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行政事件訴訟法の改正の骨子と行政運営に当たっての留意点

平成16年10月15日 
司法制度改革推進本部事務局 



1 義務付け訴訟の法定(第3条第6項、第37条の2及び第37条の3関係)

 (1) 義務付け訴訟を法定する意義

 現行法が抗告訴訟の態様として例示している訴訟類型のみでは適切な救済が得られない場合があることから、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされない場合に、一定の要件の下で、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める「義務付けの訴え」を抗告訴訟の新たな訴訟類型として定めることにより、義務付けの訴えが事案に応じて活用されるようにするものである。義務付けの訴えは、抗告訴訟(第3条第1項参照)であるから、取消訴訟に関する規定の一部が準用される(第38条第1項)。

 (2) 義務付けの訴えの定義(第3条第6項関係)

 義務付けの訴えは、第3条第6項第1号又は第2号のいずれかの場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう(第3条第6項)。

 第3条第6項第1号の場合の義務付けの訴え(非申請型の処分の義務付けの訴え)は、行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(第3条第6項第2号に掲げる場合を除く。)において、行政庁がその処分をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。

 第3条第6項第2号の場合の義務付けの訴え(申請型の処分又は裁決の義務付けの訴え)は、行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないときにおいて、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。

 (3) 非申請型の処分の義務付けの訴え(第37条の2関係)

 第3条第6項第1号に掲げる場合の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされない場合において、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる(第37条の2第1項)。重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、裁判所は、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする(第37条の2第2項)。第3条第6項第1号に掲げる場合の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる(第37条の2第3項)。法律上の利益の有無の判断については、取消訴訟に関する第9条第2項の規定を準用する(第37条の2第4項)。

 裁判所は、義務付けの訴えが第37条の2第1項及び第3項に規定する要件に該当する場合において、その義務付けの訴えに係る処分につき、行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、行政庁がその処分をすべき旨を命ずる判決をする(第37条の2第5項)。

 (4) 申請型の処分又は裁決の義務付けの訴え(第37条の3関係)

 第3条第6項第2号に掲げる場合の義務付けの訴えは、行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないとき(第37条の3第1項第1号)、あるいは当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であるとき(第37条の3第1項第2号)に限り、提起することができる(第37条の3第1項)。ただし、行政庁が一定の裁決をすべき旨を命ずることを求める義務付けの訴えは、処分についての審査請求がされた場合において、当該処分に係る処分の取消しの訴え又は無効等確認の訴えを提起することができないときに限り、提起することができる(第37条の3第7項)。第3条第6項第2号に掲げる場合の義務付けの訴えは、第37条の3第1項第1号又は第2号に規定する法令に基づく申請又は審査請求をした者に限り、提起することができる(第37条の3第2項)。

 第3条第6項第2号の場合の義務付けの訴えを提起する場合には、申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないときは、その処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴えを(第37条の3第3項第1号)、申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされたときは、その処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴えを(第37条の3第3項第2号)、その義務付けの訴えに併合して提起しなければならない(第37条の3第3項前段)。この場合において、義務付けの訴えに併合して提起しなければならない訴えに係る訴訟の管轄について他の法律に特別の定めがあるときは、当該義務付けの訴えに係る訴訟の管轄は、第38条第1項において準用する第12条の規定にかかわらず、その定めに従う(第37条の3第3項後段)。

 第37条の3第3項の規定により併合して提起された義務付けの訴え及び不作為の違法確認の訴え、取消訴訟又は無効等確認の訴えに係る弁論及び裁判は、分離しないでしなければならない(第37条の3第4項)。ただし、裁判所は、審理の状況その他の事情を考慮して、併合提起された不作為の違法確認の訴え、取消訴訟又は無効等確認の訴えについてのみ終局判決をすることがより迅速な争訟の解決に資すると認めるときは、当該訴えについてのみ終局判決をすることができる(第37条の3第6項前段)。この場合において、併合提起された不作為の違法確認の訴え、取消訴訟又は無効等確認の訴えについてのみ終局判決をしたときは、裁判所は、当事者の意見を聴いて、当該訴えに係る訴訟手続が完結するまでの間、義務付けの訴えに係る訴訟手続を中止することができる(第37条の3第6項後段)。

 裁判所は、義務付けの訴えが第37条の3第1項から第3項までに規定する要件に該当する場合において、併合提起された不作為の違法確認の訴え、取消訴訟又は無効等確認の訴えに係る請求に理由があると認められ、かつ、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきであることがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ、又は行政庁がその処分若しくは裁決をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、行政庁がその義務付けの訴えに係る処分又は裁決をすべき旨を命ずる判決をする(第37条の3第5項)。

2 差止訴訟の法定(第3条第7項及び第37条の4関係)  

 (1) 差止訴訟を法定する意義

 取消訴訟を提起し、執行停止を受けたとしても、それだけでは十分な救済を得られない場合があることから、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、一定の要件の下で、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める「差止めの訴え」を抗告訴訟の新たな訴訟類型として定めることにより、差止めの訴えが事案に応じて活用されるようにするものである。差止めの訴えは、抗告訴訟であるから、取消訴訟に関する規定の一部が準用される(第38条第1項)。  

 (2) 差止めの訴えの定義(第3条第7項関係)

 差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう(第3条第7項)。  

 (3) 差止めの訴えの要件(第37条の4関係)

 差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる(第37条の4第1項本文)。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない(第37条の4第1項ただし書)。重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、裁判所は、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分又は裁決の内容及び性質をも勘案するものとする(第37条の4第2項)。差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる(第37条の4第3項)。法律上の利益の有無の判断については、取消訴訟に関する第9条第2項の規定を準用する(第37条の4第4項)。

 裁判所は、差止めの訴えが第37条の4第1項及び第3項に規定する要件に該当する場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる判決をする(第37条の4第5項)。

