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公的弁護制度検討会(第3回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)

1 日時
平成14年6月25日(火)10:30~13:00

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 井上正仁座長、池田修、浦功、大出良知、清原慶子、酒巻匡、髙井康行、土屋美明、中井憲治、平良木登規男、廣畑史朗(敬称略)
(説明者) 河原昭文(日本弁護士連合会副会長)
今崎幸彦(最高裁判所事務総局刑事局第一課長)
(事務局) 山崎潮事務局長、大野恒太郎事務局次長、古口章事務局次長、松川忠晴事務局次長、落合義和参事官

4 議題
1. 被疑者に対する公的弁護制度の対象事件
2. 公的弁護制度の担い手である弁護士の確保方策
 ○ 全国的に充実した弁護活動を提供しうる態勢の整備
 ○ 連日的開廷による充実かつ集中した審理を実現するための弁護体制の整備

5 配布資料
資料3-1 第3回公的弁護制度検討会における論点(案)
資料3-2 勾留された被疑者の弁護人選任等の状況(平成13年)
資料3-3 各地裁(地検)本庁・支部及び簡裁(区検)の管轄区域における対象事件数等一覧

【日本弁護士連合会提出資料】
資料・日弁連3-1日本弁護士連合会報酬等基準規程(平成7年10月1日施行)抜粋
資料・日弁連3-2日弁連・各弁護士会報酬規程比較表(2002年6月1日現在)
資料・日弁連3-3刑事被疑者弁護援助制度の弁護費用支払基準(平成13年度)
資料・日弁連3-4当番弁護士が私選弁護人として受任する際の着手金・報酬金の基準(2002年6月1日現在)
資料・日弁連3-5日弁連報酬等基準規程と弁護報酬実態との比較 ー日本弁護士連合会「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査報告書」抜粋ー
資料・日弁連3-6私選弁護報酬の実態
資料・日弁連3-7-1被疑者国公選弁護制度発足時の対応能力についての調査について
資料・日弁連3-7-2第2次アンケート集計結果
資料・日弁連3-8国費による弁護制度のもとでの弁護態勢に関するシミュレーション

【最高裁判所提出資料】
資料・最高裁3-1地裁通常第一審の合議事件における弁護人が選任された人員(法定合議・裁定合議別)
資料・最高裁3-2国選弁護人標準報酬額の推移(地方裁判所),国選弁護人報酬予算額・支出実績額の推移
資料・最高裁3-3標準的事件における国選弁護人の報酬等について
資料・最高裁3-4-1国選弁護人選任方式集計表
資料・最高裁3-4-2国選弁護人事件における第1回公判期日指定時期集計表
資料・最高裁3-5通常第一審事件(地裁)における終局人員数・平均審理期間・平均開廷回数
資料・最高裁3-6通常第一審における開廷回数が10回以上である必要的弁護事件の庁別終局人員(地裁)
資料・最高裁3-7通常第一審における否認事件の開廷回数別終局人員(平成13年-地裁)

【法務省提出資料】
資料・法務省3-1逮捕又は勾留された被疑事件の弁護人選任及び処分状況

【参考】
参考図 〔常勤弁護士・契約弁護士〕

6 議事
(□:座長、○:委員、△:日弁連、▲:最高裁、●:事務局)

□ それでは、定刻でございますので、第3回の「公的弁護制度検討会」を開かせていただきます。本日も朝早くからお集まりいただきまして、ありがとうございます。
 今日は、御承知のように時間が限られておりますので、普段にも増して進行に御協力いただきますようお願い申し上げます。
 議事に入ります前に、事務局から事務連絡があるということですので、お願いします。

● 第2回検討会でも申し上げましたとおり、事務局では今般の司法制度改革につきまして、広く国民の皆様からの御意見を承っており、その目録を作成しております。委員の皆様の中で、その目録の写しを希望される方や、国民の皆様からの御意見を直接御覧になりたいとの御希望がありましたら、本検討会の終了後など適宜の機会に事務局の方にお申し付けください。
 以上です。

□ ありがとうございます。それでは、まず議論に入る前に、本日の検討会のために用意していただいた資料について、事務局から説明をお願いしたいと思います。

● 本日の資料について、簡単に御説明いたします。まず、事務局が用意いたしました資料が、資料3-1から3-3まででございます。
 日弁連から提出されております資料が、資料・日弁連3-1から3-8まででございます。
 最高裁から提出されております資料が、資料・最高裁3-1から3-7まででございます。
 法務省から提出されております資料が、資料・法務省3-1でございます。
 このうち、前回の検討会の際に、各委員から統計等について御要望などがありまして、関係機関において用意していただいたものが、資料・日弁連3-1から3-6まで、資料・最高裁3-1から3-4まで、資料・法務省3-1でございます。
 本来ならば、これらの資料の内容につきまして、関係機関から御説明をいただくのが適当かと思われますが、時間の関係上割愛させていただきたいと存じます。
 なお、御要望いただきました統計等のうち、関係機関等において統計を取っていないために用意できなかったものもございますので、その点、御了解いただきたいと思います。
 ただいま申し上げました資料以外の資料は、本日の検討会での議論のために、事務局及び関係機関において用意したものでございます。事務局が用意いたしました資料3-1は、本日の検討項目の中で取り上げるべき論点についての案をまとめたものでございます。
 これ以外の資料につきまして、本日の検討項目との関係を御説明いたしますと、検討項目の1番目の「被疑者に対する公的弁護制度の対象事件」の検討のために用意されている資料が、事務局提出の資料3-2及び3-3、日弁連提出の資料・日弁連3-7及び3-8でございます。
 また、検討項目の2番目の「公的弁護制度の担い手である弁護士の確保方策」の検討のために用意されております資料が、最高裁提出の資料・最高裁3-5ないし3-7でございます。
 これらの資料につきましては、関係する検討項目の際に、事務局及び提出されている関係機関から説明をするのが適当ではないかと存じます。
 以上でございます。

□ ありがとうございました。前回委員の方から御要望のあった統計等を配布してもらいましたが、これについての説明は、時間の関係上割愛させていただきたいということです。
 ただ、これらの資料の内容について議論の中で御質問があれば、適宜事務局ないし関係機関から答えていただくということもできるのではないかと思います。
 それ以外の資料は、今お話がありましたように、今日の検討項目の議論のために用意されたものですので、それぞれの項目について検討する際に説明をしていただくということにしたいと思いますが、よろしいでしょうか。

(「はい」と声あり)

(1) 被疑者に対する公的弁護制度の対象事件

□ それでは、本日の大きな検討項目のうち「被疑者に対する公的弁護制度の対象事件」という項目について、議論を行いたいと思います。
 本日御議論いただく予定の検討項目において、検討すべき中規模の論点につきましては、先ほどお話がありましたように、事務局の方で資料3-1という形で案を作成してくれております。これは、司法制度改革審議会の意見書及び同審議会の議事録等を参照して、こういう項目があるのではないかということで拾い上げて整理していただいたものです。
 このうち、まず「1 被疑者に対する公的弁護制度の対象事件」という点について、事務局から簡単に説明をしていただきたいと思います。

● 司法制度改革審議会の意見書は、被疑者に対する公的弁護制度の対象事件について、明確には述べておりませんが、同審議会での議論におきましては、この点に関し、次のような問題提起がなされております。
 まず、基本的な方向性として、対象事件を一切限定しないのか、それとも対応可能な弁護士の数が限定されていることなどの現実的な問題から対象事件を限定すべきなのか。対象事件を限定する切り口として、身柄事件に限定するのか。重大事件、それも相当重大な事件に限定するのか。さらに公判段階における裁量による選任制度や必要的弁護制度のような制度を捜査段階でも認めるべきなのかどうか。資料3-1の「1」は、基本的に、これらの問題提起を参考にして作成したものでございます。
 なお、ある制度の対象事件を罪名により限定している典型例として、現行法上、法定合議事件と必要的弁護事件がありますので、罪名による限定の切り口としてこれらを例示列挙いたしました。
 しかしながら、もとよりこれらに限られるわけではありませんし、現に罪名により対象事件を限定している例はほかにもございますので、その他という欄も設けております。
 また、対象事件を限定する切り口として、罪名以外の切り口も考えられますことから、(1) の三つ目に「その他」も設けております。
 以上でございます。

□ ありがとうございました。今の事務局からの説明について、何か御質問がございますか。よろしいですか。議論を進めていきますと、ここに挙げてある論点以外の論点というものも、浮かび上がってくることがあるかと思いますが、とりあえずは、今の事務局の整理に従って検討を進めて行き、その過程でほかの論点が浮かび上がってきたときには、その段階での議論との関連ですぐに取り上げるべきものであるということならば、適宜臨機応変にそれも取り込んで議論して行くという形にさせていただければと思います。
 次に、この対象事件を考えるために、事務局及び日弁連の方で用意してくださった資料がありますので、それについて説明していただくことにしたいと思います。
 まず、事務局の方からお願いします。

● 事務局からは、検討項目の1番目であります「被疑者に対する公的弁護制度の対象事件」の検討のために、資料3-2及び資料3-3を配布させていただいておりますので、簡単に説明いたします。
 まず、資料3-2は、「勾留された被疑者の弁護人選任等の状況(平成13年)」でございます。本資料は、これまで本検討会に提出された資料を基に、全勾留事件について、当番弁護士との接見の有無や弁護人の選任の有無等に応じ、内訳を整理したものであり、弁護人選任等の現状を理解していただくのに役立つものと考えております。
 資料3-3は、「各地裁(地検)本庁・支部及び簡裁(区検)の管轄区域における対象事件数等一覧」でございます。本資料は、公的被疑者弁護制度の対象事件数を、全国で何件と設定した場合に、各地裁本庁・支部及び簡裁の管轄区域では、対象事件数が何件となるかをシミュレートしたものであります。そのための基準としまして、本資料は各地域の勾留許可数を用いておりまして、表紙の注2に記載しております全国の勾留許可数11万5,391 人、これは交通関係事件を除いたものでございますが、この11万5,391 に対する各地域の勾留許可数の割合で、全国の対象事件数を各地域に按分しております。また、本資料には第2回検討会で日弁連から提出していただきました、各地域ごとの弁護士数や当番登録数など、関係する数字も記載し、各地域の対象事件数を当番登録数で割った1人当たりの対象事件数も併せて記載しております。
 また、各本庁・支部及び簡裁の地理的な関係が分かりますよう、高裁単位の地図も付けておりますので御参照ください。
 御参考までに、一つ例を挙げて御説明いたします。2ページをお開きいただき、一番上の東京地裁本庁の欄を御覧ください。例えば、東京地裁本庁の勾留許可数の全国の勾留許可数に占める割合は、東京地裁本庁の勾留許可数、これは1万7,129 となっておりまして、これを全国の勾留許可数11万5,391 で割った値になるわけであります。そこで、全国の対象事件数を仮に9万件と設定した場合には、東京地裁本庁の管内では、9万件に先ほど計算した割合を乗じて計算した結果、対象事件数が1万3,359.9 件となり、当番登録数が東京ですと1,956 人ですので、1人当たりの担当すべき事件数は6.8 件となるということでございます。この場合、ほかの地域ではどうなるかということは、9万件の欄を下に御覧いただけばお分かりいただけると思います。
 全国的な対象事件数というマクロの問題の検討に当たりましては、各地域の対象事件数というミクロの問題にも留意する必要があると思われますので、本資料をお配りした次第です。
 なお、当番登録数で割っているわけでありますが、これは当番弁護士が被疑者国選をやっていただけるという前提に立っているわけであります。勿論この前提自体が議論のあるところだということは承知しております。
 以上です。

□ どうもありがとうございます。
 それでは、続いて日弁連の方から、本検討項目との関係で提出されている資料について説明をお願いしたいと思います。

△ 日本弁護士連合会の副会長をしております、○○と申します。
 それでは、本日は日弁連から提出いたしました検討資料について御説明したいと思います。
 最初にお断わりしておかなければならないのですけれども、これから御説明する資料につきましては、検討項目の1番の「被疑者に対する公的弁護制度の対象事件」とともに、検討項目の2番に掲げられております「公的弁護制度の担い手である弁護士の確保方策」にも話が及ぶかと思いますが、まとめて御説明させていただいてよろしいでしょうか。

(「はい」と声あり)

