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公的弁護制度検討会(第7回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)

1 日時
平成15年2月28日(金)13:30~16:52

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第2会議室

3 出席者
(委 員) 井上正仁座長、池田修、浦功、大出良知、清原慶子、酒巻匡、髙井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(説明者) 藤井範弘(財団法人法律扶助協会専務理事)
杵淵智行(警察庁刑事局刑事企画課刑事指導室長)
河原昭文(日本弁護士連合会副会長)
上田国廣(日本弁護士連合会刑事弁護センター委員長)
羽倉佐知子(日本弁護士連合会子どもの権利委員会副委員長)
稲田伸夫(法務省刑事局総務課長)
今崎幸彦(最高裁判所事務総局刑事局第一課長)
岡健太郎(最高裁判所事務総局家庭局第二課長)
(事務局) 大野恒太郎事務局次長、松川忠晴事務局次長、落合義和参事官

4 議題
関係機関からのヒアリング

5 配布資料

【財団法人法律扶助協会専務理事 藤井範弘氏】
資料・法律扶助協会7-1 刑事法律扶助事業の現状と課題
資料・法律扶助協会7-2 刑事被疑者弁護等援助に関する取扱要綱
資料・法律扶助協会7-3 少年保護事件付添扶助に関する取扱要綱
資料・法律扶助協会7-4 最近5年間の刑事被疑者弁護援助及び少年保護事件付添扶助実績

【警察庁刑事局刑事企画課刑事指導室長 杵淵智行氏】
資料・警察庁7-1 第7回公的弁護制度検討会資料

【日本弁護士連合会副会長 河原昭文氏】
資料・日弁連7-1 公的弁護制度に対する日弁連意見
資料・日弁連7-2 当番弁護士受付件数・受任件数及び被疑者弁護援助・少年保護事件付添扶助件数の推移
資料・日弁連7-3 当番弁護士制度等運用における財政状況

【法務省刑事局総務課長 稲田伸夫氏】
資料・法務省7-1 公的弁護制度検討会における当面の論点に関する意見

【最高裁判所事務総局刑事局第一課長 今崎幸彦氏】
資料・最高裁7-1 公的弁護制度について

6 議事

○井上座長 それでは、所定の時間になりましたので、第7回公的弁護制度検討会を開会させていただきます。本日もお忙しい中お集まりいただきまして、ありがとうございます。
 本日は、前からお諮りしているとおり、ヒアリングを実施することになっております。財団法人法律扶助協会、警察庁、日本弁護士連合会、法務省、最高裁判所の順に御意見を述べていただこうというふうに思っております。
 具体的には、それぞれの方に15分程度意見を口頭で述べていただき、引き続いてそれぞれ10分程度の質疑応答の時間を設け、合わせて、お一人大体25分程度の所要時間ということで進めさせていただきたいと思います。5人の方からお話をお伺いするわけですが、休みを入れないでずっと続けるということになりますとやや長過ぎるように思いますので、3番目の日本弁護士連合会からのヒアリングが終わった段階で10分程度休憩時間を入れさせていただきたいと思っております。質疑応答につきましては、約10分程度ということを目安に、是非御協力いただいて、できるだけたくさんの方が質問でき、また実りある答えをいただけるよう、質問はできるだけ簡潔にお願いしたいと思います。
 では、早速ヒアリングに入らせていただきたいと思います。まず、財団法人法律扶助協会からのヒアリングですけれども、扶助協会からは藤井専務理事にお越しいただいております。では、よろしくお願いいたします。

○藤井氏【財団法人法律扶助協会専務理事】 それでは、私の方から法律扶助協会7-1という資料、これは本日のヒアリングのためのレジュメですが、これに即して話をさせていただきます。
 扶助協会は、御承知のとおり法律扶助事業の実施団体なので、必ずしも機関決定したペーパーというわけではありませんが、日ごろ協会の中で業務を実施していてどういうところが問題なのか意見交換をしておりますので、レジュメとしてまとめさせていただきました。一部、個人的な意見もありますので、そのように御理解いただければと思っております。
 刑事被疑者弁護援助、これは現在自主事業として当協会が行っているわけですが、平成2年から日弁連の要請もありまして事業を実施したということであります。残念ながら、平成2年は、次のページにも記載がありますけれども、年間で73件でありました。平成7年から日弁連が当番弁護士基金ということで特別会費を徴収するようになりました。これは2年ないし3年ごとに増額されて、現在月額4,200 円になっております。年間で各弁護士会員が5万400 円を拠出しております。これをプールしまして、この被疑者弁護援助制度を実施しているというのが現状であります。平成13年度は、6,174 件ということで、前年度比で17.9パーセントの増加ということになりました。
 ただ、これも後で御説明いたしますけれども、事業が大幅に伸びてきておりますので、その財源をどう確保するかというのが大変重要な問題になってきておりまして、弁護士会の自主財源ということでは既に限界にきていると思っております。
 同じように、当協会では少年保護事件付添扶助、昭和48年から始まっておりますけれども、やはり自主事業として実施しております。これは、昭和47年の末に最高裁判所の方から打診がありまして、何とかできないだろうかということで、翌48年から当協会が実施をしました。こちらの方が歴史が古くて30年の歴史を持っております。最初は東京都支部とか愛知県支部と、支部が限られていたのですが、現在ではもちろん全国の事業というふうになっております。特徴的なのは、昨年福岡あるいは熊本、仙台などにおいて、少年全件付添という制度を立ち上げ実施しております。そのような影響もありまして、少年保護付添扶助に関しましては、平成13年度で2,429 件、前年度比で何と40.7パーセントの増加となっております。
 2ページ目に刑事被疑者弁護援助の実績とその費用並びに少年保護事件付添扶助の実績と費用というのが記載されております。被疑者の方で4億7,000 万円強、少年の方で2億5,000 万円程度という費用の支出が行われております。平成5年を仮に1とすると、平成13年は被疑者弁護援助で4.23倍という伸び率を示しております。少年保護付添事件では、やはり平成5年を仮に1とすると平成13年は4.57倍という実績になっております。年々飛躍的に増加しているというのが実情であります。
 ただ、現在これは自主事業ということで国の費用をいただいておりません。したがって、様々な問題が出てきております。4点指摘させていただきます。
 まず第1点ですが、やはり自主事業の限界ということを言わざるを得ないだろうと思っております。この費用は、日弁連の先ほど申しました会員の特別会費、それから各単位会の補助金並びに当協会の自主財源、これは、例えば贖罪寄附あるいはその他の寄附も入りますけれども、これらの資金を財源にしております。したがって、財政的基盤が非常に脆弱であるという点が指摘できると思います。当協会は毎年事業の計画を立てて実施しているのですが、事件数が伸びて財源不足に陥ります。したがって、年度途中で日弁連あるいは各地の弁護士会に補助金の追加要望をするということを毎年させていただいております。
 しかし、単位会は特別会費を持っているわけではなくて、一般会計の中から当協会の支部に対して補助金を出すというような関係になっておりますので、もう限界にきているということが指摘されております。この財源をどう確保するかというのが第一に大きな問題であると言えると思います。
 2点目は、それと連動するのですが、援助の要件を年度途中で変更しなければならないという問題があります。これは民事でも同じような問題がありますけれども、増加する事件数に対応するためには、方法としては二つしかありません。一つ目は、弁護士の費用を切り下げるという対応です。二つ目は、援助要件を絞って件数管理を行うというやり方であります。ただ、弁護士の費用は、被疑者段階でおおむね一番低くて6万円で、中庸では8万円前後ということになっております。したがって、弁護活動に見合った十分な費用を必ずしも出せないということで、なかなか費用を切り下げるというのは難しいのが現実であります。したがって、すべての支部ではありませんけれども、例えば東京都支部などでは援助要件を厳格化する、少し絞っていくということで事件数の管理をするということになっております。
 この援助要件を絞るということに関しては、かなりいろいろな関係者からの議論があります。例えば、協会は外国人の単純なオーバーステイの事件はもういいんじゃないか、もっと重要な事件に弁護人を付けるべきだというような議論をさせていただいたことがありますけれども、むしろ外国人に対してこそ付けるべきである、罪名で絞ってはいけないという強い反対もあります。なかなかこれをどう考えるかというのは難しいのですが、残念ながら財源が足りないということで、要件を絞っていく方向で対応せざるを得ないというのが実情であります。
 3点目としては、支部実績の格差があります。資料の7-4が、全国の各50支部の一覧表であります。例えば、平成13年度の刑事被疑者弁護援助件数を見てみますと、東京は2,804 件と、これが一番大きいわけですけれども、群馬あるいは滋賀辺りは年間で1件という実績であります。少年保護事件に関しましても、例えば東京が314 件、福岡は一番多いのですが600 件という数字になっております。熊本132 件、仙台228 件というところがありますが、栃木はゼロという実績であります。
 なぜこういう支部実績の格差が生じるのであろうかということなのですが、やはり法律上の制度になっていないというのが一つの問題点だろうと思います。民事の場合もそうでしたけれども、法律ができる前には支部実績の格差というのはやはり著しいものがありました。ただ、平成12年に民事法律扶助法ができることによって、各弁護士会も努力してこの格差は是正されております。まだ若干の格差はありますけれども、やはり法律上の制度になるということが多分一番大きい要因なのであろうと思っております。
 さらに、財源の違いや弁護士会の規模の相違から取組が変わってきてしまいます。こういうような問題が複合的に関連して、現在、残念ながら全国均質なサービスの提供ができていないという問題点があります。
 4点目は、3点目に連動しますけれども、当番弁護士の負担の加重という問題であります。大都市部においては弁護士人口がある程度大きいものですから、何とか順番に回していくということが可能ですけれども、30名前後の弁護士会もあります。北海道の旭川では、1回の接見に片道4時間かけていく。吹雪の中を4時間かけて、往復8時間で接見をするというような実情も報告されております。均質なサービスの提供はその部分でもなかなか難しくなっている。何とかこれを是正しなければいけないと当協会も思っています。弁護活動の提供方法の多様化ということが検討されなければならないのだろうと思います。ジュディケア制、つまり開業弁護士が担当するというのは原則としてよろしいかと思いますけれども、それを補完する形でスタッフ制ですとか、あるいはコントラクト制、フランチャイズ制というような形の弁護活動の提供方法の多様化ということが求められているし、全国均質なサービスを提供するということがやはり事業としては要請されるのだろうと思います。
 刑事法律扶助事業の課題として二つまとめさせていただきました。一つは、国の事業として位置付けるということであると思います。被疑者段階の弁護人付与というのが、憲法上の要請かどうかということに関しては大きな議論がありますけれども、被疑者段階においても、憲法の趣旨を生かして、国の事業として位置付けるということを第一に言わなければならないことだと思っております。少年事件についても積極的に対応すべきだと考えます。
 2番目は、財源の確保であります。刑事弁護というのはオープンエンドと予想されますので、きちんと事業費が確保される仕組みが用意されなければいけないのだろう。管理費についても、これは本来、国の事業というふうに位置付けられますので、国が原則として全額支出するという制度構想が必要だろうと考えます。
 具体的な制度設計としてはどういうことが考えられるか。以下、指摘させていただきます。
 まず対象事件ですけれども、身柄拘束事件を基準とし、原則としては全件に付けていくというのが理想だろうと思っています。ただ、現実問題としてはまだまだ弁護士会の規模の格差、あるいは弁護士の過疎偏在の問題が解消されていません。したがって、現実的な制度設計としてはある程度事件を絞るということが必要になるのだろうと思います。ただ、問題は一定の事件というのをどういう仕組みで、どういう基準で仕切っていくかということであります。協会の中でもいろいろ議論がされていますけれども、まとまった結論というのはまだ見出していません。例えば、罪名で絞るという考え方があります。ただ、罪名で絞るということになると、例えば別件逮捕の場合はどうなるんだろうかとか、どういう基準で罪名を考えればいいのか、なかなか難しい問題があります。
 自白事件で絞っていく、否認事件という形で考えたらどうかという意見もあります。ただ、自白というのは定義付けが非常に難しくて、例えば人が死んだら殺人であると言われると、一般の方は殺してしまったんだから殺人だと思ってしまう。ところが、実際にはそれは殺意がなくて傷害致死だったという事案はたくさんあります。自白事件の位置付けというのが難しくなってくる。そうすると、弁護の必要性とか相当性とか、かなり抽象的な基準になりますけれども、そこら辺で当面は絞っていくのかなというような議論をしていますが、大変難しい問題であると思います。ただ、重大な事件、死刑、無期とか、あるいは否認事件、正面から争っている事件、あるいは弁護能力に劣る人々に対しては、職権ないしは必要的ということで本人の意思にかかわらず弁護人を付けるということも一部制度としては必要なのだろうと思います。
 担い手の問題ですけれども、全国の弁護士が基本的には担っていくという制度設計が大切であろうと思います。ただ、先ほども言いましたけれども、必ずしも十分にそれでは対応し切れない、弁護人を確保できないという問題があります。したがって、補完的に契約弁護士あるいは常勤弁護士、更にはフランチャイズというような制度の導入も検討すべきであると思っています。当協会は試験的ですけれども、民事に限定されておりますが、スタッフとか契約というものを実施しております。制度設計の上では、何らかの参考になるのではないかと考えております。
 私選弁護と公的弁護の関係ですけれども、資力のある人は一般論としては私選でやっていただいて、ない人に対しては国選、公的弁護という振り分けになるのだろうというふうに思います。ただ、その前提として、現在弁護士会が行っている当番弁護士制度を、弁護士会は現在1回の接見は1万円ということでやっていますけれども、国費による当番弁護士制度に切り替えた上で充実したらどうかというふうに思っています。当番弁護士が取調べの状況等々を確認し、今後の見通し等を説明する。それと同時に資力のチェックをして、私選になるのか、国選になるのかという仕分をするというスクリーニング機能を持たせたらどうかと思っています。これが実質的な弁護人依頼権を確保する一つのステップになるのではないかと思っております。
 問題は資力の確認の方法であります。当協会は既に自主事業として実施しているわけですけれども、当番弁護士に援助申込書を書いてもらいます。その中で援助の必要性についての弁護人の所見欄という欄がありまして、ここに経済状況を詳細に記載していただく。それで審査をした上で必要かどうかを判断し、刑事被疑者の弁護人を付けるという制度を実施しております。資料の要求はしておりません。迅速性が要請されますので、当番弁護士にきちんと事情を聞いて記載していただき、それを前提にして判断しています。そういう意味では、緩やかなチェックという形で制度をつくるべきであるというふうに思います。後日、資力があるということが判明した場合又は負担ができるということが判明した場合には、一部返していただくという制度設計も可能であろうと思っています。したがって、国費による当番弁護士制度に関しましては、資力の有無にかかわらず1回だけは無料として実施するという制度設計も必要なのではないかというふうに思っています。
 5ページになりますけれども、弁護人の選任要件の問題も実はなかなか難しい問題であります。本部の実施要領を資料として提出しておりますけれども、第10条に援助要件を記載しております。経済的に弁護料及び実費が支払えない者、資力要件が一つです。それと弁護の必要性、相当性があること、これが2番目の要件というふうに本部では決めております。全国各支部では若干取扱いが違いますけれども、東京都支部の例を挙げさせていただきますと、単身者で20万円以下、2人の場合が27.6万円、3人が29.9万円、4人家族の場合は32.8万円以下としております。必要性、相当性については、先ほども言いましたように、罪名とか、自白かどうかというのは絞りにくいのでケース・バイ・ケースということであります。費用は一部償還していただくというような取扱いをしております。
 5番目として、選任の始期、終期の問題ですが、ここに記載したとおりであります。
 弁護活動に関しましても、やはり自主性・独立性をきちんと担保することが必要なのだろうというふうに思っております。
 報酬については、審査の現場で混乱しますので、適正な報酬基準の策定が必要である。これは、場合によっては第三者機関が策定するということも考えられないだろうかと思っております。
 6ページの公的付添人の問題ですけれども、少年事件については考え方はいろいろあると思いますが、弁護能力が劣る、防御能力が劣るということはそのとおりだと思いますので、弁護士による付添人を付けるという制度を拡充すべきではないかと思っております。観護措置決定を受けた少年とか否認事件などは付添人を付けるべきである、その必要性は高いというふうに考えております。
 最後に、運営主体の問題について触れます。現在、リーガルサービスセンター構想というのが新聞報道等でなされていて、このリーガルサービスセンターが公的弁護も担うというふうな制度設計が議論されているようであります。これが正しく制度設計されるのであれば、国民の刑事に対するアクセスも大幅に改善されるのだろうと思っています。
 ただ、問題点が幾つかあると思います。4点指摘させていただきます。組織の独立性を確保すること。それから弁護活動の自主性・独立性を確保すること。さらに、先ほど言いましたように事業費、管理費をきちんと確保するシステムが確立される必要があること。最後には、弁護人・付添人の適正な報酬が定められることというふうに思っております。
 まだまだ制度設計や細かい点は幾つかありますけれども、抜本的な検討がなされるべきであるし、21世紀の司法をどうすべきかという観点で議論をしていただければと思っております。以上であります。

○井上座長 ありがとうございました。最後の方は、時間の関係で略述するにとどめていただきましたが、あらかじめ御準備いただいたペーパーもありますので、そちらも併せて読んでいただければと存じます。
 それでは、皆さんから質問をお願いしたいと思います。どなたからでもどうぞ。

○酒巻委員 資力に関する審査について、お尋ねいたします。迅速性を要するということで、最初の段階では具体的な資料は求めずに自己申告で判断するというお話でございました。それはよく分かるところではありますけれども、その後、本当に申告どおりなのかどうかということを後日の段階でチェックするための具体的な方策について、何かアイデアがあれば御意見をお聞かせいただければと思います。

○藤井氏 現在、協会でやっているのは資料を求めていないわけですけれども、実際に資力がないということでほとんど回収はできていません。これは支部によって取扱いは違うのですが、一番回収ができている支部で、大阪支部が2割ぐらいの回収をしております。その他の支部については1パーセントにも満たないというのが現在の実情であります。なかなか実刑だったりして回収できないというのが一般的ですが、やはりある程度の回収ということも最近では言われていて、東京都支部も、一部、場合によっては家族からも回収できるのであれば回収しようというようなことを考えております。将来的な問題としてはこの資力要件というのはやはり議論になるのだと思いますので、例えば、後日、何らかの資料を出してもらって審査機関がチェックをするということも考えられるかと思いますが、現時点で当協会はまだそこまでできないというのが実情であります。

