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労働検討会(第18回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年4月11日(金) 14:30~17:30

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委員) 菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、春日偉知郎、熊谷毅、後藤博、髙木剛、村中孝史、矢野弘典、山川隆一、山口幸雄(敬称略)
(事務局) 松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、齊藤友嘉参事官、松永邦男参事官、川畑正文参事官補佐

4 議題
(1) 論点項目についての検討
 ・ 労働関係紛争の解決のための専門的知見の導入の在り方①
  - 導入すべき労働調停の在り方について
  - 雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否について
(2) その他

5 配布資料
資料103 労働関係事件への総合的な対応強化に係る検討すべき論点項目(中間的な整理)[再配布](略)
資料104 検討事項に関する主要な論点及び検討資料[再配布](略)
資料105 導入すべき労働調停についての検討のたたき台
資料106 労働調停手続の流れの概要(イメージ)
資料107 雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否についての検討の概要(主要な意見分布の状況)
資料108 訴訟手続への外部の人材の関与制度の比較
資料109 諸外国における労働関係事件の裁判制度の比較

6 議事

(1) 論点項目についての検討

 労働関係紛争の解決のための専門的知見の導入の在り方(導入すべき労働調停の在り方、雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否)について、2巡目の検討が行われた(○:委員、▽:関係機関)。

ア 導入すべき労働調停の在り方について

 導入すべき労働調停の在り方について、資料105及び資料106に基づいて、次のような議論がなされた(下線付きの表題は、資料105の各項目に対応している。)。

1 労働調停と現行の一般民事調停との関係

○ 労働関係事件を処理するための制度として新たに労働調停を設けるのであるから、労働関係事件は全て労働調停で扱うのが筋である。
○ 労働関係事件については原則として労働調停で扱うべきであるが、なるべく門戸を開放し、当事者が選択すれば、一般民事調停も利用できるようにすればよい。実際上は、裁判所の窓口で当事者の納得を得て事件の振り分けをしていけば混乱しないのではないか。
○ 労働調停と一般民事調停の選択を認めてよいと考えられる。
○ 労働関係事件は全て労働調停の手続で扱うこととすると、入り口の段階で労働関係事件か否かを見極めなければならない。見極めを誤った場合には、後々手続違背か否かの疑問が生じてしまう。比較的自由な制度設計とした方が余裕があるのではないか。
○ 簡易裁判所での一般民事調停を選択することを排除する必要はない。また、労働調停については単独の法律として制定し、労働調停の創設を労使にアピールし、その利用を呼びかけるとともに、労働調停の目的や使命を明らかにすべきである。
○ 労働関係事件に該当するか否かの判断が難しい事件もあると考えられ、事件の仕分けをすることは困難ではないか。また、労働調停を地方裁判所の管轄としたときに、簡易裁判所で処理できる事件もあろう。

2 労働調停の対象となる紛争
 (1) 個別的労働関係紛争・集団的労働関係紛争

○ 個別的紛争のみを対象とすることでよいのではないか。
○ 集団的紛争の処理については、労働委員会が存在するので、労働調停の対象とする必要はないと考えられる。
○ 個別的紛争を対象とし、その定義は個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に倣えばよいのではないか。ただし、実質的には集団的紛争であるような紛争が申し立てられることを遮断できない場合もあろうが、そこは当事者の選択ということではないか。
○ 集団的紛争は一般民事調停では扱わないとすると、入り口の段階で集団的紛争か否かを見極めなければならない。集団的紛争か否かの境界を明確にしないと、誤って対象とならない紛争を処理した場合に、後々手続違背か否かの疑問が生じてしまう。厳密な線引きは難しいので、比較的自由な制度設計とした方が余裕があるのではないか。
○ 集団的紛争も対象とした方がよいと考えられる。労働委員会は各都道府県に一か所しかなく、小規模な労働組合にとってはアクセスが困難である。労働委員会の事務が自治事務化したことに伴い、全国的に一律にアクセス向上のための対応が可能か疑問であり、労働調停において、あえて集団的紛争を排除する必要はないと考えられる。確かに、集団的紛争が労働調停に持ち込まれることは少ないとは思うが、例えば、個別的紛争と集団的紛争が合体したような紛争の場合には、労働調停の対象を個別的紛争に限定すると、集団的紛争の部分が扱えず、紛争の一回的な解決を図ることが困難となる。

