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労働検討会(第22回)議事録



1 日時
平成15年7月4日(金) 13:30~16:30

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、春日偉知郎、熊谷毅
後藤博、髙木剛、村中孝史、矢野弘典、山川隆一、山口幸雄(敬称略)
(事務局)
古口章事務局次長、齊藤友嘉参事官、松永邦男参事官、
川畑正文参事官補佐

4 議題
(1) 論点項目についての検討
  ・ 労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否について
  ・ 雇用・労使関係に関する専門的な知見経験を有する者の関与する裁判制度の
    導入の当否について
(2) その他

5 議事

○菅野座長 それでは、定刻になりましたのでので、ただいまから第22回労働検討会を開会いたします。
 本日は御多忙のところを御出席いただきましてありがとうございます。
 まず、本日の配布資料の確認をお願いいたします。

○齊藤参事官 御説明申し上げます。
 資料134は、検討すべき論点項目の中間的な整理でございます。再配布させていただいております。
 資料135は、「今後の検討スケジュール」でございます。
 資料136は、「検討事項に関する主要な論点及び検討資料(固有の訴訟手続、裁判制度、労働調停関係)」でございます。これも再配布させていただいております。
 資料137は、「導入すべき労働調停についての検討のたたき台」でございます。再配布させていただいております。
 資料138は、「労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否についての検討の概要〔2訂版〕」でございます。
 資料139は、「労働調停についての検討の概要〔2訂版〕」でございます。
 資料140は、「雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否についての検討の概要〔3訂版〕」でございます。
 資料141は、「訴訟手続への外部の人材の関与制度の比較」でございます。再配布の資料でございます。
 資料142は、鵜飼委員提出の資料でございます。
 それから、山川委員提出の図を配布させていただいております。「専門家の関与形態の諸次元」と題するものでございます。これは、本日資料番号を付すことが間に合いませんでしたので、後に資料143として資料番号を付した上で配付させていただく予定でおります。
 参考資料といたしまして、日弁連が明日実施いたします英独の職業裁判官とのシンポジウム等に先立って、日弁連が招聘者に送付した質問状、質問状に対するドイツ及びイギリスの職業裁判官からの回答書を配付させていただいておりますので、御参考にしていただきたいと存じます。
 以上でございます。

○菅野座長 それでは、本日の議題に入ります。
 本日は、主に2つの項目について3巡目の検討をいただきたいと思います。初めに、労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否について検討していただきまして、次に雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否について検討していただきたいと思います。
 これらの検討事項についてのこれまでの議論の状況については、事務局において資料138(固有の手続関係)、資料140(労働参審制関係)として、主な御意見の概要を整理していただいておりますので、これらを参照いただきながら議論していただきたいと思います。
 それでは、まず「労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否」について議論をしていただきたいと思います。この点については、5月30日の第20回検討会で第2巡目の議論をしていただいたところであります。これまでの検討では、大きくまとめますと、第1に審理期間の迅速化、計画審理の実施、実務家による運用改善の協議、定型訴状の活用、弁護士へのアクセスの充実といった点に関しては、その取組みの必要性・重要性について概ね委員の皆様の御意見の一致が見られたのではないかと考えておりますが、第2に、他方で審理期間、主張・証拠の提出の在り方等に関して一定の制度上の整備を行うことについては、片方では運用上の対応だけでは不確実なところがあるということで、制度上の措置を図るべきであるという積極的な御意見と、他方で、実際上の運用による対応の可能性、個々の事案ごとの事情に即して対応する必要性などから、一律に定めることには消極的な御意見に分かれていたように思います。
 そこで、これらの点についてさらに検討を深めていただきたいと思うわけです。資料138をごらんいただきたいのですが、資料138の2ページの2、「労働関係事件に係る民事裁判の充実、迅速化」の(1)審理期間の短縮、(2)計画審理、(3)証拠の収集等の論点、その次の4ページへいきまして、3の「労働関係事件に係る民事裁判へのアクセス」、(1)簡単な定型の訴状の活用、(2)訴訟費用の在り方と(3)その他、4の「その他」、(1)少額訴訟手続の活用、(2)仮処分手続と本案訴訟手続の関係、こういう論点について本日は順次議論していただきたいと思います。
 なお、先ほど御紹介のとおり、3(1)の簡易な定型の訴状の活用の論点に関連しまして、鵜飼委員から資料142が提出されておりますので、御参照いただきたいと思います。
 このような形で進めていただき、途中で検討スケジュール等についての御議論をいただいて休憩をし、その後に専門家の関与する裁判制度の議論に移るのが今日の予定でありますが、そういうことでよろしいでしょうか。
 それでは、ただいま申し上げました労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否の論点について、資料138の2(1)(2)あたりをまとめて、このあたりから議論を始めていただきたいと思います。審理期間の短縮、計画審理等の論点から、どなたからでも議論を始めていただきたいと思います。

