雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否について、次のような議論がなされた。
○ 日本経団連において、労働関係事件の裁判等に関して、会員企業等に対してアンケートを実施した。取りあえず現段階における回答の概要は以下のとおりである。
- 会員企業、各経営者協会等約1370社・団体に対して実施し、現時点までに約300社・団体から回答を得ており、回答率は約22%である。
- 労働関係事件に関して訴訟を利用したことのある企業は、約1/3強であった。
- 労働関係事件に関して訴訟を利用した企業の裁判に対する評価は、満足とするものが約30%、不満とするものが約30%、どちらとも言えないとするものが約40%であった。満足な点としては、訴訟の進め方が公平、結論が常識的といった回答が多かった。また、不満な点としては、時間がかかるという回答が多く、その他に、裁判所の労働問題への理解が不十分、結論が常識から離れているといった回答も比較的多かった。いずれも、満足・不満との回答と回答企業の勝訴・敗訴との間に相関関係は見られなかった。
- 労働関係事件の裁判への労使の参加については、参加させるべきとするものが30%弱であった。その理由としては、労使の専門知識を生かして裁判官の理解を補うとするものが多かった。また、参加させる必要はないとするものが40%強であった。その理由としては、職業裁判官の方が能力・公平さの点で信頼できるとするものが多かった。
- 労働参審制については、導入すべきとするものが約5%、導入に反対・導入は不要とするものが約75%であった。また、参与制については、導入すべきとするものが約10%、導入に反対・導入は不要とするものが約50%強であった。
- 人材の供給等の諸条件がそろえば将来の課題として導入を考えてもよいとするものが、労働参審制については約20%あり、参与制については約1/3強であった。
- 労働関係事件の裁判に関与する人材については、労働分野の専門的知見と一定の法律知識を必要とするとの前提で、人材はいないとするものが約80%強、参審裁判官となる人材がいるとするものが約6%、参与裁判官となる人材がいるとするものが約10%であった。
- 参審・参与裁判官となる人材がいると回答した企業のうち、参審・参与裁判官は裁判に1日数時間、月数回の出席が必要との前提で、OBも含めて実際に人材を出せるとするものが約50%強(回答者全体の約10%に満たない)、実際には人材は出せないとするものが約30%であった。
- 労働調停に関与する人材については、人材はいないとするものが約40%、人材はいるが、業務に差し支えるので出せないとするものが約15%、OBも含めて人材を出せるとするものが約15%であった。また、実際に供給できる人数として回答があったものを合計すると約160名であった。
- 以上をまとめると、訴訟については、労働参審制の導入に反対する企業等が多く、参審裁判官となる人材の確保も困難である。また、参与制については、将来の課題としての導入を考えることも含めて導入に前向きな企業等は約半数であるが、人材の確保、特に、全国的に人材を確保することは困難である。
また、労働調停については、労働参審制等に比べると人材は確保しやすいが、人材を出せない企業も多いと考えられるので、調停委員の兼務・出張、一定の裁判所への重点的な配置を検討する必要がある。
○ 回答した企業にどれほどの予備知識があるのか分からないが、アンケート調査は設問のたて方、回答者の知識等によって、回答が異なってくる。
○ 調査に当たっては、現在の議論状況を正確に伝えるべく、賛否両論を記載する等しており、偏った調査ではないと考えており、かなり客観性のある正確な傾向を示しているのではないかと思う。
○ 予想していたよりも、労働参審制を評価する意見が多かったのではないかと感じた部分もある。
○ 回答企業の1/3強が訴訟を利用している状況についてどう思うか。
○ 意外と少ないのではないか。団体の回答分を除外しても、4割程度の企業しか裁判を利用していない。
また、労使が裁判に何らかの形で参加することに賛成の意見が約30%弱あったが、裁判の利用の有無、利用した場合の満足・不満によって、この割合に大きな違いはないようだ。
○ 労働参審制・参与制に積極的な意見では、全ての労働関係事件に関与することを考えているのか。それとも特定の事件に関与することを考えているのか。後者の場合には、どのような事件を念頭に置いているのか。
○ 回答者がどのような事件を念頭に置いているかは分からないが、裁判になる事件は社内で解決できなかった重い事件が中心であろうから、そうした事件を念頭に置いているのではないかと考えられる。
