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公的弁護制度検討会(第8回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)

1 日時
平成15年4月1日(火)13:30~17:38

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 井上正仁座長、池田修、浦功、大出良知、酒巻匡、髙井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(事務局) 山崎潮事務局長、大野恒太郎事務局次長、古口章事務局次長、松川忠晴事務局次長、落合義和参事官

4 議題
公的弁護制度について

5 配布資料
資料8-1 公的弁護制度について(1)

6 議事

○井上座長 それでは所定の時刻ですので、第8回公的弁護制度検討会を開会させていただきます。本日も御多忙の折御参集いただきまして、ありがとうございます。
 本日から公的弁護制度に関する第2巡目の議論に入る予定ですけれども、その前に事務局から公的弁護制度について行った意見募集の結果について報告があるということですので、お願いします。

○落合参事官 「被疑者・被告人の公的弁護制度の整備」に関する意見募集を行いました結果の概要を御説明いたします。
 当事務局におきまして、平成15年1月10日から同年3月20日までの期間、「被疑者・被告人の公的弁護制度の整備」に関する意見募集を行いましたところ、国民の皆様から、メール、郵便合わせて150 件の御意見が寄せられました。寄せられた御意見の内容については、現在、取りまとめを行っているところでありまして、次回の検討会にはこれを御報告したいと考えております。20日まで募集を行いました関係上、まだ完全に集計はできておりませんので、次回に資料としてお配りしたいと考えております。
 公的弁護制度全般にわたる意見につきましては、「より早く、この制度を設けるべきだ」等の御意見がありました反面、「被疑者・被告人の公的弁護制度に反対です。税金を悪人のために使うのはおかしい」等の御意見がございました。また、各論的な意見につきましては、寄せられた御意見が多岐の論点にわたっておりますので、ここではとりあえず本日御議論いただく論点に関して、その概況を簡単に御説明いたします。
 まず、第1の論点としまして、被疑者に対する公的弁護制度の対象事件であります。
 この論点のうち、選任請求権を与える事件の範囲につきましては、意見としまして、「重大事件限定反対です」、「一切の刑事事件に適用して欲しいと思います」、「理念としては、身柄拘束を受けたすべての被疑者が対象とされるべきである。弁護士の過疎・偏在等のために公的弁護制度の実施時期において全国的な展開が困難であるとすれば、重大事件等から始めて段階的に広げていくことも検討すべきである」等の御意見が寄せられました。
 次に、職権による選任制度又は必要的選任制度の当否に関しましては、「裁判所が職権で被疑者のために公的弁護人を選任することを可能とする制度の創設も、検討されるべきである」、「法定合議事件あるいは刑罰に死刑を含む犯罪、被疑者が少年の場合には必要的選任制度とする必要がある」、「被疑者から請求がないにもかかわらず、必要的に弁護人を選任する必要がある事件の類型は、特に思い付きません」等の御意見が寄せられました。
 第2の論点は、公的弁護制度の担い手である弁護士の確保方策でございます。
 意見書が例示しております常勤弁護士、契約弁護士に関しましては、意見としまして、「公的弁護制度の担い手となる弁護士は、原則として通常の弁護士として活動する弁護士を前提とすべきである」、「運営主体は、まず公的刑事弁護活動に従事するための一定数の弁護士を確保する必要があると思います。具体的には、運営主体が雇用し、あるいは、契約する弁護士が考えられましょう」等の御意見が寄せられました。
 第3の論点は、私選弁護と公的弁護の関係でございます。
 この点に関しましては、「基本的には私選弁護が原則で、公的弁護は補充的な役割を果たすものと考えるべきである」等の御意見が寄せられました。
 第4の論点は、公的弁護制度下での弁護人の選任要件でございます。
 まず、実体的要件に関しましては、意見として、「公費弁護の対象は年収が所得税が課税される最低額より低い人にすればいい」、「水準は20万以下の生活者です」等の御意見がございました。また、手続的要件に関しましては、意見として、「被疑者が『貧困』であるかどうかについては、収入、資産、負債等から判断をすることになるのでしょうが、被疑者段階の判断となりますから、迅速さが要求されることを忘れてはなりません」、「無資力要件の審査方法として、厳密な審査は困難であるし、まして起訴前の切迫した時期であるから、原則として被疑者本人の申告に基づいて判断すべきである」等の御意見がありました。
 第5の論点は、公的弁護制度下での弁護人の選任の始期及び選任の効力の終期であります。
 まず、公的弁護制度下における被疑者に対する弁護人の選任の始期につきましては、意見として、「逮捕段階で直ちに弁護人が付されるようにする」、「選任講求権の発生する時点は、勾留の段階とすることが相当である」等の御意見がございました。
 次に、公的弁護制度下における弁護人の選任の効力の終期についてでございます。
 まず、公判請求された場合につきましては、「選任の効力が終了しない」とする御意見がございました。略式命令請求がされた場合、公訴提起されずに釈放された場合、家裁送致された場合につきましては、それぞれにつきまして、「選任の効力が終了する」という御意見と「終了しない」という御意見が出されております。
 解任につきましては、「被疑者・被告人による弁護人の解任と弁護人の辞任を認めるべきである。なお、裁判の遅延目的など不当な目的による解任・辞任制度の濫用が懸念される場合は、裁判所が権限の濫用を認定するなど個別の対応を取ることで解決しうる」等の御意見が寄せられています。
 最後に、選任の効力の及ぶ事件の範囲についてですが、「身柄拘束の根拠となった事実ごとに依頼権が与えられ、その事件ごとに弁護人を選任するというのが簡明である」、「数個の身柄拘束が重複して行われる場合は、後の身柄拘束の根拠となった事実についても、先の依頼に基づいて選任された弁護人の選任の効力が及ぶものとすべきであろう」等の御意見がございました。
 今日、御報告申し上げるのは、以上でございますが、今後の検討の御参考にしていただきたいと存じます。
 なお、検討会の委員の方々で、国民の皆様からの意見募集の結果を直接御覧になりたいとの御希望がありましたら、本検討会の終了後など適宜の機会に、事務局の方にお申し付けいただきたいと思います。
 以上でございます。

○井上座長 ありがとうございました。ただいまの事務局の報告について、何か質問等がございましたらどうぞ。よろしいですか。では、また改めてということで。
 それでは、第2ラウンドの議論に入っていきたいと思います。
 前回の検討会における協議により、事務局において各論点ごとに具体的制度設計に向けた議論のたたき台を作成してもらい、それを素材として第2ラウンドの議論を進めていくいうことになったわけです。皆様のお手元に配布されている「公的弁護制度について(1)」という表題のペーパーは、公的弁護制度のうち主に訴訟手続に関する部分のたたき台ということになります。このたたき台の性格について、前回の検討会で協議されたところではありますけれども、再度確認させていただきますと、たたき台には、これまでの議論において、意見の分かれている論点については、複数の選択肢を示すものとするということ、今後の議論における各委員の意見はたたき台に記載されたものに限定されるものでは必ずしもないということの2点が了解事項であったと思います。
 このことを前提にしまして、事務局から、このたたき台について説明をしていただくことにしたいと思います。お願いします。

○落合参事官 それでは、本検討会の第2ラウンドの議論のたたき台として作成いたしました資料8-1「公的弁護制度について(1)」について御説明申し上げます。
 本たたき台は、大きく分けて五つの項目に分かれております。
 第1点目が1ページの「第1 被疑者に対する公的弁護制度の対象事件(身柄拘束の有無による限定)」でございます。
 第2点目が1ページの「第2 請求による選任制度」であり、被疑者に選任請求権を与え、その請求により弁護人を選任する制度の制度設計に関する論点及びこれに関連する論点を取り上げております。
 第3点目が3ページの「第3 職権による選任制度及び必要的選任制度の当否」であり、裁判官の職権により弁護人を選任する制度及び必要的に弁護人を選任する制度を導入することの当否の問題を掲げております。
 第4点目が4ページの「第4 その他弁護人の選任に関する事項」であり、公的弁護制度下における弁護人の選任に関連する論点を取り上げております。
 第5点目が5ページの「第5 公的弁護制度下での弁護人の選任の始期及び選任の効力の終期」であり、公的弁護制度下における被疑者に対する弁護人の選任の始期及び選任の効力の終期に関する論点のほか、選任の効力が及ぶ事件の範囲をも論点としてここに掲げております。
 それでは、1ページに戻っていただき、たたき台の内容につきまして、各項目ごとに御説明させていただきます。しかしながら、議論の進め方の便宜を考えますと、たたき台の全項目につきまして、事務局からまとめて説明するというのではなく、まず事務局からたたき台のうち「第1 被疑者に対する公的弁護制度の対象事件(身柄拘束の有無による限定)」及び「第2 請求による選任制度」について御説明させていただき、続いて第1及び第2について御議論をいただくという形で進め、以下、「第3 職権による選任制度及び必要的選任制度の当否」について事務局の説明及び御議論、「第4 その他弁護人の選任に関する事項」について事務局の説明及び御議論、「第5 公的弁護制度下での弁護人の選任の始期及び選任の効力の終期」について事務局の説明及び御議論という順番で進めてはいかがかと考えております。

○井上座長 今、落合参事官から、本日示していただいた「たたき台」については、最初に一度にすべての項目についてまとめて説明するという方式ではなく、議論の進め方の便宜ということから、項目を区切って説明をし、その区切った項目ごとに議論をしてはどうか。その区切り方としては、たたき台の第1及び第2を一つにまとめて扱う。その後、第3、第4、第5と、ブロックごとに説明をし、それに基づいて議論をする。そのような提案であったわけですが、いかがでしょうか。よろしいですか。
 では、そういう順番でたたき台の説明をしていただき、それに引き続いて、それぞれの項目について議論をしていくということにさせていただきたいと思います。
 それでは、最初に「第1 被疑者に対する公的弁護制度の対象事件(身柄拘束の有無による限定)」及び「第2 請求による選任制度」という項目について説明していただくことにします。お願いします。

○落合参事官 それでは、たたき台のうち第1及び第2について御説明させていただきます。
 まず、「第1 被疑者に対する公的弁護制度の対象事件(身柄拘束の有無による限定)」でございます。
 第1の被疑者に対する公的弁護制度の対象事件(身柄拘束の有無による限定)は、被疑者に対する公的弁護制度の対象事件をどのように考えるかという問題であり、ここでは被疑者に対する公的弁護制度の対象事件は身柄拘束されたものに限るものとするとの案を記載してございます。
 この問題に関しましては、第3回検討会におきまして、選任請求権を与える事件の範囲として、身柄拘束の有無による限定という論点を掲げ、御議論いただいたところでございますが、ここでは請求による選任制度のみならず、職権による選任制度及び必要的選任制度の場合をも含む趣旨で記載させていただいております。これは、第3回検討会の選任請求権を与える事件の範囲についての議論におきまして、身柄拘束された事件に限る方向で委員の御意見が一致しておりましたことに加え、職権による選任制度及び必要的選任制度における議論におきましても、身柄拘束されていない事件を対象とするという御意見は、少なくとも明示的には述べられなかったことを踏まえてのものでございます。
 もとより、身柄拘束されていない被疑者について公的弁護制度の対象とすることを考える必要性がないというものではございませんが、身柄拘束された被疑者と比較した場合には、やはり弁護人を付する必要性において差があることは否めないところであり、そのような必要性の差に着目して、ひとまず被疑者に対する公的弁護制度の対象事件は身柄拘束されたものに限るとの案を掲げたものであります。
 引き続き「第2 請求による選任制度」について御説明申し上げます。
 請求による選任制度は、被疑者に選任請求権を与え、その請求により弁護人を選任する制度であり、ここでは請求による選任制度の制度設計に関する論点とともに、これに関連する論点を取り上げ、大きく分けて四つの項目に整理しております。
 一つ目が「1 被疑者に選任請求権を与える事件の範囲(罪名による限定)」でございます。
 二つ目が「2 被疑者に対する弁護人の選任要件」であり、請求による選任制度における選任要件にかかわる論点を掲げております。
 三つ目が2ページの「3 被疑者に対する弁護人の選任手続」であり、請求による選任制度における選任手続にかかわる論点を掲げております。
 四つ目が3ページの「4 関連問題(被告人に対する弁護人の選任要件及び選任手続)」でございます。
 以下、各項目ごとに御説明申し上げます。
 まず、「1 被疑者に選任請求権を与える事件の範囲(罪名による限定)」についてでございます。
 被疑者に選任請求権を与える事件の範囲について、第1ラウンドでは身柄拘束の有無による限定、罪名による限定、その他という三つの論点を掲げて御検討いただきました。このうち身柄拘束の有無による限定につきましては、先ほどの「第1 被疑者に対する公的弁護制度の対象事件(身柄拘束の有無による限定)」という形で独立の項目としております。また、その他として、罪名以外の切り口による限定の方法をも論点として御議論いただきましたところ、資力要件による限定が考えられるとの御意見が出されました。ただ、本たたき台におきましては、資力要件は選任要件の一つとしての貧困要件という形で整理しております。したがいまして、ここでは被疑者に選任請求権を与える事件の範囲として、罪名による限定のみを論点として掲げさせていただきました。しかし、もとより罪名以外の切り口による限定を否定するという趣旨ではございません。
 罪名による限定につきましては、第3回検討会における御議論を踏まえ、A案としまして、罪名による限定は設けないとの案とともに、B案としまして、罪名による限定を設け、一定の重大事件に限るとの案を記載し、B案について、更に必要的弁護事件に限る案、法定合議事件に限る案、裁判員制度の対象事件に限る案の三つを併記してございます。
 次に、「2 被疑者に対する弁護人の選任要件」についてでございます。
 ここでは、現行の被告人の国選弁護制度に関する刑事訴訟法36条を参考に、被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないこと及び被疑者以外の者が選任した弁護人がないことを要件とするとの案を掲げております。
 まず、貧困要件についてでありますが、このように選任要件を整理した上で、「(1)貧困要件」に関するたたき台としまして、資力に関する明確な基準を定めるとの案を掲げ、これに関連する論点としまして、「ア 資力に関する基準の内容」及び「イ 資力を考慮する者の範囲」という二つの論点を掲げてございます。資力に関する基準の内容としましては、A案として、現金、預金など容易に弁護報酬の支払に充てることが可能な流動性のある資産の総額から、標準的と思われる弁護報酬の金額を支払うことができるかどうかを基準とするとの案、B案として、手取り月収額を基準とするとの案の二つを記載してございます。また、資力を考慮する者の範囲としましては、A案として、被疑者の資力のみを考慮するものとするとの案、B案として、被疑者のほか、一定の範囲の親族の資力も、考慮するものとするとの案の二つを記載してございます。B案につきましては、資力を考慮する親族の範囲を検討する必要がありますので、併せて御意見をいただきたいと存じます。
 次に、「(2)被疑者が貧困以外のその他の事由により弁護人を選任することができないこと」及び「(3)被疑者以外の者が選任した弁護人がないこと」でございます。今申し上げました二つの要件でございますが、選任要件を記載したものでございまして、これらの要件そのものに関しては特に論点は掲げておりません。
 なお、ここに記載した三つの要件の関係でございますが、(1)の貧困要件と(2)のその他要件は、もともと貧困その他の事由により弁護人を選任できないという一つの要件を分けて記載したものですので、貧困要件かその他要件のいずれかが満たされて、(3)の被疑者以外の者が選任した弁護人がないとの要件が満たされれば、選任要件が満たされることとなります。たたき台では、三つの要件を並列した関係で、相互の関係が若干分かりにくくなっていると思われますので、念のため申し上げました。
 次に、「3 被疑者に対する弁護人の選任手続」でございます。
 ここでは、「2 被疑者に対する弁護人の選任要件」に関する議論を踏まえ、そのような要件の審査手続を含め、請求による選任制度における弁護人の選任手続に関連する論点として四つの論点を取り上げております。順に御説明申し上げます。
 まず、「(1)貧困要件の審査」でございます。
 ここには、「ア 審査資料」及び「イ その正確性の担保方法」の二つの論点を掲げております。「ア 審査資料」に関しましては、A案として、被疑者に資力申告書を作成・提出させるとの案、B案として、捜査機関が被疑者から資力を聴取して供述調書を作成するとの案、C案として、弁護士が被疑者から資力を聴取して供述録取書を作成・提出するとの案の三つを併記してございます。また、「イ その正確性の担保方法」に関しましては、A案として、虚偽の資力申告書の提出に対し、罰則を設けるとの案、B案として、被疑者の資力申告が事実に反していた場合には、費用を負担させるとの案の二つを記載してございます。A案につきましては、罰則の内容につきましても、併せて御意見をいただきたいと存じます。
 次に、「(2)私選弁護人選任申出の前置の要否(その他要件の審査を含む)」でございます。
 私選弁護人選任申出の前置の要否(その他要件の審査を含む)につきましては、第4回検討会におきまして、弁護人の選任に当たり、まず弁護士会に私選弁護人の選任を依頼させてはどうかとの御意見が述べられたことや、当番弁護士との接見を公的弁護制度による弁護人の選任に前置するとの御意見が述べられたことを踏まえたものでございます。そのような御意見を現行法上の仕組みとして位置付けるとしますと、刑事訴訟法78条におきまして、被告人は弁護士会等を指定して、私選弁護人の選任を申し出ることができるとされており、これが刑事訴訟法207 条等を通じまして、捜査段階に準用されていると解されますので、請求による選任制度における手続的要件として、刑訴法78条による私選弁護人選任申出の前置を要するとすることが考えられると思われます。また、そのような仕組みにより、貧困以外のその他の事由により弁護士を選任できないと言えるかどうかというその他要件の審査を行うとの考え方もあり得ることから、括弧書きとして、その他要件の審査を含む旨を記載しているものでございます。
 これに関しましては、「ア 手続的要件としての私選弁護人選任申出の前置の要否」及び「イ 審査資料」の二つの論点を掲げてございます。手続的要件としての私選弁護人選任申出の前置の要否としましては、三つを併記しておりまして、このうちA案及びB案は、私選弁護人選任申出の前置を手続的要件とするという点で共通しております。ただ、A案は資力の有無にかかわらずそのような手続の前置を要するという案であるのに対し、B案は資力がない者には、そのような申出を要しないものとするという案でございます。また、審査資料としましては、A案として、弁護士会又は弁護士会を代表して接見した弁護士におきまして、選任の依頼があったが、当該弁護士会においては受任する弁護士がなかった旨を明らかにする書面を作成・提出するとの案、B案として、被疑者の申告によるとの案の二つを記載してございます。
 次に、「(3)選任要件の疎明責任」でございます。
 選任要件の疎明責任につきましては、第4回検討会などにおきまして、選任要件の存否不明の場合の取扱いについてどのようにすべきかという問題提起がなされたことを踏まえたものでございます。
 次に、「(4)費用の一部の予納」でございます。
 費用の一部の予納は、第4回検討会におきまして、そのようなアイデアが出されたところでございます。たたき台では、弁護人を選任する段階で、ある程度の資力のある被疑者には、費用の一部を予納させるものとするかという問題提起を行っておりますが、そのような制度を導入する場合には、予納を命ずる要件及び手続、予納すべき金額の定め方、予納金の受入機関、予納がなされない場合の取扱い、手続終結時の予納金の取扱いなども問題となりますので、そのような問題についても併せて御意見をいただきたいと存じます。
 「4 関連問題(被告人に対する弁護人の選任要件及び選任手続)」について御説明申し上げます。
 この論点は、第7回検討会のヒアリングにおきまして、被告人に対する国選弁護人の選任要件についても見直しを行うべきであるとの意見が述べられたことから、関連問題として取り上げたものでございます。
 まず、「(1)任意的弁護事件」でございますが、任意的弁護事件につきましては、任意的弁護事件における被告人に対する国選弁護人の選任要件及び選任手続について、被疑者の場合と同様とするかという論点を掲げてございます。この問題につきましては、被疑者の場合と同様とするかどうかという問題と併せて、被疑者の場合と被告人の場合とで異なる取扱いをすべき点はないかということにも目配りして御議論をお願いしたいと存じます。次に、「(2)必要的弁護事件」でございますが、必要的弁護事件につきましては、選任要件の審査を行いましても、弁護人がいなければ国選弁護人を付さなければならず、選任要件を審査する意義が乏しいとの考え方もあり得ることから、必要的弁護事件における被告人に対する国選弁護人の選任要件及び選任手続について、どのように考えるかという問題提起にとどめております。
 たたき台のうち第1及び第2についての御説明は、以上でございます。

○井上座長 ありがとうございました。これからの議論の進め方なのですけれども、進行の都合上、今、説明していただいたたたき台の項目の順に沿って議論を進めていくのが良いのではないかと思います。また、たたき台の趣旨については、先ほど確認させていただいたとおりですので、それを踏まえて活発に御発言いただければと思います。
 まず、「第1 被疑者に対する公的弁護制度の対象事件」の部分から議論を始めたいと思いますけれども、たたき台では、被疑者に対する公的弁護制度の対象事件は身柄拘束されたものに限るものとするとなっております。この点に関しましては、今、落合参事官から御説明があったとおり、第1ラウンドの議論では特段の異論はなかったような印象を受けておりますけれども、いかがでしょうか。特に御異論がなければ、そういうことを前提にして、先に進みたいと思いますけれども。
 それでは、次の「第2 請求による選任制度」について御議論いただきたいと思います。このうち、まず、「1 被疑者に選任請求権を与える事件の範囲(罪名による限定)」というところについて御意見を伺いたいと思います。どなたからでも結構です。