 (2) 労働調停により解決を図るべき主な紛争

○ 取り扱う紛争を区分することは困難であるから、当事者から申立てがあれば、労働調停で扱うということにすればよいのではないか。
○ 当事者の考え方に委ねることとし、あまり対象となる紛争を限定する必要はないのではないか。
○ 制度上対象となる紛争を切り分けることは困難であるが、対象となる紛争についての運用上の基準を設けることはあり得るのではないか。
○ 労働調停のイメージとしては、調停主任が調停委員と協力して、事実を調べ法律を適用することにより、紛争の適正な解決を図るものであり、その点では他のADRよりはフォーマルなものと考えられる。
○ 軽易な事件か複雑な事件かを仕分けるのではなく、労働調停で複雑な事件まで扱うかどうかを考えることが必要である。
○ 労働調停を創設する目的、労働調停でどのような事件を解決するのかを考えると、主に重い事件で利用されるのではないか。したがって、労働調停では裁判官による関与のレベルを高めていくイメージではないか。また、調停委員会が証拠調べ等についてどの程度の権能を有することとなるのかとも関連すると考えられる。

3 労働調停と現行の一般民事調停の選択

○ 労働関係事件は全て労働調停で扱うべきであり、一般民事調停との選択を認めるべきではない。
○ 労働関係事件については、当事者が選択すれば、一般民事調停も利用できるようにした方がよいのではないか。
○ 労働調停は地方裁判所で扱うこととすべきであるが、簡易裁判所で行われている一般民事調停の利用を排除すべきではない。労働調停を利用する場合は、その旨を明示して労働調停の手続に入るようにする形がよい。

4 事物管轄

○ 労働調停の事物管轄は、地方裁判所とすることが適当である(C案)。
○ 管轄する裁判所の原則を決めるのであれば、簡易裁判所の事物管轄とすることを原則とすべきである。利用者の利便を考慮し、離島での申立てや少額の軽易な事件の申立てがしやすいよう、簡易裁判所の管轄とすべきである。簡単な紛争は簡易裁判所で、複雑な紛争は地方裁判所で扱えばよいと思う。
○ 調停はなるべく柔軟な手続であることが望ましいが、事物管轄等については、調停主任がどの程度主体的に関与するか、調停委員の力量はどの程度かといった点を考慮する必要がある。重い紛争を扱うのであれば、簡易裁判所の事物管轄とすることは困難ではないか。B案あたりが適当ではないか。
○ 裁判所のADRとしての特徴を出すためには法曹資格者が調停主任となるべきであるとともに、調停委員を十分確保できるか否かの問題があるので、地方裁判所の管轄とすべきである(C案)。また、訴訟との連携を図る観点からも、地方裁判所で扱うことが適当である。
○ 労働調停が活用される紛争の一つとして、雇用関係の継続を前提とする紛争が考えられる。このような紛争については、地方裁判所の管轄とすることが適当である。
○ 簡易裁判所については、一般民事調停を充実させることが考えられるのではないか。
○ 労働調停という新たな制度を全国民が利用できるようにすべきであり、離島も含めて考えると地方裁判所に限定することは適当ではない。利便性のためには国民に一番身近な簡易裁判所の管轄とすることが適当である。さらに言えば、地方裁判所と簡易裁判所の両方で利用できるようにすべきではないか。
○ 簡易裁判所の管轄とした場合でも、調停委員の兼務や出張を活用することにより、融通を利かせることができるのではないか。
○ 訴訟の場合でも、訴額が90万円を少しでも超えれば地方裁判所の管轄となるのであり、労働調停の管轄を地方裁判所としても、それほど不都合はないのではないか。
○ 調停委員としてどのような者を参加させ、労働調停でどのような紛争を扱うこととするかを考える必要がある。我が国では比較的簡易な紛争は行政機関で解決され、あまり裁判所には持ち込まれない。したがって、裁判所ではある程度重い紛争を想定することとなると、地方裁判所の管轄ではないか。
○ 労働調停で複雑な事件まで扱うのであれば、地方裁判所の管轄とすることが適当であるが、調停委員の併任や出張による簡易裁判所での対応の可否についても検討が必要と考えられる。
○ 事件の管轄を間違った場合の対応として、民事訴訟における合意管轄や応訴管轄のようなことを検討することが必要と考えられる。

