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労働検討会(第13回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年1月10日(金) 10:00~12:30

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委員)菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、熊谷毅、春日偉知郎、後藤博、髙木剛、村中孝史、矢野弘典、山川隆一、山口幸雄(敬称略)
(事務局)山崎潮事務局長、松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、松永邦男参事官、齊藤友嘉参事官、川畑正文参事官補佐

4 議題
(1) 論点項目についての検討
 ・ 雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否について①
(2) その他

5 配布資料
資料68労働関係事件への総合的な対応強化に係る検討すべき論点項目(中間的な整理)[再配布]
資料69司法制度改革審議会における検討状況(労働関係事件に係る裁判制度関係)(略)
資料70民事訴訟制度の概要について
資料71諸外国の労働紛争処理制度の概要[再配布]
資料72雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否等についての主要な論点
資料73雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否等についての検討資料

6 議事

(1) 論点項目についての検討

 労働関係事件への総合的な対応強化に係る検討すべき論点項目(中間的な整理)(資料68)中の「3 雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否について」の部分について、資料72の1~3(1)に即して次のような議論がなされた。(□:座長、○:委員)

○ 賃金の不払い事件のような複雑でない類型の事件で、法令の解釈の余地のないものについては、基本的には法令を知っていればよく、それほど専門性は必要ないと考えられる。
 一方、解雇等の一般条項の解釈・適用が必要となる事件については、単なる法令の知識だけでなく、労使が有する体験的な経験則を活用すべきである。
 したがって、訴えが提起された段階で、事件の仕分けを行い、後者の事件については専門家を関与させることとし、前者の事件については迅速な処理を優先すべきである。

○ 専門性の導入が必要となる事件の種類としては、個別的紛争では、賃金不払い事件等のように要件が明確なものであれば、それほど高度の専門性は不要と考えられる。また、一般条項の解釈・適用が必要となる事件であれば、より高度の専門性が必要とされると考えられる。
 集団的紛争では、労働委員会において高い専門性を有する判断がなされてきているが、実質的には個別的紛争であるような事件もあり、こうした事件には個別的紛争に求められる専門性が必要となると考えられ、個別的紛争と集団的紛争を区別することは難しい。
 裁判の場で必要とされる専門性については、法令や労働関係の実情に関する知見は必要とされるが、労働関係に関する調整力は判定的な解決を図る裁判の場では必要性が高いか疑問である。また、自然科学に関する知見は医事関係事件等と同様に鑑定や専門委員制度の活用で対応するのがよいと考えられる。
 裁判の場で必要とされる専門性の水準・程度については、労働調停の場合と比べれば、相当に高度なものが求められるだろう。処理が難しいほど専門性は高くなり、裁判官に準ずる程度のものが必要になると思われ、裁判への専門性の導入については、慎重な検討が必要である。

○ 裁判官による習得が必要とされる専門性については、裁判官に対する研修に一層努力してほしい。また、労働関係の制度、技術、慣行等に関する専門性は当事者が主張・立証することが大原則であると考えられる。外部の専門家の関与については、関与の程度にもよるが、専門委員制度の活用はあり得るが、それ以上の関与は困難である。
 労使の専門家が裁判に関与することについては、労使間の政治的対立が裁判に持ち込まれることがあってはならないと考えている。また、紛争の迅速な解決の観点からみると、労使の専門家を判断に関与させることにより、かえって迅速性に反することとなるおそれがある。労働委員会における審査に時間がかかっていることと同様の結果になるのではないか。

○ 労働関係の調整力というものに誤解があるのではないか。労使の均衡点を見出す経験則は、一般条項を適用して総合判断を行うに際して必要なものであり、労使間の利害を調整する交渉力ではなく、規範的要件に関する判断力である。
 労使自治の中で日ごろ紛争解決等を体験し経験則を身に付けている者が主体的に裁判に参加していくことで、迅速に紛争処理を図ることができるようになると考えられる。その場合、労使対立が持ち込まれ、裁判が紛糾するようなことがないよう制度を設計することが必要であるが、もしそのようなことがあれば、裁判官がリードしていくことが必要であろう。

○ 裁判に関与する者の専門性の水準・程度については、例えば、実務経験15年程度以上といったある程度の経験期間が必要と考えられる。その上で、法令等に関する一定の研修を実施すればよく、それほど高度の専門性を考える必要はないだろう。
 労働調停においても、一般条項の適用されるような事件では結論の見通しを持って処理することが必要であり、調停委員を経験してから裁判に関与するのがよいと思われるが、裁判で必要とされる専門性と質的な違いはないのではないか。
 労使が裁判に参加していくことにより紛争の適正・迅速な解決が図られるとともに、そこで得られた経験や法令の知識等が労使の現場にフィードバックされるのではないか。

○ 裁判制度の改革を議論するに当たっては、現状の労働関係事件の裁判が迅速性、適正性を満たしているのか否かについて、共通の認識を持つことが必要である。
 少なくとも現状では、個々のケースでは問題のある事案があるとしても、全体として適正に処理されているのではないかと考えている。ヒアリングにおいても、専門性が欠如していることによる問題点の指摘というのはそれほどなかったのではないか。

