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労働検討会(第20回)議事録



1 日時
平成15年5月30日(金) 10:00~12:40

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第2会議室

3 出席者
(委 員)
菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、春日偉知郎、後藤博、髙木剛、村中孝史、矢野弘典、山川隆一、山口幸雄(敬称略)
(事務局)
齊藤友嘉参事官、松永邦男参事官、川畑正文参事官補佐

4 議題
(1) 論点項目についての検討
  ・ 労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否について
(2) その他
  ・ 今後の検討の進め方について

5 議事

○菅野座長 おそろいですので、ただいまから第20回労働検討会を開会いたします。
 本日は御多忙のところ御出席いただきましてありがとうございます。
 本日は都合により、熊谷委員が御欠席です。
 それではまず、本日の配布資料の確認をお願いいたします。

○齊藤参事官 本日、資料といたしましては、資料119から資料126を提出させていただいております。
 後ほど説明させていただきます。
 参考資料といたしまして、国民のための司法改革東京センターからの「要請書」、それと日本労働弁護団からの「労働訴訟における敗訴者負担についての意見書(その2)」と題するものを配布させていただいております。
 以上です。

○菅野座長 それでは本日の議題に入ります。
 本日は、「労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否」という論点について、2巡目の検討をしていただきたいと思います。
 それから、特に「雇用労使関係に関する専門的知識経験を有する者に関与する裁判制度の導入の当否」という、前回までの論点に関する今後3巡目の検討の進め方についても、後ほど議論をしていただきたいと考えています。
 まず、「労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否」についてでありますが、2月27日の第15回検討会において、1巡目の検討をしていただきました。
 本日は、その折の御意見を整理した資料等を用意していただいておりますので、それらを参照していただきながら、さらに検討を深めていただきたいと思います。
 それでは初めに、事務局から簡単に資料の説明をお願いいたします。

○齊藤参事官 御説明申し上げます。
 まず資料119は、論点項目の中間的整理でございます。再配布させていただいております。
 次に資料120は、後ほど今後の検討の進め方について御議論いただく際の御参考として作成したものでございます。今後のスケジュールでございます。
 続きまして資料121ですが、これは第15回検討会の1巡目の御検討の際にお配りしたものでございます。この間、その後、関係の法律案が国会に提出されましたので、事実関係について若干修正しておりますが、内容の変更はございません。御参考にしていただきたいと思います。
 次に資料122でございますが、これは労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否についての1巡目の御検討における主要な御意見を項目ごとに要約して整理してみたものでございます。御意見の分かれているところと考えられる部分につきましては、左右に対照させて記載しております。
 なお、対立的な御意見が出されていない部分、あるいは対照的に整理することが難しいと考えられる部分につきましては、特に左右に振り分けずに記載しております。
 審理期間を短縮すべきであること、計画審理の必要性等につきましては、同趣旨の御意見が出ていたかと思われますが、御意見の対立が見られた論点も多くございます。引き続き御検討いただければと考えております。
 続きまして資料123は、今般の司法制度改革におきまして、民事裁判全体に関する事項として法律上の措置が行われたもののうち、当検討会の検討にも関連すると考えられる主なものの概要を取りまとめたものでございます。1巡目の御検討の際にも御紹介しておりますが、その後関係の法律案が国会に提出されておりますので、改めて整理いたしました。御参照いただければと存じます。
 続きまして資料124でございますが、当検討会でも御指摘のございました、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについての資料でございます。敗訴者負担の件につきましては、現在司法アクセス検討会で検討が進められておりますが、そこでの最近の検討資料のうち、敗訴者負担制度に関する主要な論点と考えられる事項が整理されているものを挙げておりますので、御参照ください。
 なお、司法アクセス検討会では、これまで敗訴者負担の導入の必要性等の総論的な議論が主になされておりまして、具体的な制度設計についての各論的な議論は、これから本格的に検討がなされることとなる状況であると聞いております。
 続きまして資料125は、裁判官と弁護士の協議会の概要につきまして、事務局でまとめさせていただいたものでございます。この協議会につきましては、当検討会における委員の御意見を受けまして、山口委員をはじめとする裁判所側と、石嵜委員、鵜飼委員をはじめとする弁護士会側で、これまで立ち上げに向けて御尽力をいただきまして、労働関係事件の裁判制度の運用改善についての実務家による協議の場としてこのたび発足の運びとなり、去る5月20日に第1回会合が開催されたところであります。
 最後に資料126は、鵜飼委員提出の資料でございます。
 資料は以上でございます。

○菅野座長 それでは本日の進め方ですが、資料121をごらんいただいて、1ページにこういうふうに論点が整理されております。1は2、3の両方にかかわってくると思いますが、最初に1巡目の議論で特に中心的に検討していただきました、2の「労働関係事件に係る民事裁判の充実、迅速化」について、審理期間を短縮、計画審理、証拠収集等について、さらにこれらに関連するその他の事項についてまず御検討いただいて、1はそれとの関連で適宜お話しいただきたいのですが、その後、3の「労働関係事件にかかわる民事裁判へのアクセス」という論点について御検討いただければと思います。
 それでは、そういうことでよろしければ、まず最初の労働関係事件にかかわる民事裁判の充実、迅速化のあたりから、御意見をいただきたいと思います。
 どなたからでも結構ですので、お願いいたします。

