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公的弁護制度検討会(第8回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年4月1日(火)13:30~17:38

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 井上正仁座長、池田修、浦功、大出良知、酒巻匡、髙井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(事務局) 山崎潮事務局長、大野恒太郎事務局次長、古口章事務局次長、松川忠晴事務局次長、落合義和参事官

4 議題
公的弁護制度について

5 配布資料
資料8-1 公的弁護制度について(1)

6 議事
 議事に先立ち、事務局から、「被疑者・被告人の公的弁護制度の整備」に関する意見募集の結果の概要について説明がなされた。続いて、議事に移り、配布資料8-1「公的弁護制度について(1)」(以下「たたき台」という。)に沿って、公的弁護制度について議論が行われた。
 議論の概要は以下のとおりである。(□:座長、○:委員、●:事務局)

(1) 被疑者に対する公的弁護制度の対象事件(身柄拘束の有無による限定)(たたき台第1関係)
 たたき台の「被疑者に対する公的弁護制度の対象事件は、身柄拘束されたものに限るものとする。」との案について、異論は述べられなかった。

(2) 請求による選任制度(たたき台第2関係)

ア 被疑者に選任請求権を与える事件の範囲(罪名による限定)(たたき台第2、1関係)

○ 無罪かもしれない、起訴されてはいけない者が起訴されてしまうという事態は罪名と関係なく起こる。確かに罪名が重い方が無実の者が起訴された場合のダメージが大きいということは言えると思うが、罪名が軽ければいいかというと、痴漢えん罪事件を見ても、法定刑から見ると非常に軽い事件であるものの、それによって受けるダメージは極めて重いものがあって、仮に無罪となってもなかなか元の社会的地位を回復することはできない状況にある。そのようなことを考えると、罪名の軽重によって選任請求権を与えるかどうかを区別することは極めて不当である。

○ 司法制度改革審議会意見書は、刑事司法の公正さの確保という点からは、被疑者・被告人の権利を適切に保護することが肝要である、そのために格別重要な意味を持つのが、弁護人の援助を受ける権利を実効的に担保することであると高らかにうたっている。この趣旨は、憲法34条及び37条に基づく被疑者・被告人の弁護人の援助を受ける権利を担保するために、公的弁護制度を導入しようとするものであることは明らかである。そのような公的弁護制度導入の意義に照らしても、意見書は、対象範囲を広く考えていたはずである。意見書の趣旨を実現するという司法制度改革推進本部の立場から考えても、罪名による限定を付することは意見書の趣旨とは相容れないものがあるのではないか。

○ 現実にこの制度を立ち上げる場合に、全事件を対象として、制度が動くのかという疑問がある。例えば、日弁連の試案の中で、全身柄事件の75パーセントに公的弁護を付けようとする場合には、当番弁護士に登録している弁護士が被疑者弁護を年10件受任したとしても、更に年100件受任する刑事専門弁護士が230人必要だという数字が出されていたし、日弁連のアンケート調査結果においても、勾留請求事件の3割を対象事件と限定して考えたとしても、30パーセントの地区では対応が困難又は不可能という回答が出ていた。現在、公判段階で約70パーセントが国選弁護の対象事件となっており、30パーセントという前提は低すぎると思う。弁護士の偏在という問題もあり、全事件を対象としたのでは制度が動かないという気がする。そのような対応能力とともに、国民の税金を投入する制度であり、国民の理解を得る必要があることも考慮すると、対象事件は限定せざるを得ない。そうでないと、そのような体制が整備されるまで制度を動かせないということにもなる。現実に動く制度とするという観点から限定が必要だということになると、やはり国選弁護の必要性が高いのは重大事件であるが、個々の事件ごとに内容を見て重大かどうかを判断して対象事件とするかどうかを決めるわけにはいかないので、法定刑で分けるという考えに立たざるを得ず、法定合議事件辺りが一番現実的な線ではないか。

○ 75パーセントという日弁連の想定を前提としたシミュレーションとなったときには、指摘の危惧が現実に存在するということがあり得ると思う。ただ、問題は、75パーセントという想定自体が妥当かどうかということであり、全事件を対象としたとしても、13万件すべてが公的弁護の対象となるわけではなく、もう少し現実的にシミュレートしてみる必要がある問題だと思う。また、弁護の立場から、事件を振り分けるということも決して不可能ではないだろうと考えており、現実にどの程度公的弁護の必要性が出てくるか必ずしも明確な形で統計的な根拠があるとも思えない段階で、法定刑で重大事件に絞るということに合理性があるか。