 それでは、資料・日弁連3-7-1について御説明したいと思います。
 日弁連及び第7回国選弁護シンポジウム実行委員会は、被疑者国公選弁護制度発足時の対応能力についての調査、これは第2次アンケートといいますけれども、これを次の過程により実施いたしました。
 2001年1月12日に、日弁連及び第7回国選弁護シンポジウム実行委員会が実施した、当番弁護士制度全国調査、これが第1次アンケートでございますが、この回答結果に基づきまして、2000年1月1日時点での各地方裁判所の支部に対応する会員数(弁護士数)、当番弁護士登録数、登録率をデータ化いたしました。
 そして、日弁連が最高裁のデータから各支部ごとの1999年の勾留請求件数を算出いたしました。
 次に、日弁連が上記勾留請求件数の30パーセント及び50パーセントに当たる事件数を算出し、さらに、当該支部の会員、当番弁護士登録数で担当した場合の1人当たりの平均負担件数を算出いたしました。
 さらに、2001年7月5日、日弁連及び第7回国選弁護シンポジウム実行委員会が各単位会会長に対して、以上のデータを基に、次の前提条件を設定して、第2次アンケートを実施いたしました。
 その前提条件の1番目は、被疑者国公選弁護制度の発足時点において、少なくとも勾留件数の30パーセント程度の事件につき、弁護士が被疑者段階からの弁護人になることを一応想定する。
 なお、請求のあった事件については、すべて選任することとしたり、あるいは一定年齢以下の少年についてはすべて選任することとした場合には、50パーセントになることも十分に考えられるということでございます。
 2番目は、別途被告人段階における国選弁護人としての活動事件や、付添人としての活動事件の負担があることも踏まえ、1人の弁護士が1年間に担当する被疑者段階からの弁護の件数は、10件程度を一応想定いたしました。
 第2次アンケートの質問事項ですけれども、「被疑者国公選弁護制度が実現した場合、現在の人的体制のもとで対応可能かどうかについて、各本庁管内及び各支部管内ごとにお答えください。『1,十分に対応が可能』、『2,何とか対応が可能』、『3,対応が困難』、『4,対応が不可能』。」というものです。
 また、2番目として、「質問1で『十分に対応が可能』以外の回答をした地区につき、『十分に対応が可能』とするためには、どのような解決策が考えられるか検討の上ご回答ください。なお、増員が必要な場合には、可能な限りその人数と増員方法、また現時点において解決策が想定されないときは、その旨と対応可能な負担件数も答えてください。」としております。
 3番目に、制度実施に当たり、必要不可欠な制度改善策について、自由回答でアンケートを行いました。
 以下の「注意事項」は省略いたします。
 第2次アンケートの結果は、資料・日弁連3-7-2「第2次アンケート集計結果」でございまして、これは勾留請求件数30パーセントに対する対応能力でございます。資料・日弁連3-7-2の集計結果の真ん中辺りに、「現体制における対応可能性」というところがありますが、例えば一番上の東京、本庁は「何とか可能」、八王子は「困難」となっております。これを集計いたしますと、「十分に対応が可能」が76、「何とか対応が可能」が95、「対応が困難」が61、「対応が不可能」が15、「その他」が3ということになっております。これは東京を除いています。
 これが、第2次アンケートの集計結果でございます。しかし、先ほども申し上げましたとおり、これは昨年の7月5日のアンケートでございまして、この検討会が始まりまして、現時点におきましては、やや状況が変わっているのではないかということで、資料・日弁連3-8を御覧いただきたいと思います。
 これは、本年4月1日現在の弁護士及び当番弁護士のもとで、国費による弁護制度のもとでの弁護態勢に関する一つのシミュレーションをしたものです。前提といたしまして、実施年度は平成18年4月からとしました。
 対象とする事件でございますが、これは身柄拘束事件全体を対象といたします。ただし、現実に担当する事件数はその75パーセントと判断し、その件数を前提として対応策を検討することといたしました。
 この75パーセントと判断いたしましたのは、平成12年の第1審地裁における国選率が72パーセントであること、平成8年以降、国選率が増加傾向にあること、他方、新たな制度において資力要件、費用の負担等も討議課題にあることも考慮いたしました。ですから、25パーセントは最初から私選ということを想定したわけでございます。そして、各地でばらつきはありますけれども、特に地域ごとの修正はいたしておりません。
 もう一つの前提条件としては、この新しい弁護制度を一般の弁護士、現実には現在の当番弁護士が基本的に担うことといたしまして、一般の弁護士の処理可能件数を超えた事件及び裁判員制度のもとでの集中審理事件等、一定の事件を刑事専門弁護士、あるいは刑事専門弁護士の集団、刑事専門の事務所が担当するということを前提といたしております。
 次に「説明」、これは資料・日弁連3-8の3枚目以降に表が出ておりますけれども、この表の説明でございます。
 ①は「勾留請求数」。これは地裁、簡裁の平成12年1月から12月のものでございまして、裁判所資料によっております。
 ②が「推定逮捕数の75%」でございます。実は、支部ごとの逮捕件数は資料がございません。全体の逮捕数はあるのですけれども、支部ごとの逮捕件数は資料がありませんので、平成12年逮捕総数、これは13万968 、約十三万一千人といたします。平成12年の勾留許可数、11万5,391 人は、これは約十一万五千人といたしました。これは勾留請求数ではないのですけれども、勾留請求数と勾留許可数というのはほとんど違いがございません。許容範囲の数でございますので、ここでは勾留許可数を使わせていただきました。その比率から支部ごとの逮捕数の推計を行いました。
 例えば、横浜地裁川崎支部を御覧いただきますと、勾留請求数は1,364 でございまして、これに13万1,000 を掛けて、11万5,000 で割って、その75パーセントということになりますと、1,165 件、これが推定逮捕数の75パーセントということになるわけです。
 ③は「協力関係本庁支部合計数」と書いておりますけれども、支部だけで対応するところと、本庁支部が協力して対応できる場合があるので、協力できる場合には合計したものを書いてあります。
 ④が「当番登録数」でございます。
 ⑤は「協力関係本庁支部合計数」でございます。
 ⑥が「当番登録者1人あたり負担」でございまして、東京は東京と八王子が協力関係があって、2,199 人の当番弁護士が事件を処理した場合に、1人当たり8件の負担になるということでございます。
 ⑦が「専門弁護士必要数」と書きましたけれども、②の推定逮捕数の75パーセントの総数は、10万5,017 件となります。そして、現在の当番弁護士の数は、この表の一番最後に書いてありますとおり、現在は8,200 人でございます。この8,200 人が年間10件を受任するものと仮定いたします。これは現在の国選弁護人の受任件数が全国平均で1人当たり年間7件でございますが、被疑者に対する公的弁護は、選任時期としては現在の国選弁護の被疑者段階への前倒しであることから、被疑者に対する公的弁護を年間10件受任することは困難な数字ではないと判断いたしました。
 先ほどの第2次アンケートでも、1人10件を担当するということでアンケートを取っております。
 ただし、対応能力が報酬と密接に関連しているために、報酬額の再検討が必要不可欠でございまして、この点はよろしくお願いしたいと思います。
 そして、不足分の2万3,017 件を刑事専門弁護士、これは国費による刑事事件のみを担当することを想定いたしまして、この刑事専門弁護士が受任する件数は、年間100 件を担当するものと仮定いたしました。この年間100 件といたしましたのは、争いのない標準的な事件、例えば窃盗、傷害等の逮捕から判決言渡時までの弁護活動に要する所要時間を27時間として、年間稼働時間を2,000 時間、8時間掛ける250 日とすると、1年間に処理できる件数が74件となりますが、この被疑者段階からの弁護ということになりますと、公判段階にまで至らない事件も相当数ありますので、これは全く一つのモデルとして、前提となる諸条件が変わることによって、100 件は可能と判断して設定いたしました。
 その専門弁護士必要数の欄の括弧は、余剰の弁護士でございまして、他の本庁支部に回し得る弁護士数でございます。
 専門弁護士必要数を足して、それから括弧内の回し得る弁護士数の合計を引きますと、全国で刑事専門弁護士が230 人必要になるということになりますけれども、これはあくまでも現段階における一つのシミュレーションでございます。
 最後に、一言日弁連としてお話したいのですけれども、日弁連は1980年から被疑者国選制度の検討を始めて、1990年9月から当番弁護士制度を発足させました。今回の司法制度改革において、この国費による弁護制度が正式に始まることを、心から喜ぶとともに、この制度の成功に全力を尽くす決意でございます。
 先ほど説明いたしましたものは、あくまで現時点における一つのシミュレーションでございますが、本年度の司法試験合格者は1,200 人、平成16年には1,500 人になりまして、弁護士数も飛躍的に増加することと思われます。
 ただ、現在年間100 件を受任し得る刑事専門弁護士集団は存在いたしません。そのためには、次のような対応策が考えられます。これらはどれか一つというものではなくて、並行的、または段階的に実施していくべきであり、日弁連は単位会との協議を経て積極的に推進していく所存でございます。
 例えば、新入会員研修による当番弁護士の増強、プロボノ活動の義務化、既に第一東京弁護士会ではこの義務化を規定してございます。そして東京弁護士会、第二東京弁護士会では、この義務化を検討中でございます。また、単位会の枠を外して、ブロック全体で受任、あるいは隣接する単位会が合同して対応する方式、刑事弁護専門事務所を設置する方式、これは公設型等でございます。弁護士の少ない単位会への入会対策、ロースクールの「リーガルクリニック」との連携協力ということを考えております。
 時間を超過してしまい失礼いたしました。以上です。

□ ありがとうございました。時間が少々押しているものですから、御質問があるかと思いますが、議論の中で適宜質問をしていただきたいと思います。これまで説明していただきました資料、あるいはその説明を踏まえまして、まず論点のうちの「(1) 選任請求権を与える事件の範囲」について、御意見をいただければと存じます。どなたからでも結構ですので、よろしくお願いします。

○ 結論的に言うと、身柄拘束事件全件について対象とすべきであると思います。罪名による区別は設けるべきではないというのが、私の結論です。
 捜査段階で弁護人を付ける趣旨は一体何かというのは、いろいろ理由があるわけですけれども、一つの大きな理由は、捜査段階における刑事弁護活動がしっかり行われるということが刑事司法の基本であって、それを前提にして初めて良い検察官の捜査も行われるわけですし、良い刑事裁判も行われる。弁護活動が好い加減であると、当然検察の捜査も好い加減になるし、基本になる捜査が好い加減であれば、裁判官の判断も常に正しいというわけにはいかない。そうなってきますと、捜査の適正化という観点から刑事弁護の在り方を考えるということになります。
 その場合に、例えば死刑求刑事件のような場合には、これは捜査側も一生懸命やるわけですから、それで捜査がずさんになることはあり得ない。あり得ないというと語弊があるかもしれませんが、余り心配する必要はないと私自身は思っています。けれども、例えば痴漢で逮捕される、そうすると、これは非常に軽微な事件ですから、捜査もずさんになる。つい最近、痴漢については無罪が続出しておりますが、そういう軽微な事件こそ刑事弁護がしっかり行われて、適正な捜査が行われなければいけないと考えています。そうすると、法定合議事件とか、そういう重大事件について公的弁護を付ける、窃盗、その他の軽微事件ついては、公的弁護を付けないということになりますと、刑事捜査の適正化というような観点から言うと、不十分なシステムになるのではないかと考えております。

□ 分かりました。今の○○委員からの御意見に対する反論でも結構ですし、違う角度からでも結構ですが。

○ 法律家の先生の前に、非法律家が意見を述べようかと思ったら先に言われてしまいました。私は、○○委員の意見に大賛成です。軽微な事件でも、その人にとっては非常に重要な事案ですから、弁護人が必要だという要望があるときは、是非弁護人を付けられる制度が、なぜ今までなかったのか不思議でならない気がします。
 私の意見はそういうことなのですが、ただ今の議論の進め方について意見がありまして、一つは今、弁護士会の方でいろいろ説明があったのは、現状なのですね。現状の弁護士さんの数が少なくて、この弁護士さんの数だと、こういう受任件数しか可能ではないだろうという話になると思うのですけれども、それは現状を前提とした話なのですね。司法制度改革審議会の意見書は将来的には法曹人口の5万人への拡大を目指すということですから、当然弁護士さんは増えるわけです。そういった増えた状況の下で、この制度をどう運用していくかという、言わば長期的な視野で見たときの制度の理想的な姿、何十年か先の姿を描いて考えるのか、それから、今、日弁連から話があったような、1万8,000 人という弁護士さんの規模で、しかも地方には弁護士さんがいない支部などもあるという状況を前提にして制度を考えるのかでは、全然話が違うのだと思うのです。
 ですから、少しその辺りの区別の必要があるのかなという気が私はするのですけれども。

□ ○○委員は、その点についてはどういう御意見ですか。

○ 私は、将来的にこういう制度であるべきだという形を打ち出して、それでなおかつ現状がそれに満たない状況にあるということであるならば、そこに持っていくための手段として、現状を踏まえてこういう制度を組むべきだという、そんな広い考え方をした方が良いのかなと思います。現状を前提にして、弁護士さんはこれだけしかいないから、受任事件数はこれだけしかありませんよと言ってしまうと、制度はそこで止まってしまうのではないかという気がします。
 だからそれは、法改正という意味では必要なのでしょうけれども、そのことともう一つ目指すべきものと両方議論するという形が必要ではないかと思っています。

□ 分かりました。そういう議論のスタンスのようなものも含めて、今はまだ1ラウンド目ですので、自由に御議論いただければと思います。

○ 刑事事件においては、捜査段階が非常に重視されているということを考えると、今お二人の意見にあったように、身柄拘束事件を中心に考えるということは賛成です。それと同時に今話が出ましたように、弁護士会側の対応能力が問題になってくるだろうと思います。この兼ね合いを考えていくということになると思います。
 したがって、身柄拘束事件を中心に、どの程度の絞りを加えるべきなのかという観点から議論をすべきだと思っております。ただ、結論的にどこまで絞るかということについては、私自身迷っております。

