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公的弁護制度検討会(第9回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年5月23日(金)13:30~17:27

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 井上正仁座長、池田修、浦功、大出良知、酒巻匡、髙井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(事務局) 古口章事務局次長、落合義和参事官

4 議題
公的弁護制度について

5 配布資料
資料9-1 公的弁護制度について(2)
資料9-2 「被疑者・被告人の公的弁護制度の整備」に関する意見募集の結果概要

【浦委員提出資料】
「国費による当番弁護士制度」の骨子

6 議事

 議事に先立ち、事務局から、資料9-2に基づき「被疑者・被告人の公的弁護制度の整備」に関する意見募集の結果の概要について報告がなされ、また、本年6月5日午後4時から午後6時までの間、事務局において、「司法ネットについての有識者懇談会」を開催する予定である旨説明がなされた。続いて、議事に移り、冒頭浦委員から、日弁連等の主催で第8回国選弁護シンポジウムが開催された旨の紹介及び同委員提出資料の説明がなされ、同委員の提案については、前回(第8回)配布の資料8-1「公的弁護制度について(1)」(以下「たたき台(1)」という。)の「第2 請求による選任制度」の「3 被疑者に対する弁護人の選任手続」に関する提案として議論することとされた。
 議論の概要は以下のとおりである。(□:座長、○:委員、●:事務局)

(1) 被疑者に対する弁護人の選任手続(浦委員提出資料関係)

○ 「国費による当番弁護士制度」の国選弁護人選任手続における役割として3点挙げられているが、第1点の「その他要件による選任」の手続における役割に関し、「手続的要件」としての弁護人選任の申出は、私選弁護人選任のための手続であり、そのための費用を国費で賄う理屈が立つのか、第2点の「貧困要件」審査資料作成における役割に関し、選任請求権を告知し、どういう書類を作る必要があるかは裁判官が説明すれば足りるのではないか、第3点の裁量的職権選任制度における役割に関しては、制度の必要性について議論があるところであり、それを踏まえて考える必要がある。いずれにしても、資力を有する者も含めて、国費で当番弁護士の費用を賄うことに対して、国民の理解が果たして得られるのかという疑問がある。

○ 第1点の「手続的要件」としての弁護人選任の申出は、私選弁護人選任のための手続であるが、そのような手続的要件を定めるに当たっては、そのための対応を考える必要があり、迅速な接見を行うことが国選弁護人選任手続においても必要となるはずだと考えている。第2点の「貧困要件」審査資料の作成については、どういう資料とするかによって違ってくるとは思うが、罰則を設けるとの議論もあるので、弁護人が作成の援助をするということは十分理由のあることではないか。国民の理解については、当番弁護士制度それ自体について、国民の理解を十分に得てきていると考えており、公的弁護制度を導入するに当たり、日弁連が実施してきた自主的な活動をも公的弁護制度の中に取り入れることが非難を受けるということはないと思う。

● 公的弁護制度の選任手続に取り込むとすると、当番弁護士が接見しないと選任手続が進まないこととなるので、運営主体等が当番弁護士を派遣する義務や弁護士が接見する義務を課す必要があると思うが、どのような構成でそのような義務付けを行うかという問題があると思う。また、接見した当番弁護士が、国選又は私選の弁護人に選任された場合、接見日当等の費用の支払を受けられないとすると、突き詰めて考えれば、当番弁護士として接見した部分については無料ということになるはずであるが、国選・私選いずれの弁護人にも選任されなかったときには、なぜ無料の部分が有料となり、接見日当等の費用の支払を受けられることとなるのかという問題もあると思う。

○ 義務付けの問題については、義務付けられることとなるとは思うが、それをどのように組み込むかは、制度の組み方の問題だと思う。接見費用が無料かどうかというのは、現在の当番弁護士制度の運用でも、受任した場合には支払わず、接見費用は後の報酬の中に含まれているという理解をしている。

○ 私も、逮捕段階で、弁護士が接見するという制度を公的弁護制度の一部として導入すべきだという立場であるが、現在の当番弁護士制度を流用するとか、その延長線のものとは考えていない。

