解できないわけです。なぜなら、法的アドバイスというのは勿論、弁護士としてやっているわけですけれども、そのアドバイスの背景には、このくらいのことはわかっているだろうという前提事項、文化とか歴史とか言葉を背景にして、これは常識でしょうということを前提にしてどうしても話しているわけです。その前提のところが違ってしまっていると、やはり理解できないということになりがちです。そんなときに、外国のことを少しわかっている日本の法律家と、日本のことを少しはわかっている外国の法律家というのが、お互いばらばらだったら大した力は発揮できないですけれども、一緒にやることによって、そこできちんと外国人と日本人との間を結び付けることができるということが言えるのではないかと思います。
 私どもは東京でやっていますから、日本に来る外国人という例が圧倒的に多いわけですが、日本から外国に出ていく日本人に対するサービスというのでも、やはり同じことが言えるのではないかと思います。
 最後に、資料の方には書いてなかったんですが、現在の特定共同事業のシステムについて問題点を考えてみましたので、そこについてお話しをします。
 まず、よく感じますのは、先ほどお話ししましたが、会計のシステムを両立てでつくらなければいけないとか、ファイルの保管を日本の案件と共同事業の案件と別にしなければいけないという瑣末な日常の問題が当然ございます。あと、感じますのが、特定共同事業ができる案件の定義が決まっておるわけでございますが、その定義に本当に合理性があるのなかという疑問がないわけではありません。例えば50%以上外国人が保有する会社の案件は共同事業にしてよいということがありますが、会社の持ち株の割合が変わる。株主が移動すると、今まで特定共同事業でできていて、やっていることは全然変わらないんですけれども、それがある日突然できなくなるということがあって、そのときに依頼者には、規制の関係で共同事業でできなくなったので、振込口座を変えてくれなどと依頼者に対して不便を強いることにもなってしまうということも発生しております。
 1つの考え方として、例えば依頼者の方が書面で共同事業にしてくれと要求したとか、あるいは共同事業にしないでくれと要求したときには、そのようにしてよいとか、そういうような方向性というのは考えられないものかなということを感じております。
 それから、よく直接のパートナーシップを組むのが必要かどうかということも議論されることが多いわけですが、その前提として、司法というもの、弁護士というものの役割は、我々のような企業法務に携わっている者だけの問題ではありませんので、刑事事件とか家事とか少年とか一般民事とか、生活に密着した部分もございますので、そちらの分野のことも考えて決めていかなければいけないことだろうなということを考えております。
 その前提として、ビジネス・ローだけの面だけを取ってみると、このまま、言ってみれば弁護士業界の保護を続けることが本当にいいことなんだろうかという疑問は私自身も感じております。それは弁護士にとっては今、保護されていると気持ちのいいものではあるんですけれども、そのことによって長期的に日本の法律事務所の国際的な競争力が失われていかないだろうか。現に日本国内でも大きな事務所が幾つかできてきているわけですが、そういったものが規制された環境の下で大きくなっていくと、それは寡占ということになってくるわけですし、そういった少数の事務所がマーケットを独占してしまうことになると、それなりの弊害が出てこないだろうかということも感じております。
 あと教育の面でも、ビジネス・ローの面だけを取ってみますと、日本の弁護士は、いろんな面で欧米に遅れを取っているということは否定できないところがあります。これは私は日本の弁護士として認めたくないんですけれども、それを感じることはあります。これはやはり日本が長い間、別に鎖国をしているわけではないんですけれども、ずっと閉じた社会で、法律よりも役所の規制の方が重要だったという背景もございますでしょうし、弁護士の数自体が非常に少ないということもありますし、あるいは、司法研修所が訴訟を念頭に置いた教育を行ってきたということもあるでしょう。いろんな理由があるでしょうけれども、ただ、現在規制がどんどん少なくなってくると、法律の役割というものが重要になってきていまして、それを担当する弁護士を育成する、訴訟だけではなくて、ビジネスの場面でいろんな法律事務を担当する弁護士を育成するということは、日本全体にとっても重要なものではないかと思います。そのための1つの手段として、外国の事務所が日本にやってきて、その中で日本の弁護士を啓蒙してくれるというとらえ方もできるのではないかと思います。
 ただ、そうは言っても、1つ注意しておかなければいけないのは、日本の法律家である以上は、日本法とか日本法の法律事務所について、若いときは訓練が必要でございまして、経験の少ない弁護士に対して日本法のトレーニングを十分に行うということは非常に重要なことです。その意味で、日本の法律家による日本の法律家のトレーニングを確保する目的でのある程度の規制というのは必要なのかもしれないなと思うわけです。
 いろいろお話ししましたけれども、私が感じておりますのは、どんな制度でも、それに携わる弁護士の自覚とか工夫次第でいろいろなことができるのではないかということです。
 ですので、すぐに完全な自由化をしろというのも、私個人としてはどうかなという面もございますし、逆に外国の事務所が来ると黒船が来たとか、不当な干渉があるのではないかということを恐れるのも、同じように間違っているのではないかと思います。弁護士というのは、制度上もそういう圧力には対抗する独立性を与えられているわけですし、例えば不当な干渉をしてくるような外国の事務所とは弁護士は提携しなければいいわけで、当然にそういった、もし不当な事務所というのがあれば、そういう事務所は淘汰されるのではないかと思います。そういうような日本の弁護士自身の活動とか、あるいは依頼者のニーズというものにできるだけ任せていただくということが望ましい方向なのではないかと思います。
 長くなりましたが、以上です。

【柏木座長】 時間がないので、重要なところ。つまり、今特定共同事務所をやっておられて、どういうところが困るかというところに絞っていただけると非常にありがたい。どういう規制を外したら、もっとよくなるか。

【スティード氏】 前田さんと前に話し合って、彼がちょっと私の意見を出したんですけれども、システムをインプルーブする方法はいろいろあると思いますけれども、なぜそのシステムを続ける必要があるかということは私ははっきりわからないんです。というのは、前田さんと同じような、本当に良い日本の弁護士、経験のある日本の弁護士と、今東京にポール・ヘイスティングスの18名くらいの外国の弁護士がスムーズにお客さんのため、仕事をしていると思っているから、特定共同事業の規制はいっぱいあるんですけれども、あってもどういう意味だろうかと、本当にどういうパブリック・インタレストが守っているのかということが私にはわからないのです。システムをもしパブリック・インタレストに関心を持っている弁護士に任せれば、自由に関係をつくって、無事にいけるんじゃないかという考え方なんです。

【柏木座長】 ちょっと時間がなくなってしまいましたけれども、よろしいですか。残りの時間が非常に少ないので、どなたか1つだけ御質問ありませんか。よろしゅうございますか。

【乗越委員】 それでは1点、確認を申し上げたんですが、今、スティードさんがおっしゃったのは、ポール・ヘイスティングス、太陽法律事務所としては、現在の状況の下でも何とかクライアントの要望に応えるべき努力はしているけれども、今ある特定共同事業という制度がどうして必要なのかが理解できないという趣旨と理解してよろしいですか。

【スティード氏】 そうです。

【前田氏】 私もさっき申し上げましたけれども、はっきり言うと、研修所を出たばかりの弁護士を雇って、全然日本法のトレーニングをしないで外国の事務所でやっていくというのはどうかというのは、パブリック・インタレストという意味であると思います。日本法のトレーニングをしっかり受けた人が日本法の法律事務をするというのは公益的に必要だと思うんですけれども、それ以外に何かはっきりした意味があるんだろうかというのは確かだと思います。

【スティード氏】 そうです。我々のお客さんが非常にソフィスティケーテッドの経験のあるお客さんですから、本当に彼らが使いたい弁護士を使うと思うんです。でも、彼らのニーズを理解するために、お互いに、前田と私か、私たちのような組合、ペアが必要じゃないかと思って、バリアなしでコミュニケーションをするのが非常にお客さんのために大事だと思います。

【齊藤参事官】 1点だけ前田先生にお伺いします。特定共同事業の目的の範囲内にある案件かどうかということで、ある種グレーゾーンで迷うことというのは結構ありますか。

【前田氏】 あります。グレーゾーンになるときは、私どもは特定共同はできないということに解釈することにしております。その方が我々にとって安全だからということなんです。

【柏木座長】 それでは、どうもありがとうございました。ここで10分間の休憩を取りたいと思います。議事の再開は3時45分になります。

(休  憩)

【柏木座長】 議事を再開します。引き続き、特定共同事業事務所からヒアリングを行いたいと思います。東京青山・青木法律事務所の近藤浩さんとベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所の垣貫ジョンさんにお願いします。