□ ほかの方いかがですか。

○ 事件の範囲ということですけれども、捜査の立場からすると、弁護士を付けていただくことは、大変結構なのですが、その手続の明確性との関係で、身柄不拘束事件においては、最初からこれは被疑者だと全部分かっているわけではないわけでして、いわゆる俗語で言う重要参考人などは、捜査のスクリーニングの過程で次第に被疑者としての色彩が濃くなってくるものもあれば、途中で消えてしまうものがあるわけです。罪種の絞り方にもよるのでしょうけれども、そのような不明確な段階で、後になってこの段階で付けるべきだった、付けなくても実はよかったということを言われるのは、少々困るなと思います。このような明確性の観点から、身柄不拘束の場合については問題があるのではなかろうかということを申し添えておきたいと思います。

○ 私も、基本的には身柄拘束の有無というのが、一つの大きな切り口だと思っておりまして、国費によって被疑者段階で弁護人の請求権を与えるという制度を設計するに当たっては、まず大前提として身柄を拘束された被疑者を考えるべきだと思います。
 先ほど来、身柄拘束された被疑者全部という御意見があり、軽微な事件であっても弁護人の必要な事件はあるというお話もありました。しかし、まず大前提として、どのような事件であっても被疑者に弁護人選任権は認められているという点を確認しておく必要があると思います。現行の刑事訴訟法は、すべての被疑者に弁護人選任権を認めた上で、憲法34条を受けて、特に身柄拘束された被疑者については、逮捕段階で、弁護人選任権を認め、それをきちんと告知して請求権を行使できる体制をとっているわけです。
 今ここで我々が議論しなければいけないのは、そのうち、国費すなわち税金を投入して、真に必要な部分について被疑者に弁護人を付けるという制度の設計ですから、私は、全事件というのはやはり困難であって、身柄拘束事件の中である種の限定をするのはやむを得ないことだろうと思います。
 限定をするとすれば、そこで考えなければならない要因としては、一つは国のお金を使うという予算の問題と、もう一つは、先ほど来資料にも表れています現在の弁護士さんの実際の対応能力の問題を考えざるを得ないと思います。理想はいろいろあると思いますけれども、具体的な制度設計としては、それを考えて、身柄の事件の中で一定の限定をすべきであろうと思います。
 そうしますと、事件の重大性ということで、法定合議とか、必要的弁護とか、いろいろな切り分けがあり得るわけですけれども、これらの重大事件の現状がどのぐらいの数であるかということも考慮して制度を設計する方向が妥当であろうし、これを全く度外視して制度を設計しても、つくった制度がきちんと動かないということになるのではないかと思います。

□ 絞るとして、どういう範囲に絞ることをお考えなのですか。

○ 私の基本的な考え方は、重大な事件で身柄を拘束された被疑者には、請求があれば国費で弁護人が付けられる制度にすべきであるということです。現在の制度で重大な事件を他の事件と区別している枠組みとしては、一つは法定合議事件というものがあります。今、これが年間どのぐらいあるかという具体的数字と現在の担当可能な予測される弁護士さんの数、それがうまく兼ね合っているかどうかを検討してみることが一つ。
 もう少し広い範囲を考えますと、必要的弁護事件という枠があります。意見書が被疑者段階と被告人段階とで一貫した弁護体制を整備すべきだとしておりますので、そういう観点からは、必要的弁護事件というものも一つの基準にはなると思います。もっとも、そうしますとかなり数が多くなるのではないかと認識しております。いずれにしても、その辺りが切り分けの枠組みになると思っております。

○ 私の意見を最終的に言わせていただきたいのですが、範囲を制限する必要が全くないと言っているわけではないのです。私は罪名による絞り込みには反対であると申し上げているのであり、何らかの絞り込みは必要だと思うのです。あくまでもこれは税金を使うわけですから、本当はお金持ちでベンツを乗り回している人が、人殺しで捕まったからといって、国費で弁護士を付けるなどということは、国民は絶対納得しないと思うのです。
 ですから、やはり基本的には、これは技術的にできるかどうかは別にして、考え方の一つは、資力要件で切るというのが基本だと思うのです。
 もう一つは、弁護というのは私選が原則なわけです。信頼関係がないときちっとした弁護ができないわけで、そういう意味では本来私選が原則であるという前提は崩すべきではないという感じがします。

○ 今、いろいろ御意見がございましたが、私も、身柄拘束された全被疑者を対象にするべきだろうと思っております。請求権というような形で構成するのであれば、本来なら、身柄不拘束の被疑者も含めて、その請求権を認めるべきなのだろうと思いますけれども、憲法の34条などの規定を見ましても、身柄拘束された被疑者に限定することについては、それなりの根拠があるのだろうと思います。
 他方、更にそれを限定するかどうかは、先ほど日弁連の方からの御報告もございましたが、日弁連の方の今のお話を聞きますと、全逮捕者数の75パーセントに対応するにはどうしたらいいかということを考えておられるということですし、この75パーセントというのは今の国選率をやや上回る数字を計算しておられるようですので、そうしますと日弁連としても身柄拘束された全被疑者を対象に考えていこうというお立場であるだろうと思います。したがって、担い手である弁護士会の方もそういうお考えであるとすれば、それを更に限定していくということについては、余り考える必要はないのかなと思います。
 今、○○委員がおっしゃいました、法定合議事件ということになりますと、今は当番弁護士が約四万件ぐらいの事件に対応していますので、法定合議事件をはるかに超える事件には対応できている。受任件数からしまして、約一万件ですので、法定合議事件の数を十分超えている。確かに、現行刑訴法の必要的弁護事件ということで切りますとどういうふうになるかと言えば、それでも、必要的弁護事件は全事件数の7割から8割ぐらいになるのだろうと思います。そうすると、今の全被疑者に対応するのとそう大きな差はなくなるわけですので、弁護士会の方に頑張ってもらって、全被疑者を対象にやっていくということになるのだろうと思いますし、そうすべきだろうと思っております。

□ ○○委員の御発言にも関連するのですが、少し日弁連に質問があるのですけれども、このシミュレーションというのは、対応可能だという数字ですか。アンケートの結果と余りにも違うので、ちょっと戸惑っているのですけれども。アンケート結果の方は、全身柄拘束事件の30パーセントを対象にするということを前提にして、それでも1人10件ということでお聞きになったら、困難だというところもかなりあったということでしたが、シミュレーションの75パーセントを対象にするというのとでは前提にかなり大きな差がありますね。このシミュレーションでは、機械的に割るとこういうことになって、個々の弁護士さんに振り分けた残りは専門弁護士がやるというアイデアだと思うのですけれども、これは目標なのか、それとも現実に対応可能ということなのか、どちらなのですか。

△ これは一つの目標でございます。国費による弁護制度がいよいよ始まるというときに、弁護士会としては、やはり日弁連が積極的にこれに対応しなければいけないということで、一つの目標としてこれでやっていきたいと。しかし、平成18年4月まで4年ございますので、その間先ほど述べましたようないろいろな努力をいたしまして、もっともっと実現可能なものにしていきたいと考えております。これは現在の目標でございます。

□ もう一つ疑問に思った点があって、これは当番弁護士を引き受けておられる方の数をベースにして計算しておられるのですけれども、当番弁護士は初回接見のときだけで済むわけですね。しかし、被疑者弁護ということになれば、そこからずっと引き受けて、かなりの期間やらないといけないと思うのですが、それでも引き受け可能数に差は出てこないものなのでしょうか。

△ 現在の当番弁護士も引き受けることを前提に行っております。1回で終わることもありますけれども、頼むと言われたら引き受ける覚悟で行っていますので、それは大丈夫です。

○ この公的弁護の制度設計は非常に難しいという感じを受けていまして、先ほど来話を伺って、皆さんの考えを聞きながら、どうしたものかなと考えておりました。
 まず一つは、制度である以上、全国津々浦々、きちんとその制度の趣旨どおり実行されなければいけないということは当然前提になるのだろうと思います。それとともに、これが今回の改革の一環として行われるのだという視点は、忘れてはならないのだろうと思うのです。
 そういうことに思いをやりながら、先ほどの御議論を伺っておりますと、一つは身柄事件という形で切っていくというのは、合理性があるのだろうと思いました。それとともに、現時点での対応能力は、例えば資料・日弁連3-7-1の3ページ「第2次アンケート結果概要」で、対応できるかどうかというところを見ただけで、対応が困難と不可能の両方合わせて76件あるのです。総トータルが250 ですから、約3割ぐらいになりましょうか。これが現時点で対応困難だと言っているわけで、それを前提にしなければいけないと思いますし、私自身、いろいろな各地からの声を聞きましても、実際かなりきつい状況にあるようでして、そのことを我々は直視して制度設計していかなければいけないと思うわけです。
 それともう一つ、実は今回の改革の推進力の中心は、裁判員制度にあるのではないかということを、前回裁判員制度・刑事検討会で申し上げたわけですけれども、要するに裁判員制度による国民参加ということが推進力となって改革を後押ししてくれるわけで、この流れを非常に大事にして制度設計しなければならないという感じがしております。逆に言えば、裁判員制度を何とかうまく機能させなければいけない。機能させるためには、裁判の充実・迅速化がないと、国民の負担が経済的にも肉体的にも、非常に重くなりますので、これを考えないといけない。と同時に、いかなる地域においても、円滑に弁護士さんがアテンドしてくれないと動かないわけでして、公的弁護制度がそのための基盤をなすのだと思います。そうすると、実は裁判員制度の対象事件をどうするかという議論がまだ終わっていないので、私自身の頭の中では、その点の議論がない段階で、公的弁護制度を議論するのは難しいのですが、それはさておいても、少なくとも公的弁護制度の対象事件には、裁判員制度の対象事件が入っている必要があると思います。
 次に、○○委員からの意見に非常に感銘を受けたのですが、我々は現実とか現状ばかりを見ていて、なかなか中期的な展望で物事を見るということができないのですけれども、少なくともこれを新たな制度として設ける以上、将来どういう形の制度にしていくのか、越えなければいけない障害がいろいろあると思うのですけれども、その障害は何とか頑張って越えるとして、将来どういう形に持っていくのかという将来の姿をきっちりと議論することが必要だと思います。そして、将来論に基づく制度設計をした上で、今の時点では、こういうことができないから、それぞれの問題点を更に建設的に考えていこうという姿勢が必要なのだろうと思います。その意味では、将来の姿の議論と経過的な段階でどうするのかという議論をごちゃ混ぜにしないことが大事だと思うのです。
 少し長くなって恐縮ですが、将来の在り方ということを考えるときには、あくまで国民の目線に立ったものでなければいけないし、国民の理解と支持が得られないといけないわけです。国民の理解と支持が得られなければ、裁判員制度は勿論駄目になりますし、公的弁護その他についても、立法も駄目になるし、予算措置が必要なものも予算が付いて来ないということになるでしょう。ですから、我々は国民の目線に立って、国民の理解と支持をどうやって得ていくかということを、公的弁護の制度設計に当たっても考えないといけないと思います。
 先ほど来の議論の中で、対象事件については、いずれにしても何らかの絞りを掛けないと実現可能性という意味で非常に難しいので、何らかの絞りを掛けるということについては、コンセンサスができていると思いますが、その場合に、○○委員のおっしゃるように、罪名以外にもいろいろな考え方で絞ることができるという考えもあるでしょうから、それについてももっと考えてみたいと思います。ただ先ほど来の議論に出ていないことの一つとして、いろいろな面での国民の負担という観点を考える必要があると思います。要するに、建前論と言ったら失礼なのですけれども、抽象的に言ってしまうのではなく、国民の視点から見た国民負担の全容、それは公的弁護制度だけではなく裁判員制度を含む今回の改革による国民負担の全容がどれぐらいかということを、常に見ておかなければいけないと思うのです。
 それとともに、改革を行うわけですから、この改革をやった結果、国民に分かりやすい形で、どういうメリットがあるのか。逆に言えば、そのメリットを訴えていかないと、国民の支持を拡大することはできないと思いますので、我々は、そのメリットが何であるかということを考えていかないといけないと思うのです。
 若干耳障りの悪い話をしないと議論が進展しないのであえて申しますけれども、マンパワーであれ、財源であれ、やはり有限なのです。無制限にあるわけではないわけで、結局それをどうやってバランスよく使っていくかという観点を考えておかないと、国民の側から見たら、何か偏った議論をしていると思われるのではないでしょうか。
 議論のための議論で、適切ではないかもしれませんけれども、例えば犯罪被害者に対する給付金の支給などは、数百人ぐらいなのです。先ほどの勾留件数の3割程度の事件、あるいは5割を公的弁護の対象にするとしますと、勾留件数が12万として6万、又は3万6,000 といった数字になるということ、そのような比較は適切でないのかもしれないけれども、考えなければいけない。
 具体的に言うと、被害者自身は、今の制度で言えば、被害を受けたら民事的に損害賠償請求して、相手から取れることになっているわけです。私は、○○委員と同じように、基本は私選弁護が中心ですし、国民に対する説明の上でも無資力要件というのは欠かせないと思うのですが、そういたしますと、無資力の凶悪犯、当然これには公的弁護を付けることになるわけですが、被害者が損害賠償請求しても相手が無資力だと民事的救済を普通は得られないということになるわけです。そうしますと、公的弁護の規模だとか、投入するコストということを考える場合には、最終的には、そこは違う話なのですよということになるのかもしれませんが、例えば被害者側が弁護士相談とか、リーガルサービスにアクセスすることを容易にするといったことも併せて考えた上で、公的弁護のことを考えていくべきではないかと思います。
 要するに、スタンスとして国民に必要以上の負担を掛けないということを前提とした上で、例えば先ほどの無資力要件にせよ、罪名によるにせよ、ぎりぎり法定合議なら法定合議で切らざるを得ないのかもしれませんけれども、それは今、申し上げたようなことを考えて行く中で我々は結論を出したのですよという形を、国民の前に示していかないと、この公的弁護の話だけ単体で議論していった場合に、国民の理解が果たして得られるのかなという感じがしております。以上です。

