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労働検討会(第15回)議事録



1 日時
平成15年2月27日(木) 10:00~12:30

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、春日偉知郎、熊谷毅、後藤博、髙木剛、矢野弘典、山川隆一、山口幸雄(敬称略)
(事務局)
松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、松永邦男参事官、齊藤友嘉参事官、川畑正文参事官補佐

4 議題
(1) 論点項目についての検討
・ 労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否について
(2) その他

5 議事

○菅野座長 定刻になりましたので、ただいまから第15回労働検討会を開会いたします。
 本日はお忙しいところ御出席いただきましてありがとうございます。
 まず、本日の配布資料の確認をお願いいたします。

○齊藤参事官 資料81は、「労働関係事件への総合的な対応強化に係る検討すべき論点項目(中間的な整理)」でございます。再配布させていただいております。
 資料82は、民事訴訟手続関係の参考資料でございます。
 資料83は、「法制審議会答申(民事訴訟法の一部を改正する法律案要綱)」でございます。
 資料84は、「裁判の迅速化に関する法律案(仮称)」でございます。
 資料85は、「労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否等についての主要な論点」、1枚物でございます。
 資料86は、「労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否等についての検討資料」でございます。
 資料87は、鵜飼委員提出資料でございます。レジュメと「労使紛争解決システムの拡充に向けて」と題するペーパー、「労働訴訟手続の特則の試案」と題するペーパーの3点が含まれております。以上です。

○菅野座長 それでは本日の議題に入ります。本日は資料81の中間的な論点整理における「4 労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否について」の主要な論点について一巡目の検討をしていただきまして、おおよその基本的な方向性を探っていただきたいと思います。
 検討のための参考資料として、これまでと同様に事務局において、検討上特にポイントになると考えられる主要な論点をまとめたものが資料85であります。それと、中間的な論点整理に関して関連条文や関連事項を整理した資料料86など、幾つかの資料を用意していただきましたので、これらをもとにしながら十分に御検討いただきたいと思います。
 まず、事務局から資料の説明をお願いいたします。

○齊藤参事官 それでは、本日の配布資料のうち主なものにつきまして御説明申し上げます。
 まず資料82の民事訴訟手続関係資料ですが、初めにつけておりますのは、民事訴訟手続のおおよその流れを示したフローチャート図でございますので、御参照ください。
 その次は労働関係民事事件の概況としまして、全国の地裁における通常訴訟事件及び仮処分事件の件数、平均審理期間を示したものでございます。通常訴訟事件につきましては、平成14年のデータも追加しておりますので、御参照ください。
 その後ろにつけてございますのは、現在用いられております労働関係事件に係る簡易裁判所用の訴状の定型様式でございます。
 それから、少額訴訟手続の実情等に関する参考資料、文献でございますが、これもおつけしてございますので、御参照ください。
 次に資料83の法制審議会答申ですが、去る2月5日の法制審議会におきまして計画審理、証拠収集等の手続の拡充、専門委員制度等に関する民事訴訟法の一部を改正する法律案要綱の答申が出されましたので、お配りしてございます。改正法案は今国会に提出予定でございます。後ほど法務省の担当者より概要を御説明いただくことになっております。
 続きまして資料84、裁判の迅速化に関する法律案でございますが、この法律案は昨年7月の当推進本部顧問会議における顧問アピール等を踏まえまして、第一審の訴訟手続を2年以内のできるだけ短い期間に終局させることなどを目標として、迅速化の担い手の責務、迅速化に関する検証等に関する規定を定めることとしておりまして、今国会に法案を提出予定でございます。
 続きまして資料85は労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否についての主要な論点でございます。一巡目の段階の御検討といたしましては、特にこれらの点を中心に基本的な方向性を御議論いただければと考えております。この資料では大きく4点ほどを挙げさせていただいておりますが、既に一定程度御議論いただいている点もありますけれども、さらに議論を深めていただきたいと存じます。
 最後に、資料86の労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否等についての検討資料でございますが、これは検討の参考として関係条文や関連事項を事務局の方で整理させていただいたものでございます。適宜御参照いただきたいと存じます。以上でございます。

○菅野座長 ただいま事務局からお話がありました民事訴訟法改正に関する法制審議会の答申につきましては、法務省民事局の武智局付においでいただいております。専門委員制度については前々回に御説明いただきましたので、本日は特に「計画審理」と「証拠収集等の手続の拡充」の点を中心に御説明をお願いいたします。

○武智法務省民事局付 ただいま御紹介いただきましたように、先日、民事訴訟法の一部を改正する法律案要綱が法制審議会で決定されまして現在、その要綱に基づいて作業を行っているところでございますので、要綱の概要について簡単に御説明させていただこうと思います。
 お手元の資料83をごらんいただければと思いますが、1枚の概要紙とその下に要綱そのものをおつけしてございます。時間の関係がございますので、1枚紙に基づいて簡単に御説明させていただきます。
 まず、見直しの目的でございますが、これは皆様方御承知のとおり、一昨年の司法制度改革審議会の意見を踏まえまして、その意見の中で提言されている項目について具体化するための検討を進めているものでございます。大きく分けますと5項目ございまして、労働関係ですと、先ほど座長から御紹介ございましたとおり、計画審理の推進の関係と証拠収集手段の拡充の点、この2点が一番関連があろうかと思います。
 まず1点目の計画審理の推進という点でございますが、これは労働関係の事件でもそういう事件はあろうかと思いますが、当事者が多数であって争点が錯綜しているような事件につきましては、訴訟手続はなかなか計画的に進んでいかないという実情があるようですすので、資料にも書いてありますとおり、裁判所がそういういわゆる複雑な事件につきまして、当事者双方と協議をして審理の計画を定めなければいけない。これが大きな改正の内容でございます。
 具体的に審理の計画でどういうことを定めるのかという点でございますが、これはお手元の資料82の民事訴訟手続の流れの概要紙をごらんいただくとわかりやすいかと思うのですが、訴訟手続を大きく分けますと、争点整理手続、証拠調べ手続という流れを経て審理を行っていくわけでございます。そういう訴訟手続の大まかな流れを踏まえまして、審理の計画にはまず争点及び証拠の整理に要すべき期間と、もう一つは人証調べに要すべき期間、それと手続の流れでいきますと、その後に口頭弁論の終結になるわけですが、口頭弁論の終結の予定時期、判決の言渡しの予定時期、こういう項目を必要的な記載事項として定めなければいけないということを考えております。
 また、審理の計画を定めましても、これは審理の初期段階で定めることになりますので、その後の審理の状況に応じて変更が必要になってまいります。そのための変更の手続も、同じように審理の計画を定めるときと同様に当事者双方との協議の結果を踏まえて審理の計画を変更していくという手続を設けることにしてございます。
 続きまして、証拠収集手段の拡充という点でございますが、今申し上げましたような計画審理をすることになりますと、審理の初期の段階で審理の見通しがある程度立てられないといけないという事情がございますので、当事者双方の間で提訴前にどういう準備をするかが非常に重要になってまいります。そういう観点から、当事者の方で充実した準備をすることができるようにという観点で幾つかの証拠収集の手段を拡充しております。
 概要紙には、「必要な証拠や情報を入手することができるようにするため」とお書きしているのですが、具体的には裁判所を通じて文書を取り寄せることができるような手続ですとか、あるいは訴え提起後ですと当事者照会という当事者間で情報のやりとりをすることができる手続がございますが、それと同様の手続を訴え提起前に設けることを考えております。ただ、訴え提起前でございますので、濫用防止措置という観点から期間制限を設けたり、あるいはそこでやりとりできる情報については訴え提起後よりもかなり限定的なものに絞っております。
 3番目の専門委員制度につきましては、先ほど座長からも御紹介いただきましたとおり、前回御説明したものと全く同じ内容でございますので、ここは省略させていただきます。
 次が特許権の専属管轄化の問題ですが、これは知財関係の対応強化という点でございますので省略させていただきまして、最後が簡易裁判所の機能の充実という点でございます。少額訴訟は賃金の不払い等の事件で労働関係でも利用されているようでございますが、少額訴訟の利用限度額を現在30万円までの事件と限定されているのですが、これは非常に利用しやすいということで高い評価をちょうだいしておりますので、60万円まで引き上げて利用範囲を拡充するものでございます。
 非常に大雑把な説明で恐縮ですが、概要はただいま申し上げたとおりでございます。

○菅野座長 ありがとうございました。何か特段の御質問がありましたらお願いいたします。

○髙木委員 証拠の収集手段の拡充について、現在がこうで、それが今回の拡充措置をとられることによって、計画審理やら何やらを含めてどのぐらい有効性を予想し得るかというか、現行と改定後、こうなればこういうところが従来よりは証拠の収集、情報開示も含めてよくなるのだということを、ちょっと整理して教えてほしいのですが。

○齊藤参事官 準備させていただきたいと思います。

○菅野座長 ほかにいかがでしょうか。

○石嵜委員 こういうふうに計画的に審理期間を決めるということは、極端なことを言えば、2年間分の日程を弁護士の日程も一緒にとってしまうと考えてよろしいですか。

○武智法務省民事局付 具体的な期日をどこまで入れられるかという問題はあるのですけれども、基本的には今申し上げましたとおり、審理の初期段階ですので、将来どういう事実が問題になるかは、ある意味不確定な部分がございますので、争点整理はこのぐらい、人証調べはその後このぐらいというような大まかな目標はまず決めないといけませんが、細目的に期日を具体的にどこまで指定してどういう形でやるかは、個々の事件に応じて、また当事者双方と裁判所の間で協議して決めていくことになるのではないかと思います。

○菅野座長 よろしいですか。
 それではどうもありがとうございました。
 それでは本論に入りたいと思います。今日の議題は、資料85をごらんいただきたいのですが、「労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否等についての主要な論点」、先ほど事務局から説明がありましたが、1は「労働関係事件の性質と訴訟手続のあり方」、いわば今日の論点の総論的なものであります。これは中間論点の1の総論部分である程度議論していただいておりますが、今回は労働関係事件に係る裁判制度の具体的なあり方という観点から、現行の労働関係事件に係る民事調停手続の現状と評価、どういう問題点があって、その原因は何なのか、その対応の方策等について議論していただきたいと思います。
 また、前回までの中間的論点の3の専門家の関与する裁判制度という検討項目と共通している点ですが、労働関係事件の範囲をもう一度考えていただきまして、特に集団的紛争も含めるのか、あるいは個別的紛争としてはどういう紛争を念頭に置いて考えていくのかという点も検討していただければと思います。
 2の「労働関係事件に係る民事裁判の充実、迅速化」の(1)は審理期間の短縮ですが、労働関係事件の処理については迅速性の確保が非常に重要であることは申すまでもありません。そこで労働関係事件について目標とすべき審理期間をどう考えるか、その期間での審理が裁判所や当事者、代理人それぞれについて実際的に可能なのか、あるいは可能とするための実務運用上の工夫・努力、制度上の対応の要否等について具体的な議論をお願いしたいと思います。
 計画審理も、民事訴訟全般についてただいま御説明のように進められようとしておりますが、労働関係事件について迅速で合理的な審理に資する計画審理のあり方、進め方、当事者、代理人の協力の確保の仕方について、実務運用上の工夫・努力、制度上の対応の要否等について具体的に御検討いただきたいと思います。
 証拠の収集は、これまで証拠の偏在という観点から総論部分で問題提起がありました。これも現行法の証拠収集手段の使い勝手、今般の民事訴訟法改正により導入予定の証拠収集手段の活用の見込みという点を踏まえて、実務運用上の工夫や制度上の対応の要否等について御検討いただきたいと思います。
 3の「労働関係事件に係る民事裁判へのアクセス」では、まず簡便な定型の訴状の活用とあります。現在簡易裁判所用に一定の定型訴状様式がつくられ利用されていますが、それらの使い勝手や、一般の訴状のあり方、書き方、使い勝手等を踏まえて、労働関係事件について訴え提起のあり方について、実務運用上の工夫・努力、制度上の対応の要否等について具体的に御議論いただきたいと思います。
 訴訟費用のあり方等は、訴訟費用のあり方について利用者の利便性の観点や国民負担の観点を踏まえて幅広く御議論いただきたいと思います。
 その他のところでは、労働関係事件について活用されているその他の手続としての少額訴訟手続や仮処分手続等について、現状を踏まえて運用面での対応、制度面での対応のあり方について具体的な議論をお願いしたいと思います。
 そういう点について、どなたからでも、どの点からでも結構ですので口火を切っていただきたいと思います。