【近藤氏】 東京青山・青木法律事務所の弁護士の近藤と申します。本日はよろしくお願いいたします。資料3−5と記載されております資料で御説明申し上げます。まず私の方から特定共同事業の内容について簡単に御説明申し上げ、垣貫の方から、現在私どもが感じております特定共同事業の問題点等について、簡単に御説明を申し上げたいと考えております。
 まず、専門家の数でございますけれども、現在、弁護士53名、外国法事務弁護士9名が所属しております。外国法事務弁護士9名のうち、ベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所に所属するものが7名おります。そのほかに外国において資格を有する弁護士が11名おります。外国法事務弁護士の原資格国法、もしくは指定法については、米国、イギリス、オーストラリア、フランス、香港と多岐にわたっております。経験年数につきましては、まず弁護士については18期から54期まで、外国法事務弁護士に関しましては、原資格国における資格取得が1976年から1996年という形になっております。
 アソシエート等の雇用関係でございますが、弁護士、外国弁護士、2名の外国法事務弁護士を含みますが、いわゆるアソシエートという勤務弁護士に関しては、全員東京青山・青木法律事務所に所属しておりまして、ベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所との間の雇用関係は存在しておりません。これについてはまた後ほど御説明を申し上げます。それから、主な業務に関しては、一般的な特定共同事業事務所が従事しているような法律実務という形になるんでしょうが、企業法務一般、M&A、金融証券、大型プロジェクト、国際税務、知的財産権・情報通信技術、紛争解決等を扱っております。
 特定共同事業開始の経緯につきましては、これも御承知の方が多いと存じますけれども、いわゆる特定共同事業制が法律によって施行される以前から、東京青山法律事務所、その当時はそのような名前でおりましたが、ベーカー&マッケンジーと提携関係がありましたことから、特定共同事業が、ある意味でそのまま組成されました。ただ、特定共同事業を組成する際に、私どもの事務所としても、必ずしもそういう理解ではない経験が以前あったことから、言わば特定共同事業という内容についての定義化が余り行われていない状況において、ある種法律を厳格に運用した過程で、組織の組成を目指しまして、所内のルール、それから特定共同事業運営のルール、それから事件の受任、それから配転のルール、費用等の分配のルール等について、ここにおります垣貫が中心になりまして、かなり詳細にわたって策定いたしまして、その手続に従って現在運用しております。
 特に運用のルールに関しましては、日本人の弁護士というよりも、東京青山・青木法律事務所の方で雇用する外国法事務弁護士の方に周知徹底する必要があるという形で、特定共同事業の運用において、特に外国法事務弁護士、それから外国法事務弁護士のパートナーと外国法事務弁護士が仕事をする場合、あるいは外国法事務弁護士のパートナーと日本人弁護士が、日本人パートナーと日本人弁護士が運用する場合等についての弊害の除去を目指しましして、かなり厳格な運用をしております。
 先ほど申し上げました特定共同事業所の方には、いわゆる勤務弁護士が存在していない大きな理由の1つとして、受任事件の手続方式のところに記載してございますように、極めて例外的に純粋に外国法事務弁護士の原資格国法、もしくは指定法に属する分野のごくわずかな案件を除きまして、いわゆるベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所が単独で処理する案件というものを認めておりません。したがいまして、事件として存在しておりますのは、いわゆる東京青山・青木法律事務所が単独で行う、いわゆる純粋な国内案件と、特定共同事業が行う渉外案件、この大きな2本の柱で運用しております。ただ、事件の処理のボリュームとしては、純国内案件というものは非常に少なくて、かなりのボリュームが特定共同事業で扱う渉外案件という形になっております。
 収入分配・経費分担の在り方についても、先ほど申し上げましたように、特定共同事業組成の際にルールをつくりまして、先ほど言い忘れましたが、いわゆるレターヘッドですとか、名刺の作成の仕方についても、作成当時だけではなくて、その利用についてもかなり厳格な作業を行ったわけですけれども、収入分配・経費分担についても、基本的にはそのときにルールを策定いたしまして、そのルールではカバーし切れないという問題について、次に御説明申し上げる経営委員会で処理を行うという形にしております。
 特定共同事業の運営に関する事項の決定の在り方ですが、東京青山・青木法律事務所から3名、ベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所から2名のパートナー弁護士で構成する各々の経営委員会がそれぞれのパートナーシップの経営についての責任を負っております。更にそれぞれのパートナーシップの経営委員で構成いたします合同の経営委員会というものを有しておりまして、両パートナーシップに共通して問題となる点については、この合同経営委員会で協議・決定する形になっております。ただ、当然最高意思決定機関である各々のパートナー会議というものが存在しておりまして、更に合同パートナー会議というものが存在しております。
 したがいまして、いわゆる純粋なジョイントベンチャーという形の運用に近い形を取っておりまして、想定されるものとして、2つのパートナーシップの意見の食い違いというものが想定されるわけですけれども、ごく最近、この意見の食い違いが発生しそうになる案件があったわけですけれども、最終的には日本的な解決をいたしまして、全員一致という形で落としているというのが今のところの実態でございます。
 特定共同事業に対するニーズですが、これは次のペーパーで御説明申し上げるところとかなりオーバーラップする形になりますけれども、私どもの事務所で扱う、いわゆる日本弁護士のみで行う伝統的な純国内法案件を除きまして、私どもの事務所で取り扱う案件の大多数は案件の性質、依頼者の国籍、使用言語、準拠法等のすべて、またはいずれかの点において、渉外的要素を含むものでございます。
 ただ、このような渉外的要素を含むものの案件の処理においては、依頼者サイドから見た場合については、特定共同事業の組織がいかなるルールと形態によって運営されているかにかかわりなく、仕事の案件の処理の過程に対するニーズというものが発生することが多うございます。ここで言う依頼者は、いわゆる日本において企業活動を行う外資系企業、あるいは海外での事業を展開する日本企業に限らず、例えば日本企業の間の国内案件、私どもが最近取り扱いました案件で、日本企業同士の合併でございましたが、類似の業種を営んでいた関係で、かつ両社とも国外に関係会社、もしくは子会社等を有していた関係で、日本における合併の処理を国内だけではなくて、同時に海外での法的な手続のインセンティブが必要になった案件がございました。
 いわゆる日本企業の、純粋に日本法に基づく案件の処理を必要とされるようなケースであっても、欧米における同種の案件のノウハウと言うんでしょうか、そのようなものが必然的に必要となる、ある種の先端的な法務というものは、うちのマーケットにおいては非常に多くなってまいりまして、その部分については、現状の日本の弁護士だけでは対応し切れない。場合によっては、そのような経験を有する外国法事務弁護士が純国内案件についても、彼らの経験やノウハウを注入して処理をするというニーズが依頼者サイドからは少なくともかなり高くなっていると認識しております。
 それでは、現行の特定共同事業の問題点、改善を要望する点については、垣貫の方から御説明を申し上げます。これから御説明申し上げる点は、私どもが先ほど申し上げた所内のルールにしたがいまして、これまで数年間特定共同事業を運営している過程で、日々感じてきた使い勝手の悪さと言いましょうか、そういうものをある程度網羅的と言いましょうか、総花的に整理したものでございまして、いわゆる事務所として正式にこれを皆さんに、私どもの見解としてお見せするようなものかどうかについては、実は余りまだ自信がないんですけれども本日の立会人のお話をいただいたときに、この使い勝手の悪さを忌憚のないところをお話しいただきたいという話でございましたので、私どもの感じていることを率直に本日はお話し申し上げる形にしたいと思います。