□ 今一つよく分からなかったのですが、最後の方におっしゃった国民の目線というのは、将来論ということですか。

○ はい。

○ 質問ですが、弁護人を依頼するというのは、憲法上の権利ですね。

□ そうです。憲法上は、被疑者の段階では身柄拘束された被疑者について保障されています。そして、被告人になれば、全被告人について保障されています。

○ そういう拘束された状態にある人の憲法上の権利を、罪種によって絞るということは、どういう理屈で可能なのでしょうか。

□ 憲法上は、自ら弁護人を依頼するというのが基本になっているのです。国によって付けてもらえるのは、被告人の段階からというのが、一般的な理解だといえます。一部に、違う説を取っておられる方もおられますけれども。
 ○○委員に質問したいのですが、資力要件を設けるとした場合、それで本当に選別でき、資力の有無というものを実質的に審査できるとして、例えば、法律扶助の場合に、ボトムから大体全国民の20パーセントぐらいをカヴァーするということでやっているわけですね。そういうことで制度というのを組んでいいものなのかどうなのか。それは対象者の資力状況をみてみないと分かりませんよということでは、現実の国の制度としては設計しづらいと思うのですが、その辺はどうお考えですか。

○ 私はまだその辺まで詰めて考えていないのですけれども、全体の大体2割から3割ぐらいだろうという感じです。

○ 資力要件で、確かに金がある人は、自分で選ばずに公的資金を導入するというのはおかしいというのは当然だと思うのですが、そうすると、だれが資力要件をどこの段階で判断できるのかという、また難しい問題があるなと思います。特に、逮捕当時だと当然そこまでそのような要件は分からないわけで、それから資料を調べていって判断するとなると、どうも勾留の段階でも資力要件というのは、よく分からないのではないかと思うのです。だれが判断するにしても、難しいなという気がしていますけれども。

○ 私も、理論的には資力要件で絞るべきだと思っているのですが、おっしゃるように、具体的にどういう制度設計ができるのかと言われると、まだこうですよと申し上げるほど固まったイメージではないのですね。ただ、それを抜きにしては、やはり国民は納得しないだろう。ですから、例えば、最低課税所得の最低水準に達していない人は、無資力要件を満たすようにするとか、ある程度機械的な形で切っていくという形にしないと難しいかなという感じは持っています。
 ただ、そうすると、やくざの幹部などは、税金は納めていないのだけれども、金は持っていますね。彼らはどうするのだという話になってきて、非常に難しい問題にぶつかることは確かなのですね。でも、極論を言ってしまえば、特定の組織に属している人については、公的弁護を付けずに、私選にしなさいというような乱暴な切り方も、議論のための議論をする過程では、やはり考えておく必要があるのではないかと思うのです。

□ これは前に日弁連の方にお聞きしたのですけれども、被疑者弁護援助制度のときに、資力による審査は実際上ほとんどやっておられないということだったのですが、それはやはり難しいからですか。

△ そうです。それは非常に困難ですから。その場でやるとしたら聞き取るぐらいしかありませんから。

○ ただ、民間の組織が資力要件を調べる場合と、国家機関が捜査力を使って調べる場合とは、基本的に違うのではないかと思うのです。そこまでやっている暇はないと言われるかもしれないのですけれども。

○ お話を伺っていて私もそんなに違いはないわけですが、身体拘束事件全体を対象にすべきだという御意見、私も基本的にはそうすべきだと考えています。それを費用の面、あるいは対応能力の面から絞り込む必要があるのではないかという御意見もありましたけれども、ここは勿論、現状を前提に考えるか将来設計との関係で考えるのかということで議論が分かれる面もあるかもしれませんけれども、私としては、先ほどの日弁連のシミュレーションにつきましても、もう少し検討の余地があるのではないかという気もしますし、勿論、将来どうすべきかということをにらんで考えていくという必要があると思いますし、その場合にも基礎体力がどの程度あるのかということは当然見なければいけないということもあると思いますので、そういう意味で、かなりファクターがいろいろと多いことは間違いないと思うのです。
 ただ、今お話に出ましたように、被疑者段階から弁護を保障するということになったときには、資力要件をどう判断するのか、今、○○委員がおっしゃったようにいろいろ難しいところがあると思うのです。ですから、それは、場合によっては、段階的に考えるということでの対応を考えるしかない。つまり、どの段階から弁護人を付するかということとの関係でいくと、なかなかそこを資力要件で絞るというのは最初の段階からは難しいのではないかという感じがするわけです。
 では、財政的な問題はどうするのかということになるわけですけれども、この問題については、先ほど来お話になっていますが、やはり刑事弁護の国民的な理解というものをどう得るのか、得られるのか、得ているのかという問題かと思うのですが、ただ、残念ながら、これまで実は被疑者に対する弁護というものが、現実にはさほど存在しないという状態で来たわけです。ですから、その理解を得るという方向性自体が極めて稀薄だったとしか言いようがないわけでして、つまり、当番弁護士が始まってからの事態というのは別ですけれども、それ以前の状況というのは、恐らく数パーセントもないわけですね。今までの統計数値があれば是非お示しいただきたいのですが、私の承知している限りでは、これまでの被疑者に対する弁護は多分数パーセントだったのだろうと思いますし、被疑者段階での弁護の意味とか、そこでの公的弁護の意味について理解を得るということでの対応策というものは必ずしも十分ではなかったという面があるのだろうと思うのです。やはり、最近の議論の中でも明らかになっていますように、拘束された被疑者にとっての弁護の必要性は明らかだと私は考えていますし、当番弁護士が始まったことによって年々現在でも弁護依頼件数が増えているということも、その必要性を示していると思うわけです。
 ですから、その実情、あるいはその中身というものが明確な形で示されれば、むしろ国民の理解を広げていくということも可能だと思うわけです。その意味でも、現状を前提にして、とかく言われますように、悪いやつになぜ弁護士を付けるのか、また金を出すのかという議論ではなく、検討会としては、積極的な刑事弁護の必要性とか、それに対して国費を投入することの意味とか、その必要性ということをむしろ積極的にアピールしていくというようなことがあってしかるべきだと思います。
 だからといって、勿論限度がないと考えているわけではありませんけれども、例えば、イギリスなどで苦労しているというのは、被疑者、被告人についての弁護というのは、場合によっては青天井でも仕方がない、つまり、人権上の配慮として、青天井でもやむを得ないのだという発想が前提にあって、だから苦労しているというところもありますけれども、そのとおりやれということを主張するつもりはありませんけれども、そういった発想も必要なのではないかという感じがするわけです。
 それで、先ほど日弁連のシミュレーションのところで申し上げましたけれども、私は逮捕の75パーセントということを想定すること自体果たして合理的なのかどうかということももう少しリアルに見ていただくことはできないのかと思います。現在でも、国選については、これは被告人段階ですが、6万から7万ぐらいの間ですね。
 また、当然私選に行く件数もあるわけですし、先ほど○○委員が私選が基本だということをおっしゃいましたが、私も基本的に多分そうだろうと思う部分があるのです。だからといって、財政的に国が手当てをしなくていいのかどうかという問題は別問題としてあるのだろうと思っていて、被疑者に弁護人の選択権を認めるというようなことはあってしかるべきだと考えています。ただ、そういう観点からでも、国選数ということとの関係では、当番弁護士の実態などもいろいろと拝見していますと、必ずしも逮捕されて、弁護士が行った場合に、すべてが国選になるというわけでもありませんし、やはり切れてくる部分というのはかなりあるだろうと思うのです。その辺のところをどうカウントするかということによっても事情は随分違ってくるのではないかという気がするものですから、必ずしも対応能力という点を一義的な理由にして、事件を絞るという理由にはならないという感じがしているのです。

□ 次の論点もありますので、○○委員で最後にしていただければと思います。

○ 選任請求権を与える事件の範囲については、私も多くの委員の方と同様に、身体拘束された被疑者に絞るというのは理念的には非常に適当だと思うのですが、2点目に、先ほど来いろいろ論点に出ておりますけれども、現実的な対応ということで言うならば、やはり地域的な偏在性というのがかなり気になりました。
 これは、日弁連で調査されたところでも、総合すれば御対応をいただけるということは伺えたのですが、かなり地域的な偏在がある。したがって、単に弁護士報酬に関して国費を支出するという視点だけではなくて、地域的な偏在を解消するとか、あるいは刑事事件の専門的な弁護士さんを一定数確保するとかそういうところにも適切に国費が使われるべきであり、単に弁護士報酬だけの問題だけではないなと思いましたし、今後制度全体に関わる国費の在り方についても、妥当なものにしていかなければいけないなと思いました。
 そういうことを考えますと、やはり事件の範囲はそういう身柄拘束事件にしたとしても、資力要件以外の方法で限定して、10年先にこういう制度にしていくということを見通しながら、段階的に広げていくという制度設計をすることもあるでしょうし、10年先と4年先で格差があってはいけないから、やはり4年先に実現できるもので抑制してつくっていくという制度設計もあるでしょうから、そういう選択も判断しなければいけないのかなと思いました。
 最後に、資料3-2の勾留された被疑者の弁護人選任等の平成13年の状況を見ますと、当番弁護士が接見した数と、実際に選任された数との間にこれだけ差があるわけなので、そうであれば、当番弁護士が弁護人に選任されなかった割合という現実も踏まえながら、対応すべき範囲を考えなければいけないのかなと思いました。

○ 先ほど、従来被疑者段階の弁護がさほど存在しなかったという御発言があったのですが、私も長い間この仕事をやっているのですが、私が担当していた事件では、ほとんどが被疑者段階から弁護士が付いておられる事件ばかりで、極めて熱心に弁護活動を精力的にやっておられましたので、一言付言しておきたいと思います。
 それからもう一つは、身柄の事件を対象とするときに、勾留段階か逮捕段階かという議論があったと思うのですが、制度設計上、基本的に選任は裁判官がやることになっているわけですので、そういう意味からも勾留段階かなという感じがします。

□ いろいろ反論はあろうかと思いますが、手短にお願いします。

○ 日弁連にお伺いしたいのですが、先ほど、座長から当番弁護士の人数を前提に数字を計算されていることについてお尋ねがあったのですが、次回でも結構なのですが、先ほどのシミュレーションの中で、数だけではなくて、当番弁護士の位置付けについても、日弁連内部で議論されているのかどうか。今日でなくて結構ですが、当番弁護士の機能の位置付けを、今後の展開の中で何かお考えになっているかどうか教えていただきたいと思います。
 それから、今、被疑者に弁護士が付いている事件ばかりという○○委員の発言がありましたが、被疑者弁護の統計数字をお持ちですか。10年前以上のものを。

□ そういうことを言い出しますと、議論になりますので。

○ できたらいただきたいということです。

□ 1ラウンド目ですので、いろいろな切り口から議論いただいたということで、とりあえずこの問題は切り上げて、(2) の「職権による選任制度又は必要的選任制度の当否」に移りたいと思います。

○ 基本的には(1) の方できちんと制度ができれば、本当に弁護を頼みたいという人は弁護を頼むわけですから、本人が頼みたくない、要らないと言っている者に弁護人を付ける必要はないのではないかと思います。

□ 意見書では、必要的ということではなく、公判段階と同じように、年少者だとか、障害のある方の場合には、特別の配慮をすべきではないかとされているのですが、その点についてはいかがですか。

○ もし、その趣旨に沿うのであれば、ごくごく限られた事件について、例外的に考えるということはあり得るかなと思いますけれども、それを原則として制度に組み込んでいくということは少し考えにくいなと思っております。

□ ほかの方は、いかがですか。

○ 考え方として、国選弁護人では刑訴法37条の規定がありますので、そこを基本にする。もし職権選任制度などを導入するとすれば、その規定を基本に据えるのが筋かなという気がしますけれども。

□ 公判に準じてということですか。

○ そうです。

□ 37条は裁判所の裁量によって付けるというものですが、それと同じようなことを考えたらどうかということでしょうか。

○ その規定を前提にして、そこから、絞る、増やすということを考えていったらどうかということです。

○ ○○委員は、少年事件のことを基本的にお考えなのでしょうか。

○ 少年事件に限るわけではありません。

□ 特に保護が必要という者ですね。

○ 意見書では、「障害者や少年など特に助力を必要とする者に対し格別の配慮を払うべきである」とされていますので、一つ考えられるのは、職権で配慮するという考え方だと思うのです。
 ただ、少し気になりますのは、このうち少年事件というのは、成人の事件と違った特徴があって、仮に成人事件で、先ほどのお話にありましたとおり、身柄事件のうち請求権を認める事件の範囲に限定を付けつつ、少年事件に特別の配慮をするとしますと、少年事件の場合には、窃盗だとか、傷害だとか、恐喝とか、成人の場合とは違ったタイプの事件が多かったり、自白事件がほとんどであったりということで、その点も少し考慮する必要があるのではないかと思うのですけれども。

