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労働検討会(第12回)議事録



1 日時
平成14年12月20日(金) 13:30~16:15

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、春日偉知郎、後藤博、髙木剛、村中孝史、矢野弘典、山川隆一、山口幸雄(敬称略)
(事務局)
松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、松永邦男参事官、齊藤友嘉参事官、川畑正文参事官補佐

4 議題
(1) 論点項目についての検討
  ・ 労働関係紛争処理の在り方について②
(2) その他

5 議事

○菅野座長 それでは定刻になりましたので、ただいまから第12回労働検討会を開会いたします。
 本日は御多忙中のところ御出席いただきましてありがとうございます。
 まず、本日の配布資料の確認をお願いいたします。

○齊藤参事官 資料65は中間的な論点整理でございます。本日の御議論をいただくための再配布でございます。
 資料66は「導入すべき労働調停についての主要な論点」、これも再配布でございます。
 資料67「導入すべき労働調停の在り方についての検討資料」、これも再配布でございます。
 参考資料といたしまして、座席表と、前回の各委員の皆様の意見の概要でございます。これはまだ未定稿でございますので、参考資料として配布させていただいております。
 それから、自由法曹団の「わたしたちの労働裁判改革の提案」という資料を参考に配布させていただいております。
 資料は以上でございます。

○菅野座長 それでは、本日の議題に入ります。
 前回に引き続いて、論点項目の中間的な整理のうち「2 導入すべき労働調停の在り方について」の主要な論点に関して御検討いただきたいと思います。
 本日は資料66の中で、前回は時間の都合で議論できなかった点、「5 訴訟との連携」「6 調停の成立を促進するための仕組み」と「3 土地管轄」、これらについて御検討いただきまして、その後に前回カバーしていただいた1、2、4の論点でなお論じたい点、あるいは論ずべき点を御検討いただきたいと思います。
 そこで、今までカバーしていなかった論点としての5、6、3について御議論いただきたいのですが、私の方から説明させていただきますと、まず「訴訟との連携」です。労働調停の導入につきましては、調停手続を経ることで仮に調停不成立になった場合には、結果的にかえって紛争処理に余計な時間がかかって長期化するのではないかという懸念が指摘されておりました。このため、裁判所での紛争処理に要する時間を全体としてできる限り短縮する観点から、訴訟との連携について検討が必要と考えられます。他方で、訴訟との連携を図ることで調停で率直な話し合いができなくなるのではないかという懸念もあります。これらの点を踏まえて、訴訟との連携の在り方を議論いただきたいのですが、資料66では、連携を図る場合の方策として運用面も含めて論点として3つほど挙げてあります。ここにあるような制度を考える場合、あるいは運用を考える場合のメリット・デメリット、あるいはその他のアイデアを御検討いただければと思います。
 「6 調停の成立を促進するための仕組み」ですが、今申し上げた紛争処理を全体として迅速化する観点、あるいは継続的な雇用関係の中で紛争の円満な解決を図る観点等からすると、労働調停に来た紛争はできる限り調停の成立によって解決することが望ましいと考えられるわけです。そのためにはどのような仕組みや取扱いが必要かについて、労働関係紛争の特質等を踏まえて御議論いただければと存じます。
 資料66では、運用面も含めて2つほど方策を挙げてありますが、これらのメリット・デメリット、その他のアイデアを御検討いただければと思います。
 「3 土地管轄」の在り方については、労働調停のアクセスの観点から重要な論点となるわけですが、申立人、被申立人それぞれの利便性と手続における負担の関係、労働関係紛争の特質等を踏まえながら御議論いただければと存じます。
 それでは順次やっていきたいと思いますが、まず訴訟との連携について、予定としては45分ぐらいをかけようかと思っていますが、どうぞ議論を始めていただければと思います。どなたからでもお願いいたします。

○鵜飼委員 それでは口火を切る意味で、若干問題提起的なお話になると思いますが、現在、調停は付調停なり当事者の合意を除いては簡裁が管轄になっているわけです。したがって、本案訴訟になった場合に本来地裁の管轄の事案も調停を利用しようと思えば、基本的に相手方の同意なしには簡易裁判所を利用せざるを得ないことになります。本案訴訟との連携が労働調停が今後有効に活用されるかどうかという場合の大きな試金石になると思いますので、その辺をどのように工夫するかという問題ですが、これは私の全くの個人的な案ですけれども、地方裁判所に管轄権を有する労働紛争についても簡裁に調停の申立てをする道を開くのは従来どおりでいいのではないかと思います。地裁に労働調停について特別に設けるという意見は前回の御議論で多かったかと思いますが、地裁で労働調停を設けるとすれば、地裁に管轄権を有する事件ということになろうかと思います。したがって、地裁の労働調停は基本的には地裁管轄の事件に絞って、地裁で不調になった場合に、本案訴訟である地裁との連携をうまく図る。これは、実は現在の付調停の事件は地裁に申し立てられ、当事者の合意等によって付調停にされるのですが、受訴裁判所が調停に自ら乗り出す場合もありますし、調停部でやる場合もあるようで、その場合でも本案訴訟との連携をかなり工夫されているようで、事件のカルテや引き継ぎについてのメモなどをうまく利用しながら本訴との連携をされているという工夫も、資料を見るとわかります。
 そういう意味で、まず管轄の問題としては地裁に労働調停を設けるとすれば、地裁にその事件として本来管轄のある事件について地裁の労働調停の管轄とするというぐらいの縛りは設けた方がいいのではないか。その次に、それぞれの地裁で労働調停がなされた場合の本案訴訟への連携の問題については、私は別に具体的な意見がありますけれども、まず管轄の問題としてそういうことを工夫すべきではないかと思います。

○菅野座長 そのほかに御自由に意見をお願いいたします。

○矢野委員 まず調停前置の問題ですが、紛争の内容によりましては、労働調停よりも訴訟の方が適している場合があると思います。ですから、一律に調停前置とするのはかえって紛争解決までの時間が長引く可能性があるのではないかと思いますので、調停前置を義務づけるという考え方は適当ではないと思っています。
 職権による付調停の活用ですが、裁判所の職権による付調停は、訴訟と調停の連携により円滑に紛争解決をするためには有効であると思いますので、専門家調停委員の配置などによりまして労働調停の内容の充実を図っていけば、利用者にとって使いやすい制度となるのではないかと思います。
 労働専門部や集中部のない裁判所の場合、どうするかという問題があるのですが、労働事件についての経験が十分でない裁判官が事件を担当するということも考えられますので、そういう場合には特にその内容から見て調停による解決が適していると思われる事件については職権による付調停を活用して、専門家調停委員が関与する調停によって紛争の解決を図ることが有効なのではないかと思います。訴訟と労働調停との連携を円滑にしていくためには、訴訟と調停主任を同じ裁判官が担当するような工夫も検討する必要があるのではないかと思っています。
 3点目の調停不成立の場合の取扱いですが、不成立となって訴訟が提起された場合、調停手続で提出された資料をどうするかということです。原則として、訴訟が提起された裁判所に送るようにしてはどうだろうかと考えています。裁判所が判断して訴訟でも使える資料は訴訟資料にすることができるようにすると、手続が簡素化されて当事者の負担も軽減するのではないか。その場合に書類の重み、あるいは書式などいろいろなことで問題があると思いますが、その辺はどうするか、問題を解決しなければならないと思いますが、活用するという前提に立って方策を考えたらどうかと思っております。
 本来は後で議論するところかもしれませんが、管轄する裁判所をどうするかという問題と結び着いていますので、前回もいろいろ意見を申し上げましたが、少し補足しておきたいと思います。簡易裁判所と地方裁判所の両方に専門家調停委員を置いて労働調停をすることが望ましいと思いますけれども、どちらか一方を原則とするというように決める必要があるならば、今の民事調停法の規定と同じように、原則を簡易裁判所として、当事者が合意した場合には地方裁判所にも申し立てることができるとするのがいいのではないかと思っています。
 なぜ労働調停が論じられているかというそもそもの由来を考えてみますと、簡単で迅速な解決というADRの特色を生かす制度設計を論じているわけですから、そういう前提に立ちますと、あるいは代理人をつけずに本人が調停を申し立てるようなケースも多く出てくるのではないかと思います。そうしますと、利用者にとっての利用のしやすさ、窓口の広さ、アクセスの簡単さ等を考えると、簡易裁判所の方がいいのではないかと思うわけです。
 ただ、権利確定的な要素が強い紛争や対立性の強い重い紛争、複雑な事件は調停が成立しなかった後の訴訟手続との連携を考えますと、地裁でやった方がいいケースもかなり出てくる可能性があります。その場合には当事者が合意して地裁で労働調停を行うようにすればいいのではないかと思います。
 前回、山口委員からのお話もあっていろいろ考えたのですが、確かに簡裁と地裁、あるいは支部が同じ場所に設定されているケースが多いようで、専門家調停委員は簡裁の方に配置して、一部の委員が地裁の調停委員を兼任するということも可能ではないかと思っています。少し事物管轄の方へ移ってしまったのですが、関連がありましたのでまとめて意見を申し上げた次第です。

○春日委員 今日の訴訟との連携という問題については、付調停の活用にも関連して少し意見を述べさせていただきます。前回の検討した事柄と若干重複するのですけれども、前回は簡裁と地裁双方で労働調停を可能にするという意見が大勢だったと思います。その場合、具体的には例えば簡裁では従来の一般の民事調停を強化するというか、具体的には社会保険労務士などを調停委員に加えるなどの工夫をする。他方で、地裁の方の調停は相当重い事件を取り扱うことになるのでしょうから、調停主任である裁判官のほかに労使双方の経験豊かな方に調停委員に入ってもらうことになるのかなと、イメージとしては描いています。そうだとすると、地裁の労働調停では専門性を持った調停委員が入ってくるということになるかと思いますので、そういう意味で訴訟との連携を考えた場合には、職権で専門家のいる調停委員会に付調停にすることは当然可能になってくるのではないかと思います。
 簡単、軽微な事件は、簡裁の方で社会保険労務士等に調停委員に入っていただければ、これもそちらでかなり処理できるのではないか。そういう意味では付調停の活用はかなり可能ではないか。調停委員のメンバーをどうするかという問題に密接に絡んでくるのだろうと思いますが、職権による付調停の活用は相当現実性があるというか、かなり活用できるのではないかと思っています。
 調停前置の要否は、例えば家事審判法のように必ず調停前置ということになると、先ほどもお話がありましたように、実際は訴訟の方に早くいきたいと思っていながらも、調停前置ではその分の時間的ロスもありますから、調停前置は必ずそうしなければいけないというものをつくるという方向はいささかどうかなと思います。調停前置はむしろ置かない方がいいのではなかろうかと思っています。
 調停不成立の場合の、例えば調停で提出された資料の提出は二面性があるような気がします。つまり、一方で調停で提出された資料をまた訴訟で使えるということになると、調停で出し惜しみする可能性も出てきますし、そういう意味では少しマイナス面かなと思います。しかし他方で、調停手続で提出のあった資料を訴訟でも使えるとするならば、これはこれで提出されるまでの時間のロスを妨げる、あるいは調停の資料をうまく活用できるという意味ではメリットがある。ですから二面性があるので、これはなかなか難しい問題で、現実の運用面でどのようにしていくかということも絡むのではないかと思っています。