3 確認訴訟を当事者訴訟の一類型として明示(第4条関係)

 当事者訴訟としての確認訴訟の活用を図るため、当事者訴訟の定義の中に「公法上の法律関係に関する確認の訴え」を例示として加えるものである(第4条)。

 当事者訴訟の定義については、「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの」及び「公法上の法律関係に関する訴訟」をいうと定められている(改正前第4条)。今回の改正は、当事者訴訟の定義について「公法上の法律関係に関する訴訟」をいうと定める規定を「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」に改め、「公法上の法律関係に関する確認の訴え」が、「公法上の法律関係に関する訴訟」の中に含まれることを明示するものである(第4条)。

 「行政庁の公権力の行使に関する不服」(第3条第1項参照)を内容とする抗告訴訟の対象とならない行政の行為を契機として争いが生じた場合であっても、公法上の法律関係に関して確認の利益が認められる場合については、当事者訴訟として確認の訴えを提起することが可能である。そこで、「公法上の法律関係に関する訴訟」の中には、「公法上の法律関係に関する確認の訴え」が当然に含まれることを明らかにして、抗告訴訟の対象とならない行政の行為も含む多様な行政の活動によって争いの生じた権利義務などの公法上の法律関係について、確認の利益が認められる場合に、確認訴訟の活用を図るものである。

4 取消訴訟の原告適格の拡大(第9条関係)

 取消訴訟の原告適格については、取消訴訟は、処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができると定められている(第9条第1項)。取消訴訟の原告適格についての改正は、取消訴訟の原告適格についての適切な判断が担保されるようにするため、処分又は裁決の相手方以外の者について取消訴訟の原告適格の要件である法律上の利益の有無を判断するに当たっては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとするなどの事項を定めるものである(第9条第2項)。

 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について第9条第1項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たっては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする(第9条第2項前段)。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする(第9条第2項後段)。

 具体的な事案における原告適格の判断は、裁判所が個別の事情に即して行うべきものであるが、例えば、処分の要件を定める規定が「技術上の基準」など一般的・抽象的な文言によって規定されている場合であっても、そのような法令の規定の文言のみによることなく、根拠法令の趣旨・目的や当該処分において考慮されるべき利益の内容・性質等を考慮することによって、原告適格の認められる範囲が適切に判断されることが一般的に確保され、原告適格が実質的に広く認められることになると考えられる。

5 抗告訴訟の被告適格の簡明化(第11条関係)  

 (1) 行政庁が国又は公共団体に所属する場合(第11条第1項関係)

 処分又は裁決をした行政庁が国又は公共団体に所属する場合には、1)処分の取消しの訴えは当該処分をした行政庁の所属する国又は公共団体(第11条第1項第1号)、2)裁決の取消しの訴えは当該裁決をした行政庁の所属する国又は公共団体(第11条第1項第2号)、を被告として、提起しなければならない(第11条第1項)。処分又は裁決があった後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁が所属する国又は公共団体を被告として、提起しなければならない(第11条第1項かっこ書)。

 処分又は裁決をした行政庁を被告適格者とする原則を改め、処分又は裁決をした行政庁の所属する国又は公共団体を被告適格者とする原則を定めるものである。  

 (2) 行政庁が国又は公共団体に所属しない場合(第11条第2項関係)

 処分又は裁決をした行政庁が国又は公共団体に所属しない場合には、取消訴訟は、処分又は裁決をした行政庁を被告として提起しなければならない(第11条第2項)。処分又は裁決をした行政庁が国又は公共団体に所属しない場合としては、処分又は裁決をした行政庁が指定法人などである場合が想定される。この場合は、行政庁が国又は公共団体に所属しないことから、処分又は裁決をした行政庁(指定法人など)を被告として、提起しなければならない。処分又は裁決があった後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、権限を承継した行政庁が国又は公共団体に所属するときは、その国又は公共団体を被告として、権限を承継した行政庁が国又は公共団体に所属しないときは、権限を承継した行政庁を被告として、提起しなければならない(第11条第1項かっこ書)。  

 (3) (1)又は(2)により被告とすべき国若しくは公共団体又は行政庁がない場合(第11条第3項関係)

 第11条第1項又は第2項の規定により被告とすべき国若しくは公共団体又は行政庁がない場合には、取消訴訟は、当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体を被告として提起しなければならない(第11条第3項)。  

 (4) 処分又は裁決をした行政庁を明らかにする手続(第11条第4項及び第5項関係)

 国又は公共団体を被告として取消訴訟を提起する場合には、訴状には、処分又は裁決をした行政庁を記載するものとする(第11条第4項)。原告が訴状に行政庁を記載しなかったり、又は記載を誤った場合の制裁はない。

 国又は公共団体を被告として取消訴訟が提起された場合には、被告は、遅滞なく、裁判所に対し、処分又は裁決をした行政庁を明らかにしなければならない(第11条第5項)。被告は、原告が訴状に行政庁を記載したかどうか、また、その記載が正しいかどうかにかかわらず、処分又は裁決をした行政庁を明らかにしなければならない。「遅滞なく」とは、通常の場合、答弁書で明らかにすることが考えられる。

 原告が訴状に記載し、又は被告が明らかにすべき行政庁は、処分又は裁決があった後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁となる(第11条第1項かっこ書)。  

  (5) 行政庁が裁判上の行為をする権限(第11条第6項関係)

 処分又は裁決をした行政庁は、当該処分又は裁決に係る第11条第1項の規定による国又は公共団体を被告とする訴訟について、裁判上の一切の行為をする権限を有する(第11条第6項)。国又は公共団体を代表する者のほかに、処分又は裁決をした行政庁も裁判上の一切の行為をする権限を有することになる。訴訟手続に関する意思決定など国又は公共団体を代表すべき者と行政庁との内部関係については、国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律や地方自治法等の行政組織に関する個別法によって定まる。  