○ 確実に全身柄拘束被疑者について請求権を与えて対応できるだけの人的な基盤が今あるかというと非常に不安を感じざるを得ない。そのような点も考慮すると、やはり立法政策的には一定範囲に限定をする方が適切であろうと思う。限定するとすれば、弁護の必要性という観点からは、結果が重大になる可能性が高いという意味で法定刑が重い事件という切り分けが現行の制度の下ではあり得るであろう。被疑者弁護の場合は、迅速にまず弁護士が行って対応しなければならないという点で、被告人の国選弁護の場合と事情が違うところがあり、また、全国の弁護士の偏在問題等も考えると、一定の限定が必要であろう。

○ 全身柄事件という意見は採り得ないだろうと思う。選任要件で公的弁護の対象となる事件をどう絞るかということとセットで問題となるであろうが、選任要件による限定を実務で担保することは極めて難しいと思われ、対象事件について客観的な基準を設けるとした場合、法定刑で見て重大事件というのが常識に合致する。そうすると、たたき台の案の中では、法定合議事件ということが最も近い感じである。

○ 罪名による限定を設けず、すべての身柄事件を対象とすることを目指すことには異論はない。そして、無資力要件で制限することができれば問題はないであろうが、無資力要件以外にもその他要件により選任する場合が残るであろう。また、無資力要件を余りにきちんとしようとすると、資料が出るまで時間がかかるという問題もあり、そこで区分けすることは難しいという問題もある。そういうことからすると、ある程度事件の範囲を制限せざるを得ないのではないか。その場合に、どういうやり方で限定するかについてであるが、法定合議事件ということになると、件数がかなり少ないように思うので、そこまで絞るのはどうかと思うが、やはり一定の罪名で重大な事案にするということは当面やむを得ないと思われる。それによって、公的資金を投入することについて国民の理解が得られれば、対象事件の範囲を広げていくことも十分可能なのではないか。

○ 理想の形をいえば、罪名による限定を設けないで、すべての事件に選任請求権を与えるのがいいだろうと思うが、現実の問題として、どこかで絞りをかけていかなければいけないということになると、罪名による限定か貧困要件による限定かということになると思う。その場合に、貧困要件を厳しく見ていくということは難しい。むしろ重い事件であればあるほど遺漏のないように手続を丁寧にしなければいけないという要請があるはずなので、そこに重点的に選任請求権を与えるということを考えるべきである。そう考えると、やはり法定合議事件ということになろう。法定合議事件で区切ると少なすぎるかなという感じはするが、事件が重いか軽いかということによって限定して行かざるを得ないのではないか。

○ 罪種で絞るという考え方と選任要件で絞るということは、性質の違う考え方ではないか。貧困要件のような選任要件で絞るということは、基準を上げ下げすることによって一種の量的な調整を行うということであるのに対し、罪種によって切るということは、対象を切り分けるということであり、質の違う考え方ではないか。私も弁護士会の対応能力については非常に心配しているが、どのような制度であっても、財政的な制限の範囲内で動かすということにならざるを得ない部分があると思う。他方、この制度で大事なのは、最初から対象にならない人がいないということであり、少なくとも罪種によって対象にならないから公費による弁護は受けられないのだという仕組みにはしないでほしい。対応能力の問題は、いわばニワトリと卵の関係のようなところがあり、制度が魅力的なものとして設計され、動き出していけば、そこで仕事をしていこうという弁護士も増えていくであろう。将来的な発展性は、罪種で切ってしまったら生まれないだろうと思う。貧困その他の要件というところで、必要ならば量的な調整を行うという方が将来的な発展性のある制度になると思う。

● 請求による選任制度で、選任要件を満たしていながら弁護人を選任できないという事態が起きた場合の法的効果をどのように考えているか伺いたい。

○ 捜査として想定されていることが何かという問題でもあるが、捜査が一切できないということはないと思う。捜査として被疑者の取調べを想定しているのであれば、被疑者の取調べについては支障を生じる可能性はあるが、それ以外については、進められるのではないか。