○山川委員 1つは事物管轄との関係で、前回、ある程度重い労働調停をイメージして地裁に設置してはどうかと申し上げて、簡裁には通常の民事調停の手続の中で、併任なりの形で社会保険労務士等を配置し、あるいは地裁の委員が出張してはどうかということを申し上げましたが、そうするといわば名前のつけ方の問題のようになるかもしれません。簡裁の調停でもそれなりの専門家が関与するということになりますと、労働調停でも2通りあるということで、地裁のほうが特別の手続のある重いもの、簡裁の方は逆に、一般の民事調停の中での名前のつけ方あるいは運用の問題になるという感じがいたしました。
 調停前置については、先ほど春日委員が言われたことに同感です。
 付調停についてですが、現行の民事調停法の20条を使う場合に、労働調停についての特則を考える必要があるかどうかということになるかと思います。矢野委員もおっしゃったように、自庁調停というのでしょうか、特に労働関係に詳しい裁判所の裁判官が主任調停委員になるということは必要かと思いますけれども、現行の運用はよくわかりませんので、現在の民事調停法20条で労働調停について何か不都合があるかどうかの点は、むしろお聞きしたいところです。
 最後の調停不成立の場合の取扱いですが、アメリカでは調停中の言動については訴訟には出せないことになっております。それは、互譲ということを考えますと、譲歩するような発言や資料を出した場合にそれが訴訟に出てきて不利になることがあるからです。私は実は日本でも家事調停と人事訴訟で同じようなことをした経験があります。相手方が調停中に譲歩する発言をしたものを訴訟で準備書面に引用したのですが、相手方は嫌だろうなと思いました。日本ではそういうことに手続的な規制は余りないようですが、日本の実態にアメリカ的な発想が妥当する部分があるかどうか。例えば和解をするときは、むしろそういう率直な意向を示す資料が出てきた方がよいようにも思います。また、訴訟と調停中の言動との違いももしかしたらあるかもしれませんから、問題は、和解あるいは調停の成立を容易にすることと、後の訴訟の段階で逆に手続的な不公正さが生じたり、あるいは逆にその反射的な効果として、調停の成立の妨げになるかどうかです。つまり、調停中の言動が後に訴訟で出てくると、逆に譲歩するようなことを調停中に言わなくなる可能性があるなどの点で、日本の場合はそこを心配するかどうかはよくわからないのですが、そのあたりも実情をお伺いしたいと思っています。

○山口委員 これは私のイメージですけれども、論点とされた調停前置の関係については春日委員と同じように、前置を決めることは適当ではないのではないか。 必ず調停を経なければいけないとすると、調停不成立の場合にそれだけのタイムラグを要するわけですから、そこまでする必要はないのではなかろうかと思っております。
 職権による付調停の活用の関係ですけれども、これもケースによっては調停に付した方がいい場合があるでしょうから、これはこれとして残しておくことについては特段の意見はありません。それはそれで構わないのではないかと思っています。
 調停不成立の場合に調停で出された資料をどうするかということですが、これは春日委員や山川委員のお話にもありましたけれども、むしろ代理人をやられている方の御意見も伺いたいと思います。私が家事調停などを行った経験から言いますと、一般的に言うと本人申立などの場合は関係資料をすべて出してきていろいろ説明するということになるわけですから、出された資料の中にはもちろん本人にとっては有利なものもありますが、必ずしもそうではないものもあります。したがって、そういうものがストレートに訴訟の場で使われる形にしていいのかどうかは、私は相当問題があると思いますし、裁判所の方でこれは証拠として使う、これはだめという形での振り分けをするというのも、本来証拠の提出は当事者がやるべきことですから、当事者の意に沿わない形の証拠の取捨選択をしてしまうおそれがあるようなことをするのが果たして適当かどうかという問題もあると思います。
 そのほかにも、必ずしも当事者は証拠としての書証、あるいはそうでないもの、自分の思いを伝えたい形での書証という区分けはしないでいろいろな形の手紙なりその他諸々のものを出してくる場合も少なくないので、実際問題としてセレクトは非常に難しいところもあります。もちろんきちんとした形で証拠として使えるものが選別できて、それについて当事者が納得できる形での手当てなり運用ができるのであれば、訴訟で使われそうな書証を訴訟の場に引き継いでいくのは有効なことだと思いますが、現実問題としてはその辺の手当てがなかなか難しいのではなかろうかと思っております。
 その関係でも、そういうものが訴訟で使われる場合に、当事者の方が調停の場面でそういう書証を出すのかどうかということについて、代理人の方の御意見も聞いてみたいと思っています。

○石嵜委員 理屈上は、調停で使った資料を訴訟でそのまま使うことは、私たちも実務家としてはやりたくない。調停で使った資料でも弁護士としては訴訟でもう一度出すか否か選択はしたい。理屈の世界は私もそうだと思うんです。ただ、実務の世界で一たん出てしまいますと、相手方もそれを大体見ていますね。コピーを渡すかどうかということもあるのですが、互いに代理人がついて訴訟になれば、こちら側が出さなかったとしても、相手方はその存在を知っていますので、訴訟の展開として現実的には世に出るというか、最後まで持っていて出さないと頑張ってみても、裁判官に何かあったんですよという話になりますので、そうすると現実は出さざるを得なくなるような気はしています。
 ただ、だからといって手続として最初から全部出そうというつもりはないのですけれども、実務では一たん調停で見せて、相手方にもそういうことが説明されて向こうが知っていれば、訴訟にあがって私たちが選択したとしても、結局それは出さざるを得ない形になるのではないでしょうか、どうでしょうか。

○鵜飼委員 労働事件で調停を利用することが少ないものですから、普通の民事調停の場合の取扱いとしては、調停委員がこの資料は相手方に渡すべきかどうかということを考えて、渡さないものもあるし渡すものもあるという取扱いをされているようですが、我々が代理人になるような事件においては、例えば賃金未払いや労働事件では一種の判定的な調停を望むケースが多いと思うんですね。
 後にあります調停に代わる決定等を活用するという問題も出てきますが、単なる事実関係を確定しないで互譲で解決しようという種の事件も多いとは思います。労働条件で考えられるのは賃金未払いのケースが多いと思いますが、その場合は就業規則等の法規がどうなっているかということと、賃金未払いについての事実がどうなっているかについての事実確定と就業規則等の規範がどうなのかという、基礎的な資料が出されることになりますから、もし万が一不調になったときに本訴に移行する段階で、そこで出された証拠資料を全く引き継がないというのも余り現実的ではないと思います。そういう意味では、事実認定等に必要な証拠としての性格を持ったものについては、相手方に渡して、それは甲号証、乙号証という番号を振って、それについては引き継ぐ。ただ、互譲の過程でお互いの言い分が出てくるわけです。これはACASのケースも聞きましたけれども、そういうものは引き継がない。それは和解調停の持つ性格から言って、お互いに本音を出し合って、そこで合意するために努力していくわけですから、それに関する資料は引き継がない。これは多分それでいいのではないか。ただ、判定的な部分については引き継ぎというふうに、その辺の工夫をどうするかということはありますが、そうした方がいいのではないかと思います。

○春日委員 私も基本的に皆さんの御意見と同じで、労働事件ではないのですけれども、医療過誤事件で調停というのを扱ったことがあったのでそのお話をします。実は医療過誤で損害賠償額が2,000万円を超えるような事件なのですが、これを調停で最初にやってほしいと、なぜ代理人がそうするかというと特に原告代理人の側としては、医療過誤では証拠がなかなかつかめないということで、本来なら証拠保全を行うべきところなのですが、まず調停をやってみてそこで何らかの資料を入手しようと、要するに模索といいますかフィッシングをやろうとする。それで、原告代理人は調停で片づく問題ではないと思っているのですが、あえて調停で出してきて、調停の場面ですと、我々も調停だから医師側の代理人の先生に「資料をある程度出したらいいのじゃないですか」などと言うのですが、私が担当した事件は医師側の代理人は医療過誤の専門家だったのでこれは証拠としては出せないと、その段階で出せるものと出せないものをはっきり分けて調停に臨んで、しかし基本的には調停はやりたくないとおっしゃって、最終的にもちろん調停は不成立になりました。
 代理人がきちんとついていてそういう選別ができるならいいのですが、仮に労働事件などで代理人がつかないようなときに、何となく労働調停で調停委員の先生が「これは出したらどうですか」などと言われてうかつに出した後で訴訟になった場合に、それが使われるとするとこれはやはり困るというか、ですから基本的には、調停手続で提出された資料は訴訟ではそのまま引き継ぐことはせずに、何らかの歯止めという言葉はおかしいのですけれども、ストレートにはいかないということを考えておかないと具合が悪いのではないかと思います。

○鵜飼委員 今おっしゃったケースは、私は実感として余り理解できないのですけれども、証拠収集の手段として調停を使うのは、私は実務家として余り考えられませんね。医療過誤は難しい事件なので話し合いの場を設けて、そこで事実をある程度確認して話し合いを成立させたいという気持ちで申立てをしたのではないかと思うんですね。調停で相手方が任意に出す証拠はそれほど期待できないものがありますので。

○春日委員 もちろん本来ならばカルテの証拠保全などをするわけですが、調停を申し立てたというのは、多分、二つの目的を持っていると思うんですね。とりあえず話し合いでという趣旨と、そこで相手方から何か資料が出てくればということとで、私はその事件はそういうふうに理解したのですが。

○鵜飼委員 一般的に調停を証拠収集の場として利用するということは、私は実務的に例外的なケースではないかと思います。したがって、それを想定した制度設計は妥当ではないのではないかと思います。

○春日委員 これを普遍的にという趣旨ではないのですけれども。

○髙木委員 裁判制度の話が次回以降になっていますので、どういう裁判制度になるかによって調停の在り方も、制度設計の仕方も含めて影響・相関関係という議論をしなければいけないのではないかと思っておりますが、今日の議論ではとりあえず現行制度を前提にして調停を考えればという立場で発言させていただきたいと思います。
 1つは、調停前置は皆さんもおっしゃったように現状ではどうか、平たく言うとノーかなと思っております。ただし裁判官の負担軽減等も、問題が改善され時間の余裕もあるという状況ができたときに、調停でも十分解決が得られるだろうという内容の事件についてはスピーディな解決という観点から、調停前置があっても良いとも思われる。これはいろいろな条件つきですけれども。
 付調停は、私は必要性は乏しいのではないかと思います。訴訟の中でやられる手続の一環として調停に付するということであれば、いわゆる和解とどう違うのか。あるいは和解の方がより現実的ではないかと思います。
 不成立の場合の調停段階での証拠等については、訴訟の場でそのまま全部がぶ飲みというわけにはいかないでしょうから、当然いずれかの当事者が証拠申請をして採用するしないの議論を踏んで吟味した上で、訴訟手続での証拠として取り扱うということではないか。
 後の議論になるかどうかわかりませんが、調停に代わる決定等の活用につきましては、特定調停法ができまして、あの中でいろいろな規定が整備されておりますが、そのような規定が設けられるようなことがありましたら、調停に代わる決定ももっと活用していいのではないか。

○菅野座長 その点はまた後にしていただけますか。

○髙木委員 それでは前回の議論にもございましたが、民事調停と労働調停の選択云々もスキーム次第だと思いますが、そういう面も含めてこれは管轄論にもかかわるのでしょうが、労働事件と類別されるのであれば、労働調停ができたら民事調停ではなくて労働調停のスキームの中で原則扱うべきだと思います。

