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労働検討会(第16回)議事録



1 日時
平成15年3月7日(金)14:00~17:05

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、春日偉知郎、熊谷毅、後藤博、髙木剛、村中孝史、矢野弘典、山川隆一、山口幸雄(敬称略)
(事務局)
松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、松永邦男参事官、齊藤友嘉参事官、川畑正文参事官補佐

4 議題
(1) 論点項目についての検討
・ 労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方について
(2) その他

5 議事

○菅野座長 定刻になりましたので、ただいまから第16回労働検討会を開会いたします。
 本日は御多忙のところ御出席いただきましてありがとうございます。
 まず、本日の配布資料の確認をお願いいたします。

○齊藤参事官 資料88は、中間的な整理でございます。再配布させていただいております。
 資料89は、「処分の取消訴訟において審級省略等が採用されている行政手続の例」でございます。事務局の方で参考までに一覧表を作成させていただきました。
 資料90は、「救済命令取消訴訟事件関係統計資料」でございます。
 資料91は、「労使関係法研究会報告においてこれまで指摘された不当労働行為の審査に関する主な内容」でございます。これも再配布させていただいております。
 資料92は、「労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方についての主要な論点」、1枚物でございます。
 資料93は、「労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方についての検討資料」でございます。
 資料94は、「不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会中間整理」でございます。厚生労働省からの資料でございます。
 資料95は、鵜飼委員の提出資料でございます。
 参考資料といたしまして、労働弁護団から厚生労働省宛に提出された「不当労働行為審査制度の在り方についての意見書」を配布させていただいております。
 以上です。

○菅野座長 それでは本日の議題に入ります。
 本日は、資料88の論点項目の中間的整理のうち、「5 労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方について」の主要な論点に関して、1巡目の検討としておおよその基本的な方向性を議論していただきたいと思います。
 検討のための参考資料として、これまでと同様に事務局において検討上特にポイントとなると考えられる主要な論点をまとめた資料92、中間的な論点整理に即して関連条文や関連事項を整理した資料93等、幾つか資料を用意していただきましたので、これらをもとにしながら十分御検討いただきたいと思います。
 まず、事務局から資料の御説明をお願いします。

○齊藤参事官 本日、配布させていただいております資料のうち、事務局で作成した主なものについて御説明申し上げます。
 まず、資料89の「処分の取消訴訟において審級省略等が採用されている行政手続」でございますが、これは現行の行政処分手続のうち、その処分の取消訴訟に関して審級省略、実質的証拠法則等が採用されている主な制度につきまして、取消訴訟での取扱い、処分手続の概要等を簡単に整理したものでございます。本日の議論の参考にしていただければと存じます。
 次に、資料92の「労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方についての主要な論点」ですが、これは従前の例にならいまして、本日の検討項目の主要な論点について整理させていただいたものです。1巡目の議論といたしまして、これらの点を中心に基本的な方向性を御議論いただければと存じます。
 資料93は、本日の検討の資料として、従前の例にならって作成させていただいたものでございますので、これも御参考にしていただければと存じます。
 以上でございます。

○菅野座長 労働委員会における不当労働行為の審査制度につきましては、現在、厚生労働省の「不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会」において検討が進められておりますが、今般、資料94のとおり中間整理が行われたということでありますので、その内容について、当検討会における検討の参考として、熊谷委員から御紹介をお願いしたいと思います。

○熊谷委員 それでは、資料94で御説明させていただきます。この不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会でございますが、資料が2つついておりますが、後ろの本体の9ページに委員の先生方のお名前がございます。法政大学の諏訪先生を座長といたしまして、この研究会にも参加しておられます村中先生、山川先生ほか、資料にありますような先生方にお集まりいただきまして検討を進めているものでございます。
 この研究会は平成13年10月から、不当労働行為審査制度に関して審査手続の迅速化、司法審査や地方分権との関係について、関係者に対するヒアリング等を実施しながら検討を行っているものでございます。この研究会の最終的な検討結果の取りまとめに向けまして、不当労働行為制度の現状、問題点、見直しの方向について共通の認識を形成する目的でこの中間整理は行われたものでございます。内容につきましては、「ポイント」という薄い方の資料で御説明申し上げたいと思います。
 まず、不当労働行為審査の実態でございます。新規申立件数を見ますと、初審である地方労働委員会におきましては、平成13年が341件になっております。長期的に見ますと、昭和40年代後半が800件程度で非常に多かったわけでありますけれども、その後、平成に入りまして300件を割り込むぐらいの水準まできたのですが、ここのところまた景気が悪いせいか、やや数が増えつつあるようでございます。
 再審査は、中央労働委員会の方は平成13年で64件でありまして、これも過去と比べますと減ってはきていますけれども、数の上ではやはり持ち直しつつあります。
 (2)の処理期間でございますが、平成11年から13年の平均をとっております。平成11年から13年に終局したものですけれども、地方労働委員会におきましては797日、再審査である中央労働委員会においては1,529.7日になっております。御案内のとおり、労働関係民事訴訟事件では平成13年の平均審理期間は13.5か月でございますので、いずれもこれに比べて長くなっている状況でございます。
 (3)の不服率でございます。初審命令に対する不服率は、初審命令について再審査の申立てが行われたものと取消訴訟が提起されたものとを合わせたものでございます。78.1%が過去3年の平均でございます。さらに中労委の再審査命令に対する不服率は、取消訴訟が提起されたものの割合でございますが、58.3%になっております。
 いわゆる取消率でございますが、まず初審命令につきまして、中労委の再審査によって変更された率は55.6%が過去3年の平均でございます。中労委の再審査命令に対する取消訴訟判決による取消率は過去3年では41.4%でございます。
 その下に注で書いてございますが、行政事件訴訟全体の認容率は21.5%と承知しておりますので、この取消率、変更率は一部取消等も含んでおりますけれども、行政事件訴訟全体に比べますと、かなり高い水準にあるわけでございます。
 2の問題点でございますけれども、まず、何といっても一番の大きな問題は審査の遅延であるという指摘がなされております。その審査の遅延の原因といたしましては、資料に5点挙げてございますけれども、①は、争点・証拠の整理が十分行われていない上に、多数の書証の提出がなされたり、あるいは当事者の求めによる多数の証人尋問が行われていること。②は、関係者の日程調整が困難で期日の間隔が長くなっているものがあること。③としては、命令の決定について公益委員全体の合議によっております。中労委では15人、地労委で一番大きい東京は13人ですが、こういうことから合議の日程を多数回確保することが困難となる場合があること。④は、命令書に争点とは余り関係のないようなことも含めて労使関係の経緯が詳細かつ幅広く記載されがちであること。⑤は、公益委員が非常勤であること、ローテーション人事のために事務局職員に専門的な知識・経験が蓄積されがたいこと。この5点が審査の遅延の原因として挙げられているところでございます。
 2番目の問題といたしましては、労働委員会命令に対する不服率、取消率が高い点でございます。その原因として、先ほどの遅延の原因と類似する面もありますが、4点挙げられております。①は、争点・証拠の整理や事実認定が的確に実行されているとは言いがたいこと。②は、初審や再審査において要請があったにもかかわらず提出されなかった証拠が取消訴訟の場で初めて提出される場合があること。③として、命令書に労使関係の経緯が詳細かつ幅広く記載されたり、理由の記載として明確性を欠く面が見られること。④として、公益委員が非常勤であることと、事務局職員の多くは高度な法的知識等が十分でないことが挙げられております。
 以上2つの問題とあわせまして、さらに2点指摘されております。1つ目は(3)の上の「・」でございますが、労働委員会が果たす重要な機能となっている和解が法律上位置づけられていないこと。これは地労委に申立てられた事案の74%が取下げ和解ですし、中労委にいって和解になるものも半分ぐらいございますので、最終的には労働委員会に申立てられた事案の8割強が和解として解決されていることが背景にございます。
 また、和解と審査の関係といたしまして、争点・証拠の整理を十分行わないままに和解のための期日が重ねられているケースが見られる。これが審査の遅延につながったり、的確な命令を書けない原因になっている面が見られるということでございます。
 もう一つは、地労委に対する国の規制によりまして、地域の実情に応じて弾力的、機動的な体制整備ができないということでございます。法律あるいは政令で各地方労働委員会の委員定数はすべて決められておりますし、事務局の体制につきましても、例えば事務局次長2人以下を置くとか、担当の課を置くなど事細かく国のベースで決められている点が挙げられております。
 3として、見直しの基本的方向でございますが、こういう問題を踏まえまして、不当労働行為審査制度の在り方については次のような方向で、法的整備も含めた制度の具体的な見直し策についてさらに検討を深めるべきであるということでございます。
 まず、1点目は事件処理の迅速化等でございます。この対応といたしまして、審査手続の改善と審査体制の改善と2つに分けて整理がなされております。
 審査手続の関係では、まず1つ目は、事件処理を計画的に進めるための枠組みをつくることが効果的ではないかという指摘がなされております。
 2つ目は、審査については公益委員がより主体的かつ的確に争点・証拠の整理等を行うことを可能とし、迅速な事件処理を実現するため、公益委員の権限や審査の実施方法に関する条件整備を検討すべきであるという指摘がなされております。
 3点目は、審査が長期化した場合等に不当労働行為審査制度による早期救済の実現を可能とするための工夫や、審査の迅速化と適正な和解の推進とを両立させる工夫も必要ではないかという指摘がなされているところでございます。
 次に、審査体制の改善でございます。1つ目は、争点・証拠の整理、命令書の作成等を的確に実行できるようにするため、公益委員や事務局といった審査体制について充実強化すべきという指摘でございます。
 これとあわせまして2つ目は、公益委員や事務局職員の審査事件処理能力の習熟・向上にも努めることが必要ということでございます。
 (2)といたしまして、その他の検討課題ということであわせておりますが、その1つ目は、先ほどの問題点に対応いたしまして、和解を法律上位置づけるということでございます。さらにもう1点は、地労委に対する国による規制を緩和することを検討すべきということでございます。 そのほか、さらに検討すべき課題として指摘されておりますのが、再審査が担うべき機能の在り方、審級省略・新証拠提出の制限等労働委員会命令に対する司法審査の在り方についてはさらに検討すべきであるという指摘になってございます。
 以上が中間整理の概要でございますが、若干つけ加えさせていただきますと、最後の労働委員会命令に対する司法審査の在り方についてでございます。これまでの研究会での議論の中では、審級省略を実施すべきという意見をおっしゃる先生もいらっしゃいますし、証拠提出の関係で、先ほどの不服率、取消率が高い原因に証拠が訴訟の場で初めて提出されるということが出ておりますけれども、そういう行為は不当労働行為審査制度の意義を損なうものではないかという意見も出されているところでございますが、基本的には司法審査の在り方を検討するに当たりましては、これまでの関係者のいろいろな見解をもとにいたしますと、労働委員会の審査の主体あるいは手続という面で司法に準ずるものということが言え、実質的に裁判所の第一審に代替し得るものとして評価できるかどうかという点が審級省略の場合はまず問題になるわけですけれども、そういう議論の前提となる審査手続あるいは審査体制の改善・整備につきまして、現在はまだ具体的な改善策までまとまっている段階ではありませんので、今後その辺の具体策の取りまとめとあわせて司法審査の在り方については検討すべきではないかという趣旨で、このような表現になっているものでございます。
 なお、この研究会につきましては、この中間整理で示された見直しの方向に沿いまして、今後具体的な見直し策についての御検討をいただくことになっておりまして、おおむね7月ぐらいには最終的な報告を取りまとめていただきたいと、事務局としては考えているところでございます。
 私からは以上でございます。

○菅野座長 ありがとうございました。
 今日、議論していただきたいのは、資料92をごらんいただきたいと思いますが、事務局の方で先ほど御説明のように、本日の課題についての主要な論点をまとめていただいたものでありまして、ごらんいただきますと、1は「労働委員会の救済命令に対する司法審査制度の現状と評価」となっております。労働委員会の救済命令に対する司法審査制度の現状のどこに改善を要する問題点があるのか、これらを労働委員会制度の意義、目的、現状、司法審査の役割などに照らして具体的に議論していただきたいと思います。審議会意見書では「事実上の5審制」が問題状況として、問題提起されておりますが、これについてもこの議論の中で改めて認識し、その状況をどう考えるかを議論していただきたいと思います。
 2は「労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方」で制度の在り方ですが、(1)はいわばその総論のようなものでありまして、救済命令の取消訴訟の審理についてどのようにして審理の充実、あるいは迅速化を図っていくかということを制度上、運用上の対応として議論していただきたいと思います。
 (2)の審級省略の当否、(3)の実質的証拠法則の当否、(4)の新主張・新証拠の提出制限の当否は、本日の検討項目の中の主要な制度的論点ということで掲げさせていただきました。これらについて、具体的な制度がどう変わるか、あるいはどう変えるべきかということを念頭に置いて、その必要性、それを必要ならしめる問題状況について改めて具体的な制度的な論点との関係で議論していただきたいと思います。
 それらの点は掲げておいたとおりでありますが、これらについては資料93の別添3があります。これにおいて司法制度改革審議会当時の労使の考え方、関係機関の考え方を抜粋して皆様の参考に供させていただいております。(2)から(4)の制度的な論点を議論する上では、地労委の救済命令の場合と中労委の救済命令の場合とでどう違うのか、あるいは同じなのかという点にも留意した議論をしていただきたいと思います。
 これらの論点は、労働委員会における不当労働行為の審査の在り方、ただいま熊谷委員から厚生労働省における研究会の検討状況の御報告があり、これとも関連しておりまして、そちらの方は直接の検討事項ではありませんが、しかし今日の検討事項に関連する限りで、それについての御示唆をいただいて結構だと思っております。
 このようなことで、最初は1と2(1)あたりまで、これは各論的な(2)(3)(4)の論点の総論の部分でありますが、この辺から議論に入っていただきたいと思います。
 どうぞ、どなたからでもお願いいたします。