5 土地管轄

○ 労働調停について、労働者の就業場所等での申立てを検討することはよいのではないか。
○ 基本的には、現行の一般民事調停と同様に相手方の住所地等で申し立てることとするが、労働者の就業場所等での申立ても認めるという方向で考えることはよいのではないか。

6 専門家調停員
 (2) 専門家調停委員の性格

○ 回りくどい表現をせずに、労使を直接に代表する者ではないということが分かればよい。

 (3) 専門家調停委員に必要とされる専門性の内容

○ 調停委員に必要な専門性として、最も求められるものは、(注)②の労働関係の制度、技術、慣行等の実情に関する知見が中心ではないか。また、③の労使間の均衡点を見出すといっても、声の大きい者が勝つということではなく、当事者の納得の得られる公正な判断を行う能力ということではないか。
○ 調停委員ではあっても、一定の労働法に関する知識は必要であると考えられる。

 (4) 専門家調停委員の供給源

○ 労働調停の調停委員としては、労使の関係者の他学識経験者等も含めてよい(A案)。様々な人材を広く集める必要があるとともに、労使団体としても候補者を推薦したいとは考えているが、中立公正な立場で関与する以上、学識経験者も調停委員に含めることが適当である。
○ 調停委員に学識経験者等を含めてもよいが(A案)、中心となるのは労使関係者であり、学識経験者等は事案によって必要に応じて活用することが考えられるのではないか。また、「労使の関係者」にはOBも含めて考えるべきである。なお、(注2)の相談業務経験者としては、例えば、労働委員会や行政機関、労働組合等での経験者等が考えられるのではないか。
○ 調停委員会の構成は調停委員2名に限られないので、例えば、労使関係者各1名と公益的な立場で労使双方の意向を汲める学識経験者等1名の計3名で調停委員会を構成することも考えられる。そのための含みを持たせた方がよく、学識経験者等も含めて供給源を考えるべきである。
○ 学識経験者を含める場合、その推薦母体はどうするのか。その点が考えられるのであればよいが、そうでなければ、労使関係者のみに限った方がすっきりするのではないか(B案)。また、労使関係者としてどのような者まで含めるかということもあるだろう。
○ 例えば、企業城下町での労働調停の申立てを考えた場合、調停委員を労使関係者に限ると、紛争当事者に関係する企業や労働組合の関係者が調停委員となってしまうおそれもある。したがって、より広く学識経験者まで含めて調停委員を考えた方がよいのではないか。
○ 科学技術の知識経験を持つ専門家を調停委員として参加させることもあり得よう。したがって、調停委員には学識経験者も含めてよいが、主として労使関係者が中心となることが適当であると考えられる。
○ 労働調停の調停委員としては、労働委員会の公益委員経験者や労働事件を扱う弁護士等も参加させれば、かなり機能すると考えられるが、現在の簡易裁判所の民事調停委員には労働問題に精通した専門家は入っていないように思われる。
○ できる限り多くの人材を調停委員とする観点からは、供給源としては学識経験者も含めた方がよいのではないか。

 (5) 専門家調停委員の任命

▽ 現在、民事調停委員の選任は、各裁判所で、地域の様々な団体から推薦を得て行っている。(最高裁判所)
○ 推薦団体として、専門的な知識経験を有する者であることのチェックを行う等、どのような推薦体制を整備するかが重要である。
○ 労働委員会の使用者側委員については、学識経験者による講演やケーススタディの実施等の研修を実施している。労働調停の調停委員についても、推薦する側が教育や情報提供を行うようにすることが必要である。
○ 推薦する団体に対しては、知識経験のある者を推薦してくれるよう、一定の要件を課した方がよいのではないか。

