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公的弁護制度検討会(第9回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)

1 日時
平成15年5月23日(金)13:30~17:27

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 井上正仁座長、池田修、浦功、大出良知、酒巻匡、髙井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(事務局) 古口章事務局次長、落合義和参事官

4 議題
公的弁護制度について

5 配布資料
 資料9-1 公的弁護制度について(2)
 資料9-2 「被疑者・被告人の公的弁護制度の整備」に関する意見募集の結果概要

【浦委員提出資料】
 「国費による当番弁護士制度」の骨子

6 議事

○井上座長 それでは、所定の時刻ですので、第9回公的弁護制度検討会を開会させていただきます。
 本日も御多忙の中、御参集いただきまして、ありがとうございます。本日の議題に入る前に、御承知のとおり、事務局では、本検討会の各テーマについて、広く国民の方々一般を対象にして意見募集を行ったところですが、その結果について事務局の方から報告していただけるそうです。お願いします。

○ 落合参事官 それでは、事務局において行いました、国民の皆様に対する意見募集の取りまとめ結果について、御報告いたします。お手元にお配りいたしました資料9-2が、結果を取りまとめた資料でございます。
 前回の検討会でも申し上げましたとおり、「被疑者・被告人の公的弁護制度の整備」についての意見募集を、去る1月10日から3月20日までの間、司法制度改革推進本部のホームページ、新聞、法律雑誌及び政府広報誌等を通じて実施いたしました。その結果、国民の皆様から多数の御意見が寄せられ、総数は、郵便、電子メールを合わせて、150 件に達しました。
 お手元の資料は、寄せられた御意見の中から、公的弁護制度の整備に関連する部分を引用し、主要な論点ごとに整理をしたものであります。なお、意見内容を引用するに当たっては、誤字と思われる字を修正したほか、長文を要約し、又は部分引用にとどめたものがあること、また、意見内容の整理に当たっては、1通の中に複数の御意見が示されている場合には、それぞれの御意見を別個にカウントしていることもあること、その内容が同一又は同旨であると認められる御意見については、代表的な御意見を引用した上で、その余の御意見については、「同旨○通」と示すものとしたことを御了承いただきたいと思います。
 それでは、寄せられた御意見の内容について、ごく簡単に御紹介させていただきます。
 なお、前回の検討会におきまして、既に、たたき台(1)に関連する意見の概要を御紹介いたしましたので、今回は、それ以外の意見の概要を御紹介させていただきます。
 まず、公的弁護制度関係ですが、公的弁護制度の担い手である弁護士の確保方策に関しましては、被疑者に対する公的弁護制度、裁判員制度の下で予定されている連日的開廷による集中審理に対応するなどのためには、常勤弁護士・契約弁護士が必要だという御意見や、一般の弁護士が刑事弁護を担いつつ、これを弁護士会が設立した公設事務所に所属する弁護士が補完すべきであるなどの理由から、常勤弁護士及び契約弁護士の制度は設けるべきでないなどの御意見が寄せられました。また、常勤弁護士・契約弁護士等の規模につきまして、現在の国選弁護事件と同様に広範な一般弁護士が被疑者段階の公的弁護制度を担っていくことが当然の前提であり、一部の弁護士だけが担当するような制度設計であってはならないなどの御意見がございました。
 次に、公的弁護制度下での弁護活動の在り方に関しましては、国家権力の刑罰権行使に対抗して、被疑者・被告人の人権を守る弁護人は、その自主性・独立性が何より確保されなければならないとの御意見、自主性・独立性は原則的に尊重されなければならないが、一方では当該弁護士の固有の主義や信念での偏頗な弁護活動を展開されるおそれがあることを警戒すべきであり、当然そのような不当な活動に歯止めをかける意味から規律する必要があるなどの御意見がありました。
 次に、公的弁護制度下での弁護報酬の算定方法に関しましては、弁護活動の実態に即した弁護報酬とすべきであるなどの御意見がありました。
 また、公的弁護制度の運営主体に関しましては、意見書の趣旨に沿った運営主体が設立されることを望むなど、多様な御意見が寄せられました。
 また、検討会の論点に当てはまらない「その他」の御意見も多数ございましたが、それらにつきましては、資料9-2の第9を御参照ください。
 続きまして、公的付添人制度に関する御意見について御紹介いたします。
 まず、「公的付添人制度の意義、必要性、留意点」についての御意見でありますが、「少年事件の特殊性」に関しては、少年は成人に比べて防御能力に劣るとの御意見や、可塑性に富むなどの御意見が寄せられました。
 次に、「少年審判の構造」に関しましては、少年保護手続においても、適正手続の保障・正確な事実の認定は、少年の権利保障、保護・教育いずれの観点からしても極めて重要だとの御意見、検察官関与も限定されている現在の少年審判構造において、少年側にだけ格別の保護を加えるということでは、国民の理解を得ることは難しいのではないかとの御意見が寄せられました。
 「家庭裁判所調査官との役割分担」に関しましては、調査官との調査と相まって少年の更生に資することになるとの御意見、調査官の調査を補充するとの御意見、調査官には裁判所職員であることに基づく制約があるとの御意見などが寄せられました。
 「付添人の役割」に関しましては、要保護性に関する環境調整を行うとの御意見、適正手続を保障するとの御意見、被害者に謝罪し被害回復を行うとの御意見などが寄せられました。
 「付添人の給源となる弁護士の確保」に関しましては、法曹人口の増加に期待する御意見など、弁護士による公的付添人制度を要望する御意見が寄せられる一方、人間諸科学の専門家である公的付添人を設けるべきであるなどの御意見も寄せられました。
 そのほか、公的付添人制度と犯罪被害者への配慮との関係についての御意見など、様々な御意見が寄せられております。
 次に、「公的付添人制度の具体的な制度設計に関する意見」としましては、すべての少年に公的付添人を付するとの御意見、身柄拘束を受けている少年に公的付添人を付するとの御意見、裁量による選任制度を導入するとの御意見、必要的選任制度を導入するとの御意見など、様々な御意見が寄せられました。
 このほか、「少年の被疑者に対する公的弁護制度の在り方」につきまして、「公的弁護制度下における弁護人の選任の効力の終期」に関し、家裁送致時に終了するとの御意見、終了しないとの御意見などが寄せられております。
 以上、簡単ではございますけれども、御報告とさせていただきたいと思います。
 なお、意見募集の取りまとめ結果につきましては、司法制度改革推進本部のホームページにも掲載する予定でございます。また、毎回申し上げておりますとおり、事務局では、今般の司法制度改革につきまして、広く国民の皆様からの御意見を承っており、その目録を作成しておりますので、御希望の委員の方は適宜事務局にお申し付けください。なお、検討会の委員の方で、国民の皆様からの意見を直接御覧になりたいとの希望がありましたら、本検討会の終了後など、適宜の機会に事務局の方にお申し付けください。
 事務局から、意見募集の取りまとめ結果等については、以上でございます。

○ 井上座長 ありがとうございました。ただいまの説明について、何か御質問がございますでしょうか。よろしいですか。
 たくさんの御意見を国民の皆さんからいただきまして、この検討会の座長としましても、ありがたく存じております。これらの御意見をも参考にしながら、これから更に中身のある議論をしていければと考えております。
 これからの議論の中で、今、紹介していただき、また手元に資料として配られています御意見を参考にしながら、具体的な制度を検討していきたいと思います。
 もう一つ、事務局から、前回も御紹介いただいた司法ネットに関して報告があるということですので、お願いします。

○ 落合参事官 「司法ネットについての有識者懇談会」について御報告いたします。
 当事務局では、弁護士がいないなどのいわゆる司法過疎問題に対処するため、司法過疎問題を抱えている地方自治体の首長、同問題にこれまで取り組んでこられた弁護士を含めた法律専門職種及び地方マスコミ関係者と当推進本部顧問との懇談会を実施し、司法過疎の実情、地方の司法に対するニーズの実態、司法過疎解消のために地方自治体が講じてきた方策等について意見交換を行い、推進本部において司法ネット構想を具体化するにつき、国民各層にどのようなニーズがあるかを把握し、今後の立案の参考とすることとしております。
 具体的な日時・場所でございますが、6月5日の午後4時から午後6時まで、当事務局において開催する予定でございます。懇談会の出席者につきましては、現在のところ、片山善博鳥取県知事を始めとする有識者の方々、当推進本部顧問の方々、関係検討会の座長の方々などを予定しております。以上でございます。

○ 井上座長 今の説明につきまして、何か質問はございますか。よろしいですか。
 それでは、もう一つ、お手元に「公的弁護制度について(2)」というペーパーが配られていますが、これは、公的弁護制度のうちの公的弁護制度の担い手である弁護士の確保方策、同制度の下での弁護報酬の算定・支払、弁護費用の回収、弁護活動の在り方及び運営主体の在り方といった点に関するたたき台です。
 このたたき台の性格については、これまでも検討会で協議され、確認されているとおりです。
 たたき台についての事務局の説明ですけれども、まだ、前回の(1)についての議論の途中ですので、この(2)につきましては、(1)の議論が終わった後に説明していただくということにしたいと思いますが、よろしいでしょうか。
 それでは、本日予定された事項の議論に入りたいと思います。

○ 浦委員 実は、日弁連の方で、先日、国選弁護シンポジウムを開催いたしまして、その関係で一言発言をさせていただきたいと思うのですけれども、よろしいでしょうか。

○ 井上座長 日弁連の代表ということではなく、浦委員として、それについて紹介したいということでしょうか。

○ 浦委員 はい。

○ 井上座長 そういうことですが、よろしいですか。時間の関係もありますので、簡潔にお願いしたいと思います。

○ 浦委員 去る5月8日、大阪で第8回国選弁護シンポジウムが開催されました。この国選弁護シンポジウムは2年ごとに開催されることになっておるのですけれども、当検討会での論議の進行に合わせまして、先のシンポジウムから1年半足らずの間で開催されました。間近に迫った制度の実施に向けまして、「国費による弁護制度を担う」というテーマで開催されたものです。
 当日は、会員が602 人、その他会員外の方が86人、合計688 人の方の参加を得ました。また、遠方にもかかわらず、当推進本部、それから最高裁、あるいは法務省からも参加いただきまして、大変ありがたいことだと感謝しております。
 この国選弁護シンポジウムでは、制度構想の現状と課題、それから労力に応じた報酬水準と算定方法、可視化時代の弁護に向けた弁護の質の向上、対応体制の現状と体制整備の方策という、公的弁護に関する全体にわたる論議が行われました。
 しかし、その中でやはり中心は、身体拘束された全被疑者を対象とすべきだという日弁連の制度構想とのかかわりの中で、弁護士会の現在の対応能力をどういうふうに検証するのかということでした。
 以前に当検討会でもシミュレーションとして提出しましたが、全逮捕者の75パーセントに対応できるかということについて、各単位会のアンケートを行っておりました。その結果につきましては、本月21日付けの読売新聞の報道にもありましたように、確かに6割近くの単位会が対応に不安を感じているという評価をされるものでありました。しかし、前回の国選弁護シンポジウムでは、全逮捕者の30パーセントに対応するというシミュレーションにつきましても、対応可能だという回答は必ずしも多くなかったわけでありまして、それに比べますと、今回はむしろ4割の単位会が75パーセントに対応できる、対応可能であるという回答を寄せたことについては、身体拘束された全被疑者を対象とする制度の実現に向けた弁護士の意欲は大きく前進しているのではないかと考えられます。
 そして、対応が困難だとした6割の単位会につきましても、その多くは対策を講ずれば何とか対応が可能であると、そういうふうな回答をしております。対策としては、例えば、過疎地対策としてのひまわり公設事務所を設立する。あるいはリーガルサービスセンターの構想を活用した公設事務所を設置する。ブロック内協力を進める。既存事務所を活用して、刑事対応事務所の展開を図る。東京や大阪で具体化されつつある刑事対応の都市型公設事務所の設置を推進して、かつ、地方への弁護士派遣を推進するシステムをつくる。そのための人材育成に当たる。そういうふうないろいろな方法が挙げられます。そういうことが実現できれば対応が可能になるという意見が多かったわけであります。
 このシンポジウムの論議を踏まえまして、最後に、身体拘束されたすべての被疑者を対象とするために、弁護士会の対応体制についてアピールをいたしました。これは当検討会の委員の方にも当日の冊子とともにお配りさせていただいたと思いますけれども、その内容は、すべての会が平成18年4月の実施に向けまして、弁護士の増員を踏まえて、国選弁護を担当する弁護士をより一層確保した上で、制度の整備に積極的に取り組んで、単位会の実情に合わせて具体化していくというものでありました。
 今回の国選弁護シンポジウムを経まして、身体拘束された全被疑者を対象とした国費による弁護制度実現に向けた全国の弁護士の意欲は大いに高まっていることがはっきりしたと考えております。したがって、一定の対策を講ずることによって、その実現は可能だと確信しております。
 前回の検討会で、弁護士会には負荷をかければ前進を促すというふうな発言もございました。当検討会で弁護士会に対し身体拘束された全被疑者に対応するという負荷を課していただいて、是非ともその実現を図ることに努力したいというのが当日の結論であったと、私は思っております。
 以上です。貴重な時間をありがとうございました。

○ 井上座長 今、浦委員から御紹介いただきましたが、それも今後の議論の参考にさせていただこうと思います。
 本日も、議論の進め方としては、前回と同じように、たたき台の項目ごとに区切って、事務局の方から説明をしてもらい、その都度それに基づいて議論するということにしたいと思います。本日は、第3からですが、よろしいですか。
 それでは、第3について説明をしていただけますか。

○ 浦委員 私の出させていただいたペーパーでございますが・・・。

○ 井上座長 浦委員に御発言いただくならこの辺でと思っていたのですけれども、お申し出がなかったものですから、実はどうしたものかと思っていました。

○ 浦委員 失礼しました。前回の論議の経過を踏まえまして、本日、「『国費による当番弁護士制度』の骨子」について書面を提出させていただきました。その内容について説明させていただきたいと思います。

○ 井上座長 今、浦委員から、そういう御提案がありましたが、これについては、議事の進行との関係がありますので、取扱いを協議させていただきたいと思います。まず、事務局の方はどうお考えですか。

○ 落合参事官 国費による当番弁護士制度につきましては、前回、意見書の提言する公的弁護制度の枠に含まれる問題なのかどうかを巡りまして議論が行われました。
 本日の浦委員の御提案は、意見書が述べている公的弁護制度とは別個の制度として御提案されるというわけではなく、あくまでも意見書のいう公的弁護制度の一環として手続的にリンクした制度として御提案されるとのことだと思います。
 したがいまして、たたき台「公的弁護制度について(1)」の「第2 請求による選任制度」の「3 被疑者に対する弁護人の選任手続」での御提案として御検討いただきたいと事務局としては考えております。

○ 井上座長 そういう位置付けですけれども、よろしいですか。それでは、今、説明があったような位置付けを前提として、この提案を取り上げて議論するということにしたいと思います。御説明は、できるだけ簡潔にお願いできますか。

○ 浦委員 この制度の趣旨としましては、逮捕・勾留された被疑者から弁護人選任の申出があった場合に、弁護人の選任に前置するものとして、待機している当番弁護士を派遣するという仕組みを国費で運営する制度であり、私はこういうものを提案したいと考えております。
 経過につきましては、第4回検討会におきまして、複数の委員の方から逮捕・勾留された被疑者に対して弁護士が接見に赴いて、私選か国選かを確認したり、資力の有無について判断する制度、あるいは公的弁護制度の前提要件として、早急に当番弁護士を行かせる制度が必要かつ有効ではないかという意見が出されました。
 これに対しまして、座長からも被疑者の状況についての情報をどのように知るかは重要であるけれども、当番弁護士制度は事実上の制度なので、これを公的弁護制度の中にどう組み込めばよいかが問題であるとも指摘されておったところであります。
 このような経過の中で、2月28日のプレゼンテーションにおきまして、日弁連から国費による当番弁護士制度の導入が提案されましたが、それは第一義的に身体拘束された被疑者に弁護士の助言を受ける機会を保障するという刑事の法律相談と位置付けられておりましたために、日弁連のいう国費による当番弁護士制度というのは、公的弁護制度の論議の外側にあるということで、論点整理の中に盛り込まれなかった経過がございます。
 そこで、私としましては、この国費による当番弁護士制度は、公的弁護制度の有効かつ円滑な運用に資するものと考えますので、これを公的弁護制度の中に是非組み込んでいただきたいということで、本提案に至った次第でございます。
 国費による当番弁護士制度を弁護人の選任に前置することの意義は、次の点にあります。
 まず、第1点は、いわゆる「その他要件」による選任手続における役割であります。事務局のたたき台(1)では、弁護人の選任手続としまして、「私選弁護人選任申出の前置の要否、その他要件の審査を含む」という項の下に、手続的要件として、「私選弁護人選任申出の前置の要否」という論点が示されました。そして、この点につきましては、前回の検討会での論議におきまして、弁護士会を指定して弁護人選任の申出を行ったが、弁護人が選任できなかったということを手続的要件とすべきか否かが論議されたわけであります。
 被疑者は、弁護士や弁護士法人を知らなくても、刑訴法78条に基づきまして、弁護士会を指定して私選弁護人の申出をすることができるわけですから、「その他の事由」により弁護人を選任することができないという要件を満たすためには、弁護士会を指定した弁護人選任の申出を行ったけれども、弁護人を選任できなかったということを手続的要件とすることは十分考えられるところであります。
 ところで、現在、弁護士会が行っております当番弁護士制度は、この弁護士会指定の弁護人選任の申出に対応することをも目的として、発足、発展していったものでありまして、弁護士会指定の弁護人選任の申出があった場合の受け皿として、会内で当番制を敷き、通知があり次第、速やかに弁護士が被疑者と接見するというものです。被疑者段階での弁護人選任は、迅速になされる必要がありますから、弁護士会を指定して弁護人の選任の申出を行ったけれども、弁護人を選任できなかったことを手続的要件とする場合には、速やかに当番弁護士が接見する仕組みが用意されなければならないと考えられます。したがって、ここで提案する国費による弁護制度は、そのための制度として位置付けられるというのが第1点であります。
 次に、貧困要件審査資料作成における役割であります。この点につきましても、前回論議された点でありますけれども、弁護人の選任要件としての貧困要件につきましては、事務局のたたき台(1)では、貧困要件の審査に当たり、審査資料が提出されることとされております。もちろん資力要件は、被疑者の公的弁護人選任の要件でありますから、その審査に当たり資料を提出させることは必要だということは言うまでもありません。その場合に、前回の論議では、被疑者に資力申告書を作成・提出させるという意見が多かったように思われますけれども、実際上、被疑者によっては、自ら資力申告書を作成することが容易でない場合もまま考えられるわけです。そこで、被疑者から弁護人選任の申出があったとき、速やかに当番弁護士が接見に赴いて、その前提となる弁護人選任制度や手続全般あるいは資力要件の意味内容を説明し、資力のない被疑者の資力申告書の作成を援助してやることは、公的弁護制度の円滑な運用にも重要な役割を果たすのではないかと考えられます。
 次に、職権的選任制度における役割であります。この点につきましては、本日、この後に論議される点でありますけれども、裁判官が職権によって弁護人を付するという、いわゆる裁量的職権選任制度を認めるとすれば、その場合に国費による当番弁護士の役割が出てまいります。身体拘束の初期段階で裁判所が職権選任の要件の有無を判断する資料を得ることは困難だと考えられますから、まず、当番弁護士が接見をして、職権選任の事由の有無について、その結果報告をし、裁判所がそれに基づいて判断するということは、裁判所による職権選任に大いに役立つものと考えられます。裁量的職権選任制度を導入した場合に、それを有効に機能させるためには、国費による当番弁護士制度は非常に重要な役割を果たすのではないかと考えます。
 その他の役割でありますが、この点も、本日、後に論議される点でありますが、公的弁護制度下での弁護人の選任の始期に関するものであります。その設計いかんによっては当番弁護士制度は重要な役割を果たします。私は、この点については逮捕時説を採っておりますが、仮にその時期が論議の経過の中で勾留時となった場合、逮捕時から勾留までの間、公的弁護人が選任されないことになります。逮捕段階は、身体拘束の初期段階で、被疑者の不安も大きく弁護の必要性も最も高い時期であります。現に後に真犯人が現われて無罪となった宇和島の窃盗事件の被疑者につきましては、当番弁護士の知識もないまま、逮捕後6時間で自白をさせられるに至っております。したがいまして、公的弁護制度の選任時期を勾留時とするという設計になった場合には、勾留時点以降の公的弁護制度と並んで、逮捕期間中の資力のない被疑者に、弁護人の援助を受ける権利を保障するために、国費による当番弁護制度を設ける必要性は極めて高いものになると思われます。
 次に、公的弁護制度の合理的・効率的運用における機能であります。今、述べてまいりました当番弁護制度が前置されて、これが有効に機能しますと、国選弁護人請求権を有する被疑者であっても、請求に至らない場合が考えられるのではないかということであります。すなわち、当番弁護士が被疑者と接見して、その接見の中で弁護士が手続面や事件の見通しなどについて説明すれば、事案によっては、被疑者はそれで納得して国選弁護人の選任請求権を有する被疑者であっても、弁護人を選任する必要はないと考えて選任請求に至らないことが考えられるからです。
 この点は、既に現在の当番弁護士でも、約5万4,000 件の依頼に当番弁護士が出動しておりますが、そのうち受任件数は約1万件、うち扶助事件受任件数は約6,300 件でありますが、それだけの数しか弁護人が選任されていない実情を見ますと、被疑者が弁護人を選任しない理由につきましては、いろいろ考えられるとしましても、当番弁護士の説明に納得して選任にまで至っていないという例も、その中には相当数あるのではないかと考えられるところです。したがいまして、こういうことからしますと、国費による当番弁護士には国費の節約というふうな観点が十分出てくるのではないかというふうに思われます。
 次に、当番弁護士制度の運営についてであります。まず、当番弁護士の派遣事務につきましては、国選弁護人候補者の連絡事務と併せまして、運営主体ないし弁護士会が統一的に行う制度とすべきでありまして、このようにしますと、運営費の重複などを避けることが可能となります。
 次に、接見した弁護士が、私選・国選のいずれの弁護人にも選任されなかったときは、運営主体が接見日当の費用を支払うという制度が必要となります。これが、国費による当番弁護士制度の中心的な問題になろうかと思います。
 このように、当番弁護士制度を国費で運営する根拠につきましては、この制度が国選弁護人選任手続に重要な役割を果たすという点などに求めることができるものと考えております。
 なお、ちなみにここで、現在の弁護士会の自主事業として行われております当番弁護士制度につきまして若干述べておきますと、公的弁護制度実施の時点で、この当番弁護士制度は基本的に終了するという計画になっております。
 当番弁護士制度の財政は、任意の募金ではなく、強制力を持つ特別会費を弁護士会の全会員から徴収することで維持しております。これは強制加入団体における会費の在り方としては、本来の姿ではなく、日弁連総会でも公的弁護制度実現までの緊急措置であるとして、会員に説明し、期限を3年に限定して開始されたものでありまして、その後も3年ごとに公的弁護制度の法制化の見通しを確認しつつ、延長を繰り返してきたものでありまして、平成16年5月にはその期限が到来いたします。また、事件数の増加に伴いまして、特別会費の額も増え続けておりまして、現在は、月額4,200 円となっております。日弁連の一般会費額が1万4,000 円であることと対比しましても、緊急措置としても大変無理がある水準に至っているのではなかろうかと思っております。
 最後に、当番弁護士制度は、無料で、被疑者に負担を一切求めないものとして実施されてまいりましたが、国費による当番弁護士制度における費用負担につきましては、例えば、一定の資力を有する被疑者には費用を負担させることなどについては、なお検討していく必要があろうかと思っております。以上でございます。