○髙木委員 1と2(1)までですから総論的な部分になろうかと思いますが、私自身も中労委の委員を何年間か労働側でさせていただいたり、昔は地労委の委員もやらせていただいたことがあるのですが、そういう中で最近特にということで印象を得ておりますのは、不当労働行為制度が何のために設けられているのかという意義をどう認識するのかというところがちょっとおかしくなっているのではないかという点です。不当労働行為制度は憲法にあるいわゆる労働三権、もっと具体的に言えば労働組合活動について使用者はこういうことをしてはいけないというのが労組法7条に書かれることによって、もちろん正当な組合活動を行う限りは、その権利をきちんと保障するというのが不当労働行為制度の一番の意義だろうと思います。先ほど熊谷委員の御報告にもございました厚生労働省の御検討のペーパーにも、その意義については「労働者がその労働条件の維持・改善を図るため、団結して集団的に労働条件を決定するシステムを保障する」ための制度というような定義といいますか、とらえ方がございますが、そういう意味では場合によっては、これは労働弁護団の皆さんがお出しいただいたペーパーにも、私法上の権利の行使であっても、状況によっては不当労働行為となり得ることもあるという御指摘がございます。そういうことも含めて、不当労働行為制度の存在意義なるものをそれぞれがどのように認識しているのかというあたりを、もう一度お互いに再確認してみる必要があるのではないかと思います。
 労働委員会の現状は、これも例えば中労委における再審査で1,500日ぐらいかかっていて、これは平均で4年ぐらい。労働事件全般に言えることですが、不当労働行為事件についても、例えば団体交渉への応諾義務などで何年もかかっていたら始まらないわけで、まさにこれほどかかっているというのは、不当労働行為制度のそもそもの存在意義のようなことまで問われかねない。そういう意味では私もかかわってきた1人として責任の一端があるわけですが、先ほど熊谷委員の御説明にもあり、文章を読んでみると、随所で先生方の御苦労が入っている中間報告かなと思いますが、今のような状態を続けていたら労働委員会はもう要らないのではないかと、場合によっては地労委、中労委の2審構造がどうなのだという議論にまで及びかねない現状ではないか。そういう意味で、労働委員会制度そのものの存続さえ問われかねないという危機感を持って事に当たらないといけないのではないか、そういう現状ではないかと認識しております。邁進
 1の3つ目の5審制の問題状況ですが、確かに制度的には5審制というか、5回の関所をくぐることを余儀なくされている仕組みになっているわけですが、本当に1つの事案で5回も関所をくぐらなければいけないということが制度上はあり得べしということであっても、何とかしようという意味でのコンセンサスが本当にあったのか。そういう意味では労働委員会の審査が不十分だとかラフジャスティスだとかいろいろおっしゃる。あるいは労働委員会の側からは、裁判所は紛争は解決しても労使関係は改善せずという結果を残しているだけではないかと、双方がそういう批判をし合うばかりで、ではお互いにアドバイスし合ったり、こういうことをやればこういうことも何とかできるのではないかと、例えば先ほど御紹介があった公取委の審決に対して独禁法の80条か82条のようなものを、もし労働組合法にそういう趣旨のものを書き込むとしたら、どういうことがないと書き込めないのかということについての努力をそれぞれがしてきたのかどうか。
 そういうことも含めて現状は関係者全員が他人任せにしてきた、あるいは改善努力を怠ってきたその結果がこういう状況を招来している。こう言うと村中先生や山川先生は検討会の委員になっておられましたし、菅野先生も中労委の委員を長くおやりになっているので、表現が失礼だったらお許しいただきたいのですが、ともかく長い間このままよくやってきたなと言われてもしようがないのではないか。そういう印象ですが、こういう場を契機にして、例えば労働委員会の場は何をやらなければいけないのか、その道筋は先ほどの報告にございまして、これは7月ごろまでにさらに詰められるということですが、では具体的にどうするかということはまだありませんからこれからお詰めになるのだろうと思いますが、一方、労働委員会の側が努力されるとしたら、裁判所の方はどうしていただくかということについても努力がなければ、また同じことを繰り返すのかということになってしまいかねないのではないか。のっけから八つ当たりぎみのような話で申し訳ありませんが、そういう印象を持っています。

○鵜飼委員 三代川裁判官がヒアリングで、特に労働委員会の行政訴訟を審理する経過の中で組合員が誰もいなくなってしまうというケースを挙げられましたが、確かにそういう事件は我々も担当していて、これでいいのかという思いを痛感するわけでありまして、これは単に労使を越えて、裁判所も含めてそういう認識を持っていらっしゃるのではないかと思います。今の統計数字でも、これは命令の期間が出ていないのでわかりませんが、しかし初審、再審査で6年強かかっていますし、行政訴訟になりますと、仮に最高裁までいっても10年以上かかることは間違いありません。そういう実態にあることがまず1つの前提事実であります。
 この紛争の構造は、この前、労働紛争の構造のところで私が指摘いたしましたけれども、さらに不当労働行為事件についてはより明確です。憲法、労組法で団結権が保障され、団結権侵害に対する迅速かつ適切な救済として労働委員会制度が設けられている。これがだめだということであれば別ですけれども、これをまず基本的な前提とするならば、申立人は100%が労働側ですけれども、それが最終的な救済は10年以上たってしまう、そして誰もいなくなったという状況がその過程で生まれてしまう。これはいかにも異常であると思います。
 したがって、まずスタートラインとしては、憲法、労組法の原則に立脚する限りは、労使を越えて改革すべきであるという点の共通認識はまず持つべきではないかと思います。その上で、「事実上の5審制」をどうするか、労働委員会自体としてどういう問題点があってどのように解決すべきなのか。裁判所の司法審査のやり方はどうなのかということを各論で議論すべきでありますが、まず前提としての共通認識は、これは避けて通れない問題ではないか。特に私が痛感しますのは、団結権侵害でいろいろな類型はありますが、まず組合ができた段階です。最近は組合の組織率が減っておりますが、一方でこの厳しい経済環境の中で労働条件が切り下げられ、あるいは雇用形態も変わり、全体として非常に厳しい状況になっている中で、団結権を行使して組合をつくる動きが一方で高まっております。それに対して使用者側が残念ながらさまざまな形の組合つぶしを行う。これも歴然たる事実でありまして、団交拒否を初めとしてさまざまな働きかけをして組合脱退工作を行う。その段階で労働委員会がどれだけ十全に機能するのか。これは非常に重要なポイントですけれども、この現状からすると労働委員会制度は十分機能していないと言わざるを得ないと思います。
 そういう意味では、現状認識と改革の必要性について、私は少なくともこの11人の委員の間では共通認識が十分できるのではないかと思います。

○矢野委員 労使関係というのは継続的な関係です。その時の事件が起こって一発勝負もないわけではないのですが、それはあるにしてもやはり継続的関係の中での紛争でありますので、労働委員会の役割も、言うなれば判定的な部分というよりもむしろ調整的機能といいますか、そちらで事実上大きな役割を果たしていると思います。歴史的に見ましても、三者構成であることや、いろいろな条件の中でこれまで広い意味での労使関係安定の重要な役割を果たしてきたと思っています。
 一方、判定的機能を見ますと、取消率などであらわれているように、どうしても限界があるのではないかと思うわけです。判定そのものの公平性についてもいろいろな疑念が実は指摘されているわけでありまして、それはとりもなおさず労働委員会の限界を示しているのではないかと思うわけです。その判定的機能を強化すれば、あるいは裁判所に匹敵するような判定機能を持ち得るということになれば、また先の議論が生まれてくるとは思いますが、そのためには先生方の在り方に関する研究会でも指摘されているように、例えば公益委員は常勤でなければならないとか、事務職員ももっと専門性を高める必要があるなど、いろいろな条件整備が必要になってくるのですが、果たしてそれが可能であろうかと考えますと、現実的ではないと思うのです。
 法曹人口を増やそうと今進められておりますけれども、労働委員会の判定機能を強化するために新しい強力な体制をつくることは現実的ではないので、今のような当事者主義を尊重して運営していく、そして調整的機能によりウエートを置いて労使関係の安定化を図るのが妥当な線なのではないかと思うわけです。
 また、命令を出すにいたしましても、調整的な命令もあり得ると思いますし、条件つきの命令も実際にあるわけです。そうすることによって労働委員会ならではの紛争解決機関としての役割を果たしていけば、信頼関係は一層高まるのではないかと思います。
 そのように判定的機能の限界を考えますと審級省略や証拠の問題になるわけですが、裁判所のステップを省略するという意味の審級省略という議論にはつながらないのではないかと思うわけです。むしろ労働委員会の中での在り方、スピードアップの方法を考える必要がある。裁判のスピードアップのために前回議論が出て、石嵜委員の御提案にもあったように当事者同士で、全員の合意ができなければ会合が始まらないというのでなく、代表者が1人ずついればいいのだという取組み方もあると思いますので、いろいろ工夫すれば現在の制度の中でスピードアップは可能であろうと思います。
 それと、いろいろな事案があるのですが、和解になじむ事件かどうかをできるだけ早く見きわめて整理することが大事なのではないかと思います。そのためには当事者に互譲の精神が必要なのでありまして、そういう点から考えても、徹底的に妥協の余地はないというので時間がかかるケースもあるでしょうけれども、そうでないのであれば早く解決できる事件も増えるのではないかと思っております。

○山川委員 労働委員会に最近若干かかわるようになったのですが、まだ最近のことですので、とりあえず純粋に研究者としての立場から申し上げたいと思います。1つは歴史の話ですけれども、不当労働行為救済手続がどういう位置づけにあるかということです。もちろん昭和24年の労働組合法の改正で現在のような行政救済、不当労働行為の審査手続が導入されたわけですが、その際に司法審査の在り方自体も議論になっておりました。これは昭和24年3月段階のGHQの提案を受けた原案ですけれども、そこでは裁判所の関与として、命令が出された場合に裁判所に認証を請求するという文案になっておりました。その認証がなされた場合には、使用者・労働者は即時抗告、上告ができる。しかし、当時の行政事件訴訟特例法の訴訟を提起することができないという案になっておりました。それが昭和24年に国会を通過するまでに現在のような行政訴訟が可能な形になったという経緯があります。
 そのことの意味ですが、もともとアメリカの不当労働行為制度については、それ以外にも行政委員会の場合はそうなのですけれども、実質的証拠法則が適用されているために、裁判所の審査が通常とは変わった形にもともとになっていた。GHQの細かい資料までは見ておりませんので、ここは推測ですが、恐らくGHQもそういう発想で改正案を提案したのではないかと推測されます。それが現行の24年組合法のような形に落ち着いたのは、旧労働組合法で既に三者構成の労働委員会ができていて、調整や処罰請求のような機能を担っていて、行政救済は担っていなかったことの反映だと思います。さらにその淵源をたどれば、労働争議調停法という戦前の法律がありまして、そこでは全くの調停機関としての調停委員会があったということで、それが母体となって、もともと準司法的な判定機関としての性格を持っていない労働委員会が旧労組法のもとで存在したということがあります。そこに24年改正の過程で行政救済の権限を加えていった。このように、24年改正を始め、日本の労働組合法自体がさまざまな外国法を部分的に引き継いでできたものであるところに、ある意味では問題の根源があるのではないかと思っています。
 それが第1点で、それでは司法審査との関係でどのように考えていくかということですが、完全な司法審査が及ぶことを前提に考えますと、不当労働行為について労働委員会による判定手続を経ることに一体どういう意味があるのかということになります。例えば課税処分なら行政庁が職権で事実を調べて直ちに処分をして、別に審問などはしないということになるわけです。そのかわり行政処分が前提となって取消訴訟で争うことになって、その場合は完全な司法審査が及ぶわけですが、審問手続を経たものに完全な司法審査が及ぶということになりますと、その審問手続は一体何のために行っているのかということが理論上も問題になります。つまり、審問手続を経ることによって当然のことながら事件処理は遅くなるわけです。つまり簡易・迅速という点からすると、行政プロセスだけを比べれば、ある意味で課税処分と逆行することを制度として仕組んだということになります。
 こうした手続は何のためにあるのかということですが、昭和30年代の文献を見ますと、私人の利益を侵害する行政処分であるから手続を慎重にするためであるというような説明がなされているものがあります。つまり、審問手続を経ることによって保護される利益は何かというと、救済命令を出すときには侵害的行政処分であるから慎重にするということで、使用者側の利益を保護する。他方、棄却命令を出すときには、救済を受ける権利を制約、否定する決定を下すわけですから、慎重に行って労働側の利益を保護するということです。しかし、それが労働委員会の救済制度にとって整合的な説明と言えるのかどうかはやや疑問があるところです。
 もう一つは、もしそうでないとすれば手続違背ということが司法審査においてどういう意味を持つかというと、これも昭和30年代の文献ですが、手続違背は司法審査における取消原因とならないという少数説があります。つまりもともと完全な審査を裁判所で行うのであれば、そこで事実認定や判断をすればいいから、どんな手続をとっても命令は違法にはならないということが、後には否定されていきますけれども、学説として主張されています。
 つまり、行政救済の手続を経ることの意味がもともと現行法の中で説明のしづらいものになっている。ということは、完全な審査というものがもともとアメリカから行政救済制度を輸入する段階で、GHQは審査の制約を予定していたのかもしれませんが、完全な司法審査を行うことの問題性が十分意識されないままに、それが否定された形で導入された。どうもそのあたりが問題の根源ではなかろうかと思っています。基礎的な認識の部分ですけれども、長くなりまして申し訳ありません。