○ 一般条項が問題となる事件では、その判断に関する経験が必要であるが、労使が関与することにより本当によりよい解決が図られるのか疑問である。労働関係に関する実情に関する知見が必要なことに異論はないが、労働関係の勘や感覚のようなものは検証することができないとともに、関与する労使のレベルが同一か否かも分からず、曖昧模糊としている。このように曖昧なものを権利義務関係を確定する訴訟の場に持ち込むことは適当ではないのではないか。そのような専門性はむしろ労働調停の場で活用していくべきではないか。裁判は厳格な手続による事実認定を基に行われるものであり、勘で判決を下すのではない。

○ 現状の裁判には、時として判断が適切でないと思われる事例もある。また、適正性、迅速性については、よりよいものにしていこうという議論である。適正な事実認定を行うためには、職業裁判官だけで行うのでは十分ではなく、専門的な知見を導入して、補強していくのが望ましいのではないか。日常の人事マネジメントの中で、意見対立のある労使間での協議や交渉を行っている者の経験から見ると、裁判所の判断にギャップがある場合がある。
 労働関係事件に必要とされる専門性は医事関係事件や建築紛争とは同じではない。専門委員や司法委員の議論とは異なるものである。
 求める専門性のレベルが高いと大変である。また、専門家の関与により迅速性に反する結果となるという危惧については、そうした危惧をどのように解決すべきかの議論も必要である。
 専門家の裁判への関与の場面については、裁判所が認めた場合にアドバイスを行うという「点」の関与ではないと考えており、そこは専門委員とは異なるものである。

○ 労働関係の利害調整は、実情に根ざして行うことが必要であり、労働関係の実情に関する知見と労働関係に関する調整力とは同様のものではないか。
 労働法における一般条項の適用に当たり、どの間接事実が重要かを絞り込み、微に入り細に入り主張立証がなされる場合にどの点に絞っていくべきかといった判断が必要となる。このような判断は類型化が難しく、労使の専門家が関与するメリットがあるのではないか。

○ 労働関係事件に係る裁判の現状はどうであるかを評価することは必要である。判例の中には、事実の評価が適切ではないと思われるものもあり、こうした事実の評価を補助するための専門性は必要であり、経験に裏打ちされた労使が関与することは考えてよいのではないか。
 しかし、各人の経験は限られたものであり、例えば、大企業の人が中小企業のことを分からずに関与することでかえってデメリットが大きくなる心配もある。したがって、専門性の補充という面での労使参加の在り方には難しい点があると考えられる。他方、国民の司法参加というより大きな観点からの議論もあり得よう。

○ 自由心証主義の中で、事件の「筋、座り」ということが言われており、裁判の場においても高度の勘といったものはあり得るのではないか。
 労働関係事件については、仮処分、一審判決、控訴審判決で解雇の有効性の判断が異なることもあり、これでは裁判に訴えることに踏み切れないこととなる。裁判官が雇用社会の変化に対応していくことは難しく、こうした現状をよりよく改めることが必要である。
 裁判官が合議の場で労使から意見を聴くことは非常に参考になるはずである。労働委員会でも、公益委員が労使委員から意見を聴いて参考になったとのことである。裁判でも同様の意義があり、よりよい判断ができるようになるのではないか。

○ 現状の裁判における迅速性の問題は、弁護士側にも問題がある。また、適正性の点については、当事者や弁護士の側で主張立証が十分にできているか否かという問題もある。したがって、裁判所だけでなく、弁護士の在り方も考えるべきである。
 しかし、労働専門部・集中部のある裁判所や労働関係事件に携わっている弁護士は都市部に集中しており、地方の裁判所では不適切と考えられる判断がなされていることもある。
 雇用関係はマーケットの影響を受けて変化するのであり、裁判官が学ぶことも重要であるが、個人的な考えではあるが、解雇や賃金切下げといった社会的相当性の判断が重要となる事件では、裁判所の判断の過程に現場の経験者の意見を活用することにより、裁判がよりよくなるのではないか。
 ただし、裁判は国民からの信頼が重要であるので、労働調停に関与する場合の労使の専門家の素養に比べると、裁判に関与する場合に求められる素養はより高度なものになると考えられる。職業裁判官を除外するわけではないから、裁判官に準ずる程度の専門性まで必要とは思わないが、労働調停と同列に考えるべきではない。

○ 専門性のレベルを専門委員と同程度の高度のものと考えた場合、専門委員について除斥や忌避の制度の導入が検討されていること等を考え合わせると、中立公平性の確保が特に重要であり、労使の代表者が専門家として関与することには若干の疑問がある。

○ 個別の事件の見方についてはいろいろあるだろうが、現状の裁判に制度上の問題があるという意見が大多数の意見としてあるのかどうかが疑問である。
 一般条項の解釈適用が必要な事件の場合、当事者の主張が食い違えば、まず事実認定を行い、その事実が権利の濫用等に当たるか否かを判断することになる。両当事者が全力を尽くして主張立証を行う中で、事実認定の作業は極めて難しく、労使が関与してうまく行えるか疑問である。また、一般条項への該当性の判断に労使を関与させることについても、労使の意見が一致するのか疑問である。労使が関与することの有効性は実証されておらず、裁判の現場としては、実績による裏打ちなしに労使を関与させることは是認しがたい。