○ 井上座長 浦委員の方から今御説明のあったような案をお示しいただきましたが、ほかの委員の方はどうお考えでしょうか。

○ 本田委員 幾つか疑問があるのですけれども、「1 国選弁護人選任手続における役割」として三つほど掲げられています。まず、①のその他要件による選任のところですが、その他要件による弁護人選任申出というのは、これは私選弁護人選任のための手続ですね。

○ 浦委員 はい。

○ 本田委員 私選弁護人選任の手続のために、その費用を国費で賄うという理屈が本当に立つのだろうかという疑問が1点です。
 それから、2番目の審査資料作成の役割ですけれども、これはそんなに難しい話では本来ないだろうと思います。アドバイスするにしても、これは選任請求権を告知して、どういう書類を作らなければいけないかというのは、例えば裁判官が説明しても十分その役割は果たし得るのではなかろうか、いずれにしても裁判官はどうするのだということをきちんと説明してやらなければいけないですね。
 それから、職権選任については、この制度の必要性についていろいろ議論があるので、それも踏まえて考えなければいけないだろうという気がします。
 いずれにしましても、資力を有する者を含めて、国費で当番弁護士の費用を賄うということについて、国民の理解が果たして得られるのだろうかという疑問があります。
 もう一つですけれども、先ほど全身柄の対応に向けての弁護士会の強い決意表明を聴かせていただいたのですけれども、現在でも5万4,000 件ぐらいですか、この制度がすぐ動き出したときに、逮捕となるともっと増えると思います。15万件ぐらいになるのではないかと思うのですけれども、果たして対応できるのだろうかということが少し疑問であるということです。
 それから国選弁護人選任の始期が勾留時とされた場合に、逮捕から勾留までをカバーするというのは、結局これは公的弁護を逮捕時に延ばすという話なので、そこはそちらの方の議論でやるべきではなかろうかなという疑問が残るということです。

○ 井上座長 もし、浦委員の方で何かありましたら。

○ 浦委員 まず、私選弁護人の選任ではないかという①の点に関してでありますけれども、これは確かにその申出は私選弁護人の選任の申出ということになるのだと思いますが、これは弁護士会を指定して、弁護人選任の申出を行ったが、弁護人を選任することができなかったことということを、「その他要件」として国選弁護人選任の手続要件とする場合には、それに対してどのように対応するかというのは、公的弁護制度としても当然考えられなければならないことだろうと思います。そして、その場合に、被疑者に迅速な接見を提供するというのは、国選弁護人選任手続において、手続的にも必要なことになるはずだと考えております。
 それから、資力審査の資料の作成についてですけれども、これはどういうものにするかによって違ってくるのだろうと思いますが、裁判官が説明して分かる程度のものにしたとしても、前回の論議の中では、例えば罰則とのかかわりもあるというふうな意見もありますので、その点に関して弁護人が被疑者による資料作成の援助をするというのは十分理由のあることではなかろうかと、そのように考えます。
 それから、国民の理解が得られるかということでありますが、それは当番弁護士制度それ自体については、国民の理解を十分得てきておると我々は考えておりますし、今、この時点で新たに公的弁護制度がこういう形で実現するということになれば、日弁連が実施してきた自主的な活動をも公的弁護の中に取り入れるということは、これは国民からそう非難されるようなことにはならないのではなかろうかと、私は思います。
 それと、身柄全件について対応できるかという議論でありますが、これは先ほど15万件というふうなことを言われましたが、75パーセントということになりますと、十数万件ということになるのでしょうか、全逮捕者の75パーセントぐらいが国選の対象になるのではないかということで、我々はシミュレーションしてまいりました。
 さらに、この当番弁護士を活用するなどの方法によれば、国選弁護人の選任請求がなされてくる件数というのは、もう少し減ってくるのではなかろうかとも思われます。他方で、弁護士の数も増えてまいります。そういうことも考えますと、身柄全件に対応するということは、決して不可能な数字ではないと考えます。
 ちょっと今のは間違えました。75パーセントではなく、全逮捕者に対応するという前提でないといけないわけですね。それでも、先ほども国選弁護シンポジウムの報告の中で申しましたような、幾つかの施策を考える、更には当番弁護を担当する弁護士の数を増やす、そういうようなことをすれば、これは弁護士会にとっての一つの負荷になるのかもしれませんが、負荷を課していただいて何とかやり切るということになる問題だろうと思います。
 それと逮捕時か勾留時かという問題につきましては、これは逮捕時に公的弁護を延ばすということと同じだと言われるわけですが、逆に、そうすると逮捕期間中は、公的弁護として何もなしでいいのかという問題が一方で残るのだろうと思うのです。逮捕から勾留されるまでの期間は、被疑者は放置しておいていいのかということになるわけですけれども、逮捕期間中の身柄拘束の重大性を考えますと、その間の何らかの対策を是非とも考えなければならないのではなかろうかと思います。

○ 井上座長 最後の点は、後で議論するところですけれども、結局その逮捕後留置の期間をカバーするような形で公的弁護制度をつくるのかどうなのかという問題に帰着すると思うのですね。そこの点で勾留段階からというふうに引いておきながら、その前の逮捕後留置の段階について、別の形の公費による援助を行うというのは、結局、逮捕後留置の段階から公的弁護を考えるのと同じことを違う形で出そうとしているだけではないかというのが、本田委員の御意見だと思いますので、その辺も考慮に入れて、そこのところで議論すべきだと思います。

○ 浦委員 勾留段階という議論は、裁判所がかかわって選任する場合、逮捕段階だと手続的に無理があるから、したがって、勾留段階とするいう議論がこれまでなされてきたかと思うのです。そうしますと、そういう勾留段階での選任となれば、その前段の逮捕段階は放っておいていいという議論は、全体としてこの検討会で余り出ていなかったような気がしておるのです。

○ 井上座長 それは、後のところで議論するということでいいですか。

○ 浦委員 はい、後の議論で結構です。

○ 井上座長 ちょっと1点確認したいのですけれども、最後に言われた公的弁護制度が実現すれば当番弁護士制度が解消するということですけれども、公的弁護制度が身柄事件全件を対象にするということになれば平仄が合うかもしれませんけれども、仮に公的弁護制度の対象の範囲がそれより狭くても、当番弁護士制度は解消するということなのですか。

○ 浦委員 これは、今までのところ、身柄全件を対象としてやっていただけるという前提で我々は議論してまいりました。

○ 井上座長 浦委員の御主張ではそうなのでしょうけれども、違った考え方もありますので、それで大丈夫かなという感じがしないでもありませんね。

○ 浦委員 当番弁護士は、今の構想のままでは、特別会費を徴収するというのは非常に困難な状況になっているのは間違いございません。

○ 井上座長 事情は分かりました。

○ 酒巻委員 同じことを確認したかったのです。弁護士会の御主張が全件だということは承知しておりますが、仮に新設される公的弁護制度が御主張どおりにならなかった場合でも、今は特別会費の徴収が非常に困難だという事情も理由に挙げられて、要するに将来ある時期において、公的弁護制度が施行されたときには、それが身柄全件対象でなくとも、現在の当番弁護士制度はすべてやめるという、そういうことなのですか。

○ 浦委員 そういう前提です。審議会の意見書でも、日弁連の自主的事業では限界があるので、公的弁護制度をつくろうという、そういうふうなことになっておりますが、私どもは審議会の意見もその辺を公的弁護制度でカバーするよう要請しているものと理解しております。身柄全件をカバーされるものとして理解してきていたのです。

○ 酒巻委員 分かりました。

○ 井上座長 浦委員御自身のお考えとしては一貫しているのだろうと思いますが・・・。

○ 髙井委員 私は、一弁護士として発言しますけれども、公的弁護制度がどういう形であれ、導入された場合には、従来の弁護士がやっている、会がやっている当番弁護士制度はなくなるものというふうに理解しておりました。
 従来のここでの議論も全部それを前提にした議論です。だから、公的弁護制度を一部補完するということはあり得ないというふうに理解しております。

○ 大出委員 ちょっと今確認があったのであれですが、私の認識も基本的には髙井委員がおっしゃったのと同じ認識でいましたし、基本的に今確かにおっしゃったように、日弁連がこの問題について御努力され、責務を負われているというのは、正に弁護の提供というところで責任を果たされるということだったと思うので、それを財政的に日弁連が支えるということについて、もちろんやらざるを得なくておやりになっていたと思いますけれども、かなり無理があったというのはそのとおりでして、私の認識の中でもそれをどう公費で賄うかということが、正に今回の検討会での公的弁護制度の創設ということだっただろうと、私なんかも認識していまして、ですからその限りでは、今のお二人の御意見というのは、弁護士会としてもそういうことでおやりになってきたのだろうというのは、非常に理解できるところだというふうに考えています。

○ 井上座長 当番弁護士制度が果たしている機能と、今我々が議論している公的弁護制度が果たす機能というのは、フェーズが違うわけですね。それはこの前も申し上げたとおりで、それで、その二つをどうリンクさせるのですかと、伺ったのです。

○ 大出委員 私は、今、財政的な問題のところでそう考えていたということについて申し上げただけです。

○ 落合参事官 補足的なことで少し言わせていただきたいと思うのですが、今の当番弁護士は、基本的にはボランティアであって、それ自体が法律上の効果と結び付いたものではないので、例えば自主事業でやっている弁護士会が当番弁護士を派遣する義務はないわけです。
 しかしながら、公的弁護制度の一環として選任手続に取り込むとなると、当番弁護士が接見して法律相談を受けないと国選弁護人の選任手続が進まないということになるので、ボランティアでは駄目なわけです。そうすると、運営主体等が当番弁護士を派遣する義務を負う、あるいは弁護士さんが何らかの根拠で接見を義務付けられないといけないと思われます。そこのところはどういう構成で義務付けを行うのかということが1点あるように思うのです。
 それと、浦委員のペーパーの第2の2で、国選弁護人として選任されると、運営主体は当番弁護士にはお金を払わないということなのですが、そうすると、ここをぎりぎり突き詰めて考えると、当番弁護士として行った分については無料奉仕ということになるはずですね。国選弁護人としての弁護活動は選任された後の弁護活動ですから、当番弁護士の部分は無料になっているはずですね。同様に、私選のときも法律上は受任契約を結んだ後の活動ということになるので、やはり当番弁護士の活動としては無料ということになるはずです。
 そうすると、国選・私選のいずれでも選任されなかったときに、選任されれば無料のものが、どうして急にお金を払うことになるのか、その仕組みがよく分からないのです。その点も検討する必要があると思います。

○ 浦委員 前の点の接見が義務付けられるかどうかというのは、制度の組み方の問題であって、おそらく義務付けられることになるのだろうと思いますけれども、それをどういうふうに組み込んでいくかというのは検討を要する問題だと思います。
 後の点の当番弁護士は無料のはずだというのは、それは必ずしもそうではなくて、今の当番弁護士制度の運用でも、接見費用については受任した場合には払わない、それは接見費用は後の報酬の一部に組み込まれるという考え方をしております。そのような理由から接見費用は無料であるというふうな理解はしていなくて、受任した場合は接見費用はその報酬の中の一部として理解される。したがって、国選になった場合でも、第1回目の接見費用は、国選報酬によって賄われているのだという理解ができると考えています。

○ 井上座長 そう理解されるのはそれぞれの受け止め方でしょうけれども、法制上説明できるのかというのが落合参事官の質問だったと思います。その辺もちゃんと整理しておかないと、制度として本当に説明できるのか、ということになりますので。

○ 髙井委員 今、何を議論しているのかよく分からないのだけれども、要するにこの浦ペーパーについて議論しましょうというのが今のこの場なのですか。それとも、この中身についてはほかのところでも議論するという前提で、とりあえず提案者の浦委員から意見を聴いているということですか。

○ 井上座長 選任手続の一部として御提案があったという位置付けで、そこのところの議論は一応終わっているのですが、せっかく御提案があったので、その趣旨を明らかにするとともに、若干御議論していただこうということで議論していただいたわけです。しかし、今日予定されている事項はまだかなりたくさんあるものですから、それについての議論はある程度で終わりにしていただき、議事を先に進めたいというふうに私としては考えていますけれども。

○ 髙井委員 1点だけいいですか。私も逮捕段階で弁護士が接見をするという制度を公的弁護制度の一部として導入すべきだという立場です。しかし、それは、現在の当番弁護士制度をそのまま流用するとか、その制度の延長線で考えているわけではありません。ですから、言葉としては当番弁護士という言葉を使うかもしれませんが、現在まで運用されている当番弁護士制度とは異質のものとして、そういう弁護士を派遣する制度が必要であろうと。それは、例えば無資力要件であるとか、裁量的に付ける必要があるかどうかの判断を的確にするためというのがその趣旨なのですが、いずれにしても逮捕中に必要があれば弁護士が接見をするという制度は必要であると考えております。
 もし、本格的にこの浦ペーパーの当否について議論をするのだったら、私はそういう私なりの見解で議論に参加しますし、そうではなく、単にこれは質問だけで、後は今日の流れに従ってやっていきます、その中で議論してください、ということであれば、私の発言はここでとどめたいということなのですが。

○ 井上座長 後者のようなことで、浦委員から御提案があり、御議論をいただいたわけです。本日の予定は、まだまだ盛りだくさんですので、関連のところで適宜、髙井委員は髙井委員のお考えを、浦委員の考えとは違うのだというお考えのようですから、それをお示しいただき、また議論をするということにさせていただきたいと思います。
 恐らく浦委員としては、まだ語り尽くせないという思いをお持ちだと思うのですけれども、議事進行の必要もありますので、この点については、この程度にさせていただければと思います。
 それでは、たたき台の「第3 職権による選任制度及び必要的選任制度の当否」というところに入りたいと思います。これについて、事務局の方から説明をしていただきたいと思います。

○ 落合参事官 「第3 職権による選任制度及び必要的選任制度の当否」について御説明申し上げます。ここでは「1 職権による選任制度」及び「2 必要的選任制度」の二つについて御議論をいただきたいと存じます。
 「1 職権による選任制度」のA案は、次の場合に被疑者に弁護人がないときは、裁判官は、職権で弁護人を付することができるものとするとの案であり、具体的には、現行の刑事訴訟法37条の場合と同じ五つの場合を掲げております。また、B案は、被疑者が弁護人選任請求権を有する場合において、選任請求するかどうかの判断能力が不十分であると認められるときは、裁判官は、職権で弁護人を付することができるものとするとの案であります。C案は、職権による選任制度は設けないものとするとの案であります。A案及びB案は、職権による選任制度を導入するという点で共通しておりますが、A案では被疑者が公的弁護制度による弁護人選任請求権を有していない場合も対象となり得るのに対し、B案は被疑者が公的弁護制度による弁護人選任請求権を有している場合を対象とするものであります。
 次に、「2 必要的選任制度」についてであります。必要的選任制度のA案は、次の場合に被疑者に弁護人がないときは、裁判官は、職権で弁護人を付さなければならないものとするとの案であり、具体的には、現行の刑事訴訟法37条の場合と同じ五つの場合を掲げております。また、B案は、「ア 被疑事実が法定合議事件であるとき」、「イ 被疑者が年齢18年未満の者であるとき」、「ウ 被疑者が被疑事実を否認しているとき」の三つの場合を必要的選任制度の対象とするとの案であります。C案としまして、必要的選任制度は設けないものとするとの案を掲げております。
 必要的選任制度につきましては、これまでも議論がなされておりますとおり、その導入の要否の問題のほか、弁護人が選任されなかったことが手続に及ぼす影響についても議論の必要があると考えられますので、その点につきましても御議論をお願いしたいと存じます。
 「第3 職権による選任制度及び必要的選任制度の当否」の説明は以上でございます。

