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公的弁護制度検討会(第12回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年10月3日(金)13:30~18:40

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 井上正仁座長、池田修、浦功、清原慶子、酒巻匡、髙井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(事務局) 山崎潮事務局長、大野恒太郎事務局次長、古口章事務局次長、松川忠晴事務局次長、落合義和参事官

4 議題
公的弁護制度及び公的付添人制度について

5 配布資料
【浦委員提出資料】
 「被疑者に請求権を与える事件の範囲」についての「段階的実施」案

6 議事

 これまでの検討会において、主要な論点に関し、意見が分かれ、又は新たな論点の指摘がなされ、更に検討を行うこととされた論点について、「公的弁護制度について(1)」(資料8-1。以下「たたき台(1)」という。)、「公的弁護制度について(2)(資料9-1。以下「たたき台(2)」という。)」及び「公的付添人制度について」(資料11-1。以下「たたき台(3)」という。)に沿って議論を行った。
 議論の概要は以下のとおりである。(□:座長、○:委員、●:事務局)

(1) 請求による選任制度(たたき台(1)第2関係)

○ これまで罪名による限定は設けるべきではないとの意見を述べてきたが、この間の日弁連内での論議や本検討会委員による地方調査の結果も踏まえ、本日提出したペーパーのとおり、段階的実施を提案したい。弁護人依頼権の趣旨や司法制度改革審議会意見書が掲げた公的弁護制度導入の目的のほか、本検討会において、被疑者に対する公的弁護制度は理想的には身柄拘束された全被疑者を対象とすることにほぼ異論はなかったと言ってよいと思われることから、公的弁護制度の在るべき姿としては、逮捕又は勾留された全被疑者に選任請求権が与えられるべきである。しかしながら、多くの委員から、専ら弁護士の対応能力の観点から身柄拘束された全被疑者を対象とすることは困難ではないかと指摘され、これについては、日弁連で種々のシミュレーションを行い、その結果について全国の単位会に意見を求めるなどの検討を行ったほか、先の地方調査の結果によっても、釧路及び旭川では制度発足時点では対応能力は限定的に考えざるを得ないという意見が出されたところである。公的弁護制度が刑事司法制度の一部として全国一律に実施されることを考えると、制度発足当初から、身柄拘束された全被疑者に対応しなければならないとすることは現実性を欠くものと判断されたので、段階的実施を提案することとしたものである。公判段階の必要的弁護制度の趣旨は、被告人の利益を擁護するとともに、国家刑罰権の公正な行使を確保することにあると解されており、法定刑に照らし、弁護人の援助が必要とする事件をおおむね網羅できるのではないかと思われる。制度施行後5年以内に逮捕・勾留された全被疑者を対象とする旨明記されることを望むところであるが、立法技術上の問題もあるとすれば、少なくとも制度発足時点において、対象事件の範囲として、必要的弁護事件プラス少年事件を法律の本則に明記し、制度施行後3年以内にその範囲に対象を拡大すべきである。

○ 公的弁護制度は、全国的に画一的に運用可能な制度として施行されなければならないので、その意味で、第一段階を短期1年以上の部分とすることには賛成である。しかしながら、今の提案では、第一段階で少年の刑事事件を含んでおり、その趣旨は理解できないものではないが、少年事件の場合、成人の場合とは犯罪の性質が違い、軽微な窃盗、恐喝、傷害などが多く、また、自白事件がかなり多いであろうから、一律に少年であるという理由で公的弁護の選任請求権があるのに対し、成人については同じ罪名で選任請求権がないというのは、制度全体の設計としては合理的説明がつかないのではないか。

○ 第1ラウンドで、現実的な対応が必要であり、その中で最も重要な問題は地域的な弁護士偏在の問題であると申し上げたところであり、段階的実施は、その点でも重要な提案だと思う。今後、公的弁護制度の運営主体が、司法ネットの中核として、全国どこでも公的弁護を受けられるような態勢を構築していくための条件整備を行うことが求められると思う。