(2)職権による選任制度及び必要的選任制度の当否(たたき台(1)第3関係)

○ 請求による選任制度について、全勾留事件が対象となるべきだという前提で申し上げると、職権による選任制度は当然認められるべきだが、同制度を認めれば、必要的選任制度は不要である。職権による選任制度は、基本的には、B案でいいのではないか。ただ、選任請求するかどうかの判断能力が不十分かどうかをだれが判断するかという問題があり、派遣された弁護士が判断して報告書を作成し、それに基づいて勾留時に裁判官が判断するということでいいのではないか。

○ 必要的選任制度については、法律的に疑問があるので、C案に賛成である。必要的弁護事件とパラレルに、弁護人が付いていないという事態が生じた場合には、そこから先の手続を進められなくなるという効果が生じるのが必要的選任制度であろうと理解されるので、被疑者段階でそのような制度設計をすると、手続が動かなくなる、捜査手続に瑕疵が生じるという問題もあるので、そのような制度を設けるべきではない。弁護人の選任が必要的であるということと、それが手続に影響しないということが両立するという説明もあったが、法律論としては両立せず、論理的に一貫しないと考える。

○ 職権による選任制度については、意見書で障害者や少年などへの配慮ということもあるし、選任請求権の行使を補完するものとしてという論拠を考えると、B案がいいかと思う。必要的選任制度については、C案がいいと思う。A案、B案では、資力が十分にあるにもかかわらず、弁護人を選任しないという被疑者にまで弁護人を付する必要があるということであり、そのような立場は、弁護人がいなければ捜査手続の適正を図れないという立場に立っているという以外には説明が付かないと思うが、そのような説明に合理性があるとは思えないし、そのような立場に立つとすると、弁護人の不足等何らかの理由により選任が遅れた場合には、捜査手続を止めるなどの規制をすることに結び付くのではないか。捜査は、公判と異なり、わずかな遅れが、場合によっては取り返しのつかないことになりかねず、真相の解明に著しい支障が生じ、また、関係者の生命身体に危険が生じるということもあり得るのであって、これは明らかに公益にも反する。必要的選任制度を採らない場合であっても、捜査機関の責めによらない事由で弁護人の選任が遅れたようなときに、捜査手続にいかなる影響も及ぼさない旨の規定を置けないか検討する必要があるのではないか。

○ 必要的選任制度については、選任できない場合に手続を進められないと困るであろうから、制度として認めるべきではないと思う。職権による選任制度については、選任請求権を与える範囲との兼ね合いが問題で、勾留事件全部に及ぶということならさておき、その範囲が狭くなった場合には、弁護人による援助を受けられない者が出てくることになるが、勾留質問をしている裁判官として、やはりこの事件は弁護人がいた方が、被疑者の弁護人依頼権を十分保障することになるのではないか、その方が望ましいのではないかという場合がある。その範囲をどうするかというのは問題で、A案は被告人段階と同じ書きぶりであるが、被告人段階は、請求権が認められている場合であり、請求権が限られている場合に、それをはみ出して職権選任を認める場合をきちんと書けるかは難しい問題であるが、現実には職権でも付けたいと思う人がいることは間違いないので、そのような余地を残すべきではないか。

○ 仮に選任請求権を与える範囲に一定の制限をする場合には、請求権のない者にも職権で選任するという制度は必須だと思う。その場合には、単に年齢や知能の問題だけではなく、事件の筋を見て、特に否認事件で重要な証拠が自白しかないだろうというような事件などで弁護人を付けておいた方がいいと判断された場合には、職権により弁護人を選任する制度を絶対につくるべきである。

○ 必要的選任制度自体は不要だろうと思う。もしそのような制度を設けるとすると影響が大きすぎるという気がするし、実際問題として、そこまでの必要があるかというと疑わしいという気がする。職権による選任制度については、事件で、被疑者段階でも弁護人がいた方がいいと判断できるものが出てくる余地が残されており、裁判官が補完的に弁護人を選任してやる役割自体は否定できないのではないか。