【垣貫氏】 ベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所の外国法事務弁護士の垣貫です。近藤弁護士が申し上げたように、問題点についてのレジュメは、我々の所内の手続で十分陳述されたものでなく、余り時間がない関係で、ほとんど2人で作成されたもので、そういう関係もあって、私がここで朗読させていただきたいと思います。使えない日本語で字の間違いも出てくるかもわかりませんが、それは御理解いただきたいと思います。
 まず、「特定共同事業の目的が制限されており日本の法律事務所及び外国のローファームが自由に提携できないことに起因する問題点」。
 「外国法事務弁護士並びに外国法事務弁護士が所属する事業体(ローファーム)の知識や経験を活用できる分野が限られてしまうことによって、特定共同事業体制が、依頼者にとっての真のメリットである質・量ともに実した法律サービスの一元的な提供を促す結果になっていない。例えば、外国法事務弁護士及びそのローファームが持つビジネスロイヤーとしてのストラクチャード・ファイナンスにおける取引構造の策定、企業買収におけるデューディリジェンスの方法や多国間の知的財産紛争の戦略構築などの経験やノウハウを必要とする案件であっても、当事者の国籍や準拠法によって特定共同事業一体として取り扱うことができない案件が存在する。」。
 「外国法事務弁護士が関与できず、特定共同事業の目的として処理できない日本弁護士固有の法律事務が存在することから、日本弁護士と外国法事務弁護士並びにそのローファームとが完全に一体化した組織を構成することができず、日本弁護士と外国法事務弁護士並びにそのローファームとの協同行為からもたらされる相乗効果に限界がある。例えば、依頼者は、形式的に2つの別々の事務所・ローファームから助言などの法律サービスの提供を受けるので、その結果、依頼者のニーズを充分満足できず、特定共同事業及びそれを構成する日本弁護士事務所と外国法事務弁護士事務所並びにそれが所属するローファームが依頼者から信用・グッドウィルを獲得することが困難であり、その信用・グッドウィルが分散してしまう。」。
 「特定共同事業の表示に起因する問題点」。我々は、親密にこのルールに従って、特に特定共同事業を営んでいる事務所の中で、当事務所は、一番正確にそのルールに従って便箋とか名刺を作っているというふうに評価されているというか、批判をされているという感じもしますが。
 「「OO法律事務所、XX外国法事務弁護士事務所、特定共同事業事務所」のように別名称を列記することが義務付けられている為、夫々の事務所並びに外国法事務弁護士事務所が所属するローファームが密接な協力体制のもとに活動する共同事業としてのアイデンティティ及びメリットが依頼者にとって完全に伝達されないおそれがある。」。
 「法令上の義務を履践する限り、名刺、便箋(レターヘッド)、その他書類上や入り口の看板の記載事項が不必要に増え(特に日本語・英語を併記した場合)、かえって顧客を混乱させ、依頼者へは常にその組織構造につき説明が必要となっている。特定共同事業の目的に該当しない、日本企業同士の純国内法案件の為の、日本弁護士事務所のみの便箋も用意しなければならず、所員によるその使い分けが困難であり業務遂行に支障をきたし、更にアイデンティティ、グッドウィル、依頼者による信用等の形成へマイナスに作用するおそれがある。」。
 「運用上、電話応答の際の名称が不完全にならざるを得ず、依頼者の混乱を招く結果となっている。」。要するに、我々が、法律上電話に出るときに、「東京青山・青木法律事務所、ベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所、特定共同事業事務所」まで全部言おうとしたら息切れしてしまう。
 「日本弁護士事務所と外国法事務弁護士事務所との制限的共同事業であることに起因する問題点」。
 「会計の分離を強いられる為、労力とコストの無駄が生じ、最終的に依頼者もこれを負担することになる。」。
 「特定共同事業は一体としての雇用ができないため、外国法事務弁護士事務所又は日本弁護士事務所はコストの重複を避ける為、会計以外の機能を特定共同事業相手の事務所に依存することになり、アシスタントその他のサポートスタッフはすべて間接雇用となり、管理上支障をきたすおそれがある。」。
 「専門家についても、特定共同事業事務所における日本の法律事務所の日本弁護士パートナー、日本弁護士アソシエート又は外国法事務弁護士アソシエート、外国法事務弁護士事務所の外国法事務弁護士パートナー、外国法事務弁護士アソシエートは、各々、自己が遂行する業務の受任関係、性質、指示・監督・報告関係などを明確にしなければ作業を開始できず、適正かつ迅速な法律事務遂行の障害になるおそれがある。」。
 「同様に特定共同事業事務所における各々の事務所の日本弁護士パートナー、日本弁護士アソシエート、外国法事務弁護士パートナー、外国法事務弁護士アソシエートにとって、自分の組織における立場並びに外国ローファームとの関係などが不明瞭な為、帰属意識が曖昧になり、かつ、組織への貢献度の斟酌等において、経済的不公平が生じることがあり得る。」。
 「意見書、報告書、その他依頼者等のために作成する書類はニ事務所の連名形式となり、特定共同事業に対する理解と信頼を得ることが難しい。」。
 「その他の問題点」。
 「別組織としての別個に形成される構成員のアイデンティティが、質・量ともに充実した渉外法律サービスの提供を共通の目標とした統一事業体の妨げとなる心理的障壁の原因となっている。」。
 「依頼者の不満」。
 「同一案件の中でも案件の性質により接触する担当者が交代せざるを得ない場合があり、依頼者サイドに混乱と不便が生じるおそれがある。」。
 「担当者が自分の資格によって対応するか、別の専門家に対応を依頼するかは、通常依頼者の関知するところではないにも関わらず、特定共同事業において執務する担当者側の事情により、依頼者は案件に関与する各専門家の特定共同事業における立場や専門分野を踏まえた上で随時担当者を選択することを強要されてしまうおそれがある。」。
 「1つの窓口を通じてすべての法的ニーズを満たす利便性を提供すべきところの共同事業体制がその機能を十分に果たしていないのではないかとの懸念がある。」。
 「特定共同事業における訴訟事件の処理に関する問題」。
 「実質的に外国法事務弁護士が戦略構築や技術ノウハウの面などで貢献できる、多国間の紛争事件であったとしても、特定共同事業の目的範囲外であるという理由で一体として直接活動できず、外部者として自分の提携先である日本弁護士事務所に対して法律サービスを提供するという、合理性のない業務遂行形態になってしまう。」。
 これについて簡単に補足させていただきたいと思いますが、これはまさしく私の専門分野と関係します。私は知的財産紛争が専門ですが、幾つかの国における特許侵害訴訟の場合、相手方は例えば日本の企業で、日本に対応特許が存在している場合、我々は外国における訴訟の戦略的な面で日本の特許庁に対して、ダミーを使って、要するに、我々が異議申立て、あるいは無効審判請求をすると、相手方にわかってしまうから、ダミーを使って、要するに国内法人とか国外法人を使って、そういう無効審判請求をすることがありますが、そのダミーを使うか、依頼者が自分の名前でやるかという選択だけで、特定共同事業の対象になるかならないかという変な結果になってしまいます。これは何回か私は経験したことで、この場合、私は外部から当事務所の弁護士であって、弁理士である先生に対して、外部の人として指示を出して、その弁護士に対して自分から請求書を出さなければいけないという体制を取らなければいけないというような、特定共同事業の変なシステムとしてその問題点があります。レジュメに戻らせていただきます。
 「同一事件に関して、特定共同事業であるにも関わらず、外国法事務弁護士は日本弁護士を介して間接請求する形をとらざるを得ず、依頼者の利便性の点での懸念がある。」。
 「その結果、特定共同事業事務所を構成する日本弁護士事務所及び外国法事務弁護士事務所並びにそれが所属するローファーム間で不平等な報酬分配が行われる可能性がある。」。
 「改善を求める事項及び解決策について」。
 「日本弁護士と外国法事務弁護士並びにそのローファームとの提携・協働による包括的、総合的な法律サービスの提供を実現可能にする為に、日本弁護士と外国ローファームの自由提携に対する制限を撤廃」すべきだと考えております。

【柏木座長】 ありがとうございました。それでは、ただいまの説明について、御質問がございましたら挙手の上、お願いいたします。

【下條委員】 特定共同事業の説明ありがとうございました。今、いろいろ問題点を挙げられましたけれども、これは要するに、3つのマター、貴事務所の場合は2つしかないというお話ですけれども、原則的には日本弁護士マターと、外国法事務弁護士マターと、特定共同事業マターの3つがあるわけであります。仮にこの3つが1つでできる、つまり、特定共同事業の目的制限がなくなれば、今おっしゃったような問題は解決するんでしょうか。

【垣貫氏】 よく言われることは、これは職務範囲の問題か、特定共同事業の目的の問題かという質問をされますが、我々は当然事務所の細かい部分で、自分の職務範囲を超えないように、日常的に業務を遂行しておりますので、今、私が申し上げたような問題点は、ほとんど、あるいは全部は、我々は別々の便箋、別々の看板、訳がわからないような名刺とかを全部なくして、1つのファームとしての名前使うことができるようになれば、そういう問題は解決されると思います。そして、そのファームにおいて、質問するそれぞれの専門家は自分の職務範囲を守らなければいけないんですが、それはどんな事務所でも、弁護士であっても、外国法事務弁護士であっても、専門家としての義務であって、責任でもありますので、それは専門家に任せなければいけないと思います。

【下條委員】 そういう場合は、責任関係などはどうなるんでしょうか。つまり、本来日本弁護士マターであったことも1つになってしまうと、外国法事務弁護士の方も連帯責任を問われるとか、そういうことになるわけでしょうか。

【垣貫氏】 現在、連帯責任を負わない事件は、近藤弁護士が先ほど申し上げた1割未満の純粋な国内事件だけです。それは我々のお互いの契約上はそういう責任を負わないことになっておりますが、実際上、便箋とか名刺にベーカー&マッケンジーという名前が載っている以上、そういうふうに我々は、例えばシカゴで訴えられとすれば、東京青山・青木法律事務所の弁護士が、弁護士としてやっていて、特定共同事業の対象とならなかったということで、我々がディフェンドをしようとするのは非常に困難だと思います。現在でもそうです。

【下條委員】 そうすると、連帯責任があるということから見て、何らかのコントロールというか、そういうものはお考えになっているわけですか。

【近藤氏】 すみません。もう少し質問を。

【下條委員】 もし仮にそういう境界がなくなって目的の制限がなくなってしまうと、全部1つで行われる。そうなると、例えば昔は日本弁護士マターであったことについても、ベーカー&マッケンジーが責任を負うようになると考えられます。今は完全に別々の事務所ですからそういうことはないわけですが。

