調査(議事)の概要
ア まず、旭川家庭裁判所において、少年審判手続に関するビデオを視聴した後、同裁判所の少年審判廷、科学調査室等を視察した。
イ 続いて、同裁判所において、仁平首席家裁調査官から、配布資料に基づき、家裁調査官制度の概要、少年保護事件の統計、家裁調査官による調査及び処遇選択の実情、家裁調査官と付添人の役割分担の実情等を聴取した(長島孝太郎同裁判所長同席)。説明の主な内容は、以下のとおり。
- 旭川家庭裁判所管内における少年保護事件の基本統計については、配布資料のとおりであるが、旭川では、少年人口の減少に伴い、一般保護事件の新受件数は減少傾向にある。非行の内容としては、窃盗や傷害、恐喝が多く、覚せい剤事犯が少ないという特徴があり、また、女子の非行が少ない。
- 家裁調査官は、裁判官から調査命令を受け、非行のある少年に対する処遇を定めるため、社会調査を行う。社会調査は、少年自身と少年を取り巻く環境の問題点、要保護性を明らかにして、再非行を防ぐための手立てを考えることが目的である。
- 社会調査においては、少年との面接調査のほか、保護者との面接調査を行い、少年の生活歴、交友関係、行動傾向や生活態度、家族の状況や家族の中での位置関係などを明らかにしつつ、少年に対し、非行の結果・責任の大きさを自覚させるとともに、監護環境を調整する。
- 重大事件を中心として、被害者に対する調査を行い、被害者がどのような状況にあるか、被害をどのように受け止めているかについて情報を得て、調査に活用している。
- 事実に争いのある事件については、非行の有無を判断する法的調査が行われるが、これは、裁判官が行い、家裁調査官は関与しない。
- 原則検察官送致の対象事件においては、その制度趣旨を踏まえ、検察官送致を前提としつつ、なお保護処分とすべき必要があるかについて調査を行っている。重大事件では家族関係が複雑な場合などがあるので、複数の家裁調査官が共同で調査を行い、精度の高い調査を行うよう努めている。
- 家裁調査官は、非行の社会的影響に重点を置いた検察官等の送致機関の意見や、少年の資質に重点を置いた少年鑑別所の鑑別結果等を参考にしつつ、非行の動機や態様、被害の態様、少年の生活状況、監護環境などのほか、被害者の被害感情や非行の社会的影響なども踏まえ、最も適切な処遇が何かを考え、意見を述べている。
- 付添人は、少年を理解し、適切な処遇を求めるという点で、家裁調査官と同じ目的を持つが、弁護人的役割と裁判所の審判協力者の役割を併せ持ち、裁判所職員である家裁調査官とは異なる独自の役割を有する。付添人は、非行事実に争いのある事件のみならず、非行事実に争いがない事件であっても、要保護性の審理に当たり、少年を補足・代弁して、少年の主張を明らかにするなどの役割を果たしうる。
- 家裁調査官も、社会調査を行う中で、中立性に反しない範囲で、学校の受入態勢の整備や復職、少年及び保護者に対する精神的援助などを行っているが、それらについても、家裁調査官がなし得ない部分があるし、さらには、新たな勤務先を探したり、暴力団からの離脱、被害弁償などを行うことは家裁調査官にはできず、付添人がそのような役割を果たすことが期待される。
- 旭川では、家裁と法律扶助協会との間で、付添人扶助に関する申し合わせはなく、保護者の所在が不明であるとか、保護者が非協力的で審判に出頭しないことが予想されるなど、可能であれば、扶助付添人を依頼するような事案で、民間のボランティアに付添人を依頼したことがあるが、少年との対応などで荷が重いこともあるようである。
説明に関する質疑の概要は、以下のとおり。
- 保護者がいる事案で、付添人が必要だと考える場合はあるか。
《回答》 | 例えば、両親がそろっていて、経済的に豊かでも、父親がワンマンで、少年や母親を抑えてしまっていて、少年などが十分に話をできないような場合に、付添人が付いて、少年の立場で、少年を代弁することができれば、より適切な審理ができるのではないかと思う事案がある。 |
- そのような事案では、家裁調査官が職責を全うして少年の声を聴き取ればよいのではないか。
《回答》 | 家裁調査官なりに努力しても、限度があることは否定できない。付添人が、少年の思いの丈を聴き取り、また、法律的な面から少年や親に考えさせることが望まれる。 |