○ 必要的選任制度については不要だと考える。職権による選任制度については、B案のような選任請求するかどうか判断能力が不十分な場合ということはあり得るであろうと思うので、これを後見的に担保するということは考えられると思うが、勾留質問という短時間の接触で的確に判断することができるかという疑問があるので、その辺りを慎重に検討すべきである。他方、A案であるが、これだけの基準で、弁護人を付すべきかどうか的確に判断できるのであろうかという気がしており、裁量の幅が広くて、基準が不明確であり、いかがなものか。

○ ある範囲で類型的に捜査の初期の段階で弁護活動が必要だということについては、いろいろな経験によって確認されてきていることだろうと思っており、制度的に必要的だということになったときに支障が生じるということであるならば、あきらめざるを得ないかもしれないが、それがなかったときにできるだけ広い範囲で弁護人の援助を受けられるような態勢をつくっておくということは、やはり否定しがたいところだと思う。

○ 必要的選任制度について、なおB案のような制度を設ける必要があるということを申し上げたい。このような一定の重大事件や否認事件等について、弁護人が必要であるにもかかわらず弁護人が付いていない事態ということがままあるところであり、当番弁護士制度の運用の実績からも、死刑が求刑されるような事件や重大否認事件でも弁護人の接見依頼がない例が多く見受けられる。その理由は、悔悟の情や死刑を願望するなど、いろいろあろうかと思うが、その場合に弁護人を付する必要性は極めて高いと思っている。時には、捜査官から、弁護人を依頼すると高額の費用がかかるとか、弁護人は不要であるなどと言われる例があるとも聞いている。そういう場合に、被疑者の請求の有無にかかわらず、国選弁護人を付す制度を当然考えておく必要があるだろうと思っている。必要的選任の意味について、公判段階の必要的弁護事件と同様の構造でないと法理論的に難しいのではないかとの意見があったが、制度の組み方として、弁護人を必要的に付けるという範囲で必要的ということであって、それが捜査の手続に影響を及ぼさないというつくり方も不可能ではないと考えている。また、職権による選任制度については、裁判所による後見機能を発揮してもらって、裁量的な職権選任制度を設ける必要があることも言うまでもないと思う。仮に選任請求権を与える範囲について、罪名による限定を付す制度設計となった場合を考えると、当然ながら、請求権のない被疑者も、職権による選任制度の対象となるということを考えなければいけない。

○ 法律論として、裁判官の裁量判断で弁護人を付けることができるという条文があったときに、後からあのとき裁判官が健全な裁量権を行使すれば、弁護人を付けられたはずであり、弁護人が付けられていれば、起訴猶予になっていたはずだと主張されたときに、どういうことになるかよく分からない。在るべき裁量権の行使というものがあるとすると、後から争われたときに、手続に影響を及ぼすようなことになりかねないような気もする。

○ 何もなく裁量だけということだとおそらく問題になってくる余地はあるが、一定限度で選んでおいて、足りないところを補完的にやっていこうという趣旨だとすると、その裁量権の行使が適切でなかったとしても、おそらく駄目だと言われることはないだろうという気がする。

(3)その他弁護人の選任に関する事項(たたき台(1)第4関係)

ア 選任できる人数(たたき台(1)第4、1関係)

○ 例えば捜査側が大捜査陣を敷いている事件で、弁護人が一人では難しい。特に、その事件が裁判員裁判事件である場合には到底困難であるので、一人に限るという考え方はできない。その場合、弁護人の申出で裁判官が判断をするというのが最も妥当であろう。被疑者に弁護人がどの程度必要か的確に判断できるとは考えられない。

○ C案の場合、被疑者が入っているが、B案の場合は、どうなるのか。B案は、職権発動を促すのであるから、だれでもよいのか。

□ 職権発動を促すのだから、だれでもよいではないかという考え方と、先に弁護人が選ばれているのだから、その人が判断して申出を行い、それに基づいて裁判官が判断するという考え方の両方があり得るのではないか。