○髙井委員 一巡目の議論でも申し上げたと思うのですが、私は罪名による限定は設けないというのが妥当だと思います。私は、痴漢事件のえん罪問題にも関係しておりますが、無罪かもしれない、あるいは起訴されてはいけない者が起訴されてしまうということは、罪名いかんに関係なく起こり得る問題であるわけです。確かに罪名が重い方が無実の者が起訴されたときのダメージは大きいということは当然言えるのですが、罪名が軽ければいいのかというと、痴漢の事件を見ていても、法定刑から見ると非常に軽い事件ではありますが、それによって受けるダメージというのは極めて重いものがあって、仮にそれで無罪になってもなかなか元の社会的地位を回復するということはできない状況なのです。そういうことを考えると、罪名の軽重によって公的弁護を付ける付けないを区別することは、極めて不当であるということで、私は制限を設けないという説を強く主張したいと思います。

○井上座長 ありがとうございました。いかがでしょうか。

○浦委員 私も同意見です。これは今回の意見書の趣旨を見ましても、司法制度改革審議会の意見書は、刑事司法の公正さの確保という点からは、被疑者・被告人の権利を適切に保護することが肝要であるが、そのために格別重要な意味を持つのが、弁護人の援助を受ける権利を実効的に担保することであると、高らかにうたっておるわけであります。この趣旨は、憲法34条、37条に基づく被疑者・被告人の弁護人の援助を受ける権利を担保するために、公的弁護制度を導入しようとするものであるということは明らかでありますし、この公的弁護制度導入の意義に照らしましても、この意見書自体その対象事件の範囲というのは広く考えておったはずだと私は思っております。そういう点からしましても、意見書の趣旨を実現するというこの司法制度改革推進本部の立場から考えましても、対象事件に罪名による限定を付することは、意見書の趣旨とは相容れないものがあるのではないかと考えます。同様に、今、髙井委員が言われたのと同様に、罪名の軽重によって弁護の必要性に差はないということは、極めて明白なことでありますので、この点でも罪名による限定をすべきではないと考えております。

○本田委員 髙井委員、浦委員がおっしゃったように、身柄拘束をした全事件に公的弁護を導入するということ自体を駄目だという気持ちは全くないのですけれども、現実にこの制度を立ち上げて動くようにする場合に、果たして全事件として、最初から制度が動くのだろうかという疑問があるわけです。理想的には全事件とすることについて何ら私も異論はございませんけれども、これまでの検討会でいろいろ資料が配られています。例えば、日弁連の試案の中で全身柄拘束事件の75パーセントに公的弁護を付けようとする場合には、当番弁護士に登録している弁護士が年間被疑者弁護を10件受任したとしても、更に年間100 件を受任する刑事専門弁護士が230 人必要だという数字が出されていました。それから、これは第3回だったと思いますけれども、日弁連のアンケート調査結果がございまして、勾留請求事件の3割の事件を対象事件と限定して考えたとしても、30パーセントの地区では対応が困難又は不可能という回答が確か出ていたと記憶しております。
 現在、公判段階で約70パーセントが国選弁護の対象事件となっていると思うのですけれども、そうすると、この30パーセントという前提自体が若干低過ぎるのではないかと思うわけです。そうすると、弁護士の偏在という問題もございますし、そういうことから考えると、どうしても本当に全事件、確か13万件くらいになると思うのですけれども、全部とは言いませんけれども、相当大きな数字になって制度が動かないのではないかという気がしてしようがないのです。そういった対応能力、それから国民の税金を投入する制度だということで国民の理解も得なければいけないという点も考慮すべきだろう。そうすると、どうしても限定せざるを得ないのかなという気がします。そうでないと、そういう態勢が整備するまでこの制度はつくったとしても動かせないということになるわけです。
 どうしてもそういった現実に動く制度にするという観点から限定が必要だということになると、国選弁護の必要性が高いというのは、重大事件という切り口にせざるを得ないのかなと。個々の事件ごとに内容を見て、重大かどうかを判断するというわけにもいきませんから、これまでの資料等を見てみますと、やはり法定刑で分けるという考えに立たざるを得ないのだろうと思います。そういう観点から見ると、やはり法定合議事件辺りが一番現実的な線ではなかろうかなという気がいたします。

○井上座長 ほかの方、いかがでしょうか。

○大出委員 75パーセントという日弁連の想定自体を前提としたシミュレーションとなってきたときには、本田委員御指摘の危惧が現実に存在するということはあり得ると思うのです。
 ただ、問題は、75パーセントという想定自体が果たして妥当な想定なのかどうかという問題があると思うわけでありまして、いずれにせよ、13万件としたところで、すべてが公的弁護の対象となってくるわけではないわけです。それは本田委員も当然お考えでいらっしゃると思いますから、拘束される人員がそれだけということになるわけですから、公的な費用で賄うべきものが、それを日弁連は75パーセントとお考えだと思うのですが、私はもう少し現実的にシミュレートしてみる必要がある問題だろうと思っているわけですし、後で議論になることだと思いますが、それを弁護の立場から振り分けるということも決して不可能ではないだろうと考えておりますので、そういうことで行くならば、現実にどの程度必要性が出てくるのかということについて、必ずしも明確な形で統計的な根拠があるとも思えない段階で、重大事件に法定刑ということで絞るということ自体に合理性があるのかどうか。本田委員の御懸念は、御懸念として分かりますけれども、果たしてそれだけで本田委員も指摘されているように、全事件とすることの必要性を否定するだけの十分な根拠たり得るのかどうかというところでは、まだ明確ではないのではないかという感じがするのです。
 確かに、日弁連サイドに、ヒアリングのときにも私の方からもお尋ねしたと思うのですが、その後、具体的な対応態勢についてどういう検討がされているのか、具体的にどういう状況にあるのか、弁護士会の方としてどういうおつもりでいらっしゃるのか、もし可能であれば、その辺を聞いていただくということが必要だと思うのです。

○井上座長 御意見を聞いていて、1点よく分からなかったのですけれども、「振り分け」というのはどういうことでしょうか。

○大出委員 先ほどちょっと説明もありましたけれども、当番弁護士的なものを前置するということで、全事件について、例えば私選に回る事件、特にその後の対応を必要としない、つまり公費で対応する必要がないということ等についての振り分けができれば、75パーセントという数字自体は必ずしも前提にならないのではないかと思うのです。

○井上座長 これまでの検討会の印象ですと、大出委員は、75パーセントでも低過ぎるとお考えのような感じを持っていたのですけれども。

○大出委員 私は全事件に当番弁護士的な対応ができればいいという意見ですから、被疑者段階で、拘束された場合に100 パーセントに近い、ほとんど100 パーセント、弁護人がともかく行くという前提が取れればということですから、それ自体は私は不可能ではないだろうと思っています。

○井上座長 そういう御意見だということですね。ほかの方いかがですか。

○髙井委員 罪名による限定を設けないと言った場合には、当然本田委員が言われたように、予算の問題、人的な問題が提起されるということは予想されるところなのですが、後から出てきます貧困要件を厳しくするということによって、数がむやみに増えるということを防ぐというのが本来の在り方ではないかと思うのです。法定刑は重いけれども、実際は金がある、金があるのだけれども、ないと称して国選を付けてもらっているというような人が片やいて、片や仮に無実で痴漢で捕まった、弁護士を頼みたいのだけれども、金もないというのがいて、彼には公的弁護は付かないというのは社会的に見て不合理だと言わざるを得ないと思うのです。ですから、そういうような状況が起きないようにするためには、貧困要件を厳しくして、それで数の制限をするというのが、制度のつくり方としては正しいやり方ではないのかと思います。
 もう一つ、弁護士過疎のところが問題になろうかと思うのですが、この点については、従来の日弁連の統計等を材料にして本田委員は懸念を表明されているわけですけれども、従来の日弁連のアンケートというのは、要するに、刑事事件は不採算部門であるということを皆さんが前提にしているのです。ですから、なかなか参入する人がいなくて駄目だということになっているわけで、今度つくられる公的弁護というものが、弁護士から見て、それなりのやりがいのある仕事だというような形できちっとつくられて行けば、アンケートでは私は参加しませんよと言っていた人も参加してくるというふうに思われるのです。特に常勤事務所のつくり方をどうするかによっては、常勤弁護士に手を挙げる人も相当数増えてくるのだろうと思うのです。それやこれやを考え、さらに、日弁連の方からは全件付けろということを常に言っているわけですから、仮に罪名で区別しませんという制度ができました、でも、日弁連では対応できませんと言えば、それは日弁連の鼎の軽重を問われるというか、存在意義を問われるわけですから、なってしまえば死に物狂いで日弁連はやると思うのです。やらなかったら、それは、やらなかったで叱ってやればいいわけです。
 そういうことを考えると、日本の常として、いったん制度というのはつくってしまうと、それで固定化される。機動的に、柔軟に制度が変更されていくということは、なかなか難しい社会ですから、最初につくるときにきっちりした制度でないとなかなか不合理な点を将来解消するということはできないと思うのです。ですから、できる限り不合理な点が少なくする制度をつくるという観点からは、貧困要件で制限し、常勤事務所の在り方を魅力的なものにするということで数を確保するという方向で制度を考えていくというのが王道だろうと思うのです。以上です。

○井上座長 やりがいのある制度というのは、前におっしゃっていたように、報酬を上げるということですか。

○髙井委員 当然経済的にも納得できる、単にボランティアでやりなさいよというものではなくて、きちっとした経済ベースに乗る報酬が支給されるということも当然です。
 それから、常勤事務所に入ったら、刑事馬鹿になってしまう、それ以外の事件ができない弁護士になってしまうという制度であれば、なかなか常勤事務所に手を挙げる人は少なくなるわけですから、常勤事務所に入っても、民事もできるという幅の広い事務所構想にすれば、それなりに手を挙げる人は増えるだろうと思います。

○井上座長 第1点の貧困要件を厳しくするということなのですが、今、公判段階で弁護人の付いているものの中で国選は70パーセントくらいですね。その中には、貧困要件で厳しく絞っていったら付けるべきでないものにもかなり多く付いているという感覚ですか。

○髙井委員 感覚的にはそうです。

○井上座長 日弁連の先ほどの意見で75パーセントというのは、現状が70パーセントなのだけれども、こういう制度をつくったらもっと請求が増えるだろうということを前提にして75パーセントという数字を出されているのですけれども、それよりはずっと低いだろうということですか。

○髙井委員 そうです。手を挙げても貧困要件を厳しく査定するようにすれば、そこではねるということになる例がかなり増えるだろう。今は、金は幾らでもあるのだけれども、どっちみち認めている事件だし、国選を付けてもらえるのだったら付けてもらおうかなと。知った弁護士がいませんと言うと、大体国選が付いてしまうわけです。だから、国選を頼んでいる。自分の金で国選を頼みなさいよということになればですね、仮に、国選を頼む場合でも多少の金は要るのですよというふうな制度になれば、だったら私は弁護士なしでもいいですという事件も結構あると思うのです。

○井上座長 13万件のうちの日弁連の試算の75パーセントといいますと9万7,000件から9万8,000件だと思うのですけれども、髙井委員の試算ですと、どのくらいなら対応能力があるというふうに思われますか。

○髙井委員 試算はしていないので、回答する答えを持っていません。

○井上座長 いけるのではないかと弁護士会が言っている以上は、死に物狂いでやるだろうと、そういうことですか。

○髙井委員 そうです。

○大出委員 髙井委員の感覚と浦委員の感覚、両方とも聞いてみないと。

○浦委員 確かに本田委員や座長もおっしゃったように、先に日弁連の方は、被告人の国選弁護率を根拠に、被疑者の75パーセントに対応するというシミュレートを提出しております。
 この5月8日に、日弁連は、国選弁護シンポジウムを開催するということで、再度この点の対応能力について細かい点検をしておるところです。これにつきましては、これまでの論議の経過の中では、国選弁護人は請求にかからしめる。さらに、今、髙井委員がおっしゃった資力要件の問題、どの程度厳格にするか、これまた議論があるのですけれども、資力要件を設定する。更に先ほど大出委員も言われました日弁連が言っております国費による当番弁護士制度を前置する。そういうことによって対象事件数は、75パーセントより相当程度下回ることになるのではないか。議論の中では大体40から50パーセントくらいになる可能性も十分考えられるであろうとされています。そうしますと、現段階で当番弁護士は、既に逮捕者数の約40パーセントに対応しております。もちろん受任率は、20パーセント程度ではあるのですが、他方で弁護士人口も増加しますし、弁護士偏在問題につきましては、公設事務所も設置される。さらに、弁護人の活動態勢の整備の問題としても、刑事専門弁護士も構想されておる。これらが実現すれば対応能力も伸びて、受任率を大幅に上げることは可能になるのではないか。更に対応能力の関係で言えば、これはこれまで全く議論されていない点でありますけれども、例えば電話による接見という制度も考えてみたらどうだと。これはかつて警察庁との間で論議させていただいて、そのままになっておるわけですけれども、そういうことも考えられるのではないか。幾つかの工夫すべき問題は残ってはおりますが、今述べたようなことから言えば、対応も十分可能ではないのかということで議論しているところです。
 この点で、新刑訴法によって現在の被告人国選弁護制度が実施されることになったわけでありますけれども、新刑訴法制定に当たって、旧刑訴法では必要的弁護事件の範囲は今の法定合議事件であったのですが、それが新刑訴法下では、現在の必要的弁護事件、長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件というふうに変わりました。その過程で一挙に国選弁護の対象事件は増えたわけですが、その際にも弁護士の対応能力について憂慮されておったわけです。当時は弁護士の数は6,319 人、事件数としては11万2,772 人の被告人に対応する。そのような被告人数に弁護士は、実際に対応できるのかということが、国会で論議されたのですが、その際答弁に立たれた法務省の担当の方は、弁護士1人当たりが17.8人の被告人を担当すればいいので、それは運用上不可能ではないのだということをそこで言われました。実際に被告人段階の国選弁護制度は、その後現在まで大きな遺漏もなく運用されてきているという実績もございます。
 そういうことからいたしますと、現在では逮捕者数と比較しましても、弁護士1人当たりの数から言えば1人6件やればいいという、数字上はそういうことになるわけで、国会で答弁されても決して不可能ではないということになるのではないかと私は思っております。

○井上座長 今6件と言われたのは、何を根拠に言われたのですか。

○浦委員 全弁護士です。2万人の弁護士が13万件に対応するとすればということです。

○井上座長 全員がやれば、ということですね。日弁連の前の御意見では、当番弁護士に登録している人を対象にして1人10件ということでしたが。

○浦委員 それをもっと増やすことも不可能ではないだろうと思います。

○井上座長 分かりました。先ほど11万件と言われたのは、必要的弁護事件の数ですか。

○浦委員 当時、必要的弁護事件は、被告人数で11万2,772 人というふうに資料では出ております。

○井上座長 分かりました。浦委員はそういう御意見ですけれども、ほかの方はいかがですか。

○酒巻委員 私は、対象範囲を罪名により一定の重大事件にするという形で限定を設けた方が、立法政策としては現実的であろうと考えております。
 先ほど来、皆さんの議論に出ていましたとおり、弁護の必要性、特にお金のない人にも区別無く弁護人が付けられるようにするという観点を広くとらえて行けば、身柄を拘束された人全員というのが一つの筋であるということは私もよく分かるところでありますし、それが理想型だと思います。先ほど髙井委員は、その理想を掲げて制度をつくる場合に、弁護士会の鼎の軽重が問われて、万が一できなかった場合には非難されてしかるべきだと言われました。私も理想型を主張しながら弁護士会がもし対応できなかった場合は、髙井委員のおっしゃったとおりだと思います。しかし、本田委員が言われましたとおり、駄目だったら、それでこの制度は潰れるというのではどうにもならない。現実に、そして、それなりの具体的な見通しを持って確実に動く制度を構想するということが、立法政策上の判断として重要な考慮要因だと思うわけです。
 そうしますと、後はほとんど本田委員がおっしゃったことと同じ内容ですから繰り返しませんが、今、いろんな数字が出ましたけれども、確実に全身柄拘束被疑者について、請求権を与えて対応できるだけの人的な基盤があるかと言えば、非常に不安を感じざるを得ないところがあります。そのような点も考慮しますと、立法政策的には、確実な対応能力という要素も重視して、対象事件を一定範囲に限定する方が適切であろうと思います。そして、何らかの限定をするとすれば、弁護の必要性という観点からは、結果が重大になる可能性が高いという意味で、法定刑が重い一定範囲の事件という切り分けがあり得るであろうと考えています。
 なお、先ほど浦委員は、新刑訴法ができたときの必要的弁護事件の拡大に伴う事柄を御説明になりましたけれども、被疑者弁護の場合は、被告人の国選弁護といろいろ違うところがあり、取り分け身柄を拘束された段階では、迅速にまず弁護士さんが赴いて種々対応しなければいけないという点で、被告人の国選とは事情の違うところもあります。このような迅速な対応の必要性を考え、また、先ほど出ていた全国の弁護士の偏在問題等も考えますと、やはり確実に動いていく制度にするためには、一定の限定は必要であろうと考える次第です。

○樋口委員 まず、とにかく全身柄事件という意見は多分ないのだろうと思います。そうした場合に、先ほども意見が出ておりましたけれども、選任要件で対象事件をどう絞るかといったこととセットでどう機能するかということは多分あるのだろうと思いますが、これも第1ラウンドで随分出た議論でもあると思いますが、なかなかこの選任要件というのは、実務で選任要件による限定を担保することは極めて難しいと、この認識も共有のところであろうと思います。実態はそれほど甘くはないということであろうと思います。
 ということからしますと、対象事件について客観的な基準を設けるべきだろうということになろうかと思いますけれども、だとした場合に、では、対象事件を何で仕切るかということなのですが、法定刑で見て重大事件というのが極めて常識に合致するのではないかということからしますと、提示された選択肢のたたき台の案の中で行けば、法定刑で見てこういったものということで、法定合議事件というのがその中でも最も近い感じなのかなという意見でございます。

○池田委員 罪名による限定を設けず、すべての身柄事件に、というのは分かるわけで、そこを目指すことには異論はないわけです。また、選任要件、無資力要件で制限する、そちら側がきちっとできれば、確かに公的資金を導入することに問題ないわけですけれども、その無資力要件以外にも、若干選任請求ができる範囲が残るのではないか。今回のたたき台にもその他の場合というのがありますけれども、そういうものは残らないか。それと、無資力要件を余りにもきちっとやろうとすると、今度はその資料が出るまでの時間的な問題ですとか、そういうものもあって、そこできちっと区分けするというのは、非常に難しくないかという問題があると思います。
 そういうことからすると、ある程度事件の範囲を制限せざるを得ないのではないかというのが現在の認識です。その場合に、どこまで、あるいは、どういうやり方で制限するかという問題があるわけですが、法定合議となると、今は件数がかなり少ないように思いますので、そこまで絞るのはどうかなと思いますけれども、一定の罪名なりで重大な事案に限定するというのは、当面はやむを得ないのかなと思います。それによって、公的資金を投入することに国民の理解が得られれば、対象事件の範囲を広げていくということは十分可能なのではないかと思います。

○井上座長 法定合議の身柄事件が大体6,000 件だと思うのですけれども、それで75パーセントを掛ければ4,500 件とか、5,000 件をちょっと下回る数で、もっと厳しくということになればもっと削られるのでしょうけれども、そういう数字だとちょっと少ないなということですか。

○池田委員 そう思いますけれども。

○井上座長 どのくらいの数字だと適正だと思いますか。

○池田委員 そこは弁護士会の対応能力と絡んでいますので、私も分からないところがあるのですが、勾留質問などをしていて、実際に法定合議事件以外でも、弁護人がいた方がいいのではないかなと思う事件もありますので、その辺りはどういうふうにしてそれを取り込んでいくかというのは難しい問題だと思うのです。

○平良木委員 私も理想の形を言えば、罪名による限定を設けないで、全部の事件に付けるのがいいだろうということになると思いますけれども、現実の問題として、どこかで絞りをかけなければいけないということになると、今まで挙がっていたところで言うと、罪名による限定かあるいは貧困要件による限定かということになるだろうと思うのです。その場合に、今まで出ていたように、貧困要件を厳しくすることは難しい。また、重い事件であればあるほど遺漏ないように手続を丁寧にしなければならないという要請があるはずなので、むしろここに重点を置くということを考えるべきだろう。そう考えると、やはり法定合議事件、これは今、池田委員が言われたように、ここで区切るとすると、少し事件が少な過ぎるかなという感じがするのですけれども、結局、法定刑が重いか軽いかということによって限定をしていかざるを得ないのではないかと思っています。

○土屋委員 私は既に3回目のところで全事件対象という意見を言っていますので、繰り返すことはないと思っておりますが、罪種で絞るという考え方と、選任要件で絞るという考え方は、基本的に性質が違う考え方ではないかなという気がしています。つまり、貧困要件だとか、そういう選任要件で絞るというのは一種の量的な調整です。基準を上げ下げすることによって入ってくる量が違ってくるという考え方ですけれども、罪種によって切るというのは、言わば対象を切り分けるわけでありまして、結果的な効果としては同じなのでしょうけれども、考え方としては、やはり質が違う考え方かなと私は思っています。
 ちょっと理想論を言うことになってしまいますけれども、私も、実際、弁護士会の対応能力については、非常に心配しておりまして、これが実際動くかどうかというのは本当に心配なのですけれども、そこはどのような制度であっても、財政的な制限の範囲内で動かすということにならざるを得ない部分があるのだろうと思うのです。他方で、この制度で大事なのは、最初から対象にならないという人がいないことだろうと私は思うのです。つまり、どのような人でも弁護士が付いた形で裁判を受けられるということが大事なのだろうと。それは甘っちょろい理想論だと言われるかもしれませんけれども、そのためにこそこの制度をつくるんだというふうに私は思うのです。少なくとも罪種によって、これは対象にならないからお前は公費による弁護が受けられないんだという仕組みにはしないでほしいと私は思っております。
 対応能力の問題というのは、言わば鶏と卵の関係みたいなところがあるのだろうと思うのです。先ほど髙井委員が言われましたけれども、制度が魅力的なものとして設計されて動き出して行けば、そこで仕事をしていこうという弁護士さんも増えていくでしょうし、そういうものとしてつくることによって、鶏と卵の関係みたいにふくらんでくる部分があるのだろうと思います。また、楽観論を言ってしまいますけれども、将来的な発展性みたいなものというのは、罪種で切ってしまったら私は生まれないのだろうと思います。それは、いろんな貧困その他の要件というところでもって量的な調整が必要ならばするという方が、将来的な発展性もある制度になるのではないかと私は思います。