  (6) 取消訴訟以外の抗告訴訟等への準用

 取消訴訟の被告適格等に関する第11条の規定は、取消訴訟以外の抗告訴訟について準用され(第38条第1項)、民衆訴訟又は機関訴訟についても、処分又は裁決の取消しを求めるもの(第43条第1項)、処分又は裁決の無効の確認を求めるもの(第43条第2項による第38条第1項の規定の準用)について準用される。  

  (7) 個別法で被告適格を定める場合

 被告適格について、個別法において特別の定めをしている規定は、改正していない。これらの場合は、改正後においても、それぞれの規定で定められた被告適格者を被告として訴えを提起しなければならない。

6 抗告訴訟の管轄裁判所の拡大(第12条関係)  

 (1) 被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄(第12条第1項関係)

 取消訴訟の原則的な管轄裁判所について、従来の行政庁の所在地の裁判所のほかに、被告の普通裁判籍(民事訴訟法第4条参照)の所在地を管轄する裁判所の管轄にも属することを新たに定めた(第12条第1項)。  

 (2) 特定管轄裁判所への管轄の拡大(第12条第4項関係)

 第12条第1項から第3項までに定める管轄裁判所に加えて、新たに、国又は独立行政法人若しくは改正により新設される別表に掲げる法人を被告とする取消訴訟は、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地(高等裁判所の支部の所在地は含まない。)を管轄する地方裁判所(「特定管轄裁判所」という。)にも、訴えを提起することができると定めた(第12条第4項)。行政訴訟における裁判所の専門性を確保しつつ、原告の住所地に近い身近な裁判所で訴えを提起する可能性を広げ、行政事件訴訟をより利用しやすくするためである。  

 (3) 特定管轄裁判所に提起された訴訟の移送の制度の新設(第12条第5項関係)

 特定管轄裁判所に提起された訴訟の移送に関する制度を新設し、特定管轄裁判所に取消訴訟が提起された場合であって、他の裁判所に事実上及び法律上同一の原因に基づいてされた処分又は裁決に係る抗告訴訟が係属している場合においては、当該特定管轄裁判所は、当事者の住所又は所在地、尋問を受けるべき証人の住所、争点又は証拠の共通性その他の事情を考慮して、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部について、当該他の裁判所又は第12条第1項から第3項までに定める裁判所に移送することができると定めた(第12条第5項)。  

 (4) 取消訴訟以外の抗告訴訟等への準用

 取消訴訟の管轄に関する第12条の規定は、取消訴訟以外の抗告訴訟について準用され(第38条第1項)、民衆訴訟又は機関訴訟についても、処分又は裁決の取消しを求めるもの(第43条第1項)、処分又は裁決の無効の確認を求めるもの(第43条第2項による第38条第1項の規定の準用)について準用される。

 専属管轄を定める個別の法律の規定は、改正されていない。

7 出訴期間の延長(第14条及び第40条関係)  

  (1) 取消訴訟の出訴期間に関する改正

 取消訴訟の出訴期間について、改正前第14条第1項は、「取消訴訟は、処分又は裁決があったことを知った日から3箇月以内に提起しなければならない」と定めていた。今回の改正では、この出訴期間を6箇月に延長し、「取消訴訟は、処分又は裁決があったことを知った日から6箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。」と定めた(第14条第1項)。第14条第1項ただし書の新設に伴い、この出訴期間を不変期間としていた改正前第14条第2項の規定は削られた。出訴期間の定めによる法律関係の安定を考慮しつつ、国民が取消訴訟による権利利益の救済を受ける機会を適切に確保する趣旨である。

 審査請求があった場合の処分の取消しの訴えの出訴期間の起算日について、「裁決があったことを知った日」又は「裁決の日」を出訴期間に算入していた改正前第14条第4項の規定を改め、裁決の取消しの訴えの出訴期間と同様に、「裁決があったことを知った日」又は「裁決の日」は出訴期間に算入せず、これらの日の翌日を出訴期間の起算日とするため(民法第140条)、「処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤って審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があったときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、前二項の規定にかかわらず、これに対する裁決があったことを知った日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない」と定めた(第14条第3項本文)。

 なお、収用委員会の裁決の取消しを求める訴えについては、その裁決が準司法的手続を経てされることにかんがみ、裁決書の正本の送達を受けた日から3月の不変期間内に提起しなければならないと定められた(附則第23条による改正後の土地収用法第133条第1項)。  

 (2) 当事者訴訟の出訴期間に関する改正

 当事者訴訟の出訴期間を定める個別法の規定については、出訴期間を90日又は3箇月と定める規定について、その期間を6箇月に延長し、出訴期間の基準となる日の当日を出訴期間に算入していた規定について、出訴期間の基準となる日の当日は出訴期間の起算日としないでその翌日から起算することに改める改正がされた。

 また、改正前第40条第1項は、「当事者訴訟につき法令に出訴期間の定めがあるときは、その期間は、不変期間とする」と定めていたが、「法令に出訴期間の定めがある当事者訴訟は、その法令に別段の定めがある場合を除き、正当な理由があるときは、その期間を経過した後であっても、これを提起することができる」ことに改めた(第40条第1項)。

8 審理の充実・促進のための釈明処分の新設(第23条の2関係)  

  (1) 釈明処分の特則を新設する意義

 釈明処分の特則を新設した趣旨は、民事訴訟法第151条に定める釈明処分の特則を行政事件訴訟法に定め、取消訴訟その他処分又は裁決の違法性ないし効力の有無が争われる訴訟において、行政庁に対し処分の理由を明らかにする資料の提出等を求める新たな釈明処分をすることができることを定め、審理の充実及び促進を図るものである。民事訴訟法の釈明処分の特則を定める趣旨であるから、裁判所が職権で行い、当事者は不服申立てをすることができないことなど、釈明処分の手続は、民事訴訟法の釈明処分と同様の取扱いとなる。