○井上座長 ほかの方、いかがですか。

○大出委員 2ページのところで数字を挙げていただきましたけれども、この間の増加率というのは大変なものだということで数字もそのことを示しているわけですが、その数字の増加は、そのことによって必要と思われる事件をどの程度、どう現時点でカバーしているというふうに協会ではお考えでいらっしゃるのか。かなり急激に数字が増えているわけですから、本来必要なものについて当初全く援助がなされていなかったということなんだろうと思うのですが、これは当番弁護士などを見ていますと、現在4割ぐらいまで行っているのでしょうか。つまり、そういう伸び方がこの点についても予測されるような実態なのかどうかということについて、何か御承知であればお願いします。

○藤井氏 まず、この伸び率なのですけれども、当初非常に少なかったというのは基本的には財源だと思います。財源がまず足りないということと、この制度自体がまだ全国の弁護士に周知徹底されていなかったという原因もあると思います。現在は当番弁護士は、もしお金がなければ協会の刑事被疑者弁護援助制度がありますという制度の告知をすることが義務付けられていて、これは弁護士会によって違いますけれども、場合によっては当番弁護士が受任する義務もあるというような制度にしております。それと、被疑者の人たちにもこの制度があるということが知れ渡ってきているというような原因が複合して増加しているのだろうと思います。
 従来は、必要がなかったから件数が少なかったというわけではなくて、必要がある事件もたくさんあったけれども、残念ながら弁護士の受入態勢の問題、それから財源の問題等々で、そこまで援助ができなかったということが実情ではないかと思っています。

○大出委員 もう一つよろしいですか。そのときに、3ページの援助要件の厳格化ということで、前にもちょっとお伺いしたことがあるのですが、単位弁護士会によっては1件というものもあったり、少年の場合はゼロだったりするときがありますね。その場合に、まさに財源の問題との関係で自主規制的な扱いが行われているのではないかというようなことも伺ったりしたことがあるのですが、その辺の実態について何か御承知のことはありますか。

○藤井氏 件数が少ないところは、むしろ自主規制ではなくて、場合によっては私選で受けているとか、受入態勢というか、弁護士会の考え方の問題ではないか。むしろ多い方が自主規制を場合によってはしていると思います。例えば、福岡では、身柄全件ということで一生懸命付添人を付けて少年などはやっているわけですけれども、当然財源の問題があって、これは単位弁護士会、福岡県弁護士会が協会の方に補助金を出してこの制度を立ち上げているんですね。日弁連から来るお金には限りがありますので、その財源の問題から言うと、むしろ件数を増やしているところの方が、場合によっては事件を絞っていくということも考えざるを得ない実情があるのではないかというふうに思っています。

○井上座長 その自主規制というのは、援助の申出があったのに断っているということでしょうか。

○藤井氏 今まで資力要件で断ったというのは、そんなにパーセンテージはないのです。数パーセントぐらいで、現時点ではお金のない人が多いものですから、資力要件は多分、今とそれほど変わらないかなという気がするのですが、必要性、相当性の問題で、財源が今、自主事業で限られていますので、例えば先ほどもちょっと言いましたけれども、オーバーステイでも強制送還が見えてしまう事件というのがあることはあるんですね。こういう場合は要らないんじゃないかと絞っていくという議論をするのですが、外国人はやはり非常に不安ですから、むしろそういうケースにこそ弁護人を付けるべきだという議論もあって、個別具体的に考えようということをしています。

○井上座長 私の質問は、これから絞ろうということではなく、現在でも財源が限られているので、実際に扶助を断ることがあるかということなのですが。

○藤井氏 あります。パーセンテージは非常に限られていますけれども。

○井上座長 もう一つ、先ほど単位会に追加をお願いしたときには一般会計から出るとおっしゃったように思うのですが、そのお金というのは2ページの「日弁連補助金」の中に入っているのですか、それとも、「その他」の方に入っているのですか。

○藤井氏 「その他」です。

○井上座長 「その他」の多くは単位会からということですね。分かりました。

○浦委員 形式的なことで恐縮なんですけれども、扶助協会7-1の2ページ目の刑事被疑者弁護援助事業の推移というところに実績件数というのがございますが、これと日弁連資料で後で説明があるかと思いますけれども、日弁連7-2というのがあるのですが、その数字でちょっと件数に差があるようなんですけれども、これについてはいかがですか。

○藤井氏 日弁連の方は、最高裁の統計に合わせていわゆる暦年で1月1日から12月31日までということで、平成5年、6年、13年と出ているのではないかと思っています。協会の方は予算管理をやっているので4月1日からで、ここは年度なんですね。平成2年度、平成13年度で、13年度だと4月1日から14年の3月末までということで、3か月ずれているんです。ですから、日弁連の数字と当協会の出した数字が違うんだと思います。聞いたところでは、日弁連は最高裁の統計と連動させるというような趣旨で暦年でやっているというふうに伺ったので、若干数字が違います。

○井上座長 ほかに、よろしいですか。
 それでは、本日はどうもありがとうございました。
 続きまして、警察庁からのヒアリングに移りたいと思います。警察庁の杵淵刑事指導室長から御意見を伺いたいと存じます。

○杵淵氏【警察庁刑事局刑事企画課刑事指導室長】 私の方から、警察庁の御意見を申し上げさせていただきたいと思います。お手元には、「第7回公的弁護制度検討会資料」という形でお配りしておりますが、ここに申し上げます点の要旨を記載しておりますので、御参照いただきながらお聞き願いたいと思います。
 まず初めに、本検討会で議論されております各論点についての御意見を申し上げる前提といたしまして、公的弁護制度導入に当たりましての警察庁の基本的な考え方を申し上げたいと思います。被疑者段階における公的弁護制度は、被疑者の権利保護の観点からその導入が決まったものと承知しております。被疑者の防御権は、その性格上、公共の安全と秩序の維持のために行われます警察の捜査活動と、いわば衝突するという場面も少なくないものでございますので、公的弁護制度の具体的な制度設計に当たっては、これらの両者の調和をどのように図るかという視点も不可欠ではないかと考えております。特に犯罪情勢が深刻化し、治安について国民の抱く不安が増大しております近時の情勢にかんがみれば、かりそめにも公的弁護制度の導入が治安の悪化につながるようなこととなれば、司法制度改革に対する国民の期待にこたえたことにはならないものと思っております。
 そのような観点から、警察としては、公的弁護制度の導入により捜査活動に支障が生じることのないように十分に配慮していただくことが必要であると考えております。以下、敷衍して申し上げます。
 近年、犯罪情勢の深刻化や、いわゆる精密司法に対応した捜査の緻密化等によりまして警察の第一線での捜査負担は極めて重いものとなってきております。事件数の増加という点では、刑法犯認知件数が過去10年間で約100 万件の増加を見せていることを挙げることができます。一昨年、刑法犯の検挙率が20パーセントを割り込んだことは御記憶に新しいところだと思いますが、その原因の一つとしては、認知の増加に検挙が追いつかないことに加え、新たに発生した犯罪への対応に追われまして、検挙した被疑者の取調べに時間をかけることができず、余罪の解明が困難になっているという事情がございます。
 また、精密司法に対応した捜査の緻密化により、被疑者の起訴に必要な捜査も増加しております。例えば、被疑者の勾留期間は昭和46年には10日以内のものが約7万件、20日以内のものが約1万9,000 件でしたが、平成13年には前者が約5万4,000 件と減少しているのに対し、後者は約6万7,000 件と大きく増加しているところでございます。こうした変化の背景には、精密化した公判での審理に備え、いわゆるつぶしの捜査が綿密に行われるようになっていることや、そうした捜査を行う前提となる取調べもますます重要になってきていることがあると考えております。また近年、来日外国人犯罪の検挙が増加しており、例えば検挙人員で見ますと、平成14年には統計によって確認できております昭和55年の検挙人員の約5.3 倍となっているわけでございます。単純に申し上げますと、通訳を介した取調べというのは通常の2倍の時間がかかるわけでございまして、第一線における捜査負担を著しく増大させる原因となっております。
 さらに、最近、捜査の現場からは長時間の弁護人接見が増えたために、取調べや引き当たり等の捜査時間の確保に影響が出ているとの声を聞くことがあります。ちなみに、全国の警察の留置施設に収容されております被疑者・被告人に対する弁護人による年間延べ接見回数は、平成4年には約10万回だったものが平成13年には約23万7,400 回と約2.4 倍の増加となっております。そのうち、1時間を超える接見時間を要したものについては、平成4年の約3,800 回に対し、平成13年には約1万2,400 回となっておりまして、約3.3 倍の増加を見ております。接見回数の増加を上回るペースで長時間の接見の割合が増加しているということでありまして、こうしたデータからも弁護人の接見が長時間化している傾向を読み取ることができます。
 長時間の接見それ自体を直ちに問題と申し上げているわけではありませんが、先ほどから申し上げているように、捜査負担の増大とあいまって、長時間の接見によって捜査にかけることのできる時間が短くなり、第一線の捜査スケジュールは極めて過密なものとなっております。今回、被疑者段階における公的弁護制度が導入されることに伴い、少なくとも弁護人の接見回数が増加することは間違いないものと思われますので、更に厳しい状況になるわけでございます。
 このような中、捜査手続の基本構造は昭和23年の現行刑事訴訟法制定以来変更がなく、警察としてはどれだけ捜査事項が増えようとも、またどれだけ弁護人の接見時間が増えようとも、逮捕後、通常は起訴まで最大でも23日間という限られた時間の中で、精密司法という言葉に象徴される公判での審理に耐え得るよう、取調べを始めとする捜査活動を行っていかなければなりません。限られた時間の中、増大し続ける捜査事項をこなすことさえ厳しくなっている現状におきまして、公的弁護制度の導入により、更に警察に与えられた時間が減るようなことがあれば、警察の捜査活動に大きな影響を与えることは間違いないということを申し上げておきたいと思っております。厳しいスケジュールの中で激務に耐えております第一線捜査員のことを考えますと、被疑者の防御権強化を図るのであれば、そもそも捜査機関に許された23日間という時間制限についても見直しが検討されるべきではないのかと思わずにはいられません。いずれにせよ、このような厳しい状況の中、警察は公共の安全と秩序の維持という公益の実現に向け、捜査力、執行力の充実強化に全力を挙げているところであり、こうした取組みの重要性は国民の視点からも被疑者の権利保護に勝るとも劣らない価値を持つものと御理解いただいていると考えております。委員の皆様におかれましても、このような警察の声にも耳を傾けていただき、より良い制度の導入に向けての検討を行っていただければ幸いと思っております。
 それでは、以上を前提として、検討会で議論されております論点の幾つかについての御意見を申し上げたいと思います。
 まず、弁護人選任の始期についてでございますが、選任の始期につきましては、これを逮捕段階からとするか、勾留段階からとするかについての議論があるものと承知しております。選任手続がどのようなものになるかにもよりますが、捜査への支障を最小限のものにするという観点から、現実的な案としては、勾留質問時に裁判官が本人の意向等を確認の上、選任手続を行うのが適当ではないかと考えております。
 その理由の第1は、逮捕後送致までに許されている時間が短いということであります。48時間という時間で送致をする手続をしておりますが、実際にはその時々の身柄拘束者数や警察、検察の体制の問題等から、これよりはるかに短い時間で送致をすることが少なくありません。例えば、深夜に逮捕した被疑者を48時間後の深夜に送致するわけにはまいりませんので、遅くとも翌々日の午後には送致することになりますが、通常、深夜の逮捕であったことを考慮し、翌日の午前中は睡眠時間に充てますので、実際に取調べができる時間は翌日の午後と、翌々日の午前中だけということになります。取調べだけでなく、多くの捜査員や留置係員が逮捕から送致までに必要な事務に忙殺されまして、逮捕から送致までの48時間は送致処理のために与えられた必要最小限の時間であるというのが捜査現場における実感であります。この時間内の被疑者の取調べ時間を削ったり、あるいは他の警察力に負担をかける手続を導入することは極めて問題があると考えております。
 この点、第2に、警察で処理されている事案の中には、逮捕後間もなく釈放される事件も数多くあるということを挙げたいと思います。例えば、交通関係法令違反等の事件では、逮捕された被疑者のうち4割以上が勾留前に釈放されている状況にありますし、出入国管理及び難民認定法違反事件におきましては、逮捕後検察官に送致することなく、同法65条の規定に基づきまして入国警備官に引き渡すケースも少なくありません。警察による同法違反全体の取締件数は任意捜査事件も含めて1万件程度である一方、網羅的な統計は取っていないものの、少なくとも年間1,000 人以上については、そのような65条による引渡しといった処理がなされているとの集計もございます。このような事案についてまですべて公的弁護制度の対象とすることは、警察への負担を含む手続上のコストの面からも適当なものとは思えません。
 次に、必要的選任制度の当否についての議論がなされておりますが、その前提として、仮にどのような制度を採用するとして、弁護人が確保できないから被疑者を逮捕できないとか、捜査が進められないというような事態が生じることは絶対に避けていただかなければならないと思います。あえて申し上げるまでもないこととは思いますが、事件の捜査におきましては、ほんの1時間遅れるだけで被害者の生命が危機にさらされたり、証拠が滅失してしまう、あるいは被疑者、関係者が逃亡するということがあるということを御理解いただきたいと思います。また、否認事件を必要的選任事件とすべきとの議論もあると承知しておりますが、被疑者に否認を慫慂することにほかならず、不適当と考えております。
 なお、そのような前提を申し上げた上、必要的選任制度の当否に関連し、被疑者と直に接することの多い捜査機関としての経験から申し上げますと、被疑者の中には経済的に困窮しているわけでなくても、事実関係を争う姿勢を見せず、弁護人の必要を感じないという者も少なくないものと私どもは感じております。これは恐らく、弁護人を選任することの費用対効果を計算してのことと思いますけれども、私選弁護人を選任する経済力があるにもかかわらず、あえて選任していない者に公費で弁護人を選任するということが果たして国民の理解を得られるのであろうかとは思っております。御参考までに申し上げておきます。
 弁護人の選任要件についてでありますが、被疑者の資力を公的弁護人を付する要件として考慮するとの議論がございます。警察では取調べの際に被疑者の経済状態を聞くことはありますが、その時期や聴き取りの程度はケース・バイ・ケースと言わざるを得ないところでございます。少なくとも、警察での聴取を本制度の必要的な手続として組み込むようなことは適当ではないと考えております。
 また、経済状態につきまして、本人申告の裏付けを取るということは必ずしも容易な作業ではありません。結局、被疑者の申告のみで判断するような形にならざるを得ないのではないかというふうにも思います。そのような本人申告を聴取する機会としても、選任手続は勾留質問時が適当ではないかと考えております。
 弁護報酬の算定方法につきましては、刑事手続が持つ機能と目的から乖離した評価基準とならないようにすべきだと考えております。タイムチャージとしたり、接見の回数や準抗告の回数で報酬が加算されるような制度とすることは、そのこと自体が自己目的化して、結果として捜査活動が阻害される事態が生じることを私どもは懸念しておりまして、捜査が極めて限られた時間の中で行われるということも考えますと、適当なものとは言えないと思います。
 公的弁護制度下での弁護活動の在り方についてでございますけれども、弁護活動の水準・適正の確保という点では、公的弁護制度が公的資金の投入を要する制度である以上、国民の理解と支持が得られるものでなければならず、これまで以上に弁護活動の公正・適正を求められることが当然だというふうに考えます。
 しかしながら、適正な弁護活動を逸脱したケースの発生はしばしば耳にするところでありまして、例えば銃刀法違反により逮捕され、留置場に勾留中である被疑者と接見した際、接見等禁止の決定がなされていることを知りながら、被疑者にけん銃の入手を指示した者から託された虚偽供述をそそのかす内容の手紙を接見室の仕切板越しに示して閲読させた事案などはよく知られているところであります。
 実際、意図したものか否かはともかく、共犯被疑者間や、被疑者と暴力団等所属組織との間のいわば通謀に加担しているのではないかと私どもは疑いたくなる、あるいは疑わざるを得ないケースの存在を現場の捜査員からはしばしば耳にするところであります。また、弁護人の立会いがない限り黙秘するよう勧めるような弁護活動などは、我が国の刑事手続の現実を余りにも無視したものではないかというふうに思います。公的資金の投入を要するものである以上、国民の理解と支持を得られるものであるべきことは当然であり、不適正な弁護活動を防止するための何らかの水準・適正確保方策は検討する必要があると考えます。
 また、最近は外国人被疑者との接見の際に、弁護人等に同伴している通訳人に問題がある事案もしばしば見られるところであり、逮捕された被疑者の関係者が弁護人の通訳として被疑者との接見を行っていたという事案なども判明しております。今後、国際化の進展に伴って外国人が関連する事件はますます増加する可能性があること、公的弁護制度の導入によって受任事件の増加も予想されることにかんがみますと、良質な通訳人の確保が困難になっていくことも予想されます。公的弁護制度の導入に国民の理解と支持を得るためには、通訳選任等の場面において、弁護人が意図的にではなくても不注意によって結果的に不正な行為を許してしまうことのないよう、何らかの注意義務を課すような制度も検討に値するのではないかと考えます。
 次に、公的付添人制度についてでございます。警察では、少年警察活動を少年の非行の防止及び保護を通じて少年の健全な育成を図るための警察活動と規定して、その一層の適正化及び充実強化を図っておりますほか、犯罪を犯した少年についても家庭裁判所における審判その他の処理に資することを念頭に置き、少年の健全な育成を期する精神を持ってこれに当たることとしているところでありまして、少年の将来、更生に関心を有する立場から、家庭裁判所に送致された後の手続についても重大な関心を持っているところであります。
 少年審判は、非行ある少年にその責任を自覚させ、自己の行為の意味及び結果について十分理解させるよう、被害者やその遺族に与えた被害の内容の重大さ、社会に与えた影響等について質問し、あるいは説示して非行ある少年の性格の矯正及び環境の調整を行い、少年の健全育成を期することを目的としているものと理解していますが、その前提となるものは、要保護性の認定とともに正確な事実認定であると考えます。少年審判において公的付添人が付されることとなれば、公的付添人による弁護活動は活発化し、事実認定について争われることが予想されますが、公的付添人が少年の立場に立った主張を行った場合、裁判官がこれに反論することとなれば、あたかも裁判官が少年と対峙するかのような状況となり、自己が裁判官から信用されていないのではないかとの不信の念を少年に抱かせ、少年審判の教育的機能を損なうおそれがあると考えております。したがって、このような場合には公益を代表する検察官が少年審判に関与し、裁判官を補佐することにより、偏りのない正確な事実認定をすべきと考えます。また、被害者への配慮の視点からも、被疑者の主張のみでなく、公益を代表する検察官が処分に意見を述べられるようにすることが望ましいと考えております。
 以上、6項目の個別論点について意見を申し上げましたが、警察としては、その他の個別論点も含め、公的弁護の制度設計全般にわたって警察捜査への影響を念頭に置いた検討を進めていただければと考えております。警察が抱えております業務負担の問題は、犯罪捜査以外の部分でも大変高いものがございます。警察官1人当たりの負担人口も著しいことは御案内のとおりかと存じます。最近では、相談件数等も急増しているところでございます。このような厳しい環境の中で、警察は公共の安全と秩序の維持のために全力で取り組んでいるところでありますので、警察力に負担をかけることのない制度設計としていただくよう、重ねてお願い申し上げます。以上でございます。

