事務局から、資料5-1「第5回公的弁護制度検討会における論点(案)」及び資料5-2「現行国選弁護制度における事務の例」につき説明が行われ、続いて、公的弁護制度下における運営主体の事務について議論され、主として、以下のような意見が述べられた。
○ 公的弁護制度の下でも、裁判所が審理の過程で把握した弁護活動等の状況を考えながら中立的な立場で報酬を算定するという仕組みがおそらく最も合理的であろう。運営主体が算定を行うというのは非現実的であり、また、的確に算定できるか疑問である。被疑者段階の報酬については、いずれの機関であっても算定は難しいであろうから、定額制しかないと思われ、そうすると、逆にいずれの機関でも算定可能ということになるが、公判段階との一貫性を考えると、裁判所が捜査・公判を通して報酬算定を行うというのが合理的ではないか。
○ 公的資金を有効適切に使うためには、有能な弁護士が熱心に活動した場合には、それなりの報酬が支払われる一方、そうでない場合には、それに比べて少ない報酬でよいと思うが、裁判所には弁護活動が見えないところがあるため、大半の事件で基準額により算定している。被疑者に対する公的弁護となると、特に不起訴事件では裁判所には弁護活動が見えないので、どうやって報酬を算定するのかという問題がある。今のような機械的な算定ではなく、労力に見合った算定の方が在るべき姿ではないか。これから裁判員制度を導入し、連日的開廷が必要な事件が生じてくるようになると、弁護士がその事件に適しているのかどうかという点について、運営主体が適切な人を推薦し、適切な報酬を算定・支給していく方がよいと思う。
○ 常勤弁護士や契約弁護士など弁護士の類型が多様化してくるので、報酬の算定についても、弁護士の類型ごとに考えるのか、すべての類型を包括して考えるのか検討する必要がある。
○ 現状の国選弁護は採算が合わず、また、弁護人の能力や熱意が報酬に反映されないため、嫌われる分野となっており、これを引き継いだままでは、公的弁護を担う良質の弁護士が集まることは期待できないので、だれが算定を行うかよりも、どのように算定を行うかが問題である。捜査段階は、弁護人の能力や熱意が結果に反映される幅が公判に比べてはるかに大きいので、公判段階とはかなり違うものとして報酬の算定方法を考える必要があり、また、弁護活動として、接見のほか調査を行って集中審理や準備手続に備えることや示談交渉を行うことも想定するとすると、捜査段階の報酬を定額制とすることは不可能であって、一定の幅の中で決めることになると思う。そういう算定方法を前提とすると、運営主体も裁判所も弁護活動が見えないという点では基本的に同じであるので、一定の要素を当てはめれば機械的に算定できる仕組みとせざるを得ず、そうするとどちらが算定をしても同じということになろう。一方、公判については、反対尋問や弁論の巧拙、熱意の有無など、裁判所が一番よく分かるわけであって、運営主体がこれを算定するのは不可能で、かつ、無駄だと思う。したがって、公判段階は裁判所が算定するということが動かないとすると、捜査段階についても、算定方法の枠組みを決めた上で裁判所が算定するというのがよいと思う。
○ 報酬算定基準をどこがどのように作るのかという問題があり、充実した弁護活動が行われるための根幹部分であるので、報酬基準の策定事務についても、本検討会で具体的に検討する必要がある。
○ 刑事弁護が嫌われる分野だとの指摘があったが、そういうことにならないよう公的弁護制度を制度設計する必要があり、常勤弁護士が裁判官に任官するといった発展性のある制度とすべきであると思う。そのためには、常勤弁護士の場合と一般の弁護士の場合とで違う算定方法を採り、常勤弁護士の収入・身分を保障することも考えてよいのではないか。
○ 常勤弁護士を中心に考えると、これまでの国選弁護と感覚が違い、常勤弁護士や契約弁護士と運営主体との関係が基本となって、事件の報酬は被疑者に負担させる費用という形で出てくるだけとなろう。そうすると、運営主体が弁護士に対する支払を行うというのが筋ではないか。
○ 運営主体が担うべき役割として、刑事弁護に有益な情報を収集・提供し、また、研修を行うなど、刑事弁護に関する情報蓄積・研修センターのようなものもあるのではないか。また、審議会意見書には、民事法律扶助の拡充の項に、刑事との運営主体の一体化も考えて総合的な検討を要するとの指摘があり、そのようなことも考えなければならないのではないか。
○ 昨今行政改革や予算執行の適正化が求められていることからすると、国費の支給を国とは別の法人に委託して、裁量権・評定権を持たせることが認められるためには、特段の合理性・必要性が求められることになると思う。
○ 今まで裁判所で報酬の算定や支給を行っていたわけであるので、これをなぜ別のところに移すのかについて、よほどの合理性・必要性を説明できないと難しいのではないか。
○ 更生会社では、裁判官が管財人を選任するが、その報酬は会社財産から支払われるのであり、必ずしも選任と支払が同じでなくてもよく、国選弁護報酬を国の債務としないことも考えられるのではないか。
○ 今回、被疑者弁護と被告人弁護とを一貫したものとして考えた場合に、運営主体と裁判所のどちらが報酬算定・支給を行うのが、より適切に目的を達することができるのかという問題だと思う。被疑者弁護について、運営主体の方が適切に報酬額を算定できるとなると、支給も運営主体が行うものとし、これまで他に担当すべき機関がなかったので裁判所が行っていた被告人弁護の報酬額の算定や支給も、運営主体の方がより適切にできるのであれば、そちらに移した方が公的資金の支出としてはよりふさわしいので、その方が合理性があるといえると思う。
