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労働検討会(第11回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成14年12月6日(金) 13:00~16:00

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委員)菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、熊谷毅、春日偉知郎、後藤博、髙木剛、村中孝史、矢野弘典、山川隆一、山口幸雄(敬称略)
(事務局)松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、齊藤友嘉参事官、川畑正文参事官補佐

4 議題
(1) 論点項目についての検討
 ・ 導入すべき労働調停の在り方について①
(2) その他

5 配布資料
資料59労働関係事件への総合的な対応強化に係る検討すべき論点項目(中間的な整理)[再配布・略]
資料60今後の検討スケジュールについて
資料61関係機関等からのヒアリングの概要
資料62民事調停制度の概要
資料63導入すべき労働調停についての主要な論点
資料64導入すべき労働調停の在り方についての検討資料

6 議事

(1) 論点項目についての検討

 労働関係事件への総合的な対応強化に係る検討すべき論点項目(中間的な整理)(資料59)中の「2 導入すべき労働調停の在り方について」の部分について、資料63に即して次のような議論がなされた。(□:座長、○:委員)

ア 対象となる紛争(資料63 1)

○ 私の経験では民事調停が申し立てられる事件は軽微なものが中心であるから、個別的紛争を念頭に置いて考えた方がよいと思う。集団的紛争を排除する必要はないが、個別的紛争を中心に考えるべきである。
 個別的紛争にも多様なものがあるが、解雇の無効確認事件のような専門性の高い事件も含めて制度設計することが妥当である。

○ 労働調停制度については、個別的紛争の処理を前提として制度設計すべきである。集団的紛争については、専門的な機関として労働委員会が存在しており、集団的紛争を念頭に置くまでの必要はない。
 また、利用者の間口を広げる観点から、対象とする個別的紛争の類型を特定しない方がよい。

○ 制度設計上は個別紛争を中心に考えるべきである。個別的紛争であっても集団的な労使関係に関するものもあるが、純然たる個別的紛争を主とするのがよいと思う。
 現状では、労働事件に係る民事調停は賃金不払い等のごく簡単な事件がほとんどであると聴いている。一般条項の判断を必要とするような複雑な事件については、基本的には民事調停を申し立てることはされていない。
 対象となる事件を限定することは困難であるが、賃金・残業代の不払い事件や解雇事件でも解雇予告手当の不払い等の法律を適用すれば自動的に結論が決まってくるような事件を主に念頭に置くのがよい。

○ 確かに労働委員会等はあるが、使用者側とすれば、使用者側が気軽に申し立てられる制度があってもよい。労働委員会等はどうしても労働者の救済機関という意味合いがあるので、労働調停については使用者側のニーズもないことはないと考えられる。もっとも、専門家の供給源がどれほどあるかという問題があろう。

○ 私は、企業の破産がからむ労働事件で裁判所という公的な場で処理する必要がある場合などに、集団的紛争ではあったが、民事調停を利用したことはある。集団的紛争を排除する必要はないだろうが、労働調停で念頭に置くのは賃金不払い等の個別的紛争であろう。

○ 対象となる紛争は個別的紛争中心でよいと考えるが、対象となるものをきっちりと仕分けできるか否かが問題である。
 現在、個別的紛争で民事調停が利用されていないのは、専門家が調停委員に入っていないので事実関係に争いのないようなごく簡単な事件しか扱われていないためである。しかし、労働調停では従来型の調停では解決できないある程度重い事件にも対応できるようにしていくべきである。

○ 集団的紛争を制度上メインに考える必要はないが、来るものを拒む必要はないだろう。
 個別的紛争では、ある程度重い紛争にも対応できるようにすべきである。例えば、利益調整型の個別的紛争を解決する機関はこれまでないので、こうしたものをメインにターゲットとすべきである。もちろん簡易な事件も扱えてよいが、重い事件も取り込めるようにすべきである。

○ 個別的紛争を念頭に置くのがよい。集団的紛争を扱うとなると労働委員会の並びのようなことを考えることとなり、イメージが違ってくる。
 制度設計に当たっては、対象となる紛争を限定することも考え得るが困難だろう。また、例えば、労働組合は申し立てられないというように当事者適格を定めるようなことも考えられるかも知れない。