○井上座長 そうすると、貧困要件の基準は、政策的に上げ下げしてよいというお考えなのですか。

○土屋委員 ある程度財政の問題だってありますので、しようがない部分もあるのではないかなという気がします。

○井上座長 私の感じでは、他の委員は、基準の上げ下げというよりは、貧困要件という本来在るべきものがあって、それを今よりもっと厳しく適用せよというお考えかと思ったのですけれども、土屋委員の方は、貧困要件の基準のところで調整すべきだと。

○土屋委員 調整できるんじゃないかと思ったのです。

○本田委員 いろんな御意見が出ていて、貧困要件で絞ったり、制度として立ち上げれば何とかうまくいくんじゃないかという御意見もある。確かにそういう要素があることはあると思うのです。ただ、それで全事件として最初からスタートしたときに確実に動くのか、万が一、対応できない部分が出てきた場合にいったいどうなるんだろう。公的弁護を受ける権利のある被疑者が実際に弁護を受けられない、弁護士さんがいませんでは、その事件について捜査はできないのか。現に大きな事件が起きて、被害者がいて、目の前に被疑者がいるのに、弁護人が付けられないから逮捕もできない、捜査もできないという状況になるのか。そういう場合は、無視してやっていいんだ、逮捕してもいいんだというのは、乱暴な議論だろうと思うのです。
 私が心配しているのは、だから、最初はきちっと対応できるところから始めてください、そうでないと、とんでもない混乱が生ずるんじゃないでしょうかということなのです。いろんな要素で多分できるでしょうと。確かに、そういう要素を全く私は否定しませんけれども、少なくとも制度として立ち上げるときは、確実なところから始めないと大混乱になってしまうという気がします。

○髙井委員 では、確実に動くかという基準で言いますと、法定合議以上にしたら確実に動くのかというと、それはまた制度のつくり方であって、魅力のない制度であれば、法定合議に限ったとしても、確実に動かないという可能性は十分にある。そういう意味では、乱暴な言い方をしてしまうと、確実性の論議をするんだったら、五十歩百歩じゃないか。

○井上座長 法定合議事件について言えば、さっき言いましたように4,500 件くらい。今でも当番弁護士が付いて、そこから受任をしたのは9,000 件くらいでしょうか。

○浦委員 当番弁護士の受任事件は、平成14年の段階で1万件を超えました。

○井上座長 そのうち純粋な意味での私選を除けば6,000 件を超えていると思うのですが。

○浦委員 そうですね。被疑者援助制度の利用件数は6,300 件です。

○井上座長 ですから、少なくともその範囲では動くのではないですか。

○髙井委員 でも、それも見込みですね。しかも、それは被告人国選ですね。

○井上座長 被疑者弁護援助制度により、弁護人が付いているのが、6,000 件を超えているということです。

○髙井委員 そうすると、確実性はより近いということは言えるかもしれませんね。

○井上座長 より近いというか、逆に、全事件にするともっと苦しいということになるのではないでしょうか。

○髙井委員 私が全件にこだわるのは、軽い事件は、そのために手ぬかりが起きる場合が結構あるわけです。重い事件は、それは捜査側も一生懸命やりますから、余り失敗やミスは起きない。でも、軽い事件は、捜査の基本を外してやるということも結構あるわけで、それは最近、痴漢の無罪事件が頻発しているという現状を見ればはっきりしていることなのです。ですから、軽い事件だからいいということには、絶対ならないと思うのです。だから、軽い事件だから弁護士は要らないという考え方自体が今の捜査構造を見誤っているし、本質的な弁護の必要性というものを理解していないと思うのです。ですから、全件に非常にこだわっているわけです。
 ただし、それは本田委員の言われるように、人的な限界があり、資金的な限界があることは当然認めるわけですけれども、それを前提にしても、軽い事件は弁護士は要りませんよということには絶対ならないし、してはいけないと思っているわけです。
 そういう前提で、なおかつ、数を制限するとなると、ここでは取り上げられていませんけれども、法定合議だとかいう切り方ではなくて、もっと個別の罪名で切れないかということも考える必要はあると思うのです。例えば、薬物事犯の件数は、結構多いわけですけれども、これを全部除くと何件になるか分かりませんけれども、薬物事犯というのは、基本的には組織的な事件が多い、それから、自己使用している人たちは高い金で買っているわけですから、金もあるでしょうというわけです。そういう意味では、原則は全件としておきながら、そこから薬物違反は除くとか、これは思い付きで言っているわけですけれども、窃盗事件については除くとか、そういう何らかの切り口で個別の罪名で切っていって、件数を少なくすることはできないのかということも考える価値はあるのではないか。件数を少なくする場合には、必ず法定合議だとか、そういうような基準で切るだけが能じゃないだろうと思います。

○井上座長 基準としては、相対的な問題ですけれども、もし制限するとすれば、類型的に弁護人を付ける必要性が相対的に低いというものを選び出すべきだというお考えですか。

○髙井委員 はい。

○大出委員 前半は、さすが検察官経験のある弁護士、髙井委員のおっしゃることだと伺っていたのですが、後半のお話で、本当にそこを分けることができるのかどうか。私の知る限りでも、薬物事犯で問題になる事件というのは、かなり厄介な問題があることは間違いないわけで、そんな簡単に切れるだろうとは、私は到底思えないので、その御意見には賛成しかねるということにならざるを得ません。
 先ほど来、話を伺っていて繰り返しになる部分もありますけれども、やはり一番の問題は、もちろん財政的な枠の問題というのが当然引っかかってくるにしてみても、皆さんの御心配は、対応態勢の問題なのだろうと思うのです。この点は私も全く不安がないということを申し上げるつもりはないわけで、ただ、日弁連はやるというふうにおっしゃっているわけですから、その点についての現実的な可能性についてもう少しちゃんと議論をしてみたら、水掛け論になる部分があることは間違いないだろうと思いますけれども、やはり私などが見てきた感覚からしますと、当番弁護士が発足した時点で、果たしてここまでちゃんとやれるのかとお考えになったのだろうと思うのです。福岡で始まったわけですが、大分が初めだと言えばそのとおりですが、無謀なことを始めたという意見の方が、むしろあの段階では多かったんだろうと思うのです。しかし、2年間で全国化したわけで、これを2年間で全国化するというふうに思った研究者は多分いなかったんだろうと私は思うのです。ともかく2年間で何とか全国化させたという実績はあるわけですし、これは言い方を気をつけないと失礼な言い方になるかもしれませんけれども、どうも弁護士会というところは、日弁連の組織体の性格かもしれませんけれども、やはりある程度負荷をかけるということがあった方がいいのかもしれない、という気がするわけです。これは失礼な言い方なら撤回しますけれども、現実的な可能性として本当にできないのかというと、私はそうではないだろうと思うわけです。やるとおっしゃっている以上はやってみていただくし、そういう態勢をつくっていただくということで制度をつくっていかないと、せっかく皆さん理想的にはそれが当然在るべき姿だとおっしゃっていらっしゃるわけですから、だとすればそれを目指して、弁護士の方たちに頑張っていただくしかないわけで、そうおっしゃっている以上は、正にその責任を最終的に取る方策について、現実的にちゃんと考えていただくいうことで制度設計していくということでないと、なかなか理想に近付くことは難しいということになるんじゃないかと思いますので、是非そこは日弁連に腰を据えていただくということで、この検討会としてもその覚悟で対応してもらうように要請するということを、まず考えてみる必要があるだろうと思います。

○井上座長 大出委員は、それで対応できるだろうというお考えなのですけれども、ほかの方は、それでは確実性がないとお考えで、そこのところが違うのだろうと思うのです。

○大出委員 繰り返しになりますけれども、弁護士の方たちは、今2万人いるわけですから、もちろん日弁連はこれを義務化するということを基本的にしてこられなかった。これも義務化すればいいというものではないという面があることは間違いないですし、私どもが当番弁護士の実情についていろいろ調査したこともありますし、その中で現実的に今まで問題がなかったと私も思っていませんので、その辺についての手当てをどうするかという問題もありますけれども、しかし、やるということで日弁連がお引き受けになる以上は、その辺についてもどうするかということも当然お考えになるのだろうと思いますし、態勢としては、いろいろと新しい体制をつくるということを具体的に提案されているわけですから、そういった提案が現実的に示されてくるということになれば、現実的な可能性がないとは私は思えない。

○井上座長 そこのところを含めて議論しましょう、と申しているのです。具体的にこれで確保できますということが示されるのなら、それはそれで前提が違ってくるとは思うのですが、2万人全員が等しく担いますということだけですと、それはちょっと違うのではないかという意見もあるでしょうし、そこが意見が分かれるところなので、正にそこを詰めて議論をしておかないと、実際にやってみると瓦解することになるだろうと思うのです。

○浦委員 私は罪名による限定はしないというのが、当然の前提なのですけれども、少なくとも法定合議事件ということでは余りにも狭過ぎるだろう。先ほど座長も言われましたように、当番弁護士は既に1万件を受任しています。そのうち6,000 件程度が扶助事件になっていますから、そういう意味では今の当番弁護士よりも、より小さな内容の制度になるという可能性も十分考えられるわけです。そうしますと、法定合議というのは余りにも数が低いだろうと。意見書も言っていますように、弁護士会の当番弁護士制度や扶助協会の任意の扶助事業では限界があるから、それを超えて更に大きなものにしようというのが意見書の考えだろうと、意見書を素直に読めばそう読めるのです。少なくとも今の当番弁護士制度は十分カバーした上で、更にそれを超えるようなもの、そういう公的弁護制度を導入するというのが意見書の立場だろうと思うのです。そうしますと、法定合議ということでは余りにも狭い。それはむしろ意見書の趣旨に反するものになりはしないか、そういうことも考えられます。
 これも私はあえて申し上げるのですが、罪名でなくて、我々が弁護士会の中で議論をした中の一つとして、例えば刑事訴訟法81条の接見禁止決定が付いた事件というのが挙がったこともあります。一般人との接見禁止決定が付いた事件、統計では平成13年で4万2,000 件くらいです。一般人との接見禁止決定がこの間増えているということは極めて問題だということで、弁護士会の方は指摘をしているところなのですけれども、この接見禁止が付く場合には、被疑者の外界との窓口は、弁護人以外ないのです。このような場合は、弁護の必要性があるということでは極めて明白なことだろうと思います。私はそれに限定するということを申し上げているわけでは全くございませんが、少なくとも接見禁止決定の付いた事件などについては、弁護人が付せられるべきではないかという意味で申し上げておるのです。

○井上座長 ついでに伺いますけれども、当番弁護士の登録数は、この前、ここで配られた資料では、8,000 人くらいだったと思うのですけれども、その数も増えているのですか。

○浦委員 増えています。統計は次回までに。

○井上座長 分かりました。

○本田委員 今、浦委員の方から当番弁護士の受任件数ということが出たのですが、細かいことを申し上げるようで申し訳ないのですが、これは第3回の資料なのですけれども、当番弁護士との接見を経由して弁護人を選任したのは、確かに9,684 人いるのですけれども、そのうち3,783 人は私選弁護に流れているのです。実際に被疑者弁護援助制度を利用したのは5,901 人ということになっていますから、恐らく当番弁護士は1回会うだけの話で、実際の弁護、言うなら公的弁護のような制度でやったのは5,901 人だと。あとの3,783 人は私選弁護なのです。最初の会い方が違っただけの話であり、1万件なり9,000 件が全部公的弁護の対応能力を示すかというと、ちょっと違うのではないかと思います。

○浦委員 私も対応できるという意味で申し上げているわけです。今の1万件、6,000 件というのは平成14年の新しい統計の数字です。

○酒巻委員 ちょっと確認ですけれども、仮に限定するとすればどの範囲がいいのかという話も出ているのですが、ここは次に議論するのですか、それとも今一気にまとめになるのですか。

○井上座長 だれがまとめるのですか。そういう話ではないと思うのですけれども。

○酒巻委員 確認です。もし、どのように限定するかという部分にもう入っているのであれば、この点について意見を言いたいと思ったのです。もう一点、今、本田委員もおっしゃられました点ですけれども、大出委員が先ほど当番弁護士制度の実績を大変強調されました。私も本当に当番弁護士制度は立派なことだと思って敬意を表しているのですが、やはり当番弁護士として1回会う話と、それからその先、被疑者の身柄拘束期間を通じて弁護活動をし、場合によっては更に被告人段階まで担当するというのは、随分性質の違う仕事であろうというのが私の認識です。したがって、当番弁護士の場合だけを参考に議論するのは、やや問題があるのではないかと思います。1回だけの接見で済まない場合もあるということは十分考えなければいけない。
 それから、お金の問題が出ておりますけれども、これはお金とともにそれをやる人が本当にいるのかどうかというのが更にその前提として重要だと思うわけです。すべての弁護士さんが刑事弁護をやってくれればそれはいいのですが、これは世間の常識で、現状は、弁護士さんのすべてが刑事に深く立ち入ってやっておられるというわけではない。だから、金のことは別として、やはり刑事をやっていただける人が全国まんべんなくいるかどうかということについては、私は現状では非常に不安なところがあるのです。

○井上座長 限定すべきだとすれば、どういうふうに限定するかということについては、いかがですか。

○酒巻委員 先ほど来、法定合議事件の数字が出てきたわけですが、既に御指摘があったように、私も、5,000 から6,000 件という法定合議事件ですとやや数が少ないように思います。先ほど髙井委員から全然別の切り口のアイデアも出ましたけれども、もし対象事件を限定するとすれば、その基準というのは、ある程度客観的に明瞭である必要があるだろうと思いますので、法定合議よりは少し多くなるような、しかし、対象犯罪の法定刑を含めたような明確な切り口を新しく考えたらどうかと思います。
 例えば、今の法定合議は、おそらく類型的に審理が難しくないという趣旨で刑法236 条の強盗等が法律上除いてあるわけですけれども、しかし、強盗は法定刑はそれなりに重いわけですから、この除外を取ってしまって、強盗とか常習累犯窃盗等だったと思いますけれども、それを付け加えるような形にすれば、5,000 から6,000 件よりはもう少し増えるのではないか、それも一つの考え方ではないかと思っているところです。

○井上座長 ひととおり御意見を伺いまして、これでまとまったというわけではなく、何かまとめられるというわけでもありませんので、この先どういうふうに持っていくのかということは、追って御相談したいと思いますけれども、時間も押していますので、次の点に入りたいと思います。
 既に半分くらい御議論が出たところですけれども、具体的な選任要件として貧困要件等が書かれてありますので、今の議論ともつながった問題ですが、こちらの方に議論を移していただきたいと思います。
 まず、「(1)貧困要件」ですけれども、たたき台の方では、貧困要件について、資力に関する明確な基準を定めるという案が示されています。これについて、何人かの方からそういう御意見が出されたというふうに記憶しておりますけれども、これについてもよろしいかどうか。そのような前提について御異論がないようでしたら、「ア 資力に関する基準の内容」をどうするべきか、「イ 資力を考慮する者の範囲」について、どうすべきなのかというところを御議論いただければと思います。
 まず、貧困要件について、資力に関する明確な基準を定めるという点については、何人かの方がそういう御意見で、それに対して、そうすべきでないという御意見は、少なくとも明示的には示されなかったと思うのですが、その点はそれでよろしいでしょうか。
 もしそういうことでよろしければ、もっと具体的に資力に関する基準の中身をどうするべきなのか、どの範囲の人の資力を問題にすべきなのか、こういうことが問題になるわけですけれども、この点について御議論をしていただければと思います。いかがでしょうか。
 まず、基準の内容については、A案とB案が示されていて、資力を考慮する者の範囲についても、A、Bの2案がたたき台では示されているところですが、どなたからでも御意見をいただければと思います。

○本田委員 両方あり得るのかもしれませんけれども、手取り月収額を基準とするとなると、実際逮捕されて職を失う人もいるわけです。手取り月収額というのは、ちょっとどうでしょうか。そうすると、A案かなと、その程度の意見です。

○井上座長 髙井委員、先ほどは、厳しくするということを強調されたのですが、具体的にはどのような基準を設ければいいのですか。

○髙井委員 基本的には、私はA案でいくべきだろうと思います。私が昔の仕事をしていたときに、被疑者調書を読んでいると、私の月収は幾らで、財産が幾らでという記載があるわけです。これはざっくりとした感覚で言っているから正確なところは分からないのですが、そのときに預貯金はゼロですというのも確かにありましたけれども、大抵、何だたくさん持っているなと思う場合が多かったように思うのです。そういうような基準で言うと、ここに書いてある標準的と思われる弁護報酬が幾らなのかというのも問題があるのですが、20万ないし30万円を何らかの形で用意できる人であれば、私選の世界でいきなさい、というのが基本ではないかなと思います。

○井上座長 分かりました。ほかの方、いかがですか。

○池田委員 預貯金の金額がどのくらいあるかというのは一つの目安だと思うのですが、私どもが訴訟費用を負担させるか負担させないかという判断をするときには、被告人の調書などを見るのですが、負債があるという人も結構いるのです。貯金はちょっとあるけれども、これだけ借金があると。それをどう見るのかというのも非常に難しくて、負債はあっても、それは信用があるから負債があるので、一方で少しでも蓄えがあるなら、それだけの資力があるんだと見ていいのか、そうなんだということなら、それはそれでよいと思うのですけれども、そういうものはどうするんだろうか、という疑問があります。

○髙井委員 税金債権は優先するわけですから、それと同じように考えればいいのではないか。税金で国選を頼もうというわけですから、債務があったとしても、そんなものは一応無視して考える。それを最優先にすれば払えるというのであれば、そういう人は私選を頼みなさいというのが制度の趣旨ではないかと思うのです。例えば、お金を1億持っています、負債が10億円あるのですという人には、国選付けてあげましょうかと言ったら、国民はおかしな話ではないかと思うと思うのです。余り借金のことは考えなくていいのではないかと思います。

○土屋委員 私は、A案でもB案でもない、C案みたいなことを考えておりまして、先ほど基準を上げ下げするということを言いましたけれども、民事法律扶助のようなことを刑事の方でも考えられないかと思うのです。民事法律扶助の扶助を与える基準というのは、収入の最下層から20パーセントくらいを対象としたところで運用していたはずだと思います。記憶に間違いがあったら申し訳ありませんけれども。先ほどから、どのくらいの件数を対象にするのかということで考えるならば、現状でどのくらいの件数ができるんだというところから動かしていけばいいであろうと。それだったら、資力要件というか、どのくらいの生活水準にある人を対象にするのかということを、民事法律扶助と同じように、下から何パーセントくらいの線でハードルを設けるという方法を採ることができないかという、第三の選択肢みたいなものを考えていたんです。そういうことも可能ではないだろうかと思ったんですけれども、どこで線を引けばどうなるというデータは持っていませんけれども、そういう考え方の方が量的な調整が可能なのではないかと思うのです。このC案みたいなものはいかがでしょうか。

○大出委員 今の話ですと、民事法律扶助の場合については、月収幾らという感じでしたね。25万円くらいとか、家族構成によっても違うと思うのですが、そうすると、このB案というのは、必ずしもそういう想定ではないわけですね。

○落合参事官 B案は、そのような定め方もあり得ると思っています。

○大出委員 ここは難しいなと思っていまして、つまりA案とB案、どちらかに決めてしまうわけにもいかないのではないかという感じがしているのです。ですから、預貯金を持っている方について、資力があるという判断が当然あり得るだろうと思うわけです。ですから、問題は可処分所得というか、どれだけ生活に必要なお金を取って、それ以上に弁護費用として捻出できるかどうかという問題ですね。そこのところは、定期的に収入がある場合であれ、そうではない場合であれ、両方あり得る話であって、いくら預貯金を持っていても、今の年金事情等からすれば、将来的な不安を抱えたままということになってくるということもあり得るわけです。その辺というのは、どう基準をつくるのかというのは非常に難しいんだろうと思うのです。
 もちろん、私も資力要件がなくていいと思っているわけではないのですが、合理的な要件として、ある程度形式的に切れる要件として、どういう要件のつくり方があるのかというのは難しいかなと思っていて、そういう意味で今言った手取り月収額という言い方なら、定期的に収入が入ってくるというニュアンスが強いんですが、そうじゃなくて、月々の生活費というものを控除した余力というものの基準がつくれるかどうかということかなという感じがしていたのです。
 もう一つ、これは絶対ということになるかどうか分かりませんが、貧困要件という言い方が、もちろん用語の問題だと思いますし、特に意図はないのかもしれませんが、さっきから座長も資力という言い方をされていますし、無資力要件ということではなぜいけないのか。貧困というと、何か恩恵的な感じがしてならないので、そういう意図は、もちろんないと思いますけれども、無資力要件でなぜいけないのかというのはちょっと気になっています。