○鵜飼委員 審理期間を短縮しなければいけない、適正な判断を担保しなければいけない、計画審理を導入しなければいけない、この辺は総論では完全に意見は一致していると思うのですが、現実ではそれが難しいとか、運用でできるのではないかという御議論もございました。私は、改革審以来のこの議論は、まず基本的には我々の側、法曹三者側の事情を前提にするのではなく、国民の声、ユーザーの声に最大限耳を傾けて、そこからスタートすべきではないかと思っています。その上で現実論も無視はできませんので、現実を前提としてどういうふうに導入していくのかという議論になるのではないかと思います。
 したがって、現実を前提とした反論は、残りの時間も非常に短いので、コンセンサスを見つけるためには集中的な議論が必要なわけですが、現実論を先行させた反対論は余り生産的ではないのではないかと思います。
 そこで私自身は、できれば解雇事件、労働事件の中の典型的でかつ重要な事件でありまして、どこの国でも解雇事件については件数も多いですし、それなりの配慮をして訴訟手続を対応しておりますので、できれば解雇事件に絞ってまず議論して、現行制度でいいのかどうかを検討したらどうかということを御提案させていただきたいと思います。
 現状の解雇事件は、私の計算するところ、現在年間で800件から900件ぐらいあると思います。その7割から8割方が保全手続にいっています。解雇紛争が発生したときに、まず8割ぐらいは保全手続で利用される。あとの2割ぐらいが本訴ではないかと思います。本訴の事件数は保全手続を経由した事件も含まれておりますので、私たちが個別紛争で、特に組合のバックもない個人が全く何の支援もなく争わざるを得ない場合は、保全手続を利用するのが一般的であります。
 保全手続は何回も言いましたので、もうこれ以上言いませんが、本来そういうことを予定している手続ではありません。解雇事件のための制度的なものがないために、やむを得ず保全手続を使っているということをまず御理解いただきたいと思います。保全手続はそういう意味では非常に限られておりまして、手続も制限されており、東京地裁等の運用とほかの地裁の運用が大きく違います。利用者にとっては全く説明がつかないような現状があります。運用でやれと言われる場合に、この運用の乖離、実態をどうするかということはまず避けて通れない問題ではないかと思います。
 それと、保全手続は本人訴訟が1%ぐらいでしょうか、99%が代理人でやっている。それだけアクセスが困難であり、特殊な事件類型ということだろうと思います。もちろん私は労働事件で保全手続を利用するなと言っているわけではありません。最もポピュラーな典型的な解雇事件の8割方が保全手続を利用せざるを得ない現状は、この機会に真剣に考えて見直さなければいけないのではないか。そのやり方として、保全手続の特則というやり方もありますが、保全手続の特則は保全全体の構造をゆがめることになる可能性もありますので、私は保全手続の特則ではなく、やはり本訴の特則によるべきではないかと思います。
 そこで、解雇事件については現行の民訴法、新しく民訴法が改正されますけれども、それを前提として考えた場合、この前も優先処理義務と言いましたが、御議論の中で、何に優先するのかということがありましたので、確かにドイツでは労働裁判そのものが迅速に処理されなければいけないということがあって、その中でも解雇事件は優先処理義務となっておりますので、私は解雇事件については特に迅速に処理しなければいけないという規定をきちんと設けて、裁判所及び当事者がそれに向かって努力をする責任・責務をうたうべきではないかと思います。保全手続に現在ほとんどがいっているその流れを、本案訴訟方に移すためにはそういう迅速処理をお互いの責務としてうたうことが必要なのではないかと思います。
 もう一つは計画審理が民訴法の改正で新しく導入されますけれども、この原則化はどうしても必要なのではないかと思います。我々が労働者から相談を受けまして、40代、50代の人たちで私のところに来る相談者も多いのですが、そうしますと、子どもは高校生だとか大学生だとか、解雇された場合、あるいは解雇が間近に迫っている場合に、裁判を出した場合にどうなるのか、いつごろまでに目処がつくのか。その目処がつきませんと、例えば子どもの進学にしても何にしても計画が立たないわけです。場合によっては、新しく再就職先を見つけなければいけない。そういう意味では毎日毎日が生活設計を立てながらやらざるを得ない。そういう意味では計画審理が最も必要な事件類型が、例えば労働事件の中では解雇事件ではないか。見通しが立たない中で、いつになるかわからない中では裁判を担うのは大変なことであります。これはぜひわかっていただきたいと思います。
 そういう意味では、今導入されようとしている民訴法改正の争点整理、証拠整理、証拠調べ、終結、判決、それぞれの期間を当事者協議の上で、解雇事件については原則計画審理を導入すべきではないかと思います。
 さらに、証拠調べについては、原則1回の期日で集中して行うということを設けるべきではないかと思います。現在の民事訴訟法では、できる限り証拠調べは集中して行うという規定になっておりますが、1回で集中して行うという規定を設けることによって、計画審理のめりはりがつくと思いますし、当事者もそれをターゲットにして迅速な処理を進めることができると思います。
 タイムターゲットについてですが、具体的にどういうふうに設定するかという問題がありますが、参考資料のドイツもイギリスの裁判官からの回答書をごらんになっていただくとわかりますように、労働事件についてはタイムターゲットを設けております。ですから、これは現実をにらみながら、少なくとも私は終結を目処、これは労働者にとってはどんなに長くても8カ月といいましょうか、雇用保険の受給期間は最大10カ月ですけれども、裁判に出すまでの期間がありますので、8カ月から最大でも10カ月というタイムターゲットを設けて当事者、裁判所がその目標に向かって努力することは必要なのではないかと思います。
 釈明権や釈明処分等については現在民訴法でありますが、解雇事件について言いますと、労働基準法で解雇ルールが設けられました。これは労働法規では画期的な改正です。そこで、解雇事由については就業規則の絶対的記載事項になりましたし、そして解雇予告の段階で解雇理由書を出さなければいけないことになりました。そういう意味では解雇については解雇理由を早期に明らかにすることと、解雇理由を基礎づける主要事実、間接的事実及び基礎的な資料。これは解雇理由を基礎づける資料ですから、もちろん就業規則は当然ですけれども、具体的な解雇の類型によっては人事記録であるとか、出退勤が問題になっている場合はタイムカードも当然でしょうし、あるいは経営側の事情による整理解雇の場合は経理資料が出てくることが特に必要でしょうし、そういう基礎資料を早期に提出するように釈明権を行使すべきではないか、あるいは釈明処分によって提出を求めるべきではないか。これは現在の民訴法にありますが、解雇事件については特に規則等によって具体的内容を明確にすることが、裁判手続を、円滑に進めるために必要なのではないかと思います。
 あとは終結と判決ですが、現在終結して判決まで2カ月という民事訴訟法の規則でしたか、タイムターゲットがありますが、私は1カ月にすべきではないか。解雇事件については終結の後に判決はどんなに遅くても1カ月とすべきではないかと思います。
 あと、定型訴状は私の方で今日用意しておりますが、これは全くたたき台のたたき台でありまして、解雇のルールか労働基準法でできましたので、それをベースにしてつくってみました。もちろんこれについてはいろいろな御批判があると思いますので、ぜひいろいろな御指摘をしていただいて、何とか解雇事件については労働者が自分でも書けるような訴状をつくって、これは外国等にはあるわけですが、それをリーガルサービスセンター等に置く。今日ドイツの裁判官とお話ししていましたら、専門的な知識経験を持っている人がその窓口で書き方を説明するとおっしゃっていました。そういうものもぜひ実現すべきではないか。定型訴状については後でまた時間があれば御説明したいと思います。
 この前、厚生労働省が労働基準法の解雇ルールを定めるについて、ドイツ、フランス、イギリス等を調査されまして、そのときの調査結果が資料として出ているんですね。「諸外国における解雇ルールと紛争解決の実態」が日本労働研究機構から出ています。できれば皆さんもこうした資料を参考になさった方がいいのではないかと思います。これを見ますと、ドイツでは240万件、年間の解雇事件があって、その10%が労働裁判所で審理されているなど、これもまた推計ですけれども、フランスでも80万件の解雇事件があってその10%が労働裁判所にきているとか、非常に興味深い資料が出ています。日本で言うと、例えば今の800件ぐらいの数は全体の中で裁判にいくのは何%あるかと私もいろいろ考えているのですが、それには最もポピュラーな典型的な労働事件の中の解雇事件がもう少し裁判を利用できるようにすることが必要なのではないかと思っています。

○石嵜委員 今の鵜飼委員の発言について、解雇事件に関する仮処分の強化のお話があるのですが、まず本訴についてタイムターゲットをつくる、それが8カ月ないし10カ月ということですが、改革審では民事訴訟については2年以内に判決を出す。そういうタイムターゲットと比べて、何ゆえに8カ月、10カ月というタイムターゲットに妥当性があるのかというのは何も検証されていないような気がしてならないというのが1つの感想です。
 それから、少なくとも現実に縛られていたのでは改革ができないではないかと、それはおっしゃるとおりなのですが、現実から離れた改革もありませんので、その辺で今の仮処分についてどう考えているかというと、仮処分は今東京地裁を中心に考えると3カ月か4カ月で終わってくれるんですね。加えて、解雇事件は本当に最後まで争って原職復帰を労働者が最後まで主張される事案は少ない。どこかで結局は金銭解決、和解の話がほぼ中心になっている。これは労働組合の幹部の方の解雇事件が多かった時代であれば、解雇された後、原職復帰が認められれば、それは職場に戻る、仲間がいるという状況下でそういう事件が多かったと思うのですが、今は個別的労使紛争、そして使用者と労働者が1人で闘っている事件においては、解雇された会社に戻るというのは、これは言い方がいいか悪いかは別として、現実に労働者の方も大変です。そうすると、どこかで早く金銭賠償の形で、これが導入されておりませんので裁判官が関与して終わらせていく。これは使用者も労働者もともにメリットだろうと私は思っておりまして、その意味では解雇事件に関する仮処分はそれなりに有用な機能を果たし、そして短時間で決着がついているというふうに私の方は思っておりますので、この部分について仮処分が今果たしている、決定というよりは和解で終わることも多いですし、決定をもらったからこそ、逆に言うと和解もできますし、その意味では仮処分についての今の御認識は、実務をやっていて鵜飼委員とは少し違うと思っています。
 定型訴状については、私もそれは賛成の立場なので、アクセスはきちんとした方がいい。特に、これも使用者側の立場からいいますと、今申し上げましたように、仮処分では中心に和解をする、そして金銭解決をすることが実務は多い。そうしますと、その金銭の基準に、まず解雇されてその和解日まで、この部分は金銭としては必ず払えというのが多いんですね。そしてプラス将来分としてどのぐらいの期間を上積みするかという形で和解金額を読んでくるんですね。とすると、提訴されるのなら早い段階で提訴されて、仮処分でもいいです、そこで早く話をすることによって、金額についても解決までが長くかかったための過去分の金銭を使用者側としては余り気にせずに済むようなことも、今やっていて十分感じますので、不満な事件については定型訴状で速やかにあげていただくというので、使用者側にとってもこの定型訴状はいいのではないか。ただ、その後の答弁の仕方についてその議論を考えなければいけないだろうと思っています。
 これについては、裁判官との協議会の中でも、第1回目までに本当に解雇理由をきちんと書いて出すか、その時までに就業規則等の証拠も出すべきかということも含めて議論した経緯の中で、鵜飼委員がよく言われるように、解雇事件の被告は我々使用者側ですから、そうすると我々がどうするかという話になり、大企業は顧問弁護士がいて労働の専門の先生にアクセスできる可能性は秘めているのですが、全国一律と考えると、労働事件をやってくれる弁護士の先生を探すだけでも大変なんです。ある裁判官のお話だったのですが、第1回期日までは、もしかすると被告になった使用者が弁護士を探す期間というイメージもあるのではないだろうか。ですから、1回目からそういうことを言うと、逆に審理はなかなか進まないことも多いと思う。したがって、1回目の事件について仮処分は早く設定されていますが、本訴でもできるだけ早い期日を設定する。つまり2週間でも1カ月でも1カ月半与えれば、弁護士が2週間でつくわけでもない、恐らく1カ月半与えられれば、恐らくぎりぎりまでかかる。そういうことを考えれば、1回目については弁護士についていただいてある一定の範囲で答弁していただいて法廷にでていただく。そして、2回目について弁護士と裁判所で釈明も含めて話をして、どれだけの期間があれば本当に具体的な証拠、主張ができるか。そういうことを話して、2回目で充実させたらいかがかという議論もありましたので、そういうことも踏まえて裁判官と協議会はやっているのですが、私は現実的だなと思います。そういう意味で1回目にこだわることは、前回の議論もありましたけれども、ないのではないか。最終的に早く終わればいいという感覚を持っておりまして、そういうことになると、すべてが一律に規定化するという話ではなく、実務運用の中で裁判官と弁護士を入れた積極的な話し合いが必要で、一律に規定するのは難しいのではないかと考えています。

