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公的弁護制度検討会(第12回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)

1 日時
平成15年10月3日(金)13:30~18:40

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 井上正仁座長、池田修、浦功、清原慶子、酒巻匡、髙井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(説明者) 高階貞男(日本弁護士連合会副会長)
松村徹(最高裁判所事務総局家庭局第二課長)
(事務局) 山崎潮事務局長、大野恒太郎事務局次長、古口章事務局次長、松川忠晴事務局次長、落合義和参事官

4 議題
公的弁護制度及び公的付添人制度について

5 配布資料
【浦委員提出資料】
 「被疑者に請求権を与える事件の範囲」についての「段階的実施」案

6 議事

○井上座長 所定の時刻ですので、第12回の公的弁護制度検討会を開かせていただきます。本日も、御多忙の折、御参集いただきまして、ありがとうございます。
 本日は、既に御了解いただいておりますとおり、7月までの2巡目の議論を踏まえまして、主要な論点について、御意見が分かれ、あるいは新たな論点の指摘がなされて、更に検討を行うとされた点について議論を行うことにしたいと思います。
 議論の仕方は、裁判員制度・刑事検討会と同じように、基本的に、たたき台の項目に従う形で、順次議論を進めていくことにさせていただきたいと思いますが、時間が限られている反面、盛りだくさんの項目でありますし、既にかなり議論を積み重ねてきたところですので、なるべく制度設計の基本にかかわる主要な論点に絞って御議論いただき、技術的・細目的な点につきましては、特にこれだけは言っておきたいということに限って述べていただくにとどめていただければと思います。裁判員制度・刑事検討会でも申し上げたのですが、これまでの議論の単なる蒸し返しにとどまるのではなく、なるべく新たな御意見をいただいて、議論を前に進められればと考えております。
 早速、中身に入りたいと思います。まず、たたき台の「第1 被疑者に対する公的弁護制度の対象事件」というところからですが、対象事件を被疑者が身柄拘束されたものに限るかどうかについては、身柄拘束されたものに限るというたたき台の案に特に御異論がなかったと思いますので、そういうことでよろしければ次に進みたいと思います。
 次に、「第2 請求による選任制度」というところですが、まず、「1 被疑者に選任請求権を与える事件の範囲(罪名による限定)」です。この問題については、第1巡目も第2巡目もかなり活発に議論されたところですが、中心的な論点ですので、再度御意見を伺えればと思います。ただ、これまでそれぞれの方から出された御意見については、皆さん十分御承知のことと思いますので、それを前提としていただいて、できる限り簡潔に御意見をいただければと思います。どなたからでも結構ですが、どうぞ。

○浦委員 私は、被疑者に選任請求権を与える事件の範囲については、第1ラウンド、第2ラウンドでも、身体拘束された全被疑者を対象とすべきだという意見を申しました。したがって、罪名による限定は設けるべきではない、と言ってきたわけですが、この間の日弁連内での論議、当検討会による地方調査の結果を踏まえ、「『被疑者に請求権を与える事件の範囲』についての『段階的実施』案」という、本日付けのペーパーを出させていただきました。これに基づいて、「段階的実施」ということを提案させていただきたいと思っております。
 まず、この提案の骨子ですが、公的弁護制度の制度施行は平成18年と想定されるわけですが、それから一定期間、例えば平成18年から3年以内、つまり平成21年までの期間ですが、その期間は、死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件の被疑者に請求権を与える、これは裁判所法26条2項2号の法定合議事件に、同号で除外されている強盗罪、暴力行為等処罰に関する法律並びに盗犯等の防止及びその処分に関する法律の各違反罪を除外しない範囲での罪名に限定するということです。
 それともう一点は、少年の刑事事件です。これについては、「例えば16歳未満などの一定年齢未満の少年にすることも考えられる」と記載しておりますが、この趣旨は、現時点でも16歳未満の少年については対応は可能でありますが、制度が施行される平成18年段階までに、なお、対応できる可能性は広がることも考えられるということで、そういう含みのある表現にさせていただきました。
 さらに、第2段階としては、この(1) の期間から一定期間内、例えば2年以内、つまり平成23年ということになりますが、それまでの期間については、「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件」、すなわち刑訴法289 条1項の必要的弁護事件を対象とする。
 今の第2段階目の期間を経過した後は、逮捕又は勾留されたすべての被疑者にかかる事件を対象とする、つまり罪名による限定をなくすということです。
 この第2段階、第3段階いずれの場合につきましても、(1) の第1段階で述べた少年の事件についてはその範囲に含める、そういう趣旨です。
 弁護人依頼権の趣旨、あるいは司法制度改革審議会の意見書が公的弁護制度の導入に当たり掲げました目的を考慮し、さらには当検討会においても、被疑者に対する公的弁護は、理想的には身体拘束された全被疑者を対象とすべきことについては、ほぼ異論のなかったところと言ってよいかと思いますが、これらの諸点を考えますと、公的弁護制度の在るべき姿としては、逮捕又は勾留されたすべての被疑者に弁護人選任請求権が与えられ、対象事件の範囲について罪名による限定をすべきではないということになろうかと思われます。
 他方で、この検討会でも、多くの委員から、専ら弁護士の対応能力の観点から、身体拘束された全被疑者を対象とすることは困難ではないかと指摘されてまいりました。この点について、日弁連では、被告人段階の国選弁護の実績に基づいて種々のシミュレーションを行い、その結果について全国単位会の意見を求めましたところ、これに対応しようとする意欲を示す単位会も相当程度あったのですが、対応は困難だとする単位会も少なからずありました。この点については、日弁連は、今年の7月から8月にかけて、全国の八つのブロックにおいて各地域ごとに意見交換会を開催し、弁護士数の少ない単位会の意見を直接聴くなどし、弁護士の対応能力について精力的な検討を行いました。
 その意見交換の結果に基づき、全国で必要とされる刑事を担当する公設事務所の弁護士数をシミュレートしてみると、必要的弁護事件に対応する場合、あるいは身体拘束される全被疑者に対応する場合、いずれも相当数必要になるという試案が導き出されました。その試案に基づいて、担当部署で検討しましたところ、会員数の少ない単位会でも、全会員挙げてこれに対応していくという並々ならぬ決意を示すところも少なくなかったわけですが、一部の単位会では、平成18年と想定されている公的弁護制度のスタート時点では、公設事務所の弁護士の配置が不確実であることなどの理由で、対応能力について懸念を示すところがありました。また、先の地方調査の結果によりましても、釧路、旭川では、制度発足時点では対応能力は限定的に考えざるを得ないという意見が出されたりしました。
 公的弁護制度は、刑事司法制度の一環として全国一律に実施されるべきことを考えますと、制度発足当初から、身体拘束された全被疑者に対応しなければならないというのは現実性を欠くものと判断されるという結論に至りました。そこで、先ほど制度の骨子として述べた段階的実施ということを提案させていただくことになったわけです。
 また、この検討会では、公的弁護制度については、在るべき制度を打ち出し、現状がそれに満たないのであれば、在るべき制度を実現するために現状を踏まえて、どう制度設計すべきかを考えるべきだ、という意見もございましたし、また、我が国では制度がいったんつくられてしまうと、それが固定化され、適時に制度が改革されることはかなり困難であり、当初に在るべき制度をつくらないと将来における改革は難しいのではないか、という意見もありました。これらの意見はもっともでありまして、このような考えの下に制度発足の段階において、在るべき制度を明示した上で、これを段階的に実施していくという制度設計を行う必要があると考えられました。そこで、制度施行5年以内、すなわち平成23年段階と想定される時点において、逮捕又は勾留された全被疑者を対象とする、という制度設計をした上で、制度施行時点、すなわち平成18年と想定される時点では、短期1年以上の懲役又は禁錮に当たる事件について実施し、制度施行3年以内、すなわち平成21年と想定される時点で、必要的弁護事件について実施すべきだと考えるに至ったわけです。
 対応態勢についてのシミュレーションになりますと、必要的弁護事件に対応する場合には、公設事務所の弁護士が数十名、更に逮捕・勾留された全被疑者に対応する場合には 100名を超える弁護士、 200名近い弁護士が必要となるわけですが、このような数の刑事を担当する公設事務所弁護士の確保が問題となるわけです。これにつきましては、まず日弁連が設置しております「ひまわり公設事務所」に属する弁護士がございます。これについては、ひまわり公設事務所への赴任を前提に過疎地への弁護士の供給に協力する事務所に所属する弁護士が既におりまして、55期10名、56期17名、57期20名が希望を提出してきています。過疎地域への赴任については、最低でも登録後1年半程度の都市部での勤務経験を積むことが必要だとしますと、平成18年までには約50名程度の数の弁護士を供給することができるわけですが、さらに、その後、毎年平均して約20名程度の供給態勢は整ってきていると見てよいかと考えます。
 また、既に弁護士として活動中の一般弁護士からの応募も一定数存在するところでありまして、これまでに開設された「ひまわり公設事務所」へは一般の弁護士からの転身組が多く、その数を今確実に予測することは困難ですが、その実績からみて年間大体5名ないし10名程度の供給は可能になると思われます。そうしますと、平成18年以降も毎年協力事務所から約20名程度、一般弁護士が5名ないし10名程度公設事務所への応募がございますと、それによって、平成21年には必要的弁護事件に対応するのに必要な弁護士数は確保されるであろうと考えております。
 さらに、弁護士会やブロック単位での公設事務所が現に設置され、また設置が予定されており、そこからの供給も可能です。特に東京と大阪では、2004年4月1日の開設を目処とし、主として刑事事件を担当する都市型公設事務所が発足します。東京弁護士会では、北千住に裁判員制度、公的弁護に対応して、弁護士任官や過疎地公設事務所への弁護士の派遣を目的とした第2公設事務所を設置することが総会で決議されており、そのスタッフは所長以下18名が予定されております。さらに、大阪でも、人数はもう少し少ないですが、刑事対応型の公設事務所が準備されております。
 そういうことで、これら増加策は、現時点では確実な数字は示せないものの、平成19年4月からは法科大学院の1期生の登録も開始されるようですので、それらを考慮すると、平成21年ないし23年までには、相当数の刑事担当弁護士の上乗せが可能であり、その必要な弁護士数を確保することができると考えております。
 このような方策を講ずることにより、制度施行後3年を経た平成21年時点では、必要的弁護事件に対応する弁護士、それから2年後の平成23年時点ごろには、逮捕・勾留された全被疑者の事件に対応することのできる弁護士を確保できるものと考えております。
 若干時間をとって恐縮ですが、これに加えて、対応態勢を考えるに当たりまして、地方調査で指摘された電話接見ということの実現も図られるべきだと考えております。かつて日弁連と北海道警察あるいは警察庁で意見交換をしましたが、当時の段階では、法律上に何らの規定もない状況下では、電話接見という方法は考えにくいということでいったん意見交換は終わっております。いわゆる電話接見の問題としては、通話の相手方が弁護士であるか否かの確認方法、通話内容の秘密性の確保の問題があるわけですが、現在の技術からしますと、相手方の電話番号を確認することは極めて容易であり、電話機を一定の場所、例えば弁護士会館内に備え付け、接見専用のものにするということも考えられます。また、秘密性の確保についても、接見の要否のスクリーニングをする、あるいは簡単な伝言にとどめる場合であれば、秘密性の確保についての問題は比較的少ないのではないかと思われます。さらに、法律上の規定がないという点についても、弁護士会と警察庁、その他の関係省庁との間でガイドラインやマニュアルなどを作ることにより、その具体化が可能ではないかと考えられるところです。是非ともこの検討は求められると思われます。
 結論として、我々としましては、制度施行後3年以内に必要的弁護事件、これは先ほど申しましたように、少年事件も含まれるわけですが、これらの対象事件について公的弁護人請求権を認めるということが法律上明記されることは大変重要だと思っています。必要的弁護事件の趣旨は、被告人の利益を擁護するとともに、国家刑罰権の公正な行使を確保することにあると解されておりますが、法定刑に照らして弁護人の援助を必要とする事件をおおむね網羅できるのではないかと思われます。制度施行後5年以内に逮捕・勾留された全被疑者を対象とする旨明記されることは、我々の望むところですが、それについては立法技術上の問題もあるとすれば、少なくとも制度発足時点においては、対象事件の範囲として必要的弁護事件プラス少年事件ということになるのですが、そのことが法律の本則に明記されるような措置がとられるべきである、そのように考えます。長くなりましたが、以上です。

○井上座長 電話接見の可能性に触れられたのは、これによって1人の弁護士が担当できる件数が増えるだろうという趣旨ですか。

○浦委員 旭川、釧路で出ましたように、弁護士が1回の接見に何時間も要するような所もございますので、そういう所であれば、もう少しその点は合理化できるのではないか、そういう趣旨です。対応能力が増すことになるだろうと思っています。

○井上座長 もう1点よく分からなかったのですけれども、今の段階では、最初の第1段階の範囲くらいが対応能力の限度だろうが、それから3年後になると、第2段階の範囲まで対応可能になると言われましたね。その根拠はどういうものなのですか。第1段階と第2段階とでは、件数としてかなり差があると思うのですが。

○浦委員 具体的な数値は、今出せないわけではないのですが、なお弁護士会でも弁護士のアンケートをとったりして検討中です。

○井上座長 しかし、案を出されるときに、3年くらいで(2) の範囲までは対応可能になるとはじかれたわけでしょう。それが実際にそのとおりにいくのかという点は、アンケートをとっておられるのかもしれませんけれども、第1段階で(1) の範囲にとどまらざるを得ないというのも理由があるわけですよね。

○浦委員 弁護士の少ないところでは対応は困難だということです。

○井上座長 それは、全国的な数としてということではないのですか。それとも、部分的に弁護士の数が少ない地方で対応できないからということであって、弁護士の数が多いところは対応できるということですか。

○浦委員 できるところもあります。

○井上座長 まだよく分からないのですが、要するに、第2段階の対象事件数が余りに大き過ぎるので、3年くらいの間隔で本当に対応可能になるとどうして言えるのか、ということなのです。第1段階の対象件数は、全部足して、おそらく1万ちょっとですよね。

○浦委員 約1万件ぐらいです。必要的弁護事件ということになりますと約10万件に増えるわけですが、現に1万件の範囲であれば極めて容易であるということで、そこからスタートしましょうという趣旨です。

○井上座長 それが、第2段階になると、10万件近くになるわけですよね。他の皆さんも御意見があると思いますが、いかがですか。浦委員から、今のような新しい御提案が出たところですが。

○髙井委員 質問ですが、浦委員の御提案は、3年ということを法律に書き込めということですか。

○浦委員 そうです。

○髙井委員 要するに、(2) のところを法律に書くと。

○浦委員 3年以内ということです。

○髙井委員 3年以内に・・・。

○浦委員 私は、(3) の制度実施後5年以内に、「逮捕又は勾留された被疑者にかかる全事件」を対象とするということを、法律本則に書き込んでいただきたいと思うのです。

○髙井委員 それは無理でも、(2) の3年は。

○浦委員 その辺は御理解いただきたいと思います。

○井上座長 ベストなのは(3) まで書くことだが、それが難しければ、せめて(2) までは書いて欲しいと、そういう御提案ですね。いかがですか。

○髙井委員 私も、本来は身柄全事件を対象とすべきだというのが自説ですが、浦委員の御提案は、理想はそうだけど、弁護士の対応能力が十分ではないから、小さいところから始めようということですね。そうすると、3年とか5年とおっしゃっていますが、例えば3年以内には必ずこの必要的弁護事件には対応できるだけの数は揃うということでおっしゃっているわけですね。

○浦委員 揃えるという、揃うという見込みというと、意欲も含めてということです。客観的にそれは可能であると我々は考えています。

○井上座長 先ほども言われたのですが、その点もちょっとよく分からなかったのです。全体として法曹人口が増えていくからということだったのですが、それが対応能力の拡大にどうつながっていくのか・・・。

○浦委員 それ以前に、ひまわり公設事務所、一般の弁護士から公設事務所に応募する弁護士もいます。都市型事務所も現に動き出します。そういうことを考えますと、必要な人数、数十名、100 名を超えるという、刑事事件を担当する弁護士の員数は3年後、5年後には確保できると思います。

○井上座長 仮に100 名集まったとしても、9万件ないし10万件という数を割ったら1人当たりの負担は相当な数になりますよね。

○浦委員 それをすべてその弁護士がするわけではございませんから。

○井上座長 積算の根拠が見えないのですよ。

○浦委員 公的弁護を担当する一般弁護士が年間10件ないし20件程度事件を担当するという前提があります。

○井上座長 それは、どのくらいの数の弁護士が担当するとはじかれているのですか。

○浦委員 現在、当番弁護士登録者数は8319人いますが、登録弁護士数が地方ごとに違いますので、事件数と弁護士数がうまくマッチしないところもあります。ですから仮に1人が10件、あるいは20件担当するとしても、どうしても残る事件数がございますので。

○井上座長 今、当番弁護士として登録している人が仮に8000として、1人10件やれば8万件ですね。1人20件ずつやれば全部カバーできるはずですが。

○浦委員 20件までは難しいというところも場所によってはあるでしょう。

○井上座長 そういったところを、さっき言われた弁護士会のいわゆる公設事務所、あるいは公的弁護の常勤弁護士でもいいと思うのですが、その人たちが残りの1万件から2万件を担当すれば、トータルで10万件くらいは大丈夫だろうと、こういうことですか。

○浦委員 そういう趣旨です。

○酒巻委員 今の浦委員の御提案について、私の意見を述べます。日弁連が高い理想を掲げながら、しかし、現実的な対応を提言されたこと自体については大変敬意を表するところです。私は、前々から申し上げているとおり、浦委員も今述べられたとおり、公的弁護制度は全国的に画一的に確実に運用可能な制度として始めなければいけないと思うわけで、この意味で、今の御提言の第1段階、対象事件を短期1年以上の罪とする部分、私も前に述べたとおり、法定合議プラス、現在は法定合議から除外されている強盗等の罪、これを加えた範囲が現実的に妥当だと思っておりますので、その部分については賛成です。
 ただ、今の御提言の第1段階には、これに加えて少年の刑事事件も含まれていました。御趣旨は分からないでもないところではありますが、前にも申し上げたとおり、少年事件の場合は成人の場合と犯す罪の性質がいろいろ違ったところがあり、軽微な窃盗、傷害、恐喝等、成人とは違うタイプの事件が多いのは確かですし、また自白事件がかなり多いと承知しております。そういう事情があるにもかかわらず、一律に少年であるということで、そちらには公的弁護の権利があるが、成人については同じ罪名だが、少年と違って権利がないというのは、公的弁護という法制度全体の設計から言うと合理的な説明がつかないのではないかと思います。そのような理由で少年を加えることについては反対ですが、当初現実的に現在の法定合議事件プラス若干の罪というところから始める点については、現実的かつ適切なお考えではないかと思います。

○井上座長 ほかの方は、いかがですか。

○清原委員 私も、当初、第1ラウンドで現実的な対応が必要で、その中で一番重要な問題は、地域的な偏在性であると申し上げましたので、それはデータを見た限りで申し上げたのですが、最近調査に行かれて、委員の皆様もそのことを更に痛感された上での、本日の浦委員の御提案だと思いますので、私としては、段階的に実施していくことは、その点からも重要な御提案だと思っています。
 それだけではなくて、私は、公的弁護制度のこれからの在り方を考えていくときに、後の議論とも重なると思いますが、公費を使うわけですので、公費を使ってきちんと公的弁護を保障していく上での範囲、適切な対象は何かという問題を常に認識しなければいけないと思うのですね。ですから、私は、今の御提案のように、できれば全事件と考えたいと思いつつ、この問題は、地域的な偏在性のみならず、公益性というか公共性というか、そのような観点からも、私たちは判断をしていかなければいけない重い判断の場面だと受け止めています。
 そして、特に地域的な偏在性の問題については、これから公的弁護制度の運営主体が、司法ネットの中核として、全国どこでも公的弁護を受けられるような態勢を整備していく、そのような条件整備が重要になってくると思います。
 もう一つは、公平な制度とすべきという観点も重要で、今回の(1) から(3) 、第1段階から第3段階に行く、この分け方が妥当なのかどうか、本日、直ちに私は判断できないのですが、いずれにしても段階的な実施については、私は非常に有効な提案ではないかと感じました。
 2点目に付け加えられた電話接見の提案ですが、これは、私は、弁護士の方が時間のコストをかけずに適切な接見をするという意味で、今の制度ではなかなか難しいということですが、有用なこれからの在り方ではないかとお聴きしました。特にこれから3年先、4年先になれば、テレビ電話も廉価になっていくと思いますし、IP電話の利用などにより電話料のコストなども低廉化が図れると思いますから、これはガイドライン、マニュアルという御提案もありましたが、そういうところで実務的にできるのであれば、弁護を受ける側の利便性、弁護士さんの時間コストの問題なども考えても検討に値する御提案ではないかと思いました。以上です。

○土屋委員 私も、従来、全事件にするのが理想的であるという意見を述べております。日弁連の対応能力に疑問があるのではないかということも一面では述べているわけですが、ここで新しい提案が出されたことに、私は賛成したいと思います。非常に現実的な対応ということで、制度を確実に実施していく上で堅い選択をされたと思っています。その弁護士会の意見を尊重した形で制度をつくっていくのが望ましいと思います。対象とする事件を広くとることは、私は望ましいと依然として考えているので、その芽を摘むようなことはしないでほしいと思います。ここで書かれている形の法定合議事件プラスアルファの形でとりあえず制度をつくることには全く賛成ですが、更にそこから枠を広げて必要的弁護事件辺りまでもっと対象に含められるような、そういう態勢ができてくれば、そこまで視野に入れて制度を考える方が私は望ましいのではないかと思っています。そういう意味では、段階的に実施するという考え方は理解できるのですが、このために法定合議事件プラスアルファという狭い範囲に最初から限定してしまうことは望ましくないだろうと考えています。
 もう一つは、段階的実施を一定期間内に2段階に分けて法律に盛り込むという考え方ですが、期間を定めるのはなかなか難しいのではないかと私は思います。それよりはむしろ一定期間の後に見直しをするというのでしょうか、対象事件はこれでいいかどうか、もう一度見直す。そのときには是非、私は少なくとも必要的弁護事件辺りまで広げることができるようにしていただきたいと思うのですが、そういう見直し規定的なものを置く方がいいかなという感じがしています。
 それから、今、清原委員も言われましたが、電話接見、私は大賛成です。そういう可能性は、できるだけ考えていただきたい。電話だけに限らないと思うのですけれども、旭川だとか、この間、実地調査をして本当に痛感しました。地方でどういう形で接見が実現できるのかというのは非常に制度のポイントになると思いますので、その辺りを是非考えていただきたいと思います。