○ 論点をはっきりさせるためにあえて言うと、基本的には、必要的弁護だと言っているわけではないので、手続は動かしてよく、取調べもしてよいという考え方でよいのではないか。ただ、弁護人の争い方、事件の性質、自白の出方によって、将来、公判において、弁護人が付いていないときの自白調書の任意性の判断が厳しくなるという実務上の影響は出てくるかもしれないが、法的には、手続は、被疑者の取調べも含めて、進めてよいと考えるべきだと思う。

○ 国費による弁護人選任請求権が存在するにもかかわらず、選任がなされないという事態が生じた場合、法律論を構成するとすれば、捜査段階において、弁護人の援助を受ける権利が侵害されたということで、弁護人の援助を受ける権利の侵害はすべての手続に波及するので、それ以降に行われた手続にも、その違法状態が及んでいるという主張をする場合もあるだろう。また、弁護人を請求したのに付けられなかった場合には、弁護人を付けられなかった原因になっているところを民事上訴えることもあるだろう。

○ 今の問題は、罪名による限定を付す付さないにかかわらず生じる問題ではないか。

○ 確かに、理論的に言えば、罪名による限定を付したとしても、弁護人が付かない状態を生じる可能性があるという議論はあり得るが、現実問題としては、対象事件をある程度絞った上で、弁護人が付かなかったところにセーフティーネットとして常勤弁護士や契約弁護士を付けるという仕組みをつくり上げることにより、弁護人が付かないという事態が起こらないようにすべきである。他方、対象事件を大きく広げてしまうと、いくら常勤弁護士や契約弁護士を確保したとしても、到底対応できないということになってしまう。

イ 被疑者に対する弁護人の選任要件(たたき台第2、2関係)
 たたき台の「(1) 貧困要件」に関し、「貧困要件について、資力に関する明確な基準を定めるものとする。」との案について、異論は述べられなかった。「(1) 貧困要件」のうち「ア 資力に関する基準の内容」及び「イ 資力を考慮する者の範囲」、「(2) その他要件」並びに「(3) 被疑者以外の者が選任した弁護人がないこと」に関し、主として、以下のような意見が述べられた。

○ 資力に関する基準の内容としては、両方あり得るかもしれないが、手取り月収額を基準とするとなると、逮捕されて職を失う人もいるので、いかがか。そうなると、A案かと思う。

○ 資力に関する基準の内容としては、基本的にはA案で行くべきだと思う。私の経験では、被疑者の供述調書で、預貯金はゼロですという者も確かにいたが、結構持っているなと思う場合が多かったように思う。標準的と思われる弁護報酬の金額については、20万円ないし30万円持っていれば、私選を依頼すべきだということが基本だと思う。

○ 訴訟費用を負担させるか負担させないかという判断に当たり、被疑者の供述調書を見るが、預貯金が少しあるものの、負債もあるという者もいる。これをどう見るかということは難しい問題であり、負債があっても、信用があるから負債があるのであって、一方に少しでも蓄えがあるのであれば、それだけの資力があると見てよいのだろうか。

○ 税金債権は一般債権に優先するのであるから、それと同じように考えればよいのではないか。税金で国選弁護を頼もうというのであるから、債務があったとしても無視して考え、最優先で私選弁護を頼むべきであるというのが制度の趣旨ではないか。例えば、現金が1億円あっても、負債が10億円ある人に国選弁護を付けるというのでは、国民はおかしな話だと思うのではないか。

○ 民事法律扶助のようなことを刑事においても考えられないかと思う。民事法律扶助の基準は、収入の最下層から20パーセントくらいを対象として運用していたと思う。どれくらいの件数を対象とするのかということで考えるならば、現状でどれくらいの件数できるのかというところから考えていけばよい。どれくらいの生活水準にある人を対象にするのかという考え方で、民事法律扶助と同じように収入の最下層から一定の割合のところで線を引くという方法を採ることができないかという第三の選択肢のようなことを考えている。どこで線を引けばどうなるというデータは持っていないが、そういう考え方の方が量的な調整は可能なのではないか。

