- ア 公的弁護制度下における被疑者に対する弁護人の選任の始期(たたき台(1)第5、1関係)
- ○ B案にすべきであろう。逮捕段階と勾留段階とでは身柄拘束期間に相当な違いがある。ごく短時間の身柄拘束しか予定されていない逮捕段階よりも、一定期間の身柄拘束が予定されている勾留段階の方が弁護人を選任する必要性ははるかに高いだろう。実際的な理由として、逮捕段階という厳しい時間制限の中で、被疑者の請求、選任要件の審査、弁護人となるべき弁護士の確保、選任命令の発付など所要の事務を全国的に遂行することは、裁判所、捜査機関、弁護士会等の現実の対応能力からして難しいのではないか。そういうことを考えると、勾留審査の際に、裁判所が併せて選任請求の審査を行うとするのが現実的な選択肢であろうと思う。
○ 身柄拘束された者の基本的な権利を定めた憲法34条は、「抑留」、「拘禁」という言葉で、逮捕と勾留の区別なく弁護人を依頼する権利を認めている。身柄拘束期間の長短や種類は区別していない。この憲法の趣旨を受けて、立法政策としてではあるが、公的な被疑者弁護制度を設計するに当たっては、やはり身柄拘束の最初の部分である逮捕段階から請求権を認めるというのが、立法政策としては望ましい形だと思っている。
○ 逮捕段階の48時間というのは、実務では、1日ないし1日余りというのが実態のようである。現時点では、選任手続がどういう手順で流れるかということが明らかではないが、逮捕段階からの選任は、基本的には非常に難しいのではないか。
○ 実際の運用では、逮捕して48時間身柄拘束をするということはなく、1日あるいは1日ちょっとで送致されてくる。仮に逮捕段階で選任を認めても実際に機能するのか疑問である。また、逮捕だけで釈放される場合も結構あるのであるから、やはり逮捕段階と勾留段階とでは決定的な差があるのではないか。
○ 身柄拘束の最初の段階で、被疑者が弁護人の援助を受ける権利は大変重要であることは疑いのないことであるが、それを前提としても、逮捕段階で裁判官が選任するということが果たしてできるのかという実際的な制約から、やはり逮捕段階からというのは困難ではないか。
○ 実質論として、逮捕段階での弁護の必要性は否定できないというのが経験的な事実ではないか。もちろん数はそれほど多くはないかもしれないが、やはり弁護が重要だという認識は高まってきていることはあっても、必要ないという議論にはなっていないと思う。また、弁護士の対応態勢を考えた場合、確かに今の当番弁護士でも24時間ではなく48時間以内ということにしているということもあり、そういう対応態勢の中で可能かという問題であるということになるかもしれないが、やはり必要性を前提に対応態勢をつくってもらうということを考えざるを得ない。
○ 逮捕段階から弁護人が選任される制度にすべきであると思う。弁護の中身から言って、逮捕段階の弁護として大変重要なのは、勾留却下に向けての弁護活動であり、勾留請求に当たって、検察官や裁判所と折衝した上で、勾留請求を却下させたり、不当な勾留がなされた場合、直ちに準抗告をして不当な勾留を是正する。勾留段階で弁護人が選任されたのでは、そういう活動を直ちに行うことは難しいだろう。
○ 無資力要件について、被疑者にいろいろ質問して一定の形で証明させるわけであり、その手続に時間がかかるのではないか。逮捕段階で、その時間をとるのがいいのか、あるいは、48時間という時間をとった上でやるのがいいのかという問題があると思う。理想の形で言えば、逮捕段階ということを思わないではないが、やはり現実の問題としてどこの段階でやるのが一番いいかというと、勾留請求の段階で資料を集めて判断するというのが無駄がなくていいだろう。
- イ 公的弁護制度下における弁護人の選任の効力の終期(たたき台(1)第5、2関係)
- ○ 公訴提起がなされた場合については、A案。公訴提起されずに釈放された場合については、B案。家裁送致された場合は、A案が妥当であろう。基本的に身柄が解放されたときに効力が終わるというのが原則である。ただ、公訴提起がなされ、引き続き公判が開かれる場合には、公判段階の弁護人となるということである。
