○菅野座長 皆様、明けましておめでとうございます。定刻になりましたので、ただいまから第13回労働検討会を開会いたします。
本日は御多忙のところ御出席いただきましてありがとうございます。
本年も委員の皆様方にはいろいろ御負担をおかけすることになるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
それではまず、本日の配布資料の確認をお願いいたします。
○齊藤参事官 配布資料の確認をさせていただきます。
資料68は、「労働関係事件への総合的な対応強化に係る検討すべき論点項目(中間的な整理)」でございます。再配布させていただいております。
資料69は、司法制度改革審議会における検討状況の中で労働関係事件に係る裁判制度に関係する部分を資料として提出させていただいております。
資料70は、「民事訴訟制度の概要について」の資料でございます。内訳は、民事訴訟手続の流れ、フローチャート図、それから民事訴訟事件の概要、司法委員制度の概要、専門委員制度の概要についての資料、さらに参考としまして、訴訟手続への外部の人材の関与についての一覧表、労働委員会制度の概要、これらも参考としておつけしてございます。
資料71は、「諸外国の労働紛争処理制度の概要」でございます。これは再配布させていただいております。
資料72は、「雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否等についての主要な論点」でございます。
資料73は、「雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否等についての検討資料」でございます。後ほど概略説明をさせていただきます。
あと参考資料といたしまして、各委員の皆様の意見の概要を整理したものを配布させていただいております。これは労働調停関係についての御議論の部分でございます。未定稿でございますので、参考資料としてつけさせていただきます。
資料は以上でございます。
○菅野座長 それでは、本日の議題に入ります。
本日は論点項目の中間的な整理のうち、資料68の4ページですが、「3 雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否について」。この項目について主要な論点に関して一巡目の検討をしていただくということであります。その一巡目の検討の中で基本的な方向性を御検討いただきたいと思います。
検討のための参考資料として、労働調停のときと同様に、事務局において民事訴訟制度の概要等に関する資料として資料70、検討上特にポイントとなると考えられる主要な論点をまとめた資料72、中間的な論点整理に関して関連条文や関連事項を整理した資料73等、幾つかの資料を用意していただきました。これらをもとに御検討いただきたいと思います。
まず、事務局から御説明をお願いいたします。
○齊藤参事官 それでは、本日の配布資料のうち主なものについて御説明申し上げます。
まず、資料70の「民事訴訟制度の概要」につきまして、かいつまんで御説明申し上げます。
初めにつけてございますのは、民事訴訟手続のおおよその流れを示したフローチャート図でございますので、御参照ください。
次に、「民事訴訟事件の概況」といたしまして、平成13年度における民事事件の概況及び労働関係民事・行政事件の概況と労働検討会における裁判所のヒアリング資料をおつけしてございますので、これも御参照いただきたいと思います。
ちなみに、平成13年度における地方裁判所での労働関係事件の処理状況は、民事通常訴訟事件の新受件数が2,119件で、平均審理期間は11.9カ月となっております。これは審理期間別未済件数における平均審理期間でございます。仮処分事件の新受件数は749件となっております。
その次は「司法委員制度の概要」という資料ですが、司法委員の職務、選任等、基本的な事項について整理してみたものでございますので、御参照ください。この資料の別添としまして、司法委員制度の運用状況に関する最近の統計資料や、実務上の取扱いについての文献、現行の民事訴訟法第279条の解説資料をおつけしておりますので、あわせて御参照いただければと存じます。
ちなみに、司法委員の関与状況の概略を申し上げますと、平成13年には簡易裁判所の事件で司法委員が関与した事件数は通常訴訟の既済件数で約7万4,000件、少額訴訟の既済件数で約6,300件となっております。
その次は、現在法務省の法制審議会で検討が行われております「専門委員制度の概要について」の資料でございます。後ほど法務省の方から御説明申し上げますので、よろしくお願いいたします。
最後に、参考として2点ほどおつけしております。1つは、A3判の表になっております「訴訟手続への外部の人材の関与について」でございます。訴訟手続に外部の人材が関与する制度につきまして、手続段階等によって項目を分けて簡単にその概要を比較したものでございますので、御参照ください。
2つ目は「労働委員会制度の概要」ですが、当検討会における中央労働委員会からのヒアリング資料から一部を再度お配りしているものでございます。
続きまして資料72、主要な論点についてまとめたものにつきまして御説明申し上げます。
この資料は、論点項目の中間的な整理において掲げました論点の中から主要な論点と考えられる事項につきまして、座長とも御相談申し上げながら1枚にまとめてみたものでございます。労働関係の専門家の関与する裁判制度の導入の当否に関する一巡目の検討といたしましては、これらの点を中心に御議論いただければと考えております。
この資料では、大きく5点ほど挙げてございます。まず、「裁判への専門的な知識経験の導入の必要性の有無等」につきましては、総論部分の御検討の際にも御議論いただいておりますが、各論の検討におきましては、例えば専門性を導入すべき事件類型を定型的に定めることが可能であるかどうか、あるいは調停手続との比較において導入すべき専門性の内容や水準等が異なるのかどうか。こういう観点からの御議論をいただければと考えております。
2つ目の「専門性を導入する方法」につきましては、主としてここに掲げました裁判官による習得、当事者による主張立証、さらに専門家の活用の3つの方法が考えられるかと存じますが、専門性が必要とされる事件の種類や専門性の内容、水準等に鑑みまして、どのような方法で専門性を導入することが適当であるかにつきまして、より具体的に御検討を深めていただきたいと考え、論点に挙げてございます。ここでも、例えば調停手続と比較した場合に専門性を導入する方法が異なるのかどうかという点から御議論いただければと考えております。
続きまして、3の「専門家を活用する場合の専門家の在り方」につきましては、外部の専門家が訴訟に関与することとした場合、その専門家の供給源、員数等をどう考えるかを論点に挙げておりますが、その検討の際には、必要とされる専門家の確保が可能か否か、その確保の方法等に関してどのように検証し、また検討していくことが適当であるかにつきましても、さまざま御意見をいただければと考えております。
4の「専門家を活用する場合の関与の場面等」につきましては、外部の専門家が訴訟に関与することとした場合、専門家がどのような場面でどのような対応で関与することが必要であるのか。また、専門家の関与や導入された専門的知識経験に対する訴訟当事者の意向等についてどのように考えるかを論点に挙げてございます。ここでは、いわゆる参審制度や参与制度、既に我が国にあります簡易裁判所での司法委員制度、さらには現在、民事訴訟手続への導入が検討されております専門委員制度につきまして、参考として関与の対応と関連づけて注記させていただいております。
最後の、5の「その他の問題点」ですが、これらのほか、特にいわゆる参審制度につきましては、憲法との関連について論ずべき点があろうかと考えております。また、民事訴訟制度全体を見た場合に、その中における労働関係訴訟事件の位置づけという点も論点としてあろうかと存じますので、最後にこれらを論点として挙げてございます。
最後に資料73の検討資料でございますが、この資料は論点項目の中間的な整理の各項目を枠囲みの中に記載しまして、これについて検討の参考として関係条文や関連事項を整理させていただいたものでございます。ただいま御説明申し上げました資料72に主な関連箇所を示してございますので、適宜関連させながら御参照いただければと存じます。
私の方からは以上でございます。
○菅野座長 ただいま事務局からお話のありました専門委員制度につきまして、法制審議会を担当している法務省の小野瀬参事官においでいただいておりますので御説明をお願いいたします。
○小野瀬参事官 法務省民事局参事官の小野瀬でございます。現在、法制審議会の民事・人事訴訟法部会におきまして民事訴訟法の改正が検討されております。私、その事務局を担当しておりますので、本日その中での専門委員制度の検討状況につきまして御説明し、御審議の参考にしていただければと考えております。
資料は「専門委員制度の概要について-法制審議会における検討状況-」という1枚紙がございます。これに基づいて御説明させていただきたいと思いますが、後ろの方に参考資料といたしまして、部会の資料の抜き刷り、該当部分の抜粋をつけております。縦書きのものでございます。こちらの方は具体的な検討の内容ということで、細かい内容まで書かれているものでございます。
現在、法制審議会におきましては、民事訴訟法の改正につきまして検討がされております。1月24日の部会で部会としての決定がされる予定でございます。その後、法制審議会の答申を得まして、今年の通常国会に改正法案を提出する予定でございます。
この専門委員制度でございますが、まずこの趣旨でございます。この制度の提言は司法制度改革審議会の意見書にも盛り込まれていたものでございますが、例えば医事関係事件、あるいは建築関係事件等が数の上では典型的でございますが、こういう専門的知見を要する事件につきましては、なお審理に長い時間がかかるという状況でございます。その理由としてはいろいろ指摘されておりますけれども、1つに例えば争点を整理する、どこが争点なのかというものを当事者の主張をつき合わせて確定していく。こういう段階におきまして、裁判所の方も専門的知識に対する理解が十分でないことがある。そうしますと、どうしても争点の整理に時間がかかってしまうという指摘がございます。そこで、司法制度改革審議会の意見書におきましては、手続の早い段階から、例えば争点を整理する場面等において専門家の関与を得ることが必要ではないかということが提言されていたわけでございます。
法制審議会におきましても、このような観点から専門家が裁判の全部または一部に関与して裁判官をサポートする専門委員制度を導入する方向で現在検討が進められております。
これは、もちろん民事訴訟法という民事訴訟の基本法の中での改正でございますので、民事訴訟の一類型であります労働訴訟におきましても適用の対象になる、こういう制度でございます。
それでは続きまして、現在検討が進められております専門委員制度の内容の概要につきまして御説明させていただきたいと思います。
まず、1が専門委員の関与でございますが、専門委員はどういう関与をするのかということでございます。(1)にございますとおり、専門委員の関与はいろいろな場面が考えられます。1つは、先ほど申し上げました争点整理。当事者の主張をいろいろ整理して、どこに争点があるのかを確定していく手続。あるいは、進行の協議。例えば今後鑑定をするという際にどういう手順で鑑定をしていけば効率的な進行が図られるのかということを、裁判所と当事者とで協議する場面がございます。あるいは、証拠調べ。証人尋問ですとか当事者尋問。あるいは和解。これらのそれぞれの手続におきまして、例えば当事者が言ってきた主張が専門的事項にわたっていて、裁判所にとって必ずしも明瞭ではない点を専門家の立場から明瞭にしていただく。こういうことのために専門的な知見が必要であると認めたときに、専門委員から専門的な知見に基づく説明を聞くことができる。これが関与の一般的な在り方でございます。