 (6) 調停委員会の構成

○ 調停委員会には必ず労使の関係者が入るのか、学識経験者でもよいのかについて、検討が必要である。

 (7) その他

○ 調停委員の除斥や忌避は設けなくてもよいのではないか。調停委員に不満があるのであれば、調停の成立は無理であろう。
○ 例えば、調停委員に問題があるとして一度調停を取り下げた場合、同一の事案について再度調停を申し立てることができるのであれば、除斥や忌避の制度を設けておく必要はないだろう。なお、再度の申立てができるとしても、もう一度申立書等を書き直さなければならないのであれば煩雑である。
○ 通常は調停委員に問題があれば差し替えるという運用も行っているので、それほど問題になることはないだろう。

7 訴訟との連携
 (1) 調停前置

○ 調停前置を導入する必要はない。

 (2) 職権による付調停

○ 付調停を活用することとし、特段の特例は設けないことでよいが、「積極的に」と余計なことを付け加える必要はない。

 (3) 調停不成立の場合の取扱い

○ 調停における全ての資料を引き継がないのではなく、互譲のための資料については引き継ぐべきではないが、証拠資料として記録に編綴したものは訴訟に引き継ぐべきである。
○ 裁判所が職権で収集した証拠については、訴訟に引き継いでもよいのではないか。
○ 調停は訴訟とは別の手続と考えるべきであり、調停の場では自由に物が言えるようにすべきである。調停で提出された資料が、限定的ではあるにしても、訴訟に引き継がれるとなると、調停が訴訟を意識した手続となるため、調停本来の機能を果たせるか疑問である。したがって、現行の民事調停制度の特例を設ける必要はない。
○ 特に当事者本人が申し立てる調停の場合には、証拠資料を整理して区別することは困難である。また、調停と訴訟は別の手続であることを考えると、資料の引継ぎを認めることは問題である。
○ 例えば、解雇事件では、使用者側が解雇理由とそれを裏付ける根拠資料を提出しなければ、調停にならないのではないか。そうした資料を出させて、労働者側に反論を求めるようにしなければ、手続は進まない。その上で、そうした資料に番号を付けて当事者双方に渡すとともに、訴訟に引き継ぐことが必要である。このようにして事実関係を記録しなければ、17条決定を行うこともできないだろう。
○ 調停の資料を記録化することと、訴訟に引き継ぐこととは別である。記録に残すことは当然であるが、その中には、訴訟になった場合に、当事者が出してもよい資料とそうでない資料とがある。民事訴訟は当事者主義が原則であるから、調停の資料を訴訟に引き継ぐことは、民事訴訟の枠組みと整合するのか疑問である。
○ 調停手続が先行している場合について、訴訟を提起する際の手続を改善する必要がある。調停不成立後2週間以内に訴えが提起できるよう、裁判所書記官に対する口頭での意思表示による訴えの提起を認めることや、より簡単な訴状を用意することが考えられる。また、調停不成立時に両当事者が同席している場合には、訴えの提起と併せて第一回期日を決めてもよいのではないか。

8 調停の成立を促進するための仕組み

○ 労働調停による紛争の適正な解決を図るためには、調停委員会による事実の調査の在り方について工夫するとともに、調停委員会が一定の見解を示す制度を設けるといったことも必要ではないか。また、労働調停は裁判所で行うADRなので、事実の調査や証拠調べを行うことができ、法に基づいた判断がなされることが必要である。このため、当事者には証拠を提出する責任があること、裁判所が文書の提出を求めること等について検討すべきである。
○ 調停に代わる決定よりも効力の強い制度については、是非そのようなものを考えてほしい。

9 その他
 (1) 調停手続の迅速化

○ 労働調停による迅速な紛争処理を図るためには、迅速な手続の進行を図るべきことを規定するとともに、特に解雇事件等については、調停期間のタイム・ターゲットを設定することが必要である。
○ 例えば、第1回の調停期日は申立てから2週間以内に開くことや、調停の期間が3か月を超えた場合であって、当事者が手続の継続を望まないときは、手続を打ち切ることを定める等、具体的な期間を区切った規定を設けるべきである。

イ 雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否について

 雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否について、資料107、資料108及び資料109に基づいて、次のような議論がなされた。