○井上座長 どうもありがとうございました。それでは、ただいまの御意見につきまして、どなたからでも御質問がありましたらどうぞ。

○酒巻委員 限られた捜査時間内における捜査活動への支障への危惧ということを強調されていたと思われますけれども、仮に逮捕留置段階から、いわゆる公的被疑者弁護の選任のための手続を開始する制度設計にした場合、決定的に障害になるとお考えになる点はどこなのでしょうか。もしそれがはっきりしていれば、具体的に御説明いただければありがたいのですが。

○杵淵氏 現時点では、選任手続がどういうふうになるのかが分からないので回答は難しいのでございますが、まず手続的に逮捕の段階で、被疑者を弁護人選任のための過程で何か取り調べたりするとか、身柄を裁判所に持って行くとか、どのようなケースになるかは分かりませんが、今、逮捕して弁解録取書を取った後に基本的な取調べをしたりして、また場合によってはそうした取調べの結果として留置継続の必要性等を判断し、あるいは非常に迅速な展開の必要な事件では、早く供述を得ることによって関係証拠を押さえ、あるいは関係被疑者を押さえ、場合によりますと事案によっては被害者の救出等の活動のためにも素早く供述を得ていかなければならないわけであります。
 そのように、事件によってはいろいろな展開を見せてまいります。その中で、送致までの限られた時間の中に、特定の手続が、どういう形でかは分かりませんが、入ってきますと、捜査への影響を考えざるを得ないわけです。本当に送致までの時間というのは、いわば戦場のような状態になったりもしますので、それは個別に子細に後から見れば、時折空いているところもあるのかもしれませんけれども、基本的には非常に時間のない中でどんどんいろいろなことをやっていく、しかも、取調べに当たっている者だけではなくて、裏付け捜査などに当たっている者もいるわけで、捜査指揮官からすれば、多数の捜査員からいろいろな情報が挙がってくる中で、捜査指揮事項を組み合わせながら、また取調官の方にも指示をしながらというような形でやっていく。そして、多くの捜査員がいろいろな形で動いていて組み合わせていく。そういう流れが、48時間以内の中でかなり初動として立ち上がっていくわけでございます。
 その中にどういう形の手続が入ってくるかというのが分からないとなかなか申し上げにくいのですけれども、ただ単に紙を一つやり取りするだけだという話であるのかどうかということにもよってくるのかもしれませんが、今のような中でその流れが少しでも壊れてしまう、こちらの予定した作業が止まってしまうといったことになれば、捜査の立ち上がりの部分でございますので、大変なダメージを受けることになるということを危惧しているということでございます。

○井上座長 ほかの方はいかがですか。それでは大出委員。

○大出委員 何点かお教えいただければと思います。まず1ページ目のところで、接見の回数が増えている、あるいは時間が非常に延びている、増加しているというようなことでお話がありましたけれども、これはもちろんトータルな数字ですよね。つまり、各事件でどうなっているかということについてまで掌握されているのかどうかですね。
 それから、各時間についても1時間を超えるということなのですが、もちろん秘密接見ですので、警察側ではその内容は御承知ないと思いますが、私どもの感じるところでは、むしろその1時間程度というのは、どうしても弁護人の接見としては必要な時間だという評価もあり得るかと思うのですが、その点について何か御評価があるのかどうか。
 それから、先ほど送致手続で大変お忙しい思いをされているというお話なのですが、先ほど若干お伺いできたような気もするのですが、もう少しお忙しくていらっしゃる具体的な中身の一番の大変な部分はどこなのかというようなことを具体的にお教えいただければと思います。
 ただ、他方では、この間の事態との関係でいきますと、48時間あるいは72時間というようなことであった場合に、その時間が、今、捜査当局が大変お忙しくて事件解決に向けて大変な御努力をされているということが、逆に被疑者側にとってみれば非常に大きなプレッシャーになるということもあろうかと思うのです。そのときに、被疑者側をサポートする存在がなくて適正さというのは確保できるということになるのかどうかというところについては議論があるところだと思うのですが、その点についてはどういうお考えをお持ちなのか。
 それから、先ほど不適切・公正を害する弁護活動というところで例を挙げられました。確かに、先ほど挙げられた例というのはそういう事例に当たるのかもしれないという気はしますが、警察当局の方でお考えのところで、それは大体具体的にどの程度の割合を占めるというふうに何か具体的な数字をお持ちでいらっしゃるのかどうか。
 それから、黙秘権の行使を勧めるというようなことが刑事手続の現実を無視しているというような言い方をされたかと思いますが、刑事手続のどういう現実を無視していることになるのか。以上、申し訳ございませんが、お願いします。

○杵淵氏 大量の御質問でございますが、まず接見の数の関係でございますけれども、先ほど申し上げましたとおり、まずは長時間の接見が大変増えてきているという現場の声があるということが基本にありまして、私どもも統計的にはどういうふうに見えるのかということでトータルな統計を見てみたところ、こういうことがありますから、そういう声を裏付けるような状況があるのではないかという御説明をさせていただいたところでございます。
 送致手続の具体的なお話は、今、基本的には酒巻委員にお話申し上げたことに尽きるかと存じます。
 それから被疑者のプレッシャーというお話でございますが、被疑者の権利の保護としてどうあるべきかということについての議論が正にこの検討会で御議論されているのだろうと思っておりますし、捜査機関としては適正捜査にはきちんと努め、適正な活動をやっているということで、後は議論に当たって現実の捜査の必要性を踏まえた観点で御判断をいただくということかと思いますので、そこについて私からコメントするのは余り適当ではないのかなと思っております。
 それから不適切な弁護の数という話でございますが、具体的な数が分かっていればもちろん申し上げる話でございます。私どもとしてもこういう例もあるというのはよく承知しておりますし、またいろいろな形で先ほど申し上げたとおり弁護活動の在り方に疑問を持つようなケースを耳にするところであるということを申し上げているもので、それ以上でも以下でもございません。
 それから黙秘権のお話の部分でございますが、私が申し上げましたのは弁護人の立会いがない限り黙秘するよう勧める弁護活動というふうに申し上げたわけでございます。

○大出委員 それが刑事手続の現実を無視した意見だというふうにおっしゃったと思うのですが。

○杵淵氏 弁護人の立会いという形で拘束被疑者が取調べを受ける権利はないわけであります。正にそれは取調べを拒否しなさいと言っているのと同様かと思いますけれども、これはこの場での話に適当かどうかは分かりませんが、我が国の刑事手続における立証過程において実際は取調べというものがかなり重要な機能を営んでいることは否めない事実だと考えておりまして、私どもは別に自白を強要するとか、自白を偏重するつもりは全くございませんけれども、我が国の法制度上、一定の事項を立証していく上で、取調べを欠いてしまっては多くの事件の立証は大変困難であるというふうに考えておりますので、そうした観点からしますと、少なくとも黙秘権を告知されるのはもちろん権利であり、当然のことでありますが、事実上取調べを行い得なくする行為というのはどういうふうに考えるべきなのかということを申し上げたいということでございます。

○井上座長 それでは、土屋委員どうぞ。

○土屋委員 二つほどお伺いしたいのです。一つは公的付添人制度のことなのですが、公的付添人が付される場合には、検察官が少年審判に関与すべきであるという御意見を言っていらっしゃいますけれども、先ほどちょっと法律扶助協会からの報告にもあったのですが、一部の弁護士会では全件少年事件には付添人を付ける運動を既にされていらっしゃるという状況にあるわけですね。仮にそういうように全件に付添人を付けるというような事態になったときには、検察官もすべて全件に付けるべきであるということを言われるつもりなのか。あるいは、何らかの場合にもうちょっと絞って、例えば事実関係に争いがある場合とか、そういう場合に限って、そういう主張をするならば検察官も関与すべきであるというような一定の範囲の絞り込みをかけて付けるべきだというような主張をされるのか。その辺りが分かりにくかったものですから。とにかく少年付添人が付いた場合には全部検察官に関与させるべきであると単純に受け取っていいのか、あるいは何らかの条件を含みとして持たせていらっしゃるのか、その辺りを伺いたいと思います。

○杵淵氏 公的付添人制度につきましては導入の検討をするということだというふうに承知しておりますし、またその中身については公的弁護制度以上にまだいろいろ議論があるところと思っておりますので、そういう意味ではそこまで細かく議論に立ち入って御意見を申し上げたつもりはございませんで、基本的に事実について争うという形になったときの少年の健全育成という観点から考えたときに、やはり公的付添人が付くのであれば検察官が関与することが、裁判官との関係でも、また被害者の関係としても、最も適当な形になるのではないかという点で申し上げたということで、では個別具体的にどういう条件とするのかという点について、詰めた意見を述べたものではありません。

○土屋委員 これはまた別の話なのですけれども、この検討会で初めて出てきたテーマなので、外国人犯罪の通訳人について御意見を伺いたいと思います。
 通訳人の不適正通訳があった場合に、その処罰なども考えるべきであるという御趣旨かなと先ほどお伺いしたのですけれども、通訳人の制度というのは、いわば資格の認定制度があるわけでもありませんし、公的な制度ではないはずだと私は思うのですが、そういう制度が公的にきちんとつくられていない状況の中で、そういう処罰規定を設けたりすることにもちょっと疑問を感じないわけでもないのです。
 つまり、不適正通訳があれば、それは処罰されるべきだという御主張は分かるのですけれども、それより先に一種の制度的な整備というか、そちらが行われるべきであろうと私などは考えているために、ちょっと話が飛び過ぎているかなという気もしないではないのですけれども、その辺りの通訳人の制度についてのお考えはいかがですか。

○杵淵氏 このお話は、公的弁護制度を導入した場合の公的弁護活動における公正・適正な水準の確保という意味で見たときに、外国人被疑者の接見問題の中では通訳人という問題も出てきており、その際、弁護士さんが故意にやっておられるとは必ずしも思っておりませんけれども、やはりそういう点で御注意いただかないと、国民の目から見てどうなんだ、という話としてはこういう分野もございますよということを申し上げております。何らかの注意義務を課すというお話はさせていただきましたが、それが直ちに罰則規定とか、そういうつもりで申し上げたわけではありません。いずれにしても、そういう問題についてもきちんと措置していかなければ、不適正な事案が起きればやはり国民の目から見て何だろうということになるのではないかという意味で申し上げた例でございます。最近、目についておりますので申し上げました。

○井上座長 では、時間の関係がありますので、浦委員で最後ということにさせていただきたいと思います。

○浦委員 先ほど接見の回数が増え、時間が長時間にわたってくる。それによって取調時間が減少する。したがって、23日間の見直しも必要ではないかというような趣旨のことも言われました。もちろん言うまでもございませんけれども、被疑者・被告人の弁護人依頼権というのは憲法上の権利であるわけですから、弁護人が適正な活動をし、数多くの回数接見し、必要な時間接見するのは当然のことであるわけですね。当たり前のことだと思っておりますけれども、一方、それによって取調時間が減るようなことを言われていたのですが、個々の事件で取調べを何時間ぐらいしておられて、かつ、それがどれだけその接見で制約されたと言われるのか、そういうデータでもあるのですか。

○杵淵氏 接見によって制約されたとか、個々の事件の取調時間がどうかということを具体的にデータを持って申し上げているわけではありません。正にいろいろな形で私どもの捜査スケジュールが非常に厳しくなってきているということを申し上げているわけです。

○浦委員 それは弁護活動の当然の結果であって、それは甘受されなければいけないことだと思います。それは分かりました。

○杵淵氏 申し上げたかったのは、刑事訴訟法制定の過程で、どういう形で捜査活動が行われていくことが予定されていたのかということにもかかわるかと思いますが、少なくとも制定された後に動き始めた刑事司法の中でのそういった捜査事項、捜査の緻密度、あるいは弁護人の接見回数、活動等から見たときに、その後に捜査を取り巻く状況が大きく変化してきていますよということを申し上げ、そうした変化を受けて捜査活動というものに充てられる時間というのはどうあるべきかということも考えなければいけないのではないかということを申し上げたかった次第でございます。

○浦委員 それからもう一つ、公的弁護制度を導入する以上は、公的弁護の適正確保の方策を講じなければいけないのだという趣旨のことを言われました。
 一方、司法制度改革推進計画の中では、警察庁についても、「被疑者・被告人の不適正な身柄拘束を防止・是正するため、引き続き、刑事手続全体の中で、制度面、運用面の双方において改革、改善のための検討を行う」ということが入っておりましたね。この点について具体的に何をされていますか。どういう検討をされていますか。

○杵淵氏 司法制度改革では、特に被疑者関係につきましては取調状況の記録化というような形のことを制度設計するようにというお話がいろいろな議論の中で決まったと承知しておりまして、政府としては、それを受けまして、本年の半ばごろまでに所要の措置を講じるということになっておりますので、それに向けまして法務省等の関係機関とも協力しつつ、作業を進めているところでございます。

○浦委員 それは当然なのですが、私が申し上げましたのは、不適正な身柄拘束を防止・是正するための改革・改善の検討を行うということが推進計画に明記されている点についてですが、その点についてお尋ねしているのです。

○井上座長 浦委員、本日の報告に絞って質問をしていただきたいのですけれども。

○浦委員 分かりました。したがって、公的弁護についての適正確保策をおっしゃるんだから、警察としてもそれなりに姿勢を正して捜査の適正確保に当たられるべきだと思うので、特にそういうことを申し上げた次第です。

○杵淵氏 警察としては、常々、適正捜査の確保のために努力をし、また指導等にも当たっているところでございます。しっかりと指導させていただいております。

○浦委員 たくさん言いたいことはございますけれども、時間の関係がございますので、今、ここではこれ以上申し上げません。

○井上座長 まだいろいろ言いたいこと、聞きたいことが山ほどあるということは重々承知しておりますが、お待ちの方もおられますので、本日の警察庁からのヒアリングはこれで終わらせていただきたいと思います。どうも御苦労様でした。
 続きまして、日本弁護士連合会から河原副会長に御出席いただきました。