○ 集団的紛争をどうするかという議論はあろうが、基本的には労働関係事件とされる事件全てを考えている。ただし、人材の確保の問題等もあり、経過的には対象とする事件類型を絞るというステップを踏むという考え方はあるだろう。その場合には、対象とする類型として、解雇、差別、労働条件の不利益変更といった事件や当事者が希望する場合等が考えられるだろう。刑事事件の裁判員制度においても、一定の重大事件というアプローチで検討されており、対応能力との関係を考慮する必要があろう。
○ 重い事件と軽い事件との分類は難しいが、解雇や労働条件の不利益変更といった一般条項が適用され、合理性等が問題となる事件は重い事件と言えよう。
労働参審制の導入に向けての現実的なプロセスとしては、一部の事件から導入することが考えられるが、最終的には全事件を対象とすべきである。
○ 資料116-2-2で、ヨーロッパの労働参審制は実質的には参与制に近い運用がされているとの意見が書かれているが、労働参審制では、参審員は評決権を持っており、事件の当事者である労働者の人生に責任を有するものであり、参与制とは関与する者が有する責任の程度が大きく異なる。外観としては参与制に近い運用であっても、労働参審制は参与制とは厳然として異なるものである。
また、同じ箇所で、労働参審制が機能しているのは、経験を積んだ職業裁判官がいるからだとの意見が書かれている。しかし、フランスでは原則として職業裁判官は関与しないし、また、ドイツでも、訴訟手続、裁判官の任用や配置の仕方等は我が国と異なるが、労使の現場の知見を裁判に導入することが積極的に考えられているのであり、経験を積んだ職業裁判官がいるから労働参審制が機能しているというのは違うのではないか。
さらに、同じ箇所で、ドイツでは一般に職権主義的に訴訟が進められているようだとの意見が書かれている。しかし、ドイツでは、書面による審理が中心で、証人尋問はあまり重視されていないように思われ、証人尋問の持つ意義が我が国と相当異なるのではないか。
労働参審制と参与制では、形態は似ているが、関与する者の最終的な責任が大きく異なっている。司法制度改革審議会の意見書も労働参審制を評価しており、我々はもう一度意見書を熟読・再吟味すべきではないか。
○ ヨーロッパの労働参審制が実質的に参与制に近い運用となっているとしても、理論的には参審制と参与制とは区別されるべきである。参審制と参与制を区別して考え、それぞれの制度の長短を分けて議論すべきである。
○ 諸外国の制度を検討する際には、理論面と実際の運用状況の両方をよく理解すべきである。
ドイツでは、日本ならばADRに持ち込まれるような紛争も全て労働裁判所に訴えが提起されていると考えられるところであり、紛争処理システム全体を比較することが必要ではないか。
また、資料116-2-8で、参与制度や司法委員制度等は考え得ると書かれているが、私自身は参与制の導入について賛成したことはない。
○ 労働委員会の不当労働行為審査では、なぜ労使の参与委員に評決権を与えていないのか。
□ 労働委員会の不当労働行為審査制度は、昭和24年の労働組合法改正で導入されたが、不当労働行為審査における判断機能では、労使間の利害対立が激しく、労使が中立公正な立場で関与することは考えがたいことから、公益委員のみで判断することとしたのではないかと思われる。
○ それでは、なぜ訴訟において参審制を導入する必要があるのかを議論する必要がある。
○ 労働委員会は、実際には、中立公正な立場で労使が関与する制度として機能していると思う。
委員間で参審制・参与制についてのイメージがまだ異なっているのではないか。職業裁判官と参審員とでは果たす役割が異なっており、職業裁判官は法律の専門家としての役割を果たすが、労使が職業裁判官に匹敵する法律の能力を持つことは困難であり、期待されてもいない。労使は事実認定で必要な経験則を導入することが期待されているのであり、一般市民の参加する陪審制が一般市民の有する経験則を活用するところに意義があるのと同様である。参審員は、職業裁判官と同じ能力を持つ法律のエキスパートではなく、労使の体験や経験則をいかすものである。そうしたイメージを委員間で共通にする必要がある。
制度改革の必要性を議論するに当たっては、制度の在り方や社会的な条件の変化の検討といったマクロ面の議論と、個々の裁判の問題点の定量的な検討といったミクロ面の議論を行う必要がある。
マクロ面について言えば、国際的に見ると、我が国が労働関係事件を一般民事事件と同じ枠組みで扱っているというのは特異な状況である。各国では労働関係事件の訴訟について様々な制度的対応を行っており、一般的な民事訴訟手続で取り扱うのは例外的である。今まで、このような制度で対応してくることができたのは、事件数が少ないという構造的な条件によるものであった。しかし、最近の事件数の推移や行政機関における相談状況を見ると、今後は事件数はますます増加する傾向にあると考えられる。こうした中で、労働関係事件を適正・迅速に解決するためには現状の裁判制度のままでよいのかについて、十分に議論する必要がある。