専門委員に関与させる場合の当事者の意向の反映の方法につきまして、(2)で書いております。まず当事者の意向の考慮の仕方としては、2つの要件の違いがあります。まずは争点整理、あるいは進行の協議、あるいは証拠調べの手続等の場面において専門委員を手続に関与させる。こういう場合につきましては裁判所は当事者から意見を聴かなければいけないという要件にすることが検討されております。
他方、和解ということになりますと、これはあくまでも当事者の同意ベースという話でございますので、専門委員を手続に関与させるかどうかの決定につきましても、これは当事者の同意を得なければならない。両方の当事者が専門委員に関与することに同意した場合に初めて和解手続に関与させることができる。こういうことで現在検討されております。
次に、2が専門委員の関与の取消し等の問題でございます。(1)でございますが、裁判所の方は、専門委員を関与させた場合に後で関与させないということでいい、つまり相当と認めるときには裁判所の方は関与の決定を取り消すことができることになります。ただ、当事者双方の申立てがあったときには裁判所の方は必要的に関与を取り消さなければいけないということで、専門委員の関与につきましても当事者の意向をこの点でも反映させる制度にしております。
具体的に専門委員をどう指定するのかということでございますけれども、当該事件につきましてどの専門委員を指定するか、この専門委員にしたいという場合には、当事者の意見を聴くということで、専門委員の指定につきましても当事者の意向、そもそも専門委員を手続に関与させるかどうかについて、先ほどの1の(2)のように当事者の意向を配慮する。さらに専門委員の指定の場面につきましても、(2)にありますとおり、当事者の意見を聴くことにしております。
また、専門委員につきましては、その公正性を確保することが必要でございますので、除斥及び忌避の制度も設ける方向で検討が進められております。
そのほか細かい具体的な制度の内容につきましては、参考資料の方に書かれておりますけれども、制度の概要の説明としてはとりあえず以上でございます。
○菅野座長 どうもありがとうございました。
特段の御質問等がありましたら、どうぞお願いいたします。
○鵜飼委員 今、最高裁で専門委員制度のスタートを前提にして、専門委員の受け皿といいましょうか、そういう仕組みをつくっていらっしゃるようですけれども、その具体的な状況を御説明いただけますか。
○小野瀬参事官 私の方は、最高裁の方の具体的な受け皿の検討状況というところまでは把握はしておりません。もちろん今、医療などの鑑定人の関係で医師会との協議ですとか、そういう準備はされていると聞いております。
○鵜飼委員 最高裁で建築関係とか医療関係の委員会をつくられて、そのメンバーを医師会、建設業界と連携をとって集める作業をやっていらっしゃるようですが、その辺はいかがでしょう。
○小野瀬参事官 それは伺っておりますし、それは従来の鑑定という関係でそういう御努力をされていることは把握しております。ただ、専門委員の関係で具体的にどのようなことがされているのかということは、私はそこはまだ把握していないということでございます。
○鵜飼委員 現在の専門性の活用は鑑定が中心だと思いますが、例えば専門調停を通じて活用する方法もされていますね。そういう2つのルートなのでしょうか。
○小野瀬参事官 現在は調停を活用しているという実務もございます。ただ、本来は争点整理をするということは、話し合いの調停の手続に乗せるというよりは、争点整理手続の中の改善が本来の制度の在り方としては望ましいのではないかと思っております。したがいまして、確かにそういう運用があるということではございますけれども、そのために調停に回さなくても専門委員を活用して充実した争点整理手続ができるようになる、このように考えております。
○鵜飼委員 ジャンルとしては具体的に医療と建築が代表的なケースですが、どういうことをお考えでしょうか。
○小野瀬参事官 具体的にどういう場面で専門性が認められるのかということにつきましては、すべてのケースがどういう場合かは私も何とも申し上げられません。典型的には医療、建築が数としては多いのかなとは思っております。
○鵜飼委員 立法趣旨からは医療とか建築事件での裁判の長期化という問題があって、そこからこういう議論がされてきたという経過があると思いますが、やはりそういうことでしょうね。
○小野瀬参事官 そうでございます。ただ、もちろんこれは先ほども冒頭で申し上げましたとおり、民事訴訟の一般の制度でございますので、医療、建築に限られるということは決してございません。
○鵜飼委員 公平中立性の問題が議論になったと思いますが、忌避とか除斥については民事訴訟法の裁判官の忌避・除斥の規定をそのまま適用するのでしょうか。
○小野瀬参事官 はい。ただ、その内容を裁判官と全く同じようにするかどうかはいろいろ議論があるところでございます。例えば具体的にはその忌避の裁判をする場合の裁判体の構成の問題ですとか、そういう点についてはいろいろ検討する問題はあろうかと思います。
○山川委員 参考資料は要綱案ということでまだ確定されていないということですが、もし何らかの御説明が可能でしたらと思います。1つは、1枚目の1の(一)の(2)の、専門委員から説明を聴く場合に「当事者双方が立ち会うことができる期日において口頭で、説明をさせることができるものとする」という点について、この説明が任意的なものなのかどうか、文言上は任意的のように読めるのですが、そうかどうかということです。次に、これに対応するものが(二)の(1)で、「証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするために必要があると認めるときは……説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる」とあるのですが、これが前の(一)の「説明を聴く場合には……口頭で、説明をさせることができるものとする」に対応する項目があるかどうか。つまり、この場合の説明を聞くときには口頭での説明ということが何か予定されているのかどうか。その2点をお伺いしたいのですが。
○小野瀬参事官 まず「説明をさせることができる」、(一)の(2)の趣旨でございますけれども、これは説明の方式を書面と期日において口頭でと2つの方法ができるところに(2)の意味があるのでございます。すなわち、手続に関与させるという決定をした場合には、もちろん手続に関与させるかどうかは裁判所が必要と認めるときでございますから、そこは裁判所の裁量にゆだねられております。手続に関与させた場合には、あとは裁判所が説明が必要と思ったときに説明を聴くことができるということでございますので、そういう意味ではどういう場面で説明を聴くかが裁判所の判断に委ねられているということでございます。
そのことは(一)の(1)、すなわち「説明を聴くために……手続に関与させることができる」の内容でございまして、それは(二)の(1)の「説明を聴くために……関与させることができる」と全く同じでございます。
問題は、説明を聴く場合の具体的な方法がどうなのかということでございまして、(1)、つまり争点整理の場合には争点整理の期日において口頭で聴くということもあれば、期日と期日の間に、つまり期日外で書面で説明を聴くこともできるということが(1)の場合にはあるものですから、そこで(2)でこの場合には書面と期日における口頭が両方あるということが書いてございます。
(二)の(2)の場合には、証拠調べの期日に立ち会わせて説明を聴くということでございますので、証拠調べの期日の外で書面で聴くようなことが考えられておりませんので、(一)の(2)に対応する部分がないというものでございます。
○山川委員 そうしますと、説明を聴くかどうかはいわば裁判官の裁量に委ねられて、聴く場合についての説明については、どちらかによることが(一)の場合は少なくとも必要で、(二)の場合は期日でですから、いわば口頭で聴くことに限られるという理解になるのでしょうか。
○小野瀬参事官 はいそうです。
○菅野座長 ほかによろしゅうございますか。
○鵜飼委員 (二)の(1)のイメージですが、例えば医療過誤事件で医者の証人があるとしますね。その場合、その証言の内容等について医学的な知識等が必要なときに専門委員から説明をしてもらうとか、そういうことを想定されているのでしょうか。
○小野瀬参事官 そうでございます。例えば典型的に想定される場面としましては、お医者さんの証人尋問で医学的なことが出た。これまでもちろん争点整理の段階でそういうものが出ていれば裁判官もそれがわかるのでしょうけれども、それがちょっと分からなかったという場合に、今の点についてはどういう趣旨なのですかということを専門委員に聴くということも1つの場面としては考えられます。
○山口委員 さっきの説明の関係での確認ですが、書面または当事者双方が立ち会うことができる期日の口頭の説明ということになっていますので、期日外であれば書面、期日であれば口頭ということになって、それ以外の形、例えば期日外で口頭で聴くということは、当事者の知らない形になるので手続では認められない形になるのでしょうか。
○小野瀬参事官 はい。もう少し正確に申し上げますと、期日において書面で説明をすることも排除はされておりませんけれども、そもそも(2)の趣旨は、専門委員がどういう説明をしたかということは、当事者が分かるところでやらなければいけない。例えば期日の外で書面で出された場合には、必ずその書面は当事者に渡さなければいけない。こういう手当をすることを考えております。そういう点で手続の透明性は確保するということでございますので、当事者が何を説明したかわからないところで裁判所に説明することはできないということでございます。
○鵜飼委員 司法委員の場合、参考に供する意見を述べる場合ですが、それは外部に知られない方法で聴取すべきということがありまして、私は司法委員がそういう役割を果たしていることについて現実に立ち会ったことはありませんが、少なくともそういう役割ではないということになるわけですね。
○小野瀬参事官 はい。当事者への手続の透明性という点では先ほど述べたとおりでございます。
○山口委員 2で電話会議システムが利用される形になっていますが、現実には専門委員を各地の裁判所に置くというイメージなのですか、それともどこかでプールして、必要に応じて電話会議等で遠隔地の専門委員を関与させることがあるということなのでしょうか。その辺はどういうイメージですか。
○小野瀬参事官 専門委員をどれだけ各裁判所に配置するかということは、今後裁判所の方で御検討いただくことだと思いますので、私の方からどの程度ということは何とも申し上げられません。ただ、専門委員が遠隔地にいる場合、あるいは近くにはいるけれど忙しくてなかなか裁判所へ出てこられないという場合も含めて、電話会議システムを利用できるようにしようというのが2の趣旨でございます。
○菅野座長 よろしいですか。
それではどうもありがとうございました。
○小野瀬参事官 どうもありがとうございました。
○菅野座長 それでは、これから3の「労使関係に関する専門的な知識・経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否」について議論に入っていただきたいと思いますが、私の方から議論の進め方について御説明したいと思います。
資料72をごらんいただきたいのですが、資料72に主要な論点、中間論点整理の項目についての論点をまた整理していただきました。これらを議論いただくことになるのですが、これをごらんいただきまして、1つの固まり、1の「裁判への専門的な知識経験の導入の必要性の有無等」、2の「専門性を導入する方法」、3の「専門家を活用する場合の専門家の在り方」の「(1)専門家の性格」、この辺は総論である程度議論した項目かと思います。これに対して3の「(2)専門家の供給源、員数等」はまだ議論していないと私は認識していますが、非常に重要な論点であります。4の「専門家を活用する場合の関与の場面等」も、総論ではほとんど議論していないと認識しております。