○ 制度を画一に運営していく上での現実的な対応を考慮して堅い選択をされたと思うので、弁護士会の意見を尊重した形で制度をつくっていくのが望ましい。対象事件を広くとるのが望ましいと考えているので、その芽を摘むようなことはしないでほしい。

○ 被疑者の弁護人依頼権を実質的に担保するとの観点から、できるだけ広い範囲に対象事件を拡大すべきであるという指摘は理解できるところであるし、被疑者段階で弁護人が付くことにより公判がスムーズに行き、それが迅速化に資するということもあるであろうから、公判段階で長期3年を超える事件について弁護人が必要だとされているところから見ると、対象事件の目標を長期3年を超える事件とすることも検討に値する。その場合も、なるべく早い時期に確実に実現できるようにしていかなければならず、そのために運営主体において、一定期間内に全国的に充実した弁護活動を提供しうる態勢を整備する計画を立て、弁護士会の協力も得て、その計画を確実に実施してもらうということも考えられる。少年事件については、先ほどの意見と同様であり、また、16歳未満に限定する場合、16歳未満と16歳以上で分けるのが合理的かという問題もあり、当初のスタートとしては、法定合議事件とするのが妥当である。

○ 段階的実施という考え方は、一つの現実的な考え方として十分評価できると思うが、少年について、16歳未満で全部必要かどうかは、更に検討しなければいけない問題だと思う。理念としては、かなり広く公的弁護の対象とする必要があるが、現実的に現在の状況から無理だということを前提とすれば、当初狭い範囲で実施して、必要的弁護事件まで拡大することは一つの姿だと思う。

○ 身柄事件全件を対象とすべきであると考えているが、実際に対応できないという現実を前提にすれば、当初は短期1年以上の範囲で始めるということでもやむを得ない。拡大する対象は、基本的には身柄全事件を目標とすべきであると思う。16歳未満の少年であれば刑事処罰を受ける可能性はほとんどないのに、成人で刑務所に行く可能性がある場合には弁護人が付かないというのはおかしな話であり、そのような余力があるのであれば、成人事件の対象を拡大すべきであると思うので、少年事件について例外的に選任請求権を認めることには反対である。

○ 対象事件の範囲は、対応能力のほか財政負担にもかかわる問題であるが、国民に対する説明ができるのであれば、これを広げる方向を積極的に推進すべきだろう。

○ 司法制度改革審議会意見書が、障害者や少年など特に助力を必要とする者に対し格別の配慮を払うべきであるとしている趣旨からすると、被疑者弁護について、少年に対する格別の配慮が必要となるのではないか。

○ 民事法律扶助においては国民の所得層の下から2割程度を対象として、資力基準の目安としては、月収27万2000円以下とされているようである。民事法律扶助の場合は私権の行使に関するものであるのに対し、公的弁護の場合は国家刑罰権の対象とされているものであるから、弁護人を付される範囲は、民事法律扶助の範囲より相当広くてもよいのではないか。

○ 公的弁護制度においては、預貯金の額なども考えなければならず、収入だけで線を引くことにはならないのではないか。資力に関する基準の具体的な金額は、細かいところであり、後に検討されるべき問題ではないか。

□ ここは、貧困要件について何を基準にするかなどの制度の枠組みを議論する場であろう。

○ 資力申告書の正確性の担保方法として、虚偽の資力申告書の提出に対し罰則を設けるべきではない。罰則を適用するのは故意犯の場合であろうが、故意と過失の区別が難しいと思われるし、そもそも身体拘束された被疑者が資力について虚偽申告をしたことが、刑罰をもって禁止するまでの高度の違法性があるか疑問を感じる。

○ 国費をもって公的弁護を提供するのであるから、資力のある者が資力がないと偽って公的弁護を受けるということは制度の根幹に触れる問題である。虚偽申告について罰則が適用される場合は今でもあるが、その場合、故意と過失は区別され、認定されているわけで、それほど難しい問題ではない。費用を負担させるという案は当たり前の話であり、それだけで虚偽申告を抑制することはできない。

