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公的弁護制度検討会(第7回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年2月28日(金)13:30~16:52

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第2会議室

3 出席者
(委 員) 井上正仁座長、池田修、浦功、大出良知、清原慶子、酒巻匡、髙井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(説明者) 藤井範弘(財団法人法律扶助協会専務理事)
杵淵智行(警察庁刑事局刑事企画課刑事指導室長)
河原昭文(日本弁護士連合会副会長)
稲田伸夫(法務省刑事局総務課長)
今崎幸彦(最高裁判所事務総局刑事局第一課長)
(事務局) 大野恒太郎事務局次長、松川忠晴事務局次長、落合義和参事官

4 議題
関係機関からのヒアリング

5 配布資料
【財団法人法律扶助協会専務理事 藤井範弘氏】
資料・法律扶助協会7-1 刑事法律扶助事業の現状と課題
資料・法律扶助協会7-2 刑事被疑者弁護等援助に関する取扱要綱
資料・法律扶助協会7-3 少年保護事件付添扶助に関する取扱要綱
資料・法律扶助協会7-4 最近5年間の刑事被疑者弁護援助及び少年保護事件付添扶助実績

【警察庁刑事局刑事企画課刑事指導室長 杵淵智行氏】
資料・警察庁7-1 第7回公的弁護制度検討会資料

【日本弁護士連合会副会長 河原昭文氏】
資料・日弁連7-1 公的弁護制度に対する日弁連意見
資料・日弁連7-2 当番弁護士受付件数・受任件数及び被疑者弁護援助・少年保護事件付添扶助件数の推移
資料・日弁連7-3 当番弁護士制度等運用における財政状況

【法務省刑事局総務課長 稲田伸夫氏】
資料・法務省7-1 公的弁護制度検討会における当面の論点に関する意見

【最高裁判所事務総局刑事局第一課長 今崎幸彦氏】
資料・最高裁7-1 公的弁護制度について

6 議事
(1)藤井範弘・財団法人法律扶助協会専務理事からヒアリングを行った(提出資料参照)。これに関する質疑等の概要は以下のとおり。

・ 刑事法律扶助事業では、資力に関する審査に当たり、最初の段階では、具体的な資料を求めずに自己申告で行っているということであったが、後日、申告内容をチェックするための具体的方策についてアイデアがあれば聞かせてほしい。
回答:最も回収ができている大阪支部で、2割くらい回収しているが、その外の支部では1パーセントにも満たないのが実情である。実刑になるなど回収できないのが一般であるが、ある程度回収しようということも言われており、東京都支部も、場合によっては、家族から回収できるのであれば回収しようということを考えている。例えば、後日、何らかの資料を出してもらって、審査機関がチェックすることも考えられるとは思うが、現時点では、当協会はそこまで行っていないのが実情である。

・ 刑事法律扶助事業の近年の増加率が大変なものだということで、数字もそのことを示していると思うが、その数字の増加によって、必要と思われる事件をどの程度カバーしていると協会では考えているか。
回答:当初の伸び率の低さの原因は、財源の不足とともに、制度自体が全国の弁護士に周知徹底されていなかったということもあると思う。現在、当番弁護士は、お金がなければ刑事被疑者弁護援助制度があることを告知することが義務付けられており、当番弁護士が受任する義務を負っている弁護士会もある。また、被疑者の方にも、そのような制度があることが知られるようになってきたことなどが複合して、増加していると思う。従来は、必要がなかったから件数が少なかったというのではなく、必要がある事件もたくさんあったが、残念ながら、弁護士の受入態勢の問題や財源の問題等で、そこまで援助できなかったというのが実情ではないかと思う。

・ 単位弁護士会によって、刑事被疑者弁護援助や少年保護事件付添扶助の件数が0や1というものがあるが、その場合、財源の問題との関係で、自主規制的な扱いが行われているのではないかという話を聞いたことがあるが、その実態について承知していることがあるか。
回答:件数が少ないところは、むしろ自主規制ではなく、受入態勢など弁護士会の考え方の問題ではないかと思う。むしろ事件数の多いところの方が、場合によっては自主規制をしていると思う。例えば福岡では少年事件の身柄全件ということでやっているが、日弁連から来るお金には限りがあるので、単位弁護士会が協会に補助金を出しており、件数が増えているところの方が場合によっては事件を絞ることも考えざるを得ない実情があると思う。