□ よく分からないのですけれども、もう少し具体的に言っていただけますか。

○ 制度設計に当たり、 少年事件の特性に応じた対応も必要ではないかと思うのです。ただ、今私が言ったのは想像でありますので、その辺のところが事務局などでお分かりになれば御説明いただきたいと思います。

□ 今の御発言の趣旨は、少年という被疑者の特性についてですか、それとも事件の特性ですか。

○ 事件の特性です。少年の起こす身柄の被疑事件です。

● 具体的な統計等はございませんけれども、私の経験からいきますと、恐らく身柄事件の6割から7割は、今○○委員から御指摘がありました窃盗、恐喝、傷害などだと思います。そこが成人とはかなり違っているのだろうと思います。

□ そういうことを前提にして、どのようにすべきだとお考えなのでしょうか。

○ 私自身は、権利としての公的弁護の請求権を認める場合には、やはりいろいろな事情から身柄事件のうちで法定合議のような重大事件に絞るのが妥当ではないかと考えています。ただ、仮に少年事件について成人とは異なった何らかの特別の配慮をする場合には、少年事件は、身柄事件とはいえ、成人とは罪種の性質が大分違ってくるのではなかろうか、その点は、やはり少し考えなければいけないのではないかということです。

○ 今回の意見書では、選任あるいは解任を裁判官が行うということをイメージしているわけですが、必要的選任が、要件の非常に明確な、例えば少年などに弁護人を付けろということであれば、それはそれで一つの制度だと思うのですが、障害者ですとか、あるいは助力を必要とするとか、そういう要件になると、多分裁判官は判断する資料がないのではないかと思います。それで更に解任もやれと言われても、被告人段階では、裁判所で公判がありますので、どういう活動をしているかというのは、ある程度分かりますし、また被告人と弁護人との信頼関係がどうなっているかということは分かるわけですけれども、被疑者段階では、裁判官には分からないわけです。そうすると、極めて明確な要件を定めていただかないと、必要的な選任というのは不可能なのではないかという気がいたします。

□ 選任の方は御趣旨が分かるのですが、解任の方は、ほかの場合でも同じ条件ではないでしょうか。一般の場合も、裁判官は弁護人の行動を逐一把握しているわけではありませんので、そこは変わらないのではないかと思いますが。

○ 当事者の申出によるということになりましょうか。

□ それが、特に援助が必要な人の場合に、より難しくなるということはあり得るのですか。

○ 被告人段階ですと、特に弁護人の方からの資料と、被告人が時々は法廷に出てくるわけで、そのときに確認することができますけれども、被疑者段階で、例えば被疑者がこの弁護人では困るとか、あるいはこの弁護人は信頼できないと考えていて、本来そういうことが明らかになっていれば、解任すべきであったという状況なのに、その資料もなく、裁判所も介入しなかったということを問題にされても、そういう仕組みになっていないのではないかということです。

○ 私も原則は請求によるということで構わないだろうと考えているわけですけれども、ただ今のお話なども含めて、これは後で御議論をいただいても結構ですが、請求手続が問題だと思っています。被疑者の請求権が実質的にきちんと保障されているかどうかということをどう担保するのかということを、手続的に議論すべきだろうと思うわけで、そういう前提で請求によるということで構わないだろうと考えているのです。
 そのほか、職権で付する場合があっても構わないと考えておりまして、これについては、○○委員がおっしゃったように、刑訴法37条という線が一つの基準になるのだろうと思います。その場合、○○委員がおっしゃったように、少年とか、高齢者というのは、形式的に判断が付くわけですけれども、それ以外の判断ができないとしても、だからと言って、これを職権で対応しなくていいのかと言われると、数はそんなに多くないのではないかと思うのですが、やはり対応が必要な場合があり得るので、だとすれば、手続的にどう処置をするのかということを考えるしか手がないのではないかと考えます。
 少年の場合の罪種ということを、○○委員がおっしゃっいまして、私にはよく分からなかったのですが、少年については、確かに別な対応が必要な場合があり得るというのは、当然これまでも言われてきていることで、当番弁護士についても、弁護士の方たちの間では、子どもの権利委員会の方で別に対応するという対応体制をつくってこられているわけです。
 ですから、そういう意味での配慮というのは当然あってしかるべきだと思いますし、そこを外すというようなことには多分ならないのだろうと思いますので、これは対応体制をどうつくっていくかという問題にすぎないのではないかと思うのですが。

□ 質問ですが、少年とか高齢者の場合は形式的に分けられるという御意見ですけれども、刑訴法37条でいけば、年少者に当然付けるということにはなっていないわけですね。それは必要性に応じて、必要があれば付けるということなので、そうすると、やはり判断の難しさというのは変わらないのではないですか。

○ 私の趣旨は、必要的に付けるという趣旨です。つまり、基準については37条の基準を使えばいいということであって、そこは必要的に付けるという趣旨です。

□ 37条の基準を使うと、必要的にはならないのではありませんか。

○ ではこう言い改めます。37条で示された各号列挙の場合については、必要的なものとして弁護人を付することとするということです。

□ その場合は、37条の場合とは趣旨が違うことになりますね。

○ 違います。基準だけはそこを引用するということです。

○ 障害者の問題について少し発言したいのですが、障害者や少年など特に助力を必要とする者に対して格別な配慮をするという「格別な配慮」の内容をどう反映するかなのですが、裁判の場合には何よりも大事なのが、当事者がきちんと裁判の場で公正に発言できる、説明できるというコミュニケーションの能力だと思うのですね。
 そういう意味で言いますと、障害者といっても、いわゆる車椅子の方とか、身体障害の方と、発話に障害があるとか、視聴覚に障害があるなどの障害種別によって、配慮の仕方は違ってくると思うのです。
 そういう意味で、先ほど○○委員が単に障害者だから配慮せよと言われても、これは一瞥しただけでは判断できないとおっしゃったのは、もっともでございまして、やはり当該の被疑者、被告人がどういう障害を持っていて、それがどのように裁判に支障があるのかないのか、その辺りというのは、やはりある一定の判断の資料がなければ職権といえども判断できないだろうと思いますので、そのような資料、基本的なデータをどこで、だれが把握してそれを裁判官に提出するのかということはきちんと運用上で決められていなければいけないと思います。それが本来的な配慮の趣旨ではないのかなと思います。
 併せて申し上げますと、そういう場合、公的弁護人を選任できる、あるいは選任を必要的にしなければいけないということなのか、それとも裁判に必要なコミュニケーションをする能力を、手話通訳などの人たちが補助するのかということも問題で、補助として必要なのが弁護人なのかどうかということについても、判断が従来も求められてきていたでしょうし、今後も求められてくることになるだろうと思うのです。
 そういう意味で、意見書の障害者に対する格別な配慮というときの配慮の中身が、公的弁護人を付けるという意味での配慮を払うべきなのか、それとも公正な裁判を受けるための条件整備をすることなのかというところは、論点として残しておく必要があるかなと思います。

○ 日弁連が以前に、国選弁護制度試案というのをつくりました。そこでは、被疑者段階での必要的弁護事件という範疇を設けておりまして、法定合議事件、それから18歳未満の少年事件、もう一つは否認事件という三つの類型の中に入る事件は、請求がなくても弁護士を付けるべきだということを提案したことがあります。
 例えば、重大事件でありましても、弁護人を選任しない、請求しないケース、あるいは、重大事件であるから、事件について深く後悔したり、悔悟しているために、弁護人を請求しないというケースが多々あります。また、弁護人の選任請求をしないという意味では少なくとも18歳未満の少年事件につきましては、やはり弁護人を必要的に付けるという制度を考えておく必要があるのかなと思います。
 現に、弁護士会の当番弁護士の中でも、委員会派遣制度という制度がありまして、これは新聞報道等を見て、罪名によって請求がなくても弁護人が出掛けて行って接見し、弁護人を選任するという意思があれば弁護人になって活動するという方法ですが、このようなこともやっております。
 そういうことも考えますと、やはり被疑者段階での必要的弁護制度というものを検討することができるし、またその必要があると考えます。

□ 必要的に弁護人を選任するカテゴリーを認めるべきだ、あるいはその必要はないという議論と、裁量的に職権で特別の類型の人には弁護人を付けることを可能にすべきかどうかという二つの論点が一緒に議論されていますが、他の方はいかがですか。

○ まず、前段の職権による選任制度についてですが、確かに障害者、少年に対して格別の配慮を払うべきだと思うので、その点の考慮もあろうかと思いますけれども、先ほど○○委員も言われたように、選任の必要性をどうやって判断していくのか難しいものがあろうかと思うので、これは慎重に検討すべきかなと。むしろ、職権による選任制度以外の方法で、格別の配慮が払えれば、それはそれで足りるのではないかという感じがしています。
 第2点の必要的選任事件については、認めるべきではないと思います。一番分かりやすく言えば、選任されなければ捜査ができないということになったら捜査がストップしてしまうわけで、前回の裁判員制度・検事検討会における検察審査会の議論のときにも、被疑者が検察審査会に出席するのを必要的とするかどうかという議論があり、そこは必要的とするべきではないということになったかと思いますけれども、同じ理屈で、必要的選任制度というのは認めるべきではないと思います。
 今、○○委員が否認事件については必要的だというお話をされましたが、これは問題が大きいと思います。否認の定義如何によると思うのですが、真実、犯人であるにもかかわらず、適当な弁解をしている場合を仮に否認とするとの定義を採ると、そういうものを慫慂する制度をつくるのかということになり、国民は納得できないところだろうと思います。
 今、仮定の定義を付けたのですが、そもそも一体否認が何であるかという定義自体も問題ですし、これは議論として取り得ない話ではないかと思います。

□ この件についても、まだいろいろ発言したいと思っておられる方がいらっしゃると思いますが、次の○○委員の御発言で、一応この論点は締めくくらせていただきたいと思います。

○ 例外的にと申し上げましたけれども、若干制度設計に絡みますが、例えばの話、とにかく当番弁護士制度を存続させておいて、逮捕されたら当番弁護士が行くと、これは国選で選ばれた弁護士ではなく当番弁護士が行く。例えば、当番弁護士が心神喪失の疑いがありますということであれば、その旨の報告書を裁判所に提出して、裁判所で弁護人を選任するということがあり得るのかなと思います。

(2) 「公的弁護制度の担い手である弁護士の確保方策」

□ この辺で次の事項に移らせていただきたいと思います。
 「公的弁護制度の担い手である弁護士の確保方策」という論点ですが、まず事務局から簡単に説明をお願いします。資料3-1の「2」の記載部分です。