○ 費用を負担させるというのでは抑止力がなく、駄目で元々という考えで虚偽申告することも可能となってしまい、制度の根幹が揺らぐと思う。

○ 第9回検討会で、弁護人の選任手続に当番弁護士制度を前置して、これに国費を投入し、国費による当番弁護士制度を導入すべきであるとの案を提案したが、ここでは、別の意見を述べたい。比較的軽微な事件でも弁護の必要性は否定できないが、被疑者に選任請求権を与える事件の範囲を一定の重大事件に限定し、その根拠が弁護士の対応能力や財政上の制約ということであるならば、弁護士の負担が少なく、また、財政規模の小さい国費による当番弁護士制度が考えられてよいのではないか。ただ、そうなると、当番弁護士制度を公的弁護制度の弁護人選任手続に組み込むことから離れてくるかもしれない。そこで、当番弁護士制度を資力のない市民に対する法律扶助事業の一部と位置付け、司法ネットの中核となる運営主体の事業の一部として検討されてよいだろうと思う。

○ 資力のある人には自分の資力で私選弁護人を選任することを求めることが必要であり、弁護士会に私選で弁護人を依頼することを制度として明示していくべきではないか。そのことが公的弁護制度の意義を担保することになるのではないか。

(2) 職権による選任制度及び必要的選任制度の当否(たたき台(1)第3関係)

○ 段階的実施案によると、当初は罪名による限定が付されることになるので、請求権のない被疑者についても職権選任が認められる必要がある。制度の硬直的・形式的な運用を避け、弁護人が必要と判断される事件について後見的に弁護人を付すという柔軟な対応が可能になると考えている。必要的選任制度については、法的効果に難点があるのではないかとの指摘を受けたところであり、従来の主張には拘泥しない。公的弁護制度の運用に当たっては、職権による選任制度の適正な運用とともに、被疑者・被告人が制度について十分理解できるような弁護人選任権の告知が非常に重要になるのではないか。

● 段階的実施をするに当たり、選任請求権を与えられない者に職権で弁護人を選任するべきだという場合、貧困要件がかかることになるか。

○ 貧困要件はかからないと考えていたが、なかなか理屈の立て方が難しい問題であるとは思う。

○ 従来、職権による選任制度は必要だという立場であったが、今回のように段階的実施として、選任請求権が与えられていない部分で必要な場合には職権で選任するとすると、それで制度が固まってしまうという感じがする。

○ どのような制度とするにしても、身柄拘束の初期の段階から弁護人の援助を受けられることを告知する仕組みを整備し、運用上も分かりやすくするための工夫をすることには賛成である。職権による選任制度については、少なくとも選任請求権を有するが、何らかの理由で適切に権利を行使できない者を援助し、権利行使の判断能力を担保する形の制度は考えられると思う。

○ 選任請求権の範囲をかなり狭くするのであれば、職権による選任ということが必要となる場面が出てくるのではないかという意見を述べたが、段階的実施案で、かなり近い将来、必要的弁護事件の範囲まで広がるのであれば、職権による選任がそれ以上に必要となる場面があるのだろうか。観念的には必要な場面が残るかもしれないが、現実的には相当狭いのではないか。他方、選任請求権のある人による権利行使を援助することについては、制度を運用する立場にある者として心得ておかなければいけないと思っている。

○ 少年や障害者など特に助力を必要とする者に対し配慮すべきであるという司法制度改革審議会意見は重要だと受け止めており、裁判所は、高齢者なども含め、被疑者・被告人が公正な裁判を受けられるような条件整備に配慮してほしい。公的弁護制度の選任要件として、貧困要件を基本的な要件と考えて議論してきたので、その点の問題があるとすると、対象事件の範囲が広がるのであれば、職権による選任制度を設けることについては、慎重に検討する必要があると思う。