○ 労働調停は、現行の制度では迅速・適正な解決が難しい紛争の分野での活用が期待される。例えば、賃金や残業代の不払い、解雇予告手当の不払い等の事件については、労働基準監督署があるが、刑罰による強制が中心なので実際に労働者に金銭が入ってこないこともある。一方、裁判は格式張って利用しにくい。そこで、こうした事件を、使用者側の支払い能力に配慮しつつ、調停に代わる決定等を活用しながら、適正に処理することができるのではないか。
 また、雇用関係を継続しながら解決を図るべき事件についても、労働調停のニーズがあるのではないか。

○ 賃金不払い等の事件は本来は裁判がよく機能すべきものである。民事調停は当事者の互譲という点に特質があるが、こうした事件は当事者の互譲になじまないのではないか。調整的な解決方法では、当事者間の力関係、交渉力の格差を反映しやすいので、調停での処理を重視するのは危険な面がある。調停の活用を否定はしないが、本来裁判の充実が必要であり、調停は次善の策である。

○ 私は民事調停で賃金不払い事件を扱ったことがあるが、倒産事件等の場合は別として、本来支払うべきものをまけさせるといったことはない。当事者の力関係が反映されるというが、その点は調停委員会がしっかり見ている。

○ 確かに賃金不払い等は裁判による解決が望ましいが、それにはアクセスの改善を含めて利用しやすくする必要がある。また、最近、少額訴訟が増加しているが、例えば、解雇事件で労働基準法の知識が不十分ではないかと思われる判決が出されることもある。こうした点の改善が必要である。
 小規模の零細企業の事業主は直ちには賃金を支払えないこともあり、この場合、支払うべき額を減額することは適当ではないが、分割払い等とする余地はある。
 また、調停で合意が成立していれば、強制執行をせずに済むことも多く、次善の策という以上の意義があると考えられる。

○ 簡易な事件について労働調停や少額訴訟など多様な間口があってもよいが、もう少し扱う事件の範囲を広げないと労働調停を導入する意味がないのではないか。

イ 事物管轄(資料63 2)

○ 労働調停は主に地方裁判所で扱うのがよいのではないか。労働事件には専門性が高いものが多いので、専門性の高い地方裁判所で担当する方が、労働調停の特色を出せるのではないか。
 地方裁判所も全国では2百数十か所設置されており、アクセスが不便ということはないのではないか。

○ 地方裁判所の数と簡易裁判所の数を合計して考えると、労働調停に必要な人員数は膨大なものとなるが、実際には地方裁判所と簡易裁判所が同一の場所にある場合もあり、簡易裁判所が独自の場所にあるのかどうかその位置を考えるべきである。

○ 地方裁判所の本庁及び支部には、簡易裁判所も設けられており、簡易裁判所が設置されているのみである箇所が200か所弱あると考えられる。離島等には簡易裁判所しかないところもあり、事件の重さで区分して、重い事件は地方裁判所で、軽易な事件は簡易裁判所で扱うこととすることは考えられる。

○ 簡易裁判所と地方裁判所の両方で労働調停ができるように制度設計するのがよい。ただ、利便性は簡易裁判所の方が高いかと思ったが、地方裁判所と簡易裁判所の設置場所を考えると、取扱いが混乱しても困るのでよく考えることが必要である。例えば、簡単な紛争は簡易裁判所で扱い、労働条件の不利益変更等複雑で難しい事件は地方裁判所で訴訟とも連携を図りながら扱うこととが考えられる。
 調停委員の選任等に係る人的、財政的制約を考えると、まずニーズの高い地域、例えば労働専門部・集中部がある大都市部等から調停委員を配置することとし、その他は中長期的に対応することも考えられる。
 簡易裁判所と地方裁判所の間の取り扱う事件の仕分けは、当事者の選択に委ねるのか、裁判所等が仕切るのかについては、国民へのサービスという観点を念頭に置いて考えるべきである。