○ 井上座長 今、説明していただいた案を見ますと、職権による選任制度のA案と、必要的選任制度のA案というのは、要件としては同じで、前者では「できる」とされているところが、後者では「しなければならない」とされているという点が違っているだけです。その意味で、議論が重複する可能性がありますので、その全体を一緒に議論していただくのが一番いいように思いますが、いかがでしょうか。それでよろしければ、まとめて御議論していただくことにしたいと思います。
 どなたからでも結構ですので、御意見をいただきたいと思います。いかがでしょうか。

○ 髙井委員 何度も申し上げていますように、対象は全勾留事件が対象になるべきだというのが私の大前提ですが、その大前提で申し上げますと、必要的選任制度、これは必要ないのではないかというふうに思います。職権選任制度は、当然認められるべきであろうと思うわけですけれども、職権選任制度というものを認めれば、必要的選任制度は要らないというのが私の立場です。
 職権選任制度の中でA案でいくか、B案でいくかということになるわけですけれども、基本的にはB案でいいのではないかということになります。ただ選任請求するかどうかの判断能力が不十分かどうか、これはだれが判断するのだということになるわけですけれども、そういう判断をするために派遣された弁護士が判断して、報告書なり何なりを書く、それに基づいて勾留時に裁判官が判断するというのでよろしいのではないかというふうに考えているわけです。

○ 酒巻委員 まとめてということですが、私は、必要的選任制度について、法律的に疑問があり、C案、つまり必要的選任制度は設けないものとする案を支持しますので、それについてだけ意見を申し上げます。
 法律的な疑問というのは、日弁連からのヒアリングのときにも質問いたしましたとおり、必要的選任制度をつくる法的な意味、手続に及ぼす影響に関する事柄です。現在の被告人の必要的弁護事件とパラレルに考えますと、こういう制度をつくれば、理由はともあれ弁護人が付いていないという事態が生じた場合には、そこから先手続を進められなくなるという法律効果が生じる。それが必要的選任制度であろうというふうに理解しております。仮に被疑者段階でこういう必要的選任という制度設計をいたしますと、対象事件において弁護人選任がなされなければ手続が動かなくなる、あるいは弁護人不在の間に実行された捜査手続に瑕疵が生じるといったような法律問題が発生する。そのような事態は望ましくないので、このような制度は設けるべきではないと考えます。
 先般の日弁連の御意見では、弁護人の選任が必要的であるということと、それが手続に影響しないということは両立するというような御説明がありました。しかし、それは法律論としては両立しない、論理的に一貫しないだろうというのが私の考えです。
 職権による選任制度ついては、特段の意見は今はございません。

○ 樋口委員 まず最初に、職権による選任でございますけれども、これは意見書にもございますけれども、障害者や少年への配慮の必要性ということもございますし、選任請求権を補完するものとしてというような論拠を考えますと、B案がいいのかなというふうに思います。
 より関心事項は、必要的選任制度でございますが、これはやはりC案がよろしいのではないかと思います。その理由につきましては、もう既に幾つも議論が出ておりますし、それからヒアリングでも捜査の立場からの見解が示されており、若干繰り返しになりますけれども、このA案、B案でいきますと、資力があるにもかかわらず弁護人を選任しないという被疑者にまで、無理にと言うかどうかはともかく、弁護人を付する必要があるという立場ではないか。仮にそのような必要があるという立場に立つとすれば、それは何を意味するのかということなのですが、弁護人がいなければ捜査手続の適正を図れないという立場に立っているという以外には説明は付かないんだろうというふうに思います。しかしながら、そのような説明に合理性があるとは思えないということです。
 また、仮にそういう立場を採るといたしますと、弁護人の不足等、何らかの理由で選任が遅れた場合には、捜査手続を止めるなどの規制をしなければならないということに結び付くのではないかということにもなるわけです。
 これは、もう既に意見として、これまでにも申し上げてあるところなのですけれども、捜査は、公判と異なりまして、わずかの遅れが非常に厳しい結果になる、場合によっては取り返しのつかないことにもなりかねないということでございまして、結果、真相の解明に著しい支障が生じるということにもなりますし、組織的な背景がある事件でありますとか、共犯関係がある事件でありますとか、警察捜査で申します特殊事件でそういった事情が多いわけでございますけれども、関係者の生命身体に危険が生じるというようなこともあり得るわけです。これは明らかに公益にも反するものであろうということでございまして、必要的選任制度を導入することは適当ではないというふうに考えます。
 それから、これは少し言い過ぎかもしれませんけれども、ついでに1点だけ申し上げたいのですけれども、必要的選任制度を採らない場合にも、仮に捜査機関の責めによらない事情により弁護人の選任が遅れたような場合に、捜査手続にいかなる影響も及ぼさないのだという規定を置けるのか、置けないのか検討の余地があるのではないかということも申し上げておきたいと思います。

○ 池田委員 まず、必要的選任制度については、私も消極です。選任できない場合には手続は進められないことになるわけでしょうし、それでは困るわけですから、必要的選任ということは、制度として認めるべきではないと思います。
 一方、職権による選任制度については、これは選任請求権を与える範囲との兼ね合いだろうと思うのですが、勾留事件全部に及ぶということならさておき、そこまで最初からいくかどうかというのは非常に疑問ではないかと、前回も述べたわけですが、そういう選任請求権を与える範囲が狭くなった場合には、弁護人による援助を受けられない人が出てくる、身柄を拘束されていても受けられない人が出てくるわけです。それについて、勾留質問等をしている裁判官として、やはりこの事件は弁護人がいた方が被疑者の弁護人依頼権を十分保障することになるのではないか、その方が望ましいのではないかと思う場合があり得るので、そのような場合に職権選任ができる制度を設けるべきではないかと思います。
 ただ、その範囲をどうするかというのは、これはまた非常に難しい問題で、このA案でいいのか、A案ですと、これは被告人の場合と同じ規定ぶりなわけですが、被告人については、請求権がもともと認められているわけですけれども、請求権がそもそも限られている場合に、それをはみ出して職権選任をする場合にどのような要件がきちんと書けるかというのは難しい問題だと思います。それでも、やはり現実には職権ででも付けたいと思う被疑者がいるのも間違いないので、そのような余地は残すべきではないかと思います。

○ 酒巻委員 ただいまの池田委員の御意見に対する質問です。職権による選任制度のA案は、現在の被告人に関する条文と同じで、当該被疑者の個人的な属性にかかわる事由が絡んでいるわけですね。池田委員が仮に対象事件が絞られるのを前提にして、勾留段階でやはりこの人には付けた方がいいのではないかというふうに思う事件があるとおっしゃったのは、具体的にはどういう場合を想定されているのでしょうか。やはり当該事件の性質とか、そういうことですか。

○ 池田委員 事件の性質によるという場合ももちろんあると思います。まず、少年ですとか、どうも判断能力が十分ではないという被疑者の場合が考えられます。あと同僚らから聞く話では、やはりこれはかなり深刻な争いになりそうだと、要するに公判になってからでも争いになりそうな場合には、最初から付いていた方がいいのではないかと思うようです。
 もう一つは、どうも弁護人がいれば不起訴になるかもしれないと、そういうようなときにアドバイザーがいる方がいいのではないかというように思う場合もあるようです。そこまで必要なのかどうかというのは、また一つの論点だろうと思いますけれども、要するに勾留段階で弁護人がいた方がいいのではないかと思う事件が、法定合議なり重い事件ではなくてもそういうものはあり得ると感じているわけです。

○ 髙井委員 池田委員のような発言を前提にすると、この問題は非常に重要な問題だと思うのです。なぜかと言えば、仮に前回の議論で出ていたような意見、例えば法定合議事件に対象を限るということになりますと、現在動いている当番弁護士制度よりもはるかに小さなものしか残らないと、これは弁護士会でも当番弁護士制度をやめるという前提ですから、はるかに小さなものしか残らないということになって、逆に言うと、今、受けていられるサービスが受けられなくなるということになるわけで、これは重大な問題だと思うのです。
 仮に、万が一それを法定合議事件、あるいはプラスアルファ、あるいは更にもう少し広げるにしても、一定の制限をして、勾留事件すべてではないということになった場合には、今、池田委員がおっしゃるように、請求権のない者についても職権で選任するという制度は必須だと思います。従来、請求権があるということを前提にして職権で選任するというような議論が行われているわけですから、請求権のないものについて職権で付けるとなりますと、従来の制度とはやや本質を異にするということになるのかもしれませんが、そういう制度は私は必須であるというふうに思います。
 その場合には、今、池田委員がおっしゃっていたように、単に年齢で見るとか、知能の問題があるかないかという問題だけではなくて、事件の筋、特に否認事件で重要な証拠は多分自白しかないだろうというような事件、これは勾留質問のときに事件の筋が分かるわけですから、そのときにこれはやはり弁護人を付けておいた方がいいという判断が当然できるわけで、そういう判断がなされた事件については請求権のないものについても職権で弁護人を選任するという制度は絶対につくらなければいけないというふうに思います。

○ 井上座長 蒸し返すようなのですけれども、最初の点は、ある意味で「人質」を取った上での交渉のような議論ですね。公的弁護制度ができたら当番弁護士制度はやめますと先に決定しておいて、当番弁護士制度をやめるのだから、それがカバーしていた範囲を公的弁護制度がカバーできないのは不当である、だから、公的弁護制度の対象範囲を当番弁護士制度の方に合わせろと、そういう議論の仕方なのですね。

○ 髙井委員 そういう言い方をすると、そういう議論になりますけれども。

○ 井上座長 議論の中身として良い悪いということではなくて、議論の仕方として、余り筋のよくない議論だと思うのです。

○ 髙井委員 でも実態はそうなんです。だから実態を前提にした議論をしていただかないと。

○ 井上座長 髙井委員は分かっておられると思うのですけれども、先ほども言いましたように、公的弁護制度によってカバーするのはあくまで被疑者段階の弁護であって、当番弁護士制度というのは、その前の段階をカバーしているわけです。つまり、弁護人として選任されていろんな弁護活動をするという段階ではなく、その前の段階を当番弁護士制度はカバーしているわけでしょう。それが入口になり、私選とか扶助とかに引き継いでいくという形になっているのであり、そこのところをきちんと整理して議論されないと、渾然一体とした話になり、制度論として筋の通った説明にはならないと思うのです。

○ 髙井委員 座長のおっしゃるのは、請求権を有するものを仮に法定合議等に限ったとしても、今、実際に運用されている制度よりも小さなものになるということではないと。

○ 井上座長 要するに、理屈の上で、その二つの制度を等置することはできないのではないかということです。等置できるような理屈というものがあれば、同じ土俵に乗せることは可能だと思うのですけれども、それはさっきから申し上げていることで、問題点はお分かりのはずだと思うのですが。

○ 髙井委員 当番弁護士制度というのは、今の当番弁護士制度もそれは入口だけでしょうということをおっしゃっているわけですか。

○ 井上座長 制度の位置付けとしてはですね。確かにそれが入口になって弁護人が選任されるということがあり、その意味で被疑者弁護をカバーしているところがありますので、そういう実態論として議論を展開されているというのは分かるのですけれども、法律論として整理した場合、制度としては趣旨・性質の異なるものですし、当番弁護士による援助というのは弁護の前の段階の話なのです。

○ 髙井委員 ですから、制度として入口だけだとおっしゃっているわけでしょう。

○ 浦委員 ちょっと分からないですね。しかし、当番弁護士は弁護人になろうとする者として接見しているのです。単なる法律相談という捉え方もないことはないのだけれども、接見が可能だとすれば・・・。

○ 井上座長 被疑者から弁護士会を指定して弁護人を選任したいという申出があったので、それに応じて接見をしに行くものだというふうに整理すれば、弁護人として選任される前の段階もカバーしており、二つの制度は重なるという理屈もありうるのかもしれませんけれど、当番弁護士というのは、必ずしもそういう位置付けではないでしょう。それを議論し出すと、前回の蒸し返しになるのですけれども。

○ 浦委員 それは、やはり選任につながる制度であることは間違いないのですよ。

○ 井上座長 その議論になると、前回の蒸し返しになるので、これ以上深入りしませんが、弁護人の選任につながるということだけで法律論として一体の制度だと言えますか、ということを前回質問させていただいたのです。

○ 髙井委員 私が言いたいのは、法律論は別論ですよと、それは分かっていますよと。ただ運用論としては、実態面としては、これは一体化した運用になっているでしょうと。だから実態面で言うと小さな制度になってしまいますよということを言っているわけです。

○ 井上座長 そこの違いさえ分かっていただければいいのです。

○ 平良木委員 被疑者に対する公的弁護が全勾留事件を対象にするというのだと、恐らくほとんど問題はなくなってしまうかなという気もするのです。ただ、現実の問題として、全勾留事件を対象にするというのは、財政的に制約が極めて大きいということになってくると、むしろそのことを前提にして制度をつくっていかなければいけない。
 そういう前提で、まず必要的選任制度は不要だろうというように思います。もしこういう制度を置くとすると財政的負担が大きすぎるという気がするし、しかも実際問題として、そこまで必要があるのかということになると、これもやはりちょっと疑問があります。
 もう一つの職権あるいは裁量によって裁判官が付けることができるかどうかというと、やはり事件によっては、弁護人が被疑者段階でもいた方がいいというふうに判断できるものが残されている。そうだとすると、裁判官が補完的に弁護人を選任してやるという役割自体は否定できないのではないか。
 そのときに、例えばB案のような請求権を持っている者についてだけということであるとすると、これはやはりやや狭過ぎる。むしろもう少し広げて補完的な役割を果たさせる方がいいのではないかということになるだろう。
 そういうことで、私は1についてはA案、2についてはC案という意見ということになります。

○ 本田委員 まず、必要的選任制度については、大多数の委員の方が不要だとおっしゃっていますが、私も結論は不要だというふうに考えます。理由は、今まで出てきたところで大体尽きていると思いますので、私からは特に申し上げません。
 職権の方なのですけれども、これは例えば選任請求するかどうか判断能力が不十分な場合というのはあり得るだろうと思います。これを後見的に担保するということは考えられるだろうと思います。ただ、これを勾留質問という短時間の接触で的確に判断することができるのだろうかという疑問はあるので、やはりこの辺りのところはちょっと慎重に検討すべきではなかろうかと思います。
 A案ですけれども、これだけの基準で本当に的確にそういうことが判断できるのだろうかという気がします。特に、その他必要と認めるときということになると非常に裁量の幅が広くなってきて、基準が不明確だという気がして、これはいかがなものかという気がします。
 先ほど池田委員の方から、例えば具体的にはどういうのがあるかということで、争いになりそうな事件であるとか、あるいは弁護人が付けば不起訴になるような場合という例を挙げられたわけですけれども、争いになり判断に困難を伴うような事件、あるいは法律上の争点が見込まれる事件、これは恐らくはほとんどが否認事件になるのだろうと思います。被疑者が認めていればそういうふうにならないわけですから。また、否認事件の中でも、明々白々の否認は対象にならないわけでしょう。
 そうすると、否認事件の中で明々白々の否認事件とそうではない事件をどこでどうやって区別していくのか、否認か自白かという以上に見極めるのが困難ではなかろうかという気がします。しかも捜査というのは流動的で、当初勾留質問の段階で否認していたとしても、その後自白に移る場合だってあるわけですし、その逆もあるわけです。恐らくそこは裁判官には見えない世界であり、運用が相当難しいだろうという気がします。
 それから、不起訴の話なのですけれども、いろんな場合が考えられます。例えば被害弁償をするような場合、簡単な事件だったら不起訴になるかもしれませんけれども、そうするとそれなりの資力がある被疑者ということになると思うのですけれども、そうすると無資力要件との関係は一体どうなるのだという疑問が出てきてしまう。また、そういったことを本当に的確に判断できるのだろうかという疑問もあるので、なかなか難しいのではないかという気がしています。
 例えば、この前の報酬算定のところの議論を思い起こしてみますと、やはり被疑者段階の公的弁護についてどういう活動をしているか裁判所から見えないではないかというような議論も確かあったと思うのです。見えないところで、どういう弁護活動を期待して、どういうことをやるのかということが見えないまま裁判所の方で弁護人を付するという制度が制度として成り立つのだろうか。公判段階であれば、ちゃんと審理状況を見ながら裁判官が見ていて、例えば弁護人が気付いていないようなところであったら立証を促してみるとか、いろんなことができるはずなのです。被疑者段階というのは、そういうのが全く裁判官の方から見えない世界なので、本当にこれは明確な基準を立てて国費を投入してやる場合に、こういった制度が動くのだろうかという疑問が消えないということです。

○ 大出委員 私としては、必要的選任制度というのは、場合によっては必要ではないかという主張をしてきたというところがありまして、その点については、いろいろ検討会委員の方々から、従前からそういう御議論をいただいているわけで、確かにその点については、私は行ける可能性もあり得るだろうと思っていますが、ただ大方の意見を伺っている限りにおいては、かなり無理があるという御主張にもそれなりの根拠があるのだろうと思っているのです。しかし、なぜ必要的に考えてみる必要があるのかということを申し上げてきたかと言えば、やはりそこはある範囲で類型的に、捜査段階において弁護、つまり特に初期の段階での弁護活動が必要だということについては、この間いろいろな経験によって確認されてきていることだろうと私は思うわけでして、その点については、恐らく本田委員でも御異論はないのだろうというふうに思うわけです。
 そういうことでいったときに、確かにそれが制度的に必要的ということになったときに支障が生じるということであるならば、それはあきらめざるを得ないかもしれませんけれども、それがなかったときに、できるだけ広い範囲で弁護人の援助を受けられるような態勢をつくっておく必要があるということはやはり否定しがたいところだというふうに思うわけでして、そうだとすると請求権があるかないかというところに限定するということではなく、また類型的にある程度これまで経験的に確認されてきている範囲で、判断能力というようなことでいったときには、後見的な役割をだれかが果たすというようなことが必要な場合というものを想定しておく必要がある。ただ、それだけではまだ不十分だというところもあるわけでして、その他必要と認めるときというようなことで裁判所の判断にゆだねるというようなことがあってもいいのではないか。
 また、先ほど浦委員の御説明になったところでいけば、裁判所で判断できない部分については、やはりそのほかに判断を補助するような、補完するようなシステムというものを考えるということで体制をつくっていくということを、やはり考える必要があるのではないかと思います。
 そういう意味では、2についてはあきらめるとしても、1のA案はやはり必要だろうというふうに私は思います。

○ 髙井委員 本田委員の意見についてですが、まず、池田委員の御意見の中で、弁護士を付けたら起訴猶予になるのではないかと思われる事件ということを言われました。多分弁護士を付けたら示談に動いて起訴猶予になるのではないかと思われる事件は確かにあると思うのです。でも、そういう事件に職権で弁護人を付けるということになると、これはやはり本田委員が指摘されたように、無資力要件との関係でどうなのかと、示談するお金があるのに何で国選なのかという話になるわけですから、これはちょっと問題かなと思うのです。
 もう一点の本田委員が言われた、最初否認していても自白するかもしれないではないかと、確かにそういうことはあります。だからこそ弁護人が必要だと、否認から自白に転換し、その自白の任意性を制度的に担保する、あるいは任意性判断を少しでもたやすくするために弁護士が付いている必要があるというのは、これは裁判員裁判のところでも指摘されていて、そういう意味での必要性は、本田委員も指摘されているところであるわけで、正に私が先ほど申し上げたように、これは自白がすべてだと、自白の任意性がすべて有罪、無罪を大きく分けるかどうかという事件は、ある程度練達とまでいかなくても、ある程度経験を積んだ裁判官であれば当然これは分かると。実際に弁護人が捜査段階でどういう弁護活動をしているか分からないということと、この事件に弁護人が必要であるという判断を的確にするかどうかということは別の次元の問題であって、確かに裁判官には捜査段階で弁護人がどういう活動をするかは見えないわけですけれども、その将来予想される証拠構造の中で、弁護人を付けておく必要があるかどうかという判断は、勾留質問の段階で裁判官において的確にできるというふうに考えております。
 また、そういう前提で考えなければ、日本の刑事訴訟制度というのは動いていかないのではないかと、そういう判断すらできない裁判官がいるという前提で考えていたのでは刑事訴訟制度は動いていかないと思います。