● 意見書では「全国的に充実した弁護活動を提供しうる態勢の整備」及び「連日的開廷による充実かつ集中した審理を実現するための弁護体制の整備」ということがうたわれております。
 このような弁護体制の整備として、意見書では、資料3-1の「2 公的弁護制度の担い手である弁護士の確保方策」の部分にまとめておりますとおり、常勤弁護士や契約弁護士の制度を例として挙げております。
 ところで、常勤弁護士、契約弁護士の意義でありますが、参考までに図を作成してお手元に配布させていただきましたので、それを御覧いただきながら説明したいと思います。
 司法制度改革審議会の議論では、常勤弁護士は、典型的な姿としては、運営主体に雇用されている弁護士がイメージされていたようであります。
 図のアが常勤弁護士であります。なお、ここで雇用と言いますのは、厳密な意味での雇用契約に限定されず、雇用に準ずる契約も含まれていると考えた方がよいだろうと思います。以下、雇用という言葉を使います場合には、厳密な意味での法律上の雇用だけではなく、雇用に準ずる法律関係も含めて、雇用という言葉を用いているものと御理解いただければと思います。
 また、契約弁護士は、運営主体との契約により、一定の事件の受任が義務付けられている弁護士がイメージされていたようであります。
 図を見ていただきますと、イが契約弁護士であります。なお、審議会では契約弁護士というときに、契約弁護士法人も含まれて理解されていたようであります。
 このような理解は、運営主体と弁護士との間の法律関係が雇用なのか、それ以外の契約なのかによって、常勤弁護士と契約弁護士を形式的に区別しようとするものであります。
 一方、契約弁護士が弁護士を雇用するということもあると思います。図のウの弁護士です。このように契約弁護士に雇用されている弁護士につきましては、その勤務内容いかんによっては、常勤弁護士と同じ役割を期待することも可能であろうと思われます。
 すなわち、機能面から言いますと、常勤弁護士と契約弁護士、契約弁護士法人に雇用される弁護士には共通点があるように思われます。
 しかしながら、審議会での議論との連続性や、この場における議論が混乱しないようにするために、本検討会におきましては、常勤弁護士と契約弁護士の区別を先ほど申し上げましたように、運営主体に雇用されているのが常勤弁護士、運営主体と雇用以外の契約によって、一定の事件の受任が義務付けられているのが契約弁護士として議論していただきたいと思っております。
 もっとも、現段階では、運営主体と国との関係や、その組織がどのようなものになるかなどはまだ議論されておりません。もし、運営主体が国の機関そのものだということになりますと、そこに雇用される常勤弁護士の身分は、厳密な意味での公務員であるかはともかく、公務員タイプに近づくと思われます。
 一方、運営主体が国の機関そのものではなく、国と一定の関係を持って、国から公的資金の投入を受けますが、その法的地位は民間の機関だということになりますと、そこに雇用されます常勤弁護士の身分は、契約弁護士やこれに雇用される弁護士と変わるところはないと思われます。
 運営主体の組織や国との関係などは、第5回検討会で議論される項目ですので、今回の検討会では差し当たり運営主体が国の機関なのか、それとも民間の機関なのかはさておき、意見書で述べられております「全国的に充実した弁護活動を提供しうる態勢の整備」、「連日的開廷による充実かつ集中した審理を実現するための弁護体制の整備」を実現するために、運営主体に雇用される常勤弁護士や、運営主体と雇用以外の契約により一定の事件の受任が義務付けられる契約弁護士が必要であるのか、また、他の仕組みが考えられるのかなどについて議論をいただきたいと存じます。
 次に、常勤弁護士の中の論点でありますが、常勤弁護士については、まずその役割について、連日的開廷による充実かつ集中した審理への対応、弁護士偏在問題への対応、特異重大事件への対応、専門化による弁護活動の充実のいずれか、または、これらのどの組み合わせを中心において制度設計すべきかが重要な論点となると考えられます。
 また、給与と国選弁護報酬との関係、具体的には給与以外に国選弁護報酬を受け取るのか否かが論点の一つになると思われますし、さらには、国選事件以外の業務を行うことを認めるかどうかも、常勤弁護士の役割との関係で議論されるべきことと思います。
 また、常勤弁護士が被用者であれば、雇用主からの業務命令が通常は考えられ、これと弁護活動の自主性・独立性との関係をどうするかが議論されるべきと思われます。
 次に、契約弁護士の関係でありますが、契約弁護士につきましても、常勤弁護士と同様、その役割をどのように考えるかが重要であると思われます。この関係で、契約弁護士に運営主体との契約により一定の事件の受任を義務付ける場合、その事件は、事件の数に着目して、一定数の事件とするのか、それとも特別の類型とするのかが問題となると思われますし、それぞれの場合の契約金額はどのように算定するのかも問題となります。
 また、常勤弁護士の給与と国選弁護報酬との関係と同様に、契約金額と国選弁護報酬の関係も整理しておく必要があると考えられます。
 その上で、契約弁護士を設ける以上、契約上の義務の履行の担保方法がなければならないと思われますし、また、契約解除という場合を想定しますと、やはり弁護活動の自主性・独立性への配慮という論点があるように思われます。
 その他の確保方策についてでありますが、意見書では、「全国的に充実した弁護活動を提供しうる態勢の整備」などの例示として常勤弁護士及び契約弁護士が挙げられているものでありまして、検討対象はこれらに限られるものではありません。そこで、常勤弁護士及び契約弁護士以外に、「全国的に充実した弁護活動を提供しうる態勢の整備」などについて考えられる仕組みについても御意見をいただきたいと思います。
 最後に、常勤弁護士及び契約弁護士等の規模でありますが、これまでの議論をいただいた上で、常勤弁護士や契約弁護士、それ以外のアイデアについて、それぞれの役割分担や、それぞれの必要とされる規模について御意見をいただきたいと思います。
 その際に、第2回検討会で紹介されました弁護士会で自主的に行ってこられた特別案件リストの仕組みや、これまでの弁護士会の取組み、今後の取組みなどについても十分目配りをした上で、常勤弁護士等の全体の役割や規模を考えるべきかと思われます。
 論点の紹介としては以上のとおりでございますが、「(1) 常勤弁護士」について、まずその役割を検討し、その後に勤務条件等について検討するというように議論を進めることは、時間の関係上困難と思われます。また、各論点は、いずれも関連性を持ったものでありますので、個別に分けて論じるのでは、かえって議論がしづらいのではないかと思います。
 したがいまして、(1) から順に議論をするものの、(1) の中で更に論点を細分化するということはせず、(1) についてはアないしウの論点があることを念頭に置いていただいた上で、常勤弁護士の制度設計全体について御議論いただき、続いて同様にして契約弁護士の制度設計全体について御議論をいただくのが適当であろうと考えております。
 以上でございます。

□ ありがとうございました。今の説明について、まず御質問があればどうぞ。
 質問がないようですので、この項目に関して最高裁から資料を提出していただいておりますので、それについての説明をお願いしたいと思います。

▲ 最高裁から、資料3-5ないし3-7を提出させていただいております。
 資料3-5は、通常第一審事件の終局人員数・平均審理期間・平均開廷回数を地裁全体及びその他の一連の事件類型ごとに見たものでございます。
 「必要的弁護事件」、さらに「法定刑に死刑又は無期懲役を含む事件」、「法定合議事件」といった切り口も設けておりますが、これは先ほど○○委員からも御指摘がございましたが、審議会意見が裁判員制度の対象事件について「法定刑の重い重大犯罪とすべき」、あるいは「例えば、法定合議事件、あるいは死刑又は無期刑に当たる事件とすることなども考えられる」と述べておられることを踏まえて参考として記載させていただいたものでございます。
 資料3-6は、必要的弁護事件で10回以上の開廷回数を要した終局人員を庁別に表わした表でございます。多数開廷事件の全国的な分布を示すという趣旨でございます。
 資料3-7は、資料3-5を若干趣旨を踏まえて敷衍したものでございまして、要開廷回数別に通常第一審の否認事件の終局人員の分布を示したものでございます。具体的には、資料3-5の地裁全体の否認事件の終局人員数5,036 人につきまして、開廷回数の分布をグラフ化したものでございます。
 以上でございます。

□ ありがとうございました。事務局の方から提案がありましたように、細かくやっていますと大変なことになりそうですから、(1)、(2)、(3) というくくりで、そこに挙げられたような論点をも念頭に置きながら議論をいただければと思います。
 まず、(1) の常勤弁護士についてですが、どなたからでも御発言いただければと思います。

○ 常勤弁護士をどういうふうに位置づけるかについては、大きく分けると二通りになると思います。
 先ほどの日弁連の説明にありましたように、一般の弁護士が担って、足らざるを常勤弁護士と専門弁護士が担うという考え方と、理念型としては、まず常勤弁護士が主になるべきで、足りない分を契約弁護士が担い、更にそれでも足りないときは一般の弁護士が担うべきだという構想と二つあると思うのです。
 まず、理念論で言えば、私は常勤弁護士が中核になって担う制度であるべきだと考えています。その理由は、ここに常勤弁護士の果たす役割というようなことで、4点ぐらい挙がっておりますが、これはすべて常勤弁護士でないとなかなか対応は難しいと思うからです。
 特に私は、刑事弁護の質の水準というのが非常に必要であると考えています。日本の有罪率が高いというのは、検察官が起訴段階で絞り込むということもありますけれども、公判段階で、弁護活動が十分になされているのかという点もあると思うのです。私には質の高い弁護が全国一律に提供されているとは決して思えない。そうすると、弁護の質を上げるということ、特に国民の税金を大量に投入する以上は、弁護の質を上げるということは不可欠だと思うのです。弁護の質を上げるということは、専門化をするということにもつながりますから、当然、そのシステムは常勤弁護士によって担われなければいけないと考えるわけです。
 それから、連日的開廷に対応するためにも、常勤弁護士でなければ、なかなか困難であると考えています。
 この常勤弁護士というのは、私のイメージとしては、国選専門事務所というようなものを設けて、そこに常勤させて対応していくというものを考えています。
 もう一つは、裁判員制度になると、例えば弁護士が果たす役割も当然多くなるわけで、そういう場合にセンターのようなものを設ける必要があると思います。量刑のデータベースだと検察庁にもあるし、裁判所にもありますが、弁護士会は持っていないとなると、例えば量刑で裁判員を説得するときの材料もない。それでは、真っ当な裁判はできないわけで、そういう常勤弁護士が勤務する一種のセンターのようなものをつくって、そこにいろいろなデータベースもそろえて、ここにアクセスすれば、全部欲しい情報が得られるというようにしていかないと、真っ当な弁護活動は到底できないし、国民の税金を使うということについての理解も得られないと思います。

□ ほかの方は、いかがですか。

○ 私も常勤弁護士が中核になるべきではないかという気がします。今の○○委員の発言の中で、刑事弁護の質の問題と有罪率の問題とが若干関連するかのように言われましたが、そんなことはないのではないかと、刑事弁護の質については、確かに問題があるかもしれませんが、有罪率の問題とは関係がないのではないかと思います。それはともかくとして、今まで裁判所にいて裁判をやっていて、何百回もかかる事件は勿論ですけれども、10回、あるいは数十回、もっと少ない回数の公判回数が必要になる事件では、ともかく裁判所として早く審理を終えられるように審理を集中的に入れたいということを言ったときに、残念ながら弁護士の立場から、この事件だけをやっていたのでは、仕事として成り立たない、職業として収入の道がなくなるということで抵抗されたことがかなりあったわけです。
 やはり、今回の改革の問題の一つである裁判の充実・迅速化を実現する必要がありますし、更には裁判員制度ができて、裁判員として関与する負担を国民にもお願いするわけですから、そういう中では集中的な審理ができないといけない。そのためには、やはり刑事事件専従でも仕事としてやっていける人がいる方がいいのではないか。ですから、中核的には常勤弁護士という制度が考えられるのではないかと思います。
 勿論、細かい設計はいろいろなものがあると思いますし、それが全部ここを占めるべきだとは思いませんけれども、そういうものを考えるべきではないかと思います。

○ 常勤弁護士を設ける理由を考えたときに、制度の中で、やはり充実かつ集中した審理ができない場合が、これから出てくるので、そこを補完するために、常勤弁護士の制度を設けるというのが基本ではないかと思いますので、常勤弁護士を刑事事件全体の中核に据えるというのは、少し行き過ぎかなという気がしないではありません。

□ お二人の意見とは違う方向ということでしょうか。

○ 違う方向です。

□ 先ほどの専門弁護士の構想について、日弁連にお伺いしたいのですが、当番弁護士としてやっておられる人たちが、1人10件程度引き受けて、それでカバーし切れないところを専門弁護士に1人年間100 件程度担当させるということをお考えのようですが、100 件可能だというのは、御説明によりますと、争いのない事件を主に念頭に置き、被疑者段階と被告人段階を含めて、それに要する時間がどのぐらいになり、年間の稼働可能な日数ないし時間と対照すると、大体100 件ぐらい可能だろうという見積もりだと思うのですね。
 その場合、いま何人かの方から御意見が出た長期事件とか非常に特殊で困難な事件というのは、どちらが担うとお考えなのでしょうか。当番弁護士なのか、それとも刑事専門弁護士なのか、どちらをお考えですか。

△ 裁判員制度のもとでの重大事件等に対応するためには、やはり刑事専門弁護士、日弁連が考えております日弁連あるいは地方の弁護士会がつくる刑事専門の公設弁護事務所というものを想定しております。

□ そういうものを引き受けると、年間1件か、0コンマ何件しかできないということもあると思うのですが、そのような場合も含めて、全国に250 人ぐらい確保すれば、1人当たり100 件ぐらいできるだろうということなのですか。

△ はい、そういうことです。

○ 私も今、○○委員がおっしゃったように、位置づけのところで、常勤弁護士というものを中核に据えるということについては、少し疑問を持っています。
 というのは、確かに将来設計ということを考えたときに、そういう方法もあり得るかと思いますが、現在の段階でのトータルな法曹人口増員計画となったときに、二千十何年かに、5、6万人という想定で、年3,000 人というのが想定されている数だと思います。その数で、例えば先ほどのシミュレーションは、少し質問申し上げたように、必ずしも納得しているわけではありませんが、それにしたところで、例えば200 人規模の専門弁護士をその段階でということ自体もかなり難しいのではないかという感じがしているのです。そういう意味で、やはり専門化ということが必要だというのは、○○委員のおっしゃるとおりで、ある程度質を確保していく意味で専門化ということは考える必要があるにしても、その場合であっても、やはり裾野をどこまで持っているかという問題も当然あり得ると思うのです。そういう意味では、なかなかそこは難しい選択だろうという気がしています。
 先ほど座長から質問があった点にもかかわるのですが、例えば連日開廷とか、特異重大事件とかになったときに、本当に全体を常勤弁護士にしなければ対応できない話なのかということを考えたときに、必ずしもそうではないのではないかと思うのです。勿論、50年に1件とかと言うつもりはありませんけれども、オウム事件については何とかこなしているわけですね。いろいろ実情については議論があろうかと思いますが。
 しかし、ああいうケースであれば、それなりに今の弁護士会でも対応体制をつくってきたという経緯はあるわけですので、その辺のところを見たときに、ここで一気に常勤弁護士中核の弁護体制というものが可能なのかどうかというのは非常に疑問がありまして、その意味では、先ほどの日弁連の御主張、それが補完的に公設事務所でいいという言い方をするのがいいのかどうかというのは少し微妙なところがあるのですが、いずれにせよ、常勤弁護士が必要ではないと言うつもりは全くないですし、そういう方向での拠点事務所の設置というものに努力していくということは必要だと思いますし、そこでの常勤弁護士の雇用形態と言いますか、位置づけというようなことで、先ほど事務局から御説明があったようなことになるのだろうと思いますが、トータルな意味で全体をどうするかということについては、やはりもう少し議論が必要なのではないかという気がします。

□ 少し分からなかったのですが、対象事件についての議論では、法曹人口がどんどん増えていくので、刑事に携わる弁護士も増えていくだろうという御主張だったと思うのですが、今の発言ですと、5万人規模になっても250 人は難しいということなのでしょうか。