○山口委員 髙木委員から、八つ当たりか七つ当たりぐらいで裁判所の方も言われましたので、現状について、裁判所といいますか私の見方を少しお話ししたいと思います。
 現状の裁判所の救済命令取消訴訟の平均審理期間は、資料90にもありますように徐々にではありますが、改善されてきていると思います。平成14年で23.3か月という形で2年を切っております。しかし、裁判所の期間が短いと申し上げるつもりは全くありませんので。それでもなおかつ2年弱程度かかっているのが実情なのだろうと思っています。
 どうしてこのように時間がかかるかということで、これは前にもたびたび申し上げまして、責任を労働委員会に押しつけるというので怒られるかもしれませんが、基本的には労働委員会の審理に問題がある。裁判所に訴訟資料が上がって来る段階でいわばぐちゃぐちゃな状態になっていますから、それを整理して必要なところをえり分ける作業をすることにも相当なエネルギーを使わざるを得ない。そういう意味で裁判所から申し上げますと、入り口というかスタートラインである労働委員会の審理がきちんと短期間、一定期間にされないで、そのツケが裁判所に回ってきているというのが現状ではないかと思います。
 先ほど鵜飼委員の話にもありましたが、実際に裁判所で事件をやっていて、10年前の団交をなぜ今さら裁判所の方がやらなければいけないのかと、現実にその実務を担当しておりましても、その取消訴訟にかかわることが非常に虚しいといいますか、どこまで実際的な意義があるのだろうかと思うことすらあります。ですから、基本的には労働委員会の審理が長期化している現状を変えない限りは進まないのではなかろうかということが1つあると思います。
 そうすると、労働委員会の審理が長引いていることをどのように改善していくかということを、まず労働委員会の方でお考えいただくことが必要なのだろうと思います。中間整理では問題点が指摘されておりまして、まさにそのとおりだと思いますので、この問題点に基づいてどのような改善を労働委員会でやっていっていただくのか、それが最初に肝要なことではないかと思っています。
 同時に、労働委員会の命令につきましては、審理の長期化の問題と同時に、中身の適正さについてももう一度検討していただく必要があるのではなかろうかと思っております。基本的な認定なり判断について、怒られるかもしれませんが、裁判所から見て労組法7条の解釈として、これが本当に適当なのだろうかと思うこともありますので、そういうことから言いますと、そういうものが適当でなければ取消をやっていかざるを得ない状況がありますから、そういう意味で具体的な事実認定、判断の両面において、もう少しきちんとした形でやっていただきたい。それがひいては裁判所の審理の効率化にもつながるのではないかと思っております。
 「事実上の5審制」の問題につきましては、確かに救済を求める方からすれば、労働委員会だけでなく裁判所いう形でやっていかざるを得ない現状からすると、相当長期を要するということで不満はあるのだろうと思っておりますけれども、それも労働委員会の審理の長期化、あるいはその判断について一定程度の問題があることが前提としてあるわけですから、そこは基本的にはその問題点をどうすれば克服していけるのかということが議論の出発点としては必要になってくるのではないかと思っています。

○髙木委員 熊谷委員、先ほど矢野委員から、専従化や事務局の強化などできるはずがないというお話がちょっとあったけれども、そういうことに対して反論やコメントはないのですか。

○熊谷委員 今回の中間整理のベースで申し上げれば、審査体制の充実強化ということでありまして、問題点の指摘とあわせ読めば、公益委員の常勤化の問題や事務局における法曹資格者の活用等が議論になっているわけでございますが、この時点でできるとかできないと申し上げられるようなものではないと思いますけれども、私個人としては十分に検討に値するものだろうと考えております。

○石嵜委員 労働委員会に対する考え方は、私も矢野委員と基本的に同じなのですが、今の公益委員の常駐化、職員の専門化など労働委員会の判定機能をどこまで信頼するかは、資料94を見ていただきたいのですが、結局法律的に全国一律適用を常に言うのですけれども、そういうことをすべて考えたときに、資料94の第2の1の(1)、つまり平成13年において地労委に対して審査申立がどうなっているのかということを考えると、東京や大阪の地労委に関しての議論ならいろいろなことができるのですけれども、新規申立件数が2件以下の地労委が半分超えている。また、数年間全然ないところもある。ここに、現実に職員の専門化やその常駐化という形で、全国一律適用の議論をするのだろうか。そしてこういうところは、私たちが専門性ということで労働事件で議論したのは、いろいろな法律に関する専門性もありましたが、体験や経験に基づくエキスパート的なものを生かしたい、こういう専門性も十分必要なのだという理解をしているわけですね。集団労使紛争ならもっとかもしれません。しかしながら地労委自体は何年に1度とか、1年に1件しかやらないところにそれができるなどということは到底考えられないというのが基本的に私の頭にあります。したがって、制度として議論するならば、全国のこういう申立ての状況も踏まえた形での現実に基づいた議論が必要だろうと思っています。
 労働委員会がなぜ存在するかというと、その判定機能における命令は裁判のような勝ち負けを決めるというよりは、本来的には命令によって将来の労使関係の改善につなげていく、継続的な労使関係の正常化にあるわけですから、そういうものを考えた場合に、まさに10年前の団体交渉拒否が不当労働行為かどうかをやっていたという気がして、一番大事なのは労働委員会については審理の迅速化を実現して、現場の労使関係の正常化に早く道筋を与えていくことだろうと思うのです。
 それを考えると、事件の仕分けというか、最初に見た段階でこれは本当に和解で決着がつくはずだというような仕分けをきちんとやるべきだろうと思うし、これは八代先生がここで一生懸命おっしゃっていたことで、私もそれはその通りであると思います。
 あと、実務で20年以上地労委につき合ってきて、私も関与した事件があるのは、ある石油会社の事件で、労働組合が3つあって、一番小さな組合が地労委をいわゆるアジテーションの場に使う。この事件を調べられたら恐らくおわかりになると思いますが、物すごい件数があり、かつこれが資料の日数に入っていると思うのです。どこの地労委でやろうと、すでに大阪でやっていればその背景事情に関する疎明資料を全部使えば終わるのに、それをやり直して2~3年やっている。現実はこういうことをやっているのです。
 したがって私は、確かに制度論もいろいろあるけれども、審理の迅速化なら最初の事件の仕分けと、そして公益委員なりが審問ないし和解に関するきちんとした計画的な処理をやれば、一気に短くなるというのが現実の実務の認識です。

○鵜飼委員 労働側でやってきまして、労働委員会を利用する際に労使関係の正常化を目指すことは基本的なベースでありまして、これは経営側とそれほど変わらないと思います。労働委員会も私が申立てをするときには、労働委員会で何とか懸案の問題を解決し、労使関係の正常化を果たすということに努力いたします。しかし、それでもなおかつ調整的な解決ができない事案があります。これは1つの例は先ほど言いましたが、組合ができた初期の段階で猛烈な組合つぶしをされる。これは不当労働行為の典型的な1つのパターンであります。この段階で調整的な解決をしようと幾らやりましても、一方で組合員がいなくなってしまう。脱退届をどんどん出されてしまう。こういう状況の中で基盤がなくなってしまう。したがって、労使関係を正常化しようにも組合員がいなくなるということがありますので、そういう場合は迅速な判定的な解決を求めざるを得ない。こういう類型があります。
 もう一つは、労使関係が存続していく中で差別事件に象徴的にあげられますようなケースは、かなり綿密な証拠調べ等が必要になりますのでそう簡単にはできない。しかし、それも現在の労働委員会の審理の中でもっと改善すべき点があるとは思いますが、こういう事件については、判定的な解決のケースが多いのではないか。要するに、労使関係は継続的なわけですから、長期的な差別事件が対象になりますと、その中で果たして差別があったかどうか、不当労働行為に該当するかどうかを審理することになりますので、調整というよりも判定的な部分が中心になります。
 最近多いのは、企業再編などに伴う労働契約あるいは労使関係等の引き継ぎに絡む紛争であります。これも迅速性が一方で要求されると同時に、そう簡単に調整的な問題になじまないというケースがあります。JR事件が典型的なケースですけれども、そうなりますと迅速な判定的な解決を求めざるを得ません。私は労働委員会には、生きた労使関係を、継続させ、そして正常化させていく機能がありますので、これは大事な機能であると思っています。
 したがって、審理期間の中で和解が相当長時間やられて、結果的にそれが審理期間の長期化の要因となっている部分がありますので、これはきちんと見てみなければいけないのではないか。単純に審理期間の絶対的な長さだけではかるのは問題ではないか。ただ、この中間整理にありましたように、判定手続と調整手続のうまいかみ合わせ、きちんと仕分けをして、いたずらに和解手続を進めて結局見通しなしにやってだめになってしまって、判定手続に移るということになると絶対的に長期化する。これは避けるべきなので、その辺の工夫は必要だと思います。
 それを前提にして申し上げますけれども、例えば中間整理のデータにありますように、取り消されるケースは、再審査命令に対して41.4%ですが、初審命令に対しては10%台で非常に少ないわけですね。再審査命令は中労委の命令で、中労委の命令の半分近くは取り消されている。これはどうしてかという点ですが、ヒアリングの際に山口会長及び藤田会長がそろっておっしゃっていましたが、事実認定はそれほど違いない。証拠資料も基本的にはほとんど引き継がれる。したがって、事実の評価と不当労働行為の解釈、労組法7条の解釈と事実の評価、ここに違いがあるのではないか。山口会長は裁判所に対して、労使関係の背景等を十分理解していただきたいと注文されました。私たちも中労委の公益委員あるいは事務体制は、先ほど石嵜委員は地方の年に1~2件しかないところのケースをおっしゃいましたが、中労委の審査の体制は裁判所に匹敵するし、むしろ専門性から言うと裁判所より優れていると思っています。
 そこで、なぜ40%以上の取消がされるのか。先ほど山口委員は証拠の整理が難しいとおっしゃいましたが、要するに労働委員会の審理に改善すべき点があると思うのです。お互いに五月雨的に証拠を出し合う、肝心要の重要な証拠はその中に隠れているとか、あるいは出ていないということもありますし、なかなか出してくれないというせめぎ合いがあって、裁判所になるとやっと出してくれるということなので、証拠収集や証拠提出についてもきちんとした交通整理が必要な点があります。
 しかし、基本的には事実の評価と労組法7条の解釈の問題。ここが労働委員会の考え方と裁判所の考え方が違う。山口委員に言わせれば、それは労働委員会が間違っているということになるかもしれませんが、私はそう簡単には言えないと思います。私たちの目から見て、どうしても裁判所の判断がおかしいということは多々あります。
 労働弁護団の意見書にもありますけれども、裁判所はえてして私法上の権利義務関係を大事にする面がありまして、ある意味では事実関係を分断し、分解して、要件事実的な形で整理されて、私法上の有効・無効の判断を先行されて、全体的・総合的な労使関係の実情に合わせた判断がちょっとおろそかになっている感じがいたします。これについては、少なくとも中労委の公益委員の今の審査体制を前提として考える限り、ある意味では日本の最高水準の人たちがされていると思いますので、その専門性について裁判所は十分理解していただいて、尊重されることが必要なのではないかと思います。
 40%以上中労委の命令が取り消されている。これはどこに問題があるか。裁判所の判断枠組みに問題があるのではないかと思いますが、これは議論しなければいけないテーマだろうと思います。
 もう一つは、矢野委員から労働委員会の体制について、常勤制や職員の専門性を改善することは現実的ではないという御意見がありましたが、私はこれは変えなければいけないと思います。いかに専門性を強化・向上させ、できれば常勤という形にして、判定的な機能についても十分機能をアップするような方向で努力しなければいけない。それがこの検討会のテーマではないかと思うわけです。
 何度も言うことになりますけれども、私たち日弁連でも労働法制委員会をつくりまして、労働側・経営側で労働事件を担当している実務家が集まっているわけですが、その意味で我々も何とか専門性の強化に対して、日弁連としてもこれまではある意味で利用者の立場でいろいろ言ってきましたが、専門性の強化のために我々ができることであれば主体的に責任をとってやらなければならないと思っています。
 これから裁判官にも弁護士任官で増えていくわけですし、いろいろなところに弁護士の資格を持っている者が参加する時代になってきました。まさに労働委員会については非常に大切な、この制度そのものを否定される方はいらっしゃらないと思いますので、その現状がこうであるならば、その機能をどう強化するか。私たち弁護士もその重要性を考えて、もちろん利用者として意見を言ったり、注文を受けたらそれに対して受けるということは必要でしょうけれども、むしろ供給源としても考えたい。
 この点で、できれば厚生労働省と日弁連の労働法制委員会レベルでの協議をぜひお願いしたい。専門性の強化に対して我々ができることは何なのかについて御注文いただきたいと思いますし、我々も提案させていただきたいと思います。
 もう一つは、10年ぐらい前まではあった労働委員会と裁判所の協議です。判断枠組みが基本的に違う点は利用者にとっては大変なことです。労働委員会はこう考えている、しかし労組法7条の解釈について裁判所は別の考え方を持っているということでは、利用者はたまったものではありません。えてして使用者側は、裁判では違った判断になるというので労働委員会を軽視いたします。労働側は、むしろ労働委員会を重視する。こういうおかしなことになっていますので、そのへんのお互いの判断の基準について共通にしていくべきではないかと思います。直接の改革の問題ではありませんが、そういう協議を再開させていただきたいと思います。