○ 資力に関する基準の内容として、A案かB案のどちらかに決めてしまうわけにはいかないのではないか。預貯金を持っている場合には資力があるという判断は当然あり得ると思うが、問題は、生活に必要な金額を控除して、それ以上に弁護費用として捻出できるかという問題である。定期的に収入がある場合であれ、そうでない場合であれ、いくら預貯金を持っていても、現在の年金事情等からすれば、将来的な不安を抱えたままでは弁護費用を捻出できないということもあり得るので、どう基準をつくるか非常に難しいだろうと思う。もちろん無資力要件がなくてもよいと思っているわけではないが、合理的な要件として、ある程度形式的に切り分けることができる要件として、どういう要件のつくり方があるのかについては難しいかなと思っている。手取り月収額という言い方では、定期的に収入が入ってくるというニュアンスが強いが、そうではなくて、月々の生活費を控除した余力というものの基準がつくれるかどうかということかと思う。

○ 資力に関する基準の内容として、たたき台に書かれている案には何か違和感がある。このような書き方は、課税標準を定めるような場合には意味のあることだと思うが、ここでは、借金してでも私選で弁護人を依頼したいという人もいるのだから、調達能力があるのかないのかという見方もできるであろうし、もう少し本人のやる気というか本人の意思を考慮できないかと思う。

○ 資力に関する基準の内容として書かれているA案とB案が互いに相排斥する関係にあるとも思えず、両者を総合した形になることもあり得ると思う。基準を明確にすべきだということは言えるが、どうするかということになると、結局は総合的な判断ということにならざるを得ず、明確にならない可能性もあるかもしれない。ただ、それだと選任段階で困ることになるとは思う。

○ 資力を考慮する者の範囲としては、裁判所の判断の難易、基準の明確性のほか、仮に虚偽の資力申告に罰則を設ける制度をつくるという場合のことも考えると、当該被疑者だけの資力を考えるのが妥当ではないか。

○ 資力を考慮する者の範囲としては、B案がよい。A案では、例えば学生はほとんど資力がないということになると思う。最初から資力要件を満たしてしまうような者が想定されるような線引きはおかしい。一定の範囲の親族の決め方は難しいと思うが、被疑者だけで資力要件の有無を考えるということは制度として妥当でないのではないか。

○ 「(2) その他要件」及び「(3) 被疑者以外の者が選任した弁護人がないこと」の要件については、たたき台のとおりでよいと思う。資力を考慮する者の範囲としては、審査資料との関係で、基本的にはA案にせざるを得ないかと思う。ただ、一定の範囲の親族の資力を考慮する場合が全くないかという問題については、少年の場合には少し考えなければいけないのではないか。保護者の立場にある親族がいるわけであるし、対象となるような少年は無職の場合が多いであろうから、少年については、別途の考慮が必要であろうと思う。

○ 資力を考慮する者の範囲については、ここは弁護人を付けなければいけないかどうかという問題であるので、明確なものにしておいた方がよいのではないか。後で費用を負担させるかどうかについては、広くB案でいくとしても、最初の選任の段階は、もっと明確でないと困るのではないか。ここは、A案でいく方がいいのではないか。

○ 資力を考慮する者の範囲は、基本的にA案で行くが、成人と未成年とを分けるということが一つの考えだろう。未成年の場合、親に扶養されている場合が多いことを前提とすると、その限りで考慮する者の範囲を広げるが、それ以外は本人を基準とするのがよいのではないか。

□ 仮に親子関係が断絶していて見放しているという場合、要件を満たしていなければ弁護人が付かないということになるように思うがいかがか。

○ 例えば同居の親族の資力を考慮するというのは、そのような場合には弁護費用を出すであろうという前提で、そのようにしているのであるから、例外的に親子関係が断絶していて弁護費用を払ってもらえないという場合には、例外的な措置を設ければよいのではないか。

○ 調達意思を持ちながら調達能力が不足しているというような書き方ができないか。それが事後の徴収等の実効性を高めるというところにもつながっていくのではないかと思う。

○ 例えば保釈保証金はほとんどすべて調達してくるということが多いと思うので、貧困要件をトータルで考えるということも一つの考え方だと思うが、要件をどの程度厳格に考えるかということとの関係で見ていかなければいけないだろう。ここを厳しく見るということであれば、A案になっていかざるを得ないが、そこはトータルで見てよいのだということであれば、ある程度弾力的な運用ということも考えられるだろうと思う。