○ 現在の公判段階の国選弁護制度の場合でも、複数選任については、裁判所と折衝するが、我々の印象としては、なかなか認めてもらえないケースが多いように思われる。例えば、3人でやりたいというときに、2人でやるよう言われたときにどうするかとなると、私選弁護人が選任されると国選弁護人は解任されるという扱いになっているので、あとの1人が私選でやろうとすると、全員が私選でやらざるを得ない。その場合、私選といっても、被告人は費用を出せないので、結局無料で弁護人が付くという事例が結構ある。複数選任の問題について、これまでの裁判所の扱いから見れば、C案のうち、被疑者に請求権を認めるのはいかがかと思うが、弁護人に請求権を認めるという構成はあり得るのかなと思う。少なくともB案とすべきである。

○ A案でいいのではないか。例えば私選弁護では弁護人を一人しか選任できない場合もあるのに、公的弁護においては複数の弁護人が選任されるというのは不均衡ではないか。C案は、複数の公的弁護人の選任を請求する権利を認めるとなると、要するに、私選弁護人が選任されている場合も含めて、更に必要な数の公的弁護人の選任を請求する権利を認めることになるのではないか。そうすると、弁護人を選任できない場合という公的弁護の基本的な原則と合致しないのではないか。しかも、弁護人が何人必要なのか事件ごとに確定していかなければならず、難しいという気がする。B案でも、例えば否認事件の中で、この事件は一人だが、この事件は複数ということを分ける具体的な基準はどこにあるのだろうか。公判段階で複数の弁護人が必要になる事案は、多数の訴因がある事件だろうと思うが、そういう事案が捜査段階でどうなるかというと、基本的には一つずつ事件を捜査していくことになり、そこで何人も必要だということになるのだろうか。税金で捜査段階にも国選弁護人を付するという場合に、複数の弁護人を選任するまでの必要性が本当にあるのかという気がする。

○ 被疑者についても、公的弁護人は原則として一人でよいというのは、そのとおりであるが、複数要るという場合が残るのではないかと思う。特に今回被疑者に対する公的弁護を被告人段階と一貫したものとすることを理想としているわけで、そのためには、被疑者段階から防御活動のための弁護活動が重要な事件もあるのではないか。

○ 捜査段階で一人で足りない場合があり得るだろうと思っている。接見を中心とする弁護活動の場合であっても、今の実情からすると、事件いかんによっては、一人では賄いきれない場合もあり得るだろうと思うし、弁護の遺漏なきを期するということでいけば、複数選任するということがあってしかるべきだと思う。その場合、弁護人の申出だけでいいのかということにも疑問があり、自分で選べれば別であるが、そうではないわけであるし、弁護人を代えてもらうということもあるかもしれないが、事件が複雑な場合に、被疑者から請求があるということもあり得ると思うので、その途を排除しなければならない理由はないのではないか。私選の場合に、一人依頼したけれども、資力との関係で、事件の内容からして一人ではできないという場合はあり得るので、一人依頼している以上は、付けられないという議論はむしろおかしいわけで、事件によっては、プラスして公的弁護人を一名付けることも議論する必要があるのではないか。

○ 国選弁護の場合、特別案件があって、複数の弁護人を付けなければならない場合が出てくるので、それと同じようなことがもし捜査段階でも出てくるのだとすると、一人でなければいけないという議論で制限してしまうのはいかがなものか。

イ 管轄区域と選任できる弁護士の制限(たたき台(1)第4、2関係)

○ B案が妥当であろうと思う。弁護士の配置が均等になっていないのであるから、それを有効に活用する上で、制限があっては有効な活用ができないので、管轄の制限は外すべきである。

○ 現状は窮屈すぎると思う。特に地域によって弁護士が少ないところも多く、この制限がはまっていると、公的弁護の手続がうまく機能しないのではないかという心配もある。

○ A案である。被疑者段階の公的弁護のために区域の制限なく付けなければならないという事態が生じるので、その範囲で、今の制限は撤廃せざるを得ないと思うが、刑事訴訟規則29条1項は、被告人段階の弁護の場合も同じことになるわけであろう。その辺りを考えると、それなりの合理性があって、29条1項自体を全部なくすという必要はないのではないか。

○ 私もA案でいいだろうと思う。なかなか対応できない区域については、常勤弁護士及び契約弁護士で柔軟に対応できるようにしておけばいいわけで、29条1項自体を廃止する理由はないだろうと考えている。