○河原氏【日本弁護士連合会副会長】 それでは、日本弁護士連合会を代表いたしまして公的弁護制度に対する日弁連の意見を申し上げたいと思います。資料・日弁連の7-1、7-2、7-3を御覧いただきたいと思います。
 日弁連は、1980年ごろから被疑者国選制度の検討を始めまして、1990年9月から当番弁護士制度を発足させました。その後、法律扶助協会との協力による被疑者弁護援助、少年保護事件付添援助も行ってまいりました。先ほど扶助協会の方がおっしゃったとおりです。
 当番弁護士制度につきましては、各地に「当番弁護士を支える市民の会」が発足し、被疑者国選弁護の実現を主たる目的の一つとして活動がなされてきたことは、被疑者弁護活動に対する市民の一定の理解が得られてきたことの証左と考えております。当番弁護士の実績は、資料・日弁連7-2と7-3を御覧いただきたいと思います。
 日弁連は、この度、被疑者・被告人に対する公的弁護制度が正式に始まることを心から喜び、この制度の成功に全力を尽くす決意でございますが、それとともに、公的付添人制度が必ず実現するよう強く望みます。
 それでは、骨子だけを述べたいと思います。
 まず、新たに導入される被疑者に対する公的弁護制度の対象事件でございますが、身体を拘束されたすべての被疑者とし、罪名による対象事件の限定はなされるべきではないと考えます。この点、罪名や法定刑によって限定を設けるべきとの見解もありますが、最近話題に上る痴漢えん罪事件、その他別件逮捕の事例などでは、資力のない被疑者・被告人が弁護人の援助なしに十分な防御をなし得ないことは明らかですから、弁護人による援助の必要性は罪名や刑の重さとは必ずしも関連しないと言うべきでございます。また、職権による選任制度及び必要的選任制度が設けられるべきと考えております。その具体的内容は後ほど触れさせていただきます。
 担い手である弁護士の確保方策でございますが、現在の国選弁護と同様、できるだけ多くの弁護士が担い手となるべきであり、そのためには国選弁護人候補として登録された弁護士が個別事件ごとに推薦されて選任される制度を基本とすべきと考えます。このため、日弁連としては弁護人確保体制の推進を図り、また各弁護士会は確実に弁護人を推薦するよう努める決意でおります。
 他の担い手である常勤弁護士については、その役割を国選登録弁護士では対応が困難な地域での態勢確保、長期間連日的開廷が想定されるような特別な重大事件への対応態勢確保を目的とするとともに、これらを通じて刑事事件を専門的に扱う弁護士層の育成による刑事弁護全般の質的向上を目指すものと考えています。この常勤弁護士所属事務所の設置主体、方式につきましては、日弁連として日弁連の支援する刑事専門弁護士事務所を設置し、必要なバックアップ体制を採ることの検討が進められておりますが、一方、弁護士過疎地域対策としての公設事務所の設置が更に進められております。
 新たに設立されると思われる独立行政法人あるいは法律扶助協会が公設事務所を設置する場合は、独立行政法人について法律で組織・人的態勢、取り分け役員の選任及び構成、組織の意思決定手続等にわたり、所属弁護士の弁護活動の自主性・独立性が保障される方策が講じられること、並びに主務官庁及び当該法人に個別弁護活動への指揮権がない旨の規定や、所属弁護士の身分保障規定などを定めること、公設事務所の具体的な設置箇所・規模については、日弁連及び当該地域弁護士会と十分な協議によって決定されること、所長弁護士及び所属弁護士の採用は、弁護士会の推薦に基づいてなされること等の条件が満たされる必要があると思われます。
 次に契約弁護士ですが、第3回検討会における説明によれば、契約弁護士とは「運営主体と弁護士法人ないし弁護士個人との間で、年間一定数の事件を受任するという契約をし、対象事件の弁護を行うもの」とされていますが、特に公設事務所を設けない地域では、受任態勢確保の一方策として検討対象となります。ただし、契約で年間受任件数と報酬総額を定める方式と、契約では年間受任件数だけを決めて、報酬は一般の登録弁護士からの選任と同じく、事件ごとに決定・支給される方式とが考えられますが、前者については適正な金額を契約で定められるかどうかが問題となると思いますし、他方、後者については一般の登録弁護士について年間受任件数を各自登録しておく制度と違いがあるかとの疑問がございます。また、いずれの方式についても、契約不履行の場合のサンクションなど、検討すべき課題があります。また、契約弁護士の推薦、受任件数、その他の契約内容についての弁護士会の関与が必要であると思います。
 私選弁護と公的弁護の関係でございますが、公的弁護は経済的理由その他により私選弁護人を選任できない者に対する制度ですから、その意味において私選弁護が原則的な方式であると言えます。そして、私選弁護人へのアクセスの確保のために、次に述べるとおり、国費による当番弁護士制度を設ける必要があると考えます。
 当番弁護士制度は、既にこの検討会で紹介しておりますけれども、この制度は身体拘束直後で外部との連絡が取れないばかりか、精神的にも動揺の大きい被疑者に対して、権利の告知、法的アドバイス、家族との連絡、その他の必要な援助を行うことを通じて、被疑者の権利行使を助け、また被疑者弁護活動の充実・拡大に貢献してきました。そして、冒頭述べたとおり、我々の当番弁護士活動は社会に相当程度認知されてきたと信じております。そこで、日弁連としては、身体拘束された被疑者に、資力等を問わず1回は無料で弁護士の助言を受ける機会を保障すること、私選弁護人へのアクセスを保障すること、国選弁護人選任請求権行使を援助すること等の必要性から、身体拘束に伴って生ずる被疑者の権利として、また弁護士へのアクセスを円滑にし、弁護人依頼権を実質的に保障するために、国費によって当番弁護士同様の制度が容認されるべきと考えております。
 そして、制度の骨子として、逮捕勾留された被疑者に法律で「無料で弁護士に法的助言を受ける権利」を保障し、権利行使には資力・罪名などによる制限は一切付さない。逮捕勾留された被疑者から申出があった場合、弁護士会又は新たに設置される独立行政法人等が当番弁護士を派遣する仕組みといたしまして、裁判所は関与しません。一定の重大事件、すべての少年の事件などについては、被疑者からの申出がない場合でも当番弁護士を派遣する制度を設ける。当番弁護士には、報酬、接見日当及び交通費等実費が支払われるという内容を提案いたします。
 公的弁護制度下での弁護人の選任要件につきましては、請求による選任、裁量的選任、必要的選任の三つの制度が必要だと考えますけれども、ここでは請求による選任と必要的選任制度について述べ、裁量的選任については書面に譲りたいと思います。
 請求による選任制度では、実体的要件として、「経済的理由・その他により自ら弁護人を選任できないこと」を要件とするとともに、「経済的理由により選任できないこと」に該当する具体的基準、資産・所得基準等を今後明確にする必要があります。
 手続的要件としては、選任手続の迅速性確保のため、選任決定時点では基準に該当することの疎明は求めず、被疑者の申告によって判断することとし、被疑者の申告が事実に反していた場合は費用の全額負担を求めるなどの制度も考えられるところでございます。なお、当番弁護士が接見した場合は、資力要件の説明によって被疑者の申告を援助することになると思います。
 必要的選任制度ですが、一定の重大事件等については、請求がなくとも裁判所が必要的に国選弁護人を選任する制度を設ける必要があります。それは、一定の重大事件や否認事件において、弁護人の援助の必要性が強く認められるにもかかわらず、被疑者が弁護人選任請求権を行使しないという事態が想定されるからです。選任対象事件としては、法定合議事件、否認事件、18歳未満の少年等の場合が検討されるべきです。特に、一定の年齢に達しない未成年者の場合、弁護人の要否について必ずしも自ら適切に判断することができるとは限らないからでございます。
 なお、日弁連は、この必要的選任制度は弁護人の存在を、取調べなど一定の捜査手続の必要条件とするものではないと考えております。
 さらに、選任できる弁護人の人数につきましては、2人以上の弁護人による場合には裁判所に更なる弁護人の数を請求することができるという規定が設けられるべきだと考えます。
 公的弁護制度下での弁護人の選任の始期及びその終期でございますが、始期は被疑者の弁護人の援助を受ける権利を実効的に担保するために、逮捕段階とするのが適切と考えます。終期につきましては、少年の被疑者の場合についてだけ述べまして、その他は書面に譲ります。少年の被疑者について家庭裁判所へ送致された場合は、家裁送致された時点で弁護人の地位は終了するのが従来からの運用ですので自然ですけれども、少年に公的付添人が選任されるときは原則として被疑者段階の弁護人が付添人となる制度が検討されるべきです。また、付添人選任まで一定期間を要する制度となる場合は、弁護人が観護措置決定に先立ち意見を述べる機会が保障される仕組みも必要となります。
 解任につきましては、被疑者・被告人、弁護人は、正当な理由がある場合には、裁判官若しくは裁判所に対し、弁護人の解任を請求できることとする制度が設けられるべきであります。
 公的弁護制度下での弁護活動の在り方でございますが、日弁連は公的弁護における弁護活動の質的向上のために一層の努力をしていく所存であり、既に本検討会で御紹介した「国費による弁護人の推薦等に関する準則」を、平成14年10月22日理事会で決定し、全国の弁護士会に本年3月31日までに制定してもらうよう要請しております。これは、国費による弁護人について、その推薦基準としての最低限の行動規範を示し、それに違反した場合に指導・助言を行うことのほか、一定期間の推薦停止の要件を定めることにより、弁護活動の最低限の質を担保することを目的としております。
 なお、弁護士倫理や綱紀・懲戒の問題は、本準則とは別個に検討が進められているところです。また、新入会員、国選弁護人名簿・当番弁護士名簿への新規登録会員に対する研修、倫理研修の充実に引き続き努力を続けてまいります。
 なお、運営主体その他の機関による個々の弁護活動に対する指揮監督は、弁護の自主性・独立性の保障を侵す危険があり、日弁連及び弁護士会において自治に基づき対処すべきと考えます。
 弁護報酬でございますが、適切な弁護報酬が確保されることは、被疑者・被告人が弁護人の援助を受けることを実質的に保障するための大前提と考えます。また、報酬額の算定は、弁護活動報告書等に基づき、弁護活動の内容及び要した時間を考慮した方式で決定されるべきです。謄写費用、交通費、通訳費用等の実費は、報酬とは異質の費用であり、原則として全額が支給されるべきです。
 なお、裁判員制度による事件、連日的開廷を要する事件等、従来の公判審理と異なる審理形態が実施されることから、これらに対応できる十分な報酬が支払われるべきであり、そのための報酬基準が工夫される必要があります。このほか、報酬決定に対する不服申立手続を整備するとともに、現行の報酬支給基準の大幅な引上げが実現されるべきと考えております。
 公的弁護制度の運営主体ですが、日弁連としては、従前から裁判所に付設する独立機関又は独立行政委員会のいずれかに位置付けられる委員会組織の国家機関が、被疑者・被告人段階を一貫して運営することが最も望ましいと考えてまいりました。また、その委員の選任は、裁判所又は内閣によって行うこととすべきでございます。
 仮にこのような制度構想が困難である場合には、次のいずれかの制度が検討されることになると思われます。一つは、現行の被告人国選と同様、被疑者段階も裁判所が運営を担う制度、すなわち被疑者・被告人段階を通じて、弁護人選任・解任に加え、報酬決定・支給を裁判所が行う制度です。この場合、弁護報酬基準の策定のために新たな委員会組織を設けるなど、現行制度の見直しが必要と思われます。裁判所以外の運営主体は、常勤弁護士の確保、契約弁護士との契約を担う組織となり、そのような組織としては新たに設置される独立行政法人が考えられます。その際に必要な条件については、常勤弁護士に関して既に述べたとおりでございます。もう一つは、新たに設置される独立行政法人を報酬決定・支給を含む運営主体とする制度が考えられます。この場合には、裁判所は弁護人の選任・解任のみを行うということでございます。この場合、常勤弁護士について述べた条件に加えて、主務省、中期目標・中期計画、評価委員会の在り方など、独立行政法人の制度的枠組みが、国選弁護報酬を含む制度全般の運営主体として適切かにつき慎重な検討が必要と思われます。
 最後に、公的付添人については、成人同様、国費による付添人制度が実現されるべきと考えております。公的付添の対象範囲としては、少年の防御能力の不足、心身の未成熟さにかんがみ、成人より一層助言・援助者のサポートを要するとの考えから、少年鑑別所収容の観護措置決定を受けた少年の事件、否認事件、裁判所法26条2項2号の罪で家庭裁判所に送致された少年の事件とすべきと考えます。この点、家庭裁判所調査官が少年の保護、育成の視点から手続にかかわること、少年司法手続の性格が保護手続であることをもって広範な付添人は不要との意見もありますが、付添人には調査官の仕事を補完し、更に調査官ではなし得ない関与方法が存在することは、既に第6回検討会において説明したとおりでございます。また、一定の重大事件に限定することは成人の場合以上に適切でないと考えます。それは、要保護性の判断は、罪名や法定刑の軽重とは必ずしも相関関係に立たないからです。また、上記以外の事件についても、家庭裁判所が必要と認めるときは、職権により付添人を選任することができるものとすべきでございます。以上で終わります。

○井上座長 ありがとうございました。それでは、ただいまの御説明につきまして、どなたからでも御質問があればどうぞ。

○酒巻委員 御説明のあった必要的選任という制度について、その法律的な性質がよく分からなかったものですから教えていただきたいと存じます。これは一定の重大な事件について必ず国選の弁護人を被疑者に付けるということですから、今、存在している被告人の必要的弁護制度と同じように考えれば、法律的には、もしそのような必要的選任の対象事件で被疑者に弁護人がいない場合には、手続を進めることができないというのが法律的な意味だろうと思うのです。しかし、先ほどの御説明ではそのようにはお考えにならないということでした。そこの理屈のつじつまがどう合っているのかがよく分からないところであります。

○河原氏 御質問のとおり、必要的弁護事件というのがございまして、これは法律で弁護人がなければ開廷することができないという明文が規定されておりますけれども、この被疑者段階の弁護人につきまして、この必要的選任制度をつくる場合には、新しい制度ですから、弁護人の存在を捜査手続の必要条件としないという制度設計は可能ではないかというふうに我々は考えております。

○酒巻委員 それは可能かもしれませんけれども、そうしますとそういう制度を設ける具体的な意味がどこにあるのかということが問題になると思うのです。その点はどのようにお考えになりますでしょうか。

○河原氏 日弁連の上田弁護士に答えていただきたいと思います。

○井上座長 それでは上田弁護士、どうぞ。

○上田氏【日本弁護士連合会刑事弁護センター委員長】 必要的選任制度の本来的な必要な理由についてはある程度御理解いただけると思いますけれども、重大事件等で必ずしも弁護人を呼ばないケースもある。それは、弁護人の依頼の権限があることを十分理解をしていないというようなこともありまして、取り分け少年であるとか、特異重大事件等では、やはりきちんと弁護人を付けていくことが必要であるというふうに理解をしているわけです。その中で、どういう制度設計をするかという形になるわけで、法的効果としては、公判段階とは違って捜査段階というのは様々ですので、立法的に幾つかの手当てはあるのではないか。そういう意味で、弁護人が付かなければ取調べをしないというような要件の規定の仕方も十分にあり得るだろう。しかし、そういう前提を置かないということで規定をしても、それは可能であろうというふうに、こちらとしては考えたわけであります。
 ただ、これがどのような効果を生み出すのかということにつきましては、積極的に必要的選任行為を何らかの形で意図的に侵害する、あるいは怠るというような場合に、それに関連をした一定の証拠関係等については何らかの不利益的な扱いというものはあり得るのかもしれない。そういう具体的な中身については、更に立法に当たって検討する余地があるのではないかというふうに考えております。

○井上座長 補足の質問ですが、一生懸命努力をしたけれど、なかなか確保できないという場合、どういう法的効果が生ずるのでしょうか。必要的とした場合にですね。そこが恐らく酒巻委員が質問されているポイントだと思うのですけれども。

○上田氏 選任につきましては、当然こちらとしては必ず弁護士会として対応していく制度設計にしたいと思っています。
 ただ、それで選任の時期の遅れの問題などについては、どの程度の段階で弁護人が活動することが可能なのかというような点は、時期的な問題などについては規定の仕方としては出てくるのではないかと思っております。

○井上座長 努力するので大体付きます、なかなかなり手がなければ、弁護士会の役に当たっている人がなりますというのが、これまでの弁護士会の対応であったと思うのですが、制度の説明としてそれで済むのかどうかですね。特に捜査段階の問題であることとの関係でどうか、ということだろうと思うのですが。

○上田氏 必要的選任事件に対する弁護士会側の態勢は、今、申し上げましたように時間的なリスクは出てくるだろう。したがって、その点についての幅はあり得ますけれども、やはり制度設計をしていきたいということです。

○井上座長 ほかの方、どうぞ。

○本田委員 2点質問させていただきます。一つは対象事件についてですが、身柄を拘束されたすべての被疑者とするということで、資力要件は当然かかってくるのでしょうし、そのような考え方があることは、それなりに理解できるわけですが、現実にこういうふうにした場合に対応できるのかという問題が一つあろうかと思うのです。具体的な制度として動き出すわけですから、それが1点です。
 それからもう一つは、この公的弁護制度が実際に動いていくために日弁連の協力が不可欠であるということは、我々もよく理解しています。ただ、常勤弁護士その他の採用が弁護士会の推薦に基づいてなされねばならないと主張されています。事実上、運営主体から協力を求められて推薦しますというのはよく理解できるのですが、制度としてそういうふうにしてしまうと、理屈の上では推薦を受けられなかった弁護士さんは常勤弁護士になれないということになりますね。推薦がなければ常勤弁護士になれないわけでしょう。だから、実際の運営は別として、制度としてそういうものが果たして適当なのだろうかという気がするのですが、この2点について伺います。

○河原氏 対応能力の点は常に指摘されて、我々も非常に苦労をして、私もここでプレゼンテーションをいたしましたが、現実に今、全国の弁護士会で当番弁護士制度をやっております。これは大変で、先ほど扶助協会からも言われましたように毎月一人ひとり4,200 円という会費を払いながら自前でやってきているという刑事弁護の実績がございます。
 それから、弁護士の数もこれから着実に増えることが予想されます。司法試験の合格者が一昨年までの1,000 人が昨年は1,200 人になりましたし、2年後には1,500 人ということでございまして、ちょっと計算いたしますと、本年780 名新規登録がございまして、それが2年後には840 名が続きまして、2006年には1,050 名の新しい弁護士が増えるということが見込まれておりまして、そういう弁護士の数が着実に増えているということ。それから、先ほども言いましたように日弁連が支援する公設事務所は着実に増えておりまして、現在、公設事務所でございますが、2000年6月に初めて公設事務所ができまして2年の間に7か所つくりました。そして、去年の4月から現時点までに6か所開設いたしました。そして、この3月から5月までに既に4か所の公設事務所の開設が、ひまわり公設事務所と言っておりますけれども、もう決定しております。さらに、その後12の公設事務所が計画に挙がっております。こういう弁護士会の努力によって、私たちは全件に対応できる弁護態勢がとれるものと確信しております。
 もう一点でございますが、常勤弁護士につきましては弁護士会の推薦ということでございまして、これは弁護士会といわゆる運営主体との間の契約になると思います。契約は運営主体と個々の弁護士が結ぶわけですけれども、その契約を結ぶ場合に弁護士会の推薦が必要ということは法律的に可能ではないかと私たちは思っています。

○本田委員 私の申し上げたことは、法律的に可能・不可能ではなくて、そういう制度が果たして正しいんだろうか。推薦を受けなければ、常勤弁護士としての仕事ができない。それが必要条件となっていると、理論的に考えれば、私はなりたいと思っているけれども、推薦がないからなれませんという弁護士さんが出てこないか。制度として、理論的にそういう制度自体がいかがなものなのかということをお聞きしただけなのですが。

○井上座長 ちょっと違う聞き方をしますと、常勤弁護士を確保するために、弁護士会が協力して推薦するという制度ならばまだ分かるのですけれども、推薦を経なければ常勤弁護士になれないというのはなぜなのか、またそういう制度が果たして適当なのか、ということが問題とされているのだと思うのですけれども。