○井上座長 現行法で使われているからですよ。

○大出委員 使われているからだと思いますが、この際変えた方がいいのではないかということです。

○井上座長 それは名前の問題ですね。

○大出委員 貧困という言い方は、何となくちょっと引っかかるのです。

○井上座長 土屋委員のお考えと、大出委員のお考えは、発想としてはかなり違うと思うのです。大出委員の考えは、要するに、最低限の生活を担保できるものは除いて、プラスアルファがあるかどうかということで判断していくということですけれども、土屋委員の場合は、現実に対応できる被疑者の数を想定して、それで基準を上げ下げした方がいいのではないかというお考えですね。

○大出委員 そこは最低線のところで、それをどの程度と見ていくかということで上げ下げするという発想でおっしゃっていたわけでは必ずしもないわけでしょう。

○井上座長 土屋委員は、いろんな対応能力とか財政事情とかが改善されれば、基準は上がっていくというか、下がっていくというか、そういうお考えですね。

○大出委員 基準のつくり方ということでは、つまりそれを上げ下げするということはあるけれども、基準のつくり方の発想は同じようなところではないですか。

○井上座長 その発想は全く違うと思いますね。大出委員の考えでいけば、かなり絶対的な要件ということになるはずでしょう。それで果たして切れますかというのが、最初の本田委員などの御疑問だと思うのです。絶対的要件だとすれば、それを下げるわけにいかない、あるいは上げるわけにいかないでしょうということなのでしょう。

○大出委員 なるほど、分かりました。

○髙井委員 大出委員の御意見に対してですけれども、とにかく捕まっているわけです。もしかしたら自分の人生とんでもないことになってしまうかもしれないわけです。そういう人が、私の生活にはこれだけ要ります、これだけ確保したいのです、弁護士頼むよりそちらの方を優先させますというのはやはりおかしな話で、弁護士を頼めるかどうか、私選に行くか国選にいくかというときには、最低限の生活費をまず確保して、そのほかに余剰があるかどうかで考えるというのはおかしくないかと私は思います。

○樋口委員 具体的な提案ではございませんで、だからどうということではないのは大変恐縮なのですが、何か違和感があるのです。こういった書き方というのは、要するに、課税標準を定めるといった場合には誠に意味のあることだと思うのですが、ここでは借金してでも私選を付けたいという人だっているわけです。自分の人生哲学の問題だと言う人だっているかもしれない。そうすると、調達能力があるのかないのかという見方もできるだろう。ということからすると、もう少し本人の意思というか、やる気といったものを何とか考慮できないのか。これも突き詰めていくと、結局、公的弁護を付けるかどうかというのは、ある対象については付ける、ただ、その費用弁償をどうするかというのは、また別物であるという、そこをきちんと仕分けるという制度の立て方もあるのではないかという感じがいたします。

○井上座長 費用は後で回収するというのは、また別の問題としてあるということだと思うのです。

○浦委員 私もA案とB案は、必ずしも相排斥する関係にあるとも思えないです。総合した形になることもあり得るし、そういうことから考えますと、基準は明確にすべきだということは言えるのですけれども、それではどうするかということになれば、結局は総合的な判断ということにならざるを得なくて、明確にならない可能性もあるのかなと思います。それだと選任の段階で大変困りますので、私の場合は、今、土屋委員の言われたようなことにならざるを得ないのかな。あるいは大出委員の意見とも近いかもしれませんけれども、ほぼその中間辺りになるのかなと思っています。具体的にこれがどういうふうな基準で切ればいいかというのは非常に難しいことなのです。これは具体的に詰めていかなければいけないと思っています。

○井上座長 違うと申し上げたのは、要するに、浦委員や大出委員、髙井委員のお考えでは、全件に付けることを前提として、貧困要件だけで絞っていくということなのですが、その場合、貧困要件を人為的に操作できるのだろうか。貧困要件というのは、本来、ある一定の基準での貧困要件であり、人為的に動くものではない。それを厳しく適用するということで賄えるのではないかとおっしゃったのですけれども、土屋委員の発想は、そうではなく、そこのところは現実的な条件に応じて基準自体を上げ下げすることはできるし、そうすべきではないかということなのです。それが発想としては違うのではないかということです。

○浦委員 私は、別にそれを厳しく運用しろということは申し上げておりませんけれども、そういう要件での切り口があるということを申し上げたわけです。

○井上座長 厳しくは運用しないということですか。

○浦委員 厳しく運用しないとは、明確に申しておりません。

○井上座長 事務局から何か意見がありますか。

○落合参事官 ちょっと戻ることになって恐縮なのですけれども、先ほどの弁護士会の対応能力にも関係することなのですが、選任要件を満たしていながら、弁護人を選任できないという事態が起きたときに、その法的効果をどう考えていらっしゃるのかというところをお聞きしたいと思っております。特に必要的選任制度について選任できない事態があっても、法的効果は発生しない場合もあり得るというふうな意見もあったものですから。今、私が申し上げた請求による選任制度で、選任要件を満たしていながら選任ができない場合の法的効果というのは、どのように考えるべきでしょうか。そこのところをちょっとお聞きしたいのです。法的効果が発生しないから、対応能力の問題は、問題にならないのだというお考えではないとは思うものの、ちょっとお聞きしたいと思っております。

○井上座長 その点はいかがですか。

○浦委員 積極的な法的効果は、今の必要的選任という・・・。

○井上座長 必要的な場合ではなく、請求による選任の場合に、基準は満たしているから付けてもらえるはずなのに、しかし、現実には弁護士さんの対応能力を超えているので、付かないといった場合にどうなるのかという問題です。

○浦委員 付かない場合というのは、どういう場合が想定されるのですか。

○井上座長 対応できない、人がいないという場合です。

○浦委員 それをなくするということで議論しているのでは・・・。

○井上座長 制度をつくるときには、最悪の場合も考えなければならないわけです。対応できない場合にどうなるのか。その場合は付けなくてもいいのだということならば、対応能力というのは、そう深刻に考えなくてもいいのかもしれないのですけれども、それで本当にいいんですか、というのが落合参事官の質問だろうと思います。

○大出委員 巷間言われていることですと、本田委員なども御心配になっていて、樋口委員からも出たかもしれませんが、捜査ができなくなるということで言われていたことだと思いますけれども、その場合、捜査ということで想定されているのは一体何かという問題だと思うのですけれども、捜査ができないということは、私はないと思いますし、当然おやりいただくということは構わないと思います。捜査ということで想定されているのは被疑者の取調べのことをおっしゃっているのだと思うのです。そうではないのですか。

○井上座長 そうではなくて、手続が進められますか、ということだろうと思うのです。

○大出委員 ですから、捜査手続として、その段階では、もちろん被疑者が特定されているわけですから、当然拘束しているわけでしょう。拘束している段階で捜査として想定されているのは、取調べだけではないですね。それ以外の証拠収集活動を当然おやりになるわけですから、そのこと自体は否定されないと思いますし、それは、もちろん捜査当局のこれまでのお考えからすれば、被疑者の取調べというものが重要な位置を占めているという御主張であることは百も承知していますけれども。

○井上座長 そちらに行きますと議論が枝道に入ってしまいますので、そういうことに限らず、捜査手続一般を進めることができるのかということを議論していただけますか。

○大出委員 被疑者の取調べについては支障が生じる可能性はありますけれども、それ以外については進められるのではないですか。

○井上座長 何でそこだけ支障が生じるのですか。

○大出委員 立会権を認めろという議論にはなっていないわけですね。

○井上座長 どうも議論が拡散し過ぎるので、整理させていただきますと、身柄拘束されている場合が前提ですから、23日間という期間の限定があるわけですね。この23日間の手続が動くかどうかというのが質問の要点だと思います。動かしていいのかどうかです。
 言い換えますと、被疑者には選んでもらう権利があるという構成にした場合、権利があるのに満たされていないという事態が生じたときに、手続の進行はどうなるのかという問題だと思うのです。

○髙井委員 論点をはっきりさせていただくためにあえて言いますけれども、基本的には手続は動かしていいと。必要的弁護だと言っているわけではないので、これは動かしていいと。もちろん取調べもやっていいという考え方でいいのではないかと。ただ、弁護人の争い方、あるいは事件の性質、自白の出方によって、将来公判で弁護人の付いていないときの自白調書についての任意性の判断が厳しくなるという実務上の影響は出てくるかもしれないけれども、法的にはそのまま被疑者の取調べも含めて進めていいと考えるべきだと思っています。

○井上座長 法律上そういう権利が保障されているのに満たされないという場合、被疑者の方から国を訴えることはできないのですか。不利益を受けた場合、権利だとすれば、満たされないときには、当然訴えることはできるはずではないですか。

○髙井委員 それは権利なのですか。

○井上座長 権利ではないのですか。

○酒巻委員 座長と落合参事官の問題提起に対しまして、これは私個人の意見ではなくて、あえて法律論をやりますけれども、国費による弁護人選任請求権が存在するにもかかわらず、それが満たされなかったという事態が生じた場合には、私がむりやり法律論を構成するとすれば、先ほど座長が示唆されたように、捜査段階において弁護人の援助を受ける権利が侵害されましたということで、いろんな法律構成があると思いますけれども、弁護人の援助を受ける権利の侵害というのは被疑者の基本的な防御権を損なうという意味でそれ以降のすべての刑事手続に波及するとも言えるので、それ以降に行われた被疑者に対する刑事手続にも、その違法状態が及んでいるという議論をする場合だってあるでしょう。あるいは、請求権を行使して弁護人が欲しいと言ったのに、何らかの事情で付けられなかった場合には、付けられなかった原因になっているところを民事上訴えるということだってそれはあるだろうと思うのです。
 落合参事官が先ほど質問された趣旨は、そういう法律問題について、弁護士会はどのように考えているのかということではないかと思いますが。

○浦委員 今の問題は、別に罪名による限定を付す付さないにかかわらずありますね。その場合どうするのだと。

○井上座長 そうですけれど、現実に対応できる範囲かどうかというのは、そこにかかわってくるということでしょう。

○浦委員 実際上の問題は別にして、理屈から言えば同じことなのですけれども、それは一緒に考えましょう。罪名による限定を設けられる立場の方もどう考えるかです。

○本田委員 請求権を与えますね、その与える範囲をどこにするかというのは立法政策の問題でしょう。そこは合理的に線を引かざるを得ませんね。実際与えたのに、しかも、その要件を満たしているのに、彼は弁護士さんがいないということで、実際選任されなかったときはどうするんだという話なのです。

○大出委員 そのことは今、浦委員が言ったように、必ずしも事件を絞ったって起こり得る事態ですね。だとすれば、先ほどの事務局の問いかけからすれば、そういう場合にどうするのかということについては、動かさなければ方法はなくなってしまうということになるわけでしょう。私も、その点については、法律論と違って、確かに今、酒巻委員が御指摘になった点については、そういう問題が起こってくるということは当然認めざるを得ないだろうと思うわけですけれども、それにしたところで、一般的に事件を絞って、しかもなおかつ弁護人の請求権があって請求したにもかかわらず弁護人が付かないという事態は、一般的、抽象的には起こりますね。

○井上座長 おっしゃるように一般的、抽象的な問題だけにとどまるのか、現実に起こる確率が高いのか。そこは正に立法政策にかかわってくる問題でしょう。

○大出委員 それは正に対応態勢の問題ですね。

○髙井委員 事務局の提案は、そういうふうに絞る絞らないもあるけれども、絞ったとしても、万々が一そういうのが出てきたときにはどうするのかというのが事務局の問題提起です。ですから、罪名で絞るか絞らないかというのとは異なった次元の問題提起だと思います。だから、別の問題提起だとして議論をしないと、事務局の提起した趣旨は全うされないと思います。

○大出委員 一般的に法律論として、それはあり得るというのはそのとおりです。

○落合参事官 私の問題提起は、もっとシンプルで、先ほど蓋然性というお言葉が出ましたけれども、立法政策の問題として、現に弁護人を付けられない事態が生じる可能性があるというのは問題だと思います。全件身柄というと、そういう問題が出てくる蓋然性が大きいので、その点については、第一次的にはどう考えるべきでしょうかということなのです。

○大出委員 そこはさっきから議論になっていて、それはあり得るとは思います。しかし、そうは言っても、それは決してそんな小さくないだろうという議論があるわけですから、それはやってみなければ分からないかもしれませんけれども、蓋然性というのはどの程度かという問題ですよ。

○落合参事官 法律論としてそこは詰めておく必要があると思っているわけです。

○大出委員 それは、一般的にそういう問題が起こり得るということは私も否定しませんし、その点について詰めておく必要があるということは認めますけれども、それを蓋然性に引っかけて議論する必要がどこにあるかということをお尋ねしたい。

○髙井委員 大出委員が詰めた意見を言われればいいでしょう。

○大出委員 私は、その限りでは、さっきの髙井委員の意見と同じかどうか分かりませんけれども、事後的に処置するしか仕方がないということなのかもしれませんけれども、動かすという、捜査当局が御心配になっていることとの関係でいけば動かすということでいいと思います。請求権との関係での事後的な問題は生じてくるかもしれない。それは、一般的に起こり得る事態だということで言わざるを得ないと思います。

○池田委員 事後的にどういう問題になるのですか。

○大出委員 損害賠償請求とかですね。それは起こり得るかもしれませんね。

○井上座長 酒巻委員のような立論で、訴訟手続上効果が発生するということになると、安心して手続を進めることもできないという理屈にはなるのです。その辺も視野に入れて、現実的な議論をしないといけないのではないでしょうか。ですから、弁護士会が対応できると言っているのだから対応できるはずだというだけではやはり駄目なので、具体的にこういう根拠があり、こういうふうに対応できるのだということでなければ現実的な議論にはならないだろうと思うのです。

○大出委員 だとすると、さっきちょっと私言いましたけれども、現実的にシミュレートするということで言ったときには、私も、最初から全部公的弁護つまり先ほど来議論になっている被疑者を75パーセントなり何なり想定して、公的弁護という議論されている枠で対応するということで想定する必要はないと思うのです。さっきも言いましたように、ふるい分けということで、要件のところで無資力要件ということは、もちろんあると思いますし、それ以外にも必要性についての判断というのは前置して判断する余地というのは私はあると思いますから、そういう意味では必ずしも想定されている全件について弁護人が付くということには必ずしもならないと思いますので、その辺も含めて議論していただいた方がいいと思うのです。

○井上座長 貧困要件以外でも絞るということですか。

○大出委員 絞るというよりも、私選に回るなり、もちろんそれは貧困要件ということにかかわってくるかもしれませんけれども、先ほど来、出ているように、何も調達能力があれば、必ずしも公的弁護ということにならないで、私選を選択するということだってあり得るわけです。

○井上座長 それは貧困要件をどうやって認定するかという問題ですね。そうではなく、貧困要件は認定できるという場合にも、更に絞るということをお考えなのかということをお尋ねしているのです。今おっしゃったのはそういう意味に聞こえましたので。

○大出委員 更に絞るということではないです。

○井上座長 必要性で絞るとおっしゃいましたね。本人は必要だと言っているのに、必要性がないから切るということになるのかどうかということです。

○大出委員 本人が必要だというときには切れないと思います。

○井上座長 そうすると、結局は貧困要件だけになりますよね。

○大出委員 ですから、貧困要件も一つの要件としてあると思います。

○井上座長 それ以外に何があるのですか。

○大出委員 私の先ほどの発想で申し上げたのは、そのことについて弁護人との間で相談をする機会というものを、被疑者国選という枠ではない形で保障するということができれば、そのことがその問題についての一つのスクリーニングになるだろうというふうに考えています。

○井上座長 それはちょっと問題が違うのではないですか。実体的な要件としてどういう要件を設定するかという議論を今しているのですから。

○大出委員 そのことによって、逆に言うと、例えば先ほど言った11万件なり12万件全体を対象として、その中の何割かに先ほど来のお話でいくと、弁護人が付くという、弁護人が付くというのは、何も1回の相談ではなくて、継続的に必要であれば、正にさっき被疑者援助制度によって付いていることとの関係でいけば、弁護人として弁護活動する弁護人がトータルで付くということを予定した議論をしているわけですね。

○髙井委員 余り生産的な議論だとは思えないので、ほかの議論をさせてもらいたいのですけれども、いいですか。

○井上座長 どうぞ。

○髙井委員 今の事務局が提案された問題というのは、確かに数が多くなればなるほど出やすい問題なのですけれども、数を絞ったとしても、何らかの都合でそういうことが突発的に出てくることは避けられないということです。特に最悪の場合を想定して制度を考えるという立場でいけば、幾ら数を絞っても出てくる可能性がないとは言えない事態だと思うのです。ですから、そのときの法律効果をどうするかというのは、そこに絞って議論をすべきだと思います。ですから、是非その議論をするように司会をしていただきたいと思います。
 もう一点、樋口委員が先ほど言われた貧困要件の絞り方でおかしくないかという問題提起をされて、それはさっと流れたと思うのですけれども、確かに非常に重要な指摘だと思うのです。確かに認めている事件で、しかし、法定合議事件だったために、犬に餌をやりたいから、国選弁護人を頼むかという感じで手を挙げて国選弁護人を付けてもらって、国民の税金で犬に餌をやるという事態が起きたのでは、これは国民は納得しないわけですから、そういう事態が起きないような切り方は、皆さん知恵を出し合って決めなくちゃいけない問題だと思います。

○井上座長 貧困要件の絞り方は、イの問題にもかかわってくるわけで、そこのところの御意見を全くいただいていないのです。つまり、資力を考慮する者の範囲ということですが。

○髙井委員 そこにもかかわってきますね。

○井上座長 そこにもかかわってきますし、樋口委員の御意見ですと、現にある資力だけではなくて、借金できるということだったら、それも考慮すべきではないかということだったと思うのですが。

○髙井委員 事務局の提案された問題については、そこで手続を止めてしまうということは多分できないと思うのです。そうすると、それに対して、やはり最初の10日間は弁護人が付いていなかったんだから、その間の自白調書は任意性がないとか、証拠能力がないとか、損害賠償請求をするとか、慰謝料請求をするとかというようなことは起こり得ると思うのです。ですから、その後の損害賠償請求どうのこうのについては、これは個別の事案に任せる以外にないと割り切ってしまうしかないのではないか。

○井上座長 自白の方は割り切れないですね。

○髙井委員 自白の方についても、単に弁護人が付かなかったというだけで自白の証拠能力を否定するということでは制度が動いていかないわけで、それだけでは自白の証拠能力は否定しない。ただそれ以外にいろんな要素が入ってきたときに、その間、弁護人が付いていなかったということは、訴追側で言えばマイナスの要素として一つは考えられるということは避けられないだろうと思いますけれども、その程度で手続としては動いていくというふうにしないと困ると思います。

○井上座長 後者の方は、結局は、専門的な用語で言えば、自白の任意性が確保されているかどうかであって、その一つの事実上の要素として弁護人が付いているかどうかということは問題にはなり得る。しかし、法的な効果として直結するということにはならないという御意見ですね。分かりました。

○本田委員 確かに理論的に言えば事件を限ったところで、弁護人が付かないということが出てくるのではないかという議論はあると思うのですけれども、現実問題として考えれば、要するに、常勤弁護士とか契約弁護士をどの程度実際確保できるんだという話とも絡むと思うのです。対象事件をある程度絞っておいて、そこに国選で付かなかったところ、あるいは私選で付かなかったところにセーフティーネットとして常勤弁護士や契約弁護士を付けるという仕組みをつくり上げておけば、それはそこでそれぞれの事態というのは、まず現実には起きないような制度というものをつくるべきなんだろう。それを大きく対象事件を広げてしまうと、幾ら常勤弁護士、契約弁護士を確保したって、それは到底対応できないでしょうという話だろうと思うのです。

○井上座長 付かなかった場合の法的効果という理論的問題と同時に、もし何らかの効果が発生するとすれば、そういうことが発生しないような態勢を組むべきだということになる。そちらの関連でおっしゃっているということだと思います。

○平良木委員 今の議論に関連して、例えば任意的弁護事件では、国選弁護人がないまま手続を進めることが可能ですね。こことの関係を考える必要がある。どういうところで切るかというと、例えば必要的弁護事件的な発想をして弁護人が付いていないから駄目だという発想と、任意的弁護事件的な発想をしてできるけれども、ただ問題は残りますよ、だからやらない方がいいという議論と、どちらもあり得るのではないかと思うのです。

○井上座長 今の被告人の国選でも、やはり潜在はしているのです。付かなかった間に、何らかの法的なマイナスの効果が生ずるのかどうかという問題はあるのです。ただ、時期的には選任が遅れるということはあるかもしれませんけれども、結局は現に付いているものですから、問題が顕在化していないということなのでしょう。しかし、数が大きくなって、もし対応ができなくなれば、現実に大きな問題になり得る、そういう問題なのだろうと思います。

○本田委員 平良木委員のおっしゃっるのは、確かに理論的にはそういう問題があると思うのですけれども、公判だと、その日に弁護士が出てこなければ、その日にやらなければいいのです。次の公判を指定すればいい。
 ところが、捜査というのは、最初から期間が決まっているわけです。身柄事件は、最大23日しかないわけで、もう1回次の期日を指定して捜査するなんてことはできないわけですから、そこは運用で賄える部分がかなり多い公判と、そういうのが現実的ではない捜査というのは、やはり少し違うのだろうと思うのです。

