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労働検討会(第14回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年2月5日(水) 10:00~12:30

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委員)菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、春日偉知郎、後藤博、髙木剛、村中孝史、矢野弘典、山川隆一、山口幸雄(敬称略)
(事務局)松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、松永邦男参事官、齊藤友嘉参事官、川畑正文参事官補佐

4 議題
(1) 論点項目についての検討
 ・ 雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否について②
(2) その他

5 配布資料
資料74労働関係事件への総合的な対応強化に係る検討すべき論点項目(中間的な整理)[再配布]
資料75民事訴訟制度の概要について[一部再配布]
資料76諸外国の労働紛争処理制度の概要[再配布]
資料77雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否等についての主要な論点[再配布]
資料78雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否等についての検討資料[再配布]
資料79髙木剛委員提出資料
資料80矢野弘典委員提出資料

6 議事

(1) 論点項目についての検討

 労働関係事件への総合的な対応強化に係る検討すべき論点項目(中間的な整理)(資料74)中の「3 雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否について」の部分について、次のような議論がなされた。(○:委員)

ア 専門家の供給源、員数等(資料77-3(2))
 はじめに、髙木委員、鵜飼委員、矢野委員及び石嵜委員から意見が述べられた。
 髙木委員からは、資料79に基づいて、労働関係事件の裁判に関与する専門家の在り方について意見が述べられた(要旨は資料79-1~4頁参照)。
 鵜飼委員からは、企業外の紛争処理機関に持ち込まれた労使紛争にも労使が責任を持つことによって労使自治を進めていくことが、法の支配を浸透させる在り方として重要であること、日弁連としても専門家に対する研修体制の整備に努めていきたいこと、労使の経験則を裁判に生かしていくことが重要であることといった意見が述べられた。
 矢野委員からは、資料80に基づいて、経営法曹会議司法制度改革検討会の結論として参審・参与制に反対である旨の意見が述べられるとともに、民事調停や裁判に関与する人材の使用者側における供給源としては、企業での人事労務担当者や各地の経営者協会の役職員で一定の経験を積んだ者、労働委員会委員の経験者等が考えられること、専門家の選任については、使用者団体の推薦を尊重しつつ、裁判所が中立公正な立場から行うことが適当であること、具体的に用意することが可能な員数の算定は困難であるが、労働調停の民事調停委員や専門委員になり得る人材は相当数用意できると思われるが、参審・参与制を導入して裁判官と同等の立場で関与し得るレベルの人材は極めて少ない員数しか用意できないと思われること、人材の供給源と関与の程度・頻度等の制度設計の在り方は不可分の論点であって並行して議論する必要があること、一部の企業に問うたところ、企業から専門家を出すのであれば、月1日程度の関与で1企業につき1名程度が考えられるが、実際に人材を出せるか否かは分からないとの意見があったこと、労働調停を含めてADRが充実するとともに、裁判で専門委員が活用されれば、労働関係紛争の解決の場は十分に確保されることといった意見が述べられた。
 石嵜委員からは、専門家の供給源の問題は裁判への関与の態様・場面の在り方と密接不可分であり、労働調停の場合とは異なると考えられること、労働関係紛争において使用者側の代理人を務め、使用者側から労務相談を受けている弁護士の集団である経営法曹会議を専門家の供給源と考えた場合には、その現在のメンバー数が400人程度であって、かつ、メンバーの多くが大都市圏に集中していることから、全国的な規模で供給源となることは困難であること、その上、労働関係事件を専門的に扱って素養のある者はさらに数十人程度に絞られ、しかもそのような者が関与する場合には忌避を申し立てられる可能性が高いこと、経営法曹会議としては、裁判は裁判官の職責であるとともに、裁判における主張・立証は当事者側の責任であるから、労使が参審・参与制で裁判に関与することは反対であること、したがって、そのような状況下で制度設計をしても信頼を得られる中立公平な制度となり得るか疑問であること、しかし、労働調停への関与であれば、知識やコミュニケーション能力の面で十分機能し得ると考えられること、まずは労使が中立な立場で労働調停に関与して信頼を得た上で、将来的な課題として参審・参与制を検討すべきであること、専門委員として労使が関与する場合には争点整理や和解の場での活用が考えられることといった意見が述べられた。
 その後、これらの意見を踏まえて次のような議論がなされた。