○鵜飼委員 労働側でこういう手続の必要性をずっと言い続けてきたものですから、初めに口火を切らせていただきたいと思います。お手元に資料87、簡単なレジュメを用意させていただきました。資料としては自治労全国労政・地労委連絡会、これは主として労政事務所の相談窓口を担当している人たちを中心とする組織ですが、そこでのアンケート調査、「労使関係紛争システムの拡充に向けて」という資料です。それと、日本労働弁護団の労働裁判改革検討委員会の「労働訴訟手続の試案」もあります。これを御参照いただきながら、私のレジュメに沿って意見を述べさせていただきたいと思っております。
 労働裁判の現状に対しては、労使でかなり温度差がございます。経営側は概して現状に肯定的ですが、労働側は長い間、今の労働裁判がもう少しよくならないかという思いを持ってきました。非常に強い現状の改革の願望があります。それはどうしてかというと、それぞれの立場の違いがあるのだろうと思います。例えば迅速性1つにしましても、ヒアリングでは、八代弁護士は日本企業は迅速性を余り必要とせずとおっしゃっていますし、角山先生は一審判決は1年か1年半ぐらいが望ましいとおっしゃっています。これも労働側からするとかなり長過ぎるわけです。迅速性1つにしてもかなり温度差があります。
 それはなぜかというと、労働紛争の構造の特徴に起因するのではないかと思うわけです。例えば知財訴訟について見ますと、知財検討会では経済界からは現状の裁判手続に関するかなり強い改革の声が挙がっておりまして、議論の状況を見ますと、迅速性、集中審理、計画審理、さらにディスカバリーを含めた抜本的な改革の声が挙がっている。これも経済界から強いニーズがあることがうかがえます。
 労働裁判につきましては、実は労働側から改革のニーズがあることをまず御理解いただきたい。労働紛争の構造としては、まず労働法が労使の非対等性や労働者の従属性というところから発展してきたということがありますし、それをベースとした労働紛争についてもそういう特徴があるのですが、その特徴に基づいて各国では労働裁判所や特別な訴訟手続がつくられています。
 単に労働法の特徴ではなく、労働紛争の構造的な特徴について、わかりやすいという意味で借地借家紛争との異同についてお話しさせていただきたいと思います。どちらも継続的な契約関係でありまして、借地借家紛争は居住、場合によっては店舗等の事業という問題にかかわる分野でありますし、労働契約はまさに雇用・賃金にかかわる分野です。これはいずれも人間生活、社会の基盤にかかわる分野であります。したがって、どちらも社会政策的な配慮が必要になるという点では共通しているわけです。
 借家借地法の中では更新拒絶の場合は正当な事由であるとか背信性等が問題になるわけで、これは労働紛争においても同じような問題が出てくるということがあります。ただ、紛争の場面では両者は大きく異なるわけでありまして、ここがポイントだろうと思います。主として借家借地紛争では訴追側は賃貸人といいましょうか、追い出す側ということになります。労働紛争では99%が労働者側になります。要するに訴え提起しなければ始まらないという問題がありまして、その99%は労働者が訴追せざるを得ないところです。
 次のbは、一方で借家借地法では居住なり事業は一応確保されます。紛争係属中は確保されるわけですが、労働紛争では雇用とか賃金の切下げ等の問題については断絶された状況の中で確保されないで裁判を維持しなければいけない。訴追側の負担が非常に重いということがあります。要するに生活の基盤が失われた状況で訴訟を遂行するということがあります。
 そしてもう一つは、解雇等の時期・程度・内容等を誰が決定するかといいますと、あるいはその準備はどちらがやるかといいますと、基本的には使用者側です。この問題については外国では事前に、特に企業内の紛争解決システムを発達させて、労働者・労働組合側の関与を発達させていきながら、一方的に使用者側が決定できないような仕組みをつくっていますし、それが裁判にも反映させています。例えばドイツでは、従業員代表組織が解雇については事前協議が必要ですし、異議の申立てをしますと、就労継続をし賃金を払わなければいけないというシステムを用意していますが、日本ではそれはございません。せいぜい30日間の予告期間、予告手当の程度でありまして、そういう手当がない中で専ら使用者側が主導権を持って決定や準備をするというところがあります。場合によっては、相談では不意打ち的な解雇、明日から来るなとか、大企業ではそういうことはないのでしょうが、中小企業ではそういうケースが相当あって右往左往することがよく見られます。
 そういう紛争の場面では大きく異なる労働紛争の特徴がありますので、特別な措置が必要になってきます。まず、簡易・廉価(アクセシビリティ)をきちんとするという点ですが、これは諸外国のヒアリング等でも明らかになりましたように、どちらも定型訴状を用意しておりまして、ファックス一本で訴え提起ができるのはイギリスであります。いずれも訴訟費用は無料か非常に廉価で、要するに意欲のある人、訴え提起をしたい人についてはその道を開くということが外国の法制としては工夫されているということが大事でありまして、日本の労働事件の圧倒的な絶対数の少なさは、まずこのアクセスのところで大きな障壁がある。ここを何とかしなければいけないと私は思います。
 もう一つは迅速性です。これも先ほどから出ていますが、生活の基盤を奪われながら訴訟遂行という非常に重い負担を負わなければいけませんので、迅速性が至上命題の1つになります。したがって解雇については、何度も言い続けましたけれども、雇用保険の仮支給期間が1つのタイムターゲットになるのではないか。平均10か月ぐらいだと思いますが、諸外国のヒアリングでも6~10か月でほとんどの事件が解決するということがあります。それでは預金を崩せばいいのではないかという議論がありますが、預金は労働者にとって、ある意味では将来の生活、人生で何かあったときの不測の事態に備えるものですので、それを取り崩して裁判を行えというのは余りにも酷ではないか。諸外国ではそんなところまで要請しているところはないと思います。
 その次のcですが、先ほどの使用者が専ら決定し準備するということとも関連してくるわけですが、さまざまなデータや資料は基本的に使用者側に存在するという、証拠の偏在が顕著な訴訟類型、紛争類型ではないかということです。したがって、迅速性を保ち、かつ納得性のある解決をするためには、ここを何とかクリアしなければいけない。これは非常に難しい問題ですが、ここをクリアしなければいけません。例えば主張立証責任を基本的には使用者側に負わせる。これはILOの158号条約なり160号勧告でもそう言っていますし、諸外国のヨーロッパの法制でもすべてそうなっています。さらに、証拠開示・証拠収集を早期に行う。先ほどの争点整理と証拠整理の問題がありますが、これも早期に行う。この適切な担保をしなければいけない。日本においては、使用者が決定する段階で労働者が関与することが、ルールとして担保されていないところが多いわけです。そうなりますと、解雇になって初めて労働者側は証拠を集めなければいけない。ほとんど何もありません。私たちがやっている事件で辛うじてできるのは、退職者の陳述書なり証言を求めるぐらいで、そういう意味では労働裁判を考える場合に、まず初期の段階におけるその事件に必要な証拠を裁判所に提出させることが非常に重要になります。
 資料には「企業内解決ルールと解決機能」と書きましたが、本来そういう問題を解決するときには労働組合または労働者が関与して、その中で一定の交渉が行われ、それがだめなときに裁判にいくというルールになれば、その辺の問題はある程度解消されますが、しかし今はそれがありません。
 そういうことから、我が国の労働裁判の現状の問題点が浮かび上がってきます。これは今まで何回も出ておりますが、まず絶対数として日本の労働裁判の件数が少ない点です。これにはいろいろな見方がありますが、私は日本の労働者の人口、ヨーロッパ等の人口比からしても、数十万件という労働事件の数と3,000件弱という数は余りにも乖離が大き過ぎる。例えばとても軽い事件もドイツでは裁判になっているではないかという指摘がありますが、そういう軽いと思われる事件でも労働者は裁判が利用できるということです。これは非常に大事なことであり、日常不断に起こる問題を裁判でも利用できる、ADRもある、そういう選択肢が保障されている社会が大事でありまして、絶対数の余りの乖離はすべての論議のスタートラインだと思います。ここを何とかしなければいけない。
 もちろんどの程度の件数が妥当かという点はありますが、私は今は余りにも少な過ぎると思います。それを子細に検討しますと、例えば労働相談件数と裁判件数との割合を見てみましても、地方労働局が発表された労働相談件数については50数万件で民事紛争が約9万件と出ていました。事務局が掲げた資料の中では、労政事務所が全国でやっているのが17万件とあります。私たちが労働弁護団でやっている労働相談の電話はほとんどパンク状態ということがありますので、実数は一体何十万件になるかよくわかりません。しかし、全く控えめに見積もって27万件としても、実際の労働裁判の数と比較すると1%に満たないという状況があります。私がイギリスへ行ったときには、イギリスの労働相談はACASに来ている件数だけでも50数万件ありました。これに対して10万件以上がイギリスの労働裁判の件数ですので、向こうは20%ということになります。それも簡単には比較できませんが、私が労働相談を担当しても裁判を決意できる件数が圧倒的に少ないというのが実感ですし、数字的にもそれは出ているのではないかと思います。
 さらには通常民事訴訟との割合もそうで、日本は民事裁判が絶対的に少ないということがありますが、これも最高裁の統計資料で明らかになっているように、40数万件の一般民事訴訟との対比で言いましても、日本ではわずか1%に満たないという状況があります。ヨーロッパでは10~20%の割合で、労働裁判が民事裁判との関係でも非常に大きなウエートを占める状況があります。それは、ある意味でそうだろうと思うのですね。圧倒的多数の人が雇用労働者でありますし、そこで紛争が起こる。それが大きな割合を占めるのは当然だろうと思います。
 もう一つ、日本の労働裁判の現状の問題で、我々はこの間いろいろ指摘してきましたが、審理期間。確かに短くはなっておりますが、例えば判決に至るまでの審理期間は17.3か月という平成13年の数字がございます。人証調べを経た場合は21.2か月になるわけです。本格的に証人調べを行って判決ということになると2年近くかかるという現実があります。
 これは従来の統計データでは必ずしもきちんと出ておりませんが、不服申立て率です。控訴率が平成13年度は55%ぐらいになっておりまして、これを高いと見るか低いと見るか、半分以上が控訴されている。さらに最近は、控訴審での取消率が非常に高いのではないかと思われます。後で申し上げるA事件、B事件のケースもそうですし、今年になって立て続けに2件、東京地裁の判決が高裁で取り消されるケースがありました。最高裁の不利益変更の判決がこれまで十数件ありますが、一審、二審、最高裁で同じ結論であった事件は1件しかありません。要するに控訴率も非常に高いし、取り消される率も高い、審理期間も長い。そういう実態がございます。