○平良木委員 ただ、その場合に、できないと言うのか。できると言うことだって、あり得ると思うのです。

○本田委員 それはそうだと思います。それに、理論的な問題ではなくて、運用の問題で恐らく全部解決できるようにすべきだろうということです。

○井上座長 もう一点だけ御議論いただいて、その後に休憩したいと思います。
 「イ 資力を考慮する者の範囲」について、特に御意見が出なかったのですが、その次もありますので、次に議論を移したいと思います。
 (2)として貧困以外のその他の事由、いわゆるその他要件というもの及び(3)として被疑者以外の者が選任した弁護人がないことというのがたたき台に挙げられておりますけれども、この点については、これまでは特に御異論はなかったような気がするのですが、この(2)の方は、貧困ということだけで絞るのではなくて、その他の理由によって自ら付けられないという場合も、やはり対象にすべきではないかということです。
 (3)は、さっき落合参事官が言われたように、(1)又は(2)、これは択一と言いますか、「又は」の関係に立つのだろうと思うのですけれども、そのどちらかに当たった場合に、更に(3)という要件をかぶせていくと、そういうことだと思うのですけれども、この辺について御意見をいただければと思います。
 また、資力を考慮する者の範囲についても、御意見が全く出ないというのは困るものですから、その辺も含めて御意見があればお伺いしたいと思います。

○酒巻委員 資力を考慮する者の範囲ですが、私は、以前、本人だけではなく、近親等の関係者がいてお金を出してくれるならば、そちらも考えてよいのではないかということを述べたような気がします。しかし、改めて考えてみますと、裁判所が選任請求に対して迅速に判断を行う必要性とか、判断基準の明確性の要素を勘案する必要がありますし、また、たたき台の中にあるように、資力についてうそを言うと罰則を設けるというような制度を仮につくるとした場合をも考え併せますと、手続の明確性と迅速処理の観点から、当該被疑者の資力だけを考慮するというのが妥当なのではないかと考えます。

○髙井委員 結論的には、私は、この資力を考慮する者の範囲については、B案がいいと思います。A案でいきますと、例えば学生さんなんかは、ほとんど資力がないことになるのではないかというふうに思うのです。ですから、最初から資力要件に引っ掛かるというか、要件を満たしてしまうような人が想定されるような線引きというのはおかしいわけで、そういう意味では、一定の範囲の親族の決め方が難しいとは思いますけれども、被疑者だけで資力要件の有無を考えるというのは制度として妥当ではないのではないかと思います。

○本田委員 (2)や(3)の要件のところは、このたたき台のとおりでよろしいのだろうと思っております。
 それから、資力を考慮する者の範囲ですけれども、やはり基本的にはA案だろう。後ろの審査資料の問題との関係で、そうせざるを得ないのかなというふうに考えています。
 ただ、髙井委員が今おっしゃいましたけれども、一定の範囲の親族の資力を考慮する場合が全くないのか。特に、少年の場合ですが、これは少し考えなければいけないのではないかというふうに思います。保護者という立場にある親族などがいるわけで、こういう対象になる人というのは、余り仕事をしていない人が多いですね。二十歳以上になると、学生がいるのですけれども、そこはまた違って、親の援助を受けたくないという明確な意思を表示した者はしようがないのかなと思いますが、少年については別途の考慮が必要なのではないかという気がしております。

○池田委員 前に公判段階について、今の国選弁護人の場合、訴訟費用を負担させるか負担させないかの判断のときに、ほかに自分の関係者、家族等に資力がある場合には、それも考慮しているという人の方が多いのではないかということを紹介したと思います。基本的には、その考え方によれば、B案的なのかなと思うのですけれども、ただ、ここの選任要件のところは、弁護人を付けなければいけないかどうかの話なので、ここはやはり明確なものにしておいた方がいいのではないかと思います。後で、その費用を負担させるかどうかというのが最後に残ってくると思うのですが、そちらでは広くB案でいくとしても、最初の選任の段階はもっと明確でないと困るのではないでしょうか。そういうことからすると、ここはA案の方がいいのではないかという気がしているのですけれども。

○井上座長 分かりました。どうぞ。

○髙井委員 池田委員の方から明確性が必要だということを言われておりますが、例えばB案の場合は、申告書にどの範囲の資力を書かせるかと、自分の資力だけを書かせるのか、親の資力まで書かせるのかという問題であるから、明確性については余り変わりはないと思うのです。例えば、はっきりと法律で同居の親族とかしっかり書いておけばです。だから明確性の問題でA案、B案が分かれてくるとは思えない、そう思うのですけれども。

○浦委員 ただ、子供が親の資力なんていうのは分かりますかね。分からないことが多いのではないかと思いますが。

○髙井委員 親が幾ら持っているかは多分正確には知らないですよ。だけど、例えば20万から30万円の金もないのかとか、その程度のことは知っているのではないでしょうか。私は、そう思いますけれども。

○平良木委員 ここも少し悩むところなのですが、やはり基本的にA案でいって、これを成年と未成年を分けるというのが一つの考えであるだろう。むしろ、未成年の場合、親がかりが多いということを前提にすると、この限りで膨らませる。しかし、それ以外は、本人基準というところでいくのがいいのかなというように思っています。

○井上座長 仮に親子関係が断絶していて見放している、そういう場合もB案的なものでいくと、要件を満たしていなければ付けてもらえないということになるようにも思うのですけれども。

○髙井委員 例えば、同居の親族の場合、その資力を見るというのは、そういう人が多分お金を出すだろう、そこから調達できるだろうという前提でそういうことを言っているわけですから、例外的に親子関係が断絶していて払ってくれないというのであれば、それはそれで例外的な措置を設ければいいと思いますけれども。

○井上座長 どっちに推認するかということですね。樋口委員のさっきの調達能力の話でいくと、この辺はどう考えればいいですか。

○樋口委員 親の資力も入るのではないかなという感じなのですけれども。
 先ほどのことに若干敷衍して言わせていただきますと、要するに調達意思を持ちながら、調達能力が不足しているといった、そのとおりに書くということではないのですが、ごく一般的に言うとそんな書き方ができないかなというイメージなのです。調達意思をきちんとこの時点でですね・・・。

○井上座長 調達意思がないと、それは駄目なのですか。

○樋口委員 そうですね、やはり意思は持つべきだということですけれども。それが、事後の徴収等の実効性を高めるということにもつながっていくんではないかなという期待もあるわけですが。

○井上座長 実際問題として、対象になる人は、調達能力以前に調達意思がない人がかなり多いのではないかという問題意識でしょうか。

○樋口委員 ですから、それを対象にするのかということですね。

○井上座長 私は一生懸命調達してきますという人にだけ付けてあげる。

○樋口委員 そうですね。そういう考え方もあるのではないかと思いますけれども。

○井上座長 分かりました。どうぞ。

○平良木委員 実際に、例えば保釈なんていうことになると、保釈保証金は、ほとんど全部の被告人が調達するのではないかと思うのです。ですから、貧困要件をある意味でトータルで考えるというのも一つの考え方なのですけれども、この要件をどの程度厳格に考えるかということとの関係で見ていかなければいけないだろう。
 もし、ここのところを非常に厳しく見るとすると、やはりこれはA案になっていかざるを得ないし、逆に、むしろ緩く、トータルで見ていいのだということだとすると、ある程度弾力的な運用ということも考えられるだろうという気がしますけれども。

○井上座長 A案的なものでいっても、さっきの樋口委員のようなお考えですと、資力の中には調達能力なども入ってきて、どういう親がいるとか、親族がいるとか、あるいは貸してくれる友人がいるとか、そういうことも入ってくると読めば、A案でも同じような話になっていく。ただ、それを請求するときにどこまで書かせるかという違いは出てくる。そういうことですね。
 (2)、(3)については、よろしいですか。どうぞ。

○池田委員 今の(2)の話なのですが、これは、その他要件、現在の刑訴法36条と同じようなものだということだと思うのですが、今はこの36条のその他要件というのは、かなり実際には広いのです。無制約と言いますか、裁判所ではなかなか調べられないので、ここで絞るというのは非常に難しいのです。そうすると、無資力要件をかなり厳格に運用しようというのが、もし議論の大勢だとすると、そういう非常に分からない、どうにでもなってしまうものを残しておくというのが本当にいいのかと思うのです。
 そこについて、もちろん後で弁護士会に断わられたとか、その疎明をどうするかという議論になるのですけれども、それも時間的に大丈夫か、短時間のうちにそれだけのことができるかということもあるので、この辺りも、今と全く同じで、被告人の場合と同じように運用していいのかどうか、もっと絞るべきなのかということは検討しておかないといけないことではないかなという気がするのですけれども。

○井上座長 池田委員の御意見ですと、貧困要件、資力要件だけでいくべきだということなのか、そうではなく、やはり、その他要件はあるのだけれども、「その他」の中身をもっと具体化し、あるいは明確化して絞るべきだと、こういうことですか。

○池田委員 そうですね。

○大出委員 それは、具体的にどういうものが入り込んでいるのかということで、具体的にお教えいただくことは可能ですか。

○井上座長 今の大出委員の質問については、いかがですか。

○池田委員 例えば、弁護士を知らないとか、そういう回答だけで、別に本当に知らないのかどうかなどというのを調べたりはしないのです。そういう回答だけでいいのかということです。
 それから、確かに、酒巻委員が言われたように、その他要件があるものですから、貧困要件についても、そんなに厳格にはチェックしていない。本人が言うとおりで、貧困に丸を付けてあれば、大体それで貧困なのだろうと認めているのですけれども、それでいいのかということだと思います。

○井上座長 仮にその他要件を絞る、ないし明確化するとすれば、どういう絞り方がありますか。後での議論とも関係があると池田委員がおっしゃったように、手続的要件のところで絞っていくのか、ここの実体的要件で絞るのか、あるいは両方の二段構えなのか、そういうことなのだろうと思うのですけれども、実体的要件で絞るとすれば、どういう絞り方があるのかですね。

○池田委員 私も具体的な案がなくて申し訳ないのですが、難しいなという気がしているのです。

○井上座長 では、この点は手続的要件を議論するときに、またお考えを伺えればと思います。この辺は、このくらいでよろしいですか。

○髙井委員 私は、ここは貧困要件だけに限ってしまったらどうかというふうに思います。

○井上座長 あいつの弁護は嫌だと断わられてしまったような場合はどうするのですか。

○髙井委員 だから、日弁連ではそういうことはしないというふうにする以外ないのではないですか。あるいは、ここは少し難しいんですが、常勤事務所等ができるわけですね。今は、一般の弁護士だから、あいつはやりたくないとか出るのですけれども、そういうのは常勤事務所で受けるというふうにしてしまえば・・・。

○井上座長 常勤事務所で私選弁護も受けるということですか。

○髙井委員 そういうふうにすれば、そういう問題はクリアできますね。

○井上座長 常勤弁護士に私選弁護の受任をも義務付けるということですか。

○髙井委員 はい。

○井上座長 分かりました。一つのお考えではあると思います。
 その点は、後の手続的要件のところにも関連しますので、そこでまた御議論いただければと思います。ここで10分休憩ということにさせていただきたいと思います。

(休 憩)

○井上座長 再開いたします。次に、「3 被疑者に対する弁護人の選任手続」というところに入りたいと思います。まず、「(1) 貧困要件の審査」について御議論をいただきますが、「ア 審査資料」と「イ その正確性の担保方法」は、両方関連していますので、これらをまとめて御議論いただければと思います。なお、虚偽の資力申告書の提出に罰則を設けるという御意見をお持ちの方は、その罰則の内容についてもお考えをお聞かせ願えればと思います。
 どなたからでも結構です。どうぞ。

○髙井委員 基本的には、審査資料としてはA案で、被疑者に申告書を作成させるということでいいんだろうというふうに思います。正確性の担保については、これもA案で罰則を設ける。罰則をどの程度にするかはなかなか難しいとは思いますけれども、科料ぐらいかなと、科料にするか罰金にするか難しいのですが、罰金でもいいかなというふうに思います。罰金は幾らなんだという話になりますけれども、通常、標準的な弁護士費用が20万とか30万円というようなことで考えると、その程度のものかなというイメージですけれども。

○井上座長 分かりました。

○本田委員 ア、イについて、それぞれA案というところは、髙井委員と全く一緒です。被疑者が自ら弁護士の援助を受けるのですから、当然資料は自分できちんと作ってくださいという話になるでしょう。それから虚偽の資力申告書を出されては困るわけで、やはり信用性を担保する制度が必要で、罰則を設けることになるのだろう。罰則については、少なくとも罰金刑でしょうが、それ以上もあり得るのかなと思います。見方によっては、弁護報酬相当額を騙し取ったのと同様だと言えないわけではないわけですから、そうすると、科料というよりも、むしろ最低でも罰金、もうちょっと考えれば、もう少し上もあるかな、懲役刑もあるかなと思います。

○井上座長 詐欺に近いということですか。

○本田委員 そういう発想です。

○井上座長 分かりました。いかがですか、浦委員。

○浦委員 私は、審査資料についてはA案、それから正確性の担保方法はB案ということです。
 これは、全国的に共通な簡単な書式を作りまして、それに被疑者が記入するというふうな形での申告書を作成・提出させるということになろうかと思います。捜査機関が供述調書を作成するということになりますと、被疑者の黙秘権との関係からも問題が生じ得ると思います。さらに、弁護士につきましては、弁護士は被疑者の申告書の作成を援助する。例えば、先ほどから出ておりました国費による当番弁護士制度というのができるとして、弁護人が事前に接見した上で、申告書の作成を援助することはあっても、弁護人が供述録取書を作成して提出するというのは、そこまでやる必要はないのではないか。そのようにすると時間も相当かかる可能性もあります。
 また、正確性の担保ということについてでありますけれども、これは費用を負担させることで足りるだろう。取り分け、逮捕直後あるいは身体拘束直後の段階で書類の作成・提出を求められるわけですから、必ずしも正確に書くことができないという事態も十分考えられるところでありまして、そういうことを考えますと、それを罰則をもってしてまで正確性を担保しなければならないものか、その辺については非常に疑問がある。したがって、被告人に費用を負担させるということで足りるのだろうと、私は思っております。

○井上座長 ほかにはいかがですか。どうぞ。

○酒巻委員 いずれもA案が妥当だと思います。今、浦委員は罰則まではとおっしゃいましたが、虚偽申告による弁護役務の不正利得は、もし刑法を勉強し始めたばかりの学生に聞けば、2項詐欺だと言うかもしれません。そういう意味では、これはかなり悪質な犯罪だという見方もできないわけではないので、費用負担だけでは十分でないのではないか。もちろん法定刑も同じだとまでは申しませんが、被疑者に申告をしていただき、虚偽の場合には罰則と、この線が妥当ではないかと思います。

○大出委員 私は、アについてはA案でいいと思いますが、イについては、確かに今の酒巻委員のおっしゃるような見方というのはあり得ると思うのですが、ただ、さっき浦委員がおっしゃったように、どの場合を虚偽と言いますか、事実に反していた、それは事実に反していたという場合であったとしても、まさに騙そうとしたというようなことなのかどうかという判断はなかなか難しいだろうと思うわけです。何らかのサンクションが必要だ、つまり制裁が必要だというのは、多分担保方法が全くなくていいということにはならないのだと思いますけれども、罰金だとしてみても、その制裁によって、果たして正確性の担保というのは、それほど違うことになるのかどうかです。つまり、科料であれ、罰金であれ、払わせるということです。つまり、払わせるというのは、罰金との関係でいけば金額的には多分同じか、むしろそれよりも多くなる可能性が高いですね。つまり、費用を払わせるというような方法を取った場合に。

○井上座長 それは両方あり得ますね。費用の中身にもよると思うのですけれども。

○大出委員 ただ、どの程度かと言ったときに、実質的なところではそんなに違わないのではないかという感じがするわけですが、切り方として資力申告が事実に反していたというようなことを、どこまでどう具体的な形で考えるのかということにもよるのかもしれませんけれども、やはりB案で特に支障はないのではないかというふうに私なんかは思うのですが。

○本田委員 被疑者に報酬を支払う資力があるのに、ないとうそをついて、公的弁護を受けた場合、その費用を負担させるのは当たり前の話なのでしょう。それだけで正確性が担保できるかというと、そうはいかないだろう。だから、やはりそこは罰則が必要なのではないでしょうかということなのです。

○平良木委員 私は、アについて、A案が基本というのはいいのですけれども、そこに限定する必要はないだろうという気がしております。ただ、その後のサンクションとの関係で限定するということだとすると、A案になるだろう。しかし、実際に審査の資料として、捜査機関が作ったものでも構わないし、弁護士が提出したものでも構わないと、これもあり得るだろう。正確性の担保方法については、今の費用負担というのが、本田委員が言われたとおりの費用の負担だとすると、これはほとんど意味がない。もっと広い費用の負担、例えば何かの必要で移動したときの旅費とか、そこまでいろいろな費用が入ってくるのだとすると、これは場合によっては意味があるかもしれないけれども、通常、恐らく費用負担というのは、その事件に要した、例えば公的弁護人に支払う費用だとすると、これはほとんど意味がない。したがって、A案になるだろうという意見です。

○池田委員 アの方は、平良木委員の考え方と似たところがあるのですが、このB案、C案というのも、事務局案はA案を採った場合に、ほかに資料があれば使えるということは否定していないのではないかというふうに私は理解するのですが、そうではないのでしょうか。B案というのは、例えばAがなくても捜査機関にそういうものを作らせる、それだけを取るというのをB案としているように理解したのですけれども。

○落合参事官 そこのところは、第1順目では必ずしも明確には議論されていませんでしたので、今、この場で御議論いただければと思います。

○池田委員 基本的に本人に出させないと仕方がないだろうと思いますので、当然これはA案が前提となる。ただし、もし、ほかに資料があれば、それも資料とできるだろうと思います。
 それから、イの方については、やはりA案で申告書を必ず出させることになって、それを基本的なものにする以上は、正確性の担保のために制裁が設けられるのは当然だろうと思います。懲役刑というのは、そこまではどうかなと思いますが、今の手続法上、証人に関する罰則などにある罰金又は拘留というような、そういう程度ならあり得るのかなという気がします。

○井上座長 たたき台のA、B、C案と池田委員が言われたのとで、少し違ってくるかなと思いますのは、仮にBとかCを採った場合には、作成させないといけない、作成して提出させないといけないのですが、池田委員の場合は、Aはマストだけれども、BとかCのようなものがあれば、それは考慮していいだろうということですね。

○池田委員 そういう趣旨です。ですからA案になるのだろうと思うのです。B案、C案というのは、そういうものを作らせようということですね。ですからそこまでの必要は、やはりないだろうと思うのです。

○井上座長 樋口委員、いかがですか。

○樋口委員 A案でございます。やはり申告書というのは、自らが作成するのが基本ではないかなということです。
 ただ、少し想像を巡らしてみますに、この申告の趣旨や基準がよく理解できない者もおりますでしょうし、申告の趣旨をよく理解させた上で記載の正確性を、その時点でも確認等をするということも必要なのではないかというようなことも考えると、中立的な立場にある裁判官が勾留質問のときに、それも併せて資料提出を受けた上で、これを行っていただくというのが適当な制度ではないかなと思います。

○井上座長 委員からほかに御意見がないようでしたら、事務局からどうぞ。

○落合参事官 結論的には必ず解任されるということにはならないと思うのですが、正確性の担保方法で、資力についてうそをついていることが分かって、その結果、要件が欠けることが分かったということになったとき、弁護人は解任されることにならないのでしょうか。そこがどういう理屈なのか御議論いただければと思います。通常、公判段階でも資力を回復することはあるのですが、必要的弁護事件が大半なのでそのままなのかなという気もするのですが、どういう理屈でそのまま弁護人にとどまるのかということです。

○井上座長 要するに、要件がないのに選任してしまったという場合、選任行為自体が無効ないし取り消すべきものではないのかということですね。その点は、いかがですか。費用負担させるというのは、選任自体は有効で、かかった費用を払えということだと思うのですが、なぜ取消しの対象とか無効にならないのか。その辺はどうですか。
 学者の先生方に伺いたいと思います。

○平良木委員 理屈の問題として、そういう問題が出てくる余地はあるけれども、ただ身柄拘束は20日ですね。そんなところで解任までやるのかという感じがして、放っておいたっていいではないかという感じがしますけれども。

○井上座長 運用上問題にしないというのは、何か学者らしくない議論の仕方ですね。実務的にはそういう処理の仕方になるのかもしれないという気もしますが、その点は、やはり詰めて考えておかないといけない問題のように思います。

○浦委員 罰則とつながるとすれば、そこで新たに被疑者は別罪を犯したということになるわけですね。信頼関係がそれによってどういう形になるのかという問題も出てくるのかもしれませんけれども、少なくとも罰則と結び付かない限り、弁護人として行動は可能なのではないでしょうか。そこで取り消したり、無効にするまでの必要性は、仮に要件が欠けたとしても、そこまでは必要ないように思いますが。

○井上座長 理屈として、要件がないことをどう説明するかですね。

○浦委員 例えば、公訴提起された場合に弁護人はどうなるかという問題もありますけれども、公判の途中で分かった場合、そこでやめてしまうのですか。

○井上座長 被告人段階の国選と同じ要件であるとすれば、同じような問題が生じてきますね。

○浦委員 必要的弁護事件ならそのままになるのですか。それはよく分からないのですが。

○井上座長 必要的弁護事件でも、同じ問題は理論的には生じますね。選任行為自体が無効ではないかという話ですから。

○浦委員 そういう構成を取るからなのでしょうね。無効ではないという構成を取ればいいのではないですか。

○井上座長 だから、そういう構成を取れる理屈をお考えくださいということだと思うのですけれども、この点は更に検討課題ということでよろしいですか。

○平良木委員 違法の問題が出てくるのですか。

○井上座長 違法というか、要件がないわけです。

○平良木委員 要件がないというだけですね。

○井上座長 瑕疵ある訴訟行為ではあるのです。

○平良木委員 ですけれども、手続的に言うと、より丁寧なので、そこのところは、違法の問題は生じない、とにかく選任行為が適式に行われたので、それがある限りは選任の効力は続くんだということでいいのだろうという気もするのですが、逆なのかな。