○ 公訴提起がなされた場合については、A案である。ただ、移審の時というのは若干問題があり、現行法上、移審の時期については上訴の申立時と理解されていて、上訴の申立時から上訴審の裁判所が国選弁護人選任の手続に入るまでの間に間隙があり、上訴申立てをした後、被告人が保釈を申請したいと思っても、弁護人の援助を受けられない事態が現にあり、そのような間隙が生じないような制度を考える必要があると思う。公訴提起されずに釈放された場合については、A案としないと、処分保留のまま釈放されたとしても、その後の捜査の進行いかんによってはどのような処分になるか分からず、場合によっては起訴される可能性もある。その後も弁護人としての活動ができないと被疑者の弁護人の援助を受ける権利を保護したことにならないのではないか。家裁送致された場合は、B案が望ましいと思う。少なくとも、A案的な考えを採るとしても、観護措置決定がなされた場合に、被疑者段階の弁護人が何らかの関与ができる制度が必要になるのではないか。
○ 公訴提起されずに釈放された場合について、大前提として身柄拘束された被疑者が対象者であり、その前提がなくなることとなる。また、処分保留で釈放された場合、事件処理がなされないため選任の効力が終わらないということになると不都合が多いのではないか。さらに、検察官の事件処理は、手続上は重要な決定ではあるが、裁判所の選任の効力が検察官の事件処理によって終わるということは制度としてはおかしいのではないか。
○ 少年事件において逆送される場合が制度的に増えてきており、家裁から更に逆送されるということを考えると、公的弁護から公的付添、そして公的弁護に戻るという形があっていいのかなと思う。
○ 少年事件の場合には、付添人がずっと同じ人であるということが大事だと思う。
○ 公訴提起がなされた場合は、A案である。移審の問題があったが、これは、被告人の国選弁護の場合と同じ問題であり、その空白をなくすような議論はあり得ると思うが、A案は、被告人の弁護と同じ問題を言っているのだろうと思うので、A案でいいだろう。公訴提起されずに釈放された場合は、B案。家裁送致された場合は、A案でいいのではないかと思う。
○ 公訴提起がなされた場合は、A案でいいだろうと思う。公訴提起されずに釈放された場合について、拘束の有無を基準とすることは一つの理屈だとは思うが、拘束したことによって生じている弁護の必要という問題との関係で最終的に判断されているのであって、単純に形式的な拘束だけの問題ではない。家裁送致された場合については、B案であり、そのまま継続的に弁護活動ができるということでないとやはり合理性がないのではないか。
- ウ 公的弁護制度下における弁護人の解任(たたき台(1)第5、3関係)
- ○ 国選弁護人の選任の法的性質について、これまでいろいろな議論があり、かつて国選弁護人の辞任の可否を巡って大きな議論になった。当時の弁護士会は、正当な事由がある場合のほかは、辞任すべきではなく、正当な事由がある場合には、弁護士会が速やかに後任の弁護人を推薦すべきであるということにした。問題があったのは公安事件であったが、一般の事件でも、弁護人から被告人との信頼関係が失われた旨の申出をしても、裁判所から解任命令がなされず、国選弁護人の活動を続けなければならないという苦情が寄せられたことが時にはあった。そういう場合に、被告人や弁護人に国選弁護人の解任請求権を認めてはどうかという議論があって、その旨の意見を述べたものであるが、他方、そういう申出があった場合でも、弁護人が被告人との信頼関係を回復する努力をしないで解任を申し出るケースもあって、裁判所から見て、解任請求がわがままだと言われるケースもないではなかった。解任請求を認めるかどうかということではなく、現行のまま、被告人や弁護人から裁判所に解任の職権発動の申出があった場合に、裁判所に適切な対応をしていただくということで足りるのではないか。解任への弁護士会の関与についても、事実上、現在、裁判所は解任を弁護士会に通知されるし、場合によっては、解任の前提事実について事情を聴かれるということもあるようである。これについても、被疑者段階の弁護人の解任の問題が起こった場合、裁判所には分かりにくい点もあるはずなので、弁護士会から意見聴取していただくということがあってもいいと思うが、これを法文上、制度として組み込むということはなかなか法律論的には難しい問題があるように思われるので、事実上、そのような運用を是非お願いしたいという趣旨として理解していただければ結構である。
○ 解任請求権を認める必要はないだろうし、解任への弁護士会の関与を法律事項として定める必要はないだろうと考える。解任事由については、法律にきちんと定めておく必要があるのではないか。どのような場合に解任が可能かという定めがないと、解任に関する紛糾が生じてしまうのではないか。どういうことを解任事由にするかについては、今後更に検討しなければいけない部分が多々あると思うが、例えば、弁護人が心身の故障のため職務を遂行することができないときや、正当な事由がないのに公判期日に出頭しなかったり、在廷命令に反して退廷したときなどがあるかと思う。