そこで私が考えて皆様に御了承いただければと思うのは、1つの固まりとして本日は、総論である程度議論した1、2、3(1)を総論での議論を踏まえてさらに検討していただくということです。イメージとしては休憩までその議論をしていただいて、休憩後に4の「専門家を活用する場合の関与の場面等」を議論していただき、3の(2)は実は非常に大きな論点で、なおもう少し準備が必要かというところもありますので、次回に議論していただく。そういうふうにしてはいかがかと思いますが、そういうことでよろしゅうございましょうか。
そういうことで御了承いただければ、まず本日の休憩前に行う1、2、3(1)について、これは先ほど申しましたように、総論で御意見をある程度いただいていますので、それを踏まえてさらにより突っ込んだ議論を、労働関係事件に係る裁判制度の具体的な在り方という観点から労働調停の場合との相違にも留意しつつ議論していただきたいと思うわけです。
まず1の(1)(2)でありますが、これまでの総論部分の検討では、解雇や労働条件の変更という法律上の要件が一般的で、その解釈が必要であったり、労使間の適切な均衡点を見出すことが求められるような紛争において、労使の現場での経験に裏打ちされた経験則のようなものが必要となるのではないか、そういう御議論があったと思います。
今回は、そういう議論からさらにもう少し踏み込んで、専門性を導入することで現状の訴訟の問題点でどのように解消され、どのような改善が期待されるのか。専門性の導入という観点からは、そういう改善が期待される紛争はさらにもう少し議論していただいて、どういうものなのか。それとの関連で、司法制度改革審議会では主に個別的紛争の増加への対応という観点での議論が中心であったと思うわけですが、労働調停の場合と比較して、集団的紛争についてどのように考えるべきか。労働調停の場合は労働争議等は労働委員会に委ねていいのではないかという議論もございました。ここでも集団的紛争についてどう考えるか、その点もさらに御議論いただきたいと思います。
1の(3)(4)については、総論部分での議論においては労働関係事件の特殊性等を踏まえて、(3)にあるような専門性の内容を分析して抽出していただいたと言っていいのではないかと思うわけですが、今回はもう少し踏み込んで、(2)の事件の種類、類型の違いや調整的な解決を図る労働調停の場合との違い等を踏まえて、権利義務関係を公権的に判定する裁判の場合には特にどのような内容の専門性、そしてどの程度のレベルの専門性が必要とされるのかという点についてさらに御議論いただきたいと思います。
また、労働関係の専門性以外でも、裁判手続でのことなので、紛争の法的争点を的確に迅速に把握してどのような証拠が必要で、出された証拠をどう評価すべきかといったことについての理解といいますか、より一般的な資質について考える必要はないかという点も問題になろうかと思います。そういう点も御議論いただければと思います。
2の方ですが、これは総論での議論では、法令や判例に関する知見は法律家である裁判官がその職責において習得に努力すべきものであるという御意見が多かったかと思いますが、労働関係の実情に関する知見等については、一般的・客観的なものは裁判官が書面や研修等を通じて補充すべきものであるとともに、個別具体的な実情は当事者の主張立証によるべきであるという御意見があった一方で、それでは足りないのであって、外部の経験豊かな専門家の関与が必要であり、また、効果的・効率的であるという御意見もありました。この点は、専門的知識の導入の仕方の問題について最も重要な論点の1つでありますので、労働調停の場合との相違点、あるいは4の(3)で挙げてあるような紛争当事者の意向あるいは利益の観点等も踏まえつつ、さらに検討を深めていただきたいと思います。
3(1)の専門家を活用する場合における専門家の性格については、労働調停に関しては調停委員には中立公平な立場が求められているという御意見で一致していたかと思います。また、労働裁判についても総論の議論において、中立公平性が必要であり、それが基本的性格となるべきであるという御意見が大勢であったように思います。
ここではさらに中立公平性とは何かの検討をもう少し深めていただいて、例えば前回御議論のあった外形上の中立公平性の確保の観点なども踏まえつつ、関与する者としてはどのような者がよいのかという点について御議論いただきたいと思います。
特に労働調停におきましては弁護士等が関与することもあり得ますが、そういう議論の流れになっていたかと思いますが、裁判の場合では労使双方の関与が中心となるべきであるという御意見もありました。関与する専門家の構成等も含めて議論をお願いしたいと思います。
先ほど言いましたように、休憩までにこの点の議論が多くなれば、さらに休憩後にも議論いたしますが、ここまでを1つの固まりとして議論していただいた上で、本日は残りの時間で4の議論に入っていただきたいと思います。
なお4の点については、私から後ほどさらに御説明申し上げたいと思います。
先ほど申しましたように3(2)は次回に回させていただきたいと思います。
そういうことでまず1についての議論に入っていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
○鵜飼委員 これまでの議論でこの辺は共通の認識だったのではないかと私自身は認識しているのですが、事件の類型として、事実関係がそれほど複雑ではなく、法令自体の解釈の余地もそれほどない、典型的に言うと賃金未払い、特に解雇事件の予告手当の未払い等のケースがありますが、そういう場合は迅速に、特別に専門性も必要とされないと考えますので、法令上の専門性が出されていれば十分だと考えますので、その事件ジャンルと、もう一方でいわゆる一般条項、解雇が典型的ですが、労働条件の不利益変更や配置転換その他諸々のケースもそうでありますが、一般条項が適用される事件類型におきましては、単なる法令上の専門的な知識だけではなく、雇用・労使関係におけるいわゆる体験に裏打ちされた経験則を持った方たちの参加によってより効率的に条項の解釈・適用が迅速かつ適切なものになると考えますので、ジャンルとしては2つの類型に分けると考えるべきではないかと思います。
今、法制審で議論されている民事訴訟法の改正の段階で、計画審理の部分で複雑な事件の場合は計画審理の義務づけがあったかと思いますが、要するに複雑な事件という流れの規定が法律の法文上どういうふうになるのかわかりませんが、少なくとも訴えが提起されて初めの仕分けの段階で、先ほどの2つの事件ジャンルを仕分けをして後者においては特別な手続をとる、前者においては非常にスピーディに審理を進める方法をとる。こういう方法が望ましいのではないかと思います。口火として話させていただきました。
○菅野座長 集団的事件もどうかという点もありますので、どうぞ。
○矢野委員 専門性を必要とされる事件の種類ということで、今お話のあった点で共通した見解になるのですが、賃金不払い事件のような要件が非常に明確な紛争の解決では、それほど高い専門性が要求されるとは思いません。専門性は必要であるにしても、それほど高い専門性は必要ないのではないか。一方、解雇や労働条件の不利益変更、配置転換という一般条項に対する判断が必要とされる紛争の場合には、要件の明確な紛争に比べてより高い専門性が必要となると思います。
これは個別的紛争を前提に置いた主張なのですが、集団的な紛争については、労働委員会で相当高い専門的な知識経験に基づく判断がなされてきていて、そこで相当蓄積されていると思うんですね。しかしいろいろ事件を見てみますと、例えば合同労組が関係する事件などのように、実質的には個別的紛争である事件も多く見られるという意味では、両者を厳密に区別することが難しくなっていると思いますので、形の上では集団紛争であるけれども実質的には個別紛争であるような事件についても専門性が必要であると考えることができるだろうと思っております。
その専門性の中身でありますが、レジュメに沿って考えてみますと、労働法に関する知見、労働関係の実情に関する知見は裁判に関与する専門家にはいずれも必要となる専門性であると思います。
労働関係に関する調整力がありますが、これはどちらかといいますと和解や、ここでは論議の対象にはなっておりませんが、調停など調整的な解決方法をとる際には役に立つ可能性があると思いますが、権利義務の判定的な解釈を求める場合にも必要とされるかどうか。ないよりはあった方がもちろんいいのですけれども、それほどの高い必要性があるのかどうかについては疑問を感じております。
自然科学に関する知見は、雇用・労使関係に関する専門家が一般的に持っているとは考えられませんので、これはどちらかというと知的財産事件や医療、建築等と同じ類型に属する話でありますので、鑑定人なり先ほどお話があった専門委員を活用することが有益であろうと思います。また、問題によっては専門家の意見書を求めるとか、鑑定人に鑑定してもらうということはあってもいいのではないかと思います。
裁判において必要とされる専門性の水準・程度は、調停に比べれば相当高い専門性が要ると思います。外部人材を登用・活用する場合にどういう関与をするかということと関係してくるのですけれども、権利義務関係を確定する判決の場面を一番難しいものと位置づけますと、難しくなればなるほど専門性が高くなる。つまり、難しい判決の場面ということになれば、裁判官に準じる程度の法律的素養が必要でありまして、これは給源の問題とも関係してくるのですが、容易なことではないと思います。慎重に考える必要がある部分であると思っています。
先に失礼するものですから、2と3もよろしいですか。
○菅野座長 どうぞ。
○矢野委員 専門性を導入する方法の(1)と(2)は、ある意味では当然のことでありまして、実際に現在でも行われておりますし、特に裁判官の皆さんにいろいろな形で研修を深めていただくことは、これまで以上に努力してもらいたいと思います。訴訟の大原則である(2)は、主張あるいは立証によって制度、技術、慣行などの専門性を当事者が法廷で述べることが大原則であるべきだと思います。
専門的な知識経験を有する外部の人材の活用は、どの程度のところに関与させるかによるのですけれども、現状では先ほど申し上げましたようなことから、今日初めて専門委員の話を聞きまして、そういうことはあり得るけれども、それ以上になってくると甚だ困難ではないかと思います。
専門家の性格につきましては、裁判である以上、中立公平であることは当然でありまして、労使の政治的な対立が裁判の場に持ち込まれるようなことがあってはならないと、これは強く思います。
私どもも会員の企業や関係の専門家とも議論しているのですが、今回の議論の前提に裁判の迅速性をうたっているわけです。労使の専門家ということでありますけれども、そういう人たちが判断に関与するとした場合に、迅速な解決という要請が逆の方向に動くのではないかという懸念が相当表明されていることを申し上げておきたいと思います。先ほども申し上げましたが、労使の政治的な対立が裁判の場に持ち込まれるようになっては逆効果であり、労働委員会の審理は時間がかかるという批判があるわけですが、そういうことになりはしないかという意見があることをお話ししておきたいと思います。
以上でございます。
