○ 捜査段階の報酬算定は、本来極めて難しく、接見回数よりも接見で何を言うかが大事なので、接見回数に比例させるのでは、弁護の質を下げかねない。また、今後の捜査弁護の中身は、接見だけではなく、関係者からのヒアリングや現場へ行くことなど検察官の捜査と同じような活動を要求されることになるので、弁護活動は見えにくいものとなる。したがって、A案のように事前に額が決まっていない仕組みで算定するのは、なかなか困難であろう。他方、事件の内容によって、捜査弁護には濃淡があるので、C案のように定額とするのは実情に合わない。そうすると、B案として、いろいろな場合を想定して報酬額を決めておいて、その中から、どれが妥当か裁判所が選ぶというのが妥当であろう。公判段階は、準備手続と公判廷における活動と両方あり、いずれも裁判所から見える形になっている。裁判所に見えない事前準備の部分もあるが、その結果は概ね公判廷に表れてくるので、C案を採り、公判及び準備手続における弁護活動を踏まえて裁判所が一定の基準により算定するというのが妥当ではないか。報酬の算定・支払主体については、A案である。報酬基準の在り方については、実質的な活動を汲み取るようなものでなければならない。形式的な外見を見るという報酬基準を作ると、弁護の質が劣化すると思う。
○ 定額制だと、熱心に弁護をやればやるほど時間当たりの報酬単価が低くなってくる。タイムチャージだと、知識や経験によって所要時間が変わってくるので、実質的に不平等が生じる可能性がある。そこで、日弁連の国選弁護シンポジウムでは、ポイント制をつくった。これは、弁護活動における活動手数料的要素、時間的要素、活動結果的要素を類型化し、負担を計量し、成果の程度に見合う点数を配分して、実際になされた弁護活動をポイントに換算し、その合計ポイント数に応じて報酬額を算定するものである。捜査段階も公判段階も、弁護士が弁護活動報告書を提出してポイント制によって算定してもらう。算定・支払主体については、とりあえず運営主体が行う一元論を検討する。
○ ポイント制という意見では、報酬を支払う機関は、報告書それ自体は信用せよという前提か。
○ そのとおりである。
○ 数段階からの選択という意見は、報告書の信用性の問題があるから、大雑把に数段階に分けるということか。
○ そのとおりである。
○ 数段階からの選択という意見でも、どこに当てはめるかは、具体的な弁護活動の中身を確認しなければできないのではないか。
○ そこまで細かいことを言っているわけではない。ポイント制となったら、非常に細かいことになるのだろう。誤差があることを前提にしているから、大雑把なものでいいではないかと言っている。
○ 被疑者に対する公的弁護制度を導入し、被疑者段階・被告人段階を通じて一貫した弁護体制を採るとなると、報酬も被疑者段階・被告人段階を通じて一括した算定システムが合理的ではないか。その場合、公的な資金を使うのだから、どういう基準でどのように算定しているかについて透明性がなければいけないし、他方、定額制では、十分に活動した弁護士とそうでない弁護士とが同じになるということになり、これも公的資金の使い方としてまずいであろう。したがって、活動に応じた適切な算定ができることが望ましいと思う。裁判所には弁護活動の裏の実態は分からないところがあるので、報酬の算定・支払主体については、運営主体が算定して支払うという形が最も適切に算定できるのではないか。そのためには、具体的な報酬基準が明確に分かるような透明性のある基準を作っていかなければいけないのではないか。その上で、捜査段階については、弁護人の活動報告等に基づき実質に応じた報酬を払うべきではないかと思うので、定額制は相当ではなく、活動報告書を出させるということでは、A案が相当ではないか。公判段階については、弁護人の報告とともに、裁判所からも報告するというB案が相当ではないか。
○ 捜査段階の弁護活動の内容については、外部から客観的に、しかも適正に評価することは難しいと思うので、結論としては、定額がよいのではないか。捜査段階においては、公判段階における裁判所のように、一貫して手続に関与できる公正中立な機関がないので、活動に応じた報酬を算出するというのは、事実上大変難しいのではないか。また、接見回数、準抗告回数、弁護活動に要した時間が優れた弁護活動を表す指標であるのかどうかという問題があり、これらを指標にした場合、そのこと自体が自己目的になるおそれがあり、その結果、本来の適正な捜査活動を損なう事態を生じることも懸念される。捜査段階の場合には、時間的に限られた中で行われるということも併せて考慮すると、そのような要素を報酬の指標とすることは適当ではないのではないか。ただ、弁護人であった期間については考慮すべきではないかと思われるので、弁護人であった期間に比例する一定の報酬額をあらかじめ定めておくということでいかがか。
○ できるだけ定額に近いものがいいだろうと思っており、B案とC案の折衷くらいがいいのではないか。定額という場合でも、弁護人であった期間を考慮しなければいけないというのは当然あり得るが、ポイント制ということを採るとすると、どういう結果に結び付くか明らかではなく、事件に応じた報酬ということで考えていけば足りるのではないか。
○ 捜査段階の弁護ということを考えると、いろいろなやり方があることは間違いなく、一面からすると、活動がやりすぎだという評価を受ける場合もあるかもしれないが、定額しか出ないということになると、弁護士の意欲を削ぐことにもなるだろうと思うし、望ましい弁護活動を十分に期待することができないということになりかねない。弁護活動報告書に基づいてという仕組みにした場合に、水増しをするというようなことは、弁護士の間で多分分かるだろうし、警察サイドからのチェックも入ってくるだろう。そういう形での評価はあり得ることだと思うので、弁護士が納得して弁護活動ができるような報酬基準を設ける必要があるのではないか。したがって、捜査段階についてはA案であり、公判段階についてはB案の方がいいかもしれないという感じがする。