○ 被告人に関する刑訴法36条のその他要件は、現在、無制約というか実際にはかなり広くなっている。裁判所にはその他要件の存否を調べることができず、ここで絞ることは非常に難しい。無資力要件をかなり厳格に運用しようということが議論の大勢だとすると、そのようによく分からない、どうにでもなってしまうようなその他要件を残しておくのがよいのかと思う。後で、弁護士会に断られたとか、その疎明をどうするかということが論点として挙げられているが、それも時間的に大丈夫か、短時間のうちにそれだけのことができるかという問題もあるので、その辺りも、被告人の場合と同じように運用していいのか、もっと絞るべきなのかということを検討しておかなければいけないのではないか。

○ 貧困要件だけに限ってしまってはどうか。日弁連において、受任する弁護士がいないということのないようにするとか、常勤弁護士の事務所が私選も受けるということにすれば、その他要件のような問題はクリアできると思う。

ウ 被疑者に対する弁護人の選任手続(たたき台第2、3関係)

(ア) 貧困要件の審査(たたき台第2、3(1)関係)

○ 基本的には、審査資料及びその正確性の担保方法について、いずれもA案でよいのではないか。罰則をどの程度にするかについては、科料か罰金かであろうが、罰金でもいいかと思う。罰金額は、標準の弁護費用が20万円から30万円くらいであるので、その程度かと思う。

○ それぞれA案である。被疑者が自ら弁護人の援助を受けようというのであるから、自分で資力申告書を作ってもらうという話になると思う。虚偽の資力申告書を出されては困るわけであるから、信用性を担保する制度が必要であり、罰則を設けることになると思う。罰則の内容については、少なくとも罰金刑であろうが、懲役刑もあるかと思う。

○ 審査資料についてA案で、その正確性の担保方法についてB案である。全国的に共通の簡単な書式を作り、それに被疑者が記入するという形で資力申告書を作成・提出させるということになろうかと思う。捜査機関が供述調書を作成するものとすると、被疑者の黙秘権との関係からも問題が生じ得ると思う。さらに、弁護士が被疑者の資力申告書の作成を援助することはあっても、弁護士が供述録取書を作成・提出すると、時間がかかる可能性もあり、そこまでの必要はないのではないか。正確性の担保については、費用を負担させることで足りると思う。身体拘束直後の段階で書類の作成・提出を求められるわけであり、必ずしも正確に書くことができない事態も十分に考えられるところであるので、それを罰則で担保しなければならないものかについては疑問がある。

○ 両方ともA案が妥当だと思う。刑法を勉強し始めたばかりの学生に聞けば、これは場合によっては2項詐欺だと言うかもしれず、そういう意味で、これはかなり悪質な犯罪であるという言い方もできないわけではないので、費用負担だけでは十分でないのではないか。刑罰も同じだとは言わないが、被疑者に申告してもらい、虚偽の場合には罰則を設けるのが妥当ではないか。

○ 貧困要件の審査についてはA案でよいと思うが、その正確性の担保方法については、どのような場合に騙そうとしたかという判断が難しいだろう。正確性の担保方法がなくてよいということにはならないとは思うが、罰金だとしても、果たして正確性の担保方法として費用を負担させる場合とそれほど違うことになるかどうかである。罰金か費用かは、実質的なところではそれほど違わないのではないかという感じがする。資力申告が事実に反していたということをどこまで具体的な形で考えるかということによるかもしれないが、B案で特に支障はないのではないか。

○ 報酬を支払う資力があるのに、ないとうそをついて公的弁護を受けた場合、その費用を負担させることは当たり前の話だろう。それだけで正確性が担保できるかというとそうはいかないだろう。だから、罰則が必要なのではないかということである。

○ 審査資料について、A案を基本とすることでよいが、そこに限定する必要はないという気がする。サンクションとの関係で限定するということだとすると、A案になるだろうが、実際の審査の資料としては、捜査機関が作ったものでも構わないし、弁護士が提出したものでも構わないと思う。正確性の担保方法としては、費用負担にいろいろな費用が入るとすれば、場合によっては意味があるかもしれないが、公的弁護人に支払う費用の負担だとすると、ほとんど意味がないので、A案になるだろうと思う。