○ 井上座長 ちょっと1点質問なのですが、職権で、今おっしゃったようなものについても裁判所の判断で付けるということは、請求権がある被疑者も含め、被疑者本人は要らないと言っている場合でも、付けることになると思うのですが、その論拠はどういうところになるのですか。つまり、被疑者本人は要らないと言っても、押し付けるわけですね。被疑者本人として、弁護人の要否について十分判断ができないという場合なら、まだ分かる。選択する能力が疑わしいというので付けるというのは、それとして理由があると思うのですけれども、そうではなく、本人は要らないと言っているのに付けるとすると、その理屈はどういうことなのかということですが。

○ 髙井委員 なかなか難しい問題ですね。確かに要らないと言っているのですけれども、極端なことを言えば、途中から欲しいと言い出すかもしれませんね。

○ 井上座長 でも、本人としては、請求することができるのでしょう。

○ 髙井委員 できます。でもそのときにはもう遅いかもしれませんね。だからそういう意味では詰めていくと、一種の訴訟制度の安定性といいますか、そういう意味では若干個人の利益というよりも、訴訟制度自体の利益といいますか、真実発見に資するという観点が若干入ってくるとは思いますね。

○ 本田委員 今の点なのですけれども、要らないと言っている被疑者は、恐らく接見に行っても会ってくれないのではないかと思います。そうするとなかなか弁護士を付けても、どういうふうな弁護活動をやるのか実際困難ですね。

○ 髙井委員 それはそれでいいのです。弁護士が付いていればいい、付いているということが制度的に大事だということが私は言いたいのです。そういう事件があるということです。その方が検察官にとっても有利だと思います。

○ 平良木委員 私も、今、髙井委員が言われたように、実際に例えば公判をやっているときに、任意的弁護事件で弁護人がいない。しかし、実際の問題として弁護人が付いてちゃんとやってくれれば、もっとうまく処理できるのになと思うことはあると思うのです。公判手続は少なくともそういうことがある。捜査までそういうことになるかどうかは、ちょっとよく分からないけれども、しかし、いわゆる法的な代理人というか、保護者的な立場にいる人が後ろにいるかいないかというのは、やはりある意味では事件のその後を大きく左右するということがあるのではないかという気もしますので、その意味で、髙井委員の言われたことに賛成です。

○ 井上座長 度々コメントして申し訳ないのですけれども、審議会意見書の助力が必要な者という部分は、能力的に問題があるような人の場合を主として想定したものであったと思います。
 もちろん、それに限定する必要は必ずしもなく、ちゃんとした理由や必要があれば、より広い範囲に広げるということは可能だと思いますが、本来的にはそういう趣旨のものだということは念頭に置いて御議論いただきたいと思います。では、浦委員どうぞ。

○ 浦委員 ちょっと議論をぶり返して失礼なのですが、先ほど髙井委員が、当番弁護士をやめるという議論に絡んで、座長の方から、それは人質的な議論ではないかというような意見が出ましたけれども、それには私は異論がございまして、弁護士会が自主的に始めた制度でありますので、それをやめるというのが人質だと言われるのは、ちょっと筋が違うのではないかという感じが・・・。

○ 井上座長 自発的に始めたことをやめるということ自体は別に構わないのですけれども、先ほどの議論は、自分たちでやめるというふうに決めたことを不動の前提にして、公的弁護制度はそれをすべてカヴァーするだけのものでなければ問題だといった議論の仕方をされたものですから、そのような議論の組立ては筋が良くないのではないかということを申し上げただけです。

○ 浦委員 それはそれでもう申しませんが、必要的選任制度について、ここでは大変評判が悪いのですけれども、なお私の方とすれば、一定の重大事件とか、否認事件、それから少年事件について必要的選任制度を設ける必要があるということを申し上げておきたいと思います。
 こういう一定の重大事件とか、その他の否認事件等に関しましても、先ほどからるる述べられているように、弁護人が必要であるにもかかわらず弁護人が付いていないという事態というのはままあるわけです。それにつきましては、当番弁護士制度の運用の実績からも、死刑求刑される事件だとか、あるいは重大否認事件なんかでも、弁護人の接見依頼がないという例は多く見受けられるところです。
 その理由というのは、悔悟の情が強いだとか、あるいは死刑を願望するとか、いろいろあろうかと思いますけれども、そういう場合に弁護人を付する必要性というのは極めて高いものと思っております。時には、被疑者の中には、捜査官から弁護人を付けると高額の費用がかかるだとか、あるいは弁護人は要らないよ、というようなことを言われたりするような例も実際に聞いております。そういう場合に、被疑者の請求の有無にかかわらず、国選弁護人を付する制度というのは、当然考えておく必要はあるのだろうと思っていまして、その場合、必要的弁護制度というのは、捜査段階における迅速な弁護人の選任の必要性という観点から見まして、罪名とか、被疑者の年齢、あるいは事件の性質から直ちに国選弁護人を付するという制度、こういう制度というのは、やはり設けておく必要があるということを申し上げておきたいと思います。
 それから、必要的選任の意味について、先ほど酒巻委員の御意見でも、当然、現在の公判段階の必要的弁護事件と同様の構造でないと、法理論的に難しいと言われましたが、しかし、その制度の組み方として、弁護人を必要的に付けるという範囲で必要的ということとして、それが捜査の手続に影響を及ぼさないというつくり方というのは不可能ではないというふうに考えております。そういう意味では、第3の2につきましては、私はB案をなお支持したいというふうに考えます。
 それから、職権による選任制度につきましては、今、多くの方が申されましたけれども、必要的選任制度と同時に、裁判所による後見機能を発揮していただいて、裁量的な職権選任制度をつくることの必要性も、また言うまでもないことと思います。仮に罪名による限定をするという制度設計になった場合を考えますと、それは当然のことながら請求権のない被疑者も職権による選任制度の対象になるという制度を考えておかなければいけないのではないかと思います。
 これも大出委員も言われましたが、先ほど本田委員の意見の中に、裁判所が果たして捜査の勾留段階で、こういう要件が審査できるかどうか疑問があると言われましたが、それこそ正に先ほど申しましたように、そこに国費による当番弁護士制度が活動する領域というのが出てくるわけで、弁護人が接見した上で、そういう情報提供をするということは十分に可能だろうと思います。

○ 井上座長 可能だと言われた点ですが、法律論としての御説明がないように思いますね。前から可能だとだけおっしゃっているのですけれども、やはりその点をちゃんと説明していただかないと、説得力を欠くのではないかと思います。是非説明する努力をお願いしたいと思います。

○ 浦委員 一義的に捜査の進行と弁護人の選任とがかかわってくるということは言えないのではないかと。

○ 井上座長 しかし、法律上必ず選任することとされている以上、それに反する事態が生じれば何らかの法的効果を生むというのが、法律論としては普通の考え方なわけで、さっき指摘されたような効果に結び付かないような制度の組み方があるというなら、こういうふうな組み方あるいは考え方があるということを示さないと、説得力がないと思うのです。説明を補足していただければと思います。

○ 浦委員 なお、それは検討したいと思います。

○ 酒巻委員 また学者の机上の空論だと言われるかもしれませんが、職権による選任制度について、気になっている点を一言申し上げます。先ほど、髙井委員は、事件の性質によって、真っ当な裁判官であれば、十分弁護人が必要かどうか判断できると言われました。仮にそうだとしても、あえて法律論をやりますと、仮に裁判官の裁量的判断で弁護人を付けることができるという条文があったときに、後になって被疑者ないし被告人から、「あのとき裁判官が健全な裁量権を行使すれば、自分は弁護人を付されるべきだったにもかかわらず付けてもらえなかった、弁護人を付けられていたら起訴猶予になったかもしれない」などと言われたときにどういうことになるのかということが気になるわけです。裁判官の裁量的判断について、在るべき裁量権の行使というのが想定されるとすると、そこを後から争われたときに、手続に影響を及ぼしてしまう可能性もあるのではないか、このような法律上の問題もありそうだという気がします。

○ 平良木委員 これは何にもなくて裁量だけということだと、恐らく問題になる余地はありますけれども、さっきから言っているように、一定限度で選任して、足りないところを補完的にやろうという趣旨だとすると、その裁量がうまくなくても、恐らく駄目だと言われることはないだろうという気がします。

○ 酒巻委員 議論としては、駄目だという理屈も成り立つような気がするものですから、論点として出したということです。

○ 落合参事官 お金のことばかりでいつも恐縮なのですが、職権的選任でA案を採った場合、意見の中にも出ておりましたように、この類型については、弁護人を付するべきであるという判断をしたとすると、理論的には貧困要件はかからないというのが正解だと思うのです。
 そうしますと、そういうことの合理性も問題となるでしょうし、最終的にその人に対して弁護費用の負担を命令するということもあり得るのですけれども、その場合の負担させる理屈はどうなるのでしょうか。髙井委員から、訴訟、真実の発見というようなことから、あなたは弁護人が要らないと言っているけれども、弁護人が必要なのだという理由付けが述べられましたが、その場合に、だから負担させるのだという理屈が通るのかということを若干心配しております。
 公判段階ですと、訴訟の円滑な運営というのが、割と正面に出てきて、それを理由に負担させるということもあり得ると思うのです。しかしながら、捜査段階でそのように言えるのかという問題があると思います。
 さらに、もしそれを肯定して、真実発見のためには、嫌だと言っても選任するのだと言ったとき、先ほど酒巻委員がおっしゃった問題にリンクしてくるように思いまして、裁量権の逸脱という問題も起きてくると思います。そこのところをどう考えるのかということをお聞きしたいと存じます。

○ 髙井委員 確かに、これは貧困要件がかかってこないと思いますね。かかってこないから、では直ちに負担させる制度になるのかと。私のように真実発見という要素で弁護人を付けるとなると、そういう場合には、広い意味での公益のために付けているわけですから、結果的に被告人の利益になるとしても、被告人には経済的な負担をさせないという仕組みもあるのではないか。ただ、そういうのが国会で通るかどうかはまた別ですけれども、理屈としては、貧困要件がかからないから常に被告人に負担させなければいけないという制度しかできないというわけではないだろうというふうに思うということです。

○ 井上座長 端的に言えば、国の方で勝手に付けるのだから、その費用は国が持つべきだという考え方もできるのではないかということですね。
 この点の議論をずっと続けますと半日くらいかかってしまいそうですけれども、先がまだ随分ありますし、たたき台(2)も控えていますので、そのことをお忘れなく、進行に御協力くださればと思います。池田委員どうぞ。

○ 池田委員 今の落合参事官の質問に関してですが、確かに弁護人を選任しない権利というのがあるのかどうかという問題があることはもちろん分かった上でですが、公判で同じような要件で選任して負担を命ずることができるのと、やはり同じ理屈でいくしかないのではないかと、同じ理屈で説明できるのではないかと思っております。

○ 井上座長 今の37条ということですね。

○ 池田委員 はい。

○ 井上座長 よろしいですか。では、少し先に進ませていただきたいと思います。
 次が、たたき台の第4ということですが、「第4 その他弁護人の選任に関する事項」について、説明をお願いします。

○ 落合参事官 「第4 その他弁護人の選任に関する事項」について御説明申し上げます。ここでは、弁護人の選任に関するその他の論点として「1 選任できる人数」、「2 管轄区域と選任できる弁護士の制限」、「3 同一の弁護人による数人の被疑者の弁護の可否」の三つの論点を掲げております。
 「1 選任できる人数」に関しましては、公的弁護制度下で被疑者のため選任できる弁護人の人数について、三つの案を併記しております。このうち、B案とC案は、例外的に複数の弁護人を選任することを許容する点で同じでありますが、B案は裁判官の職権により複数の弁護人を選任できるとするものであるのに対し、C案は被疑者又は弁護人に対し、弁護人の追加を請求する権利を認めるという違いがあります。
 「2 管轄区域と選任できる弁護士の制限」に関しましては、現行の刑事訴訟規則29条1項におきまして、選任できる弁護士について、管轄区域の制限が設けられていることを踏まえ、A案として刑訴規則29条1項を維持しつつ、さらに、特に必要があると認めるときは、常勤弁護士や契約弁護士について、例外を認めるものとするとの案、B案として、刑訴規則29条1項による管轄区域の制限を廃止するものとするとの案を記載しております。
 「3 同一の弁護人による数人の被疑者の弁護の可否」という論点に関しましては、現行の刑訴規則29条2項に、被告人の利害が相反しないときは、同一の弁護人に数人の弁護をさせることができるとの規定があるところでありますが、捜査段階においては、利害相反の判断が困難であり、被疑者等の供述状況によって、常に利害相反となる可能性があるという事情もあることから、同一の弁護人が関連する数人の被疑者の弁護をすることはできないものとするかどうかについて御議論いただきたいと存じます。
 「第4 その他弁護人の選任に関する事項」につきましては、以上でございます。

○ 井上座長 ありがとうございました。それでは、最初の「1 選任できる人数」という点について、御意見をお伺いしたいと思います。いかがでしょうか。

○ 髙井委員 捜査は、大規模な捜査から小規模な捜査までいろいろあるわけですから、例えば捜査側が大捜査陣を敷いて捜査をしている案件について、1人で弁護しろというのはなかなか難しいと思います。特にその事件が裁判員裁判事件に対応するような事件である場合には、到底困難ということですから、まず、1人に限るという考え方はできないと思います。
 では、請求するのはだれかということになりますが、これは結論的にはB案で、弁護人の申出で裁判官が判断をするというのが最も妥当であろうというふうに思います。
 C案は、被疑者も請求することができることになっているわけですけれども、被疑者に弁護人の数がどの程度必要なのかということが的確に判断できるということは考えられないという意味でC案は採れないというふうに思います。

○ 井上座長 ほかの方はいかがですか。

○ 酒巻委員 今のは、B案ですか。

○ 髙井委員 B案です。

○ 酒巻委員 B案は、職権ですね。C案が請求ですね。どちらですか。

○ 髙井委員 B案です。弁護人の申出で、あと裁判官が考えて付ける。だから弁護人の言うとおりに付けるというのもちょっとおかしいのではないかと思いますが。

○ 浦委員 このC案の場合は、被疑者が入るということで、B案の場合はどうなのですか。

○ 髙井委員 入っていないですね。

○ 浦委員 B案の場合は、申出はだれでもいいわけですか、申出ですから。

○ 髙井委員 公的弁護人の申出ですよ、B案は。

○ 井上座長 申出人を限っているわけですね。

○ 浦委員 限っているのですか。

○ 井上座長 事務局としては、いかがですか。

○ 落合参事官 御意見として出されたのをそのまま載せておりますので。

○ 井上座長 これはどなたの御意見でしたか。一応いずれにも組むことはできますね。つまり、職権発動を促すのだからだれでもいいという組み方と、やはり一応先に弁護人が選ばれているのだから、その弁護人がまず判断をして申し出、それに基づいて、付けるか付けないかは裁判官が判断するという組み方もできるということですね。浦委員どうぞ。

○ 浦委員 現在の公判段階の国選弁護制度の場合でも、我々の印象からすると、複数選任については、裁判所といろいろ折衝をしても、なかなか認めてもらえないケースが多いように思われます。例えば、3人でやりたいというときに、2人でやってくださいと言われた場合、あとの1人をどうするかとなりますが、結局その場合、国選と私選を同在させるというのは今のところまずありませんし、私選弁護人が選任されますと、国選弁護人は解任されるという扱いになっていますから、そうしますと、3人でやりたいときに、1人が私選になるとすれば、全員が私選でやらざるを得ない。その場合、私選といっても、実際は費用を出せない人ですので、結局無料で私選弁護人が付いていると、そういう実例が結構あります。
 そういうことで、複数選任の問題について、今の現行国選制度での裁判所の扱いから見れば、私としては、C案のうち、被疑者まで請求権を認めるのはいかがかと思うのですけれども、弁護人が請求することができるという、弁護人に請求権があるというつくり方もあり得るのかなという気はいたします。少なくともB案でされるべきであろうと思っていますが、実際は運用の問題になるのかもしれません。

○ 井上座長 C案なのですけれども、これもどなたかが提案したのをそのまま書いただけと言えばそれまでなのですけれども、請求権があるということは、裁判官は当然付けないといけないということなのでしょうか。制度として、そういう制度は考えにくいように思えますが。

○ 浦委員 そうではないです。

○ 井上座長 そうすると、今の問題は必ずしも解消しないですね。

○ 浦委員 だからもう少し裁判所に強く交渉ができるということです。

○ 井上座長 職権発動を促すよりは請求権があった方が強く交渉できる、ということですか。

○ 浦委員 裁判所の方はそれなりの判断をお示しいただかなければならないということになりますね。

○ 井上座長 職権の場合には、職権を発動する必要がないと裁判所が考えれば、発動しなくてもいいだけですが、請求権がある場合には、裁判所は何らかの判断を示す必要があるということですね。分かりました。どうぞ。

○ 本田委員 私は、今まで述べられた御意見とは違って、A案がいいのではないかというように考えております。要は、例えば私選弁護では弁護人を1人しか選任できない場合もあるわけですね。ところが、公的弁護においては、複数の弁護人が選任されるというのは不均衡ではないのかという気がします。
 それから、C案の方ですけれども、複数の公的弁護人の選任を請求する権利を認めるということだと、これは要するに私選弁護人が選任されている場合も含めて、更に必要な数の公的弁護人の選任を請求する権利を認めることになってしまうのではないか。そうすると、弁護人を選任できない場合という公的弁護制度の基本的な原則と合致するのだろうかという気がします。しかも、弁護人が何人必要なのかということをそれぞれの事件で確定していかなければいけない。非常に難しいのではないかという気がします。
 次に、B案ですが、いろんな事件があるわけですけれども、ある事件では複数選任し、ある事件では1人で十分ということを分ける基準は一体どこにあるのだろうかという気がします。ある事件で複数選任されたら、次々にあの事件が2人だったら、この事件も2人だ、この事件は3人というようなことになってしまい、収拾がつかなくなってしまうのではないか。例えば否認事件の中で、この事件は1人でいいのだけれども、この事件は複数と分ける具体的な基準というのは一体どこにあるのかという気がします。
 公判段階で複数の弁護人が必要になる事案というのは、多数の訴因がある事件だろうと思うのですけれども、そういう事案が捜査段階ではどうなるかというと、事件を一つずつ捜査していくわけですね。事件が幾つあったとしてもです。基本的にはそうなので、そうすると、そこで何人も弁護人が必要だということに本当になるのだろうかという気がします。
 税金で捜査段階にも国選弁護人を付するとした場合に、複数の弁護人を選任するまでの必要性というのは本当にあるのだろうかという気はしております。

○ 髙井委員 今、本田委員が言われたことは、捜査弁護としてどういうイメージを持つかということと絡んできているので、なかなか結論が出しにくい問題だと思うのです。
 捜査段階の弁護というのは接見に行くだけなのだと、接見に行っていれば事足りるのだということになれば、それは1人で何回も行けばいいではないかということに落ち着くだろうと思うのですが、多分本当の意味での捜査弁護というのは、接見に行くか行かないかではなくて、要するに被疑者側の立証に役立つ証拠をどうやって収集するかというところが本当の捜査弁護だろうと思うのです。もちろん捜査を妨害しない範囲でということになりますけれども。
 ですから、そういうふうに考えると、訴因が一つだけれども、非常に複雑で被疑者側の参考人、関係者もいっぱいいると、それに弁護人が当たらなければいけないという場合に1人で当たり切れるのかという問題が出てくるわけです。ですから、そういう性質の事件かどうかというのは、やはりやってみれば、捜査段階である程度見えてくるわけで、最初1人で弁護活動をしていたが、無理だということをきちんと合理的に説明できれば、それを受けて裁判官が職権で判断するというのは、きちんと合理的な範囲内でできるのではないかと思います。
 それから、いったん2人付くと、次は3人だというような形でどんどん増えるのではないかという御意見もございましたけれども、これは裁判官が最終的には職権で判断するということにすれば、むやみに拡大することもないでしょうし、もともとそれに対応する能力があるかどうかというふうに言われているわけで、土俵が決まったものですから、そうむやみやたらに広がることはないだろうと、そういう外的要因でと、そうも思うわけです。
 ですから、このB案でいくと際限なく弁護人の数が増えてしまうということにも当然ならないわけで、やはり私はB案でいいのではないかというふうに思うのです。