○ 専門弁護士が中核ということになるともっと必要なわけです。先ほどの日弁連は、補充的にやる場合200 人必要だという議論ですから、中核ということになればもっと必要になると。

□ 確保できれば、それはそれでいいというお考えでしょうか。

○ ただ、現実の問題としては、かなり難しいだろうと思います。

□ 現実的な議論として、集中的あるいは連日的開廷という場合に、今のような私選をベースにしたものでも十分対応可能だとお考えですか。

○ 十分というように言うかどうかともかくとしてですね。

□ しかし、そこが、恐らく意見の分かれ目だろうと思うのです。

○ 勿論、将来のことですので、具体的にどの程度そういうことが必要な事件が起こってくるのか、また、弁護報酬の問題なども絡んできますから、なかなかその辺は微妙だと思いますけれども、絶対的に不可能だとは言えないと思います。

□ 長期事件は少ないだろうということでしょうか。ただ、今後は、普通の規模の事件でも集中的にやることになりますね。裁判員制度の対象になればそういうことになりますし、職業裁判官の場合も、そちらの方向でというのが審議会の意見ですね。そういう場合でも、連日的開廷に対応することは、多くの事件の場合は、一般の弁護士でも可能だろうという御意見ですか。

○ そういう可能性は十分あるだろうと考えています。
 ○○委員の先ほどの御意見に1点質問したいのですが、○○委員がおっしゃった私選が原則であるべきだというお考えと、先ほどおっしゃった常勤弁護士が中核というお考えとはどう関係するのですか。

○ そういう問題はありますね。基本的には、そこでの弁護人の選び方の問題とか、制度の細かい設計の仕方でいろいろあると思うのです。オール・オア・ナッシングではなくて。

○ これも先ほど○○委員が言われましたけれども、裁判員制度ということを頭に置いて考えなければいけないのだろうと私は思うのです。素人が裁判に参加するという制度を考えると、やはり常勤弁護士がいるということが、私は大前提だと思うのです。常勤弁護士がいる弁護制度をつくらないと、裁判員制度がうまくいかない。むしろ弁護士の方が変わらなければいけない。そういう制度を可能にするようにならないと、裁判員制度自体が転がっていかないと思います。ですから、契約弁護士、あるいはその他の形の制度というのは、むしろ補完的な役割を担うようなものとして考えていくのが将来の姿ではないか。将来のビジョンとして描く姿はそちらの方ではないかと思います。
 では、当面そういうものができるのかということになりますと、弁護士会の制約もあるわけだから、そこまでの間をどう乗り切っていくかという制度設計は別の形が可能でしょう。だけれども、将来的には○○委員が言われたような常勤弁護士が中心になる刑事裁判の運用を目指すべきだと思います。そうでないと裁判員制度がうまく転がらないのではないかと私は考えます。

○ いずれにしましても、全国津々浦々どこでも連日的開廷にきちんと対応できるシステムになっていないと制度は動かないわけですから、その意味のセーフティーネットというのは必要なわけで、常勤弁護士が必要だということ自体は御異論がないのではないかと思うのですが、どちらが主であり、どちらが従となるかというのは、今、この時点で議論が果たしてできるものかなと思います。要するに、将来は諸情勢が変わってくることもあり得ると思うのです。先ほどの耳障りの悪い話を続けますと、仮に大変大きな金額にまで公的弁護のコストが高くなってきたとすると、常勤弁護士のサイズを大きくして、一定の給料で回していくという格好にしないと、なかなか国民の理解が得られないのかなという感じもします。基本的には、いろいろな給源があって、そのときの情勢に対応して動けるようなシステムにしておけばいいわけですが、少なくとも最低限、常勤弁護士というものは、規模のいかんはともかくとして設けるということではないと、○○委員のおっしゃったように、制度全体がうまくワークしないのではないかと思います。特に冒頭に発言しましたように充実・迅速化にも絡んでくるわけで、弁護士さんが私は連日的な期日指定は受けられませんと言われたときに、それでもう手続が止まってしまうということだと困るわけです。そういうときに最後のセーフティーネットのような形で、常勤弁護士集団というか、そういう組織が後ろに控えているということは最低限制度設計しておくべきだろうと思います。

○ 連日的開廷への対応ということになりますと、刑事弁護を今、第一線で担っている弁護士の間では、現状でも我々でできると。つまり、公判開始までに一定の準備時間が確保され、かつ、証拠開示とかその他の諸条件が整備されれば、現状でも個々の弁護士は対応し得るのだという意見が多いです。
 そういう意味では、必ずしも連日的開廷、あるいは裁判員制度に対応するために常勤弁護士が必要になるということにはならないだろうと思います。
 ただ、私も、常勤弁護士という範疇ではなくて、刑事専門弁護士という存在、これは必要だろうと思います。いずれにしましても、全体としての弁護の質を高めるために、さらには、今言いました連日的開廷なり、裁判員制度を担っていく存在として刑事事件の専門的弁護士は必要だと思いますけれども、それが連日的開廷事件や裁判員制度なりをすべて担うような制度というのは、これはあり得ないのだろうと思うのです。
 弁護士にとって、その使命は社会正義の実現だとか、あるいは基本的人権の擁護ということになりますが、この使命を果たすためにはまさに刑事弁護が出発点になるわけです。そうしますと、常に数多くの弁護士が刑事弁護を支えるという、そういう広い裾野というのは必要不可欠だろうと思います。弁護士像ということにもかかわってくるだろうと思いますけれども、そういう意味で、現在のように個々の弁護士が刑事弁護を担いつつ、刑事専門弁護士が更にそれを補完していくという弁護のスタイルというのが、今の改革で求められている在り方かなと考えております。

□ いろいろな御意見がありましたが、常勤弁護士というのは、それを中核とするか補完的な存在にするかは別として、必要だろうということではそれほど御意見が違わないのかなと思います。中核か補完かというのも、議論のための理念型のようなところがあって、実際に制度設計をしていった場合に、その二つがうまく協調していかないと動かないような感じもしますので、どちらかでしかないということではないのではないかと思うのです。これはあくまで私の感想でありまして、みなさんの御議論をまとめたつもりではありませんが。
 ここの議論も尽きないとは思いますけれども、このくらいにしていただいて、次の「(2) 契約弁護士」についても、やはりその役割とか、先ほど挙げていただきました契約内容、履行担保の方法、個々の弁護活動の自主性・独立性への配慮といった点も視野に入れながら、御議論いただければと思います。どなたからでもどうぞ。

○ 基本的には、契約弁護士の位置づけは先ほど申し上げたとおりです。それは量的な問題であって、質的な問題ではないと考えているわけです。ですから、契約の在り方等については、一定数の事件で契約をするという形になるのではないか。この種の殺人事件はこっちというような形では多分ないだろうなと思っているわけです。
 弁護活動の自主・独立性の問題というのは、ここで議論するのはなかなか難しいと思うのです。本当は具体的な運営主体がどうかというのが決まってこないと、なかなか論ずるのは難しいと思いますが、いずれにしても、一定の弁護活動の自主・独立性を担保するための枠組み、あるいは法制度というものはつくらなくてはいけないだろうと思っています。

○ 例えば日本の裁判を見たときに、大部分の事件は、迅速にうまく行われていると思うのです。そうすると、うまく行われていないところに付ける必要があるので、その意味で言うと、例えばその地域に弁護士がどれくらいいるかということによって必要の度合いが変わってくることが考えられるし、それから、常勤弁護士と契約弁護士、これの割合も変わってくることが考えられる。ただ、契約弁護士ということをイメージしたときに、どちらかといえば、特異重大事件とか、専門化している事件という方向に考えていくというのが一つの考え方ではないかなという気がします。

○ 論点のイの契約内容とウの契約の履行を担保する方法が重要だろうと思います。
 契約弁護士さんの場合は、法人も含みますけれども、契約の中身というのが非常に重要なところで、被疑者、被告人との契約については、今までの経験もあるわけですけれども、契約弁護士の場合はどうなるのか。
 そして、最も重要なのは、契約不履行という場合に、どういうところを不履行と認定して、そうであればどういう制裁を科すのか。これまでは弁護士会の方でもいろいろな懲戒などの制度があるようですけれども、それとこの契約弁護士の場合はどのように変えるべきなのか、または、そのような制度を援用させていただいて、活用すべきなのか。いずれにしても、当該の被疑者、被告人が不利になるような状況が生まれたときに、どうそれを保障していくのかというような問題もありますので、この契約内容、契約の履行を担保する方法については、もう少し詳細な論点を上げて今後議論していく必要があると思います。

□ 基本的には、ここで言う契約弁護士は、先ほど御説明いただきましたけれども、私選ではなくて、公的費用によって付けるということです。

○ 弁護士は、ほかの活動などもしながら、何件かを契約上受任するというようなイメージなのですね。
 そういうイメージで言うと、今、東京の法律扶助協会では、民事についてのものですけれども、嘱託弁護士と言って、いわゆるクレ・サラ事件とか、その他の扶助事件で月間何件か受任することに対して費用として毎月45万円支払うという制度もありますが、その場合に、○○委員がおっしゃったように、義務を履行しなかった場合どうするのだという、そういうサンクションまでは具体的に契約書上入っていないかと思います。その点はなかなか決め方は難しいと思いますが、そういう形である事務所、ある個人が何件か受任していくという、そういう契約の仕方は当然あってもいいのだろうと思います。
 しかし、それでは100 件と約束したけれども、それが履行できなかったらどうするのだということについては、それは費用を削るとか何かするということになるかもしれませんし、いずれにしても、運営の仕方としては契約弁護士との間で協議しながら処理していくほかない問題なのだろうと思います。

□ 法律扶助の方は、厳密に言うと、個人が代理人を雇って、それに対してお金を扶助するという形ですね。

○ そうです。扶助の申請のあった事件に対して代理人として弁護士を付するものです。

□ 今、話題にしている契約弁護士というのは、むしろ運営主体と弁護士法人ないし弁護士個人の間で、年間何件なら何件やるという契約をして、対象事件の弁護を委託するということです。

○ 契約の内容としましては、法律扶助協会との間で、扶助事件として何件受任し、それに対する費用として幾ら受けるかという契約ですので、その構造は同じことになると思います。

□ その点に関する限りは、そうですね。

○ 逆のことを心配しておりまして、例えば5件約束したけれども、国から3件しか来なかったという場合どうするかとかですね。

□ 一番重要なのは、当然想定されているような弁護活動を十分にはしてもらえなかったということでしょうね。これは、依頼者の方から見てもそうですし、運営主体の方から見てそう映るかもしれません。そういうことが仮に生じた場合にどうするかということだと思うのです。

○ その際に、訴訟の迅速な進行に協力しないからというようなことが契約解除の理由になったりしたら大変なことになりますね。

○ この契約事務所というのは、基本的には、日常業務として、民事もやったり、顧問もやったり、渉外事件もやったり、いろいろやっているわけです。特殊な事件をお願いするというのは、特殊な事件というのは基本的に突発的に起きるわけで、それを契約するということは基本的には難しいのではないかと思います。
 もう一つ、今、○○委員がおっしゃっているように、契約事務所としてそれを受ける以上は、例えば年間10件なら10件、月間10件なら10件で受ける。当然そこでこれだけの費用が入るなと。それを当然前提にして事務所運営を考えていくわけですから、いつ来るか分からないような、いつ経費が事務所に入るか分からないような契約類型では、事務所は動いていかないということですね。
 ですから、事務所の方も、あらかじめこれで月間幾ら入る、年間幾ら入るということがきちんと予算化できて、かつ、それに見合う仕事がきちんとくる。あとで返納しなくてはいけないことが起きない形にならないとうまく動かない。だから、そういうことを念頭に置いて考えていくと、やはり類型的な事件、例えば窃盗であるとか、軽いような事件であれば、比較的うまくいくのではないか。だから、私は軽い事件に限定しろと言っているのではなくて、件数でやるということは動かないのではないかなと思っています。

□ 一定数は必ずあるような事件ということですね。

○ 今の発言に関連しまして、常勤にせよ、契約にせよ、公判の段階であれば集中審理であるにせよ、ある程度スケジュール調整というのができると思うのですけれども、捜査段階への対応ということになりますと、これは待ったなし、スケジュール調整が効かないわけであります。
 そうした場合に、弁護士さんが大幅に増えるにせよ、偏在している状況の中で、何も警視庁、大阪府警ばかりではないわけでして、県によっては、現段階では県下全域でも20人程度しかいらっしゃらないところもありますし、いわゆるゼロワン地域というのは多いわけですから、そこへの対応を弁護士会の方でどのように考えておられるのか。
 また、新たな人を強制的に行かせるにせよ、先ほど○○委員がおっしゃったような収入の安定的な道がなければインセンティブというのはないと思うのです。その辺を是非考えていただかないと、捜査の側としても、うかうか捕まえるわけにもいかないと。警視庁、大阪府警なら苦労せずにやるのですけれども、事件は全国津々浦々待ったなしで発生しますので、何とか偏在への手当てというのをお願いしたいなと思うのです。