【近藤氏】 恐らくそのような形態にはならないと考えております。基本的には障壁を取ると言っても、依頼者のニーズから見れば、先ほど前田先生からもありましたけれども、シームレスを提供するということで、内部的には日本法に関しては、日本人のパートナー弁護士が勤務弁護士に管理監督関係というのは基本になるんだと思いますので、恐らく案件の処理の過程において、外国法事務弁護士事務所のパートナーが、日本人勤務弁護士を、日本人弁護士パートナーを入れないで処理するということは、現在のルール上も、あるいはルールが撤廃されて自由化されたとしても、そのような形は起きない。それはルールの問題というよりも、提供する法的サービスの品質の維持の問題がございますので、これは外国法事務弁護士が日本法の法的な解釈を要する部分について責任を負うことはできないというのが我々の基本的な認識ですので、その枠組みは変えないということです。

【下條委員】 例えば完全に日本弁護士マターである日本の訴訟、そういったものについて、例えば保全処分するとか、そういうことは完全に日本の弁護士に任される。つまり、シカゴからコントロールするとか、そういうことはないと考えてよろしいんですね。

【近藤氏】 そうですね。ベーカー&マッケンジーそのものの組織については、日弁連の資料の中でも、ほかの合弁のローファームと人数の点で一緒に列挙されておりましたので、若干、皆さん誤解をお持ちではないかと認識をしているんですけれども、ベーカー&マッケンジーそのものは組織の本質として、どちらかに本拠があって、例えばベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所も、ベーカー&マッケンジーの本店があって、資金的な援助を受けている支店であるということでは全くございませんで、基本的にはベーカー&マッケンジー組織そのものが緩やかな集合体でございますので、現時点においても、ベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所がシカゴからコントロールされているということは一切ないんです。これは制度の枠組みがあってもこれは変わらないという認識でございます。ベーカー&マッケンジーは本店というものが存在しておりませんので、全体のネットワークの中で選任をされたパートナーの代表がネットワーク全体の運営に関する事務を経営委員会という形で組成して運営しているものでございますので、何か組織の中枢部の判断がローカルなレベルにおりてきてコントロールするということは、現在の制度の枠組みが変わったとしても起きないというふうに認識しております。

【下條委員】 そうすると、日本では外国法事務弁護士と日本弁護士がパートナーになるという場合に、今までは確かに独立した別々の事務所だったから独立性が保たれていたわけですけれども、そのように仮に一緒になったとしても、独立性というか、外国法事務弁護士から、例えば保全処分を行うということについても指示を受けることはないとか、そういった独立性は保たれるという理解でよろしいでしょうか。

【近藤氏】 そのようなことです。

【垣貫氏】 我々は自分の事務所の組織からしか話ができませんが、我々の組織はそういう体制を取っておりませんで、シカゴというのは、我々の心臓部というか、コンピュータの中央部とか、会計とかがあるだけで、現在のチェアマンはパリ事務所の女性の弁護士であって、前はシドニー事務所のオーストラリア人弁護士であったし、別にどこかが我々の本店という意識は全くありません。

【道垣内委員】 今のやりとりで対応の差は明らかだと思いますが、先ほどおっしゃった例で、国際的な特許の侵害で、いろんな国で侵害があって、日本法人が日本法人を相手取って訴訟を起こす必要があると判断された場合に、そこは日本弁護士を使わなければいけないということになるのは変わらないわけですね。

【垣貫氏】 それは変わりません。行政手続の話だったんですが、日本の弁護士が特許庁に対して異議申立、無効審判請求をするということは、それは当然日本の弁護士は、別にダミーとして使うんじゃなくて、我々のルールではそれは日本弁護士が担当する。

【道垣内委員】 今の状態も、制限がなくなった場合、どこが変わるんですか。

【近藤氏】 一体としてできるということですね。
 東京青山・青木法律事務所の純国内案件の訴訟事件に対して、ベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所の所属事務所が、こういうふうに横からサポートするんじゃなくて、1つのユニットとして提供できるということです。

【乗越委員】 要するに、日本の訴訟についても、勿論日本の弁護士の方がやられるけれども、ベーカー&マッケンジーが他国で有しているノウハウがそれに注入できる可能性があるということですね。

【近藤氏】 そういうことです。

【下條委員】 確かに近藤弁護士のように非常に経験豊かな日本の弁護士だったら、外国法事務弁護士から影響を受けることはないと思われますけれども、これは制度の問題と考えておりますので、先ほども前田先生は、日本法として、日本の弁護士として、ある程度トレーニングを受けた人じゃないとそういうものは難しいんじゃないかとおっしゃいましたけれども、制度の問題として、日本の弁護士の独立性を担保するとか、そういう面で何かお考えはありますか。

【近藤氏】 これは制度の問題なのか、先ほど私どもが申し上げた案件処理の過程における処理の適正のための方策なのか、その辺のところは若干私も整理をされておりませんけれども、日本法の弁護士としての案件の処理を必要とするのであれば、必ず日本人のパートナー弁護士が関与していないと処理をさせてはいけないというふうに認識しております。ですから、そのような自由化ができたとしても、外国法事務弁護士事務所のパートナーと日本の勤務弁護士がセットで日本の案件を処理するということは望ましくないと考えておりますので、これはどのような制度設計が自由に行われたとしても、そういうことはしないと。そのようなことです。

【下條委員】 現在、特定共同をやる場合に、日本弁護士としては5年の経験が要求されていますけれども、そうすると、それは維持した方がいいというお考えですか。

【近藤氏】 私の個人的な意見でございますけれども、それは必要なんじゃないかなと思っております。

【波江野委員】 レベルの低い質問をさせて頂きます。先ほど垣貫さんから、名刺、レターヘッド、看板などに日本の法律事務所名、外国法事務弁護士事務所名、そして特定共同事業事務所の表示と、3つ書いて大変だという話を伺いましたが、諸外国では、今おっしゃったような制約というのはないのでしょうか。

【垣貫氏】 以前はヨーロッパ各国にはあるところとないところがあったんですが、ほとんどのヨーロッパの国では、我々ベーカー&マッケンジーという名前は使えるようになってきております。大体10年前から、アムステルダムとかブリュッセルとか、いろんなところ、現地の名前を使っていたところも、10年くらい前からベーカー&マッケンジーと名乗れるようになっています。現在、ローカルの名前を使わなければいけないのは、開発途上国くらいです。東ヨーロッパとか南米とか、それくらいです。

【近藤氏】 1つ補足させていただきますと、恐らくこの名称の問題は、2つの組合が合同の経営委員会で決めるときに、もしかしたら意見が分かれるんじゃないかと考えているものがございまして、私どもは東京青山・青木法律事務所という名称に関しては、相当の強いシンパシーを持っておりまして、ベーカー&マッケンジーという単一の名称の使用が自由化されたとしても、当然のそのような形に行くとは考えておりません。むしろ東京青山・青木法律事務所の方に統一して進めるんじゃないかと。日本ではその方がブランド力があるというふうに我々は申していて、彼らはそうではないと。御承知のとおり、昨年5月に青木総合事務所と合併いたしまして、青木のブランドは今後守っていかなくちゃなりませんので、そういう点もございます。ただ、確かにいろんな部分で混乱が起きているというのはそうだろうなという感じはしています。

【垣貫氏】 ちょっと補足させていただきたいと思いますが、大ファームと提携をつくって、自分はコントロールされてしまうというふうに心配されている方が随分いらっしゃるんですが、我々ほど大きいところはほかになくて、私や近藤弁護士がコントロールしているようには見えないと思います。

【乗越委員】 下條委員の質問に関連するんですけれども、今、聞かせていただいた御意見を整理しますと、日本法について誰がアドバイスできるのかという資格の問題と、それから資格のある者同士がどういうふうに結合すべきかという問題というのは、分けて考えるべきだという御意見だと考えてよろしいですか。

【近藤氏】 そうです。

【柏木座長】 ほかに御質問ございませんか。それでは、どうもありがとうございました。では、次に在日米国商工会議所からのヒアリングを行いたいと思います。現代表のロバート・グロンディンさんと、金融サービス委員会委員長のアラン・スミスさんにお願いします。