○ 選任請求権がある場合に後見的に判断能力を担保するというものはあり得ると思う。それ以外の場合について、合理的な理由や必要性があり、裁判官も判断できるのであれば、職権により選任する制度をつくってもよいであろうが、なかなか難しいのではないか。

(3) 公的弁護制度下における弁護人の選任の始期及び選任の効力の終期(たたき台(1)第5関係)

○ 地方調査で紹介されたように、稚内と旭川との間の移動のことを考えると、逮捕段階で被疑者を裁判官のところへ押送することは不可能であり、逮捕段階の選任は不可能な制度である。

○ 逮捕段階からの選任が理想であるが、選任のためには被疑者が裁判官に会うことが必要になると思われるので、地方調査で行った北海道のみならず、他の地域でも、現実的な対応という点では難しい場合があり、現実的には勾留質問のときに判断する仕組みとするのが適当かと思うようになった。

○ 地方調査の結果から見て、逮捕段階で弁護人選任手続のために被疑者を裁判官のところへ引致するのは困難だということは十分理解できるが、現在の被告人国選弁護制度では、選任手続で被告人を引致することはなく、被告人に照会書を出し、その回答を得ているだけであり、警察署に選任請求書や資力申告書を備えておき、弁護人選任権の告知と同時に書面に記載させ、これを裁判所あるいは運営主体にファックスで送るという方法によっても資力要件の判断は可能ではないか。したがって、逮捕段階の選任手続も被疑者の引致まで考えなければ可能ではないかと思っている。

○ 解任事由を定めることが弁護人の地位を危うくするという議論があるかもしれないが、それはむしろ逆で、どういう理由で解任されるか分からない状態の方が弁護人の地位は不安定である。当然、解任事由は相当な範囲に限定されなければならないが、解任事由は明確に定められるべきであると思う。

○ 解任事由としては、例えば偽証や虚偽の陳述をそそのかしたり、証拠隠滅に関与したり、虚偽の証拠を提出した場合や、被疑者・被告人と弁護人又はその関係者の利害が相反しているか、相反するおそれがある場合、被疑者又は被告人が弁護人又はその関係者に暴行又は脅迫を行った場合などが考えられるだろう。国民の税金を使うのであるから、適正な弁護活動が提供されるべきであり、違法・不当な弁護活動が行われた場合には、きちんとした対応がとられるのだということを国民に説明しないと理解が得られないと思う。

○ 弁護活動に逸脱行為があった場合の対処の仕方だろうが、逸脱行為であるかどうか、違法・不当かどうかという判断は、捜査当局と弁護人との立場の違いで大きく食い違い、限界は非常に微妙な問題である。その場合に、裁判所が、当該弁護人の活動が違法か不当かとか、虚偽の陳述や偽証をさせたか、ねつ造した証拠を出したかを具体的に判断できるかどうかは著しく疑問である。さらに、解任問題の処理を巡って時間を要したり、そのために被告人の利益や手続の進行上、相当でないことも生じ得る。また、解任事由を具体的に法定化するとなると、解任請求権ということともつながってきて、解任請求を認めろという話になり、現在の国選弁護人の選任行為が裁判説を採っていること自体の見直しも必要になるのではないか。他方、解任事由を法定するとなると、告知・聴聞の手続を設けることや、意に反して解任された弁護人に不服申立てを保障することが必要となるし、裁判所は解任の理由を明示することになると思う。そういう点まで考えると、現行制度の大きな変更になり、解任事由を法定化するまでの必要はないと思う。

○ これまでの実務の運用を成文化して、納得が得られ、かつ、裁判所が判断しやすい解任事由を規定できるのであれば、解任事由を定めることは考えられるのではないか。その場合には、内容及び定め方について、議論が必要なところだろう。