○ 審査資料について、基本的に被疑者本人に提出させなければ仕方ないと思うので、当然A案が前提となるが、ほかに資料があればそれも資料とできるだろうと思う。その正確性の担保方法については、資力申告書を必ず提出させ、それを基本的なものとする以上は、正確性の担保のために制裁が設けられるのは当然だと思う。罰則の内容としては、懲役刑まではどうかと思われ、今の手続法上、証人に関する罰則などにある罰金又は拘留という程度ならあり得るかと思う。

○ 審査資料については、資力申告書を自ら作成すべきであるというのが基本であり、A案である。ただ、申告の趣旨や基準をよく理解できない者もいるであろうし、申告の趣旨をよく理解させた上で、記載の正確性を確認等することも必要ではないかということも考えると、中立的な立場にある裁判官が勾留質問のときに、資料の提出を受けた上で、そのようなことを行うというのが適当ではないか。

● 結論的に必ず解任されるということにはならないと思うが、資力についてうそをついていることが分かって、要件が欠けることが分かったとき、弁護人は解任されることにならないのだろうか。その場合、どういう理屈でそのまま弁護人にとどまることになるのか御議論いただきたい。

○ 瑕疵ある訴訟行為ではあるが、手続的にいうと、丁寧なものであるので、選任行為が適式に行われた以上は選任の効力は続くものとしてよいのではないか。

□ 被疑者や関係者個人に害が及ぶような瑕疵の場合には、取り消して原状復帰しないといけないが、これは、誤って利益を及ぼしているだけだから、取り消す必要はない、国や資金を出している方には害を及ぼしているが、それについては、取り消すまでもない、ということか。

(イ) 私選弁護人選任申出の前置の要否(その他要件の審査を含む)(たたき台第2、3(2)関係)

○ 手続的要件としての私選弁護人選任申出の前置の要否については、B案だろう。資力がなければ弁護人を付けるが、それ以外のときは弁護士会に選任の申出をすべきである。それがなされたかどうかという審査資料については、弁護士会の方で書面を出してもらうのが最も確実だろうと思うので、A案である。

○ 第1ラウンドの議論では、公的弁護制度の対象事件を逮捕勾留された場合すべてとし、刑訴法78条とは関係なく、公的弁護制度による弁護人選任請求の意向を示した者に対し、当番弁護士と呼ぶかどうかは別として、国費で弁護士を逮捕中に派遣し、派遣された弁護士は、無資力要件の審査を行うほか、刑訴法78条の問題も含めて、基礎的な事項を被疑者に告知するという制度を導入することを考えていた。この制度は、公的弁護制度の運営主体が運営し、費用も運営主体から支給されるというイメージである。

○ 貧困要件審査に関する提案に加えて、手続的要件としての私選弁護人選任申出の前置の要否のところでも、当番弁護士を前置することを考えるということを提案したい。弁護士会を指定して弁護人選任の申出を行うことを要件とするというのは、私選弁護を原則とし、できるだけ私選に誘導するという要請があり、そのような手続的要件により、ある種のスクリーニングをしようとしているのだと思うが、そのスクリーニングの役割は、現在の当番弁護士も十分に果たし得ると思う。それによって、貧困以外のその他の事由に含まれていたもののうち、本来なら私選に流れるべきものが私選に流れていくであろう。そういうことでも、公的弁護制度の一翼を担うに足りるものになり得るのではないか。

○ そのように要件審査のため、又は制度告知のためだけに、公費による当番弁護士制度を設けることにどれだけ合理性があるのか。今回、被疑者に対する公的弁護制度が導入された場合には、当然に告知の制度をつくらなければならないであろう。それ以上に、国費を出して、そのような制度を設ける必要性があるのだろうか。少なくとも、そのような議論は、司法制度改革審議会意見書が言っている裁判所が選任・解任を行う公的弁護制度とは異なる制度である。

○ 司法制度改革審議会意見書も、できるだけ早い段階から被疑者に対する弁護人の援助を保障しようという基本的考え方で、公的弁護制度を考えていると考えられるわけであるし、裁判所が選任・解任をするということを実効的かつ有効に制度として設計していく上で、その前段として、被疑者の資力の問題や弁護の必要性の問題も含め、専門的な弁護士の立場から判断をする、アドバイスをするということを、申出があった被疑者について保障するという制度を設けるということが、トータルな意味で公的弁護制度を運営する上で有効に機能する基盤を提供することになるだろうと思う。

