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労働検討会(第15回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年2月27日(木) 10:00~12:30

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委員)菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、熊谷毅、春日偉知郎、後藤博、髙木剛、矢野弘典、山川隆一、山口幸雄(敬称略)
(事務局)松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、齊藤友嘉参事官、川畑正文参事官補佐

4 議題
(1) 論点項目についての検討
  ・ 労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否について
(2) その他

5 配布資料
資料81労働関係事件への総合的な対応強化に係る検討すべき論点項目(中間的な整理)[再配布]
資料82民事訴訟手続関係資料
資料83法制審議会答申(民事訴訟法の一部を改正する法律案要綱)
資料84裁判の迅速化に関する法律案(仮称)について
資料85労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否等についての主要な論点
資料86労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否等についての検討資料
資料87鵜飼良昭委員提出資料

6 議事

(1) 論点項目についての検討

 労働関係事件への総合的な対応強化に係る検討すべき論点項目(中間的な整理)(資料81)中の「4 労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否について」の部分について、次のような議論がなされた。(□:座長、○:委員)

・ はじめに、鵜飼委員から、資料87に基づいて意見が述べられた。

○ 司法へのアクセスについては、定型訴状があっても自分では記入できない場合があるなど、充分ではない。労働組合にはキャリアの長い専従者がいるので、そうした専従の役職員に労働関係事件に関する訴訟代理等の権能を与え、訴訟を提起する労働者をサポートさせることも考えられるのではないか。
 弁護士報酬の敗訴者負担については、少なくとも労働関係事件に関しては、勝訴するか否かの見通しを付けがたいこと等から、敗訴者負担制度を導入しないこととする必要性が高い。
 労働関係事件のとらえ方については、契約の名目上は請負、委任、準委任等であっても、実際には労務提供を内容としているものもあるので、契約の形式で区切るよりも、その実態を見て判断すべきである。また、争議行為については、労働委員会の救済命令の取消訴訟となると行政事件訴訟の手続が適用されることとなるが、争われている内容は労働関係に他ならないので、これらについても広く労働関係事件に含まれるとの認識で、固有の訴訟手続を考えることが必要である。

○ 使用者側としても、厳しいコスト意識を持っており、労働関係事件が裁判で迅速、適正に解決される必要があるという点に異論はない。
 訴訟手続については、申立てに始まり、訴訟の各段階ごとに個別的な議論をする必要があろう。
 訴訟の申立ての段階での手続の簡易化は、使用者側もいろいろ議論できるが、証拠の偏在への対応については、企業側の対応力の問題がある。
 訴訟の迅速化については、制度面の問題もあろうが、弁護士が訴訟の期日を入れにくいという点も大きな問題である。特に、複数の代理人が付いている場合には、誰か一人でも日程が合えば期日を入れることによって、裁判の期間の短縮を図ることができる。たとえ2年間で裁判を終了させるという目標を定めても、弁護士の日程が入らなければ迅速な処理は困難である。
 迅速な裁判を実現するためには、裁判官と弁護士が、裁判のユーザーの利益のために話し合う場を設けて、計画的に審理を進めること等について議論していく必要がある。

○ 裁判の迅速化を図ることは重要である。また、裁判所の判断内容には信頼を持っているが、裁判の敷居の高さをなくすべきである。
 迅速化については、資料82によると、平成14年は平均審理期間が12か月となり、さらに裁判のスピードアップが図られたのは望ましいことであり、この傾向を一層進めてほしい。ただし、迅速化を理由として、当事者の主張・立証活動を制限し、全ての証拠を提出させようとすることは問題であり、迅速化と適正な手続の兼ね合いが重要である。
 また、アクセスの点については、少額訴訟手続や定型訴状をさらに活用することが適当であり、そのためのPRも重要である。
 労働関係事件の裁判制度について、企業の意見を聞いてみると、労働関係事件について一般の民事事件と異なる制度を設ける必要性については特段強い意見はなかった。訴訟費用の点も含めて、現状でよいのではないか。