○井上座長 電話接見の可否ということ自体は、ここでの問題では必ずしもないかもしれないのですが、個々の弁護士の対応能力をどれだけ増すかということに絡む要素として御意見が出たものと整理させていただきたいと思います。どうぞ。

○本田委員 私も、従前、身柄拘束事件に公的弁護を付けること自体を否定するものではないという立場を採ってきたのですが、現実に対応能力、弁護士の偏在状況が現にあるわけで、これは法定合議事件からスタートするのが適当だろうという意見は今でも変わりません。その点で、今回、浦委員からこういった現実を直視した形での提案がなされたことについて、その観点から検討するということについては歓迎したいと思っています。
 それとともに、被疑者の弁護人依頼権を実質的に担保するという観点から、できるだけ広い範囲に対象事件を拡大すべきであるという浦委員の指摘も、これもまた理解できるところです。被疑者段階で国選弁護人が付くことによって公判がスムーズにいく面もありますし、それが迅速化にも資するだろうということもあるわけです。そういう意味では、公判段階で、長期3年を超える事件について、これは弁護人が必要だとされているところから見ると、対象事件の目標を、あくまでも目標ですが、必要的弁護事件に拡大することも検討に値するだろうと考えています。
 その場合も、なるべく早い時期に、またなるべく確実な方向で実現できるようにしていかなければならない。そのためには、例えば今度できる運営主体において一定期間内に全国的に充実した弁護活動を提供しうる態勢を整備する計画を立てる。弁護士会の協力も得て、その計画を確実に達成してもらうことも、一つの方法としては考えられるのだろうと思います。
 ただ、例えば3年以内あるいは5年以内に段階的に拡大してそれを法律に書き込むという点は、先ほどの浦委員の説明では、なかなかそういうことを法律に書けるのかという疑問は消えておりません。法律で書く以上は、かなり確実なものとしてきちんと対応できるということが前提になるわけで、あるいはそこに不確定要素が入ると、なかなか難しいので、これをどうするかということについて、拡大する方向に反対はしませんので、そこは今後十分議論し、検討していく必要があるだろうと考えています。
 それから、電話接見の問題ですが、これが果たして1人の弁護人が数件の事件を担当し得るような効率化に本当に資するのかというのは若干疑問があります。接見というのは、被疑者の顔を見ながら、そこでちゃんと話を聴かないと分からない、電話でできる部分は本当に限られた部分だろうと思います。それから、電話の場合、いろいろな法律的な接見のルールがあるわけですが、それをきちんと担保できるかどうかという点が必ずしも明らかでないということから考えると、若干問題かなという気がしております。要するに、これによって効率的になって担当事件数を増やすことができるという意味で、それほど意味がある制度とは思えない。
 少年事件については、先ほど酒巻委員から指摘がありましたが、同じような意見です。先ほど16歳未満に限定するという話がありましたが、果たして16歳未満とそれ以上とを分けるのが合理的かという問題もあり、当初のスタートとしては、法定合議事件辺りからスタートさせるのが一番妥当だろうと思っています。

○井上座長 ほかの方は、いかがですか。

○池田委員 浦委員の本日の考え方は一つの現実的な考え方として十分評価できるだろうと思います。少年について、今も話がありましたように、16歳未満は全部必要なのかというのは更に検討しなければいけない問題だろうと思います。前から話していましたように、理念としては、かなり広く公的弁護の対象とする必要があるが、現実的には現在の状況からは無理だということを前提とすれば、当初は狭い範囲で実施して、段階的に必要的弁護事件まで拡大するのは一つの姿だと思います。その期間とか、どのようにというのは、これから更に弁護士の対応能力の状況を見て考えていく必要があるし、もちろんそのための努力はしていただかなくてはいけないわけですが、その努力を見た上で更に決めていくべきことで、法律にそういう期間を盛り込むのがいいのかどうか、これもなかなか難しい問題があるだろうと思っております。

○酒巻委員 本田委員、池田委員から、一つの現実的な拡大の姿として、必要的弁護事件の範囲はあり得るだろうとの御指摘がありました。私もできる限り早くそういう範囲にまで拡大してもらいたいと思っている点は同意見です。
 また、先ほど清原委員は、これから先のことについて、新しくできる運営主体が公的刑事弁護の態勢整備の活動をすることの重要性について触れられました。本田委員も先ほど運営主体ができて、それが更に公的弁護の範囲を拡大するための整備について努力する、具体的な計画を立てて確実に実施していく、そういうアイディアを示されたわけです。他方、浦委員の御提案は、年限を具体的に法律に書き込んで、それに即して推進拡大していくという提案ですが、法律の書き方として、場合によっては、今、お話が出たように運営主体が全国的に充実した弁護活動を提供する態勢を整備することをやり、弁護士会、裁判所、関係する機関が皆これに協力していく旨を法律に書き込むことによって、先の見通しを立てて道筋をつけていく、そういうやり方もあるのではないかと思います。

○髙井委員 私は、身柄全事件という説なのですが、実際対応できない現実を前提にすれば、当初は(1) の範囲で始めるということでもやむを得ないかと思います。ただ、拡大する対象は、基本的にはやはり必要的弁護事件ではなくて身柄全事件が目標とされるべきだと思います。私がかねてから申し上げているように、軽微な事件にこそ弁護士が必要だという場合もあるわけです。それは、前からお話ししているように、痴漢のえん罪事件を見ても明らかだと思います。ですから、軽微だから弁護人は要らないのだという前提は間違っていると思います。したがって、目標は身柄全事件ということで考えていくべきだと思います。
 ただ、そこまで拡大する方法として、浦委員の意見は法律に年限を書き込めということですが、これはその年月までに態勢ができているかどうか、これは必ずしもはっきりしないわけで、そういうことを前提にすると、やや難しいかなと思います。酒巻委員、土屋委員からそれに代わる提案がなされておりますが、それは私はどちらでもいいのではないか。いずれにしても確実にきちんと態勢が整えば対象事件が拡大されていくというような仕組みになっていれば、あとは技術的な問題であろうと思います。
 それから、少年事件について、16歳未満だけ弁護人を付けるということですが、16歳未満の少年であれば刑事処罰を受ける確率はほとんどないわけです。にもかかわらず、成人で刑務所に行く可能性がある事件については弁護人が付かないというのは、おかしな話で、もしそういう余力があるのだったら、私は成人事件の方の対象を拡大すべきだと思います。したがって、少年事件について例外的に認めるというのには反対です。
 それから、電話接見の問題ですが、本来、接見というのは会って話を聴くのが弁護活動の基本であって、仮に電話接見が認められて、これが濫用されるとなると、かえって弁護の本質が失われるのではないか、あるいは弁護活動がスポイルされるのではないかとすら思います。ただ、遠隔地でどうしても電話接見が必要だという実情もあろうかと思いますが、その場合には電話の相手が絶対に弁護士・弁護人であることが担保できる方法が必要になりますし、また反面、通話内容が秘密にされなければいけないわけで、この二つの条件が満たされれば、例外的に電話接見が認められてもいいと思いますが、技術的にはなかなか難しいかと思っております。

○平良木委員 この問題を議論するときには、今まで出てきました対応能力の問題のほかに、もう一つ財政負担の問題があったはずで、負担に合理性があるか、言い換えると、国民に対して納得のいく説明ができるか、もう一つは、ここで議論するのが適当かどうか分かりませんが、財政当局に納得が得られるか、こういう問題が常に背後にあったように私は思いますが、そこら辺がもしクリアーできるのだとすると、これを広げる方向には、特に反対するつもりはないし、むしろ積極的に推進しても構わないと思っています。
 問題は、それで具体的にどうやって広げるかということで、私は先ほど土屋委員等が言われましたが、見直し規定で、例えば何年か経ったときに広げる方向で見直しをするという形をとるのが現実的ではないかという気がしています。
 それから、電話接見については、髙井委員と同じで、原則これができるというのではなくて、例外的な取扱いとして許されるというのがよいだろう。いろいろな面の条件整備というか、そういうことが必要だろうという気がします。

○浦委員 少年事件の問題について、何人かの方から意見が出ました。意見書が、「障害者、少年など特に助力を必要とする者に対し、格別な配慮を払うべきである。」ということをわざわざうたっている趣旨からしますと、被疑者弁護についても、少年についての格別な配慮が必要になるのではないか。また、日弁連で段階的実施と申しておりますのは、16歳未満ということではなくて、本来は少年全件をやるべきだけれども、これも現段階では16歳未満ということだけれども、平成18年の制度実施時点までには、なお、その対応能力についても十分な検討ができて、更に広げられる可能性があるという意味で、「例えば16歳未満」という言い方をしているわけです。少年の問題については何らかの特別な措置が是非とも必要ではないか、そのように私は考えています。

○井上座長 私自身が理解できていないのかもしれないのですが、第2段階目に移行するときに、第1段階目とは8万件くらいの差があるのを埋めるのに、先ほどの数をベースにしますと、まだ納得できないのです。今、8500人くらい当番弁護士の登録がある、その1人1人がそれぞれ10件から20件担当すれば、ほとんどカバーできる、ということでしたが、しかし、今は対応できないから、第1段階目は1万件くらいの数にとどめるというのでしょう。それは1人10件から20件も引き受けるのが無理だということではないのですか。そうではなく、全体としての数では合うのだけれども、地方によってはカバーできないところがあるということなのでしょうか。さっきは、後者のような御説明でしたね。

○浦委員 後者です。

○井上座長 それをも、3年経てば埋められるということですか。

○浦委員 刑事を担当する弁護士を足りないところに派遣する。そういうことをもって足りないところを補完していく。

○井上座長 それで足りるとお考えなのですか。

○浦委員 それで足りるようなものにしていくということです。

○井上座長 していくというよりは、それで足りるということでないと困るのですが。

○浦委員 足りるということです。

○井上座長 これまでの御説明もそうですが、そういうふうにしていきたいとか、そういった方向だと言われるのだけれども、他の皆さんが不安に思われるのは、正にそこだと思うのですよ。御提案のように法律に年限を書くとしますと、その年限が来たら実行しないといけないわけでしょう。それができないということになると、その部分の施行をまた法律で延ばすとか何とかしなければならなくなるわけで、そういう対応を取るのはごくごく例外的な場合のはずですよね。ですから、試算の内容やその根拠について、他の皆さんが不安に思っているのではないかという気がするのです。
 それと、裁判員制度の対象事件などになると、弁護人の負担は今よりはるかに大きくなるわけで、弁護士1人が担当することができる件数は、その分減るのではないかと思います。そういう事件がどれくらいの量になるかはまだ分からないですが、そういう要素も考える必要があると思いますね。
 さらにもう一つ、当番弁護士というのは1度接見に行くだけで、その上で事件を受任する数は、そのうちの何割かしかない。ところが、被疑者弁護ということになれば、事件を受任しなければならないですし、1件当たりに要する期間も長くなるわけで、そういったことからも、対応可能な件数は限られてくると考えられます。その辺などもきちんと計算される必要があるように思うのです。
 御説明では、その辺りがまだ明確ではないので、3年で第2段階目まで可能になると言われても、本当に大丈夫なのだろうかというのが、私などの感じなのです。

○浦委員 御趣旨はもちろんよく分かっていますが、先ほど言いました「ひまわり公設事務所」、これは大体3年交代ぐらいで考えているのですが、20人ずつ毎年確保されれば、大体60か所弁護士を派遣できるわけです。さらに、一般の弁護士を10名ぐらい可能とすれば、それで30か所、それも3年ごとぐらいで交代していくと考えまして、そうしますと、それだけで100 近い数にはなるということです。

○井上座長 数だけの計算では・・・。

○浦委員 先ほどから出ています運営主体、これからリーガルサービスセンターというのができるでしょう。そこでのスタッフ弁護士も当然考えなければいけない。そうしますと、その数は飛躍的に拡大するのではないか。

○井上座長 拡大するのではないか、ということだけでは困るということを申し上げているのです。もう一つ、数だけを考えていると、法曹人口は増えるから若い人がどんどん増えてくる、それを採ればいいではないかと、こういう話になるのですけれど、実質的に見て、そういう駆け出しの人ばかりでは困ると思うのですね、刑事弁護を担っていってもらうには。

○浦委員 少なくとも1年半ないし2年ぐらいの・・・。

○井上座長 それくらいの経歴しかない弁護士が刑事弁護の主体というのでは困ると思うのですよ。ですから、その辺をも含めて現実的な案を出していかないと、制度として確かなものにはならないのではないかという感じがするのです。

○浦委員 座長の言われる趣旨は、私も理解するところです。

○井上座長 少年事件についての御意見は分かれていると思うのですが、制度全体の大きな方向についてはそれほど違っていないように思います。見直しというアイデアも出ましたが、広げていくところをどのようにするのか、これは法制上の問題などもありますので、もっと詰めて検討していかないといけませんね。それと、数の問題も、現実的にもう少しきちんとしたものでないと、いろんな関係方面を説得することができないと思うのですね。その辺も含めて、更に検討していただくということでよろしいですか。
 先もありますので、この問題はこの程度にして、次に進みたいと思います。次は、「2 被疑者に対する弁護人の選任要件」ですが、これについては、これまで御議論がかなりなされてきたところですので、更に何か特に付け加えたいということがあれば、お伺いしたいと思います。なければ、次に進みたいと思いますが、どうぞ。

○浦委員 貧困要件の資力に関する基準の内容の点ですが、それについては、民事法律扶助では、国民の所得層の下から2割程度までとして、資力基準の目安としては、月の手取り収入が27万2000円以下を対象として、そのような場合に援助するとされているようです。そして、家賃とか住宅ローンを負担しているとか、医療費、教育費、その他やむを得ない出費があるような場合には、さらに基準を上げるという取扱いがされているようです。この資力に関する基準の内容をどうするかということ、これはまた非常に問題になるところだと思いますけれども、法律扶助の場合は、いわば私権の行使に関するところであるのに対し、刑事事件では、国から刑罰権の行使の対象とされているわけですから、国選弁護人を付される範囲は扶助の範囲より相当広くてもいいのではないかと私は思っています。この資力要件についてもどう考えるか、今後の検討課題だと思いますが、私はそういう方向で是非とも考える必要があると思います。

○井上座長 ここで書いてある制度の枠組みというよりは、具体的な基準ということですね。

○浦委員 基準ですね。

○井上座長 今は、月収27万2000円ということですか。

○浦委員 ということのようです。

○井上座長 結構高いですね。

○浦委員 これは3人家族でということです。

○井上座長 今、例えば臨時雇用の人はそんなにもらっていないですよね。その基準が高いか低いかよく分かりませんけれども。

○本田委員 そこは、いろいろな要素を考えて決める必要があるでしょうね。ほかに預貯金があるとか、そういうことを考えなければいけないので、収入だけで基準を引くという議論にはならないと思います。そういう具体的な金額は、細かい技術的なところなので、後で検討されるべきことだろうと思います。

○井上座長 ここでは、具体的な数字というよりは、むしろ、何を基準にするのか、制度の枠組みを議論するべきだと思うのですね。浦委員の先ほどの御発言は一つの御意見として伺っておきますが、制度の枠組みについて、ほかに何か御意見があれば伺いたいと思います。よろしいですか。
 次に、貧困要件の具体的な在り方で、基準の内容について、たたき台には二つの案が示されており、それについて、これまでの検討会でもいろいろな御意見があったところです。ここもかなり技術的な問題ですので、これまで伺った議論に付け加えるべき点があれば、それに絞って御意見をお願いしたいと思います。今まで伺っていたような御意見を踏まえて制度づくりをしていっていただくということでよろしいでしょうか。
 次が、「3 被疑者に対する弁護人の選任手続」です。まず、「貧困要件の審査」の「審査資料」という点ですが、これについては、資力申告書以外の資料があれば、それを考慮することもあり得るという御指摘もありましたけれども、制度としては、被疑者自身に資力申告書を作成して提出させるというA案ということで、おおむね御意見が一致していたのではないかと思います。もし、そういうことでよろしければ、「正確性の担保方法」というところに進みたいと思いますが、よろしいですか。この担保方法についてもかなり御議論いただきましたので、更に付け加える点があれば、それをお示しいただいて、それに絞って議論したいと思います。どうぞ。

○浦委員 これにつきましては、私は罰則を設けるべきでない、というB案の意見を先に述べさせていただいていますが、なお、そのB案を述べておきたいと思います。罰則が適用されるというのは、この場合は故意犯になるのだろうと思いますが、故意か過失かの判定はこういう場合はなかなか難しいのではないか。そもそも身体拘束されている被疑者が弁護人を付けてもらうに当たって、資力について虚偽申告をしたという場合に、それに対して刑罰をもってまでそれを禁止するほどの高度な違法性があると言えるかどうか、その辺について、私は疑問を感じております。
 したがいまして、資力申告書の内容を罰則と結び付けてまで正確性の担保をする必要はないということを申し上げたいと思います。

○本田委員 私は、これは罰則を設けてきちんと担保すべきだと思います。やはり国費をもって公的弁護を提供するわけであって、資力のある者が資力がないと偽って公的弁護を受けるというようなことがあるのは制度の根幹に触れる問題になるわけですね。故意犯と過失犯は難しいという議論がありましたが、それは虚偽申告は故意犯であることは当然であって、今でも故意と過失の区別はあるわけで、そこはきちんと仕分けして認定されていて、それがそんなに難しいとは思いません。
 B案は、「費用を負担させるものとする」といいますが、これは当たり前の話なのです。資力が元々あったのに負担させるのは当たり前の話で、それだけで虚偽申告を抑制することができるかというとそれはできないという話で、これは制度をうまく動かして、なおかつ国民の理解をきちんと得るという意味からいっても、ここはきちんとした制度にしておく必要があると思います。

○髙井委員 私は、基本的には本田委員と同意見です。B案ですと、これは抑止力にならない、どうせ駄目元だというので、どんどん虚偽申告をすることも可能なわけですね。通れば儲けものという感じで、そうすると制度の根幹が揺らぐということになると思います。それから、そんなに重い行為ではないではないかと、今、浦委員は言われましたけれど、これは公費の詐取ということで国会議員の秘書給与の詐取と本質的には同じですね。ですから、そんなに軽い問題ではないと思います。ですから、罰則規定を置く、これはやむを得ないと考えます。

○酒巻委員 私も、今のお二人と同意見です。理由は、すべて皆さんがおっしゃったとおりです。

○井上座長 第2ラウンドで伺ったのと同じような議論になってしまいましたが、更に付け加えることがあれば、その点に絞って御意見を伺いたいと思います。このくらいでよろしいですか。
 次が、「私選弁護人選任申出の前置の要否」という問題です。これは、その他要件の審査にも絡む問題であるとの指摘があったところです。また、この点に関して、浦委員から、「国費による当番弁護士制度」の御提案もありました。こういうこれまでの御議論を踏まえて、更に御意見があればお伺いしたいと思います。

○浦委員 第9回検討会で、国選弁護人選任手続に現在の当番弁護士制度を前置して、これに国費を投入して、国費による当番弁護士制度を導入すべきだということを提案させていただきました。そのときに述べました国選弁護人選任手続に関連する点としては、まず、今言われたその他要件に関する選任手続における役割、つまり私選申出の前置を要するとした場合の役割、もう一つが、貧困要件の審査資料の作成における役割であり、さらにこれも後ほどの議論になると思いますけれども、職権による選任制度における役割があります。そのほかに選任の始期が勾留時となったときに、逮捕期間中の資力のない被疑者に対して弁護人の援助を受ける権利を保障するという役割がある。加えて、公的弁護制度の効率的運用に資する機能、つまり当番弁護士が面会して、その手続面、見通しなどについて説明すれば、事案によってはそのことで納得して選任請求に至らない場合もあり得るのではないか。そういった点を指摘しまして、当番弁護士に国費を導入すべきだとの意見を述べたわけです。
 このうち、その他要件に前置するものとしての当番弁護士は、申出に応じて接見をすることが義務付けられる、弁護士としては接見を義務付けられるというふうに解さなければならないでしょうが、この手続については、私選弁護人選任のための手続ではないかといった御指摘がございました。もちろんその面は否定できないわけでありますが、少なくともその他要件に関しましては、国選弁護人が選任される場合の前提となるわけですから、件数としてはそんなに多くないということになるかもしれませんが、要件判断の前提作業ということが言えるのではないかと思っております。
 それから、資力要件の審査についても、資力審査資料については簡単なものを考えればよくて、弁護士によるアドバイスは不要ではないかという意見がございました。しかし、どのような様式にするにしても資力調査の実を上げるための資料であれば、ある程度詳細なものにならざるを得ないのではないかと考えられます。その場合には、地方調査に際して、旭川の警察関係者の方からも指摘されましたように、本人がなかなかそういうものを書くことは難しいと思われます。そういうことから考えましても、資料作成に当たっての弁護士の援助があってもいいのではないかと思っております。ただ、これは制度のつくり方いかんによっては、その役割が相当狭くなることも考えられると思われます。
 さらに、この点はまた元に帰るという御指摘があるかもしれませんけれども、この問題について別の意見をこの場で述べさせていただきたいと思っております。被疑者に選任請求権を与える事件の範囲につきまして、段階的実施を含めて一定の重大事件に限定するということになってきますと、先ほど髙井委員も言われましたが、比較的軽微な事件でも弁護の必要性は否定できないのでありまして、他方で公的弁護人請求権を与える事件を限定せざるを得ない根拠が弁護士の対応能力と財政上の制約ということであるならば、公的弁護人選任よりも、弁護士の負担が少なく、かつ、財政規模も比較的小さい国費による当番弁護士制度というのは考えられてもいいのではないだろうか。ただ、こういう言い方をしますと、第9回検討会で提案したような当番弁護士制度を公的弁護人選任手続の中に組み込むという位置付けからは離れてくることになるかもしれません。公的弁護人請求権がない被疑者への援助という機能を果たさせることになりますと、公的弁護人の選任手続とは離れることになるわけですが、そこで、当番弁護士制度を資力のない市民に対するリーガルエイドサービス、法律扶助事業の一部を構成するものとの位置付けで検討されることはできないのだろうか。そして、現在、推進本部には、全国あまねく市民が法的な救済を受けられるようにするということを目指した司法ネットの構想があり、運営主体としてのリーガルサービスセンター構想も検討されております。逮捕・勾留されたが、資力が乏しいために自ら弁護人を選任できない、しかも公的弁護人の選任請求権も与えられない被疑者につきまして、最低限の法的援助を行うということを、リーガルサービスセンターの事業の一部にすることは十分検討されてよいだろうと思います。この検討会での検討事項とは別になるかもしれませんが、意見を述べさせていただきました。