○鵜飼委員 労働事件の実務に30数年携わってきた者として、特別な訴訟手続が必要であるということを痛感しておりますので、僣越ながらレジュメを用意させていただきました。これに沿って、今の論点に絡めて意見を述べさせていただきたいと思います。
 まず、なぜ労働事件について固有の訴訟手続が必要かという理論的な根拠でありますが、これは「労働紛争の構造と特別の法定措置の必要」のところで少し書いております。
 労働法は一大ジャンルを形成しておりまして、しかし菅野先生の「労働法」の普遍性と専門性というところに書いてありますように、ベースは市民法であります。しかし、その上に労働法としての一大ジャンルを形成しています。それは、労使の非対称性、非対等性、労働者の従属性に基礎を置くわけでありまして、憲法でも生存権とか勤労権とか労働基本権という保障がありますし、その理念を現実に労働法が実現するという形で、労働法の体系が形成されていると考えております。
 実体法では、その核になるのは対等当事者間の市民の間を規律する市民法を労働関係、労使の実態等を踏まえて、市民法を一定の理念に基づいて修正するというのがキー概念になるのではないかと考えます。
 ところで、実体法はそうでありますけれども、それを実現する手続法においても、当然にそれに対応するための特別な規定が必要であることは理論的には当然だと思います。諸外国においても、労働法と同時に労働紛争についての特別ないろいろな手続の制度が設けられているということも、そこに根拠があると考えられます。
 要するに、実態面における労使の非対称、非対等性、従属性を訴訟手続、権利の実現のプロセスにおいてもそれを実現していく、対等を実現する、こういうことが必要になってくるわけであります。 実体法と手続法は楯の両面でありまして、そういう意味では我が国においてもいよいよ解雇に関するルールが明確化される時代に入ってまいりました。そういう意味で手続法を整備する。特別な訴訟手続を設けるという機運は高まっていると思われます。
 1の(2)に書きました労働紛争の構造につきましては、第15回の場で詳しく述べましたのであえていいませんが、要するに解雇事件を象徴とするように、労働者は賃金を喪失しながら、雇用を喪失しながら、訴訟という重い負担を負わざるを得ない立場に置かれていることと、特に意思決定は基本的に使用者の側で行うわけです。そして、どの段階でどういう判断をするか、どういう決断を下すのかということでは、労働者側は防衛的であります。そういう意味で証拠の偏在、情報の偏在という状況がございます。そういう意味でも、特別な訴訟の手続が必要になってくるという点であります。
 (3)は、労働法、労使関係の専門性、特殊性に関係する部分ですが、さまざまな紛争解決システム、ADR、まずは企業内における紛争解決システム及び労使自治が労働法の特有な概念ですが、それらの機能の向上のためにも、審議会の意見書にありますように、雇用社会における法の血肉化のためにも特別な手続法を整備して、具体的なルールの形成、権利の実現を図るべき段階に来ていると思います。
 我が国の労働裁判の現状についても、今までるる申し上げましたので簡単に申し上げますけれども、現状は比較法的にも異例ともいうべき特別な法制度がない状況になっているのは紛れもないと思います。現状は一般の民事訴訟手続で行っている一般の民事訴訟は、対等当事者間の市民間の紛争を規律するということがありますので、そこを非専門的な職業裁判官が行うという意味では、各国の中でも異例な状況になっている。これでいいのかという問題があります。
 個別紛争が増大しておりまして、労政事務所の相談件数も増えております。労働局の紛争も増えております。裁判の件数も増えています。そういう中でより利用しやすい裁判へというニーズは、立法事実としては非常に高まっている事実があると思われます。
 次に、特に現行法制の象徴的な問題が解雇でありまして、2の(2)に書きました。これは私はるる言っておりますが、特別手続が不在なために結局解雇事件においては仮処分を代用せざるを得ないという問題があります。仮処分の8割が解雇でありまして、本案については解雇事件は約15%しかありません。この解雇事件は仮処分を先行させた事件もありますので、そういう意味で通常の個別紛争における解雇事件はなかなか本案訴訟が利用できないという現実があります。諸外国に比べても圧倒的に日本は特異な状況があると思います。
 しかし、仮処分を利用することによる弊害はるる言いましたけれども、ここにありますように、仮払期間、地位保全あるいは仮払いの金額、過去分を払うかどうかといういろいろな面におきまして、東京地裁とほかの地裁との運用の違いは顕著になっております。さらにほかの地裁においても東京地裁方式を入れるか入れないかで、いろいろな混乱が起こっております。
 そういう意味で、ローカルルールという話もありますけれども、果たしてこれは健全な姿と言えるかどうか。労働事件の典型的な解雇事件を、ある意味では仮処分という緊急事態に対する応急措置を想定している制度を利用するがために起こってきている混乱であり、片や東京地裁は、保全訴訟手続を厳格に解して行う。一方で、他の地裁は労働事件の特質を考えて、ある程度労働事件の特質に対応をする運用を行うことによる混乱でありまして、この混乱は終局させなければいけない。これは現実のニーズと法制度との乖離でありまして、当事者はある意味では本物の裁判を求めているわけで、暫定的緊急措置を求めているわけではありません。運用の限界に来ているということであります。これはこの司法制度改革でぜひ解決すべきだと思います。
 したがって、(3)にありますように、解雇事件でも利用できる訴訟手続、本案訴訟手続を整備しなければいけないと考えております。先ほど言いましたように、労働基準法でも解雇ルールが明文化される。法案の中身についてはいろいろ議論がありますけれども、少なくとも明文化されることは間違いないと思います。そういう時代に本案訴訟でそういう問題が処理できるものにしなければいけない。
 次の、「Ⅲ 制度改革の骨子」ですが、制度か運用かという問題が1つあると思います。これは後の議論になると思いますが、私は先ほどの仮処分の運用の混乱を見ましても、意見書で「透明で公正なルール」とうたわれているように、一般的な指針が大事だと思います。法または規則による一般的な指針、枠組みに基づいて、初めて健全な実務慣行ができるものではないか。実務慣行ができてそれが蓄積されたら、それは1つの規範になりますので、規則とするかどうかということも考えた方がいいと思います。
 特別な手続の骨子ですが、まず労働訴訟手続の定義・目的は後で議論することになっていますが、目的というものは指導理念として明確にすべきであろうと思います。適正な労使関係の実現が社会生活にとって非常に重要であること、憲法の理念、労働関係諸法令の諸規程、特に労使関係や労使慣行の実情に即したものにしなければいけない。そして、何といっても適正・迅速であろうと思います。
 そこで、具体的な中身でありますが、先ほどのテーマとも関連してきますと、迅速かつ適正といった場合に、民事訴訟法の改正で検討されてる計画審理の方法は現実的ですし、実効的ではないかと思われます。
 改正の内容は、事案が複雑である等のケースを想定しています。しかし、その場合、事案が複雑であるかどうかは非常にあいまいな面がありまして、果たして現実にそれが実行されるかどうか、必ずしも明確ではありません。私は労働事件においてこそ計画審理を原則化しまして、特段の事情がある場合は別として、原則的には計画審理を導入する。これは労働事件においては99%の原告が労働者側ですし、被告は会社でありますので、被告は逃げ隠れすることは当然ありませんし、欠席判決も非常に少ないと思います。そういう意味では計画審理は立てやすい事案でありますし、計画審理によって迅速・充実が図れる事件類型だと思います。
 この計画審理の妙味は、当事者双方が協議をします。協議をして、争点、証拠整理期間、尋問期間、弁論終結、判決言い渡しの期間を定めて、それに基づいて審理を進めていくわけですが、それに伴って期間を定めたものに反則した場合のペナルティを科していく。大まかにいうとそういう考え方です。
 この段階で事件の振分けとか、簡易な事件については早期審理をするとか、何よりも事件の見通しを立てることができる。もちろんそれはそのとおり完璧にいくわけではないでしょうが、事件の見通しが立つ。これは労政連のアンケート調査を見ましても、労働者側は特に見通しが立たない、自分自身の人生設計をするにあたり、解雇された場合に、どの段階で裁判で解決するのかがわからないということで、なかなか使い勝手が悪いという点があります。したがって、事件の見通しを立てるということは会社側にとっても労働者にとっても非常に大事なことであろうと思います。
 したがって、計画審理は今度の改正の大きなポイントだと思います。これを実現させるためにも、あるいは労働事件で先鞭をつけるという意味でも、計画審理の原則化は法律でうたうべきではないかと思います。イタリアの労働事件訴訟法について、迅速化をうたって、それが一般の民事訴訟手続に大きな影響を与えたということを読んだ記憶ががありますが、そういう意味では計画審理については労働事件でそれを採用して、先鞭をつけるぐらいの覚悟でやるべきではないか。
 ただし問題は、計画審理をやろうとした場合にお互いの意識改革が相当必要になってくると思います。まず計画審理の指針をきちんとうたわなければいけないと思います。その中心はタイムターゲットだと思います。答弁書の提出期限は石嵜委員から反論があるかと思いますが、私はイギリス等にありますように14日ぐらいに定めることが1つのポイントではないかと思います。
 もう一つは、第1回期日の充実です。これは計画審理の場合の不可欠の前提だと思います。現在でも、第1回期日は30日以内になっております。事前に第1回期日の前に裁判所が訴状の補正等を求めることができるようになっておりますけれども、現実の姿といいますと、第1回期日に内容的にはほとんど中身のない答弁書を出しただけで、終るケースが多いと思います。労働事件で計画審理を導入するためには、また、本案訴訟で解雇事件を処理するためには、これはあってはならない。第1回期日を充実するためには、労働委員会でやっていますように、まず当事者の協議を経た上で日程を決める。第1回期日は出席を確保することが大事です。その上で、第1回期日の前にお互いの申し立てを含めて期日外の釈明を行い、あるいは文書の提出を行い、基本的な主張や書証は第1回期日までにそろうというふうにすべきだろうと思います。これはイギリスなどで行っている状況でありますが。
 これは、実は解雇事件の仮処分では2~3週間に1回ぐらい期日が入っていまして、お互いにひいひい言いながらやっている状況があるものですから、できないことはありません。第1回期日の充実は計画審理を実現するための1つのポイントになると思います。
 結審は、現状では1回の集中的認証調べ、第1回期日で争点整理、計画審理を立てることが果たして可能かどうかは少し問題がありますけれども、弁論準備手続を早急に入れて、争点整理をして、計画審理を立てるということは可能であろうと思います。そして、原則1回の集中的な証拠調べによって新鮮な心証をとれますし、できれば簡易な事件は即結審、即判決ということが可能でます。また、難しいケースについては、弁論期日をもう1回入れて1カ月以内の判決ということも可能だろうと思います。
 ある意味でそういうきちんとした目標を定めて計画的に審理をすることによって、現在の労働裁判の姿は大きく変わる。仮処分で現在行われているもの、非常に迅速に行われているものをもっときちんと定式化して、法的な手続の枠の中で処理を進めていくことが必要だと思います。
 もう一つ、こういう計画審理の前提条件としては、先ほど非対等性や従属性及び具体的には証拠の偏在、情報の偏在ということを言いました。特に労働側は、ある日突然解雇されて、何の証拠もないという状況があります。そういうことがありますので、計画審理の前提条件としては、当事者の申立て又は職権による釈明権の行使が重要であろうと思います。
 そして、争点整理後の新たな攻撃防御方法の提出については、改正法によりますと、訴訟の進行に著しい支障を出すおそれがある場合に却下ということになっております。相当な理由がある場合は却下しないということですけれども。
 情報や証拠の偏在という点を配慮した運用の指針を規則なり法律で定めるべきではないか。労働者側は後で出された新しい証拠があって、例えば解雇事件については解雇の帰趨を決めるような証拠が出されたときに、労働者側としては新たな攻撃防御方法を提示せざるを得ない場合はもちろん相当な理由があるということになっておりますが、それについても明確な指針が必要なのではないかと思います。
 もう一つは文書の提出ですが、何といっても計画審理で適正な裁判のためには必要な文書は出されないといけません。この文書の提出をめぐって、何回も期日が空転する。文書提出命令の申立てが出され、それに対する抗告が出されて高裁に行く。これは差別事件などで事件が長引く一番の大きな要因になっています。
 したがって、証拠開示、文書提出命令の特則が私は必要だと思いますが、それはまた別の問題といたしまして、私は釈明権の行使として、これはイギリスなどでもやっておりますが、申立てまたは職権で、その事件に必要な関連性のある文書の提出を当事者双方に求めることを裁判所が行うわけです。
 それで当事者がそれを行うべき義務があるということを前提といたしまして、提出されない場合の効果として、イギリスの場合は場合によっては主張の削減命令を出していますし、日本で言うと、そこまでいくのは厳しいとすれば、弁論の全趣旨で斟酌するということが緩やかな方法としてあり得ると思いますが、そういう法的効果を定める。
 さらには、文書提出命令の特則につきましては、文書提出命令については一般的な提出義務が設けられましたけれども、自己使用文書ということで、特に考課表あるいは運用基準等について出されないケースがあって、高裁まで行ってもめるというケースがあります。これについても特別な運用の指針としての規則を設けるべきではないかと思います。
 証拠開示につきましては、イギリスにありますような文書リストの交換、閲覧、それを出さない場合のペナルティが考えられますけれども、法制審で今これがテーマになっていると聞いています。もしこれについて事務局の方から情報があれば教えていただきたいのですが、これについても労働事件の特質に合わせた特則が必要なのではないか。
 第5は、特にドイツにありますように、解雇についての優先処理義務をうたうべきではないかと思います。こういうものをうたうことによって、現在の仮処分で行われてきたものが本案訴訟でされるようになる。これは計画審理の指針としては6カ月以内の判決であるとか、原則2回の口頭弁論であるとか、さらに先ほどの計画審理の指針をさらに迅速化した形のものを設けるべきではないかと思われます。
 もちろんこれに対しては当然協議が前提になりますし、意見も保障しなければいけませんが、そういう指針を出す。主張時期と主張制限もさらに迅速化したものにしていく。
 解雇理由以外の解雇理由の主張制限の問題ですが、現在労働基準法の改正で解雇ルールが明確化されると同時に、解雇予告段階の解雇理由書を労働者に交付しないといけないとか、就業規則の全体的記載事項に解雇理由等がなるということがありますので、労働法の改正と対応した解雇理由についての主張制限を設けるべきではないかと思われます。
 アクセスについては後でお話ししたいと思います。

○石嵜委員 反論があるだろうと先に言われていますのでお話をせざるを得ないのでしょうけれども、まず訴訟について迅速かつ適正にやる、そのために何らかの法則を考えようと、これは裁判を利用する労働側も使用者側もほぼ異論ないと思うんです。どのぐらいの期間かという裁量の範囲というか、スパンはあるにせよ、基本的にはそれは差はないと思います。
 ただ、鵜飼委員がおっしゃいましたように、では今の時期に労働事件について、今の一般民訴手続以外に固有の手続が必要となる機運があるかということになりますと、今のところ使用者側にはないと言い切ってもよろしいのではないかと思います。使用者側としてはそういうふうに考えています。
 加えて、今おっしゃったことすべてに網羅的に反論するわけではないのですが、少なくとも計画審理を進めていくことは、使用者側もそれほど抵抗はないんですけれども、ただ指針、タイムターゲットみたいなお話になりますと、常に申しますように、企業規模も違えば中小零細の対応能力もある。加えて、大都市と地方では全く事情が異なる。したがって、ある一定の法制度に画一的、統一的な規定がされるとか、指針で指導されるとなりますと、正直言いまして、提出期限14日とか30日、そして弁論原則1回集中審理といったら、地方の先生はどうするのでしょう。つまり地方の先生も含めて、東京もそうですけれど、一般民事の事件をやっておられる方は100件近い、あるいは150件という訴訟を抱えておられて、その中で労働事件だけをこのスピードでやれと言われたら、恐らく受任できないのではないだろうか。こういう現実も踏まえておかなければいけないだろうと思うんです。
 その中で、この司法改革制度で目的とされた迅速性そして適正性については、現実的なところを考えると運用問題で改善できるものを改善していくべきだろう。そのためには運用についての労使の共通の認識を持とうという努力から先にすべきだということが、私は優先するのだろうと思っています。その意味で資料125は、お手元にありますように「労働訴訟協議会」という名称がついていますが、こういう形で現実にスタートをして、迅速かつ適正という形での自由な意見を交換しようとスタートしましたので、こういうところで練るべきものは練っていきたい、これが一番よろしいのだと思います。
 証拠面についての収集などの問題については、今回民訴についても手が入っておりまして、今までの当事者照会制度とか、こういう形での資料収集については訴訟提起後だったものが、訴訟提起前にも当事者紹介という形で実現できる制度を入れて、一般民訴の手続でそういうものの活用ができるような、制度改正もなされていますから、この制度の運用を見ていきながら、そこで労働訴訟の問題点をもう少し浮き彫りにし、労使の共通認識を持って、そこで必要なものについて法制化するというのが順序ではないかと考えます。

○菅野座長 高木委員、どうぞ。

○髙木委員 質問ですが、労働訴訟協議会は、前回この部分を議論したときに、実務の立場で裁判所と弁護士と協議の場を持つということがこの場でも確認されたと思いますが、単なる運用問題だけでなくて、場合によっては、特則の必要性があればそういう議論もしていただくという受けとめ方を私自身はしていたのですが、そういう受けとめ方ではないのでしょうか。

○齊藤参事官 それでは、とりあえず私の方から。
 協議会をスタートさせる前に、どういう協議事項を扱うのかなどいろいろ議論させていただきましたが、基本的には東京地裁の実務についての議論を踏まえて、運用改善についての検討を尽くしていただく。基本的にはそういう形で協議会をスタートさせるところまでこぎ着けたといういきさつでございます。

○鵜飼委員 まさに改革審の意見書を踏まえて、この労働検討会が固有手続の要否、それも審議会でさまざま議論されていろいろな内容が検討されておりますが、制度的な問題についてはここでやるということだと思います。
 その中で当事者である裁判所、労使の実務家は、お互いに運用面の問題を出し合って、その運用改善を図っていく。これは非常に重要なことで、意見書の中にも関係機関の協議・連携とありますように、これは非常に画期的だと思います。
 したがって、医療過誤訴訟その他の訴訟でやられているようなものを労働事件について運用の面でどういう問題があるかということを出し合って、協議をして、改善を進めていく。
 それと、労働検討会の固有訴訟手続の要否についての議論とは、まだレベルが違うといいましょうか、重なる部分はありますけれどもレベルが違う。ここは制度改革の問題を議論するところであると私は考えています。

○髙木委員 審議会の意見書が、労働事件固有の訴訟手続の整備についてもとにかく検討することを促しているわけでして、先ほど石嵜委員は特に必要ないとおっしゃられましたけれど。