○ むしろ明確な形で解任事由が法定されている方が望ましいのではないか。判例は、国選弁護人の選任が裁判であることを前提として、正当な理由がある場合には解任できるとしているのであるから、その部分をできる限り明確な事由として書くことは望ましいのではないか。解任事由を法定することが解任請求権に結び付くという意見もあったが、両者は論理的には関係ないのではないか。

○ 解任事由を定める場合には、弁護活動の自主性・独立性に格別の配慮をすべきであると考えているが、被疑者・被告人の利益を保護するという観点で解任事由を定める必要もあるように思われるし、また、解任事由が明記されている方が自主性や独立性を損なわないのではないか。あくまでも弁護活動の自主性・独立性は保障していかなければならないが、解任は、そのことの弊害が大きく裁判に出たときにどうするかというぎりぎりの問題であり、公的弁護制度の円滑な運用のために必要であれば、解任事由を定めるべきではないか。

(4) 公的弁護制度の担い手である弁護士の確保方策(たたき台(2)第6関係)

○ 常勤弁護士や契約弁護士という新しい制度が提案されているが、全国的に充実した弁護態勢を整備するためには、地域偏在の問題を解消する取組が必要であり、実際の運用に当たっては、運営主体が弁護士会と協力して、現状の問題を解決するための計画的な取組を進めてほしい。

○ 受任を義務付けられる契約弁護士ではなく、何らかの緩やかな契約で弁護士を運営主体が確保することについては、契約内容のいかんによっては問題がないとは言えないと思う。一つの考え方としては、裁判所による選任の都度、契約が生じ、選任の効力がなくなると契約が切れるという構成があり得るかと思う。

○ 裁判所が弁護士を選任すると、運営主体と当該弁護人との間に契約が当然に成立するということか。そのような構成があり得るのだろうか。

□ そのような説明で会計法24条に抵触しないと納得してもらえるかという問題がある。説明の仕方として便宜的ではないかという疑問を持たれるだろう。

○ 弁護人として裁判所に選任される弁護士の推薦又は連絡について、現在は、A案と考えている。その運用については、運営主体の業務規程などに定められれば足りると思うが、その場合でも、弁護人の推薦の問題が弁護活動の自主性・独立性にとって重大な問題であることが認識され、弁護士会による推薦の持つ意味が十分に生かされなければならないと考える。

(5) 公的弁護制度下での弁護報酬の算定・支払(たたき台(2)第7関係)

○ 弁護報酬の算定については、できるだけ客観的・定型的に運用できるような基準をつくる必要があると考える。

○ 今の国選弁護は、報酬が定額かつ低額であるため、持ち出しのボランティア活動になっていることが問題で、弁護士には、これだけしてやっているという恩恵的な心理があり、他方、被告人には、国選弁護人であれば十分な弁護活動がなされなくても仕方がないという心理が働いている。今の国選弁護制度の問題点があるとすれば、原因はそこにあると思う。弁護士が公的弁護制度に参加するインセンティブを高めることが極めて重要であり、その一つが報酬の問題だろうと思う。

(6) 弁護費用の回収(たたき台(2)第8関係)

○ 弁護費用の回収は、現行どおり、検察庁にお願いした方が、公的弁護制度の運営主体がその業務に専念できるのではないか。

○ 回収実務の担い手として、運営主体とするのか、現在のように検察庁とするのかによって、どちらが回収の実をあげられるかということで考えればよいのではないか。その意味で、どちらもあり得るかと思う。

(7) 公的弁護制度下での弁護活動の在り方(たたき台(2)第9関係)

○ 主務官庁が運営主体の自主性・独立性を侵したり、運営主体の長が個々の弁護活動の自主性・独立性を侵すことのないよう規定を設けるべきであるという趣旨でその旨の意見を述べたところである。運営主体と常勤弁護士との関係が民事上の雇用関係だとすると、雇用契約から使用者の指揮命令権が出てくる。常勤弁護士には労働基本権は認められないと思うが、その代替的な措置として、身分保障の規定が必要になるのではないか。例えば、意に反して職務を停止されたり、減給されないといった規定は置かれなければいけないのではないか。