○河原氏 それでは、再び上田弁護士にお願いしたいと思います。

○上田氏 弁護人の活動というのは少なくとも国家刑罰権の発動の対象とされた被疑者・被告人の権利を擁護するという意味では、やはり一定の組織あるいはその他と対立する局面を抱えているということは前提になると思うのですね。
 私どもの方としては、私選弁護・国選弁護を問わずにその水準の適正を確保していかないといけないというようなことになりますので、公的弁護制度の場合でもやはり公的弁護人の推薦、それからその職務についての指導監督というものは、弁護士会が一元的に対応してその責任を全うしていきたいと思っております。
 したがいまして、推薦段階につきましても、弁護人について日弁連として、この弁護人がきちんと適正に、かつ、弁護活動に十分に対応できますので、その点についてこういう形で推薦させていただきますという枠組みの中で対応したい。これは非常に細かなことを言うようでありますけれども、例えばよく言われます一本釣りみたいなもので、今は推薦制度で裁判所からの通達で推薦に基づいてやっていまして、最近は余りありませんけれども、あの弁護士のこういう活動は余り裁判所としても好ましくないからこっちを取ろうというようなことで、弁護士会が本来推薦をしている人を何らかの事由で抜かして別な人を採るというようなケースもないわけではなかったと思います。現にこれからもあり得るのかもしれません。まして運営主体が今後どういうふうになるかは分かりませんけれども、やはり弁護士会がそういう推薦の問題についてきちんと責任を持ちながらさせていただけば、そういうことで運営主体とも理解をいただきながら、裁判所がそれを選任するという三者の関係の中で適切にやることが、個々の弁護人の活動に対しての恣意的な部分を排除することもでき、弁護活動の自主性・独立性に資するのではないかという点を考えておりますので、この推薦問題については、やはり日弁連として全責任を持ちながら対応していきたいと考えております。

○井上座長 ちょっと問題が違うのではないかと思うのですね。個々の裁判所の選任について推薦をするということが、今、話題になっているのではなくて、運営主体が雇用する弁護士さんについて必ず弁護士会の推薦を経なければならないとするのはなぜなのか、それは正当なことなのか、ということだと思うのです。
 運営主体の管理運営に当たる組織とか委員会とか、あるいは管理職とか、そういうものについては、弁護士会の意見も聞き、あるいは弁護士会の推薦に基づいて選ぶべきであり、それによって自主独立性を保つのだという御主張を前提にしますと、運営主体はそういう形で中立公正が担保されている組織であるはずであり、そうだとすれば、その運営主体が責任を持って適任だと思う人を雇えばよいのであって、それが筋だろうと思うのですが、にもかかわらず、その個々の常勤弁護士を雇う点についてもまた弁護士会の推薦によるということになっているのは、どういう理由なのかという問題ではなかったかと思います。

○上田氏 運営主体の常勤弁護士の採用に当たっても、やはり一定程度弁護士会としては関与をさせていただきたいということでここで述べさせていただいているところです。
 後は、そこで常勤弁護士が採用されて、弁護士会の推薦のリストの中に入っていただく、その中で、どういう配てんをしていくのかという問題は残ろうかと思いますので、その配てんのシステムの中で、やはりその配てんに関しても弁護士会が一定の責任を持ちながら適正に関与させていただきたい。その割合とか、順番だとか、特に重大事件その他、常勤弁護士が対応すべきものにしていくのかというのは、今後のシステムの構築の中で協議させていただきながら、弁護の自主性・独立性との観点もうまく両立させながら制度設計をつくっていくべきではないかと考えています。

○清原委員 二つ質問させてください。一点目は、公的付添人についてです。5ページの「Ⅹ 公的付添人について」で御提案のように、1の「家庭裁判所は次の場合において付添人を選任する」ということで①②③とありますが、これは現在の少年事件の中でも、かなりの割合になるかと考えられますけれども、この場合に検察官の立会いというか、関与とか、そういうことについてはどのような御意見をお持ちでしょうか。
 もう一点は、「ⅠⅩ 公的弁護制度の運営主体」のところで、裁判所に付設する独立機関か独立行政委員会をまずは提案されていて、それが困難である場合に次のいずれかということで2案をまた御提案していただいているのですけれども、もし困難である場合のいずれかの制度の「2」ですが、独立行政法人で行う場合に「国選弁護報酬を含む制度全般の運営主体として適切かにつき、慎重な検討が必要である」というふうにコメントされています。この点について、もう少し詳細な御意見があれば御紹介いただければと思います。以上2点についてお願いします。

○河原氏 それでは、公的付添人につきましては羽倉弁護士にお願いしたいと思います。

○羽倉氏【日本弁護士連合会子どもの権利委員会副委員長】 制度提案いたしました付添人関与事件について、すべてについて検察官関与を必要とするというふうには考えてはおりません。検察官関与につきましては、先般の改正少年法におきまして、十分な吟味を経た上で、現行の22条の2が定められ、一定の枠がかかっておりますが、現在はまだそこを変更するという考えはございませんので、それ以外のところは弁護士付添人だけが関与するというような形を想定しております。

○河原氏 それでは、独立行政法人につきましては、私から御回答申し上げます。
 実は扶助協会からのプレゼンの中にもありましたけれども、現在、リーガルサービスセンター構想というものが浮上しておりまして、日弁連でもこれにどう対処するか、今、検討しているところでございますが、この運営主体にもこの独立行政法人であるリーガルサービスセンターがなるのではないかということを予想しております。
 そして、法務省の方々とも話したり、いろいろやっておりますと、やはりこのリーガルサービスセンターというのは法務省に置かれるであろう。そうすると、主務大臣は法務大臣ということになりますので、そこで、いわば官である独立行政法人が公的弁護の運営主体となると、やはり弁護士の個々の弁護活動の自主性・独立性が、その官と言いますか、それによって侵されるのではないかという危惧がございまして、ここに書いておりますのは、運営主体が適切かどうかというよりも、その弁護士会の意見が十分反映され、個々の弁護活動の自主性・独立性が十分保障されるような制度設計にしなければならない。そういう意味で、非常に官的色彩が強くなるようなものであっては、我々としてもこの運営主体に賛成しかねる場合もあるというような意味でございます。

○井上座長 そろそろ時間ですので、大出委員が最後ということでお願いします。

○大出委員 4ページの「公的弁護制度下での弁護活動の在り方」の「研修等の充実」というところなのですが、この御報告では、「研修、及び倫理研修の充実に引き続き努力する」ということでお書きになっていますが、これは具体的な中身として何か御検討されていることはあるのでしょうか。例えば、義務的研修だとか、点数制だとか、いろいろと既にほかの専門職ではお考えになって実施されているわけです。その点について弁護士会の方で何か御検討になっていらっしゃるのかどうかです。

○河原氏 現在、倫理研修はもう義務制にしております。10年ごとに必ず倫理研修を受けなければいけないということで、新入会員、新規登録会員の研修も行っております。さらに、今回、日弁連に研修センターというものを設けました。すべての研修をそこが統一的にやっていくということでつくりましたので、積極的にやっていきたいと思っております。

○井上座長 ほかにも御質問はあろうかと思いますけれども、ちょっと時間が押していますので、この程度にさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
 それでは、ここで10分ほど休憩させていただきたいと思います。

(休憩)

○井上座長 それでは、再開させていただきたいと思います。
 4番目として、法務省から稲田刑事局総務課長にお願いしております。よろしくお願いいたします。

○稲田氏【法務省刑事局総務課長】 よろしくお願いいたします。お手元に既に「公的弁護制度検討会における当面の論点に関する意見」と題しますペーパーをお届けいたしているところでございまして、基本的にこの内容を事実上読み上げるような形に近くなりますが、私どもの意見として申し上げさせていただきます。なお、やや細かな論点につきましては途中省略する部分がございますが、そこは御容赦ください。
 まず第1といたしまして、今回の公的弁護制度の整備に関する改革の視点についてでございます。被疑者段階を含む公的弁護制度の整備は、被疑者・被告人の正当な権利の擁護のほか、裁判員制度における集中審理や、裁判の迅速化を支える制度的基盤ともなるという点で重要な意義を有するものと考えております。他方で、公的弁護制度が国民の税金により賄われるものである以上、制度設計に当たって納税者である国民の理解や納得が得られるものでなければならないことは言うまでもございません。また、この制度は現実に即し、実施可能なものでなければなりません。制度を立ち上げても種々の制約から運営に支障を来すようでは、制度への信頼が失われてしまうと考えられます。制度設計に当たりましては、これらの事情を十分考慮に入れて検討を行う必要があると考えているところでございます。
 そこで、まず対象となる事件の範囲につきまして、私どもの意見を申し上げます。
 選任請求権を与える事件の範囲につきましては、まず第1の要件といたしまして、被疑者の身柄が拘束されていることとすべきと考えます。すなわち、公的資金により、被疑者に対し国選弁護人を付するのは、真にこれを必要とする場合に限られるのは当然のことと思われます。いわゆる在宅の被疑者につきましては、十分に外部との交通が可能でありますから、被疑者に公的弁護人の選任請求権を与える事件は身柄拘束されたものに限るのが相当であると考えます。
 次に、一定の重大犯罪であることも要件とされるべきと考えます。すなわち、被疑者に対する国選弁護人の必要性が特に高いのは一定の重大犯罪の場合であると考えられます。その上、弁護士の対応能力に限界があり、しかも依然として弁護士の偏在状況が解消されていない状況にかんがみると、身柄が拘束された事件全体を対象事件とすることは現実的ではなく、一定の重大な犯罪に限定せざるを得ないと思われます。
 ところで、その範囲についてでありますが、これにつきましてはいろいろな考え方があろうかと思われます。実際の弁護士の対応能力を考慮すると法定合議事件、これは法定刑が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件、ただし刑法236 条の強盗等の罪は除かれますが、これを対象とすることが考えられると思われます。もっとも、その範囲でありましても弁護士の偏在によって対応能力の不足が懸念されるところでありますので、その範囲については慎重に検討する必要があると考えられます。
 3番目の要件といたしまして、貧困その他の事由により弁護人を選任することができないことが挙げられます。弁護は私選によることが原則でありますし、国選によるのは自ら弁護人を選任することができない、やむを得ない場合に限られるべきであります。
 被告人に対する国選弁護人の選任要件として、刑訴法36条は、「被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないとき」と定めております。これを基本に考えるのが相当であると考えております。したがいまして、捜査段階におきましても、国選弁護人の選任請求が認められるのは、まず貧困のため弁護人を選任できない場合が大原則ということです。ただ、資力以外の問題により私選弁護人を選任できない場合も全く考えられないわけではないことから、その他の事由により弁護人を選任できない場合も選任請求権を認めることが適当であろうと考えられます。ただ、いずれの場合も、その要件を満たしているかどうかは厳格に認定されるべきであり、高級外車を乗り回している暴力団員に国選弁護人が選任されるような事態は厳に避けるべきと思われます。
 次に、職権による選任制度及び必要的選任制度について申し上げます。
 まず職権による選任制度でございますが、被疑者段階でも一定の場合に国選弁護人を選任することとしても、あくまで被疑者の選任請求に基づいて選任するのが当然であり、被疑者が希望しないのに国選弁護人を選任する必要性は乏しいと言わざるを得ません。あり得るとすれば、当該本人におきまして選任請求をするかどうかの判断能力が不十分であると認められる場合に、裁判所が後見的に国選弁護人の必要性を判断するという観点でございますが、他方で、捜査段階において裁判所がその必要性をどのように判断するかという問題もあろうかと思われます。したがいまして、職権による選任制度を設けることについては、その趣旨や範囲、類型的な職権判断の難易などを考慮し、また予想される選任数と弁護士の対応能力などにも留意しつつ慎重に検討すべきであろうと思われます。
 次に必要的選任制度についてでございますが、一定の被疑者に対し必要的に弁護人を選任する制度につきましては、そのような必要性は乏しいものと考えられます。また、必要的選任制度を設けた場合には、弁護人が選任されなければ取調べなど必要な捜査ができないとか、身柄拘束自体を継続できないなどという事態にもなりかねず、およそ捜査の遂行が困難となり、刑事司法の適正・円滑な運営を阻害すると考えられます。したがいまして、必要的選任制度を導入することは相当でないと思われます。
 この問題についての3番目の論点といたしまして、否認事件についての国選弁護人選任ということについて申し上げます。否認事件について、国選弁護人を選任する仕組みを導入すべきという御意見もあろうかと思いますが、まず何をもって否認と定義するかという問題がありますし、真摯に事実を自白している者には国選弁護人を付さず、否認している者に国選弁護人を付すことは正直者が馬鹿を見るという制度にもなりかねません。いずれにしろ、国選弁護人を選任するかどうかは被疑者の認否にかかわらないものとすべきでありまして、否認事件であることを必要的弁護事件の要件としたり、国選弁護人選任請求権付与の要件とするのは相当でないと考えられます。
 次に、国選弁護人の選任の手続について申し上げます。被疑者に対する弁護人の選任の始期でございますが、逮捕段階と勾留段階とでは身柄拘束期間に申し上げるまでもなく著しい差がございます。したがいまして、被疑者の権利保護の要請にも大きな差があると考えられます。ごく短期間の身柄拘束しか予定されていない逮捕期間よりも、一定期間の身柄拘束が予定される勾留に至った段階の方が、国選弁護人を選任する必要性は高いと思われます。その上、逮捕段階という厳しい時間制限がある中で、被疑者の請求、選任要件の審査、弁護人となるべき弁護士の確保、選任命令の発付などの所要の事務を全国一律に遂行することは、裁判所、捜査機関、弁護士会等の現実の対応能力からして困難であろうと思われます。したがいまして国選弁護人の選任の始期は勾留段階からとするのが相当であろうと思います。
 次に、選任要件の審査についてでございますが、公的弁護制度の整備に当たりましては、貧困要件を実効的に審査、判断し得る仕組みを設けることが国民の理解を得る上で不可欠でありますことから、貧困要件の基準を明確化するとともに、被疑者に要件の疎明責任を負わせるべきでございます。その際の基準としては、現金、預金など容易に弁護報酬の支払に充てることが可能な流動性のある資産の総額から、標準的と思われる弁護報酬の金額を支払うことができるかどうかによるのが妥当ではないかと思われます。また、被疑者に要件の疎明責任を負わせ、資力要件の判断資料として資力申告書を提出することを義務付けるのが相当であります。それとともに、資力申告書の信用性を担保するため、虚偽の資力申告書の提出に対し、罰則を設けることも検討すべきかと思います。
 その他要件についてでございますが、その他要件とは、要するに弁護人を依頼できるだけの資力があり、かつ、自らの費用で弁護人を依頼したいと考えているけれども、弁護人を依頼できないという事態を救済するためのものと考えております。これについても、資力のある者は私選を依頼するのを原則とすべきでありますから、被疑者に要件の疎明責任を負わせるべきであり、現実に弁護士会に弁護人の選任を申し出たものの、弁護人を選任できなかったことの疎明を要するものとすることが考えられます。その場合、弁護士会において、選任の依頼があったが、当該弁護士会においては受任する弁護士がなかった旨を明らかにする書面を提出するものとすることも検討に値するのではないかと考えます。
 次に、選任できる弁護士の人数についてであります。公的弁護制度の下において、被疑者のため選任できる弁護人の人数については1人に限るものとするのが相当であります。一定の要件の下で複数の弁護人を選任することができるとすべきという御意見もありましょうが、一般的には国費で被疑者段階から複数の弁護人を付する必要性に乏しい上、裁判官が捜査段階で、ある事件については複数の弁護人が必要であるけれども、ある事件については1人で十分であるという判断を行うことは実際上困難であろうと思われます。
 次の論点として、被疑者に対する弁護人の選任の効力が及ぶ事件の範囲でありますとか、管轄区域と選任できる弁護士の制限あるいは同一の弁護人による数人の被疑者の弁護の可否というような問題もございますが、これらにつきましては、後ほどここに私どもの意見を記載しておりますのでお読みいただければと思います。
 次に、被疑者に対する弁護人の選任の効力の終期について申し上げます。被疑者に対する弁護人の選任の効力の終期につきましては、公訴提起により被告人となった後にも一貫した弁護がなされるべきであるという要請とともに、対象事件を身柄拘束された事件に限定していることとの一貫性や、身柄拘束されていない事件との均衡を考慮して考える必要があり、身柄拘束がなされたまま公訴提起がなされた場合には選任の効力が維持されるものとすべきであり、公訴提起がなされず釈放された場合には、対象事件を身柄拘束された事件に限定している以上、選任の効力は失われるものとするのが相当であろうと思われます。
 8番目の、公判請求がなされた場合の被疑者に対する弁護人の選任の効力が及ぶ事件の範囲につきましても後ほどお読みいただきたいと思います。
 なお、これに関連いたしまして、被告人に対する国選弁護人の選任要件について一言申し上げますと、被疑者に対する公的弁護人の選任要件を整備することに伴いまして、被告人に対する国選弁護人の選任要件につきましても見直しを行うべきであり、いわゆる任意的弁護事件における国選弁護人の選任要件につきましては、被疑者に対する弁護人の選任要件と同様のものとすべきと考えられます。他方、必要的弁護事件については、選任要件の審査を行っても弁護人がいなければ国選弁護人を付さなければならないため、選任要件を審査する意義が乏しいと考えられるものの、何らの審査も行わないことについて国民の理解が得られるか疑問なしとしないので、更に十分検討すべきものと考えます。
 次に、弁護報酬の算定・支払の在り方について申し上げます。
 まず、捜査段階の報酬の算定方法についてでございますが、捜査段階の弁護活動の内容は、外部から客観的かつ適正に評価することが困難でございますので、基本的には定額制とせざるを得ないと思います。ただ、単純な定額制とするのか、身柄拘束中の選任された期間の長短により差異を設けるとか、あるいは更に接見回数などの点を加味するのかは、なお検討の余地があると思います。
 次に、公判段階の報酬の算定方法についてでありますが、公判段階の弁護活動についても外部から客観的かつ適正に評価するには、公判に表れた弁護活動を踏まえて算定するほかないと考えております。そうすると、客観的かつ適正に評価し得るのは裁判所以外にはないと考えられますので、現行の国選弁護制度と同様に裁判所が算定・支払を行うものとすべきであります。
 なお、運営主体の常勤弁護士につきましても、裁判所の選任により公的弁護を担当する点で一般の弁護士と何ら変わるところがないことから、常勤弁護士が公的弁護を担当した場合も、裁判所から運営主体に報酬を支払うものとすることも検討する必要があると思われます。ただ、常勤弁護士については、運営主体から別途給与が支払われることから別の考え方もあり得るところであり、更に検討を要すると思います。
 ところで、国選弁護費用の負担でございますが、これにつきましては受益者負担の原則上、被疑者・被告人に最終的には負担させるのが適当であります。したがいまして、起訴された事件の捜査段階の弁護費用は、有罪となった場合、被告人に負担させるのが相当でありますので、これを訴訟費用の一部として費用負担させるべきであります。もちろん、免除することができることも考慮すべきであります。
 なお、仮に常勤弁護士及び契約弁護士が弁護人となったときには、裁判所から運営主体に個別事件ごとの報酬が支払われないという制度設計をする場合には、一般の弁護士が弁護人になった事件との均衡上、個別事件の弁護報酬に相当する金額について費用負担を命ずるとする必要があると考えます。
 他方、起訴されなかった事件については、嫌疑のないことが明らかとなった被疑者に費用を負担させることは疑問がある一方で、起訴猶予を理由とする場合や身代わり出頭などの被疑者の責めに帰すべき事由による場合には、弁護費用を負担させないとする理由はないと思われます。
 次に、弁護活動の在り方についてでありますが、審議会意見にもありますように、公的弁護制度の下でも個々の弁護活動の自主性・独立性が損なわれてはならないことは言うまでもありませんが、公的資金で賄われる弁護活動が違法・不当なもので真実の発見を阻害するものである場合には、これに公的資金を費やすことに国民の理解や納得を得ることは不可能でございます。個々の弁護活動の自主性・独立性の尊重と逸脱行為に対する制裁とは両立するものであり、個々の弁護活動の自主性・独立性を尊重すべきであるからといって、逸脱行為に対する制裁の仕組みを整備すべきではないということにはなりません。したがいまして、法令上、国選弁護人の解任事由を明確化し、違法・不当な弁護活動が行われた場合には裁判所が当該弁護人を解任できるようにすべきであります。
 なお、国選弁護人の解任に関し、被疑者・被告人や国選弁護人に解任請求権を認めるべきであるという意見もありますが、選任は裁判所の命令であり、相当ではないと考えます。
 また、国選弁護人の選任についても、違法・不当な弁護活動を行った者が国選弁護人に選任されるのは不当でありますので、適切な欠格事由を定めることなどにより、公的弁護制度に対する国民の信頼を確保すべきであります。
 また、公的弁護制度の運営主体は弁護活動を提供する責務を有するのでありますから、常勤弁護士や契約弁護士が違法・不当な弁護活動を行った場合には、所要の措置を適正かつ迅速に講ずることのできる手続を整備すべきであります。そのような手続の整備に当たっては、国民の良識が国選弁護の在り方に反映されるような工夫をすべきであります。
 次に、運営主体について申し上げます。運営主体の事務につきましては、審議会意見が述べているとおり、全国的に充実した弁護活動を提供し得る態勢を整備するものとして運営主体を設けることに意義があると思います。この場合、運営主体の役割としては、少なくとも弁護態勢のセーフティーネットとして、一般の弁護士において引き受け手がない場合や、集中審理に対応できる弁護士がない場合に、弁護士を提供できるようにすることが必要であります。そのため、運営主体においては、常勤弁護士を雇用するとともに、弁護士又は弁護士法人と契約を締結し、契約弁護士を確保すべきであります。ただ、すべての国選弁護人を運営主体において賄うというのは現実的とは思われません。仮に運営主体が国以外の機関であるとした場合、常勤弁護士や契約弁護士以外の一般弁護士に対する報酬を運営主体が支払うことは困難であり、この部分は現行の国選弁護制度と同様の扱いとせざるを得ないと考えます。
 次に、運営主体の組織でありますが、運営主体が担当すべき事務の性質とともに、昨今の行政改革の動きをも踏まえつつ、司法制度改革審議会意見書が求める公正中立な運営を確保し得るものとなるよう、今後実現可能な具体的組織形態について議論されるべきであります。また、公的資金が投入される以上、その運営については、透明性、公正性が要求されるのは当然であります。
 なお、国以外の法人を運営主体とする場合には、法人の役員として適切な人選が行われることを確保するほか、法人運営に関する重要な事項を審議させるため、有識者などから成る議決機関を設置することなどにより、法人運営が公正中立なものとなることを確保するための仕組みを整備するべきであります。
 なお、先般の司法制度改革推進本部顧問会議の席上、総理大臣から、法的紛争を抱えた市民が気軽に相談できる窓口を広く開設し、きめ細やかな情報や総合的な法律サービスを提供することにより、全国どの街でもあまねく市民が法的な救済を受けられるような司法ネットの整備を進める必要があるとの発言がなされたところであります。この構想は、総合的な法律サービスの提供という点で、公的弁護制度にも関連するものでありますことから、本検討会においても、この構想との関連性をも踏まえた検討が必要になるものと考えております。
 最後に、公的付添人制度について一言申し上げます。公的付添人につきましては、少年審判手続の構造を十分に踏まえる必要があります。すなわち、少年審判手続における事実認定の適正化という観点からは、先般の少年法改正により裁定合議制度や検察官関与及び国選付添人制度が導入されたところでありますし、その際の議論としても、検察官、弁護士付添人の両方が関与することによって事実認定の適正化を図ることが適切であるとの整理がなされていたところであります。したがいまして、検察官関与のない公的付添人制度の導入によって事実認定を適正化するという考え方をとることはできませんし、かつ、被害者側の納得も得られないでありましょう。
 他方、要保護性の適切な認定のためという趣旨であれば、家庭裁判所調査官が既に存在しているところであり、これとの役割分担をどのように考えるかは困難な問題であります。
 いずれにいたしましても、現行の少年法は、少年の保護を優先的に考え、そのために刑事手続とは全く異なる手続を採用し、家庭裁判所が少年に対する後見的な作用も行い、職権主義により調査、審判を行うという建前をとっているところであり、少年の権利保護のみを強調したり、刑事訴訟をモデルにして公的付添人の範囲を拡充すべきと考えることは、かえって現行の法の趣旨にそぐわないものと言わざるを得ません。
 したがいまして、制度導入の要否の検討に当たっては、少年審判手続の構造、家庭裁判所調査官の役割などを踏まえた上で、その必要性に関する議論について、真に必要性があるか十分に検討すべきものと考えております。以上でございます。