○ 回収に関する事務については、大変な労力がかかるとのことであり、運営主体がこれを担い切れるかどうかが問題だと思う。その前提としては、訴訟費用の一部として裁判所が負担を命ずるのがよいと思う。不起訴の場合はどうするかという問題もあるが、不起訴の場合には負担させないということにならざるを得ないだろうと思う。
○ 訴訟費用の回収は、これまでどおり、検察庁に頑張ってもらう以外ないのではないか。
○ 常勤弁護士が弁護を担当した場合、負担を命じられる金額は、実際に支払われた額ではなく、多分かかるであろう額ということになり、これまでの訴訟費用の負担と少しイメージが変わってくることとなる。今までの訴訟費用の観念からすると、現実に支払ったということが必要だと思うが、常勤弁護士の場合には観念的なものとなるので、これを訴訟費用の中に入れることができるのかということが問題となってくると思う。
事務局から、資料5-1「第5回公的弁護制度検討会における論点(案)」及び資料5-3「用語の定義等について(参考)」につき説明が行われ、続いて、運営主体の組織について議論され、主として、以下のような意見が述べられた。
○ 日弁連では、執行部からの諮問を受け、刑事弁護センターで具体的な構想を検討し、検察審査会と同様、国法上の裁判所に独立機関を付設する「裁判所付設型」と各省庁から独立して権限を行使する「独立行政委員会」型の2つを考えた。独立行政委員会を考えた時点では、人権擁護法に基づく新たな人権救済機関が運営を担う可能性も考えたが、現段階では、弁護士会は同法に反対の意見を持っているので難しいという感じがしている。また、財団法人法律扶助協会は、当番弁護士制度を支え、刑事被疑者弁護援助制度、少年扶助制度を実施してきた実績があり、また、本部のほか各支部もあるので、公的弁護制度を担うのに適切な機関ではないかという気がしているが、現在、法務省の直接の監督を受ける機関となっているので、直接法務省の監督下に置くのではなく、法務省以外の別の省庁や裁判所付設型の独立機関、独立行政委員会から指定されて、指定法人として具体的事務を担うという意見があり、全国照会の結果では、裁判所付設型で法律扶助協会を関与させるべきだという意見が多数を占めている。
○ 国が直接運営するという選択肢と公的性格を有する法人に運営をゆだねるという選択肢があると思うが、特殊法人、認可法人、指定法人は、行政改革大綱やその後の法律や閣議決定の状況を見ると、現実的には不可能ではないかと思われる。裁判所付設型は、税金の投入に当たっての説明責任や透明性、行政責任の所在が明確になるかという問題があって難しいという気がする。3条委員会が直接運営するとなると、常勤弁護士が行政機関に雇用される公務員となることに対する反発もあるであろうし、そのときに法律扶助協会を指定法人とするということは、行政改革の流れの中では難しいであろう。そうすると、国が直接運営するという選択肢が考えられ、その場合には、国法上の裁判所が運営主体になるという選択肢も十分合理性があると思う。
○ 公正中立な立場でなければならないという裁判所の役割からすると、一方当事者である弁護人を裁判所が確保するというのはいかがかと思う。また、検察審査会と同様の裁判所付設型という意見があったが、検察審査会は検察官の処分の相当性を判断する準司法的なものであるのに対し、運営主体はもっと行政的・組織的な運営を考えるものであり、そういうものが裁判所の下にあるということでは中立公正さにそぐわないのではないか。
○ 裁判官と弁護人が対立するということもよくあることなので、裁判所に付設し、又は裁判所の直轄となるということは、弁護活動の本質から見ても問題があり、また、国民から見ても弁護活動の独立性について必ずしも納得が得られるとは思われない。運営主体の仕事が、将来的に、有能な刑事弁護人の教育・育成、刑事弁護に関する情報収集・提供ということになると、弁護活動の基本的な部分を担うのだから、裁判所の組織の一部が行うというのはおかしいと思う。司法制度改革審議会意見は、新たな組織を設けるということを前提としているとも読めると思うので、独立行政法人のようなものを作って運営主体の業務を担わせるというのが最も方向性としてはよいのではないか。
○ 新しいものを作るよりは、これまでの実績のある組織が対応できればよいと思うので、法律扶助協会は考えられると思う。弁護士会は、法務大臣が法律扶助協会の主務大臣となっていることが問題だと考えているようだが、民事では問題なかったのであるから、刑事だと問題が生ずることになるのか検討していただいた方がよいと思う。
○ 裁判所の指定法人という例はないわけだが、司法修習生については、最高裁が採用し、各地の弁護士会等に委託して修習をさせているわけであり、そのように行政事務の一部を外出しすることも不可能ではないかもしれない。
○ 独立行政法人は、行政改革大綱の枠内で考えると、一番可能性があるものだと思うが、どこまで法人が担うのかということは考えておく必要があり、常勤弁護士や契約弁護士については独立行政法人が担うが、個々の弁護士の部分については、裁判所に担ってもらうということも考えておかないといけないのではないか。