○ 判決の内容については、大半の判決は上級審で一審判決が維持されているのであり、上級審で結論が異なってくるのは、それだけ難しい事件だったということであろう。
 審理の迅速化、効率化は図っていくべきである。争点整理手続について言えば、一般的には1~1.5か月に1回のペースで6,7回の期日を費やしている。このような期日の回数や期日間の期間を短縮することで、審理期間の短縮を図れるのではないか。こうした点について、裁判官と弁護士とが充分に協議を行い、互いに議論していけば、改善を図れるのではないか。また、早期に主張すべき事項や早期に提出すべき証拠について一定のルール作りがなされていけば、まだまだ審理の迅速化について改善ができるのではないか。計画審理等を規定した民事訴訟法の改正が予定されているが、これらを活用していくことが必要である。
 なお、労働関係事件固有の訴訟手続を導入する必要性については、民事訴訟法で一般的な手当がなされる予定であること、労働関係事件の範囲を明確に画するのは困難であること(例えば、契約の実態を見て労働関係事件か否かを判断することは実際上困難であるし、訴訟の内容も訴訟手続の進行に伴い変わっていくことがあること等)から、これら全体に対応する形で手続を整備するのは難しいと考えられる。
 地方裁判所への訴えの提起に定型訴状を活用することについては、簡易裁判所と異なり、事件の多くに代理人が付いていること、難しい事件があること等から、その必要性はどの程度あるのか。もちろん、本人訴訟の場合もあるので、裁判所と弁護士等の間で定型訴状について議論していくことは考えられるが、全ての事件を定型訴状で対応できるのかは疑問である。
 仮処分手続については、様々な取扱いがなされているが、各裁判所において一定の運用の仕方を定めているものではない。裁判官の独立という点もあり、現場の裁判官が個々の事件に応じて判断しているのである。また、仮処分の判断と本案訴訟の判断が異なることはあり得るが、このことは他の分野の事件でも同様である。むしろ、仮処分について指摘されている論点については、現状の本案訴訟の審理期間を短縮することにより対応することが必要ではないか。

○ 労働関係事件の特色にかんがみ、裁判所、労使で計画審理等について十分に協議を行っていくことは有益である。救済命令の取消訴訟については、労働委員会も交えるとよいのではないか。このような協議の場で、例えば、多数の関係者の証人尋問等が必要とされる差別事件等の立証計画をどう定めるべきか、争点が多岐にわたる事件や一般条項の判断が必要となる事件の立証事項や尋問事項をどうするか等について、原則的なルールを決めていくことはあり得るのではないか。

○ 日弁連では裁判所との協議の場を設けたいと思っている。弁護士側では全国的なより大きな論点について議論したいと考えているが、未だ協議事項や参加者について裁判所側と考え方に相違がある。

○ 実務の運用面については各地方裁判所と対応する弁護士会とで議論することが基本であると考えているが、裁判所としても弁護士との協議会を立ち上げて運用改善に努力していくことが重要であると考えている。

□ 裁判官と弁護士の間で実務的な協議を行うことは有意義であり、協議の場が設けられることを期待したい。関係者の努力をよろしくお願いするとともに、検討成果がまとまれば、当検討会でも紹介してほしい。

○ 運用の改善も重要ではあるが、労使で労働関係事件の裁判についての認識が異なっており、単なる運用改善の議論に止めるのは適当ではない。

□ 実務に関する協議の場の立ち上げをお願いしたいという趣旨であり、もちろん制度面の検討は当検討会で行うものである。

○ 証拠の収集に関して、労働関係事件ではいわゆる自己使用文書についても提出義務を認めるべきとすることは、労働関係事件の範囲の定義が難しく、困難ではないか。また、立証責任の転換を図ることは実体法上の問題であろう。
 証拠資料の事前開示については、民事訴訟法の改正で導入が予定されている提訴予告通知制度等の活用が考えられる。
 賃金台帳や出勤簿等は資料として出しても概ね不都合のない文書だろう。こうした文書については、裁判所が関与するよりも、当事者照会制度等を利用して当事者間や代理人間で事前に開示しておくことが必要ではないか。裁判所が関与することとなると、当事者双方の日程を調整しなければならないなど手続が煩雑となる。
 このように考えてくると、文書の事前開示の在り方等について運用上の協議を行うことが必要である。そうすれば、全体の審理期間の短縮にも寄与するのではないか。

○ 運用に委ねるだけでは実施しにくいところがあるので、何らかの形で特則をルール化をする必要がある。また、裁判の迅速化法案では一審の手続を2年以内に終了させることを目指しているが、労働関係事件については、1年以内での終局を目標とすべきであるし、原則として審理計画を定めることとすべきである。

・ 鵜飼委員から、資料87に基づいて、さらに意見が述べられた。

○ 運用面での訴訟の改善がかなり有効なのであれば、法制上の特則までは不要かもしれない。裁判官と弁護士で協議を行う場合には、訴訟の初期の段階での使用者側による解雇理由や証拠の開示の在り方、労働者側による反論の提出の在り方等、現状の改善につながる具体的な運用のガイドラインを議論し、特則の要否を考えてもらいたい。