○井上座長 どうもありがとうございました。ただいまの御意見につきまして、どなたからでも御質問があればどうぞ。

○浦委員 法務省のこのペーパーによりますと、捜査段階の弁護活動についての報酬の算定はどこがするということになるのですか。ちょっと主体が書かれていなかったように思います。結局、従来の国選弁護と同様な形で算定し、かつ、支払うことになるのか。

○稲田氏 基本的に定額制ということを申し上げておりますので。

○浦委員 そうしますと、算定はどこでもいいわけですか。

○稲田氏 どこでもいいというか、算定という概念と馴染むのかという問題が出てくると思います。もちろんそのつくり方にもよるのかもしれませんが、私どものイメージしております定額制というのは、基本的に1件幾らとか、そういうイメージを持っているわけでございます。

○浦委員 支払はどこがすることになるのですか。この運営主体のところの記載から見ると裁判所ということになるのかどうかですが。

○稲田氏 それはいろいろなやり方があろうと思います。運営主体の常勤弁護士の場合にはここに書きましたように、給与が支払われるという問題とどう整理するかという問題があります。

○浦委員 一般弁護士に対する報酬の支払ということですが。

○稲田氏 一般弁護士につきましては、それは現在の被告人段階の国選弁護人と同じような形になりますので、それを今の形と違う支払方法を採れるのかというところの法律上の立て方について、従来の会計法とか、そういうものとの整理も必要でしょうし、いろいろ検討しなければいけないのではないかと思います。

○池田委員 改革審の当時の、たしか26回だったでしょうか、平成12年7月25日の法務省のプレゼンテーションでは、今の被告人の国選弁護の制度についても、その弁護人の選任・解任を除いて、その運営を運営主体たる法人に移管するのが相当と考えると、こういうふうになっていたと思うのですが、そこは改めたということになるわけですか。その理由は、どういうところにあるのでしょうか。

○稲田氏 当時の意見の前提は、運営主体が国とは別の法人格を持つ法人であるという前提で、かつ、その法人が国から包括的に国選弁護を請け負うような形になり、それについては常勤弁護士や契約弁護士のほか、一般のそれ以外の弁護士さんにも運営主体に登録してもらって、それで弁護活動を行い、だから一般の弁護士も運営主体から報酬を受け取るという仕組みを考えていたというふうに承知しております。
 しかし、これにつきましては、審議会の御議論では、一般の弁護士の登録制について強い御異論があったということを承知しておりますし、また現実にどの程度登録していただけるのかという問題もあろうかと思います。また、近時いろいろ行政改革の問題もございますし、先ほど申し上げました会計法上の問題ということも踏まえて、本日申し上げたことが適切な制度の在り方ではないかと考えているということでございます。

○池田委員 その会計法上の問題は、支払義務を負う者を国にするのか、あるいは運営主体にするのかという立法政策の問題かなとも思うのですが、そうではないようにお考えですか。

○稲田氏 立法政策ということでは、かなり広範囲に物を言えるわけでございますが、国つまり裁判所が選任命令をかけるわけでございますので、それが国の債務でないということをどういうふうに整理できるかということではないかと思います。つまり、ある業務を行えということを国が命じているわけですね。それが、国と別法人である主体の債務になるというところの整理がどうやったらつくのかということが、私どもにはなかなか理解しにくいところがあると思われます。

○池田委員 選任命令が常勤弁護士の場合とは違う・・・。

○稲田氏 常勤弁護士の場合はさておくとして、それ以外の一般弁護士の場合ですね。つまり、登録もしない・・・。

○池田委員 常勤弁護士に対する選任命令と一般弁護士に対する選任命令は性格が違うということですか。

○稲田氏 そうではなくて、常勤弁護士に対する選任命令というのは、当該主体に属する人に命令をかけるわけで、常勤弁護士には運営主体から給料が支払われるわけです。そうすると、問題は、運営主体と国との間の問題であり、これを債権債務関係というのかどうか分かりませんが、その間のお金のやり取りをどういうふうに考えるのかという問題になるのですけれども、選任された常勤弁護士についてはもともとそういうものが給料として払われるわけです。他方で、それ以外の全く運営主体と関係のない人について、何ゆえ運営主体が債務を負うのかというところがなかなか理解し難いということを申し上げているわけでございます。

○大出委員 今のことはちょっと疑問なのですが、それは置いておくとして、幾つかありますのでまとめてお答えいただければ結構ですので。
 一つは、1ページ目の一番下の一定の重大犯罪に絞るというところで、理由としておっしゃっているのは、弁護士の対応能力ということが専らのように私には読めたんですが、先ほど弁護士会は決意表明をしていらっしゃって全部やるとおっしゃっているんですが、そうするとこの問題は解消するというふうにお考えでいらっしゃるのかどうかです。つまり、現実に対応能力があれば、それはそれでここでの法務省のお考えは解消されることになるのかどうか。
 それから、先ほどの資力要件のところについては資力申告書の提出を義務付けるということで、それが提出されて、そこでその要件をクリアしていればそれでいいという趣旨でいらっしゃるわけですね。もちろん虚偽であった場合には何かお考えですけれども、とりあえずはそれでいいという趣旨ですか。これは確認ですが、そういうことですね。
 それから、3ページの上の(3)の否認事件における選任の問題なんですが、真摯に事実を自白している者と、そうでない、言ってみればごねて否認しているというのをどうやって区別するのでしょうか。検察官は区別がお出来になるのかどうか。私はできないように思うのですが、どういう方法があるのか教えていただければと思います。
 それから、逮捕の3日間というのが、その後の3ページの下の国選弁護人選任の手続のところで、逮捕期間というのはごく短い短期間だというふうにおっしゃっています。ここはもちろん議論するつもりはありませんので、認識の違いだと言えばそれまでかもしれません。

○井上座長 大出委員、時間の関係もありますので、大きいところに絞って質問していただけますか。

○大出委員 今の点も大きいところだと私は思うのです。かなりこれは逮捕段階から付けるか付けないかということにかかわるものですから、そこの認識がどうなっているかということが重大だと思いますので。
 では、最後にもう一点だけ、先ほど運営主体のところで池田委員から御質問のあった点で、一般弁護士に対する報酬を運営主体が支払うことは困難であるというのは、会計法上の問題でお考えでいらっしゃるということなのかどうか。ただ、それは前回、国家機関が決定という手続を取る必要があるにしてみても、最終的にはその確認があれば、国家機関から委託されているところが払うとかというようなことができるというような確認があったような気がするのですが、その点について何かメンションがあるのかどうかお伺いできればと思います。

○井上座長 その「できるという確認」は、だれが確認したのですか。

○大出委員 落合参事官に私は伺ったんですが、違えばあれですが。

○落合参事官 定かではありませんが、憲法上は違憲でなければ、法律上は可能だというふうに申し上げたのだと思います。

○大出委員 そうですか。では、それは議事録を確認します。
 最後に、少年手続のところで「少年の保護を優先的に考え」という言い方の意味なんですが、前回だったと思いますが、私は申し上げましたけれども、少年手続というものがどういう位置付けを受け、少年手続において、例えば付添人を付けるということによって少年の健全育成といいますか、その更生を期するということの持っている意味ですね。
 ここですと、少年の保護を優先的に考えるというようなことで、いかにも少年手続での保護主義というものが何か不当に少年に利するために行われているかのようなニュアンスに窺えたのですが、決してそんなことは私はないと思っているわけです。やはり付添人を付けてでも少年の健全育成に資するような手当てというのは、できるものならばした方がいいのではないかという気がするわけで、バランスの問題ではないんじゃないかという気がするんですが、その点の御意見を伺えればと思います。

○稲田氏 多数ございましたので全部にお答えできるか自信がございませんが、まず最初の対応能力、件数という問題につきましては、日弁連が非常に強い御決意をお持ちであるということには敬意を表したいと思うところでございます。他方で、さはさりながら最初の視点のところで申し上げましたように、現実に実施可能なものでなければならないということも、これまたやはり制度をつくる以上やむを得ないところであります。私どもはそういう観点で申し上げているということでございます。
 次に、資力要件のところの申告書の提出につきましては、基本的に私どもの申し上げている申告書というのは、被疑者自身に書いていただくものをイメージしておりますが、そのほか何らかの疎明資料を添付させることは当然検討の余地はあろうかと思います。ただ、その場合に、どの程度の負担になるのかということを踏まえながら御検討いただきたいと考えております。
 そこから先はなかなか御説明が難しゅうございますが、否認かどうかということを申し上げたところは、私どもも何をもって否認と定義するかが非常に難しいということはその前で言っております。その上で、ここからは理念型の問題として申し上げているわけでありまして、ある客観的事実があったことについて、それを事実として認めている人と、それについてあることをないと言う人とが実態としてあり得る。その場合に、あったことについて否認している方にだけ弁護人を付けるというのでは、正直者が馬鹿を見ると言われかねないのではないかということを申し上げているだけのことでありまして、事実として、何をどういうふうにとらえて否認と言うかとか、そういうことまで申し上げたつもりはございません。
 それから、少年事件につきましては、「少年の保護を優先的に考え」ということの意味は、従来言われているパレンス・パトリエとか国親思想という考え方があり、それとどういうふうに説明していいのかよく分かりませんが、私どももそういうことを言っていて、つまり刑事手続とは手続が異なるということを申し上げているわけでございます。ちょっと違う方向にお取りいただいたとすると、こちらの御説明の仕方が悪かったのかなとは思いますが、まさに従来の少年法はこういうものだという理解をしているものをそのまま申し上げたつもりでございまして、そこの手続というものはよく考えていただきたいということを申し上げた次第でございます。

○浦委員 法務省のペーパーで、この対象事件で、一定の重大犯罪は法定合議事件とすることが考えられるとありますが、法定合議事件は現在何件くらいなのですか。

○稲田氏 約6,000 件と言われております。

○浦委員 弁護士会の当番弁護士の現状では、受任件数が9,600 件、およそ1万件近い件数あるのです。そうしますと、法務省の考えておられる公的弁護は、現在日弁連が行っている当番弁護士よりも小さい数の対象事件についてやるということになるのでしょうか。法定合議事件とすると言われるとすれば、そういうふうにお考えなのですか。

○稲田氏 何をもって大きいと言うか、小さいと言うかということになるのかと思いますが、件数だけで見れば、そこは件数としてはそういうふうになろうかとは思います。

○浦委員 そうすると、当番弁護士によって、法定合議事件数を約4,000 件超えてカバーされているのですけれども、その部分はどういうふうにお考えなのでしょうか。それだけ公的弁護人を選任をしたいという被疑者らもいるかもしれないわけですから、その辺はなお、当番弁護士でカバーしなさいということになるわけですか。

○稲田氏 公的弁護制度としては、そこまでの制度でどうですかということを申し上げているわけでございます。

○浦委員 法務省のお話を伺いますと、今の対象事件もそうですし、更に法定合議事件としながら請求にかからしめられると。それから、選任の始期も勾留段階とし、資力要件についても厳格に絞る。他方で、現行の国選弁護については見直しをしよう。これを更に絞ろうということですね。それから、弁護活動についても逸脱行為に対しては厳しく制裁を科すというふうなことでおっしゃっておられる。全体を見ますとそんな感じになるのですけれども、これは意見書が言っている被疑者・被告人の弁護人の援助を受ける権利を実効的に担保するという要請に沿うものだというふうに法務省としてはお考えなのでしょうか。

○稲田氏 私どもは、基本的に審議会意見書を踏まえて本日の意見を申し上げているところでございます。

○浦委員 むしろ、現行の当番弁護士を前提とした被告人国選ということを考えますと、制度内容として、それよりも後退するようなものになりはしないでしょうか。

○稲田氏 国の制度として新たに創設するものについての議論を今、私どもはしているわけでございますので、そこはそういうものとして審議会の意見書を踏まえて、まずこういうものをつくってみたらいかがでしょうかという意見を申し上げているというふうに御理解いただきたいと思います。