○髙木委員 石嵜委員のお話を聞いていまして、少し乱暴に言えば、仮処分しか利用できない現状なのではないか、とにかく解決ができればいいのではないかというふうに理解をしました。そこは一面わからないでもないのですが、本案訴訟で解決を求めるのがまず一義的なものとしてあるべきであって、保全手続である仮処分を一番解決の太いチャンネルにする仕組みが本当にいいのでしょうか。それは一方では解雇事件でも時間がかかりますし、とりあえずは生活もありますから、そういうことで仮処分でということはあります。実態的には多くの事件で仮処分の判断をお願いしながら、その過程で和解ということで、私どもの事件もお相手としてお世話になっているものもありますけれども、そういうことも含めて本筋はどうなのでしょうか。そういう意味ではこういう機会なので、本案訴訟がもう少し実効的に太いチャンネルであるように変えられるものなら変えた方がよいのではないかと思うわけで、そういう意味では運用でというお話もあり、それはそれでいろいろなお話をしていただくのはやぶさかではありませんが、とりわけ解雇事件について本案訴訟の使い勝手のよさというか、迅速化等も含めて、そういうアプローチで、これは運用だけではなく、特則のようなものもおつくりいただくことも含めてお考えいただく必要があるのではないか。今の御意見を聞いてそう思いました。

○石嵜委員 1つだけ、私も本案訴訟が今のままでいいと言ったつもりではなくて、迅速化するための方法としてはいろいろ考えられなければいけないと思うのですが、ただ、仮処分についての評価自体が現実にどれだけ機能しているか。そういう意味では、最初の鵜飼先生のお話では、仮処分が完全に労働者のために何もなっていないような意見に聞こえるものですから、実務の現実を考えたときに、仮処分は十分機能しているのではないかと申し上げたつもりでして、そういう意味では本訴についてのやり方として、1回目にそれだけのことを要求するよりは、2回目ということを十分考えながら、全体的な審理を短縮するというお話は十分あるのではないかと、私自身もそう思っております。

○鵜飼委員 仮処分の見方ですが、これはほぼ100%労働側が仮処分申請の申請者になるわけですね。だから労働側しかわからないと言えばそれまでですけれども、解雇された自分は納得できないけれどどうしたらいいかという相談を受けます。そのときに具体的にどういう手続でやるかということになります。そうすると、日本では本案訴訟をやるとどうしても1年以上かかるという現実があります。一方で、仮処分という制度があり、しかし仮処分は書面審理が原則等限界があることを言わざるを得ません。たまたま横浜では、過去のバックペイを認め、そして将来も、最近のケースでは本案訴訟の判決確定までという従来どおりの仮処分決定が出ているのですが、東京になると過去のバックペイは認めない。3、4カ月で決定が出ますけれども、将来の1年分といった運用になっています。ではそれで終わるのかということになりますと、それで終わるとは必ずしも言えない。書面審理が原則なので、例えば書面で解雇の不当性、理由がないことについてどれだけ立証できるかどうかを検討することになります。それは手足が縛られたような制約された、要するに証拠提出等もこちらから求めて、使用者が出せばいいのですけれども出さない場合に文書提出命令も使えません。そうなると非常に制限された形になります。
 そういうことをいろいろ考えて、本案訴訟になったらどうなるかという話になりますと、家族を抱えた労働者にしてみると、自分の解雇事件がどういう形で裁判手続の中で処理されていくのかということについて、私がその現実を説明すればするほど、それはもう大変だなと、解雇は本当は納得できないけれども断念するという結論になるケースが非常に多いんです。また、現在も仮処分のケースは先ほど言いましたように、99%弁護士が代理しています。本人ではなかなかできません。それほど特殊な手続なわけです。
 そこでなぜ仮処分で和解が多いかといいますと、そういう見通しが、仮処分の審理をやっていく中で、こちらの証拠も限定されていますし、将来の見通しも、仮処分決定が仮に勝ったとしても次の段階では仮処分異議とか起訴命令を出されて本案訴訟へ移るということになってしまうことも大体予想がつきます。そうすると、このぐらいでもう妥協しようかなと。ですから仮処分で和解するケースは、和解の機能は高く評価するのですけれども、それと同時に私自身も解雇事件を担当していて、労働者がもうこれ以上は耐えられないということで和解をするケースが非常に多いんです。
 そういう意味で、仮処分が現在機能していないとは絶対に言いません。しかし解雇事件の8割は仮処分という場合、この保全手続は御承知のとおり、私も昔やったのは、地上げ屋がお店の前に何か物を置いて業務を妨害するというのが多く、それを撤去するための仮処分申請を出したり、まさに緊急性があって、そこで暫定的な地位、権利を確保しなければどうしようもないという事態を保全手続は想定しているわけです。これに対して、解雇事件は日常不断にある事件なわけです。労働者側からすると、実はその流れを本案訴訟に、本格的な裁判…仮処分は仮定的な裁判ですから、証拠も制限されていますから、まさに暫定的な権利状態を確保するにすぎません。まさに、本来の裁判の方に流れていけるように、これは私たち法曹の責任として、労働側・使用者側は問わず、今この段階で、50年続いたこの現実がこのままでいいのだろうかと私は思うんです。仮処分本来の機能はありますので、労働事件も仮処分を利用するべきケースもあります。しかし、普通一般に我々のところに相談がくるような解雇事件については、本案訴訟でやれるようなことが必要なのではないか。そのときは、迅速な処理をきちんとうたうべきではないか。運用でやればいいとおっしゃいますけれども、例えば仮処分の運用1つにしても、著しい損害が発生するとか、窮迫な危険を防ぐという要件がありますが、東京地裁の運用とそれ以外の地裁の運用がこれほど違うわけです。運用だけでは不十分だと思います。基本的には迅速処理義務をうたい、計画審理を原則化し、第1回をどうするかとかこれから議論を詰めなければいけません。しかし、最終的な終結はいつごろにするか、判決はいつごろ出るか。その間、証拠調べは1回で集中的にやるという原則をうたうなど、今の民訴法改正の部分を労働事件用に変えればいいわけです。ちょっと手をつければいいわけです。そして簡易定型訴状がつくられれば解雇に納得できない多くの人たちが利用できます。ドイツのように何万件とか何十万件という件数にはならないと思います。日本の企業は解雇には抑制的ですし、解雇しないで問題を解決しようとしていることはあるでしょう。しかしながら、解雇について泣き寝入りをせざるを得ないという現実があることも間違いないんです。そうすると、法曹の責任としてここはいつまでも保全手続でやっていいのだろうか。8割方は本訴でいくようにすべきではないかと、私は切実にそう思うんです。これだけは石嵜委員にわかっていただきたいと思いますが。

○石嵜委員 だた、私たち訴えられる立場から言うと、仮処分手続がとれない、本訴で訴えられないと言われても、それなら最初から仮処分と本訴の両方をおあげになればいいことではないのですか。つまり、仮処分は仮処分でやって…。

○鵜飼委員 労働者の場合、仮処分は99%代理人がつくわけですね。で、仮処分と本訴を一緒にやるのですか。

○石嵜委員 それは構わないのでしょう、仮処分決定が出なければ本訴をしてはいけないという話ではないのですから。

○鵜飼委員 仮処分が先行しますと、本案訴訟は進行しないわけですよ。

○石嵜委員 それは進行の裁判所の議論です。それともう一つ、ちょっと気になったのは、議論のためにきちんと確認しておきたいのですが、東京地裁は1年というのは私も理解していますけれども、過去分について仮処分決定、出しませんか。それは事案によっては過去分も出ていますよね、それを山口委員に。