 釈明処分は、行政庁に対し提出を求め又は送付を嘱託する資料の性質によって2つに分けられる。第1は、処分又は裁決の内容、処分又は裁決の根拠となる法令の条項、処分又は裁決の原因となる事実その他処分又は裁決の理由を明らかにする資料の提出を求め又は送付を嘱託する釈明処分であり(第23条の2第1項)、第2は、処分についての審査請求に係る事件の記録の提出を求め又は送付を嘱託する釈明処分である(第23条の2第2項)。

 裁判所の釈明処分に行政庁が従わないことに対する制裁に関する規定はなく、釈明処分の効力については、民事訴訟法による一般の釈明処分の場合と同様であると考えられる。したがって、提出に応ずべき義務の有無及び提出に応ずべき資料の範囲は、釈明処分を受けた行政庁において、法令に則して判断されることになる。したがって、第三者の営業秘密や個人のプライバシーにかかわる情報など、その資料を提出して訴訟の資料とされることにより、第三者の利益を害するおそれがあるときなど、資料等の提出又は送付を拒む正当な理由があるときは、釈明処分を受けた行政庁は資料等の提出又は送付を拒むことができると考えられる。正当な理由なく提出を拒んだような場合には、口頭弁論の全趣旨(民事訴訟法第247条)として、他の証拠の証明力の評価に影響を及ぼすなど、裁判所の心証形成で不利益な取扱いを受けることがあり得る。

 行政庁が、裁判所の釈明処分に従って資料等を裁判所に提出し、訴訟記録となった場合には、その資料等について、何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができ(民事訴訟法第91条第1項)、当事者及び利害関係を疎明した第三者は、裁判所書記官に対し、訴訟記録の謄写を請求することができることになる(民事訴訟法第91条第3項)。  

 (2) 処分又は裁決の理由を明らかにする資料の提出等を求める釈明処分(第23条の2第1項関係)

 第23条の2第1項は、裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため、必要があると認めるときは、被告である国若しくは公共団体に所属する行政庁又は被告である行政庁に対し、処分又は裁決の内容、処分又は裁決の根拠となる法令の条項、処分又は裁決の原因となる事実その他処分又は裁決の理由を明らかにする資料(第23条の2第2項に規定する審査請求に係る事件の記録を除く。)であって当該行政庁が保有するものの全部又は一部の提出を求める処分をすることができること(第1号)、及び第1号に規定する行政庁以外の行政庁に対し、第1号に規定する資料であって当該行政庁が保有するものの全部又は一部の送付を嘱託する処分をすることができること(第2号)を定めている。資料を保有する行政庁の訴訟上の立場の違いに応じて、提出を求める方法(第1号)と送付を嘱託する方法(第2号)を分けたものであり、釈明処分の対象となる資料の範囲は同じである。

 釈明処分の対象となる資料は、処分又は裁決の内容、処分又は裁決の根拠となる法令の条項、処分又は裁決の原因となる事実その他処分又は裁決の理由を明らかにする資料(第23条の2第2項に規定する審査請求に係る事件の記録を除く。)である。処分又は裁決の直接の根拠に用いられた資料を綴った一件記録に相当するような資料がこれに当たると考えられるが、これに限らず、処分又は裁決に際して参照され、依拠されたような資料も、「処分又は裁決の理由を明らかにする資料」に含まれ得ると考えられる。

 裁決の取消しの訴えにおいては、原処分の一件記録のような資料も、「裁決の原因となる事実その他裁決の理由を明らかにする資料」に含まれ得ると考えられる。また、審査請求に対する裁決を経た後に提起された処分の取消しの訴えにおいて、第23条の2第2項の規定により提出を求め又は送付を嘱託することができる審査請求に係る事件の記録以外にも裁決に関する資料がある場合、その裁決に関する資料も、「処分の原因となる事実その他処分の理由を明らかにする資料」に含まれ得ると考えられる。  

 (3) 審査請求に係る事件の記録の提出等を求める釈明処分(第23条の2第2項関係)

 第23条の2第2項は、処分についての審査請求に対する裁決を経た後に取消訴訟の提起があったときは、被告である国若しくは公共団体に所属する行政庁又は被告である行政庁に対し、当該審査請求に係る事件の記録であって当該行政庁が保有するものの全部又は一部の提出を求める処分をすることができること(第1号)、及び第1号に規定する行政庁以外の行政庁に対し、第1号に規定する事件の記録であつて当該行政庁が保有するものの全部又は一部の送付を嘱託する処分をすることができること(第2号)を定めている。審査請求に係る事件の記録を保有する行政庁の訴訟上の立場の違いに応じて、提出を求める方法(第1号)と送付を嘱託する方法(第2号)を分けたものであり、釈明処分の対象となる文書の範囲は同じである。

 第23条の2第2項の釈明処分は、処分についての審査請求を経た後に取消訴訟の提起があったときにされる。「取消訴訟」とは、「処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え」をいうから(第9条第1項)、裁決の取消しの訴えがあった場合のほか、審査請求を経た後に原処分の取消しの訴えが提起された場合も、裁判所は、審査請求に係る事件の記録の提出を求め又は送付を嘱託する釈明処分をすることができる。  

 (4) 釈明処分の特則に関する規定の準用

 釈明処分の特則を定めた第23条の2の規定は、取消訴訟に関する規定であるが、この規定の準用に関し、無効等確認の訴えについて準用すること(第38条第3項)、当事者訴訟における処分又は裁決の理由を明らかにする資料の提出について準用すること(第41条第1項)、さらに、私法上の法律関係に関する訴訟において、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無が争われている場合(争点訴訟)には、当該争点について準用することが規定された(第45条第4項)。

 民衆訴訟又は機関訴訟についても、処分又は裁決の取消しを求めるもの(第43条第1項)、処分又は裁決の無効の確認を求めるもの(第43条第2項による第38条第3項の準用)について準用される。