○井上座長 私も申しましたし、落合参事官からも指摘があったと思いますが、審議会意見書を踏まえ、この検討会で検討しているのは、あくまで被疑者に対する公的弁護の制度でありますので、その中に当番弁護士制度をどうやって組み込むのか、組み込めるような理屈があれば、ここでの制度の一部として考えられるかもしれない、ということだったはずです。今回は、前とはアプローチの仕方を変えて、援助ということで考えられないかということですね。そうだとすると、ここでの検討項目には乗ってこないと思うのですが、今おっしゃったような話として、別途検討してもらいたいと、そういう御意見ですね。

○浦委員 はい。

○井上座長 ほかの方は、いかがですか。どうぞ。

○清原委員 私は、被疑者に対する弁護人の選任手続の中で、公費で賄う公的弁護ということの意味や役割を鮮明に示す意味でも、(2) の「私選弁護人選任申出の前置の要否」というところで、私選弁護人の選任をしっかりと資力のある人には求めていくという方向性もないとバランスが取れないと思っています。そういう意味で、相対的に資力のある人には、弁護士の必要性ということをきちんと判断していただいて、自らの資力で選んでいただくということは制度的にきちんと組み込んでおかなければいけないのではないかと思うのです。公的弁護制度ができることによって、被疑者・被告人に対して、国が公的に弁護するということのみが安易に先行し過ぎるのもよくないと思っていまして、私は、資力のある人には、弁護士会に私選で弁護人を依頼するということを制度として明示していく必要があるのではないかと思います。そのことが公的弁護の意義とか有用性を示し、制度に対する国民の理解を担保することになるのではないかと思っています。そういう意味で、ここのA案、B案、C案のどれなのかというと、私の中ではこれがベストということではないのですが、いずれにしても私選弁護人という存在の意味も、この制度を考えていくときには一定程度考慮しておく必要性を感じています。

○井上座長 どう書くかは別として、手続的には選任の申出を行うことが前置されるというのが前提になるのではないかという御意見ですか。

○清原委員 はい。

○井上座長 ほかの方は、いかがですか。よろしいですか。
 次は、「選任要件の疎明責任」というところです。ここは、非常に技術的な問題ですので、特に何かこういうことを付け加えるべきだ、こういうことを言っておきたいということがございませんでしたら、次に進ませていただきたいと思いますが、よろしいですか。
 その次が、「費用の一部の予納」という問題です。これについてもかなり御意見をいただいておりますが、更に付け加えたいということがございましたら、その点に絞ってお伺いしたいと思いますが、いかがでしょうか。今まで伺ってきたことでほぼ尽きていると考えてよろしいですか。
 その次は、「被告人に対する弁護人の選任要件及び選任手続」です。これは、公判段階の問題であり、必要的弁護事件については、言うまでもなく弁護人がいなければいけないわけですので、その点では御意見は全く分かれていなかったと思いますが、任意的弁護事件については、被告人段階も、被疑者段階と同じような選任要件・選任手続にするのかどうかという点で御意見が分かれていたのではないかと思います。かなり御議論いただいたところですので、更に議論を発展させる意味で御意見があれば、伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。これまでいただいたような議論でいいということで、よろしいですか。
 それでは、「第3 職権による選任制度及び必要的選任制度の当否」に移りたいと思います。これも主要な論点の一つなのですが、既にかなり御意見をいただいているところですので、できる限り、これまでの議論の単なる重複にとどまらないようにして御意見をいただければと思います。これまでと同様に、職権選任と必要的選任、この二つをまとめて御議論いただければと思いますが、いかがでしょうか。

○浦委員 先ほど段階的実施案を提案させていただきました。その関係で、対象事件について、当初は罪名による限定がされることになりますので、公的弁護人選任請求権のある被疑者のみならず請求権のない被疑者についても、この職権選任は認められる必要があるということを申し上げたいと思います。職権選任ということは制度の硬直な、あるいは形式的な運用を避けて、弁護人の援助が必要だと判断される事件について、後見的に弁護人が付される、そういう意味では非常に柔軟な対応が可能になると考えております。
 それから、必要的選任制度については、いろいろ御意見がございまして、法的効果に難点があるのではないかという指摘がございました。この点については、従来の主張には拘泥いたしません。
 ただ、必要的選任制度を提案した趣旨は、重大事件とか否認事件、少年事件といった弁護人の援助の必要性が高いと認められる事件で、被疑者が弁護人の選任請求をしないという事態が当番弁護士の運用上も多く見られたというところにあって、そのために、特に主張したわけです。公的弁護制度の運用にとって必要だと考えられますのは、職権選任制度の適正な運用とともに、弁護人の選任制度の内容について、被疑者・被告人が十分理解できるような適切な弁護人選任権の告知ということが非常に重要になるのではないかと思います。被疑者段階における弁護人選任権の告知は、現在、逮捕段階あるいは勾留質問段階で弁護人が選任できる旨告知するということで行われておりますが、それに加えて、貧困その他の理由によって、自ら弁護人を選任することができないときは国選弁護人の選任請求をすることができることはもちろん告知されなければなりません。さらに、先ほどの私選弁護の前置という問題から考えますと、被疑者に資力があっても、刑事訴訟法78条に基づいて弁護士会を指定して弁護人の選任の申出をすることができること、その場合に弁護人が選任できなければ、国選弁護人を請求できること、そういうことが明確に分かるように告知される必要があるのだろうと思います。
 加えて、被疑者段階の公的弁護制度の対象事件について一定の罪名の限定が付される場合には、私は、個人的には当番弁護士制度を残すことになるのだろうと思いますけれども、その場合は、現在、勾留段階で当番弁護士制度について裁判所に告知していただいているわけですが、これも逮捕段階においても告知される必要も出てくるのではないか。全被疑者に対して当番弁護士制度というものがあって、その援助を受けられること、そのことについても告知される必要があろうかと思います。
 したがって、こういうふうに弁護人選任制度が複雑になると考えられますので、弁護人選任権に関する制度内容を鮮明に分かりやすく書面に記載して、被疑者に対してそれを読み上げると同時に、本人に手渡すとか、そういう制度的な工夫が必要になるように思います。

○井上座長 という御意見ですが、どうぞ。

○落合参事官 今の職権のところの確認なのですが、今の浦委員の論理構成だと、今回、段階的実施をするので、それで救われない人に職権で弁護人を選任するべきだということですね。そういう議論だと、本来、選任請求権を与えられるべき人が救われるべきだということになりますね。そうすると、貧困要件がかかるということでよろしいのですか。

○浦委員 その辺、法的に見れば、貧困要件がかかってくることになるのでしょうか。

○井上座長 性質がちょっと違ってきますね。先ほどの御説明では、本来、権利として選任請求権を及ぼすべきだけれども、しかし、現段階では対応能力に限界があるので、ここまでで我慢する。その部分を救うために職権でということになれば、選任請求権がある場合と同じ要件がかぶってくるはずなのではないか、ということですね。

○落合参事官 そういう制度として御提案されているのかということです。

○浦委員 私は資力要件は無関係という頭でいたのですが、今、御指摘を聴きますと、その辺、法的な理屈立てがなかなか難しい問題があろうかと思います。

○髙井委員 私は、従来、職権選任は必要だという立場だったのですが、今回のように、まず限定的に始めて、それ以外の選任請求権が与えられていない部分で弁護人が必要な場合は職権で選任するというと、それで制度が固まってしまわないかという感じがしますね。

○井上座長 将来、選任請求権の認められる範囲を見直すときに、職権選任の方でカバーしているのではないかと言われるということですか。

○髙井委員 必要なものは職権で付いているではないかと言われるのではないかと。

○浦委員 そういうことでは困ります。

○髙井委員 不必要なところまで広げるのかと言われたときに困ると思いますけれども。

○井上座長 先ほどの浦委員の論理では問題があるという御指摘だろうと思います。ほかの方は、いかがですか。

○酒巻委員 浦委員が最後におっしゃった点、どういう制度になるにせよ、貧困な方に被疑者段階でも公的費用により弁護人の援助が受けられるということを各所で、特に身柄拘束の初期段階から告知の制度を完備して、更に運用上もより分かりやすくすべきであるという点については大賛成です。
 それから、職権による選任そのものについては、制度上、要件に該当して請求権はあるのだけれども、請求権を何らかの理由で適切に行使できないと認められるような人について、先ほど浦委員が少年のところで触れられましたが、意見書も少年や障害のある方などについて格別の配慮をせよということを言っていたわけで、裁判官から見て、権利はあるのだけれども、それを的確に行使できていない人を助けるという意味で、権利行使の判断能力を担保するという形での職権による選任は十分考えられるのではないかと思っています。

○井上座長 たたき台のB案的なお考えですか。

○酒巻委員 それは、必要性や合理性の説明が非常につきやすいのではないかと思うのです。

○井上座長 その前提としては、選任請求権がある範囲の中で、本人が請求しなかった場合に、ということですね。

○酒巻委員 そうです。後見的というか、助ける、少なくともそのような類型については合理的に説明ができるのではないかと思っています。

○井上座長 という御意見ですが、どうぞ。

○池田委員 この職権についての選任制度については、私も前から、もし請求権の範囲をかなり狭めることになるなら、職権による選任が必要になってくる場面が出てくるのではないかということを言っていましたけれども、今日の最初の段階的実施案で、かなり近い将来、必要的弁護事件まで広がるということであれば、職権での選任がそれ以上に必要になる場面があるのかというと、観念的に言えば、残るのかもしれませんが、かなり現実的には狭いのではないかと思います。また、枠組みとして、貧困要件ですとか、あるいは弁護士会の対応能力ですとか、いろいろなことを考えながら請求権を与える範囲をできるだけ広げよう、ここまで請求権を与えようと言っているのに、その請求権が与えられない者に対して職権で付けるというのも難しいのではないかという感じがいたします。
 今の酒巻委員の言われたことは確かにそのとおりで、法的には請求権がある人に請求権を行使できるように援助してあげるという話で、そこは十分運用する側としては心得なければいけないことだと思いますけれども、請求権を与えた以上に職権で付けるというのは難しいのかなという感じが今はしております。もちろん、請求権を与えるのが必要的弁護事件というような、ある程度広い範囲になるということが前提になるわけですけれども。

○清原委員 私も対象の範囲が広がるのであれば、確かに今御議論がありましたように、職権による選任制度、必要的選任制度はひょっとしたらあまり配慮しなくてもよいのかもしれないとも思いつつ、当初から、少年や障害者に格別の配慮をすべきという審議会の意見に関しては重要だと受け止めていまして、そういうことで言うならば、そういう選任制度を設ける設けないは別にして、例えば制度を設けるときに特に裁判所が判断を明確にできるような要件をつくっておかなければ、実際には運用しにくいのではないかと思いますし、更に例示されているたたき台の4ページなどで、障害者の場合なのですが、「被疑者が耳の聞こえない者又は口のきけない者」というのが、「その他必要と認めるとき」というのもありますけれども、代表的な例として出ていまして、もちろん裁判は言葉でやり取りされますから、こういう部分が典型的な例として出されたのかもしれないのですが、これだけが妥当なのかどうか、その他の視覚障害とか、肢体不自由とか、そういったものもありますから、実際にこういう制度を設けるとしたら、かなり細かく設定しておかないと、そのときの裁判所の判断によって不公正が生じるのではないかというような印象を与えてはいけないと思います。
 ただ、お願いしたいのは、この職権の制度を設けるかどうかにかかわらず、これから犯罪が多様化して、被疑者・被告人の中にも、高齢者、あるいは高齢ゆえに聴覚障害があるとか、そういう人も出てきますので、そういう意味では、この制度の議論と離れますけれども、是非裁判所は被疑者・被告人がきちんと公正な裁判を受けられるような条件整備ということについて、物理的にも、やり取りの支援の面でも、あるいは外国人にも対応していらっしゃると思うのですが、そういう面でも、ますます配慮していただきたいと思いました。
 いずれにしても、公的弁護制度の基本的要件は、貧困要件ということで議論してきましたので、その点の問題があるということになりますと、対象の範囲が広がるのであれば、確かにこの職権による選任というものについては慎重な判断が必要かと改めて思いました。

○井上座長 今の清原委員のお話とほかの方が念頭に置いてこられたこととは少し違っていまして、ほかの方は、本来的には選任請求権によってカバーすべきところを、そこまでいかないのでカバーするとか、あるいは、事件の内容によって付けた方がいいと裁判所が思ったときに付けられるようにしようという浦委員の提案を前提にして、選任請求権の対象が必要的弁護事件にまで広がっていくのであれば、それは不要なのではないかという話だったと思うのです。選任請求権の方で、ほぼ実際的にはカバーされるからですね。
 一方、清原委員が今挙げられたのは、被疑者の方に一身的な事情として何か問題があるという場合に、今の公判段階と同じような職権による選任制度は要らないか、そういう話なのです。
 たたき台に挙がっているのは、今の公判段階と同じものをここに持ってきただけで、確かにおっしゃるように、公判段階についても仔細に検討すると、挙がっていないもので本当に必要なものがあるかもしれませんが、そこのところで議論の場面が少しずれているという感じがします。

○本田委員 私も、第2ラウンドのとき、B案ならあり得るだろうと。これは請求権がもともとあって、後見的にやるのだということですから。
 A案については、あのとき疑問を呈したとおりであります。合理的な理由があり、必要性があり、ちゃんと裁判官が判断できるようなものであるならば、つくってもいいのでしょうが、なかなか難しいのかなと。先ほど請求権を与える事件の対象が狭いから、それを補完する意味でという御発言もあったのですが、もともとそこは対応能力の問題で話が切られているわけで、そううまくいくのかなという気がします。そこは、A案みたいな形ではなかなか納得できないということです。

○井上座長 ほかの方は、よろしいですか。
 次が、「第4 その他弁護人の選任に関する事項」というところですが、ここでは三つの論点が挙げられています。いずれも技術的な問題のようにも思われますし、ある程度議論をされたところですので、これまでの議論に更に付け加えるべきだということがありましたら、その点に絞って御意見をいただければと思いますが、いかがでしょうか。「選任できる人数」、「管轄区域と選任できる弁護士の制限」、それと「同一の弁護人による数人の被疑者の弁護の可否」という問題ですけれども、これまで出た御意見で大体カバーされていると思うのですが、よろしいですか。
 それでは、次が、「第5 公的弁護制度下での弁護人の選任の始期及び選任の効力の終期」です。まず、「公的弁護制度下における被疑者に対する弁護人の選任の始期」ですが、これは主要な論点の一つでありますので、改めて御意見をお伺いできればと思います。何度もお願いしておりますように、単なるこれまでの重複にとどまらない議論をお願いします。

○本田委員 私は、勾留段階からという考えで、それは変わらないのですけれども、実証的な話を言えば、地方調査で聴いた稚内と旭川との間のあの移動のことを考えれば、逮捕段階でその必要性の判断のために被疑者を裁判官の前に連れてくることは到底不可能な話で、不可能な制度をつくっても仕方がないのではないかということです。新たに今までの議論に付け加えて申し上げました。

○酒巻委員 私は、逮捕段階ということを理想形としてずっと主張しており、憲法34条との関係、それから身柄拘束と弁護人の援助の必要という観点からは、拘束期間の長短を問わず、できるだけ早い段階で選任請求権はあった方がいいという理由を述べていたところですが、先般、北海道に行かせていただきまして、想像力を働かせて、広い土地でこれが冬になったら現実問題として逮捕留置中の被疑者の引致に相当な困難があることはひしひしと分かりました。私の説は、選任のために一度裁判官に会うということが前提になっており、これは現実的な対応という観点から言うと、北海道だけではなく、他の地域でも、いろいろな事情から難しい場合があるのかなという印象を受けたところです。現実的に的確に機能する制度の設計としては、勾留質問のときに判断する形にせざるを得ないのかと思うようになっております。
 ただ、前提として、そのようになったとしても、先ほども申しましたとおり、権利があることの告知は、身柄拘束の早い段階からすべきだと考えております。

○井上座長 今でも告知はやっているわけですよね。

○酒巻委員 やっていますが、公的費用による被疑者弁護制度があるということをより手厚く、分かりやすくという意見です。

○井上座長 先ほどの浦委員の御提案は、そこに当番弁護士も利用可能だということも盛り込むということでした。それを法制度として書けるかどうかは別として、告知するときは十分な手当てをすべきだと、こういうことですね。

○酒巻委員 ということで、私の考えが変化、発展しましたので、申し上げておきます。

○井上座長 分かりました。ほかの方は、いかがですか。

○浦委員 私の方は余り変わらず、A案を発展できずにとどまっているのですが、逮捕時説につきましては、以前の酒巻委員の説のとおり、逮捕段階の弁護活動の重要性は明らかであって、繰り返す必要はありません。確かに、地方調査の結果から見まして、国選弁護人を選任するために、逮捕中に被疑者を裁判官の面前に引致する、これは困難だということは十分理解できるところです。
 ただ、現在の被告人国選につきましては、国選弁護人選任手続というのは、裁判所から被告人に対して、引致して質問したりするような手続はとっておりません。被告人に対して弁護人選任に関する照会書を出して、その回答を得ているだけです。したがいまして、逮捕段階でも、警察署に国選弁護人請求書と資力申告書を備えておいて、司法警察員に引致された段階で弁護人選任権の告知と同時にこの書面に記入させる。その際にもちろん弁護人の援助が場合によって必要になるかもしれませんけれども、被疑者に記入させて、それを裁判所あるいは運営主体にファックスで送るというようなそういう方法でも資力要件の判断は可能ではないか。
 したがって、逮捕期間中の弁護人選任手続も、引致まで考えなければ、十分可能であると私は思っております。

○井上座長 という御意見ですが、いかがですか。

○本田委員 これは裁判所が選任するわけですから、それは裁判所にきちんと判断してもらわなければいけないわけで、それだけの資料を整えて、実際裁判所が判断できるような制度にしておかなければいけないだろうというのが1点です。
 それから、もう一つ、逮捕段階からやる場合にですけれど、貧困要件ではなくてその他要件でやる場合に、弁護士会に照会して、その回答が返ってくるまで本当に間に合うのでしょうか。

○浦委員 現在の当番弁護士の8割以上は24時間以内に接見ができております。

○本田委員 私が言っているのはそうではなくて・・・。

○浦委員 ですから、その前に対応するということは当然することになるのかと思います。

○本田委員 例えば、この前、現地調査に行った稚内と旭川みたいなところ、弁護士会に照会をその他要件でやりますよね。

○井上座長 例えば稚内で逮捕されて、稚内の警察に身柄がある。そのときに、旭川弁護士会に照会が行くといった場合でしょうか。

○本田委員 その他要件の場合ですね。貧困でない場合、その回答が返ってきて、それから選任になるわけですね。弁護士会の対応の問題もあるでしょう。夜中には恐らくいらっしゃいませんし、この前の調査ですと、土日の分は月曜日にファックスを御覧になるという説明もございまして、それに似たような事情の弁護士会はまだあるかもしれないですね。そうすると、その点がうまく動くのか、逮捕段階からとおっしゃいますけれども、現実に動かないような場面があるような制度をつくるというのはいかがか、これが二つ目の理由です。

○浦委員 今の点で言いますと、当番弁護士が初回接見に赴いた時間を見ますと、80パーセントが24時間以内、つまり当日接見しているということになりますので、そういう意味では、その他要件をどういうふうに設定するかによるかと思いますけれども、おおむね24時間あれば接見できる、あるいは弁護士会の対応は可能になるということになろうかと思います。

○本田委員 当番弁護士では駄目なのでしょう。私選で受ける弁護士がいるかどうかを弁護士会に照会するわけですから。

○浦委員 だから、それは弁護士会に照会してもらって、弁護士会は24時間態勢ということになるのかもしれませんけれど、そういうこともあり得ると思いますよ。アメリカなどではやっておられるようですから。

○井上座長 この間、地方調査に行ったようなところでも可能なのかという御趣旨なのでしょう。

○浦委員 そういう意味ですか。

○本田委員 そうです。

○浦委員 それも、例えばどこかにそういうセンターみたいなものを置く、これは場合によりましたら運営主体ということでもいいかと思うのですが、そこが全部集約して各地に連絡を流していくという方法もあり得るかと思います。したがって、各弁護士会にそういうものを置く必要はないと思います。

○井上座長 その前提として、警察なら警察署の留置場に、そういう貧困要件を示す書面の書式を置いておいて、それに記入させて、それを裁判所へ出す。裁判官は、基本的にはその書面を見て要否を判断する。その他要件については、弁護士会に照会をかけ、弁護士会としても、できるだけ速やかに対応してあげれば可能なのではないかということでしょうか。

○落合参事官 先ほど当番弁護士が資力申告書の作成を手伝うというお話だったと思うのですが、今の制度だと当番弁護士はそこを手伝わないですね。

○浦委員 手伝うことも場合によってはあり得るということをちょっと今申し上げたのですね。中身が詳しいものであれば、それは手伝わなければいけないということになるかもしれない。先にまず当番弁護士が行動していれば、それはそれで逮捕段階での選任は十分可能になるわけですね。

○井上座長 他の方が心配されているのは、すべての場合にできるのかということであり、部分的にしろ不安があるのに、それを前提にして制度をつくってよいのかというのが、本田委員の御指摘の趣旨だと思うのですね。できるようにやるのだというのが浦委員の御意見なのですが。

○浦委員 やるのだというだけでは駄目なのですけれども、それはやり方はいろいろ工夫することが可能ではないかと思っています。夜間の受け付けだとか、時間にかかわらず受け付けるということは、やり方次第では割合簡単にできるのではないでしょうか。