○髙木委員 資料90についてどう読むのかということと、資料94の「不当労働行為審査の実態」の、例えば中労委の再審査で1,529.7日、これが例えば腕章事件などがどう関わってこうなっているかとか、大きな事件類型かもしれませんが、例の国鉄承継法人にかかわる事件等が特異な塊として入っているがゆえの異常値……といっても実態が実態なのですが、そういう特異な要素が入っている数字。それを一遍仕分けしてみて、特異な要素を除いてみたら、今はどういう実態にあるのかをきちんと見られるかどうか、労働委員会の統計や仕分けの仕方がどうなっているかはよくわかりませんけれど、そういうものを除いてみたら大分絵が違うのではないかと、石嵜委員のお話を聞いていてそういう気がしました。

○石嵜委員 これは取消率41.7%になっていますが、全部取消は1件だけなのです。だから、一部取消の11件は取り消された程度の問題が実質取り消されたと評価されるのか、維持されたと評価するのか。この11件にはその評価が残っているはずなのです。したがって41という前提でいろいろな議論をすると全然違うような感じがあって、この取消率云々をもう一回精査した方がいいと思うのです。私は10年ぐらい前ですけれども、労働委員会命令を中労委でいかに変更したか、そして中労委の命令を地裁でどう変更したかを全部やり直したことがあります。そうすると、一部変更といっても実質変更になっていないものが多い。したがってそこを見ないで、これを前提にすると、髙木委員がおっしゃるように誤って議論するようになるのではないかという気がしています。

○熊谷委員 最初の方の国鉄改革関連ですが、国鉄改革関連の裁判での判決は平成10年にたくさん出ているかと思います。この中間整理のもととなっております数字は平成11年から13年の平均でとっておりますので、中労委の取消訴訟の関係はそういう意味での影響は出ていない数字だと思います。

○髙木委員 これを足して3つ平均してみると、どうして40台になるのかなと。

○熊谷委員 取消率の方ですか。

○髙木委員 25.0%と37.5%と23.8%。その前の平成10年のものが入っているのではないですか。

○熊谷委員 髙木委員がごらんになっているのは初審命令に対する取消訴訟と一緒になっている方で、今日提出されている資料は中労委と地労委の命令両方に対する取消訴訟のデータだと思います。
 中間整理の方ではそこは分けて使っておりますので、数字が違う点があると思います。

○髙木委員 意味がよくわからないのですが。

○熊谷委員 地労委命令に対する取消率は先ほどもお話が出ていましたように、10%強でございますので、それと中労委命令とまぜ合わせると、その数字は間ぐらいにくるということでございます。

○菅野座長 私も中労委にいたものですから、中労委までの審理期限がぐんと長くなったのは、JR関係の事件がたくさんきて、その処理に追われて普通の事件をストップすると言うのはおかしいですけれども、そちらの方にマンパワーが回らなくなったということがあったのではないかと思います。要するにJR事件の負担が物すごく大きくなった期間があって、それがその後にも及んだという点があるのですが、それが今はかなり改善されて、それを仕分けしていろいろな工夫をして、このごろは中労委の命令の発出件数はかなり増えているのではないかと私は認識しているのですが、その場合には今まできちんと迅速に審理してこられなかった事件を処理しますから、そういう事件を多く処理すると平均審理期間は統計上は長くなってしまうのです。平均審理期間、処理期間という点ではもう少し分析する必要があるという気はしています。ただ、それにしても長いということは確かだと思います。

○山口委員 私も同じような認識を持っております。私がやっていた当時は、救済命令取消訴訟にくるまでの間に長期間を要していて、それは多分、おっしゃるように特別の大型事件の影響で押せ押せのような形になっていて、公益委員の数も限られている関係もあるかと思いますけれども、十分な時間がとれなかったことがあってそういうことになったと思うのですが、最近は中労委からくる事件の中でも比較的短期間で処理されていると見られる事件もありますので、そういう意味では少しずつではあるけれど改善されつつあると思っています。なにぶん滞貨による影響がまだ残存しているので、その関係で延びているものもまだあるのではないかと思っています。
 先ほどの鵜飼委員の話で、労働委員会と裁判所の関係で労組法の解釈が違うのではないかというようなことをおっしゃっていましたが、現実問題としてこちらの方で救済命令を取り消す場合は事実認定の部分はそう変わらないとおっしゃっていましたが、実際は事実認定が変わるために、そもそもそれでは不当労働行為と言えないという形になるケースも相当ありますし、差別訴訟などで言いますと、結局は対象組合員の能力をどう見るかについての認定が変わってくるので、それでは差別があったとは言えないという形になる可能性もありますので、事実認定による部分が相当あると私は思っております。
 私は、労組法の解釈が労働委員会と裁判所の方で違っているとは認識しておりませんで、基本的に労組法7条の要件を満たすかどうかということでこちらもやっていますし、その中では、言われるように背景事情その他も考えてどうなのかという形でやっております。座長の本はもとよりですけれども、もちろん労働委員会の山口会長の本も十分読ませていただきながらやっていますので、そういう意味では大きく変わることはないのではないかと思っています。

○矢野委員 1つ質問していいですか。最初に伺おうと思っていたのですが、色刷りの資料90の2枚目に取消率がここ10年間ほど載っていて、年によって大分ばらつきがあるのですね。57.1%が平成5年、平成10年にあるし、平成6年には50.0%、平成8年などは11.8%であったりして、さっきからずって見ているのですが、これはどういう説明になるのでしょうか。どうしてこんなに違いが出てくるのかなと……事案の関係ですか。

○山川委員 1つは、先ほどのJR事件のように事案の特殊性もあると思いますが、もう一つは、判決件数と取消件数で決めることになりますと、母集団自体が非常に少ないために統計として数字を見ていいものかどうかという問題が基本的にあります。しかも、括弧の中の一部取消の数字をごらんいただくと、それがかなりの部分を占めているということがありますので、もちろん結果を正当化しようとしているわけではありませんけれども、1,000件のうち400件が取り消されたとなるとそれはすごいことかと思いますが、10件のうちぐらいですと、統計の意味としては少し違うのではないかということは、研究会内部でも議論しておりました。

○村中委員 先ほどの判定的機能と調整的機能の関係で矢野委員と石嵜委員から、判定的機能というよりも調整的機能の方に純化して労働委員会を考えたらいいのではないかという御意見がありましたが、私も一時そういう考え方もいいのかなと考えたことがあるのですけれど、それに対しては判定的な機能なしに調整ができるのかという強い異論があって、考えてみると、確かに後で判定が控えていない段階でどのように和解に導いていくか。これはやはりなかなか難しい問題があろうかと思います。調整の実質を生かすためにも判定をせざるを得ないというか、それがなければ難しい。調整と判定は本来2つが一緒にあるべきものであろうと思います。
 問題は調整的機能と判定的機能を並べてみますと、制度本来の設計の在り方としては判定が主たるものになっていると思うのですが、実質論としては調整の部分がかなりウエートを占めていて、それが前面に出てきている。そこで判定を余り意識しない中で言いたいだけいろいろ言わせる。そして、ある意味でガス抜きのようなこともやっている。そうすると後で判定の段階に至ったときに、判定のための十分な証拠がしっかりそろっていないというような話になってまた長期化する。そして出てきたものも、裁判所から見ますと不十分と見えることがままあるということになっています。
 調整と判定の2つをすることが、特に調整部分も今後必要だということであれば、それと判定をどのように組み合わせていくのか、また、両者のすみ分けというか、機能をどのように分けて、両方ともうまく機能するようにどのように制度設計するのかを考えないといけないのではないかと思っています。
 そういう点から見ますと、判定的機能もある程度高めなければならず、石嵜委員がおっしゃるように、専門性を高めることも重要なのですが、地方でほとんど件数がないような場合、事件をそもそも経験していないわけですから、能力の向上がかなり難しいのは現実問題として確かです。そうしますと、専門性を高めるには制度をかなりいじらないと多分できないだろうと考えております。

○矢野委員 私の説明が不十分だったかもしれませんが、判定的機能を否定しているわけではなく、最も大きな役割は調整的機能であるし、主目的と言ってもいいと思いますが、それはそこにあるのではないかと申し上げたつもりです。現に、命令として出されたものに対して両当事者が納得して、それで済んでいるケースもあるし、不服申立をしたり地裁に持っていって、出た結論が労働委員会のとおりだったということに対しても、両当事者が納得しているケースもあるわけですから、すべてがおかしいと言っているわけではないのです。しかし本来的な労働委員会の役割は調整的機能にあるのではないかと申し上げたわけです。

○鵜飼委員 それはちょっとおかしいと思います。調整的機能が労働関係調整法で労働委員会の1つの重要な役割としてあることは間違いありません。ただ、労組法7条に基づく労働委員会の役割は基本的には判定的機能でありまして、要するに労組法7条そのものは使用者は労働組合の運営に介入してはいけない等というふうに規制しているわけですね。そして、そういう意味では調整分野はあっせんや調停という制度がありますので、それは労働委員会はこの間かなり役割を果たしてきた。労組法7条で行為規制されているものに対する違反に対して救済の申立てをするケースには、不当労働行為の成否を判定し、救済するのが原則であります。
 ただ、もちろんその中に裁判所の判断とは違って、労使関係は生きものですので、労使関係の将来における正常化を図るという要素が含まれてくる。これは私も否定できない。これは労働委員会の非常に大きな役割であると思います。しかし、労組法7条違反があったかどうかをきちんと判断することは大事なことでありまして、そのルールがきちんと定着してきていないところが、私が労働側で事件をやっていて本当に痛感するものですから、そういう基本は明確にすべきではないかと思います。

○髙木委員 先ほど熊谷委員に御説明していただいた資料の5ページに、労働組合法あるいは労働委員会規則上、不当労働行為については法律上は判定しかゆだねられていなくて、和解は一種の運用上という位置づけで現にやってきている。そういう歴史で、私どももそれほど多くない件数ですが和解をやりまして、組合側にはこれをやるとまだ大分時間がかかる、早く解決したいなら和解で何とか接点を見つけようではないかということも言いながら和解にかかわるわけですが、基本的に和解は弱い方というか、どんなものでもそうなのですが、力が弱かったり状況がしんどい側に寄せられるのです。それは和解の本質だと私は思っておりますが、そういう中で経営側の皆さんは何年かかってもいい、あるいは時間の経過ととともにどうせ音を上げるという状況の中で、和解で何かをしようと思うと、判定機能のバックアップがないと、和解そのものが意味のないというか、この解決は何だったのかということになりかねない。そういう意味では判定機能を持っているというところが不当労働行為制度を労働委員会の仕事として課している一番肝心なところだろうと、実際に和解等にかかわってみてそういう実感を持っております。
 そういう意味で、このペーパーは和解も組合法の中に書き込むというわけですか。

○熊谷委員 そういう議論がなされているということでございます。

○山口委員 鵜飼委員や髙木委員の御意見とも関連するのですが、基本的に和解をする場合に、裁判所の感覚から言いますと、ある程度判定的なことを考えないと実際問題として和解はそうスムーズにいくのだろうかという気持ちがするのです。そもそも判定型、調整型という形で事件が完全にきれいに分けられるのかということもありますし、仮に調整型事件について和解でやっていくことにしても、最終的には命令を出すかどうかという判断を労働委員会はしなければならないわけですから、その判断をどの程度考えているか、その重みは和解の過程においても、裁判所の感覚から言いますと反映されなければならないものではなかろうかと思うのですが、その辺はどうなのかという気がします。
 お互いに、このままやったら時間がかかる、費用もかかるというだけでは、本当に公平さというか、その背後にある判定を踏まえた解決には、たとえ和解であってもならないのではないかという気もしますし、その背後にある判定を見据えながらお互いに譲り合える範囲を調整していくのが、普通の和解の在り方のような気もするのですが、その辺は実際にはどうなっているのでしょうか。わかれば教えていただきたいのですが。

○石嵜委員 これは使用者側というよりは、自分が事件をやっていてということで理解していただきたいのですが、私自身のこの発言内容で後でもめたくありませんので。ただ、裁判所における和解のときには、自分でも正直なところ、結論がどうなるのかという判定的なバックグラウンドが、最終的にはのむかのまないかを決めるという感じはしています。ただ、地労委の場合、それなら支配介入で金銭的給付が議論になるのかとか、最終的には謝罪文の議論かとか、事件の内容にもよるのです。したがって命令をもらっても正直言って何なのというのがありますし、加えて地労委の命令では中労委に上げれば履行勧告がありますが、これはもう放っておけということで、申し訳ありません、髙木委員に怒られてしまいますが、こういう議論も本当は出てきますし、実際に使用者側が何かを考えるときには、私たちが地裁にそのまま上げてしまうと嫌なのは、緊急命令だけなのです。そういう意味では、地労委での和解については、正直言ってそんなに勝ち負けを気にせず、これ以上やっていくのかと、恐らく先ほどの費用と時間と、加えて社長の勲章の時期とか、社長のところに嫌な電話や文書が来るとか、門前に押しかけてきて抗議をされるとか、こういうことをいかにトップたちが考えて、それに対して我々がどう対応するかがあります。この話はすべて私個人の意見にしておいてほしいのですが、やはり判定的なものは裁判所における考え方とは全然違うだろうと思います。