【グロンディン氏】 今紹介されましたグロンディンと申しますが、ほとんど国際化検討会の方々は存じ上げていますが、実はACCJの代表を12月いっぱいまでは2年間会頭として、これはあくまでもボランティア活動ですので、本業は外国法事務弁護士で、結構皆さんと仕事をさせていただいたり、一緒にスピーチをしたり、いろんな角度から一緒になっていると思いますが、もう一つの説明を付け加えますと、今日はあくまでもACCJ代表として呼ばれて、できるだけそっちの方のビジネス・サイドの面から説明させていただきますが、個人的に外国法事務弁護士に頼んでいる中、私も、昔ベーカー&マッケンジーのパートナーでもあり、ホワイト・アンド・ケースのパートナーとして、国際的な組織の在り方、実務に深く入っていますので、時間があれば下條先生の質問等に関しては補足をさせていただきたいと思いますが、そちらで区分けをできるだけ早くはっきりしていきたいと思います。
 弁護士がACCJの会頭として務めましたのは、非常に異例なものなんですが、53年の歴史の間に私は3人目で、50年代に一人と、71年、私が3人目です。80年代初期から、外国法事務弁護士に関する問題が相次いでいますけれども、その所期段階からACCJが非常に深い関心を持っていました。85年ごろからも意見書を出したり、USTRといろいろ協力して、できるだけ日本の法律サービスの開放の方向で依頼を出し続けています。たしか83年ごろだと思いますけれども、その当時に、もともとアメリカのジャノス・ノーディングがACCJの会頭のときに、日弁連を訪問して、そういったお願いをした次第がありまして、門前払いで追い返されたという面白い経験がありました。ずっとそういうポジションが続いてきているというのは、我々のメンバーの中に、勿論、弁護士がいますけれども、ビジネス・サイドから、日本でのビジネスに対する弊害を感じていますからこそ、こういった問題に関連してサポートするということでずっと継続的に意見書を出してきています。
 最近、特に焦点が合わされたのが、対日直接投資が増えている中に、そういったサービスの需要がより高まっているということが1つと。その結果、資本市場のグローバル化によってそのニーズが高まっているということで、私が15分くらい時間を取って、その後うちのファイナンス・サービスの委員長のアラン・スミスが、そちらの立場から説明をしていきたいと思います。
 特に最近感じられるのが、グローバル化の中のニーズなんです。特に金融界では見られますけれども、それ以外でも企業のニーズとして、国際的な合併、ジョイントベンチャー等々、さっき垣貫さんが言ったような世界的な訴訟案件がよく見られます。その中で、どういうふうに問題を解決するかというのは、各国の法律が同時に掛かってくるものなんです。現在、どうしても日本法、外国法が分けて考えなくちゃいけないというのは、毎日の実務の中でそういうふうに解決策が生じてこない。同時にいろんな問題を解決する中、また、お客さんの目標を達成するためには、どうしても協力体制を持って、解決策の交換を持って解決を図る。
 特に国際的な案件の中に、一番重要な1つは、準拠法を決めること。準拠法を決めるに当たって、日本の資格者が助言しなくちゃいけないのか、外国の資格者が助言するのか。どっちが有利なのかというのを決めるに当たって、アイデアを出し合って比較しないと決められないものとしてよくあります。私の解決の中の一番好きな部分でもありますけれども、非常に多くそういった問題が出てきます。特にヨーロッパ市場、アメリカ市場で債権、エクイティー、上場するに当たって、準拠法の問題等々ありますから、それの1つのニーズが、例えば15年前と比較してかなり高まってきているということは事実だと思います。
 そして、経済上、会社そのもの、お客さんそのものが国際化されている、グローバル化されているというのも、圧倒的に影響されます。やはりインハウス・カウンセルとして世界の問題が発生している場合に、各国で直接違う事務所を選ぶというよりは、世界的なネットワークを持って1か所に委ねて受任していただいて、その問題の処理を責任を持ってやっていただくということが非常に傾向としては増えています。
 その中に最近の国際的な経験から見て、法曹界に対する、そういった影響がどこにあるかということは、一番いい例は、多分、ドイツとフランスだと思います。日本のシステムと密接な関係があるドイツを例に上げると非常に面白いと思います。
 13年前までは、ドイツでは法律事務所が1か所に限定されていて、非常に小さい存在でありました。州をまたがって、2か所、3か所のオフィスを持ってはいけないということがありまして、ドイツの最高裁がそのルールを廃止して、たった13年なんです。それまでは、多分、ドイツの法律事務所が、現在の日本の法律事務所の規模と大体同じもの。長島・大野が当時の法律事務所より大きいくらいの規模になってきていると思います。そういった国内のルールが変わって、数か所のオフィスを持てるようになりましたら、すぐ州の境をまたがって、ドイツの国内で、コンソリデーションというか合併が相次いであって、それなりの規模、400 〜600 くらいの人数のドイツの法律事務所が10年間位で発生しました。
 一番ドイツの法曹界に対するショックがあったのが、次のステップにつながったものは、ダイムラー・クライスラーの合併の案件です。実はその案件の中に、ドイツのダイムラーベンツのインハウス・カウンセルと、それ以外はアメリカの法律事務所が全部誘われて処理しました。ドイツの国内問題においては、ダイムラーベンツのインハウス・カウンセルが全部処理しましたということは聞いています。その当時に、ドイツに対する一番大きい影響のある法曹の案件は、残念なことにドイツの事務所が1つも誘われていないことが非常に法曹界に対するショックで、その後、直ちに国際的なネットワークを持っている国際事務所と、参加の波が始まったことが今でも続いています。
 我々、ホワイト・アンド・ケースも、9番目に大きい法律事務所を1年半前に吸収合併によってホワイト・アンド・ケースの中に入っていただきました。同じような影響がフランスも及んでいまして、今、フランスの法曹界が大分変わりつつあると一般に紹介されています。こういった中で、グローバル化されていることによって迅速にクオリティーの高い付加価値を提供できるようなものが競争力として保たなければいけないことが実証されていると思います。
 先回、日弁連が出した資料の中に同じ影響でアカウンティングの分野でビッグ5について、昔はビッグ10だったけれども、ビッグ5になって、間もなくビッグ4に縮小されてしまうという現実は、同じような国際的なグローバル化の影響から発生しているものなんです。クライアントのサイドから国別で全然、自己で処理しなくちゃいけないというのは、会社にとっては余りにも大きな負担ですから、会社に対応できる組織がどうしても必要になってくるというのが、言わば自然な行き方ではないかと思います。
 その中に、会社なりの規模、案件なりの規模に対応できる法律事務所じゃないととてもつとまらないというのが1つあります。日本国内においても、NTTが民営化されたときに、会計事務所の選択に関しても同じことがありました。当時は2つの会計事務所を選んだというので大騒ぎになって、世界で一番大きい会社にとっては、人手がいないと我々の監査ができませんということで、それによって日本国内における会計事務所の合理化が図られて、今でも続いていると思います。
 背景にはそういうことは、どこの国でも見られる傾向があって、いずれこれは日本に来ることが確実であると私は思いますし、我々のメンバーも思っています。
 その中で95年以来、特定共同事業ができるだけ必要な問題に対応できるためつくりましたが、そこはどういう不満があるかということで、先ほど垣貫さんやポール・ヘイスティングスの方々が説明していますけれども、一番今、日本で問題になっているのが規模なんです。案件が10年、15年相次いで大きくなる一方、センシティブな話になると思うんですが、それに対応できる法律事務所が育っていなくちゃいけないのが、経済界の要求、さっき言ったヨーロッパと同じような影響を受けざるを得ないものなんです。
 この特定共同事業がどうして対応できないのかということは、さっきの説明の中にあったように、あいまいさから生じるものなんです。特にアメリカの法律事務所として、マルプラクティス、過誤責任がどこにあるのかというのは、全世界にありますから、全世界どこでも間違えた場合はアメリカで訴えられて、アメリカの懲罰的損害賠償を要求されることがあり得ると。さっきの下條先生の例の中に、私どもが理解しているところは、アメリカの倫理上、規定・先例によっては、継続的な関係がある以上、日本の国内事務所サイドで国内案件であっても、我々が紹介して、我々がいつも提携関係にある以上は、アメリカのお客さん、または日本のお客さんに対する責任は、ホワイト・アンド・ケースが負わざるを得ないものになっています。倫理上は逃げられるものじゃない。責任を取れということは、厳しくされています。その中に、専門性が要求されて、経験年数、我々が要求するのはすぐれた経験のある方が一緒にやって、一緒にものを解決するというのが第1の原則要求、必要、彼にとっても、これが唯一の要求なんです。
 したがって、さっきの話にもありましたように、若手の1年生、2年生の人が、そればかりの共同事業というのは、我々としてはあり得ないものなんです。しかも、次においては、若い者をトレーニングをちゃんとするために、それなりのベテランの先生がいないことには、若いものは一緒にできません。トレーニングができない状況は、法律事務所としては許しません。これは我々の身を守るためです。コントロールはどうのこうのという世界ではなくて、我々の身を守るため、これを保たなければ、過誤責任になったら、全世界のパートナーがその責任を負わされることになるものなんです。
 ある意味で最近特定共同事業は増えているから成功しているんじゃないかという見方はあるかもしれないんですが、そう見ると、前田先生と近藤先生、そのくらいの年数の方が育ってきて非常にうれしいんですけれども、ベテランの先生がなかなか入ってこない。あいまいさによって、個人的な強い関係がなければ安心して入って来られない。自分の身が何なのか。お客さんに対する説明はいつも要求されるし、やはりベテランの先生だったら自分のプライドもあるし、自分のプラクティスもあるから、何でそんなあいまいなところに入るか。
 私の友達の中に何人かは、やはりアメリカのホワイト・アンド・ケースのパートナーになれるんだったら、非常に興味はあります。ただし、特定共同事業の変化形のものは一切関わりたくありませんというと、私も非常に尊敬している専門の弁護士として、正しい見方だと思います。やはり自分の身がどこにあるか。あいまいのままは許しませんというのが本来いい弁護士の在り方です。ただ、非常に親しい友達であれば、それを信用して、一緒にできるという限定的な存在なんです、特定共同事業というのは。それによっては、なかなか大きくできない。
 若い、ほかの方のリクルーティングをするに当たっては、将来どうなるか。ホワイト・アンド・ケースのパートナーであったら、それはルールがたくさんあって、年金のルール、等々いろんなメリットを受けられるんですけれども、特定共同事業でホワイト・アンド・ケースのパートナーじゃないとどうなるんだと。我々でさえわからないんですよ。そうすると、どういうふうに大きくなれるかというのは、なれないんです。それ相当な規模、マーケットの要求する規模に成長できないものとして、私たちは考えております。
 もう一つは、現在のものは、国際、国内の境目があることによって、トレーニングの弱さを非常に感じます。本来どこの国でも若手の弁護士が出てくると、どこでトレーニングをするかというのは、小物でトレーニングをしているのです。第一発から大事件で大きな役割を渡してやれというのはだれも言わないんです。それはお客さんから言っても、やってほしいない。やはり小物から訓練させて、いろいろトレーニングを積み上げて一人前になっていくというのはどこの国でも同じだと思います。我々の共同事業対象のものというのは、以外に小さいものが、今時点では余りないんです。したがって、いい訓練が本当にできるかというのは心配でしようがないんです。したがって、その2つの問題があることによって、共同事業のそのものがいい健全なものに成長できるかというのは、もとより疑問を持っております。
 コントロールに関して一言言いたいんですが、先ほど垣貫さんが言ったようなことはあると思います。これは私の経験でも、どこの大法律事務所というのは、これにおいて同じだと思うんです。要するに、さっき言ったような自分の身を守るために何が要求されるかとうのは、各国での正しいアドバイスです。シカゴかニューヨークか、日本のことを一切知らない人が、これをやれというのは、自分の身が危なくてできない。その国のベテランの弁護士が平等に、その法律に基づくアドバイスが、我々の組織として一番要求するものなんです。我々に意見書を書けということは、私どもの経験では一切ないんです。
 逆に言いますと、我々も納得しなくちゃいけないんです。お客さんもそうなんですけれども、この意見書、この法律のアドバイスというのは、何故こうなるのか。これが我々の目的、お客さんの目的を達成しているのか。理解されているのか。それがポイントなんです。
 それに関連して私はよく、あの2人が若いときによくいじめたと言われる場合もありますけれども、厳しく質問する。厳しく取り調べをさせる。それが自分の意見を完全に納得できるようなものじゃないと、お客さんに出すものじゃない。これはどこの大法律事務所でも要求するものなんです。
 パートナーに受け入れるというのは、我々、アメリカ国内においても非常に数少ない。非常に成功した、経済的な影響によって随分長くなってきますけれども、10年、12年アソシエートとして働いた後、それなりの評価が受けられた人をパートナーとして紹介して受け入れる。各国では我々の事務所、ほかの事務所も同じような基準になっている。
 したがって、本部、または世界的なパートナー、うちの場合は国籍がベーカー&マッケンジーほどではないんですけれども、パートナーの中で、少なくとも15、16くらいの国籍の違う弁護士がいます。これが意見を出し合って、誰かクオリティーを、基準を満たした人に限って紹介するものでありまして、したがって、若い人が共同事業の水準を下げましたら、どうぞ入ってくださいと。これはあり得ないものです。それはむだな話で、逆にシステム、法律実務がわからないような発言になるようなものじゃないかと思います。
 もう一つ、法律の実務と事務所の経営を分けて考えなくちゃいけないです。当然、世界的なパートナーシップになると、共同経営体なんです。私も直接責任を負うし、直接、金銭的な損をするものにおいては、世界的なマネージメントが必要であり、どこかの事務所が変に不動産を買ったり、ああいうものができないような制限を勿論課しますけれども、これはあくまで経営サイドの責任としては、我々共同企業体として制限は負いますけれども、自分のプラクティスに関しては、コンフリクト以外のものに関しては、クオリティーを勿論要求しますけれども、いちいち案件においてニューヨークからパリからロンドンからの要求、指示、命令が来るものは全くありません。
 したがって、前回日弁連から配られた図式のコントロールという言葉は、抽象的で、私はいつも具体的に言ってくださいと言っているんですけれども、抽象的でしようがない。実際、世の中には実務においてそういうコントロールをしている大事務所というのは私の知識の中にはないと思っております。
 最後に、もうちょっと早くすればいいんですけれども、最後に日本に関して、不便、または日本企業に対して現在の共同事業の最終解決をしない場合は、どういう不便が生ずるかというのを一言言いたいんです。
 主にこれがWTOに関連しての考え方なんです。今、日本の会社が、特に例として挙げますと、中国、インドネシア、インドで十分なアドバイスを受けているかと言えば、みんな不満です。物すごく不満なんです。あの国々では自由な提言ができない国々なんです。したがって、我々が日本で目指している、今、ほとんどヨーロッパ諸国、先進諸国でできるような一体化されたクオリティーの高い法律サービスができない国なんです。唯一それを是正できるチャンスは、現在のWTOのサービス交渉なんです。これが日本、アメリカ、ヨーロッパが一緒になって、一緒にパートナーシップを認めて、そして、途上国に対しててきるだけ早いうちに同じようにいいサービスが提供できる方法で、是非協力して要求したいんです。それをしない限りは、2つの悪影響があります。相変わらずアメリカの会社、日本の会社、ヨーロッパの会社がああいう国で十分なサービスを受けられないことが継続する。
 何故かというと、あの国が日本を見て、日本がそういう形でやっているから、我々も当然ということになってしまいます。しかも、交渉の中で、これは早いうちにやらないと、最後まで残してしまうと、最後の混乱によって、こういう問題がほかの国では解決されないことは私は非常に自信を持っています。それがやはり日本企業、日本社会の外側に対する一番大きな問題の1つなんです。
 内部的なものに関しては、先日、改革報告書を見た中に、日本国内においても、債権の流動化、PFIをやりたい、こういったものを外国からの経験を取り入れて、いいものを日本法合理化したい、コストダウンを図りたいというのも、どういうふうにすれば、そういういい経験を海外から取れ入れることができるのかというのは一番手っ取り早くお金が掛からないという方法というのは、こういった法律事務所の自由化だと思います。
 なぜならば、一体である以上は、国際的な案件を預かっている以上は、我々が持っている一番いいノウハウを与えることが有利にできる。しかも、最近の特にこういう資本市場の中では、一回は国境をまたがるような案件にして、次のときには国内でやりますから、行ったり来たりして、商品は同じものなんです。さっき言ったように、それのトレーニングとノウハウを日本に導入するものとしては、どう考えるべきかということなんです。
 この特定共同事業の中に、さっき言ったような問題がまだ残っていますから、全然ないとは言えないにしても、非常にオープンにされたことよりは、やはり助けにならないことだと思います。