○ 裁判への労使参加については我が国では実例がないため、比較法的な考察が必要である。諸外国の労働裁判制度と比較すると、日本の労働関係事件の裁判は、必ずしも労働関係の専門家ではないキャリア裁判官が、一般の民事訴訟の中の一部として扱っており、特別な訴訟手続が存在しない。労働関係事件の増加傾向が続く中で、従来のままの裁判システムでよいのか疑問がある。
 委員間で労働参審制についてのイメージが共有されていないのではないか。参審制の果たす役割は、労使の現場感覚、体験に基づく経験則を判断の場に生かしていくことである。雇用社会における経験則は労使の現場の体験者でなければ分からず、特に一般条項を適用した判断が必要となる場合には、労使間の利益衡量を行い、合理性を見出す場に、労使の経験則を有する者が関与することで、より適正・迅速な判断ができるようになる。また、諸外国では、多くの場合、労使の参審員の意見は一致している。
 参審制の意義は、法的コミュニケーションであると言われている。参審員が裁判官とコミュニケーションをすることで、多面的に物事を見ることができ、大方の納得を得られる判断を行うことができるようになる。
 参審制のもう一つの機能はフィードバック機能である。企業内の自主的な紛争解決能力が落ちてきている中で、労使が参加して紛争解決を図った規範が職場に戻るととともに、職場のルールが裁判の場に戻っていくこととなる。
○ 労働参審制については、まず、その必要性の論議が必要である。
 労働紛争の自主解決能力は落ちているが、労働調停も含めたADRを充実させていくことで、かなりの紛争を解決できるようになると思う。労働局には何十万件という相談が来ているが、そのほとんどはADR段階で解決しており、まずはADRの充実を図るべきである。したがって、労働調停の場で徹底的に労使の関与を実践し、経験を積むとともに、裁判においても専門委員制度を活用すればよい。この他、集団的紛争については労働委員会が存在しており、以上の制度を総合的に見ると、我が国では立体的な紛争処理の仕組みができあがることになる。
 裁判の現場で大問題が生じているのであれば、制度を改めることはあり得るが、現時点ではどうか。将来的に問題が生じないと保障はできないので、将来のある時期において議論をすることはあり得るとしても、今、労働参審制を議論する意義は薄いと考えられる。ADRの状況も含めて総合的に考えた上で、最終判断すべきである。
○ 参審員が法的な判断を行うこととなる労働参審制を導入することには若干の疑問がある。
 まず、争点や証拠の整理は裁判官が行うとしても、参審員が事実認定の段階から関与するとなると、心証形成を行うためのトレーニングを積んでいない経験のない者が関与して、果たして正しい事実認定が行えるのか疑問である。また、国民がそこまで期待しているのか疑問がある。
 次に、参審員が法的な判断に関与するとなると、合議で意見を述べるに当たっては、労働法規の解釈や判例を理解して意見を述べることが必要である。そのためには参審員に相当重い負担がかかってくることとなり、参審員にそれが可能か疑問である。
 また、労使の参審員は、労使双方の利益の主張やそれぞれの観点からの見方をするに止まらず、中立的な立場から判断することが必要である。現時点においてそのような参審制度を作ることができるのか疑問である。
 さらに、現在の労働関係事件の裁判制度を抜本的に変えて、労働参審制を導入することまで国民が期待しているのか疑問である。参与制度や司法委員制度のように、法的な判断には加わらないものや和解の勧試を行う制度であれば、考え得るかもしれない。
 特にルールメーキングが必要な事件は相当に難しいものが多いと考えられ、そうした事件について参審員を交えた上で2年以内に事件を終結させるとの要請にも応えられるのか疑問である。
○ 今述べられた疑問点については共有している。労働参審制を導入するまでのニーズがあるのかについては何とも言えないが、労働関係事件の裁判について、裁判所の能力や専門性が高まったと国民が信頼するようになることは重要な課題である。国民が裁判所へ行けば紛争を十分に解決してくれると思えるようになることが重要であり、ADRでもかなりの紛争解決がなされているが、やはり調停には自ずと限界があり、裁判制度が要となるものである。
 労働関係事件の判決はよくできたものが多いと思うが、例えば、今後事件数が増加した時でも、現行の裁判制度で対応できるのか疑問である。