 そういう中で、利用されない理由について具体的にユーザーからどういう声があるかということです。ヒアリングの結果でも、古山さんという連合ユニオン東京の方は簡便さに欠けて使いにくいとおっしゃっていますし、なるべく裁判以外の解決を模索するとおっしゃっています。そういうふうに言わせるほどの高い障壁、いろいろな問題点が裁判にあるということです。
 自治労全国労政・地労委連絡会のアンケート調査は非常に限られた時間で限られた範囲、そして一種のサンプル調査でありますが、私が参考にしていただきたいと思う点は、実は労政事務所がある意味で現在の個別紛争についてのADRの先鞭をつけ、1980年代後半から一貫して相談活動を続けてきたところであります。そこで、昨年11月から12月の時期に窓口に訪れた相談者に対して裁判の利用に関してアンケート調査を行い、さらに相談担当者に対して裁判の利用についてのアンケート調査を行った結果です。
 ここで出てきているものは、私たちも日ごろ痛感していることと基本的に同じでありまして、2ページの冒頭に弁護士費用が出ている点、あるいは3番目に弁護士を探すことが難しいと、まず弁護士のアクセス、弁護士費用の問題があるという点は、我々は今後この問題について本格的に取り組まなければいけないことを提起していると思います。
 さらに、裁判側の事情としては時間が出てまいります。そして費用の問題も出てきます。そして見通し、証拠の偏在の問題があります。先ほど申し上げたように、弁護士ですら労働事件について勝つ、あるいは負ける、あるいは一審判決が出たから安心できるとはなかなか言えないという不安定性があります。あるいは物質的・精神的な負担は、相談担当者のところで具体的な声として挙げられていますが、生活手段を奪われながら裁判を遂行することがどんなに大変かという声が出てきていると思います。相当強い決意がないと裁判までいけないという声であります。
 特に見通しの問題から言いますと、例えば労働者が仮処分で勝って仮払いを受けた、ところが一審判決、本案訴訟では負けたとなると、仮払いのお金を返さなければいけない。あるいは仮払いの仮処分決定で負けて本案訴訟で勝った、賃金が確保できた、やっと子どもの大学入学金が払えた、ところが高裁判決で負けるとそれを戻さなければいけない。こういうリスクの大きい状況があります。そういう問題がこのサンプル調査に出てきていると思わざるを得ません。主な原因がここに出てきていると私は理解していますし、その辺はぜひ御理解いただきたいと思います。
 したがって、次に問題点と改革の方向性です。アクセス障害はどうしても解消しなければいけません。これは検討会に課せられた大きな課題の1つではないかと思っています。先ずは定型訴状。これはデメリットはいろいろあります。しかし、まず提訴しなければ始まらないという問題があるわけで、定型訴状を作成し、例えば解雇事件について、解雇ルールは現在法案化され上程されようしていますけれども、解雇ルールが制定されることによって解雇についての定型訴状の作成はより容易になると思いますが、それを各相談窓口に備えつけ、リーガルサポートセンターという構想もありますが、そこできちんとサポート、相談できる体制をつくる。
 実は神奈川の労働センター、労政事務所の担当者から聞いたところ、少額訴訟においてすら、あの定型訴状を書くのがなかなか難しいということがあって、一たん裁判所に持っていったけれども十分ではなくて突き返されて、労政事務所の方がアドバイスしてやっと受理されたというケースもありますように、訴状の作成というのはなかなか困難なわけです。したがって、定型訴状をつくり、それを備えつけてアドバイス体制をつくることが必要なのではないか。
 それと印紙の問題であります。印紙は低額化をぜひお願いしたいことと、それだけではなく訴額の計算において、解雇事件については過去分と12か月分の賃金を計算する扱いになっています。したがって年収500万円ぐらいのケースになりますと、印紙代で4万円ぐらい、そして郵便切手等を含めると5万円ぐらいになります。この額が大きいかどうかということですが、先ほどのような状況に置かれた労働者からすると、これに弁護士費用の問題がありますので、そう低い額ではないということがあります。これを例えば訴額の計算の部分で言いますと、これは運用でかなり改善の余地があるのではないか。これは日本労働弁護団の提案にもありますように、低コスト化をぜひ検討していただきたい。
 もう一つ、弁護士会についてですが、これは相談、受任態勢の整備、法律扶助。これはまさに我々弁護士の責任の問題です。日弁連では昨年9月に労働法制委員会を立ち上げまして、この問題についてはとにかく緊急課題として早急に検討し、我々自身の問題ですので体制を整えたい。整えた具体的な姿を御報告させていただきたいと思っております。
 次に弁護士費用の敗訴者負担制度ですが、これはただでさえ利用できない現在の労働裁判からしますと、敗訴者負担制度は導入すべきではない。萎縮効果が余りにも大きいと思います。例えば年収500万円の労働者のケースを言いますと、弁護士会の規定によると解雇事件の着手金や報酬の計算の基礎は賃金の7年分です。さらに地位保全・確認ということになりますと、非財産上の請求ですから800万円でプラスすると、簡単に言っても着手金が200万円、報酬が400万円ぐらいになるわけです。我々労働側はそういう弁護士費用はとてももらえませんし、現実にもらっておりません。したがって、敗訴者負担制度が適用されますと、相手方企業側の弁護士費用の負担が次のブレーキになります。これはどうしても労働紛争については導入すべきではないと思います。
 特別な手続の整備の必要性ですが、この間私がるる言い続けてきましたように、特別手続が存在しない、したがって仮処分で代用しなければいけない、二重構造になっているということです。司法統計によりましても、仮処分の約8割は解雇紛争です。他方、本案訴訟の約6割が賃金退職金訴訟であります。解雇事件は2割弱になっています。解雇紛争はまさに労働紛争の典型でありまして、数の多いまさに中核をなす紛争であります。当事者は仮処分という暫定的、仮定的な解決を求めているわけではありません。当事者は仮処分と本案訴訟の違いはほとんどわかりません。労政事務所の人たちすらも十分理解していません。普通の本来の裁判だと思っているわけです。日本では先ほど言ったようなこともありまして、解雇事件については本案訴訟はなかなか利用できません。解雇紛争を本案訴訟でできるようにしなければいけない。本案訴訟の半分以上は解雇事件が占めるという外国のような例にならないといけないと私は痛感いたします。
 また、解雇事件では一たん仮処分の決定が出ましても、本案訴訟にいかざるを得ない面があります。例えば労働者側が勝ちますと使用者側は本案訴訟を出しますし、労働者側が負けた場合でも余力がある場合には本案訴訟を出すケースがあります。これは重複しています。訴訟経済の問題、あるいは負担の点から言っても問題が出てきます。
 これまで弊害の点はるる言いましたけれども、まず仮払い期間、地位保全等の仮処分の運用で、例えば東京地裁と大阪地裁とは全く違うわけです。東京地裁は仮払い期間はほぼ1年ということになっています。大阪地裁は逆に一審判決までになっています。大阪と東京で労働者のニーズあるいは置かれる状況が違う筈はありません。これは保全手続を建前どおり運用しようとするのか、あるいは労働事件の特性に応じてある程度緩和するのかというそれぞれの裁判官の考え方の違いと、言ってみればそれまでですが、果たしてそういうことを許していいのか。ダブルスタンダードとかトリプルスタンダードと言わざるを得ないのではないか。例えばほかの地方の例を見ますと、7か月というふうに期間限定されたり、あるいは2年となったり、これは全くばらばらの状況になっています。私は、東京地裁が悪いとかいいという問題ではないと思います。保全手続をそのとおりやろうと思えば、どうしても保全の必要性のところを詮索せざるを得ない。そうするとどうしてもそうなってしまう面があります。
 一方で、労働紛争の特性を考えると、ある程度保全手続の建前に目をつぶさざるを得ない。このあたりのところがありますので、これはもう制度の問題だと思います。これは全く合理性を欠くと思います。
 例えば非常にひどい例で言うと、これはヒアリングで出されましたが、家計簿を出しなさい、配偶者の収入を出しなさい、預金とか不動産とか財産関係を出しなさいと言われて、まさに自己破産の場合のケースと同じです。そういうことを余り言われると、プライバシーですから、それが使用者側に筒抜けになってしまう。これをノーと言ったら却下されたというケースが報告されました。極端に言うとそうなってしまうわけです。そういう問題はクリアしなければいけない。
 もう一つは、1年というふうに限定しますと第一次、第二次、第三次仮処分という際限ない仮処分が出されることになります。そうすると、当事者の負担も大変ですし、裁判所の負担も大変であります。そして、判断が食い違うという有名なケースがありました。仮処分の限界は書面主義でありまして、先ほどの労働紛争の構造的な問題から言いますと、陳述書が非常に大きなウエートを占めます。使用者側が客観的な資料をいろいろ持っているはずですけれども、それはなかなか出してもらえないということになりますので、やはり限界があります。陳述書は弁護士が作成するのが中心で、非常にリアルに書きますから、裁判官はそれで心証をとるのは非常に難しいのではないかと私自身は痛感いたします。親しい裁判官に聞いてみますと、陳述書ではなかなか心証をとれないとおっしゃっていますが、そういうこともあると思います。証拠収集の限界がございます。手持ちの証拠で勝負せざるを得ません。
 本案判決と結論が異なるリスクは、本案判決は証人調べを行いますので、あるいは証拠収集の手段がありますので、結論が異なることがあります。そうすると結局、このリスクは誰が負うのかという点があります。
 事実上は五審制になっている面があります。この前も紹介しましたけれども、仮にA事件、B事件と申し上げますと、解雇が起こってから7か月ぐらいで仮処分が出ます。このケースは2つとも雇止め及び解雇有効という判断が出ました。その後3年弱で本案判決が出ます。いずれも仮処分決定とは違い、雇止め及び解雇は無効という判決でした。ところが、A事件についてはその後数か月後に全く人証調べを行うことなく、高裁では有効という判決が出ました。そうすると、これは無効ということで賃金の支払いを受けた労働者は全部返還しなければいけません。今は上告中です。B事件はそういうことで高裁で審理中ですが、和解で何とかできないかということで和解継続中です。最近はこういうケースがほかにも何件かあります。労働弁護士としては、当事者・労働者の生活がかかっているわけで、家族・子どもたちの生活、進学の問題で慎重にならざるを得ません。そういう問題があります。
 したがって、そういう点の弊害を除去するために、できるだけ紛争解決の一回性といいましょうか、それが要請されるわけですので、そうすると一審判決で迅速性かつ適正性を確保する手続をきちんととって、なるべくそこで解決する。そして控訴率も半分ではなく、よほど例外的な場合に初めて控訴するような、お互いに双方がそれを納得し、受忍できるような制度がいいのではないかと思うのですが、そのためには特別手続が必要になります。解雇を処理できる本案訴訟へということでありまして、これは後の議論になりますので、時間もオーバーしていますので、この程度で私の意見を終わらせていただきたいと思います。