○ 本田委員 先ほど基準が示せるのかということを申し上げましたけれども、もう一つ、捜査がどういう進展をしているかというのは、裁判官には見えないわけですね。勾留段階は一応勾留質問をやって記録を見る、それから延長請求のときはもう1回記録を見るわけですけれども、それ以外のときは見えないわけで、弁護人が何人必要なのだと、この事件はどうなっているのだということを本当に判断できるのだろうかということが一つ疑問です。

○ 浦委員 現行法でも、この刑訴法35条と規則27条で被疑者段階の弁護人の数は3人とされておりまして、裁判所が特別の事情を認めて許可した場合に3人を超えて弁護人を選任できるという規定になっていますね。

○ 井上座長 私選の場合ですね。

○ 浦委員 もちろん、私選です。その際に、裁判所は現に弁護人が必要かどうかという判断はなさっておられるわけですよ。したがって、今、本田委員が言われたように裁判所が判断できないということはあり得ない。現に現行制度でも弁護人の数については、これは検察官の意見を聞いたり、弁護人の意見を聞きながら裁判所が判断されておるわけで、その能力がないというのは、ちょっと議論としては成り立たないのではないかという気がします。
 それと、弁護人は1人しか選べない場合があるという本田委員の御意見がありましたが、確かにそれは1人の場合もありますけれども、今の実情を申せば、1人しか選任できない場合でも、複数弁護人が必要であれば、私選弁護の場合は、1人分の報酬を分け合って何人かの弁護人を付ける、これは当然そうせざるを得ないということでやってきておりますので、本田委員の言われるような不均衡ということは理由にはならないのではないかという気がします。

○ 池田委員 被疑者の公的弁護人は原則として1人でいいというのは、そのとおりなのですが、やはり複数要る場合が残るのではないかと思います。
 特に今回、被疑者に対する公的弁護というのは、被疑者・被告人段階での一貫した弁護というものを理想としているわけで、そのためには、被疑者段階から防御活動のための弁護活動をするのが重要な事件もあるのではないかと思います。
 確かに、裁判所は捜査段階では弁護の必要性の程度まで具体的には見えませんけれども、しかし複数選任の必要がありそうだというようなことは分かることがある、分からなければしょうがないわけですけれども、分かるような資料が出てくることもあり得るわけですから、それが出てきても1人にしなければいけないということにはならないのではないかと思いますので、B案でいいのではないかと思います。

○ 井上座長 ほかにこの点で、どうぞ。

○ 本田委員 先ほど浦委員の方から、現在でも捜査段階は3人に制限されていることを超えてやることがあるではないかとおっしゃいましたけれども、あれは、私選弁護人について特に選任権を制限しているわけで、そうすると特に必要がある場合もあり得ることから例外を認める規定が置かれているわけでしょう。
 公的弁護制度による選任できる人数については、やはり立法政策の問題として、裁判所の判断の困難性も考慮してどのように検討すべきかという問題で、私選弁護人の制限の問題とはちょっと違うのではないかという気がします。

○ 浦委員 私が申し上げたのは、裁判所が判断しにくいのではないかと、捜査段階の弁護活動の必要性について判断しにくいのではないかとおっしゃったことに対して、現在でもその辺は裁判所が判断なさっておられるのではないかという例として挙げさせていただいたのです。

○ 井上座長 前提としての制度が違うということは当然でということですか。

○ 浦委員 もちろん当然です。

○ 大出委員 先ほど来の各委員の御意見の中にもありましたが、私も、捜査段階で1人では足りない場合というのは当然あり得るだろうというふうに思っているわけで、髙井委員は接見ばかりやっていればいいというようなことではないんだというふうにおっしゃいましたけれども、もちろんそうですけれども、接見という場合であっても、やはり今の実情からすれば、その事件いかんによっては、1人では賄い切れない場合というのは当然あり得るだろうと思いますし、弁護の遺漏なきを期するということでいけば、やはりそれはあってしかるべきだと思いますし、その場合に弁護人の申出だけということでいいのかというのも、私は疑問があると思うのです。
 もちろん、これは自分で選べれば別ですけれども、そうではないわけですから、ただ代えてもらうということももちろんあるかもしれませんけれども、事件が複雑だったような場合に、被疑者の方から請求があるということだって当然あり得るというふうに思うのです。ですから、そこの途を排除するということにしなければいけないのかどうかというのは、ちょっと私は疑問があると思うわけで、それはその可能性というのは是非残しておくべきだろうと思うのです。
 あと、さっき本田委員がおっしゃったこととの関係なのですが、私選の場合には1人しか選べない場合があるのではないかとおっしゃるのですが、ちょっとこれはこの項目のところで、ほかでは多分出てこないかなと思いますのが、私選の場合、つまり資力との関係で、私選をともかく1人雇ったけれども、事件の内容からして1人ではやはりできないという場合はあり得るわけですね。そのときに、おまえは私選を1人選んでいるのだから、それ以上は付けられないという議論は、むしろおかしいわけで、事件によってはプラスして公的弁護人を1名付けるということだって、あったっておかしくないはずだと私は思うので、そのこともどこかで議論する必要があるのではないかという気がするのです。
 それは髙井委員はけげんな顔をしていますが、事件の性格からして弁護人が2人要る場合があるということでいけば、当然そういうことがあってしかるべきだというふうに私は思うのですが。

○ 井上座長 ほかに御意見は。

○ 浦委員 今の大出委員の御意見は、もっともな面もあるかと思っております。
 それとは別に、例えば裁判員裁判を前提として、連日的開廷というようなことをイメージした場合には、やはり弁護人というのは、公判段階では少なくとも複数の弁護人が必要だろうと、検察側は事務官だとか、警察という非常に強力な支援体制というのがあるわけですけれども、先ほど髙井委員が言われたように、弁護側には弁護士自身が動かざるを得ないというふうなことがありますので、裁判員裁判で連日的開廷が行われたときには、当然のこととして複数の弁護人が選任されないと弁護側の準備というのはおぼつかないことになるような気がします。
 その前段階の被疑者段階についても、同様であって、裁判員裁判の対象となるケースには、複数の弁護人がどうしても必要になるように思われるわけです。そういう意味でも1人に限るという議論というのは、到底採り得ないのではないかと思います。

○ 平良木委員 国選弁護の場合でも、特別案件と言われるものがあって、複数の弁護人を選任しなければいけないという場合が出てくる。これと同じようなことが、もし捜査段階でも出てくるのだとすると、それを1人でなければいけないという議論で制限をしてしまうというのはいかがなものかという気がします。
 ですから、原則は1人でいいのだけれども、例外的に幅を持たせて、場合によっては、複数付けられるような制度にしておいた方がいいだろうということです。

○ 井上座長 ほかにこの点について御意見は。どうぞ。

○ 落合参事官 たたき台の「第2 請求による選任制度」の2の選任要件として「(3) 被疑者以外の者が選任した弁護人がないこと」という要件を掲げまして、これについては御異論がなかったと思うのです。
 そうしますと、複数選任可と言われる方は、その要件との関係をどう整理されているのかお教えいただければと思います。

○ 井上座長 請求による選任のところは、前提要件として、弁護人がいないことというのを掲げていて、その点については特に異論はなかったのではないか。そうだとすると、それとの関係をどう整理するのかということですね。具体的には、どういうことでしょうか。例えば、弁護人がいないと3人選任してもらえるが、いると1人しか選任できないということになるのか。そこの理屈はどう説明するのかということでしょうか。

○ 髙井委員 そこはちょっと次元が違うと思うのですね。平たく言えば、私選だと1人しか頼めないのに、お金がない人が何で3人、場合によっては5人頼めるんだということだと思うのですけれども。それはそれでやむを得ないと。
 では、私選の場合は1人で頑張るかというと、1人で頑張る場合もあるし、どうしても頑張り切れないと思えば、それは今、浦委員が言われたように、1人の弁護報酬で3人、4人で頑張るということになるわけですね。
 逆に言うと、国選ではそういうことはあり得ないわけだと思います。やはり、そこは依頼人との信頼関係がきちんとある私選弁護の世界と、そういうもののない国選の世界というものを等置するというか、横に並べて考えるのは、やはり、考えなければいけない場合もありますけれども、常にそれでいくというのはどうかなと思いますね。やはり私選には、私選の信頼関係に裏打ちされた独特の世界というものがあると思いますね。

○ 井上座長 落合参事官が、何か整理する理屈を示してほしいと言われたのは、公費が使われるわけですので、そこの部分をどう説明するのか、ということだろうと思うのですが。

○ 池田委員 現在の被告人の場合でも同じですね。結局被告人になぜ複数の国選弁護人を付けられるかというと、1人でも弁護人がいればいいけれども、いない場合に国選弁護人の請求があったら付けざるを得ないわけですね。事案によっては、1人では無理だろうということがあって複数の弁護人を付けているわけです。そこは確かに今、髙井委員が言われたように、この人1人に、この人に頼みたいのだという人に対して、特段の事情もないのにもっと別な人を付けるというようなことはできないでしょうけれども、国選というのは、そういう信頼関係がない場合を前提とされているからということではないでしょうか。
 あと、お金の関係は、私選であれば、1人に対して例えばものすごい金額を払って、その人を24時間、この被告人だけのために活動させるということはできるわけです。しかし、公費で弁護活動をさせる場合には、到底できないのではないかと思います。それがもしできるのだったら、それはその1人で構わないと思うのですけれども、例えば常勤弁護士1人を張り付けにして、他には何もやらせないということができるのだったら、きっと更に複数付けろということにはならないと思うのですけれども、もしそうではなくて、ある程度の時間しかその被疑者の弁護活動をできないとしたら、やはり事件によっては複数要るという場合があり得るのかなと思うのですけれども。

○ 髙井委員 だから問題じゃないかと、そういう問題としてしか理解できないのですけれども。

○ 井上座長 問題というより、説明が必要なのではないかということだと思うのです。

○ 髙井委員 弁護士を頼む金のない被疑者がいると、しかし、その人の弁護は1人ではできない、だから3人付ける、それで理屈は立たないですか。

○ 井上座長 私選の場合には自分で払うわけでしょう。それとの比較を問題にされているのだろうと思います。

○ 髙井委員 だから、私選との比較をすること自体がおかしいのではないか。国選は国選の世界でちゃんと3人付ける理屈が立てば、それで金が出る理由も説明がつくのではないかということです。

○ 井上座長 説明をちゃんとすれば理屈が立ったということになるかもしれませんが、その理屈とはいったいどういうものでしょうか、ということを聴かれたのだろうと思うのですけれども。

○ 落合参事官 そういう趣旨でのお尋ねです。

○ 井上座長 ほかにこの点について、御意見はありませんか。よろしいですか。それでは、ここで10分間の休憩を入れたいと思います。

(休 憩)

○ 井上座長 それでは、再開させていただきます。
 次は、第4の「2 管轄区域と選任できる弁護士の制限」という点ですが、この点について御意見をお伺いしたいと思います。いかがでしょうか。どなたからでも、どうぞ。

○ 髙井委員 これは、私はB案で、管轄区域の制限を廃止するというのが妥当であろうと思います。弁護士の配置が均一になっていないわけですから、それを有効に活用するということになれば、管轄の制限があったままではそういうことはできないわけで、そういう意味で管轄の制限は外すべきであると思います。

○ 井上座長 分かりました。どうぞ。

○ 土屋委員 私も同じ意見で、管轄を制限するという現状は窮屈過ぎると思います。特に地域によって、本当に弁護士さんが少ないところは多いわけですから、そういうところはこれがはまっていると公的弁護の制度がうまく機能しないのではないかと、そういう心配がございます。

○ 井上座長 ほかの方はいかがですか。どうぞ。

○ 池田委員 私は、A案です。被疑者段階での公的弁護のために、管轄区域の制限なく付けなければいけないという事態が生じますので、その範囲では、今の制限というのは撤廃の必要があると思いますが、29条1項というのは国選弁護も同じことになるわけですね。

○ 井上座長 公判段階ですね。

○ 池田委員 公判段階、被告人段階での弁護も同じですので、そこの辺りを考えると、この29条1項というのはそれなりに合理性はあって、上級審等の場合も同じ問題があり得ますので、29条1項自体を全部なくすということは必要ないのではないかと思います。公判段階で被告人の国選弁護人の選任にどこから選ぶかとなると、それはその土地の人を選ぶのが普通なわけですから、そういうものは残しながら、今回の常勤弁護士あるいは契約弁護士がどこにいるかによっては、全国的に広く弁護活動をせざるを得なくなってくると思いますので、それに応じた措置はしなければいけないのだろうと思います。

○ 井上座長 そういう御意見ですが、どうぞ。

○ 本田委員 私もA案でいいのだろうと思います。要するに、なかなか対応できない区域というのは、やはり常勤弁護士とか、契約弁護士で柔軟に対応できるようにしておけばいいわけで、この規則の29条1項自体を廃止する理由はないだろうというように考えます。

○ 井上座長 いかがですか。

○ 浦委員 私は、全廃ということまでは問題かもしれないなという気はしているのです。と言いますのは、それぞれの地域単位で国選弁護事件をそれぞれの弁護士会が担当していくという原則というのは、やはり一つ必要になるかなと思います。これは弁護士サイドの発想なのですけれども。このような意味で管轄地域というのは必要になるかなという気もいたしますが、ただA案のように、常勤弁護士、契約弁護士についてのみ例外を認めるというのでは余りにも狭過ぎると思います。近隣の隣接する弁護士が相互に助け合うといいますか、国選弁護にかかわるということは当然あり得ることだと思います。
 さらに、先ほど池田委員のおっしゃったように、上訴審、高裁・最高裁においては、むしろこの規定は邪魔で、地域の弁護士ではなくて、もともと一審を担当した、あるいは控訴審を担当した弁護士がかかわるというのがいい場合もあります。そういうことからしますと、規則の規定は廃止はすべきだけれども、何らかの形で地域の弁護士からの国選弁護人の選任を基本とできるような、そういうふうな制度も考えておく必要があるのかなと思います。つまり結論として、A案でも、B案でもなくて、その中間的なC案というぐらいの意見になるのかもしれません。

○ 井上座長 廃止を前提としながら、どういうものがあるのですか。維持しつつ、特に必要があると認めるときは、例外を認めるとするのでは、まだ足りないということなのでしょうか。

○ 浦委員 そうです。まだ具体的な案までは考えてはいないのですけれども、そういうことも考えられるかと思います。原則的には廃止という方向にはなるのだと思いますけれども。

○ 井上座長 ほかの方はいかがですか。よろしいですか。
 次が、「3 同一の弁護人による数人の被疑者の弁護の可否」という点ですけれども、この点について御意見があれば。

○ 酒巻委員 今日は、なかなか決断ができないところが多くて、ここでもどなたかに実務の事情を教えていただいてから判断したいと思います。
 先ほど落合参事官の御説明にあったように、この点について参考になる制度として、被告人の国選についての規則29条2項があります。もし既にある被告人の国選弁護に関する仕組みを裏付ける事情と、捜査段階の被疑者についての事情とが基本的に異ならないのであれば、利用できる仕組みは利用した方が全体の法制度として一貫すると思うわけです。
 そこで、29条2項を見ますと、複数の被告人の利害が相反しないときには、同一の、つまり1人の弁護人で数人を担当してもらっても構わないとされている。この趣旨は恐らく一つは、利害が反しないならば、多くは共犯事件の場合だろうと思いますが、その方が効率的であろう。それから1人で済むというお金の面もあるのではないかと思われます。
 問題は、捜査段階では、被疑者間の利害が相反するか、しないかというのが、そもそも被告人段階と大きく違っていて、そんなにはっきり分からないということであれば、ここは事情が違うので、やはり個別にということになるでしょう。一方で、これは全く私の想像なのですが、被告人の国選弁護を決めるのも裁判が始まる前ですから、利害が相反するかどうかというのは、そんなにはっきりしないのではないかという気もするのです。その辺りの実情はどうなのかをどなたかに御教示いただければと思います。
 そして、被告人段階に比べて捜査段階では圧倒的に利害状況の判断が難しいということになるのであれば、これはやはり現在の規則とは異なり、1対1対応が望ましいということになるのではないかと考えております。

○ 髙井委員 まず、利害が対立するかどうかは、やはり捜査段階と公判段階では決定的に違う。公判段階はもう筋が決まって、証拠関係もはっきりしているわけです。当然公判も流動性がありますから、途中で変わっていくことがありますが、定型的に言えば、公判段階では利害関係が対立する、あるいはしない、これは基本的にははっきり判断できる。
 ところが、捜査段階は、判断できる、できないではなくて、利害関係がどのようになっているかすらまだ分からない。判断の問題ではなくて、実態として利害関係がどうなっているか自体がまだ動いている、つまり、実態自体が混沌としているわけです。そういう場合に利害関係が対立するかどうか判断しろといっても、これはおよそ無理というふうに言うべきだろうと思うのです。
 ですから、原則論は当然1人が1人、1対1対応にすべきだと思うのです。
 では、1対1対応にしたときに、数が足りるかという問題があるわけです。地方で大規模事件が起きたと、被疑者の数が多いというときに、それに対応できるかという問題があって、やはり例外規定は置かなければしょうがないかなと。どうしてもいろんな事情で1人だけでは数が足りないとか、あるいは例外的に利害関係が対立しないとはっきりしているとかという場合には、1対1対応ではなくても複数対応が可能というような途は開いておかないと、ちょっと実務が動いていかないかなという感じは持っています。

○ 浦委員 髙井委員と同意見です。地方で大規模事件とおっしゃいましたが、例えば、島根県で密入国者が何十人も逮捕されるという事件が発生したという場合、利害相反というのはほとんど考えられない事案ですが、そういう場合にもそれぞれ関連する数人の被疑者の弁護を1人の弁護人ではできず、被疑者ごとに弁護人を付するということになると、大変な数の弁護士をどこかから持ってこないといけないということになります。それはやはり合理性に欠けるのではないかと思います。
 したがって、髙井委員がおっしゃるように、原則はそれぞれ被疑者ごとということになりますけれども、その例外は常に置いておく必要があるので、結局は現行法29条2項の規定のままでいいのではなかろうかと思います。

○ 井上座長 分かりました。ほかの方は、どうぞ。

○ 本田委員 利害相反かどうか、捜査段階では極めて判断が困難だというのは、そのとおりで、これはやはり1人の被疑者に1人の弁護人というように付けておかないと、やはり後で困った状況が生じてしまうと思うのです。
 今、対応の問題がちょっと出たのですけれども、集団密入国事件が対象かどうかは別としまして、やはり捜査段階の利害相反は、当初相反しなかったものが、途中で供述状況が変わったりして、また相反したりということが想定されるので、そこは常勤弁護士とか契約弁護士とかで補完していくことを考えるほかないのではないでしょうか。判断が難しいのだけれども、対応できないから、そこは目をつぶるというのはどうかと思います。そういう議論になってくると、やはり対応できるような事件を対象にしてやるしかないのではないかという話になると思います。