○井上座長 ほかに御意見があれば。よろしいですか。
 次は終期の方ですが、「公訴提起がなされた場合」については、第2ラウンドの議論では、A案以外の意見はなかったように思いますけれども、そういうことでよろしいですか。そういうことでよろしければ、次に、「公訴提起されずに釈放された場合」と「家裁送致された場合」について議論していただきたいと思います。これもやや技術的な問題ですので、これまでいただいた御意見に更に付け加えたいということがあれば、出していただければと思いますが、いかがでしょうか。よろしいですか。
 それでは、もう一項目だけやっておきたいと思うのですが、「3 公的弁護制度下における弁護人の解任」という項目です。まず、解任権の主体ですが、この点は、たたき台の案について、特に御異論はなかったように思います。2番目、3番目の論点である「解任請求権」及び「解任への弁護士会の関与」の問題については、もともと言い出されたのは浦委員ですが、いずれも運用上のものということで結構であるとの御発言があったように思いますし、それについては特に異論がなかったと思います。残るのは、4番目の「解任事由」を定めるかどうかということです。この点については、第2ラウンドでは、解任事由として、弁護人が心身の故障のために職務を遂行することができないとき、あるいは、正当な事由がないのに公判期日に出頭しなかったか、在廷命令に違反して退廷したときといったことが挙げられ、そういうものを設けるべきだという御意見がある一方で、解任事由を定めることに消極の御意見も述べられたと思います。
 ここもかなり議論したところですので、単なる重複にとどまることは避けつつ、要点に絞って御意見をお聞かせ願えればと思いますが、いかがでしょうか。

○髙井委員 解任事由は定めるべきであると思います。解任事由を定めることが、かえって弁護人の地位を危うくするという御意見があるのかもしれませんが、むしろ、それは逆だと思うのですね。どういう理由で解任されるか分からない状態で弁護活動をしている方が、よほど弁護人の地位は不安定だと思います。したがって、当然その解任事由は相当な範囲に限定されなければいけないわけですけれども、その上で解任事由が明確に定められるべきだと思います。

○浦委員 その場合、解任事由というのは具体的にどういうものをお考えなのかによるかもしれませんね。具体的に解任事由とされるものとのかかわりで御意見をいただいた方がいいかと思うのです。

○井上座長 これまでの御議論では、心身の故障のために職務を遂行できないというときが一つで、もう一つは、正当な事由がないのに公判期日に出頭しなかった、あるいは在廷命令に違反して退廷したとき、ということが、その例として挙げられていましたが。

○本田委員 解任事由を定めるべきだと前から言っているのですが、そのほかの解任事由としては、例えば偽証とか虚偽の陳述をそそのかしたり、証拠隠滅に関与したり、または虚偽の証拠を提出すると、あるいは被疑者又は被告人と、弁護人又はその関係者の利害が相反しているか、又は相反するおそれがある、被疑者又は被告人が、弁護人又はその関係者に暴行を加えたり、又は脅迫をすると、そんな場合には信頼関係がなくなってしまうわけですが、そういったことも解任事由としては考えられるだろう。
 偽証とか虚偽の陳述、証拠隠滅、こういったものについては、日弁連の方でもこれは禁止されていることですし、要は、これは国民の税金を使って適正な弁護を提供するというのが公的弁護制度の話ですから、こういうものが行われたときにはきちんとした対応がとられるのだということを国民に説明しないと理解が得られないと思うのですね。そういう意味でも、こういったものについてはきちんとしたものを定めておく必要があると考えています。

○井上座長 本田委員が言われた最後の点は、必要的弁護事件における弁護人の不出廷の問題に関する判例の事案のように、被告人の方が弁護人とかその家族とかを脅したりして、信頼関係が崩れるという場合を念頭に置かれたものなのでしょうか。

○本田委員 そうです。

○井上座長 いくつか例が挙げられましたが。

○浦委員 今の本田委員のお話だと、弁護人の弁護活動について、何か逸脱行為があった場合の対処の仕方になろうかと思いますけれども、これは前回のとき申しましたが、逸脱行為であるか否かとか、あるいはそれが違法・不当かという判断は、捜査当局と弁護人とでは見方が大きく食い違って、その限界は大変微妙なものです。その場合、裁判所が当該弁護人の活動が違法か不当かとか、あるいは虚偽の陳述なのか偽証させたのか、ねつ造した証拠を出したのか、そういうことを具体的に判断できるのか著しく疑問だと思います。
 さらに、解任になるということで裁判所が判断するということなら、当該弁護人を選任した裁判所が行うということになるのでしょうけれども、その場合の解任問題の処理をめぐって時間を要したり、そのために被疑者・被告人の利益や手続の進行上の関係でも相当でないことが生じ得ると思うのですね。また、解任事由として、こういういろいろな理由を具体的に法定化されることになれば、これは解任請求権ということともつながってくる。これは、単に職権行使の事由ということではなくて、解任請求権ともつながってくる、あるいは解任請求を認めろという話にもなりかねないわけで、そうしますとその請求権を認めるかどうかということの問題も生じて、現在国選弁護人の選任行為の性質については裁判説が採られているわけですが、そういう制度自体についてももう一度見直しが必要になるのではないだろうか。
 他方で、解任事由を法定化することになると、告知、聴聞といいますか、そういう手続規定を置く必要があります。さらに、意に反して解任された弁護人に対して不服申立ての手続を保障しなければならない。また、もちろん裁判所が解任決定の中で、解任の事由を明示すべきことになると思います。そういうところまでの整備をするということを考えますと、現行の国選弁護制度の在り方を大きく変更することになるのではないのか。そういう意味からしましても、解任事由を法定化してそこまでする必要はないと私は思っている。
 それと、本日、解任事由について、本田委員からいくつか出されましたが、失礼ではありますけれど、大変重要な問題であって、この段階になって出されても、時機に遅れた意見というふうに言わざるを得ないのではないかと私は思います。私個人で、これにイエス、ノーを判断できる立場ではありませんし、全体として議論することになろうかと思いますね。だから、総論的な議論をするほかないわけですけれども、私はこの解任事由の法定化は必要ではないと思います。

○井上座長 御自身でイエス、ノーを言える立場にないというのは、ちょっと問題があるように思いますね。この検討会には、皆さん個人の立場で出てきているわけですから。
 それと、裁判説を見直さないといけないと言われたのは、御趣旨がよく分からなかったのですけれど。

○浦委員 具体的な解任事由があるのに解任しない。そうなると関係者から解任しろという請求の問題が当然出てきますよね。それが職権の発動というだけで足りるのかどうか。さらには、こういう場合には請求があれば解任しなければならないということともつながってくるわけですね。

○井上座長 現在の大方の理解によれば、裁判所が一方的に行う行為、命令だということになっていますよね。それと何か関係があるのですか。

○浦委員 だから請求権を認めるとなると。

○井上座長 そこの構成を変えなければいけなくなるかもしれないということですか。

○浦委員 考え方を変えなければいけない。さらには、場合によっては、弁護人からの辞任の規定も考える必要がある、辞任請求もあるかもしれません。

○井上座長 そこは、論理的につながっていないような気がするのです。

○池田委員 私は意見を変えるような感じになると思いますが、解任について、現在の被告人段階には規定がないので、被疑者段階もなくてもいいのではないかということを確か言ったと思うのですが、特に裁判所として、そこについて規定がないと解任できないとは思っていませんので、必要性を特に強く感じているわけではないのですが、ただ、これまでの実務の運用を成文化して、誰でも納得できる、しかも裁判所として判断しやすい解任事由が規定できるのであれば、それはそれで十分考えられることではないかと思います。その場合には、もちろん内容とそういう定め方でいいのかということは、議論が必要になるところだろうと思います。

○井上座長 どういう場合に解任権を発動すべかというところは、今は解釈・運用でやっているのだけれども、それが明確化できて、その中身が合理的なものであれば、それはそれで考えられると、そういうことでしょうか。

○池田委員 しかも、仮に今まで裁判所の解任権の発動について明確性がなかったということであれば、当然公的なお金を使う場面では説明責任としてもきちんとしたものが必要だろうということは思いますけれども。

○酒巻委員 今、池田委員がおっしゃったのと同趣旨のことを述べようと思っておりました。最初に髙井委員もおっしゃったとおり、明確な形で解任事由が法定されている方がむしろ望ましいのではないかと考えています。今まで判例は裁判であることを前提として、正当な理由がある場合には解任できるということでありますから、その部分をできる限り明確な事由として書くことは望ましいのではないかと思っています。
 それから、最初に手を挙げたときに申し上げようと思っていたのは、先ほどの浦委員の話の中で、解任事由を法定することと、解任請求権等々のことを関連付けておっしゃったのですけれども、先ほど座長が御質問されたように、論理的には関係ないと考えます。

○井上座長 ほかの方はいかがですか。どうぞ。

○浦委員 これ、ちなみに、破産法が破産管財人の解任について規定を置いていまして、「裁判所は債権者集会の決議若しくは監査委員の申立てにより又は職権をもって破産管財人を解任することを得」と。「この場合において破産管財人を審訊することを要す。」そういう規定で、具体的にはもちろん解任事由は定めておりません。しかも、その場合に審訊手続ということで手続的な保障もしております。さらに、破産管財人は解任の決定に対して破産法の規定に基づいて即時抗告をすることができると、そういう構成になっています。
 だから、そういう点から考えても、特に解任事由を定めなければならないとも思えませんし、解任事由を定めるとなると、逆に手続的な整備というのはどうしても不可欠になるのではなかろうか。

○井上座長 しかし、裁判所の解任権というのは現在でもあるのです。そして、それについては、審訊の手続といったものは必要とされていないのですね。そういう現行法の枠組みを前提にする限り、破産管財人のような場合とは違う性質のものとして位置付けられているのではないかと思うのですが。

○浦委員 いや、解任事由があって、それだと、どの事由に該当するかということについては、解任される弁護人に対してそれなりに告知・聴聞をしなければいけないのではないか。

○井上座長 現行法の下でもですか。

○浦委員 もし決めた場合です。

○井上座長 しかし、池田委員が言われたように、裁判所に解任の権限があるわけでしょう。

○浦委員 権限はある。

○井上座長 裁判説に立っており、しかも、職権発動による一方的なものであるわけですから、裁判所が正当な理由がある、解任すべき事由があると判断すれば解任できるのであって、その場合の手続として、当の弁護人から意見を聴くという制度にはなっていないですよね。

○浦委員 今のところは。

○井上座長 ですから、現行法としては違う形になっているのではないか、ということを申しているわけです。

○本田委員 恐らく破産管財人の場合と刑事裁判における弁護人の場合は全く違うわけで、破産管財人はもちろん裁判所の監督によっていろいろな破産関連の仕事をするわけですけれども、裁判官の目の前でやっているわけではないですね。先ほど申し上げたようなことは、裁判官の目の前でやっているわけで、先ほど判断が困難だということをおっしゃっていましたけれども、こういうことは、裁判所にとっては極めて認定のしやすい事由ですね。

○髙井委員 捜査段階は。

○本田委員 もちろん捜査段階もあるのですけれども、例えば虚偽の陳述、証拠隠滅に関与した、虚偽の証拠を提出した、こういったことについても判断がそんなに難しいわけではなくて、それは捜査機関なり何なりから、そういったものが疎明されれば、それで判断できるわけですね。そんなに難しいことではないと思うのですね。

○浦委員 難しい、極めて困難な問題ですよ。

○髙井委員 そこは難しいのではないですか。全証拠を見ないと判断できない。

○井上座長 容易に判断できるかどうかという問題と、解任されるかもしれない人のヒアリングが必要かどうかということは、別問題ですよね。

○浦委員 別問題。

○井上座長 だから、そこは分けて議論しないといけないのではないかと思うのです。

○髙井委員 1点いいですか。

○井上座長 どうぞ。

○髙井委員 浦委員に対して質問ですけれど、解任事由を定めても定めなくても相当な理由があったら解任できるのだから、相当な理由を定めることについて、何でそんなに浦委員が反対されるのか、そこが理解できない。

○浦委員 そういう事由を定めることによって、逆に弁護活動に対する足かせになり得るということで、逆の意味ですよ。

○髙井委員 何にもなくて、いきなりやられれば、そうはならない。

○浦委員 それはそれで現行の運用自体については、おおむね誰もが了解する場合に解任されている。

○髙井委員 それは現在は公判活動ですから。捜査段階になったら、裁判官から見えなくなるわけですから、そういうときに何も解任事由を決めておかないで、いきなりバッサリ、闇夜で後ろから斬られるようなことだってあり得るような制度にして何がいいのかと私は思います。

○浦委員 それは裁判所の方では、その場合には何らかそれなりの手続は必要になってくるのだと思いますけれども。

○清原委員 私は、こうした解任事由をもし定める場合には、もちろん弁護活動の自主性・独立性に格別の配慮をすべきだと思うのですが、被疑者・被告人にとって、やはり不利になるというか、直接的な影響を被るような弁護活動の在り方、例えば合理的な理由がないのに公判期日に出席されないとか、被疑者・被告人の観点に立って、弁護活動に大いなる問題があるときということを考える必要があるだろうと思うのですね。あくまでも自主性・独立性については保障されるべきだと思いますが、その意味でも限定的な事由は明記されていた方が、逆に独立性とか自主性を損なわないのではないかという感じを持って、今のやりとりを聴いていました。
 ですから、あくまでも弁護活動の自主性・独立性は、私たちは保障していかなければいけないのだけれども、解任は、その自主性・独立性の弊害が大きくこの裁判に出たときにどうするかというぎりぎりの問題だろうと思うのですね。ですから、今の制度の中で十分やれるならそれでもいいのですけれども、この公的弁護制度の円滑な運用のために必要であれば、解任事由を定める必要もあるのではないかなと思います。

○髙井委員 その解任事由としてどういうものが相当かということについて私の意見を申し上げたいと思うのですが、弁護活動の質を問う、本田委員が言われたように、それはやり過ぎではないかというものも含めて、質を問題にするようなものは、法における解任事由としては妥当ではないのではないかと思います。外形的にどう見ても、それは信頼関係が崩れているよと、そんな事件を、そんな被疑者の弁護をやれというのはかわいそうである、あるいはそんな弁護士に弁護をされるのは、それは被疑者がかわいそうだということが定型的に明らかになるような行為を類型化して、それを解任事由にするべきだと思います。例えば、20日間一度も接見に行かなかったとか、それははっきりしていますよね。そういう人がいるかどうか分かりませんけれども、とにかく今のような観点で類型化して解任事由にするべきである。仮にそれがやり過ぎではないかとか、虚偽証拠ではないかということになれば、それは虚偽かどうかの判断は非常に難しいわけだし、かつ、また虚偽であることを弁護人が知っていたということをどうやって判断するのだとなると、これは非常に難しい話になって、また、そういうことになれば、弁護人としても、浦委員がおっしゃるように当然自分の主張はするという機会は設けられなければいけないわけで、そうなってくると、やはり20日間の間の手続としては重過ぎるということになりますから、弁護活動の実質に踏み込んで解任事由を考えるのはなかなか難しい。

○本田委員 ちょっとよろしいですか。

○井上座長 清原委員がここにいらっしゃれる時間に限度があるものですから、そのことも念頭に置いて簡潔に述べていただければと思います。

○清原委員 本日扱われる範囲のことで二、三だけ意見を申し上げてから中途退席してもよろしいですか。

○井上座長 ぎりぎり何時ごろまで可能ですか。

○清原委員 4時にここを出れば大丈夫です。

○井上座長 そうですか。今やっている議論をもう少し・・・。

○本田委員 先にやってもらって結構です。

○井上座長 そうですか。それでは、清原委員、どうぞ。

○清原委員 大変申し訳ありません。本日は公的弁護のところまでの御予定ですか。

○井上座長 全部できればと思います。

○清原委員 それでは、いくつかポイントのみ申し上げます。
 公的弁護制度の担い手である弁護士の確保方策につきましては、常勤弁護士と契約弁護士という新しい制度を提案されていて、このたたき台で私はおおむね賛成なのですけれども、特に全国的に充実した弁護態勢に資するための地域偏在の問題を解消するような部分、これは法律に書くのではなくて、むしろ運用とかそういうところになるのかもしれませんけれども、段階的にきっと整備していくことになると思うのですが、そのときに、ある程度、今の偏在状況を念頭に置いて、放っておけば都市から充実していくような感じもしますので、法律そのものよりも、実際の運用のときには現状の問題を解決するような計画的な取組を弁護士会と協力して進めていく必要性があると思います。
 それから、報酬につきましては、できるだけ客観的、定型的に運用できるようにすっきりと、特に契約弁護士の場合にはそのような基準をつくっていく必要があると思います。弁護費用の回収については、私は、現行どおり、検察庁にお願いした方が、公的弁護の運営主体がそのことに専念できますので、費用については現行の検察庁の取組の中に含めていただければいいのではないかと思います。
 それから、大切なポイントは運営主体の在り方なのですけれども、これは大変大きな議論になるかと思いますので、皆さんの御議論を聴かなければいけないと思いつつ、私なりの意見を申し上げますと、今ある機関としては、独立行政法人というのが一番実現可能性があるかなと思うのですが、ただ、「独立行政法人」という呼称には多少国民の抵抗がある。なぜなら、司法制度の中に公的弁護の制度は位置付けられ、運営されていくのに、専門的な制度用語として独立行政法人となっているものですから、「独立司法法人」とあれば国民の納得もいくのかなと思うのです。呼称といえども、制度的には大きな意味がありますので、ほかのところを動かさなければいけないのですが、できれば独立司法法人というようなことで、中身は独立行政法人かもしれませんけれども、何か三権分立の考え方から、行政という言葉は・・・。

○井上座長 検察庁も行政庁ですから。

○清原委員 そうなのですけれど、ただ、裁判所の新しい形というのも考えながら、ちょっとそれが呼称的に気になりますが、制度的にはそれがよいのではないかなと思っています。
 それから、公的付添人制度につきましては、最近の少年犯罪の多様化とか低年齢化を重く受け止めますと、非常に重要な問題であるなと改めて思いますけれども、同時に問題提起されてきている検察官の関与ということが非常に重要性を増してきていると思います。特に被害者の視点が最近の少年犯罪の場合には重要になってきていて、そこからも検察官関与がどう在るべきかということについて議論をしないと、公正さが担保されない、あるいは公正らしさが担保されないのではないかと思います。
 さらに、原則逆送の場合なのですけれども、原則として検察官に逆送されなければならないとされている事件については、それだけ重大な処分が予測されるわけで、公的付添人制度は必要性が高いと思います。
 その他の部分についてですが、家庭裁判所調査官と公的付添人の役割分担はやはり鮮明に示しておかないと、現行制度とのずれとか、家裁調査官の良い面が損なわれてはいけませんので、明確に示していく必要があるとともに、実はそれ以外にも公的付添人の方の資格として、先ほど申し上げました原則逆送事件のような専門性が必要で、弁護士の方でなければ公的付添人ができない、ふさわしくないという場合もあるでしょうけれども、ひょっとしたら、その他の専門性を持った方あるいは調査官のOBとか、より少年の保護に実績のある保護司の方などの可能性も考えられないかと。その辺は、私は原則、弁護士さんが望ましいと思いつつも、適切な範囲の拡大と運用に当たっては違うヒューマンパワーにも御協力いただくことも有用ではないかなと。そのことが少年の更生の観点からも意味があるのではないかなと思い付いたりしました。
 いずれにしても、公的付添人の取組については、公共性の観点から、当事者、被害者のそれぞれのケアというのが大変重要になってきますので、できる限り、多元的・複眼的な観点から検討する必要があるのではないかと思いました。
 以上、自分の都合で早退するものですから、二、三のポイントしか申し上げられませんでしたけれども、皆様の白熱した議論の中でかき消されないことを願いつつ、中途で大変申し訳ないのですが、早退をさせていただきますことをお詫び申し上げます。

○井上座長 御意見を十分かみしめて議論を行いたいと思います。

○清原委員 よろしくお願いします。

○本田委員 先ほどの続き、よろしいですか。

○井上座長 もうちょっと前にブレイクを入れたかったのですが、なかなかその余地もなかったので、もう少し今の議論を続けて、きりのいいところでブレイクということにさせていただきたいと思います。本日は、私の心の中では、終わりの時刻は設定していませんので。どうぞ。

○本田委員 先ほど解任事由の中で認定が難しいではないかという話もあったのですけれども、それははっきりした認定ができなければ解任ができないだけの話で、明白なものだってあるわけですね。だれがどう見てもおかしい、例えば偽証を教唆したり、明らかに虚偽の証拠を提出した弁護人、明らかなのに解任できないということはおかしいわけで、これは、難しいからそれは駄目だという話にはならないだろう、その点だけです。

○落合参事官 一つ確認したいのですけれども、一つ例がありました虚偽の証拠を提出したという場合について、認定が難しいから、あるいはできないからいかがなものかというお話があったのですが、それは認定できないから駄目なのですか、認定できればよろしいのですか。別の言い方をしますと、そういう虚偽の証拠を提出したという事由を解任事由としてはいかんということなのでしょうか。

○浦委員 それは適当でないと思いますね、解任事由としては。

○落合参事官 ですから、これは認定できないからなのですか、それとも仮に認定できても駄目なのですか。

○浦委員 認定できても、そういうものは理由としてはまずいのではないでしょうか。

○井上座長 そこは、髙井委員と違うところですね。

○浦委員 そうですね。私は、そう思っています。

○落合参事官 そこはお聴きしたいのですけれども、弁護士倫理に同じ規定があって、今回それを会規まで高めるというお考えもあるようですが、すると、それは懲戒事由に以後なるわけですね。その場合は、場合によっては弁護士資格の剥奪ということまでいくわけですね。場合によっては、弁護士資格が剥奪される事由にはなるのだけれども、弁護人としてはとどめるという、その理屈は何ですか。

○浦委員 明白だという前提で議論を立てられているから・・・。

○落合参事官 私がお聴きしているのは、その事由そのものが解任事由としていいのかどうかということで、手続のことを聴いているのではないのです。そういうものがそもそも駄目なのかどうかということを聴いているのです。