9 執行停止の要件の緩和(第25条関係)

 執行停止の要件について、損害の性質のみならず、損害の程度や処分の内容及び性質が適切に考慮されるようにするため、「回復の困難な損害」の要件を「重大な損害」に改めるとともに、重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっての考慮事項を定めるものである。

 執行停止の要件について、改正前第25条第2項本文は、「処分の取消しの訴えの提起があった場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもって、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。」と定めていた。今回の改正では、「回復の困難な損害」の要件を「重大な損害」に改めるとともに(第25条第2項)、「裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする」(第25条第3項)と定めた。

 個別の事案における判断は、裁判所が具体的な事情に即して個別に判断すべきものであるが、執行停止の要件について、損害の性質のみならず、損害の程度並びに処分の内容及び性質をも適切に考慮することにより、例えば、金銭賠償の可能性も考えると損害の回復の困難の程度が必ずしも著しいとまでは認められない場合であっても、具体的な処分の内容及び性質をも勘案した上で、損害の程度を勘案して「重大な損害」を生ずると認められるときは、執行停止を認めることができることになるものと考えられる。

10 仮の義務付け・仮の差止めの制度の新設(第37条の5関係)  

 (1) 仮の義務付け・仮の差止めの制度を新設する意義

 抗告訴訟の新たな類型として定めた義務付けの訴え及び差止めの訴えに対応する本案判決前における仮の救済の制度として、新たに、「仮の義務付け」及び「仮の差止め」の制度を設け、本案判決前における仮の救済の制度の整備を図るものである。  

 (2) 仮の義務付け

 義務付けの訴えの提起があった場合において、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもって、仮に行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることができる(第37条の5第1項)。ただし、仮の義務付けは、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができない(第37条の5第3項)。

 そのほか仮の義務付けに関する事項については、執行停止に関し適用又は準用されている規定を準用する(第37条の5第4項)。準用される規定は、第25条第5項(疎明)、第25条第6項(決定の手続)、第25条第7項(即時抗告)、第25条第8項(即時抗告は決定の執行停止の効力を有しないこと)、第26条(事情変更による取消し)、第27条(内閣総理大臣の異議)、第28条(管轄裁判所)、第33条第1項(拘束力)の規定である。

 仮の義務付けの決定に基づいて行政庁が処分又は裁決をした後に決定が取り消された場合における処分又は裁決の取扱いについては、即時抗告についての裁判又は事情変更による取消しの決定によって仮の義務付けの決定が取り消されたときは、処分又は裁決をした行政庁は、仮の義務付けの決定に基づいてした処分又は裁決を取り消さなければならない(第37条の5第5項)。  

 (3) 仮の差止め

 差止めの訴えの提起があった場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもって、仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることができる(第37条の5第2項)。ただし、仮の差止めは、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができない(第37条の5第3項)。

 そのほか仮の差止めに関する事項については、執行停止に関し適用又は準用されている規定を準用する(第37条の5第4項)。準用される規定は、第25条第5項(疎明)、第25条第6項(決定の手続)、第25条第7項(即時抗告)、第25条第8項(即時抗告は決定の執行停止の効力を有しないこと)、第26条(事情変更による取消し)、第27条(内閣総理大臣の異議)、第28条(管轄裁判所)、第33条第1項(拘束力)の規定である。  

  (4) 手数料

 手数料の額は、仮の義務付け又は仮の差止めの申立てについては、2、000円(民事訴訟費用等に関する法律第3条、別表第1の11の2の項のハ)、仮の義務付け又は仮の差止めの決定の取消しの申立てについては、500円(民事訴訟費用等に関する法律第3条、別表第1の17の項のホ)である。

 

11 出訴期間等の情報提供(教示)制度の新設(第46条関係)  

 (1) 制度を新設する意義及び制度の概要

 出訴期間等の取消訴訟等の提起に関する事項について情報提供をすべき行政庁の義務を新たに定めることにより、国民が行政事件訴訟により権利利益の救済を得る機会を十分に確保しようとするものである。

 取消訴訟等の提起に関する事項を行政庁が教示しなければならない場合は、以下の3つの場合があり、それぞれの場合ごとに教示すべき事項が定められた。

 教示をしなければならない場合は、第1は、取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合(第46条第1項)、第2は、法律に処分についての審査請求に対する裁決に対してのみ取消訴訟を提起することができる旨の定めがある場合において、当該処分をするとき(第46条第2項)、第3は、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするものを提起することができる処分又は裁決をする場合(第46条第3項)である。ただし、いずれの場合も、当該処分を口頭でする場合には、教示をする義務はない(第46条第1項ただし書、第2項ただし書、第3項ただし書)。教示すべき場合は、書面により処分がされた場合に限らず、行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成14年法律第151号)第4条第1項に基づき電子情報処理組織を使用して当該処分の通知をすることによって処分をした場合も教示をすべき場合に当たる。

 教示の方法については、いずれの場合も、書面で教示しなければならないと定められた(第46条第1項から第3項まで)。ただし、行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律第4条第1項及び法務省の所管する法令の規定に基づく行政手続等における情報通信の技術の利用に関する規則第5条、別表第2の第4号(平成16年10月15日法務省令第71号による改正後のもの)に基づき、第46条第1項から第3項までの規定による教示は、電子情報処理組織を使用してすることもできることとされている。なお、書面による教示は、処分の通知書と一体となる同一の書面でする必要はなく、処分の通知書とは別に、教示すべき事項を記載した訴訟の提起に関する説明書のような書面を交付することによってすることもできる。