○山川委員 経験というより理屈的な話になるのですが、一般の裁判所で取扱う紛争は、特に集団的な紛争は、一般の裁判所で取扱う紛争に比べ、中身の違いのようなものがあるのかなと思います。つまり、訴訟物としてあらわれているものが紛争の全体をどれだけ代表しているかということで、例えば多数組合員だけに手ぬぐいを配ったということで争いになる場合も、手ぬぐいが欲しくて争っているわけではなくて、その組合の存在を否定されたというか、そういうことが実際の紛争なのかなという感じがします。ということは、逆にいうと、一つの問題が解決すれば係属事件が一括して和解するとか、場合によっては取消訴訟も取り下げるということが起こりえます。そういうことが起こるのは不当労働行為事件が当事者間の関係全体の争いになっているからであり、逆にそうであるがゆえに和解に時間がかかるといいますか、解きほぐす作業が要るということなのかなと推測します。

○鵜飼委員 石嵜委員が率直な話をされたので私もと思いますが、確かに関係全体が争われているという感じですね。例えば、過去何年か前の団交拒否が不当労働行為だといくら命令をもらっても、現実の労使関係にどのようにプラスになるか。それは不当労働行為命令を取ったということで、それを掲げて企業外でいろいろな運動を起こす。そういう点では1つの武器にはなるかもしれませんが、現実の企業内の労使関係を考えると、例えば組合結成直後の使用者の対応は組合に対する無知がかなりあって過剰な対応をする。全面否定するような言動に出ることがよくあるわけですが、それがある程度労働委員会にかかわってきて、労働委員会の中で労働側も使用者側もいろいろな知識を身につける中で、お互いの関係の改善を模索するようになります。
 そうなると、過去の団交拒否が不当労働行為であったかどうかを判定で確定的な形できちんとするよりも、相手方を認める、使用者側は労働組合側を認め、労働組合側は使用者側を認める中で団体交渉等の一定ルールをつくっていこうという話になっていくわけです。そうなりますと、この段階では判定的な審査の事件よりも調整的な事件になりまして、最終的にはそういう形で、場合によっては労働委員会が間に入って交渉をするなどして一定のルールをつくっていき、和解で解決するということもよくあります。
 山口委員がおっしゃったような判定的な機能をバックにして和解というケースももちろんあるのですが、そればかりではなく、お互いの労使関係をどのように改善していくかという観点が重要なウエートを持つという点があると思います。

○菅野座長 労働委員会の持っている機能は、労働関係調整法上の調整と労働組合法上の不当労働行為の救済とがあって、労調法上の調整は昭和23年の法律どおりに今でも動いているのです。労調法上の調整においては一定数の調整事件は3か月ぐらいできちんと処理されていて、そういう意味では簡易・迅速なあっせんが行われているのですが、特に不当労働行為については労組法は迅速な判定をして救済命令を出す、あるいはその判定をして棄却する、それをやりなさいと規定しており、和解のことは一言も書いていない。これはアメリカ的な考え方で言うと、不当労働行為の問題はパブリック・インタレストなのだから、和解などではなくきちんと判定しなさいということになるからです。そして救済命令を出して、アメリカでは裁判所の認証命令で強制するわけですが、大陸法を前提とすると行政訴訟の手続になるわけです。
 しかし、私は労働委員会にかける不当労働行為の手続は、そうではない制度に変わってしまったのではないかと思っています。つまり、三者構成というのがあって、労使委員が入っているから労使委員は経験上、労使関係を築いていくという将来に向けての労使関係を基本においてレールを敷くことが一番重要だと、事件を受けとめた場合にそういう目で和解に邁進する。そのため、和解も非常に重要になって、それを成立させると労使双方に感謝されるので、その機能が非常に強くなったのだと思います。
 それで、和解と審査の手続が一体的に運用されるようになったという感じがするわけです。そこをうまく分けて、審査は審査できちんと争点を整理して、より厳格にやって、重要な労使関係のレールを敷く、将来に向けて関係を安定させる和解の方法は別にきちんと行うということがうまくできればいいので、その辺が課題かなという気がしているのです。そういう意味で和解も制度上位置づけたらどうかというのは、私は非常によくわかる議論であると思っております。

○髙木委員 山口委員は、労組法7条の不当労働行為についてどういう事実をもってどう判断するのかということがあるとおっしゃったのですが、もちろん事件ごとに要素が違うのかもしれませんが、その辺を裁判所としては一般的にこういう見方をしていると、例えば裁判官の皆さんの研修資料のようなものでも作られたことはあるのですか。

○山口委員 研修資料ではどうかは思い出せませんが。

○髙木委員 日常のオン・ザ・ジョブでトレーニングされているということですか。

○山口委員 そうですね。そもそも不当労働行為についてはたくさんの本も出されておりますし、裁判例もありますから、そういうものを見ながら、それぞれの事件類型に応じてどういう事実をファクターとして考えるかをそれぞれトレーニングしながらやっております。研修などでもこういうケースの場合はどう見るかという議論もされますから、そういうところでも議論はされると思います。特にうちのようなところではそれぞれ専門部ですから、お互いに議論し合いながら考えたりするという感じです。

○髙木委員 マニュアルやあんちょこのようなものがあるのでしょうか。

○山口委員 それはどうでしょうか。ただ、実際にはマニュアルどおりにいく事件は仮にあったとしてもそうはないでしょう。やはりそれぞれの事件によって事実も変わってくるし、一般的に誠実団交義務はこうだということがあっても、その事件においてどの要素にウエートを置くかはいろいろなパターンがあるので、例えば教科書どおりに事件が流れていくわけではないし、事件の見方が決まるわけではないということだけは言えると思います。

○山川委員 ついでに教えていただきたいのですが、事実認定が違う場合に具体的な生の事実について見落としたとか見誤ったとなると、それは恥ずかしいことなのですが、そういう事例よりも、不当労働行為意思ですとか間接事実からの積み上げの問題なのか、もちろん両方あり得ると思いますが、趨勢としてどちらが多いのかということです。
 それと、命令書の書き方や主張立証の仕方ともかかわってくるように思うのですが、割と単純な事実のありなしでしたら、証拠の摘示などをどの段階で行うかという問題なのですが、不当労働行為意思の推認の是非ということになりますと、命令書にどう書くかということが影響してくるような気もします。その辺はいかがでしょうか。

○山口委員 それは答えにくい問題ではあるのですが、そういう不当労働行為意思が問題となる場合ももちろん取消もありますけれども、維持したものもありますから、それはまさにケース・バイ・ケースということで御理解いただきたいのですが、1つは不当労働行為意思の前提となる事実関係について、実質的証拠法則の話にもなるのかもしれませんけれども、労働委員会が一定の証拠に基づいて認定されて、その証拠は確かにあるのですが、その証拠は他の証拠から見て果たして妥当と言えるのか、その証拠を採ることが妥当と言えるかどうかについてどうも問題があるのではないかという形で判断を変えたということもあります。
 間接事実として、例えばA、B、C、Dとあって、A、B、CはいいけれどDはどうかということになると、その間接事実からの推認の部分について違う推認はそれではしにくいだろうということで、そこで逆の事実をもってきて不当労働行為意思ありとした場合もありますし、そこでは難しいので不当労働行為意思があるとまでは言えないとした場合もあります。
 そういう意味ではいろいろなケースがあって、その証拠の採り方、あるいはこれは怒られるかもしれませんが、その証拠を踏まえていくつかの事実を認定して不当労働行為意思があると言えるかどうかについては、ほかにもこういう事実があるからこの事実との関係でどうかという場合に、それは採れる場合もありますし、採りにくい場合もあります。そういう感じですね。

○菅野座長 この辺で休憩をしてから再開したいと思います。10分間休憩させていただきます。

(休 憩)

○菅野座長 それでは再開させていただきます。総論の議論を続けていただいて結構なのですが、資料92の2の(2)(3)(4)、具体的な制度的論点についても議論していただきたいと思います。前半では労働委員会制度についてが主な内容になっておりますので、取消訴訟それ自体について、(2)か(3)をにらんで、どういう問題点があるのか、あるいは必要性がどのぐらいあるのか、その辺を議論していただきたいと思いますが、それとの関連で総論に及んでくださっても結構です。

○鵜飼委員 裁判所が労働委員会の命令に対してどのように見ているか、労働委員会の判断基準なり判断手法と裁判所のそれとが違っているのかどうかという点は、審級省略その他の問題と絡んでくると思いますので、先ほどの山口委員の御発言で、当初の御発言の中では労組法7条の解釈について疑問があるということをおっしゃっていましたし、解釈論についてはそう違いはないのだとおっしゃって、事実認定について食い違いが出てくるケースが多々あるということもおっしゃっていたので、それを全体的・総合的に考えますと、事実の見方についての違いがあるのではないかということが1つあります。
 その辺で後でお聞きしたいのは、新しい証拠が出されたことによって事実認定が違って来るケースがあるのか、あるいは基本的な証拠と評価は同じで、その取捨選択のところで違ってくるのか。その辺は、もし前者とすれば証拠が裁判所になって初めて出てくる点は実は問題であって、核となる証拠については労働委員会レベルで出るような仕組みが必要なのではないかと思います。そうではなくて、証拠は全部同じだけれど事実の認定によって違ってくるというのであれば、事実の評価、考え方、手法が違うのかなという点がありますので、これはかなり重要なポイントだと思います。
 労組法7条の単純な解釈についてそれほど違いはないとおっしゃったのですが、具体的な事案においてどういうふうに不当労働行為意思があるかないかを考えるのか、あるいは例えば賃金差別事件で言うと大量観察でやる場合にどういうところまで労働側にその立証を要求するのか。その立証の要求の程度が裁判所と労働委員会では違うのではないか。あるいは間接事実のそれぞれの評価を総合して不当労働行為意思を認定するときの判断の基準はかなり違うのではないかと思います。
 1つは、その辺はお互いに判断基準をきちんと共通にしていただきたい、労働委員会と裁判所の違いがあるのではないかと思います。裁判所は私法上の権利義務関係の存否を要件事実に従って判断するシステム、手続をが基本ですので、総合的判断といいましょうか、特に不当労働行為は今まで言い続けてきましたような一般条項になるわけで、労使関係の推移であるとか、労使関係、雇用関係に関する経験に基づく一般法則といいましょうか経験則といいましょうか、そういうものが前提にあってその辺の事実認定なり評価が出てくると思いますが、裁判所は労働事件を専門的に何十年もやっている裁判官ではありませんし、ほかの一般民事事件を担当されて労働事件を担当することになりますので、どうしても事件を分析的に見ると言いますか、事実関係をばらばらにして私法上の権利義務関係に収斂させて判断する傾向があると思います。
 そういう意味では労働参審制の議論とも絡んでくる問題だと思いますが、労働委員会の判断にあるような、労使関係を洞察し、経験則に基づいて不当労働行為の判断を行う機能を裁判所も十分尊重しなければいけない。尊重する仕組みとしては、審級省略なりその他実質的証拠法則、新証拠提出の制限とも結びついてくるのではないかと思います。
 もう1つは、人証調べ。これは証拠の中で間接事実しかないときに、直接的な文書などは差別事件では重要なウエートを占めますけれども、それがなかなか提出されないときに人証で心証を形成することになるわけで、これは新鮮なうちにといいましょうか、人証調べでも例えば地労委段階でやるときはそれぞれが慣れていませんので、反対尋問でもかなり有効に成功するケースが多いのですが、これが中労委、裁判所になるともうベテランになりまして、次にどういう質問が出てくるかわかっている感じになると、法廷でいくら反対尋問をしてもまたそういう質問かということで、それに対して十分に練られた答弁が出てくることになっています。そういう意味で、5~6年たって何回も反対尋問のテストを受けた人が地裁段階で証言をしても、ほとんど新鮮な心証はとれないような状況になるのではないかと思います。労働委員会は2審構造で、さらに取消訴訟で3審構造になっていることについては、そういう面からいっても改革は必要なのではないかと思っています。