○山口委員 仮処分と本案の関係について東京地裁の運用ということでおっしゃっていますけれども、これは制度的な運用の問題ではなくて、裁判事項の中身なのでその裁判官の判断ということになっていますので、東京地裁で一律でどうこうしているというわけではないということを予めお話ししておきたいと思います。
 ただ、現実の裁判例として将来1年分、あるいは過去分について認めていない事例が多いか少ないかというと、多いのは確かにそのとおりだと思いますが、もう少し見ていただければ、事案によっては1年分に限定しないで1審判決の言い渡し前とした場合もあります。現実に私もそういう決定を出したことがありますので、何が何でも1年分としているわけではありません。それから過去分についても、どこまで過去を遡るかという問題はありますけれども、申立後の分について決定までの期間について認容したケースもあると思いますので、一律に過去分だから全部だめという形ではありません。過去分であっても、例えばそのために借財をしなかったような事情があった場合は認めているケースもあると思いますし、要するに事案によってその判断が分かれています。一律に東京地裁としてこういう運用をしているというわけではないんですね。あくまでも裁判官それぞれの判断で保全の必要性の要件を考えながらやっているのが実態なので、一律にどうこうというのはちょっとどうかなと思います。
 仮処分について言いますと、現実問題として仮処分は保全の必要性という別個の要件が必要ですから、本案訴訟とはまた違った取扱いにせざるを得ないという意味では、本案訴訟とは独自の域があるのかもしれませんけれども、基本的にユーザーの立場から考えてみた場合に、法曹の立場を中心に考えるのではなくて、ユーザーがどういう形で紛争の解決を図っていくのが望ましいかという観点をまとめるときには、そういう観点から言うと本案訴訟が最終的といいますか、権利義務の確定機関ですから、暫定的な制度よりは本案訴訟の方がもう少し使い勝手がいいということになる必要があるのではないかと、それはお考えとしてよくわかりますし、そういうふうにやっていくべきではないかと思っています。
 鵜飼委員の言われた、解雇事件についての迅速処理義務とか計画審理の原則化、証拠調べを原則1回とする、こういうことにつきましては、これは裁判所の立場から言わせていただくと、訴訟のユーザーは労働者側だけではなくて使用者側もあるわけですから、基本的に両者がどういう形で動かれるかによって変わってくると思っております。したがって、解雇事件だけではないのですけれども、一般的に紛争解決のための期間は適正ということを前提にした上で、短い方がいいということは言えるだろうと思いますから、審理期間の短縮、あるいは計画審理をある程度原則かする形にして、大体いつごろには終わるだろうという目安を当事者につけてもらうのは、私はあっていいのだろうと思います。
 ただ、言われるように、こういうものを法制度化しますと、これが法制度として動いていく以上は、そこはやってもらわなければいけないので、それに対する制裁は当然考えなければいけない。例えば、証拠調べは原則1回とか計画審理の原則化を定めましても、それは例外がどんどん増えていけば制度として意味があるわけではないので、そういうことができないことについての何らかの制裁といいますか、リアクションを考えないと実際には機能しないのではないか。そういうものが現実問題としてきるのだろうか。例えば証拠調べ原則1回というのは、私もそれで終わるならそれでいいと思うのですが、丸一日やるにしても、朝の10時から5時までやってもせいぜいとれる時間は5、6時間。そうなると、そこに入ってくる人証の数は限られてきます。そういう人証の中でやっていただくことになれば、それはそれで1つの制度だろうと思っていますが、それにおさまり切れない場合について、その例外もどんどん認めていくと現実問題としては思っているようには動かないのだろうという気はします。
 解雇理由を早期に主張すべきであるし、基礎づける書証については早期に出すべきであると、これは私もそうだと思っていますし、現実問題としてそのことを常に代理人にはお願いしているという状況です。ただ、これも先ほど言ったように、出してくれないときに何らかの制裁措置をもし立法化するというのであれば、それを設けないと現実問題としてはなかなか機能しにくい。例えば一定の定めた期間内にその主張をしなかった場合、あるいはその証拠を出さなかった場合はその証拠はもう出さないような形で扱うという形でやっていかないと、現実としてはなかなかつながっていかないのではないか。それでも構わないとおっしゃるならば、それはそれで一つの整理だろうと私は思いますが、その辺についてどういう御理解なのかと、それぞれのお立場もあるでしょうから、その辺は1つの問題かなと思っています。

○鵜飼委員 今のサンクションの問題ですが、これは民訴法の改正で計画審理が導入されまして、計画審理が導入された場合はそれぞれの意見を聴いて攻撃防御の方法を提出する時期を定めることができることになっていまして、その時期に間に合わなかった場合は相当な理由があることを疎明した場合はその限りではありませんけれども、基本的には却下決定を下すというサンクションがありますね。基本的には労働事件においても同じようなことになるだろうと思います。もちろん、これは一律に計画審理を原則化しましても、解雇事件に限定して議論すればいいと思いますが、その場合にそれはそうではない、どうしても計画審理がなかなか立ち得ない事件もあると思います。そういう事件がないと言うつもりは全くありません。そういう場合は当事者の協議の上で、それにふさわしい審理をすればいいのだと思います。
 しかし、最大公約数的な解雇事件はきちんとした終結まで見通せるような計画を立てて、特に今回は労働基準法の改正によって行為規範、要するに今までは判例ルールで、裁判規範とか評価規範のレベルでととまっていたものが、労働基準法という労働者保護法の中にそういうルールが明確にされまして、予告の段階で解雇理由を明らかにしなければいけないということも明確になっていますので、そういう意味ではそれが履行できるような状況に法制度的にもできていると思うんですね。そういう意味では最大公約的な解雇事件では計画審理が立てられないということは、通常ないだろうと思います。そういう普通のケースについては当事者の協議の上で計画を立てて、それまでに出さないものについては、このサンクションは現在の民訴法のレベルのサンクションで十分ではないかと思います。
 仮処分は緊急性が必要ということは制度の前提にありますので、今は現実には2週間に1回の期日が入って、次の期日までこの主張をしてください、そしてこの主張のこの証拠を出してくださいという、かなり機敏な訴訟指揮がされていて、お互いに悲鳴をあげている。それで3カ月ぐらいで解決という状況になっています。これは制度がそういうふうになっているからです。そういう意味では、現実に何もない、すべて個々の裁判官に任せるというのでは、そんなことは運用できるはずがないわけですから、私は一定の指針を、今度の計画審理を民訴法改正でつくるのも、それは改革審の中にもそういう意見が出ていますし、労働問題についての改革審の意見の中にも計画審理がきちんとうたわれておりますので、そういう意味で私は解雇事件について言うと、それは十分可能であるし、もしどうしてもできない事件の場合は、それはもう当事者の協議の上でできないと言って、それでお互いの納得の上でそれにふさわしい審理をすればいいのだろうと思うんですね。

○後藤委員 「労働関係事件固有の訴訟手続の整備」ということで、このテーマは主に民事訴訟法の改正か、あるいはその特例を法制度として設けることが前提になっていると思うのですが、今も鵜飼委員からお話がありましたように、その中に解雇事件について優先処理義務を定めるべしという御提言があります。「優先して処理しなければならない」という規定は、訓示規定のようなものですが、具体的な意味がはっきりしないと思います。例えば、東京のように集中部、専門部があるところは、それだけでいいということなのか。そうでない裁判所では、ほかの事件の期日をキャンセルしてでも期日を入れるべきなのか、代理人がほかの事件を受任して期日が入っていても、それを取り消して、解雇事件の期日を受けなければならないというのか。そうすると、ほかの民事一般事件も大変なことになると思いますが、そこまで優先処理義務の内容を具体化するのであれば、それは意味があることかもしれませんが、一般的に民事訴訟自体、適正迅速に審理しなければならないと定められているわけですし、解雇事件について特に優先処理義務を定める必要があるのか。しかも、実際問題として言えば、期日は裁判所がある程度……今も2週間先ですけれども、2週間先なら2週間先で期日がとれるのであれば、それはどんどん入れていくわけですから、結局のところ、全体として早く進むかどうかは計画審理をするかどうか、1月先、2月先、3月先の期日まできちんと決めて、そこまでにきちんとできるかどうかということに行き着くと思うので、そういう意味ではそれ以上のことを特に法律で定める必要はないのではないでしょうか。計画審理の方は、今般の民事訴訟法の条文でいきますと、「裁判所は、審理すべき事項が多数であり又は錯そうしているなど事件が複雑であることその他の事情によりその適正かつ迅速な審理を行うため必要があると認められるとき」ということですから、急ぐ必要があることは間違いないわけで、ある程度の数の訴訟、証拠調べも見込まれる。そういうことであれば、147条の3の要件は、単純な事件であれば別ですけれども、通常は鵜飼委員がおっしゃるような事件については認められるはずだと思いますので、あとは運用の問題なのではないかと思います。

○鵜飼委員 先ほどの優先処理義務のところでも、以前、御批判がありましたので、確かに言われてみると、ドイツの労働裁判所法の中には、まず迅速に処理しなければいけないという一般的な規定があって、特に解雇事件は優先処理義務が定められているので、確かに労働裁判所の手続の中ということですから、それはそのまま日本で導入するのは確かに御批判の余地があるかなと思いまして、そういう意味では解雇事件は先ほど言ったような、労働者の側では収入が途絶される状況の中の裁判ということですので、解雇事件に限定して、一般の民事裁判の迅速処理義務を、解雇事件について特に迅速に処理しなければいけないということでうたうということがメッセージ性としてはあるのではないかと思います。1つの審理の指針ですね。
 計画審理につきましても、民訴法改正でできますけれども、解雇事件については原則計画審理にすべきだ、これに当たるのだということを、法律改正なのか、あるいは規則でいいのかはわかりませんが、そういうものをきちんと、定めるべきであると思います。もちろん例外があることは認めざるを得ないと思いますが。そうしないと、現実の運用はいつまでたっても変わらない、仮処分にすべて、ほとんど8割ぐらいの解雇事件がいって、本案訴訟には2割ぐらいしかいかないという現状は変わらないのではないかと思っています。