○ 地方裁判所と簡易裁判所で調停委員を兼任することや一方の裁判所から他方の裁判所へ調停委員が出張することによる対応も可能ではないかと思われるし、事件の移送という方法もあろう。

○ 労働調停はどこにニーズがあるのか、現在の民事調停はなぜ労働事件で利用されていないのか、どうすれば利用が進むのかを考える必要がある。また、マンパワーの問題もあり、4百か所以上の簡易裁判所への調停委員の供給能力の問題もある。
 ADRが多元的に整備されつつある中で考えられる労働調停に対するニーズは、地方裁判所において裁判官が自ら調停に関与しつつ実施する点にあるのではないかと思う。

○ 当面は簡易裁判所と地方裁判所で労働調停を開始し、将来、利用が増加した段階で、必要な裁判所に「雇用関係調停部」を設置していくことが考えられるのではないか。

○ 労働調停の特色を出し、利用のインセンティブを与えるためには、地方裁判所に調停部を設置した方がインパクトが強いのではないか。また、訴訟の判定機能との組み合わせで使いやすい手続になるのではないか。
 地方裁判所は交通の便のよい場所にあるので、それほどアクセスの問題はないのではないか。もちろん簡易裁判所の充実は必要であるが、労働調停と銘打つ以上地方裁判所で行うのがよいのではないか。

○ 現在、民事調停はなぜ労働事件に使われていないのか。

○ 賃金不払い事件等では労働基準監督署や少額訴訟もある。また、解雇事件では、当事者が解雇の有効性を争う判定的な解決を求めたいと考えているときには、仮処分や本案訴訟が適切であり、民事調停という迂遠な方法は用いない。

○ 民事調停を申し立てても、調停委員に労働事件のことを分かってもらえないのではないかと感じているのではないか。また、労働委員会もあっせん手続で利用できるので、あまり民事調停を使うという考えはなかった。

○ 当事者に代理人が付いている場合、簡易裁判所で調停を行うのには抵抗感を感じる代理人がいるのではないか。
 また、通常、民事調停では裁判官は他の事件がある等のために裁判官室にいて、調停委員のみが話を聞くことも多く、判定の段階まで考えて調停を行っているのか疑問に見えることもある。地方裁判所で労働調停を行う場合でも、調停主任が積極的に関与することが必要である。

○ これまで民事調停が用いられてこなかった理由については、個人的には、労働関係の専門家が調停委員にいないという不満があること、調停は話合いであるから不調の場合にはそれで終わってしまうこと等があるのではないかと思っている。したがって、労働調停で専門家が加わって、調停条項案を作成していくことになれば、労働調停は利用されるようになるのではないか。
 裁判官が労働調停に積極的に関与しなければならないことはその通りだと思う。
 なお、ニーズの高い地域から労働調停を導入することは、制度としては難しいのではないか。ある地域と他の地域で制度の仕組みが異なるというのは問題ではないか。全国的な基準で実施する必要がある。

○ 民事調停が利用されていない理由として、裁判所に対するイメージがあるのではないかと思う。一般の人にとっては民事調停も裁判もともに裁判所の制度であり、区別が付いていないのではないか。また、弁護士事務所にも行きにくいと思っているのではないか。最近、少額訴訟が広まってきているのは、簡易裁判所には国民のなじみがあるからであり、その点で簡易裁判所での労働調停の実施も捨てがたい。

□ 労働調停で扱う紛争として想定されるものは、これまで地方裁判所に裁判として提起されていた事件、行政のADRで解決しきれなかった事件のいずれが考えられるのか。

○ 金銭賠償の和解を求める解雇事件で裁判所に提起されているものは相当ある。したがって、裁判所に提起されているこうした事件が労働調停に流れていくことは考えられる。

○ 解雇で相談に来た事案の一部が裁判所に持ち込まれ、さらにそのうちの一部は強く現職復帰を求めて裁判が長期化する。解雇事件でも金銭による解決を望むのであれば、調整的な解決が可能である。裁判所へのアクセスが改善すれば、こうしたニーズが掘り起こされていくのではないか。
 当事者に紛争解決手段の選択の幅を広げ、調整的な解決が望まれる事件は労働調停や行政のADRを利用するようになり、その他方で判定的解決の道も確保していけばよいのではないか。そのことがADRや企業内での紛争解決の活性化にもつながると思う。
 民事調停の専門性を強化しつつ、裁判と連携した民事調停制度ができるとよい。