- 家裁調査官制度があるところで、どういう機能を付添人に求めているのか。
《回答》 | 審判廷で少年が何を言いたいかを代弁することや家庭内の調整を行うことなどは、家裁調査官も行うが、家裁調査官は、社会調査の報告書を出し、処遇選択に関する意見を述べる点で、判断者であり、ケースワーカー的機能を徹底することができないという限界がある。そのような家裁調査官の役割の限界を補い、また、示談交渉や暴力団からの離脱など家裁調査官にはできない部分を担当するという役割を付添人が果たすことが望まれる。公的付添人がそこまでの活動をやるべきかどうかは更に検討すべき問題であるが、そのような部分で付添人が果たしうる役割がある。示談交渉などで対外的交渉が必要な部分があるので、その点では、弁護士に適しているのではないか。 |
- 従来、家裁調査官は、そのようなケースワーカー的な機能をやってこなかったのかどうかという問題があり、実際には、単に調査を行い、審判の判断資料を作成するというだけでなく、ケースワーカー的機能を担ってきたし、また、そのような機能を担っているのだと強調されていたと思うので、そのために、付添人に期待する役割とが不分明になっているのではないか。
《回答》 | 親を審判廷に連れてくるのに苦労する事案や、審判廷に連れてきても、親が自分の問題点を理解できない事案もあり、家裁調査官がどんなに努力しても分かってくれない場合がある。そのような場合には、裁判官が親を叱って自覚を求める努力をするが、付添人が親に働きかけることで、親を変えることができ、それによって少年を変えることもできるような場合があると考える。 |
- 家裁調査官から見て、弁護士付添人が付いたことが有益だったと思われるような具体例があるか。
《回答》 | 検察官の意見が長期の少年院送致であったという事案で、弁護士付添人が被害者に対する謝罪や治療費の支払、暴走族仲間からの離脱に尽力したほか、伯父の協力を得て、家庭環境を調整した結果、4か月間の試験監察を経て、保護観察となった例がある。 |
- 弁護士付添人が付いていない場合に、弁護士付添人が付いていれば、審判に資すると思われたケースがあるか。
《回答》 | 親が確信的で強い意見を持っている場合に、法律的知識のある弁護士が助言を行うなどできれば、よかったのではないか、と思われた事例がある。 |
- 弁護士ではないボランティアの方に付添人を依頼した事例が紹介されたが、旭川の弁護士の付添人活動の実情や対応力について、どのように見ているか。
《回答》 | 旭川では、裁判所から扶助付添人を依頼するシステムがなく、当番弁護士から扶助付添人になる事例しかないので、弁護士がどのくらい対応できるかは分からない。ただ、保護者がいないとか、保護能力がない、審判廷に来ない、又は来られないという場合に、友の会のボランティアの方に付添人を依頼している。率直に言って、旭川では、弁護士の公的付添人制度への対応は、非常に困難ではないかと思われる。ただ、若い弁護士の中には、熱意を持って付添人活動を行っている人はいる。 |
- 保護者がいない少年について、少年院送致にしたり、検察官送致した事例は、どのくらいあるか。
《回答》 | 親がいない事例が1件くらいあり、また、実質的に保護者に保護能力がないような事例が数例あったと思う。 |
- 弁護士である付添人がいると、家裁調査官の活動がやりやすいということは分かったが、弁護士である付添人がいないと、適切な処遇決定ができない、必要な環境調査ができないという事情があるか。
《回答》 | 我々は、与えられた範囲内でやるしかなく、時間的な制限などの制約の中で、適切な処遇決定を行うよう努力しているところである。しかしながら、もっと中身の濃いものをやれたらよいと思っているということである。 |
- 資料5の「付添人あり」の「その他」は、どのような人か。また、平成13年に弁護士付添人が15人と他の年より多いのは、何か事情があるのか。
《回答》 | 「その他」は、すべて友の会の人である。平成13年は少年法の改正があった年なので、弁護士会の対応に変化があったのかもしれない。 |
ウ 続いて、旭川地方裁判所において、法廷、訟廷事務室、勾留質問室等を視察した。
エ 次に、旭川弁護士会において、須田保幸会長から、国選弁護人の推薦及び当番弁護士の派遣に関する事務等について説明を受けた。 |