○ 労働者側の専門家としてOBを活用する場合のイメージはどのようなものか。

○ OBについては、概ね60歳前後で退職後、65歳~68歳程度までは活動してくれるのではないか。
 また、現役の労働者、組合専従者等の場合には、本務との整理が必要となるとともに、処遇の問題もあるので、OBの方が活用しやすいのではないか。

○ 労働組合では、法令等に関して現在何らかの研修を行っているのか。

○ 労働法については、労働組合での職務上の必要性から、実務や研修を通じて身に付けていると考えられる。労働判例については、体系的に学習しているわけではないと思うが、自らが扱っている事件に関連して学習していると考えられる。また、倒産法制について、弁護士と一緒になって専門的に担当している者もいる。訴訟法については、司法試験レベルとなると困難であり、基礎から学ぶ必要があると思うが、ヨーロッパ諸国の労働参審制においてどのような研修が実施されているかを踏まえて検討することが必要である。

○ 資料79では、訴訟事件への関与について1.5日間という想定がなされているが、労働者側としては、訴訟のどの過程に専門家が関与するイメージか。

○ その点について詰めた議論をしているわけではないが、裁判官や裁判所書記官に委ねるべき場面もあろうが、基本的には裁判官が関与する部分にはともに加わりたいというイメージである。

○ 資料80に関しては、「勘」「感覚」という点に誤解がある。単なる主観的な山勘ではなく、経験則ということであり、裁判官も事件の「筋」「座り」等の表現を用いている。全ての経験則を裁判官が身に付けることには限界があるとともに、雇用社会が大きく変動しつつある中で、労使の有する経験則をどう活用するかを議論することが重要である。

○ 専門家の供給源を考えるに当たっては、専門家となる者の負担に留意する必要がある。現在、民事調停でも、3回程度の期日を見込んでいても、通常4,5回の期日を要しており、相当な負担である。その点を考慮して、どこまで関与させるべきか検討する必要がある。

○ 労働組合の関係者で、現に中立的な立場で紛争解決に携わっている者はどのくらいいるのか。

○ 労使紛争の解決を図る際には、企業内の秩序形成の観点からも中立公平性が要求されるのであり、労働組合も、単に労働者側に立つということではなく、労使いずれの言い分に理があるかを考えるのである。

イ 専門家を活用する場合の関与の場面等(資料77-4)

○ 労使関係の経験者による裁判への関与を考えるのであれば、事実認定や事実の評価(差別意思の有無、整理解雇に際しての企業の合理化等の必要性の程度、企業経営上の人事異動の必要性の程度等)の点で能力の発揮を期待できるのではないか。判断にまで関与するか否かはともかく、判決の前段階での関与は効果があるのではないか。
 この他、企業年金の年金数理、労働時間の計算、安全衛生等の特殊な専門性については、医事関係訴訟等の場合と同様の専門家の関与が考えられるが、この場合には、専門家から意見を聴く程度の関与でよいのではないか。
 このように、専門家の関与といっても、大きく2つの場合があるのではないか。

○ 専門家として関与する者の負担の観点も考えると、訴えが提起された事件について、訴状や答弁書等を見た上で、①法令の当てはめで解決されるような単純な事件、②解雇等一般条項の価値判断が必要となるような事件、③技術的な専門性が必要とされる事件の仕分けを行い、②や③には専門家を関与させることが適当である。