○ 全廃ということは問題かもしれないという気はしている。というのは、弁護士サイドの発想として、それぞれの地域単位で、それぞれの弁護士会が国選弁護事件を担当していくという原則はやはり必要となるかなという気もする。しかし、A案のように、常勤弁護士及び契約弁護士について例外を認めるというのでは余りに狭すぎると思う。隣接する弁護士が相互に助け合うということはあり得ることだと思っている。さらに、上訴審においては、むしろこの規定は邪魔になっており、その地域の弁護士でなく、もともと一審や控訴審を担当した弁護士がかかわるのがいいという場合もある。そういうことからすると、廃止はすべきだけれども、何らかの形で、その地域の弁護士からの選任を基本とできるような制度も考えておく必要があるのかなと思っている。

ウ 同一の弁護人による数人の被疑者の弁護の可否(たたき台(1)第4、3関係)

○ 捜査段階では、被疑者間の利害が相反するかしないかということがはっきり分からないということであれば、公判段階と事情が違うので、個別に選任するということになるであろう。一方、被告人の国選弁護も、利害相反の有無を判断するのは裁判が始まる前であるので、それほどはっきりしないのではないか。その辺りの実情はどうか。

○ 利害対立の判断については、捜査段階と公判段階とでは決定的に違う。公判段階では、筋が決まって、証拠関係もはっきりしている。公判段階も流動性があって、途中で変わっていくこともあるが、一般に、公判段階では利害関係が対立する、対立しないという判断がはっきりできる。ところが、捜査段階は、判断できるできないの問題ではなくて、実態として利害関係が動いていて混沌としており、そういう場合に利害関係が対立しているかどうか判断しろと言われても、およそ無理と言うべきであろう。原則論は、一人には一人とすべきだと思うが、そういう場合に数が足りるかという問題がある。地方で大規模事件が起きて被疑者の数が多いときに対応できるかという問題があって、例外規定は置く必要があるのではないか。どうしてもいろいろな事情で弁護士の数が足りないとか、あるいは、例外的に利害関係が対立しないことがはっきりしているという場合には、複数対応可能という途は開いておかないと実務が動いていかないという感じを持っている。

○ 例えば、集団密入国事件が地方で発生したという場合、利害相反ということはほとんど考えられない。そういう場合に、関連する数人の被疑者の弁護をできなくなると大変な数の弁護士をどこかから持ってこなければならず、合理性に欠けるのではないか。原則は被疑者ごとということになるが、例外は残しておく必要があり、現行の29条2項の規定でよいのではないか。

○ 利害相反かどうか捜査段階で判断が困難だというのはそのとおりであり、やはり一人の被疑者に一人の弁護人を付けておかないと後で困った状況が生じてしまう。対応の問題が出たが、やはり捜査段階では、利害相反しなかったものが供述状況が変わって、また相反したりということが想定されるので、そこは、常勤弁護士や契約弁護士で補完していくということを考えておくべきである。対応できないからというのであれば、対応できるような事件を対象にするしかないのではないか。

(4)公的弁護制度下での弁護人の選任の始期及び選任の効力の終期(たたき台(1)第5関係)

ア 公的弁護制度下における被疑者に対する弁護人の選任の始期(たたき台(1)第5、1関係)

○ B案にすべきであろう。逮捕段階と勾留段階とでは身柄拘束期間に相当な違いがある。ごく短時間の身柄拘束しか予定されていない逮捕段階よりも、一定期間の身柄拘束が予定されている勾留段階の方が弁護人を選任する必要性ははるかに高いだろう。実際的な理由として、逮捕段階という厳しい時間制限の中で、被疑者の請求、選任要件の審査、弁護人となるべき弁護士の確保、選任命令の発付など所要の事務を全国的に遂行することは、裁判所、捜査機関、弁護士会等の現実の対応能力からして難しいのではないか。そういうことを考えると、勾留審査の際に、裁判所が併せて選任請求の審査を行うとするのが現実的な選択肢であろうと思う。