 教示の相手方は、いずれも、当該処分又は裁決の相手方である(第46条第1項、第2項、第3項)。行政不服審査法第57条による審査庁等の教示の制度では、利害関係人から、当該処分が不服申立てをすることができる処分であるかどうか並びに当該処分が不服申立てをすることができるものである場合における不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間につき教示を求められたときは、行政庁は、当該事項を教示しなければならない(行政不服審査法第57条第2項)、と定めて利害関係人に対する教示の制度を設けているが、取消訴訟等の提起に関する事項の教示については、このような利害関係人に対する教示の制度は、設けられていない。特定の名あて人がない処分については、処分の相手方がないから、教示をすべき場合には当たらない。ただし、公告等により処分の公示がされる際に、取消訴訟の提起に関する事項についても、適切な情報提供がされることが望ましいと考えられる。

 取消訴訟等の提起に関する事項の教示の制度に従って教示をしなかった場合や実際より長期の出訴期間を教示するなど誤った教示をした場合の処分の効力などについては、規定されていない。教示をしなかったり、誤った教示がされたとしても、そのことのみを理由として、当然に、処分が取り消されるべきものとなり、あるいは無効になるものではない。しかし、第46条により取消訴訟等の提起に関する事項の教示義務が行政庁に課されていることから、出訴期間を経過しても取消訴訟を提起することができる「正当な理由」があるかどうか(第14条第1項ただし書)、被告を誤った訴えの救済がされる場合である原告が「重大な過失」によらないで被告とすべき者を誤ったときに当たるかどうか(第15条第1項)、あるいは不服審査前置の定めがある場合に裁決を経ないで処分の取消しの訴えを提起することができる「正当な理由」があるかどうか(第8条第2項第3号)、など訴訟要件を欠いた場合の救済の必要性の判断に当たって、教示があったかどうか、教示が適切なものであったかどうか、というような教示義務が守られたかどうかという事情が考慮されるものと考えられる。  

 (2) 取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合の教示(第46条第1項関係)

 
 1) 制度の概要
  取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合(処分を口頭でする場合を除く。)には、行政庁は、当該処分又は裁決の相手方に対し、①当該処分又は裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者、2)当該処分又は裁決に係る取消訴訟の出訴期間、③法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨(いわゆる不服審査前置)の定めがあるときは、その旨、を書面で教示しなければならない(第46条第1項)。
  教示をすべき事項には、管轄裁判所は、含まれない。しかし、行政庁として、教示を義務付けられた事項以外の事項について、国民が行政事件訴訟により権利利益の救済を得る機会を十分に確保する観点から教示をすることは、何ら妨げられない。例えば、原則的な管轄裁判所である行政庁の所在地を管轄する地方裁判所を例示する方法によって管轄裁判所を教示することも、教示制度の趣旨に適合すると考えられる。
 2) 教示をしなければならない場合
  第46条第1項による教示をしなければならない場合は、取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合である。行政庁の公権力の行使には当たらないため処分ではないとされる場合は、取消訴訟を提起することができないため、取消訴訟の提起に関する事項を教示する必要はない。
  教示をすべき相手方である処分又は裁決の相手方が取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合に限られる。処分又は裁決の相手方がその取消しを求める法律上の利益を有しない処分又は裁決をする場合は、教示をすべき場合に当たらない。
  処分をする際には、その処分の取消しの訴えの提起に関する事項を教示すれば足り、審査請求に対する裁決をする場合には、裁決の取消しの訴えの提起に関する事項を教示すれば足りる。
 3) 当該処分又は裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者
  当該処分又は裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者を教示するには、処分又は裁決をした行政庁の所属する国又は公共団体を被告とすべき場合には(第11条第1項)、その国又は公共団体を教示し、処分又は裁決をした行政庁を被告とすべき場合には(第11条第2項、個別法で定める場合)、被告とすべき行政庁を教示するほか、国又は公共団体を被告とすべき場合には、国又は公共団体が被告となるべきことと併せて、被告を代表すべき者として、法務大臣、都道府県知事、市町村長、あるいは地方公共団体の執行機関などをも教示すべきである。ただし、法務大臣、東京都知事、など国又は公共団体を代表すべき機関の名称を教示すれば足り、現に職にある個人の氏名を教示する必要はない。
 4) 当該処分又は裁決に係る取消訴訟の出訴期間
  出訴期間を教示するには、処分の通知をする際に教示がされる通常の場合であれば、処分があったことを知った日から6か月の出訴期間(第14条第1項)を教示することになる。処分の日から1年の出訴期間もあるが(第14条第2項)、処分を知った日から6か月の出訴期間の方がこれより先に経過することが処分の通知をする際に明らかであれば、先に経過することが明らかな出訴期間のみを教示すれば足りるからである。ただし、処分の通知を発してもその処分の通知が受領されないなどの理由で、処分の効力が発生した時点では直ちに相手方の知るところとならない場合もあり、処分の通知を発する時点でそのような可能性がある場合には、処分があったことを知った日から6か月の出訴期間が処分の日から1年の出訴期間より先に経過することが明らかであるとはいえないので、処分の日から1年の出訴期間をも教示しておくことが適当である。
  審査請求に対する裁決を経た場合には、その裁決がされた日から6か月以内に処分の取消訴訟を提起することができることから、処分の際の出訴期間の教示では、この点も教示する必要がある。
  したがって、教示の書面では、例えば、「処分の取消しの訴えは、この処分の通知を受けた日から6か月以内(通知を受けた日の翌日から起算します。)に、国を被告として(訴訟において国を代表する者は法務大臣となります。)、提起しなければなりません(なお、処分の通知を受けた日から6か月以内であっても、処分の日から1年を経過すると処分の取消しの訴えを提起することができなくなります。)。ただし、処分の通知を受けた日の翌日から起算して60日以内に審査請求をした場合には、処分の取消しの訴えは、その審査請求に対する裁決の送達を受けた日から6か月以内(送達を受けた日の翌日から起算します。)に提起しなければならないこととされています。」というような記載をすることが考えられる。
 5) 不服審査前置の定めがある旨
  不服審査前置の定めがある旨を教示するに当たっては、審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができないという不服審査前置の原則に関する定めだけではなく、裁決を経ないでも処分の取消しの訴えを提起することができる例外に関する定めがある旨をも教示しなければならない。したがって、審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないときは、裁決を経ないでも処分の取消しの訴えを提起することができるなど、第8条第2項第1号から第3号に定める場合には、裁決を経ないでも処分の取消しの訴えを提起することができる定めがあることをも、あわせて教示しなければならない。第8条第2項に定める場合以外にも、個別法において、裁決を経ないでも処分の取消しの訴えを提起することができる例外が定められているときは、個別法の例外が定められている旨をも教示しなければならない。
  したがって、不服審査前置の定めがある旨を教示する場合には、たとえば、「処分の取消しの訴え(取消訴訟)は、処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ提起することができませんが、次の1)から3)までのいずれかに該当するときは、審査請求に対する裁決を経ないで処分の取消しの訴えを提起することができます。1)審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないとき。2)処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき。3)その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき。」というような記載をすることが考えられる。
 