【スミス氏】 スミスと申しますが、書いてあるとおりで、米国商工会議所の金融サービス委員会の委員長でもあるんですけれども、今日はその委員長というより、依頼者の観点から話をしたいと思います。
 私の会社なんですけれども、AIGなんです。外資系金融会社として典型的な例だと思いますが、AIGという会社を御存じない方がいらっしゃるかもしれないですけれども、AIGはアメリカ、東京証券取引所で上場している会社なんですけれども、いわゆる持ち株会社で、日本で知られているのはその子会社なんです。AIU損保です。それからアリコ生命保険会社、旧千代田生命が今はAIGスターと言いますけれども、生命保険会社が、それからアメリカンホームという損害保険会社があり、それと投資顧問会社もありますが、従業員は1万人くらいです。主に保険関係ですから、日本の弁護士に依頼することが非常に多くて、特に事故査定関係とか、査定に関わる交渉関係で法廷弁護士に依頼することがよくありますが、それとは別に、取引関係で渉外法律事務所への依頼が多いですが、20くらいの法律事務所を使っていますが、規模としては日本で一番大きいところから、1人、2人の事務所まで、取引関係でいろいろな法律事務所に依頼していますが、私の経験では、訴訟関係が日本の弁護士は世界的に負けないくらい有能な人が多いですけれども、取引関係になると、有能な人が多いと言っても、人数が少ないんです。それに裁判官が下す判決はときどき不満がありますけれども、法廷弁護士に対しては不満はほとんどないです。
 取引で経験のある事務所、弁護士が非常に人数が少ない。そして、有能な人、本当に経験のある人はもっと少ないです。1つの事務所に依頼すると、大きな会社が同じ事務所を使っているから、コンフリクトと言いますけれども、よく出てきます。
 なぜそういう有能な取引関係の弁護士が少ないかというと、私の意見ですけれども、司法研修所で受ける教育は、主に訴訟関係で、取引をする訓練は受けないんです。法律事務所に入ってからその教育を受けなければならないんですけれども、そういう経験がある弁護士、つまり若い人に教育を与えるような人は更に少ないんです。
 それで、よく日本の弁護士ならなんでもできるという人は出てきますけれども、現在は、取引が非常に複雑になってきました。例えばうちの会社が初めて日本で不動産の証券化を行いましたけれども、普通の法律事務所に依頼する必要がありました。日本だけではなくて、ケイマンとかイギリスとか、香港の法律事務所にも依頼しなければならなかったんですけれども、当然アメリカの法律事務所を使っていましたが、そういう普通の国と話ができる弁護士が非常に人数は限定されています。そういう複雑な取引は特定共同事業ならできるんでしょうけれども、弁護士もいるし、外国の弁護士もおりますけれども、取引が大きくなると、やはり1つの事務所は人数からして、困ることがあります。その事務所に依頼しないとできない。
 特にデューディリジェンス関係で1つの事務所は、どんなに大きくても足りないわけです。それに使っている事務所はほかの依頼者も使っているから、法律事務所で会議をするときに、隣の部屋に競争相手が入っているというのは珍しくないです。だから、取引関係の仕事のできる弁護士を増やすにはどうしたらいいかという問題は、非常にあると感じていますが、結論としては、やはり外国の事務所と提携して、若い人を教育させるのが一番ベストだと思います。経験のある日本の弁護士が外国の法律事務所と組んで一緒に仕事をするなら、そういうことももっと教育訓練できると思います。
 最後ですけれども、日本の法曹界の歴史の中では、そういうような外国の弁護士と日本の弁護士が一緒に事務所をつくった例はたくさんあると思いますが、現在、存在している法律事務所を考えると、幾つかあると思いますが、そういう事務所はありましたけれども、やはり取引関係が外国の法律家が日本にそういうようなプラクティスを紹介しましたので、そういう歴史に基づいて同じように国際化された法律事務所として、依頼者として希望があるわけです。