○菅野座長 それでは、ほかの方どうぞお願いします。

○髙木委員 労働関係事件をめぐる状況等については、鵜飼さんが言われたことに私もおおむね同感なのですが、付加して二、三点申し上げたいと思います。
 1つは、アクセスの悪さ、あるいは定型訴状といいますか簡易な訴状を用意していただいたと言うけれども、それでも書ける書けないがありまして、労働組合の中には専従で仕事をしている役職員、それも割にキャリアの長い者がたくさんおりますので、どこまで一定の範囲なり条件が付される面もあるかもしれませんが、労働組合の専従役職員に、いわゆる訴訟代理とまで言えるかどうかはありますが、その種の権能をお与えいただいて、そういう訴えを提起したいと思っている労働者をサポートする仕組みもあっていいのではないかと思っておりますので、一度御議論いただきたいと思います。
 それと、アクセス検討会のほうで御検討中だと聞いておりますが、弁護士費用の敗訴者負担問題は、労働事件だけがそうなのかという議論はもちろんございますが、少なくとも労働事件については、先ほど自治労の皆さんが調べてくれた調査にもはっきり出てきておりますように、弁護士費用を敗訴者に負担させることにつきましては、見通しのつけがたさの問題とかいろいろな観点からも、労働事件には少なくともこの仕組みは入れないことにしていただく必要が強くあるのではないかと思っております。
 3点目としては、労働関係事件のとらえ方ということで先ほど菅野先生からも御提起がありましたが、例えばいわゆる労働契約をめぐる紛争には、労基法上の労働者にかかわるものが中心であるだろうと思いますが、請負だとか委任だとか準委任の契約で実際に中身は労務提供という契約も結構ありまして、そういう意味では契約の形式よりは契約の実体で労働事件であるかないかを判断していくのが基本ではないか。
 今日いただきました資料86でも、例えば争議行為が「・」の下から2つ目にありますが、これは具体的には争議行為をめぐるいろいろな事件、中には不当労働行為と争議行為という観点からの争いもあるわけですが、中労委命令なり地労委の命令について訴訟提起されて取り消されるのがどうこうという議論が出て、この問題については次回に議論するのだろうと思っていますが、いわゆる手続的には行政事件訴訟法の手続のもとでということになりますけれども、争われている事実の実体は労働事件だろう。そういう意味でどういう手続のもとで争われようとも、内容が労働にかかわって争われているものについてはやはり労働事件という認識をして、そういうところにも労働事件固有の手続の新しいルールづくりが行われるならば、手続法が違うのでどの程度の援用のされ方になるのかはよくわかりませんが、労働事件の範疇という側面もあることをぜひ考えていかなければいけないのではないか。
 繰り返しになりますが、そういう意味で形式よりは争われている具体的な中身が、まさに労働にかかわっての争いであるものは広く労働事件という範疇で認識して議論する必要があるのではないか。以上です。

○石嵜委員 鵜飼先生から、最初から最後までというか申立てから判決確定、そして救済までのいろいろな議論があったので私が思うのは、まず使用者側の立場で考えても、事件について迅速かつ適正に解決されるべきだというのは異論がないのです。八代先生、角山先生の発言も、それを前提にどの辺の幅までかをおっしゃっているだけであって、特に使用者側はコスト、紛争にかかる費用を一番重視するような感覚を厳しい経営環境の中で持っていますので、適正かつ迅速ということについては我々がそれほど温度差があるとは余り思っておりません。
 ただ、それも含めて、それでは適正・迅速に進めていくためにどうすればいいかといったときに、申立てから最終的救済までの段階で、申立て段階でいかなる措置をとるのか、申立てが行われた後、口頭弁論形式の枠の中で、先ほど出てきた計画審理のような形での期間短縮を考えるのか。実際の訴訟手続の中でどれだけ図っていくか。加えて、一審判決や仮処分決定ならまだ上がありますので、そうすると鵜飼先生がおっしゃっていたように、その適正さにどのぐらいの信頼関係があるかによっては控訴がどうなるか、それがとまるかという形になるわけですから、今一気にすべてをどう議論するかというより、各段階においていかに適正・迅速化を図るかを個別に議論していかないと議論が散漫になるのではないかと思います。
 申立てについて簡易化することであれば使用者側の負担は出てまいりませんので、それについて使用者側も議論ができると思います。ただ、証拠の偏在の問題から含めたいろいろな訴訟手続になりますと、企業側も企業規模もありますし、それに対応できるだけの能力がある企業がどのぐらいあるかということもあって、その辺になると企業側からの意見も出てくる。したがって、その辺を考えていただきたい。
 特に私はここで思っていますのは、制度としてどういう形で迅速化を図るか。裁判手続の証拠の関係でもあるのですが、特に労働事件の訴訟が期間がかかっているのは、常に私は言うのですが、弁護士の次回訴訟期日の設定の問題が大きいと思っています。したがって、先ほども2年間と聞いたときに弁護士の日程はどうするのかとお話ししたように、特に労働事件の性格として複数の代理人がつくことが多い。使用者側もそうですが、労働側も特に。そうすると誰か1人の日程が合えば、それで審理を進めるかということになると、2年半かかっているのを2年とか1年半で終わると思います。こういうものも含めた中で、各場面での議論をきちんと進めていくことが迅速化につながるだろうと思っております。
 先ほど髙木委員が御質問されましたように、この民事訴訟の一部を改正する法律案が実施されたら、期間がどのぐらい短縮できるのだろうか、これを労働事件に使えばどうなるか。ここの議論もきちんと検証して進めるべきだし、それだけではなくて今思っていますのは、裁判官と弁護士が各場面の現状について、実際にユーザーのために期間を短くするためにはどうしたらいいか話し合う場面もつくってその問題点を洗いざらい出して、短縮を図る議論とその制度設計ということをきちんとやっていかないと、私は2年間と言われて訴訟計画をつくっても、現実には弁護士の日程の決め方で絶対に2年で終わらないと思います。鵜飼委員がおっしゃったことについて特に異論があるわけではないのですが、各場面とその問題点について必要であれば関係当事者が協議したり話し合って、どのようにすればいいかということをしっかりと議論しないと、実際は実現できないのではないかと考えています。

○矢野委員 鵜飼先生の現場に基づく御発言、私もよく理解できますし、そのとおりだなと思って伺っておりました。迅速化は大事なことでありますから、そのためのいろいろな手段を考えていくことと、裁判所の敷居が高いというのはなくしていかなければならない。中身の判断については、私は国民に信頼感はあると思いますが、敷居が高いので入りにくいという部分は直す努力が必要だろうと思っております。
 迅速化について考えてみますと、今日いただいた資料を見ますと、平成13年度は13.5か月だったのが14年度は12.0か月(1年)となってきているということなので、スピードアップが現実に図られている現象は大変好ましいと思っております。もちろん中には両当事者が和解の余地もなし、徹底的にやるということになると時間がかかることはやむを得ないと思いますが、そういう難しい性格を持った事案でなければかなり早くなってきているという印象を持ちますので、この傾向をぜひ進めていく必要があると思います。
 そういう点で2年以内に解決するのだという新しい法律案が生まれようとしているわけですが、現実には半分近くになっていることを考えると、いいことではないかと思っています。一方、注意しなければならないことは、迅速化を理由にして当事者の主張や立証が制限されたり、何でも証拠を公にしろということではむしろ逆効果が生まれてくると思いますから、その兼ね合いが重要だと思います。
 アクセスという点から言いますと、もちろん地方裁判所もそうですが、簡易裁判所にいろいろな便利な制度が設けられると有効だと思いますので、そういう点では30万円が60万円に上がる少額訴訟は大変結構なことだと思います。また、定型訴状も非常にいいことだと思いますので、大いに活用できるように制度をつくり、またPRをすることが大事ではないかと思っております。
 私どもの企業の意見を聞いてみますと、手続面で労働関係事件について一般民事訴訟と異なる特別の制度、ルールをつくる必要があるかということについてはそれほど強い意見はありませんで、むしろ基本的に今のままでいいのではないかという考えが強いように私は思います。これは訴訟費用の問題も含めまして、一般的にそう言えるのではないかと思っております。以上でございます。

○山口委員 どの点をお話しすればいいでしょうか。

○菅野座長 先ほどのように段階ごとに、あるいは論点ごとに具体的な検討をしていただきたいのですが、何せ一巡目の検討が今日1回なものですから、出したい意見は出していただきたいのですね。

○山口委員 それでは全般的にお話しさせていただきます。労働関係事件の現状と評価の関係ですが、私個人としては、判断が適正かどうかということについてはいろいろな意見があると思いますし、特に一般的な話で恐縮ですけれども、勝った方は正当だと思うし負けた方は不当だと思うわけですから、この見方について裁判所がどうこうということは申し上げるつもりはありません。ただ、先ほど鵜飼委員が判断が違うことがあるとおっしゃっていまして、それはそのとおりなのですが、大半がそうというわけではありませんので、大半は一審が維持されているケースの方が多いので、その点は、そういう意味では地裁、高裁、あるいは最高裁で結論が変わるのは、それだけ難しい微妙な事件なのだと理解していただいた方がいいのではないかと思っています。
 ただ、私は現状から見ていて、裁判が今のままでいいとは全く思っておりませんので、審理の迅速化といいますか、効率化は図っていかなければいけない。どうしても現状の労働裁判は一般民事と比べても遅過ぎるという感覚は現場の方でも持っております。そういう意味で言えば、先ほどの石嵜委員のお話にありました複数の弁護士がついている問題とか、あるいは現在の労働事件では、期日は、争点整理の段階では1か月ないし1か月半という形で回しています。先ほど判決まで至ったのが、証拠調べをしないでも17か月かかっているという紹介がありましたが、判決の作成期間や訴状から第1回答弁書提出期間等を除くと大体12~13か月が争点整理に要している時間なのだろうと思っています。もちろんその中にも和解で議論した期間もあるでしょうから、それが上限としても双方がやりとりをするという意味では6~7回の争点整理をやっているという関係になっていますから、その回数なり、あるいはその期間をもっと短縮することによって審理期間は大幅に短縮できるのではないかと私は思っております。
 もちろん、そのためには弁護士の負担の問題や主張立証が一定期間内に十分できるかという問題があります。その辺について裁判所の方が強権的にやるのは、私は適当ではないと思っておりますから、弁護士さんとも十分協議してどういう期間ならどういう形でできていくのかということをまずお互いに議論することで、少しでも改善は図られていくのではないかと思っております。
 そういう形で6~7回の往復を現状ではやっている形になるかと思いますが、その回数や、あるいはこういう主張は早く出しましょう、あるいはこういう証拠は早く出しましょうという一定のルールづくりができていけば、その期間もさらに短縮されていくと思います。そういう意味で言えば、現状の実務では訴訟のやり方を改善すべきところはたくさんあると思っていますので、そういう面での努力をこれまでしてこなかったとは言いませんけれども、この機会に改めてやっていく必要があるのではなかろうかと思っております。
 そういう関係で言いますと、計画審理あるいは証拠収集の改善が必要なことは言うまでもないと思いますから、これにつきましては民事訴訟法の改正で所要の手当がされるようでありますから、そちらの活用が十分考えられるのではなかろうかと思っております。
 具体的に労働事件特有の訴訟手続を設けるかどうかということに関して言いますと、そういう形で一般民事訴訟で一定の手当ができていることと、実際問題として労働事件かどうかという区切りをするのは現状では非常に難しい、現場の感覚からすると難しい部分があります。特に髙木委員が言われるように、契約の実態で労働事件かどうかを見ていく形で考えるとすると、ある程度審理をしてみないと実態がどうなのかはわからないという問題もありますし、訴訟の過程では訴えのやり方も変わってきますので、当初は労働事件ではないと思われたのが、その後訴えが変わって労働事件になるという場合もあり得ると思います。レアケースかもしれませんが、そういうものもあり得るわけですから、そういうものをすべてカバーする形で手続法の整備ができるのかという問題もあるように思っております。
 基本的には、労働事件だけではなく一般民事事件が今の期間でいいのかということは改革審でも指摘されていますし、労働事件についてより強い要請があるとするのであれば、現場の裁判官なり代理人としてはそういうニーズに応えるように現状の中でどういうことができるのかをまずやってみることが必要ではないかと思っております。
 訴状の活用等の関係は、基本的にアクセスをどうするかという問題だろうと思うのですが、これについては現在簡裁向けの主に本人訴訟というイメージでやっているのだろうと思いますけれども、これを例えば地裁でやっていくことを考えてみた場合に、現実問題として今のところは地裁に出てきている事件は代理人がついている事件が多いので、基本的には代理人に定型訴状を示す必要があるのかなという思いが1つあります。ただ、本人訴訟もあるわけですから、何らかの訴状のひな型が裁判所あるいは弁護士会の方で考えられるというのであれば、それは1つの方法としてあり得るかと思いますが、少なくとも地裁に来る事件は難しいものが多いので、定型訴状ですべてカバーできるかという問題はあるような気がしております。その辺についてもむしろこう考えたらどうかというようにお互いに議論し合っていくことが必要ではないかと思っております。
 仮処分と本案の関係は、確かに指摘されている問題はあるかと思いますが、御承知のように裁判官は独立ですから、裁判官それぞれのお考えでやられているわけですし、東京地裁の運用としてこうしているということではありません。現状を見ましても、例えば期間の問題にしても1年という形で限定しないで、当該事件のもとでの個別事情を考慮してやっているケースもありますし、一審判決言渡しまでという形で仮処分を出した例は東京地裁でもあります。そういう意味で言えば、現場の裁判官が個々の事件に応じた形で必要な範囲で必要性を考えてやっているのが実情なのだろうと思います。
 仮処分と本案で結論が違うことがあり得るのは、そういうケースも現実にはあるわけですが、これは労働事件特有の問題かといいますと、それは必ずしもそうでもないわけで、これはほかの事件についても言えることなので、だから労働事件がどうこうという議論にはつながらないのではないかと思っております。
 もしそういう弊害を少しでもなくす方向で考えるとすれば、現にかかっている本案事件の期間をもう少し短縮する方向で考えていかなければならない。最終的な解決は本案ですから、本案の訴訟に要する期間をお互いが努力してどれだけ縮められるかということをそれぞれの訴訟の段階に応じて、例えば争点整理の段階ではこういう工夫をしてみたらどうか、証拠調べの段階ではこういう工夫をしてみたらどうかということを、お互いに共通の基盤を持てるような形でやっていけば相当程度改善する余地はあるのではないかと思っております。
 全体的な感じとしてはそのように思っております。