 (3) 裁決主義の定めがある処分をする場合の教示(第46条第2項関係)

 法律に処分についての審査請求に対する裁決に対してのみ取消訴訟を提起することができる旨(いわゆる裁決主義)の定めがある場合において、当該処分をするとき(処分を口頭でする場合を除く。)は、行政庁は、当該処分の相手方に対し、法律にその定めがある旨を書面で教示しなければならない(第46条第2項)。

 裁決主義の定めがあるときは、処分に対しては取消訴訟を提起することができないことから、その処分をする場合は、第46条第1項に基づいて教示をすべき場合に当たらない。しかし、この場合、審査請求をしないまま審査請求の期間が経過してしまうと、適法に審査請求をすることができなくなり、裁決に対する取消訴訟を提起する機会を失うことになる。したがって、この場合には、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決に対してのみ取消訴訟を提起することができる旨の定めがある旨を教示しなければならないこととしている。  

 (4) 形式的当事者訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合の教示(第46条第3項関係)

 当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの(いわゆる形式的当事者訴訟、第4条参照)を提起することができる処分又は裁決をする場合(処分を口頭でする場合を除く。)には、行政庁は、当該処分又は裁決の相手方に対し、当該訴訟の被告とすべき者及び当該訴訟の出訴期間を書面で教示しなければならない(第46条第3項)。

12 施行期日及び経過措置  

 (1) 施行期日(附則第1条関係)

 行政事件訴訟法の一部を改正する法律(平成16年6月9日法律第84号)による改正後の規定は、平成17年4月1日から施行する(行政事件訴訟法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成16年10月15日政令第311号))。附則第1条ただし書において、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成15年法律第61号)の施行の日との関係で施行期日の例外が定められているが、同法の施行期日は、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律の施行の日である平成17年4月1日であるから、行政事件訴訟法の一部を改正する法律による改正は、附則第1条ただし書の場合も含め、すべて平成17年4月1日から施行される。  

 (2) 経過措置(附則第2条から第5条まで関係)

 経過措置の原則については、附則第2条において、「この法律による改正後の規定は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する。ただし、この法律による改正前の規定により生じた効力を妨げない。」と定め、遡及適用を原則とする。

 被告適格に関する経過措置は、改正法の施行の際現に係属している抗告訴訟(民衆訴訟及び機関訴訟のうち、処分又は裁決の取消し又は無効の確認を求める訴訟についても同じ。)の被告適格に関しては、なお従前の例による(附則第3条)。

 出訴期間に関する経過措置は、改正法の施行前にその期間が満了した処分又は裁決に関する訴訟の出訴期間については、なお従前の例による(附則第4条)。改正法の施行の時に処分があったことを知った日から3か月の出訴期間(改正前第14条第1項)が経過していないときは、その出訴期間は、附則第2条の経過措置の原則及び改正後の第14条第1項により、処分があったことを知った日から6か月となる。

 取消訴訟等の提起に関する事項の教示に関する経過措置は、改正法の施行前にされた処分又は裁決については、取消訴訟等の提起に関する事項の教示について定める第46条の規定は適用しない(附則第5条)。

13 関係法令の整備(附則第6条から第49条まで関係)  

 (1) 概要

 関係法令の整備については、附則第6条から第49条までに定めた。整備の内容は、1)被告適格の改正に伴う整備(国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律の改正、地方公共団体の議会又は議長あるいは独立の執行機関の処分に関する抗告訴訟についての地方公共団体の代表に関する地方自治法等の規定の整備)、2)管轄の改正に伴う整備(行政機関の保有する情報の公開に関する法律等の改正)、3)出訴期間の改正に伴う整備(個別法の定める当事者訴訟の出訴期間の延長)、4)行政不服審査法の改正(審査請求の申立てに伴う執行停止の要件等の改正)などである。  

 (2) 国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律の改正(附則第10条関係)

 国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律(以下「法務大臣権限法」という。)について、被告適格に関する改正がされたことに伴う規定の整備をした。

 第1に、行政庁が、その指定する職員(指定代理人)に行わせることができる訴訟の範囲について、従来から対象とされていた「行政庁を当事者又は参加人とする訴訟」のほかに、当該行政庁の処分又は裁決に係る国を被告とする訴訟(取消訴訟その他の抗告訴訟、民衆訴訟若しくは機関訴訟で処分若しくは裁決の取消し若しくは無効確認を求めるものに限る。)をその範囲に加え(法務大臣権限法第5条第1項)、これに伴う規定の整備をしている(法務大臣権限法第5条第2項)。行政庁が法務大臣の指揮を受けるなど、法務大臣権限法第6条第1項及び第2項の規定の適用を受ける訴訟の範囲も、法務大臣権限法第5条第1項の訴訟とされているから、同様に変わることとなる。