○ 解任事由を今言われたような形で定めることには反対である。裁判所の職権の発動は、全状況を判断して解任命令を出すわけであり、個々具体的に解任事由を決める必要はない。現在、解任事由の定めはなくても、特に問題は起こっていないと思う。
○ 解任請求権や解任への弁護士会の関与を認めるべきではないだろうと思う。現在、被告人の国選弁護については、解任の規定がなく、選任の規定があるので、その反対として解任もできるというのが当然だと解釈されているわけであるが、被疑者段階だけ解任事由を定めるというのがどうかということもあるし、解任事由を書くと、選任のときにどういう人を選任すべきなのかということも同じように考える必要があり、解任されるような人はもともと選任してはいけないということにもなってきて、定め方も難しいし、特に解任で問題になったということはないように思うので、被疑者段階の解任事由を定める必要はないのではないかと思う。
○ 現段階で、解任事由を定めることについては消極である。裁判所の判断に任せればよいのではないかと思う。
○ 職権発動を促す申出という形ですべて解決するのだとすると、解任事由はなくていい。実際にある程度の基準のようなものができつつあるのではないか。
- エ 選任の効力が及ぶ事件の範囲(たたき台(1)第5、4関係)
- ○ 別の被疑事実で身柄拘束された場合については、A案。基本的に、別事件については事件単位に考えて、別途新たに選任命令を要するとするのが適当である。
○ 被告人国選の場合、併合決定という裁判所の行為によって選任の効力を拡大しているのであり、被疑者段階も裁判所の行為があった方が手続がはっきりしていいだろう。
○ A案で、例えば選任請求権の範囲について罪名による限定を付けた場合、対象外の事件で身柄拘束されると、弁護人はその事件の弁護ができないこととなる。当該被告人について、ある事件の弁護はできるが、ある事件の弁護はできない、私選弁護人になるほかないということになるが、いかがなものか。
○ 基本的にはA案だと思うが、仮に対象事件を限定するとした場合、後で逮捕された事件について請求権がないときは、厳格に解釈すると、最初に付いた事件について、被告人の弁護人として接見に行くことになり、そのときに後で逮捕された事件について相談を受けたときに、俺に聴くなとは実務上言えないだろう。そうなると、B案の方がいいんじゃないかということになるが、後の事件が共犯事件のときはどうかとなると、弁護人が付いている人は、請求権のない事件についても相談ができるのに対し、共犯者には請求権がないから弁護人が付かないということもおかしな話だと思う。そういう問題点があることを前提としつつ、A案、B案どちらかということであれば、手続の明確性ということでA案とせざるを得ないと思うが、どちらにしても、これは、実務上、非常にやっかいな問題である。
○ A案は理屈としてはそうだが、被疑者として相談したいだろうというとき、この事件については相談してよいが、この事件については相談できないというのはおかしいので、B案が被疑者の保護には優れているという感じがする。
○ 私選弁護人の場合、刑訴規則18条の2があるが、実務的に、追起訴事件は一緒にしないという申述をするときは具体的にはどういうときか。
○ 積極的に、別の事件では別の弁護人が選任されているというときだけではないか。
○ いくつかの訴因があって、それぞれ複雑な事件の場合に、事件ごとに、Aの事件はこの弁護士、Bの事件は別の弁護士にそれぞれ分担してもらう方が効率的だという場合もあるのではないか。そういう場合、裁判所が別の決定をするということを可能にしておくことに意味があるのではないか。
○ 裁判所が異なる決定をしたということがあるのか分からないが、そういう場合があればやむを得ないかという気がするが、そうでない場合は、当然一人の弁護人で行くというのが筋であろう。実際にそういう場合が想定されるのかどうかということであり、そういう場合はほとんどないという感じがする。
□ 併合の利益があるけれども、弁護人の担当は別々の方がいいという場合があるかどうかということだと思う。
○ それを裁判所の決定でということには問題があると思う。被告人又は弁護人の要請があればという形にしておくべきである。裁判所の決定で分担させるということでは、被告人を弁護するという立場からすると問題があるように思われる。
○ 私選弁護の場合には、被告人の意思というのが当然出てくるであろうが、国選弁護の場合は、裁判所の選任命令であるから、裁判所の判断ということでよいのではないか。