○浦委員 そういう決め方自体、やっぱり弁護活動に関する何らかの規制になり得ると思うのです。

○落合参事官 ですから、今度は懲戒事由にもなるわけですね。その場合には、場合によっては・・・。

○浦委員 今でも、それはもちろん懲戒事由になる。

○落合参事官 弁護士の資格を失う事由としてはいいけれども、弁護人にはとどまれるというのはどうしてなのですか。

○髙井委員 浦委員の立場でも、明らかに虚偽の証拠を提出したときは、間違いなく、それは解任されるけれども、それ以外のときは解任されないというような書きぶりであれば、そこはいいのですよね。

○浦委員 それができるのであれば。しかし、そういう形ではできないのではないですか。前提が明らかな場合とかおっしゃっておられるものですから。

○井上座長 仮に認定できたとして、それは要件になるのですか、というのが落合参事官の質問なのですが。

○浦委員 だから、それは要件を定めなくても運用でできるのではないですかと。

○井上座長 定めないでやったら不明確ではないかというのが、何人かの方の御意見なのですが。

○浦委員 いや、必ずしもそれは不明確とも言えないですよ。

○井上座長 書くことによって、弁護人が萎縮してしまうということですか。

○浦委員 そうです。だから、公的弁護制度全体の話なのですけれど、弁護士会がインセンティブを持って、これにかかわっていきたいというような、そういうものをつくるべきなのだと思うのです。そんなところでいろいろ、そういう問題が出ると意欲も失せるのではないですか。

○井上座長 御趣旨を明らかにしたいのですけれど、偽証、あるいは虚偽の証拠、偽造された証拠を提出したということを要件にした場合に、どういう萎縮の効果があるのか。そうと疑われるようなことはしにくくなるということですか。

○浦委員 疑われるというのは分かりませんが。

○髙井委員 正しいことをやっていても、疑われるということになるかもしれない。で、萎縮するというふうに浦委員はおっしゃられた。

○井上座長 例えば、証人に事前に面接をして事情を聴くと、偽証を教唆したのではないかと言われて、裁判官が解任をすると、そういうことがあるかもしれないということですか。

○浦委員 それはあり得ます。

○井上座長 仮定の話としては、そういうことですか。

○浦委員 今の例ですけれど、現にそういうことはいくらでもあるわけですよ。

○井上座長 その点は見方が分かれると思うのですが、御趣旨としては、解任事由として明記すると、そういう萎縮効果が及ぶことになるということですね。もう一つ、お考えの基底にあるのは、弁護士会が自らの倫理規程に照らして偽証であると認定し、資格を剥奪するのはいいのだけれども、弁護士会以外の裁判所だとか、そういうところでそんなことを言われて、何らかの資格を奪われることになるのはいけないと、そういうことなのでしょうか。

○浦委員 いや、後者は必ずしもそういうことを申し上げているわけではない。それは実際の運用として解任にされる可能性はあるかもしれません。それはそれでよろしいではないですか。

○井上座長 そうすると、要件として明記することが適切でないということであって、明らかに偽証だというような場合、明記はしておかないけれども、現在ある裁判所の解任権の行使によって解任されるのはやむを得ない。そういうことでしょうか。

○浦委員 そういうことです。

○酒巻委員 座長の質問に続けてなのですけど、先ほどの落合参事官の質問に対するお答えがまだないので、お聴きしたいのですが、現在弁護士倫理に書いてあることが、解任事由に書かれることがなぜ駄目なのかという理屈が分からないのです。もう弁護士倫理に書いてあるわけですね。

○井上座長 ですから、そこは、あえて私が付け加えたようなことではないですか、ということなのですが。

○酒巻委員 それは理屈ですかというのが私の質問なのですが。合理的なことなのですか。

○髙井委員 倫理規程に書いてあるだけなら弁護活動ができて、なぜ解任事由に書かれているのはできないかという。

○井上座長 それを説明してほしいというのが、酒巻委員の御趣旨ですか。

○酒巻委員 私には全く分からないのですが、それ以上は、結構です。

○井上座長 浦委員としてはもう十分説明したと・・・。

○浦委員 私はこれまでに説明したつもりでいるのです。

○井上座長 浦委員としては、説明したつもりでいるとおっしゃるのですが、他の何人かの方はまだよく分からないということですね。さらに、この点で付け加える御意見があれば。よろしいですか。もう一点だけ、ここのところは恐らく御意見がないのかなと思われるところだけ済ませて、ブレイクにしたいと思います。
 それは、「選任の効力が及ぶ事件の範囲」という点です。再逮捕の場合と追起訴の場合の二つが挙げられているのですが、この点もかなり技術的な問題でもありますので、これまでの議論に付け加えて、更に何か意見を言いたいということがございましたら、出していただきたいと思います。なければ、この辺でブレイクということにしたいと思います。

(休 憩)

○井上座長 それでは、再開させていただきます。「第6 公的弁護制度の担い手である弁護士の確保方策」というところからですが、1から4までの項目につきましては、かなり時間を割いて議論されてきたところですので、これまでの議論に更に付け加えて議論をすべきであるとお考えの事項があれば、それに絞って御意見をいただければと思います。いかがでしょうか。
 特に御意見がないようですので、よろしければ、次の「5 その他の確保方策」という項目に進みたいと思います。この点につきましては、常勤弁護士及び契約弁護士という二つの形態以外の弁護士の確保方策という観点から議論をしていただきまして、弁護士会の方で、刑事専門弁護士といったものを確保することなどの紹介があったところです。また、運営主体による弁護士の確保方策という点で、これまで契約弁護士というのは、契約によって一定の事件の受任を義務付けられるものと考えていたのですが、それとは別に、運営主体との間で一定の契約関係を持つ弁護士を確保するというアイディアも示されたところです。この点は、何度も出てきました会計法24条の問題とも関連するわけですが、そういうこれまでの議論を踏まえまして、更に何か付け加えたいということがございましたら、出していただきたいと思います。

○浦委員 これにうまく当てはまる議論になるかどうか分からないですけれど、狭義の契約弁護士と違って契約弁護士でない何らかの緩やかな契約というのですか、そういう弁護士を運営主体が確保するという話です。それも継続的なものとしますと、契約内容いかんによっては、また問題もないことはない。ですから、一つの考え方とすれば、裁判所の選任があった都度契約があり、それが終わると契約が切れるという、個別の契約といいますか、そういうような構成の仕方はあり得るかなという気はするのです。推薦されれば、そういう契約の申込みがあって、裁判所の選任があれば承諾があってその契約を締結する。いったん事件が終われば、それで契約関係は終わり、その契約に対して報酬が支払われると。また、新たに次の段階でまた新しい事件を与える。

○井上座長 それは、専ら会計法24条との関係ということですか。

○浦委員 それとの関係もありますが、そういうことを以前少し考えたことがあるものですから、意見を述べさせていただきました。

○井上座長 そういうのもあるのではないかということですね。

○浦委員 はい。

○平良木委員 それは、今の国選とほとんど似たことになるのでしょうか。

○井上座長 国選の場合、今は裁判所の命令で弁護人になっていますから・・・。

○平良木委員 その違いはあるのですけれど。

○本田委員 確かにいろいろな考え方もあり得るとは思いますけれど、今の浦委員の考えだと、法律構成はどういうことになるのでしょうか。裁判所が選任すると、運営主体は当該弁護人と契約する義務が生ずるというのか、当然契約は成立するという話になるのですか。前段階で運営主体は関与していませんね。技術的な問題なので、ここはいろいろなことがあるとは思いますが、そのような構成があり得るのだろうかという気がしますが。

○井上座長 そう説明すれば、会計法の問題をクリアーするのではないかという御趣旨や意図は分かるのですけれども、そういう説明で関係方面等に納得してもらえるかという問題もあるように思うのです。説明の仕方としてやや便宜的な議論になってしまっていますね。十分お分かりだと思うのですが、そういう説明の仕方もあり得るかもしれないという御意見だということでお聴きしておきたいと思います。ほかに何か。よろしいですか。
 それでは、先に進んで、六つ目の論点であります「弁護人として裁判所に選任される弁護士の推薦又は連絡」という問題です。ここについては、かなり議論があったわけですが、最終的には浦委員も含めまして、その推薦というのは運用にゆだねる、つまり、訴訟法上、推薦や連絡がなければ選任できない、あるいは、推薦ないし連絡がなされた弁護士を選任しなければならない、という仕組みにはしないということで、ほぼ皆さんの御意見が一致していたのではないかと思いますので、そういうことでよろしければ、そのほかの点で、更に付け加えたいということに絞って御意見をいただければと思うのですが。どうぞ。

○浦委員 今、座長の方でまとめていただいたとおり、私の方も、この点につきましては、6のA案ということになろうかと思います。ただ、その段階で、なぜこの法律の規定を置くべきではないかということを申し上げたかといいますと、申すまでもありませんけれども、国選弁護人の推薦の在り方が、裁判所や検察当局に対抗的な弁護士を恣意的に排除できることを可能にすると、その在り方いかんによっては、弁護活動の自主性・独立性を危殆に陥れかねない、そういう重大な問題であるからです。
 現在、被告人の国選弁護制度については、昭和23年6月9日付の最高裁事務総長通達で、「弁護人の人選はその地の弁護士会に一任して行われる」ということになっており、一部の地域では例外がありますものの、大多数の単位会において、弁護人の推薦はおおむねこの規定に基づいて円滑に行われているわけであります。弁護士の間では、公正中立の機関とはいえ、国家機関である運営主体ができることによって、これまで弁護士会が行ってきた弁護人の推薦が、弁護士会から運営主体に奪われてしまうのではないかと、そういうことが強く危惧されておりまして、このようなことから、第10回の検討会では、弁護士会による推薦を制度化して何らかの法律の規定を置くべきだと、やや性急な意見を述べたわけでございます。
 この点につきましては、現行どおりの運用にゆだねることで結構だと思います。ただ、運用につきましては、運営主体の業務規程、そういうところで何らかの形で規定されれば足りるものと考えております。もっとも、その場合でも弁護人の推薦問題が弁護活動の自主性・独立性にとって重大な問題であることを認識されて、弁護士会による現在行われている推薦の持つ意味が十分活かされなければならないだろう、そのように考えております。

○井上座長 ただ今の御意見は運用に関する御意見ということで承っておき、座長としては、法制的には先ほどのような整理とさせていただきたいと思います。
 次は、「第7 公的弁護制度下での弁護報酬の算定・支払」というところですが、この問題は、第1、第2ラウンドを通じてかなり議論されたところであり、論点も明確になっているように思いますので、更に付け加えたいということがございましたら、それに絞って御意見をいただければと思います。個別にというよりは全部一括して、全体について何かこれまでの議論に更に付け加えたいということがありましたら、出していただければと思います。

○浦委員 これも全体的な意見で大変恐縮なのですが、前回のときに申しましたが、今の国選弁護は、決まった金額という意味の定額、かつ低額で、実費持ち出しのボランティア活動ということになっている。これは極めて問題でありまして、弁護士の立場からすると、これはこれだけしてやっているという恩恵的な心理があり、他方、被告人の立場から見ると、国選弁護人であるから十分な弁護をされなくても仕方がない、そういうあきらめというような心理が働くというところに、今の国選弁護制度の運用上に問題点があるとすれば、基本的にはそこにあるのだろうと思います。
 弁護士の公的弁護制度へのインセンティブを高めるということは、先ほども申しましたけれど、極めて重要でありまして、その一つが報酬の問題なのだろうと思います。国選弁護の報酬はいくらが妥当かということについては、この検討会で論議がされていないわけですが、現状は我々からすると安価にすぎると言っておかなければならないと思っております。かつて、この検討会で意見が出ましたように、捜査段階から公判を通じて30万円程度の弁護士報酬が確保されるべきだという意見が弁護士の間では非常に強いわけであります。もちろん予算上の制約ということは理解できるわけでありますけれども、このような報酬の現状には改善が強く望まれるところだと思っております。新たな公的弁護制度が発足するに際しましては、現在の国選弁護制度が持つ先に述べた弱点が克服されるようなものとして、報酬体系が考えられるべきだと、意見として述べさせていただきます。

○井上座長 そこは、なかなか現実には難しいところがあるのかもしれませんが、前に髙井委員からも同じような御発言がありましたので、御意見として承っておきます。今の御意見についてでも結構ですが、ほかの点についても何か御意見があれば。よろしいですか。
 それでは、「第8 弁護費用の回収」というところですが、ここも既にこれまで行った議論で論点ははっきりしていると思いますので、更に付け加えたいということがあれば、それに絞って御意見をいただければと思います。「回収の仕組み」について、現行どおりという意見を採る場合には、恐らく法制上の問題が余りないと思うのですが、これまでの議論でも指摘されたように、仮に運営主体が回収するという場合には、制度論として運営主体が回収するのはどういう理屈といいますか、理論的な根拠に基づいてそうなるのかということや、弁護報酬の予算をオープンエンドと理解するかどうかということなどの問題点があると思いますので、それらの点にも留意して、御意見をいただければと思います。いかがでしょうか。先ほど清原委員は現行どおりという御意見だったと思いますが。

○池田委員 私は確か運営主体において行うというB案が自然ではないかと言ったと思うのですが、ここは回収事務の担い手として、運営主体にするのがよいか、今のように検察庁がする方が十分な態勢を整えているのでよいかということですから、どちらが回収の実を上げられるかということで考えればいいことなのかなと思っています。ですから、B案にこだわるのではなくて、どちらの仕組みもあり得るのかなという気がしております。

○井上座長 先ほど申し上げた点が、制度論上の疑問点として出たところなのですけれども。

○池田委員 それぞれ難しいのかもしれませんが、何らかの説明ができるかと・・・。

○井上座長 そこは知恵を絞っていただかないと、制度として理屈が通らないということになると思うのですね。次の段階までに、皆さん、考えていただけますか。
 第9に進んでよろしいですか。「公的弁護制度下での弁護活動の在り方」という問題です。まず、「弁護活動の自主性・独立性の確保方策」という点ですが、これについては、個別弁護活動への指揮権の問題や身分保障規定の問題などがこれまで出され、議論がかなりなされたわけですが、それに対する問題点として、法制的にそういう規定を果たして置けるのかという御指摘もあったように記憶しています。そういうことを踏まえて、更に付け加えたいという御意見があれば、それに絞って簡潔にお願いいたします。

○浦委員 よろしいでしょうか。

○井上座長 どうぞ。

○浦委員 前回、この点については、主務官庁及び運営主体が個別弁護活動への指揮権がない旨の規定だとか、あるいは常勤弁護士の身分保障に関する規定を法律の中に明記すべきだと、そういうことを申し上げました。これに対しては、運営主体が国以外の法人となった場合に、主務官庁や運営主体がその職員に対して「指揮権」を有することになるのだろうかと、そういう御質問もありましたし、そういう論点の指摘もございました。あるいは、運営主体を国以外の法人として常勤弁護士を公務員としない制度にした場合には、民事上の雇用契約上の問題であって、身分保障の規定は考えにくいのではないか、そういう御意見もございました。
 この場合に私が「指揮権」と申しましたのは、主務官庁が運営主体の自主性・独立性にかかわってはならないし、あるいは運営主体の長が個々の弁護活動に対して自主性・独立性を侵すようなことのないような規定を設けておくべきだと、そういう趣旨で述べたものです。
 それから、運営主体と常勤弁護士との関係が、単に民事上の雇用契約関係だとしますと、雇用契約から出る使用者の指揮命令権ということも出てくるわけで、そうだとすると、常勤弁護士は場合によっては「労働者」ということになれば、労働三権ということの問題も出てくるかもしれません。もちろん常勤弁護士が「労働者」というのはいかにも実態に反するわけですので、労働基本権、団結権、団交権とか争議権は認められないと思うのですけれども、その代替的な措置として身分保障の規定はどうしても必要になるのではないか、そのように思います。例えば、意に反して職務を停止されたり、減給されない、そういう規定はやはり置いておかなければいけないのではないかと思っています。

○井上座長 そこは、雇用契約などでカバーする分野ではないのですか。

○浦委員 組織体としての規定が必要であり、個々の雇用契約の中での問題ではないと思います。

○井上座長 組織法でそういうものをきちんと明示するべきだということですか。

○浦委員 ということを前回申し上げさせていただきました。

○井上座長 ほかの方は、御意見いかがですか。

○本田委員 要するに、そういう規定がうまく書けるかどうかの話で、前回申し上げましたが、法制的にうまく書けるのかなと。書ければ別にいいのではないかと思います。

○井上座長 指揮権の問題と身分保障の規定の問題とは性格が違いますね。

○浦委員 はい。

○落合参事官 今、浦委員のおっしゃったのは、法律にそういうことを書くということですか。

○浦委員 法律というと。

○落合参事官 例えば運営主体に関して組織法があったとして、その中で常勤弁護士について、意に反して不利益な処分をされないとか、解雇されないとか、そういうことを法律で書くということですか。

○浦委員 例えば検察庁法とか国家公務員法にはその規定がありますね。そういうものとのアナロジーということにはなるかもしれませんけれども。

○落合参事官 それは公務員で、基本的に指揮権があるのですね。身分保障について、監督権も及んでいて。ただ、運営主体はどうなるか分かりませんけれども、国以外の法人ということになると、主務官庁というのが想定されて、主務官庁と個々の弁護士との間に何らかの直接的な関係があれば、何かそういうことも考えられるのかなという気もするのですけれども、そこがないときに・・・。

○浦委員 身分保障というのは運営主体との関係ですね。

○井上座長 運営主体と雇用される常勤弁護士との関係でということですか。

○浦委員 はい。

○落合参事官 それを法律に書かなければいけない理屈は何ですか。

○浦委員 法律事項になり得るのではないかと思っています。常勤弁護士の地位をどういうふうに定めるかということになるかと思いますけれども。

○落合参事官 逆に言えば、雇用契約で定めるのでは足りない理屈は何ですか。

○浦委員 雇用契約上、雇用契約の中に入れるわけですか。雇用契約書みたいなものを作って、その中にというのも一つの方法としてはあり得ますね。

○落合参事官 雇用関係はそうなるわけですね。

○井上座長 そこについては、運営主体の意思決定機関なりが監督しているということでは駄目で、法律で縛るということにどのような意味があるのか、ということだろうと思うのですが。

○浦委員 雇用契約書の中で書き込むことも一つの案として考えられるかもしれません。

○井上座長 いずれにしても、何らかの形の保障が必要ではないかという御趣旨ですね。必ずしも法律でなくても、それが確保できればいいということですか。

○浦委員 法律で書かれるのが望ましいとは思いますが。

○井上座長 法律に書くことの効果は何なのですか。この法律は組織法ですよね。

○浦委員 対外的にも常勤弁護士は自主・独立でやっていますよということが明示されることになるかもしれませんね。

○井上座長 組織法にそういうものを入れることができるのかどうか、これは法制上の問題ですね。

○浦委員 法制上の問題ですね。ここは、なお検討させていただきたいと思います。

○井上座長 次が、「弁護活動の水準・適正の確保方策」という項目ですが、この点についても、かなりこれまで議論をしていただいたところです。まず、「運営主体によるルールの策定」、「運営主体による違法・不当な弁護活動への対応」というところですが、ここは割と議論が白熱したようにも見えるのですが、実質的にはそれほど大きな対立があるのか私には疑問でして、運営主体によるルールの策定という点については、これは浦委員も含めて、運営主体がルールを定めること自体は否定されなかったのではないか。また、運営主体が違法・不当な弁護活動について解雇や契約解除を含めた措置を講じるという点についても、それをしてはいけないとまで言われたようにも思わないのです。議論になった点は、そういったところではなく、むしろ、弁護士会が定める弁護活動のルールと運営主体が定めるルールが一致しなければならないのかどうか、それぞれ別の主体が定めるわけですが、そのルールの中身を一致させないといけないのかどうかという問題が一つと、もう一つは、手続の問題ですね。弁護士会による懲戒手続が運営主体による何らかの措置の前に置かれないといけない、つまり、弁護士会の懲戒手続を必ず先行させ、その結果を受けて運営主体が何らかの措置をとるという形でないといけないのかどうか、また、その場合に弁護士会の判断が運営主体を拘束するのかどうか、という問題です。そういう2点が議論の分かれた点かと思いますので、そういう整理で、もしよろしければ、その2点に絞って御議論いただければと思います。ただ、ここも、浦委員からは、確か、制度論としてそこまで言えるかどうかという御趣旨の御発言もあったように思いますし、法律でそこまで定めるべき事項なのかという問題もあると思います。したがって、実質について、できるだけ重複を避けながら御議論いただければと思いますが、いかがでしょうか。

○浦委員 私が前回述べましたのは、運営主体が執務あるいは就業に関してのルールを決めることはできるでしょうと。ただ、それが弁護活動のルールということになれば、それを運営主体が定められるのであれば問題があるのではないか、そういう趣旨のことで申し上げたつもりでおります。それは弁護士会がその点についてのルールをつくるとすれば、それに従ってもらったらいいのではないか、そういう趣旨で申し上げたつもりです。

○井上座長 運営主体として何らかのルールを定めることはあり得るだろうが、しかし、弁護活動のルールだとすれば、弁護士会が定めたルールに従うべきではないか、ということですね。いかがですか。

○酒巻委員 具体的な意見ではないのですけれども、考えていることの筋道を申し上げます。弁護士会は当然弁護活動のルールをお持ちです。運営主体もその常勤弁護士や契約弁護士が弁護活動をするわけですから、ルールを定めることはあると思うのです。そして、そのルールは、同じ弁護活動のルールだから、できる限り一致するのが望ましいことは明らかだと思うのです。しかし、運営主体がつくるのは、自分の雇っている弁護士さん、あるいは契約している弁護士さんに対して、何かこういうことがあっては困るとか、そういう目的のためのルールですね。
 これに対して、弁護士会のルールは、一番厳しいのは、弁護士さんとしての資格を失うかどうかというところまでいくような懲戒のルールですね。そこで、状況によっては、弁護活動のルールであっても、一致しない場合が出てこざるを得なくて、その在り方として必ず一致しなければならないということにはならないのではないかと思うのです。

○井上座長 効果が違う・・・。

○酒巻委員 ルールの趣旨・目的が違ってくるし、私が前から申し上げているように、そもそもある独立の法的な主体が、だれを雇い、その雇った人について、監督というと少し言い過ぎかもしれませんけれど、その活動に関する行動規範を定めるということについて、それが弁護活動にかかわることであっても、内容が弁護士会のルールと必ず一致しなければいけないというところまでは言えないのではないか、そういうことです。ただ、これは抽象論で、具体的な場合はほとんど・・・。