○ 国民の根底には司法に対する信頼感があるので、使いやすい制度ができれば使われるようになるのではないか。行政のADRは労働者個人が持ち込むことが多いが、企業側は余り利用しない。
 また、行政のADRと労働調停の仕分けを考える必要もある。行政のADRで労働調停を紹介するなど連携を図るとよい。
 裁判所は公平ではあるが敷居が高いという意識があるので、そこを改善する必要はあるが、裁判所の判断に納得性があるので、裁判所に労働調停ができれば、使用者側の利用も進むのではないか。

○ 付調停と和解では、訴訟の当事者に与える印象はどのように違うのか。

○ 付調停のケースは、建築紛争等で建築士等の専門家の意見を聴きたい場合や、本人訴訟の場合で本人が出廷できず弁護士でない代理人を手続に参加させることができるようにすることが適当であるとき等であるが、それ以外の場合では、調停で行うと別途期日を調整しなければならず、すでに当事者の主張・立証を聴いている裁判所が手続を行った方が速いこともあり、和解に力を注ぐこととなる。仮処分手続でも、現職復帰に固執する事案は判決を出すが、大半は和解で終了しており、裁判所が和解を勧めることも多い。

○ 私は労働事件で付調停された経験はない。労働事件では裁判所での和解の機能は大きく、当事者の満足度も高いと考えられる。裁判所の和解は、十分な手続を経て事実関係を調べた上で判定的な枠組みの中で行うのでよい。現状では、付調停は、時間のロスとなること、裁判を担当している裁判所が自ら付調停をするのであれば和解と余り違いがないことから、専門技術的な事件での利用に特化している。

○ 制度としては地方裁判所と簡易裁判所のいずれの事物管轄とするかを定めなければならないだろう。原則を簡易裁判所で扱うこととして難しい事件は地方裁判所とするのか、地方裁判所に限るかだろう。制度上、どちらの裁判所でもよいとすることや地方裁判所を原則として簡易裁判所を例外とすることは、不自然ではないか。

○ 労使の実情に通じた専門家を備えるのは地方裁判所とし、簡易裁判所には労働問題を扱っている弁護士、社会保険労務士等の様々な人材を活用すればよいのではないか。そして、地方裁判所の仕組みを労働調停と銘打つことも考えられる。

○ 行政のADRは相談機能と結びついて軽易な事件を扱っているので、裁判所の手続として専門性も導入するとなると主として地方裁判所で実施するのがよいのではないか。その上で、簡易裁判所で行う一般の民事調停は利用できることとし、必要があれば、地方裁判所の調停委員が簡易裁判所で兼任し、または簡易裁判所に出張することにより対応するという運用はあり得ると思う。

○ 今なぜ労働調停が求められているのかというニーズを考えると、重い事件を扱う地方裁判所を原則とし、もちろん解雇予告手当の未払い事件等の軽い事件は従来どおり簡易裁判所で行えばよいのではないか。

○ 労使関係に関する経験則を専門性の内容として考えると、地方裁判所が中心になると思う。単に賃金不払い事件といっても、賃金制度の変更がからむ事件、人事の査定制度がからむ事件等は労働関係の経験則を必要とするものであり、地方裁判所で行うことを考えて制度設計すべきである。このように、一般条項の判断を問われるような事件は地方裁判所とする方がよい。