○ 井上座長 この点、更に付け加える御意見があれば、どうぞ。それでは、この点はよろしいですか。
 先ほど選任できる人数の関係で議論がありましたけれども、もう一点問題があるのではないかという指摘を受けました。それは、請求による選任の場合だけでなく、職権による選任などの場合も、弁護人がないことというのが要件になっていますので、そうすると、その要件との関係をどう整理するのか問題があるということです。先ほども例を挙げましたけれども、最初に公的弁護人を選任してしまうと、その要件が障害になって、付加的に2人目、3人目が付けられないのではないかという問題があり得るものですから。そういう問題があるということも念頭に置いて今後議論していただければと思います。
 次は、「第5 公的弁護制度下での弁護人の選任の始期及び選任の効力の終期」というところですが、これについて説明をお願いします。

○ 落合参事官 「第5 公的弁護制度下での弁護人の選任の始期及び選任の効力の終期」について御説明申し上げます。
 ここでは、「1 公的弁護制度下における被疑者に対する弁護人の選任の始期」及び「2 公的弁護制度下における弁護人の選任の効力の終期」のほか、終期にかかわる問題としまして、「3 公的弁護制度下における弁護人の解任」を掲げ、更に「4 選任の効力が及ぶ事件の範囲」をも論点として採り上げております。
 「1 公的弁護制度下における被疑者に対する弁護人の選任の始期」につきましては、A案として、被疑者に対する弁護人の選任の始期は逮捕段階からとし、逮捕された被疑者に弁護人選任請求権を付与するものとするとの案、B案として、被疑者に対する弁護人の選任の始期は勾留段階からとし、勾留請求された被疑者に弁護人選任請求権を付与するものとするとの案を併記しております。また、A案及びB案とも対象事件を身柄拘束されたものに限ることを踏まえ、弁護人選任前に釈放された場合には、弁護人を選任しないものとするとのただし書を付けております。
 「2 公的弁護制度下における弁護人の選任の効力の終期」につきましては、(1)公訴提起、これは公判請求及び略式命令請求でありますが、公訴提起がなされた場合、(2)公訴提起されずに釈放された場合、(3)家裁送致された場合の三つの論点を掲げ、それぞれ選択肢を併記しております。
 次に、「3 公的弁護制度下における弁護人の解任」につきましては、四つの論点を掲げております。(1)解任権の主体は、公訴提起前は裁判官とし、公訴提起後は裁判所又は裁判長とするとの案を記載しております。これは、公的弁護制度の選任権者が公訴提起前は裁判官、公訴提起後は裁判所又は裁判長という整理になると考えられますので、解任権の主体もこれと同じ整理としたものであります。次に、(2)解任請求権は、被疑者・被告人又は弁護人は、正当な理由がある場合には、弁護人の解任を請求できるものとすべきであるとの御意見が述べられたところでありますので、そのような請求権を与えるかどうかという問題提起を行っております。(3)解任への弁護士会の関与は、第4回検討会におきまして、解任に弁護士会が関与することも考えられていいのではないかとの御意見がありましたので、これについてどのように考えるかという問題提起を行っております。(4)解任事由は、第4回検討会において、裁判所による弁護人の解任事由を組み込むとのアイデアが出され、また、第7回検討会のヒアリングにおきまして、解任事由を明確化すべきであるとの意見が述べられたところでありますので、これについてどのように考えるかという問題提起を行っております。このうち、(3)解任への弁護士会の関与及び(4)解任事由について積極に考える場合には、具体的な弁護士会の関与の在り方、具体的な解任事由の在り方について案を出していただき、具体的に議論をしていただく必要があろうと考えております。
 次に、「4 選任の効力が及ぶ事件の範囲」としましては、(1)別の被疑事実で身柄拘束された場合及び(2)追起訴された場合の二つの論点を掲げております。
 (1)別の被疑事実で身柄拘束された場合は、第4回検討会において、事件単位か人単位かという形で議論された論点であり、A案として、新たに身柄拘束された被疑事実について弁護人となるには、当該事実につき選任命令を得ることを要するものとするとの案、B案として、新たに身柄拘束された被疑事実についても、弁護人としての地位を有するものとするとの案を併記しております。A案が事件単位の考え方、B案が人単位の考え方ということになろうかと思います。
 なお、A案を採る場合には、一度選任要件の審査が行われている場合に、再度同じ審査を行う必要があるかどうかという点が問題になるように思われますので、その点についてどのように考えるかにつきましても、御意見をいただきたいと存じます。他方、B案を採る場合には、既に選任されている弁護人が、差し支えなどにより、弁護活動ができない場合の取扱いが問題になると思われます。また、第4回検討会における議論では、捜査段階で弁護人が選任され、起訴後、別の被疑事実で身柄拘束された場合が念頭に置かれていたと思われますが、起訴後すなわち公判段階で弁護人が選任された後、別の被疑事実で身柄拘束された場合も同じ問題が生じ得ますので、その場合も同じ取扱いとするのか、例えば、必要的弁護事件で、貧困要件の審査もないまま選任されている場合にも当然に効力を及ぼすのかという問題があろうかと思います。さらに、対象事件について、罪名による限定をする場合に、効力が及ぶ事件の範囲をどのように考えるか。選任の始期について、勾留段階からとの案を採る場合に、効力が及ぶ時期をどのように考えるかなどの論点もあろうかと思います。本論点につきましては、このように関連する論点にも目配りして御議論をいただきたいと存じます。
 次に、(2)追起訴された場合につきましては、同一裁判所に公訴が提起され、かつ、これと併合された他の事件についてもその効力を有するものとし、裁判所がこれと異なる決定をしたときは、この限りでないものとするかどうかという問題提起を行っております。本論点に関しましては、昭和27年11月14日の最高裁判例があり、最初起訴された必要的弁護事件につき、被告人のため付した国選弁護人の弁護権は、裁判所の別段の意思表示もなく、被告人及び右弁護人に何ら異議がない以上、その被告人に対し、追起訴された先の事件と併合審理された他の必要的弁護事件にも及ぶものと解するのを相当とするとされているところであります。私選弁護人の選任の効力が追起訴事件に及ぶかどうかという問題につきましては、刑訴規則18条の2に定めがあり、実務においては、昭和27年の最高裁判例も踏まえ、必要的弁護事件の範囲にとどまらず、本起訴事件又は追起訴事件が任意的弁護事件であっても、刑訴規則18条の2を類推適用するという運用が行われているようであります。ここでの問題提起は、公的弁護の場合に関し、刑訴規則18条の2に相当する明文の規定を設けるかどうかということになろうかと思われますが、仮にそのような規定を設けるべきであるとの見解を採る場合には、ただし書において、どのような要件で併合された追起訴事件に選任の効力を及ぼさないものとするかについても御意見をいただきたいと存じます。つまり、たたき台に記載しましたように、裁判所がこれと異なる決定をしたときだけでよいか、最高裁判例のように、被告人及び弁護人に何ら異議がないことをも要件とするかという問題であります。
 「第5 公的弁護制度下での弁護人の選任の始期及び選任の効力の終期」に関する説明は、以上でございます。

○ 井上座長 ありがとうございました。それでは、まず「1 公的弁護制度下における被疑者に対する弁護人の選任の始期」について御意見をいただきたいと思います。
 いかがでしょうか。既に1ラウンド目でかなり御議論が出たところなのですけれども。どうぞ。

○ 本田委員 これは、B案にすべきであろうと考えております。逮捕段階と勾留段階では身柄拘束期間にもともと相当の違いがあるわけです。ごく短時間の身柄拘束しか予定されていない逮捕段階よりも、一定期間の身柄拘束が予定されている勾留段階の方が弁護人を選任する必要性ははるかに高いのだろうと思います。
 もう一つは、実際的な理由ですけれども、逮捕段階という厳しい時間制限の中で、被疑者の請求あるいは選任要件の審査、弁護人となるべき弁護士の確保、選任命令の発付など所要の事務を全国的に遂行するということは、裁判所とかあるいは捜査機関、弁護士会等の現実の対応能力からして難しいのではないか。
 そういうことを考えると、勾留審査の際に、裁判所が併せて選任請求の審査を行うとするのが、現実的な選択肢であろうと思います。

○ 酒巻委員 私は、第1ラウンドと同じ意見で、理想型としてはA案、つまり、逮捕のときから国選弁護人請求権を認めることが望ましいと考えておりますので、その理由を述べます。
 身柄拘束された人の基本的な権利を定めた憲法34条の規定は、「抑留」・「拘禁」という言葉で、逮捕と勾留の区別なく、身柄を拘束された者に弁護人を依頼する権利を認めている、その拘束期間の長短とか種類は区別していないわけです。こういう憲法の趣旨を受けて、立法政策ではありますけれども、公的な被疑者の弁護制度を設計するに当たっては、やはり拘束の最初の部分である逮捕段階から請求権を認めるというのが、立法政策として望ましい形だと思っています。
 確かに、本田委員がおっしゃったように、逮捕と勾留では拘束の時間が異なるわけですから、逮捕段階は時間が短いので弁護の必要性も小さいという見方もあり得るとは思います。しかし、弁護人の援助を受ける権利の必要性というのは、拘束時間の長さとは直接関係ないという見方も可能だろうと私は思います。身柄を拘束された人になぜ弁護人の援助が要るかと言えば、要するに身柄の自由を奪われて、外界から遮断されて自分では防御活動をすることができない、そういう状態にある点こそが弁護人の援助を受ける必要性を基礎付けていると思われる。そうだとすれば、拘束期間の長短とは関係なく、弁護人の援助の必要性は逮捕と勾留で区別はできないだろうと思います。
 さらに、先ほど浦委員もおっしゃったように、最初に身柄拘束されて外界と遮断されてしまったとき、つまり、逮捕の段階こそ、被疑者の権利や、今後の手続はどうなるかということも含めて助言を受ける、あるいは外部との連絡をとるといった防御活動にとっての弁護人の必要性は、より高いのではないかとさえ言えるように思います。ですから、理想としては、やはり逮捕段階から請求権を認めるべきだと考えています。
 これまで、ヒアリング等で、逮捕段階における迅速な捜査の必要性とか、あるいは選任手続を設けることの困難など、実務的・技術的にいろいろな問題があることが指摘されました。それを弁護の必要性と合理的に調整しなければいけないというのは、そのとおりだと思うのですけれども、しかしそういうことがあったとしても、逮捕段階の請求権を認めないとする決定的な理由にはならないと私は思っております。
 なお、仮に、立法政策的な判断として、あるいは実務技術的な理由から、請求権の始期を勾留段階にするという途もあるとは思いますが、その場合には、勾留段階での選任手続が迅速、的確に進むように、当然ながら法律の中に選任請求権があるのだということを告知し、請求手続を教示する等の十分な手当てをして、選任請求ができる限り速やかにいくようにする必要は絶対にあると思います。以上です。

○ 井上座長 分かりました。ほかの方は、いかがですか。

○ 樋口委員 本田委員と同旨でございます。もう既に説明を申し上げたわけですけれども、逮捕段階の48時間というのは、実務の実態を見ていますと、基本的に48時間ということはございませんで、1日ないしは1日余りというのが実態のようでございます。というようなことからして、現時点では、選任手続がどういった手順で、手続の流れに入ってくるのかというところがまだ明らかではないのですけれども、基本的には、そのような手続を逮捕段階で行うことは、非常に厳しい、難しいのではないかと存じます。

○ 井上座長 ほかの方は、御意見はいかがですか。

○ 髙井委員 理想的には、酒巻委員が言われたとおりだと思うのです。ただ、いろんな制約があるわけで、特に実際の運用では、逮捕して48時間身柄を拘束しているということはほとんどなくて、今、樋口委員がおっしゃったように、1日あるいは1日ちょっとぐらいで送致されてくる。そうすると、仮に逮捕段階で選任を認めても、実際に機能するのかと思うのです。絶対に機能しないとまでは言えませんが、余り機能するとは思えないという気がします。そういうようなことと、いろんなことを考えますと、B案でいくしかないかなというふうに思います。
 もう一つは、やはり逮捕だけで釈放される場合も結構あるわけですから、やはり逮捕段階と勾留段階では決定的な差があるのではないかなと。限られた人的資源や金銭的資源をどういうふうに配分するかという観点からいうと、まず勾留段階に集中的に配分すべきではないかと思うわけです。以上です。

○ 池田委員 逮捕段階、特に身柄拘束の最初の段階で被疑者が弁護人の援助を受ける権利というのは、大変重要なことであることは疑いのないことなのですが、それを前提としても、逮捕段階で裁判官が要件等を審査して選任するということが果たしてできるのかという、これは実際的な制約から、やはり逮捕段階からというのは困難ではないか、勾留段階からということにせざるを得ないのではないかと思います。

○ 井上座長 どうぞ。

○ 大出委員 前回と一緒ということでいくとあれなんですが。

○ 井上座長 もちろん、発展的に変わっていくのは、全然構わないと思うのですけれども。

○ 大出委員 前回と同じく酒巻委員を支持する意見ということになるのですが。いずれにせよ、私も、酒巻委員が先ほどおっしゃったことに前回も賛成したと思いますが、今回ももちろん賛成するわけで、あとそういう理念的な考え方は前提としながら、実質論としていろいろと、そうはいってもという御議論があったわけですけれども、実質論ということで言ってみても、やはりここの逮捕段階での弁護の必要性というのは、やはり実質論から言っても否定できないというのが、これまでの経験的な事実ではないかなというふうに私は思うのです。
 もちろん、その数というのはそんなに多いという部分もないわけではないかもしれませんけれども、やはり弁護の必要性というのは、その段階というのが重要だという認識は、この間、高まってきていることこそあれ、必要はないという議論にはなっていないと思いますので。
 もう一つは、弁護士の方たちの対応態勢ということで考えた場合にも、もちろんこれは確かに場面が違うわけですが、なかなか時間的に、例えば今の当番弁護士でも確かに24時間という形ではなくて、48時間以内というようなことにしているということも確かにある、そういう対応態勢の中で可能かという問題であるということになるのかもしれませんけれども、しかしそこはやはり必要性ということを前提に対応態勢をつくっていただくということを考えざるを得ないわけで、論理と言えば論理ですけれども、そこは時間がないから付けなくていいというのではなくて、付ける必要があるのだからそこは対応してもらうしかないという論理でいかないと、理念的には筋が通らないということになるのではないかと思っています。

○ 浦委員 私も、逮捕段階から弁護人が選任されるという制度にするべきだと思います。
 弁護の中身から申しまして、逮捕段階の弁護として大変重要なのは、勾留却下に向けての弁護活動なのです。つまり、勾留却下に向けていろいろ条件を整備して、勾留請求に当たって、検察官あるいは裁判所とるる折衝した上で、勾留請求をさせない、勾留請求されても却下させると。さらには、不当な勾留がなされた場合に、直ちに準抗告をして、不当な勾留を是正させるという活動です。これは勾留段階から弁護人が選任されたのでは、こういう活動を直ちにすることは難しいと思います。
 このように勾留時説を採った場合には、弁護活動として極めて重要なものの一つである勾留却下に向けての活動が抜け落ちてしまうことになりますので、そういう意味では、逮捕時に弁護人を付け、重要な弁護活動に十分関与できるような、そういう体制が取られるべきだと思います。

○ 井上座長 ちょっと酒巻委員に質問なのですけれども、逮捕時説でいくと、選任のための手続というものを新たに設けるということになりますね。勾留時説は、勾留審査と一緒にやれるという点がおそらくメリットなのですけれども、逮捕時説の場合、理屈の上では逮捕後の48時間あるいは72時間の間に、しかも実態としてはもっと短い期間内に、そういう手続を設けるということの難しさが指摘されているわけですが、その点については、どのようにお考えですか。

○ 酒巻委員 座長の御指摘は、一つの重要な技術問題だと思います。私のさっきの議論から言うと、身柄拘束された人の弁護人の援助を受ける権利をできる限り早い段階でという観点から言えば、選任のための手続も逮捕留置の間に組み込んで、裁判官のところへ引致して判断を求める手続を設けるべきだということになるのだろうと思います。それは、無駄、時間的制約から難しいという議論があるのはもちろん承知していますけれども。

○ 大出委員 身柄拘束する場合の令状発付については、やはりやっているわけですね。これは、短い時間で、警察側はどういうスパンでお考えになってやっていらっしゃるかは分かりませんけれども、そこは裁判所がおやりになっているわけですから、正にそれと拘束との関係でいって、そこはある意味では盾の両面みたいな感じがするわけで、是非それは考えてやっていただくということで仕方ないだろうと思いますが。

○ 池田委員 身柄拘束の前の段階というのは、かなり長いわけですよ。

○ 大出委員 いやいや、でも令状審査自体は、短期間のうちに裁判所はおやりになっていらっしゃるわけですから、24時間体制でおやりになっていることだってあるわけですし。

○ 井上座長 令状審査それ自体については、時間的制限がないのではありませんか。

○ 大出委員 ないですけれども、実際に裁判所の場合はできるだけ速やかに対応すべく御努力されているというふうに私は思いますし、現に令状当番を決めていらっしゃるわけですし、そこでおやりになっている方法と、つまり拘束という重要な手続についての審査の方法との関係からいけば、十分可能だというふうに私などは思うという意見です。

○ 平良木委員 逮捕については、逮捕状を請求するときにいろいろ資料等を収集しているわけです。それで、逮捕状が発付される。ところが、その段階で弁護人を選任するとなると、改めてその時点で、公的弁護人を選任するかどうかということについての資料をそろえなければならないということになるわけですから、結局その段階から資料集めが始まらざるを得ないということになってくると思うのです。
 そうすると、やはり一定の時間が必要ですし、それについて、どこでまた判断するかという問題もあり、先ほどの樋口委員の話ではないですけれども、かなり時間的な制約があるのだとすると、これはむしろ勾留請求の段階で、それに合わせて全部審査させる方がいいのではないかということになるわけです。

○ 大出委員 余りしつこくやるつもりはないのですが、ただその場合であっても時間的な関係からいって、今の御主張だとどうして勾留段階だと十分になって、逮捕段階だと十分ではないということなのか、よく分からないのですが。

○ 平良木委員 貧困要件等を判断するためには資料を集めなければいけませんね。

○ 大出委員 だからといって、逮捕段階を徒過した段階で、直ちに勾留審査つまり勾留審査にどの程度時間をかけてどう判断するのかという問題にかかわると思うのですが、その判断の時間自体は、そんなに変わらないと思うのです。準備期間ということを想定されているのかもしれませんけれども、ただ準備期間といっても、先ほどのお話からすれば、逮捕の段階で48時間かけてその準備をするということでは必ずしもないと思うのです。

○ 平良木委員 確かに48時間全部かかるということはないにしても、無資力要件について、例えば被疑者にいろいろ質問したりして、資力がないということを一定の形で証明させるわけですね。その手続にも時間がかかるのではないかと。そうすると、やはりタイムラグというのが出てくることは当然のことだろうということなのです。そのときに、そこのところで時間を取るのがいいのか、あるいは48時間なら48時間という時間を取った上で、勾留審査の段階でやるのがいいのかと、こういう問題だと思います。
 私も理屈というか、理想の形で言えば、できるのだったら、酒巻委員の案ということを思わないわけではないけれども、やはり現実の問題として、どこでやるのが一番いいかというと、やはり勾留請求の段階までに資料を集めて判断するのが無駄もなくていいだろうと、こういう趣旨です。