ドイツでは、労働関係紛争の解決のためのADRが発達していないというが、企業内の紛争解決システムである従業員代表制は大きな機能を発揮していると考えられる。イギリスでも同様である。
○ 参審制、参与制、あるいは労働調停にしても、関与する者は現実的にどのようなことを行うのか。評決といっても、合議をどのように行うのか。事案を総合判断した上で、結論について評決又は意見表明をするのか、個別に争点を定めて評決又は意見表明をするのか、証拠調べにおける発問の必要性はあるのか、労働調停で調停委員は何をするのかといった、プロセスの中での関与の在り方を検討する必要がある。
○ 労働委員会において労使の参与委員は、和解で大きな役割を果たしているとともに、調査・審問にも関与し、公益委員会議の前に意見の開陳も行っているが、熱意を持って関与する委員がいる一方で、必ずしもそれほどではない委員もいる。そこには、判断権者として関与するか否かの違いがあるのではないか。労働参審制により、労使が責任を持って裁判に関与していくことが必要である。労働委員会における参与制では、参与委員に十分なインセンティブを与えるような仕組みとはなっていないように思われる。
○ 調停でも、事件によって調停委員の関与の程度は異なってくる。例えば、家事調停について言うと、遺産分割の調停事件では、資料を細かく調べ、当事者から十分に事情を聴く等子細に関与することが必要となるが、離婚の調停事件では、結局はただ当事者の意向を聴くことが中心となる場合も多い。
また、民事調停でも、土地の所有権の範囲を確認する場合のように、図面を精査する等して突っ込んで関与することが必要になる事件もあれば、自動車同士の衝突による物損事故等において、損害保険に加入しているため、そう深く事実認定をする必要のない場合もある。
参審制と参与制を区別して議論することは必要であるが、あまり細かく区分するのも生産的ではないかも知れない。
さらに、外国法制に関する比較法的な議論については、論者によって積極・消極の評価が分かれることがある等限界があり、参考例として検討する意義はあるが、我が国における制度設計に際しての決定的な理由とはならないと考えられる。
○ 比較法の議論の限界については指摘のとおりであり、参考にする程度に止めるのがよい。
我が国の最近の労働立法には、民事的な効果を持たせるものが多くなっている。こうした法律を有効に機能するようにするためには、使いやすい司法制度にしないと意味がない。
裁判所の判断の内容にはそれほどおかしいところはないと思うが、特に労働者側が裁判所を利用しにくいと思っているところがあり、金がかかる、怖いといった利用者側の意識を変えていき、利用しやすくする必要がある。労働調停を使いやすくすることは必要であるが、その背後に裁判制度があるということを前提にしないと、労働調停も十分には機能しない。参審制がよいのか、参与制がよいのかは難しいが、利用しやすさという点を踏まえた議論が必要である。
○ 労働事件に限らず、民事裁判制度全般の使いやすさについては考えるべきである。また、民事裁判一般の将来像についての視点を持つことは必要であり、動きの激しい現在の社会状況の中では、裁判官のみでやっていけるかについては疑問もあろう。他方、陪審制のようなものについては判断の予測可能性と公平性に関して批判がある。したがって、専門家の関与という形が最もあり得ることと考えられる。この場合、民事訴訟法の改正により、専門委員制度の導入が予定されており、この制度を活用して専門的な知識を加えることが考えられ、その実績を見ることが必要である。また、労働調停にも労使が参加することとなるので、その専門的な知識の補充や関与の中立性の状況を見た上で、将来的に参審制等について検討することはあり得ると考えられる。事実認定や法律の適用には、それなりの能力が必要であり、現状でこのような能力を有する者がどの程度確保できるのかを考えるべきである。参審制や参与制については、さらに十分な検討を行うべきである。
○ 専門委員制度は、医療過誤事件や建築瑕疵事件等において専門的な知見や分析を導入するイメージであるが、労働関係事件にフィットしやすい仕組みとは思われない。
資料116-2-7-(2)で、心証形成のトレーニングの経験のない者が関与して、正しい事実認定が可能か疑問であるとの意見が書かれているが、労使慣行等の知識なくして正しい心証形成はできないのではないか。また、一般市民の関与する裁判員制度についてはどう説明するのか。司法制度改革の理念との整合性を考えることが必要である。
また、同じ箇所に、参審員が勘や感覚で裁判を行うことは適当ではないとの趣旨の意見が書かれているが、勘や感覚でやっていいとは誰も言っていないのではないか。