● 報酬の算定・支払主体について、運営主体が行うという案を採る場合、どういう構成で、そのような方式を採るのか議論いただきたい。会計法24条との関係も含めて、なかなか難しい問題があるように思うので、どういう法律構成を採るのかということについて御議論いただきたい。
○ 運営主体が支払うには、契約関係のような関係がないと払えないと思うが、そうすると、一般の弁護士も、最初の段階で、運営主体と何らかの契約関係に入らないといけないこととなる。そうなってくると、すべての公的弁護が運営主体の網の中に入ってくることとなるので、そのような制度でいいのかということになろうかと思う。
○ 法律構成として、裁判所で訴訟法上の公的弁護人として活動したことに対して、運営主体が報酬支払義務を負うという制度をつくれば、そこが債務者となり、国の債務ではなくなるので、会計法24条はネックにはならないのではないかと思う。
□ 問題は、そういう立法ができるか、そういう制度をつくれるかということではないか。運営主体にそういう義務を負わせる理論構成や制度論上の正当化ができるかという問題だと思う。
○ 国が選任して、ある活動をしてもらって、その活動の費用について国以外の者が支払うということは今でもある。破産管財人や更生管財人など、国が選任するが、財団等のために活動しているということで、そこが債務者になる。したがって、国の選任と支払主体が別になるということはあり得ると思う。
□ 財団のために活動する人を裁判所は後見的に選任しているという構成なので、そこが支払うという理屈にはなり得ると思うが、公的弁護では、どうなるか。
○ 公的弁護制度は、運営主体が公的弁護についてすべて責任を負うのだ、そこがサービスを提供する機関なのだ、だからそこが負うべきなのだ、裁判所はその義務をだれが果たすかを選定しているだけなのだということである。
□ 国が提供すべき弁護を包括的に運営主体が請け負っているという構成か。
● いろいろな法律構成によって、B案もあり得るわけで、今の構成も更に検討する必要があると思っているが、法律上、裁判所が選任したときに、弁護士に報酬を支払う義務を運営主体に負わせる一方、運営主体は支払うお金を国からもらう必要があるので、自動的に運営主体が国に対し、支払うお金の請求権を持つことになるのかという問題があり、そのように考えると、最終的には国が債務を負うことになるので、会計法24条の例外となってしまう。他方、国が債務を負わないとすると、運営主体は、自分で資金を調達しなければならなくなってしまうという問題が生じる。
○ 運営主体は、お金が通り過ぎるだけでなく、実際にそれだけの活動をするのだ、それだけの人を派遣するのだ、法的サービスを提供しているのだというだけの実態があれば可能なのだろうと思う。
● そのように、報酬の支払の部分だけではなく、制度全体としての合理性があれば、法律の例外はあり得るのだろうと思うが、制度全体として運営主体がどういう役割を負うのかということを言わないと、その例外は苦しいのではないかという印象を持っている。それ以外の構成としては、先ほど指摘があったように、事前に一定の契約関係を持つということが考えられると思っており、更に検討したい。
○ 捜査段階の報酬算定は、B案かC案だろうと考えている。敢えてA案ということにするのであれば、虚偽報告に対するサンクションを当然設けるべきであり、そうでないと国民の理解を得られず、また、透明性を確保できないと思う。そこまでする必要があるかと言うのであれば、B案かC案だと思う。公判段階の算定方法は、報酬の算定・支払主体とも関連する問題であるが、これについては、運営主体が一般の弁護士まで担当するかという問題に絡んでくる。その点について、疑問点が十分に議論されて解決できるということになれば、運営主体が報酬の算定・支払を行うということもあるかもしれない。その場合の算定方法については、外に見えたところでやればいいということで、C案であってもいいのかもしれない。弁護活動報告書ということだと、捜査段階と同じ問題が出てくると思う。一番悩ましいのは、会計法24条との関係であり、ここは、運営主体がどういう役割を担って、どういうシステムで何をするのかという制度の全体像が見えてこないと、実質的な理由が付きにくいのではないか。
○ 不服申立てについては、どこが報酬算定をするかによって変わってくるかと思うが、弁護人から、さらには負担を命じられた被疑者・被告人からの不服申立ても考えられるかもしれない。
○ 報酬算定に対する不服申立てという煩雑な手続を設けなけれないけないという制度設計そのものが妥当ではないのではないか。運営主体が国とは別の機関である場合に、不服申立てを断ち切れるかという問題があって悩ましいが、なるべくなら不服申立てがないような制度設計が望ましいと考える。
○ 常勤弁護士及び契約弁護士が公的弁護を担当した場合の報酬について、運営主体が受け取る場合には、運営主体が代理受領するという構成になるのであろうか。
○ 常勤弁護士及び契約弁護士であっても、公的弁護を担当するという点では一般の弁護士と全く同じであり、当該費用は、訴訟費用に含めて被疑者・被告人に負担させないと均衡を失するということになるのではないか。そうすると、一般の弁護士と同様に、常勤弁護士及び契約弁護士についても、裁判所が運営主体に報酬を支払って、国が被疑者・被告人に求償するという考え方もあるだろうという気がする。他方、常勤弁護士等は給料等をもらっているから報酬を支払わないという考え方もあるだろう。ただ、その場合、被疑者・被告人に対する費用の負担の問題をどうするかという問題が出てくるだろう。
□ その点は、第8の3「常勤弁護士及び契約弁護士が公的弁護を担当した場合の弁護費用の負担」と関連している問題であり、この点を踏まえて、更にそちらで議論していただきたい。