 労使が裁判に参加することになれば、国民に対して強いメッセージを発することとなる。裁判制度については、実際の判断能力、判断の適正・公正さとともに、国民が裁判に対して信頼を持ってくれることが重要である。
 また、労使が裁判に加わることで、裁判官にも刺激となる。確かに、法的な能力は裁判官が明らかに上であり、参審員が十分に合議に加わることは無理だと思うが、事実上の参与制として参審員が合議の場にいるだけでも刺激を受け、裁判官は自己研鑽に励んだり、様々な知識を吸収したりする等して、専門性を高めることにもなると考えられる。
 参審制がよいのか、参与制がよいのか、労使の関与のレベルについてはさらに議論すればよい。労使が労働調停に関与することでも裁判官にとって刺激となるのであり、必ずしも参審制でなければならないことはないが、労使が参加することの意義は重視すべきである。
○ 今回の司法制度改革の大きな課題の一つは、国民が利用しやすい司法制度を構築することである。現状では、労働関係事件の裁判の件数は極めて少なく、多くの労働者は、裁判は敷居が高く、なかなか利用しにくいと考えている。
○ 労使の現場のことはよく知っていても、裁判の素人に事実認定や法的判断ができるかという指摘はあるが、労働参審制の議論では、互いの長所を補完しあうという発想が重要である。
 諸外国と歴史や国民性の違いはあろうが、日本の労使のレベルは決して低くはないと考えている。労働参審制という初めての制度を導入するのであるから、検証しながら進めていくことは当然である。最初から全面的に展開するのではなく、順番にステップアップしていけばよい。ヨーロッパ諸国でできて、我が国でできないということはない。根付いていけばうまく機能していくと思う。
 ドイツの労働側の非職業裁判官に聞いたところでは、第2審や第3審まで争われる事件の中には、労使対立の厳しいものもあるとのことである。しかし、労使関係では、100%意見が一致し、対立がないということはあり得ない。その中でリーズナブルに考えていくことが必要である。もう少し発想を広げて、司法制度改革審議会意見書の基本的なスコープを考えてほしい。意見書では、国民が統治の主体となることが重要であると指摘しており、労働参審制について国民の期待がないというのであれば、国民の意識を変えていくようにすることも必要である。
 また、まず労働調停で勉強してからということになると、すぐに15年、20年経ってしまう。
○ 参審制又は参与制によるチェック機能を否定するつもりはない。裁判官と労使の現場の経験者の互いの長所を補完しあうことは望ましいが、そのために直ちに法的な判断にまで関与する必要があるのか。専門委員制度や鑑定制度もあるのであり、参与や司法委員のような和解への関与に対する要望はあるかもしれないが、ただちに参審制導入までの必要性があるのかは疑問だということである。
 参審制を導入するとなると、除斥や忌避が問題となるが、これらの制度があるからといって中立性が必ずしも十分に確保できるわけではない。そもそも、忌避制度が頻繁に用いられることは本来望ましいことではないのであり、参審員となる者の中立性確保の問題を特に強調したい。
○ 参審制導入の必要性の議論を尽くすべきである。労使の現場の認識は企業の担当者や弁護士が最もよく知っているはずである。司法制度改革審議会意見書は大所高所の方向性を示してくれたが、労働調停についてはその導入を提言しているが、裁判制度についてはその当否の検討を提言しているのみである。したがって、参審制導入に前向きな前提で議論を始めるべきではなく、必要性の検証を白紙から行うべきである。今後も本当に重い訴訟事件がそれほど増加するとは考えられないのではないか。
 我が国は研究開発と労使関係では、国際的にも上位に位置しており、外国も評価している。例えば、イギリスではこの20年間で産業別・職能別組合から企業別組合へと大きく転換してきたが、これは日本の在り方を取り入れたものである。また、雇用審判所で多くの事件を取り扱っているが、企業の現場に戻しての解決を促すこともあると聞いている。日本が欧米よりも遅れているとは考えていないし、ヨーロッパの労使関係を模倣する気にもなれない。我が国は昭和20~30年代の対立的な労使関係を乗り越えてきたのであり、そうした対立的な労使関係を前提にして考えることは疑問であるとともに、職場における自主的な解決能力の向上に努めていきたいと考えている。
○ 諸外国においては、労働関係事件だけでなくその他の特別な事件を広く特別な裁判所で扱っており、そのことを念頭に置いておく必要がある。