○石嵜委員 現時点で使用者側はそういう機運がないという趣旨で申し上げました。

○髙木委員 それは問題がないということなのか。問題がある、あるいは改善の必要があるという認識があって、意見書が書かれたのだと私は思うんですね。
 その中で、運用の改善によって全部しのげるのかどうかの問題です。ただ、運用というのはどうしてもあいまい。あるいは人によってどうしても判断に幅ができる。それは運用という方法論の必然だろうと思うわけですが、そういう意味で判断に幅ができる、あるいは人によってもぶれが出るような部分があるとしたら、そのあいまいさをできるだけ回避するために、必要な部分については特則といいますか、法定といいますか、そういう必要がある部分もあるのだろうと私は思っておりまして、この協議会でもちろん運用の改善を中心に御議論された結果、運用の改善だけではとてもしのげないという部分があるのかないのか、もしあれば特則化を頭から否定するのはいかがなものかなと、そういう感じを持っております。
 内容につきましては、鵜飼委員からかなり具体的な御発言、御提起もありましたが、ともかく私どもの立場では、証拠開示制度といいますか、より訴訟の迅速化あるいは真実をとっていただく上で必要な証拠が迅速化という要請をも踏まえて、より機能的に制度化されるべきだと思います。
 あとは全般的にここまで言っていいのかどうかわかりませんが、訴訟費用の低額化や、後ほど議論になります敗訴者負担の問題はまた意見を申し上げたいと思います。
 それから、労働組合の専従役員と、あるいは長くこういう労働訴訟等の仕事を、もちろん法曹資格を持っていない者が多いわけですけれども、一種の訴訟代理といいますか、専従役員にも訴訟代理を法的に認めていただいていいようなケースも私はあるように思っております。そんな視点もどこかで検討していただければと考えております。

○春日委員 鵜飼委員からかなり個別的な提案等もなされておりますし、髙木委員の方からも証拠の関係の話があったので、証拠についてだけ意見を述べさせていただきたいと思います。
 具体的な提案としては、第4の文書の提出の中で、特に職権で次の文書の提出を所持者に求めるということが言われていて、この趣旨がちょっとわからないのですが、鵜飼委員のお考えでは、釈明権の行使としての文書の提出という意味なのか、それとも職権で文書それ自体を出させることができるのかということ、この辺はどういうふうにお考えになっているのかということを、まず1点お伺いしたいのですが。
 職権で文書を出させることができるとすると、そもそも文書提出命令は一体どういう役割を果たすのかと疑問になりますし、できる限り証拠の開示、あるいは証拠がたくさん出てきた方が解明にとっては役立つと、それはおっしゃるとおりで私もそういうふうに主張しているのですけれども、ただ問題は、証拠の提出の範囲が広がれば広がるほど、逆に証言拒絶事由に該当するような事項が記載されている文書についてどうするかとか、秘匿特権についてどうするか、あるいは例えば弁護士と当事者間で協議したワークプロダクツみたいなものをどうやって保護するか、そういう逆の面も当然考えていかなければいけないわけで、一律に職権で文書の提出を所持者に求めることができるようなルールをつくるのだというお考えですと、それはそこまではどうかなと思うのです。ましてや、もしもそれで出さないとすると、主張の制限というかなり強い効果がかかってくるということになりますと、これは現行の民訴法と、これから多分成立すると思うのですけれども、提訴前の証拠収集ともある意味で整合性を欠くようなことになるのではなかろうかと考えているのですが、その点はいかがでしょうか。

○鵜飼委員 これは釈明権の行使として考えておりまして、文書提出命令は文書提出命令で別にございますので、要するに事案の解明、迅速適正な訴訟の進行のために必要なものについては、職権あるいは申立てで当事者に対して釈明権の行使として提出を求める。
 ただ、どうしても提出を応じない場合、あるいは提出について相当な理由がある場合、いろいろございますでしょうから、その場合の法定効果はどうするかという問題がありますけれども、それはいろいろなバリエーションがあり得ると思います。主張を削減させるというイギリスの例のようなケースもあるでしょうし、あるいは弁論の全趣旨としてそれを斟酌するというケースもあります。
 ただ、ある事件の争点の解明にとって、必要不可欠な文書が使用者にあることがわかっておきながら、それを提出しない場合、それは全趣旨としてどう斟酌するかは、最終的には裁判所の判断に任されていますけれども。
 そういう厳しいサンクションからそうではないところまで、いろいろなバリエーションがあると思いますから、少なくとも早期に審理計画をたて、主張・証拠の提出期限を差定める。適正な迅速な審理を進めるためには、こういうものが必要なのではないか。
 現在の裁判でもこのような釈明はかなり行われておりますので、それをよりきちっと明確化するということを私は考えております。

○春日委員 大体のお考えはわかったのですが、背後にはサンクション、もちろんサンクションがないと制度として十分な機能を果たせないということもあるでしょうけれど、文書提出命令だと、それ自体で1つの紛争のようなものになって、訴訟内訴訟というんですか、労働事件の本体の訴訟とはまた別個に文書提出命令をめぐって争っている。これは必ずしも望ましくないと思うわけで、そういう意味では当事者間で事前に基本的に出せるものは出していただくということ、それはそれでいいと思うんです。
 ただ、あくまでも労働事件は民事訴訟の中の1つという理解に立つとすると、弁論主義が支配しているわけですから、基本的には当事者が申し立てて、それに対してどうするかという判断になっていて、新しく予定されている提出前の証拠収集あるいは提出前の文書の送達も、条文をよく読むと、一般的には裁判所は補充的に関与していく形になっていると思うんですね。例えば、民事訴訟法132条の4の規定を見ても、申立人が自ら収集することが困難といった場合となっていて、職権で直ちに、少なくとも釈明権の行使としてという形であるにせよ、基本的には当事者の意向を尊重する形になっていると思うので、職権で直ちにというのは、むしろ職権主義的というか、そんな感じがするのですけれども。

○鵜飼委員 これは文書を簡潔に書いたためにこうなってしまったのですけれども、まず訴え提起前の部分と訴訟継続後のものは違うと思います。計画審理について基本的なものが決まれば、お互いの責務、裁判所の責務、当事者の責務が出てきます。釈明権の行使としての文書の提出については、当事者の申立てにかからしめるということでも私はそれほど問題はないと思います。当事者の意向を無視して職権でやるということは現実的にあり得ないので、当事者の申立てがあるということだけでもいいのかなとは思いますけれども。ただ、本人訴訟の場合はどうなのかという点があります。
 それと、これについては当事者の意見を聴くとかそういうものは、一般の釈明権の行使と同じような形での手続をとる必要があるなのではないか。文書提出命令は現在高裁に抗告されて、非常に時間がかかってきている。それがまさに1つの別な事件になっているということは私もよくわかっていますので、それであってはとても迅速な解雇事件の審理はできませんので、釈明権の行使というところで、当事者の攻撃防御方法を迅速に引き出す手段といいますか、そういうこととして考えられるのではないかと思います。

○後藤委員 鵜飼委員はそうおっしゃるのですけれども、強制的に証拠を出させる手続は、民訴法上は文書提出命令ということになるわけです。労働事件に限って釈明権の規定を特に法定するとしても、結局、文書の提出を命ずるのであれば、民訴法220条の定める要件があるかどうかが問題になり、提出命令が出されたにもかかわらず提出しなければ、それに関する相手方の主張が真実と認めることができるという規定があるわけです。裁判所の釈明権の行使の運用としてどうかいということなら別ですが、文書提出命令とは別に労働事件について特別な規定を設ける必要があるということにはならないのではないかと思います。

○鵜飼委員 強制力は基本的にここではうたわれていないんですよね。イギリスなどの場合も釈明権の行使でいろいろな文書等の提出を求めるようになっていますけれども、出さなかったからといって、それによって過料制裁するとかそういうことはないです。

○春日委員 いえ、過料の規定はありますね。

○鵜飼委員 文書提出命令についてはそうですけれども、釈明権の行使については過料の制裁とかそういうレベルの問題ではないのではないですか。結局、裁判所がそれをどう判断するか、出さないことをどう判断するかという事実上の効果があるということですよ。

○春日委員 それは弁論の全趣旨でしか判断できないと思うんですね。

○鵜飼委員 そうすると、弁論の全趣旨で判断し、斟酌するという方向性が1つあり得ると思います。提出されない場合の効果としてですね。それは、労働弁護団はそういう選択肢をとっているわけです。場合によっては、私が主張の削減を求めることができるというふうにしてもいいのかなとは思っていますけれども、それは余りにも強過ぎるということであれば、弁論の全趣旨で斟酌するという規定を設けてもいいのではないかと思います。

○春日委員 少なくとも釈明権の行使に従わなかったというときに、主張の制限とか別途制裁を科すのは恐らく非常に特殊というか、少なくとも民訴の今までの手続の基本的な構造が相当変わるような形になると思うんですね、もしもそうだとすると。そこまで釈明権の行使に対して従わなかった場合に強い制裁を認めるのかというと、これは理論的な基礎づけがないと難しいのではないかと思うのですけれども。

○鵜飼委員 理論的基礎づけは、一番初めにも申し上げましたように、労働法という法体系は市民法を修正する形でできていて、それが適用される労使紛争についても市民法を前提とした民事訴訟手続が一定程度修正されるべきだというのが理論的前提だと思いますが、私はサンクションとしてそれほど強いサンクションを考えているわけではなくて、最終的には弁論の全趣旨で斟酌していただくということでもいいと思いますが、お互いの責務なり、計画審理をやるためにはそういう趣旨がうたわれないといけないことは御理解いただけると思います。
 それは今の民事訴訟の構造を抜本的に変えるとか異質なものを入れるということでは全くなくて、今の民訴の精神も、市民法の精神も、釈明権の行使、そして当事者がそれに応じるべき義務があるということは当然考えられていますので、それに応じない場合どうなるか。例えば現実の裁判のこの部分の主張を撤回してくださいという指揮がされるように、これは現実の姿としてあるわけです。別に今の民事訴訟構造そのものを抜本的に変えようということにはならないと思います。

○山口委員 なかなかおもしろい提案だなと思って拝見していたのですが、訴訟手続を設けるかどうかとなってくると、まずある事件が労働事件かどうかの仕分けをしないといけないと思います。実際問題として明確な形の事件が多いのだろうとは思うんですけれども、必ずしもそうでもない、いわゆるグレーゾーンのような事件も実際の実務をやっているとないわけではない。例えば、東京地裁は労働部が専門部としてありますけれども、これは労働事件として扱っていいのかどうかということについて悩むような事件もないわけではない。そういう場合、現行ではそれを労働部でやろうと通常部でやろうと、訴訟手続は同じですから、それはそれで構わないということにはなるとは思うのですが、もし何らかの訴訟手続を労働事件についてだけ整備するとなると、ある事件が労働事件かどうかについての振り分けといいますか、区分けをよほどやらないとその後の手続が変わってくるわけですから、いけないのではないかと思います。
 また、労働事件といわゆる通常民事事件を併合して提起したいような場合にどうするのか、一方は労働関係の手続でやって、他方は一般民訴の手続でやっていくのか。それともそういう併合提起がされた以上は、全部労働訴訟の手続でやっていくようになるのかという問題もあるような感じもしますので、なかなか簡単ではないような気はしております。
 具体的な審理期間の短縮を労働事件についても図らなければいけないし、計画審理もやっていかなければいけないということについては、基本的には私もそのとおりだと思っておりますし、法的な手当、立法的な手当をするかどうかということにかかわらず、そういう面での努力は実務家としてやっていかなければいけないとは思っております。
 ただ、鵜飼委員の言われるように、立法的な形でこういう答弁書の提出期限あるいは第1回期日の関係での措置、それから原則1回の集中的証拠調べというようなことを、仮に指針として立法するとした場合に、これは石嵜委員が言われたこととも絡むのですが、労働事件を担当する弁護士がやっていけるのかどうかは、率直に言うとどうなのかなという気はしなくもありません。
 特に労働事件についてどんな事件についても必ず弁護士がつくわけではないし、間際になって受任するということもあるでしょうし、そういう意味で考えると一律にというわけにもいかない。そうすると、ここに書いてあることをいろいろな事柄についてもケース・バイ・ケースで考えていかなければいけない部分は相当あるわけで、それを指針にうたうことに意味がないとは言いませんけれども、どこまで効果的なのかなという気がしております。
 それから解雇の関係について、優先処理義務という形で早くやらなければいけないということ。これは解雇だけについては早くやらなければいけないというわけではなくて、基本的にはどんな事件についてもそうだろうと思うのですが、仮にこういう形で解雇だけ早くやれという形でやったような場合に、それもこういう形で主張整理が2~3回、証拠調べが1回という形で、当事者が両方ともやっていくとおっしゃるのであれば、それは裁判所の方はそういう主張立証を受けて判断するということになるわけですから、それはそれで1つのあり方とは思うのですが、実際にそういうことが本当に可能なのか。先ほど仮処分の2週間の期日の指定があってなかなか大変な状況なのに、これを本案訴訟でやっていくこととした場合に、そういう期日指定を受けて本当にやっていっていただけるのかどうか、そこのところについて、もし何らかの立法的な手当をする必要があるという意味でおっしゃるのであれば、弁護士サイドの方で共通認識をとっていただきたいと思います。
 できないことを立法化しようとしてもどうしても無理が出てくるわけで、そういうことについてやっていけるのだというコンセンサスが必要になってくるのではないかと感じました。