○山口委員 事実認定が違う場合について、労働委員会段階で出された証拠に基づく認定が違うのか、あるいは新しい証拠に基づいて認定が違うのかというお尋ねですが、実際にやっておりますと両方ありますね。労働委員会で出ていた場合でも、事実のとらえ方がどうなのかという形で考えるときがあります。それは全くないわけではないと思います。ただしかし、それはむしろ少数ではないかと感じていますが、それよりも問題なのは、労働委員会の認定について十分な証拠がどこまであるのかがよくわからないケースであるにもかかわらず、事実が認定されているものがあります。そういうものについてこちらでは心証度合いとしてそれは十分でないという場合に、その事実は認定できないとすることもあります。そういうふうにいろいろな場合がありますので一概には言えませんが、そういう場合が1つあると思います。
 労働委員会で出されていない証拠に基づいて事実認定が変わるということもあります。もちろん数多くはありませんが、労働委員会段階で使用者側が、これはどういうつもりか知りませんが、出されていない証拠を訴訟になって出してくるというケースも全くないわけではありません。そういうケースの場合に、その証拠に基づいて認定を変えたということもあります。そういう意味で言えばいろいろな場合が現実問題としてはあるということであります。
 労働委員会と裁判所の労組法7条の解釈が違っているのではないかという御指摘ですが、裁判所の方は労働委員会がどういう労組法の解釈をしているのかということについては言及する限りではありませんし、それは見方の違いはあるかもしれませんが、基本的な労組法7条の意義なり要件なり、その場合に考慮すべき事項はそう変わっていないのではなかろうかと思っております。
 もう一つの論点で、労働委員会の認定等の判断を尊重すべきではないかという御意見がありました。私も尊重できるなら尊重したいと思っておりますが、現状はどうかということになると、そういうコンセンサスが果たして得られているのかということについては、やっている限りにおいては「うーん……」というところはあります。こちらの方は事実認定を踏まえて、それは労組法7条の要件、効果を充足するものかどうかという観点でやっていますし、その中で考えてやっているので、御不満なところはあるかもしれませんが、基本的スタンスとしてはそういうことがあると思います。
 それと、先ほど雑談で話していたのですが、もう一つは労働委員会の命令の書き方がどこまで説得的かという問題も1つはあると思います。基本的に証拠に基づいて認定した場合に、現在の実務では、争いのある部分についてはその認定した証拠を労働委員会側に摘示してもらうという形で運用しておりますが、そこに掲げられた証拠を見ていてもその認定ができるのかどうかということについて疑義があるケースもないわけではありません。そういう意味で言うと、取り消されるようなケースの場合は、労働委員会の命令が事実認定なり判断についてやや説得力に欠ける部分がないわけではない。そういう意味で言いますと、労働委員会の段階でどこまで書くかということはあるかもしれませんが、最終的には取消訴訟に移行するという意識で、裁判所を説得するという意識で認定なり判断なりに意を用いていただきたい。そういうこともあっていいのではないかと思っています。

○山川委員 非常に手厳しい御意見で考えるべきところが多いのですけれども、実際に少しの経験で見る限り、記録自体はよく見ているということは言えると思います。ただ、命令における認定判断のプロセスについては、研究会でも若干議論がありましたが、どのぐらい書くべきなのか。一般の行政処分ですともちろんそういうことは余り書かない、あるいは簡単なわけですが、判決となりますと詳細に書くということで、労働委員会の命令がどのあたりに位置づけられるのかということについて若干議論があります。
 私は個人的には、おっしゃられたような形で説得できるようなものを書くべきだとは思っておりますけれども、労働委員会命令の位置づけの問題がそこでは出てくるのではないかという感じがしております。

○石嵜委員 取消訴訟段階で新証拠が出てきて、そこで判断が変わるという話ですけれども、1つ気になるのは、地労委命令の段階でも使用者側は勝ちたいのです。したがって、あえて証拠を隠すような形で取消訴訟を意識して証拠を出さないということは、国労の特殊な事件は別として、通常考えられないのです。地労委なら地労委で最終的に判定を受けるなら、手持ちの証拠があればそれは出すだろう。そして中労委でも出すだろう。中労委でも新証拠が出ていて、地労委命令が中労委でも変わることはあるだろう。
 それなら取消訴訟で何か新証拠が出ているということになるとどうなるのだろうと想定されるのは、自分で実務をしていて1つは、代理人が変わるときだろうと思います。代理人が変われば観点が変わりますので、私は特に労働事件専門と思っていただいていますので、負けた事例を自分が受けるということがあって、いろいろな形で違った目で見直し、違った証拠はないかという形で探すことがあります。
 もう一つは、地労委命令も含めて、先ほど山口委員が言われましたように、事実について証拠が十分あるかないかは別として、命令の中に予測しない事実が出てくるのです。そんなことを言うのだったらこういう証拠があったと、したがってそういう対応で新証拠を探して出さざるを得ない。こういう場面は自分では何度も感じているので、そういう意味で最初から、地労委の段階で証拠があるのをわかっていながら、必要とわかっていながら隠したなら、それは制約されても仕方がないという気はしますけれども、取消訴訟で新証拠を出すときに制約しなければいけないほど隠したりしているわけではなく、その必要性に応じて証拠が出ているというように御理解いただいた方が、自分のやってきた実務の感覚なのです。

○山口委員 個別的な事件の名前は申し上げられませんけれども、その事件で取消訴訟の中で出された証拠は、私はある意味で労働委員会の段階で出されてしかるべき証拠であったと思うし、それを出すことについて使用者側の方でもそう抵抗はなかったはずの証拠ではないかと思うのですが、それが出されていなかったケースです。それは1つは、命令の認定なり判断を見て出しておいた方がいいという形で代理人は考えられたのかもしれません。もう一つは、ある意味ではそういう認定をするなら必要な証拠を探した方がいいのではないかと、裁判官だからだと思いますが、そういう意味で言うと審査の段階での訴訟指揮がどうだったのかなという気もしなくもありません。
 そういう意味では必要な証拠を出して、抵抗がある証拠ではないような証拠だったと思うものですから、その訴訟指揮を適切にやられれば出したはずのものではないかと思ったりもしています。
 ただ、これは使用者側だけではなくて労働者側についても言えることですけれども、負けた部分といいますか、事実認定なり判断が自分の方のお考えと違う場合については、こういう証拠を出したい、こういう証人を調べてほしいという形で言ってくることはありますので、それは最初の方は一律にどうこうという形で言える問題ではないと思っています。

○山川委員 その点について地労委の方の経験を聞きますと、特に査定差別絡みの事件では、強制権限との関係もあるのですが、場合によっては、出してほしいと言っても出してくれなかったということがあるように聞いています。
 それと、証拠を労働委員会段階で出すということを制度的に要求することによって、そこで出すようなプレッシャーが働くといいますか、それだけ出すようになるという作用が働くのではないかという気がします。もちろん例外といいますか、どういう場合に行政訴訟段階で新証拠を出せるのかということについてはいろいろな議論があるとは思いますが、1つは最初に申し上げましたように、制約が全く課されないということになりますと、救済手続、審査手続は一体何のためにあるのかがよくわからなくなるということが起こり得ることがあります。
 現行法でさえということになるのですが、資料93の6ページにありますけれども、下の「○」にある大阪高裁の平成6年判決は救済手続で出さなかった主張立証を信義則違反として排斥した事件で、最高裁でも結論は支持されておりますので、現行法でもこういうことが行われています。これは信義則違反ということですからかなり射程は狭いのかもしれません。個人的な意見ですけれども、そういう制度的なものを作っていくことは、どういう要件にするかは別としてあり得るかなと思っています。
 ちなみに、実質的証拠法則と新証拠の提出制限が結びつけられることが多いのですが、論理的には実質的証拠法則があれば、当然に、新証拠の提出は原則認められないことになるわけですけれども、その逆は必ずしも真ならずといいますか、新証拠の提出制限だけが存在して実質的証拠法則は存在しない制度もあるわけです。
 それで、追加していただきたいと思う点は、資料89で、必ずしも純粋な意味での新証拠の提出制限ではないのですが、2の特許庁の審決取消訴訟に関わることです。明文の規定はないのですが、特許無効原因の主張の関係で最高裁大法廷の昭和51年3月10日判決は、特許審決取消訴訟の構造にもかかわっているのですけれども、取消訴訟段階で新たな無効原因は主張することはできないという判決を解釈論として下しています。もちろん、この制度のもとでは実質的証拠法則は認められていませんので、両者は別であるという認識を確認するという点からも、この表にはその判決を書き込んでおいてもいいのではないかと思います。気がつくのが遅くて申し訳ありません。

○鵜飼委員 東京地裁には中労委と都労委の命令の取消訴訟が係属するわけです。山口委員がおっしゃったのは、労働委員会の審査指揮が必ずしも十分ではない、命令にも不適切なものがあるようなニュアンスですが、果たしてそうなのか。先ほど来言っていますように、私たちの側からすると、具体的な事案はなかなか言いづらいのですが、配置転換命令1つにしても、通常それ自体が不当労働行為という労働委員会を経由しない事件であれば、根拠の規定があるかないかということがまず吟味されますし、それが人事権の濫用になるかどうかということが議論されるわけですが、不当労働行為はそれだけにとどまらないで総合的な労使関係の推移、労働組合と使用者の関係、そういうものを前提とした上で、例えばそういう問題を除いた場合には有効な配置転換命令と言える場合でも、それは総合的に考えた場合に労働組合の活動を嫌悪する目的を持つ場合、そのように認定される場合は不当労働行為であると判断されますし、救済命令が出されるわけです。
 その辺は、私たちからすると裁判所の考え方が前者にかなり傾斜しているのではないかと思うわけです。そちらの方に労働委員会が歩み寄れという趣旨のことをおっしゃるとすれば、それはむしろ労組法7条の基本的な精神を没却することになりかねない部分があります。私は現状が、例えば中労委、都労委の審査及び命令が一審を代替するだけの実体を伴わないとはとても思えない。改善すべき点はいろいろあると思いますが、それは余りにも裁判所側の一方的な言い分ではないか。もっと労働委員会制度に対し、あるいは不当労働行為に対する理解を深めてほしいというのが私の意見です。

○山口委員 私も全部が全部、労働委員会の命令がおかしいと申し上げているつもりは全くありませんので、そういう意味で言いますと認定・判断ともすばらしい命令を拝見したこともありますし、基本的にはその認定・判断どおりに裁判所も判断したケースもあるわけで、全部が全部というわけではありません。中にはそういうものもあるし、そういう意味ではばらつきがあるということを申し上げているので、そのことで労働委員会の役割がおかしい云々と申し上げているつもりは全くありませんので、その点は了解していただきたいと思います。
 ただ、今回の話をお聞きしましても、前からの労働者側あるいは使用者側の方々の意見なりヒアリングをお聞きしましても、労働委員会の現状に対して、審理の期間も含め、あるいは判断の部分も含め、これでそこそこいいのではないかというコンセンサスがあるかというと、それはどうもないような感じがするものですから、そういうコンセンサスを労働委員会が得られるような形で見直すべきところは見直していくということをやっていかないと、「隗より始めよ」ではないですけれども、それがスタートラインになっていくのではないかと思っています。それを受けて裁判所でも改善しなければいけないところは多々あるでしょうから、それについては考えていかなければいけないとは思っております。

○髙木委員 2人の議論を聞いていて水かけ論というか、今の議論の延長線上に何か出てくるのですかという感じを受けました。その辺を議論するにはどうしたらいいのかなと思います。片一方は全然だめだから厳格性がないので云々と言うし、片一方は裁判所の見方はそういうことだからだめだと言うし、そのときに双方がどういう努力をしていけばどういう改善のための処方箋が出てくるかというスコープで議論しないといけないのではないかと思います。資料を見ると、実質的証拠法則にしても新証拠の問題にしても、要は厳格性という言葉で言われているところにかかわって、これがかなりのレベルになったということであれば、公取法80条のようなことも可能になるのかもしれないのでしょうし、その辺をどうすればいいか。矢野委員は日経連時代にラフジャスティスという表現を大分使われたけれども、そういうものもどうすれば改善されるか。まずその辺の議論を突っ込んでやってみる必要があるのではないか。
 そういう意味で第二ラウンドのどこでもいいのですが、裁判所の側から見て労働委員会は過去はこういうところをこうすべきではなかったかと、そして、労働委員会の側からは裁判所に、それぞれ相手に対する注文書きでも書いていただいて、その中で接点を探してはどうでしょうか。
 最も訴えたいのは、現に5審が制度的にあって、それで10年、15年とかかっている人が現実にいるのです。こういうことは当人にしてみればやはりしんどい。特定の理由があって長くなっている人はそれなりの理由の開示が別途なければいけないわけですが、今の御議論を聞いていて、その辺までぜひ踏み込まなければいけないのではないかという感じがしました。

○鵜飼委員 私も水かけ論で終わりたくないのでどういうふうに発言しようかと考えているのですが、ただ、コンセンサスとおっしゃったので、コンセンサスという点から言うと、審議会レベルの議論を踏まえて、5審制でこんなに長期化して、また、判断枠組みが違うのではないかということになると、利用するのは労働側ですが、利用する側はたまったものではない、何とかしなければいけないというコンセンサスは、私は労使を越えてあるのではないかと思っているのですがいかがでしょうか。
 それを前提として、労働委員会の審査手続なり審査の実態、命令、判断の実態が一審の裁判所の手続をすべてやらなければいけないようなお粗末な実態なのかということについては、先ほど山口委員も全部ではないとおっしゃったので救われたのですけれども、ごく一部にそういうケースがあるとすれば、私はそのケースを示さないで議論するのはわかりにくいので空中論戦になってしまうのですが、どこをどう改善すればいいのか。これは準司法手続で、実際に労働委員会でも、先ほど石嵜委員が言ったように、労使ともに必要な証拠は出そうとするわけですし、そこで尋問も行うわけです。裁判所と同じというより、むしろ裁判所以上に主尋問も反対尋問もやるわけです。これは計画審理とか争点整理できちんとやらなければいけない。これは先ほどの中間報告で出ていますし、これは労働委員会そのものが今後改善していこうということですので、そういうことをきちんとやっていくということであれは、またもう一度初めから司法審査させなければいけないという理屈にはならないと思うのです。
 その辺は私も水かけ論にしたくないので、何とかそこを改革・改善したいという場合にお互いに相手が悪いと言っているだけでは始まらないと思います。だから、労働委員会と裁判所の協議をしてほしいというのもそういうところです。