□ 司法制度改革審議会意見書は、貧困等のために自分が弁護人を選任できない者に公的な費用で弁護人を付けるという制度を設けるべきだと言っているのであり、事実上前段階ではあるけれども、請求があれば弁護士が行って法的な助言を与えることを公的費用で保障すべきだということは性質の違う問題ではないかということが問題となると思う。貧困その他の事由によって自ら弁護人を選任できない者に公的費用で弁護人を選任するという制度を動かしていくための機構の一つとして、そういうものを位置付けてつくっていくということが考えられるという意見とは位置付けが違うと思う。

○ そのような議論が当番弁護士に公的支援をしてくれという議論とどこが違うのかということになってくると思う。公的弁護制度との関連性を意味付けていかなければ、ここでの議論に盛り込めないだろうと思う。

● 当番弁護士制度を前置するということになると、その手続を経ないと前に進まないということになるが、それを必須のものとする理屈は何なのかということも問題となると思う。

○ その他要件を設けるとすれば、手続的要件としての私選弁護人選任申出を前置し、選任できなかったという答が返ってきてから公的弁護制度により弁護人を付けるということが当然だと思う。

○ その他要件は残さざるを得ないかと思うが、そのような手続的要件を要求するとなると時間がかかってしまい、それによって何日間か弁護人を付けられない期間が出てくるのではないか。早く弁護人を選任するためには、手続的なものは要求しないでもいいのではないかと思う。

○ A案が、資力要件をクリアした被疑者にも私選弁護人選任の申出を行うことを求めている点はどうかと思う。少なくとも資力がないことがはっきりしている被疑者については、早く弁護人を選任する必要があると思うので、その部分はB案ということになると思う。その他要件について、そういう手続を更に踏ませる必要があるかどうかについては、なかなか結論が出せない。

○ 資力はあるのだけれども、弁護人を依頼しようとしたが駄目だったというためには、それなりの手続を踏むのでなければ国民の納得は得られないと思う。時間がかかるという問題は、態勢の組み方の問題であり、弁護士会が各会員に照会できるような態勢を採っておいてもらえれば、私は公的弁護制度による弁護人の選任の始期について勾留段階と考えているので、それには間に合うと思う。

○ 審査資料のA案を採る場合、どのようなものを考えるのか疑問である。例えば、弁護士が20人から30人という規模の弁護士会ならよいが、大規模な弁護士会ではどうするのか。その意味で、現実性に欠けるような内容ではないか。

○ 日弁連も変わると言っているので、変わるのは間違いないとは思うが、弁護士会に国選弁護の弁護人となる弁護士の推薦を求めても、回答が来るまでに何日かかかるということがあるので、このような手続を設けて、すぐに返事が戻ってくるのかという疑問がある。

○ それは、どこまで確認するかという話だろうと思う。制度的に、例えばその期間に登録している弁護士に見せるとか、掲示板に掲示するなどして、希望者がいないということであれば、それでよいということにすることが考えられる。全会員に連絡するということでは何か月かかるか分からないが、そこは、どこまで手続を踏ませるか、それによって、どの程度選任の正当性を確保するかという程度の問題だと思う。制度の設計の仕方によっては、十分に成り立つだろうと思う。

○ 期間を区切るということも考えられるかもしれない。

(ウ) 選任要件の疎明責任(たたき台第2、3(3)関係)

○ 仮に選任要件の存否不明な場合があるとすれば、被疑者に有利に扱うということにならざるを得ないのではないか。

○ 資力要件については、資力は被疑者本人が最も知っているわけであるから、普通の法律の考え方から言えば、それが疎明できず、存否不明の状態になった場合には、その人に不利に働くというのが筋ではないか。その他要件については、要件としてどういうものを立てるかによるだろうと思う。

○ 資力にしても、手取りで月々いくら入ってくるということが決まっていれば別であろうが、そうでない場合、申告を間違えてしまう、あるいは分からないということもあり得ると思う。そのときに不利益に処置をするということでいいのかというと微妙ではないか。

(エ) 費用の一部の予納(たたき台第2、3(4)関係)

