次に、公的弁護制度下での弁護人選任の実体的要件(公的弁護制度下での被疑者に対する弁護人の具体的選任要件)及び手続的要件(要件審査の方法)について議論が行われ、引き続き、「選任できる人数」及び「管轄区域と選任できる弁護士の制限」につき議論された。
ア 公的弁護制度下での被疑者に対する弁護人の具体的選任要件及び要件審査の方法
主として、以下のような意見が述べられた。
○ 貧困でない者が貧困であるとして国選弁護人を付されるというような、濫用が許されるような制度であってはいけない。そうなると、何らかの形で数値的な要件を定めることが必要である。資力の確認方法としては、裁判官が確認する、被疑者の自己申告による、捜査機関が確認する、当番弁護士のような形で弁護士が接見して確認するなどが考えられるが、弁護士が確認するというのが妥当だと思う。
○ アメリカでは、初回出頭の前に、宣誓供述書の形で、資力申告書を提出する仕組みにしており、虚偽の記載をすると偽証罪で処罰される。日本も、一つの制度設計としては、同様のものにすることが考えられる。それ以上のことを裁判所が調べることは難しいから、申告書を基本にして、一定水準以下であれば、公的弁護により弁護人を付するということが考えられる。
○ 当番弁護士として接見しても、家の様子を見てきてくれなど、弁護士の社会的使命とは思われないことを頼まれることもあり、そういう一種の濫用を防ぐためにも、一定額を支払わせるということが考えられると思う。
○ 資力審査において、大づかみな制度では国民の理解が得られないということになると思うが、逆に正確性を求めるとなると、重すぎる制度となると思う。重からず、軽からず、中庸な制度で、簡便かつ迅速に判断できるようにする必要がある。
○ 要件の有無が分からないときにどうするか決めておかないと、後で、弁護人を付すべきだったとして、証拠の収集や自白の適法性が問題とされるということにもなるので、そのようなことが起こらないような制度としておく必要がある。
○ 曖昧な場合には、やはり国選弁護人を付けるという方向に行かざるを得ないであろう。その場合に、後に資力があることが分かれば、費用を回収するということになるであろう。
○ 本人以外の親族がお金を出してくれそうなときは、親族の資力も考慮し、それでもどうにもならないときに公的弁護で弁護人を付するということは、私選が原則という観点からも、親族に独立して弁護人選任権が与えられているという観点からも、あり得ると思う。資力要件のところで親族の資力を見るということもあるだろうし、私選が原則だから、弁護人選任権を有する者に打診するという手続的要件として親族の資力を見るということもあるだろうと思う。
○ 選任に当たり、当番弁護士前置とするという意見があったが、一見明白に資力がない者にまで当番弁護士と接見を義務付ける必要はないと思う。
○ 被疑者・被告人の本人の資力だけを見るのか、親族の資力も見るのかということについては、何らかの形で本人が調達できるかどうかを考えればよいので、この点を明確にする必要はないという気もする。
○ 少年や高齢者などについて、類型的に判断能力に問題があると考えられるような場合に弁護人を必要的に付すということが考えられるのではないか。前回、必要的に弁護人を付すとなると、選任されるまで捜査ができなくなるのではないかとの指摘があったが、それについては、別に考えることも可能だと思う。
○ 必要的に選任するという制度設計をしておきながら、選任されなくても何ら手続の進行に影響を及ぼさないということは理解できない。また、離島などで少年や高齢者が身柄拘束され、弁護士がいなければ、常勤弁護士を派遣する以外に方法がないこととなろう。そういうケースへの対応も含めて、常勤弁護士を無尽蔵に確保できればよいけれども、弁護士の対応能力や国民負担の問題もあって限界があり、必要的選任という制度では、制度が最初から動かない可能性が極めて高い。
○ 弁護人を依頼できないという場合としては、心神喪失や心神耗弱などで弁護人を依頼する主観的な能力がないという場合も、理屈の上では含まれると思う。
イ 選任できる人数及び管轄区域と選任できる弁護士の制限
主として、以下のような意見が述べられた。
○ セーフティーネットとしての常勤弁護士に、現行の刑訴規則29条1項の管轄区域の制限が厳格に適用されると、全国の管轄区域すべてに常勤弁護士を置いておかなければいけないということになるので、別途の考慮を要すると思う。
○ 弁護人の人数については、捜査段階は、毎日接見するなど濃密な活動が必要な場合があり、弾力的に複数の弁護人を選任できるように制度設計される必要がある。また、刑訴規則29条1項の管轄区域の制限については、現在も、上訴審において管轄区域で制限されるという問題があるし、被疑者段階の公的弁護制度についても、場所的に相互に弁護士を融通し合いながら事件を担当するという必要があるので、見直しの必要があると考える。
○ 現在の国選弁護制度でも、弁護人の数は一人というのが原則となっているので、その原則自体をくずす必要はない。複数の弁護人が選任されるというのは、特別案件的な場合なので、そのような例外的処置まで封ずるまでの必要はないが、原則は守った方がよい。また、管轄区域の制限も、それなりの意味もあることであるから、全部取り払えばよいというわけではなく、公的弁護との関係で例外を設けなければいけない場合がいくつかあるであろうから、そのときの手当てをしておけば十分ではないか。
○ 私選弁護が原則であって、公的弁護が補充だとしておきながら、私選弁護の場合に、一人しか選任できないことがあるにもかかわらず、補充的であるべき公的弁護になると、弁護人の数が増えていくというのでは、制度全体のバランスとしておかしいのではないか。
○ 私選が原則で、国選が補充的だということはいえるが、選任できる人数についていえば、提供される法的サービスという点で、国選ならば劣っていてよいという制度設計には問題があると思う。
次の検討項目に入る前に、法務省から、平成12年度の訴訟費用の徴収の実情が紹介された。
▲ 国選弁護費用を含む訴訟費用の徴収について、平成12年度は、件数ベースで、徴収すべき件数が2万104件、このうち処分済件数が1万886件、未済件数が8839件、残りは徴収不能決定をしたものである。金額ベースでは、徴収すべき金額が約17億円、未済が約7億5000万円、徴収不能決定が約2900万円である。