○ 世界的には参審制を採用する国が多いとともに、実際労使の意見は一致することが多いということであるし、我が国の労働委員会においても同様のことが言われている。
 労使の経験者の意見が分かれた場合には、裁判官が最終的に判断すればよく、労使対立が激しくならないような制度的担保を講じればよい。また、労使の意見が裁判官の意見と異なる場合には、当事者の判断で上訴することも可能である。

○ 諸外国では、定型的な紛争が多数裁判所に持ち込まれており、そうした事件では労使の意見が一致することが多いと考えられる。しかし、我が国では労使対立の激しい事件が多く、諸外国の例は必ずしも当たらない。
 また、諸外国には長年にわたる労使自治の伝統と制度基盤が存在しており、そうした各国の文化や伝統を無視して考えることは適当ではない。
 労働委員会においても、労使委員は評議にまでは参加しておらず、労使の関与に関する実績と考えられるか否か疑問である。

○ 諸外国においても、例えばイギリスにはACASがあり、労働紛争を処理するADRのないフランスやドイツでも、企業内の紛争処理システムが発達している。諸外国の労働裁判で扱われる事件は、こうしたADR等で処理できなかった紛争であり、必ずしも定型的な事件に限られない。また、我が国では労使対立の激しい事件しか裁判に持ち込まれない原因も検討すべきであろう。
 我が国と諸外国では文化や伝統が異なることは確かであるが、諸外国のよいところを取り入れていけばよいのではないか。また、労使自治については、それなりに機能してきた実績があると考える。

□ 労働委員会では、労使の代表者としての関与であり、労使が裁判官と同様の中立的な立場で関与するものではない。また、労働委員会では、労使委員は対立の激しい不当労働行為事件について和解を試みることが主要な役割であり、和解で解決できない事件は公益委員のみで判断することになる。このように、労働委員会制度は、権利義務関係の有無の判断の場での関与を議論している裁判制度とは異なる制度と考えるべきである。

○ 諸外国でも、労使の参審裁判官の中立公平性に疑念があれば制度は成り立たないだろう。ドイツの連邦労働裁判所の裁判官に聴いたところでは、新しい労働秩序の形成に関わるような紛争については、労使でスタンスが異なることがあるという。そうした点も踏まえて、一審に参審制を導入した場合、二審以降をどうするかを考えることが必要である。

○ 労使の関与について、将来、一定の実績が出てくるとすれば検討の余地はあろうが、中立的な立場でどこまで関与できるのか実績のない現段階では、制度がうまく機能するかどうかも不明であり、導入することは適当ではないのではないか。

○ 労働関係の法令や実情に関する知見は言葉で説明することが可能と考えられるが、勘のようなものは説明が可能なのか。そうした全人格的判断で言葉による説明が困難な知見は、判決中に理由を記載することができないが、判決において事実関係を摘示しつつ判断を示すことにより公正さを担保することとされている我が国の民事訴訟制度に、そうした知見を導入することが適当なのか疑問である。

○ 裁判官に労働関係の実情についての経験則を期待できるのかどうか。労使が関与することで補うことが必要ではないか。そうした経験則については、やはり判決中で説明することが必要であろう。

○ 集団的紛争については、集団的労使関係の実情等に関する専門的知見が必要となるとともに、個別的紛争との区別は難しいと考えられる。

○ 労働者個人が原告の事件であっても、背景に集団的労使関係が関連している紛争もあり、区別は難しいのではないか。訴訟で争える以上は、集団的紛争も排除する必要はないのではないか。

○ 合同労組に係る紛争もあり、集団的紛争と個別的紛争を分けることは難しいが、集団的紛争について労使を関与させるとなると、労働委員会と同様の問題が生じることとなりやすい。個別的紛争に限って考えた方がよい。

○ 今後は、コミュニティ・ユニオン等の個人加盟の労働組合が広がっていき、そのような組合の関係する紛争が増加するのではないか。

○ できれば個別的紛争に限って検討した方がよいと思うが、当事者が主張を追加・変更したり、労働組合が訴訟に参加したりする場合があるので、集団的紛争と個別的紛争を仕分けることは簡単ではない。

○ 実際には、集団的紛争が直接裁判で争われることはレアケースだろう。

○ しかし、レアケースだとは言っても、制度設計上はあり得る場合を考慮に入れて、どうするか考える必要がある。

○ 集団的紛争でも専門性が有用ではあろうが、専門家の関与によるデメリットが大きいおそれがあろう。
 なお、判断の透明性確保の観点から、判決には、一般条項の適用を基礎付ける重要な間接事実を何らかの形で摘示した方がよいだろう。

(2) 次回の日程

 次回(第14回)は、平成15年2月5日(水) 10:00~12:30に開催することとし、引き続き、雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否についての検討を行うことを予定している。