○山川委員 計画審理についてですが、先ほど石嵜委員からもお話がありましたし、また山口委員からもそれに関連してお話があったと思いますが、民事訴訟で計画審理をするということになりましても、労働事件の特色はあろうかと思います。それに応じて使用者側、労働者側、裁判所で協議会のようなものをつくっていくということは、ほかの分野では例があったかと思いますけれども、非常に有益ではないかと思います。行政訴訟もありますので、行訴の場合は労働委員会という立場で参加することもあると思います。また、実質的に訴訟活動をする場合には参加人が関与してくることもあろうかと思います。そういう場所をつくるということは、労働事件に応じた計画審理のあり方をつくる上で有効ではないかと思います。
 労働事件の場合にどういうことが望ましいかは、労働事件の代理人をやったことがないもので実態がわからないのですけれども、想像するに、1つは多数の当事者が登場することがあり、特に差別問題などになりますと、多数の関係者が出てきて例えば証人申請がたくさん行われるということがあろうかと思います。そのあたりを立証の計画を立てる上でどのようにしたらいいか検討するということが1つ挙げられると思います。もう一つは、争点が多岐にわたる、あるいは争点自体は多岐ではなくても、一般条項の適用でありますために、既にお話が出ておりますように、微に入り細にわたる主張立証がなされることなどが問題になってくる。それについても、立証事項の内容、あるいは尋問事項をどのように考えるかということについて、例えばルールなり合意形成なりができれば役に立つかなと思います。これは実体法の中身ともかかわっていて、例えば権利濫用の基礎になる事実としては様々なものがあり得ますので、リジッドなルールを決めるわけにはいかないと思いますけれども、原則的なことを考えるということはあり得るのではなかろうかと思います。もちろん日程の入れ方という面も含めて、一般的な計画審理を個別の事件で立てることのほかに、関係団体等でより一般的な形でのルールの作成の場を設けることは、労働事件に即した計画審理の取組みということで有益ではないかと思います。

○菅野座長 今お話の裁判所と弁護士会・弁護士の協議の場というのは前にもこの検討会で話が出ていて、鵜飼委員や山口委員から状況の御説明、あるいはその可能性についてお話があったと思うのですが、そのあたりのことについて補足することはありますか。

○鵜飼委員 ぜひそれはお願いしたいということでこの間、最高裁あるいは山口委員とも話し合いも行ってきました。それは何とか協議会をつくりたいという話なのですが、現在の一番のお互いの不一致点といいましょうか、なかなか実現できないのは、裁判所側は東京地裁の運用に限定して議論をしたい。したがって参加者も東京地裁の労働部の裁判官と書記官、弁護士会側も東京三会の弁護士に限定してほしいと、かなり問題を絞って提起されまして、我々は初めの段階ですから、今議論されているような争点整理の問題や簡易訴状、定型訴状の問題とかもっとマクロな問題について、日弁連と最高裁ぐらいのレベルで議論できないか。したがって、弁護士会側も日弁連の労働法制委員会のメンバーを中心にして人選したいと申し上げているわけですが、そこがなかなか埋まらない。しかし何とかその妥協点を探っていまして、実現することの大切さがありますので鋭意努力しておりますけれども、そこが一番ネックになっております。何とか裁判所の側にその辺を譲歩していただいて、今提起がありましたように、今の裁判の運用について我々としても協力しなければいけないこともありますし、日程をどう短縮化する等のいろいろな問題がありますので、もっとマクロな視点で協議できるような場をぜひ裁判所の方も御検討いただきたいと思っています。

○山口委員 基本的には運用改善の問題だと考えておりますから、それぞれの裁判所でそれぞれ対応する弁護士会とそれぞれの地域での訴訟運営を考えていくのが基本的なあり方だろうと思っています。そういう意味で民訴法はこうなっているけれどローカルルールとしてはこうだというふうにやっていくのは、私は一向に構わないと思っています。それぞれ地方の弁護士の実情や裁判所の構成の問題などは違うと思いますので、そういう意味では運用改善の問題で言いますと、対応する弁護士会とやるのが基本ではないかと考えております。
 ただ、日弁連の方はまたそういうお考えがあるとも承っておりますし、問題は協議会を立ち上げて、石嵜委員がおっしゃったようにそのなかでお互いに本音をぶつけ合って改善に向けて努力していくことが一番大事だと思っていますから、それは裁判所の方も譲るつもりはありますし、また日弁連の方もお互いに考えていただいて、何とか動かす方向で考えていきたいと思っておりますので、その辺では共通の理解はあるのではないかと思っています。

○菅野座長 本日のテーマである労働関係事件の裁判のあり方、手続のあり方については、制度面の検討ももちろん重要ですが、運用でできることがたくさんあるという気がいたします。現行の訴訟手続ばかりでなく現在、民訴法の改正が進められようとしているわけで、その新制度の運用面でもどのように手続を改善していくかは大変重要な課題だと思います。それについては裁判所と弁護士の労働事件に関する協議の場が設けられて、山川委員が言われたように、計画審理の進め方を初め適正・迅速な紛争の解決のための裁判のあり方について率直な実務的な検討をしていただけて、その成果が実際の裁判に生かされていくのは大変有意義なことではないかと思います。
 そういうことなので、私としてもそういう協議の場の立ち上げがぜひ実現するように期待して、関係の方々の御努力をお願いしたいと思います。また、もし可能ならばそこでの議論の状況や成果がこの検討会に間に合えば御紹介いただいて、また参考にさせていただければと思いますので、引き続き関係の方々の御尽力をお願いしたいと思います。

○髙木委員 運用でというのは、おっしゃるとおり、かなりの部分はいろいろ工夫していただくことで改善になるのかなと思うのですが、運用するにしても、あるいは運用の実務についての議論をするにしても、例えば労働事件の特性とまで言えるのかどうかわかりませんが、先ほど鵜飼委員のペーパーにありましたように、労働紛争の構造に書かれているものに関する共通認識のようなものがベースにあって運用論を議論していただく必要があるのだろう。そういう意味で、先ほど来出ている証拠の偏在問題等、例えばイギリスなどの例をお聞きすると、リストでいろいろなものを出し合ってやるルールができているということなので、制度を法律でつくらなくても例えばそういう感覚の運用をしていくとか、運用でやられる際の原則的な前提……そんなことはよくわかっているというお話ならそれで結構なのですが、いずれにしても矢野委員の御認識と私たちの認識はちょっと違う面もあったりして、証拠の偏在問題やら何やらは経営側の立場で見れば、少々長くかかってもそう痛痒はないと言うけれど、一方で長くかかってヒーヒー言わなければいけないのは訴える労働者の方ですから、そういう意味で先ほど来3,000件に満たない事件数だとか、サンプル数はそう多くないですが、このアンケートに出てきているものを先ほど来見ていますが、そういう実態があるから何とかしてほしいとみんな思っているわけですから、改善・改良型の努力も否定はしませんが。

○菅野座長 誤解のないように、先ほど私が申し上げたのはここで意見を集約しようというのではありませんで、たまたま協議の場ということが山川委員から出ましたので、それについての御努力をという要望を申し上げただけです。ここでは、今言われたように基本的な労働関係事件の特色を手続との関係でどう見るかというところから出発して、制度面での対応の要否も検討していただきたいと思っております。

○髙木委員 失礼だったらお許しください。

○菅野座長 それでは、ちょうどいい時間なので10分間休憩させていただきます。

 (休 憩)

○菅野座長 それでは再開させていただきます。

○春日委員 先ほど山口委員から、証拠の収集が審理期間の短縮に影響するであろうという趣旨の御発言もありましたので、証拠の収集について私が考えていることについてちょっと述べさせていただきたいと思います。
 確かに鵜飼委員がおっしゃるように、原告・労働者側にとっては証拠の収集はかなり困難な場面があるのだろうと思いますけれども、だからといって、これは鵜飼委員の書面にもあるのですが、例えば自己使用文書については労働事件ではその規定は削除したらどうかとか、立証責任の転換をしたらという御提案もあるのですが、立証責任の転換は実体法の問題になるのでここは議論する場ではないと思いますし、文書提出義務の民訴法220条4号ニの自己使用文書を労働事件では除外するということになると、これは非常に難しいのではなかろうかと思います。
 まず前提問題として、これも先ほど山口委員がおっしゃったように、労働事件の範囲をどこまでに区切るか、あるいはその定義付け自体が大変難しいということもありまして、その面でも非常に難しいのではないかと思います。
 そうすると、証拠の事前開示という問題になれば、今現在の民訴法とこれから改正されて多分導入されるであろう提訴予告通知制度、とりわけ訴えの提起前の当事者照会という問題にウエートがかかってくるのではないかと予想するわけです。恐らく訴え提起前における当事者照会、裁判所の方でも一定の処分ができるということになっていて、これを積極的に活用する方向に向かうのではないかと私は予想するわけです。
 次に、これも鵜飼委員から提出されている書面ですが、その2ページに労働訴訟手続における文書の提出ということで、いろいろな労働事件で書証として提出されるべき文書等が①から⑨まで挙がっています。これを拝見しますと、文書提出命令がかかっても使用者側が出したくないといった文書は余りなくて、恐らくは人事考課表はなかなか出さないのだろうとは思うのですが、ほかの就業規則や賃金台帳、出勤簿、タイムカード、その他もろもろ、会社の決算書や明細書等もありますけれども、おおむね出してもそれほど不都合はない文書だと思うのです。
 こういう文書は裁判所の関与のもとで提出するかしないかという議論をやっているよりも、代理人の先生同士で訴え提起をする前に提訴予告通知をやった後、直ちにできるものだと思うのです。恐らく裁判所と当事者双方の代理人が一同に会するというと、さっきも言ったようにそもそも期日を合わせられるかという問題も出てきますから、そういうことをやらずに当事者間でもできるものはすべてやっておいていただく。その方がむしろ労使紛争の自主的解決に資するのではないか、これは労使双方もおっしゃっていて、しかも企業内で紛争を解決するということも含めておっしゃっているわけですから、そういう意味でも事前に開示できるものは、とりわけ文書でしょうけれども開示しておくのが良いと思います。
 また、こういうことについて先ほど来、座長からも山川先生からも話が出ているのですが、労働事件で具体的にどのように運用していくかということを協議していただく。しかも、単に抽象的に協議するのではなくて、具体的にこの文書ならここまで出せるだろうからという詰めた議論をしていただかないと、実際の訴訟になった場合に、就業規則あるいは賃金台帳、あるいはこういう文書と言われても、そのうちのどこまで出すのか。そういうある種のガイドラインを労使双方なり、あるいは裁判所も含めて協議していただく。それで事前に証拠の開示をやっていただく。その方が争点整理までできるかどうかは別として、少なくとも全体の審理期間の短縮には相当寄与すると考えますので、とにかくそういうことを試みていただきたい。労働事件も民事訴訟の1つであるという理解であるならば、もちろん労働事件の特殊性はありますけれども、恐らくは民訴法の改正で導入されるであろう提訴予告通知制度をもっと積極的に使うという方向で考えていただきたいと、私個人としては考えております。