○鵜飼委員 御批判が非常に多いのですが、一般論としてお互いに迅速かつ適正に行わないといけない、これが共通の認識であることは一致しているのは心強いと思います。
 まず、労働事件の定義ですけれども、これは一義的な定義でなければいけないと私は思います。各国の定義を見ましても、制定法で決められているところはその制定法を具体的に列挙して一義的に決まるようになっております。
 個別紛争にするか、集団的紛争も入れるかという点の政策的な配慮がまず1つあるのですが、私は、当面は個別紛争なのかなとは思うのですが、集団的紛争も当然こういうものが必要になってくるので、それは私自身はまだ判断を決めかねております。
 仮に個別紛争とした場合に個々の解雇や配置転換、労働条件の変更など、さまざまな事件類型ごとにやるとしても、それをどういうふうに法的に表現するかということがあります。かなり包括的な規定にしようと思えば、こちらでいろいろ考えてきたんですけれども、労働契約の締結、継続、変更、その内容、あるいは就業に関する紛争が1つ、あとは労働契約における債務不履行に基づく請求、あるいは労働関係における不法行為がそうですね。そういうふうに事件類型をある程度頭に入れた定義規定、それも一義的な明示的なものでなければいけない部分がありますので。しかし、これは不可能なことではない、各国でもやっていますし、私はできると思いますし、実際各地の労働部、集中部ではある程度の指標に基づいて仕分けがされていると思いますので、それは私はできると思います。
 あとはいろいろ、ケース・バイ・ケースがあると思います。特に我々弁護士サイドの体制が非常に大事だと思います。しかし考えなければいけないのは、まず司法制度改革審議会がスタートし、意見書が出された背景には法曹三者の我々の中の事情だけで考えていいのかという問題があると思います。多くの国民、労働者のニーズ、労働事件については圧倒的に利用する側は労働者側ですから、そのニーズが私自身が相談を受けながら、澎湃として起こっていることを痛感しているわけです。
 解雇ルールのようなものが日本で法制化されるということも、本当に大きな時代の流れだと思います。そういう時期に来て、我々法曹三者で、できる、できないということをいっている議論では恥ずかしいのではないかと思います。やるからには諸外国でやっているような、そこまでいかないまでも、ケース・バイ・ケースがありますので当面は、2週間以内に答弁書を出せない場合にどうするかということは柔軟な対応が必要だと思いますけれども、やはり指針ですね。こうしましょうという議論をきちんとやって、まさに労働訴訟協議会等でその辺についてどう履行していくのかということを議論していく。
 あるいは、第1回弁論期日の充実。これは裁判所も御理解いただけると思うんですね。第1回弁論期日が相手方の欠席で空転する、これは一般民事事件では当たり前の姿になっておりますし、労働事件でもそういうことがありますけれども、これはお互いに工夫・努力して、当事者にしてみれば第1回で誰も来ていないということになると本当にむなしい感じがするわけです。これが裁判なのかと考えるわけです。そういう意味でお互いに努力をして、国民に応えて改善しないといけない。私はこれが労働検討会に求められていることではないかなと思います。非常に抽象的な反論になってしまいましたけれども。
 したがって、一般論として共通認識があるということを前提にしながら何ができるのか。例えば望ましい制度はこういうものではないか、現状にどういう問題があるか。今の仮処分の混乱がいいと思われる方はいらっしゃらないと思うんですね。こういう混乱状態は是正しなければいけない。どう是正するかですが、今の状況では是正しようがないわけで、裁判の利用者にとってはたまったものではありません。こういう状態を放置しないで何とか健全にするためには、今後どういう制度が必要なのかという議論と、そのために現実の中でそれをどういうふうに近づけるかという議論がありますが、それを混同してしまって、現状に機運がないから、現状では対応できないから、では反対だ、結局実際の運用を見ながら考えましょうということになる。これは実際上、国民から求められている責務にこたえないということになってしまうわけです。
 現状がどうなのか、国民のニーズがどうなのか、そのためにどういう制度にしなければいけないのか、そこをまず議論して、しかし現実に実現するためには何の条件が必要なのか、そのために我々弁護士はどういう体制が必要なのか。裁判所も例えば人的・物的体制はどうなのかということを議論するのが順番ではないでしょうか。

○山川委員 半分が感想で半分が質問になりますけれども、労働事件の迅速化ということは既に各委員の方々、多分基本的に異論はないところではなかろうかと思います。それを民事訴訟法の一般の改正の動きの中で考えていくか、あるいは労働事件特有の迅速化という形にするのか、どういう形かについては2つあり得るのかと思います。
 審議会の意見書の中でも迅速化に触れられていましたけれども、労働事件特有の迅速化のアイデアがあるのではなかろうかという気はしております。それを運用でやるか、法律のようなものにするかは、具体的には最も議論の対象になるところで、その辺は実際のところ、まだよくわからないところがあります。その際に現実に難しい点があるかどうかということですけれども、多分2つの側面があって、1つはある意味でサプライサイドといいますか、紛争解決をする側の体制の問題があって、いわば業務量が忙しいとか日程がなかなか入らないということがあります。ただしそこは司法制度自体が全般的に変わろうとしている中ですから、それほど固定的に考えなくてもいいのではなかろうかという気がしています。
 問題はむしろディマンドサイドの方に、労働事件特有の迅速化を妨げる要因が何かあるのかどうか、そういった阻害要因を除けるかどうかということで、ここからが質問になるのですが、これまで既に労働事件については、いわば事件の解決に不必要と思われる微に入り細にわたる主張が出されて立証がなされるという御指摘もあったかと思います。それが本当に不要かどうかという点も含めて、処理機関が短縮している傾向があるにしても、なぜ労働事件では長くあるいは複雑になるのか。その原因自体をまず明らかにすることが、それを取り除く作業あるいは方法を考える際にも必要になるのではないかという感じがしております。
 その点について、研究者ではわからないところがあるものですから、実務のサイドから御意見をいただければと思います。

○鵜飼委員 確かに五月雨式審理というか、漂流型審理といいましょうか、労働事件で提訴する側の我々もそうなのですが、十分証拠がない状況の中で、これまでは労働事件の数が少なくて、あるいは選ばれたというか、お互いに決意し、支援組織があって、裁判で長期的に闘って解決を求める類型が多かったものですから、提訴した段階で、裁判所のいろいろな手続を使って証拠文書等の提出を求め、それによって事実を明らかにし、そして最終的にその事件の正当性を主張及び証拠によって明らかにしていく。ある意味で当初はなかなか計画が立たない事件が、私の実感から言うとかなり多かったなという感じがします。主張もいろいろな意味で多面的な主張をしておりますし、また特に証拠の見方とか事実の見方について、これが大論争になる。したがって書面等も非常に長くなりますし、証拠も膨大な数になりますし、証人調べについての反対尋問も相当時間がかかる。これが今までの裁判の一つの姿ではないかと思います。もちろん、こういう裁判はこれから全く姿を消すとは思いません。労使双方にとってプラスになることは余りないと思いますけれども、事案によっては長期型の大型裁判が姿を消すということにはならないと思う。それがある意味では法創造機能や新しい判例をつくる事件にとっては必要なものではないかと思います。
 しかし今圧倒的に多くなっているのは、これは裁判所との協議会でも出されましたけれども、個別紛争でこの数が非常に増えているわけですね。対前年比4割ぐらい増しと言われていますけれども、それほど裁判件数は増えています。この種のケースは、多くの人たち、普通の人たちが別にバックの組織もなくて、しかし解雇されて自分は納得できない、裁判を起こすというときに、そういう形の裁判ではだめだろう。やはり争点を早期に明確化し、解雇理由についても労働基準法の改正があのような形になっていますので、争点を明確化し、基本的な文書、書証は早期に出し、そして審理計画を立てて、短い期間で判決を出す、結論を出すことが求められています。現実に東京地裁を中心としてそういう裁判がかなり増えていると思います。審理期間もかなり短くなっていますし、裁判所の方も訴訟指揮で争点の明確化や文書の提出等が求められているようなので、私は今までの五月雨式の非常に長期化する裁判の反省もありますけれども、新しい今の労使紛争が増えている。これらの類型に対する裁判の在り方としては、計画審理をきちんと立てて短期的にやることは十分可能だと思いますし、実際実践されていると思います。

○石嵜委員 まず弁護士の数とか司法制度のいろいろな手続が変更されることによって、今の労働事件の問題がそちらの部分については余り心配ないのではないかという認識自体は、私は違います。また個別労使紛争は増えますし、一般民事で提訴して動く人たちが多くなるので、それはその分増えるからという思いが1つあります。
 ただもう一つ、労働事件は解雇をめぐって、つまり個別労使紛争で解雇事件が増えておりますが、この事案の性質の変化が逆に言うと裁判の時間がかかるのではないかと思っています。それは何かというと、今までの日本の企業が考えていた「問題社員」という言葉を使わせていただくと、この人たちは企業秩序違反者なんですね。それもある程度重大な秩序を違反したと。したがって、それに対する解雇、懲戒解雇が主だった。そうすれば、その1つ2つの懲戒解雇の事実で議論ができる。とすれば、それはやり方によってはごく短期に終了するだろうと思っています。
 でも今の日本は、そしてそれは外資中心で、今から日本の大企業もそうなるだろうと思うのですけれども、今の問題社員というのは、実績主義、成果主義が定着しつつある時代には成績が出ない人、結果が出ない人という形でとらえていて、この人たちを解雇できないが最大の争点なんです。とすると、それは原因分析から始めなければいけない。本人に能力があったのかなかったのか。その能力は契約内容になっていたかどうか。これは新卒一括採用と中途採用でも全く変わってくる。中途採用ならどういう募集を行い、どういう説明をしたかという、そこから始まらなければいけない。加えて、そういう能力不足についての議論をしていくべき事案なのか、次には執務態度の問題なのか。意欲がないのか。人間関係がうまくできないので、したがって成績が出てこないのか。その人間関係、協調性、上司との関係をうまくやれないのは、その責めに帰すべきは労働者にあるのかどうか、使用者にあるのかどうか、これをまた議論しなければいけない。
 3番目はいわゆる身体的疾患、精神的疾患の病気論。4番目はいわゆる家庭、私生活の乱れに伴ってアウトプット、成績が出てこない。サラリーマンローンとかいろいろな問題を含めた形になっている。
 また次に、会社が仕事を与えてないから出てこないのか。そうすると、仕事を与えなかった理由は、最初の1の能力の問題か執務態度の問題か、そういうものすべてを分析し、かつ一つ一つが絶対的な解雇理由ではなく積み上げた形で、結局企業としては今後この人を企業に置いておけない、雇用の継続の信頼関係が維持できないという観点から議論せざるを得なくなってきます。
 とすると、私はこの前の協議会でも裁判官の方々が、書面は2~3枚に簡単に何とかしろとおっしゃったけれど、とんでもない。迅速性だけおっしゃるけれども、迅速かつ適正にやるなら書面は分厚くなる。これはやむを得ないんです。それは違う、そういう制度ではなく、昔から解雇理由については、成績が出ない人たちは別として……それはもう企業秩序違反だとおっしゃれば別ですが、今から中途採用が増えたときに専門技術を求めるようになれば、きっとそれを労働契約書の内容に入れ、かつ目標を決め、その達成が1年間、2年間の日常の業務生活の中に出たかという議論をせざるを得ないんですから。
 ということになれば、労働事件固有の問題としてそう簡単に適正を言うなら、そして新しい時代に企業が生き、かつそれによって国が栄えるためには、この議論は絶対避けて通れないと思っております。これは、私だけの考え方かもしれませんけれども。
 ですから、弁護士の都合で日にちを延ばすのはやめよう、とにかく適正化のためには時間がかかるのだからと思っております。