○ 井上座長 勾留審査までの時間に手続を入れることが適切なのかどうかと、そういう御議論でしょうか。

○ 本田委員 平良木委員と同じ話になるのですけれども、例えば48時間と言いますけれども、そんなに時間があるわけではないというのは樋口委員の方から言われたとおりで、例えばその間に裁判官のところに連れて行って、そういう手続をやる時間というのは、ほとんどないと思うのです。
 例えば、逃亡している被疑者を夜中に逮捕して連れてきて、それで弁解を聴いて、その弁解を聴いて裏付けを取ったり、すばやくいろいろするわけです。場合によっては、釈放しなければいけないかもしれないわけです。勾留に耐えられないとか、身柄を放すかそのまま拘束を続けるかという重要な作業や判断を短時間でやらなければいけないときに、裁判所あるいは裁判官が夜中に令状を請求するみたいに連れて行け、あるいは裁判官の自宅に連れて行けというようなことは、現実問題としてできないのです。捜査の裏付けができなかったりして、かえってそのために釈放すべき被疑者が釈放できなかったり、そういうようなことにもなりかねないと思います。
 もう一つの問題は、弁護士の方の対応が逮捕時点から本当に可能なのだろうかと。これは、確か当番弁護士制度に関する統計だと思うのですけれども、平成13年でちょっと古いのですけれども、接見までに48時間以上を要した事件が出ていて、2,200 件ぐらいあったと思うのです。やはりそういう状態の中で逮捕段階からというのは、現実的に無理だという気がします。
 もちろん、付けられるものなら付けた方がいいということ自体を否定する気は毛頭ないわけですけれども、現実に運用できないような制度をつくっても仕方がないのではないかということです。

○ 井上座長 ほかに、どうぞ。

○ 樋口委員 審査がちゃんとできるのか、その準備が整うのかといった御指摘と、今、更にそれに加えてのお話があったわけですが、更に加えて、押送・逆送というのか、用語はあれでございますけれども、身柄があるわけですから、身柄の押送・逆送となりますと、通常最低3人の態勢を組んで連れていくわけです。これは、都市部と田舎の方とで、また、警察署の所在地と裁判所の所在地の相互の関係などで事情は違うでしょうが、どう考えても最低半日仕事にはなります。これを実質1日か1日余りの時間の中に、この半日はどうしたって入らないのではないかという事情もあろうかと思います。

○ 大出委員 余りしつこくやるつもりはないのですが、本当に実務的にどうしても時間が必要でということの中で、手続を入れるのが無理だというのであれば、それはそれで確かに御主張のとおりだという側面があるかもしれない。
 ところが、先ほど浦委員が別のところで指摘された、つまり逮捕されて6時間で自白させられている、それが明らかに虚偽の自白であったというケースはあるわけですね。これは、もちろんレアケースだという御主張もあり得ると思いますし、私も日常的にそういうことが起こっていると言うつもりはないわけですけれども、しかしなぜ逮捕段階から弁護士の援助ということを言うかといえば、やはりそういうケースが残っている、又は残る余地があるということをどう見るのかという問題だと思うのです。ですから、そうだとすれば、そのための手続を用意するということにせざるを得ないだろうというのが私の考えるところではあるのです。

○ 井上座長 具体的には、どういう手続ですか。

○ 大出委員 ですから、先ほど言ったように選任手続ですね。

○ 井上座長 御指摘のようなことのないように早く付けるとすると、どういう手続を組めばいいという提案ですか。

○ 大出委員 ですから、先ほどちょっと出たように、実際に問題なのは、弁護人を付けることができる要件があるかどうかということになりますね。その要件のチェックをする必要がある、それは裁判所がするということになるわけですから、もちろん裁判所に人を引致するというようなことでチェックをかける。そのときに手続としては・・・。

○ 井上座長 逮捕したら警察署等に引致するのではなくて、直に裁判官のところへ連れて行くということですか。

○ 大出委員 直にとまでは言いませんけれども。

○ 井上座長 でもそうしないと、今のようなケースはカバーできないのではないですか。その場合に、平良木委員は、選任要件の判断材料がそういうことで十分集められるかどうかということを問題にされているのだと思うのです。

○ 大出委員 それは、その準備が本当に必要なのかどうかということにかかわるわけですけれども、資力要件についても口頭で確認をするということでとりあえず済ますということだって可能だというふうに私は思いますし、いちいち証明書類を持って来いという話には、通常時間がある場合だって、そうはなかなかしにくいと思いますので。

○ 樋口委員 お話の中で、一つ一つ引用されたことに反論するのは本意ではないのですけれども、先ほど宇和島のようなケースを、正にそういう支障があるので、それを防ぐためにという意味で引用されたのであれば、申し上げたいことがあるのですけれども。
 ケースによっては、やはり被疑者にもいろいろ個性がございまして、任意の供述ではあったと、その任意の供述の裏付けが不十分であったという認識でございますので、それはいろいろ双方向で見方はあろうかと思いますけれども。

○ 井上座長 そこのところは見解が分かれるでしょうから、仮にそうだった場合に、それを防ぐようなという趣旨の御意見だというように受け取っておきます。この点は、このくらいでよろしいですか。
 次に、「2 公的弁護制度下における弁護人の選任の効力の終期」なのですけれども、ここは(1)から(3)まで、三つの場合が論点として挙げられておりますけれども、時間がかなり押してきていますので、できればこの三つをまとめて御議論いただければと思うのですが、それでよろしいですか。では、この三つをまとめて、御意見をいただきたいと思います。

○ 髙井委員 質問です。(1)のA案の略式命令とありますが、これはいわゆる在庁略式を前提にした略式命令ですか。

○ 落合参事官 身柄拘束ということを考えますと、そのとおりでございます。

○ 髙井委員 ということであれば、(1)についてはA案。それから、(2)についてはB案、つまり釈放されたときに終わると。(3)の家裁送致された場合はA案が妥当であろうと。要するに、基本的に身柄が解放されたときをもって終わるというのが原則だと思います。引き続き公判が開かれたときには、引き続き公判段階の弁護人となるということです。

○ 井上座長 ほかの方はいかがですか。

○ 本田委員 髙井委員と同じ意見です。

○ 井上座長 理由も、同じ考えということですね。ほかの方は。

○ 浦委員 (1)の公訴提起の点ですが、これは、私もA案と考えています。ただ、ここで移審の時というのは、これは控訴あるいは上訴した場合の移審の時ということなんだと思いますけれども、この移審の時という意味内容については、若干問題があります。
 現行法上の移審の時期につきましては、一般に上訴の申立時というふうに理解されていると思います。したがって、上訴の申立てがありますと、原審の弁護人はその段階で任務は終了するわけです。ところが、現行法では、記録はまだ原審にありますから、その記録が整理された上で、記録の到達を待って、初めて上訴審の裁判所は、国選弁護人の選任の手続に入ります。そうしますと、控訴申立時から上訴審の裁判所が国選弁護人の選任の手続に入るまでの間というのは弁護人がいないわけです。弁護人の選任についてそういう間隙ができているわけです。控訴申立てをした後、被告人が控訴保釈を申請したいと思っても、その間、弁護人の援助を受けられないという事態というのは現にあります。その間隙をどうするかという問題は、ここで今議論している問題とは直接かかわるかどうかは分かりませんが、終期という問題を考える場合には、弁護人の選任について間隙が生じないような、そういう制度を考える必要があるのではないかと思います。
 それから、公訴提起されずに釈放された場合については、A案になります。不起訴処分がなされた時に選任の効力が終了するというふうに理解しないと、釈放された時点で弁護人の選任の効力が終了してしまうとなると、いったん処分保留のまま釈放されたとしても、後の捜査の進行いかんでは、どういうふうな処分になるか分からない、場合によっては起訴される可能性もあるわけで、その後も弁護人としての活動ができないと被疑者の弁護を受ける権利を保障したことにはならないのではないか。
 例えば、B案のように、釈放された時点で選任の効力が終わるとなりますと、準抗告で身柄が釈放されたら、それで終わりということになるのでしょうね。しかし、準抗告が認容されて身柄が釈放されても、その後も捜査は続くことになるわけですから、その手当ては、やはり必要ではないかと思います。そういう意味で不起訴処分がなされた時に選任の効力は終了すると考える必要があるように思います。
 (3)の家裁送致された場合ですけれども、これは質問ということですが、B案の場合に、被疑者段階の弁護士がそのまま公的付添人とみなされるというのは、そのまま公的付添人としての活動ができるという、そういう趣旨なのですね。

○ 落合参事官 提案された方は、そのような意見で言われたのだろうと思います。

○ 浦委員 その制度は望ましいというふうに思います。ただ、家裁送致された時点で選任の効力をどうするかというのが一つの大きな問題になるわけで、少なくともA案的な考えを採るとしても、ここでも観護措置決定がなされた場合に、被疑者段階の弁護人がそれに何らかの関与ができる制度というのが必要になるのではないか、このような制度の必要性は非常に高いと思うのです。例えば、少年が観護措置決定をされることによって、出席日数の関係で退学をせざるを得ないというケースもままあるようですので、そういう場合に、被疑者段階の弁護人が、観護措置決定についての意見を述べられるような、そういうふうな仕組みを考えておく必要があるように思います。私は、原則的にはB案が正しいのだと思います。

○ 酒巻委員 結論は、髙井委員、本田委員と同じで、(1)はA案、(2)はB案、(3)はA案です。公訴提起されずに釈放された場合についてだけ、今の浦委員の御意見にはやや疑問がありましたので、その点を申し上げます。
 皆さん御異論がなかったように、身柄拘束された被疑者が公的弁護の対象者であるというのを前提にした場合には、釈放された場合はその前提がなくなってしまうというのが一つです。ですから、やはりこれは釈放により終了するというB案になるのではないか。
 それから、処分保留で釈放という事態があるわけですけれども、A案ですと、処分保留で釈放の後、ずっと検察官の事件処理がなされず、起訴処分になるかどうか分からないままという場合があると思うのですが、その間、選任の効力は終わらないままになります。これは、いろいろ不都合が多いのではないか。
 もう一点は手続上の問題で、検察官の事件処理というのは、もちろん手続上は重要な決定ではありますが、裁判官の判断に基づく選任の効力が、検察官の事件処理の判断によって終わるというのは、法制度としては少し変なのではないかと思います。やはりここは身柄拘束があるか、ないかという事実の発生・消滅で決めた方がいいのではないかということです。

○ 浦委員 弁護人の選任の要件としての身柄拘束の問題は、弁護人の選任の効力の終期についてもパラレルでなければならないという理由はないわけです。

○ 井上座長 恐らく、公費で弁護人を付けることの正当化の根拠を身柄拘束ということに求めるとすると、身柄拘束がなくなった場合には正当化の根拠がなくなるのではないか、そういう御議論だと思うのです。

○ 浦委員 それから、不起訴処分については、できるだけ早くしてもらうほかないので、長期放置されるのは、やはり問題があると思います。

○ 井上座長 法律論として、酒巻委員が言われたような問題点があることはあるのですね。法律論として、不起訴処分には処分性がないのではないかということにも絡んでくるわけでしょう。どうぞ。

○ 平良木委員 私は、結論的に言いますと、(1)についてはA案、(2)についてはB案、(3)についてはB案ということになると思います。恐らく以前にも私が言っているのではないかと思いますが、要するに、今、少年事件というのは、全体として逆送されるケースが増えてきている。家裁から更に逆送されるというようなことを考えると、私は、一連の公的付添人、それからまた公的弁護に戻ってという形があってもいいのかなという発想で前に申し上げたというように思います。
 一応そことのつじつまを合わせるという意味で、B案だと御理解いただきたいと思います。

○ 土屋委員 私は、平良木委員の意見と全く一緒です。特に少年事件の場合には、付添人は、ずっと同じ人であることというのは大事かなというふうに思ったりします。それだけです。

○ 井上座長 公的付添人のところは、まだこれから議論するものですから、そこを先取りしたような議論にならざるを得ないとは思うのですが、仮に公的付添人制度を公的弁護制度と同じ範囲で認めた場合にも、同じ問題が出てくると思うのです。自動的に継続されるのか、選任の効力が1回終わって、新たに選任されるということになるのか。その場合に、運用として同じ人が担当するのかどうか。そういう問題だと思うのです。
 そこの実体の部分を議論していただくときにもまた、そういうことを念頭に置きながらお考えいただければと思います。ほかの方、どうぞ。

○ 池田委員 (1)についてはA案です。先ほど移審の問題を言われましたけれども、これは、被告人の国選弁護の段階と同じ問題ですので、そちらともちろん共通に理解すべき問題で、そこの空白をなくすような議論というのはあり得ると思いますけれども、多分A案も被告人の弁護の場合と同じようにしようと言っているのだろうと思いますので、A案でいいだろうと思います。
 (2)は、B案、やはりこれまでに述べられたとおりです。
 (3)は、A案でいいのではないかと思っております。

○ 大出委員 私も、(1)についてはA案でいいだろうと思います。
 ただ、(2)について、確かに拘束の有無というものを基準にというのは、一つの理屈だとは思うのですが、ただ、その段階で拘束をかけたということによって生じている弁護の必要という問題との関係で、そこは最終的に判断されているというふうに単純に形式的に拘束というだけの問題ではないと思うわけで、この場合も釈放されたとはいっても、弁護の必要性自体がなくなっているというふうにはやはり思えないのですね。
 そのときに、つまり要件があって弁護人の選任が認められたわけですから、その人が釈放されたからといって、弁護人と相談する必要があるということになったときに、そのときに今度は私選でやれというのは、ちょっと筋が違うので、継続した問題が残っているわけですから、やはりそのときに何らかの形で相談できるという状態になっていないとまずいのではないかと私は思うのです。
 そうすると、もちろん財政的な問題等との関係から、後ろがいつになるのか分からないというのは、やはり本田委員に御努力をいただくということで、さっさと決めていただくということしか手がないのではないかという気がするのですが、それは余談ですが。
 (3)については、やはりB案で、これもやはりそのまま継続的に弁護活動ができるということでないと、やはり合理性がないのではないかという感じがするのですけれども。とりあえず以上です。

○ 本田委員 別に検察官は処分を放置しているわけではないのです。やはり、釈放して、その後の示談などの状況を見るとか、行状を見るとか、その上で最終的な不起訴処分を内部的にやるという場合があるので、若干長期間を要する事件もありますということであって、検察官は判断をするのに熟した状態になれば、いつでも処分はするということですので、誤解のないようにお願いしたいと思います。

○ 井上座長 ほかの方は、いかがですか。大体御意見は出尽くしたような感じがしますので、先に進みたいと思います。
 次は、3の解任の話なのですけれども、(1)の解任権の主体が、公訴提起前は裁判官、公訴提起後は裁判所又は裁判長というように整理されているわけですが、これは選任権の主体に合わせて整理したわけですね。こういう整理で恐らくいいのかなというふうに思うのですけれども、ここは特に異論がなければそういうことを確認するということでよろしいかと思いますが、いかがでしょうか。よろしければ、(2)から(4)の三つについて御議論をお願いします。ここも、先ほど落合参事官の説明の中でお願いしましたように、解任への弁護士会の関与とか、解任事由といった点については、具体的な関与方法とか、具体的な解任事由としてこういうふうにすべきだということについても御議論をいただかないと、抽象論で議論をしていても話が上滑りになるだけですので、是非その点にも配慮して御意見をいただきたいと思います。どうぞ。

○ 浦委員 この点については、私が第1ラウンドで述べた関係で、こういう論点にしていただいたのかと思っておりますけれども、これは前説を翻してというと語弊がありますが、ちょっと考え方が進展したということで、述べさせていただきます。
 国選弁護人選任の法的性質については、これまでいろいろ議論があったところで、裁判説だとか、あるいは契約説だとか、その他幾つかありますが、かつて公安事件で、弁護人が辞任できるかということで、国選弁護人の辞任の可否を巡って大きな議論になりましたが、当時の弁護士会は、正当な事由がある場合のほかは、辞任すべきではなくて、その場合でも弁護士会は速やかに後任の弁護人を推薦すべきだということにしているわけです。その後、一般の事件でも弁護人から被告人との信頼関係が失われたのに、その旨の申出をしても、裁判所から解任命令が出されずに、国選弁護人としての活動を続けなければならないという苦情が寄せられることが時にあったわけです。そういう場合に、被告人や弁護人に国選弁護人解任請求権を認めてはどうかという議論がありまして、第4回の検討会でも、私はその旨を述べさせていただきました。しかし、他方で、そういう申出があった場合でも、池田委員もおっしゃったように、弁護人が被告人との信頼関係を回復する十分な努力をしないで解任を申し出るケースも時にありまして、裁判所から見て、解任請求がわがままだと言われるケースもないわけではなかったわけです。現在では、裁判所による国選弁護人の解任事例は、例えば被告人が事実を争っているのに、弁護人が被告人の意に反して調書を全部同意したというような、不適切弁護の場合にまれに聞かれる、解任は、そんな実情のようです。
 したがいまして、解任請求権を認めるかどうかということではなくて、これはむしろ現行のまま、被告人又は弁護人から裁判所に解任の職権発動の申出があった場合に、裁判所に適切な対応をしていただくと、そういうふうなことで足りる、つまり、被告人も、弁護人双方とも、現時点で、解任については職権発動を促す申出という理解でいいのだろうと私は思うに至っております。
 したがいまして、この段階でいろいろ議論も出てきそうな気もしますので、被疑者、被告人又は弁護人に正当な理由がある場合に解任請求できるような、そういう請求権を認めるような制度構造まで考えなくてもいいのかなということを思っております。

○ 井上座長 ほかの点はいかがですか。

○ 浦委員 解任への弁護士会の関与についてどのように考えるかという問題も私が申しましたが、これにつきましても、事実上、現在、裁判所の方は解任されれば弁護士会の方にその旨を通知されるし、場合によっては、解任の前提事実について事情を聴かれるということもあるようです。そういうことですので、これは、事実上、特に被疑者段階での弁護人の解任問題が起こった場合には、裁判所に分かりにくい点もあるはずですので、その場合には弁護士会の方に意見聴取をしていただくということがあってもいいと思いますが、それを法文上何か制度として組み込むというのは、これも法律論的には難しい問題があるように思われます。
 したがって、事実上のそういう運用を是非お願いしたいという、そういう趣旨として理解いただければ結構だと思います。

○ 井上座長 ということなのですが、ほかの方はいかがですか。(4)の点も含めて御議論いただきたいと思うのですけれども。

○ 本田委員 (2)と(3)について、今、浦委員の方から話が出ましたけれども、やはり請求権を認める必要はないだろうし、関与ということも、これを法律事項としてこういうものを定める必要はないだろうと考えております。
 (4)の解任事由ですけれども、やはりこれは法律にちゃんと定めておく必要があるのではないかと思います。どのような場合に解任が可能かといった定めがないと、やはり解任に関する紛糾というのがどうしても生じてしまうのではないか。例えば、どういったことを解任事由にするかということは、今後更に検討しなければいけない部分が多々あると思うのですけれども、例えば、弁護人が心身の故障のために職務を遂行することができないときとか、あるいは正当な事由がなくて公判期日に出頭しなかったり、又は在廷命令に反して退廷したとき、例を挙げればそういったものがあるのかなという気がします。

○ 浦委員 解任事由を現段階で、今言われたような形で決めることについては反対です。裁判所の職権の発動だとしますと、全状況を判断して裁判所が解任命令を出されるわけですので、個々具体的に解任事由を決める必要はない。少なくとも現在、その基準がなくても特に問題は起こっていないと思いますし、また、今、本田委員の言われたような事由を掲げるとなると、これは更に後に激突することが予想されます、弁護活動の在り方のところの問題を先取りするような議論になりはしないかと、それを危惧いたします。