○村中委員 調停前置に関しては皆さんおっしゃるとおりで、基本的には難しいと思いますが、ただ、労働関係が存続したまま紛争になっているようなケースでは、前置は可能性としては全く否定できないようにも思います。むしろ労働関係が存続したままですと、互譲の精神でまずやってみなさいと言う方がいいのかもしれないという気もしていますが、しかしそれで本当にいいのかどうかもちょっと自信がありません。
 付調停というのも、運用面では積極的に利用すべき場合が多分あるだろう。特に前回から申し上げている労働条件の変更の問題ですとか、利益紛争的なタイプのものはむしろ積極的に利用した方がいいのではないかと考えています。これが2点目です。
 3点目は、訴訟との連携ということでは、いたずらに長引かないことも重要だと先ほど御指摘がありましたが、その観点で言いますと、例えば調停に入るときに調停のスケジュールをあらかじめきちんと決めてやるというような、これはもちろん運用の問題だと思いますが、運用面での工夫も必要になるのかなと思います。
 もう一つわからないのは、訴訟との関係という観点で言うと、文書をそのまま持っていくということについては幾つか難しいことがあるという御指摘があって、それはやはりそうなのかなという気もするのですが、先ほどカルテをつくって云々の話もありまして、そういうことでも難しいのでしょうか。
 先ほど矢野委員から、裁判官と調停主任を同一人物が務めたらどうかということですけれども、そういうことになりますと調停主任が出ているか出ていないかの問題もあるのかもしれませんが、調停の場に全部出てきているわけですね。そこでかなりの心証が形成されていてその人が裁判をする。それでもいいような気もするのですが、先ほど言われた原理的な問題があるというのであれば、それはちょっと具合が悪いのではないか。しかしそうなると、調停と訴訟の連携は一体どういうものをもって連携と言うのかということで、そのあたりが感じた点です。意見になっていませんけれども。

○鵜飼委員 付調停で利用されているケースを検討したのですが、受訴裁判所が当事者の合意に基づいて争点整理の前に職権でやるケースはほとんどないと思います。ですから、争点整理が終わった上で当事者の合意の上で付調停に付すケースが多いのではないかと思いますが、その場合は受訴裁判所が行うのではなくて、ほとんどが調停部で行うわけですね。そして調停部にも裁判官がいて、専門調停委員がいたり、法曹資格者の弁護士等がいるわけです。そこに付するというときに引き継ぐための資料、メモを渡したり、事件カルテを渡したりという形で連携をとって、そこで調停が成立すれば事件は終わるのですが、調停が不成立になったときには調停部でどういう問題があったかを引き継ぐと、論文などを見ますと書いてありますね。調停においてそれぞれの主張はどうであったか等のポイントを書いて、受訴裁判所に引き継ぐということがあります。
 そこで、それはかなり専門的な知見を要する事件においてそのような取扱いをしているのではないか。例えば医療過誤、建築紛争や、知財事件は専門部があるのでそこでやっているのかもしれませんが、専門的な知識・経験を要する事件について受訴裁判所だけでは処理できないので、そこに移して調停の中で話し合いを進めてみる。そこで場合によっては調停に代わる決定で解決したりいろいろな工夫もするという、そういう事件類型で付調停が行われているのではないかと思われます。
 ところが労働事件については、ほとんど100%付調停というケースはありません。まさに専門部があるわけですから、そこで和解もやってもらいたいというのが当事者双方の意向ですし、現実には労働事件では付調停はされていないわけです。したがって、付調停の活用をどう考えるかですが、まず現行法は争点整理前について付調停は職権でできる、争点整理が終わった後は当事者の合意という構造になっています。
 したがって、労働事件について争点整理で調停に付する意味があるのか、そういうニーズがあるのかという点があります。私はそれは余り考えられないのではないかと思います。ある意味では、この間議論があった専門性というところからきて事件の振り分けといいましょうか、そこで調停を活用するニーズがあるのかなという気もしないでもありませんが、しかし当事者は裁判という手段を利用しているわけですから、労働部あるいは労働集中部で裁判を受けるというところで申立てをするということがありますから、それ以上に調停に付する意味は余りないのではないか。
 そうすると、当事者の合意に基づいて調停部の調停に移すということですが、これもあまり想定できない。ただ、労働調停という地裁段階でできて、労使が調停委員として参画することによって労使の実情に合った解決が期待できるということになれば、場合によっては当事者が合意して調停に移すということもあるかもしれませんが、現状ではその辺はなかなかイメージしにくい感じがします。
 したがって、今の構造自体を直すべきかどうか。先ほど矢野委員が、職権による調停を認めるべきとおっしゃいましたが、現在の民事調停法20条では争点整理前と後を分けているわけですね。そういうことを争点整理後も職権でできるとすべきなのかどうかというがありますが、私はそれは反対であります。当事者が裁判という形で裁判制度を利用して訴訟手続で解決したいと思っている状況で、職権によって争点整理後に調停に付することについては、調停というのは話し合いで互譲によって解決するという本来の趣旨にも反しますので、それは認めるべきではないのではないかと思います。
 したがって、地裁段階で労働調停はどういう位置づけを持つのかという点がわかりにくく難しい面があり、それは皆さんの御意見を聞いた上で私も考えたいと思いますけれども、先ほど申立手続のところで、調停申立と本訴申立の関係があります。私たちが経験するのは、調停が不調になって、直ちに裁判に本案訴訟を申し立てるということになればいいわけですが、時効中断やいろいろなことがあります。しかし本人の場合は本案訴訟の提起は難しいということがあります。
 訴訟との連携を考えた場合に、調停の申立ては約90%以上が定型の申立書を使って、あるいは口頭もありますが、ほとんどが定型の申立書を使っているということがあります。調停不調になったときに、場合によっては本人訴訟でやるケースもありますが、その場合に本案訴訟に移行するための簡易な手続が必要なのではないか。
 これはアクセスのところでるる申し上げましたけれども、定型訴状等を用意して、それに書き込めば本案に移行できるようにすべきではないか。あるいは口頭で述べて、それを書記官が記載するということでやるべきではないか。調停から本案訴訟への連携についてはそういう工夫をすべきではないかと思います。
 調停手続に提出される資料の問題は、先ほど判定的な調停と言いましたが、労働事件については賃金未払いのケース、労働基準法違反という公序にかかわる紛争なのですが、監督署だけではなかなか処理できないので裁判を利用せざるを得ないということがあります。そのときに、給与規程も退職金規程も見せない、出さないケースが多いですね。その場合に調停委員会は退職金規程あるいは給与規程を出しなさいと職権で命じることになると思います。それが過料の制裁がつく場合もありますから。場合によってはタイムカードとか賃金台帳など本人にかかわる部分については出しなさいと命じる。これは、ある意味では賃金未払事件については当然やるべきことだと思います。
 そこで出された資料について、1つの工夫としては相手方にも渡す、申立人側にも渡す。そうしておけば、次に甲号証として証拠に出すことができますが、調停委員会だけが持っておくということになりますと、出す出さないは労働者側もわからないということになりますので、こういうものについては事実関係を確定する、あるいは賃金の額、未払いの事実を認定するために必要な資料については、調停委員会が提出を求めて提出されたものの処理ですけれども、これを申立人側に渡しますと、それが証拠として利用できますので、そういう方法もあるかなと思います。そういう意味での工夫が必要なのではないかと思います。

○石嵜委員 今のお話は、当事者が何を望むかということとは別に、個別労使紛争の問題として、いわゆる利益調整的な部分については労働調停で処理した方が、当事者間の信頼関係の破壊も少なくて済む、そういう類型があるではないか。これをいかに処理しようか、その場合に調停前置という形が1つ考えられるということだと思います。
 調停前置であれば、しかしながら訴訟にいきたい人たちに訴訟にいける時間をロスするということがある。したがってそれについては、本人が訴訟を望むことを前提にしてあれば、タイムスケジュールをACASのように例えば3カ月と決めて、そこで処理すればいい。
 ACASの話では、タイムスケジュールが決まっていると最後の3カ月目にほとんど落ちる、つまり訴訟に移りたくない。こういうこともあり得るので、訴訟の中の解雇等は別としても、存続の部分についていわゆる調停前置をとるような類型化・仕分けで考えることもできるだろう、こういうことがあると思うんです。
 そして次に、付調停の問題については髙木委員がおっしゃいましたように、裁判にどういう参与を考えるか、労働調停にどういうものを考えるかを抜きにして議論すると進まないような気がします。仮に裁判は今のままでいく、そして労働調停について少なくとも労使を参与させて何らかの話し合いで利益調整するという形になるのであれば、調停前置が訴訟の権利を奪うというなら、それをとらないとするならば、そういう枠づけが出れば付調停を十分活用し裁判官の方で、これは訴えてはきているけれど労使の意見を聞いた形で調停で処理した方がいいのではないかという形の話がくると思うんですね。
 裁判の方も専門委員か参与を入れておいて、調停でも両方入れるというなら、それなら裁判にきたものをなぜ回すのかという鵜飼先生の話も出てくるので、ここはきちんと整理してというか、そこを加味しないで付調停の議論をしても進まないようなが気がするのですが。聞いていてそう思います。

○山口委員 確かにそういうところはあると思いますが、現在の労働事件について付調停が全く行われていないというわけではなくて、東京あたりはほとんど行われていませんが、一部の地方では調停を一定程度利用しているという話も聞きます。それは1つは、その地方に社会保険労務士がおられて、細かい賃金計算等についてはそういう人の意見も聞いてみたいということもあると聞いております。また、労働裁判官のOBの方に意見も聞いてみたいというような形で、付調停が全くされていないわけではない。そういう意味で言えば、職権による付調停をする場面はそう多くはないかもしれませんが、だからといって全くなしにしてもいいのかというと、それは残しておいても構わないのではないか。また、事件によっては使える場合もあるわけですから、選択の幅はあってもいいのではないかと思っています。

○菅野座長 5の訴訟との連携は大分議論していただいて、少なくとも今後の検討を深めていく材料、論点は出たような感じもいたします。裁判制度との関連もあるので、もしよろしければこのぐらいにして、次の「6 調停の成立を促進するための仕組み」に移りたいと思いますが、よろしいでしょうか。
 それでは、調停の成立を促進するための仕組みについての議論をお願いいたします

○鵜飼委員 何度も言いますけれども、賃金未払いのように事実関係がかなり単純で、法令の適用によって一義的な結論が得られるような事件類型においては、私は調停に代わる決定、あるいは共同の申立てができるかどうかわかりませんけれども、調停委員会が定める調停条項の制度というのは、特定調停にあるように、これは非常に有効であると思います。したがって、そういう方向での活用はぜひ道を開くべきだとは思います。
 しかし、一般条項の判断が必要で、労使関係に関する経験則がその判断のために必要な解雇、労働条件の変更等の類型の事件については、きちんとした適正な手続に基づく事実認定と経験則に基づく法令の適用が必要になってきますので、その分野で調停に代わる決定等を調停手続だけでやることについては、手続の問題があって私は少し危惧を感じます。
 事件類型によってどうするかという点は少し問題ですが、先ほどに戻りますと、簡易裁判所の管轄事件は現在90万で、これが100万になるかわかりませんが、大体が賃金未払事件やそれに類する事件が多いわけですね。ところが、例えば地位確認等になりますと大体は地裁の管轄事件になりますが、地方裁判所で取り扱うような事件類型においては、調停に代わる決定等の活用は危険性があるのではないかと思います。仮に決定を出しても、どちらかが異議を出して、それによって解決しないということになるのではないかと思います。