○ 身柄拘束された者の基本的な権利を定めた憲法34条は、「抑留」、「拘禁」という言葉で、逮捕と勾留の区別なく弁護人を依頼する権利を認めている。身柄拘束期間の長短や種類は区別していない。この憲法の趣旨を受けて、立法政策としてではあるが、公的な被疑者弁護制度を設計するに当たっては、やはり身柄拘束の最初の部分である逮捕段階から請求権を認めるというのが、立法政策としては望ましい形だと思っている。

○ 逮捕段階の48時間というのは、実務では、1日ないし1日余りというのが実態のようである。現時点では、選任手続がどういう手順で流れるかということが明らかではないが、逮捕段階からの選任は、基本的には非常に難しいのではないか。

○ 実際の運用では、逮捕して48時間身柄拘束をするということはなく、1日あるいは1日ちょっとで送致されてくる。仮に逮捕段階で選任を認めても実際に機能するのか疑問である。また、逮捕だけで釈放される場合も結構あるのであるから、やはり逮捕段階と勾留段階とでは決定的な差があるのではないか。

○ 身柄拘束の最初の段階で、被疑者が弁護人の援助を受ける権利は大変重要であることは疑いのないことであるが、それを前提としても、逮捕段階で裁判官が選任するということが果たしてできるのかという実際的な制約から、やはり逮捕段階からというのは困難ではないか。

○ 実質論として、逮捕段階での弁護の必要性は否定できないというのが経験的な事実ではないか。もちろん数はそれほど多くはないかもしれないが、やはり弁護が重要だという認識は高まってきていることはあっても、必要ないという議論にはなっていないと思う。また、弁護士の対応態勢を考えた場合、確かに今の当番弁護士でも24時間ではなく48時間以内ということにしているということもあり、そういう対応態勢の中で可能かという問題であるということになるかもしれないが、やはり必要性を前提に対応態勢をつくってもらうということを考えざるを得ない。

○ 逮捕段階から弁護人が選任される制度にすべきであると思う。弁護の中身から言って、逮捕段階の弁護として大変重要なのは、勾留却下に向けての弁護活動であり、勾留請求に当たって、検察官や裁判所と折衝した上で、勾留請求を却下させたり、不当な勾留がなされた場合、直ちに準抗告をして不当な勾留を是正する。勾留段階で弁護人が選任されたのでは、そういう活動を直ちに行うことは難しいだろう。

○ 無資力要件について、被疑者にいろいろ質問して一定の形で証明させるわけであり、その手続に時間がかかるのではないか。逮捕段階で、その時間をとるのがいいのか、あるいは、48時間という時間をとった上でやるのがいいのかという問題があると思う。理想の形で言えば、逮捕段階ということを思わないではないが、やはり現実の問題としてどこの段階でやるのが一番いいかというと、勾留請求の段階で資料を集めて判断するというのが無駄がなくていいだろう。

イ 公的弁護制度下における弁護人の選任の効力の終期(たたき台(1)第5、2関係)

○ 公訴提起がなされた場合については、A案。公訴提起されずに釈放された場合については、B案。家裁送致された場合は、A案が妥当であろう。基本的に身柄が解放されたときに効力が終わるというのが原則である。ただ、公訴提起がなされ、引き続き公判が開かれる場合には、公判段階の弁護人となるということである。

○ 公訴提起がなされた場合については、A案である。ただ、移審の時というのは若干問題があり、現行法上、移審の時期については上訴の申立時と理解されていて、上訴の申立時から上訴審の裁判所が国選弁護人選任の手続に入るまでの間に間隙があり、上訴申立てをした後、被告人が保釈を申請したいと思っても、弁護人の援助を受けられない事態が現にあり、そのような間隙が生じないような制度を考える必要があると思う。公訴提起されずに釈放された場合については、A案としないと、処分保留のまま釈放されたとしても、その後の捜査の進行いかんによってはどのような処分になるか分からず、場合によっては起訴される可能性もある。その後も弁護人としての活動ができないと被疑者の弁護人の援助を受ける権利を保護したことにならないのではないか。家裁送致された場合は、B案が望ましいと思う。少なくとも、A案的な考えを採るとしても、観護措置決定がなされた場合に、被疑者段階の弁護人が何らかの関与ができる制度が必要になるのではないか。