・ 自主規制ということで、現実に財源が限られているので、実際に扶助を断ることもあるのか。
回答:パーセントとしては非常に限られているが、扶助を断ることもある。

(2) 杵淵智行・警察庁刑事局刑事企画課刑事指導室長からヒアリングを行った(提出資料参照)。これに関する質疑等の概要は以下のとおり。

・ 仮に逮捕留置段階から公的被疑者弁護の選任のための手続を開始する制度とした場合、障害になると考えている点は、どこか。
回答:現時点では選任手続がどのようなものとなるか分からないので回答は難しいが、逮捕後、弁解録取、基本的な取調べを行い、場合によっては取調べの結果から留置継続の必要性を判断し、あるいは、早期に供述を得て関係証拠や関係被疑者を押さえ、事案によっては被害者救出等の活動のためにも供述を得なければならないという場合もある。送致までの限られた時間の中に、どういう形の手続が入るのかが分からないと申し上げにくいが、そのような流れの中で予定した作業が止まってしまうということになれば、捜査の立ち上がりの部分であるだけに大変なダメージを受けることにならないかと危惧している。

・ 逮捕留置中の48時間、72時間に捜査当局が事件解決に向けて大変努力しているということが、逆に被疑者側に大きなプレッシャーになるということもあろうかと思う。そのときに、被疑者をサポートする存在がなくて、適正さを確保できるかということについて議論があるところだと思うが、その点について、どういう考えをお持ちか。不適切・公正を害する弁護活動の例を挙げられたが、それがどの程度の割合を占めているか具体的な数字をお持ちか。黙秘権の行使を勧めることが刑事手続の現実を無視しているという言い方をされたが、刑事手続のどういう現実を無視しているということか。
回答:被疑者の権利保護としてどう在るべきかということについて、まさに本検討会において議論されているわけであり、捜査機関としては適正捜査に努めているところであるが、議論に当たっては、現実の捜査の必要性を踏まえた観点で判断いただきたい。不適切な弁護活動の例があるということを承知しており、また、弁護活動の在り方について疑問を持つようなケースを耳にするということを申し上げたものである。黙秘権の行使に関して申し上げたのは、弁護人の立会いがない限り黙秘するよう勧める弁護活動についてであり、それは取調べを拒否するよう言っているのと同様であろうと思われる。しかしながら、我が国の刑事訴訟における立証において取調べが重要な機能を営んでいることは否めない事実であり、我が国の法制度上、一定の事項を立証していく上で取調べを欠いては多くの事件で立証が困難となる。もとより黙秘権を告知することは当然であるが、事実上取調べを行い得なくする行為はどう考えるべきかということを申し上げたいということである。

・ 公的付添人が付される場合には、検察官が少年審判に関与すべきであるとしているが、仮に全件に付添人を付けるということになった場合には、検察官も全件に付けるべきであるということか。あるいは、例えば事実関係に争いがある場合に限って検察官も関与すべきであるというような一定の絞り込みをかけるべきだということか。
回答:公的付添人制度については、導入の検討をするということだと承知しており、また、その中味については、公的弁護制度以上にいろいろ議論があるところだと思っており、そこに立ち入って意見を申し上げたつもりはない。基本的に事実について争うという形になった場合について、公的付添人が付くのであれば、検察官が関与することが、裁判官との関係でも被害者との関係でも、最も適当な形になるのではないかということを申し上げたものである。

・ 被疑者・被告人の弁護人依頼権は憲法上の権利であり、弁護人が適正な活動をし、数多くの回数接見し、また、必要な時間接見することも当然のことである。一方、それによって取調時間が減っているようなことを言われたが、個々の事件で、取調時間がどれだけで、かつ、それが接見によってどれだけ制約されたと言われるのかデータはあるか。
回答:個々の事件において接見によって取調時間が制約されたということを具体的なデータによって申し上げているわけではない。刑訴法制定後、捜査を取り巻く状況が大きく変化していることを受けて、捜査活動に充てられる時間がどう在るべきかということも考えなければいけないのではないかということを申し上げたかった次第である。