○鵜飼委員 矢野委員が先にお帰りになるということなので一言言わせていただきたいと思いますが、私は労働関係に関する調整力に労使の均衡点を見出す勘とか感覚等の経験則が加えられていることについては、これは少し違うのではないかと思っています。要するに、先ほどの一般条項である合理性、相当性の判断は、突き詰めるところ使用者側の利益と労働者側の利益の均衡点をどう見出すかというところに帰着するわけでありまして、そのために評価を根拠づけるさまざまな事実があり、証拠があり、それを取捨選択し、相互の優劣関係、相互関係を考量しながら、総合的な判断によって合理性ありなしを判断する。これがいわゆる一般条項についての具体的な裁判の場面であります。そこに、法律の知識を持っている法曹が法律知識によってそういう問題が判断できるかというと、もちろん法律知識は必要でありますが、労使の現状は変化し、かつ、山川委員から指摘されたように、労働関係における特殊性、専門性の点で分析されましたけれども、ああいう諸々の状況の中で出てくる労働紛争について、そういう判断をするためにもう一方で必要とされているものは、労使関係・雇用関係の実情に対する経験則を持っている人であります。そういう人と法律の専門家がお互いに相協力して具体的な紛争において、例えば最近行われているリストラ等が典型的なケースだと思いますが、どこに労使の利益の均衡点を見出せるかということを判断する。それで事件において合理性があるかないかを判断するわけですが、まさに調整力、交渉力の問題というよりも、その規範的な要件があるかないかという価値判断になるわけであります。
したがいまして、その分野について法律の素養を専門的に身につけた人たちだけで、果たして十分にやれるのかということがこの間ずっと問題にされてきたわけでありまして、私は労使自治の中でそういう問題を不断に体験され、扱い、その中である意味ではぎりぎりの労使自治の交渉の中で一定の均衡点を見出して問題を解決している人たちこそが、そういう経験則を身につけている方たちですので、そういう人たちがそういう場面に参加して主体的に責任をとることによって、より迅速な適正な判断が担保されるのではないか。これは職業裁判官の能力なり役割を否定するものではなく、むしろますます職業裁判官の役割は大きくなると思いますが、先ほど危惧としておっしゃいましたように、労使の対立なり労使の代表のような形で紛糾して迅速性にもとる結果になると、これは制度の趣旨から全く反するわけで、私はそういうことにはならないと思いますけれども、公平中立な立場で参加することによってそういう弊害は除去されると思いますが、もしそういうことがあるとすれば、それは職業裁判官がきちんとリードして、制度の趣旨としては迅速かつ適正な判断のためにそういう制度が導入されるわけですから、裁判官の役割はますます大きくなると思います。
その場合の専門的な知識経験のレベルでありますが、労使関係・雇用関係について労働者側、使用者側で従事した期間が大事になると思います。そういう意味では15年ぐらい、35歳以上という感じが実感としてありますが、労使の人たちが危惧されるように、神様のような高い水準の専門性を要求されるわけではありません。まさに労使の現場で日々起こる問題について処理されている。それはまさに組織の中で人々を相手にしているわけでした、そこで培われたものがこの場面に役立ってくるということでありますので、それに加えて一定の研修を経て労働法なり法律の素養を身につけた上で参加していただくという意味では、私は専門性のレベルは、お考えのような高いレベルのものではないのではないか。むしろ労使関係の中での体験を持って一定期間その業務をやっていることを通じて培われる程度のものではないかと思います。
調停との関係ですが、裁判所に設けられる調停である以上は、法に基づく解決でなければいけません。そうすると、先ほどの1番目の類型の単純な事件については法律の専門的知識は必要ですけれども、一般条項が適用されるような解雇、不利益変更等の問題については、調停委員であっても、それについての一定の見通し、価値判断、結論はどうなるかということを見通しながら調停を行うことになります。もちろん若干のレベルの差はあるかもしれません。むしろ調停を経験して労働参審制の裁判官になるということが1つのプロセスとしてあるかもしれませんが、質的な違いはそれほどないと思います。
私がここで特に労使の方に申し上げたいのは、労使自治の力が弱まっている、労使で問題を解決する力が弱まっていることをこの間ずっと矢野委員、髙木委員がおっしゃっていました。私自身もそう思っています。これは日本の雇用社会だけでなく社会全体にとって由々しき問題ではないかと思っています。しかし現実には労使自治の中でいろいろな問題を解決していますが、ここでは労使自治の中で、企業内で紛争を解決するのが一番望ましい。しかし、どうしてもそこで解決できない問題が外に行く。外に行くときに、例えば外部の裁判所、お上にすべてを任せるのではなく、そこに労使が参画することによって紛争解決に責任を持つ。それは労使自治の中で培われた経験なりが生かされると同時に、その訓練を通じて、それがまた発展していく。さらには法律知識に裏打ちされていく。それがフィードバックして労使自治の現場に戻っていく。
そういう意味では、この制度設計を考える場合に、将来の日本の雇用社会あるいは全体社会を考える場合に、裁判の在り方における専門性の活用を単に職業裁判官だけに任せていいということではなくて、むしろ労使がそこに参加するという視点をぜひ持っていただきたいという、最後の点を特に申し上げたいと思います。
○山口委員 裁判への専門的な知識経験の導入の必要性を考えるに当たっては、基本的には裁判が適正かつ迅速にされなければならないのは言うまでもありませんから、現在の裁判が適正かつ迅速という裁判に求められている要請に合致しているのかどうかということをまず基本的な認識として共通化できるのかどうかを最初に議論しなければいけないのではないかと思っています。
現状の裁判が適正、あるいは迅速の面においておかしいとおっしゃるのであれば、それは思い切って変えていく必要があるでしょうし、適正・迅速の点で多々改善すべき点はあるにせよ、基本的には是認できるというのであれば、それに応じた手当てを考えていけばいいということになると思いますので、その辺の認識がどうなのかをまずしっかり把握しておく必要があるのではなかろうかと思っています。
専門的な知識経験の導入は、適正・迅速の観点から言いますと、主に適正の観点から言われているのだろうと思っておりますが、現状の裁判が適正であるかどうかについては、少なくとも裁判所はそれなりにやっていると思っていますし、労使のこれまでのヒアリングの中で聞かれた御意見を拝見しましても、必ずしも適正でないという御意見は多数ではなかったと理解しております。労働側の方から挙げられた例が、一、二ありましたけれども、それも個々の具体的なケースにおいて、例えば専門性がないためにどういう誤りがあったのかという具体的な指摘は特に見受けられなかったように思っていますので、そういう意味で言えば、基本的に現状の裁判の適正化については、私は相当程度あるのではないかと思っておりますので、そういう前提で専門性をどの程度、どのように入れていくかを考えていけばいいのではないかと思っております。
そういうことで考えますと、専門性が必要とされる事件の種類としては、言われるように一般条項が問題となる事件については、例えば解雇の場合ですと、10ぐらいの要素があるとしてそれを一つ一つ考えていかなければいけない。しかも、それを踏まえた上でどちらを勝たせるかということになるわけですから、そういう意味で言えば、そういうことについての経験が必要だということはあるかもしれませんが、それを労使の方が入っていって、それではこれは解雇相当だというようになっていくのかどうかとなると、私はそれは必ずしもそうとは言えない。労使それぞれの立場の方によって、これは解雇相当、あるいは解雇不当という形になる可能性が相当程度あると思いますので、それを労使を入れてどうなるという問題ではないような感じがしてしようがないのでありますが。
したがって、専門性を入れるとすると、前にも申し上げましたけれども、労働法あるいは労働関係の実情についての一般的な知見が必要になってくる。これが労働事件におけるいわゆる専門性と呼ばれるものということについては私も格別異論はありませんが、問題は労働関係に関する調整力をどう見るかということだと思います。率直に申し上げて、この点については検証ができない。具体的に感覚があるとおっしゃっても、果たしてその勘なり感覚が正しいのかということについては検証のしようがない。しかも、労使が仮に経験なり勘なりをお持ちだとして、労使の経験なり勘なりが同一レベルのものと言えるのかという問題も出てくるでしょうし、そういう意味で言えば曖昧模糊とした概念であると言わざるを得ないので、これを権利義務を確定する訴訟の場に持ち込むことはいかがかと思っております。
そういう勘、経験が必要であるのであれば、先ほども話が出ましたように、労働調停という調停の場でそういう経験なり勘を生かして、この辺ならどうかという形で当事者に対する解決案の提示、あるいは説得という形でやっていただければいいので、裁判というのは勘でやるわけではありませんから、あくまでも事実認定なり法的判断を具体的な事例に応じてやっていくわけですから、勘で判決が書けるわけではないので、そういう意味で持ち込むのはいかがかなと思っております。
○髙木委員 皆さんの議論をお聞きしておりまして、現行の労働事件裁判はそう問題がないという御認識ももちろんあるかもしれませんが、一方で問題があるとまでは、皆さんのお立場もあるからこういうところでは申し上げませんが、よりベターなものが欲しいという願いといいますか、要請はいろいろなところにあるのだろうと私は思っております。その1つは、例えば適正さということについても、これは受けとめ方がいろいろあるかと思います。具体的な例をもってこいというなら探してはきますけれど、我々の常識からすると、こんな判断はないのじゃないかというのはままないことはない。それは山口委員も一、二のことは御存じだと、いろいろなところに書かれたりしておりますから。
そういうことをあげつらってという話ではないのですが、要はそういう適正さ、あるいは迅速性等々でよりよい労働裁判制度を求めるために我々は議論をしているのだと思います。それに加えまして、単なる事実の認定の適正さについても、プロの裁判官がお1人でなさって十分だということではなく、より広い基盤でいろいろな人が持っている専門性といいますか経験性を注入することによって、より補強し、よりレベルが上がるということであれば、それはなにも否定することではないのだろうと思います。
そういう意味で、今回の司法制度改革全般の大きなコアのコンセプトの1つに国民的な基盤の強化という側面があることを私どもは十分認識しておかなければいけないのではないか。
必要とされる専門性の内容につきまして、労働法、法令、判例、労使関係の制度、技術、慣行等の経験則、この調整力は「勘」などという言葉を使うから山勘のように受けとめてああいう議論になるので、エイヤッの丁半のような勘を言っているのではないだろうと思うんですね。それは何となく、人間が物事を解決するときに、それもいろいろな意見の対立がある中で解決するときに、こういう部分は少しは抑えて、こういう部分はこのぐらいの論理でおさめていくのではないかというようなことをかなり日常的に現場ではやっているわけですね。それを団体交渉というか労使協議というか、そういうことまで言わないまでも、日常のいわゆるパーソナルマネジメントの中でそういうことをいろいろ経験しているわけです。そういう経験と時々裁判で出てくる御判断がギャップといいますか、こんなことではないのじゃないのという御判断が時々あるから、そういうことでどうなのかなということはいろいろ意見があるのだろうと思います。
そういう意味で、このペーパー全体に言えることですが、専門委員制度とか司法委員制度とかやたらと書いてあるのだけれど、そして今日はわざわざ説明までしていただいたが、審議会の議事録をもう一遍よく読んでいただきたいと思うのだけれど、例えば医療加護あるいは建築瑕疵のような内容の事件と労働事件はやはり一緒ではありませんね、少しニュアンス、感覚が違うととらえなければいけませんねという議論の経過があったと思います。もちろん勉強させていただくことについてとやかく申し上げることはありませんが、専門委員制度がこうだから、司法委員制度がこうだから、こちら側がこれに影響を受けろなどという提起をしているように受けとめるような今日の資料の構成の仕方やら何やらいかがなものか……こう言うと菅野先生にお叱りを受けるかもしれませんが、率直に言ってそういう印象も持ちました。