【柏木座長】 ありがとうございました。それでは、ただいまの御説明について質問がありましたら挙手の上お願いします。

【下條委員】 先ほどグロンディンさんが、私や近藤さんが説明したことを取り入れて、説明していただきましたので、もうほとんどないんですけれども、1点だけ独立性の点について、確かにベーカー&マッケンジーとかホワイト・アンド・ケースみたいなものであればそういう問題はないかと思うんですけれども、これは制度の問題ですので、制度をつくりますと、そういう一流のローファームでないところも出てくるわけなので、例えばニューヨークの事務所でもつぶれたところは幾つもあるわけですから、そういうような制度の問題としたときに、やはり日本の弁護士の独立性を図っていきたいと考えているんですけれども、そういう面についてはグロンディンさんはどういうお考えですか。

【グロンディン氏】 いい質問で、ありがとうございます。
 世界の環境が変わったということを一番念頭に置いた方がいいと思います。今、スミスが言いました伝統ある渉外事務所の歴史を引くと、あの時代にそこに大先生に非常にいじめに遭って、訓練をしたとか、いろんな言い方があるんですけれども、多分、そこが一番独立性が侵されたと、私は理解しています。
 そういった環境が変わったというのは、あの時代に渉外関係をやりたいという人は非常に限られた存在だったわけです。それまでの歴史が余りなかったし、そういった外国から来た弁護士の海外事務所がメインで行う、そこでしか訓練を受けられないような状況が何十年も続いたということは事実なんです。
 人の話によると、かなり強硬ないじめがあったというのもいろいろ聞きますけれども、過去は過去で、現在はどういう状況かと言えば、これも世界的な傾向でもあるんですけれども、最近日本でもありますね。若い人が気に入らないんだったら、ほかに行くのは幾らでもあるんです。これは国内事務所、共同事業、海外にどんどん行って、先のJICAに付いて行って、いろんなこともあり得るんです。社内弁護士になれる。こんな豊富な時代に、お前がいやだと思っても、これをやれと言っても、その人は明日からいないんです。
 そういった環境の違いが非常に大きいと思うんです。私でさえニューヨークからそういう命令があったとすれば、私も辞めますよ。幾らでもほかのところに行けるものなんです。そちらの方の事務所も、久保利先生も、1つのそういった例かどうかわかりせんけれども、独立性そのものは、各自、弁護士の倫理上の責任として、非常に密接に個人の責任として感じます。これはやはり立派な弁護士を訓練してつくってあげるのは大事なんです。これはどこの国でも同じ問題だと思います。日本だけがこういう歴史だからということではなくて、全世界、自分を守る、自分の意見を守るくらいの人じゃないと我々が歓迎しないし、中に大きなお客さん、大きな案件を受ける人じゃないんです。よく問題なのは独立性というのはいろんな角度がありますから。
 よく心配しますのは、お客さんからの独立性なんです。我々は仲間だと思っているんですよ。お客さんが無理な依頼でやってくる。お客さんが大分いますけれども、無理してくる場合もあるでしょう。これは自分が責任を持って、自信を持って対抗しなくちゃいけない。これが一番大きいです。不当な関与によっては、過誤責任が発生するのは大いにある。これは事務所としてみんな守って、そういう不当な関与からみんな守らなくちゃいけない責任が世界的にあります。我々がお互いに平等で、プロフェッションとしての意見の取り入れ方は尊敬しなくちゃいけない。各国での実務はそれが基本とならないと、システムとしては健全性がないと思います。
 したがって、近藤先生もいい答えをしましたけれども、我々としては、世界的に一番怖いことは過誤責任です。独立性のない弱い人はすぐお断りして、一旦間違って入ったとすれば、話し合って出て行ってもらうことは我々として大原則なんです。そういう弱い人をほいほいという、まるっきり反対なんです。
 日本のシステムも立派なシステムになって、世界的なレベルで同様になって、国際化を図るべきだというふうに非常に強くサポートしていますし、私、個人的にいつも日弁連の敵だと言われるんですけれども、それが私の希望なんです。本当はそこは私の希望なんです。先回出たような、大ローファーム、そういう言葉はよく使いますけれども、我々みんな個人の実務家ですから、私がさっき言ったように、私の経験の中には、恩人はたくさんいますし、訓練をたくさんさせていただいた中では尊敬している人ばかりで、厳しい人もいましたけれども、私も厳しいと言われているんですが、やはり一人前になるのは、そのくらいの強さがなければ対応できませんから、それを試験的、訓練的によくやりますが、最終的に説明できるまで、それは個人の責任です。
 アメリカでは倫理上の責任として、これは非常に発動されないのが多いんじゃないかという疑問視されていますけれども、我々の責任として、本来そういった弱い者が、不当な関与があったりとか、適正な弁護活動をやっていない者は、弁護士会に告発すべきだというルールになっているんです。そこまで厳しい独立性、倫理上の責任を保たなきゃいけないというのが大原則です。

【柏木座長】 下條委員の今の質問に関してですが、確かにニューヨーク辺りでは幾つかつぶれた法律事務所もありましたけれども、フィナンシャリーに困難になっているということと、日本の特定共同事業でのコントロールとも何か関連があるんですか。

【下條委員】 グロンディンさんみたいなしっかりしたお考えを持っているところではないような、いいかげんな法律事務所だと、そういうふうにコントロールを及ぼしてくるかもしれない。

【柏木座長】 具体的なコントロールというのはよくわからないんですけれども。

【下條委員】 例えば訴訟で保全処分をやるかどうかですね。そういうことについてまでコントロールしてくるということです。

【グロンディン氏】 それはニューヨークの要求というよりは、お客さんの要求なんですね。どうしてもそれは無理だと説明しても、どうしてもやりたいと。お金を費してもやりたいと、それに対応するかどうかです。

【柏木座長】 つぶれるかつぶれないかじゃなくて、仕事のクオリティーの問題ですね。

【グロンディン氏】 法律事務所そのものがつぶれたと言っても、個人はまだ生きていますから、もう一つは、最終的にシステム設計として私が希望したいものは、世の中は何がメインで何が問題かというのは、そこはしっかり検討しなくちゃいけないと思います。質の悪いものが出てくる可能性があるということを抽象的に思って、それをベースにシステム設計する。今みたいなシステムで、外国から来るものはみんな悪いということをベースにすると、システム全体が健全性を欠く。逆が適切じゃないかと思います。お互いにプロフェッションとして、国と国の資格を尊敬しながら、それなりの倫理のものが出てくる。登録するに当たって、それなりの経験が、今までの過誤責任の問題を起こしていないとか、それも十分チェックする機能もできていますから、それを原則にシステム設計をすべきじゃないかと思うんです。その中に、例外としてだれか問題を起こす人がいる場合は、やはり告発するべく弁護士会としての懲戒委員会が発動すべきものじゃないかと思います。そうすると、システムの健全性がより保てる。よりいい方向で成長できると私は確信しております。