○矢野委員 資料122の2(3)の証拠の収集の中に出ている意見について感想を申し上げたいのですけれども、3番目の「○」に「訴訟において解雇理由の後出しが認められることが、審理の空転や遅延の原因になっている」という御指摘が出されているのですが、実務家の意見を聞いてみますと、解雇理由の出し惜しみをしたから結果が有利になるようなことはもうない、会社側も出せる場合は速やかに出しているというふうに聞いております。したがってこういう指摘はなかなか考えにくいのではないか。あるとしても非常に例外的なケースなのではないかという感想を持ちましたので、そのことを申し上げておきたいと思います。
 もう一つは、先ほど石嵜先生がおっしゃったこととも関連するのですが、その上の「○」ですね。「第1回口頭弁論期日までに解雇理由を提出することは過大な負担とまでは言えないと考えられる」。これについての反論は右側の一番上に書かれているとおりでありまして、確かに近ごろのいろいろなケースを見ますと、能力不足とか職務への不適格等を考える場合に、大企業でも資料を集めるのはなかなか時間がかかって大変なことなんですね。ましていわんや中小企業零細企業においてをやということでありまして、ここに書いてあるような形ではなかなか進まないケースも結構多いのではないか、事案にはよると思いますけれども。

○山口委員 関連して、訴訟が長くなる理由の関係で少しお話ししますが、労働訴訟が長くなるとおっしゃっても、少なくとも最近はかなり改善してきておりますので、全国的な統計はまた最高裁の方から御紹介する機会があってもいいのかなとは思うのですが、少なくとも当部の状況を申し上げますと、当部の平成14年度の通常民事の労働事件は、平均審理期間は10.0カ月という形で推移しております。ただ、そのうちの地位確認事件、いわゆる解雇無効の事件は16.3カ月という形、1年4カ月程度ですので、この期間について長いと見るか適当と見るかは多分意見があると思いますし、私としてはこれはさらに短縮化を図っていく必要があるのではないかとは思っております。そういう状況ですので、めったらやたらにそう長くなっているわけではないことをまず御理解していただきたいと思います。
 労働事件がある程度時間がかかる理由としては、基本的には、鵜飼委員も石嵜委員もおっしゃいましたが、例えば解雇無効を例にとりますと、これは法律というか要件自体が総合判断という形になっていますから、結局いろいろな情報を双方が出してくるということになってくる。したがって当然それに必要な反論をお互いにやっていかなければいけない。そういう意味では一定期間かからざるを得ないのではなかろうか。そういう事件に内在する本質的な要素が労働事件の場合にはあるのではなかろうかと思っています。
 ただ、そういうふうに申し上げても、裁判所の立場からしますと、いろいろな事情のうちこの事件の争点となる主要な事情はこれとこれではないかということで、その点についてだけお互いに主張立証をもう少しやっていくようにしましょうというような形で、基本的な主張あるいは基本的な争点という形で絞っていくような形の運用を現在やっておりますし、それについても当事者サイドの理解を得ながらやっておりますので、そういう意味で言えば、それなりの努力は裁判所もしておりますけれども、やはり一定程度、本質的な部分があるということが1つ言えるのではなかろうかと思います。
 それから、これは当事者の力関係の問題もあるかもしれませんが、中小企業は一応置くとして企業サイドへは、証拠といいますか、人的要素としては労働者側よりはたくさんのスタッフを抱えておられますので、そういう意味で言えば主張立証するのが、それに比べると労働者側の方が反論が大変ではなかろうか、そういうところもあるのではないか。
 そうすると、先ほど鵜飼委員が言われたように、一律に短期間で短く切ってしまった場合に、私としては、労働者側は本当に十分に反論できるのだろうかという危惧もしないわけではないので、一律に一定期間でお互いの主張なり立証を制限することのメリットが使用者側あるいは労働者側にとって果たしてどこまであるのだろうか。どこまでにするかは絞る必要があるにしても、必要な主張立証をさせないと、結果に対する納得という面からいってもどうなのかなという気がしております。
 もう一つは、これは弁護士が忙し過ぎるところもあるのではなかろうかと思いますが、極端な話を言えば、仮処分を2週間で終わらせるの であれば法案事件も2週間で回せばいいではないかという議論もできなくはない。けれども、実際問題としてはなかなかそうはいかないし、必要な主張立証の関係で当事者と会ったり証拠を集めたりすると、一定期間はかからざるを得ない。そういう意味で言えばある程度の期間はかからざるを得ないところがあるでしょうし、幾つかの事件を同時に並行的におやりになっておりますし、そういう意味ではなかなか厳しい状況で入りにくいところもありますし、難しい事件になるとたくさんの弁護士が使われているということもありまして、ある方が差し替えということになると、強引に期日を指定するのもなかなか難しいというところも、率直に言うとあります。
 そういう意味で言えば、一律に事件に内在する要因と事件以外の要因とが複雑に絡まり合って長くなっているのかなという気もします。

○村中委員 迅速にしなければならないのは、鵜飼委員もおっしゃるように、労働事件の場合、特に考慮すべきことであると思います。裁判は当事者が対等な立場で法原理に従って公正な解決を図る場だという説明がされるわけですけれども、それが長引くことになりますと、結局経済的に苦しい者が、事実上、裁判を利用できなくなるということになります。教科書的な説明ですけれども、労働事件の場合、迅速化が特に強く求められるというのはおっしゃるとおりです。
 ところが、先ほどからご指摘があるように、迅速性と適正な判断といいますか、中身がしっかりとした判断とを両立させるのはなかなか難しいことも事実で、一律にタイムターゲットを引くというのは、確かに標準的なものだったらいいのかもしれませんけれども、一律にはなかなか難しいのかなという印象を持っております。
 迅速性の問題に関していいますと、労働事件一般について今の理屈が妥当すると思いますけれども、鵜飼委員が書かれているように、解雇はちょっと特殊で、労働事件の中でも迅速性がとくに要求されるのも確かだと思います。これは、解雇が権利濫用の場合に無効であるという結論をとって、原職復帰を原則にしている以上、当然要請されることになると思います。
 これが、諸外国の例に見られるように解雇無効ではなくて、損害賠償で処理するということであれば、それはそうでないのかもしれないですね。ドイツの場合は解雇無効という結論をとりますので、解雇訴訟についての迅速性は特に要求されることになっています。
 ところが、今山口委員から御紹介ありましたように、解雇の事件は非常に難しくてかえって時間がかかるようになっており、これは、石嵜委員もそのようにおっしゃっるわけですが、それでは、どういうふうに工夫するかということになると、今の仮処分と本案という2つの利用、これは鵜飼委員は不健全だと言われるのですが、そのあたりを工夫するしかないという感じはするわけです。
 ただ、現行の仮処分は、日本の場合は就労請求権を認めていませんので、使用者側が拒否すると、あとで労働者が敗訴すると戻しなさいということになるわけです。事実上、とれないケースの方が多いんだろうと思うのですけれども。ですから、訴訟期間中の一種のリスクといいますか、そういうものの分配は実は少し偏っているという気はするわけです。ドイツ法は、それを従業員代表委員会が一定の場合について決定をすることで就労請求権を認める形で処理をしておりますし、従業員代表委員会が絡まなくても、1審で労働者側が勝訴しますと、以後、就労請求をすることは可能になるような処理の仕方をして、その間のリスクを使用者側に負わせて、労働者が訴えを提起しやすいように処理をしている。
 それがいいかどうかはわかりませんけれども、本筋は確かに本案が適正かつ迅速に処理されるのがいいのかもしれませんが、適正と迅速がなかなか両立しないのであれば、仮処分制度を今のような実体法上の問題と絡めて見直すということも、1つのやり方としてはあるのかなという印象を持っております。

○鵜飼委員 今の労働仮処分の現状を少し改善して、という御意見だと思いますが、それは本案訴訟の迅速化、適正化はなかなか難しいということが前提のお話だと思います。
 我々の中では、労働仮処分をもう少し労働事件に適用できるように、現在の運用の混乱が出てこないように、労働仮処分の特則をつくるべきだという意見もあります。そういう方法での現状の解決も1つはあるのではないかと思いますが、問題は仮処分と本案訴訟との判断が異なるとか、結果的に5審制ぐらいになってしまうとか、当事者は本来的な解決を求めているわけですから、暫定的な解決を求めているわけではない。そういう制度と当事者のニーズ、実態との乖離が結果的に残ってしまうという問題がありますので、私はこの際、労働仮処分の特則を設けるという方法も、当座の対処療法的な解決としてはあり得るかもしれませんけれども、今の混乱をなくすために、あるいは先ほど村中先生がおっしゃったような弊害を除去するためにも、私はこの労働検討会ではもっと先の、そういう現状の混乱を抜本的に根本的に解決するような方向でぜひ御検討いただきたいと思っています。
 それと、私は民事訴訟法の改正で導入される計画審理に基づいた迅速化、適正化を考えましたのは、基本的にこれはかなり日本型というか、お互いの協議の上で進めていくということですね。一方的に職権的に方向性を出すということではなくて、協議の上で決めていく。その場合に、事件類型ごとに双方の協議の上で一定の指針を、あるいは基本理念を、法律なり規則で定めて、それに基づいた計画審理を行っていく。
 したがって、当初の段階や慣れない段階、体制が整わない段階でケース・バイ・ケースということで、それはバリエーションがあり得ると思いますが、基本的な理念がきちんと出ておりますと、私も14日以内云々を入れるべきかどうかということについては、皆さんの御意見を聞きながら、私自身は入れる必要がなければ入れる必要はないと思いますけれども、要するに1つの方針をきちんと法律なり規則で定めて、当事者の協議の上でこの事件は迅速性、さらに適正性が必要とされるケースだということで、審理計画を必ず立てて審理計画に従ってやる。これを否定される方はいらっしゃらないのじゃないでしょうか。
 先ほど解雇事件について非常に難しいケースがあるということでしたが、私も実際にそう思います。そして解雇というのは総合判断、これは各国どこでもそうですけれども、日本は特にそういう面があります。特に状況が変わってきて、先ほど出されたアウトプットや成果主義に絡む解雇事件は判断が非常に難しい。だからこそ、逆に言うと、迅速、適正な判断のためには専門性が必要でありまして、キャリア裁判官の判断だけではとても無理で、我々法律家だけでは、今の企業の中で起こる事件に対して、今までと違う新たな事件・紛争についてどういう解決基準でやるべきなのか、とても変化のスピードには追いつけない。これはまさに労使が自らルール形成する分野でありますので、労使がそういう事件について参加する労働参審制は絶対不可欠です。
 それと同時に、裁判を利用する権利といいますと、特に労働者側には迅速性はある意味では生命線なんですね。解雇事件について本案訴訟で16カ月とおっしゃいましたけれども、山口委員もおっしゃっているように、これは長いわけです。だから先ほども言いましたように、計画審理でやるということについてはコンセンサスがあって、今度の改正法で導入されるわけですから、労働事件に適用する場合に、使用者側と労働者側の責任としてそれに協力していく、そして必要な証拠について出すということをすれば、私はスムーズにいくと思います。
 私の案は強いように印象を持たれるかもしれませんが、基本的には当事者の協議の上で決めていく。特別なサンクションは余り考えていませんので、全体の弁論の趣旨の中で斟酌していくということでやっていけば、私は現状でも十分やれると思います。その中で、我々自身も裁判所も意識を変えていかなければいけないと思います。