○ 労働調停制度の利用可能性が最も高いのは使用者側ではないかと思う。現状では、労働者側には労働委員会も労働局もあり、裁判所では使用者側はほとんど被告である。しかし、現在、中小零細企業はたいへん苦しんでおり、人件費の問題が出てきた場合でも、使用者側は労働委員会や労働局には解決を求めにくい。そこで、司法の中に使用者も対等に解決を求められる制度ができることが望ましく、その場合の管轄としては、身近な場所で利用可能な簡易裁判所の方がアクセスがよいのではないか。
 例えば、使用者側が人事制度の変更を行う場合に、労働者側がこれに反対して合同労組等に駆け込んだとき、使用者としては労働委員会や労働局には行きにくいが、労働調停は使えるのではないか。

○ 使用者側はどのような労働調停の利用を考えているのか。

○ 労働局の個別労働関係紛争解決制度に使用者から相談が持ち込まれた事案があったが、それは仕事の能力の劣る労働者を解雇したいというものであった。こうした事案を労働局が受け付けるべきか否かには議論があったが、間に入って話がまとまった。例えばこのように、労働条件の変更前に事前に使用者側から相談が持ち込まれることは十分にあり得ることである。

○ 例えば、配転命令を拒否した労働者がいた場合に、解雇権を行使する前に、使用者側が労働調停を申し立てることはあり得る。

○ 難しい紛争は地方裁判所で取り扱うことでよいが、労働調停へのアクセスをしやすくすることが必要である。問題点があれば考え直さなければならないが、簡易裁判所を中心にするのがよいと思う。

○ 労働調停に対するニーズを簡易裁判所でクリアできるのか。簡易裁判所での調停の仕方にもかかわるが、求められているニーズを踏まえると、主として地方裁判所で行うのがよいのではないか。

○ 地方裁判所の本庁及び支部は、十分にアクセスのよいところにある。簡易裁判所で実施するとなると、調停委員の確保等も大変である。
 使用者側にも調停を申し立てるニーズがあるのであれば、それに対応するには多様な専門家を確保して調停を行う必要があり、地方裁判所で行う方が適当である。まずは地方裁判所から始めて簡易裁判所に広げていくことは考えられる。

○ 調停の申立てでは、民事訴訟のように訴訟物を特定する必要はなく、民事調停は紛争を解決することに意味があるので、使用者からの申立ても当然想定される。簡易裁判所でも利用できることとして、当面は地方裁判所から充実していくのではないか。

○ 事物管轄を考える上では、どのような専門家調停委員を集めるかも問題であるが、会社が現役の社員を調停委員として出すことは難しいので、退職して時間のある人にボランティアとしてお願いせざるを得ない。調停委員側のアクセスについても議論すべきである。

□ 事物管轄については、議論を整理させていただく。

ウ 専門家調停委員(資料63 4)

○ 労働調停の専門家調停委員を使用者側から選任する場合に想定される人材としては、企業の人事労務担当の役員やOB、各地方の経営者団体の役員等、人事労務担当の部署で一定の経験を積んでいる人、弁護士、労働委員会の使用者側委員やそのOB等である。これらの人材に、多少の報酬を与えつつ、幅広い人生経験を生かして、次世代のために活躍してもらうのがよいのではないか。
 調停委員の性格としては、労使の利益代表ということではなく、公正中立な第三者であるべきである。
 また、当事者との利害関係者等の不適格者は事件への関与を避けるべきであり、民事訴訟法上の裁判官に対する除斥、忌避に準じた制度を検討してはどうか。
 調停委員の選任に当たっては、裁判所が自ら選別するのが望ましいが、推薦母体を特定できるのであれば、その推薦を尊重して選任するのがよい。例えば、各地方の経営者協会は推薦に協力できるのではないか。
 調停委員は、特に企業に勤めている現役の人を活用することも考えると、非常勤であることが必要である。

○ 本来、民事調停委員には中立公平性が求められており、それを満たすのであれば、出自としては労使から選ばれた者でもよいのではないか。このように、調停委員の任命段階では労使の代表者や中立的な者から選べばよい。
 個別の調停事件への調停委員の指定に当たっては、裁判所がどのような人物が適当かを考えて、例えば、集団的紛争には労使の代表者を入れるとか、個別的紛争には労使双方から必ずしも入れなくてもよいとか、柔軟に対応していけばよい。
 実際の人材の供給源としては、労使の関係者、弁護士、行政機関のOB、学識経験者等が考えられる。
 選任される調停委員の全員が全ての専門性を備えていることは困難であるが、現在でも調停委員の間で勉強会を開催するなど努力を重ねており、専門性を吸収できる能力を有する人材であれば、調停委員に含めてもよいと考えられ、専門家の育成の面も重要である。