○ 公訴提起されずに釈放された場合について、大前提として身柄拘束された被疑者が対象者であり、その前提がなくなることとなる。また、処分保留で釈放された場合、事件処理がなされないため選任の効力が終わらないということになると不都合が多いのではないか。さらに、検察官の事件処理は、手続上は重要な決定ではあるが、裁判所の選任の効力が検察官の事件処理によって終わるということは制度としてはおかしいのではないか。

○ 少年事件において逆送される場合が制度的に増えてきており、家裁から更に逆送されるということを考えると、公的弁護から公的付添、そして公的弁護に戻るという形があっていいのかなと思う。

○ 少年事件の場合には、付添人がずっと同じ人であるということが大事だと思う。

○ 公訴提起がなされた場合は、A案である。移審の問題があったが、これは、被告人の国選弁護の場合と同じ問題であり、その空白をなくすような議論はあり得ると思うが、A案は、被告人の弁護と同じ問題を言っているのだろうと思うので、A案でいいだろう。公訴提起されずに釈放された場合は、B案。家裁送致された場合は、A案でいいのではないかと思う。

○ 公訴提起がなされた場合は、A案でいいだろうと思う。公訴提起されずに釈放された場合について、拘束の有無を基準とすることは一つの理屈だとは思うが、拘束したことによって生じている弁護の必要という問題との関係で最終的に判断されているのであって、単純に形式的な拘束だけの問題ではない。家裁送致された場合については、B案であり、そのまま継続的に弁護活動ができるということでないとやはり合理性がないのではないか。

ウ 公的弁護制度下における弁護人の解任(たたき台(1)第5、3関係)

○ 国選弁護人の選任の法的性質について、これまでいろいろな議論があり、かつて国選弁護人の辞任の可否を巡って大きな議論になった。当時の弁護士会は、正当な事由がある場合のほかは、辞任すべきではなく、正当な事由がある場合には、弁護士会が速やかに後任の弁護人を推薦すべきであるということにした。問題があったのは公安事件であったが、一般の事件でも、弁護人から被告人との信頼関係が失われた旨の申出をしても、裁判所から解任命令がなされず、国選弁護人の活動を続けなければならないという苦情が寄せられたことが時にはあった。そういう場合に、被告人や弁護人に国選弁護人の解任請求権を認めてはどうかという議論があって、その旨の意見を述べたものであるが、他方、そういう申出があった場合でも、弁護人が被告人との信頼関係を回復する努力をしないで解任を申し出るケースもあって、裁判所から見て、解任請求がわがままだと言われるケースもないではなかった。解任請求を認めるかどうかということではなく、現行のまま、被告人や弁護人から裁判所に解任の職権発動の申出があった場合に、裁判所に適切な対応をしていただくということで足りるのではないか。解任への弁護士会の関与についても、事実上、現在、裁判所は解任を弁護士会に通知されるし、場合によっては、解任の前提事実について事情を聴かれるということもあるようである。これについても、被疑者段階の弁護人の解任の問題が起こった場合、裁判所には分かりにくい点もあるはずなので、弁護士会から意見聴取していただくということがあってもいいと思うが、これを法文上、制度として組み込むということはなかなか法律論的には難しい問題があるように思われるので、事実上、そのような運用を是非お願いしたいという趣旨として理解していただければ結構である。

○ 解任請求権を認める必要はないだろうし、解任への弁護士会の関与を法律事項として定める必要はないだろうと考える。解任事由については、法律にきちんと定めておく必要があるのではないか。どのような場合に解任が可能かという定めがないと、解任に関する紛糾が生じてしまうのではないか。どういうことを解任事由にするかについては、今後更に検討しなければいけない部分が多々あると思うが、例えば、弁護人が心身の故障のため職務を遂行することができないときや、正当な事由がないのに公判期日に出頭しなかったり、在廷命令に反して退廷したときなどがあるかと思う。

○ 解任事由を今言われたような形で定めることには反対である。裁判所の職権の発動は、全状況を判断して解任命令を出すわけであり、個々具体的に解任事由を決める必要はない。現在、解任事由の定めはなくても、特に問題は起こっていないと思う。