○髙木委員 こういう統計があるのかどうかわかりませんが、整理解雇、一般解雇といろいろな解雇のされ方の違いがあると思うんです。同じ解雇でも一般解雇の中でも懲戒解雇的なもの、あるいは諭旨解雇のようなもの、いろいろな使い方がある。
 現実にいろいろな解雇の種類の仕分けが難しいものはあるかもしれませんが、解雇された件数がこれだけあって、そのうち裁判所にどれぐらい上がっているかというような統計があるのかないのか。ここに中小企業云々とか、過大な負担とまでは言えないとか、対立する意見もあるわけですが、解雇された人間が裁判所に訴訟を提起してまで解雇の正当不当を争うというのは、先ほど石嵜委員は問題社員という言い方をされましたけれども、問題だとする物差しの受けとめ方のギャップみたいなものも含めまして、それなりに納得できないという思いがあって当然裁判所に行くわけで、泣き寝入りを含めて裁判所にお世話になっていない解雇はたくさんあるわけですね。そういうものが裁判所からのいろいろなメッセージの発信で解雇問題の将来にどういう影響を与えていくのか、そういうことも含めて、労働者の権利救済という側面から労働裁判を見るときに解雇の問題は議論していただく必要があるのかなと。
 要は裁判所に解雇をめぐって判断をお願いしに行くのは、私は恐らく解雇の中のごく一部であり、それも当人たちが当然この解雇は自分は納得できないから行くわけで、そういうものを我々は裁判所における解雇事件なら解雇事件として俎上に載せて議論している。その視点を認識して議論をしていただく必要があるのかなと思います。
 法的な実務論、それから実務の形成の仕方に関する哲学論、それはそれでないとまたもたないのでしょうけれども、解雇事件はそもそもそういう本質のものだという、その本質を先ほど1年4カ月とおっしゃいましたか、これは単に裁判所にお世話になっている期間が1年4カ月であって、裁判所にお世話になりに行く前に、長いケースだったら半年ぐらい費やされているものもあるでしょうし、またほかのADR等を頼りにしているものもあるでしょうし。
 もちろん、それ以外のところでどのぐらいかかったかという統計などはないから、裁判所でかかった時間だけで我々は議論しているわけですけれども、裁判所に対応している期間プラスアルファの、短くても1カ月、長いのは半年ぐらいがその前にあるのだということも、我々は頭に置いておかないといけないのではないか。

○鵜飼委員 今の解雇事件についてですけれども、厚生労働省が労働基準法改正の際に、外国に行かれて外国の解雇事件と実際の裁判に係属する事件を、向こうの担当者の方から推定でデータを受けられていますし、それは報告されておりますけれども、それと比べて日本の場合、その統計がなかなかありませんが、例えば地方労働局の相談件数の中の解雇事件と裁判件数、あるいは労政事務所が平成13年度は労働紛争全体で17万件ぐらい、東京は5万件を超していますし、神奈川も1万件を超しています。その中で3割ぐらい……今は正確な数字はありませんけれども、労働契約終了に関する解雇事件だったと思います。大体5万件以上は、年間解雇事件は少なくとも相談の窓口等ではあるのではないか。5万件をかなり超すとは思いますけれども。その中で、日本の解雇事件として裁判、仮処分とか本案訴訟に出ているのは1,000件弱という感じです。
 したがって、厚生労働省のレポートを見ましても、日本の解雇事件で裁判を利用される件数は圧倒的に少ないと感じます。これは先ほど石嵜委員がおっしゃったように、これから増えていくであろう。そのときに、それは適正かつ迅速に処理しないといけない。そのための制度的な手当は絶対必要で、もちろん我々の体制も必要です。それを議論しているということが1点です。
 もう一つは、解雇についての後出しの解雇理由とか、中小企業では解雇理由についての文書の提出が出しにくいという発言がありますが、少なくともこれは今度の労働基準法の改正によって、解雇事由が就業規則の必要的記載事項になりますし、解雇予告すればその段階で解雇理由を文書で出さないといけないことになりますし、ヨーロッパ等では企業内で事前に、それについて労使協議とか交渉というルールがきちんとありまして、それで解決しないケースが裁判になる。思いつきの解雇がかなり多いわけですね、「明日から来るな」という解雇が本当に相談の中であります。これは矢野委員あたりはお知りにならない分野だと思いますけれども、私たちが相談を行いますと、こういう案件で頭を悩ませるわけです。そういう意味で、日本における解雇を通じて1つのルールをつくるためにも、解雇については一定の手順が必要で、求められたら解雇理由を文書で出さなければいけない。これは労働基準法にあるわけですから。そういうルールをつくり、思いつきの突発的な感情的な解雇は抑止していくことはやはり必要なのじゃないでしょうか。
 したがって、そういうルールはもうできているわけですから、そうすると裁判になった段階で、一定の期間までには解雇理由をきちんと出す。これは労働基準法で求められていることなんですね。さらに基礎的な資料を出すということは企業の社会的責任だと思いますね。

○菅野座長 よろしければ、ここで休憩を入れたいと思います。
 10分間休憩いたします。

(休 憩)

○菅野座長 再開いたします。休憩前は資料121の裁判の充実、迅速化を中心に議論していただきまして、まだまだ議論は尽きていないのですが、その次の裁判へのアクセスという論点についても今日は議論していただきたいと思いますので、よろしければここをまずやって、もし時間が余ればまた2の方に戻ってくるというようなことで議論したいと思いますが、よろしいでしょうか。
 それでは、どうぞこの労働関係事件に係る民事裁判へのアクセスの問題、定型訴状の活用、訴訟費用のあり方等についての議論をしていただきたいと思います。どなたからでもどうぞ。
 この中で弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについても議論があろうかと思いますが、この点については司法アクセス検討会の方で現在検討が進められているところです。私どもの検討会の1巡目の議論では、次の資料122で整理されておりますが、この4ページの3の(3)、その他の①の弁護士報酬の敗訴者負担制度で整理されているように、まず右側にありますが、「結論の見通しが困難な場合が多い労働関係事件については、ほとんどの場合において訴えを提起する側となる労働者にとって、費用の負担額の見込みがたたない等訴訟へのアクセスを著しく阻害するおそれがあり、労働関係事件には弁護士報酬の敗訴者負担制度を導入することは適当ではない」という御意見と、これに対して「敗訴者に合理的で予測可能な額の弁護士費用を負担させるのであれば、労働関係事件のみについて例外的に弁護士費用の敗訴者負担制度の適用を除外する必要はないと考えられる」と、こういうふうに整理されている御意見が出されていて、これについては本日のところはこれまでの議論を踏まえて、追加、補足した御意見をさらに出していただきたいと思います。それらの御意見を司法アクセス検討会の方にお伝えして、その議論に供したいと考えております。このテーマを含めて、どうぞ御意見をいただきたいと思います。

○鵜飼委員 先ほどレジュメを用意させていただきましたので、最後の「その他」のところについて、簡易提訴状、簡易訴状様式を用意するということが2に書いてあります。そのためにも訴状記載の特則として、簡易裁判所に特則がある請求原因の記載のところに紛争の要点で足りると、訴状ですけれども、労働事件についてそういう特則を設けるべきじゃないか。特に本人訴訟のケースについては、請求原因をきちんとまとめて書くのは難しいものですから。
 それと簡易訴状様式との絡みもございます。書込み型の訴状は、イギリス、ドイツ等のモデルもございまして、質問に対する答えという形で書き込んで、それが訴状になるような訴状があります。これは日本では簡易裁判所で用意されておりますけれども、これもぜひ地裁で利用できるような様式をつくり、それを各相談窓口に備えつけるようにすべきではないか。裁判所に対するアクセスが非常に重要である点で、これはぜひ実現したいと思います。
 廉価という点でいうと、訴訟物の価格の問題がありますけれども、現在は例えば年収500万円の労働者が解雇されて裁判を起こすときの印紙は、地位確認を求める非財産上の請求と財産上の請求という2本立てになりますが、財産上の請求の方が上回りますので、それで計算すると今の運用では過去分と将来の1年分を計算した金額で総額が計算されます。これが3万から4万ぐらいになると思います。解雇された労働者にとって、雇用保険を受けながら出費するのは難しいところがありますので、外国の例を見ますと、一般の裁判よりもこの費用が安く抑えられているという状況がありますので、それを参考にして、非財産上の請求と併合して請求された場合は、非財産上の請求の総額を上限とするということを考慮すべきではないかと考えています。
 現在、民事訴訟費用等に関する法律は改正される方向がありまして、非財産上の請求の総額は95万から160万になりますが、これで訴訟費用、印紙額を計算しますと1万2,000円ぐらいになるのでしょうか、そうすると実際は3分の1ぐらいに減額されますので、それでも私はちょっと多いかなという感じがしますけれども、そういう特則をぜひ考えるべきではないかなと思います。
 4の仮執行宣言を付した判決に対する執行停止の特則はちょっと専門的、技術的になりますが、要するに解雇事件を本案訴訟で普通にやるということになりますと、現在本案判決に対する控訴の場合の執行停止は非常に簡単に認められまして、一定のお金を出せば、398条1項3号の要件は、原判決を取消し、変更の原因となるべき事実はないとは言えないと。「ないとは言えない」ですから、それほど厳格なハードルはございません。したがって、ほとんどの場合はお金を出せば執行停止をとれるという状況があります。ところが、解雇事件でやっと判決をとった、しかしそれによって執行停止で賃金が入ってこない。これはせっかく裁判、本案訴訟を早くやるということの意味がありません。
 現在、仮処分はこの辺は大きなメリットがありまして、そもそも保全訴訟で暫定的措置なので、暫定措置に暫定を重ねるということは許されない。基本的に執行停止の取消しの原因が明らかな事情とか償うことのできない損害のおそれという厳しい要件がありますので、ほとんど執行停止はとれません。そういう意味で労働事件についての特則、特に解雇事件の特則を設ける場合に、398条1項3号の特則を設けるべきだ。これがこの趣旨です。

○菅野座長 ほかの方からも、どうぞ。

○山口委員 簡易訴状というか定型訴状の関係でよくわからないのですが、現状では賃金と解雇手当について、多分簡裁の方で定型訴状ができていますので、そういう意味では解雇を念頭に置かれてこういうことを言われているのかなと思うのですが、基本的にはどうなんですかね。というのは、先ほど言ったようにいろいろな事情の総合判断ということになってきますと、本人訴訟を念頭に置いた方がいいのか、それともむしろそういう総合判断事情についてのどの部分が本当に重要なのかということについては、法律専門家をある程度関与した上で訴訟を起こすなり何なりした方がいいのか、その辺はどういうふうに考えているのかということがもう一つあると思うのですが、私としてはそういう事件について、できれば弁護士がついて法的な整理をした形での訴え提起という方が望ましいのではないかと思っています。そういう観点からしますと、むしろ弁護士さんの方へそういう人たちが行けるような形のシステムというか、そちらの方を充実させることの方がより重要な事柄ではないかな。そういう意味で言えば、例えば弁護士会の労働相談等のこういう訴状の簡易型みたいなものを検討されるなどの方が、より有効・有益ではあるのではないかなという思いもしているのですが、その辺はどんなお考えなのかをお聞かせいただけませんでしょうか。

○鵜飼委員 今おっしゃった点は、非常に重要な点で、弁護士に対するアクセスも労政連絡会のアンケート調査で裁判所が利用できない理由の大きな要因の1つになっておりますので、弁護士会の体制として、特に解雇のような難しい事件については代理でできるような体制をつくらなければいけない。これは本当に大切なテーマだと思います。
 ただ一方で、労働紛争が増えていて、個人でまず裁判に出したいというニーズも一方であると思いますし、現実に本人訴訟の比率も労働事件でそれほど少ない数ではないと思います。それに対するアクセスも用意しなければいけない。初めから提訴の段階で弁護士がつくのが一番望ましいのですが、途中から弁護士がつくということもございますので、私は入り口のところはなるべくハードルを低くする、敷居を低くするということが必要なのではないかと思っています。
 したがって、イギリスのET1という訴状の定型様式も参考にしながら、基本的な要素のようなところが質問事項であって簡単に書き込めるようになっていまして、そして申立ての理由の詳細という形でどういう形で解雇の通告を得たのか。ただ、その段階で本人がやる場合に、解雇理由を告げられたか、告げられなかったか。告げられた場合はどういう理由かということが書けますし、告げられなかった場合は理由を書けませんけれども、そういう形でも訴状として受理されるということが必要だと思います。そういうニーズはかなりあると思います。その上で、第1回口頭弁論期日までの裁判所及び当事者の役割が争点整理とか、争点を充実させていくことが重要になってくるのではないかと思います。
 したがって、確かに本筋は弁護士がきちんと体制ができて、その段階で関与できるのが一番いいのですけれども、しかし一方でそういうニーズもある。したがって、また訴え提起については簡易な形にする必要があるという点で、簡易定型訴状はぜひ備えつけることが必要なのではないかと思います。

○菅野座長 イメージとしては簡易定型訴状で始まった訴訟は、本人訴訟を想定されているから簡易な形で進められていくのか、それは最初だけで、使用者側は弁護士がつく方が多いでしょうから、あとは弁護士がついたのと同じような形で、総合判断のためにできるだけ、事実を聞き出して進めていくということになるのでしょうか。