さらに、同じ箇所に、労働関係の利害調整を行う調整力を導入する必要はないとの趣旨の意見が書かれているが、労働参審制は、労使関係の調整力を導入する仕組みとして提案しているものではない。最終的な判断を行うための仕組みと考えている。
ついで、同じ箇所に、法的な判断は裁判官が行うべきとの意見も書かれているが、法律のプロが果たす役割と労働関係の専門的知見を有する者の果たす役割のそれぞれの長所をいかして、相互に補完することが必要であると考えられる。
○ 専門委員制度は、裁判官が習得しにくい科学技術的な知見を導入するための新しい制度であるが、労働関係事件では、そうしたスポット的な関与ではなく、事件全般について、労使が協力・協同して専門的な知見を補充していくことが必要である。
非正規労働者が増加し、上司や同僚との関係が円滑に進まなくなってきている中で、労働関係についての相談事例も増えており、紛争解決に法のルールが定着するようにする仕組みが必要である。
ある研究者の行った労働関係事件の裁判に関する分析によれば、整理解雇の判例について、その時々の経済状況が反映しているためか、判断基準が変動しているとのことである。また、審理期間についても、近年短縮しつつあるものの、まだ多くの労働者には耐え難いものがある。さらに、判決には地域差もあるとのことである。例えば、労働条件の不利益変更が争われる事件では、地裁・高裁・最高裁で判断が一致しない事例も見受けられる。こうした裁判の不確実性は、労使双方にとって負担となり、社会的なコストを増大させることとなる。したがって、判決の予測可能性がある制度となるよう、制度的な対応が必要である。労働関係事件の裁判に労使の実情を反映させることが必要である。
裁判所はよく努力しているが、個人的には個々の判決に対する不満がある。したがって、今までと同じような裁判システムでは不十分ではないか。例えば、合理性の判断等に当たっては雇用社会の実情についての理解を前提とすることが必要であるが、現状では子細に立証しなければならず、訴訟に持ち込むことに二の足を踏むこととなる場合もある。
具体的な事件の判断の検証を行うことは、訴訟記録が膨大であり、時間的にも難しいと考えられるが、提訴する労働者側には、時間、アクセス、結果の見通し等の面で不満は多い。
○ 使用者側の弁護士については、経営法曹会議の会員も含めて、労働関係事件を多数扱っている弁護士の裁判所の判断に対する信頼感は高い。
○ これまでの議論では、労働参審制については、労働調停や専門委員制度の活用では不十分であるとの導入に積極的な意見と、関与する者の中立公平性、手続保障、透明性等の点で問題があるとの導入に消極的な意見が分かれており、このままオール・オア・ナッシングの議論を続けると、労働関係事件の裁判の分野では形になる成果は出せないおそれがあるのではないか。検討のタイムリミットも考えれば、これまでの検討を土台として前向きな議論を行い、何らかの取りまとめを行う方向で議論する努力をすべきではないか。例えば、労働参審制の導入に積極的な意見と労働調停の導入で足りるとする意見の双方の積極面を取り上げて、訴訟と非訟の中間的な制度について議論することがあってもよいと思うがどうか。
○ このまま意見対立が続くままでよいとは思わないが、共通認識は深まってきており、検討のタイムリミットも考えながら、可能なところまでコンセンサス作りに努力したいと考えている。
諸外国の制度との比較法的な検討に限界があることは分かるが、実際に労働参審制を導入しているところに疑問点を提示して、その意見を聴いて考えてみることも必要ではないか。
参審員の中立公正性に対する懸念については、諸外国の例も参考にしながら、しっかりと制度設計していけば、我が国の労使にも十分な土壌があり、実施できないことはないと考えられる。
裁判に政治的な対立が持ち込まれたり、営業上の秘密が漏洩するとの懸念については、理解しがたいものである。
また、参審制の導入が裁判の迅速化に逆行するとの懸念については、むしろ裁判の迅速性の確保に資するものと考えられる。
職業裁判官と参審員では求められる役割が異なるのであり、参審員には手続法に関する知見が求められているわけではないと考えられる。
勘や感覚による裁判に対する懸念については、労働関係の経験則を導入することで適正な判断に資するのであり、単なる山勘で裁判をするということではない。こうした経験則は検証することが不可能であるとの意見があるが、新しい観点から事案を見ることにより、事案の真相に一層接近することができるようになると考えられる。
○ いろいろの可能性について議論することには賛成である。
ただし、労働参審制の導入に積極的な意見の対極にあるのは、現状の制度であると考えるべきである。労働調停や専門委員制度が導入されるということは、現状に対する大きな変革だと思う。日本経団連の調査でも、参審制や参与制については、将来の課題として、労働調停や専門委員制度では不十分であった場合に、新たに検討すべきであるとの意見もあり、そうしたことも議論していくべきである。