そういう意味で調整云々というのは、どんな事件で行うにしても説得力がなければ、調整の対象となる人たちは納得しないと思います。矢野委員がいろいろ挙げられた危惧も、率直に言って私もないことはないかなと思ったりもします。特に専門的な知識経験を有する外部の人材のレベルという意味で、矢野委員は非常に高いレベルを言われるから、訴訟法までみんなやってこいということになれば結構大変かなと思ったりもしますが、そういう危惧があるとしたら、それをどういう仕組みで担保して、その危惧をできるだけ緩和したものにするかというアプローチもしてみないと、最初からそういう議論でよかったのですかということになりかねないのではないか、そういう印象を持ちました。
専門家の供給源、員数は次回ということなので、次回はこの辺について意見を言わせてほしいと思っておりますけれども、そこを除きまして、どういう関与の場面を想定するかということの兼ね合いもあるということでしたが、裁判制度というトータルの仕組みで考えたときに、ある限定した関与の場面しかないという仕組みは、司法制度改革審議会の意見書の22~23ページを読んでいただければ、その辺はきちんと分けて書いてあると私は認識していますが、フルコースかどうかについてはいろいろな意見があるにしましても、単に裁判官から求められたことについてある種のアドバイスだけして終わりというニュアンスでは書いていないと思います。
私の感想のような話ですが。
○菅野座長 原点を忘れないようにというのは、我々も中間的な論点の整理の総論の最初に掲げてありますので。
○山川委員 専門性の内容が幾つか挙げられていますが、そのうち、調整力というのは恐らく利益調整あるいは利害調整の能力という意味であろうかと思います。これは恐らく労働関係の実情に関する知見と別個のものではないのではないか。つまり、調停でしたらこれとは別個の当事者間の調整そのものについての能力があり得るかもしれませんが、ここでは、労働関係の実情に関する知見に根ざした利害調整ということかなと思います。つまり、1つは争点整理ともかかわるわけですけれども、先ほど山口委員や鵜飼委員がおっしゃったように、労働法の場合は一般条項が多いので、その一般条項の適用に当たっていったい何がその評価を基礎づける評価根拠事実ないし間接事実として挙げられるのかは、労使関係の実情に照らして評価されることになります。そういう観点から要件事実の整理等の検討をしてみたことがあるのですが、一般的には書けないといいますか、大体類型化はされるのですが、各事件においてどの間接事実ないし評価根拠事実が重要かは、学者にとってはなかなかわからないことがあります。
そういう意味で、一般条項の適用に当たっての重要な間接事実を各事件で絞り込んでいくに当たり、審理において微に入り細にわたった主張立証がなされることがありますけれども、場合によっては、この点は陳述書でやれば足りる、特にこの点に絞って審理をしていけばよいといったことが、専門性があればわかるのかなとも想像されます。
一般条項以外でも同じようなことがありまして、これはむしろ労働関係の実情に関する知見の方かもしれませんが、例えば団交で合意が成立したとはどういうことかというようなことが労使関係の実態にかかわる問題として出てくるかもしれません。最終的には最高裁で破棄されて、労働側は敗訴した事件ですが、労使交渉の結果ベースアップ自体についての合意はあったのだけれども、その前提となる賃金体系の変更についても同時に交渉の対象となっており、その点についての合意は成立していなかったというとらえ方を最高裁がして、ベースアップの額だけについては合意があったとしても、その合意について規範的効力を認めるわけにはいかないとして、前者につき規範的効力を認めた原判決を破棄した判決があります。本件は最終的に最高裁で是正されてはいるわけですけれども、労使関係ではさまざまなものがテーブルに上がって、ギブ・アンド・テイクの交渉がなされるという実態の理解が必要な例として挙げられるのではないかと思います。
ほかには、例えば就業規則の変更ですと、労働者の一部に関して不利益な変更をするときなどには、経過措置が問題になることがありますけれども、集団的な制度の変更をする場合に経過措置をとることが当該事件において妥当かどうかはなかなか難しい判断になるのではないかという気がするわけですが、そういう点についても労使関係の実態の理解は必要ではなかろうかと思います。
そのように、間接事実ないし評価根拠事実等で何が重要かは、一般的・固定的なルールとしてはつくれないものですから、その点についての専門性の活用はあり得るかと思います。最終的には、専門性を活用することのメリット・デメリットの比較になるのかと思います。
○菅野座長 1から3の(1)まで大体まとめの議論になっておりまして、そういう議論としてもう少し続ける必要があろうかと思いますが、時間的にこの時点で休憩を入れさせていただき、休憩後に議論を続けていただこうと思います。
それでは休憩に入ります。
(休 憩)
(再 開)
○菅野座長 休憩前に引き続き、1、2、3(1)の議論を続けていただきたいと思いますが、村中委員、どうぞ。
○村中委員 この問題は先ほど山口委員が現状の裁判を前提にその評価ということを踏まえて考えなければいけないとおっしゃって、それはそのとおりで、こういう専門性を導入することについてどういう形であれば今よりもよくできるのかという発想をしなければいけないのはそのとおりだと思います。そういう点から見ると、この評価は既に何度か議論したわけですが、労働裁判の中には判例を見ると法令を知らないケースもあったり、もちろん判例が調べられていないケースがあることも否定できないのですが、それは労働事件だけではなく、ほかの事件でもあるかもしれませんので、それなりに水準は保っているのではないかと思います。ただ、私の目から見ていても、この事実評価はないのではないかというケースは少し気にかかる程度にあるように思います。そういう意味でそういう面を補助するような専門性の導入はあっていいのかなと思います。
そういう見地から労使で、先ほどは経験15年ぐらいという話が出ましたが、そういう経験に裏づけられた人が入っていくことは、それはそれで考えてよいことではないかと思います。ただ、少し心配なのは、経験といっても人間の一人一人の経験は非常に限られたものですね。それぞれの労使関係は特殊なものでありますので、そこで培われた経験が裁判の適正さにうまく結びつくような形を考えないと、例えば中小企業と大企業ということを考えても、大企業の労使関係だけを経験した人が中小企業で出てきた労使関係の問題について何か言ってしまうと、それはかえってデメリットの方が大きいということにもなりかねないという心配もあるのではなかろうかという気がします。
そういう意味で労使の参加ということで専門性を向上させていくことは、やり方としては非常に難しいのではないかという考えを持っています。ただ、参審とか参与という労使の参加を考えるときには、ここで言われているような専門性の問題よりも、今日お配りいただいた資料73の5ページの後半以降に「参審制度に関する憲法上の論点」という形で、刑事訴訟手続における裁判員制度についてが参考になるのではないかと書いてあるのですが、ここにも触れられていて、先ほど鵜飼委員が強調されておりましたが、労使が裁判に関与することによって裁判が国民により近いものになるというか、国民がその裁判に参加していく側面ですね。そういう意義も、知見の導入と二本柱といいますか、多分そういうことであるのだろう。専門性の導入ということだけを考えることが我々の使命であれば、私は労使の代表が入ることについてはそれほどプラスはないのではないか。かえって実務的に難しさが出てくると思うのですが、2本目の柱ということを考えると、それも非常に重要な柱であって、そういうことを考えるとはるかにメリットの方が大きいだろうと思います。
ただ、それはこの検討会の課題との関係で、そういうことまで含めて参審・参与制度について考えていいのかどうかということ。それは課題に入っていないということであれば、議論しても仕方がないということになるのかなと思いますけれども。
○菅野座長 課題に入っていないということはないと思います。司法制度改革審議会の大きな基本的な見解がありますから、労使関係に専門的知見を有する者の参加する裁判制度の要旨等の、いわば思想的といいますか、理念的な基盤は何か、理念は何かということも議論していただきたいわけです。その中で純粋な専門性の導入なのか、もっと広く国民参加の思想の方が重要なのかというあたりも議論していただきたいと思います。
○村中委員 そういうことでしたら、問題の立て方自体が少し狭過ぎる感じがします。国民参加的な視点や裁判における労使自治の在り方等も含めて議論した方がよいのかなと思います。そういう意味で専門的知見の導入という表現は少し狭いような印象を与えるかと思います。
○鵜飼委員 私は、今の論点に関しては労使自治と外部の紛争解決システムとのリンケージといいましょうか、そういう意味での労働事件に国民参加を引き直しますと、労使関係あるいは雇用社会から発生する事件ですから、その意味でやや大きく言うと国民参加の1つだと思いますが、労働自治による問題解決と外部による問題解決のリンケージという意味では、参審制はその結びつきをするための非常に有効な回路になると考えていますので、その辺は多分基本的には同じ議論になるのではないかと思います。
もう一つは先ほど山口委員から指摘された件で言いたいことがあるのですが、まず、勘ということ。私は勘と言った覚えはなくて、レジュメに書いてあったことをおっしゃっているのだろうと思うのですが、ただ、高名な裁判官が自由心証についての議論をしていらっしゃる中でも、「座り」とか「筋」という議論が当然出てきますし、職業的な訓練を積み重ねる中での高度な勘といいましょうか、そういうもの最終的にはどうしても出てくるわけで、そういう言葉で裁判官自身が表現されているわけです。そういう意味では非常に難しい分野であることの裏返しであろうと思いますが、それに拘泥するつもりはありません。
現状の労働裁判についての適正さについて、反対とか不満は余りないではないかということをおっしゃったのですが、不満を言おうと思ったら切りがないわけでありまして、労働側の弁護士にアンケートをするとそういう問題がどんどん集まってくるぐらいに不満は多いわけです。ただ、具体的にそれを一つ一つ挙げようという気持ちは必ずしも持っていませんで、たまたま数回ぐらい前に出したあるホテルの解雇事件について言いますと、仮処分で解雇は有効と判断されたものが、一審判決では無効と判断され、その直後1年もたたない間に高裁判決では有効というふうに、数年間に逆転、再逆転。一般条項についての判断が変転極まりない。これは確かに裁判ですからわからないでもないのですが、特に一審判決と高裁判決は基礎たる証拠は全く同じで、ほとんど証人調べをしていないわけです。そういう点に現在の裁判の危うさを感じるわけです。
裁判の件数自体が諸外国に比べて圧倒的に少ない。しかし実際は、個別紛争は非常に多いのも、そういう裁判の現状を考えて裁判になかなか踏み切れない。アクセスの問題もありますけれども、そういうことがあることをぜひ山口委員には御認識いただきたいと思います。