○山口委員 水かけ論をしているつもりもないのですけれども、裁判所に来る救済命令はその前段階で労働委員会で審理・判断されているわけですから、その審理・判断がどうかがまず基本的には問われなければいけない。そういう意味で言えば、労働委員会の審理が長いこと、争点整理なり証拠調べが十分整理した形で行われていない。これは現状としてはやはりあるのだろうと思っておりますから、そういうことから申し上げますと、労働委員会の審理においても争点を十分整理して、なおかつ必要な範囲での証拠調べを行う。そういう形で全体がなっていくのであれば、それを踏まえて裁判所の方が審理・判断していくことになるわけですから、非常に効率的になるだろうと思うのです。ところが、現状の労働委員会の手続の流れが必ずしもそうはなっていないということになると、先ほど申し上げましたように、主張も証拠も雑多な形で持ってこられるわけですから、裁判所として改善すべきところはあるにしても、自ずから一定の限界があることもまた否定できないのだろうと思っています。
 そういう意味で言えば、労働委員会の手続なり審理の仕方が相当程度変わらないといけないのではなかろうか。それがあって初めてその認定判断について裁判所の方がやっていく形になれば審理も短くなるでしょうし、今以上に審理期間の短縮は当然可能になると思っています。そういう努力をしなければいけないと私は思っております。

○山川委員 労働委員会の方でも改善すべき点があることは全体として承知していると私も理解しております。去年の秋に全労委総会があって、各論点について、例えば審査手続とか命令書の書き方等についてワーキンググループをつくって検討を行いました。多分公表できるものになっていると思いますので、それは第2回のときまでに御相談のうえ出せるものは出す形で御提案してみようかと思っています。
 もう一つは、労働委員会の制度的な問題ですが、現在では地労委と中労委で地労委が地方分権化されているので、現在の制度のもとでは労働委員会全体としてのスタンスをどれだけ言えるかという状況になっているということがあります。その点は御了解いただきたいと思います。

○菅野座長 今のお話を伺っていると、1つは、労働委員会制度の大がかりな改革が必要というよりは、審理手続のやり方において実質的に裁判所側から見てもかなりの改善、整理がなされればという感じのようにも伺ったわけで、恐らく審理体制強化等の改革は必要になると思いますが、そのほかの点において現行制度の大きな改革が必要という議論でもなさそうだという印象を受けたのですが、そのあたりでまた御議論があれば伺いたいと思います。
 もう一つは、山川委員が言われたように、地方分権化して自治事務化して地労委の独立性が強まりつつあるわけで、そういうことも考えて、地労委の命令の場合と中労委の命令の場合の差も議論していただきたいと思います。前に石嵜委員が地労委により非常に大きな差があると言われたのは、審級省略は制度的に地労委の命令の場合は考えにくいのではないかという議論というふうにも承ったのですが、その辺も議論していただきたいと思います。

○村中委員 審級省略にしても実質的証拠法則にしても、先ほど少し出ていましたが、準司法的な機関としての判断能力を相当程度に高める必要があると思われるわけです。資料93で示していただいた参考判例を見ましても、一審に代われるだけの実質が備わっているのということを裁判所の方は非常に気にしているわけで、それと同等とは言わなくても、それに近いぐらいの準司法的な判断をするだけの体制がないと、審級省略とか実質的証拠法則は語れないように思います。
 そうすると、先ほど出ていましたように、地方分権の中で地労委が統一的にいろいろなことができないということであれば、その専門性を高めることはとりあえず中労委という形で議論することが可能性としては最も高いだろうと思います。それが1点です。ただ、新主張、新証拠の提出制限は前二者と性格が少し違うのではないかと思います。この点に関しては準司法的な専門性と切り離しても議論できるのではないかと思います。
 もう一つお話ししておきたいのですが、準司法的な判断機能を高めるということで言いますと、結局大事なのは人だということです。人をどう確保するかということで、今は公益委員も非常勤であって、専門性がかなり高い人が多くはなっていますけれども、実は労働法についてすら危ないという方もおられるわけです。一方、事務局の方を見てみますと、法曹資格は持っておられない方がほとんどで、かつ労働関係に関して専門性があるのかというと実はそれもない。実際には一人一人は非常に能力が高いのだと言われても、制度的にそれが担保されていない限り、審級省略や実質的証拠法則の制度は語れないだろうと思いますので、人の点について何らかの制度的な議論が要るのではないかと思います。

○髙木委員 今日いただいた資料93に労働委員会の審査手続の流れのチャートがありますが、申立てがあると調査があって、ここでどういうふうに主張立証活動を組み立てて継続的にやっていくかというお話が行われ、私は地労委のことは昔なので忘れてしまいましたけれども、中労委の段階で公益委員の先生が地労委の記録等を読んで御判断されるわけですが、それこそ地労委と中労委の間でも、いわば実質的証拠法則と言いますか、地労委がそういうもので判断してきたものは中労委でやらなくていいのではないかと思うものをまた重ねてやっているのではないか。あるいは証人も申請した方を大体認めていますね。

○菅野座長 それは地労委で足りなかった分を補充してもらうという観点だと思います。

○髙木委員 その辺で労働委員会サイドで、地労委命令に至る審査の過程と中労委に来た後の審査を、中労委、地労委の関係での審査をもう一度精査してはどうかと、これは事件ごとにみんな違うのであれかもしれませんが、そういう感じがしています。私はたくさんの事件にかかわったわけではありませんが、従来そういう印象があるものですから、そういう意味で確かに地労委でやったものは膨大で読むのが大変なのが多いです。審問というと、参与委員の席にも、もちろん公益委員の先生も含めて、資料が書棚1つぐらい並んでいるわけです。あれを全部読みながら私は大変だったなという印象しかないものですから、そういう意味でこの流れの中でどの部分がどうということで、村中先生や山川先生も検討会でいろいろやっておられるかもしれませんが、そういう視点でも一遍吟味してもらう必要があるのではないかと思いますが、どうでしょうか。

○山川委員 まだ余り経験がないのですが、中労委の場合は審問は2~3回補充的に行うに留めることが多いのではないか。時間がかかるのは、1つは調査という期日の形で和解の試みを繰り返していることと、あとは改善すべき点ですけれども、結審した後の命令作成までの時間がかかることによるのではないかと思います。これも和解含みの事件とか、当事者自身がそれほど急いでいないというケースもあると思いますが、そういう点の方がむしろ大きいかなという感じがしています。
 もう一つは、役割分担という点から判定機能について言うと、そのルールを打ち出す機能をどこが担うかも、地方分権との関係があるのですけれども、労使関係のルールをある程度統一して打ち出すのは一体どこが担うべきかという議論になってくるのではないかという感じがしております。例えば地労委から直接行政訴訟にいくと最終的には裁判所がルールを決めるということになりまして、もちろん司法審査がある以上そういう面はあるのですが、行政レベルでのルールの打ち出し方に関しては、そのような役割分担が議論の対象になるのではないかと思います。

○髙木委員 再審査制にしてもそうですか。

○山川委員 再審査前置ということではないですが、再審査を仮に除いてしまったりすると、特にルールの統一が図りにくくなるのではないかという点ですが。

○髙木委員 先ほど事件が1件もないような地労委があるではないかというお話もありましたが、そういう地域特性が制度にどのようにかかわってくるのか。根本的には旧労働省が直系の行政組織を守るために傍系の組織をほったらかした……言い過ぎだったらごめんなさい、あの当時、私たちは直感的に思ったことがあったものですから。その統一性や一元性を守るためにルールでかぶせているとはおっしゃるけれど、裁判所の方はどうなのかということを言い出したらまたぐちゃぐちゃになりますね。これは言ってもしようがない話ですかね。

○山口委員 先ほどの村中委員のお話にも関係するのですが、労働委員会の専門性の信頼を得るためには、結局は制度を支える人の問題を考えないといけないのではないかと、こちらから見ると思うのですが、公益委員なりあるいは事務局についてそれだけの専門性のある人たち、あるいはスタッフを抱えて、それにふさわしい研修なり処遇を考えていかないと、今のように何年かおきで替わっていくのでは、これは裁判所もそうだと鵜飼委員に怒られるかもしれませんが、そういう形では専門家はなかなか育ちにくいとも思っております。

○矢野委員 県によって事件のない地労委があるということを考えると、ブロック別にまとめることができないのかなと思います。地方分権が進んで地方自治の関係が前よりも進んでおりますから難しいとは思うのですが、ブロック別に作ったものを地労委と中労委の間に置くというのではなくて、地労委をまとめるか、あるいは中労委を分散するか、思いつき的な発言ですけれども、そうすることによって専門性を高めたり中身を充実したり、スピードアップができないだろうか。今の法制では難しいのだろうかと、これは問題提起なのですが、何かうまい方法があるのかどうか、いろいろなことも考えてみる必要があるのではないでしょうか。

○山川委員 専門性といいますか能力の点について、確かにおっしゃられたように研修は重要ですし、将来的には法曹資格者が増えることもありますが、それまで時間もかかると思いますが、常勤化については現在でも中労委は2人まで常勤公益委員を置けることになっています。現在は存在しませんけれども。
 それと、事務局と公益委員との分担にかかわるのですが、一体専門性をどのように考えるかということで、労使関係上のこれまで議論されてきたような専門性の他に、、労働委員会の特に判定機能を考える際には、法の適用者としての専門性があると思いますので、調整は別ですけれども、特に事務局においてはそちらの方がある意味では重要になってくるのではないかという感じがあります。
 というのは、1つは、ローテーション人事を全く消え去らせるのも難しいかと思いますし、一方でこれは労働関係に限らないのですが、行政における法の適用の職務が今後一層増えてくるのではないかと思いますので、行政機関としての事実の認定や法の適用解釈の能力を高めることが、ある程度ローテーション人事等を前提にしても有効に働き得るものではないか。その場合、証拠に基づいて事実を認定するのはどういうことかという感覚を身につけることからまず始めるのかなと思います。それは迂遠といいますよりは微温な話かもしれませんが、それも準司法的手続を担う行政機関としての専門性の1つの習得のしかたではないかと思っております。もちろん、専門職をより充実させることは別途考えられることだと思いますが。

○菅野座長 矢野委員は中座されるので、この後次回の進め方についてお諮りするのですが、御希望があればおっしゃっていただきたいと思います。

○矢野委員 特に希望はございません。

○鵜飼委員 ブロック別は私も前から考えていまして、それが可能であればブロック別にすることも考えられますが、ただ、アクセスの問題がありますので、地方に出向いていくことなどももし可能であればぜひ検討しいただきたいと思います。それと、スタッフの問題については、弁護士の数もどんどん増えてきますし、法曹資格者の活用も厚生労働省にはぜひ考えていただきたいと思います。
 専門性のところでずっと言い続けてきた労使関係についての専門性が労働委員会は特に必要だと思いますし、それがある意味では備わっている部分があるのではないかと思いますが、私は裁判所と労働委員会の間のコミュニケーションが不十分だなと思いますのは、山口委員の御発言の中に労働委員会の実務を十分ご存じない部分があるのではないかと思うのです。特に初審の事件で言いますと、次から次へといろいろな問題が発生するわけです。初めからコンクリートにこの事件の争点はこうで審理結果はこうといかなくて、また次から次へと問題が発生して、追加申立てをしたり新しい証拠を出したり、本当に初審の初めの段階はおおわらわな状況になるケースがあります。そういうときに五月雨的に証拠が出されたり主張が出てきたり、そういう中で収拾に困るという点はあると思います。
 そういう実態はお互いに十分コミュニケーションをとりながら共通認識をもつ。その上でなおかつ、民事訴訟法が改正されて計画審理の場合の証拠提出の制限ということになってきますから、それは共通のルールとして労働委員会も十分念頭に置いて、その段階で出すべき証拠については後の段階では出せない、いけないというぐらいはやるべきだろうと思います。そういうコミュニケーションを通じてお互いの事情を知ることを前提にして、少なくとも労働委員会の審理が終わった後、特に中労委の再審査まで終わった事案で、さらにもう一回初めからやるのは余りにもおかしいのではないかと思います。
 最後にお願いしたいのは、日弁連と裁判所との間の協議がこの前も議論になりましたし、現実化しつつありますが、この推進本部でもぜひバックアップ体制をとっていただいて、先ほどから問題になっている労働委員会と裁判所の間の協議の場、あるいは日弁連と厚生労働省の協議の場を推進していただくようにお願いしたいと思います。

○石嵜委員 労働委員会の専門性の話もあるのですけれども、厚生労働省の方でおわかりになればということで、資料94の3ページです。2の(3)の終結状況、先ほどから再審査命令に関して、つまり東京地裁のお話をしていたわけですが、初審命令に対する地方裁判所の取消訴訟事件は東京都労委の事件が多いわけですから、それがそのまま東京地裁に上がる場合もありますね。あとは大阪の地労委で大阪地裁、それ以外の本当に各地方で取消訴訟はどのぐらいやっているのでしょうか。何を言いたいかといいますと、確かに地方の労働委員会は専門性はないけれど、地方の裁判所にも実際は専門性があるのかどうか。そうなれば専門部は東京地裁に3つあって、大阪地裁もひとつあります。こういう話なので、先ほどの地方における専門性の問題は、地労委だけではなくて地裁そのものも一緒に考えるべき問題であって、ここはきちんとやっておきたい。ブロック別を考えるなら、それは裁判所でもあり得るのかという議論をきちんとすべきではないかと思います。正直言うと、本当にほとんどないのではないですか。

○熊谷委員 手元にデータはないのですが、そういう資料を以前見たところ、取り消されているかなり多くの部分が東京でありまして、東京以外では大阪もほとんどなかったかと思いますが、たまに札幌などがぽつぽつ出てくるような記憶がございます。