○ そのような規定を法制的にうまく書けるかの問題である。

○ 運営主体が執務あるいは就業に関してルールを定めることはできるであろう。ただ、それが弁護活動のルールということになると、それを運営主体が定めるのであれば問題を生じるので、弁護士会が定めたルールに従うべきである。

○ 運営主体においても、常勤弁護士や契約弁護士が弁護活動をするのであるから、運営主体が弁護活動のルールを定めることはあると思う。そのルールは、同じ弁護活動のルールであるから、弁護士会のルールとできる限り一致するのが望ましいことは明らかであるが、運営主体は、常勤弁護士や契約弁護士について、こういうことがあっては困るという目的でルールを定めるのに対し、弁護士会のルールは、最も厳しいところでは弁護士資格を失うところまでに至る懲戒のルールであるから、状況によっては、一致しない場合も出てこざるを得ない場合もあり得るように思われ、両者が必ず一致しなければならないとは言えないのではないか。

○ 両者は、別々に定められるべきである。むしろ両者を連動させることが、弁護士会の自治を危うくするのではないかと思っている。運営主体が弁護活動の自由を制限するようなルールをつくったら、弁護士はだれも行かないわけだから、それによって適切なルールが定められることになるというのが合理的な考え方だと思う。

○ 弁護士会のルールと運営主体のルールは、制定の趣旨・目的が違うから、一致しなければならないとは言えない。この問題は、本来弁護士会が担当しているものを運営主体が侵しているというものではなく、運営主体は運営主体の目的に従ってルールを定め、それに違反した場合の効果を定めるというものである。

○ ここは、運営主体と常勤弁護士や契約弁護士との契約の問題にもなるが、契約内容はバラバラではなく、かなり統一的な形になると思うので、その定め方を工夫することは十分考えられる。

○ 運営主体は公正中立な独立の機関であり、また、違法不当な弁護活動への対応のための手続も、最終的に弁護士の身分にかかわる手続である弁護士会の懲戒手続とは目的が異なるものであるから、運営主体は、独立に判断し、措置を講じることができる必要がある。そのような観点からすると、必ず弁護士会の懲戒手続や判断が先行しなければならないという仕組みにするのはおかしいと思う。

○ 従前どおり、弁護士会の手続や判断が尊重されるべきであるという意見である。

○ 弁護士会は抽象的には国民に対する責任を負っているかもしれないが、具体的に責任を負う立場にないのに対し、運営主体は、基本的に国民の税金を使っており、国民に対する責任を直接的に負う立場にあるので、弁護士会の決定に従わなければならないというのは理解できない。

○ 運営主体は自主的に弁護士会がされることを尊重してほしいと考えており、できれば弁護士会のルールと運営主体のルールは一致する方がいいと思うが、公的に運営する制度である以上、独自のルールを定められるものとするのが当然であり、それが弁護士会のルールと一体でなくても仕方ない。運営主体の定めるルールがないと社会の納得が得られないだろうと思う。その際には、だれが見てもこういうことはおかしい、公金を使うべきではないということについて、最低限のルールを定めるべきである。

○ 公的弁護により弁護をされる被疑者・被告人の立場で考えると、一定の事由で解任された人や現に懲戒手続中の人、懲戒を受けた人に弁護されるというのは、常識で考えると不適切ではないか。このような場合について、法律の中に公的弁護の選任の欠格という形で定めることはあり得るのではないか。

○ 前回述べたとおり、そのような定めを置く必要性はない。例えば検察官に違法・不当な捜査・公判活動があった場合、捜査関与や公判立会の欠格事由となっているかというと、そのようにはなっていないわけであり、弁護士にそのような欠格事由を定めるのであれば、検察官にもそのような欠格事由を定めないと平仄が合わないのではないか。

○ 懲戒処分を受けた場合、私選であれば、それで依頼者が納得しているから問題ないわけであるが、国選弁護では、被告人には選択権がないので、そのような弁護士を付けることについて納得が得られないのではないか。