○春日委員 優先処理義務を解雇事件について定めるべきかどうかというお話が出ているのですが、民事訴訟とも関連しますが、手続法上義務を導入することが果たしてどういう意味を持つかというと結局、義務を導入すると、その義務を守らないときには手続上の制裁とかいろいろなものをかけなければいけないという話が出てきて、義務を履行しなかった場合に、しかし、例えば帰責事由がないとか、あるいは弁明すれば履行しなかったことについても義務は免れるなど、いろいろな手当をまたしなければいけない。それからもう一つ、仮に優先処理義務ということを考えた場合に、これは裁判所が負うのか、それとも当事者が負うのか、あるいは裁判所も当事者も双方とも負うのかとか、義務の名宛人の問題も出てくる。少なくともそういう義務を設けて制裁を科すことになると、手続は一種の制裁型のスキームをとることになって、これで果たして手続をスムーズに、あるいは柔軟に運用できるかという問題が1つあるように思うんですね。例えば、民訴法で当事者照会がありますが、当事者照会は弁護士間でやってくださいということで、これは照会に応じなくても別に制裁はない、ある種の非制裁型のスキームをとっている。解雇事件について、鵜飼委員のおっしゃるような制裁型のスキームをとらなければいけないという理由がいまひとつわかりません。計画審理とか集中証拠調べもそういう方向で進めばもちろんいいわけですが、いずれにせよ「○○義務」を設けて手続をみんな進めなければいけないということになると、手続は逆に言うと硬直化する側面もあるのではないか。だから義務まで定めなくても、制裁がないけれどもそういう方向でいきましょうという、とりあえずは運用というのでしょうか、そういうことで何かできないか。
 つまり、手続の中に例えば雇用事件に限っては制裁型のスキームを入れるということは、手続全体のスキームから見てもそこだけが、言葉としては余りよくないのですが、ぎらつくというか、その特殊性もわかるのですけれど、しかし義務まで課してぎりぎりやるのはどうかなと思います。とりわけ民事訴訟の場合は基本は当事者主義ですから、当事者が何としても紛争を解決したいという、解雇事件なら労組法の当事者の積極的な姿勢をむしろ生かすやり方は、なにも義務を課すだけということではないのではないかという気がするんですね。

○鵜飼委員 基本的には私も同じ意見で、先ほどの迅速処理義務は「義務」という強い言葉を使ったのですが、簡単に言いますと、民事訴訟法第2条に「裁判所及び当事者の責任」とありますね。これは一種の訓示規定、努力義務なのですが、特に解雇事件については迅速に行われるように努めなければいけない。私はこの程度しか考えておりません。要するに、そういうものを基本的な指針……仮処分制度がなぜ迅速に、お互いに協力して2週間に1回、ヒイヒイ言いながらやっているかといいますと、仮処分制度がそういうスキームだからですね。そういう意味では解雇事件は労使ともに、特に解雇された労働者の置かれた状況を考えて、当事者は頑張って迅速に処理しましょうよという1つのメッセージをお互いに確認する。そういう程度のものです。別に制裁型ではありません。
 基本的に言うと、菅野先生が「労働法の普遍性と専門性」にお書きになっていますが、私たちも訴訟手続を考える場合も普遍的な民事訴訟法の手続を曲げてしまうような、原則を変えるような手続であってはならないだろうと思っています。しかし、労働事件の専門性・特殊性はありますので、例えば解雇ルールが労働基準法に明確に規定されたということの意味、あるいは解雇理由を予告段階で説明しなければいけないということが罰則付きで設けられたということの意味。これはある意味では国家が公権的にそういうものを明示しなさいということを命じているわけです。それは訴訟手続にも反映してくるのだろうと思うんですね。全く反映しないわけではないと思います。ですから、一般の民事訴訟手続はそういう意味で修正されていくのだろうと。
 ただ、私も基本的に、計画審理も何でもサンクションは民事訴訟法のレベルで、それ以上のサンクションは考えていません。

○矢野委員 審理期間の短縮という点で、裁判官と両当事者の弁護士がユーザーの便宜を考えてよく話し合うというのが、私は一番よい現実的な解決方法ではないかと思っています。
 議論を聞いていての印象ですから、間違っていたら言ってほしいのですが、訴訟を長引かせている理由は、雇い主の方が解雇事由を早く出さないからだという印象があるのですけれども、まさかそんなことはないと思うんですね。1回目に全部とりそろえてということになると、先ほど石嵜委員の言われたような事情があって、それはとても無理な話です。しかし2回目以降、できるだけ早く提出しようという気持ちはみんな持っているわけでありまして、これは伝聞ですから、直接そういう場にいるわけではないのですが、むしろ原告側の状況説明とか主張立証によって相当時間がかかっているという現実もあるという話もありますので、問題はそういう現実を踏まえて当事者がよく話し合うということだと思うんですね。裁判官と双方の弁護士はプロですから、ある意味では冷静に物事の判断をしてやっていただけるのじゃないかと思うんですね。印象というか感想も含めまして申し上げた次第です。

○村中委員 解雇事件を取り出して審理を促進するということですが、ドイツでそうなっているのは、ドイツでは解雇無効で原職復帰が原則であることがその背景になっていると思います。ドイツは就労請求権まで認めますし、さらに訴訟期間中の1審勝訴後についてはまたそこで特別な就労請求権を認めるということもあって、とにかく原職復帰へ向けて徹底した法整備を行っているのですが、しかし実際にはあまり普及しないという現実も他方であります。そういう原職復帰を強く考えるということであれば、解雇事件を特別に取り出して早くやりましょうという理屈は十分理由があるのかなと思います。それが例えば解雇事件に関しても損害賠償でいいということになれば、別段早くやる必要はないのかもしれませんね。
 そういう点から見ると、今般の労基法改正は権利濫用は無効であるということで、一応原職復帰を前提にしたような形で書かれていて、そういうことを考えますと、鵜飼委員がおっしゃるように、実体法もそういう状況なのだから、手続もそれに合わせて解雇事件は審理を促進しましょうということは十分理由があるのかなと思います。ただ、日本の場合、原職復帰といっても原則として就労請求権を認めないという点がありますので、その点を考えるとどうかなと。そういうことを考えるとドイツにおける議論とはその点は少し異質かなという気はします。もちろん、実体法上も就労請求権を認めるべきという議論は当然あり得ますので、この点の評価は少し難しいかもしれません。

○鵜飼委員 村中先生のお話も十分わかるのですが、現実に相談を受けていて、解雇について納得がいかない、裁判で争う気持ちまであるというときに、その人が原職に戻る、戻らないというところまで決めている場合もありますが、戻りたいという強い気持ちもあるけれども、必ずしもそうではない。その辺はかなり揺れている状況だと思います。ただ、転職した場合に労働条件は非常に悪い、特に中高年は悪いということはわかっていますので、できればその職にとどまりたいという気持ちが強い人は最近は増えております。また、解雇について争いたいという気持ちは若者でも中高年でも持っている人は多いんです。私自身は、それをきちんとした法的手続で解決のテーブルに乗せてあげたいというか、乗せる必要があるのではないかという思いがしています。どこかの段階で、あるいは判決後でも結構ですけれども、金銭的な解決を選択する場合もありますし、原職に戻りたいということで解決する場合もありますが、どこかに就職しながら解雇裁判を抱えることは非常に大変な負担なんですね。そういう意味では、現実問題からすると原職復帰を求めるか求めないかは、必ずしも解雇の訴訟手続の迅速性と連動しないのではないかと思っています。

○山川委員 審理計画に関しては、解雇等については実際上定めた方がいいだろうというのは恐らく言えると思うのですが、問題はそれをどのような形式に盛り込むかということで、法律の条文にするのか、先ほど鵜飼委員は規則ということをおっしゃいましたが、ほかにいろいろあるかどうか。運用といっても、一定の運用ルールを定める場合にはどういうものをイメージしているのかということも実はよくわからないところがありまして、協議会等で明確なものが出てくれば、それは規則と実際にそれほど変わらない可能性があるのですけれども、規則も含めたルールということでしたら、そういうことがあり得るかどうかという検討を行ってもよいのかなと思います。
 といいますのは、少なくとも執行については相当明確なルールがあるようで、これは規則なのかは詳しくないのでお教えいただきたいのですが、性質上執行事件は相当機械的にできるような形、ある意味ではマニュアル化されていると思いますし、保全もそういう側面があると思うのですが、労働関係についても、そういう形で法律に入れるかどうかはともかくとして、解雇事件については審理計画を定めるとか、あるいはこれこれこういうふうにするなどと道を探ることはできるのではないかと、成案はないのですけれども思っております。
 次に、なぜそれが必要となるかについては2つあるのかなと思います。複雑性が1つと、あとは緊急性。これは仮処分との関係で緊急性をどう考えるかということもあるのですが、解雇の場合は明々白々に違法な解雇もあるので、そういう場合に複雑と言えるかという問題が現行法のもとで起きてくるかもしれないのですが、意味があると思いますのは、争点の拡散を防ぐという意味では審理計画の意味があると思います。つまり、これは原告側も被告側も双方かと思うのですが、こういうことを言うとやはりこういうこともあるというので延々と広がっていくということがありますので、そういう意味で審理計画をするのは意味があるのではないかと思っています。