そういう意味で、現在の裁判が労働裁判に特別に専門家的な裁判官として特化されていませんで、1つのローテーションの人事の中で労働集中部に回されて担当するという状況になっておりますので、さらにはその中には5年未満とか判事補の方もいらっしゃいます。そういう状況の中で果たして雇用社会の中で発生する労働紛争について、特に一般条項についての法律の知見はある程度信頼できるとしても、そういうことまで任せられるかという点では非常に危惧を持っております。個別ケースについて一々挙げるのは私はなるべく避けたいと思っています。もっとあるべき今後の労働裁判、これは現状の司法制度そのものが制度疲労を起こしている。21世紀のあるべき日本の姿として法の支配を確立するための司法の役割を大きくしなければいけない、こういうところから出発しておりますので、現状の司法はいろいろ問題があるということを前提にしてこの議論がスタートしているので、まず、事件数が圧倒的に少ない、裁判は利用しにくいし、その理由の1つには裁判の迅速性と適正さの問題があることをぜひ裁判所の側には認識していただきたいと思います。
この間ヒアリングでヨーロッパ等諸外国の法制が1つの実証例として出てきているわけですね。そのいい部分がなぜ日本に導入できないのかということもあります。私は、導入できる部分はどんどん導入したらいいのではないかと思うわけです。例えば労使関係についての知識経験を有している方が具体的な事件に関与して、その中でいろいろな意見を聞く、合議の段階で労使側の意見を聞くことは職業裁判官にとって非常に意味がありますし、助けになると思うんです。
この前も御紹介しましたが、公益委員から聞いた話では、弁護士としての経験ではわからない雇用現場の状況を聞いて、目からウロコが落ちる思いを何回もしたということです。そういうことは、裁判官もこういうことがあれば経験されるのだろうと思います。それはむしろ裁判官の助けにこそなれ、裁判の妨げになることはないと思います。そういう意味では裁判官の側から積極的にこういう制度を望まれるようにもなっていただきたいと思うのですが、そういう意味で危惧される理由がよくわからない。むしろ労使関係についての事情を知っている方が参画することによって、よりよい判断、判決、迅速性が確保できるのではないかと思います。
○石嵜委員 現状認識として今の裁判について適正化と迅速性の2つについて問題があるかと言われたときに、私の感覚でいくと、迅速性についての問題は弁護士にも大きな責任があって、裁判所だけの問題ではない。これはもしかすると弁護士の方ではないか、加えて適正化についても、基本で言えば当事者主義ですから、主張立証が十分尽くせたか。そういう意味で今の判決一つ一つとすれば不満なものは私個人は多いのですが、それは裁判官だけの問題ではなくて、弁護士自身がそこを十分主張できたか。本人訴訟は別としてそういうことが十分あるので、適正化と迅速性の問題を含めて考えるときには、司法・裁判所だけではなく弁護士の在り方をきちんと考えなければいけないのではないか。こういう認識は持っています。
ただ、労働事件になったときに、専門部は東京と大阪にしかない。集中部も一部しかない。弁護士も結局、労働事件を中心に精通してきた弁護士は大都市に集中している。制度設計を考えたこの議論は全国問題ですから、そういう意味で弁護士の主張の部分が十分ではないと言いながらも、地方では現実にそれで行われているし、だからこそある種の問題がある内容を私たちが読むとやはりちょっとと思うものもある。この現実は認めなければ仕方ないと思います。それがどちらの責任かと言っているわけはなくて、それについていかによりよい形にしていく。特に、解雇、賃金切下げ、配転のような形になると一般条項になってきて、最終的に社会的相当性の議論が重要な部分になってくるだろう。その相当性を判断するときに、その現場で、つまり大企業、中小零細によってはその相当性は全く違うわけですから、それは確かに人選するときに用心しなければいけませんが、その現場で体験してきた人たちを何らか生かすということは、今の裁判の適正化によりよい形で出てくるのではないだろうかという思いを私個人は持っています。
加えて、今後社会的相当性を考えたときに、大変な勢いで時代は動いていて、企業と労働者の関係も雇用関係もマーケットの影響を受けて変わっていく。その中では、裁判官の方々に努力していただいて学ぶということも大事なのですが、現場で生きている人たちの日常の体験を生かすことが意味があるのではないだろうか。そういう意味で、専門性をどのように位置づけるかは別として、裁判に生かす道はないのかなという思いを持っていることが1つです。
あとはいろいろな議論をされていますが、もう一つは、必要とされる専門性の水準・程度についてどう思うかは、抽象的な話はいろいろあるのでしょうけれども、視点をひとつ変えまして、裁判というのは国民から信頼されなければいけない。これは絶対だと思うんですね。信頼されない裁判所、判決というと、もうこれ自体が大議論になりますから。そうすると、労働調停に労使が参与する場合の労使の持っている素養と、判決までとか裁判に関与すると言われたときには、国民の信頼の目から見ると、そこに求められる専門性というかその素養は、調停とは違って裁判は高いものが求められるのではないか。それがどの程度かは私自身も十分にそれがわかっているわけではありませんが、そういう意味では調停との比較においては同じようなものとは私は考えてはいません。もっと外から見た目で考えても、何らかの形で経験年数をとるのかどうかはあるのですが、ある種その素養は高いものを求められるのではないか。ただ、それが裁判官に準じるものかどうかはまた別問題で、裁判官をフランスのように外してやろうと言っているわけではないので、裁判官を中心に置いてそういう形でいかしてくれないかと言っている話ですから、したがって、裁判官に準じる程高いものかなという疑問は少し持っています。
○春日委員 専門性のレベルという話が出ましたので、それに関連して一言ですが、3の(1)の専門家の中立公平性についてです。先ほどのお話のあった専門委員との関連で専門家のレベルを考えた場合に、仮に専門家のレベルが、法務省から説明のあった専門委員のような程度だとすると、専門委員については除斥や忌避の制度があるわけですから、専門家のレベルとして専門委員と同じようなレベルまで要求されているのだとすると、当然のことながら中立公平性は要求されてくるだろうと考えます。そうなると、資料に書いてあるように「いわゆる労使の代表者」を中心として、その方々が専門家として労働事件で登場してもらうということには、中立公平性の点では若干疑問があるのではないかと思っています。
もっとも専門家のレベルは専門委員ほど高くないという考え方をとれば、それはまた別かもしれませんが、少なくとも専門委員と同じ程度、あるいはそれ以上の専門性のレベルが必要ということになると、中立公平性はかなり強く要請されるだろうと考えます。
○山口委員 現状の裁判をどう見るかについては、恐らく立場によってそれぞれ見方が違うと思うんですね。率直に言って、当事者は負けたときは不当判決という認識が強いですし、勝ったら正当という気持ちが出ていますから、何をもって適正かは非常に難しいと思いますが、少なくとも現状の制度の問題とすると、現状の裁判がおかしいというのは、マスの意見として出てこない限りはそれは難しいのではなかろうか。個別の事件でいろいろ問題ある事例があるとおっしゃいまして、そういう事例がないとは言いませんけれども、そういう事例があたかもすべてかのような形で制度設計を考えるのはどうかなと思っています。
そういう意味で言うと、少なくとも半数程度はおかしいとおっしゃるのであれば、大幅な制度設計の変更の意義はあるかもしれませんが、私はどうもそこまでは認識していないので、制度を変えるほどにマスとして現状の裁判がおかしいと言えるのかどうかは、皆さんで意識しておいていただきたいと思っています。
そういう前提で考えていますが、訴訟の場合に労使の方々を入れることは1つの考え方としてはあると思いますけれども、何人かの方もおっしゃっていましたように、特に一般条項のような場合については、それぞれの具体的な間接事実について当事者の主張がまず違う、そういう事実があるかないかということがまず違う。その事実があるかないかを認定しなければいけない。その上でその事実が果たして解雇権濫用と言えるものかどうかを、いろいろな意味で総合判断して考えなければいけない。大雑把に言って2段階の形で判決に至るまでは考えないといけないと思うのですが、そういう事実があるかどうかについて、労使の方が入って果たして十分な意見をおっしゃっていただけるかどうか。これは率直に言って私は疑問を感じています。
事実認定というのはそう簡単な作業ではありませんし、当事者はまさにその事実があるかないかによって結論が変わってくるということで、双方が一生懸命やっておられるわけですから、そこについてどうかということは、30年近く裁判官をしてきた私でもそう簡単な問題ではありません。そういうことは労使についての実情なり調整力について、仮に十分な力をお持ちの方が入ったところで、そういう事実の見方が本当にできるのかどうか。これは大きな危惧を抱かざるを得ないと思っています。そういう事実が仮に確定できたとして、その事実をどう見るか、その事実にどの程度のウエートを置くか、それについてさらに労使の方々が同じ結論になるかどうかとなると、私はまた率直に言って大いに疑問があります。
そういうことからすると、そういう方々に入っていただいていろいろな意見をおっしゃるのは役に立つとおっしゃいますけれども、現実問題として本当に役に立ったかどうかということは、少なくとも日本の裁判なりその他の労働関係紛争制度において実証されていないわけですから、実証されていないようなことを幾らおっしゃられても、それで「はいそうですか」というわけには、少なくとも現場を預かる裁判官としては申し上げるわけにはいかない。そこは、こういう実績があってこうなのだからこれでどうなのかとおっしゃっていただければ、こちらの方も十分考えたいと私としては思っておりますけれども、少なくともそういう裏打ちがないままで議論が進展していくことについては、現場を預かる者としては大きな危惧を持たざるを得ないということだけは申し上げておきたいと思います。
○鵜飼委員 まず、労働参審制度を導入している国がむしろ世界的には数が多いわけですね。そこでの実証例としては、労使の裁判官の意見がほぼ一致するということがあります。これは紛れもない客観的な事実ですし、私自身も直接ヒアリングして職業裁判官から聞いて、そういうことを確認いたしました。
また、日本の労働委員会は参審制ではなく参与制で、代表制という点で今考えている参審制とは全く違いますけれども、そこでも公益委員にお聞きすると、労使が個別の紛争においては意見が一致することが多いと聞いております。また、労使の委員からの意見は非常に参考になるということを聞いています。
現状は十分やっている、別に問題はないということをおっしゃる。一方で30年近くやっても事実認定は難しいとおっしゃる。そのときに労使の経験がある方々が横にいて意見を聞く、ディスカッションをする。ヘゲモニーというか、労使の意見が対立したら最終的には職業裁判官が判断するわけですが、そこにどんな弊害があるのでしょうか。もし弊害があるとすれば、労使がお互いに対立し合ってどうしようもないという事態になる。これはむしろ制度的にそういうことはできないようにする、心構えの問題だけではないかもしれませんが、そういうことは外国の例でもありませんし、中立公平な立場で裁判官として参画するわけですから、そういう場面は見たこともありませんし、そういうことは余り考えなくていいのではないか。もちろん初期の段階でそういう弊害があるとすればそれは除去すべきで、労使がまず初めにそういうことのないようにすべきだと思います。
ほかに弊害は何があるのだろうと思います。労使の意見が一致して、裁判官の意見が一致しない、反対というケースはもしかしたら労使の判断が結論になる。これを危惧されているのかなとも思うのですが、あとはそれを受けとめた当事者がそれを納得するかどうかという問題になりますし、上訴審で是正されるかどうかということになるわけです。ですから、よりよい制度を考えていこう、諸外国で当たり前のようにやられている制度を、日本の司法制度改革という50年に1回のチャンスのときに導入してみようではないかというときに、心配は多少ともおありになると思いますが、心配の内容を分析するとそれほど決定的なものはないと思われますが、いかがでしょうか。