○井上座長 被疑者とか関係者個人に害が及ぶような瑕疵の場合には取り消して、原状復帰しないといけないけれど、これはむしろ利益を及ぼしている、誤って利益を及ぼしているだけだから取り消す必要はないと、そういう理屈ですね。国とかお金を出している側には害は与えているのだけれども、それとの関係では取り消すまでの必要はないだろうということですか。

○平良木委員 はい。

○井上座長 それは一つの考えだろうとは思いますけれども。ここのところはそういう問題があるということで、よろしいですか。大体御意見が出たと思いますので、次に移らせていただきます。
 それでは、「(2)私選弁護人選任申出の前置の要否」、つまり、手続的に必ず私選弁護人を選びたいという申出を経なければいけないのかどうか、また、その他要件の審査を含むということですが、この点について御議論いただきたいと思います。ここでは、「ア 手続的要件としての私選弁護人選任申出の前置の要否」ということと「イ 審査資料」という論点が取り上げられているわけですけれども、これも関連しますので、一緒にまとめて御議論いただければと思います。いかがでしょうか。

○髙井委員 私は、これは立場が違うので意見を述べにくいのですけれども、私の立場は基本的には貧困要件だけということになって、私選の希望があった場合には、常勤事務所で強制的に受けるということになりますので、そうなってしまうとC案ということになろうかと思うのです。無資力要件だけで判断をする。したがって、こういう手続は必要がないということになるというか、とにかく私選の選任手続を頼んだら全部付いてしまうから、常勤事務所で受けることにすれば、もう戻ってくることはないということになるわけです。ですから、イの審査資料のA案、B案も必要がないということになってしまうわけです。

○井上座長 実体的要件だけで済むということですね。要するに、貧困要件と被疑者に現に弁護人がいないということで、公的弁護に戻ってこなければ、その2番目の要件ではねられてしまうということですね。

○髙井委員 はい。

○井上座長 ほかの皆さんは、必ずしもそういう前提に立っていませんので。

○髙井委員 私はちょっと前提が違うものですから。

○井上座長 本田委員、どうぞ。

○本田委員 その他要件は、やはり必要だろうという前提で考えているわけですけれども、そうすると、アについてはB案だろう。資力がなければ、要はそれで弁護人が付くわけですから、それ以外のときにはやはり弁護士会にきちんと選任の申出をしてください、それがきちんとなされたかどうかという審査資料については、それは弁護士会の方で書面を出していただくのが一番確実だろうということで、アについてはB案、イについてはA案ということです。

○井上座長 ほかの方はいかがですか。

○浦委員 この要件というふうなことで設定されているのは、これは、当番弁護士制度が前置されるということを前提にした議論ということで理解してよろしいのでしょうか。

○井上座長 それは当番弁護士制度の内容にもよると思うのですが、現在の当番弁護士制度ということですか。

○浦委員 現在のというか、とにかく弁護人が前段で接見に行くという、要請を受けて接見に行き、その段階で私選弁護人の選任の要否を確認するという、そういう手続を前提としたものと理解してよろしいのでしょうか。

○井上座長 今は、当番弁護士さんが行く場合と、行かない場合もあるわけですね。

○浦委員 当番弁護士は本人の申出によって出るわけですから、申出がなければ行きませんね。あるいは、一定の範囲については委員会派遣というようなことで、要請がなくても行く場合がありますけれども。

○井上座長 だから、必ずしも制度的な前提には、今はなっていないのではないですか。

○浦委員 具体的に、ここで想定されておる弁護士会を指定して選任の申出を行ったというのは、どういうふうなことを具体的に想定されているのですか。

○井上座長 先ほど落合参事官が説明されたのは、現行の刑事訴訟法78条にあるとおり、被疑者が身柄拘束されたときに、弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出たときは、身柄拘束している方としてはその弁護士会に連絡をしなければならないことになっていますが、その制度を念頭に置いたものだったと思うのですけれども。

○浦委員 正に当番弁護士制度はそこから発生しているわけで、当番弁護士制度とは別にお考えになるという理屈がよく分からない。

○井上座長 刑事訴訟法の制度はそういうものではなくて、弁護士会を指定して、私は弁護人を選びたいという意思を伝えれば、そのように連絡してもらえるということですよ。それと当番弁護士の派遣要請とは制度としては違う話で、現行刑訴法の制度はそういうことではないのですね。

○浦委員 ただ、今や当番弁護士制度というのは、刑訴法上の一つの手続的制度だというふうに理解してもいいかと思うのですけれども、その辺は座長との見解の相違かもしれませんが。

○井上座長 見解の相違ということではなくて、制度としては、当番弁護士に接見するということをしなくても、弁護士会に連絡してもらって弁護人を選任できることになっているわけですね。実際上多くの場合は、当番弁護士に会いたいという申出をすれば当番弁護士に来てもらえて、いろいろ説明してもらえ、その上で弁護人を選ぶかどうかを決めるというのが実態だということでしょうが、刑事訴訟法上の制度としては、弁護士会を指定して申し出れば、受任者がいればの話ですけれども、選任の手続を取ってもらえるという制度になっているので、当番弁護士の制度とは一応別なわけです。

○浦委員 ですから、それが正に当番弁護士として、今、現実に機能しているわけで、それが制度化されているというのが現状なのですね。

○井上座長 それは少し違うのではないですか。

○浦委員 いや、だからあえてそれをむりやりにカテゴリーをお分けになることの理由が私どもは理解し難いのですけれども。

○井上座長 私は、制度の話として申しているのであり、制度としては二つあって、当番弁護士制度というのは、当面法的助言を受けるために接見に来てもらえるというものであり、これは弁護人として来るわけではないですよね。

○浦委員 そうです。

○井上座長 ですから、それが当番弁護士制度である。これに対して、刑事訴訟法の制度として条文に書かれているのは、弁護人を依頼したいというときに、弁護士さん個人を指名するか、弁護士会を指定して申し出れば連絡してもらえる。これは選任のためにそういう連絡をしてもらえるという制度であるわけです。だから、制度としては別の制度なのです。無論、実際には、当番弁護士制度がどんどん成長してきているので、そちらの申出が恐らく多いのだろうと思うのですけれども、制度としては一応別である、そういう整理をしただけなのです。

○大出委員 ちょっと確認なのですけれども、だとすると今、現に機能している当番弁護士なり、当番弁護士の制度というものは、もちろん弁護士会がどうお考えかということはともかく、刑訴法としては78条があるわけですから、それによる申出を要件にするかどうかということでここは組み立てられているということですね。

○井上座長 たたき台は、そういうことだという説明であったと思いますが。

○大出委員 だとした場合に、この間、ここの場でも、当番弁護士を制度的に国選という形の選任の前に前置するということがあり得るのではないかという意見は、私も申し上げたつもりもありますし、髙井委員などからも出たように思うのですけれども、その辺の位置付けというのは、どこで議論するという話になるのですか。これとは全く関係ない、そういう議論が出ていたということは、このたたき台には反映されていないということになるのですか。

○落合参事官 その点のところは、私どものたたき台というのは、法制上の制度設計のためのものですので、法制上の制度に引き直すと、今の当番弁護士というのは、法制上の制度ではありませんので、それを法制上の制度に引き直すと78条というふうに整理できるということになります。

○大出委員 だとすると、今、座長がおっしゃったこととは少し違いますね。

○井上座長 違わないでしょう。

○大出委員 いや、78条の問題ではあるというふうに、今御説明になったと思うのですが。

○落合参事官 ですから、たたき台としては法制上の制度を書いたのであって、当番弁護士制度というのは、法制上の制度ではないので、それを法制上の制度として書くと、このようになるということです。

○大出委員 そうすると、今、浦委員がおっしゃったことは、正に法制上の制度として、今の当番弁護士制度というものを生かすような方策を考える、それがこの要件との関係で位置付けられてくるべきだと、そういう御主張になるわけでしょう。

○井上座長 たたき台の意味合いは、要するに髙井委員がおっしゃったように、個別に、例えば浦弁護士を頼みたいということで選任されれば、それは実体的要件のところで落ちるでしょうと。
 しかし、それ以外にも、固有名詞は挙がらないのだけれども、例えば第二東京弁護士会なら第二東京弁護士会に対して所属の弁護士さんを頼みたいのでお願いしますと言って申し出た場合に、弁護士会の方で探したが、手当てが付かなかったということを一つの要件として、この制度をつくるというのがA案なのです。今、おっしゃったのは、それとは別に、当番弁護士というものをそのままそこのところに組み込むべきだと、こういう御主張なのですか。

○大出委員 ですから、この手続的な要件として、私選と言うべきかどうかは分かりませんが、少なくとも弁護人の今の78条を前提とした枠で構わないと思いますが、弁護人の選任についての申出があったということを、どう弁護士会として受け止めるかという問題でもあるわけです。つまり、弁護士会に対して弁護人を付けてほしいという要請が来れば、今の弁護士会の対応態勢としては当番弁護士を派遣することになると思うのです。

○井上座長 それは本来の制度から見ると、少しずれているのではないですか。

○大出委員 だって弁護士会を指定して、弁護士の選任を申し出るというようなことであれば、個人に対して、例えば井上弁護士を、と言っても井上座長とは限りませんね。

○髙井委員 ちょっと私の名前が出ているので、私の意見の趣旨として、私は1順目のときに当番弁護士類似の制度の前置という考え方はどうですかということを言いました。それは、そのときのイメージとしては、無資力要件の審査のための方策としてそういうものを入れたらどうですかということを言ったのです。ですから、その段階で当番弁護士制度を組み込んだ制度を構想するということと、今のイのA案なのかB案なのかというところと次元が違う問題なのです。要するに、これはもう既に選任するつもりで弁護士会に依頼をするということですから、私が1順目で提案した制度よりももう一歩先に進んだ次元での手続ということになるわけです。

○本田委員 今、当番弁護士が果たしている役割というのは、我々はそれなりに評価しているわけですけれども、例えば今の刑訴の制度の中で、被疑者が弁護士会を指定して、弁護人を選んでくださいとやりますと、そのときに当番弁護士でないと駄目だという話にするのは、またおかしな制度だということを座長はおっしゃっているのだと思うのです。やはりそこは現行の刑事訴訟法の制度の中で考えておかないと、当番弁護士というものを法的な制度にしてどうするかというのは、大議論になると思うのですけれども、当番弁護士に登録していない人は、そこで照会が来ても全く事件を受けられないという制度になってしまうのかということもまたおかしな話だと思うのです。ここで今、そういう議論に深入りする気はないのですけれども、法制上の制度設計の場である以上、ここの議論としては78条の制度を前提にして議論していかないと、議論が錯綜してしまうだろう。一応ここはこのような議論でいいんではないかと思うのですけれども。

○大出委員 こういうことでいいですか。つまり、当番弁護士を制度的に前置するかしないかという議論は、別に議論をしていただくことが可能であるという判断でいいですね。

○井上座長 もう一度確認させていただきますと、今の制度でも、弁護士会を指定して弁護人を選びたいと申し出た場合、とりあえず当番弁護士を差し向けますという対応は恐らく制度の本来の対応ではないので、選ばないといけないのではないでしょうか。

○浦委員 受任義務がある場合には同じでは・・・。

○井上座長 いや、本来の制度としては、探してあっせんしてあげないといけないのでしょう。それが今の刑訴の制度だと思うのです。

○浦委員 だから、形式的に制度かどうかの問題ではなくて、これは論点として、弁護士会は国費による当番弁護士制度の前置ということを提案しているわけです。

○落合参事官 それは違います。

○浦委員 提案していますよ。

○落合参事官 前置とは提案していません。

○浦委員 前置ではないにしても提案している。ところが、それでは私は全体として言いたいです。このたたき台は、例えば法務省がプレゼンテーションで言われたことは細かく書いてあるけれども、弁護士会が提案した内容については全然書いていない、極めて一面的で偏頗ですよ、私はもともとそれを言いたかった。

○井上座長 ちょっと待ってください。だれが、あるいは、どこが提案したかということよりも、内容の問題ではないでしょうか。そういう意見が出たではないか、なぜ反映していないのかという御意見ですが、その点はどうですか。

○落合参事官 今、浦委員から日弁連の御意見として、国費による当番弁護士制度が提案されているのに、たたき台に載っていないというお話があったのですけれども、今の御意見は、確かに、前回のヒアリングで日弁連の方から出されているところではあると思います。日弁連のプレゼンテーションの資料・日弁連7-1の2ページ目の「Ⅳ 国費による当番弁護士制度」として出されているのですが、これは、公的弁護制度とは別個に、この制度独自のものとして提案されているということだろうと思うのです。
 そうしますと、意見書に書かれている選任・解任は裁判所が行う公的弁護制度とは別個のものなので、それは意見書にいう公的弁護制度とは異なるということです。

○浦委員 それは勝手な解釈で、今の公的弁護制度の中に組み込むという提案をしているはずなのです、そういうふうにお読みいただく必要があろうかと思います。今の落合参事官の御発言は、何か非常に形式的にはねられておるような気がするのですけれども、この検討会で論議されたことを正確にたたき台に反映して、それを論議し詰めていくというのであれば、当然これは当番弁護士を前置するという言葉が適切かどうかは別にして、考慮するということについては、何人かの委員から出たはずなのです、そして支持する意見もあったはずなのです。それについては無視されて、この検討会で全く議論されていない内容について、幾つか論点として挙げてられているというのは、これは非常に公正さを欠くと思います。私は、これは最初から言いたかったのだけれども、これはちょっと我慢していたんですが。

○井上座長 もう少し我慢していただけますか。議論されていない論点だとしても、そうではなくて制度を組んでいったときに、この点も踏まえてそこのところも議論しておかないと制度として何か抜け落ちるだろうと、そういう論点を拾うということは御確認いただいているところだと思うのです。
 問題は、浦委員が言ったように、そういう意見が出たではないかと、なぜ反映していないのかということなのですけれども、もう少し補足的に説明していただけますか。

○落合参事官 ヒアリングにおいて日弁連が導入を提言された「国費による当番弁護士制度」というのは、その内容を見ますと、逮捕・勾留された被疑者に法律で無料で弁護士に法的助言を受ける権利というのを保障して、逮捕・勾留された被疑者からの申出に、当番弁護士を派遣し、場合によっては申出がなくても当番弁護士を派遣するという内容だろうというふうに理解しておりますが、そのような制度は、意見書が言っております裁判所が選任・解任を行うという司法制度改革審議会の意見書が導入を提言した公的弁護制度とは異なる制度であると思います。
 したがいまして、公的弁護制度のたたき台には盛り込まなかったということであります。弁護士会が提出されたプレゼンテーションの資料には、前提にする、前置するとは書いていません。

○浦委員 その中に、弁護士会は三つ提案したはずなのです。無料で弁護士の助言を受ける機会を保障するということが一つ。もう一つは、私選弁護人へのアクセスを保障する。つまり、ここで言う私選弁護人を選任する資力があって、弁護人を知らない、そういう被疑者については、できるだけ私選弁護人を付していこうと。さらにもう一つは、国選弁護人選任請求権の行使の援助をする。そういう意味では、当然これは公的弁護制度の一連の仕組みの中の一部として日弁連が提案したはずなのです。それを勝手にそういう形で排除されているのは、私はとても納得いかない。

○井上座長 ただ、公的費用による当番弁護士派遣ということをそれ自体として取り上げるとすると、事柄の性質が違うという感じがするのです。それ自体としては、要するに、国費あるいは公費によって法的助言を受けるという制度を被疑者段階で制度化するということになるわけで、それは、被疑者の公的弁護制度というものを審議会意見書が提案しているのとは、性質の違う事柄であると思うのです。そういう意味で仕分をするという考え方は成り立つと思うのです。
 ただ、ここでの今の議論に引き直した場合、公的弁護制度を制度設計していく上で、要件をどうやって認定していくのか、それをどのようにして動かしていくのかというところで当番弁護士に何らかの位置付けを与える、つまり公的弁護制度と手続的にリンクした形で設計していくという、そういう御提案なら分かるのです。

○浦委員 そういう提案です。

○井上座長 そういう位置付けで御提案になるのなら、御提案なさってくださって結構だと思うのです。
 ただ、私も弁護士会の意見書を読ませていただきましたけれども、その趣旨は、それよりはずっと広いのです。つまり、当番弁護士制度の公費負担化そのものとして言っておられるので、そうだとすると、今申したように事柄の性質が違ってくるわけで、そこは違う位置付けをされているように見える。落合参事官は、そういう位置付けで整理されたのだと思うのですけれども。

○髙井委員 浦委員が怒られる気持ちも分からぬでもないのですが、要するにもともとこのたたき台というのは、議論の外延を規定しているものではないのですから、もし外れていると思えば、それは提案をすればいいわけで、怒られても余り生産的ではないと思うのです。
 仮に私が浦委員に成り代わって提案するとすれば、私が第1順目で提案しているということもあって、あえて言えば、今の浦委員が問題提起しようとした問題は、例えば私の問題意識に引き直して言えば、貧困要件の審査のときの審査方法として、当番弁護士類似の制度を導入することはできないのかという提案であれば、最終答申から外れるものではないというふうに思うのです。ただ、これは正確性の審査については、この罰則を設けることによって担保しようということで、今議論が進んでいるわけですけれども、ここでの議論の仕方としては、いや罰則を設けるだけでは足りない、あるいは罰則を設けるよりも、当番弁護士類似の制度を前置して、それによって審査させる、それによって正確性を担保させるという制度にした方がいいのではないかという提案の仕方はあり得ると思うのです。もちろんその提案の当否は議論されるべきだと思うのですけれども。

○浦委員 髙井委員の提案に加えて、この手続的要件としての私選弁護人選任申出の前置の要否というところでも、これは当番弁護士を前置というふうなことで考慮するということを考える、そういうことを私は提案したいと思います。そういう論点に是非していただきたいと思います。

○井上座長 具体的には、全件について、公費で、まず当番弁護士を派遣して、被疑者全員に面接するということを御提案なのですか。

○浦委員 具体的な制度設計については、御議論いただければいいと思います。

○井上座長 しかし、提案者としては、こういうふうな形で考えれば、公的弁護制度を実効的なものとして立ち上げていくために意味があるのだと、そういうことを具体的に示す責任があると思うのです。具体的にどういうことを御提案になるのかというのを示していただかないと、議論ができないのですから。

○浦委員 ここで言っておられる弁護士会を指定して弁護人選任の申出を行ったというのは、これは従来からの議論で言われている、私選弁護を原則とする、できるだけ私選弁護事件に、言葉は悪いですけれども、誘導するというか、そういうふうな要請があり、弁護人選任の要件としても、ある種のスクリーニングと言いますか、そういうことをここでされているのではないかと思うのです。
 したがって、そのスクリーニングの役割というのは、当番弁護士制度ということでも十分果たし得ると。つまり、資力があって弁護人を選任したいのだけれども、弁護士を知らないというケースの場合には、当番弁護士が出掛けて行って受任するということによって私選弁護になり得るわけですよ。

○井上座長 それは分かるのですけれども、国の制度として具体的にどういうことを御提案になっているのかということなのです。

○浦委員 ですから、初回の申入れがあった場合、初回の弁護人の接見について、国費を投入されて、それが公的弁護制度の一環として組み込まれるということです。日当が1万円なら1万円でもいいわけですけれども。

○井上座長 まだ、具体的に見えてこないのですけれども、要するに、刑訴法で弁護人を選びたいのだけれども、弁護士を知らないのだというふうに弁護士会に連絡があったときに、当番弁護士を派遣するということを制度として組み込むべきだと、こういう御提案なのですか。

○浦委員 ちょっと議論をさかのぼらせますが、刑訴法の78条に基づいて、この手続的要件という形で述べておられるのは、刑訴法78条の弁護人選任権を被疑者が行使するということを前提としているわけですね。

○井上座長 そういうことでしょう。

○落合参事官 そのとおりです。

○浦委員 78条における弁護人選任権を行使するということを前提とするということであれば、それは被疑者がそういう制度があることをすべて知っているということが前提にならなければいけないのでしょうね。これまでほとんど知られていないので、それから当番弁護士制度に発展したわけですね。ですから、それでは78条でできるということを被疑者段階で告知することになるのかどうかですが。

○落合参事官 それはそうだと思います。

○浦委員 それはそうだとおっしゃっていますけれども、正にそれが当番弁護士が果たしてきた役割のところだろうと思うのです。ですから、その辺を抽象的な皮だけを取り上げていくというのは・・・。

○井上座長 抽象的ではなくて、制度化するときにどういう制度を御提案になっているのかということをお聞きしているのですが。

○浦委員 ですから、被疑者から申出があれば、当番弁護士が前段として出掛けて行って、その段階で私選弁護に流れるものは私選弁護で受任していく、更に被疑者で資力のない者については、国選弁護人選任のための条件を整えるという役割があるのだろうと思うのです。

○髙井委員 それは78条と関係なくでしょう。78条に絡めるからおかしくなる・・・。

○浦委員 そうではなくて、78条というのは、これはすべての被疑者が知っているという前提の議論だと思うのです。78条による弁護人選任の申出を義務付けるかどうかということになるわけでしょう。