○春日委員 調停に代わる決定ですが、おっしゃるように異議があると失効してしまうということで、簡裁の裁判官に伺ったら「異議が出るから」とおっしゃって、実際上は調停に代わる決定はほとんどしないと、多分そのとおりなのだと思います。ですから、現行の調停に代わる決定を前提にすると、異議があると失効してしまってそれだけで終わってしまうから、利用度は余りないというお話になるでしょうから、これは訴訟との関連も考えなければいけない問題だとは思うのですが、調停に代わる決定の制度それ自体についてはもう少し工夫をして、例えば訴訟との関連をどうするか、あるいはこれは極端かもしれないけれども、提訴強制ということも含めて異議の制度をもう一回考えた上で、利用度が高まるかどうかということを検討しなければ無理なのではないかという気もするんですね。
 そういう意味で労働裁判の方をどういうふうにするかというところとの兼ね合いもかなりありますので、調停側の決定を全く否定することはない、少なくとも現行の制度もあるし、それをどのように改善していくかという方にウエートを置くべきではないかと思います。その際には訴訟との関連性をもう一度考えてみて、調停に代わる決定の制度を例えば労働事件について少し考え直すなど、何か工夫をする必要があると思います。しかし、直ちにはかなり難しいわけで、実際には決定があった後に一方の当事者から異議が出ると直ちに失効するというけれど、現行の制度をそのままにしておくのか、それとも今後何らかの工夫をするかという問題ではないかという気はしています。
 その制度をどうするかということはかなり難しい技術的な問題もあるでしょうから、とりあえず現在あるものを今後改良していくということではないかという気はしております。

○後藤委員 春日委員からも調停に代わる決定の件でお話があったのですが、民事調停法17条の規定があって、裁判所が決定することができると書いてあります。極端な例で言えば、裁判所が決定をして強制的に効力が生じるものは強制調停と呼ばれておりますが、それは憲法違反だという議論になって、昭和30年代の最高裁の判例があるわけですね。調停制度を考える際にどういう制度であれば憲法に違反しないのか、調停手続中に裁判所が決定をして、それについて何の法的効果もないというのでは調停の成立を促進することにならないので、ある程度の効果のある制度は、それは憲法違反にならない限りで工夫していく余地はあるのだと思います。そのこと自体は調停制度の在り方として、春日先生が今おっしゃったとおり、何らかの工夫の余地、特に今回、労働調停ということで労働法の専門家が入って特別な手続を考えたらどうかということになっているので、それはそれで検討する余地があるのではないかと思います。

○鵜飼委員 私は、労働事件でも賃金未払事件は調停に代わる決定はかなり活用されるのではないかと思います。というのは、私も調停に代わる決定は今まではほとんどお目にかかったことはなかったのですが、今回はいろいろな資料を見させていただきまして、特定調停の中で調停に代わる決定がかなり活用されているので、これはなるほどなと思ったんですね。一定の明確な法律があって、利息制限法等によって基本的に金額がある程度確定できるわけです。あとは支払能力などもろもろの問題はそれほど複雑な問題ではなくて、その中で一定の大体解決すべき方向性、結論が出てくるわけですね。そうすると、出された決定は当事者双方がしようがないと納得できる、ある意味では法律に基づく一定の判断ということになりますので、これは当事者双方も納得して、裁判になってもこういう結論になるだろう、裁判といっても特定調停の場合は破産等になるのでしょうけれども、そういう見通しも立つということですから、これは賃金未払事件と類似性があります。社会的な背景も似通っているのですが、賃金未払事件は潜在的に非常に多いわけです。そうしますと、基本的な就業規則等の規範に基づいた事実が認定されればかなり明確な結論が出ますし、あとは支払能力に応じて分割払いをするのかどうかということになりますので、賃金未払事件についてはこの決定の活用は十分あるのではないか。
 これ以上に強制力を持たせるのはちょっと難しいのだろう。それは上の方の調停委員会が定める調停条項の制度という一種の仲裁のようなものですけれども、こういうことにならざるを得ないのではないかと思います。しかし調停に代わる決定は労働事件の賃金未払事件で活用の余地は十分あると思います。

○矢野委員 調停委員会が定める調停条項、あるいは調停に代わる決定ですが、結論的には調停成立を促す仕組みとして有効なのではないかと思います。持ち込まれる事案が軽いものから重いものがあって、これが活用できるかどうかはその都度変わってくると思うのですが、必要に応じて適宜に活用できる状況をつくっておくということは意味あることではないかと私は思っております。

○髙木委員 先ほどは舌足らずだったかもしれませんが、専門家調停委員というのでしょうか、要するに調停委員会がどういう権能を持てるのか。それによって調停に代わる決定等の活用も、有効できちんとした機能が果たせるかどうかに影響を受けるのではないか。特定調停法では、調停委員会の権限を、私は余り詳しくないのでまた春日先生あたりにフォローしていただく点かもしれませんが、特定調停についてはこういう権能を調停の場で持ち得るというルールが大分強化されているように思うのですが、調停委員の皆さんがどういう権限を持ち得るのかということと両方セットで考えていく必要があるのではないかという気がいたします。

○山川委員 その点は、調停委員の専門性の中身にもかかわってくるような気がします。先ほど鵜飼委員と山口委員もおっしゃったかと思いますが、未払賃金や時間外割増賃金等はかなりテクニカルな問題になる可能性がありますので、それについて証拠を提出し合って細かなことを裁判官なりに判断してもらうというよりは、迅速な解決という観点からは、その点についての社会保険労務士あるいは行政OBの方が、特に簡裁の調停を考える場合には簡単に処理できるかもしれない。そういう観点からすれば、調停に代わる決定と、もう一つは調停委員会が定める調停条項の仲裁的利用などによって、基本的なところに争いがなければあとは細かな計算などは任せてしまうやり方も、運用の問題になるかもしれませんが、あるかなと思いました。

○石嵜委員 これは要するに調停の成立を促進するという意味でお話しになっているので、使用者側の私の方が事件をやっていく上での解決の決定どころは何かといいますと、時間をどのぐらいかけなければいけないのか、この時間ロスをどのぐらいにとめるか。これが経営上の問題の1つです。そしてもちろん出すお金、弁護士などに払う費用をトータル的に最終的にはどのぐらいの費用として見るかにかかるんですね。したがって、原状復帰のような形になると、そういうものがすべて外れた世界で使用者は議論をし出す。ただし金銭解決の話なら、類型的には賃金未払いや割増賃金もありますし、解雇は金銭賠償が可能になればこれもそうだと思うんです。お金の議論になるのなら一定程度調停で互いに話し合って互譲を進めておいてある枠までくれば、決定を出してもらったら、正直言うと使用者が乗るんですね。その後にいろいろあって裁判にいくよりは、その方が使用者側はコストが低いんです。そういう意味での調停の決定を促進させるという意味なら、やはりこういう形できちんとした決定、今まで以上の労使紛争の問題なら、有効にお使いになれば、使用者側の立場からは調停に乗る確率は実際に高くなるのではないかと思います。

○鵜飼委員 私も特定調停を利用した経験から言いますと、特定調停の調停委員は大体法曹弁護士ともう1人は金融機関等の実務に精通している人、その2人がペアになってやるわけですね。金融機関が相手になるケースが多いのですが、金融機関に対して法律で要求されている資料などを出しなさいと要求するわけですね。それによって計算をして、利息を引き直して計算して、あとは申立人側の支払能力ということで一定の方向を出すわけです。これは当事者はほとんどオーケーするような仕組みになっています。
 したがって私は調停に代わる決定等の活用は、労働調停の活用という点で言うと、今の簡易裁判所のレベルでは私もいろいろ報告を受けていますが、労働基準法に必ずしも十分精通していない裁判官、調停委員がいらっしゃるようで、そういう点でどうかなと思う節もありますので、我々弁護士も含めて言っているのですが、労働法に精通している実務家と、あとはもう1人、労使事情をわかっている人という形でやれば、テクニカルな問題についてはかなり迅速に解決できると思います。また、そのニーズは高いと思います。
 一般条項にかかわる問題については、適正な手続を経ないで決定を出して、それが不調になったときに、裁判に利用されるということになった場合に裁判における心証形成にとって一定の影響を与えることになります。これは現在の付調停の中で、そういう趣旨で調停で何が行われたのか、調停委員会の判断を考えるとどうなるかということを示す意味で調停に代わる決定を使うという議論もあるようですけれども、解雇事件の一般条項にかかわる問題については、それはちょっと賛成できないという感じがいたします。
 しかし調停の成立を促進するための仕組みとしましては、調停に代わる決定等が活用されるようにしていく。もしそれで相手が異議を述べて効力がなくなる場合には、その次の担保はすぐに裁判に出せるということだと思います。したがって、すぐに裁判に出す手続が簡易にできることがその担保になりますので、それはぜひ考えなければいけない。
 もう一つは促進するための仕組みとして、先ほどどなたかがおっしゃいましたが、迅速性の点で迅速処理義務のようなもの、特に労働事件については謳ってもらって、タイムターゲットのようなものを規則等で、第1回の調停期日が1~2カ月先になると困りますので、特に賃金未払事件等については2週間以内というような、1つの努力目標的なものをタイムターゲットで設けて、今の民事調停のほとんどが3カ月で3回ぐらいの調停で終わっているようなので、そういうところをタイムターゲットに持っていけば、もし不調になってもすぐ本訴にいって解決できる仕組みになると思いますので、その辺が同時に必要なのではないかと思います。

○山口委員 調停の成立を促進するための仕組みとして何を考えなければいけないかということは、現状の調停が使われていないという現実を踏まえて議論しなければいけないと思います。現状の調停が使われていない理由としてはいろいろあるかと思いますが、その一因としては、少なくとも専門家が十分関与していないということがあるのではないかと思います。簡裁の調停におきましても、一定数の労働問題に通じた方はいますが、それは必ずしも多くはない。したがって調停員による調停が十分機能していない、したがって利用もしないという意見が一部の方から述べられておりますが、そういう現実もありますから、そういう現実も克服する手段を考えていかなければいけないと思います。
 そうすると、賃金未払い等の簡単な事件につきましては今以上に専門家を関与させて、専門家による調停という形で当事者の理解・納得を得るような形にしていく必要があるだろうと思っています。
 先ほどお話がありましたように、地裁でやるような重たい事件につきましては、解雇等が一応念頭に置かれると思いますが、専門家の力を活用するという意味では、何人かの方からもお話がありましたけれども、そこに労使の専門家が入って、それぞれの立場を踏まえつつ、なおかつ公正な立場からの意見を言うことが調停の成立率を高めていく。そういうことの担保になるのではないかと思っています。
 そういう形で制度を考えていくとした場合は、それだけ高い能力・経験のある労使の専門家を調停委員として使うわけですから、そういう方が関与された調停については、例えば調停委員会が定める調停条項の制度でも構いませんし、あるいは調停に代わる決定でも構いませんが、専門家の意見を何らかの形で調停の段階で反映させる必要があるのではないかと思っています。そうすれば、そういう方が出された調停条項、あるいは調停に代わる決定ということで、当事者がそれに従う場合も増えてくるのではなかろうか。そういうことも調停の成立を促進することで働いていくのではないかと思っております。
 ただ、その決定なり案について不服が出た場合にどうするかということにつきましては、鵜飼委員からもお話がありましたように、できるだけ早期に訴訟との連携を図っていくという手当ても、また同時に考えていかなければいけないと思っております。
 そういう形で考えますと、もう一つは簡易・迅速性という調停の特色を生かすという意味では、今以上にタイムスケジュールをもう少しタイトな形で考えていいのではないか。一番の期限が設定されない形で調停でだらだらと行われることによって生じる時間ロスは、労働者にしても使用者にとっても決してプラスにはなりませんから、迅速処理義務を運用の問題でやるか、あるいは制度として何らかの手当て、例えば一定の期間・期限にするというようなことも考えるか、そういうことも検討していいのではなかろうか。やはり調停が早くでき上がるという仕組みをつくってかないと、今までのイメージとは違うということにしないと、なかなか使いやすくはならないのではないかと思います。