○山口委員 逆に言うと、地方にどれだけ労働事件なり労働委員会の事件があるのかという問題だと思うのです。裁判所の関係から言うと、専門部なり集中部をつくるほどの事件数があるのかどうか。将来的にどうなるかはわかりませんけれども、人員の配置という観点からすると、そういう視点も無視できないのではないかと思っています。

○菅野座長 実質的証拠法則については格別の議論がないので、その辺も議論があればお願いします。

○髙木委員 先ほどの厳格性の話と裏表のようなことではないでしょうか。そういう意味では、こういうことができたらこういう原則論も採用できる、こういうレベルに達したらこういうことも多分いいだろうという相関のようなものがあるのではないでしょうか。

○石嵜委員 今日議論させていただいて思うのは、今何ができるかというと、制度をいじって専門性などを議論するとやはり簡単な話ではなくなります。ただ地労委の現実、事実上の「5審制」になって年数がかかっているのは事実ですから、そうすると最初に審査の遅延という形で記載されている1の、争点、証拠整理の不十分な上、多数の書証提出や当事者の求める多数の証人尋問をやっているとか、日程の調整は、私がいつも言うように、弁護士に多大な責任があると思うのですが、地労委にいきますと、弁護士だけではなく使用者の先生と労働側の先生が入って確かに日程は遅れていますので、ここをもう少し考えて、日程の入れ方も計画的にすれば極端に審査は進むのではないかという気はするのですが、ここをまず最初にやるのが現実的かなと、今日の議論を聞いてそういうふうに思います。

○山口委員 その関係で言うと、鵜飼委員が言われたように、最初の段階で当事者があれもこれも出したり追加申立てもするのは多分そのとおりだと思います。逆に言うと、それをそのまま放置しているから後がずるずるの形でいってしまうので、最初の段階で、すぐとは言いませんけれども、ある程度の主張が出された段階でうまく仕分けをして、その点はどうかという形でやっていく能力が審査委員に求められるのではなかろうか。その辺がルーズにとは言いませんが、流していってしまっているからだんだん押せ押せになるのではないかという気もしますので、審理の早い段階と言うとまた怒られるかもしれませんが、一定程度の段階になったら、争点整理なり何なりをできるだけのレベルの力を持った方が十分審査に当たるべきではないかと思います。

○山川委員 今の点と若干関連することは、審査中に起こった出来事にどう対応するかということで、今でも実効確保勧告とか、再審査では履行確保勧告がありますので、そのあたりをどう考えるかということも1つの論点になりえますし、終結まで考えれば緊急命令の話も、以前山口中労委会長から出ていました。アメリカですと、NLRBの審理手続中においても最初に暫定的な差止命令を求めうるような仕組みがありまして、日本では違うシステムになっていますが、審査期間中にいわば手続を無にすることがなされた場合に対する措置があります。遅延問題とある意味で裏腹なのですが、時間がかかっているうちに組合がだんだん切り崩されることを防ぐような手立てが何かあり得るか。これは検討会の取りあげる問題とは違うかもしれませんが、紛争をきちんと解決する上では考えておいてもいいのかなと思います。

○髙木委員 石嵜委員、とりあえずこれからやりましょうというのは最近は信用できないのです。とりあえずそれをやりましょうというのですぐ10年、20年経ってしまいます。いきなり到達点まで用意ドンというわけにはいかないかもしれないけれど、ステップ・バイ・ステップにしてもターゲットはここというぐらいは、例えば一方で裁判の方は2年以内にやれということなのに、再審査のところだけで1,500日台。そんなに長いのでは労働委員会には来ないでくれということになる。いきなり裁判所へいってやってもらおうかと、裁判所も労働関係を全国津々浦々でどこまでカバーしてくださるのかという部分はあるのかもしれませんが、そういう意味で例えばこういうことにしましょうとか、審級省略はこういう条件をつくったら何とかやりましょうとか、そういう目標、方向性をきちんと確認しておいて、そのために過程ではどういうことが必要かを一つ一つ丁寧につぶしていくということがなければ、とりあえずこれからやりましょうというのではもうだめだと私は思います。

○石嵜委員 審級の問題は議論が別にあるだろうし、地労委命令がどれだけ信頼できるかという問題もありますが、髙木委員がおっしゃるように、審理期間について裁判所も2年という1つの目標を作って進むわけですから、地労委についても一定の目標値を作るべきだと私も素直に思います。

○鵜飼委員 ここは司法審査の在り方という制度論議ですので、労働委員会に対する注文は山とありますけれどもそれは一応別として、手続については双方の主張立証は十分過ぎるほど労働委員会でやる機会がありますし、むしろそれをもっと計画的にやるようにと言われているぐらいですね。取消率についても高いと言われていますけれども、実態を見るとそうでもないと、先ほど来山口委員も大概の事件は適正な命令であるとおっしゃっていますし、制度改革についてノーと言われている論拠を一つ一つ考えますと、かなりクリアされているのではないか。そういうものについて先ほどの5審制等の問題を放置しておくだけの合理的根拠があるかどうかという点だと思います。自分勝手かもしれませんが、その辺は制度改革の点から言うと、ここの議論ではその根拠はかなりなくなってきているという印象を持っていますので、むしろ制度改革のための条件は何なのかということをもう少し具体的に詰めていただきたいと思います。

○髙木委員 労働委員会に訴えるのに、行政訴訟事件が起こってこんなに長くかかってこういう目に遇いましたと、今の行政事件訴訟法がそういう訴訟をやらせてくれるかどうかわかりませんが、誰が原告かということもありますけれども、そのぐらい追い込められた気持ちでやらないとなかなかと思います。今日配っていただいた資料91の昭和57年の報告と今度出た資料94の中間報告は中身がほとんど同じではないですか。それぞれの先生のお立場があるのに失礼なことを言ってはいけませんが、こうやってすぐ棚に置いてしまって、昭和何年かの司法制度の意見書も結構なことをやっておられるけれど、今はこういうことをやる状況に至っていない、状況づくりをしましょうという理由でみんな棚に置いてしまった。これも言葉が過ぎるかもしれないけれど、みんなサボったと言われてもしようがないのではないかという面があると思います。

○菅野座長 そこはそんな簡単な問題ではないと思います。昭和57年の報告で労働省も一定の措置をとってやり始めた途端に、また大量の事件がわっと出て、それへの対応で地労委と中労委が追われたという状況もありますし、何よりも制度そのものが労使関係を基本的によくしていくという観点から調整を重視したので動いてきた。そこは公労使委員がほとんど一致したコンセンサスですので、それを一朝一夕に改めるところには至らないなどいろいろな事情があると思います。

○髙木委員 いろいろな事情はあるでしょう、それできてしまったわけですから、現実問題として問題点は今も継続している。それはなぜなのかということを、これは私どもも含めて、組合もそういう意味では怠慢のそしりも受けるのでしょうし、だからみんなが懺悔すべきではないでしょうか。

○山口委員 みんなが懺悔しても始まらないと思いますが……。鵜飼委員は多少ミスリードしている部分もあって、私の意見は労働委員会の命令なり認定、判断で問題がないと申し上げているわけではないので、問題のあるものもあるし問題のないものもあるということで申し上げているので、その辺は誤解のないようにと思っています。
 髙木委員の御意見は、基本的には労働者であれ使用者であれ、当事者が現状で不満を抱いていること自体は間違いないと思いますので、労働委員会の方でいろいろな事情があるにしろ、こういう問題点を把握して改善に向けてやろうということですから、髙木委員あたりが心配されているような杞憂がないように本腰を入れて、ぜひ本格的な労働委員会の改善に努力していただきたいと思いますし、そういう観点で私は個人的には裁判所の方で協力できる部分があれば協力するのは差し支えないのではないかと思っていますので、せっかくこういう中間整理をされたのですから、それを実りあるものにしていただきたいと思っています。

○齊藤参事官 印象を述べさせていただいていいでしょうか。今日御意見を伺っていて、不当労働行為制度における判定的機能と調整的機能はお互いに必ずしも相反するものではないのではないかという御指摘があったと思いますが、そうだとすれば、判定的機能を強化していく方向は基本的には調整的機能にも寄与すると言えるのだとすると、そのあたりの発想からして具体的に制度改善を図っていけるような切り口がないかと感じました。そういう観点から、そういう基本的な考え方の下でこういう制度改善の在り方があるのではないかという具体的な御提案をさらにいただければ、事務局としてもまたよく検討してみたいと思いました。

○菅野座長 そろそろ予定の時間になったのですが、なお御発言はありますでしょうか。まだまだ議論は足りない点があろうかと思いますが、労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方についての1巡目の議論は、もしよろしければとりあえずこのぐらいにしたいと思います。
 今回の御検討を踏まえて事務局においてある程度議論の整理・検討をしてもらった後、2巡目の検討でさらに詳細な議論をしていただきたいと思います。
 また、厚生労働省におかれては、ただいまの御議論等を踏まえて不当労働行為の審査制度の在り方について、さらに御検討いただければと存じます。
 駆け足でしたが、今回までで各論点について一通り、1巡目の御議論をしていただきました。4月以降、2巡目の検討に進んでいきたいと思いますが、次回(3月24日)はこれまでの1巡目の議論の中で足りなかった部分等があれば、この際に検討しておきたいと思います。そこで委員の皆様からもぜひ議論しておきたい点がございますれば、この場で述べていただきたいと思います。次回は1巡目の議論の補充をして2巡目に入っていくわけですが、次回の進め方についての御希望がありましたら、おっしゃっていただきたいと思います。

○髙木委員 2巡目の議論は、1巡目でこういう議論があったということが下敷きになって議論になるのですか。

○菅野座長 それも御意見をいただきたいのですが、当然にこれまでの議論を踏まえて、それを基礎にしてやっていきたいと思っております。

○髙木委員 1巡目ということで、例えばどなたがこうおっしゃったけれど私はそれとは意見が違うということは余り申し上げていませんので、いわゆる2巡目の議論は1巡目の議論が下敷きになるというならば、申し上げていないと自分で思っていることは次回申し上げた方が、2巡目につながりを持つのかなと思ったりするのですが。

○菅野座長 それでは御意見としてお伺いしておきたいと思います。1巡目の議論でおっしゃっておきたかった点がまだあるという御趣旨で、次回はそういうことを勘案してやってほしいということですか。

○髙木委員 2巡目の議論ですね。

○菅野座長 わかりました。そういう御発言を伺いました。他にありますでしょうか。

○鵜飼委員 2巡目の議論のイメージとしては、例えば先ほど齊藤参事官が制度改革の新たな提案をという趣旨のことをおっしゃいましたが、我々の方でこういうふうに改革した方がいいのではないかということをどんどん出すというか、余り出し過ぎてもいけませんが、テーマごとに出すというイメージでしょうか。

○菅野座長 2巡目のやり方についての議論は次回でもしなければいけないのではないかと思っておりまして、2巡目の検討の仕方についての希望を述べていただいても結構です。

○齊藤参事官 テーマごとに2巡目の検討の要領も多少バラエティがあるかもしれません。例えば労働調停などの場合は導入の方向性は明らかになっていますので、その内容についてさらに詰めた御議論をいただくという要領になると思います。もう少し漠としたテーマについては、焦点をもっと絞っていくことも要領の中で配慮しなければいけないとか、その辺はまだ工夫の余地があると思っておりますので、事務局としてもさらに検討させていただきたいと思います。

○菅野座長 これ以上なければ、これまでの議論の状況等も踏まえて、私と事務局で考えさせていただいて皆様にまた御相談させていただき、次回の進め方を決めたいと思います。そういうことで時間も限られており、スケジュール等もありますので、いかにして検討会の結果を出していくかということも考えてまたお諮りしたいと思います。次回は1巡目の議論で足りなかった点を検討していただいて2巡目につなげるということで、事務局と相談してお諮りしたいと思いますが、それでよろしいでしょうか。

○鵜飼委員 弁護士費用の敗訴者負担の問題が司法アクセス検討会で、3月10日ですか、相当詰めた議論がされると聞いているのですが、仲裁検討会のときのケースがありましたけれども、労働事件の特性がありますので、ああいう形で労働検討会からメッセージを出すといいましょうか、意見を出す機会が保障される必要があるのではないかと思いますが、その辺はいかがでしょうか。

○齊藤参事官 敗訴者負担の問題はいずれにしても司法アクセス検討会とうまく連携をとるなり、司法アクセス検討会でも労働問題についての十分な配慮をした上での検討をしていただけるように、そのことは配慮したいと思っていますので、次回は敗訴者負担の問題について当検討会である程度御議論いただく必要があるということであれば、それはそれで3月24日にどういうメニューにするかについて検討させていただきたいと思います。

○鵜飼委員 仲裁と同じように、仲裁の方で決まってしまって時期おくれになってしまうと困りますので、その前に労働検討会の意見を伝えて、一緒に検討する場を保障していただきたいと思うのですが、それも次回の期日で十分間に合うわけですね。

○齊藤参事官 司法アクセス検討会の方で敗訴者負担の問題についていつごろまでに結論を得ようとしているのか、おおまかなところでは3月10日時点で決まってしまうということではないと思います。もう少しスパンのある検討がなされると思っています。

○菅野座長 他に御発言はありますでしょうか。
 なければ、事務局から次回について御説明をお願いします。

○齊藤参事官 次回は3月24日(月)午後1時半から4時半を予定しております。よろしくお願いいたします。

○菅野座長 それでは本日の検討会はこれで終了いたします。長時間にわたりありがとうございました。