○ 何らかの成果を目指す方向での議論には賛成である。
ただ、労働参審制かそれ以外かといった直線的な2極構造ではとらえきれない面があると考えられる。多極的な整理をして議論することも必要であろう。
○ 労働参審制と現状の裁判制度が対極にあるとの見方はおかしいのではないか。今般の司法制度改革が何十年に一度の機会であることを考えると、できる限り将来を見据えて、どのような裁判制度がよいのかを考えることが必要であると思う。
例えば、参審員の中立性の問題については、懸念が示されたままになっている。憲法上の身分保障が重要であるとの意見があるが、憲法上の身分保障がないと判断の中立性が害される可能性があり得るのか、一つ一つ吟味していくことで共通の理解を得られるのではないか。また、ドイツの労働参審制における裁判官に対する忌避の状況等を分析して対応を考える必要がある。
これまで、相互に批判のための批判をし合ってきたように思う。認識を共有するための議論ができていないと思っている。
○ 参審制に積極的な意見を持つ委員が、参審制でなければならないと考えているのか、参与制もあり得ると考えているのか、まだ詰まっていないようであり、議論が不十分であると考えられる。
○ 諸外国においてどのようになっているのかを見ることなしに、議論をすることは適当ではないと考えられる。
□ 今後の検討の進め方については、次回の最後でもまたお諮りしたい。
導入すべき労働調停の在り方について、資料115等に基づいて、労働調停と現行の一般民事調停との関係及び労働調停の事物管轄に関して、次のような議論がなされた。
○ 資料115において、原則として地方裁判所又は簡易裁判所の事物管轄とするとはどのような意味か。
△ 「原則として」とは、基本的には地方裁判所又は簡易裁判所のいずれかで扱うこととするが、例えば、当事者間で合意があった場合には原則以外の裁判所でも扱えることとすることが考えられる。
○ 調停委員会をどのような構成とするかについても考える必要がある。利用者のアクセスは簡易裁判所の方がよいが、簡易裁判所の一般民事調停では社会保険労務士等を活用するとともに、労働調停は労使の代表者を調停委員会に入れて地方裁判所の管轄とするといったことも考える必要があろう。このような制度であれば、資料115のイメージ①も議論の余地があるのではないか。
○ 労働調停の設計に当たっては、裁判による判定的な解決を背景として考える必要があり、訴訟との連携が重要である。労働関係事件の訴訟の管轄はほとんどが地方裁判所であることを考えると、労使が関与する労働調停は原則として地方裁判所の管轄として、その労使の知見が訴訟に反映されるようにすることが重要である。
○ 事物管轄を考える上では、どのような事件を労働調停で取り扱うこととなるかを考える必要がある。解雇事件等を取り扱うのであれば、地方裁判所の管轄とすることが適当である。また、労働関係事件に当たるか否かが微妙な事件もあることから、労働調停と一般民事調停の選択を認める必要がある。
また、簡易裁判所には利便性があるので、一般民事調停の調停委員をどのように確保するか等について運用面で工夫することは必要であろう。
○ 労働調停制度を作って国民にPRしていく上では、簡易裁判所と地方裁判所ではいわば門構えが異なることになるが、どちらの裁判所で利用できると打ち出すのがよいか。事物管轄を簡易裁判所とした場合でも、事件がほとんど申し立てられないようなところにまで調停委員を配置する必要はないだろうし、他方、地方裁判所の近くに居住している者には地方裁判所が利用できるようにすることも必要であろう。また、事件の軽重は申立て段階で仕分ければよいだろう。
事物管轄については、簡易裁判所の方が駆け込みやすいという利点があるが、簡易裁判所と地方裁判所のどちらで打ち出した方がよいかを考える必要がある。
○ 労働局の労働相談の経験にかんがみると、最初の総合労働相談の段階で解決する場合も多い。したがって、労働調停が機能するか否かは、専門的な知識経験のある人材の確保と受付段階での最初の対応の在り方が重要である。
○ 使用者側から見ると、労働局であっせんしてもらってもなかなか応じにくいものがあるが、裁判所であればだいぶ違うのではないか。裁判所の方が話合いに応じやすいと思われる。
○ 労働者側としては、地方裁判所に対するニーズが高いと思われる。簡易裁判所の裁判官には、法曹資格がなく、労働法に関する知識経験がない者も多い。訴訟との連携も考えれば、原則として地方裁判所の管轄とすべきであろう。その場合でも、簡易裁判所の一般民事調停の門戸を閉じる必要はなく、社会保険労務士や労働関係事件に詳しい弁護士等を調停委員として活用していくイメージが考えられる。