○浦委員 この程度の制度に対して、弁護士が喜んで公的弁護に参加しようという気になると思われますか。

○稲田氏 喜ぶか喜ばないかということをお答えするのはいかがかと思いますし、またそういう立場にもないということでございます。

○井上座長 1点確認なのですけれども、被告人についての選任要件についても見直すべきだと書かれているのですが、これは法律で「貧困その他の事由により」と書いているところを絞るという御趣旨なのか、そうではなく、それを適用していくうえで、被疑者の場合について明確な基準を作るのと同様に適用基準のようなものを作っていくという御趣旨なのか、どちらでしょうか。

○稲田氏 基本的には両様あり得るだろうなということで問題を提起しているというふうに御理解いただければと思います。

○井上座長 では、最後にどうぞ。

○土屋委員 簡単な質問です。7ページの下の方なのですが、常勤弁護士と契約弁護士が違法・不当な弁護活動を行った場合について抽象的に書いていらっしゃるのですけれども、「所要の措置を適正かつ迅速に講ずることのできる手続を整備すべきである」と、分かったような分からないような感じなのですが、もう少し御説明願えますか。

○稲田氏 こういうものが必要ではないかということを考えているということでございまして、現時点で具体的にイメージしているものがあるというわけではございません。

○井上座長 まだ御質問があろうかと思いますけれども、時間が本当に押しておりますので、この程度にさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
 それではヒアリングの最後ですが、最高裁判所からのヒアリングを行いたいと思います。最高裁からは事務総局刑事局の今崎第一課長においでいただきました。お願いします。

○今崎氏【最高裁判所事務総局刑事局第一課長】 それでは、裁判所の意見を申し述べさせていただきます。お手元にお配りいたしました資料にのっとって御説明いたします。やはり時間の関係もございまして一部省略することがあるかと存じます。そこは、資料を御参照いただければと存じます。
 まず、私どもの基本的なスタンスといいますか、考え方でございますが、審議会意見書によりますと、今後の公的弁護につきましては公的資金によって運営される公正中立な機関を設け、全国的に充実した弁護活動を提供し得る態勢を整備するということが求められているというふうに考えております。この審議会意見書の提言というのは、我が国の現在の刑事弁護の現状を踏まえ、かつ、今後の裁判員制の導入等に伴って、弁護態勢の飛躍的な拡充が求められるということを見据えた画期的なものだと考えております。したがいまして、この意見書の趣旨にのっとって制度の設計がなされるべきであると考えているわけでございます。
 ところで、我が国の被告人段階における国選弁護というのは、比較的広い要件の刑事訴訟法の下で刑事弁護の多くの部分を担ってきたわけでございます。国選弁護については、広く一般の弁護士が分担することで広範なニーズにこたえ、同時にその活動内容についても充実した弁護がされるよう、種々の努力が払われてきたわけでございます。その結果、通常訴訟事件に占める国選弁護事件の比率は年々増加しておりまして、70パーセントを超えております。このように、国選弁護事件というのは、量的にも質的にも拡充しております。しかしながら、その一方でいろいろな問題を抱えているということもあるわけでございます。
 まず1点は、被疑者段階での公的弁護制度がないということであります。取り分け、刑事司法の重点が捜査に移っているという現状からして、被疑者の弁護いかんというのは迅速、適正な刑事裁判の実現に大きな意味を持ちます。弁護士会におかれては、平成2年からその自主的な努力で当番弁護士制度を導入し、このニーズにこたえようとされてきたわけであります。しかしながら、このような努力では大きな限界があるということは否定できません。
 第2点目は、弁護士会からは大型・複雑事件を始めとして多数回の公判審理を要する事件など、その活動に国選弁護の報酬が見合っておらず、それが国選弁護人離れを誘発しているという指摘がされていることです。
 第3点目は、最近の事件動向に照らしまして、全国各地でこれまでなかったような複雑、困難な事件が見られ、国選弁護人を確保することが困難であるとか、あるいは相当数の国選弁護人を必要とするといった従来型の国選弁護では対応しきれないような事案が増加しつつあるように見受けられることでございます。
 第4点目は、従来の国選弁護は幅広い弁護士によって賄われてきた反面、専門的な経験が蓄積されるということが乏しく、我が国において刑事弁護のノウハウというのは必ずしも組織的に蓄積されてきたというふうには言えないということです。このことも、刑事裁判の在り方を考える上で大きな問題というふうに認識しております。
 第5番目は、これらのような問題を抱えたまま裁判員制の導入を迎えれば、事前の準備を尽くし、集中して審理に臨み、公判廷において充実した活動を行うといった刑事弁護態勢を確保することは著しく困難であるということです。
 公的弁護についての審議会意見は、このような我が国の国選弁護制度の持つ構造的な問題点に対処するための提言であるというふうに考えます。意見書が単に個々的な対応方針を指摘するというのではなく、国民に対する責任を負った公正中立な運営主体の設置を提言しているのはそのためであるというふうに考えるわけであります。
 ところで、審議会意見書に沿った運営主体の制度構想は何かということになります。意見書は、概略、公的弁護の運営は公正中立な運営主体によって担われるものとし、弁護人の選任・解任は裁判所が行うが、それ以外の運営に関する事務は運営主体が担うとし、弁護士会の協力を前提とした上で、全国的に充実した弁護活動を提供し得る態勢の整備を求めております。このような意見書の趣旨に照らしますと、運営主体の設置が公的弁護の要になるというふうに考えられます。
 具体的な制度の設計と申しますと、これは今後の検討に当然ゆだねられるということになりますが、基本的な枠組みを申し上げれば、次のようなものではないかと思います。
 1点目は、運営主体は、公正中立な機関であることが必要であるということであります。意見書のとおり、運営主体は公正中立な機関ではなくてはなりません。本部には、運営主体の意思決定機関として、法曹関係者のみならず、有識者によって構成されるボードといった組織を設置することが相当であると思います。支部の配置、予算や弁護活動の実態に応じた報酬基準の策定等の運営主体の管理運営に当たる事項がこのボードで決定されることになると思われます。
 次に、運営主体は、相当数の常勤弁護士、契約弁護士を確保する必要があるということであります。常勤弁護士は、運営主体に勤務する一種の公設弁護士であります。また、契約弁護士は、常勤には至らないまでも運営主体の事件を優先的に扱う弁護士と考えられます。この常勤・契約弁護士と、更に一般弁護士とが公的弁護を担うことになるわけでございますが、今後迅速かつ的確な弁護活動が要求される公的被疑者弁護制度や、集中的に充実した弁護活動が要求される裁判員制が導入されるということを前提にいたしますと、各地の運営主体は、相当数の常勤・契約弁護士を確保する必要があるということになると思います。また、各地の運営主体に配置された常勤弁護士は、自ら事件の処理に当たるとともに、弁護士会と連携を図りつつ、公的弁護に関する種々の事務を処理するということが考えられます。
 3点目は、運営主体は、全国的に充実した弁護活動を提供しうる態勢を整備しなければならないということであります。その具体像は今後の検討課題でございますが、都道府県単位で支部組織を備えることが望ましく、また機能的でもあろうと考えます。公的弁護は、常勤・契約弁護士に限らず、公的弁護の意思がある一般弁護士も含めた体制を構築することにより、初めて全体としての公的弁護活動の態勢を充実し、機動的なものとすることが可能になります。運営主体は、弁護士会と協力しながら、常勤・契約・一般弁護士の中から裁判所によって選任されるべき弁護士を迅速に確保するということが求められると思います。
 4点目は、運営主体は、弁護活動の実態に応じた適正な報酬基準を策定するということであります。刑事事件には、比較的簡単な自白事件等弁護活動の負担が余り大きくない事件がある一方で、争点が多く公判廷の内外で密度の濃い弁護活動が必要な事件もございます。捜査段階についても同様のことが言えると思います。国民の理解が得られるよう、運営主体の公正中立なボードにおいて、弁護活動の実態に応じた適正な報酬基準を策定し、この報酬基準に従い報酬決定が行われるということになります。算定の基準となる弁護活動の実態というのは、捜査段階においては弁護人の報告を求めるなどして把握し、公判段階においては裁判所からの公判活動の結果報告をも含めて、被疑者・被告人段階を通じた一貫した報酬算定を行うということとなろうと思います。
 なお、常勤弁護士については、これとは別に給与基準を策定することとなると思います。いずれにいたしましても、報酬算定に当たりましては、その客観性を担保する仕組みが必要でございます。
 5点目は、運営主体は、刑事弁護に関して積極的にノウハウや情報を集積し、これを還元することにより、刑事弁護全体の質の向上に寄与するということであります。運営主体において、常勤弁護士等を中心として、刑事弁護実務の経験に基づく技術が集積され、これが多くの弁護士に還元されていくということが必要であります。
 6点目は、運営主体は、弁護士会と連携しつつ、質の高い公的弁護サービスを提供しなければならないということであります。運営主体は、常勤・契約弁護士の雇用や契約に当たって、また公的弁護の意思のある一般弁護士の確保に当たって、推薦を受けるなど、弁護士会との連携が不可欠であります。公的弁護を担う常勤・契約・一般弁護士も、個々の弁護活動についてはその自主性・独立性が損なわれてならないことは当然であります。弁護士会は責務として、私選弁護も含めて弁護活動の質の確保と向上についてその態勢を整備すべきであり、運営主体も弁護活動の質の向上に努力すべきであります。
 以上が公的弁護制度の骨格であり、今後、民事法律扶助制度との連携をも視野に入れた総合的な法支援制度として発展させるべきであります。
 続きまして、被疑者に対する公的弁護制度の在り方についての概要を申し上げます。
 対象事件でありますが、被疑者段階において弁護人による援助が最も求められるのは身柄を拘束された被疑者でありますから、公的被疑者弁護制度は身柄事件が対象となると思います。その中で、現実的には対応能力や公的負担に対する国民の理解などの面から一定の制限を設けることが考えられますが、弁護人による援助の必要性の高い被疑者はどのような類型なのかといったことを実証的に検討する必要があると思います。
 選任請求権の発生する時点については、勾留の段階で、被疑者に選任請求権を認めることが相当であると思います。なお、逮捕の段階においても、現在弁護士会による当番弁護士制度により、被疑者に対する実効的な権利の保護が図られており、今後この点を念頭においた具体的制度設計がなされるべきであろうと考えます。
 3点目は、選任要件と手続であります。身柄を拘束された被疑者が貧困その他の理由で私選弁護人を請求できない場合、これに公的弁護人を付するのが相当であり、現在、被告人に対し、選任請求権を与えているのと同じ範囲で被疑者に対する弁護人選任請求権を認めるべきであります。なお、選任手続は現在の被告人国選弁護に準じた手続とすることが考えられます。以下については、書面に書いてあるとおりでございます。
 運営主体論に若干関係しますので、10番からまた読ませていただきます。
 訴訟費用の範囲につきましては、現在、刑訴費用法2条3号により、国選弁護人の報酬、旅費、日当及び宿泊料は訴訟費用に含まれておりますが、運営主体の設立後は、運営主体が公的弁護人に対する支払をすべて行うこととし、これらの費用を訴訟費用から外すということになるのではないかと思います。
 11番の費用の回収でございますが、公的弁護人に支払われた報酬等の費用については、被疑者・被告人の資力に応じて回収を行うべきであります。また、回収の実を挙げるべく回収方法を工夫するという必要もあるのではないかと思います。
 第3点目は、少年に対する公的付添人制度の在り方であります。まず基本的な考え方でございます。被疑者に対する公的弁護制度が新たに導入されることに伴い、その後の審判段階における公的付添人制度というものが問題となるわけでございます。この問題を検討するに当たりましては、少年審判制度の手続の構造でありますとか、家庭裁判所調査官との役割分担を考え、また少年事件の付添人の役割を十分に理解した弁護士の確保等の問題を踏まえつつ、どのような場合に公的費用により付添人を付することとするシステムが必要かを検討する必要があると考えております。そして、制度の方向性でございますが、少年審判は少年の健全な育成を目的とする職権主義的な手続であり、家庭裁判所調査官が後見的に要保護性に関する調査等を行っております。事実に争いがなく、専ら要保護性が問題となる事件につきましては、家庭裁判所調査官が調査を行うことにより適切に審判を行い得るのであり、このような事件における弁護士である付添人の役割については更に検討が必要であると考えます。
 他方、事実認定が問題となる事件につきましては、事実認定の問題が基本的には家庭裁判所調査官が関与する場面ではないので、適正な事実認定という観点から、検察官関与の必要性と併せ、公的付添人制度を検討すべきであると考えます。
 以上、簡単でございますが、説明とさせていただきます。

○井上座長 どうもありがとうございました。それでは、ただいまの御意見について、質問をどうぞ。

○高井委員 2点あるいは3点質問させていただきたいと思います。
 まず3ページですが、(4)で「公判段階においては、裁判所からの公判活動の結果報告も求めて、被疑者・被告人段階を通じた一貫した報酬算定を行うこととなろう」とあります。この裁判所からの公判活動の結果報告は弁護人の公判活動の結果報告ということだと思いますが、このような仕組みにすると、事後的ではありますが、公判の中身というものを第三者がうんぬんする道を開くことにつながるのではないかと危惧するわけですが、その点は最高裁はどのようにお考えでしょうか。

○今崎氏 裁判所が現在国選弁護人の報酬算定を行うに当たって考えているのは、通常は開廷回数ですとか、あるいはその裁判の中に表れていれば、行われた弁護人の活動、具体的な例えば被害弁償にどのぐらい駆け回ったかとか、そういったこと、そして更にそもそも事件の性質ですとか、記録の量ですとか、そういった裁判所の目から見て外形的に表れた事情を考慮に入れているわけでございますが、ここで申し上げているのも、そういった外形的なといいますか、裁判所に明らかな事情というものを考えているつもりでございます。

○高井委員 最終的にはどういう仕組みになるかは分かりませんが、仮にそういう方向について弁護人から異議の申立てを出すとしますね。そうすると、ではなぜここでこんな活動をする必要があったのかとか、なぜこれだけ何回も接見に行く必要があったのかということを証明しろという話になろうかと思います。そうなってくると、裁判所の訴訟指揮がこうだったからだとか、ああだったからだというような主張を当然弁護人はすることになろうかと思うので、そうなってくると最初はそういう外形的な要素だけで判断するとしたとしても、運用次第によっては公判の在り方を第三者がうんぬんするということに道を開く。そうなるとは断定はしませんが、道を開く余地が出てくる制度ではないかと思うのですが。

○今崎氏 もともとその問題というのは、現在のシステムでもあるのです。現在でも、裁判所が算定するに当たっては、そういった事情が本当に必要だったのか、弁護人の活動として本当に相当だったのかということを判断しようと思えばできないわけではないような形になっております。つまり、同一の人がその情報を持った上で、その相当性をもし報酬算定の上で判断するのであればですね。
 ただ、現在は、裁判官はそういうことは基本的にはしておりませんけれども、そういう形での、つまり弁護活動の相当性といいますか、内容というのが実際の公判審理でありますとか、裁判所の訴訟指揮との関係で問題とされる可能性というのはもともと内在的にはらんでいるものだろうと思います。ですから、運営主体にそういう事務が移るかどうかといったことによってその点が違ってくるのではないというふうに私は認識しております。

○高井委員 同じものであることは分かるのですが、それを裁判所が判断するのと、第三者が判断するのではやはり意味が違うのではないかと私には思えるということを指摘したいと思います。
 第2点は、6ページで、「運営主体の設立後は、運営主体が公的弁護人に対する支払いをすべて行うこととし、これら費用を訴訟費用から外すこととなる」とあります。この制度を前提にすると、要するに、最高裁は公的弁護人に関する費用を持たない、予算を持たないということになろうかと思うのです。そうすると、逆に最高裁が公的弁護に関する予算を持っていた場合にどのような不都合が起きるのかということについて御説明をお願いしたいと思います。

○今崎氏 非常に大きな問題なのですが、どこからお答えしたらよろしいのか、私どもがもともとこういう考え方を申し上げているのは、そもそも今回の司法制度改革審議会の意見書の趣旨を最も普通にと言いますか、私なりにあるいは私どもなりに自然に解釈したらこういう仕組みができるのではないかというところからなのです。もちろんそうではないという読み方があるということは重々承知の上で申し上げているのですが、御承知の司法制度改革審議会の公的弁護に関する提言内容というものは恐らくこういうものを考えていたのだろうと。別にそのときに、裁判所が予算を現在持っているのがいいとか悪いとかといったことを考えてそういうことを言ったとは私は思わないのです。むしろ最初にも申しましたけれども、今後の刑事裁判の在り方というものを考えていくときに、こういう制度は必然なのではないかというふうに審議会意見書が言っているのではないかと理解しているということです。

○高井委員 仮に今、最高裁がお答えになったような制度にしたとしますね。そうすると、公的弁護は何らかの形ですべて運営主体の下に統括されるという結果になると思うのですね。そういう制度は弁護の独立という本質的な問題に馴染むのかどうかという点については、最高裁はどのようにお考えでしょうか。

○今崎氏 それも大変難しい問題なのですが、恐らくその関係はやはり弁護士会の役割というものが当然出てくるのだろうとは思います。ですから、もともと今日の議論にも出てまいりましたけれども、この制度というものは弁護士会が協力してやる気になってくれなければそもそもできない話でございます。
 特に私どもの意見書にありますように、2ページから4ページにかけて、運営主体と弁護士会の役割、かかわりの在り方についても幾つか述べておりますけれども、基本的に審議会意見書の発想といいますか、発想の根本には、そもそも弁護活動の自主性・独立性というのが侵されてはならないというのは当然あるわけで、むしろそれを前提としたシステムとしてこれはつくられているものだろうと私は理解しております。

○高井委員 制度を設計する場合、今おっしゃるような観点でつくるということは当たり前のことでありますし、もちろんそうだと思うのです。また、そういう制度をベースにつくり、またほとんどの場合はそれで動いていくと考えても妥当だと思うのです。
 ところが、やはり幾ら良い制度をつくっても人間のやることですから、場合によっては、弁護人と運営主体が対立するという可能性が、理念型の問題として排除できるということにはならないと思うのです。そうすると、運営主体と対立した場合には公的弁護ができなくなるかもしれないというような制度というのは、弁護人の独立の基盤を考える上で、その基盤に脆弱な要素を持ち込むことになるのではないかと思いますが、その点はいかがでしょうか。