○鵜飼委員 山口委員の意見に私も基本的に賛成なのですが、専門性を強化しなければいけない。特に労働法をきちんと知った方、あるいは実務に精通した専門家が関与することによって、今の民事調停がより利用しやすくなると思います。そういう意味で日弁連においても労働法制委員会が立ち上がりまして、経営側・労働側で労働事件をやっている人たちを中心に労働法制なり労働裁判等の運用の問題について提言したり、あるいは実践的にかかわっていこうということです。
 我々も調停そのものに自ら調停委員として関与することは敬遠する傾向があったのですが、1つの社会的な使命として、そういう調停委員になり労働法が必要とされる分野に参画して一定の使命を果たしたいという決意でおりますので、制度設計に我々も協力していきたいと思います。
 ただ、先ほど山口委員がおっしゃったように、非常に難しい事件、一般条項を適用するような労使の経験則が必要とされる事件類型については我々法曹はむしろ専門外でありますので、その点は労使の人たちに参加していただいて、これはむしろ判定的な部分だと思いますが、そういう役割を果たしていただきたい。我々労働事件をやっている者は労使の立場を超えて、この問題については社会的なニーズがありますので、こたえていきたい。特に特定調停が飛躍的な数に増えたのは、そういう人たちがたくさんいる、そういうニーズがある、それに対してシステムができて、それにふさわしい調停委員が配置されることになってあれだけの数になったわけです。そういう意味では労働調停も潜在的ニーズはたくさんありますから、私たちとしてもその責任は果たしたいという気持ちでおりますので、そういう方向でぜひ御検討いただければと思います。

○村中委員 調停を利用するようになるかどうかとの関係で考えますと、せっかく調停があってもぐちゃぐちゃと話をして、結局最後は何もまとまらなかったというのでは、労使で「あの使用者だったら・・・」「無駄だな」という形で進んでしまう可能性が結構あるのではないか。それよりも、一定の期間が決まっていて、その最後には合意ができなくても何らかの意見を言ってもらえるということが原則になっていた方が、当事者は使うのではないかと思います。それが1つです。
 もう一つは質問ですが、先ほど出た民事調停法の17条で、資料67の10ページですけれども、最後に「この決定においては、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命じることができる」となっているのですが、これはこれ以外はできないという趣旨なのでしょうか。実際はどういう理由なのかなと思いまして。

○春日委員 17条決定は解雇事件でもできるかという御趣旨ですか。
 これは「金銭の支払、物の引渡し、その他の財産上の給付を命じることができる」と書いてあるので、それだけに限定されるかどうかという御趣旨だと思うんですね。

○村中委員 そうです。

○春日委員 私もそこは疑問だと思っていまして、私自身も、解雇事件等は17条決定ではできないのではないかと考えているんですね。
 つまり金銭の支払いなので、例えば未払賃金の支払いなど、債務名義を目的として。17条決定はできるのだけれど、そもそも労働者たる地位の確認はちょっとできないのではないかと思っているのですが、そういう解釈でよろしいのでしょうか。
 労働事件すべてがこの民事調停法の17条決定の対象になるかというと、ならないように思うのですが。また現実に、恐らく解雇事件などで17条決定が出ることはまずない…。

○石嵜委員 「地位を認める」なんて信じられませんしね。

○山口委員 多分、強制執行を念頭に置いた関係で、そういう意味で財産上の関係にするということだと思うんです。ただ、新しいというか今後つくる労働調停で、その調停にかけてそのものの形にするのかどうか、これはまた議論の余地があると思うんですが。

○春日委員 そうですね。新しい労働調停の場合にはそれまでも使えるという制度にしようというのであれば、それはそれで1つの方法だと思うんですね。

○齊藤参事官 現行の解釈なので、詳細なところまで説明する準備がございませんので、そこは調べておきたいと思います。

○鵜飼委員 春日委員もその趣旨ではないかと思いますが、私も賃金請求事件にほぼ限定されるのではないかと思います。もちろん解雇無効で賃金バックペイということもありますけれども、私は解雇事件については解雇有効・無効の判断を調停に代わる決定で行うというイメージはとても持てませんので、それはむしろ反対ですね。それはもちろん法令違反等の解雇など本当に明確な場合はどうかと言われるとちょっとあれですけれども、しかし一般法理を適用するような解雇事件については、証拠調べを行って裁判手続において判断すべきであって、調停手続で調停からの決定で行うべきではないと思います。

○菅野座長 御意見はありますでしょうか。これも一通り御議論いただいて材料は出たかなという感じもいたしますので、第一ラウンドとしてはこの程度でも何とかなるかなとも思うのですが、よろしいですか。
 もしよろしければ10分間休憩し、土地管轄の問題に入りたいと思います。
 それでは休憩に入ります。

(休 憩)

○菅野座長 それでは再開いたします。
 労働調停の主要な論点の「3 土地管轄」、端的には申立人の住所地の申立ての可否ということになろうかと思いますが、この点での議論をお願いいたします。

○石嵜委員 最初に使用側の立場で申し上げれば、どんな事件であれ使用者、特に大企業であったら全国展開していて各地に事業所がありますので、それについてはある程度の対応の可能性はあったとしても、中小・零細企業はほとんど一定地域にしかありませんので、そこの労働者が何らかの形で退職した後、故郷に帰って申立てをする事例には対応し切れないというのが、申立人の住居地云々を認めてしまう。したがって、この点については今の相手方の住所。これはなぜかというと、その事業所で働いていたわけですから、そこで紛争が起きていますので、したがってそこでの解決が原則であって、これについては現実を考えても認めるわけにはいかない。これは私たち使用者側弁護士と議論して、全員そうですね。ここだけは間違いありません。

○矢野委員 今の意見のセカンドをします。企業の意見を聞いてみてもそうでして、相手方の住所地というのが原則で、紛争発生場所は多少離れている場合があって、紛争発生場所ぐらいまではいいと思うのですが、申立人の住所というのは現実的ではないと思いますので、これはよくないことだと思います。

○鵜飼委員 それでは労働側の話を申し上げますと、例えば退職後、本当に任意で自発的に退職するケースは、我々が相談を受ける限りにおいては非常に少なくて、やむを得ざる理由、場合によっては退職強要まがいでやらざるを得ないというケースもあります。都会ではもう生活できない、したがって田舎の実家に戻る。それは生活のためにやむを得ないという事情があるんですね。そのときに例えば未払賃金があって請求したいというときに、審議会の議論でもそういうこともお考えの上で申立人の住所地または居所も管轄にすべきではないかという議論があったのではないかと思います。
 ところが今の時代背景からしますと、そういうケース、そういうニーズも相当ありますので、私は審議会意見書を受けて、申立人の住所地での管轄も認めていただきたく思います。ただ、調停ですからどうしても出頭できないという場合に、過料の制裁は現在はほとんど機能していないようですので、どうしても零細企業でそこまで行けないという事情がある場合は、それは結果的に調停に応じられなくて調停不調になってしまうわけですね。
 良心的な経営者であれば、もし賃金未払いなどがあればそれは応じていただいて問題を解決することになるだろうと思いますし、実家に戻って申立てをせざるを得ないケースはよくよくのことだと思うんですね。したがって、そういう場合までは認めていいのではないか。それによって使用者側に過酷な負担ということにはならないのではないか。移送というのも調停では余り考えにくいわけですが、最終的には強制力はない……過料の制裁はありますが、事実上行けなかったらそれによって不調ということになりますので、私はこれは入れるべきではないかと思います。

○村中委員 解雇で1件あったのは、某市の飲食店が料理をする人を探していて見つけに行った。300キロぐらい離れたところでようやくいい人を見つけて、その人でいいだろうと、わざわざ探しに行ってそこで面接もして、それでこの人ということで来てもらった。ところが働いて1週間ぐらいで、その料理屋の方は気に入らない。契約はもう済んでいたのですが、そこでクビにしてしまったんですね。その料理屋は寮を持っていたので、その寮からも追い出されて結局300キロ離れた故郷に帰るしかなかったというケース。それは余りにも不当というので、あっせんを持ってこられた。しかしそれは某市でしかできないということになったわけです。
 このケースを考えると、あっせんは1回しかやりませんから、1回だけ出てこいというのがいいのかもしれませんが、解決ではそこまで含めて、このぐらいされてはどうですかということを使用者側には言いましたけれども、労基法15条のケースではありませんが、採用時にトラブル等があった場合については、使用者側も応分の負担をしてもいいようなケースは少なくともあるのではなかろうかという気はします。

○石嵜委員 事例を引っ張り出せばお互いに言えるんですね。労働側が勝手に出ていって予告金をもらっていないとか、辞職か解雇か争っておいて解雇予告金の議論もできる、こういうことだと思うんですね。だから事例で言うならば、いろいろな事例は互いに言い分はあるだろう。ただし結局それは費用の問題ですから、あえて申立人の住居地を管轄に新しくつくらずして、今の事例であれば、それはそこの部分について何らかの形で費用を持たせるような話でも実際はできると思うんですね。

○村中委員 結局そういう形になりましたね。

○石嵜委員 それで解決だと思うんですね。したがって、あえて土地管轄として通常の原則の相手方の住居地以外に、ここを入れなければいけないということではないと思うのですが。

○村中委員 通常、労働関係に関してこういうものがどういう形で出てくるかというと、労働者の方は大体本人が申し立てる形になって、使用者の方は代理人を立てる。労働者の方は生活のために次の職場で働いていたりすると出てくる時間がない。しかし使用者の方は代理人を立てられるので、それで対応できるケースが多いことはあります。個別ケースで見ればそうでなく全く反対のケースもあるし、特に石嵜委員がおっしゃった中小企業のケースについては若干事情が違うのかもしれませんが。

○石嵜委員 正直言いますと、大企業の話ならそれでいいわけです。ただ、私たちが現実に想定しているのは零細企業です。現実問題として大体3分の1の労働者は30人以下の零細企業で働いているんですね。100人以下に50%働いているわけですから、この辺の状況を考えたときに、賃金未払いや解雇でも本当に労働基準局等で調整しているときに代理人がついている方が少ないんですね。それは、正直言いますと弁護士費用倒れですもの。ですから、先生がおっしゃるように常に代理人ということでもないし、当事者は対等に近いところが存在していると思うんですね。確かに解雇権濫用の法理があるということは実際にそうですけれども。
 今のような形で採用時にあるところから特別に連れてきたという場合であれば、それなりの何かのフォローをするか、費用で処理するか。そういう特殊な採用時に地方からあえて東京に連れてきた、その人が解雇されて地方に戻った、こういう事例はまさに特殊な事例だと思いますが、通常は地方の人が東京に出てきて東京で勤めて解雇されたから地方に帰ったというのは、こちらの方が多いはずなんですね。その事例を考えたときに、使用者側で申立人の立場を認めるのはなかなか難しいという気がします。

○鵜飼委員 申立側の濫用にわたるようなケースについては、過料の制裁は発動されないと思うんです。真摯な申立ての内容であって、なおかつ使用者側がそれに応じないときに過料の制裁が検討されることになると思うので。この辺は審議会で議論されたんですね、髙木委員。

○髙木委員 詳しくは覚えていませんけれども。議事録を見てみてください。

○鵜飼委員 意見書にあると思いますが、実家に戻らなければ生活できないで退職等の問題になって、しかし未払賃金等があるという人たちに対してこういう管轄が与えられれば、泣き寝入りしなくてもいいということになると思うので、私は濫用的なものは十分運用によって対応できると思うのですが、どうでしょうか。