【柏木座長】 大分時間が過ぎてしまったので、どうしてもこれを聞きたいという御質問がございましたらどうぞ。よろしいですか。それでは、どうもありがとうございました。それでは、最後に昨日閣議決定されました司法制度改革推進計画について、事務局より説明をお願いいたします。

【松川事務局次長】 司法制度改革推進計画が3月19日に閣議決定をされました。
 この司法制度改革推進計画は、司法制度改革推進法に基づき、政府が司法制度改革に関し講ずべき措置について、その全体像を示すとともに、推進本部の設置期限(平成16年11月30日)までの間に行うことを予定するものについて、その措置内容、実施時期、法案の立案等を担当する府省等を明らかにするものでございます。
 国際化への対応の関係につきましては、この計画の8ページから9ページに掛けて記載されております。意見書において提言されたそれぞれの事項について、必要な検討、措置を図っていくことといたしているところであります。
 今も議論しております弁護士と外国法事務弁護士等との提携・協働を積極的に推進する見地から、特定共同事業の要件緩和等を行うという問題につきましては、9ページの4の(2)でございますが、「所要の法案を提出する」ということで、平成15年通常国会を予定するということになっております。
 今後はこの推進計画にのっとって、着実に改革を実現してまいりたいと存じますので、よろしくお願いいたします。

【柏木座長】 ありがとうございました。ただいまの説明について何か御質問ございますか。それでは、予定の時間となりましたので、第4回の予定につきまして、事務局から説明をお願いします。

【齊藤参事官】 次回は4月11日でございますが、引き続きまして、弁護士と外国法事務弁護士との提携・協働のテーマにつきまして、ヒアリングを続行したいと思います。ヒアリングの対象先でございますけれども、委員の方々から個別に御意見などをお寄せいただいておりまして、そういったものを参考にさせていただきながら、次回は日本の企業、大手企業、それから中小企業等、両者からヒアリングをしたいと思っています。それから、欧州ビジネス協会、更に欧米以外の外国法事務弁護士、こういったところからヒアリングをしてはいかがかと考えておりまして、その方向で今準備をしております。ただ、次回4月11日ということで、結構時間が切迫しておりまして、予定どおりにうまく依頼先に引き受けていただけるかどうか、その辺やや不安なところがありまして、できるだけ予定したところにお願いして、引き受けてもらおうと思っておりますけれども、多少変更などあり得るかもしれませんので、その都度お知らせしたいと思います。それから、次回に外国法事務弁護士で、欧米以外の方からということを一応予定しているんですけれども、そういった人からヒアリングをすることが実際必要かどうか、この辺りは今日、この場で委員の方々から御意見をいただければと思います。御意見なども参考にしながら最終的に依頼するかどうか。どういった方に依頼するかの準備を詰めたいと思います。よろしく願いします。

【柏木座長】 今の点いかがですか。

【久保利委員】 今の計画との関係なんですけれども、8ページの「国際化への対応」というところで、8ページから下の2行目に「本部が設置されている間においては、以下の措置を講ずることとする」ということになって、9ページの一番上のところに、前回私が申し上げました知的財産権関係事件への総合的な対応強化が、はっきり計画に入っているわけです。今日の5時から官邸で知財戦略会議の第1回が始まります。しかし、知財戦略会議そのものと、リーガルな関係をどういうふうに考えていくかという点については、この検討会しかないのではないか。現在10ある検討会の中で、民事司法の国際化、なかんずく知財関係とか、刑事司法についてもそうですが、やっておるところはないというふうに理解をしておりますので、やはり外弁問題も今日は大変充実した審議が進んで、かなり皆さん御理解いただいたと思いますので、知的財産権の問題についても、再三くどいようでございますが、是非取り上げていただきたいということを一言申し上げたいと思います。

【齊藤参事官】 その点ですけれども、問題はやはり知財関係につきましても、具体的にどういう改革課題について検討するのかということについて、司法制度改革審議会の意見書で掲げられている以外のものを、この検討会でほかにも取り入れていくということについては、推進本部の一存だけではなかなか決めにくいところがございまして、もう少し慎重に対応していくことが。

【松川事務局次長】 関係することで、今の委員の御指摘は、知財の課題がたくさんあるんですけれども、今、国際化に関してお触れになったわけですから、あくまでもここに掲げられている国際化についての課題に関連して、知財事件も含めて是非検討していただきたいと、こういう御趣旨ですか。

【久保利委員】 勿論そうです。

【松川事務局次長】 その限りにおいては、必要な限度において。

【久保利委員】 あるいは、この、9ページの4の(1)に国際化の法的需要に十分対応できるのは弁護士の国際化だと書いてあるわけですが。

【松川事務局次長】 そういう意味においては、この検討会で議論していただくのは適当かなと思いますので、具体的な日程とかは、また相談しながらやっていただければと思います。

【久保利委員】 次長の御見解で結構です。

【柏木座長】 それでは、もう一つの点、欧米以外の外国法事務弁護士からのヒアリングの必要性についてはどうでしょうか。

【下條委員】 当然すべきだと思います。と言いますのは、今日は欧米の、まさに柏木座長が一番冒頭におっしゃったと思うんですけれども、コモン・ロー・カントリーの国の弁護士がいろいろ日本を更に開放しろと言っている一方的な発言ばかり聞いていますから、是非その反対サイドの弁護士輸入国である国から来られている外国法事務弁護士の方の意見も、反対サイドの意見として当然聞くべきだと思います。

【バイヤー委員】 例えば欧米以外で中国など。

【齊藤参事官】 1つには中国の外国法事務弁護士も日本には数名おりますね。ですから、そこも1つ選択肢になるかと思いますが、下條先生が今おっしゃった趣旨からすると、中国以外にどこかありますか。

【下條委員】 中国以外、今聞いているのは韓国ですかね。

【バイヤー委員】 さっきから下條委員がおっしゃっていたのが、コモン・ローのサイドは聞きましたから、ドイツでもシビル・ローだったら、その立場でもよろしいですか。

【下條委員】 むしろ東南アジアがよろしいんじゃないかと思います。

【乗越委員】 ドイツの経験というのも面白いかもしれませんね。さっきおっしゃったように、ドイツがたどった経過というのが、もし、時間があればですけれども。

【下條委員】 何人くらい予定されているんですか。

【齊藤参事官】 時間の配分いかんでは、必ず一人でなくてもいいかと思うんです。要点だけに絞っていただければ、一人15分前後くらいという時間配分で2人くらいは、手法としては可能かと思うんです。

【乗越委員】 韓国の方はいらっしゃるんですか。

【下條委員】 1名、4月から来られるそうなんです。

【柏木座長】 中国の外国法事務弁護士の人は、我々がここで議論しようとしている問題と違う問題を抱えているんじゃないかという気がします。そういう違う問題をここに登場させるのがいいことなのかどうか。むしろこの問題、今は外国法事務弁護士との共同事業の制限を議論しているわけで、そういう観点からすると、むしろドイツとかフランスとかスペインとか、そっちの方が参考になるのかなという気はするんです。

【久保利委員】 中国ももう11万人を超えてどんどん増えてきますから、それこそある意味で言うと日本に進出を考えていて、そのときにこれはどうなるかという同じ切り口、あるいはコモン・ローの国じゃないけれども、あるかもしれませんし、少なくともアジアの人たちがどういうふうにこの外弁制度を見ているかというのは、聞いてみてもいいのではないか。ただ、ドイツやフランスをあきらめるというのではなくて、いい人がいらっしゃれば、お聞きすることはいいと思いますけれども、ただ、今、具体的な名前が見つからないんです。特に日本語ができて、クリアーに御説明できる方がいらっしゃるかどうか、どうも人選の問題に尽きると思います。いなければやむを得ないと思いますが。

【柏木座長】 それでは、ただいま出されました御意見を踏まえて、欧米以外の外国法事務弁護士のヒアリングにつきましては、なお事務局で検討させていただきたいと思います。

【バイヤー委員】 依頼者の立場の方は、また、提案が必要ですか。

【齊藤参事官】 次回は先ほど申し上げたように、日本の国内の企業、大手企業、中小企業、それからEBC、欧州ビジネス協会、それから、欧米以外の外国法事務弁護士辺りを予定しているんです。その次々回には、外資系企業の関係者、それからもうちょっと広い大局的な意味で御意見をいただけそうな有識者の方、それから長島・大野・常松の長島先生、それから、日本の国内弁護士、こういった方々をと思っているんです。ですから、大体ヒアリング先の目途は立ってはきていると思います。勿論、具体的にこういった方もどうかという御意見があれば、引き続きお寄せいただければ参考にさせていただきたいと思います。

【柏木座長】 それでは、座長の不手際で大分時間が遅くなってしまいましたけれども、第3回「国際化検討会」を閉会させていただきます。本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。