(3) 河原昭文・日本弁護士連合会副会長からヒアリングを行った(提出資料参照)。これに関する質疑等の概要は以下のとおり。

・ 被疑者に対する必要的選任制度について、一定の重大事件については必ず国選の弁護人を付けるということであるから、被告人に対する必要的弁護制度と同じように考えれば、法律的には弁護人がいない場合には手続を進めることができないという意味になると思うが、先ほどの説明ではそのようには考えないということであり、理屈のつじつまが合っているのか。
回答:必要的選任制度が必要な理由としては、重大事件等で必ずしも弁護人を呼ばないケースもあり、その中に弁護人依頼権があることを十分に理解していないということもあり、少年や特異重大事件等では弁護人を付けることが必要であると考えているものである。その中で、どのような制度設計をするかということになり、弁護人の存在を捜査手続の必要条件としない制度設計も可能であろうと考えたものである。それがどのような効果を持つかということについては、積極的に選任行為を何らかの形で意図的に侵害し、又は怠るという場合に、それに関連する証拠について何らかの不利益な取扱いをすることはあり得るかもしれない。具体的な中味については、更に立法に当たって検討する余地があるのではないか。

・ 被疑者に対する公的弁護制度の対象事件について、身柄を拘束されたすべての被疑者とするとしているが、現実に対応できるのか。
回答:現実に全国の弁護士会で当番弁護士制度を運営している実績があり、また、弁護士の数も、今後、着実に増えることが予想される。また、日弁連が支援する刑事専門弁護士を設けるほか、公設事務所が着実に増えている。このような弁護士会の努力によって全件に対応できる弁護態勢をとれるものと確信している。

・ 常勤弁護士を確保するために、弁護士会が協力して推薦するという制度なら分かるが、推薦を経なければ常勤弁護士になれないという制度にするのは、なぜなのか。果たして、そのような制度が適当なのか。
回答:弁護人の活動は、国家刑罰権の発動の対象とされた被疑者・被告人の権利を擁護するという意味では一定の組織その他と対立する局面を抱えていることが前提となる。私選弁護・国選弁護を問わず、その水準の適正を確保していくことが必要であるので、公的弁護制度の場合にも、公的弁護人の推薦、その職務に関する指導監督は弁護士会が一元的に対応してその責任を全うしていきたいと思っている。したがって、推薦の段階についても、日弁連として、当該弁護人の活動が適正かつ十分になされるということを確保し、推薦するという枠組みの中で対応したいと考えている。

・ 新たに公的付添人制度を設ける場合、検察官関与については、どのような意見か。また、独立行政法人が弁護人の報酬決定・支給を含む事務を行う運営主体とする案について、独立行政法人の制度的枠組みが、国選弁護報酬を含む制度全般の運営主体として適切かにつき、慎重な検討が必要であるとされているが、その点について、更に詳細な意見があれば紹介願いたい。
回答:検察官関与については、先般の改正少年法において、十分な吟味を経た上で、現行22条の2の枠がかかっているが、現在は、それを変更するという考えはない。現在、リーガルサービスセンター構想というものが浮上しており、公的弁護制度の運営主体にも、独立行政法人であるリーガルサービスセンターがなるのではないかと予想しているが、同法人の主務大臣は法務大臣となり、そのような独立行政法人が運営主体となると、個々の弁護活動の自主性・独立性が損なわれるのではないかという危惧がある。弁護士会の意見が十分反映され、個々の弁護活動の自主性・独立性が十分保障されるような制度設計にしなければならず、官的色彩の強い運営主体には賛成しかねる場合もあるという意味である。

・ 研修等の充実について触れているが、具体的な中味として検討されていることがあるか。
回答:現在、倫理研修は10年ごとの義務制としており、また、新規登録会員の研修も行っている。今回、日弁連に研修センターを設け、すべての研修を同センターが統一的に行うこととしており、積極的にやっていきたい。