○山口委員 鵜飼委員は、1つは諸外国の例をおっしゃっています。諸外国の場合はおおむね労使の裁判官の判断が一致するとおっしゃいます。しかしヒアリングの話を聞いてみますと、そこに持ち込まれている紛争はいわゆる定型的な紛争で、したがって労使の見方が一致するケースが多い。そういう話があったと思います。ところが日本で現実にきている訴訟事件は、労使が激しく対立している事件がほとんどであります。したがって、そういう事件について諸外国が定型的な紛争について労使の判断が一致しているということ、それは答えにはなっていないと思いますし、諸外国の場合はさらに労使間に何百年とわたる労使自治の伝統があってそういう制度になっているわけでしょうけれども、日本の場合は残念ながらそういう伝統、基盤がないままにきている。そういう前提のもとで、諸外国の場合でこうだからという形でもってこられるのは、それぞれの国の文化なり伝統なりを無視した考え方だと思っております。
労働委員会で労使の意見が参考になったというのは、1つの傍証として挙げられておりましたが、それではなぜ労働委員会の評議の場において労使の委員が参与していないのか。それは、参与させることについて問題があるからこそ参与させていないでのでしょう。和解なりの場面については一定程度の役割を果たし得るにしても、事実を認定して結論を決める場面でなぜ労使の委員は入れていないのか。そこについてはその答えがないのではないでしょうか。少なくとも日本の現状を見る限りは、そういう意味で労使が入ってやることについての実証的な成果が、少なくとも私はあるとは思いませんので、したがってそういう形について十分な実績がないままで制度の中に入れるのはどうかと考えているわけであります。
○鵜飼委員 外国において定型的紛争が多いから意見が一致するとおっしゃいましたけれども、私がイギリスに行って実際に傍聴したケースは解雇事件でありまして、イギリスですから不公正解雇かどうかという不公正かどうかを争う事件でありました。この間のヒアリングでも明らかになりましたように、例えばイギリスでもドイツでもフランスでも、イギリスはACASがあります。ドイツ、フランスでは行政的なADRはありませんが、企業内の紛争解決・苦情処理システムが非常に整備されているわけです。ドイツでは御存じのとおり、労働者の代表組織がありまして、それと使用者との義務づけ、苦情申立権がありますので、例えば解雇事件については必ず協議しなければいけない。そしてそこで労使代表から異議の申立てがあった場合には、雇用を継続しなければいけないとか、具体的な法的効果まで制度的に認められて、具体的に発生した苦情については、まず企業内で処理しなさいと、これはドイツでもフランスでも全く同じようなシステムです。イギリスにはさらにそれと同時にACASがあります。そういうシステムの中で、しかしそれでもなおかつ処理できない問題が裁判所にくるわけです。
そういう意味では確かに母数は違いますので、日本ではかなりセレクトされた少数の重い事件が、これもなぜそういう事件しか裁判所に出せないかというと、それは出せないという問題もあるんですね。アクセスだけの問題ではなく、それもぜひ御理解いただきたい。したがって定型的な事件ではなくて、企業内なりでいろいろやって、しかし解決できなかった事件がきているわけです。そういう問題について労使が意見が一致するということがありますので、その辺の重みは確かに伝統、文化が違う、したがってそれをストレートに導入すべきではないとは私も思います。それはそうです。しかしその辺の重み、それはなぜなのか。労使の知見が職業裁判官に一定の参考になって、それが一定の労使の信頼になってきている。労働参審制をなくそうという動きは全くないということですね。
労使自治の基盤が違うということをおっしゃいましたが、日本の労使自治はそれほど脆弱なものでもないし、戦後労働組合ができて、確かに今は厳しい状況にありますけれども、営々と努力し、それなりの基盤をつくっております。これはぜひ労使の方にここで本腰を入れて、雇用社会の中から発生した紛争について自分たちもその紛争解決の一角に参加する、責任を持つということを決意していただきたいと思いますが、私は日本の労使自治の伝統がそういうものを支えるだけのものではないとは全く思いません。
労働委員会の制度設計は労組法の中のものでありまして、それは菅野座長の方が詳しいと思いますが、それは反論にはなっていないのではないかと思います。
○菅野座長 労働委員会の制度は全く別の制度とお考えいただいた方がいいと思います。労働委員会は三者構成であって、労使委員は労使それぞれの利益を代表してかかわっている。これは法律上そう書いてあります。しかしここで議論しているのは、そういう意味での労使代表ではなく、参審なり参与なり一者構成、それもぜひ御理解いただきたい。外国の労働裁判所でもそうですが、まさしく中立公平な独立の裁判官、あるいは裁判官に準じる者となると思います。要するに一者構成であります。
あとは、現実の姿としても、労働委員会で労使委員が果たしている役割は、対立関係が非常に厳しく、長年の対立がある労使関係を解きほぐして何とか和解させて、将来の労使関係をつくり上げる、そこにおける役割でありますが、ここでの役割はそういうものではなく、主として権利義務関係の判断であると考えた方がいいのではないかとも思います。
そういう設計なものですから、労使関係の対立が厳しいところで労使の利益をそれぞれ代表させながら、中立の第三者としての公益委員を入れて労使関係を適正に調整する。これが基本なので、最終的に合意が成立しない場合の判断は中立の公益委員だけにさせるのが労働組合法の考え方であります。それで協議には参加させないとなっていると思いますので、違うものだとお考えいただいた方がいいのではないかと思います。
○髙木委員 春日先生が中立公平性のことに触れられましたが、先ほど来出ている信頼性等を考えましたときに、どこの国でも中立公平性に疑念が出るような運営ならこういう仕組みは多分成り立っていかないのではないかと思います。私もドイツ、イギリス等でお話を聞いてきて、そういう印象を強く受けております。
そういう意味で労使の代表制というのでしょうか、制度設計にもよりますけれども、ドイツ等では一審、二審、三審とも三審構造全部が参審型になっておりまして、去年ですが、連邦レベルの三審の参審委員をしている人たちと話をする機会がありましたが、一審、二審から三審に上がってくる事件の中には新しい労働秩序構成にかかわるような事件もある。そういう場合にはどちらのスタンスかという議論に、争いの内容によってはそういうニュアンスがどうしても出ざるを得ないような事件もある。
その辺は、我々がこれから議論する上に、一審の上の二審をどうするか。あるいは三審をどうしていくかということとの構造で、例えばゆくゆく100年、200年がそうだというわけではありませんが、とりあえず一審の中にそういう構造を取り込むということなら二審、三審はどういうリスクに対するヘッジをしておかなければいけないのかなど、いろいろな仕組み方で柔軟にいろいろ考えられるのではないか。もちろん大原則は中立公平性がなければ、恐らく信頼性という意味でも齟齬を来すと思います。そういう意味でどこの国のトレーニングの内容を見てみましても、中立性はかなり強調されておりますから。
労働委員会は菅野先生がおっしゃったように、私は全く別物だと思います。特に石嵜委員たちにお願いしたいのですが、労働委員会のことで、あつものに懲りてなますを吹くようなお話が、経営側の皆さんの中にちょっと強過ぎるのではないかという印象を日ごろから持っております。
○石嵜委員 50年の怨念みたいなものがありまして、経営労組はなかなかいかないというのは、これは身にしみて言われています。このごろは毎日言われています。
○髙木委員 全くとは言いませんが、労働委員会とはかなり使命も目的も違うと思うんですね。
○石嵜委員 はい。
○山口委員 労働委員会の仕組みが裁判所の仕組みとは違うのはそうだろうと思いますけれども、利害対立のある中でも現実には和解がやられているのであれば、それはそれなりにあるというふうに、それは多分それぞれの立場をある程度離れた形でやっているからそうなっているのだろうと思うのですが、そういう意味で言えば、評議の関係では実績がないということを申し上げたかっただけであります。
諸外国の場合についての基本的な認識の違いもあるかもしれませんが、少なくとも労使が対立した立場で入ってきて、それぞれの立場でどこまで意見を言えるのかということについては、我が国の場合はそういう制度がないこともありますが、実績としては必ずしも十分ではないかということを私は申し上げた。そういう実績がない状況下で、制度というのは新たにできたときにうまく回るという見込みがないと、制度をつくる意味はないのでしょうから、そういう実績のない中で制度としてそういう形の方に入っていただくことは適当かどうかというのは検討しなければいけないのではないかということを申し上げています。
将来的に一定の実績があるという形になるなら、考え方は別としてあり得るとは思うのですが、少なくとも検討会である程度の結論を出す時期までに、そういう実績ができるかというと、それはできないだろう。私はそこを強調しておきたいと思います。
○後藤委員 今日の資料72の1(3)で専門性の内容ということで分析がされているわけで、これ自体についてはどうかという御指摘もあるのかもしれませんが、「・」が5つありまして、1番目、2番目あたりは、ともかく紙に書けるもの、文章になるものなのかなと思います。4番目もそうだと思いますが、4番目は先ほど小野瀬参事官から説明がありましたように、まさに専門委員が入って非常に客観的に言葉にして法廷で裁判官、当事者にわかるように説明ができるはずのもの。問題は真ん中の「調整力」で、これは勘とか感覚と書いてありますので、紙に書いて文章にして、説明できるかというと、これはできるかできないかが問題ということになるのかなという気がします。
これも含めて紙に書かけるもの、労使の均衡点はこういう事件ではこうあるべきなのだということを文章にして何らかの形で説明できる性質のものであれば、別に専門委員がやらなくても、原告代理人、被告代理人がおられるのですから、それぞれの立場で、本来は主張すべきもので、それで訴訟は回ってきたわけですね。裁判官の足りないところは両当事者なり両当事者の代理人が主張立証する。そういうことで回ってきたはずで、それとは別にさらに紙に書けない、言葉で説明できないものを必要とする裁判なのかということだと思うんです。
そこはいろいろな御意見があると思いますが、日本の民事裁判自体は、職業裁判官がすべての民事事件を審理担当して、そのことは裁判官が中立公平にやっているということと、判決をするときには事実を摘示して事実認定をかなり詳細に判決に書いて、その事実認定から結論を導き出すということも、判決を書くという作業を通じてやっているわけですね。
山口委員が、勘で判決が書けるわけではないとおっしゃったのは、どういう要素があるときにどういう事情を認定できて、そういう事情を認定できると、この規範に当てはめるとこうなる、それは別に労働事件に限らず、どんな事件でも、労働事件は特にそういう要素が強いと思いますが、ほかの過失や正当性などが問題になるような事件では既にやっているわけで、もし労働参審のような制度が入って、それは全人格的な判断だから判決にはうまく書けないけれども、自分の経験からするとこうだと結論だけ出せばいいような……極端に言えばですけれども、そういう制度が入ってくるというのなら別なのですけれども、日本の民事訴訟自体は全体として、とにもかくにも法廷で両当事者が主張立証し、必要であれば鑑定なり専門的知識を入れた上で審理をして、事実認定して法令を適用して判決する。そういう流れで全部やっているわけですから、その中に理由はともかくとして全人格的な判断でこうなるという制度を導入するのが、本当に労働事件について必要なのかというのは、まだよく腑に落ちないところがあります。