○ 費用の一部を予納させるというアイデアは、飼い犬に餌をやるために国選弁護人を頼もうという人を排除したいということが根底にある。真剣に国選弁護を求める人と、そうでなくて国選弁護を求める人がいるわけで、真剣に求める人をスクリーニングするためには、少しくらい身銭を切ってもらう方がいいのではないかということである。特にその他要件により選任する場合には、資力はあるが、自分が嫌われて弁護人が付いてもらえないということであるので、費用の予納は必須だと思う。また、貧困要件と両立しないかと言うと、本当に何も持っていない人は別だが、多少持っているのであれば、それを出しなさいという話は当然出てくると思う。例えば、30万円は持っていないが、10万円を持っている人に、10万円を出しなさいと言えば、それなら、どうせ認めているし、執行猶予だから自分は国選弁護はいらないという人も結構出てくると思う。このお金は、最終的には国に納めることになると思う。お金を納めない場合、弁護人は付けてもらえないとしないと意味がないと思う。例えば逮捕されたときの所持金の一定割合を納めなさいとすることも考えられるし、3万円という一定額を納めさせるということも考えられる。

○ その他要件のときには、後で回収などで紛争が起こらないよう、基準報酬額全額を先に納めさせるということでよいと思う。無資力要件のときでも、自分で負担できるだけのものは負担してもらい、残りを国費で負担するという考え方もあると思う。

○ 費用が払い込まれないと選任の効力が発生しないという形になると、その時間的余裕があるかどうかが問題だと思う。

○ 技術的な様々な問題が発生するのがどうかと思うし、そもそも公的弁護制度の出発点が、お金のない人に国費で弁護人を付けてあげようということであるのに、悪用する者が多いだろうということや後で払えるのに払わない者がいるということを想定して、予納までさせるのは行き過ぎというか、そのような必要はないのではないか。

エ 関連問題(被告人に対する弁護人の選任要件及び選任手続(たたき台第2、4関係)

○ 在宅で起訴された被告人のような場合に、起訴後、資力申告書を出させるとか、弁護士会に選任申出をするということが必要になると、手続上スムーズに流れるかという感じがするので、被告人段階は、今のままでもよいのではないか。特に必要的弁護事件について、そのようなことが必要だとなると、当日に弁護人がいないので、別の弁護人を選任するということが必要になってくるが、そういうこともできなくなってしまわないかという問題が起こるのではないか。最終的な訴訟費用の負担ということで賄えば足りるのではないか。

○ 必要的弁護事件については、いずれにしても弁護人を選任しないと法廷を開けないわけだから、いろいろな手続を行っても意味がないので、従前どおりでよいと思う。任意的弁護事件については、被疑者段階と被告人段階とを別にすることは理屈が通らないし、国選弁護において、かなり緩やかに選任が行われているとなると、被疑者段階にまで国費が注ぎ込まれるようになったときに、そのような運用に国民の理解が得られるのかという大きな問題があると思う。確かに手続が付加されることになるが、それによって、全体の審理が遅れるというような大きな手続にはならないと思う。告知するだけ、照会するだけの話で、起訴状送達の際に、書類を同封するなど手続のやり方はあると思う。例えば、被疑者段階では、そのようなスクリーニングが行われ、起訴後もその弁護人が付いているけれども、被告人段階では、そのようなスクリーニングが行われないというのではバランスを欠く。やはり任意的弁護事件については、被疑者の場合と同様とするのが妥当ではないか。

○ 必要的弁護事件については、資力審査をしても結局弁護人を付けなければならないので問題にならないと思うが、被告人の国選弁護人選任請求権は、憲法で保障されているものであるのに対し、被疑者に対する公的弁護制度は、憲法の趣旨をより良く実現するための立法政策的な判断の問題であるので、被告人の国選弁護と被疑者の公的弁護との間には違いがあるのではないか。

○ 憲法37条3項は、「被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する」となっていて、かなり広く読み取れる余地があるはずなので、被疑者の場合に絞ったから、被告人の場合も同じように合わせなければいけないということにはならないと思う。被疑者の段階は被疑者の段階として、被告人の段階については、現行のままでよいと思う。

○ 基本的には、被告人段階も被疑者段階に合わせるべきである。問題なのは、被告人国選制度の運用がルーズになっているところであり、憲法との関係が問題になっているわけではないと思う。今ルーズになっているものを本来憲法が想定したような範囲内にとどめるという制度にするため、被疑者段階と統一したものにするということではないか。

(3) 次回以降の予定

次回(5月23日)は、引き続き、公的弁護制度に関する検討を行う予定である。

(以上)