○ 労働調停のような調整的な紛争解決方法においては、専門的な知識経験として説得力のようなものも考えられよう。
 また、調停委員を2人選任すると考えた場合、その構成をどのようにするかも考える必要がある。

○ 従来は、労使の出身者というとどうしても中立的でないという面があったかも知れないが、紛争解決の面では中立公正であるということが重要な核となる考え方である。
 一般条項を解釈し、労使間の均衡点を求める判断力を要求される専門性と、単に事実を確定し、法令を機械的に当てはめるための専門性とは異なる。したがって、賃金未払い事件のような比較的簡易な事件では、必ずしも労使双方から調停委員を指定する必要はなく、例えば、使用者側弁護士と労働者側の経験者といった組み合わせでも見解が分かれることはないのではないか。
 特に弁護士は労使どちら側の仕事をしている者でも、中立で共通の立場に立って事件に関与することができると考えられるので、求められる専門性に応じて、必ずしも労使双方がそろわなくてもよいのではないか。

○ 実際上、労使双方がそろっていないと調停は無理ではないか。制度として労使同数ずつ調停委員会に入るようにする必要があるのではないか。
 イギリスの雇用審判所では、労使の審判官に求められる能力として、コミュニケーション能力が重視されているという。労働調停のような紛争の調整面では、ある程度の実務的な経験と当事者双方から十分に話を聴けるコミュニケーション能力が必要と考えられる。

○ 賃金不払い事件等では、労働者側と使用者側で見方に異論は出ないのではないか。

○ 個々の事件ではそうであっても、制度設計上は労使双方が関与するようにする必要がある。

○ 調停委員としては、当事者の話をよく聴ける人、知識をよく習得できる人でないとならない。また、労働調停は裁判所で行う手続である以上、法に則って処理する必要があり、最低限の労働法に関する知識を持っている人であることが望ましい。
 裁判所は公正中立性が命であるから、労使の立場を引きずって調停委員会に入るのは適当ではない。中立公正に活動できることが要請される。
 事件類型によっては必ずしも労使ともに調停委員会に入る必要はないが、重い事件で労働調停を行う場合には、労使双方が入って中立公正な立場で意見を言ってもらうことが、調停の成立を高める担保になると考えられる。労使双方が入って作成された調停条項案であることによって、初めて当事者双方とも納得でき、調停が成立するのではないか。
 調停委員を任命する際に、裁判所が候補者の公正中立性を判断することは、そのための判断材料もないので、実際上無理である。
 また、個別の調停事件での調停委員の指定は、現在の民事調停を同様に裁判所が決めることで、当事者の信頼が得られるか疑問もある。
 調停委員の選任や指定を裁判所が決めることは困難であるので、専門性のある調停委員が選ばれるようにする仕組みをしっかりと作るべきである。

○ 労働者側として労働調停の調停委員の供給源を考えると、その中立公正性は当然の前提として、労使の代表者ではなく、社会生活上の豊富な経験から得られる判断能力のある人材で、労働関係の慣行や法令に関する知識等を有している者がふさわしい。
 現在、連合では、労働調停や裁判の場面も含めて、どのような能力が必要であり、どの程度の人数を確保できるのか検討しており、考え方をまとめて一度議論したいと考えている。

○ 専門性のレベルの問題もある。それによって対象として考え得るマンパワーの範囲も変わってくる。専門性のレベルに応じて確保できる人数を考えてほしい。

○ レベルが高くなれば確保できる人材の数は減ってしまうが、労働調停について考えると、幅広い常識を備えている労使関係の経験者であり、時代の変化に関心を持っている者であることが重要であり、そのような者に対して継続的に教育を施していくことで、人材の確保は解決できるのではないか。人材の教育も重要である。
 ただ、労使の経験者といっても、激烈な労使対立を持ち込むようなことがあってはならず、労使の立場を代表する者ではなく、中立公正な第三者として紛争当事者双方の意見を聴くことのできる人であることが必要である。