○鵜飼委員 先ほど説明を残しておりました「労働訴訟手続の特則の試案」、日本労働弁護団の労働裁判改革検討委員会のものですが、これを見ていただいて御説明させていただきます。
 春日委員が基本的に現行制度あるいは改正民事訴訟法でやれるのではないか、あとは運用でやれるのではないかということですが、現実にそれはなかなか難しいものですから、明確なルールが必要だと我々は考えております。
 試案ですので、まだ十分にこなれておりません。いろいろ議論の余地があります。果たしてこれは法律で決めるべきなのか、あるいは規則で十分なのか、あるいは運用でやるべきなのかという仕分けも十分できておりませんが、私は先ほど前段で言いましたように、迅速化法は2年以内のなるべく早い期間ということですが、労働事件で言うとある意味で2年では長過ぎますので、1年以内のなるべく早い期間とも言うべきであって、むしろ迅速化法の先鞭をつけるのは労働訴訟でぜひやっていただきたい。そのためにも明確な紙に書かれたルールが必要なのではないかと思うわけです。
 それは労使の弁護士に対しても1つのインセンティブになりますし、現在、仮処分事件では2週間に1回ぐらいの期日が入って、お互いにヒーヒー言っているわけです。これはなぜかというと、仮処分保全訴訟はやはり迅速性が必要だということで期日がどんどん入っていく。これは人的、物的な体制も問題がありますが、法廷がないなどの問題もありますが、仮処分は法廷外でやれるということもあり、いずれにしても「やろう」と思ったらできないことはない。具体的なきちんとしたルールができればやれる、さらには労働事件を担当する弁護士の数を増やさなければいけない。こういうインフラの問題も当然あります。
 そこで、内容を御説明させていただきます。まず審理の原則は余り異論はないと思いますが、第1の1(2)です。これは今度の改正によって、複雑な事件等については審理計画を定めるということになるようですが、私は基本的に労働事件について原則は審理計画を定めることにすべきではないかと思います。「努めなければならない」とありますが、私は原則として「審理計画を定める」とすべきではないかと思っています。必要的なものにすべきでないかと思います。
 その前に、労働事件の対象、定義の問題がありました。これは諸外国でもいろいろな定義がありますし、現実に日本の場合でも運用としては、各地の労働部、労働集中部でそれぞれ労働事件として取り上げているところがあります。もちろん申立ての段階で当事者がその事件として出した段階で仕分けをするということですし、今の個別紛争解決促進法にも対象の定義がありますし、これは十分可能だと思います。場合によっては、解雇紛争だけに限定することも選択肢としてはあり得るのではないかと思います。
 次に、第1の2、労働契約の存否に関する訴訟手続の優先処理等の原則はぜひ御検討いただきたいと思いますが、優先処理の原則を定めたとしても、それはお互いが協力しなければだめではないか、空文化してしまうのではないかという御議論がありましたが、特に解雇紛争に象徴されるような、先ほどの労働紛争の特徴、構造上の問題から言いますと、まずは優先処理の原則をきちんと明確にすることの意味は大きいですし、労使の代理人、弁護士としてもその事件については期日を優先的に入れることを、責務としてうたうことも考えられていいのではないかと思います。
 2(2)ですが、労働契約の終了に関する紛争については第1回弁論期日が重要でありまして、第1回弁論期日は今はほとんど形骸化しています。被告の側からすると、期日が入らないということもありますし、打ち合わせもできないということがあります。第1回弁論期日は訴状の陳述、または擬判陳述で終わってしまう傾向があります。しかし、本当に迅速化するためにはここがまず大事な問題でありますので、少なくとも解雇事件については第1回弁論期日までに実質的な書面を出して、これは主として被告側弁護士になりますけれども、被告側弁護士に努力していただいて、実質的な書面と書証を出す。というのは、労働事件は使用者側が専ら主導権を握って、その時期、内容を決定でき、データ等は使用者側に基本的にあるという訴訟構造を持つものですから、それは第1回期日にそういうものを全部出すことは十分可能であります。そういうふうにすることが必要なのではないか。もちろんこれは例外は設けるべきだとは思いますが、原則はそうなのではないかと思います。
 現在は労働基準法の改正問題がありまして、予告段階で解雇理由書を出すことにもなるでしょうし、就労規則上の解雇事由については絶対的記載事項になりますので、そういうものは第1回口頭弁論で全部出る、争点がかなり浮かび上がることが必要になるのだろうと思います。
 そして、第1の3と4にありますのは、争点整理、証拠整理についての特則のイメージです。ここで釈明権の行使を求めているわけでありまして、先ほどの春日委員のお話では、弁護士同士、当事者同士で裁判提訴前にできるのではないかということでありますが、これがなかなかできないから難しいのでありまして、例えば訴え提起後の当事者照会制度も、角山先生がおっしゃっていますようにほとんど利用されておりません。それは裁判所を経由しないとなかなかできないという問題があります。これは残念ながら日本の実情であります。
 そうしますと、裁判所を経由して争点整理、証拠整理をなるべく有効に行うことが必要なのではないかと思います。先ほどの山口委員のお話で、争点整理に6~7回の期間がかかる。確かに実情はそうなのですが、これを極力短くする。第1回期日で被告側の主張と必要な書面を基本的に出すこと。そうすると、あと1~2回で双方に対する釈明を期間を定めて行う。これはイギリスで行っています。それと、証拠整理についても、集中的な人証調べの前に、すべて主張なり争点の整理を行う。そして裁判所がかなり主導権を持って、双方に対してこの点はどうなのか主張を出させ、この文書についてはあるだろうから出しなさいということを、釈明権の行使として行う。これが、第1の3と4のイメージです。
 第1の3(3)は、労働者側に若干甘めになっている面がありますが、それは証拠資料が労働者側にはほとんどないというところがありまして、裁判になってから例えば入手できた証拠資料は提出できるようにしてほしいというところがあります。
 春日委員のお話では、第1の4(1)の資料はほとんど出すのではないか、出して当然ではないかと思うのですが、実際上は裁判にはなかなか出てきません。それが出そろうまでに相当の期間がかかるということはあります。これを早くやれば5回も6回も7回もはかからない、2~3回で終わるようにできるのではないかと思います。
 そして、当然出すべき資料を出さない場合は、弁論の全趣旨として斟酌する形で一種のペナルティを課すことが必要ではないかと思います。民訴法220条4号ニに「該当しないものとみなす」とありますが、これは労働弁護団の議論がありまして、皆さんの御意見もお聞きしたいのですが、稟議書等はすべて内部文書ということで出さないということがある点について、差別問題を立証するためにどうしてもそういうものが必要になってくることがありますので、そこは法文上どうするか、運用でどうするかという点は検討していただきたいと思っています。
 2ページに「簡易な労働訴訟事案の審理の原則」があります。これは、そうは言いましてもある程度期間がかかる事件と、そうでもなくて争点が明確、単純であって、双方ともに迅速な審理を要求する、特に労働者側が迅速な審理を要求する事件もありますので、これから事件数が増えるとこの事件類型が非常に増えて来ると思います。そういう場合の原則は、イギリス等にありますように、争点整理1期日、証拠調べ1期日、そして即時判決ということもやはり考えるべきではないか。そういうケースはかなりあるのではないかと思います。
 3ページの6、賃金支払いの仮執行宣言を付した判決に対する控訴と執行停止の特則は本筋の議論ではありませんが、現実に仮執行宣言がついて執行しようとした段階で執行停止がすぐできる、労働者の場合の賃金は生活の糧ですので、これは要件を緩和すべきだと、現在の要件は非常に緩やかなものですから、お金を積めばほとんど執行停止ができる。ここを検討してほしいということです。
 あるいは、7は先ほどのアクセスの問題です。訴え提起をよりやりやすいものにしていくという点での改善点を出しています。
 第2の、民事保全法における労働保全手続の特則は、私は少し意見が違うのですが、要するに仮に民事保全法で解雇事件を扱わざるを得ない場合にはこういうものを置いてほしいということでありまして、むしろ本案訴訟できちんと審理できるようになれば、こういう特則は必要ないと私は思っております。
 労働弁護団のこの試案は、かつて数年前に労働事件の簡易訴訟手続についての案を出しましたけれども、さらにこの検討会の議論の進捗状況を見た上で、あるいは新しい民事訴訟法の改正等の問題も踏まえた上で一応出したたたき台でありまして、日弁論でも労働法制委員会で、経営側と労働側の双方が入っておりますので鋭意検討しなければいけないテーマだろうと思います。単に運用レベルではきちんとした方針、方向性が明確になりません。ルールをきちんと明確化するという意味での特則の制定が必要であるというのが我々の意見です。

○髙木委員 冒頭に新しい民訴法の改正の有効性のようなことを教えてほしいというお願いをしたのですが、先ほど菅野先生も運用の問題で話し合うようにという御示唆もありました。春日委員からは民訴法の改正法案の計画審理の考え方の延長線上で証拠開示の問題もやればかなり有効ではないかという御趣旨の発言がありましたが、その辺が運用も含めてかなり有効であることがそれなりに見通せるのなら、特則までなくてもとかいろいろな考え方が出てくると思うのですね。
 裁判所と弁護士会でお話をされるとしたら、例えば解雇事件などの場合に訴訟手続が始まる前に、労働側に対しては使用者に開示を求める書証のリストとその必要性を記載した書面を1週間以内に出しなさいと、もちろん裁判所は釈明権を行使されるかどうかの御判断もできるだけ短期間に示していただきたい。使用者に対しては解雇の正当性の主張と、求められる証拠の提出は1か月以内に、労働者に対しては反論とその反論に当たっての証拠の提出は2か月以内にしなさいという具体的な運用のガイドラインのようなものを、規則化するしないはともかくとして、協議していただくならその辺まで議論していただいて、多分こういう流れでやっていっていただいたら、証拠開示もかなり現状改善になるなと、例えばそういう準備をしておいて3か月後ぐらいからは証人尋問を始める。始めてからいろいろな証拠が、どうしてもいろいろな事情があって出さざるを得ないときはしようがない面があるかもしれませんが、原則は準備の段階で用意したものでそれぞれやるという具体的な運用のガイドラインのようなものをお話しするなら、その辺のレベルまで一遍詰めていただく。
 その結果、これがあれば特則はなくてもいいということであれば、それはそういう世界に委ねてしばらく回していただいて、結果的には鵜飼委員が言われるにそう簡単に出てこない……先ほども労働弁護団の2ページの4(1)、例えば⑤は出てくるのがなかなかきついとか、⑥の人事考課表などもそうだと思いますし、判断していただく際のポイントが⑤にあるのだということが何となく察せられるのだけれど、それがなかなか出てこないとか、そういうものをしばらく回してみていただいて、やはり出てこないというのならまた次の手段を考えるということもあろうかなと思います。
 いずれにいたしましても、運用問題を議論されるときはかなり具体的にお考えいただいて、こういうことでお互いにやりましょうぐらいの踏み込んだ話をしていただいたらいいのではないかと思います。