□ 今のは御意見ですか、質問ですか。

○ 意見、要望ということです。

○ 今の御意見に関連しますと、弁護士偏在地域に対する対応としては、既に弁護士会では公設事務所というのを各地につくっていまして、これは今までに、例えば石見だとか石垣、紋別だとか、10か所にできております。さらに今年度中にあと10か所計画されているようです。そういう意味で、弁護士会も偏在を解消するための努力をされている。この点は、こういう形で常駐体制ができ弁護士が派遣されますと、当然刑事にも対応することになりますので、そういう意味では弁護士会なりに努力はされています。十分かどうかは別にしまして、これが広がっていけば、弁護士偏在の問題もある程度解消できるのではなかろうかという感じがしております。

□ 今は刑事も受けておられるのですか。

○ 過疎型の事務所は刑事も受けております。

□ 都市型は違うということでしょうか。

○ 幾つか種類があります。

□ 全国に70幾つかゼロワン地区があったと思うのですが、将来的には大体カバーできるという見通しですか。

○ 弁護士会の方ではカバーされることになるのだと思いますけれども、今、具体的な場所として名前が挙がっておりますのは、23の地域です。

□ 分かりました。

○ いずれにしても、現状は非常に厳しい状況で、全国どこでも必ず弁護人を確保できる体制ができるというのは難しいのだろうと思うのです。契約の形としても、特に個人の弁護士と、運営主体の契約ということになると、刑事事件だけで常時事務所の採算ベースが合うかということが問題で、そうしておられる弁護士さんも非常に少ないですし、将来的にも増えてくるかどうか疑問なしとしないところがあります。やはり形としては、事務所として、あるいは常勤弁護士集団でもいいのですけれども、全体として事件を受けて、内部的に回していくとか、そういう格好にしませんと、例えば常勤弁護士でも目一杯能力の全部の事件を受けてしまうと、今度はいざという時に動けないということになるわけで、どこかにセーフティーネットが必要であり、そういった意味でいろんな給源を置いておく。加えて、できるならば個人の契約弁護士というよりは、契約弁護士法人みたいな形にして、その中でいろいろ泳げるように、事件の割替えみたいな形ですね。そういうことができるような形にして、やっていかないと、なかなかこれはうまく動かないのかなという感じがします。
 また、先ほどの特殊案件については、最後は、やはり常勤弁護士の方に行くのかなという感じがします。これから先の犯罪情勢がどう動いていくかということもあるのですけれども、国際的な犯罪組織への対応が中心になってくるということになると、個人で事件を受けた場合には、例えば弁護士個人への脅迫その他が起きた場合に持たないと思うのです。一つの団体で、理想を言えば身分保障みたいなものがあって、幾らでも担当者が交替し得るということならば、個人に対していろいろな働き掛けをするインセンティブがなくなってくるわけですから、そこの点も考えて、やはり常勤弁護士の集団と契約弁護士法人、しかもその中に弁護士を相当数抱えているという形態が将来目指していくところかなという感じです。

□ この項目については、ひととおり考えられるような論点は出たと思いますので、次の「(3) その他の確保方策」に移りたいと思います。今、話題に出ました常勤・契約弁護士ということのほかに、全国的に充実した弁護活動を提供し得る体制を整備するとして、どういうアイデアがあるのか。また、連日的開廷による充実かつ集中した審理を実現するためにどういう仕組みが考えられるのか。その辺について何かアイデアがございましたら、お聞かせいただきたいと思います。

○ ごく簡単なアイデアは、その間、十分な経済的基盤を提供するということです。今、刑事弁護は日弁連の中では不採算部門だと言われているわけです。1件8万円ではとてもこれは採算が取れない。だからみんなボランティアでやっているわけで、こういう言い方をすると非常に語弊があるかもしれないけれども、刑事弁護という市場に参入してくる弁護士は限られているわけです。
 ところが、刑事弁護で事務所が維持できる、それで一応の水準の収入が確保できるとなれば、その市場に放っておいても参入してくるようになるわけです。そういう意味では、経済的な基盤を確立するということを抜きにして、弁護士を確保するということは、不可能だと思います。

□ こういう聞き方は穏当ではないかもしれませんが、率直に言って、どのくらいの額ならよいとお考えですか。

○ これはなかなか難しいのです。どういう弁護の質を提供するかという問題になりますからね。常識的に言えば、今の1件8万円は到底安過ぎる。これでは人などは集まりっこない。今、公判だけで8万ですからね。今度は捜査もやるわけです。ある程度集中して事務手続もいろいろやるとなると、最低限1件30万はないといけないでしょう。それは経費込みですから、例えば常勤弁護士の場合、事務所の経費は全部税金で持つということになれば、そのうち弁護士に渡る1件単位の費用はもう少し少なくてもいいのかもしれませんけれども、従来のような経費込みで考えていけば、1件30万を下るとなかなか人は集まらないのではないかなと思います。仮にそれで集ってくるとなると、ほかのきちっとした仕事ができなくて、あぶれた、食っていけない人たちが、生活確保のためにそこに参入してくるという状態になっては非常に困るわけです。国民としても困るし、弁護士としても困る。やはり優秀な人材に来てもらわなくてはいけないわけで、そのためには、それに見合うものが当然出されるというのは市場原理ですから、当たり前だと思います。

□ 私選だとそのくらいなのですか。

○ そんなものではないでしょうか。着手金30万、報酬で30万くらいですから、大体60万から80万くらいで動いているのではないでしょうか。それに比べると、1件8万というのはどう考えても採算が取れないわけです。

□ そこは、○○委員の言われる国民の目線から見ると、どうかなという意見もあるかもしれませんね。

○ ですから、なるべく資力要件で厳しく切って、その代わり事件単価を正当な単価にするということが本来のあるべき姿だと思います。ただ、資力要件で切るというのはなかなか難しいとは思うのです。

□ ほかの方は、いかがですか。報酬の問題でなくても結構です。

○ 最高裁から国選弁護人の報酬等についてという、最高裁の3-3の資料を見まして、8万6,400 円という、3開廷で標準がそういう金額だという数字が出ていますが、いずれにしても安いと思うのです。普通に考えても、刑事裁判というのは、何も社会的に害悪を及ぼした人間の処罰のためにあるだけではないと思うのです。もっと公的な意義があるわけで、一種の裁判のコストだと思うのです。そういう意味では最高裁の予算が低過ぎるなと思っています。いずれにしても、30万がいいのかどうかは分かりませんけれども。

□ 最高裁というより国の予算がですか。

○ ええ。国の予算が少ないなと思うのです。恐らくこれについてもう少し標準3開廷だけで幾らという切り方ではなくて、もっといろいろと必要な部分があるでしょうし、幅を持たせたような決め方もあり得るだろうと思います。そうすれば、財政的な面で厳しく見ている方たちにも、もう少し負担が増えても理解されるのではないかという気がするのです。

□ これはあくまで標準であって、もっと回数が多いとか、難しい事件だということになれば増えたりするわけですね。

○ それは考えています。

□ そういう観点から、30万が適正なのかどうかは分かりませんけれども、雑駁に言えば、一般の国民の目からすると、弁護士さんはけっこう豊かな生活をしているように映っているところもあるようですので、どのくらいの額が適正なのか、いろいろな意見があるかもしれませんね。

○ 今の問題と違うのですが、その他の確保方策ということになれば、先ほどの日弁連の説明にもありましたように、日弁連も幾つか考えておられるようですし、先ほど申しました過疎型の公設事務所のほか、更には都市型の公設事務所が、今年6月に東弁のものができましたし、それより先に、二弁と大阪のものが設けられました。大阪は、少額事件の民事事件を中心にやっているようですし、二弁は、刑事も担当事件の中に入っています。それから東弁の今回の公設事務所は、弁護士任官を推進するという役割を持たせているようです。
 さらに東弁では刑事専門の公設事務所も今、検討中であり、予算1億円くらいを考えている、ということも聞いております。
 そういう意味で、これから弁護士会の方が幾つかのそういう確保方策を展開されていくことになるのだろうと思いますが、いずれにしても、公的弁護の担い手は弁護士ということになるわけですから、弁護士会の方策について、是非ともこの公的弁護制度の検討会の中でも十分考慮いただいて、それらを織り込んだ制度設計をしていく必要があるのではないかと思います。

○ 先ほど私は常勤弁護士を中核に据えるべきだと申し上げたのですが、理屈の上ではそれに間違いないと思っているのですけれども、例えば国選専門事務所ができて、そこに常勤弁護士ができたとして、検事も同じように刑事を専門にやりますが、検事の場合は、そこで異動を伴い、昇進していくわけで、そういう一種の動機付けが行われる。片や弁護士は、途中で契約解除して常勤弁護士を辞めればいいわけですけれども、とにかく朝から晩まで刑事事件ばかりやっていて、それで納得できるのだろうか、有能な人材が果たしてそこに来るのだろうか、という問題はあると思うのです。
 そうすると、単に数を集めるのではなくて、しかも、意識の高い弁護士を集めるためには、今言った経済的基盤のほかに、何か必要かもしれないと思っているのです。ですから、実際に常勤弁護士とか、公設事務所を考えていくときには、そのようなことにも配慮した仕組みでないと、本当に有能な人がなかなか集まってこない。数はいるけれども、質がな、という感じになるのはまずいかなと思います。

□ 報酬だけではなく、やる気を起こさせるということですか。

○ これは思い付きで言っているわけですけれども、例えばアメリカのような場合は、そこは一つの階段で、そこから検察官になったり、裁判官になったりするわけです。ですから、そこも公設の専門事務所をつくった場合に、もう一つのキャリアの一つとして、次にいくようなシステムというのは考えられないのかなと。そうすれば、そこに比較的やる気もあるし、能力もある人は集まりやすいかなと。そこが出発点で、かつ、終着点ですよとなると、なかなか有能な人は集まりにくいという気はするのです。

○ 今の○○さんの話が出たので、私もそこのところを最終的にどうすべきかというのは、まだ、絶対的にこうだという見解があって言っているわけではないのですが、常勤の場合であっても、刑事弁護に常勤として専従するということで、場合によっては、先ほど言った私選を受けるということがあってもいいのではないかという感じもするのです。
 私は、どちらかというと、被疑者に選択権を認めるべきだという基本的な考えを持っているものですから、それが最終的に、勿論、国選ということになるのか、あるいは私選ということになるのかというのは、どちらでもあり得るだろうと思っているところもあるからなのですが、いずれにせよ、若い弁護士の人たちが刑事にというときに、○○さんがおっしゃったように、そこにいるということによって、自分の弁護士としての幅を広げられるとか、刑事弁護士としての質を高めるための余地があるとか、そういうことでないとなかなか疲弊だけしてしまってということが起こってくるのではないか。そのときに、自分である程度余裕を持って事件を、国選で来る事件以外の事件もやれるという条件がないと、勿論、費用の問題については、最終的にはそれで得た報酬は何らかの形で還元するということはあってもいいと思います。事件を選択するというときに、それを民事まで広げろと言えるかどうかは問題になるでしょうが。ただ、公設事務所によっては、民事も受けている事務所のある中で、そうなってくると常勤というよりも契約という形を取ることがいいということになるのかもしれませんけれども、いろいろな幅を用意しておいた方がいいのではないかなという感じはするのです。

○ その場合、本来の公的弁護の仕事以外の仕事を、すべて私選の刑事弁護で埋めてしまうとすると、当面のセーフティーネットだと位置づけても、いざという時に動けなくなるのです。やはり、理想は、出て行けと言われたら、はい、行けますよという態勢が必要ですので、本来業務の公的弁護以外の業務は、法律相談などの業務になるのではないでしょうか。そういうもので、なおかつ有用性のある仕事がそこに入ってくれば、動くのかなと。むしろこの空いている時間を全部びしっと事件で押さえてしまうと、いざ何かあったときに、恐らくこれは動かなくなる。すると、そもそもの制度趣旨に反するのではないかという気がします。

□ (4) についても、既に実質的にはかなり御議論いただいたと思いますが、この(4) につきまして、特にこれだけは言っておきたいということがございましたら、御発言いただければと思います。

○ 少し話が戻ってしまうのですが、暴力団の人が、生活保護を受けて、公的弁護の援助も受けるということだってあるとは思うのです。そうした場合に、普通の人は何でそういう人の面倒を税金でみなければいけないのかという感じを持ちますね。そうしたときに、弁護活動を受けることによって利益が被疑者・被告人の方にある場合には、それを一定の程度負担させるという方が社会的な公正に合致するのではないかという場合もあるだろうと思うのです。常にそうではないと思いますが、例えば暴力団のケースなどだったら、そう思う人が多いだろうと思うのです。あの人はいい生活をして、車を乗り回して何かの罪で捕まったけれども、国の費用で弁護してもらっているというのでは、そう思う人が多くて当然でしょう。民事の法律扶助などのお話を伺うと、日本は償還率が結構高いのですね。刑事の方がそういう形でうまく機能するのかどうか分からないけれども、償還を促すような何らかの対策というか、そういうことも考えておいた方がいいのかなと思います。

○ 償還に応じない人は労役留置場に入れるとかね。

□ その点は、入り口の資力要件できっちり絞るのか、そこは絞らないで後で費用を返してもらうという形にするのか。今の国選は後者のやり方だと思うのですが、そういうことが実効的にできるかどうかというのも検討の余地があると思いますね。
 御意見ありがとうございました。

(3) 次回の予定

□ これで本日は終了したいと思います。次回は御案内のとおり、7月23日の午後1時30分からということになっておりますので、よろしくお願い申し上げます。
 どうもありがとうございました。

(以上)