○石嵜委員 濫用とか信義則とか、管轄を決めることにその議論は現実的に余りないのではないですか。

○鵜飼委員 管轄ではなくて、過料の制裁をすべきかどうかという段階です。不出頭についてどうなのかという段階ですね。遠隔地において調停条項の合意という規定もありますので、そういう場合も本人がやむを得ざる事情で実家に戻らざるを得ないということがあった場合、それは濫用ではありませんから、紛争自体は存在するわけですから認めてもいいのではないでしょうか。

○石嵜委員 やむを得ざる事由が自分の方のいわゆる生活圏で起きた場合に、それを使用者に負担させるというのはあり得ないのではないでしょうか。先ほども村中先生がおっしゃったように、使用者が積極的に地方から連れてきたという事案であれば、それは使用者側でも例外的な形を考えることができたとしても、単に東京で自分が就職先を見つけて、そこでの事件について、そして生活できるかできないか、できないから戻るということ1つ1つをやむを得ざる事由などを考えて、過料の制裁などを議論すること自体、制度として動かないのではないですか。

○髙木委員 これはまさにいろいろなケースがあって中身をよく見てみると、故郷へ帰らざるを得なかった背景なり、そもそも解雇の仕方、その理由・内容等、それはまさに調停なり裁判で争うことで、石嵜先生もそういう例をご担当になられたこともおありだと思うけれども、これは誰が考えてもあんまりだというものあります。その間、食べなければいけませんから、仮にだかきちんと決めたのだかわかりませんが、次の仕事についてしまっていると、それを放り投げて出てこいと言うわけにもなかなかいかなかったり、その意味では、おっしゃるとおり全部が全部、申立人の住所地というと経営法曹の皆さんの中には御異論があるのはわからないでもありません。私たちの世界から見ていて、調停だけでなくて労働委員会でも同じくあるんです。中労委は東京にしかありませんから、再審査で中労委に上がってきたときに経営側がもってこられる。私が担当した事件でも、何かあるたびに福岡から出てくる。その旅費等はどうするのかと言いたいんですね。中労委に行けというのは経営者の皆さんの申立てで来たわけです。しかし、やっている最中に経営者が旅費を出してやるなどと言ってくれるわけもないので、そういうことがいろいろあるので、ああ言えばこう言うという世界だろうと思うんですね。

○石嵜委員 では、確かに生活のために国へ帰ってなかなか時間がとれないということになれば、零細企業の30人以下の会社の社長は、全員の従業員の家族を背負って必死に資金繰りから何からやっているときに、地方に1日出てこいというのもやはり難しい世界でして。
 ですから問題は、個別にいろいろある枠の中で、あえて調停で相手方住所地という土地管轄がきちんと決まって、紛争というものがあったのに、労働調停であえて申立人の住居地までどうしても言わざるを得ない特殊事情は、互いのことを考えたらないのではないかというのが我々の基本的な考え方ですね。

○山川委員 理屈でどちらが正しいかという問題ではなさそうなので難しいですが、これまで調停で移送は余りないのですけれども、移送とか例外と原則の設定の仕方などにより、何か柔軟な解決ができないかなという感じです。
 確かに労働側の住所地は適切なようにも思えるのですが、例えば、数人が解雇されて住所地がばらばらだった場合にどうするのかというケースもあり、考え出すと切りがなくなってくるような気がします。ですから、移送などにより集中的にどこかでやるとか、1回1回場所を交代するのは幾ら何でも無理かと思いますが、もう一つは、これは結局のところ調停事件の迅速な解決との関係ですので、例えば2~3回で終わるのでしたら、それほど費用の負担にはならないかもしれない。あるいは長引けばどちらかに移送することをまた考える。結論はなかなか出ないのですが、そういう形で工夫の道はあり得ないかというのが直感的な感じですけれども。

○春日委員 私もどちらという意見ではないのですが、石嵜先生がおっしゃったように、費用の点で何とかカバーする…今は各自の負担とするという調停条項を設けて、それでおしまいということになっているのですが、調停が成立するならば、そこでどちらかに幾ら払えという話し合いはいいのでしょうけれども、不成立の場合は結局、元も子もなくなってしまう。不成立の場合を考えると結局訴訟ということになり、訴訟では基本的には被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所ということになると元の原則に戻ってしまいます。私はどちらにすべきなのかはっきり言えませんけれども、民事調停法とある程度平仄を合わせるというのも変ですが、それに合わせつつ、申立人の側のアクセスも少し考えなければいけないのかなと思います。こういうところで、結論はないのですが、しかし何か考慮しないと具合が悪いのかなとは思いつつも、民事調停法のような原則がありますので悩ましいところです。

○鵜飼委員 こういう場合にテレビ会議等の形の調停はどうでしょうか。ただ、設備が十分整っていないのでしょうか。
 せっかく審議会で議論された1つのメッセージとして我々は受けとめているわけですから、我々もそういうニーズは本当にあると思うんですね。でも、泣き寝入りを余儀なくされてしまうわけです。したがって少しでも救済の道を与えたいということだろうと思うので、なるべくそのメッセージを受けて、経営側の事情もわかるのですが、泣き寝入りしないで利用できる道を探っていくべきではないかと思います。

○髙木委員 この間、石嵜委員が経営側も持っていくと言われたじゃないですか。

○石嵜委員 会社が持っていくのは、逆に労働契約関係が継続している前提で、配転命令を出して拒否されたら、解雇にいくのかどうか、やはり一度聞いてみたいとか、時間外労働命令を拒否されていることについて懲戒まではいくのだろうとか、存続を前提とした枠の中で解消になったら解消してしまうだけで、その中ですから、基本的には申立人というか、会社側の住居地に労働者がいる前提での使用者側の申立てが多いと思うんですね。
 そういうイメージなものですから、使用者側がどこかに会社を移して、こちらに残った者に調停をあげてこちらへ来いというのは余りイメージしていませんので、その問題については会社側の立場からいけば、会社の事業所からやめて故郷のある地方に帰った、これが現実の想定事案だと思うんですね。

○髙木委員 これもいろいろなケースがあるので、工場は○○県にあり、本社は××市にあるというと、経営者がそんなところまで行かないとか。

○石嵜委員 工場があれば、そこは今の民事調停で。

○髙木委員 工場にそんなことができる者はいない、というのは。

○石嵜委員 それは通用しないですね。それは事業所の一つの住所に…

○髙木委員 実態的にはそういうところでやるならこっちへ来てやれぐらいのことを言う人は幾らでもいるのではないですか。

○石嵜委員 それなら使用者も過料を受けます。

○髙木委員 ですから、売り言葉に買い言葉のようなやりとりになりますけれども。

○矢野委員 この世の中ですからいろいろな事情の人がいることはわかるのですが、大原則を変えるまでの必要があるのかどうかということですね。現実的な当事者になるはずの中小企業の人たちの声を聞いてみると、本当に勘弁してほしいという感じですね。紛争が起こらないにこしたことはないにしても、起こった場合にはそれを処理する手順は今まで行われてきた原則に沿ってやるということで、それを覆すほどの強い理由とは思えないです。いろいろな意味で同情に値するケースはあるかもしれませんが、そんな気がするのですが。

○鵜飼委員 遠隔地間の調停で何かうまい工夫はないのでしょうか。それが1点ですね。
 確かに今は経済状況が非常に厳しくて、都会ではもう仕事ができないというか見つからない、したがって田舎に行って家業を手伝うなどいろいろな形で生活していこうという人も少なからずいるんですね。そういうことも念頭に置いてこういうことが議論されたのではないかと思います。
 それと、民事調停法第3条の管轄のところで、「相手方の住所、居所、営業所もしくは事務所」ですけれども、義務に応じて工場で働いている場合は工場という就労の場所があって、賃金支払義務も当然あるのですが、工場はこれに入るのでしょうね。

○石嵜委員 だって事業所でしょう。

○鵜飼委員 「営業所もしくは事務所」とあるんですね。これは初歩的な質問で申し訳ないのですが、民事調停は労働事件で余り利用したことがないものですから。工場がどこかにあって、工場の閉鎖等で事務所や営業所は別にある場合、工場の管轄の裁判所に調停を申し立てることができるのかということですが。

○石嵜委員 それはできるでしょう。

○鵜飼委員 この事務所などに当たることになるのですか。

○石嵜委員 疑ったこともなかったのだけれど。

○鵜飼委員 私も疑っていなかったのですが、よく読んでみるとちょっと……。

○後藤委員 法律上の事務所の意義については、一定範囲の事務を独立して行うべき場所かどうかということで決まるわけで、工場であっても事務所の機能があれば事務所ですし、それに当たらないのであれば当たらないということだと思います。

○山川委員 それは当該紛争に関連する事務所と読むのでしょうか。それとも、国際裁判管轄などですと、不正確かもしれませんが、マレーシア航空事件判決では、被告の事務所が日本にあればいいではないかという判断があったような気がしますけれど、何らかの事務所が存在すればそこでいいということでしょうか。また初歩的な質問で恐縮ですが。

○後藤委員 民事調停法の規定からは、事務所があればいいということではないでしょうか。

○山川委員 どこかに支店もあればそこに持っていけると。

○菅野座長 今回の最後の問題も受けとめて、今後また検討を深めるということで大体よろしいでしょうか。
 前回カバーしていなかった論点を議論していただきました。「訴訟との連携」、「調停の成立を促進するための仕組み」、「土地管轄」。あとは前回議論していただいた1の「対象となる紛争」、2の「事物管轄」、4の「専門家調停委員」について、前回で言い足りなかった点、なおこういう点を議論しておいた方がいいのではないかということを出していただければと思います。
 先ほど訴訟との連携の論点の中で、2の「事物管轄」、簡裁とするか地裁とするかの点はなお補足的に議論されておりますが、その点も含めてなお議論していただきたいと思います。

○髙木委員 今のリクエストと違うのですが、これは「その他」に入ると思いますけれども、調停費用の負担軽減という意味で、労働調停の場合は、平たく言うとできるだけ安くという話もありますので。

○菅野座長 どうぞ「その他」の点も含めて問題提起をしていただければと思います。

○鵜飼委員 今の点と絡んでその他の部分に入りますが、定型の調停申立書があって、それが民事調停で8~9割は利用されているというデータがありますね。これをぜひ各種の相談窓口に置いていただきたい。労政事務所や労働相談センターとさまざまなところがありますが、そういうところに置いて、普通の人が調停を利用できるような方向にしていただきたい。
 さらに調停から本訴に移行する段階で、これは前から言っているのですが、定型訴状的なものも用意しなければいけないのではないかと思います。そういうものを相談窓口に置くことによって、一般の人が簡単に利用できるようにする方向でやるべきではないかと思います。