○ 解雇事件のように労使間の均衡点を探って調整を行うような場合には、労使関係をわきまえた人であることが必要である。そのためには、最低でも10~20年の経験が必要である。したがって、年齢や経験の要素が重要であると考えられる。そうした経験者を労使が推薦して選任し、一定の研修を施した上で、調停主任と協力して事件に当たることとすればよいのではないか。
 個々の調停事件での調停委員の指定に当たっては、労使双方を組み合わせることが必要な事件とそうでない事件の振り分けを行うことが重要である。

○ 調停委員会が調停条項案を提示することによって調停がまとまる場合もあり、そうした事件では労使双方が入ることが必要であると考えている。

□ 調停委員としては、企業内で経験を積んできた労使の関係者を中心に考えて議論しているが、例えば、人事労務のコンサルティングを行っている人のような企業外の人材も含めて調停委員として考えるべきか。紛争についての調整力を重視すると、そうした企業外の人材もあり得るのではないか。

○ 労働調停の場では、企業外の人も含めて、様々な形で労使関係に関与している人材を考える必要がある。ただし、判定機能である裁判の場では、企業の労使が関与すべきであり、それによって労使自治の強化にもつながると考えられる。

○ 調停委員会の構成で、例えば、調停委員の一人は行政出身者で、もう一人は使用者側関係者又は労働者側関係者である場合や、調停委員の一人は行政出身者で、もう一人は学識経験者である場合に、紛争当事者は納得するのか。

○ 調停委員が労使のどちらから選任されたのかを顕在化させるか否かの問題である。調停の場合に労使を対置させる形で納得性が出るのか。

○ イギリスの雇用審判所では、労使の審判官について、労使の別が分からないようにされていると聴いた。21世紀の制度設計としては、労使の別にこだわらず、中立公平な判断ができるようになってもらいたい。

○ 調停委員は公的な立場で紛争に関与するのであるから、調停委員の経歴は明らかにしておくべきである。

○ 人間のものの見方は経験によって変わってくるだろう。そうした経験に照らしてみても、中立公平となるように担保する必要がある。

○ 中立公平性には、実際の中立公平性と手続上、外見上の中立公平らしさがあるのではないか。労使間の均衡点を求めるような難しい事件には労使双方を関与させ、簡易な事件であれば企業外の立場の人を関与させることもあり得よう。事件の内容によって違えることが考えられる。

○ 実際上の中立公正性の他に、外見上の中立公正らしさも必要である。こうした中立公正性の確保を運用だけに委ねてよいのかについても議論が必要である。労使対立の激しい事件については、労使双方の出身の調停委員を入れて公正性を保つこととする仕組みも必要ではないか。
 調停委員の人材の外延を広げることについては、事件類型によるのではないか。企業外の人材が入ってきてもよい事件類型はあると思われる。

○ 中立公正な立場が極力ぶれないように努力することが必要なのはもちろんだが、それでも労働者側の推薦者にはやはり癖はあるだろう。

○ 労使それぞれの側から見て違いが出てくるのは当然だろう。その中で、そういうことを自覚しながら、中立公正な立場を保っていくことが必要である。

○ もちろん、紛争によっては労使が両方から光を当てる必要があるものもあろう。事件類型によって切り分けることが必要である。

○ 偏見の強すぎる調停委員に対して嫌だと主張できるようにすべきではないか。

○ 現行の民事調停には忌避の制度はないが、事実上は、裁判所が事件を割り当てる際に考えているはずである。

○ 調停委員は自己の出身企業の事件には関与しない等といったことについての考慮が必要である。

□ 本日の議論を整理して、次回は残りの論点と本日議論しきれなかった論点について検討していただきたい。

(2) 次回の日程

 次回(第12回)は、平成14年12月20日(金) 13:30~16:30に開催することとし、引き続き労働調停制度の検討を行うことを予定している。