○今崎氏 これはひょっとしたら水掛け論になってしまうのかもしれないというか、むしろ余りはっきりしたお答えができないのかもしれませんが、恐らくそれはそういう制度をつくってはいけないのだとしか言いようがないのだろうと思うのです。
 確かに、一つの組織の下にというか、一つの組織の中にといいますか、あるいは何か一つの構造の中で一定の活動をするというふうに決めた以上は、そこから外れる危険が生じたときにどうなるのかという議論が当然あり得るということは確かにおっしゃるとおりだと思います。しかし、同時に、そういったいわば公的弁護全体を運営主体が担っていくというようなシステムというものが、やはり今後の刑事裁判を考えていく上でどうしても必要なのではないか。繰り返しになってしまうのですが、考え方の分かれ目は、そこの問題意識の点だろうと思うのです。お答えになっているかどうか分かりませんが。

○井上座長 それでは、土屋委員どうぞ。

○土屋委員 一つだけです。高井委員がちょっと触れられた3ページの報酬基準の策定のところなのですが、ここに書かれている限りでは、ボードが報酬基準を策定し、そして報酬算定を行うというところまであるのですけれども、支給をどうするのかという支給の部分の言及がないのですが、その辺りはどうお考えなのですか。

○井上座長 後ろの図ですと、これも運営主体になっているのではないですか。

○今崎氏 支給も運営主体が行うということを前提に考えております。

○本田委員 私の方から二つほど質問させていただきたいと思います。その前に、高井委員の質問に関連してちょっとお聞きしたいのですけれども、先ほど公判の内容について第三者がうんぬんするようなことになるのではないかという中で、それは現在でも同じだというお答えだったのですが、現在は裁判所が支給する国選弁護報酬について不服申立てはできないのですね。
 ところが、これは第三者がやると当然不服申立てができるような制度になってしまう。そこが大きく違ってくるのではないかという気がするのですが、そこはいかがでしょうか。

○今崎氏 余り考えたことがない問題なのですが、ただ、逆に言いますと、そういう矛盾をはらみながら、今、不服申立てを認めていないという立法がされているわけですね。ですから、それがむしろほかに移ったら、別に不服申立てを認めてもいいではないかという立法の判断というのはあり得ると思います。

○本田委員 では、あとの2点をよろしいですか。最初の点は報酬の算定についてですが、この後ろのイメージ図と合わせて読みますと、具体的報酬の算定は常勤弁護士を含む運営主体の支部の事務局が行うというような形になっていますね。そうなりますと、現実に国選弁護を担当する弁護士がその具体的報酬を決定する。こういう制度が透明性を担保した制度だと本当に言えるのだろうか。ましてや、常勤弁護士というのは運営主体に雇用された人ですね。その雇用された人が、自らの報酬を含む具体的報酬を決定するというのはどうも制度としておかしくないだろうかという気がするのです。公的資金を投入するのにふさわしい透明性、説明責任を確保した制度と言えるのだろうかという疑問が一つです。
 それから、これは先ほど高井委員もちょっと触れられたかもしれませんけれども、いわゆる最高裁のおっしゃっている一般弁護士の人たちの報酬支払についてですが、これを運営主体が行う必要があるかということです。この前の検討会でも出たのですけれども、運営主体が報酬を支払わなければならないという実質的理由は何なのだろうか。裁判所が報酬を支払うことができないとする実質的理由があるのだろうかという疑問があります。
 その実質的理由の有無はしばらく置くとしても、会計法24条との関係をどう考えていらっしゃるのか。運営主体を国の機関にしてしまうのか。その場合は、具体的にどのような機関を想定されているのだろうか。それとも、国の機関とせずに会計法24条の例外というものを定めるのか。あるいは、それ以外の制度を考えられているのか。その点を御質問したいと思います。以上です。

○今崎氏 まず報酬算定について、表現が悪かったら恐縮なのですが、端的に言えば、要するにお手盛りにならないかということでしょうか。

○本田委員 外から見たときに、制度としてですね。

○今崎氏 実際にお手盛りかどうかはともかくとして、公正らしさの問題だと思います。それは私の考え方では報酬基準がやはりきちんと策定されるというのが当然の前提になると思うのです。したがって、その報酬基準というのは、先ほど申しましたような公正中立なボードで策定されるということを前提にしております。ですから、私の考え方なり、裁判所の考え方としては、恐らくきちんとした基準を策定することによってそれなりの客観性というのは担保できるのではないかと考えているということになります。
 もちろん、ここにもし問題があるということであれば、また別途の考慮というのを、それは更に制度設計の中であり得ると思いますから、これしかないということを申し上げているつもりはございませんが、基本は、やはりそういうボードがつくった基準に基づいて、いわば現場の常勤弁護士さんを中心にした人たちが当てはめて算定していくというのがイメージということでございます。
 それから、一般弁護士への報酬算定・支払について、裁判所がやることについて何かできない理由があるのだろうかという御指摘でございますが、できない理由があるかというと、別にできない理由はないのです。これはそういう問題ではないんだと思っております。つまり、これは高井委員のおっしゃったことの繰り返しになりますけれども・・・。

○本田委員 ないということだけお聞きできれば結構です。あとは先ほどお聞きしましたので。

○井上座長 この図を見ますと、一般の弁護士さんとの関係で運営主体がやることは、裁判所から連絡の依頼を受けて推薦依頼を弁護士会にし、弁護士会が推薦をしてそれを連絡すると、これだけなのですね。個別に選任される一般の弁護士さんと運営主体との間では法的な関係は全く成立していないわけです。むしろ、裁判所が選任するという行為によって国との間で法的な関係が成立するのですけれど、どうして運営主体が報酬を算定して支給するという立場に立つのかがよく分からないのですが、その点はどのように考えておられますか。会計法24条との関係なのですけれども。

○今崎氏 ここは先ほども議論になっておりましたので、私の理解が合っているかどうかよく分からないのですが、もともと会計法24条というのは国の債務がどこにあるかという帰属を決定する法規範ではないですね。ですから、国の債務であるというときに、その支払方法をどうするかということを恐らく決めたものだろうと思っているわけです。現在の国選弁護の仕組み自体は、明らかに国、裁判所が選任して、それが国の債務として発生するということになりますので、それを支払うときには会計法24条の制限といいますか、適用はあるということになるだろうと思います。
 それで、私が個人的に思っているのは、これを実際に運営主体が全体として一般弁護士さんに対する報酬支払もするのだとすると、そこには恐らく何らかの法的な根拠付けというのが必要なのだろうというのは御指摘のとおりだと思います。ただ、その根拠付けというか、法律的な理屈付けというのがあるのであれば、それは結局は立法政策の問題で、本来その債務負担を国が負う形につくるのか、あるいは運営主体が負う形につくるのかという問題だろうと思いますし、そうだとすると運営主体が債務を負うという形にする立法政策にすることの正当性の問題なのだろうと思っています。

○井上座長 これは意見なのですけれども、国は債務を負う。それで、その支払窓口をどこにするか。今の会計法の考え方は、それは国家機関だということになっているわけですけれど、今崎さんの御理解ですと、それは債務負担の原因となる行為を行ったところでなくてもいいのだということだと思うのですね。裁判所でなくていいというのは。

○今崎氏 そういう意味ではなくて、そもそも今は国が債務者というふうに構成していますが、運営主体を債務者と構成するということは別に可能ではないかということを申し上げたいのです。

○井上座長 大本のところの考え方を変えようということでしょうか。ちょっと出過ぎたことを申してすみません。では、どうぞ。

○大出委員 大分会計法上の問題が出たのでそれ以外のところなのですが、3点ほど。
 4ページの(6)で、先ほどこれは自主性・独立性との関係のところで御質問がありましたけれども、質の確保に当たって、「運営主体も、弁護活動の質の向上に努力すべきである」ということを御指摘になっているわけですが、具体的にここは何か方策についてお考えのことがあるのかどうかというのが1点です。
 それから、同じ4ページの対象事件のところですけれども、「一定の制限を設けることが考えられる」という御指摘の後に、どのような場合にどのような類型がそれに当たるのかというようなことを実証的に検討すべきであろうという御提案なのですが、その実証的に検討する方策について何かお考えでいらっしゃるのでしょうか、それが2点目です。
 3点目は、5ページの冒頭のところで当番弁護士制度を前提とした制度設計ということをお考えでいらっしゃるようなのですが、これは、日弁連が先ほど御提案になったものとの関係について何か今の時点でおっしゃっていただけることがあるのかどうかについて、この3点です。

○井上座長 日弁連がというのは、国費による当番弁護士という制度ですか。

○大出委員 はい。

○今崎氏 まず最初の点ですが、運営主体が弁護活動の質の向上に努力すべきという、そこの意味はどういうことかということだと思います。審議会意見というのは、弁護士会が弁護活動の質の確保について重大な責務を負うことを自覚し、主体的にその態勢を整備すべきであると言っているところでございます。したがいまして、弁護士会が審議会意見に沿って真摯に弁護活動の質の確保のための態勢を整備すべきであるというふうに考えているところです。その上で、運営主体も、弁護士会の取組と連携して、質の確保に努めるべきであるというふうに考えております。
 また、従来の国選弁護においては、刑事弁護の専門的な経験が蓄積されることに乏しく、そのノウハウが組織的に集積されてきたとは言えないということは先ほど申し述べたとおりでございます。今後は、運営主体の常勤弁護士等を中心として、そのノウハウ、情報等の蓄積を行い、相互に議論し、啓発し合うという中で、弁護活動の質の向上を図るなどして、その方法を多角的に検討していく必要があると思っております。
 2点目の対象事件の方策の関係でございますが、これについては、現在こういうものだということで申し上げられるようなものは用意しておりません。
 それから、3点目は、当番弁護士の関係ですね。現在、当番弁護士制度が行われているということでございますが、御質問の趣旨は国費による当番弁護士制度というものについてどう考えるのかということかと思います。

○大出委員 ここで御指摘のことが、どの程度まで視野に入れてのお話なのかということです。

○今崎氏 特に国費による当番弁護士制度というものをどうするかということについては、やはり刑事弁護体制の全体の中で見ていくべき話だろうと思いますので、それについてどういうふうに考えるかというのは、まだ今後の検討に待つべきだというふうにしか現在ではお答えできません。

○井上座長 では、これで最後ということでどうぞ。

○浦委員 公的付添人の問題なのですけれども、現に家裁から扶助事件として付添人の選任を依頼されて弁護士が付いているわけですが、この場合にも事実に争いがなくても要保護性に問題がある、例えば保護者に監護能力がないというようなケース、それも相当数含まれてきているわけです。ところが、最高裁のプレゼンテーションでは、要保護性が問題となる事件については家裁の調査官が調査することで適切に審判をなし得るというふうに断じておられるように見受けられるのですけれども、この点は実際はそうではないのではないか。
 現に、最高裁がかつて司法制度改革審議会に提出された「国民の期待に応える刑事司法の在り方」というペーパーの中でも、弁護士付添人の活動については評価されたこともあったわけです。そういうことからしまして、どうもこういうふうな形で一刀両断におっしゃられることについては、いささか異議があるというのが少年付添事件を担っている弁護士たちの強い意見です。この点については、是非とも御再考をお願いしなければならないだろうと思っております。その御意向はございますでしょうか。

○岡氏【最高裁判所事務総局家庭局第二課長】 今、浦委員がおっしゃいましたように、弁護士である付添人が、個々の事件において少年の保護環境の整備等に尽力していただいている事案があることは認識しております。書き方の問題かと思いますが、あくまで私どもが考えているところは、制度を設計する場合に、他方で家庭裁判所調査官が配置されており、要保護性に関する問題については基本的に家庭裁判所調査官が担当するという仕組みを前提として、それに加えて弁護士である付添人がどのような役割を果たすものとして制度がつくれるかということを考えなければいけないのだろう。そうすると、なかなか具体的にこういうことのために必要だというところが、要保護性の場面に関して言えばなかなか申し上げるのは難しいということを述べたところでございます。決して、今やっていただいていることに意味がないとか、そういうことを申し上げているつもりではございません。

○井上座長 では、本当にこれで最後にしてください。

○土屋委員 今、調査官の話が出たので一言、調査官のことでお伺いしたいのですけれども、家庭裁判所の調査官について、成年後見制度が動き出したことによって、少年事件の担当者が、成年後見の方に大分移っているような話を伺っているのです。ですから、一種の調査官の機能の低下があるのではないかというようなことを危惧する意見も伺えるのですけれども、そういうのがもし現在進行中の事態であるとすれば、調査官が調査を行うことにより適切に審判をなし得るのだというふうに言い切ってしまって、それだから弁護士さんが付添人になる役割が減るのではないだろうかというような組立方自体、ちょっと私は疑問を感じるところがあるのですけれども、いかがですか。

○岡氏 確かに、家庭裁判所の家事事件の方が増加しておりまして、成年後見制度の導入ということもあって、家庭裁判所の調査官の担当職務が増えているのは間違いないところです。それで、どの事務にどういうふうに人員を配置するかというのは、それぞれの事務の量を考えて適切に各庁でやっているわけですが、その際には、少年事件の手を抜いて家事事件に力を振り向けているということは決してなくて、少年事件をおろそかにしないような形でそれぞれの事務の責任を果たしていくという観点で配置を考えておりますので、成年後見が入ったから少年の方の調査官の果たす役割が果たせなくなっているという事態はないというふうに認識しております。

○土屋委員 私が言いたかったのは、調査官があるために付添人の役割がそのことによって減るのではないかというようなことに対する疑問でありまして、独自の意味があるでしょうということだったのです。

○井上座長 打ち切るようで申し訳ないのですが、どうもありがとうございました。これで本日予定していたヒアリングは終了ということにさせていただきたいと思います。
 これで第1ラウンドの検討は終了し、次回から第2ラウンドということになるわけですが、次回以降の進め方について少し御議論をいただきたいと思います。この点について、事務局の方で何かお考えがあればどうぞ。

○落合参事官 事務局としましては、本検討会での主な検討事項である公的費用による被疑者・被告人の弁護制度と、少年審判手続における公費による少年付添人制度のそれぞれについて、主要論点ごとにひとわたりの議論を終えましたので、今後これまでの議論を踏まえて第2ラウンドの議論に入っていただくためには、事務局において、各テーマごとに具体的制度設計に向けた議論のたたき台を作成し、それを素材として本検討会の議論を進めていただくのが適当ではないかと考えております。そのたたき台としましては、これまでの議論において意見の分かれている議論については複数の選択肢を示すものとしたいと思います。また、もちろん今後の議論における各委員の御意見はたたき台に記載されたものに限定されるものではないと理解しております。
 その上で、次回の4月1日以降、第8回から第11回まで4回の検討会が予定されておりますので、このうち第8回及び第9回において公的弁護制度、第10回において公的付添人制度について検討していただくこととし、第11回はいわば第3ラウンドとして全体について御検討していただくという予定で進めていただいてはいかがかと存じます。
 そうしますと、公的弁護制度については2回に分けて第2ラウンドを実施していただくことになりますので、事務局において関連する論点を整理した上で、順次たたき台をお示ししていきたいと考えております。以上でございます。

○井上座長 今、おっしゃったことを確認しますと、一つの案としての御提案ですけれども、第1点は、事務局においてたたき台を作成する。つまり、各テーマごとに具体的制度設計に向けたこれまでの検討会における議論を基にしてたたき台を作成し、それを手がかりとして第2ラウンドの検討を進めていくということ。
 第2点は、このたたき台はこれまでの議論において意見が分かれている論点については、複数の選択肢を示すという形にするということ。
 第3に、今後の議論におけるここでの皆さんの御意見は、このたたき台に記載されているものに必ずしも限定されないということ。
 第4に、具体的には、この論点を整理した上で第8回及び第9回、つまり次とその次で公的弁護制度についてのたたき台を順次示していただく。次に、第10回で公的付添人制度についてのたたき台を示していただいて議論をする。そして、第11回で、これを第3ラウンドと言うのかどうか分かりませんが、全体についてもう一度検討をするということ。
 こういう提案が事務局の方から示されたわけですが、これについて御意見、御指摘がございましたら伺いたいと思います。いかがですか。その方向でよろしいですか。
 それでは、そういうことで、次から議論を行っていきたいと思います。
 最後に、連絡事項が事務局の方であるということですのでお願いしたいと思います。

○落合参事官 前回の検討会でお諮りしましたとおり、事務局では、本年1月10日から3月20日まで、「被疑者・被告人の公的弁護制度の整備に関する意見募集」を行っておりまして、昨日までに電子メール等を含めて70件程度の御意見が寄せられております。
 寄せられた御意見につきましては、適宜集計などをして取りまとめた上で、本検討会に資料としてお配りしたいと考えておりますが、委員の皆様の中で現在までに寄せられた御意見について直接御覧になりたいとの御希望がありましたら、検討会終了後、事務局に御連絡ください。
 また、毎回申し上げておりますとおり、事務局では、今般の司法制度改革につきまして広く国民の皆様からの御意見を承っており、目録も作成しておりますので、御希望の委員の方は適宜事務局にお申し付けいただきたいと思います。
 なお、国民の皆様からの意見を直接御覧になりたいとの御希望がありましたら、検討会の終了後など適宜の機会に事務局にお申し付けください。
 最後になりますが、本検討会の第1回の会合の内容を記録した録音テープの不開示決定に関する情報公開審査会の答申がなされましたので御説明申し上げます。以前にもお知らせいたしましたが、本検討会の第1回会合の内容を記録した録音テープについての不開示決定に対し、異議申立てが行われ、当本部からの諮問により情報公開審査会で審議中でありましたところ、本年2月7日付で議事の公開の協議の部分は不開示が妥当であるが、その他の部分は開示すべきであるとの答申がなされました。その詳細につきましては、御参考に答申をお手元にお配りさせていただいておりますので、そちらを御参照いただきたいと思います。事務局といたしましては、答申の内容を踏まえ、適切に対応してまいりたいと考えております。以上でございます。

○井上座長 今の連絡事項等について、何か御質問があればどうぞ。
 よろしいですか。それでは、これで本日の議事を終了したいと思います。次回は4月1日の午後1時30分からということになっておりますので、お間違えのないようにお願いします。どうもありがとうございました。

(以上)