(4) 稲田伸夫・法務省刑事局総務課長からヒアリングを行った(提出資料参照)。これに関する質疑等の概要は以下のとおり。

・ 法務省の意見では、捜査段階の弁護活動についての報酬の算定・支払は、どこがするということになるのか。
回答:基本的に定額制ということを申し上げているので、算定という概念となじむかという問題が出てくると思う。支払については、現在の被告人段階の国選弁護人と同じような形になるので、それと違う方法が採れるのかということについて、従来の会計法などとの整理が必要であるなどいろいろ検討しなければならないと考えている。

・ 司法制度改革審議会における平成12年7月25日の法務省のプレゼンテーションでは、被告人の国選弁護制度についても、弁護人の選任・解任を除いて、その運営を運営主体たる法人に移管するのが相当と考えるとなっていたと思うが、そこは改めたということか。その理由は、どういうところにあるか。
回答:当時の意見の前提は、運営主体が国とは別の法人格を持つ法人であり、かつ、その法人が国から包括的に国選弁護を請け負うような形になり、常勤弁護士や契約弁護士のほか、一般の弁護士も運営主体に登録してもらって弁護活動を行う、だから、一般の弁護士も運営主体から報酬を受け取るという仕組みを考えていたと承知しているが、審議会での議論では、一般の弁護士の登録制について強い異論があったと承知しており、また、現実にどの程度登録してもらえるかという問題もあろう。また、近時の行政改革の問題のほか、会計法上の問題も踏まえると、本日申し上げたことが適切な制度の在り方ではないかと考えているものである。

・ 会計法上の問題は、支払義務を負う者を国にするか運営主体にするかという立法政策の問題かと思うが、そうではないという考えか。
回答:国が選任を命ずる場合に、どのような整理により、それが国の債務ではなく、国と別法人である主体の債務になるのか理解しにくいところがある。

・ 一定の重大犯罪に絞ることの理由として、弁護士の対応能力が専らのように読めるが、先ほど弁護士会はすべてをやると決意表明しているところであり、それによって、この問題は解消すると考えているか。資力審査においては、資力申告書で基準をクリアしていれば、それでよいという趣旨か。否認事件に対する国選弁護人選任に関し、真しに事実を自白している者には国選弁護人を付さず、否認している者に国選弁護人を付すことは、「正直者が馬鹿を見る」制度となりかねないというが、真しに否認している者と、そうでない者とをどのように区別するのか。少年保護手続において、少年の保護を優先的に考えていることが不当に少年を利するものであるかのようなニュアンスに聞こえたが、付添人を付けて少年の健全育成に資するような手当てをした方がよく、そこはバランスの問題ではないという気がするが、その点についての意見を伺いたい。
回答:日弁連が強い決意を持っていることには敬意を表したいが、現実に実施可能なものでなければならないことも制度をつくる以上やむを得ないところであり、そのような観点で申し上げているものである。資力審査について、資力申告書以外に疎明資料を添付させることは当然検討の余地はあろうかと思うが、その場合にどの程度の負担になるのかということを踏まえながら検討願いたい。否認かどうかについて、否認の定義が難しいということを前提とした上で、理念型の問題として、客観的事実がある場合に、それを認めている者と、それをないと言う者とが実体的にはあり得るわけで、その場合に、否認している方にだけ弁護人を付けるというのでは「正直者が馬鹿を見る」と言われかねないのではないかということを申し上げているだけである。少年の保護を優先的に考えるということの意味は、従来の少年法の理解をそのまま述べたものである。

・ 被疑者に対する公的弁護制度の対象事件の範囲について、一定の重大犯罪として法定合議事件とすることが考えられるとしているが、法定合議事件の勾留件数は約6000件で、弁護士会の当番弁護士の受任件数が1万件近くあり、それよりも小さい数を対象とするということになるのか。
回答:件数としては、そのような件数になろうかと思う。

・ 法務省の意見では、対象事件もそうだし、選任も請求にかからしめ、選任の始期も勾留段階、資力要件も厳格に絞る、他方で、現行の国選弁護制度についても見直して、これを絞る、弁護活動についても逸脱行為に対しては制裁を科すということを言っているが、司法制度改革審議会意見書の被疑者・被告人の弁護人の援助を受ける権利を実効的に担保するという要請に沿うものだと考えているのか。
回答:基本的に司法制度改革審議会意見書を踏まえて、本日の意見を申し上げているものである。