○ 井上座長 二つ目のたたき台の後ろの方ですか。

○ 浦委員 はい。

○ 本田委員 そこでまた議論をしていただければと。

○ 池田委員 (2)については、解任請求権を認めるべきではないだろう。それから(3)の弁護士会の関与も認めるべきではないだろうと思います。これは、浦委員の言われたことで、被疑者の問題ですが、裁判所も、被疑者と弁護人との信頼関係が本当に失われたというような場合には、解任せざるを得ないわけです。そのような状態で付けておいても、それは付けたことにならないのではないかということが、後で必ず問題になるわけですので、そういう意味では被告人段階と同じように、被疑者段階でも、その辺りは心配されることはないのではないかと思います。
 (4)については、解任事由を定める必要はないだろうと思います。現在、被告人の国選弁護については、解任の規定はなくて、選任ができると書いてあるから、その反対として解任もできるというのが当然の解釈とされているわけですけれども、この被疑者段階だけ書くというのもどうかと疑問に思いますし、また、解任事由を被疑者段階で書いたら、被告人段階も同じように書くのでしょうけれども、そうすると今度は選任のときにどういう人を選任すべきなのかということも同じように書くべきではないかということにもなります。例えば弁護人が病気とかで辞めさせなければいけないというときには、そういう人はもともと選任をしてはいけないわけでしょうから、そういうことも規定しなければいけなくなってきて、かなり定め方も難しいし、これまで、特にその点が問題になったということもないように思いますので、被疑者段階の解任事由も定める必要はないのではないかと思います。

○ 井上座長 (2)と(3)については、先ほど元々の提案者である浦委員もおっしゃられたところですので、先ほどのようなことでよろしいのかなと思いますが。もちろん、御異論がなければですが。
 (4)については、御意見が分かれているところですが、ほかの方はいかがでしょうか。どうぞ。

○ 髙井委員 私も、ここの(4)について、現段階で解任事由を定めることについては、消極です。裁判所の判断に任せればいいのではないかと思います。

○ 井上座長 ほかには、どうぞ。

○ 平良木委員 私も同じで、職権発動を促す申出という形ですべて解決するのだとすると、ここはなくていい。今、実際にある程度の基準みたいなものができつつあるのではないかという気もしますけれども。
 ちょっと池田委員に質問したいのですが、解任事由は、特にここで定めなくても、例えば一定の学説とかそれを踏まえた実務の運用とか、いろいろな形で基準ができてきているのではないかという気がしますが、そうでもないですか。

○ 池田委員 実務的には、ある程度固まってきていると思いますし、それから先ほど浦委員も言われたように、弁護士会等とも話をしながら合理的な線を見い出していて、みんなが納得できる線で行っているということだろうと思います。

○ 井上座長 このくらいでよろしいですか。次は、「4 選任の効力が及ぶ事件の範囲」です。
 先ほど事務局からかなり細かな論点まで挙げて、そういう点についても御意見をいただきたいということを指摘してもらいました。(1)、(2)を議論していただくときに、また適宜、そこのところをリマインドしてもらおうと思います。

○ 酒巻委員 まず4の(1)ですけれども、要するに事件単位にするか人単位にするかという話ですね。

○ 井上座長 そうです。

○ 酒巻委員 これは、A案が妥当だと思います。別事件については、事件単位に考えて、別途新たに選任命令を要するとするのが、手続の明確性という観点から適切でしょう。また、今の被告人の国選弁護の場合も、別の事実については事件が併合されて、併合の決定がなされた上で、それによって初めて別の事件についても弁護人選任の効力が及ぶという仕組みですから、そういう仕掛けは被疑者の段階であっても同じように考えるのが筋だと思います。

○ 井上座長 今のところですが、併合決定をしたら選任の効力が伸びていくということになると、選任を新たにはしないはずですね。だから、必ずしも一緒には論じられないと思うのですけれども。

○ 浦委員 これは、事実ごとに選任命令を要するという、(1)のA案はそういうことですか。

○ 井上座長 そうですね。

○ 酒巻委員 それはそうなのですけれども、同じような発想からすれば、被疑事件の段階ですから。

○ 井上座長 理論的にということですと、必ずしもそうならないのではないかということなのですが。

○ 酒巻委員 同じような考え方から、やはり裁判所が別の事件については、事件ごとに選任の判断をするというやり方が望ましいのであって、別の事件があるからというだけで、裁判所の判断が介在しないまま、1人の弁護人が別の事件についても当然にB案のように弁護人になるというのは適当でないと考えます。

○ 井上座長 どうぞ。

○ 本田委員 私も、(1)についてはA案です。被告人国選の場合、併合決定という裁判所の行為によって選任の効力が拡大されるわけで、そうすると被疑者段階でも裁判所の行為というのがあった方がいいだろうと。その方が手続がはっきりするだろうということです。
 そういうのがなくて効力を拡大させるということにすると、例えば私の場合は、被疑者弁護の対象事件の範囲は、ある程度限定せざるを得ないのではないかというふうなことを申し上げているのですけれども、そうすると、再逮捕があったとしますと、再逮捕の事実が対象事件ではないと、これは共犯事件だったという場合に、前のもので弁護人を選任されたら、後ろの方も当然弁護人が付くことになるわけですね。ほかの共犯者はそれが対象事件ではないということになると弁護士さんは付かないという不均衡な状態が生じてしまうのではないかという問題があります。
 また、これはどこまでどうするのかというのは議論の余地があると思いますけれども、公判段階で必要的弁護事件であるために、資力がある者に国が国選弁護人を選任しているという場合に、次の逮捕事実についても当然効力が及ぶとすると、資力要件を定めた意味がなくなってしまうのではないかというようなことが生じてしまいます。やはりここは明確にするために裁判所の行為をちゃんとかませておくべきだろうと思います。

○ 井上座長 真ん中で言われたところは、B案の組み方によっても、自動的に伸びるところは選任要件のあるものという組み方も理屈として必ずしも成り立たないわけではないですね。ほかの方どうぞ。

○ 浦委員 A案ですと、例えば、今、選任請求権の範囲を罪名による限定を付けた場合に、対象外の事件で身柄拘束されたとしたら、その場合は弁護人はその事件については弁護できないのですね。当該被告人については、国選弁護人ではあるが、ある事件の弁護はできるけれども、他の事件の弁護はできないという事態となる。全事件について弁護をするには私選弁護人になるほかないのですね。それはちょっと問題がありますね。

○ 井上座長 そこもA案の組み方ですね。要するに、その場合には選任要件のところは柔軟になるのかどうかという話でしょう。選任要件を全部厳しくかぶせれば、おっしゃるような事態は生じるのですね。

○ 浦委員 ですから、それを緩やかにするとなると、B案的な考え方で、人単位ということになるのではないでしょうか。

○ 井上座長 それは両方あり得るのではないですか。つまり、手続を明確にするために、裁判所の選任行為が必要だという考え方も可能で、その場合にどこまで伸びるのかという話ですね。ですから、いずれにしろ問題は別ではないでしょうか。

○ 髙井委員 ここは、なかなか難しいと思うのです。基本的にはA案だと、私も思うのですが、仮に対象事件を限定するとした場合に、後で逮捕された事件については、請求権がないという場合ですね。これを厳格に解釈すると、最初に付いた事件、これはもう起訴されてしまっていると、だから被告人の弁護人として接見に行くと、そのときにこの事実についてどうですかと尋ねられ、それはおれは担当していないのだからおれに聴くのではないとは、これはなかなか実務上できないですね。そうなってくると、やはりB案の方がいいのではないかという話になると、今度は本田委員が指摘されたように、後の事件が共犯事件のときはどうなんだと。そうすると、最初に請求権のある事件で捕まっている人は、請求権のない事件についても事実上相談ができると。ところが、共犯者は請求権がないからといって国選が付かない、これもやはりおかしな話だと思うのです。
 だから、これはどういうふうに組んでもおかしなところが残らざるを得ないかなと思うのですけれども。そういう問題点があるということを前提にしつつ、やはりA案、B案どちらかということであれば、やはり手続の明確性ということでA案にならざるを得ないかなと思いますけれども。どちらにしても、実務上非常に厄介になりますね。

○ 井上座長 何かほかに名案があれば。

○ 池田委員 非常に難しいなと思います。現在も私選弁護の選任届を捜査段階で出していて、起訴事実がちょっと変わった場合には、もう1回出し直させるのが普通なのですが、当然それが望ましいわけですけれども、例えば特別法違反で、同じ覚せい剤取締法違反みたいになっていると、事実が多少変わっても必ずしも出し直させていないのではないかというのも見当たるのですね。どの範囲で弁護人として選任されているのか、それが被疑事実がだんだん変わっていった場合に、どこまで効力が及ぶのかとなると、非常に難しいと思うのです。
 そこを確かにどこかで割り切って、きちんと理論的に明確にしろというのは、非常に難しいように思いますので、これはA案というのは確かにそういう意味では理屈としてはそうだけれども、まだ動いているところで、いろいろな場合に被疑者としていろいろ相談したいだろうと思うし、この事件は相談してもいいけれども、この事件は相談できないというのは、確かにおかしいので、ここはB案でもその方が被疑者の保護には優れているかなという感じがするのですが。

○ 井上座長 その場合、選任要件の関係については、どうお考えですか。

○ 池田委員 バランスを失する場合があることは間違いないですね。でも、大きな事件があって、そこで大変な被疑者と、もともと小さい事件しかない人では、それは国費を投入してまで、本来そこまでの必要性が少ない人と、やはり現に大きいのが見えていて、それからもう少し増えた人との差なので、そこは仕方がないのかなというふうには思うのですけれども。

○ 井上座長 その大きい方がつぶれてしまった場合はどうなるのかという問題もあるかもしれませんね。ほかの方、御意見はいかがですか。どうぞ。

○ 落合参事官 用語の正確性ということなのですけれども、先ほど来、A案を採った場合に、別件について弁護ができないというお話があるのですが、むしろ報酬の対象にならないというのが正確ではないかと思います。決して積極的に駄目だと言っているわけではないのです。

○ 浦委員 この段階では、弁護人ではないのではないですか。私選弁護人にならない限りは弁護人にならないのではないですか。

○ 落合参事官 それは、そのとおりですが、接見の際に、助言できないというわけではない。

○ 浦委員 だから、例えば弁護人としての活動はできないと。

○ 井上座長 相談は別に構わないけれども、何か訴訟行為をしたときの効力ですね。そこの問題は出てくるだろうと思います。

○ 池田委員 接見禁止の効力が及ぶかどうかというような問題もあるでしょうね。

○ 井上座長 接見の指定ですか。

○ 池田委員 そこでは弁護人とは言えなくなってしまうのではないのですか。

○ 井上座長 ただ、被疑者と会っているときにこの事件で会っているのか、あの事件で会っているのかは、実際上区別できないですね。

○ 池田委員 それは、理論的に一貫しているわけですか。すみません。どう説明すればいいのかお教えいただきたい。

○ 落合参事官 それは、どんな場合でも生じる問題でして、例えば窃盗事件をいっぱいやっていて、一つの事件で身柄拘束をされていて、ほかにも余罪があって、しかし余罪についても示談していくというのはよくあって、ところがそれは弁護人としての活動ではないかというと、やはり弁護人の活動なので、どんな場合でもぎりぎり厳格にやっているかというと、そうではないのではないかと思います。それがどこまでの範囲で許せるかというのは別個ですけれども。

○ 井上座長 なかなか難しい問題であることは、そのとおりだと思いますが。

○ 髙井委員 最終的には、池田委員がおっしゃったように、不公平が生じた場合、それはもうしょうがないと割り切る以外ないですね。

○ 井上座長 プラスアルファの場合は、カバーしてもらうが、本体の方がない場合は仕方がないということですか。

○ 浦委員 ただそうなると、サービス的な弁護ということを一方で強いられるわけですね。弁護報酬の対象にならない活動であっても、そういうものを報酬で加味できるような制度、報酬算定の仕方の必要が出てくるのではないでしょうか。難しい問題ですね。

○ 井上座長 選任命令を得ればいいわけですね。

○ 浦委員 得ればいいのですけれども。

○ 井上座長 では、(2)の追起訴の場合はいかがですか。どうぞ。

○ 酒巻委員 質問ですが、現在、追起訴の場合については、刑訴規則に私選弁護に関する18条の2という規定がありますね。私選弁護人の選任は、起訴後、同じ裁判所に公訴が提起され、かつ、併合された他の事件についても効力を有する。ただし、被告人、弁護人がこれと異なる申述をしたときは、この限りではないと定められている。さっきの落合参事官の説明は、これと同じような条文を置くべきかどうか検討を要するということでございました。お聞きしたいのは、実務上、被告人側から追起訴事件は一緒にしないでほしいという申述をするというのは、具体的にはどういう場合なのかという点なのですけれども。

○ 池田委員 多分、積極的に別の人を、この事件では別の弁護人が選任されているというようなときだけではないでしょうか。

○ 酒巻委員 一人の被告人の別の事件、追起訴事件で、かつ、一緒にはやらないことを希望するというのは、今、池田委員がおっしゃったような場合ですか。ほかにも考えられる場合があるのでしょうか。

○ 浦委員 本来、一人の弁護人が併合審理の事件を担当することは、併合罪の量刑上の利益があることはあるのですね。ただ、別々の裁判所に起訴されたような場合に、それは別々に判断されると、それはまた別のものなのですけれども、それはそれぞれどちらも執行猶予をねらうというような場合にはあり得ることなのです。それとは違うのですね。

○ 酒巻委員 被告人のときにどういう場合かが具体的に分かれば、それと同じ必要があるのであれば、同様の条文を設けておくのが適当であろうと思うのです。

○ 井上座長 先ほどの落合参事官の説明では、まず、裁判所がこれと異なる決定をしたときはこの限りではないという考え方はどうか。裁判所がこれと異なる決定をしたときプラス、当事者に異議がないときということを加えるかということだったのですが。そもそもそういう規定は必要がないのではないかという御趣旨ですか。

○ 酒巻委員 必要性がもしあるならば、裁判所が違う判断をしたときには別にできるような制度にしておくことが望ましいと思うのです。ただ、この点に関しては、裁判所の方が別の弁護人が適当だと考えるのはどういう場合なのかというのが思い浮かばないものですから。

○ 井上座長 例外規定の方ですね。

○ 酒巻委員 はい。それをどなたかから教えていただければと思います。

○ 井上座長 どうぞ。

○ 本田委員 幾つかの訴因があって、それぞれ複雑な事件の場合に、事件ごとに、この事件はAという事件ですと、この弁護士さん、Bという事件は、また別の弁護士さんにそれぞれ分担してやってもらった方が効率的だというような場合もあるのではないでしょうか。そうすると、やはりそこで裁判所が別の決定をするという途を設けておくことは、それなりに意味があるのではないかと思います。

○ 井上座長 そうすると、この場合は、仮に資力要件を前提にするとすると、別の公的弁護人を付けるということになるのですかね。どうぞ。

○ 平良木委員 そういう場合が、想定されるかどうかですけどね。しかも弁護人を付けなければいけないということになり、もし両方とも公的弁護の対象になるものだとすると、双方に付けなければいけないことになると思います。

○ 井上座長 追起訴されて併合されると、普通はそのまま選任の効力が伸びていく。しかし、裁判所が異なる決定をしたとか、あるいは当事者が異議を述べたときは別の弁護人を付けないといけないということになるのではないかということです。

○ 平良木委員 裁判所がこれと異なる決定をするということがあるのかどうか分かりませんけれども、そういう場合があれば、ある意味ではやむを得ないかという気もしますけれども、そうではない場合は、当然1人の弁護人で足るというのが本来の筋でしょう。

○ 井上座長 当事者の問題を別にして、裁判所の判断でとなると、弁護人の数を増やすのとどこが違うのかということも問題になるかもしれませんね。違うのは、選任の効力を事件単位で限っているところでしょうか。

○ 平良木委員 そうです。実際にそんな場合が想定されるのかどうか、ほとんどないかなという感じがしますけれども。つまり、私選弁護の場合は、自分はこの弁護人に頼みたい、この弁護人に頼みたいということだから、あり得ると思うのですね。ところが、公的弁護の場合は、事件というよりも、本来は一つの事件についてということだけれども、幾つもやっている場合に、これはこれ、あれはあれというような請求というのが本来あるのかという問題があるのだろうと思うのです。これは、コストの問題も出てくるだろうし、そう考えると、やはりこれは当然その効力が及ぶ、しかもそこで例外の場合というのが、酒巻委員ではないですけれども思い浮かばない。そういうことがあるなら別ですが、そういうことがないのだとすると、例外的な規定はなくてもいいのかなと思いますけれども。

○ 本田委員 例えば、複雑な殺人などで多数の訴因で起訴されているとしますね。それで国選弁護人が何人か選任されていますけれども、全部について一括して弁護してもらうんだということになると、なかなか審理がスムーズにいかない場合がありますね。ここは、この弁護士さんにやってもらってといった方がうまくいく場合というのはあるのではないですか。

○ 平良木委員 だけど、今のケースだと、本来併合しないで分離しておけば問題ないし、分離の問題が当然出てくることになるのではないですか。そのときまで一緒にという趣旨ではないのだろうと思うのですが。

○ 本田委員 分離すると併合の利益の問題が出てきますね。

○ 井上座長 併合の利益はあるのだけれども、弁護人の担当は別々の方がいいという場合があるかどうか、そういうことですね。

○ 平良木委員 そういうことです。

○ 浦委員 それを裁判所の決定でというのは、なかなか問題があるのではないでしょうか。

○ 井上座長 今の例のようだと、ということですか。

○ 浦委員 問題は理解していると思っていますけれども、被告人又は弁護人が異なる申述をしたときにということで、これは、やはり被告人、弁護人の方の要請があればという、そういう構えにしておくべきではないでしょうか。A、B、Cとある事件で、A事件はだれそれ、B事件はだれそれ、C事件はだれそれというふうなことを裁判所が決定するというのは、やはり被告人を弁護するという立場からすると、大いに問題があるように思われる。A、B、Cの全事件にかかわって初めて被告人の弁護が可能になる。

○ 井上座長 今のお考えでも、申述があったときに最後に判断するのは裁判所だということですね。

○ 浦委員 もちろんそうです。

○ 本田委員 私選弁護の場合は、被告人の意思というのが当然出てくるのですけれども、国選の場合は、裁判所の選任命令でやるわけですから、そこは裁判所の決定ということでいいのではないかと思います。
 例えば、先ほどの例にもう少し触れて言いますと、3人とか4人とか国選弁護人が公判で選任されていて、そのうちこの期日に1人の弁護士さんがどうも都合が悪いとなると公判を開けないというような事態がありますね。全部出てこなければ駄目だと。そのために、非常に期日の指定が困難になって長期化するようなこともあるわけで、それは分担してやってもらえれば、この日はこの人、この日はこの人ということで、スムーズに期日も指定できるだろうし、そういう利益というのは当然あるだろうと思うのですけれども。

○ 浦委員 それは問題があるだろうと思います。

○ 井上座長 ほかの方、御意見はいかがですか。問題点は割とはっきり分かりましたので、本日は、この程度でよろしいでしょうか。

○ 浦委員 そういうことで、私は反対です。

○ 井上座長 分かりました。議論は尽きないと思いますけれども、そろそろ時間的にも許容限度だと思いますので、本日は、このくらいにさせていただきたいと思います。
 事務局の方から、何かありますか。

○ 落合参事官 今日は、たたき台の(2)を用意いたしました。このたたき台の性質につきましては、たたき台の(1)と同じであります。すなわち、たたき台には、これまでの議論において意見の分かれている論点については、複数の選択肢を示しております。また、今後の議論における各委員の意見は、たたき台に記載されたものに限定されるというものではございません。また、たたき台の中で、A案、B案、C案というように付けておりますけれども、このA案、B案、C案の中で、何か優劣を付けているというものでも全くございません。また、このたたき台につきましては、検討会で出された意見をそのまま並べたということでございまして、事務局としてこういう案が望ましいということを述べているというものでも全くございませんので、確認のため申し上げたいと存じます。

○ 井上座長 それでは、これで本日の議事を終了したいと思います。
 次回ですが、6月10日の午後1時30分からですので、よろしくお願いいたします。どうも長時間ありがとうございました。

(以上)