○鵜飼委員 イギリスに行ったときも、簡易定型訴状があってそれで訴えが提起されますけれども、最近はイギリスでも労働者側に代理人がつくケースが増えてきまして、多くのケースで弁護士がつく。それは訴え提起後につきます。もちろん訴え提起の段階でつくケースも多いのでしょうけれども、そこまでは詳しく聞いていないのですが。
 要するに裁判に出す段階で余り難しいことは言わないといいますか、本当に裁判を利用したいという場合に、それは何とかアクセスを用意していこうという発想ではないか。だからこそ、逆に言うと、本人訴訟の場合は解雇事件はある意味で難しいですから、専門性の補強として参審制が望ましいと私は思っていますけれども、そういう意味で本人だけでも最後までやれるようなシステムを一方で用意しなければいけないと思います。

○後藤委員 御趣旨はわからないでもないのですが、例えば第6の1にあるように、訴状記載の特則を設けるという考え方もあると思うのですけれども、そのような特則があると、訴状には、請求の原因ではなく、紛争の要点を書けばいいということになります。そうすると、これに対する被告の答弁書は14日以内に出さなければならないわけですが、紛争の要点しか書いてない訴状について何をどう答弁することになるのか。本人訴訟のケースもあり、双方代理人が付いて計画審理をするケースもあり、いろいろな場合があると思うのですが、審理を迅速に進めるためには、地裁の手続では請求の原因をきちんと書きましょう、そしてそれに対する答弁ができるようにしましょうということで、簡裁はその例外があるということになっているのだと思います。労働事件に限って、特則を作るというのはなかなか難しいのではないでしょうか。 、

○鵜飼委員 その辺は大事な指摘だと思うし、むしろ後藤委員のお知恵を拝借したいと思うのですが、どちらにしても14日というのは厳しいのかもしれません。ただ、イギリスなどを見ますと、こういう簡易定型訴状が提出されて、申立てに対して裁判所がこの趣旨はどうですか、あるいはこの点はどうなのですかということをかなり詳しく聞くわけですね。そして訴状の補正等を求めます。
 その上で答弁書の提出。要するに受理されて、そういうものが終わった後で答弁書の提出というプロセスになりますので、そういう意味では第1回期日までの裁判所の役割、答弁書の役割を、もう少し整合的に検討すればその辺は十分クリアできると思います。ですから、その辺は制度上の工夫ではないかと思います。

○菅野座長 イギリスでもドイツでも、そういう簡易訴状を使ったのは大量迅速処理の労働事件訴訟システムだと思うんですね。最初の入り口が簡易であると、あとは簡易なシステムになっていると思うのですが、我が国は精密手法と言われるようなもので、それを計画化して迅速化しようということであって、民事訴訟手続もそのようにできていると思いますので、そのシステムの違いというか、それをどう調和させるかという感じがするんですね。

○髙木委員 地裁で本人訴訟はどのぐらいの比率があるのですか。

○山口委員 厳密な数字はわからないのですが、感じとしては2割ぐらいはあるのかなという気はしますね。ただ、これは解雇だけというのではなく、一般的な形でですけれども。

○村中委員 労働事件で簡易、迅速にというのは大事なわけですけれども、簡単な事件でも弁護士がついて、かつ迅速に解決できるのが本当は一番望ましいのではないかと思います。本人訴訟にならなくて済むようにできないのか、これはここでの議論とちょっとずれるのかもしれませんが、弁護士へのアクセスの問題や、あるいは弁護士費用の問題をどう解決するのか。これらは多分労働組合のお仕事でもあるだろうと思いますけれども、そういうことを考えることの方が重要なのではないか。そのように感じます。

○髙木委員 先ほどヨーロッパ、イギリスのお話があったのですが、その国の労働組合の組織率と、特にヨーロッパ各国の組合は職種別あるいは産業別組織の形態が多くて、どこへ入るかという一人一人の労働者の組合選択の中で、何を理由にどこに入るかという理由の大きな部分に、いざというときにどの組合がリーガルサポートを一番手厚くしてくれるかということが大きな選択肢だと聞いております。そういう意味ではいわゆる組合のリーガルサービスがゆえのサポートというのでしょうか、日本の場合は特定組合はそういうサポートを持っていますが、組合があるところでも中小企業等はなかなかそういうわけにもいきません。産業組織が一部受けてやっているようなところはありますけれども、組織率も今年は多分20%を切れるようですし、そもそもリーガルサービスという観念が非常に薄い日本の労働組合ですから、そういうことを考えると、まだまだ本人訴訟はある一定比率あるのではないか。
 村中先生がおっしゃったように、できるだけそういう代理人が、あるいは代理人に準じるようなサポートをということで、いわゆる対組合員サービスみたいなことで訴訟支援の仕事をしている者も結構おりますから、そういう人たちが弁護士と一緒というわけにはいかないかもしれないけれど、そういうサポートにある程度入れるような仕組み等を入れていただくと、本人訴訟は少しは減るのじゃないかということで、こういうことを申し上げているわけです。
 法律扶助はほとんど労働事件の対象にはなっていないのでしょう。

○鵜飼委員 全体の中では数%ですね。

○髙木委員 法律扶助は20億円ぐらいになったんですかね。

○齊藤参事官 予算規模はもっと大きいですね。

○髙木委員 仄聞するところによると、労働事件で法律扶助の対象にしていただいているのは余りない。また、そういう発想で法律扶助を見ていないせいかもしれませんけれども。

○齊藤参事官 日本の労働組合がリーガルサポートという面でも充実したサービスを提供できるようにすることとの関係では、労働組合がいろいろな弁護士と提携関係を形成して、必要に応じて労働者が相談に行けるとか、あるいは場合によっては法的な手続を依頼する、そういうことを目指して弁護士と労働組合が提携関係をうまく形成するようなことはできないのでしょうか。

○髙木委員 いやいや、結構やっています。

○齊藤参事官 その意味であれば、労働者が弁護士にアクセスすることとの関係では、かなり改善も図られるかもしれませんし、労働者と弁護士とのアクセス関係が現状でそれほど深刻な状況なのかなという気がしたのですけれども。

○髙木委員 電話相談でかかってくるようなもので、これは弁護士さんにお知恵をかりた方がいいというのはすぐにつなげる仕組みとか、全国47都道府県各県別に特別な関係でお願いしている省庁ではないけれど、かなりの地域でそういう関係を弁護士の先生にお願いしていますからね。
 私のところで言えば、私のところで弁護士の方に働いてもらえるようなことを少し考えようかなと思っています。ドイツの組合はDGBあるいはその下の産業別組合で法曹資格持っている人が、どうでしょうか、七、八百人は組合の中で働いておられるんですね。日本はそういう方はまず皆無に近い、組合の中で働いていただくという意味では。だから、また弁護士会にもお知恵をかりて、どういう形なら来てもらえるのかを……要はお金の出しようだと思いますが。

○鵜飼委員 弁護士の数も増えていまして、それが1つの要因になっていると思いますけれども、労働事件でも労働弁護団や自由法曹団に所属していない人たちが担当するケースも増えていますね。
 各弁護士会レベルで、例えば横浜で言いますと労働相談窓口を設けて、それに登録する人たちは、労働弁護士の数よりも多いわけです。そういう人たちが登録をして、相談を受けて、場合によっては助言することが徐々に制度としてつくられておりますので、私としては、そういう体制は日弁連レベルでも労働法制委員会ができて、1つの重要な仕事なのではないか。とにかく弁護士に対するアクセスの体制をつくらなければいけないと思います。
 ただ、選択肢として当事者が本人でやることも排除するわけにはいかない面がありますので、その場合に適正・迅速であることが一方でも求められる。なるべく壁を低くするというのが司法制度改革審議会の意見書のメッセージだと思いますので、そのための簡易定型訴状はできるだけお互いに知恵を出し合ってつくって用意しておくべきではないかと思います。

○山川委員 ある意味で別の観点ですけれども、先ほどの話との関連です。労働事件が非常に増えてきて、参入してくる弁護士の方も増えてくる。専門性のある方は問題ないのですが、そうでもないと言うと失礼かもしれませんが、一般民事を通常やられている方が労働事件にかかわるケースも増えてくるだろうと思われます。現に増えているのではないかという感じがするのですけれども、そういうことを前提にしますと、本人訴訟に限らず、専門性が必ずしもない方について、ある意味で定型訴状のようなものが必要になるかもしれないという感じがします。そういう方は本当は専門性を身につければいいことではあるのかもしれないのですけれども、ある意味では争点整理の先取りみたいなことになるかもしれませんが、基本的な要件事実を定型的に書いてもらうようなことが訴訟提起の段階できちんとなされていれば、その後の進行もスムーズに済むのではないか。これはある意味ではどのシステムの中でやるかという問題は実はあるかもしれないわけで、アメリカなどへ行くと、こういう事件についてはこういう訴状の書き方があって、こういう資料を用意するということが本になって出ているので、そういう国ではビジネスの世界の問題であるかもしれません。これは労働事件に限らないかもしれないですが、争点整理のために基本的なことをきちんと書くようにするという点で、もちろん補充的というか付随的にいろいろな事情を書くということは、それぞれの専門性に応じて行われると思いますけれども、争点整理のための訴状の最低限の要素を定型化するようなことも、本人訴訟に限らず意味があるのかなという感じはしておりますけれども。

○石嵜委員 定型訴状の関係で余りにも訴訟がぼんぼん上がってくると使用者側は困ることもあって、黙ってはいるのですけれども、実際的な感覚でいきますと、弁護士がついたとしてもいろいろな問題が起きている。特に個別労使紛争については民事の先生がおやりになる。これも大分増えていると思います。おっしゃるとおりだと思うんです。
 そして、髙木委員がおっしゃいましたように、解雇されてから裁判に来るまでどのぐらいの期間か。これは統計はないのですが、私の事務所は人数が増えて解雇事件が増えてきたので思うのですけれども、解雇して3カ月間ないし6カ月間、やはり提訴まで時間がかかっていると思います。その間、労働局等との交渉もありますし、合同労組との交渉の期間などがあるのですが、それとともに弁護士に依頼して訴状ができてくるまでに時間がかかっていると思われるものはやはりあります。
 そういう意味では、定型訴状で訴訟について早い提訴をする、そして使用者側からいけば、解雇事件に限定して説明すれば、基本的には法的な主張立証責任の存在がどこにあるかは別として、事実上使用者側が主張立証していくわけですから、それに解雇された、それは濫用であると書いてあれば、解雇理由をこちら側から答弁書記載でやっていく。その後は答弁書記載について本人が思うことや、相手方の代理人が反論する。訴訟の進行はしょせんそうなるわけですから、そうすると定型訴状の在り方はどういう形式にするかは別として、アクセスの面では一定の意味は、私個人の意見としてはあると思っております。

○髙木委員 あとは敗訴者負担制度ですか、これは前回も主張したことと同じなのですが、労働事件の訴えを提起するのがほとんど労働者であることが労働事件の特性の1つだろうと思います。労働者の費用負担能力の問題等も含めて労働事件には敗訴者負担制度を入れるべきではない、入れたら訴えを萎縮させ、また泣き寝入りを増やすのですかという世界につながってしまうのではないかと、考えれば考えるほどそうではないかと思いますので、ぜひ労働事件には敗訴者負担制度は勘弁してほしい。それと、いわゆる訴訟費用というのでしょうか、これについても低額化を一層図ってほしい。費用に関してはその点をお願いしたいと思います。

○菅野座長 今の点についてほかに御意見はありますか。

○鵜飼委員 今日は資料として労働弁護団の意見書が出ておりますが、ここにありますように、私自身が今まで言ってきたことに加えて2点書いてあります。1点は勝敗の見通しが立てにくいことがあって、現実に就業規則の変更については本当に我々でも見通しが立たないような類型ではないかと思います。既に最高裁判例のケースも変転したケースが例として挙げられていますが、本当に見通しが立たない。したがって、申立てをする側で敗訴者負担制度が設けられますと、勝訴の見通しがないのに提訴しなければいけないので、将来的に負けた場合には負担せざるを得ないということになると、相当の抑止力になるということもあります。
 もう一つは6ページにありますけれども、日本では判例法理が重要な役割を果していることがありまして、判例法理は法そのものが十分整理されていない分野について、判例の積み重ねによってルールがつくられていく、それが法律になっていくのが今回の労基法改正なのですけれども、そういう分野が労働訴訟には非常に多いものですから、その例が6ページ以下に挙げられております。そういう法創造的な分野については、初めに提訴する段階はほとんど判例もない、負け覚悟でやらざるを得ない。しかし、必要性からやらざるを得ない。
 しかし、十数年たってやっとそれが認められ、それが制度改革につながる。こういうケースも非常に多いものですから、そういう意味で今まで私自身が申し上げたものにつけ加えまして、労働事件については敗訴者負担を導入すべきではないという理由になると思っています。