○井上座長 詰めていくと、どこがどれだけ違うのかよく分からないということでしょうね。ほかの方、いかがですか。

○髙井委員 私は、何回も申し上げていると思うのですが、この二つは別々に定められるべきだと。むしろこの二つを連動させることが弁護士会の自治を危殆というか危うくすると私自身は思っています。例えば、私の事務所で別の弁護士を雇用するときに、弁護士会の規定と全然違うというか、あるいはもっとそれより厳しいルールを決めたとしても、それは許されるわけですね。理屈としては、それと本質的には同じだと思うのですね。弁護活動の自由を制限するような仮に規則・ルールを運営主体がつくれば、逆にそんなところへは弁護士はだれも行かないわけだから、それは市場原理が働いてくるわけで、それはきちんとしたルールになるというのがごく自然な合理的な考え方だと思うのですね。それを弁護士会のルールと一緒でなければいけないとか、それを右から左に書き写したようなものでなければいけないというのはどうかと思いますね。
 もともとこれは、酒巻委員もおっしゃっているように、弁護士会のルールというのは身分の得喪につながるものということで考えられているわけで、弁護活動その他の内容について、例えば違法があったときにどうするかという観点、それも含められてはいるのだけれども、主たる眼目にして書かれるものではないわけだと思うのですね。そもそも目的が違うわけですから、どうしてもそれを右へならえしなくてはいかんというのは合理性がないのではないかと思います。

○浦委員 例えば運営主体の常勤弁護士は争いのない事件であっても5回は接見に行くというような弁護活動の水準を上げる規定をつくる、それはあり得るのかもしれないですね。

○井上座長 接見に行かないと解雇しますよと・・・。

○浦委員 そうなるかどうかは別にしまして。そうではなくて、弁護活動としての逸脱行為、違法・不当な弁護活動だということで、弁護士会が定める基準を超えるような何らかの要件を決めるというのは、それは運営主体としては本来することができないことではないか、そういうことを申し上げたのです。

○髙井委員 違法な弁護活動をしてはいけないというルールはいけないのですか。当然いいと思うのだけれども。

○浦委員 具体的にいくつか並べられるとなると、先ほどの問題が出てきます。その辺の弁護の適正の水準・基準は、弁護士会が一元的に定める、弁護に責任を持つ立場として、自治権を持ち、そういうことをゆだねられている弁護士会がその辺の基準を持つということになるのではないでしょうか。私はそう考えます。

○井上座長 ほかの方が言われているのは、私選も含めて、もちろん弁護士会が基準をおつくりになるべきだし、厳しくそれは実施されるべきだろう、しかし、それはあくまで弁護士としての資格の得喪にかかわる仕組みの話であり、それとは別に、運営主体として雇用している以上、それについて一定のルールを定める、最悪の場合は解雇に結び付くような要件をも含めて明確化するという意味で、ルールを定めるということはできるはずであるが、その両者の内容が必ず一致していなければならないという理由ないし理屈はどこにあるのか、ということだと思います。気分ないし御希望としては伝わってくるものがあるのですけれども、理屈としてはおかしいのではないか。主に念頭に置かれているのは、はっきり申せば、いわゆる不適正弁護の問題で、弁護士会以外のところが、弁護活動につき不適正だと判定するのは、弁護士会の本来やるべきところを侵すことになると、そういうことではないかと思いますが。

○浦委員 これまで申し上げたのは、正にそういう趣旨です。

○本田委員 何人かの方から御意見が出たように、弁護士会のルールの目的と運営主体がつくるルールの目的、制定の趣旨が違うわけで、これが一致しなければいけないという話ではないのですね。今、浦委員から話がありましたけれど、本来、弁護士会がやるべきものを運営主体が奪っているという話ではないわけで、運営主体は運営主体の目的に従ったルールを定めて、それに違反した場合のいろんな効果というのを書くでしょう。それをやったから、弁護士会がその者についていろんな懲戒手続ができないとか、そういう問題ではないですね。運営主体ができるのは、せいぜい解任というか解雇ぐらいまでですね。弁護士の資格をなくすわけではないし、業務停止の処分ができるわけでもない。これは明らかに違うわけで、別に弁護士会が持っている本来の権限を運営主体が侵しているというようなことにはならないと思いますね。

○浦委員 法的効果は違うのですけれども、それが行為規範としての役割を果たすことになる。その行為規範にずれがあるというのは問題があると思うのですね。

○井上座長 要するに個々の弁護士さんの活動を運営主体が規制するのではないか、弁護士会のルールこそが正しいものであり、弁護活動に対する規制があるとしても、それだけであると、こういうことなのでしょうか。それに加えて、更に規制を強めるようなルールを運営主体としてつくった場合には、個々の弁護士の活動が、不当に萎縮させられてしまうだろうという御趣旨ですか。

○浦委員 恐らくそうです。

○井上座長 気分としては分からなくもないのですけれども、そこのところは、もう少し明確な御説明が欲しいと思いますね。

○本田委員 もう一つ、公的弁護の場合は、国民の税金を投入して、そこできちんとした適正な弁護活動を提供しましょうという部分がありますよね。それは、国民の批判に耐えられるちゃんと説明ができるようなものでなければいけないわけですね。そういう意味では若干厳しくなる面があるのではないかという気はします。少なくとも最低限のところは当然守らなければいけない。
 もう一つ、そこに税金が投入されて、国民に対する説明責任という観点があるかないかというところが違うのだろうと。国民の理解を得ないとこの制度が成り立っていかないわけですから、そこはちょっと違うのではないかと思いますね。

○浦委員 そうしますと、公的弁護と私選弁護の基準は異なってもよいということになるのですか。

○本田委員 要はきちんと説明できるものを、運営主体は運営主体としてつくる責任があるということです。だから、それが弁護士会のルールと必ず一致しなければいけないのかというと、そういう理屈にはならないのではないですか。

○井上座長 今は、専ら抽象的・一般的な形で議論しているのですが、具体的に詰めていった場合に、ずれてくるではないかというのも、本当にそうなるのかどうかですね。つまり、公的弁護と私選弁護で、刑事弁護の在り方として違ってくるのかどうか。無論、公的弁護については、それを担う運営主体として、お金を出していただいている国民なり、国に対して責任を果たすために、何らかの基準をつくるとすれば、そういう観点からの基準のつくり方にならないと、それ自体としては、おかしいわけですが、それは、公的弁護だから刑事弁護はこうでないといけないということとはちょっと違う気もするのですけれども。

○本田委員 そこはそうだと思うのです。

○井上座長 ですから、公的なお金で運営されているのだから、こういうことをきちんとやっていきますと、そういう説明がつかないものをつくるということではないと思うのです。そうだとすると、問題は、具体的なルールの内容として考えた場合に、懸念されているようなことになるのかどうかであり、余りにも抽象的・一般的な形で議論されているので、ありもしない化け物のようなものを想定して議論しているのではないかという気がしないでもないのです。
 具体的なルールの内容と、実体としてどういうものであるべきなのかということとは違うレベルの議論であって、しかも、法律で定められるような問題なのかどうかですね。定めるとすればどういうものになるのでしょうか。運営主体は、弁護士会と異なるルールを定めることはできない、あるいは、弁護士会と同じ内容にしなければならないと、そんな定めができるものでしょうか。

○浦委員 法律でそういう定めをせよ、とまで申しているわけではございませんので。

○井上座長 ですから、そこまで法律で定める事項かどうか、法律で定めるべき制度上の問題とは違うのではないかということを申し上げたのです。どうぞ。

○平良木委員 ここのところは、運営主体と常勤弁護士や契約弁護士との契約の問題というのがあるのだけれども、ばらばらにやるわけではなくて、かなり統一的な形になるだろうと思うのですが、そこで工夫することは十分考えられるので、恐らくそれでほとんど浦委員の言われていることは達成できるのではないかという気もするのですね。

○井上座長 全国的に統一の運営主体になるとすればですね。

○平良木委員 そうです。

○酒巻委員 先ほど座長が、ここは法律の話ではないかもしれませんけれど、と言われた点で、もう一点、弁護士会の懲戒手続との関係が・・・。

○井上座長 弁護士会の懲戒手続を必ず前置しなければならないとか、またその結果に拘束される、あるいはそれを尊重して運営主体が後続の措置をとるべきであるというふうにするのかどうかということです。

○酒巻委員 私は、この点について、以前と同様の考えです。要するに運営主体と弁護士会との関係については、運営主体ができた以上は、それは別個独立の公正中立な機関である。それから、弁護士会の懲戒手続は、これも先ほど申したとおり、最終的に弁護士の身分にかかわる手続であって、運営主体の方の違法・不当な活動に対する対応はまた目的が違うわけですから、運営主体は独立の法的主体として、責任を持って判断し、措置を講じることができる必要がある。したがって、そういう観点から言うと、必ず弁護士会の懲戒手続とか判断が先行しなければならないという仕組みにするのは制度としておかしい、理解し難いと思います。

○浦委員 それに対しては、これまでの意見のとおりですので、ここでは繰り返しません。

○髙井委員 弁護士会は国民に対して責任を負っていないわけですよね。だけど、運営主体は、基本的には国民の税金を使っているわけで、国民に対して直接的に責任を負っているわけですね。国民に対して責任を負ってない、抽象的には負っているかもしれないのだけれども、具体的には負っていない組織の決定に、国民に対して責任を負うところの組織が従わなくてはいけないというのはよく理解できないなと私は思うのですけれども。

○浦委員 国民の支持という基盤の下で弁護士会というのはあるのではないでしょうか。

○髙井委員 それは事実上の信頼でしょう。

○浦委員 事実上というか、実質的にももちろんあるのでしょう。

○髙井委員 選挙で選ばれているわけでもないし、そういう意味では・・・。

○浦委員 ただ、そういう意味では、強制加入団体として自治権を持っているわけですから、その範囲で規則を決めるとか、そういうことはもちろんできるわけです。

○髙井委員 それはいいのです。

○浦委員 常勤弁護士になる人も強制加入団体の一員ですね。

○髙井委員 そのルールが優先すると。この運営主体のルールに優先するという理屈はどこから出てくるのですかということなのですね。

○浦委員 ですから、この前申し上げたように、その辺の問題で弁護士会の判断と運営主体の判断が食い違うような事態になれば、非常に困る事態が出てくるのではないですか。

○髙井委員 食い違ってもいいのではないですか。

○浦委員 そうなると運営主体は違法だと言い、弁護士会は合法だと言う、そうなれば収拾がつかないことになりませんか。

○井上座長 論理的には、逆もあり得ますが。

○浦委員 もちろん。

○髙井委員 それはそれでいいのではないですかと思います。髙井事務所のルールでは、これは違法だけど、弁護士会のルールだったらいいよというものもあっても。違法というか、不当だけど、弁護士会のルールだったら不当でないよと、そういうのは当然ありますよね。それは髙井事務所のルールのつくり方によっては、そういうことと同じだと思いますけれども、本質論は。

○井上座長 髙井委員がおっしゃっているのは、弁護士事務所の場合、依頼人との関係では、この弁護士の行動はうちのルールに違反するから外す、という形で責任を果たす。弁護士会は、その関係では責任を負っていないのであり、弁護士資格との関係で、弁護士会独自のルールによって何らかの措置をとることが必要と認めれば、そうすればいいけれど、それとは別の話である。公的弁護の場合に、運営主体と、サポートし、お金を出してくれている国民との関係は、弁護士事務所と依頼人との関係に近い、そのようなお考えだと思うのです。

○土屋委員 私も特別付け加えることがなくて、この辺り非常に物が言いにくい部分だなということを感じていまして。

○井上座長 土屋委員のような立場の方が自由に物を言っていただかないと・・・。

○土屋委員 ですけど、私の意見を言っていませんので、言わざるを得ないと思っているのです。下手なことを言うと、我が報道の問題にもかぶってくるのではないかというような心配をしたりしていたのですけれど。趣旨としては、自主的に弁護士会がやられることを尊重してほしいと思うのです。できたらルールは一致する方がいいと思っているのですが、私は公的に運営する制度である以上、独自のルールがつくられるのが当然だと思っています。そして、それは弁護士会のルールと一体でない、ダブルスタンダードという言葉が前回出ていますけれど、一体でなくても仕方がないと思っています。それは、公的に運営する制度と弁護士会という一つの民間の組織が運営する制度との質的な違いからくるのだろうと思っていまして、ですから、そういうルールを運営主体が独自につくるのは当然だと思っています。むしろ、そのルールがないと、社会の納得を得られないだろうと私は思います。
 それで、そのルールをつくるときにやっていただきたいことは、正に最低限のルールですね。先ほどから違法とかいろいろ出ていますけれど、違法とか不当かという問題がいろいろあろうかと思いますが、最小限のルール、だれが見ても、こういうことをやってはおかしいと、そういうものに対して公金を使うべきではないと考えるようなことは定めるべきだと思います。以上です。

○髙井委員 弁護士の立場としても、今の浦委員の立場でいくと、運営主体からも解雇されると同時に、弁護士会でも身分がなくなるとか、一遍に両方やられてしまうわけですね。別々であれば、片方は解雇されても身分は残るかもしれない。どちらが弁護活動を萎縮させるかということを私は言っているわけで、一概に浦委員のようなやり方であれば、弁護活動を萎縮させないとはいえないのではないか。考え方を変えれば、そういう方が弁護活動を萎縮させる場合もありますよということを言いたいわけです。

○井上座長 ここの部分と運営主体の意思決定の在り方というか、そこにどういう機関を設けて意思決定をしていくのかというところの議論がどうも整合していないような気がするのです。むしろ重要なのは、運営主体の在り方とか、意思決定の在り方なのではないか、そして、そこがきちんと押さえられれば、ここでの問題に対する見方がかなり違ってくるのではないか、という感じがするのですけれど。

○浦委員 ちょっと話が戻るので、座長からも御指摘があるかもしれませんが、司法制度改革審議会の意見書を見ると、「弁護士会は弁護士制度改革の視点を踏まえ、公的弁護制度の整備・運営に積極的に協力するとともに、弁護活動の質の確保について重大な責務を負うことを自覚し、主体的にその態勢を整備すべきである。」とされています。この文言には弁護士会のそういう準則なり、ルールに、プライオリティーを置くという趣旨が十分含まれているのではないのだろうかと、私は常々そう思っています。審議会における論議の経過を見ましても、弁護活動の適正の確保等は、弁護の衝に当たる弁護士会が実質的に担うべきだという意見があって、座長は、それはそれでもいいけれども、しかし、そのためには重大な責任を負うことをはっきりさせるべきだと言われ、そういう経過でこの文言はできたものです。議事録を読みますと、そういう経過があるように思われます。

○井上座長 それは少し読み込みすぎだろうと思います。弁護士会がその責任を負う、弁護活動一般、あるいは弁護士一般の水準の維持・向上に重大な責任を負うというのは、弁護士全員の強制加入団体ですから当然のことでしょう。審議会意見も、そこは当然のこととして踏まえるべきだということを言っているのであって、運営主体が独自にどう対処するかについては、弁護士会に従えとか、弁護士会の方が優先するとか、そういう点にまで審議会として踏み込んで言っているわけではないのです。したがって、今そこのところを正に議論しているのであって、既に勝負がついている問題であるのなら、何もこんな議論をする必要はないのですよ。

○浦委員 私はかねてから既に勝負のついた話を蒸し返されているのではないか、そういう理解をしていまして、審議会での審議の経過を見ますと、私はなおそう思うわけです。ここで審議経過について細かい議論をするつもりはございませんけれども。

○井上座長 浦委員はそうお思いになっているかもしれませんけれども、審議会の場にいた一人として、私の理解では、そこのところはオープンのまま残されていたということは間違いないと言ってよいと思います。

○髙井委員 浦委員のような解釈だと、本来、私的団体のルール、そういう組織のルールというものを、公的ルールまで高めることになり、そうなると、ある意味では厳しくすることになるから、かえって弁護士会の自治とか弁護士会の独立性などに反しませんか。

○浦委員 自治団体であるからこそそういう規定を持つわけです。それはきついと言えばきつくなるかもしれませんね。

○髙井委員 だから、私の理解では、私的組織のルール、それは強制加入団体で公的な性格を持つとしても、私的団体のルールと、公的な団体あるいは組織のルールは当然違うべきで、こういう言い方をすると語弊があるのかもしれないけれど、私的団体の組織のルールは必要最小限度のものでいいわけですよね。それを公的組織の方に合わせるとなると、水準が上がることになりはしませんか。かえってそれで弁護士会は首を締めることになりませんかと私は言っているわけです。

○井上座長 弁護士会というのは、全体をカバーするものであり、その中には民間の弁護士事務所もあれば、公のお金で運営されている組織もある。そのそれぞれが雇用している人との関係で各々何らかの規律を設ける場合に、それが弁護士会のルールと必ず一致しないといけないとする理由ないし理屈はどういうことなのか、そういう問題なのですね。そして、私は、全体としての規律と個々の規律が一致しないといけない、あるいは全体の方が全部仕切るのだという理屈はないのではないか、と思うのですけれども。

○髙井委員 同時に部分的なルールに全体のルールを合わせることの方が危険でしょうということを私は言いたいわけです。

○浦委員 弁護士会の性格、つまり弁護を提供する責務を負い、かつ、強制加入団体として、常勤弁護士、契約弁護士、それも弁護士会の一員であるわけですし、それはそれで自治権を有する弁護士会の性格から、そういうことは当然考えられるということになるのではないですか。

○井上座長 ちょっと議論が平行線になってきていますね。

○本田委員 1点だけ、日弁連が弁護士の確保とか、適正な弁護活動の確保について責任を負うことはもちろん当たり前の話で、ほかの中立公正な運営主体、適正な公的弁護を提供する運営主体は責任を持ってはいけないのか、それは当然責任を持たなければいけない話ですし、二つあって当然なのですね。それは日弁連が持っているから、ほかのところは全部従えという、そちらの方がプライオリティーがあるという理屈にはならないと思うのですね。当然運営主体も国民に対してちゃんとした責任を持たなければいけないのです。だから、私は審議会には参加していませんけれど、審議会の意見書の読み方はちょっと違うのでなかろうかなと思います。

○井上座長 第1ラウンド、第2ラウンドでも、かなり抽象度の高いレベルで議論がすれ違ったと思うのですが、議論としては詰まってきたことは間違いないように思います。対立点が際立ったかもしれませんが、この段階ではこのくらいでよろしいですか。
 次が、「運営主体による刑事弁護全体の質の向上への取組」という項目ですが、運営主体が刑事弁護の質の向上に積極的に寄与すべきであるということについてはどなたも御異論がなかったと思いますので、先に進みまして、次の「推薦、連絡又は選任の欠格事由」という点について議論していただければと思います。この前までの議論では、欠格事由として、裁判所から一定の事由により解任された場合、弁護士会の懲戒手続に付されている場合、弁護士会から懲戒を受けた場合の三つが例として挙げられていたと思いますが、そういう考え方について御意見をいただければと思います。この点も既に大分議論していますので、更に付け加えたいという点に絞って御意見をお聴かせくださればと思いますが。どうぞ。

○酒巻委員 今、座長が整理された具体例の三つを、公的弁護を頼む被疑者・被告人の立場で考えますと、何らかの事由で解任されてしまった人、現に懲戒手続に乗っている人、現に懲戒を受けたような人に弁護されるのは、だれが見ても常識として不適切であろうと思います。公費を使うという観点からも同様でしょう。こういう具体例を挙げて、法律の中に選任欠格という形で書き込むこともあり得ることであろうと思います。以上です。

○浦委員 その点については、前回述べましたように、これを新たに置くべき必要性はないというのが私の意見です。他方で、例えば検察官に違法・不当な捜査とか公判活動があった場合に、それが捜査関与あるいは公判立会の欠格事由になっているかといえば、そうなっていないわけですよね。顕著な例として、最近報道された事件ですけれど、検事の違法な活動、それは調書の改竄で、明白な公用文書毀棄罪に当たるような事案ですが、私はこのような例にあたりましたが、その場合、当該検事は戒告処分を受けられたのですけれども、この検事については、それ以上に別に欠格事由にはなっていない。もし、弁護士について、そういう欠格事由をつくるというなら、検察官にも同様にそういう事由が欠格事由として定められていないと平仄が合わないのではなかろうかと思いますが。

○本田委員 具体的事件についてここで言うつもりはないのですけれども、検察官の場合、一定の場合には懲戒事由もありますし、検察官適格審査会というのがあって、不適格な人は排除されるわけですね。検察官としての身分を失うわけですよ。そういう制度がきちんと整備されている。

○浦委員 そういう意味では、弁護士も懲戒制度がありますから、それで保持されております。

○酒巻委員 ですから、私が申し上げたのは、懲戒手続が今活発化というか、適切に動きつつあることはよく分かりますが、しかし、その決着が付く前であっても、現に懲戒手続に乗っておられる方が、公的弁護を担当し得るという形は、やはり担当してもらう方からいったら、非常に不満というか不適当ではないかと思うのです。さっきの三つのような場合は法律に明記してもいいのではないかというのが意見です。

○井上座長 ほかの方は、いかがですか。

○落合参事官 さっきと同じなのですけれども、浦委員のおっしゃっているのは、例えば弁護士法上の戒告を受けた人を裁判所が選任してはならないということであってはいけないということなのでしょうか。

○浦委員 そうですね、それはそうなのです。つまり、弁護士に業務に従事するなという業務停止まで認めていない戒告というのは、その後の弁護活動はできる、民事事件も受けられれば、刑事事件も受けられるという、そういう処分ですよね。ですから、それはそういう事由をあえて欠格事由にすべきではないし、する必要もないのではないでしょうか。

○本田委員 これは公的弁護からの欠格事由であって、弁護士さんが弁護士としてほかの業務をやることは何ら制限されないわけですよね。一般の民事事件もやれるし、私選弁護もやれるわけでしょう。だから、そこはちょっと違うのではないでしょうか。