○ この問題は、弁護士会の推薦の問題とかかわってくることになり、懲戒処分を受けた場合、弁護士会の推薦規定に基づいて推薦されないことになるだろう。懲戒処分といってもいろいろあって、弁護活動をさせてもいいという場合もあるだろうし、弁護活動をさせるのは問題だという場合もあり得るから、推薦準則に基づいて推薦の名簿から外されるということによって弁護人として選任されなくなることになるだろう。

○ 運営主体が個々の弁護士を推薦する場合に、法制度としては、弁護士会の推薦を前提としないという議論をしていたのではないか。

○ 運用上の問題として、弁護士会の推薦を尊重してもらいたいと申し上げている。

○ 欠格事由を設けた場合、一定の事実があると、永久に欠格になるのか。深く反省して、またやりたいという弁護士が出てきた場合、一定の年限を経たら認めてもいいのではないか。欠格事由を定めるのであれば、そういうことも必要になるのではないか。

(8) 運営主体の在り方(たたき台(2)第10関係)

○ 独立行政法人という呼称には国民に抵抗があるのではないか。司法制度の中に公的弁護制度は位置付けられ、運営されていくのだから、独立司法法人という言い方の方が国民は納得がいきやすいのではないか。中身は独立行政法人でよいかもしれないが、呼称が気になるところである。

○ 独立司法法人ということで裁判所もかかわってくるようになれば、弁護士会の賛同も得やすいのではないか。

(9) 公的付添人制度の導入の要否(たたき台(3)第1関係)

○ 最近の少年犯罪の多様化や低年齢化を重く受け止めると、公的付添人制度は、非常に重要な問題であるが、特に被害者の視点が少年犯罪については重要になってきており、検察官関与がどうあるべきかということを議論しないと、公正さ、あるいは公正らしさが担保されないのではないか。いわゆる原則逆送の場合については、それだけ重大な処分が予測されるので、公的付添人制度の必要性は高いと思う。その他の部分については、家裁調査官と公的付添人の役割分担を鮮明に示しておかないと、現行の制度との不整合が出たり、家裁調査官の良い点が損なわれるのではないか。そのほか、公的付添人の資格として、調査官OBや少年の保護に実績のある保護司など弁護士以外のヒューマンパワーに協力してもらうことも有用で、その方が少年の更生に役立つのではないか。

○ 一部から公的弁護制度を始めるとすると、公的付添人制度については、否認事件のような一般的なくくり方ではなく、原則逆送事件のような事件について、否認・自白を問わず、公的付添人を付けることは考えられるが、それ以外については不要である。地方調査に行っても、非行事実を認めている事件について、家裁調査官がいるのに、公的付添人を付けなければならない合理的な理由は見いだせなかった。公的弁護制度をある程度小さく始めようという議論をしているのだから、要保護性判断のために、家裁調査官に加えて公的付添人を付けることは時期尚早ではないか。

○ これまでの公的付添人を付す必要があるという論者の説明では、公的付添人の必要性について納得がいかなかった。地方調査において、公的付添人の給源となる弁護士の確保の問題について、そこまでは手が回らないということが言われたわけで、その問題が手当てされていないのに、この問題を論ずるのは問題ではないか。

○ 法律家である弁護士付添人が、非行事実の認定だけでなく、処遇選択・要保護性の問題についても法律家の立場で少年審判に関与し、実質的な不利益処分が予想される場合には適正な審判の実現に法律家として貢献できる場面があるだろう。そういう観点から、一定の場合、職権で公的付添人を選任できる制度を導入するのが望ましいと考えている。対応能力の問題などもあり、高度の必要性が高い範囲にそのような制度を設けるということは考えられるが、切り方として、刑事処分相当の逆送事件だけではやや狭すぎる印象を持っている。