○鵜飼委員 確かに核心の部分だと思います。紙に書けないこの部分はまさに経験則でありまして、これは一般の事件においても裁判官が経験則を使って、こういう証拠についてはこう評価し、この証拠についてはこういう間接事実を認定し、こういう間接事実がそろえばこういう事実が認定される。そういう判断の場合の大前提になるのが経験則だと言われていますし、これは今の通説は、当事者が主張立証すべきものではなく、裁判所の方に備えられるべきものであると考えているわけです。
ここで問題になっているのは、雇用労使関係の実情に関する経験則。これは果たして裁判官だけで十分だろうかということが議論されているわけです。むしろ労使の経験、事情に通じている者がその経験則を持っていて、それが加わることによって裁判所の経験不足がより強化されるのではないか。その経験則を通じて証拠を評価し、間接事実、要件事実を認定し、結論を出す。このプロセスは当然、経験則を含むものであることはなかなか紙に書けませんけれども、事実はきちんと説明し、普通の判決文のように書かなければいけない。それによって説明責任を果たさなければいけない。これは当然のことでありまして、今問題になっているのは紙に書けない経験則が今の労働事件について、特に一般条項を適用しなければいけない労働事件について、普通のキャリアシステムで育っている裁判官にどこまで期待できるか。いろいろ書物で読まれてもそれは不十分ではないか。雇用社会の現場にある程度の期間いて、その仕事をしている方の持っているものは裁判官の経験則の限界を補うものではないか。これがヨーロッパの労働参審制の1つの眼目であろうと思います。
説明責任については後藤委員と全く同じでありまして、だからといって説明しなくていいわけではありません。きちんと説明しなければいけません。その説明責任、プロセスをお書きになるのは職業裁判官だろう。これは外国の労働参審制でもすべてそうです。職業裁判官がお書きになるわけです。
○菅野座長 論点の塊の1、2、3(1)で、私が議論していただきたい点は議論していただいているのですが、1点は、事件の類型で集団的労働関係紛争、個別労働関係紛争という概念がつくられたわけですが、当事者の違いによる集団的労働関係紛争、つまり労働組合と使用者間、あるいは労働組合と組合員間もありますが、民事事件としてのそういう事件をどうお考えになるか。矢野委員はそういうものも区別する必要はないのではないか、むしろ専門性が必要なのではないかということをおっしゃったような気もしますが、この点を議論していただきたいのです。
例えば民事事件といっても、労働組合法7条の不当労働行為も民事事件になり得るわけですね。そういうことも頭に入れて、ここでどう考えるかということです。
○山川委員 私も矢野委員に同感のところがあります。先ほど挙げた団交における合意の成立もまさに集団紛争ですけれども、ほかにも個別紛争と集団紛争がなかなか区別できない場面も多いと思います。労働条件の変更の紛争でも、労使協議がどういう意味を持つかというのは、法律上は個別紛争ですが、その中で労使の合意をどう評価するかは、ある意味で集団紛争的な色彩を持っているといいますか、集団的労使関係の実態を知らないとなかなか難しい面もあります。調整の面では労働委員会によるシステムがあり、個別と集団はかなり区別された別のルートになるかと思いますが、判定ということを考えると、両者を区別するのは難しいのかなと思います。
○鵜飼委員 私も全く同じ意見です。個別紛争と集団紛争は実質的概念と形式的概念があると思いますが、個人が原告になっているケース、しかし実質的には集団紛争であるというケースもありますけれども、個人が原告になる以上は労働事件で、背景に団体交渉の合意のことが問題になったり、労働協約の解釈が問題になるケースについても形式的には個別紛争と言わざるを得ない。しかし実際の判断においては集団的な労使間の交渉になる経過とか協約の解釈等が問題になる。
形式的な集団紛争は、例えば組合が原告になって労働協約の不履行に対する裁判を起こすとか、損害賠償を請求するケースもあるでしょうし、あるいは使用者側が組合に対して損害賠償請求というケースもあります。こういうものについても、裁判に提訴されて裁判の俎上に乗っていく以上は排除する必要はないし、むしろその分野についての専門性といいましょうか、特に要求される部分があるのではないかと思います。
○菅野座長 除外するというか、対象から外すという御意見はないということでよろしいでしょうか。
○石嵜委員 形式で個別労使紛争と集団的労使紛争を分けられるかというのは、確かにそれはあると思います。今の合同労組の問題も含めて考えていけば。ただ、労使を関与させて中立性を維持しながら、この問題を専門に考えるとすれば、今の感覚でいくと、集団的労使紛争に対する問題に労使を、実質的集団的労使紛争性があるというものに、それは中立公平でやらなければいけないけれども、推薦母体を労使代表にした者を入れるということになれば、これはまた労働委員会と同じく、従来の対立構造の話を巻き起こすような気がしてならないんですね。
できる限り、ここは難しくても個別労使紛争と集団労使紛争の割り振りをきれいにして、いわゆる使用者と労働者の個別労働事件に関する処理に限定して考えた方がいいといえます。私は今この話を持っていった大騒ぎになると思っているのでこう言うのですが、そこはまだ使用者側にそれだけのことを考える素地はないような気がしています。
○髙木委員 これから3年、5年、10年ぐらいのオーダーで考えても、いわゆるコミュニティユニオンやパートユニオンなど、いろいろな意味で個人加盟型の組合組織が広がるだろうと思っています。そういう意味では、個人加盟ですから労働組合に参加している人が1人でもいたら、そのコミュニティユニオンと企業との労使関係が、非常にテンゲンされたものだけれど、できてくるのだろうと思います。
今の合同労組と同じような個別紛争でありながら集団的紛争の鎧を着るアプローチになる件数は大分増えるのだろうと思います。その際に、これは集団的労使紛争という扱いではありません、まさに個別的労使紛争の世界で処理するのですよというルールを敷衍化するなら、それはそれであるだろうと思いますし。
○菅野座長 権利義務の問題であれば、いわゆる個人加盟のコミュニティユニオンが実質上の代理人になるような、私は「代理機能」と言っているのですが、それはまさしく個人が原告になる、あるいは申請人になる形が普通で、それは法律的に言えば、当事者の点で言えば個別労働関係紛争になると思うんですね。当事者の点での個別労働関係紛争であって、背景には組合が応援するというのは幾らでもありますし、その方が多いのかもしれないわけで、これを外すわけにはいきません。
問題は、労働組合それ自身あるいは労働組合と使用者間の労働組合法上の紛争が民事紛争の形でくる、7条違反の損害賠償とか、誠実交渉違反の損害賠償なども含めて、あとは労働協約上の権利義務でしょうか。そういうものをどう考えるかということですね。
○髙木委員 具体的には、先生がイメージされるタイプの争い方は、今の労使関係の変化を見ていますと、少し荒れる時代がくるのかなという感じもちょっとします。
○菅野座長 これは協約も含めて恐らく労使が自分たちで問題を解決できなくて、あるいはほかの対立要因があって、対立関係が強いことが権利義務紛争の形で裁判所にくるというようなイメージかなと思います。
○髙木委員 そうですね。
○山川委員 例えば誠実交渉義務なども、労使関係の実情に詳しい人が参加すれば有用であると理論上言えるという点は先ほども申し上げたとおりなのですが、その有用性と、それによってもたらされるデメリットの問題はまた別で、特に集団紛争の場合、もしかしたらそれもあり得るのかなという感じもしますが、そこは、もしそういう制度を導入するとすれば、手続の利用の要件あるいは関与の程度をどうするかなど、次回の検討対象になるのかもしれませんので、それらの論点との関連で議論することになるのかなと思います。
○山口委員 確かに区別できればした方がいいと思うのですが、当事者の主張立証は当初の段階から一義的に決まっているわけではないので、それぞれの主張の追加があったり、その関係で労働組合法の問題が出てきたりする場合もありますし、組合が訴訟に参加する場合もありますので、そういう場合をどう考えるかという問題もあると思いますので、具体的なケースを考えていくと、仕切るのはそう簡単ではないかなという感じがします。
○鵜飼委員 ただ、全体としてはレアケースですね。今の司法統計からいってもこういうケースは非常に少ないですね。圧倒的多数は、形式上は個別紛争です。
○山口委員 それはいいのですが、制度をつくる場合に圧倒的多数だからレアケースはどうするかということは置いておいてというわけにはいかないのではないでしょうか。
○鵜飼委員 それは工夫したらいいと思います。
○髙木委員 最近の労働組合は「歌を忘れたカナリア」と言われているから、そういう事件は余り起きないかもしれない。
○菅野座長 今日は4にも入りたいとも思ったのですが、1、2、3(1)の議論をよくしていただきましたので、時間がきてしまって、4は次回に回さざるを得ないと思います。ほかに、1から3(1)まで。
○山川委員 先ほど時間の関係で言えなかったのですが、判断において経験則を書く書かないということについて、現実に一般条項の適用などをするときには書いた方が望ましいのではないかと思います。経験則といいますか、一般条項の適用に当たって主要事実や合理性を基礎づける事実について、本件ではこの意味でこの事実が重要であるということは、むしろ書いた方が、当事者にとっての納得性という点、あるいは争点整理でもそれらがある程度出てきてから判断するのが望ましいという点で、どこまで書くかは確かに難しいところですけれども、基本的には透明性を増すために何らかの形で示す方が望ましいのではないかと思います。具体的にどうするかまではよくわかりませんが、直感的にそう思いました。
○山口委員 1点だけ確認しておきたいのですが、今いろいろお話がありましたけれども、特に労働側あるいは使用者側にお聞きしたいのですが、入れる専門家としては、それぞれ労使の代表者を中立的な立場で入れるということで、4以下についても議論していくという理解でよろしいでしょうか。そこはどうでしょうか。
○菅野座長 その点は議論したくて入れなかった点ですね。それも含めて次回にいたしたいと思います。最初にも申し上げましたが、どういう人たちをどういう形で関与させるのかという中でそういう点が問題になると思います。
次回は3(2)の供給源と4、5、それと今回の議論で突っ込み足りなかった点を議論していただくということで、次回は大分盛りだくさんの検討の論点がありますが、何とかまた工夫してみたいと思います。
3(2)の検討の進め方について若干お諮りしたいのですが、専門家の供給源、員数等に関しては、労働調停も含めて、その主な供給源になると考えられる労使の関係者、あるいはさらにもう少し広げるなら広げるイメージ、そしてその確保の方法、見通し、あるいはそういうことを検討する方法や検討の進め方それ自体等についてのお考えを、特に御関係というとおかしいのですが、皆様にお考えいただいて議論いただきたいのですが、特に私の方から髙木委員、矢野委員、石嵜委員、鵜飼委員あたりにお伺いできないかと考えておりますので、その点をお含みおきいただいて準備していただければと思います。そういうことをお願いしてよろしいでしょうか。
それでは、そういうことで次回は残った点について議論したいと思います。
最後に、事務局から次回の日程等をお願いします。
○齊藤参事官 次回(第14回)は2月5日(水)午前10時から12時半を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。
○菅野座長 それでは本日の会議はこれで終わります。どうもありがとうございました。