○鵜飼委員 私も教えて欲しいのですが、執行手続であればある程度の運用のマニュアルといいますか、基準が裁判所ではかなりあるようなことを、漏れ聞いているのですが、訴訟手続についての運用の統一的な基準を裁判所の全員に配付してそれに沿ってやるということは、裁判官の独立とかいろいろな問題があってちょっと難しいのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

○山口委員 そういうふうにはされていないのではないでしょうか。基本的にはそれは突き詰めていくと訴訟手続をどうやってリードしていくかは個々の裁判官によって違うということになると思うんです。ただ、現実問題として手続については、代理人がついているような場合を念頭に置きますと、当事者の代理人と裁判所である程度共通の理解がないと具体的には進んでいかないということになってくるのだろうと思うので、そういうことで東京都だけではなくて各地の裁判所と弁護士会とでいろいろな協議会もやっておりまして、具体的に訴訟手続の中で例えば陳述書の提出をどうするのかという個々の訴訟手続の中で問題となるようないろいろな事項について協議して、基本的にはその協議結果を各裁判官が尊重するという形でやっていますので、そういう意味で言えば事実上の運用の共通化はある程度は図られています。ただ、それが一律にどうかとなるとまた違うだろうと思います。実情はそういう感じがしております。

○鵜飼委員 私はイギリスの報告を読んでいまして、運用で積み重ねられた問題を、全体的に支持されるという状況になったときには規則化していくとか、例えば陳述書などは同時に出すというようなルールを決めるとか、そういう報告がありましたので、確かによき慣行が積み重ねられて規則化するのがいいと思うのですが、せっかく民事訴訟法が改正されて計画審理が導入されるときに、仮処分の方向に流れている解雇事件を本案訴訟の方にパイプをつくるためには、迅速に処理しますよというメッセージと、それと解雇事件についてはとにかく原則的に計画審理をやりましょうというメッセージを出して、それに伴ういろいろなルール化をしていくということは、ひとつこの段階で本当に考えなければいけないことではないかと思います。運用では本当に百年河清を待つという感じになるのではないか、仮処分の方にいく流れは全くとめることができないと私は思います。

○菅野座長 実際の運用では計画審理を行ったり、あるいは迅速処理に努めた方がよいというところは一致しているようなので、鵜飼委員が言われる基本的な訓示規定のようなものを設ける意義は、裁判所側にも代理人側にもそういうものがあれば、やはりそういう方向にいくのか、そのあたりも御意見をいただければと思います。

○鵜飼委員 やっと労働訴訟協議会という、裁判所と我々労使の弁護士との間の協議ができました。そこで合意できるものは、お互いにそれを守ってきちんとやりましょうと、そういうことも1つのよき慣行、プラクティスが形成されていくのだろうと思います。それは無理をしてやっても絶対にうまくいきませんし、しかしその中で、現実的な問題としてこういう処理をしている、こういうふうにできましたというのは慣行として積み上げられていけば、私は労働事件は、特に解雇事件は本案訴訟で処理できるような状態になるのではないかと思います。今までは労働事件についてはそういうパイプが全くなかったわけですね。

○山口委員 私はそれはちょっと遺憾なのですが、言ってもしようがないことですので。基本的には、少なくとも現状は労働事件も民事訴訟法の手続の中で行われていますし、既に民事訴訟法の中では争点整理をして集中証拠調べをしましょうというふうになっていますので、その意味で言えば現状の争点整理と集中証拠調べもある意味では計画審理と紙一重といいますか、計画審理につながっていくものなので、現状の手続の中でも争点整理をして、大体いつごろまでに争点整理を終えていつごろに、1回か2回で証拠調べをしましょうという話を、争点整理のある程度終わりの段階というか詰まった段階でしていますので、そういう意味では実質的な計画審理も、ある意味では現在の実務の中でもやられている部分は相当あると思うんです。そういうところがあるからこそ計画審理を導入しましょうという民訴法の改正につながっていったので、今回の改正も基本的には先ほどおっしゃった現実の実務のある意味での慣行といいますか、動きを反映したような形の制度の設計になっていると思います。
 そういう意味で言いますと、当事者に無理な制度なり、当事者が十分協力してくれないような制度は現実問題としてはなかなか難しいので、せっかく労使の関係との協議会ができたわけですから、そういうところでもんでいって、お互いにいい慣行をつくっていくような形、そしてできたものを、それこそ言われるように、規則か法律になるのか知りませんけれども、お互いに労働事件については共通の理解という形でやっていくのが、流れとしては一番いいのかなとは思っています。

○鵜飼委員 前段の部分は私の意見と山口委員の意見はほとんど同じで、最後の結論だけ違うと思うんですね。改革審の意見書で労働関係事件の総合的な対応強化がうたわれ、その中の固有手続の要否について検討の対象になり、その理由として個別紛争が増えている、労働裁判の数も増えている。しかし、相談の件数に比べて労働裁判は必ずしも多くはない。そして、ヨーロッパ等の手続、あるいは労働参審制が一定の機能をしているということ。計画審理の推進とか証拠収集手続の拡充等を図るべきであるということも、労働関係事件の総合的対応強化のところでうたわれているわけです。そこまで改革審で議論され報告書が出ている。私はこの段階で、これからよき慣行を積み上げようというのではなくて、それも大事ですけれども、基本的な原則をここで合意できるのであれば……ほとんど合意できているのではないかと思うんですね。無理のない計画審理は、解雇事件については仮処分に8割いっているという現状は誰もいいとは思わないのではないのじゃないでしょうか。仮処分の制度の意味はある、しかしそれは解雇事件の8割がそこにいかざるを得ないという提訴側は労働者側ですから、それを例えば五分五分でもいい、6・4でもいいです、そういうところにいくようにするには、運用に待っているのではなくて、その規則改正でも十分ではないかと思うのですが、解雇について私が言っているような手直しをちょっとして、それをベースにして当事者間で、訴訟協議会等で十分議論してプラクティスを積み上げていくことをやらなければ、私は運用だけに任せるというのでは、何のための検討会なのか、何のための改革審の意見があったのかと思います。
 この1年半議論してきて、結局運用に任せましょう、当否については必要性があるかないかはわかりませんでした、意見は一致しませんでした、これでいいんでしょうか、ということです。そうすると、相変わらず仮処分に労働事件はいかざるを得ない。現実の運用の食い違いとかそういう現状はいつまでも放置されていく。これでいいんでしょうか、ということです。

○山口委員 少なくとも現状の訴訟手続が改善されていく形になれば、訴訟も新たにそちらに流れていくでしょうし、少しずつでも改善されてくれば自ずから変わっていくでしょうから、現状の仮処分なり本案訴訟の利用の仕方が将来的にも固定的になるということは、あるというふうには直ちには言えないのではないかと思います。
 解雇事件の迅速処理とか計画審理の原則化は、書けるというのであればそれは書くというのも1つの方法でしょうし、それについて具体的なサンクションも特に変わらないし、現実問題として強制力というか、現実の義務としてはそれほどはないというのでおっしゃるのであれば、書くことによってどの程度の実効性があるのかというのが私にはわかりませんし、また立法技術的な問題もあるでしょうから、そういう意味で言えば、書くことの意味合いがもうひとつピンとこないところがあります。

○鵜飼委員 山口委員がどこかで、労働事件ではまだ集中審理や計画審理は実現されていないというようなことをおっしゃいましたね。それを何とかしたいと我々は思っているわけですね。現実の中ではそれがなかなかできないという現実の姿はありますけれども、国民のニーズがありますので、私は訓示規定であっても原則計画審理にしましょう、そしてお互いにそれに向けて努力しましょうということをきちんとルール化することによって、それは現実無視の制度はできませんけれども、少しでもそれに近づいていく。そしてそれができるということは、誰も否定はできないし、反対する人はいないと思うんです。それをお互いに法曹同士、当事者が協力していくというためにもここで一歩踏み込むべきではないかと思います。

○石嵜委員 お話を聞いていて、最後は仮処分に流れて、あの部分はまだ私自身はちょっと理解できないのですが、立場が違いますのでこれは別として、迅速処理の話や計画審理が必要という話は、鵜飼委員のように労働事件を専門にしている方、使用者側の私なども、ある程度理解できるんですよね。それは総論的には確かにそう思っています。ただ、それを一般的に規則か何かで、訓示規定でも解雇事件だけは特別なのだという宣言を、恐らくユーザーというのは労働事件専門の人たちばかりではなくて、弁護士も含めて一般民事も一生懸命やっておられて、そういうことだけで活動している弁護士の先生もたくさんいて、その人たちも労働事件をやっていく。こういう中で考えたときに、この人たちに急にこういうもので理解をしてもらえるのだろうか。ここで議論したからいいのだというものではないような気がします。
 その意味では、東京では今までやったことがなかった裁判官と弁護士が協議をして、その結果を発表し、これにできるだけ日弁連も通して各弁護士に、労働事件というのは労側の人たちの立場もあって迅速性は必要不可欠であることをきちんと浸透させていくという手続は、私はやはり必要ではないかと感じていますけれども。