○矢野委員 労働調停の国民への周知徹底の方法をよく考えてやったらいいのではないかと思います。使いやすい制度であることと、裁判所の敷居はそれほど高くないということも含めて、ぜひ広くPRする。これは制度そのものの中身ではないのですが、考える必要があると思っています。
 専門家調停委員の選び方ですが、どういうところを給源にするかは少し議論したのですが、その選び方も考える必要があります。これは私自身の考えがまだ固まっていないのですが、例えば候補者リストをつくって、それをいつも用意しておくことも1つありまして、事故が起こって誰かが都合が悪くなったら、次にすぐ後任者を選べるような、最終的な任命はショートリストで決めるにしても、ロングリストを持っておくことも1つの方法ではないかと思います。そうした場合に、その中にいわゆる労使関係の専門家だけでなく、例えば労働災害ですと産業医などの先生もいますね。そういう先生方の専門的な意見を聞くような場合もあるかもしれませんし、あるいは工場の生産技術についても聞く必要が出てくる。専門委員のような位置づけになるかもしれないので余り出番はないと思いますが、そういうことも考慮に入れて、候補者群のロングリストをつくっておくこともいいのではないか。必要に応じてそういう人に出てきてもらう。例えば調停委員会を2~3回するにしても、どこかの工場の製造ラインのある出来事という場合、それはどうなっているかを聞く場合に人事労務担当者が詳しくないこともありますから。それをどこまで幅を広げたらいいのか、ロングリストが可能かどうかは私も判断がつきかねるのですが、選び方の問題で、どこかに推薦させるかさせないかということも議論しましたが、それ以外に今のような視点の論議をする必要があるのではないかと思います。

○菅野座長 ほかにありますか。
 私から1点、対象となる紛争について、前回は個別的紛争を主として念頭に置くということでは一致していて、重い方に焦点を合わせるか軽い方に合わせるかということだったと思います。ただ、間口というか制度的な対象としてはそれほど限定しない方がいいのではないかという議論が多かったように思います。特に集団的労使紛争、労働争議に当たるようなものを制度的にどうするかというのは、私はなお検討した方がいいのではないかという気がしております。これは裁判制度がどうなるかとの関係もあるのですが、リソースの使い方等も含めて、今の段階でそれも制度的に含めてしまうというところまで決めない方がよいのではないかという気がしております。

○髙木委員 その点については集団的労働関係の中で、特に調整的な労働委員会の機能はかなりレベル高く維持されてきているのだろうと思います。そういう意味ではいわゆる調停というレベルで問題解決を図ろうとする集団的労使関係にかかわる話は労働委員会でいいのではないかと思っています。個別労使紛争なのだけれど集団的労使関係の衣を着ているものがあるのでその辺はどうなのかなということはありますけれども、大方は労働委員会の調整というより審問であがってくる例が多いのでしょうか。

○菅野座長 両方あると思いますが、労働争議や不当労働行為などで労働委員会にいくものは、端的に言えば当事者が組合と使用者であるということではないかと思うのですが、中身が権利義務で、申立人が個人であれば、実質的に組合と使用者の争いであってもそれは個別紛争ということで処理されると思います。

○鵜飼委員 労働調停が利用されるかどうかの問題の中心的なものは、本当に専門的な調停委員が確保できて、迅速かつ適正な調停の手続が進行するかどうかということになると思いますので、そういう意味で給源の問題としては、労働事件の中のかなり単純明解で法律の適用もそれほど難しくない、しかし労働法についての知識及びその実務に精通している人たちが労働調停にどんどん入ってきて、そういうニーズに対してこたえていくことがまず必要ではないか。
 そういう意味では私たち弁護士会としても、労使それぞれの側でやっているけれど労働事件としてかなり専門にやっている人たちが、単に当事者の立場でやるだけでなく、調停委員としてそういう場に参画して、紛争解決に一定の役目を果たすことも必要なのではないかと考えますので、弁護士会内部でもそういうことで、それでは候補者リストに自分が名を連ねることに対して躊躇する人もたくさんいると思いますが、しかし弁護士の責務として役割を果たさなければいけないと思っていますので、給源のその部分については、主として労働事件を行っている弁護士についても当然その対象に入れていただく。あるいは社会保険労務士あるいは労働基準監督署のOBなど労働法に精通している人たちも当然、給源の対象に入るだろうと思います。そういう人たちを活用することによって労働調停が現実に役に立つものになっていく。現状がまだそこまでいっていないために、調停を利用するという気持ちにならないところがありますので、その部分の専門性の活用はやるべきではないかということです。

○村中委員 集団紛争についてですが、髙木委員がおっしゃったように、労働委員会における調整機能が非常に高いのは私もそうだろうと思います。例えば小さな企業で小さな組合があって何かもめているケースで、労働委員会は都道府県に1つしかなくて出てくるのが大変だという側面も一方であるんですね。京都なら京都の真ん中まで出てこないといけない、舞鶴あたりで起こったときにそのあたりでやってもらった方がいいというニーズはあると思います。

○石嵜委員 まさにアクセスの議論なんですね。それでは集団労使紛争を簡易裁判所でやれるほど簡易裁判所に人が配置できるかという問題も出てきます。したがって、地方裁判所の支部との部分なら裁判所の方が仲裁が多いのかと考えると、労働委員会も広い地域でやる場合は、鳥取なら鳥取市にあるのですが、結局米子でも調停委員が動くとか、北海道も動くとか、恐らく地裁の支部並みには動くんですね。したがって、その部分で考えたときに簡裁独自の集団労使紛争をやるかと考えると、アクセスやサービス面を考えても、集団労使紛争は労働委員会に任せて、そういう部分のアクセスは労働委員会ももう少し動いていただく方が現実的なのではないかと少し考えているのですが。

○髙木委員 何年前だったか、宮崎県の地労委の委員をしておりましたときに、賃上げ云々であっせんや調停といろいろやりましたけれど、労働委員会の側から現地へ出ていくという対応をしたことが多かったように思います。

○山川委員 行政上の個別労働関係紛争解決については個々の労働者と事業主との間の紛争ということになっていて、いわば集団紛争かどうかを当事者で分けていることになりまして、そのように考えると、実質的には個別紛争である事例は、個別の労働者が申し立てをすることで調停を利用すること自体を制限することはできないと思いますので、そうすると実質的に問題になるのは団交拒否など、支配介入には例外もありますが、組合自身が当事者になる事例だけですので、専門性という観点からも労働委員会の問題にした方がいいのかなという感じはします。
 個別紛争と集団紛争の色彩が重なってくる事件は、どちらにしても、結果的に誰が申し立てるかによって分けるということはできるかと思います。

○髙木委員 この問題を考えるときに、多くの労働協約の中に実際的な運用はいろいろな工夫で免責、義務の免除がされていますが、労働委員会に義務づけする協約条項を持っているところはまだ残っているんですね。
 ストライキに入る前に労働委員会にいくことを義務づけて、そのステージをくぐらないとスト通告できないとか、労働委員会へ持っていっても、あっせんはトンネルにしてくださいと言っていくと労働委員会から大概叱られるわけです。人に物を頼みに来ておいてトンネルにということがあるかと言って、そういう面がこの議論にどう絡むかよくわかりませんけれども、現実の協約にはまだそういう部分が残っているところがあります。

○矢野委員 個別紛争は個々の労働者と使用者との間の権利義務の関係が紛争になっているわけですが、今議論している労働調停も裁判所という場所を利用したADRの1つの形だと思うんですね。その個別紛争は、実は労働委員会でも最近は各県で随分取り扱うようになりました。その掌に当たる人は、労働委員会の集団紛争をやっている人と同じかどうか確かめてはいませんが、同じでもおかしくないと私は思っています。あと、行政の労働局でいろいろやっていますが、私どもはその制度をつくるときに、ADRはあっせんまでにしたんですね。調停はもっと重いものだから裁判所という場所でやろうということに意見が一致してそうなったわけです。ですから、裁判所に行っても調停があって、それから訴訟と、そちらの連携の方は議論しましたが、ADRの仕組みの中でそこでつながっているわけですね。労働調停というところで2つの円がダブっているわけですから、一般的なADR、あっせんまでのADRとのつながりは考える必要があると思います。労働委員会も同じ屋根の下に個別紛争と集団紛争と両方ある形になってきていますから、そういう意味では労働委員会ともつながりがあると言えますね。
 ADRの趣旨を考えれば、本当に使いやすくて、いつでも行ってちょっと相談する。調停となればワンストップサービスというほどではないですが、軽い事件なら労働局に電話してアドバイスを受けておしまいということもあるし、それでは満足できないからあっせんまでやってもらおうということもあるだろうし、労働委員会でやってもらうこともある。しかし、そこでも答えが出なかったら裁判所に行くのだということをみんながよく理解して、あっせんをやっている労働委員会や労働局の皆さんも、あっせんでうまくいかないと思ったら、簡易裁判所でも地方裁判所でもいいのですが、行って相談しなさいという連携動作ができてくると生きてくるのではないかと思います。
 そうすると、軽い事件はあっせんの段階で、あるいは助言等のところで解決して、比較的重い事件が裁判所の調停には集まってくる可能性がある。最初から飛び込んできても拒否するわけではないし、受け付けるべきだと思いますが、そういう社会全体の連携の中で問題処理がなされていくということになると、随分効率的になるのではないでしょうか。何でも労働裁判所に持っていって何十万件の案件を処理する国もあると思いますが、そうではなくて、日本は分業体制の中でやってきているわけですから、これは来月からの議論につながる話ですけれども、私はそんなふうに思っています。

○鵜飼委員 私もワンストップサービスを充実していただいて、相談機能だけではなく、それぞれのニーズと事件の性格に合わせて利用できるシステムを紹介し、できればそこで申立書等も用意できるような、場合によってはそこにいろいろな関係機関の人たちがいて、それに対応する相談を受けることができればもっといいでしょうけれども、そういう本当の意味でのワンストップサービスを設ける方向をぜひ議論すべきではないかと思います。
 行政ADR等が整備されてきていますから、それとの違いで、労働調停は若干フォーマルで、かつ判定的な部分があるのではないかと思います。地方労働局の助言・指導もここで少し議論しましたが、あれは判定的というよりも判例や法の解釈をアドバイスする性格のようですので、より事実を調査し、裁判まではいかないけれどもそれに基づく法の適用をしてこうなるのではないかというところが、労働調停の1つの特色ではないか。そういうところを出して制度設計をして、そのためには事実調査等の専門性は当然必要になると思います。そして全体の中でのADRと裁判のそれぞれの役割分担をしながら、窓口はワンストップサービスとしてニーズや事件の種類に応じてきちんと振り分ける。その辺ができれば、イギリスでもドイツでも企業の中で紛争解決のシステムがあって、イギリスなどでもそういう手続はまず前提にあって、ACASが相談を受けて、それに対応するいろいろなところを紹介する。このように各国の事情に合わせてやっていると思いますので、私はそういうものを広く配備するといいますか、そういうところと関連して労働調停の機能を考えるべきではないかと思います。

○山川委員 調停以外の行政ADRにもかかわるかもしれませんが、入口の問題でのアクセスのほかに出口の問題も考えられます。アクセスとは違うのですが、例えば調停条項、和解条項を広い情報提供によって定型化するといいますか、パターンを幾つか明らかにすることです。例えば金銭解決の場合の金額の基準ですとか、実務家の方々は感覚的にあるいはわかっているのかもしれませんけれども、ADRがだんだん広まってきますと、そのあたりのデータがあって、こういうパターンはこういう金額の事例があるなど、事例によって差があることはもちろんだとは思いますが、数が集まってくるとある程度の傾向は出てくるかと思いますので、それがもしできてくると調停なりADRの解決の仕方も割と簡単になるかと思います。それは運用あるいはそれ以前の調査のレベルの問題かもしれませんが、調停なりADRなりの紛争解決をやりやすくする1つの道かなとも思っています。

○鵜飼委員 これは今でもぜひやっていただきたいのですが、例えば和解条項や調停条項をつくる場合でも、期限の利益の喪失約款がない金銭の分割払いというようなケースがあって、それを持ち込まれて困るということもあるので、そういう意味では各地のADRにそういうノウハウを共通にしていくことが必要だと思います。
 そういう意味で関係機関の連携、協議は問われていると思いますので、関係機関同士のきちんとした連携と、同時的にそういうものの共有化を進めていく必要があるのではないかと思います。