 参審制度の検討に当たっては、以下の諸点を考慮すべきである。すなわち、労使関係者が訴訟に参加するときに、本当に中立的な立場で関与できるのか検証が必要である。また、関与する者が評決権を持つのであれば、事実認定や各種の判断要素の振分け等について一定のレベルを有していることが必要であり、その点に国民的なコンセンサスがあるとは思われない。また、裁判の現状に必ずしも大きな問題があるとは思われない。参審制度の導入でよりよい解決に資するか否かはさらに検証が必要であり、労働調停の場や専門委員の活用で中立性や事実認定等のトレーニングを積んで国民の理解を得る過程を経ることが必要である。まずは労働調停の充実を目指すべきである。
○ 日本の企業別組合の特徴は、組合の幹部に会社思いの者が多いということであるが、最近は焦燥感を持つ者が増えつつある。
 労働参審制について、必要性の議論を行うことは結構であるが、よりよい制度へのアプローチを図るべきであり、懸念の点があるのであれば、先回りして対策を講ずるための議論を同時にすることが必要である。
 司法制度改革審議会の意見書は、確かに当否の検討と言っているが、労働参審制について一定の評価もしているのではないか。
○ 原理的な問題として、労使関係者に中立公正性の点で疑問があるとすると、労働調停自体も問題だということになるのではないか。また、現状の裁判に重大な問題点があるとは思わないが、改善の必要性や労使によるチェック機能の必要性はないのか検討が必要である。
 他方、実際上の問題として、労使関係者の関与による訴訟上のメリットやデメリットを十分検討すべきである。
○ 労働裁判所のイメージは、ヨーロッパにおいても、同等の裁判官3名ということではなく、職業裁判官と非職業裁判官2名という位置づけであり、実質的には参与制に近いと考えられる。
 裁判所の判決にはいろいろ不信感もあるが、使用者側の弁護士や企業のオーナー、人事担当者に聞くと、労働委員会よりは裁判所の判断の方が信頼することができ、裁判に労使が関与することには心配があると言っている。したがって、参審員に評決権を持たせるよりは、職業裁判官に任せた方がよいと考える。
 まずは、労働委員会の場合とは異なって、個別的紛争では労使が関与することでよりよい解決が図れるという実績を、使用者側も納得できる形で積むことが必要である。
 イギリスやドイツで労働裁判所が機能しているのは、労働関係事件のキャリアを積んだ専門的な職業裁判官がいるからであって、例えば、労働関係事件について1年程度の経験しかない裁判官が、20年程度の経験を有する労使の参与員を仕切ることはできないだろう。我が国でも、職業裁判官が3年単位程度のローテーションで異動するのではなく、十分な経験を積ませて熟練させることが必要である。
○ 労働関係事件の訴訟を提起するのはほとんどが労働者側であり、その中には現状の裁判に対する不満は高まっており、裁判制度を改善する必要性は高いと考えられる。
 また、ADRの充実という考え方が出されているが、労働者から相談を受けていると、本当は裁判による判断を受けたいという意見が多い。裁判のアクセスがよくなれば、もっと利用されるようになるのではないか。
○ 裁判官の人事については、労働関係事件の担当にどっぷりと浸かってしまうことが本当によいのか疑問である。かえって、視野が狭くなってしまうのではないか。様々な分野の担当を経験していく中で専門性を高めていく運用はあってよいが、この点は、制度論とは異なる問題であると考えられる。
○ ヨーロッパの労働参審制が実質的には参与制のように運用されているということは感じている。裁判に関与する者に1票を持たせない形であっても、裁判官の判断と異なる意見があったということを示すようにすれば、実態としては参審制と変わらないのかも知れない。
○ ヨーロッパの労働参審制が実質的には参与制のように運用されているということであれば、労働参審制が十分には機能していないということだとも受け取れるのではないか。
○ ドイツの裁判制度では、職業裁判官が極めて職権主義的に訴訟を進めており、日本の裁判の在り方とは随分異なると考えられる。

(2) 次回の日程

 次回(第19回)は、平成15年5月2日(金) 13:30~16:30に開催することとし、引き続き、労働関係紛争の解決のための専門的知見の導入の在り方(導入すべき労働調停の在り方、雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否)について検討することとされた。