・ 被告人の選任要件についても見直すとしているが、法律に「貧困その他の事由により」と書いているところを絞るという趣旨なのか。それとも、その適用に当たり、被疑者と同様に適用基準のようなものをつくるという趣旨なのか。
回答:両様あり得るだろうということで問題を提起しているものである。

・ 常勤弁護士や契約弁護士が違法・不当な弁護活動を行った場合には、所要の措置を適正かつ迅速に講ずることのできる手続を整備すべきであるとしているが、これについて、もう少し説明願いたい。
回答:そういうものが必要ではないかと考えているということであって、現時点で具体的にイメージしているものがあるというわけではない。

(5) 今崎幸彦・最高裁判所事務総局刑事局第一課長からヒアリングを行った(提出資料参照)。これに関する質疑等の概要は以下のとおり。

・ 公判段階において、裁判所からの公判活動の結果報告も求めて報酬算定を行うとすると、事後的にではあるが、公判の中味を第三者がうんぬんする道を開くことになると危惧するが、その点は、どのように考えているか。
回答:現在裁判所が弁護人の報酬算定を行うに当たっては、通常は、開廷回数であるとか被害弁償など裁判の中に表れた弁護人の活動のほか、事件の性質や記録の量など、裁判所の目から見て外形的に表れた事情を考慮に入れているが、ここで申し上げているのも、そのような裁判所に明らかな事情を考えている。

・ 最高裁の考えている制度とすると、公的弁護は、何らかの形で運営主体の下に統括される結果となると思うが、そういう制度が弁護の独立という本質的な問題になじむのかどうかという点について、どのように考えているか。
回答:公的弁護制度は弁護士会の協力なくしてできない話であり、本日の意見でも運営主体と弁護士会との役割について述べているが、審議会意見書の発想の根本には、弁護活動の自主性・独立性が損なわれてはならないということがあり、それを前提としてつくられているものと理解している。

・ 理念的には弁護人と運営主体が対立するということもあり得るが、運営主体と対立した場合には公的弁護ができなくなるかもしれないというような制度では、弁護人の独立の基盤を考える上で、脆弱な要素を持ち込むこととならないか。
回答:そういう制度をつくってはいけないとしか言いようがないと思う。確かに一つの構造の中で一定の活動をするということに決めた以上は、そこから外れる危険が生じたときにどうなるのかという議論はあり得ると思うが、考え方の分かれ目は、公的弁護全体を運営主体が担っていくというシステムというものが今後の刑事裁判を考えていく上でどうしても必要なのではないかという問題意識の点だろうと思う。

・ 制度として、常勤弁護士が自らの報酬を含む具体的報酬を決定するということが、公的資金を投入するにふさわしい透明性・説明責任を確保した制度といえるか。運営主体が報酬を支払わなければならない実質的な理由は何か。裁判所が報酬を支払うことができないとする実質的理由があるか。
回答:疑問は、報酬算定について、制度として「お手盛り」に見えないかということかと思うが、報酬基準がきちんと策定されることが当然の前提であって、報酬基準は公正中立なボードで策定されることを考えており、きちんとした基準を策定することによって、それなりの客観性を担保できるのではないかと考えている。もちろんこれについて問題があるということであれば、別途の考慮ということも制度設計の中ではあり得ると思うが、基本は、ボードがつくった基準に基づいて、現場の常勤弁護士を中心とした者たちがその基準をあてはめて算定していくというイメージである。一般の弁護士への報酬の算定・支払を裁判所ができないという理由はないが、この問題は、そういう問題ではないということだと思う。

・ 一般の弁護士との関係では、運営主体がやることは、裁判所から連絡の依頼を受けて、弁護士会に推薦を依頼し、弁護士会が推薦してくると、運営主体が裁判所にこれを連絡するというだけで、一般の弁護士との間に法的な関係は成立していない。法的な関係は、裁判所が選任するという行為によって成立することになるが、そうなると、なぜ運営主体が報酬を算定して支給する立場になるのか、会計法24条との関係で分からないがいかがか。
回答:もともと会計法24条は、国の債務がどこに帰属するか決定するものではなく、国の債務であるという場合の支払方法を定めたものと理解している。現在の国選弁護の仕組みは、明らかに、裁判所が選任し、国の債務として発生するということになるので、その支払には会計法24条の適用があると思う。運営主体が全体として一般の弁護士に対する報酬支払をするとすると、そこには法律的な基礎付けが必要だということは御指摘のとおりだと思うが、法律的な基礎付けがあるのであれば、結局は立法政策の問題であって、国が債務を負う形でつくるのか、運営主体が債務を負う形でつくるのかという問題である。そうだとすると、運営主体が債務を負うという形にする立法政策にすることの正当性の問題であると思っている。