○ 裁判への専門家の関与に関しては、他の裁判官の意見を聴いてみたところも踏まえると、次のようなことになろう。なお、民事訴訟では争点整理の後に集中証拠調べが行われるのが原則であるが、労働関係事件では集中証拠調べを行いにくいという事情がある。
 まず、進行協議の場面については、裁判所と当事者の内部的な打合せであり、それほど使われていないことから、専門家の関与を想定する必要はないのではないかとの意見があった。
 また、争点整理の場面については、時間外労働の割増賃金の複雑な計算等について社会保険労務士や行政機関OB等の特殊な技術的な専門家の関与は十分あり得るのではないか、その場合、専門部・集中部のない地方の裁判所における関与が有益ではないかとの意見があった。労使関係者が関与することについては、当事者が争点を絞っていく際に、専門家が別の争点を指摘する等してかえって争点が拡大・拡散する可能性があるなど、専門家の考え方が当事者の考え方と異なる場合に問題が生じるのではないかとの意見があった。
 証拠調べの場面については、当事者による主張・立証が基本なので、専門家の関与の必要性は疑問である、労使関係者が発問することとなった場合、その内容によって結論が左右され、当事者が主張・立証したことと異なる判断がなされる可能性があるが、当事者の納得を得ることは難しいのではないかとの意見があった。
 和解の場面については、①例えば、専門家である労使関係者が大企業や大労組の出身者の場合、中小企業や中小労組の事件では、専門家が当事者を十分説得できないのではないか、専門家の心証と裁判官の心証が分かれた場合における和解の進め方が難しいとの意見と、②労使関係者がそれぞれの経験を踏まえて当事者双方を説得してくれることが期待され、①のような問題点が解消されれば、和解での関与はあり得るが、その場合でも、和解手続に一定の期間を区切る等しないと長期化する可能性があるのではないかとの意見があった。
 判断の場面では、労働関係事件では事案の判断が難しい事件が多いので、専門家と裁判官で判断が2:1に分かれた場合にはどうすべきか、検証できない形で経験則が導入されると説得力のある判決を書けない可能性があるのではないか、多数の争点がある事件で各争点の判断が分かれた場合には判決が書けるのだろうかとの意見があった。
 この他、専門家の関与に関して透明性を確保する観点から、専門家の意見は当事者双方が立ち会う場で聴くとともに、書面の場合には当事者双方が見られるようにすることが必要であるとの意見があった。
 専門家の関与に関する当事者の意向の反映については、専門家が関与すべき事件を類型化して、一定の類型の事件には関与すべきこととすることは、争点が変更されることもあることから困難ではないか、当事者の反対を押し切って専門家を関与させれば手続が円滑に進まなくなるので、当事者の同意を必要とすべきではないかとの意見があった。

○ 関与する専門家の負担にかんがみると、専門家が関与することが最も有効となる場面を考え、場合によっては、一定の手続は裁判所に委ねるといった調整もあり得るのではないか。他方、裁判の迅速化、アクセスの向上、証拠の偏在への対応等の要請もあり、裁判制度も構造的に変化していく面があるのではないか。
 専門家の関与に関する当事者の意向の反映については、刑事事件の裁判員制度の議論と同様に、例えば、当事者の意向にかかわらず、解雇事件等一定の事件については原則として専門家を関与させるといったように、専門家が関与すべき事件類型の仕分けを行うことの要否についても議論する必要があるのではないか。

○ 専門委員との相違点を考えた場合、意見陳述の内容をブレークダウンする必要があるのではないか。個々の証拠に対する意見なのか、全体的な感想なのか等、イメージがつかみにくい。専門家が不意打ち的に新たな争点を出すことは問題だが、当事者による主張・立証の絞り方に問題がある場合があるので、その点で専門家の意見を聞くこともあり得るのではないか。