○菅野座長 ほかにいかがでしょうか。
 前回、調停委員会の構成のところで、まず1つは労使を組み合わせる必要があるのではないかということで、リソースとの関係もありまして、すべてについて原則にするようなことまでいいのかということがありました。いずれにせよ中立的な立場でやるということになって、先ほどから弁護士や社会保険労務士、行政OBも入って活用する場合の組み合わせがあるわけですね。その辺は調停委員の配置というか、調停委員会の構成の運用においてやや柔軟性が必要ではないかと感じたのですが、今後また検討していただきたいと思います。事件のタイプにもよりますが、私は常に労使ということでもないのではないかという気がしております。

○石嵜委員 仕分けの問題があると思いますが、簡裁と地裁のどちらか1つという場合と、簡裁・地裁の両方を使いながら柔軟に対応するとすれば、確かに簡裁についてはある種の知識とコミュニケーションという形での迅速な処理というのは私もそう思います。地裁レベルで少し重いという仕分けをするという前提に立っていますから、ここでは制度として、1人ではどちら側に有利か不利かという議論が絶対にされてしまって、ここでぶつかると思うんです。やはり労使ともに1人ずついて、その意見を聞きながら調停主任という形にして、ここは制度的に担保しないと、調停委員を1人選ぶのではなかなか動かないのではないかと思っています。

○鵜飼委員 私も簡裁の労働調停と地裁の労働調停のイメージがなかなかわかりにくくて、ただし重い事件、軽い事件というイメージがありまして、一般条項を適用するような労使の経験則のようなものが必要な事件類型とそうでない事件類型はあるだろう、これは厳然としてあるわけですね。そして、後者の方は非常に数が多い。そういうものが簡裁で、一般条項を適用するような難しい事件が地裁だろう。しかし制度上、それをどのように表現するのか。したがって、私は地裁管轄と簡裁管轄でやるしかないのかなということもあったのですが、それは別として、現実に行われている簡裁の調停においては、労働事件は労働事件を経験している弁護士に割り振られるようですね。法曹資格者として弁護士の調停委員が多いわけですが、その人に割り振られて、例えばその人が労働側で事件をやっている場合は、一方の調停委員は人事労務をやっている企業側の人とか、そういう組み合わせを裁判所の方は考えられているような気がします。
 両方からヒアリングをして、私は自信を持って言えますけれども、労働側をやっているから労働側の一方的な利益に偏するようなことはあり得ませんし、使用者側はむしろ使用者側を説得する。要するに、本当に中立公平な立場で調停委員としてやっていらっしゃいます。これはもう自信がありますので、もし疑問がおありでしたら、弁護士の方でそういうものをきちんと担保できるようなことをしなければいけないと思っていますが、現実に調停において労働事件をやっている弁護士は、主として労働側か使用者側かは別として、それぞれの労働調停については中立公平にきちんとやっていらっしゃる。
 そういう意味で多くの単純な事件においては、弁護士や社会保険労務士など労働法、労働実務を担当している人と一般の普通の調停委員という組み合わせも十分いいのではないかと思います。

○山口委員 恐らく仕分けの問題だと思います。簡裁で扱う事件が賃金未払いのような単純な事件であれば専門家に入っていただく形でしょうし、地裁の方で労使ががっぷり四つで争うような解雇型の事件については、それぞれ労使の方に入っていただいて、その中で中立的な立場で説得なり調整していただくことでおのずから解決案が出てくる形になると思いますから、その場面に中立な方だけが入ってうまくいくというのはなかなか難しいのではなかろうかと思います。

○矢野委員 調停委員の性格づけ、定義はなかなか難しいところがあるとは思いますが、労働の利益代表ではなくて、公正中立な第三者であることをはっきりさせておくことは必要ではないかと思います。その上で問題は労働の専門性ということからして、労使の場数を踏んだ経験者や弁護士の方々を給源として考えることになるのではないかと思います。実際に、ある事案ごとに誰を調停委員にするかは問題の重さ・軽さによって変わってくると思います。事件数にもよるのでしょうけれども、調停委員の数をある程度用意していないと対応できないですね。

○山口委員 その関係で、そういう形で労使の方を入れるとなると、どれだけの人がいるかという問題になると思うんですね。これは訴訟をどう仕組むかという問題とも絡んでくるので、調停だけでどうこうというのはいけないと思いますし、最終的には訴訟との関係を踏まえて判断しなければいけないと思いますが、何らかの形で専門家を調停なりに入れていくとなると、訴訟との兼ね合いをどうするかという問題もありますので、レベルとしてこの程度のレベルならどのぐらいいる、もう少し上ならどのぐらいいるということを、概数でもいいのである程度つかんだ上で議論しないと、本当に制度ができるのかどうかも決まらないのではないかと思います。

○菅野座長 その辺は、地裁と簡裁のどちらを主とするかを決めるときにつかんでおかないといけないと思いますね。

○矢野委員 後の裁判制度等の議論にも関係してくるのですが、割と簡単な事件や一般的な常識が重要な判断の基礎になる問題の場合には、割合たくさんいると思いますが、だんだん難しくなって、しかも調停を超えて上までいくということになったとしたら、候補者は急激に減ってくると思いますね。それができるような人はやはり限られてくると思います。

○春日委員 山口委員がおっしゃったように、訴訟との関係を考えないといけないと思います。というのは、労働事件で訴訟になれば専門家として専門委員の活用が当然必要になると思うので、専門委員も労使の経験者に入っていただいたり、あるいは地裁の調停でも労使の経験者に入ってもらうとなると、実際にかなりの人が要ると思うんです。それに見合うだけの専門委員や調停委員を確保できるかという問題もあるので、どうしても訴訟との関連、あるいは訴訟で労使の専門家をどういう形で使うかという問題の双方を比較しながら考えていかないと、例えば地裁の労働調停なら労使の経験者を必ず入れるというふうに直ちには決まらない問題のような気がします。
 予定としては、今度は訴訟の問題等が入ってきますね。それでまた戻って調停の問題も扱うと思うので、三巡目まであるかどうかわかりませんけれども、二巡目、三巡目でまた詰めることになるのでしょうか。

○鵜飼委員 この問題を考えるときに、固定的に現状はこうだというところで考えるべきではないと思います。我々弁護士会のレベルでも、労使を超えてこういう問題を考え、それに対して一定の使命を果たすべきではないかという議論が、非常に遅れたのですけれどもようやく始まりまして、それは時代の要請があるのだからそれに応えなければいけない。そういう意味で今労働事件を担当している弁護士がどの程度参画できるかというと、現状ではまだ難しいかもしれませんが、これは全力を挙げて我々も努力してそういう認識を広めて、担当できる人たちを増やしていきたいと思います。これは労使においてもそうでしょうし、それ以外の給源においてもそうだと思います。
 それと、この間この検討会で労使の矢野委員、髙木委員が言われましたが、労使の自治解決能力が落ちていて憂慮される事態であり、社会においてもそういう問題はあると思うのですが、全体として法の支配、労働法を社会に定着させていくためにも、我々弁護士も努力しなければいけません。我々も当事者の代理人としてやっている分についてはいろいろな経験があるのですが、公平中立な立場で双方の言い分を聞いて事実を確定し、法を適用していくことは余り訓練されていない部分がありますが、しかし今求められている、それは十分できると思います。労使の人たちにも潜在的可能性は十分あると思います。また、地方労働局の中にもいろいろな人材が活用されていますので、そういう中でこれからつくっていくという側面も、もちろんそれだけではありませんが、そういう方向で短期的・中長期的な展望を踏まえて議論すべきだと思っています。

○菅野座長 ほかにはいかがでしょうか。時間はまだ少しあるのですが、調停について第一巡目の議論としてはこんなところということであれば、次回の予定などにうつりたいと思います。

○髙木委員 これからの議論だろうと思いますが、今のマンパワーの問題で、調停委員や裁判制度に関与するようなものができましたら、参審制とは別に、例えば法曹資格は持っていないけれど労働組合運動の中でリーガルサービスの仕事を長くしてきた者に調停についてある種の代理人的な権能をどうとか、裁判についてもそういう権能をどうという議論もないことはないわけです。ただ、例えば特許の関係で弁理士会の皆さんが共同受任について応えうるにはこういう研修が最小限なければだめという議論がありましたが、それぐらいのレベルにトレーニングできるかどうかという問題も含めて検討しています。そういう意味で、当初はいろいろなジャンルがあって、それをすべてやると何千人要る、しかしとてもではないがヨーイドンで何千人は大変である。例えば参審やる人も時には裁判所の調停にもかかわるなど、1つの役割に特化した論ではなく、もう少しオーバーオールにマンパワーの問題を考えていいのではないかという気も最近はしています。これはまたどこかで機会をいただきましたら、ご報告したいと思います。

○村中委員 先ほど調停がうまくいくのは、専門性が高い質であってそれに対する信頼が得られるということが1つのポイントだろうということでしたが、その専門性、信頼もある意味で外形に対する信頼のようなものがあって、前回は公平性に関しては公平らしさというような話で、労使が出ていた方がいいという話になったと思います。専門性に関しても専門性らしさのような話も大事で、弁護士が入っていて、その弁護士に専門性があるのかと言われると、そのらしさはどこからくるのかという話がプラスアルファでなければいけないのではなかろうかと思うわけです。
 そうすると、例えば弁護士会で資格認定しているという話が必要だろうかとか、あるいは組合関係ならば組合独自でそういう資格制度をつくって認定されている必要がある、社会保険労務士は労務士とついているからそれだけでらしさがあるような感じがするのですが、しかし私の意見ではこれが一番危なくて、試験の中では労働法の試験はほとんどされていない、こういうものが「らしさ」を担保できるはずがない。そうすると社会保険労務士の場合でも、その中でさらに認定するものがあるか。そういうことを考える必要もあるのではないかと思います。

○菅野座長 人材についてはどこまでやるかはこれから御議論いただくわけですが、トータルに考えての仕組み、将来の制度として給源をどのように作っていくかについての仕組みをここで議論して、その見通しをつくらない限りは難しいと思います。
 ほかによろしいでしょうか。
 それでは労働調停に関する第一巡目の議論はこのくらいにしたいと思います。前回と今回の御検討を踏まえて、事務局においてある程度議論の整理・検討をしていただいた後に、来年度4月以降の二巡目の検討でさらに詳細な御議論をいただきたいと思います。
 次回は論点項目の中間的整理の「3 雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否について」議論していきたいと思います。労働調停の検討の時と同じように、事務局の方で、特にポイントとなる主要な論点、論点についての検討資料を準備してもらい、それらを参考にしながら検討を進めていただきたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
 なお、年内の検討会は本日で最後となります。委員の皆様には御多忙のところ、多大なる御協力を賜りましてありがとうございます。座長といたしまして、改めて感謝申し上げます。来年も引き続きよろしくお願い申し上げます。
 事務局からも御挨拶がございます。

○古口次長 委員の皆様にはこの1年間、大変お忙しい中、非常に御熱心な御討議をいただきまして誠にありがとうございました。事務局を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。来年もぜひよろしくお願いしたいと思います。ありがとうございました。

○齊藤参事官 それでは最後に次回の日程でございますが、次回(第13回)は1月10日(金)午前10時から12時30分を予定しております。よろしくお願いいたします。

○菅野座長 それでは、本日の検討会はこれで終わります。
 長時間にわたりありがとうございました。