○鵜飼委員 結論的には同じだとすれば、一定の試行期間を置いて実施するということがあってもいいと思うんですね。改革審の意見書の中にはっきりと「法曹の専門性強化、計画審理の推進」をうたっているわけです。これはいずれにしても労働事件をやる……どの事件もそうですけれども、やはり法曹としてはその専門性が強化されなければいけない。現実に専門性がなければ、これは我々法曹の責任です。ですから、きちんとしたプリンスプルを立てて、我々が努力する。これは国民のニーズに応えるために必要不可欠です。そういう意味では、現状が伴わないのであればそれは一定の期間を置くという方法もありますけれども、我々は最大限努力しなければいけないと思います。

○髙木委員 お話を聞いていると、木を見て森を見ないというか、木と森とがわけのわからないような議論になっているような感じがしてならないのですが、要はユーザー、特に解雇された労働者は一日も早い権利の救済をと当然望んでいるわけです。先ほど矢野委員が言われたような、こちらの方のラインの方が当事者を含めた段取りが悪いからいま一歩というところもあるのではないかということ、それはあるでしょう。けれど、解雇事件について現状はこうだからこうしてほしい、こうなってほしいというものは必ずあるはずで、それは運用よりきちんとルールまで明確化していた方が、法曹の皆さんも含めてそこのところの疑義でどうこうという面も少なくなるでしょうし、運用で考えていくというと、石嵜委員がいみじくも言われたけれど、それでは一般民事が多い人たちのことはどうなのかというお話も出てくる。だから、自ずから変わってくるという議論をされたら、本当に自ずから変わるのですかという話も出てきます。失礼な言い方ですけれど、それが日本の法曹の皆さんの長い間のやり方の癖なのではないですか。そういう意味では、こうした方が効果的なら、いろいろな意味での秩序形成力もあるということなら、そちらの方の効果をより高く上げられる。そういう発想で議論をしていただかなければ、現に一緒に長いことかかわっているし、本案訴訟と仮処分の関係についても、石嵜委員はそれなら一緒に出したらいいではないかと言われますけれど。

○石嵜委員 そうして賃金の保全はできるだけして、そして実態を。

○鵜飼委員 あなたは実態を御存知ないんですよ。

○髙木委員 今は解決していただくのに時間が要るから、その間、食い扶持もあるし、中には時間がかかればかかったほどいいのだと思っている経営者も現にいる。

○石嵜委員 それは確かにいますけれど、それが多数でもない、絶対に。それは労働側もいろいろ無茶な提訴をするわけですから。

○髙木委員 昇進してやれぐらいのことを言う人は幾らでもいるのだから。

○石嵜委員 使用者側としても、労働事件を受けていて延びればいいなどということを言ったら経営は成り立たないですもの、正直言うと。

○髙木委員 だから多くの人はそうでしょうと言っているでしょう。中には、私が申し上げるような印象を持ってもしようがない人もおられるじゃないですか。この辺の感情論はともかくとしまして、より現状を改善するとしたら、その効果の多い手段を我々は模索すべきだというのは、議論の帰結としては当然の話ではないかと思います。

○菅野座長 審理期間の短縮、計画審理のあたりからと申し上げたのですが、ほかの論点、特に仮処分と本案の関係、証拠の収集、定型訴状などのほかの論点にもわたって議論していただいています。主として、審理期間の短縮、計画審理についての議論となっておりますので、証拠の収集、定型訴状、その他の論点にもわたって意識的に議論を広げていただければと思います。

○村中委員 計画審理という場合、計画を立てるわけですから、いつまでに結論が出るということははっきりするということですか。理屈を言えば、それが2年の計画ということであれば別に早くはならないですよね。だからユーザーから見るときは、計画審理と言われても余りピンとこなくて、いつまでに結論が出るということの方が大切ですね。そういう意味での法改正をして訓示規定の中に入れる、メッセージ性のあるものを考える。計画審理は法曹にとってはそれなりの意味があるのでしょうけれども、メッセージ性を考えるのであればタイムターゲットを、標準的なものを入れることの方がはるかにメッセージ性は強いですね。

○後藤委員 条文では、口頭弁論の終結を得て判決の言い渡しの予定時期は審理の計画で定めるとなっています。

○村中委員 それを解雇事件なら解雇事件について、例えば原則半年なら半年ということで定めればメッセージ性は強くなりますよね。そういうことを考えているわけですね。

○鵜飼委員 そうです。だから、計画審理だけでは何を言っているかわかりませんから、見通しが立つという点は立ちますけれども、見通しが2年後に立ってもしようがないので、特に迅速処理しなければいけないということをまずうたって、計画審理を立ててタイムターゲットで、審理については現在でも原則はできるだけ集中して行わなければならないという規定があったと思いますが、集中審理をできれば1回を原則にする。もちろん例外もありますけれども、そしてタイムターゲットという形のセットですね。計画審理は適正・迅速性を担保するための運用上の知恵だと思いますが、それを原則化するというイメージです。

○村中委員 今のいつまでにということと、例えば期日を何回というやり方も考えられるのですか。例えば3回なら3回とか。

○鵜飼委員 それを予め一律で決めるのがいいのか、むしろタイムターゲットで、私は解雇事件を考えると8カ月ぐらいが1つのタイムターゲットだと思うのですが、そのタイムターゲットをどのように一律に決めるかというのも非常に難しい面があると思うんです。期間も、大きく分けると争点整理の期間と証拠調べの期間がありますね。証拠調べや争点整理がきちんと明確になった段階で集中的な証拠調べを1回で行うということがルールとして必要だと思うんですね。その前のレベルを、1回というのは余りにも現実離れしていると思いますので、例えばタイムターゲットで3カ月以内に争点整理、証拠収集を全部終わると決めて、もし可能であれば4カ月か5カ月ぐらいの期日を設けて証人調べをこのときに集中して行う。終結はどの段階で行う。そういうことをどこかの段階で審理計画をきちんと立てる。もちろん、途中でいろいろハプニングが起こったときに手直しが必要で、現実に手直しもできるようになっていると思いますが、立てた基本的なルールはお互いに信義則に従って守っていくということだと思います。

○村中委員 解雇事件として、例えば有期契約の雇止めなども含むのですか。

○鵜飼委員 労働契約の終了に関する紛争とすると雇止めの問題も入りますね。

○村中委員 それで例えば8カ月で雇用保険になったと。

○鵜飼委員 同じ問題がありますね。

○村中委員 でも、雇用保険がないケースもたくさんあるわけですね。毎月の賃金額も非常に安い人もいれば、非常に多い正社員の人もいて、解雇事件あるいは有期契約の雇止めといっても相当に幅があって、8カ月とか6カ月もそうなのですが、それで訴訟をやろうかという人はやはり正社員で相当の賃金をもらっている人を念頭に置かれているのかなと思うんです。例えば有期契約でパートをしばらくやっていて急に雇止めされたケースえお考えますと、それで訴訟をするかというと、余りしないのじゃないかと思います。そういうケースではせいぜい2、3カ月で結論を出してもらわないとやらないような気がするんですね。ですから、訴訟という限りは、労働事件の中でもある程度の大きいというか重いというか、そういうものを念頭にするならそのぐらいでいいかもしれないけれど、例えばドイツであれだけたくさん出てきているようなものを全部この中に吸収しようというのであれば、今のようなタイムターゲットでも余りにも悠長だし、手続も精密過ぎると思います。

○鵜飼委員 望みを言えば切りがなくなってくるのですが、少なくともこのレベルでお互いのコンセンサスといいましょうか、合意できる点は何なのかと思いまして、私の資料142の訴状のモデルも正規労働者の解雇で、雇止めのモデルではないんですね。雇止めについては別のものが必要だとは思うのですが、受理されて終結がどんなに遅くても8カ月ぐらいというタイムターゲットを設けて、事件の類型によって、当事者の協議によって、例えば短期に、これは争点も明白だし3カ月以内でやりましょうということで審理計画を立てて行うというケースも可能なような制度設計ができればなとは思うのですが、雇止めの訴状はまだ難しいなと思って、まだできていないのですけれども。
 資料142の訴状はたたき台のたたき台ですが、普通の正規労働者、期間の定めのない労働者の解雇についての訴状を考えてつくってみました。一律に何かを決めるのではなくて、最後の終結の目処は大体何カ月にするというタイムターゲットぐらいはあった方がいいと思うんですね。イギリスやドイツの労働裁判官からの回答を見ますと、それぞれの期間ごとにタイムターゲットがあるみたいですが、それは個々の運用によってどういう運用ができてくるのか、それによってまたルール化されていけばいいのではないかと思いますが、いまただちにコンセンサスはなかなかできないと思います。