○ 専門委員制度は「点」としての裁判への関与であり、労働関係事件でも活用の余地はあろうが、むしろ、「線」として専門家の経験則を活用することが参審制の議論の主要な課題である。
 関与する専門家の負担を考えれば、争点整理を行う中でどのような事件類型かが明らかになり、解雇事件等一般条項の解釈が必要な事件については、事件の流れに沿って関与することが必要ではないか。
 裁判官は、ローテーション人事の中で労働関係事件に携わっており、必ずしも十分な専門性を有しているわけではない。例えば、業種や経営環境等を踏まえた人員削減の必要性の有無の判断、解雇回避の努力を尽くしたか否かの判断等の場で、実情に根ざした経験則を取り入れることで、円滑な争点整理が可能となるとともに、労使の均衡点を見出した判断が可能となるのではないか。
 したがって、争点整理、証拠調べ、判断の場面で専門家を活用することが必要である。現状を前提にすればいろいろと心配はあるだろうが、新しい制度を運営していく中で、レベルアップを図れるのではないか。

○ 司法委員では、私が知る限りでは、意見陳述といってもそれほど活用されていないようだ。しかし、労働関係事件では、専門家の関与を鑑定人に近いものとイメージすると、意見陳述の前提として、当事者や証人に対する発問の機会は必要だろう。
 また、手続の透明性を確保する観点から、当事者の同意を得ることによって当事者の意向を反映させることが必要である。

○ 参審制の議論と専門委員制度の議論は全く次元が異なるものである。ここで専門委員制度を参考にすると、議論が明確にならなくなる。導入する専門性の内容が異なるのであり、参審制を導入した場合でも、別に専門委員を活用する場面はあると考えられる。

○ 専門家の活用としては、司法委員や専門委員について議論を深めていくことも考えていきたい。専門委員制度については、労働関係事件でどのように活用できるのか、詰めていく必要がある。

○ 司法委員は、本人訴訟が多く、法曹でない裁判官もいる簡易裁判所において、特に和解で活用されているものである。また、専門委員制度は労働関係事件でも活用し得るが、一般条項の解釈が必要となるような事件の場合には、労使の経験則をどう活用していくかが重要である。
 イギリスでは、ほとんどの事件で、職業裁判官と労使の参審裁判官の意見は一致しているとのことであり、参審制は、我が国でも危惧を上回る効用があるのではないか。また、経験則の内容の検証については、判決の中でできる限り説明を尽くすことで対応すべきではないか。
 現行の制度等は参考にはなろうが、ここでは、全く新しい制度を導入すべきか否かという議論を行うべきである。

○ 専門家が労働法や判例に基づいた意見を適切に開陳できることが前提となるが、それだけの実績がないので心配である。
 また、現状の労働関係事件の審理期間を短縮するとしても、専門家が何回もの期日に出席できるのか、十分な人数を確保できるのかが問題である。全国的な制度として都市部の裁判所以外の裁判所にも専門家を配置することが必要となるので、その兼ね合いを考える必要がある。

○ 裁判制度の改革に当たっては、現状に重大な問題点がないのであれば、新しい制度を導入することについて、説得的な議論はできないのではないか。労働関係事件については、労働調停を含むADRを充実させ、そこにおいて広く専門家を参画させていくという動きがあるのであり、これらによってより多くの紛争が解決できていくだろう。
 現状では、我が国は信頼性の高い裁判制度を持っており、社会の安定の基礎をなしていると考えている。裁判制度に決定的な欠陥がないのであれば、現状を尊重して、足りない部分はADRで補完していくべきではないか。

○ 司法制度改革審議会では、様々な問題のある司法制度の現状を変えていこうということが課題であった。新しいことに挑戦することについては、現状を前提とすれば懸念もあろうが、もう少し多様な観点から議論してほしい。

○ 解雇された労働者にとっては、現状の裁判には相当の不満があると考えられる。企業内の紛争解決能力が低下しつつある中で、裁判所の判断基準が揺れ動いているとともに、審理には長時間かかっていて、結論の見通しが立たないことが多い。したがって、解雇事件を典型例として、現状の裁判でよいのか議論してはどうか。

○ いずれにせよ、使用者側としては、現状の裁判制度を変えることについては疑問が大きいのが実情である。

(2) 次回の日程

 次回(第15回)は、平成15年2月27日(木) 10:00~12:30に開催することとし、労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否についての検討を行うことを予定している。