○ 解任請求権や解任への弁護士会の関与を認めるべきではないだろうと思う。現在、被告人の国選弁護については、解任の規定がなく、選任の規定があるので、その反対として解任もできるというのが当然だと解釈されているわけであるが、被疑者段階だけ解任事由を定めるというのがどうかということもあるし、解任事由を書くと、選任のときにどういう人を選任すべきなのかということも同じように考える必要があり、解任されるような人はもともと選任してはいけないということにもなってきて、定め方も難しいし、特に解任で問題になったということはないように思うので、被疑者段階の解任事由を定める必要はないのではないかと思う。

○ 現段階で、解任事由を定めることについては消極である。裁判所の判断に任せればよいのではないかと思う。

○ 職権発動を促す申出という形ですべて解決するのだとすると、解任事由はなくていい。実際にある程度の基準のようなものができつつあるのではないか。

エ 選任の効力が及ぶ事件の範囲(たたき台(1)第5、4関係)

○ 別の被疑事実で身柄拘束された場合については、A案。基本的に、別事件については事件単位に考えて、別途新たに選任命令を要するとするのが適当である。

○ 被告人国選の場合、併合決定という裁判所の行為によって選任の効力を拡大しているのであり、被疑者段階も裁判所の行為があった方が手続がはっきりしていいだろう。

○ A案で、例えば選任請求権の範囲について罪名による限定を付けた場合、対象外の事件で身柄拘束されると、弁護人はその事件の弁護ができないこととなる。当該被告人について、ある事件の弁護はできるが、ある事件の弁護はできない、私選弁護人になるほかないということになるが、いかがなものか。

○ 基本的にはA案だと思うが、仮に対象事件を限定するとした場合、後で逮捕された事件について請求権がないときは、厳格に解釈すると、最初に付いた事件について、被告人の弁護人として接見に行くことになり、そのときに後で逮捕された事件について相談を受けたときに、俺に聴くなとは実務上言えないだろう。そうなると、B案の方がいいんじゃないかということになるが、後の事件が共犯事件のときはどうかとなると、弁護人が付いている人は、請求権のない事件についても相談ができるのに対し、共犯者には請求権がないから弁護人が付かないということもおかしな話だと思う。そういう問題点があることを前提としつつ、A案、B案どちらかということであれば、手続の明確性ということでA案とせざるを得ないと思うが、どちらにしても、これは、実務上、非常にやっかいな問題である。

○ A案は理屈としてはそうだが、被疑者として相談したいだろうというとき、この事件については相談してよいが、この事件については相談できないというのはおかしいので、B案が被疑者の保護には優れているという感じがする。

○ 私選弁護人の場合、刑訴規則18条の2があるが、実務的に、追起訴事件は一緒にしないという申述をするときは具体的にはどういうときか。

○ 積極的に、別の事件では別の弁護人が選任されているというときだけではないか。

○ いくつかの訴因があって、それぞれ複雑な事件の場合に、事件ごとに、Aの事件はこの弁護士、Bの事件は別の弁護士にそれぞれ分担してもらう方が効率的だという場合もあるのではないか。そういう場合、裁判所が別の決定をするということを可能にしておくことに意味があるのではないか。

○ 裁判所が異なる決定をしたということがあるのか分からないが、そういう場合があればやむを得ないかという気がするが、そうでない場合は、当然一人の弁護人で行くというのが筋であろう。実際にそういう場合が想定されるのかどうかということであり、そういう場合はほとんどないという感じがする。

□ 併合の利益があるけれども、弁護人の担当は別々の方がいいという場合があるかどうかということだと思う。

○ それを裁判所の決定でということには問題があると思う。被告人又は弁護人の要請があればという形にしておくべきである。裁判所の決定で分担させるということでは、被告人を弁護するという立場からすると問題があるように思われる。

○ 私選弁護の場合には、被告人の意思というのが当然出てくるであろうが、国選弁護の場合は、裁判所の選任命令であるから、裁判所の判断ということでよいのではないか。

(5)次回以降の予定

 次回(6月10日)は、引き続き、公的弁護制度に関する検討を行う予定である。

(以上)