○浦委員 現在の国選も、戒告を受けた人は別に排除されずに、それは受けているかどうか別にしまして、法的にはそういう排除がされるようにはなっていないですね。

○本田委員 私の質問の答えになっていないと思うのですが。

○髙井委員 議論の方法が違う。

○井上座長 ちょっと戻しますけれども、落合参事官は、先ほどの質問に対する応答はあれでいいのですか。

○落合参事官 今は裁判官がフルパワーで適切な弁護士を選任できるのですね。その中には、例えば私は戒告を受けた弁護士は選任しないという裁判官がいてもおかしくないですよね。そういう人もおかしいということなのですか。

○浦委員 どういうことですか。

○落合参事官 ですから、私は刑事弁護はこうあるべきものだと思っている裁判官がいて、弁護士会の懲戒を受けた、戒告を受けた弁護士は、私は国選弁護人に選任しないという裁判官がいて、その裁判官が、そのような弁護士を選任しないことがいけないという御主張なのですか。

○浦委員 今は弁護士会の推薦制度にのっとって、弁護士が選任されていますから、その点で弁護士会が事前に推薦停止していれば、それは選任されないのでしょうけれども、その場合に裁判官がそういう弁護士を選任しないということは、できないわけではないと思いますが、その当否についてはどうでしょうか。

○落合参事官 議論の前提として、国選弁護人に選任される権利というのはないですよね。

○浦委員 権利なのですかね。弁護士法にはもちろん欠格事由があるわけですから、弁護士の欠格事由というのは多くの欠格事由がありますよ。それに当たらないということで、弁護士である以上は、公的弁護に関与する権利というのはある、権利があるとしてですが、そういう考え方になるのではないでしょうか。

○井上座長 今の国選ですと、法律上は裁判所ないし裁判長が選任するということになっているわけで、落合参事官がおっしゃっているのは、確かに業務停止にはなっていないが、何らかの懲戒事由があって戒告を受けたという人について、裁判所なり裁判長の裁量権の行使として、こういう人はふさわしくないと思うから選ばないといったことができるのか、そういう裁量権の行使が違法ないし不当になるのかと、そういうことでしょうか。

○落合参事官 はい。

○井上座長 もし、それが不当でないとすれば、そういう場合は公的弁護の選任対象にならないということにしても、それはおかしくないのではないかと、そういう御質問だと思うのですけれど。

○浦委員 ただ、戒告という制度自体は、その当該事件で戒告処分になったとしても、他の事件で弁護士として活動できるわけだし、実際上も戒告である以上問題ないわけですよね。業務停止処分であれば、それは活動できないわけですけれども。

○井上座長 一般的に活動することはできるのですけれども、例えば雇う方とか選任する方が、いや、この人はふさわしくないと思うので、雇わない、あるいは選任しないということができるはずではないか。本田委員が言われているのは、そちらの問題ではないかということですが。

○浦委員 現在でいけば、推薦とのかかわりの問題が出てくるのではないでしょうか。弁護士会が推薦しているということとのかかわりで。

○井上座長 推薦というのは事実上の問題ですよね。制度上の問題としては・・・。

○浦委員 それを尊重して行われているわけですから、そこで裁判官が取捨選択して、この弁護士は駄目だというようなことは、今、余り、まずないことだろうと思うのですけれども。また、戒告もいろんなケースがあるわけですから、一律に戒告だからというわけにいかないと思いますよ。

○髙井委員 戒告を受けてもほかの仕事ができる、確かにできますよね。ただし、それは、私選だったら相手は納得してやっているからいいわけですよね。確かにこの先生は戒告を受けているけれど、この先生が好きだからこの先生にやってもらう、これは自由なのだから。だけど、国選で、国の税金で、今度は依頼者の被告人は、お仕着せで来るわけですよ。選択権がないわけですよね。そのときに戒告を受けたような人を僕に付けたのと言ったら被告人は納得しないでしょう。これはそうだと私は思うのですね。それで果たして被告人が納得してくれるかということですよね。「先生、戒告受けているんだそうですね」、「いや、大したことないんだよ」と言って納得してくれるか。

○井上座長 浦委員の今のお考えでも、欠格事由としない場合でも、裁判所がそれを理由にして選任しないということは別に構わないわけですか。

○浦委員 それはやっぱり問題で、構わないとはとても言い切れないですね。戒告の事由にもよるかと思うのですけれども、問題はあるのではないですか。

○落合参事官 ですから、国選弁護人に選任される権利というのはあるのですかという話になって、そういう権利はないですよね。

○浦委員 戒告されればですか。

○落合参事官 そもそも国選弁護人に選任される権利というのはあるのですかということです。

○井上座長 端的に言えば、何の事由もない、つまり懲戒も何も受けていない弁護士は国選弁護人に選任されるという権利があるのか、そういう御疑問なのですが。

○本田委員 早く言えば、私は国選弁護をやろうとしたのに選任されなかったと。選任される権利があるとしたら、あれは不当な選任だと言って争えるのかですね。

○浦委員 その辺を争うことは難しいのでしょうね。選任は裁判所がすることになるわけですから。

○井上座長 それを前提にして、裁判所が選任する場合に、こうこうこういうときは選任できないと明記しておくかどうかということだろうと思うのですね。先ほど私が御質問したのは、明記まではしないとすると、裁判所が判断して、この人は選任しないということは許されるとお考えなのかどうかです。

○浦委員 それは認められないですね。推薦の問題ですから・・・。

○井上座長 そういうことは実質的に不当だと御主張なさるのは分かるところもありますけれど、制度としてそういうことが成り立つのかどうかということが、今議論されているところだと思うのですね。

○大野次長 浦委員のおっしゃっているのは、欠格事由という形で、例えば戒告を受けた弁護士が、一律におよそ公的弁護ができなくなるという、それはおかしいではないかということを言われているのであって、先ほどもおっしゃったように、戒告の中身にもいろいろあり、その中身に応じて裁判所がいわば裁量権の行使として選任をしない、そういう場合があることまで否定する趣旨ではないんじゃありませんか。

○浦委員 それは推薦の問題とかかわってくると申し上げているのです。ですから、その場合には、恐らく戒告処分ということになれば、懲戒処分を受けた段階で、弁護士会の推薦規定に基づいて推薦されないことになるのだろうと思うのですね。したがって、そういう意味で、戒告処分を受けた弁護士は弁護人から排除されることはあると思うのです。ただ、戒告にもいろいろありますので、これは弁護活動をさせてもいいと、そういう場合もあるでしょうし、これは問題だという場合もあり得ると思うのですね。ですから、その点は懲戒処分を受けたときには「国費による弁護人の推薦準則」に基づいて、推薦名簿から外されるという効果があって、それによってその弁護士は選任されなくなると、こういうことなのです。

○井上座長 そういう在り方であるべきだという御主張は分かるのだけれども、前提として、推薦を受ければ当然国選弁護人に選任される権利があるということまでは言えないのではないか、というのが議論の出発点ではないですか。

○浦委員 そこで裁判所の方が、この弁護士は選任する、これはしないというその選択ができるとなれば、先ほどの推薦の問題が当然出てくるわけです。恣意的な選任の問題が出てくるわけで、今、それが戒告とか懲戒処分だといった明確なものがあればいいですけれども、何らかの事由で以前に解任されたことがあるとか、その解任自体が不当だというので争ったという場合などがあり得ると思うのですね。その場合に裁判所がそのような理由で当該弁護人を選任しないということになると、それは恣意的な選任になる。

○井上座長 でも、そういうことは、法律論として訴えて認められますか。

○浦委員 選任されずに排除された場合ですね。

○井上座長 ええ。

○浦委員 法律論として、それは・・・。

○井上座長 ここは法律論をやっているのですから、そこのところはもう少し詰めていただかないといけませんね。

○浦委員 今の問題は、私は推薦の問題だと申し上げているのです。

○井上座長 推薦制度というのがあって、それが事実上機能しているということを前提に御議論なさっているのは分かるのだけれども、ここでは、法制度論としてこれから組み立てていくときに、そういったことを前提に議論してよいものか、ということなのですよ。

○本田委員 ちょっとよろしいですか。

○井上座長 どうぞ。

○本田委員 推薦の問題を先ほどから浦委員はおっしゃっているのですけれども、少なくともこの運営主体が個々の弁護士さんを公的弁護に推薦するとき、それは弁護士会の推薦というのは法制度としてはそういうのは前提にしないという話なのでしょう。

○浦委員 事実上の、運用上の問題として、弁護士会の推薦は尊重してもらうと、そういうことを先ほど申し上げたわけですよ。

○本田委員 常勤弁護士や契約弁護士になる人でなくて、運営主体が抱えている常勤の弁護士さんについて、運営主体が裁判所の依頼に応じて、この人を国選にしてくださいというときに、弁護士会の推薦がないとできないという運用にするということですか。

○浦委員 常勤、契約弁護士の場合に、推薦をどうしていくかということはまた別に考えるべき問題になる。

○本田委員 正にこれは運営主体が・・・。

○浦委員 欠格事由ということになると、全弁護士が対象になるわけでしょう。常勤弁護士、契約弁護士だけではなくて。

○井上座長 おっしゃりたいことはこうですか。少なくとも個々の弁護士さんについて、弁護士会として推薦基準を持っていて、それに照らして問題ないということで推薦したという場合に、裁判所が、いやいや、この人には問題があるということで選任しないというのは、これは違法だと、そういうことなのですか。気持ちとして不当だというのは分からないでもないのですけれど、制度論としても、そういうことになるものですかね。

○浦委員 だから、それを制度論としてきっちりしたものではなくて、事実上、これまでそういう形で運用として行われてきたという経過があって、それを今度の新しい制度でも活かしていただくと、そういうことを先ほど申し上げたところなのですね。ですから、法律論をぎりぎり詰められて、別の弁護士を選んだと、それに対して違法だということで何か措置ができるかという議論になれば、それはまた別の議論になるのでしょうね。

○井上座長 こういうのを欠格事由とするかどうかという問題と、その前に、裁判所が裁量権の行使としてそういうことができるかという問題とは別で、裁量権の行使としてそこまですることはできないということまでおっしゃるとなると、制度論として成り立たせるのがなかなか難しいのではないかという気がします。裁判所の裁量権の行使として選任しないことができる、しかも、仮に、みんなが見て選任しない正当な理由があると認められるような場合についてさえ、明記していけないとなぜ言えるのかと、そういう問題だと思うのですね。

○本田委員 さっきの推薦の話に戻るのですけれど、常勤、契約以外の弁護士をどうするのだというのは、これは今後の制度設計の問題にかかわるのですけれども、だれが推薦するのかと。常勤、契約弁護士以外のところの弁護士をどう扱うのかという問題と絡んでいますね。それは当然弁護士会の方でやるのだという前提で今お話をされていたと思うのですけれども、そこはまだ必ずしも固まっていないですね。

○浦委員 それは常勤弁護士、契約弁護士との関係をどうするかというのは、今後お話しさせていただいたらいいのではないでしょうか。

○本田委員 それと絡むのですけれども、ここで例えば推薦するというのは、運営主体のことをまず考えてやると、弁護士会の推薦基準うんぬんという話まで結び付くのかというのがよく分からないのですね。推薦するかどうかは、これは運営主体が決めることですから。

○浦委員 そうなると、また連絡、推薦の問題に戻ってしまうわけで、弁護士会による今の推薦準則に基づく推薦ということについては、これは新しい制度の中でも活かしてもらうということを先ほど申し上げたわけで、それとは全く別だと、運営主体が推薦するのが別だと言われたら、いや、それは違うのではないでしょうかということを言わざるを得ない。

○本田委員 全く別だとは言ってないのです。

○井上座長 その議論をしだしますと、また元のところへ戻ってしまうのですけれど。その推薦の問題を、ここの制度の問題と絡めて法律論として展開するのはちょっと難しいのではないですか。

○浦委員 そういうのはありますね。

○井上座長 それは運用の問題だという整理を先ほどしましたが、それを覆すということになるのです。

○浦委員 欠格事由というのは、そういう意味では、認める必要はないということに、私の結論はそうなるわけです。

○本田委員 1点だけ確認させてほしいのです。今、浦委員がおっしゃっているのは、戒告の場合を欠格にしてもらっては困るとおっしゃっているのですか、ほかのは別に構わないのですか。

○浦委員 いいえ。

○本田委員 全部ですか、そうですか。

○浦委員 欠格事由を定めること自体が問題があるということを申し上げている。

○井上座長 当の弁護士が弁護士会の懲戒手続に付されている場合は、推薦しないのではないですか。弁護士会としても、どういうことになるか分からないわけですから。

○浦委員 むしろ、何もないこともありますね。

○井上座長 理論的にはそうですけれど、通常は、どこの組織や団体でも、そういうふうな状況に置かれている人は出さないですよね。

○浦委員 そうですね。その辺は弁護士会の推薦準則の決め方によると思います。

○土屋委員 ちょっと気になることが一つありまして、欠格事由を仮に設けた場合、それで例えば懲戒に付されたとか、そういう事実があって、それはいったんそういう処分を受けると、永久失格、1件もできないということですか。しかし、弁護士会で再登録できますよね。そういうようなことを考えてもいいのではないですか。深く反省して、また皆さんの役に立ちたいという弁護士さんが出てきたら、一定の年限を経たら認めてもいいのではないかと私は思うのです。欠格事由を定めるなら、そういうことも含めなければいけないのではないでしょうか。

○本田委員 それはそうでしょうね。

○酒巻委員 例えば正当な理由があって解任された方について、その理由もいろいろあるでしょうから、例えば解任されてから一定期間経過しない間は駄目だよという制度はあると思います。懲戒の結果弁護士でなくなったら、これは無理ですけれど、解任の場合とかその他の懲戒の場合であれば、一定の欠格期間を置くという形で、土屋委員がおっしゃったようなことは十分あり得ることではないかと思います。

○井上座長 どこの世界でもあり得る話ですね。この点もなかなか白熱してきていますが、議論の内容としてはすれ違いのような感じがしないでもないのですけれども、第2ラウンドでも同じような議論をしてきたところであり、まだ他の事項も残っていますので、このくらいにさせていただけますか。かなり押し詰まってきている一方、まだまだ後が控えていますので、時間を意識しながら簡潔に御議論いただければと思います。
 次が、「第10 運営主体の在り方」というところですが、これは言うまでもなく、非常に重要な根本的な問題ではあるのですけれども、訴訟法的な議論とは少々趣を異にするところがありまして、行政改革の問題とも関連するところもあって、なかなか検討会での議論が難しいところであったわけです。組織形態として、たたき台に記載されている案を議論していただき、その中で、運営主体に意思決定機関を置いて重要事項を審議してもらうというようなこととか、運営主体が公的弁護以外の司法ネット構想に関連する業務を行うことについては、余り御異論はなかったように思います。そういうことを前提にして、どうしてもこの点は議論しておきたいということがありましたら、御意見を述べていただきたいと思います。組織形態の問題については、ここだけでは議論が進まない、あるいはここではなかなか議論が詰まらない、そういう問題かと思いますので、更に関係のところとも詰めて話を進めていただければと思います。

○浦委員 先ほど独立司法法人という、そういう清原委員の命名がありましたが、そういうものができるなら、望ましいことと思います。というのは、これまで弁護士会の方は、法務省が運営主体の主務官庁となることについては反対論も多かったですし、今の独立行政法人についても主務官庁が法務省だと、法務省は対立当事者である検察を内部に抱えているわけですから、それに対する警戒感といいますか、それが強くて反対意見が強かったのです。これが司法法人ということで、法務省が主務官庁となるとしても、裁判所もかかわってこられることになるのであれば、それはいいのではないかと、弁護士会としての賛同も得やすいような気がいたします。もちろん弁護士会の方もこの運営主体に参画していろんな案を提案したり、具体的に活動していったりはしなければならないと思っていますけれども。そういう意味で、独立司法法人というのができるなら、それにこしたことはないと思います。

○井上座長 意見というか、感想的なものとして承っておきたいと思います。そのようなことで先に進めさせていただきたいと思いますが、よろしいですか。
 よろしければ、次に入る前に5分間休憩といたします。

            (休 憩)

○井上座長 よろしいでしょうか。元気を回復されたと思いますので、次に、公的付添人制度について御議論いただきます。
 この点も、第1ラウンドで、1回分を充てて議論しましたし、前回もかなり長時間にわたって議論をしていただきましたので、更にもう1回となりますと、新しい意見が出にくいかもしれません。時間も時間ですので、できる限り重複を避けて、御意見があれば簡潔にお願いしたいと思います。
 まず、総論の部分で、「少年事件の特殊性」と「公的弁護制度の対象に少年の被疑者をも含める場合のバランス」、検討をする積極的契機とされている項目ですが、この点については、別の方向から様々な御指摘もあったところです。例えば、「少年事件の特殊性」は、主として捜査段階の問題ではないのかという意見がありました。これに対し、否認事件については、少年審判においても正確な事実認定の必要があるので、公的付添人を付す必要があるという反論もあったわけです。そういう事実認定の適正確保という観点からの反論は一つあり得るところだと思うのですが、これまでの御議論で、公的付添人制度の導入に積極的な意見を述べられた方は、むしろ重点が、どちらかというと要保護性とか適正手続の保障という点に置かれていたように思います。その場合、少年事件の特殊性について、どのような理解をし、また、それが公的付添人制度の必要性にどのように結び付いているのか、そういった全体的・総論的な点について、これまでの御議論に更に付け加えて何か御意見がございましたら、いただきたいと思います。髙井委員、どうぞ。

○髙井委員 私は、今まで否認事件については、公的付添人が要るという説だったのですね。その前提としては、公的弁護の対象が身柄全事件だということが大前提としてあったのですが、今回の議論で一部から始めるということになるわけだと思います。そうなった場合には、否認事件というような一般的なくくりではなくて、罪名で原則逆送になるような事件については必要である。これは否認、自白を問わず公的付添人を付ける、その他は要らないということになろうかと思います。
 この前、北海道へ行って、いろいろ家裁の方のお話も伺いましたけれども、私としては、家裁調査官の上に、非行事実を認めている事件について、しかも原則逆送にならない事件について、更に公的付添人を付けなくてはいけない合理的な理由を見出すことはできなかったのです。ですから、少なくとも公的弁護をある程度小さく始めようというこの時期から、要保護性の判断のために更に家裁調査官に加えて公的付添人を付けることは時期尚早ではないかと思います。

○井上座長 ほかの方は、いかがですか。どうぞ。

○本田委員 私も公的付添人については、必要性と合理性があれば、別にそこに積極的に反対するつもりはないわけですけれども、これまでの付するべきだという論者の説明ではどうも納得がいかなかったので、その必要性をきちんと説明していただきたいということは今でも思っております。
 もう一つ、この前の地方調査で気になったのは、公的付添人の給源となる弁護士の確保の問題なのですけれども、これは極めて重要な問題なのですね。そこまでは手が回らないというようなことが、地方調査のときに言われておりまして、そういったところがきちんとされないままここを論ずるのもちょっと問題かなという気がしております。

○井上座長 給源の点は、5にも挙がっているわけですね。そういう御意見をいただきましたが、どうぞ。

○酒巻委員 繰り返しになりますが、まとめて話しますと、以前から述べていますように、弁護士・法律家である付添人が非行事実の認定だけでなくて、処遇選択、要保護性の問題についても、法律家としての立場で少年審判に関与して、ただいまお話の出た原則逆送事件もそうですけれども、それ以外にも実質的な不利益処分となることが予想されるような場合には、適正な審判の実現に法律家として貢献できる場面があるだろうと思っています。そういう観点から、一定の場合に、職権で公的な付添人を選任できる制度を導入することが望ましいと考えています。ただ、現実的には対応能力の問題がありますので、高度に必要性が高い範囲を対象としてそういう制度を設けるということは考えられると思います。しかし、切り方として、刑事処分相当の逆送事件だけというのはやや狭すぎるという印象を持っています。
 それから、前回、座長からも、検察官関与の方の問題を指摘されたわけですが、これも前に述べたとおり、現在でも私選で法律家である弁護士付添人が付いている事件があって、だからといって検察官関与が必ず必要だというわけではない。公的付添人制度を導入して、法律家である弁護士が審判に関与するからといって、直ちに検察官関与が必要だということにはならないと考えます。
 現在は、先般の少年法改正により、非行事実に争いのある部分について、事実認定に限定して検察官関与の制度が認められ、それに対応して、いわゆる国選付添人、法律家である弁護士付添人が認められたわけですが、現在の制度であっても、非行事実認定の手続が済んだ後は、検察官は退出されますけれども、付けられた国選の弁護士付添人は要保護性に関する審理、処遇選択の部分についてもそのまま関与するという形になっています。そして、審判の協力者として、職権審理をする裁判官の判断を助けるということになっているわけです。そういうことから考えても、処遇選択において重大な結果が見込まれる事案に弁護士付添人がいるからといって直ちに検察官もという話にはならないと思っております。
 ただ、これは非常に複雑な問題で、弁護士と検察官といった手続関与者の問題は、これまでの少年審判の構造の根幹に深くかかわる問題です。そう簡単に、何というか、うまく筋道が見える話でもないかなという気もしております。最後の部分は印象ですけれども、前半部分は、前に述べたとおりで、職権による選任の制度が一定の範囲で必要であると思っております。

○井上座長 検察官関与の場合に付添人を付け、その付添人が処遇のところにも残るというのは、別の説明も恐らく可能なので、それを前提として、処遇というか、要保護性だけが問題になるような事件にも付添人が、そして付添人だけが付くということには、当然にはならないのではないでしょうか。理屈の問題として。

○酒巻委員 前回、座長が私に問われたので申しましたが。

○井上座長 問題をクリアーにするためにですね。

○酒巻委員 処遇選択のところに、弁護士さんだけがいらっしゃると、対峙状況があるだろう。その対峙状況を解消するために検察官を入れるという発想があっただろうということを座長はおっしゃったのですけれども、現在の制度でも処遇選択の場面になったときには弁護士さんだけがいらっしゃって、あとは裁判官がいる、検察官はいない、そういう状況で手続が進行することは現在の法制でも認めているわけですから、そこで対峙状況が生ずるかどうかは、その場合その場合によると思いますけれども、ですから座長のこの間おっしゃった議論が必ずしも説得的ではないのではないかと、そういう趣旨で付加したわけです・・・。