○ 訴訟の運用上のガイドラインについてであれば議論は可能だが、例えば第1回口頭弁論期日までに主張や証拠の提出を義務づけられるのであれば、特に中小零細企業の場合には対応は困難である。大企業だけを念頭に置いて議論することは避けるべきである。現実の実態を踏まえて運用上対応することについては検討の余地があろうが、一律に制度化することには反対である。

○ 多くの労働者が裁判を利用できないでいることを理解してほしい。第1回口頭弁論期日までに解雇理由を提出することは、それほど過大な要求ではないと考えられる。企業が経営判断として解雇を行うのであれば、その理由を明らかにすることが社会的な責任であろう。訴訟において解雇理由が後出しされるから審理が空転するのであり、労使が互いに努力することが必要である。
 文書送付の嘱託は時間がかかるとともに、文書提出命令は使い勝手が悪い。文書提出命令が争われ抗告される等すると時間がかかってしまうので、裁判所が訴訟指揮により証拠の提出を求めることが必要である。

○ 簡易訴状の活用等によって裁判の間口を広げることには反対していない。しかし、第1回期日を過ぎたら原則としてそれ以降主張を出すことができないこととして、使用者側に全面的にリスクを負わせられることには反対である。訴訟の場では様々な観点からの事実が追加的に提出されてくるのであり、例えば、解雇訴訟では、様々な具体的事実を見ないと判断できない。企業規模その他の現実を踏まえると1回だけで切り捨てることは承伏できない。

○ 現場での協議を通じて改善できることはかなりあるだろう。早期に提出できる主張や定型的な証拠は早く出すようにするとともに、どこまで主張や証拠の追加を認めるのかといった点の大まかなイメージについて、共通認識を形成していけば、他の事件の審理の進め方にも浸透していくので、まずは労使相互の認識の共通化を図っていかなければならない。現場の裁判官や代理人の努力が必要である。

○ 実務について議論の場を設けることは必要である。また、きちっとした訴訟手続のルールを作ることで解雇を慎重に行うようになるとともに、解雇の理由を明らかにさせることで企業内のルール形成にも役立つこととなる。

○ 労使の本音を率直に話し合う場を設けることが必要である。

○ 労働関係事件の内容としては、最近は外資系企業を中心に、降格を巡る紛争があるので、これも含める方向で考えるべきである。また、過労自殺等の安全配慮義務違反に関する裁判が東京地裁では労働部で扱われていないことも適当ではないと考える。労働争議は、労使の対等を前提とする集団的な紛争であり、個別的な労働関係事件についてと同様の扱いが適切か否かについては議論があろう。

○ その他、労働関係事件の内容としては、主に調停になじむ紛争として、使用者側が労働条件の不利益変更を申し立てることも念頭に置いておくべきではないか。

○ 労働災害に関する事件は、損害額の算定が必要となる関係もあり、従来の経緯から、東京地裁では交通部で担当している。

○ 弁護士報酬の敗訴者負担制度については、負担すべき額がいくらになるのかの見込みが立たず、ほとんどの事件で訴えを提起する側となる労働者にとって、訴訟へのアクセスを著しく阻害することとなるので、労働関係事件には導入すべきでない。

○ 争議行為については、個別的紛争とは異なるが、労働協約の平和条項違反等の問題があり、紛争の内容としては労働関係事件ではないか。
 ところで、民事法律扶助は、労働関係事件ではどのくらい利用されているのか。

○ 利用はされているが、自己破産事件等が中心であり、労働関係事件の割合は非常に少ないと記憶している。

○ 弁護士報酬の敗訴者負担制度については、合理的で予測可能な額を負担させるのであれば、労働関係事件のみ例外的な扱いとする必要性はないのではないか。
 我が国の労働関係事件の訴訟件数は欧米に比べて少ないと言うが、それは紛争の自己解決能力が欧米に比べればまだ高いのだと見ることもできるのではないか。果たして欧米のような訴訟社会になっていくことがよいのかという疑問がある。
 紛争を抱える者が泣き寝入りしてしまうようなことはなくさなければならないので、裁判へのアクセスを考える必要はあるが、労働関係事件を一般の民事事件とは別に扱う必要があるのだろうか。

○ 労働関係事件を例外として扱うというよりも、労働関係事件は結論の見通しが困難であるので、敗訴者負担制度は導入すべきではないということである。

○ 労働関係事件の訴訟費用それ自体の在り方についても議論が必要だと考えられる。

(2) 次回の日程

 次回(第16回)は、平成15年3月7日(金) 14:00~17:00に開催することとし、労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方についての検討を行うことを予定している。