○髙井委員 だけど、そういう議論をすると混乱するのです。78条と関係なく提案されればいいではないですか。

○井上座長 整理させていただくと、仮に78条を前提にしてこういう組み方をした場合に、こういう申出を必ずしないと次の段階に進んでもらえませんということになれば、そういう申出ができるだけの条件を整えるということになって、それは正に告知だとかそういう話になっていくということだと思うのです。
 浦委員がおっしゃっているのは、そういうことではなくて、今、とにかく弁護士会に連絡してくるのは、当番弁護士を派遣してくれという申出ではないかと、そういうことでしょうか。そちらの方が知られていて、そうなっているのだと。

○浦委員 知られてと言いますか、今、正に刑事訴訟法の制度だと言ってもいいのではないですか。形式的には、刑訴法上の規定はないにしてもです。

○井上座長 お気持ちは分かりますけれども、今、制度論をやっているので・・・。

○浦委員 だから制度論ですよ。

○井上座長 そうだとすれば、制度論として具体的にどういうものを提案されるのですか、ということをお尋ねしているのです。

○大出委員 私も必ずしも明確にすべてを申し上げたわけではないので、組み込んでいただけなかったのかもしれませんけれども、私は、少なくとも当番弁護士を前置すべきであるという意見は申し上げたつもりでいたのです。
 確かに、今、座長が整理されたように、78条の問題なのかどうかというところでは区別する必要があるかもしれない。そういうような御趣旨は分かりましたので、だということであれば、今は78条を前提にして提案が行われているわけですけれども、78条を維持するかどうかということも含めて、その議論の余地は多分あるのだろうと思うのです。そういう意味で言うと、まず、当番弁護士という制度があって、その当番弁護士にともかく会いたいということであれば、つまり会えるというような条件、それは告知ということも含めてということになると思いますが、当番弁護士がある、それは無料で会って相談に乗ってくれるということで、その制度を組み込むということはあってもいいと思うのです。ですから、その場合には確かに別のルートで、つまり、並立で78条での申出もあれば、当番弁護士を頼むということもあり得るということでいくのか、それとも、多分、今、浦委員は、その場合にすべて78条を当番弁護士による接見というような形で置き換えて、そこで弁護人を私選で選ぶのかどうかということもスクリーニングするという機能をそこに持たせようという御提案だと思うのです。ですから、それは両方とも議論の余地があっていいというふうに私なんかは思いますので、ですからここのたたき台として出されたのは、確かに78条を前提とした意見だということですけれども、当番弁護士を前置するという制度構想もあり得るということで議論していただきたいと、そういう趣旨だと思うのです。

○井上座長 おっしゃっている、あり得るという制度の具体的な姿というのはどういうものなのですか、ということを伺っているのです。

○大出委員 分かりました。では、もう一度そこは敷衍させていただきます。

○髙井委員 いいですか。

○井上座長 どうぞ。

○髙井委員 私は、第1順目で、今、大出委員がおっしゃっているようなことを言っているので、そのときの私の構想を改めて少し説明させていただきます。
 まず、私の意見は、78条とは関係がない。要するに逮捕・勾留されましたと、その範囲を身柄事件全件とするか、法定合議事件とかいろいろありますけれども、仮に身柄全件ということで話をすれば、それについて手を挙げた人については、国費で、それを当番弁護士と言うかどうかは別の問題として、国費で弁護士を逮捕中に派遣する。そして、派遣された弁護士は何をするかというと、無資力要件の審査をする、それがまず第一義だと。その点で弁護士会の提案とは違うのですけれども、無資力要件が本当に満たされているかどうかを判断するか、資料を収集する。それから今言った78条の問題も含めて、手続的な基礎的なことは一応その弁護士が告知をする。そういう制度を運営主体が運用する。費用も運営主体から支給されるというようなイメージで提案したのが第1順目の私の話であって、78条と絡めて議論をするというのは、私は間違いだというふうに思っているわけです。

○井上座長 その場合に、資力要件は当然その後で判断するわけですね。ですから派遣する対象は、資力要件があろうとなかろうと、それは全員ということですね。

○髙井委員 そうです。手を挙げた人は全員というイメージなのです。

○井上座長 その報酬を公費で出すというのは、どう正当化をすればよいのですか。

○髙井委員 それは公的弁護制度の弁護人選任手続の補佐をする。要するに法律相談をするということではなくて、補佐をする。裁判所の事務的な作業で、そのときのイメージでは、報告書のようなものを書かせて提出させるというようなこともイメージとしてあったのですけれども、その範囲内に限って・・・。

○井上座長 そういう意味では公的活動をしているのだということですね。

○髙井委員 そうです。法律相談一般ではないということです。

○井上座長 そういうふうに具体的な姿で示していただかないと抽象的な議論になってしまうのです。今、髙井委員が一つの案を出されたのですが、いかがですか。

○浦委員 だから、その際に、資力があるが弁護人を知らないというその他要件があるというケースについては、弁護人を選任するという仕組みもその中に取り込めるわけですね。ですから、そうだとすれば、これまでのその他要件、貧困以外のその他の事由としてひとくくりにされておったケースについては、本来なら私選に流れるべきものは私選に流れていくであろう。そういうことでも今検討されている公的弁護制度の一翼を担うに足りるものになり得るのではないか。

○井上座長 そういう御意見であるということは分かりました。ほかの方はいかがですか。

○本田委員 要件の審査のためにだけ、あるいはそういう制度の告知のためにだけ公費で付けた当番弁護士というものの存在にどれだけの合理性があるのだろうかという気がします。今までは被疑者段階の公的弁護というのはなかったわけで、弁護人を選任できますよということは告知していましたけれども、それ以上のことは告知していなかったわけです。しかし、今度はそういうものが制度としてできれば、資力がなかったり、弁護人が選任できなかったりしたら公的弁護を受けられますよという告知をする制度を当然つくらなければいけないし、それが分かりやすいような制度というのをつくるわけです。お金はあるのだけれども、弁護人を選任できないというのだったらここにこうやって照会しなさいと、そうしないと制度自体が動かないわけですから、当然そういった制度というのをつくらないといけないだろうと思います。それがそこでうまく機能するのなら、それ以上に国費を出して、何万件になるのか知りませんけれども、そこまでする必要性があるのだろうかという気がします。少なくともその段階の議論というのは、審議会が言っている、裁判所が選任・解任する公的弁護とは全く別の制度ですね。

○髙井委員 私が第1順目で提案したのは、審議会の提案している制度と全く別ものではなくて、その枠内に収まるものとして言っているわけです。裁判所の選任を手助けする、補助すると。

○本田委員 補助するということですか。

○髙井委員 補助するという存在として位置付けていくわけです。それ以上のものではない。

○井上座長 そこの意見の違いは、そういう方法しかないわけではなく、いろいろ方法はあるだろうというのが本田委員の意見で、髙井委員の意見は、実効的に制度設計するとすればそういうものを組み込むべきだと、こういうことですね。仮に13万件を対象にしても、ということですね。

○髙井委員 できるかどうか、対応できるかどうかは別にしてです。

○井上座長 ほかの方はいかがですか。

○大出委員 今のを具体的に、私の発想も髙井委員にもちろん近いということで申し上げたつもりでいたわけですが、具体的に対応態勢等の問題もあって、いろいろと議論になっているわけですけれども、ともかくできるだけ早い段階から被疑者に対する弁護人の援助というものを保障しようという基本的な考え方自体は、意見書もそういう考え方で公的弁護制度ということを考えているというふうに考えられるわけですし、最終的に選任という形で裁判所が選任・解任をするというところを、実効的に、なおかつ、有効に制度として設計していく上で、その前段として、ともかく被疑者の資力の問題も含め、それから弁護の必要性の問題も含め、専門的な弁護の立場から判断をする、アドバイスをするということが、それを求めた被疑者に対しては保障されるという制度が設けられるということが、トータルな意味で公的な弁護制度というものを運営する上で有効に機能する基盤というものを提供することになるだろうというふうに私なんかも思うわけです。
 ですから、浦委員のおっしゃっているのは、確かに78条にそれを組み込むということも含めて御提案になっているようにも思うわけですけれども、そこは、私は別立てでも構わないのだと思いますが、いずれにせよ、要求があれば、ともかく1回、弁護士が選任要件の問題なども含めて相談に乗るという機会を保障するという必要が、制度の趣旨からいってもあるだろうというふうに私なんかは思うのですけれども。

○井上座長 そこが、性質の違う問題ではないかということなのですよ。審議会意見書は、そこまで提案しているわけではないでしょう。貧困等のために自分で弁護人を選べない人に公的な費用で弁護人を付ける制度を設けるべきだというのが審議会意見書が言っていることなので、事実上その前段階になることが少なくないとしても、被疑者から請求があれば弁護士が行って法的な助言を与えるということを公的な費用で保障すべきだというのは、性質の異なる問題ではないですか、ということを申しているのです。
 髙井委員の整理は、そういうものとして提案しているのではなく、貧困その他の理由によって自ら弁護人を選べない人に公的費用で弁護人を選任してあげるという制度を動かしていくために、その機構の一つとして当番弁護士を位置付けていくということが考えられるのではないか、ということなので、位置付けが違うのです。

○大出委員 私は、説明の仕方だというふうに思うのですが。

○髙井委員 私は、結構、その構想に個人的にこだわってはいるのですけれども、実務的にはそれをやれば、多分弁護士を頼むという人は減るのではないかと思うのです。機能として、私の見解は、狭い機能を果たすものとしているのですが、逮捕されて認めていて、被疑者も自分は大体執行猶予だなと思っているような事件で、1回弁護士が来て、そうだねと言われれば、それで十分です、私はもう弁護士要りませんというようになる可能性が私は結構あるだろうなという気もするのです。

○井上座長 今の御発言はどういう意味を持つのですか。だから結果として数が減るだろうということなのですか。

○髙井委員 そうです。だから結局費用もトータルで見れば減るのではないかという感触は持っているのです。

○井上座長 しかし、それは何か、会って気持ちを萎えさせて諦めさせるみたいなふうにも聞こえるので、制度論としてはどうかなという気もしますが。

○大出委員 私はそこまで言うつもりはないのですが、ただ実質的な機能として、確かに事件全体を考えたときに、ともかく弁護人の接見とアドバイスが一度あるかないかということによって、その後の展開が随分違ってくるということが現実にあるということはいろいろと聞いているところではあるわけです。
 ですから、それが本当に事件の減少にそれぞれの形でつながっていくかどうかは分かりませんけれども、先ほど私が少し前の議論のところで申し上げたのは、私もそれで絶対に事件を減らすことができるなんていうことを言うつもりはありませんけれども、しかし、現実にそこがスクリーニング機能を果たすということは十分期待できることであって、ただ全く弁護人の援助なしに、つまりさっきこの制度が要件をいろんな形で切っていって、それから事件を限定するということになったときには、結局事件を限定したときには弁護人の援助を受けられないで手続が進んでしまうということが起こり得るわけです。そういうことで考えれば、1回でも弁護士の何らかの形での援助があって、そこでのアドバイスというのが受けられるということになれば、その後に弁護人が必要ないということで公的弁護の選任ということにつながらなくても、それはそれで許容できるという場合があり得ると思うのです。

○井上座長 そこまで話を広げると、やはり性質が違ってくるのです。そういうことだと、ここで取り上げるべきマターなのかという先ほどの指摘に戻ってくるわけです。

○平良木委員 今の御主張でとどまるとすると、当番弁護士に公的支援をしてくれという主張とどこが違うのかということになってくると思うのです。だから、これは、公的弁護制度というものとの関連ということを意味付けていかなければいけない。髙井委員が言われたようにですね。そこがなければちょっとここでの論点に盛り込めないだろうという気が私もしますけれども。

○井上座長 そのもの自体を対象にして大議論をしなければならないという話になるわけです。

○樋口委員 議論が少し落ち着いたところで一言。言葉尻に反応するつもりはないのでございますけれども、弁護人選任権があるということの告知は、逮捕時における警察にとりましても最も重要な手続でございまして、これは確実に実施をいたしておりますので、その点を申し添えたいと思います。
 もう一つだけ言わせていただきますと、当番弁護士制度の今日果たしておられる非常に大きな機能の背景には、全国警察の理解と協力もあるということを是非御認識いただきたいと思います。

○井上座長 何か宣伝をされたような気がしないでもないのですが。

○大出委員 もう一度確認ですが、座長のおっしゃった趣旨は分かりましたので、その場合に、具体的にこの制度の在りようについて、髙井委員のおっしゃったような形で、少なくとも意見書の言うところの制度設計の中に組み込むという趣旨での提案であれば、改めて議論していただくことが可能だというふうに考えていいのですか、少なくともたたき台には載っていないわけですから。

○浦委員 それでは、私はもう少し整理したものとして提案させていただきますので、その上で御議論をいただけませんか。

○井上座長 その点については、消極の意見もあり得ますので、そのこともお含み下さい。

○浦委員 取り上げるかどうかについても、それは議論いただいていいと思いますけれども。

○井上座長 ここで議論している事項との関連で具体的に何を提案なさっているのか、よく分からなかったものですから、しつこく具体的にということを申し上げたわけです。どうぞ。

○落合参事官 火に油を注ぐようで申し訳ないのですが、当番弁護士制度がスクリーニングするという事実上の機能を営むというのは、よく分かっているつもりなのですが、当番弁護士制度を前置するということになると、その手続を経ないと前に進まないということだろうと思うのです。そうすると、そこを必須のものとする理屈は何なのかということも議論していただきたいと思うのです。しかもそこに公的資金を投入するということになると、そこのところをお願いします。

○浦委員 御趣旨は理解しました。別に火に油を注ぐようなことはございません。

○井上座長 それでは、元に戻って、私選弁護人選任申出の前置の要否という要件を設けるかどうかということ自体については、いかがですか。現行刑訴法の規定のような弁護士会に連絡してもらうというのか浦委員などがおっしゃっている当番弁護士を通じてというのかは別として、いずれにせよ私選弁護人を選びたいという申出をしないと次に進めないというふうにするのか、そういうふうにはしないのか、この点はいかがですか。
 髙井委員の御意見では、私選弁護があくまで原則で、公的弁護はそれを補完するものという位置付けでしたので、それを前提にすると、こういうことになるのかなというふうにも思われるのですけれど。

○髙井委員 そうですね。その他要件について、私の独特な見解を捨てて議論をすれば、当然これは前置をすると。それで駄目でしたという答えが返ってきてから国選に行くというのが当然だという結論になるわけです。

○井上座長 分かりました。

○髙井委員 でも、やはりそれは私選が原則であるという本則に立ち返って言えば、当然この手続を踏むというのは避けて通れないと思いますけれども。

○井上座長 特にその他要件が加わってきた場合ですね。先ほど池田委員がおっしゃっていたところに関連するのですけれども、池田委員いかがですか。

○池田委員 私は、やはりその他要件は残さざるを得ないのかなと思っているのですが、そうだとすると、何らかの形で必要なのですけれども、弁護士会には、その後の審査資料の問題がありますけれども、これを何らかの形で要求するとなると、時間がかかってしまうのではないかと。それによって何日間か弁護人を付けられない期間が出てきやしないかということで、実効性を保つには、早く弁護人を選任するため、ここは手続的なものは要求しないでもいいのではないかと思うのですけれども。

○井上座長 さっきおっしゃっていたことと矛盾しませんか。その他要件のところは難しいと・・・。

○池田委員 残さざるを得ないのですけれども、これによって、こういうような手続で疎明なり、そういう資料がないと次に進めないというのではまずいのではないか。ですから、せめてこの辺りは本人が言っていることを信用してあげてもいいのではないか。ともかく付いていないというのは、金がなくて付けられないというのとは違って信用してあげてもいいんじゃないかと、そういうように思うのですけれども。

○井上座長 そうすると、そこは今の国選と同じになってきますね。

○浦委員 それと、資力要件をクリアした人についても、例えばB案からいくと資力がない被疑者には、これを要しないということになっていますから、そうしますと、例えばA案の場合には、資力要件がなくてもこういう要件が必要になるような書きぶりなのです。

○井上座長 A案ではそういう書きぶりですね。

○浦委員 だから、少なくとも資力がないことがはっきりしている被疑者については、早く弁護人を選任をする必要があるのではないでしょうか。

○井上座長 B案ということですね。

○浦委員 少なくともB案のそこは必要になっていく。それ以外のその他要件の場合に、こういう手続を更に踏ませる必要があるかどうかです。私もなかなか結論が出せなくて、申し訳ない。

○本田委員 その他要件で、お金があるのだけれども、なかなか依頼をしたけど駄目だというのは、やはりそれなりの手続は踏まないと、なかなか国民の納得は得られないかなと思うのです。
 要は、先ほど時間がかかるというふうにお話が出ていて、確かに少し時間がかかるかもしれませんけれども、それは態勢の組み方の問題だろうと思うのです。逮捕段階の当初にすぐいろんな通信手段で弁護士会に照会をして、弁護士会の方は、それが来たらすぐ各会員に照会できるような態勢をちゃんと取っておいていただければ、少なくとも警察で逮捕したら48時間あるわけですから、公的弁護の始期をどこにするかという問題とも絡みますけれども、私は後ろの方と考えていますので、そこまでは少なくとも間に合うだろうと。だからそれは態勢の組み方だろうと思うのです。だから、そこはやはりきちんとしておくべきではないかという気がするのですけれども。

○井上座長 本田委員の御意見ですと、A案ですか、B案ですか。

○本田委員 先ほど申し上げたように、前置の要否についてはB案、審査資料についてはA案です。

○浦委員 審査資料のA案を採った場合に、「当該弁護士会においては受任する弁護士がなかった旨を明らかにする書面」、これはどんなものをお考えなのか、それも少し疑問なのです。これは、例えば20人や30人の規模の弁護士会ならいいのですけれども、大阪、東京なんかはどうするのですかね。だから、これも非常に現実性に欠けるような内容ですね。

○井上座長 結局、いなかったということを書くだけなのではないですか。

○浦委員 だから、そういうものが必要なのかどうかということになりますね。

○池田委員 いなかったという確認を取るだけでもかなり時間がかかりますからね。

○浦委員 かかりますね。

○池田委員 これが早い段階から付ける制度になればですね。日弁連も変わると言っておられるので、変わるのは間違いないと思うのですが、どうしても今はまだ、私には弁護士会に国選弁護の推薦を求めても回答が来るまでに何日間かかかるというのがあるものですから、これをやって本当にすぐに回答が戻ってくるのかなという気が、どうしてもするのです。

○本田委員 それはどこまで確認するかという話だろうと思うのです。制度的に、例えば、その期間に登録している弁護士さんに見せるとか、あるいは掲示板に掲示して、それを見て、いなかったら少なくとも希望する弁護士はいないと、照会の程度はその程度でいいのだと。それは全会員に一人ずつ個人的にやるといったら何か月かかるか分かりませんけれども、やはりそれはどこまで手続を踏ませるかと、それによってどの程度選任の正当性を担保するかという程度の問題だろうと思うのです。だから制度の設計の仕方によっては十分成り立つだろうと思います。

○浦委員 期間を区切るとか、そういうこともあるのかもしれない。

○井上座長 とにかく私選弁護の機会というか、それを行使してもらいましょう。それで私選弁護人が選べれば、それはそれでいいけれど、選べなければこちらに戻ってくるというのがA案なのでしょうね。C案は、そこまでは必要がないのではないか、あるいは現実的ではないのではないか。本人が頑張っても付けられないのだというだけでいいではないかというのが、C案ですね。それで、審査資料もB案ということになる、C案でいけばそういうことですね。
 それでは、一通り御意見が出たと思いますので、次の「(3) 選任要件の疎明責任」について御意見をいただければと思います。
 選任要件が存否不明であるという場合に、どうすればいいのかということですね。結局、ないとも言えない、しかしあるとも言えないという場合にどういうふうに判断するのかということだと思うのですけれども。どうぞ。

○髙井委員 これも私の独特の見解に従えば、また別の結論になるのですが・・・。

○井上座長 その見解でいくとどうなのですか。貧困要件だけで行ってしまうと。

○髙井委員 そうですね、貧困要件だけですから、存否不明の場合というのは、基本的にはなくなると思うのです。貧困要件だけであれば。

○井上座長 貧困要件がうまく認定できない場合はどうですか。

○髙井委員 だけどそういうことはあり得るのですかね。私はないのではないかと思うのです。申告してくるわけだから、そこに書くわけですね。あるという趣旨のことが書いてあるか、ないに該当することが書いてあるかのどちらかだと思うのです。

○井上座長 その場合、きちんと書いていなければ駄目だということですか。

○髙井委員 きちんと書いていなければ、後で罰則がかかるだけの話ですから、入り口の点では非常に明確だと思うのです。

○井上座長 疎明責任は被疑者にあるという考え方ですか。

○髙井委員 そうなるけれども、とにかくはっきりしている。不明の場合はない。

○井上座長 不明の場合はないけれども、被疑者に疎明責任はあるということですか。

○髙井委員 仮に不明の場合があったとすれば、それは被疑者に有利に判断するということにならざるを得ないのではないですか。

○井上座長 その他要件についてはということですか。

○髙井委員 はい。

○井上座長 この辺について池田委員はどうですか。判断しなければならない立場になるかもしれませんが。

○池田委員 そうですね。そこら辺をはっきりどちらかに、被疑者に有利にするのか、被疑者に疎明責任があるのだから立証できていないとするのかはっきりさせておいてほしいということを第1ラウンドでも言ったのですが。どちらに組み込むのが相当なのかとなると、やはり被疑者に有利にせざるを得ないのかなとは思っていますけれども、そういう運用になるということでいいのかどうか、皆さんの意見を伺いたいと思います。