○ 少年の特殊性は、取調べの場面で出てくるのであって、保護手続は懇切和やかに行われることとされているのだから、少年の特殊性の問題は出てこないのではないか。したがって、少年の特殊性があるからといって、保護手続において正しく事実認定を行うために、そのためのサポートとして公的付添人が必要になるという議論には結び付かないのではないか。一方、要保護性や適正手続・人権の保障ということについては、保護手続は、制度的に裁判官や家裁調査官が行うものであり、また、裁定合議制度も設けられており、さらに、捜査段階については公的弁護制度も整備されるのであるから、公的付添人制度を設ける必要性があるか疑問である。もし公的付添人が付くことになれば、否応なく検察官関与が必要になってくるのではないか。

○ 旧法では、刑事処分か保護処分かの選択を検察官にゆだねる検察官先議主義を採っていたが、現行少年法は、これを一新して、少年に対する処遇決定手続の選択を家庭裁判所に行わせるため、家庭裁判所にすべての少年事件を送致するよう捜査機関に義務付けて全件送致主義、家裁中心主義、家裁先議主義を採用している。現行法上、検察官は、少年の被疑事件について捜査を遂げて家裁に送致し、一件記録を送った段階で、いったん役割を終え、審判の結果、家裁が刑事処分相当と判断して逆送した場合に、再び関与することになる。検察官は、家裁の審判手続に関与しないというのが少年法の建前であり、先の少年法の改正で、一定の重大事件で、かつ、非行事実の認定に関して争いがあるという例外的な場合に検察官の関与が認められたが、これも家裁が必要性を認めた例外的な場合に限られる。そのような観点からすると、家裁の審判手続は、裁判所と少年との2者間で形成されているので、その手続の中で保護処分の制裁としての性質に着目して適正手続の保障がなされなければならない。したがって、少年審判手続において適正手続を保障するということは、裁判所と少年との関係において問題になるものであり、少年審判手続に対審構造を導入して検察官関与に道を開くものではあり得ないのではないか。

○ 例えば少年の要保護性に関し、少年の精神状態が問題となった場合のように、事実認定と要保護性の切り分けがかなり難しいところがあり、そのような事件で公的付添人を付けたら、検察官の関与を認めなくてよいのかという議論に必ずなってくるわけで、この問題は、少年審判の構造の全体を踏まえて検討する必要があるのではないか。少年審判の全体の構造を考えるとなると、この検討会で取り扱える問題を超えるところがあるので、更に別にその辺りの検討を続けなければならないのではないかという気がしている。

○ 少年事件の特殊性に応じた独自の制度が少年審判制度であり、それが重要な機能を果たしていると評価している。公的付添人を付ける事件の対象を逆送事件に限定するのは狭すぎると思っており、もう少し公的付添人を付けるべき局面はあるであろう。公的付添人が弁護士でなければならないとは考えておらず、現行制度もそうであるように、元調査官、篤志家などでも構わないと思っているが、そこで弁護士が公的付添人として選ばれるケースは、事案の難しいケース、環境調整が必要なケースなどいろいろな要素が入ってくると思う。

○ 公的付添人を付ける範囲をどこで切ったらよいかが難しいところであり、原則逆送の事件を対象として押さえた上で、それ以外の部分も職権で付けられる余地を残しておくというのがよいのではないか。

(10)公的付添人制度を導入するとした場合における具体的な制度設計(たたき台(3)第2関係)

○ 必要的選任については、弁護士付添人が立ち会わなければ審判を開けないという効果を持たせるのであれば、そのような構成が可能ではないか。

○ そのような構成はあり得ると思うが、それは望ましくなく、制度を設けるとすれば、職権による選任制度とするのがよいと思う。

○ 現行法上、少年審判は、審判廷を開かないとできないのだろうか。審判開始決定など審判廷外で行われるものもあり、必要的選任として、弁護士付添人が立ち会わなければ審判を開けないという構成を採るとしても、難しい問題があるのではないか。

(11)次回の予定

次回(11月11日)は、新たな制度の骨格について検討を行う予定である。

(以上)