○石嵜委員 鵜飼委員が説明した「労働訴訟手続の特則の試案」をもとに、またこういう形で議論になれば、経営法曹も日経連もこれについて意見を書く、したがってこういう文書の出し合いがいいかどうかは、前回、髙木委員から言われたとおりだと思うのです。したがってこれを読んでおりましたが、できる限り触れないようにしておいたのですけれども、私自身はこれをまた経営法曹に持っていって議論しようというのは余りやらないほうがいいのではないかと思っています。
 ただ、1つだけわかっていただきたいのは、運用のガイドラインのような形で、それに従えなくても拘束されないという形であれば企業側も乗れると思うのですが、このように使用者に対して第1回口頭弁論期日までに解雇の理由とその具体的事由を記載した書面と証拠を出せ、これを出さなかったら原則として訴訟で使わないなどと言ったら、それは第1回審理期日までにどのぐらいの期間をとるのか。加えて労働事件といっても、私が常に言っているのは、大企業のイメージだけで議論しないでください。そこでは4分の1の労働者しか働いていない。30人以下の零細企業で多くの紛争事案があって、加えてそこが基本的には救済を求めるチャンスが少ないから、したがって簡易に定型的な訴状でやろうという議論をしているときに、そういう使用者にこんなことを求めたら仕事をやっていられないので、はっきり言って会社はつぶれます。私たちが考えたらそういう感覚になります。
 加えてこの部分については、ある程度の企業規模についた弁護士でさえこれがきちんとできるかというと、これは難しいのです。だから労働事件は特殊性があって、私たちのような労働弁護団や経営法曹と別にいるわけであって、弁護士がついてもそう簡単にいきません。したがって、普通解雇の理由はいわゆる控訴審でも追加することを裁判所も認めているし、そういう現実実態を考えて、ただこういう形でできるだけ出すように努力しようと、大企業ならそれはできるではないか、したがって運用の世界で大企業には裁判所が強く求めるとか、こういう話で迅速化するというならそれはわかるのですけれども、一律の特則にこういう規定を入れられるなら、それはもう現実が動かない。ここだけは反論しておきたいと思っています。

○鵜飼委員 少しでも現在の労働裁判を利用しやすいものにして、いいものにしていこうという気持ちは全く同じだと思います。まず、多くの労働者が利用できないという現実があることはぜひ理解してほしいと思います。私はイギリスへ行ったときに、日本で相談している人たちがこのシステムなら利用できるのにと思ったことが何度あったかしれません。そういう意味ではもっと多くの人たちが利用できる裁判にしたいという思いがあるわけです。そのためには我々弁護士が今までなれ親しんだ実務や執務スタイルをある意味では変えらざるを得ないという点も当然だろうと思いますし、企業自身もそういう問題についての取り組む姿勢を変えなければいけないのだろうと思います。それが今後の日本をもっと健全に生き生きと生かしていく社会にするための大事な課題ではないかと思っています。
 そういう意味で第1回口頭弁論期日までに、例えば解雇事件で言うと解雇の理由やそれを基礎づける資料を出せという要求は、私はそれほど大きな強い要求だと思いません。これは解雇された労働者にとってはその賃金が途絶され、そして家族を抱えて本当にこれからどう生きていくか、これからどういう生き方を選択するかという大きな問題に直面しているわけです。一方で企業にとっては、それを準備する期間があります。その判断をする期間もあるわけです。そして、ある段階で経営判断として解雇するわけです。そうであるならば、それは国民の義務として、例えば30日後に第1回期日を入れるとして、それまでに解雇の理由を明らかにし、それを基礎づけるデータを明らかにするのは当然の責務ではないでしょうか。どんな中小零細企業であれ、私は最近は中小零細企業の人からも相談を受けますが、それは私は厳しく言っています。それはお互いの責任ではないかと思います。解雇ということを決断した以上はそれは当然の責務として求めなければいけません。だからこそ、1回期日に出ない、2回期日、3回期日にも出ない、そして解雇理由が後出しされます。一番大事な最良証拠は出されない。これがあるものですから空転せざるを得ない。裁判所も非常に苦労されていると思います。それはお互いに協力しようではないですか。そして、適正・迅速な審理をするためには、お互いが置かれた状況の現状から厳しい厳しいと言うだけではしようがありません。そういう意味でそういうところで、本来ヨーロッパ等でやっているようなことを日本でもやれないはずはない。
 実は先ほどの新しい民事訴訟法の改正で改善点がいろいろありました。計画審理については先ほど言いましたように、労働事件については必要的な計画審理にすべきだと思います。もう一つ、提訴予告後の証拠収集も私は一歩前進だと思いますが、現実には弁護士会照会等でかなりやられています。しかし裁判提訴の前にできるのはいいのですが、これも時間がかかるわけです。弁護士照会とほぼ同じぐらいの時間がかかります。当事者照会は現実にも利用されていませんし、裁判になった場合は裁判所における釈明権の行使によって十分できます。書証の整備のところの釈明権の行使と文書の提出がありますが、実は現在、文書提出命令は非常に使い勝手が悪いわけです。争いがありますと、任意に出さないと1つの事件として立件されて抗告されると相当時間がかかります。差別事件で審理が延びるのは、文書提出命令をめぐる争いが高裁にいって、その間は審理ストップということがあるわけです。そういう意味ではイギリスにありますように、争点整理、証拠整理の段階で裁判所が双方に対して適正な訴訟指揮をしてその提出を求める。そして、それが早くそろって、基本的に1回の証拠調べ、証人調べで、この証人調べも新鮮な段階における証人調べの印象は非常に大きいわけです。そこできちんと集中的にやる。これは、私たち労働側の弁護士にとっても負担が重くなりますが、これもあえてやろうと。そういう人的態勢も我々は労働法制委員会で整えようと思っています。そういうところが現状維持の立場で言いますと何も変わりませんので、3,000件しか利用できないという現状を踏まえて、基本的な改革はすべきではないかと思っています。

○石嵜委員 裁判を利用できないので、裁判の窓口をもっと広げよう。これ自体に我々は反対しているわけでもなければ、現実に定型訴状という形で簡易な訴状でできる、そしてその部分の促進については我々も反対しているわけではない。ただ、それをやったときに第1回期日について、1か月で出すように努力しろという話ならまた別として、原則としてそれ以降に使用者が解雇保全の理由を具体的事実を追加して主張することはできないという形で、すべてのリスクを使用者側に負担させるという話には乗れないと申し上げているだけです。基本的に考えていただきたいのは、懲戒解雇であれば懲戒の事由という形での具体的な議論ができます。
 ただ、普通解雇の場合は将来的雇用継続ができない、つまり将来的な雇用継続に伴う信頼関係が破壊されたという観点から見れば、いろいろな具体的な事実、最初は使用者が見た1点だけではなくて、ほかにもいろいろな観点がある。したがって、そういう事実が多く追加されるわけですね。就業規則も、一般条項を含めても7つか8つあるけれど、その一般条項に当たる具体的事実もいろいろ出てくる。そこをうまく抽出できるかどうかも、これは長年の労使関係に富んだ弁護士がつくか、それ以外の弁護士か、または素人かでは違うわけですから、そういう意味で私が言っているのは、そういうことを考えた上で、企業規模やそういう形の人たちの現実を踏まえたら、1回目で原則として切り捨てるような話は絶対に乗れないと申し上げているだけで、ただ、迅速化を図って多くの人を救済したいという部分について反対しているつもりではありません。

○山口委員 労働弁護団の特則の関係では、これは1つの試案ということで御努力されたのだろうと思いますが、ざっと見ても、実際にやっているところもあるし、やっていないところももちろんありますが、そういう意味で言えば現状の改善ということでできる部分は相当あると思います。
 その際には髙木委員が言われたように、具体的に訴訟の進め方として通常の解雇事件の場合はどの時期までに大体どのようなものを出して、その時期までにどういう書証を出して、どの時期までに必要な証拠調べ、あるいは和解の勧告をして、この程度で終わらせましょうというイメージができていけば一番いいのだろうと思います。そういう意味で言えば、具体的に早い段階で出せる主張なり証拠は、定型的なものがあれば早く出すようにルールづくりができていけばいいと思います。そのほかのものについて、出していない証拠についてどこまでのものであれば強制的ではない形で出せるかというルールづくりもやっていけばいいと思います。そういう個別的な事件の実情に応じた形での主張あるいは証拠の提出時期等を、大まかなイメージになるかもしれませんが、大体の共通認識にしていけば、この事件ではこうやっているわけだからほかの事件でできないはずはないという形でだんだん浸透していくようにも思いますので、そういう意味での具体的な場面でのお互いの認識の共通化を図っていき、そういう実態を踏まえて手続法なりを考えていくということは当然必要になると思いますので、現場の裁判官あるいは代理人はそういう努力を今以上にやっていく必要があるのではないかと思っております。

○鵜飼委員 山口委員の御意見、私も全く賛成で、こういう問題についての議論の場をぜひお願いして、私どもも協力したいと思います。私もこの案で第1回期日を原則と言っていますが、例外は当然認めるわけです。ただ、きちんとしたルールをつくることによって使用者の側も解雇について慎重にならざるを得ない、解雇についてはきちんと準備をして、裁判になったときにはこういう理由で解雇した、こういうデータがあると出せるような準備が必要になってくるということが1つのアナウンス効果としてありますし、さらには、企業内における苦情処理、紛争解決のシステムの形成に役立つことになります。そういう意味では、外国等でこういうルールかできているのはそれぞれの問題について企業に対する内部ルールの確立のインセンティブ等にもかかわる点がありますので、今はちょっときついかもしれませんが、高いハードルで目標を設定すべきではないかと思います。

○山口委員 労基法で解雇権濫用法理が書き込まれることで、また中小企業の方の解雇の実情もあるいは変わってくるのかもしれませんので、そのことも考慮する必要があるのかなとも思ったりします。

○鵜飼委員 解雇の理由に関する書面も予告段階で出すということになりますと、その理由書にその他一般的なわからないことが書いてあったら困りますけれども、解雇理由書に書いてある内容を中心にして解雇の理由をめぐるそれぞれの主張立証を行うということになれば、より明確にはなると思います。

○山口委員 当然、労働者側はそういうお考えだし、使用者側の方も多分異なったお考えをお持ちだろうと思いますので、そういう意味では本音のところをもう少し率直に議論し合って合意形成できるようなルールづくりを考えていくことが必要なのではないかと思います。