○樋口委員 この前に、少年事件の特殊性というのは、主として捜査段階の話ではないかと申し上げました。迎合的なところがあったりとか、曖昧な供述とか共犯が多い、友人をかばったりとかというようなところがあると。これを、もう一つ掘り下げて考えてみると、要するに事実をどう認定していくかという、その作業の中で、その特殊性が前面に出てくるのは、取調べで出てくるのではないでしょうか。ということを考えると、家裁における保護手続ではもちろん事実も認定される、旭川でもビデオを見せていただいたのですけれども、これは法律にも書いてありますとおり、懇切和やかに行われるわけですね。取調べは、そのようには行われないのだろうと思うのです。ということからすると、この特殊性から、事実認定の場面で、正しく事実が認定される、そのためのサポートとして公的付添人が必要だという議論には結び付いていかないのかなという感じがいたします。
 一方、要保護性とか人権の保障とかということになりますと、これは保護手続の中で、制度的にも、裁判官があり、家裁の調査官があり、事案によっては裁定合議制度もあるわけですし、それから、もちろん対象事件の問題はありますけれども、捜査段階の公的弁護制度も整備されるわけですから、本当にその辺りの必要性がどこまであるのかなと思っております。
 それから、最後なのですけれど、もし公的な付添人が付くことになりますと、多分それは要保護性とか環境調整にも役割を果たすことが期待されるのだろうと思いますけれども、どうしても多分事実認定の問題に立ち入ってくるのだろう。とすると、否応なくそこはやはり検察官関与が必要になってくるのではないかという意見なのです。否認の場合に、付添人が付いた場合には弁護活動がどうしても活発化するであろうということが容易に予想されますね。そのときには裁判官の立場からしても、公益を代表する検察官が関与して裁判官を事実認定でサポートするという、それが偏りのない正確な事実認定に結び付くのではないかという感じがいたします。

○井上座長 最初に問題設定させていただいたのは、公的付添人の必要性や少年事件の特殊性という点についてまず議論していただきたいということだったのですが、既に、その先の、制度を導入するとした場合にどういう問題があるのか、あるいは、導入するに当たってはどういう点に留意しなければならないのか、といった点の議論にも入っており、審判手続の構造との関係の問題も出ましたし、家裁調査官との役割分担の話も出ました。また、御指摘のありましたように、給源の問題などもありますので、それらの点も含めて、たたき台の第1のところを全体として御議論いただいた方が良いように思います。公的付添人制度の導入の要否というところ全体について、更に付け加えて御意見があれば伺いたいと思います。どうぞ。

○浦委員 前回と同じようなことになるかもしれませんが、前回、適正手続の観点からの弁護士たる公的付添人の必要性について述べました。それとの関係で検察官関与の問題が出されましたので、この点について若干述べておきたいと思います。
 今の少年法は、旧法では、刑事処分か保護処分かの選択は検察官にゆだねるという検察官先議主義を採っていたのを変えまして、それを一新して、少年に対する処遇決定手続の選択を家庭裁判所に行わせるために、家庭裁判所にすべての事件を送致することを捜査機関に義務付けて全件送致主義、家裁中心主義、家裁先議主義を採用しました。現行法は、少年事件すべてについていったん家裁の門をくぐらせて、家裁の判断によって刑事処分にするか、保護処分にするかを区別して、保護処分その他の保護的措置については最終的な決定をする、そういう構造を採ったわけです。
 したがって、現行法上、検察官は、少年の被疑事件については捜査を遂げて家裁に送致した段階で、一件記録を家裁へ送って一応その段階でいったん役割は終わる。審判の結果、家裁が刑事処分相当だという判断をして、検察官に逆送された段階で再びこの被疑事件に検察官として関与することになる。検察官はその家裁の審判手続には関与しないというのが、この少年法の建前だと思います。もちろん先の少年法の改正で、一定の重罪事件で、かつ、非行事実に争いがある重大な事件について、検察官が審判に出席することが認められたわけでありますけれども、それも家裁が必要性を認めた例外的な場合に限られています。
 こういう観点からしますと、家裁の審判手続は、裁判所と健全育成の対象となる少年との二者間で形成されているわけで、その手続の中で保護処分の制裁としての性質に着目して適正手続の保障がなされなければならない。前回私が申し上げた適正手続というのはそういう意味であるわけです。つまり、少年審判手続において適正手続を保障するというのは、裁判所とその被保護者たる少年との関係において問題となるものでありまして、少年審判手続における適正手続の強調が少年審判手続に対審構造を導入して、検察官の関与の道を開くというものでは本来あり得ないのではないか。したがって、少年の要保護性が問題となって、付添人が適正手続保障の観点から調査結果を批判的に検討するという場面において、検察官が少年に相対して、更に検察官の立場から調査結果を批判する、こういう構図はどうしても少年法の構造自体から考えられていないと思われます。そういう意味では、検察官の関与ということにつきましては、現行の少年法の構造自体からもこれを広げることについては大変問題があるだろうと思います。
 さらには、先ほど酒巻委員からも言われましたように、現行法の制度としては付添人は少年の保護者としての立場、少年法10条によって、弁護士については、家裁の許可を要することなく当然その援助を受けられると、法律上ではそのような制度になっているわけです。この少年法に明確に位置付けられた弁護士付添人の役割は、司法的機能にとどまらずケースワーク的機能も併有していて、裁判所の協力者として家裁の後見的・職権的手続の下で、単に軽い処分を求めているのではなくて、少年の更生・健全育成のために最も適正な処分を求める、そういう活動をしている、それが弁護士付添人です。
 さらに、少年法の手続の中での家裁の行う事実認定や各種の判断に誤りがないとは言えないわけで、弁護士付添人が調査・審判のいずれの段階におきましても、家裁の手続方法を批判しつつ、同時に協力し、援助してその誤りを防ぐ努力をする。これが家裁における弁護士たる付添人の適正手続監視の役割だろうと思います。したがって、このような意味で、適正手続を強調したからといって、対審構造を少年審判手続に持ち込み、検察官関与が当然に導かれるということにはならないのだろうと、そのように考えます。

○井上座長 これまで伺ったお考えを、制度の成り立ちに遡って説明され、かつ、敷衍されたのだと思いますけれども。

○本田委員 先ほど適正手続というのは、家庭裁判所と少年との間の問題であるというような発言があったのですが、具体的にはどういうことなのかよく理解できないのですけれども。

○浦委員 少年審判手続における適正手続というのは、検察官を含めた適正手続ではなく、裁判所と少年の二者間で行われるわけです。したがって、審判手続におけるその二者間での適正手続ということは、我々が刑事手続でいう適正手続とは少し次元を異にするのではないか、そのように申し上げたのです。

○井上座長 具体的に中身を議論していくと、審判構造の問題にもかかわってくるのです。例えば証人に対する反対尋問だとかを強調しますと、かなり当事者対抗的な手続のイメージに近くなり得るわけです。その辺のところは、適正手続の中身にかかってくるように思うのですけれども。

○浦委員 その場合でも、あくまで付添人は裁判所の協力者という面も併有しながら活動している、そういうことになるわけですね。

○井上座長 その辺りの物の言い方はかなり難しくて、以前に検察官関与をめぐる議論の一つとして、少年審判で事実認定が非常に争われる場合には、裁判官と少年及び付添人との間で一種の対峙構造が生じ得るが、それは審判の在り方として適切ではないので、対峙する立場に立つ者として裁判官とは別の検察官を関与させて審判を行うようにしようということが言われた。それが今の検察官関与制度の成り立ちの専らの趣旨かどうかは別として、そういう議論があったわけですね。
 私が疑問を呈したのは、確かに処遇とか要保護性の点で付添人が重要な働きをする場合もあるでしょうが、そうではなく、非行事実の認定について問題があるために付添人、特に弁護士の付添人に関与してもらうことにし、その点に主として焦点を当てて審判がなされるという場合には、今申したのと同じような構造が生じるのではないか、そこの辺りをどう考えるのかということなのです。それについて必ずしも全面的かつ正面からお答えがあったとは思えないので、そういう問題と、ここに挙がっている項目でもう一つ考えないといけないのは、6の(2) の「被害者等への配慮との関係」ということです。それらの点をも視野に入れて、全体についてバランスのとれた御議論をしていただければと思うのですね。

○本田委員 酒巻委員の、例えば今でも私選の付添人が付いている場合があって、対峙構造にならないのではないかという話があったのですけれど、付添人が付いたから必ずそういうふうになるということではないのでしょう。ただ、例えば新たにこの前の改正で導入された検察官の関与すべき事件については、そういった対峙状況が出てきて、そのままではまずいという場合、当然これは検察官が関与してくるわけですね。だから、そういう意味では、私選の弁護士たる公的付添人が付いている場合に対峙状況が生じないから問題ないのではないかというふうには全面的には恐らく言えないのでしょうという気がします。

○髙井委員 例えば捜査段階では全面的に認めていたと、ところが家裁に行ってから否認に転じるということはよくあるわけですね。そこに公的付添人が付いていて、その否認に沿ってどんどん争う、証拠の反証もしてくるというときに、先ほど浦委員がおっしゃったような、公的付添人と裁判所が協働するということが想定し得るのか。もし、それを想定したら、これは本当にとんでもない話だと思いますね。判断者と判断を求める人間が協働している、それはあり得ないことですよね。
 もう一方、新しい証拠がどんどん出てきた場合、家裁の裁判官だけではどうしようもないですね。そこに検察官が立ち会って適切な補充捜査なり何なりをやって、その証拠を審判に出すというような仕組みにしなければ、これは真実が発見されないわけですね。少年事件の場合は真実はどうでもいいというわけではないのですから、そうなってくると、公的付添人が付いた場合は絶対に検察官関与しなければいけないとまでは言う必要はないのだけれども、その審理の進展の具合を見て、裁判所が、これはどうしても検察官の立会いが必要であると判断したときには職権で立ち会わせることができるような制度にしておく必要はあると思います。それが被害者から見ても納得できる制度ということになると思います。捜査で自白したものが審判でひっくり返ってしまいました、そのまま審判不開始あるいは不処分になりましたみたいな話になったのでは被害者は納得できない。検察官がしっかり立ち会って、それでも無罪判決と同様な結果になったというのだったら被害者としては納得できるのかもしれません。ですから、そういうことを考えると、裁判所が判断をして必要であれば検察官関与はできるという道は開いておくべきだと思います。

○池田委員 今の少年の審判の現場において、一定のある種の事件においては付添人がいた方がいいだろうという感覚があるというのは前にお話ししたとおりで、それは変わらないのですが、その中で、私が例に挙げた、例えば精神状態が若干問題になる、要保護性の問題としてそういうようなことがあるときにどうかというようなことも話しましたが、確かにここの辺りになると、これは別の検討会で即決裁判の上訴の制限のときに、事実認定と量刑の振り分けが難しいということを言いました。少年でも事実認定と要保護性の切り分けは、両方に絡んでいるから、かなり難しいところが出てくるわけですね。
 そうだとすると、そういう事件で仮に公的付添人を付けるとしたら、今度は検察官の立会いを認めなくていいのかという議論に必ずなるわけで、そこは少年審判の構造の全体をもっと見た上で慎重に検討していかないといけない問題ではないかという気がするのです。ほかの問題、例えば弁護士会の対応能力というようなこと、それは公的弁護のところでもやっているわけで、その辺りはここで決められることでしょうけれども、少年審判の手続や構造の全体のことを考えるとなると、若干ここを離れているのかなと感じます。私たちの扱う範囲をオーバーしているのかなという気がいたしますので、更に別にそこら辺はもっと検討を続けていかなければいけないのかなという気がしております。

○井上座長 審議会意見でも、単に公的付添人を付けるということだけでは済まず、審判構造全体に及んでいき得る問題でもあるので、少年審判それ自体の問題として、その中で考えていくべきであり、そのような観点から検討してほしいということになっているわけです。制度の組み方によっては、少年審判制度の根幹のところにも影響を与え得る問題であることは確かだと思います。

○土屋委員 私は少年事件の特殊性はあると思っておりまして、それに応じた独自の制度が少年審判制度だと理解しています。そして、それが実際重要な機能を果たしていると評価しています。そういう立場からの意見なのですが、扱う事件の対象を原則逆送事件に限定するのは私も狭すぎると思っています。もう少し少年の事件で付添人を公費で付けなければならない局面はあるのだろうと私は思っていて、もっと広い範囲の制度にすべきであろうと思います。
 それから、公的付添人が弁護士でなければならないとは私は考えていないということです。ほかのそれこそ家裁調査官だった方でもいいでしょうし、篤志家の方でもいいでしょうし、もちろん現行制度がそうですから、公的制度になったとしてもそれで構わないと思うのですね。ただし、そこで弁護士さんが公的付添人として依頼されてくるケース、裁判所が職権で付けるケースはそれなりに事案の難しいケース、環境調整なども必要なケース、いろんな要素が入ってくるのだと思うのです。そうすると、それは刑事処分相当の事件だけではなくて、もっといろいろな広がりのある、幅のある事件が恐らく入ってくるのであろうと私は思っていまして、制度設計についてはもう少し広い範囲の事件を対象にする必要があろうかと思っています。どこまでがいいかということになると、これは非常に難しいと思うのですけれども。

○平良木委員 私も今の土屋委員と同じような考え方を持っております。前回公的付添人を付けるのは原則逆送でという言い方をしたのは、どこで切ったらいいかということが非常に難しい部分だと思うので、先ほど酒巻委員も言っておられましたが、職権で付けられる余地というのを残しておくといいのかなという気がしております。あと、それとの対応で検察官の立会いをどうするかという問題も出てくると思いますので、この問題は別にまた大きなところで考えていったらどうだろうかという気が私もします。

○井上座長 原則逆送事件については公的付添人の関与を必要的にするということを前提とされているのでしょうか。

○平良木委員 必要的とまで言うつもりはありません。

○井上座長 ほかの方の御意見は、いかがですか。職権によって付けるという御趣旨であったと思うのですけれど。

○酒巻委員 私は、職権という仕組みでやるのは当然の前提にした上で、原則逆送の中で職権でというふうに限るのは狭すぎるだろうと言ったのでありまして・・・。

○井上座長 そこもお考えが違うということですか。

○平良木委員 いや、必ずしもこれは必要的というわけではないのだけれども、そこのところを基本にして広げる余地があるのかなということです。

○井上座長 職権選任だとして、それでもそこに限るのは狭いかもしれないということですか。

○平良木委員 ですから、職権によってもう少し広げる余地を裁判所に残しておいたらどうだろうかということです。

○井上座長 大体1ラウンド目、2ラウンド目で出た御議論をなぞっているようなところがありますね。先ほど池田委員から御指摘があった点も非常に重要で、この検討会で片付く問題なのかどうか、もっと視野を制度全体に広げ、そういう中で詰めていった方が良いのではないかということをも含めて、更に今後検討していきたいと思います。総論的な議論はこのくらいでよろしいでしょうか。

○浦委員 これは公的弁護の問題と同じかとも思うのですけれども、現行の制度では、資力のある少年については弁護士付添人が付いているケースが多いのですが、資力のない者についてはそうではないので、少年の経済的な境遇によって付添人の援助を受けられる機会の保障が左右されるということ自体、是正される必要がある。そういう意味でも公的な付添人が付けられる必要があって、公的弁護と同じような論拠があると思います。

○本田委員 私選で弁護士さんの付添人が付いている人と貧困のために付けられない例があることは御指摘のとおりだと思いますけれども、その場合に、現行の制度の中で、付添人が付かないと明らかに違った取扱いになってしまう、不公平が生じてしまうという制度になっているのかということです。付添人が平等に付かないと、少年審判構造というのはうまく働かないのだという論証ができれば、それはそうかと思うのですけれども、ただ、付いている、付かない、外形的なもので、いや、こっちに付けるべきだといっても、それは実質的な理由が何もないわけですね。そこがよく分からない。前から付添人にどういう役割を求めるのか、その辺りのところが具体的なところとして出てきていないので、もう少しそこはきちんと議論をして、本当に必要な部分があるなら、それは付けてもいいでしょうということにはなるのだろうと思いますが。

○井上座長 そこのところは、北海道の地方調査のときから出ていた御議論で、これがないと少年審判が立ち行かないという捉え方をするのか、基本的には今の制度で機能しているのだけれども、公的付添人が付けられれば、一層望ましい働きをする、あるいはそういう部分もあるのではないかというふうに捉えるのか、そこの違いだろうと思いますね。
 先ほど申したように、同じような議論でグルグル回っているような感がありますので、池田委員から出たような視点をも含めて、次のステップでどうするかということをまた議論していただきたいと思います。

○浦委員 今の本田委員の意見に対して一言だけ。

○井上座長 先ほど私が申し上げたように、本田委員が言われたのは、公的付添人が付かなければ制度に欠陥があるということになるのかということで、そういう捉え方をするのか、それとも、現在の制度でも基本的には十分機能しているが、そこに公的付添人が付くことによって一層良く機能する、あるいは少年のためにより良い働きをすると捉えるのか、どちらで考えていくのかというところでずれがあるということだろうと思うのです。
 一定の者については付いていた方が望ましいという御意見もあるのですけれども、制度として必要だというところまで本当に言えるのか、そこだと思うのですね。この段階でそこを議論しだすと、結局また同じことの繰り返しになるだけだと思うのですが。

○浦委員 分かりました。ただ、旭川での家裁調査官の地方調査に私は出られなかったのですけれども、調査結果を見ますと、家裁調査官でできないところは多々あると、それを国選の付添人にやってもらえば、そういうことを言っておられますね。

○井上座長 確かに、そのような御説明があったのですけれども、それに対しては、委員の中から、十分な説明になっているのかという御疑問も提示されていたわけで、そこを議論し出したら、また繰り返しになるのですよ。更にその議論を続けますか。

○浦委員 繰り返し説明してもちゃんと説明できてないと言われて、そういうふうな際限のない議論の繰り返しになっているように私は思っているのですが、それはそれで、今ここで申し上げるつもりはございません。

○井上座長 私自身、北海道で質問したのですけれども、そこのところがきちんと説明できないと前に進まないと思うのです。その点についてきちんとした説明をいただく必要があるばかりか、先ほど池田委員が言われたように、ほかのいろいろな問題にも波及し得るわけで、そういう大きな視点に立って少年審判全体の中で具体化を考えていくとすれば、どういう形があり得るかということを、次のステップで考えないといけない。そういうことだと思うのです。

○浦委員 それは結構です。

○井上座長 ですから、先ほどのような一応の整理で、この段階では議論を終えておき、次のステップで更に考えるということにさせていただきたいのです。それでよろしければ、具体的な制度設計について御議論いただきたいのですが、既に相当時間が押してきていますので、第2のところをまとめて御議論していただくということにしたいと思います。ここもこれまで随分御議論いただいたところですし、そもそも導入は疑問だという方は、こんなところを議論する必要はないということにもなるかもしれませんが、そういう方も含め、仮に導入するとした場合、こういう点はどうなのだろうかというような形で議論していただいておいた方が、今後のためによろしいかと思います。ただ、既に随分御議論いただいておりますので、更に付加してということがあれば、その点に絞って御意見をいただきたいと思います。

○浦委員 私は前回この部分について相当述べさせていただきまして、付け加えるところはないのですが、1点だけ、付添人の必要的選任については、弁護士付添人が立ち会わなければ審判を開けない、そういう効果を審判について持たせるのであれば、構成は可能かなと思います。前回はその辺の法的な効果は必ずしも明確に説明できないということを申し上げましたが、弁護士が付かなければ審判が開けない、そういう効果を持つ、現行の公判段階の必要的弁護事件と同じような、そういう取扱いは可能かなと思い至りましたので、その点だけ付加させていただきます。

○井上座長 そう組めば可能だということですね。

○浦委員 はい。

○本田委員 なぜそのような制度にするのかという理由が必要でしょう。

○酒巻委員 すみません。今、浦委員のおっしゃった内容がよく分からなかったので確認ですが・・・。

○井上座長 前回、浦委員にどなたかの質問があった・・・。

○浦委員 いや、質問ではなくて、私から申し上げたのですが、必要的選任というのは少年法に必要だけれども、その法的効果は必ずしも十分うまく説明できないから、この点については強く主張しない旨の発言をしました。それについては、法的効果として付添人がなければ審判を・・・。

○井上座長 開けないと。

○浦委員 というふうなことを、公判と同じように、パラレルに考えることができるのではないかと・・・。

○井上座長 必要的弁護事件の公判と類似の法的効果を持たせれば説明がつくということですね。

○浦委員 そういうことを付加させていただいたということです。

○酒巻委員 それはそのとおりだと思いますが、それは適当でないと思いますので、私は必要的という制度は望ましくないと考えます。先ほど来申しておりますとおり、つくるとすれば職権によるというのがいいと思います。望ましくない理由はもう何度も申し上げておりますので。

○池田委員 私もよく分かってないのですが、少年事件の最終処分というのは必ず審判廷を開かないとできないのでしたか。刑事とちょっと違うのではないですか。審判開始決定というのが期日外であって、その後審判で処分が決まることが多いのは間違いありませんが、審判を経ずに最終処分が決まる場合もあるのではないでしょうか、その辺りの細かな点が今は分からないのですが、そういう組立てをしたとしても難しい問題があるのではないかという感じがしますけれども。

○井上座長 前回、ここについても、考えられる論点の御指摘はいただいていますので、よろしければ、このくらいにさせていただきたいと思いますけれども。これで、一応、たたき台についてのおさらいの議論を終えたいと思います。
 次回は、次のステップに進んで議論していただくということにしたいと思いますが、前に事務局から提案があったように、事務局の方で何らかの骨格案のようなものを作成してもらい、それに基づいてまた議論をすることが生産的かと思います。皆さんもそういう御理解であったかと思いますので、それを確認させていただきます。
 事務局から、何か事務連絡がありますか。

○落合参事官 毎回申し上げていることですが、事務局では、今般の司法制度改革につきまして、広く国民の皆様から御意見を承っておりまして、その目録を作成しておりますので、御希望の委員の方は適宜事務局にお申し付けください。なお、検討会の委員の方で、国民の皆様からの意見を直接御覧になりたいとの御希望がございましたら、本検討会の終了後など適宜の機会に事務局の方にお申し付けください。以上でございます。

○井上座長 次回は、11月11日の午後1時30分からということになっています。本日は、どうもありがとうございました。

(以上)