 第2に、地方公共団体が法務大臣に対して訴訟が提起された旨を報告しなければならず、その訴訟に係る当該地方公共団体の事務について、法務大臣が当該地方公共団体に対し、助言、勧告、資料提出の要求及び指示をすることができる訴訟の範囲について、「地方公共団体の行政庁を当事者とする第1号法定受託事務に関する訴訟」のほかに、地方公共団体を被告とする第1号法定受託事務に関する訴訟(取消訴訟その他の抗告訴訟、民衆訴訟若しくは機関訴訟で処分若しくは裁決の取消し若しくは無効確認を求めるものに限る。)を新たに加えている(法務大臣権限法第6条の2第1項、第3項)。法務大臣権限法第6条の2第3項の訴訟については、法務大臣が訴訟を行う職員を指定することができるとされているから(法務大臣権限法第6条の2第4項)、法務大臣権限法第6条の2第3項の改正により、法務大臣によって指定された職員が行うことのできる訴訟の範囲も同様に変わることとなる。

 国を当事者とする訴訟の取扱いに関する法務大臣権限法第1条及び第2条の規定は、改正がされていないが、被告適格の改正に伴い、適用関係が変わる。取消訴訟その他の抗告訴訟、あるいは民衆訴訟若しくは機関訴訟で処分若しくは裁決の取消し若しくは無効確認を求めるものなどについては、これまで行政庁を被告としていたために法務大臣権限法第1条の規定が適用されなかったが、今回の改正により、これらの訴訟の被告適格者が国に変更されることに伴い、新たに法務大臣権限法第1条の適用を受けることとなる。その結果、取消訴訟その他の抗告訴訟、あるいは民衆訴訟若しくは機関訴訟で処分若しくは裁決の取消し若しくは無効確認を求めるものであっても、行政事件訴訟法の改正後において国を被告とする訴訟については、法務大臣権限法第1条の規定が適用され、法務大臣が国を代表することになる。したがって、国を被告とする訴訟においては、訴状の送達は、法務省又は法務局若しくは地方法務局の本局に対して行われるべきことになる(最判平成3年12月5日訟務月報38巻6号1029頁)。

 これらの訴訟については、行政事件訴訟法第11条第6項及びこれを準用する規定により、行政庁に訴訟を行う権限が認められている。そして、行政庁は、附則第10条による改正後の法務大臣権限法第5条第1項により、これらの訴訟を行う指定代理人を選任することになる。したがって、行政庁の処分又は裁決に対する取消訴訟等の抗告訴訟では、行政庁によって訴訟が追行されるが、法務大臣権限法第5条第1項の改正により、前記のとおり、これらの訴訟についても、行政庁は、法務大臣の指揮を受け(法務大臣権限法第6条第1項)、必要があると認めるときは、法務大臣は、所部の職員を指定代理人に指定し、行政庁の指定代理人と共同して訴訟を追行させることができることとなっている(法務大臣権限法第6条第2項)。

 なお、そもそも抗告訴訟であるかどうかがよく分からない場合や、行政庁がはっきり分からない場合など、行政庁によって訴訟を行うことができない場合には、法務大臣が法務大臣権限法第2条によって訴訟を行う職員を指定して訴訟対応をすることになると考えられる。  

 (3) 行政不服審査法の改正等(附則第37条関係)

 
 1) 執行停止の要件
   行政不服審査において審査請求人の申立てがあった場合に審査庁が執行停止をしなければならない要件について、行政事件訴訟法第25条に基づく執行停止の要件を改正することに伴い、同様の改正を行った。具体的には、審査請求人の申立てがあった場合に審査庁が執行停止を義務付けられている要件の定めの中の「回復の困難な損害」を「重大な損害」に改めるとともに(行政不服審査法第34条第4項)、この重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする規定を新設した(行政不服審査法第34条第5項)。
 2) 審査庁等の教示の方法
   行政不服審査法による審査庁等の教示の方法については、従来、方法について定めがなかったが、取消訴訟等の提起に関する事項の教示については書面によることとなったことに伴い、行政不服審査法第57条第1項を改正し、同条に定める審査庁等の教示についても書面で行うこととした(行政不服審査法第57条第1項)。ただし、行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律第4条第1項及び総務省関係法令に係る行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律施行規則第3条、第5条、別表の行政不服審査法の項(平成16年10月15日総務省令第128号による改正後のもの)に基づき、行政不服審査法第57条第1項に基づく教示は、電子情報処理組織を使用してすることもできることとされている。
 3) 行政不服審査の申立適格
   行政不服審査の申立適格については、行政不服審査法第4条第1項は改正されていないが、判例(最判昭和53年3月14日・民集32巻2号211頁)の考え方や同法第1条第1項に規定する同法の趣旨を踏まえると、取消訴訟の原告適格について今回の改正により新設された行政事件訴訟法第9条第2項の定める考慮事項を考慮して原告適格が認められるべき者については、行政不服審査の申立適格が認められるべきこととなる。
 

 (4) 行政機関の保有する情報の公開に関する法律等の改正(附則第45条及び第48条関係)

 行政機関の保有する情報の公開に関する法律第21条(行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律が施行される平成17年4月1日までは第36条)及び独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律第21条の規定については、一般法である行政事件訴訟法において特定管轄裁判所の管轄を認めたことに伴い、訴訟の管轄を定めていた規定を削るとともに、義務付け訴訟と差止訴訟の法定に伴い、特定管轄裁判所に提起された訴訟の移送に関する規定について、移送の要件となる他の裁判所に係属する訴訟の範囲を取消訴訟以外の抗告訴訟に広げ、移送の対象となる訴訟の範囲も取消訴訟以外の抗告訴訟に広げる改正をした。

14 検討に関する規定(附則第50条関係)

 附則第50条において、「政府は、この法律の施行後5年を経過した場合において、新法(この法律による改正後の行政事件訴訟法をいう。附則第3条参照)の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」と定めた。