○山川委員 運用に関することでもあるのですが、先ほども申しましたように、新民訴法ができると審理の計画の効力ということで一定の法的効果に結びつけられるということもありますから、具体的な運用の協議と審理計画に盛り込むようなことをどのように現実に考えるかを含むのであれば、一定の制度的なものにも結びついていくのではないかと思います。それを労働事件の中でどういう形にしていくか。要綱には「特定の事項について」と書いてありますが、労働事件の場合にはこれをどのように考えるのかは、一方的に何かを決めるというよりは、それぞれ関係当事者、代理人でお話をされるのが一番いいかと思います。文書提出命令などは多分そういうところもあろうかと思いますので、がっぷり四つに組んで高裁まで争うというよりは、こういうものは出しますということを合意して争いを少なくしたほうが、紛争の解決という点では有効だと思いますので、そういう点も俎上に乗せられればと思っております。

○石嵜委員 今日は話がいろいろなところへ飛んでしまったので1つだけ、基本的に労働関係事件としてどこまでとらえるかということで、資料86をいただいて、労働関係は争点内容として「以下のようなものが一応考えられる」とありますね。
 これがまず最初にキーになるわけですから、この記載の中で自分の意見としては、1つはどこかで意識されているのかもしれませんが、降格がとても増えています。つまり、人事権で職位を下げるのは私は「降職」と呼ぶのですが、それ以上に外資系は中途採用者が多くて、その段階で採用のときに本人の業務遂行能力とか期待するものでグレードを決める。このグレードによって賃金を払う。それで途中を見ていてそれが該当しない場合、グレードに応じた職務提供ができていない、アウトプットができていないとすると、本来これは地位特定のような契約内容の債務不履行として契約を解消する場合と、グレードを下げる場合とがあり、後者のグレードを下げられるかということが外資系企業の相談がほとんどこれなのですね。したがって、労働関係事件についてグレードを下げること自体が賃金が下がるということでこの「賃金」の項に含まれているのか。やはり降格を人事権の枠の中で考えるのかということがありますので、この部分で降格が1つ落ちているのではないかと思います。
 次に労働災害の安全配慮義務違反の項は、この関係で法務リスクとして企業で考えているのは過労死、過労自殺ですけれども、過労自殺は今のところ東京地裁の取扱いは損害賠償請求で、労働専門部でやっていませんね。11部、19部や36部ではなくて、普通の民事の方でやっていますね。

○山口委員 交通部の方でやっていますね。

○石嵜委員 そうですね。正直言いますと、自殺事件を持っていますので、私としてはやはり違和感を持っておりまして、何故に典型的な労働問題、健康管理問題がなぜ交通部にいっているかが私は絶対に理解できない。そういう意味でここに安全配慮義務として労働災害が挙げてありますので、その趣旨は今は東京地裁の取扱いが違うことを認識しておいていただきたい。
 労働関係の特則の整備をするということは、鵜飼先生がおっしゃいますように、証拠の偏在とか労働者の従属性という使用者と労働者個人の立場での契約を展開した議論でこういう話が出てくるとすると、争議行為というのは確かに民事事件で出てきはしますけれども、憲法28条は団結させ、そして交渉権を与えて争議権を与えることによって労使対等の立場をつくった、この前提に立った事件なのですから、これを労働関係、個別労使紛争の中心のものに含めるのか、ここは議論すべきではないだろうか。そうすると、特則なり何かの議論があるすれば、本当にそれが対等性を前提とした労使紛争の方に利用できるのかということがありますので、確かに髙木委員の方は利用できる範囲でとおっしゃっていますので、十分御認識された御発言をされていると聞いてはいるのですが、ここは争議行為を含めるかの議論があるのではなかろうかというのが、私の[1]に対する意見です。

○鵜飼委員 それとの関係で、労働条件の不利益変更がないのでどうしてなのかと思ったのですが、私の意見は、この前も石嵜委員からもありましたように、これこそむしろ使用者側が申立てをするジャンルの1つではないか。これは一方的に不利益変更を強行する前に、これでいいのかということを出すことができれば、使用者側にとっても労働者側にとっても、あるいは労使自治という観点からも非常にいい。これは借地借家の場合の賃料増額増減の事件のような調停になじむケースかなと思いますので、その辺も念頭に置いていただきたいと思います。

○山口委員 先ほどの労災の関係ですが、私も詳しくは知りませんが、いろいろ歴史的ないきさつで交通部で、交通部も特殊部なので一般民事部ではないのですが、そこでやるようになったと伺っています。損害の算定の問題などいろいろあってそういう形になっているという歴史的経過があるので、これは労働関係事件ではないというつもりで東京地裁が扱っているわけではありませんので、その点を補足させていただきます。

○石嵜委員 従来の安全問題の中心の労災事件であれば、損害査定が中心だったと思うのですが、今は衛生問題、健康問題で労務指揮に関連した形での問題が大きくなっていますので、この辺はできればもう一度議論していただければと思っております。

○菅野座長 あと1点議論していただきたいのは、髙木委員も言われましたが、弁護士費用の敗訴者負担の問題で、アクセス検討会の方で一般的な検討が行われているようですが、労働関係についての意見があればそちらに伝えることもできますので、今日の一巡目でも御意見のある方はおっしゃっていただきたいのですが。

○鵜飼委員 先ほども申しましたように、弁護士費用がわからないから裁判に出せないという声も相当あります。実際に日弁連の規定によって弁護士費用を考えますと、解雇事件でも着手金が100万円か200万円ですね。そして報酬が300万円、400万円となっていますし、我々労働側はとてもそういうものを要求することはできない。ですから現実は規定違反でやっているわけです。しかし、日弁連として報酬規定をどうすべきかと議論されていますので、弁護士費用については当事者がわかりやすいものにしなければいけないと思ってこれから検討したいと思いますが、敗訴者負担ということになりますと、ただでさえアクセスが難しい状況の中で、労働側はさらに裁判を提訴できなくなってしまう。労働事件については絶対に導入すべきではないと思います。イギリスでもそうですし、敗訴者負担という制度は聞いていませんで、むしろアクセスをどのように容易にするかということで制度的な工夫をしている状況ですので、私はこれは導入すべきではないと思います。

○菅野座長 この点についてほかにはいかがですか。
 それではほかの点でも御意見をいただきたいと思います。

○髙木委員 お話のあった争議行為に、いわゆる労組法7条の世界とは趣の違う、例えばストライキの差止め仮処分申請とか、私どもも過去にいろいろなものに行き当たって、例えば平和条項違反か否かで争うとか、もちろん争議行為ですが集団的な論理の世界ですから、個別労使紛争とはかなり趣は違うのですが、そういう意味では争議行為は集団的な事件という類型で、一部の山猫ストライキ等はちょっと別にして、広い意味で言う不当労働行為絡みばかりでない争議をめぐる争い、例えばコンビナートの中における争議に関する争議協定の解釈をめぐって出荷拒否をどうこうとか、そういうことが結構あるものですから、そういうことで私は先ほどああいう意見を申し上げたのですが。
 民事法律扶助で労働事件とは何ぞやという仕分けは難しいかもしれませんが、どのぐらい使われているものかということで、データなどはありますか。

○鵜飼委員 それは調べればあると思います。ただ、破産事件や債務整理が圧倒的なウエートを占めて、もうパンク状態になっています。それで労働事件はなかなか扱いにくいという現状がありますが、これをどう改善していくかということですね。
 もし必要があれば出せますね。法律扶助のデータは労働事件として特に計上されていないでしょうか。非常に少ないと思います。

○矢野委員 訴訟費用で、仮に弁護士費用の敗訴者負担制度を導入するとなった場合の扱いですが、負担額を当事者に予測可能な合理的な金額とするという試みがあれば、あえて労働訴訟は例外であるとする必要はないのではないかと思っております。
 今のルールが訴訟をやりにくくしている、仮処分も入れて3,000件という数字が多いか少ないかという問題ですが、それだけをもって海外の例と比較するのは少し難しい点があるのではないかと私は思います。企業内の自己解決能力が落ちているのが心配だというのは再々申し上げましたけれども、欧米に比べると日本の場合はそういう意味での当事者間の自己解決能力はまだ高いのではないかとも見られるわけですね。これをどのように評価するかということですが、そういうふうにも思いますし、欧米のいろいろな状況を見ておりますと、ああいう訴訟社会になっていいのかどうか。これは労働問題だけではないのですが、全体のほかの民事一般、刑事も含めていいのかどうかという疑問はまた一方であるわけですね。
 そうは言っても、本当は争うべきを泣き寝入りしているという事態はないにこしたことはないので、そのためのアクセスなどの便宜を図るということを考えていけばいいのではないかと思うわけです。一般ルールから外して労働訴訟を特出しにすることは、私はかなりまずい考え方なのではないかと思っておりますので申し添えておきます。

○鵜飼委員 敗訴者負担については特別な扱いというよりも、訴訟を萎縮させるような事件類型についてはそれは導入してはいけないと、これは審議会の意見書に書いてありますし、もともと労働事件だけなのかといういろいろな批判があって、労働事件という名指しはなくなったという経過があります。したがって、裁判の見通しは非常に難しいという声が挙がっていますし、そういうことがあって労働者側がほとんど99%提訴側になるということから言いますと、それは萎縮効果があって、労働事件については例外というよりも導入すべきではないと、意見書に書いてあるような事件のカテゴリーに入ると考えてしかるべきだと思います。

○髙木委員 訴訟費用自体の低額化といいますか、労働弁護団のペーパーにも書いてありましたが、訴訟費用等に関する法律4条の特則のような感じで例の95万円以上は95万円とみなしてほしいという意見も結構あります。

○菅野座長 ほかの方はいかがでしょうか。
 ほかの点でも結構ですので、意見の足りないところをどうぞ。もう少し時間がありますので。
 よろしいでしょうか、大体予定の時間となってきたのですが、もちろん論点の議論が十分でない点もあろうかと思いますが、4の労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否についての一巡目の議論としてはこのぐらいにさせていただきたいと思います。
 今回の御検討を踏まえて、事務局においてある程度議論の整理・検討をしてもらった上で、二巡目の検討でさらに詳細な議論をいただきたいと思います。次回は論点項目の中間的な整理の「5 労働委員会の救済命令に対する司法申請のあり方」について御検討いただくことになっております。これもこれまでと同様に事務局に、特にポイントとなる主要な論点、それらの論点についての検討資料を準備してもらいまして、それらを参考にして検討を進めていきたいと思います。その際には、現在厚生労働省で検討を進めていただいている不当労働行為審査制度のあり方に関する検討状況を御紹介いただいて、あわせて検討の参考にしていただきたいと思いますが、それでよろしいでしょうか。
 それでは、熊谷委員は次回の準備をよろしくお願いいたします。
 最後に事務局から次回の日程の御説明をお願いします。

○齊藤参事官 次回(第16回)は3月7日(金)午後2時から5時を予定しておりますので、よろしくお願いします。
 なお、敗訴者負担の問題について一言申し上げさせていただきます。この問題は、アクセス検討会の方で検討しておりまして、こちらが本籍の検討会だと考えております。いずれ労働検討会とアクセス検討会との調整ないしは連携の問題が出てくるかと思いますので、委員の方々にはこの点も早めに、大体どういう御意見かということをお聞かせいただけるように御準備いただければと思っております。アクセス検討会の検討に時期を失してこちらの検討会が後追いということはちょっとまずいかと思いますので、そのあたりを御配慮いただければと思います。

○菅野座長 そのほかに御発言はございますでしょうか。
 なければ、本日の検討会はこれで終了いたします。長時間にわたりありがとうございました。