・ 運営主体も弁護活動の質の向上に努力すべきであると指摘されているが、具体的に何か方策を考えていることがあるか。当番弁護士制度を前提とした制度設計を考えているようだが、日弁連が提案した国費による当番弁護士制度との関係について、何か説明できることがあるか。
回答:司法制度改革審議会意見は、弁護士会が弁護活動の質の確保について重大な責務を負うことを自覚し、主体的にその態勢を整備すべきであるとしており、弁護士会が審議会意見に沿って真しに弁護活動の質の確保のための態勢を整備すべきであると考えている。その上で、運営主体も、弁護士会の取組と連携して、質の確保に努めるべきであると考えている。また、従来の国選弁護においては、刑事弁護の専門的な経験が蓄積されることに乏しく、そのノウハウが組織的に集積されてきたとはいえないところであり、今後は、運営主体の常勤弁護士等を中心としてそのノウハウ・情報等の蓄積を行い、相互に議論し、啓発し合うという中で、弁護活動の質の向上を図るなどして、その方法を多角的に検討していく必要があると思う。国費による当番弁護士制度をどうするかについては、刑事弁護体制全体の中で見ていくべき話であり、それについてどのように考えるかについては、今後の検討に待つべきだとしかお答えできない。

・ 現に家庭裁判所からの依頼で扶助事件として付添人が付くことがあるが、この場合に、事実に争いがなくても、保護者に監護能力がないというケースのように要保護性が問題になるものが相当数含まれている。専ら要保護性が問題となる事件については、家庭裁判所調査官が調査を行うことにより適切に審判をなし得ると断じているように見受けられるが、実際はそうではないのではないか。
回答:弁護士である付添人が少年の保護環境の整備等に尽力されている事案があることは認識しているが、制度を設計する場合に、家庭裁判所調査官が配置され、要保護性に関する問題については、家庭裁判所調査官が担当するという仕組みを前提として、それに加えて、弁護士である付添人がどのような役割を果たすものとして制度をつくることができるかということを考えなければならず、要保護性の場合に関していえば、こういうことのために必要だということを申し上げるのは難しいという趣旨である。

・ 成年後見制度が導入されたことによって、家庭裁判所調査官が成年後見の方に移っているという話を聞いた。一種の調査官の機能の低下を危惧する意見もあるかと思うが、そういう事態が起こっているとすれば、調査官が調査を行うことにより適切に審判をなし得ると言い切ることに疑問を感じるところがあるがいかがか。
回答:確かに成年後見制度の導入ということもあって家庭裁判所調査官の担当職務が増えていることは間違いない。人員の配置は、それぞれの事務の量を考えて、各庁で適切に対応しているが、その際には、少年事件の手を抜いて力を振り向けているということはなく、少年事件を疎かにしないような形で、それぞれの事務について責任を果たしていくという観点で配置を考えており、成年後見制度が導入されたことによって、少年事件において調査官の果たすべき役割を果たせなくなっているという事態はないと認識している。

(6) 今後の検討の進め方について

 次回以降の検討の進め方について、協議の結果、次のとおりとされた。
・ 事務局において,各テーマごとに具体的制度設計に向けた議論のたたき台を作成し,それを素材として検討を進める。
・ たたき台には,これまでの議論において意見の分かれている論点については複数の選択肢を示す。
・ 今後の議論における各委員の意見は,たたき台に記載されたものに限定されない。
・ 公的弁護制度については,論点を整理した上で,第8回及び第9回で順次たたき台を示し,公的付添人制度については第10回で議論のたたき台を示す。

(7) 次回

 次回(第8回)は、4月1日(火)13:30から開催予定であり、公的弁護制度について第2ラウンドの検討を行う予定である。

(以上)