○矢野委員 弁護士費用の敗訴者負担の問題ですが、司法アクセス検討会の資料を拝見していまして、賛否両論とかその妥当性の範囲ということが論議されているのを興味深く読んだのですが、原則的な考え方を今まで主張してきたところと変わらないのですけれども、負担額を当事者に予測可能な合理的な金額にするという配慮は必要なのではないかと思いましたので、その点をつけ加えておきたいと思います。

○山口委員 敗訴者負担の関係でお聞きしたいのですが、敗訴者負担を取り入れるべきでないという根拠として、労働訴訟の場合は結論の見通しが訴訟提起の段階で難しいということが大きな理由として挙げられておりますが、これは仮に参審なりそういう制度が入る場合でも同じようなことが言えるという理解でいいのでしょうか。

○鵜飼委員 参審になって見通しがよくなればまた違うかも……敗訴者負担はそれだけの理由ではありませんけれども、敗訴者負担というのは、労働事件でアクセスをそもそももっと容易にして、費用・コストを削減しなければいけないという議論がされていますから、そもそも敗訴者負担はなじまないと思いますが、見通しが立たないということは労働参審制はどうしても必要だという論拠にもなると思います。

○山口委員 労働参審制を入れれば見通しは立つという理解でいいのかなということで。

○鵜飼委員 1審で満足してお互いに納得するということもありますし。

○菅野座長 よろしいでしょうか。今日は労働事件に固有の訴訟手続の要否に関する2巡目の議論をしていただきまして、大体時間となりましたので、この件はこのぐらいにしたいと思います。
 さて、今後の進め方で、資料120にあるような検討スケジュールが予定されております。これをごらんいただきますと、労働委員会の救済命令の司法審査の在り方に関する2巡目がまだ残っていますが、これは今、厚生労働省の研究会で議論が進められておりますので、それを待つということでありまして、次回はまた今までの中心的なテーマである雇用労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否についての3巡目に入る予定です。この進め方についての御議論を少しいただきたいと思います。
 前回の最後にこの点の議論をいただきましたが、そろそろ労働参審制に賛成か反対かというだけの議論ではなく、中間的な制度設計も含めた議論をすべきではないかという御意見がありましたのに対して、やはりまだ労働参審制の是非そのものについて議論すべき点が残っている、いわば批判のための批判の議論ではなくて共通の理解を得るための議論がまだ必要なのではないかという御議論もありました。次回の議論の仕方について御意見がありましたら、お伺いしたいと思います。

○春日委員 私は前回、中間的な方向を少しは模索すべきではないかということを言っておりましたので、このタイムスケジュールで見ると、中間的取りまとめをやって意見募集が8月になっています。そうすると、3巡目で従来と同じような議論を繰り返すのだとすると、このタイムスケジュールとは合わなくなってくるというか、時間的にかなり無理ということにもなってきますし、共通の理解が可能という具体的な点があるならば別ですが、少なくとも2巡目までの議論を伺っているところでは、共通の理解はなかなか難しいような気がする。どちらかの方に共通の理解をするのはおよそ無理であるという感じを持っているわけで、中間的な方向はある程度模索しないと、いつまでたっても綱引きをやっているような感じがするので、どこかで少なくとも中間的な方向について模索する方向を出すべきではなかろうかと思っています。
 もっと具体的に言いますと、伺うところによると日弁連で7月5日に、参審制をとっているドイツやイギリスの裁判官をお呼びして講演やシンポジウムをされる計画があるということで、しかも我々もそれに基本的には参加する方向のようですので、そのあたりをめどにして、ある程度中間的な方向を模索する方向についても考えていただきたいというか、委員の1人である私自身も考えなければいけないと思うのですが、とにかく従来の両案だけというのではなく、しかも両案は今のところある種の拮抗状態というか、妥協の余地がない状況ですから、どの点でどちらかへ歩み寄るといいますか、具体的にどうするかは別としても、タイムリミットとの関係で中間的な方向は模索すべきではないかと思います。

○鵜飼委員 8月の中間的取りまとめの意見募集は8月でなければいけないのでしょうか。例えば9月、10月にずれ込むということはいかがですか。9月ぐらいにやるのは難しいですか。

○齊藤参事官 やはり意見募集は8月の時期に実施することが一番望ましいと思います。意見募集をした後の整理でありますとか、さらに実際に立案作業の本格化した場面ということを考えますと、秋以降はかなり立案作業に集中していけるような時間も確保させていただきたいと思いますので、意見募集の時期としては8月に行うことが一番望ましいと考えております。

○鵜飼委員 パブリック・コメントを求める期間はどの程度ですか。

○齊藤参事官 1カ月程度を考えております。

○髙木委員 これはほかの検討会でもいわゆるパブリック・コメントを求めているわけですか。

○齊藤参事官 実施している検討会は幾つもあります。

○髙木委員 リターンは結構あるのですか。

○松永参事官 物によるというところでしょうか。たくさんリターンのあるものもございますし、まだ少しというものもございます。意見募集を実施しているということはいろいろな形で、場合によりましては雑誌等に、意見募集を行っているという広告を出すなどして行っております。

○髙木委員 そういう意見を求めているということがどこまで伝えられるのか……。

○松永参事官 できる限りのことはやらせていただいておりますし、物によりましては、いろいろな雑誌に載せるだけでなく、各大学にこういうことをやっていますからということもお知らせしたりしております。

○春日委員 例えば仲裁検討会は相当早くから意見募集をしていて、私も書くには書いたのですが、雑誌に載せたりして、再度意見を吸収するような方法をとっていますね。

○鵜飼委員 仲裁検討会は去年のいつごろでしたか。

○松永参事官 去年の夏頃だったと思います。

○髙木委員 中間取りまとめという段階で、春日先生は先々のことも御心配されて、ぼつぼつ詰めた話にしなければいけないのではないかということでしたが、この段階で、例えばこのことについてはこういう意見とこういう意見があるという部分もあえて中間取りまとめとするのか、あるいはそのどちらかに、この中で若干不協和音はあっても、例えば座長責任で出されるのか、それによって大分変わってくると思いますが。

○菅野座長 いかがですか。

○齊藤参事官 そのあたりはまだ確定的なことはなかなか申し上げにくいのですが、単なる検討会での議論の整理をそのまま意見募集でぶつけるわけにはいかないのではないかと思っています。一定の方向性をある程度指向した上で、ただ細部についてまではある程度選択肢があり得るというぐらいのイメージではなかろうかと、私の個人的な印象なのですが、そういうイメージで考えてはおります。

○山川委員 前回も若干申し上げましたけれども、最初から中間的な方向にいくというスタンスかどうかとは別の問題として、少なくともこれまでは、ほかにいろいろな選択肢があり得るかどうかという議論も余りしていなかったように思いますので、選択肢の在り様、可能性を探っていくぐらいの議論はやはり必要ではないかという感じはしています。どういう方向が8月までにできるかどうかはまだわかりませんけれども、選択肢について全く議論しないで結論を出すのはちょっとどうかと思いますが。

○鵜飼委員 私がレポートした固有手続の要否もたたき台でありまして、本当に今日はたたかれたわけですけれども、固有手続は必要ないのか、あるのか、その辺だけは皆さんの意見を闘わせることが必要なのではないかと思いますが、まだ十分議論されていない。具体的な問題についての議論はまだ入ったばかりという感じがしますので、7月から8月にかけてのスケジュールが確かにタイトはタイトなのですけれども、8月の上旬にもう1回ぐらい入れないといけないのじゃないでしょう。そして8月中旬ぐらいからパブリック・コメントということも少し検討していただければと思います。
 確かに中間的な方向を考える場合でも、今まで懸念されていたいろいろな疑問等があると思いますので、イギリスとドイツの裁判長、裁判官にも来てもらって質問をぶつけながら、自分たちの制度設計を考えるという非常に貴重な機会もありますので、私は検討会の日数をもう少し増やしてもらって、もし事務局がおっしゃるようなスケジュールに合わせようと思えば、それまでにかなりみっちり議論をして、何とか間に合わせるということも考えないといけないのじゃないでしょうか。

○髙木委員 労働訴訟協議会はいつごろまでにどういう結論を出してこちらにフィードバックされるのですか。どなたかお答えいただけますか。

○鵜飼委員 こちらへのフィードバックは現状ではなかなか難しいですね。

○山口委員 それでは労働訴訟協議会の関係で少し話してよろしいですか。資料125の概要のペーパーがありますが、こういうメンバーでこういう協議事項について協議しております。5月20日に第1回の会合が行われまして、司会は裁判所と弁護士会が交互に担当しながら、訴訟手続の流れに沿って運用上の課題について行っていくことにしております。第1回については、現状の労働訴訟についてそれぞれ裁判所あるいは使用者側、労働者側の委員の方に率直なところをお話しいただいて、私の印象では忌憚のない意見交換ができるのではないかという感じを持ちましたけれども、具体的な中身についてどうするかはこれからのことですので、そこでどういう形で話が推移していくかは全くこれからの問題であると理解しています。5月20日以降は当面3回程度の日程が決まっておりまして、そこでどういうことをやっていくかをそれぞれの委員の方から意見が出されていく状況ですが、これは基本的には東京地裁における労働事件の審理の運用改善が目的ですから、それについてうまく裁判所と弁護士会の方で御意見がまとまれば何らかの形で発表していこうというものです。例えば一定の時期までに結論を必ず出す、あるいは出さないという形で進めているわけでありません。状況次第で多少変わっていくところがあります。例えばいつまでにこの協議会の結果を検討委員会に報告しろと言われても、少なくとも現状ではなかなか難しいところがあると思っています。もちろん議論の途中経過それ自体は御報告はできると思います。

○髙木委員 この協議会は、前回、訴訟手続の問題を議論したときに、座長のお勧めもあり、運用その他について協議されてはいかがですかということでおつくりになられたものだろうと認識しているのですが、そういう意味ではここで合意をされて、それはそれだと、例えば運用でしのげるのはこういうことです、改善はこういうことが期せるでしょうと。ただ、運用では限界があります、こういうところはどうしても運用ではしのげませんとか、そういうことも御議論を踏まえてこの場にフィードバックされて、その議論がやはり要るのだろうと思うのですが、中間取りまとめを8月に何か書けといっても、それは多岐にわたる御議論だろうからそれまでに無理かもしれませんが、ちょっとピッチを上げて、この中間取りまとめに反映できるような間隔で御議論していただかないといけないのじゃないかと思います。

○山口委員 鵜飼委員、よろしいですか。

○鵜飼委員 それはちょっと不可能ですね、本当に申し訳ないのですが。本当にせっかくのことですし、私たちも協議会を本当に大切なものだと思いますけれども、1つの成果が上がるのは来年ぐらいになるのじゃないでしょうか。それはちょっと不可能に近いと思います。

○髙木委員 失礼ですけれど、タイミングという意味では全然機能しないのではないですか、この議論との関係では。来年と言うのは……来年11月には司法制度改革推進本部はなくなっています。

○菅野座長 検討会は検討会として、独自にどこまでできて、どこまでは制度論となるかを見分けて、その制度論が必要かどうかをやはりやる必要があるのだと思います。

○髙木委員 では、労働訴訟協議会に何らかの貢献をぜひお願いしたいと思います。

○山口委員 はい、努力はしてみたいと思います。

○菅野座長 予定した時間を過ぎていて、この後にもあるものですから、今後の進め方について特にほかに御意見がなければ、今日いただいた御意見も踏まえて私の方で考えて、次回の進め方を最初にでも明らかにしたいと思います。その間、御相談等も申し上げます。よろしいですか。
 それでは、次回の日程をお願いします。

○齊藤参事官 次回は6月20日(金)午後1時30分から4時30分を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。

○菅野座長 それでは、これで終わりにいたします。(了)