○酒巻委員 頭の整理で聞くのですが、疎明責任というたたき台ですから、これは要するにどっちか分からぬときの話ですね。皆さんの今出ている意見は、どっちか分からぬときには、被疑者に有利に、つまり選任すると。

○井上座長 髙井委員の場合は、貧困要件については逆に働くのですけれども、要するに不明なものはないというお考えなのです。

○酒巻委員 髙井委員は、資力要件等にかなり明確な線があれば、どっちか分からぬということが余り起きないだろうという御意見だったのですけれども、ここでの話は、仮にどっちか分からないときの話ですね。

○井上座長 資力要件と、もう一つその他要件というのがあって、髙井委員の場合は、その他要件というのがないのですよ。

○酒巻委員 私は資力のことを専ら考えていたのですけれども、資力のことを考えれば、本人が一番知っているわけですから、普通の法律の考え方から言えば、それが疎明できなかった、どっちか分からぬ状態になったときには、その人に不利に働くというのが筋ではないのですか。つまり、要件はない方向に判断されると思うのですが、私の意見がということではなく、筋はそうならざるを得ないように思うのです。

○井上座長 自分の資産状況は分かっているはずだ、容易に出せるはずだと、そういうことですか。

○酒巻委員 はい。

○井上座長 その他要件についてはいかがですか。

○酒巻委員 それについては、ちょっと。

○井上座長 その他要件としてどういうものが立てられるかにもよりますね。

○酒巻委員 それによると思います。

○大出委員 資力要件にしてみても、先ほど言ったように、手取りで月々幾ら入ってくるというようなことが決まっていれば別ですけれども、そうではない場合について、さっき言ったように制裁を科するという前提は一応あるわけですから、そういう中で、それでも間違えてしまうという場合はあり得ると思うのです。あるいは分からないということもあり得ると思うので、そのときに不利益に処置をするということでいいのかどうかということになると、なかなか微妙だと思いますけれども。

○酒巻委員 微妙なのは分かるのですが、理屈がないような気がするのです。

○井上座長 間違えてしまうということと、自分で言えないかどうかというのは違う問題のように思うのですけれども。

○大出委員 つまり、どこに設定するかによって違ってくると思うのです。

○井上座長 例えば20万円と設定したときに、いや私は18万円か22万円か分からないと、こういうことですか。

○大出委員 そうです。そういうことはあり得ることですね。それで付けてもらえるか、付けてもらえないかと言われると、ますますそういうふうに言われるとうそを言うわけにもいかないし、具体的に幾らと言われたって答え切れないという場合が当然起こってくると思うのです。

○井上座長 それは、申告書以外にどこまでの資料を要求し、それに基づいて認定するのかにもかかわってきますね。申告書だけということになれば、それを信用するかしないかだけの話になってしまうので、少なくとも資力要件についての存否不明というのは、文面上はあり得ないということになるのかもしれません。何がしか収入はあるけれども正確に分かりませんというような場合しかない、ということかもしれません。この辺はしかし、本当に申告書だけでいいのか、その他一定の資料を出させるのか、あるいはだれかが調査するのかということとも絡む問題ですので、またその辺とも絡んで、更に御議論いただければと思います。
 次の「(4) 費用の一部の予納」という一つのアイデアなのですけれども、これについて御意見があれば、お聞かせください。言葉として、果たして予納でいいのかどうか、あるいは仮納付というような言葉がいいのか、その点は恐らく議論があろうかと思いますけれども、まず実体について議論をしていただいて、仮にこういう制度を取り入れるとすれば、それにふさわしい概念とか用語は何かと、そういうことで考えればいいのかと思います。そもそもそういう考え方自体を受け入れる余地はないということになれば、言葉の問題は要らないということになると思うのです。
 事務局からの説明にありましたように、積極の意見をお持ちの方は、できるだけ予納を命ずる場合の要件とか手続、あるいは大体どのくらい納めればいいとお考えなのか、それをどこに納めるのか。予納されない場合にどうすればいいのか。また、手続が終了したときに、納めたお金をどういうふうに取り扱うのか。そういうことについても踏み込んで、御意見をお伺いできればと思うのですけれども、いかがでしょうか。どうぞ。

○髙井委員 質問ですけれども、これは貧困要件を満たしている人についてのことではないですね。

○井上座長 いかがですか。

○落合参事官 両様あり得ると思います。

○髙井委員 貧困要件を満たしていても、30万円はないけれども10万円はあるという場合も想定しているわけですか。

○井上座長 金額の設定によっては、1万円ということもあるかもしれませんね。

○髙井委員 そうですね。

○井上座長 いかがですか。どなたが言われたのか、よく覚えていないのですけれども、確かにこういうアイデアが出されたことは間違いないですね。

○髙井委員 第1順目で私が言ったかもしれないので、これは飼い犬に餌をやるために、国選弁護人を頼もうという人を排除したいというところが根底にあるわけですね。もう一つは、樋口委員が先ほど言われましたように、本当に真剣に国選を求めている人と、そうではなくて求めている人と両方いるわけで、真剣に求めないと駄目だというか、なるべく真剣に求める人をスクリーニングするためには、少しぐらい身銭を切っていただいた方がいいのではないですかということなのです。ですから、そういう観点から言うと、例えば金額はなかなか難しい問題なのですけれども、一部予納というか、納めさせる、国選ではあるけれどもただではないという制度の仕組み方はあるのではないかと思うのです。

○井上座長 貧困要件だけに絞るという御意見とどう結び付いてきますか。

○髙井委員 そうですね、そこが今、私が第1順目のときに提案をしたということで、その責任を取って議論に参加しているわけで、理論が若干変わってきていますから、なかなか整合性を取るのは難しい部分もあるのかもしれませんけれども。

○井上座長 仮にその他要件というところまで広げた場合はどうですか。

○髙井委員 だったらこれは必須だというふうに思いますね。金はあるのだけれども、自分が嫌われて弁護人が付いてくれないわけですから、それは少しぐらい金を出しなさいと。そういうのは必須だと思いますね。

○井上座長 貧困要件の場合は要求しないけれども、その他要件の場合には要求するということですか。

○髙井委員 ただ、貧困要件と必ず両立しないのかと言うと、貧困要件だけだという私の独特な立場に立ったとしても、幾ら貧困でも原則的にはゼロは駄目だと。本当に何も持っていない人はいいのですけれども、多少持っているのだったらそれを出しなさいという話は当然出てくると思います。

○井上座長 先ほどもおっしゃったように30万円は持っていないけれども、10万円は持っているなら、その10万円は出しなさいということですか。

○髙井委員 はい。10万円を出すのだったら、私いいですと。どうせ認めているし、どうせ執行猶予だと、だからいいやという人が結構出てくると思うのです。

○井上座長 それを納めるのは、どこに納めるのですか。

○髙井委員 なかなか難しいですね、最終的には国に納めると。

○井上座長 今のお話だと、10万円なら10万円でも納めないと公的弁護人は付けてもらえない。貧困要件は満たしているのだけれども、納めないから付けてもらえない、こういうことですか。

○髙井委員 そうです。そうしないと意味がないですね。ですから、例えば非常に極端な半分思い付きみたいな話ですけれども、逮捕しますね。当然所持金がゼロの人もいるし、たくさん持っている人もいますね。逮捕されたときの所持金の何パーセントは納めなさいと。逮捕されたときの所持金がゼロの人は、また別途の考えがあるのかもしれませんけれども、何かそういうような仕切りの仕方というのはあるかなと思います。それがうまくいけば本当に犬のために国選を頼むという例は少なくなるのではないかというふうに思うのです。

○井上座長 私ばかり質問して申し訳ないのですけれども、その他要件の場合には一定額というのを決めてつくることはできるのですけれども、貧困の場合ですと、持ち金が幾らかによって納める額が違ってきますね。ゼロの人もいれば、かなり限りなく、髙井委員の基準ですと30万円に近い人も出てくる。それで制度として安定するのでしょうか。

○髙井委員 安定しないかもしれませんね。そうすると、例えば、一定額で、貧困要件の人は3万円だとか、かなり低い額だけれども、とにかくゼロは駄目ですというふうな制度にするというのは、一つの考え方だと思います。

○井上座長 分かりました。かなり無理をしてつくっていただいた案かもしれませんが、いかがでしょうか。

○本田委員 その他要件のときは、例えば基準報酬額をどうするのか、どうせ基準を定めなければいけないと思うのですけれども、それは全額事前に納めさせていいと思うのです。要するにお金は払えるわけですから。それをきちんと国の制度としてそういった費用は確保しておく。後で回収とか何とかの手間で紛争が起きるのは嫌ですから、それはきちんとやらせると。
 それから無資力要件のときですが、例えば、髙井委員の言われるような30万円を基準としますと、25万円は持っているけれども30万円はないから私選を頼めませんとなると、国選を頼まざるを得ないわけです。持っている25万円を全く自分のものにしていいのかというと、やはりそれは自分で負担できるだけのものは負担してくださいという考え方も当然あるだろうと思うのです。だから持っているのは25万円だと、それを出してください、10万円しか持っていない人は、では10万円だけ出してください、残りの分は国費で負担しますという考え方も十分あり得るのではないかと思うのです。
 制度が安定するかという話があって、一律にやった方がいいのではないかというお話もあったのですけれども、考え方としては、要するに自分で負担できないところを国で負担するのだということです。

○井上座長 お考えは、最後に負担を命ぜられる、それをあらかじめ供託しておくようなものだということですか。

○本田委員 要するに、訴訟費用の回収は大変ですから、あらかじめいただけるものはちゃんといただいて確保しておくということです。

○井上座長 分かりました。

○大出委員 そうすると、この費用が振り込まれるとか、あらかじめ指定されたところに払い込まれないと、選任の効力は発生しないという形になるわけですか。それこそ時間的余裕というのがあるのかどうかという問題ですね。

○本田委員 それはいろいろと制度のつくり方があると思いますけれども、わざわざ持ってきて払い込まなければ駄目だという制度にするのか、保全制度にするのか。

○井上座長 どの範囲でそういうものを算定していくのかということにもよりますね。現金で持っているというような場合は比較的簡単でしょうけれども。どうぞ。

○酒巻委員 私は、大出委員がおっしゃったような技術的な様々な問題が発生するのがどうかなということと、やはり制度全体の基本の出発点が、お金のない人に国費で弁護人を付けてあげようということであったにもかかわらず、悪用する者がいるだろうということを想定した、あるいは後で払えたのに払わない者が出るということを想定して、貧困要件を満たす者から金を予納までさせるのはちょっと行き過ぎという気がしております。これはなくてもいいのではないかというふうに、余り理論的ではありませんが、そう思っております。予納の制度趣旨は、今、取れるものがある場合には、あらかじめ取っておこうという趣旨であることは分かるのですが。

○井上座長 あらかじめ押さえておこう、保全をしておこうということですね。

○酒巻委員 どうも、そこが引っかかるところであります。

○井上座長 分かりました。恐らくそういう両様の考え方があるだろうと思いますが、ちょっと時間が押していますので、もう一つだけやっておきたいと思います。
 「4 関連問題(被告人に対する弁護人の選任要件及び選任手続)」ですが、これは被疑者段階の選任要件及び選任手続を整備するということに伴って、現行の被告人段階の制度についても要件及び手続を整備する必要があるのではないかという問題で、そういう御意見もあったように思います。この点について、選任要件と選任手続とを分けずに引っくるめて、御意見があればお伺いしたいと思います。
 先ほどの池田委員の最初の方の実体的要件のところでの御意見ですと、現在は緩やかに運用されているので、被疑者の段階については、少なくともその他要件のところは明確にし、あるいは限定すべきではないかということだったのですが、もしそういうことが可能だとした場合、被告人の段階についてもそろえるべきだという御意見ですか。

○池田委員 被疑者段階で弁護人が付いた人の多くは、被告人段階でそのまま持ち越しになるということを前提とすると、そこで資料は出ているのかと思いますので、今よりは確かに明確な運用はできるかなとは思います。けれども、その手続的な要件を同じようなものにしたとすると、在宅起訴された被告人については、またそこで申告書を出させるとか、あるいは弁護士会への照会をすることも必要になってきて、果たしてそれで本当にうまく手続上スムーズに流れるのかなという心配はあるのです。ですから、被告人段階は今のままでもいいのではないかという気がしているのです。特に必要的弁護について、そういう手続が必要だとなると、その場で今日の期日は弁護人がいないから、だれか別の弁護人を選任するということも必要になってくるわけですけれども、そういうこともできなくなってきてしまわないかと、そういう手続的な面でかなり問題が起こるのではないかと思います。
 基本的には、最終的な訴訟費用の負担ということで賄えば足りるのではないかというふうに思うのですけれども。

○井上座長 御質問したのは、最初の実体的要件のところで、現在は緩やか過ぎるので絞るべきではないかとおっしゃったものですから、仮に身柄拘束された被疑者につきそこを絞るとすると、それよりも広い範囲の、在宅の人も含めて、要求すれば弁護人を付けてもらえるという被告人段階の国選の場合について、絞らなくていいということに果たしてなるのかどうかということだと思うのですけれども。必要的弁護についてはおっしゃったような問題があるとは思いますが。

○池田委員 確かに、そういう問題が起こってきますので、被疑者段階で絞れば、同じように被告人段階だって絞らないといけないではないかという議論に当然なるわけです。その場合に、今よりも手続上支障が生じて審理を遅延させないかというところが少し心配だということです。

○井上座長 認定ないしそこを審査するために余分な手続が必要になるかもしれない、そうすると支障が生じるのではないかと、こういうことですか。

○池田委員 はい。

○井上座長 分かりました。ほかの方はいかがですか。どうぞ。

○本田委員 必要的弁護事件については、いずれにしても選任しないと法廷が開けないわけですから、いろんな手続をやったって余り意味がないので、これは従前どおりでいいのではないかと思うのですけれども、やはり任意的弁護事件については、被疑者段階と被告人段階を別にやるのだというのはなかなか理屈が通らない。先ほど池田委員の方からお話があったのですけれども、かなり緩やかに、もう少し言葉を悪くすればルーズに国選がやられているとすると、国費が相当被疑者段階まで注ぎ込まれるようになったときに、そういった運用というのは、本当に国民の理解が得られるのかという大きな問題があろうかと思います。
 確かに、若干在宅などにも手続が付加されるのですけれども、それによって全体の審理が遅れるというような、そんな大きな手間暇のかかる手続には恐らくならないだろう。照会するだけの話、告知するだけの話ですから、起訴状を送達するときに、その中に書類を全部入れて告知するようにするとか、いろいろな手続のやり方はあろうかと思うのです。
 例えば、被疑者段階では、こういうスクリーニングを受けて、手続を経て、起訴されて弁護士さんが付いているけれども、被告人段階では、そういうスクリーニングを全く受けないというのもバランスを欠くだろうということで、やはり任意的弁護事件については、被疑者の場合と同様に、こういった手続的なものというのを経るようにするのが妥当ではないかという気がしますけれども。

○井上座長 酒巻委員、どうぞ。

○酒巻委員 一言だけ。私は、必要的弁護については、資力審査をしても結局付けなければいけないので余り問題にならないと思うのですが、一つだけ気になるのは、今の制度では被告人の国選弁護人請求権というのは、憲法に書いてある憲法上の要請なのですね。これに対して、これから導入しようとしている被疑者の公的弁護は、憲法から直接ではなくて、その下で憲法の趣旨をより良く実現するための立法政策的な判断をしようとしているのですけれども、その点で被告人の国選弁護と被疑者の公的弁護との間に、違いがあるのではないかという気がしているのです。ただそれがこの問題にどう結び付くかという結論は、まだ私自身が整理できていないのですけれども、そこは少し考えなければいけないのではないかという論点の提示です。

○井上座長 もちろん枠組みは違うわけです。一般に理解されているところによれば、被告人段階については憲法に書いてあるので、そこに書いてある要件の範囲内というか、それを前提に制度をつくらざるを得ない。現行法の制度というのは、それに基づいているのだという理解だと思うのです。
 それに対して、今、我々が議論している被疑者の公的弁護は、立法政策としてつくる話なので、そういう意味では違うのです。
 ただ、貧困その他の理由により付けられないというのは同じ言葉なので、その中身をどう具体的に設計していくかということによっては同じになり得る。むしろ憲法で書いてあることの意味はこうなのだと、あるいはこういうふうに読んでも憲法に違反しないという制度設計というのはあり得ると思うのです。

○酒巻委員 そのとおりだと思います。

○井上座長 髙井委員がおっしゃった、被疑者の場合は貧困要件だけという考え方で行きますと、被告人の場合について、そのことの影響というものはどういうふうになりますか。

○髙井委員 これも全部常勤事務所で強制的に受けるわけですから、余り変わらないと思います。おかしいかな、変わらないと思うのだけれども。

○井上座長 要するに、その他要件というのはなくなってしまうのですか。

○髙井委員 ないのですから。その他要件を必要とするような場合が想定されないわけですから。

○井上座長 憲法には書いてあるのです。

○髙井委員 だけど付いてしまうわけですね。

○井上座長 付いてしまうから書いておいても意味はなくなると、そういうことですか。

○髙井委員 はい。

○井上座長 そこが非常に大胆ですね。どうぞ。

○平良木委員 余り現行の被告人のところは、いじるべきではないのではないかと思います。やはりアンバランスが出てくる、先ほど酒巻委員が言われたように、これは憲法の解釈、特に37条3項を前提とすると、被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを付するというようにかなり広く読み取る余地はあるはずなのです。そこのところを、いわゆる被疑者のところで絞ったからここでも同じように合わせないといけないというふうに結び付くことはないだろうと思います。
 それで、被疑者の段階は被疑者の段階として、公判の段階はこのままいじる必要はないのではないかと思います。

○井上座長 別の議論も成り立つと思うのですが、あえて追及しません。いかがですか、合わせるべきだという議論も成り立つ・・・。

○髙井委員 基本的には合わせるべきだと思うのです。憲法との関係がうんぬんされていますけれども、今、問題なのは、被告人国選の運用がルーズになっているというところが問題なのであって、憲法との関係が問題になっているわけではないのだと思うのです。
 ですから、今、ルーズになっているものをもう少ししっかりきちんと、本来の憲法が想定したような範囲内にとどめるというような制度にする。そのためにはやはり被疑者段階と統一したものにする。そういうことになるのではないかと思いますけれども。

○井上座長 それが、もう一つ成り立つと申し上げた議論の仕方なのですけれども、ここのところはその二つの考え方があり得ると思うので、更に付け加えることがあれば、どうぞ。よろしいですか。
 私として考えていた半分も進まなかったのですけれども、重要な事柄ですので突っ込んで御議論をしていただいて結構ですし、必要なのですけれども、全体の時間も限られているということも念頭に置いて、今後なるべく効率の良い議論の仕方をしていただくようお願いしておきたいと思います。
 それでは、残りの事項は次回以降ということにしますが、最後に事務局の方から連絡があるということですのでお願いします。

○落合参事官 数点申し上げます。今年の2月6日の司法制度改革推進本部顧問会議第9回におきまして、小泉本部長から、概要で次のようなお話がありました。
 「司法は、『高嶺の花』にとどまらないで、誰にとっても『手を伸ばせば届く』存在にならなければならない。そこで、法的紛争を抱えた市民が気軽に相談できる窓口を広く開設し、きめ細やかな情報や総合的な法律サービスを提供することにより、全国どの街でもあまねく市民が法的な救済を受けられるような司法ネットの整備を進める必要がある。」というものでございます。
 小泉本部長のこの御発言内容につきましては、当事務局において司法アクセス検討会及び公的弁護制度検討会を開催するなどして、この課題について必要な検討を行っているわけですが、今後具体的な措置について検討していくためには、この課題について国民の皆様にどのような御意見があるかを把握させていただく必要があると考えております。そこで、推進本部におきましては、司法ネット、これは仮称でございますけれども、その整備につきまして、広く国民の皆様からの意見を募集することとしました。具体的には、先日行いました意見募集とほぼ同様の方法で、募集期間は先月27日から6月30日までの予定でございます。
 併せまして、毎回申し上げておりますとおり、事務局では今般の司法制度改革につきまして、広く国民の皆様からの御意見を承っており、その目録を作成しておりますので、御希望の委員の方は適宜事務局にお申し付けください。なお、検討会の委員の方々で、国民の皆様の意見を直接御覧になりたいとの御希望がありましたら、本検討会の終了後の適宜の機会に事務局の方にお申し付けください。
 最後に、本検討会の第1回の会合の内容を記録しました録音テープに対する情報公開請求に関し、当該録音テープの不開示決定を一部変更する決定について御説明申し上げます。以前にもお知らせいたしましたが、本検討会の第1回会合の内容を記録した録音テープについての不開示決定に対し、異議申立てが行われ、情報公開審査会から、議事の公開の協議の部分は、不開示が妥当であるが、その他の部分は開示すべきであるとの答申がなされました。当本部におきましては、答申を踏まえ、3月12日付けで全部不開示とする決定を変更し、議事の公開の協議の部分を除き、開示する旨の決定を行いましたので、お知らせいたします。以上でございます。

○井上座長 それでは、これで本日の議事を終了したいと思います。
 4時間を超えてしまい、人間的な許容限度を超えているかなというふうにも思いますので、次回はもう少し短くしたいと思います。次回は、5月23日の午後1時30分からということですので、よろしくお願いいたします。
 どうもありがとうございました。
 

(以上)