○菅野座長 証拠の収集について最初に鵜飼委員が少し述べられましたが、資料138の3ページで要約されているようなことでよろしいですか。

○鵜飼委員 私は文書提出命令については、特に自己使用文書という抗弁を認めないようにすべきだと主張しましたけれども、そこまではなかなか合意ができないとしたら、少なくとも文書提出命令ということになりますと別件扱いになって、高裁にいきますと数カ月があっという間に過ぎてしまいますので、今言ったスキームから言うと、釈明権の行使、釈明処分のところで、せっかく解雇ルールができて、解雇理由書を予告段階で出さなければいけない、就業規則の絶対的記載事項になるという実体法の整備ができましたので、私は訴訟指揮権、釈明処分によってこの文書をいつまで出しなさいというのは現行法でもできるんですよね。それに対するサンクションはそれに関する攻撃防御方法の却下が非常に大きなサンクションですけれども、そこまでいかない場合も弁論の全趣旨ということになると思います。
 文書提出命令そのもの、あるいは新しく証拠開示制度を導入すべきだというのも、私の意見には載せていたとは思うのですが、もしそこで合意ができればいいのですけれども、そこはなかなか難しいとすれば、まず釈明権、釈明処分をどう有効に活用するか。解雇事件について言いますと、解雇の理由書を出すことと、解雇理由といっても就業規則の○条○項だけではだめなので、具体的な主要事実、重要な間接事実を主張する、いつまで出しなさいと。それを基礎づける証拠資料をいつまで出しなさいと、勤怠不良なら人事記録などがありますのでそれを出しなさいというのは、当然釈明権の行使として現実の民訴法でもできるはずです。それは争点整理の段階でやって、争点整理が終わったら集中的な証拠調べ。基本的には現在の民訴法でもそれ以降に出すのは相当な理由を疎明しなければいけないことになりますので。
 ですから、私は特則では解雇について限定するとなると解雇の理由を基礎づける事実、あるいは重要な間接事実、及びそれを基礎づける主要な文書は出せという規定を設けるべきではないかと思います。

○山川委員 文書提出命令については、釈明権の行使の関係も含めて合意ができれば、高裁までいって争う必要もなくなるということですが、審理計画との関連で、規範形式がどのようなものかはともかくとして、具体的な指針のようなものがないと迅速化にも資さないと思いますので、協議が進められているということですから、その中で具体的なものが何か出てくれば非常に有益ではないかと思います。非実務家が脇から余計なことを言うのもどうかと思いますけれども、先ほど執行の例を挙げましたが、破産事件でも、たまたま破産法改正に関する実務資料のようなものがを買いましたら、「破産管財人に就任された方へ」という非常に具体的なものが載っていまして、それを見ると実態がよくわかったということがあります。破産の場合は裁判所の監督が非常に強いからだと思いますが、関係者の意見も含めてそういうものができてくれば、逆に労働事件に詳しくない人が労働事件を受任した場合においても、事件を迅速・円滑に進行させる上では役に立つのかなと思います。協議会という場でそのようなことも考えてくれると、いろいろ関係する法律家にも役立つのかなと思います。

○鵜飼委員 労働訴訟協議会は、そういう意味では東京地裁の運用をベースにして、その運用の現状について労使双方の代理人と裁判所が意見交換をし合って、そこで何か生まれるものがあれば、法律の専門雑誌に公表したいということですね。
 訴訟手続については裁判官の独立がありますので、統一した指針をどこが出すということはなかなか難しかろうとは思うんです。ですから、少なくとも私はここでの何らかのコンセンサスができたら、本当に大きな枠組みがルール化されれば、あとはいろいろな運用ができて、それがよりよきものになっていくのではないか。ですから大枠のところを議論しているつもりなのですが。

○山口委員 破産管財人の関係で、管財人に渡す資料の関係ですが、労働訴訟協議会の方でも、例えば労働事件を受任した弁護士に、例えば基本的な主張なり、証人向けの書証は早く出してほしいというようなものをお渡しできないかということで、たしか次回に協議することになっていまして、裁判所の方で中身については鋭意検討中という状況です。
 関連で鵜飼委員にお聞きしたいのですが、計画審理の関係で8カ月なら8カ月というタイムターゲットを設定すると、少なくとも訴状の送達の関係で1カ月ぐらいはかかりますね。仮に、言われるように判決に1カ月か2カ月、これは争いがあるかもしれませんが、仮に1カ月としても実質6カ月の中で争点整理と証拠調べを行うということになりますね。そうすると、証拠調べを仮に原則1回としても、争点整理にかける時間は4カ月程度になりますね。そうすると、その間に主張なり書証なり、御本人の陳述書、関係者の陳述書をやっていくと、労働者側は2、3回、使用者側は2、3回という形でやって、1カ月未満の間に期日がどんどん入れていくという形にならざるを得ないと思うのですが、それは現実問題としても、法律なり何なりができればやるということでよろしいですね。

○鵜飼委員 そうですね。それをやらないと本案訴訟で解雇は処理できないと思うんです。本案訴訟で解雇事件を処理できないのは、現状ではそうなっていないものですから、本案提出もできないということですね。

○山口委員 それは全国的にも、弁護士さんはそういうふうにやっていただける、使用者側もそういうふうにやっていただけるということでよろしいのでしょうか。

○鵜飼委員 私が請け負うわけにいかないのですが、仮処分が東京地裁は本当に……裁判所の御努力があって現実に3カ月ぐらいで、2週間に1回ぐらいの期日が入る。これは裁判所もそういう使命感に燃えて訴訟指揮されて、当事者双方もやむを得ずというか、あるいは積極的なのか分かりませんけれども、それに努力をしているという現実があってああいう状況になっています。そういう意味では、解雇事件にとりあえず限定して、そういう方向を決めて、ただ、それがすぐ実施できるかどうかわかりません。労働集中部、労働部があるところでは、たまたま福岡の弁護士会から呼ばれていますが、福岡でも個別紛争の委員会をつくったと。したがって、今の議論状況と福岡の弁護士会で何ができるかということを話してほしいと。こういうふうに各地でこれだけ多くのニーズがあり、それに対して日本は裁判がなかなかアクセスしにくい。我々の怠慢もあるのではないか。そのために我々として専門性を強化し、何をすべきなのかという議論がだんだん起こりつつあるんですね。
 ですから、そういうのができれば、日弁連でも労働法制委員会の中でそういう議論をして、何かとそれに応えたい。もしそれがだめだったら、ぜひ批判をしていただきたい。改革審の意見書がそういうふうに言っているわけですから、我々は応える責任があるのではないかと思っています。

○石嵜委員 この話はこうやろうじゃないかと言われても、現実にどう思うかは避けて通れませんので、今のタイムスケジュールでやれと言われれば私はやるでしょう、私の事務所はやるような態勢をつくるでしょうけれども、一般としては現実難しいでしょうね。労働事件をやっている先生も恐らく難しいだろうし、民事の先生は労働事件は実際に受けられないという状況で、労働専門の弁護士を別にたくさん用意しないと、鵜飼委員がおっしゃるのを聞いていて気持ちはわかるのですが、総論賛成で、いつも各論反対すると怒られていますけれども、現実を踏まえると山口委員に言われたことを受けて帰るかと言ったら、帰ったら叱られますよ。

○鵜飼委員 経営側ですからね。

○石嵜委員 労働側も同じではないですか。

○鵜飼委員 叱られませんし、やろうではないかという議論になっていますよ。日弁連の労働法制委員会ができたのは、それをやらなければいけないというコンセンサスができたからですよ。もちろん、それはまだ全体には広がっていません。しかし一月に1回とか二月に1回の会合に九州や北海道、東北からわざわざいらっしゃって、非常に熱心な議論がされているわけです。そういう時代であるという共通認識を労使問わず持ちつつあるわけです。直ちにできるとは言えません、しかしそういう方向で我々は努力しなければいけない。私自身は覚悟を持っていますし、相当の多くの人たちが覚悟を持ちつつあるのじゃないでしょうか。日弁連の方がいらっしゃいますので、もし何かあったら言ってください。

○石嵜委員 ただ、日弁連の労働法制委員会でそういうことを議論したかどうか。確かに個別労使紛争が増えたところで、労使が自主解決に参加してやっていかなければいけないというところで共通認識は持っていますけれども、鵜飼委員のお気持ちはわからないではないけれども、これが今の労働法制委員会の在り方だと言い切っては、また中で大議論になるのではないですか。

○鵜飼委員 日弁連の方がいらっしゃるのでその辺で意見をお聞きしてみましょうか。私どもが論争しても話は進まないのですけれども。

○齊藤参事官 事務局の立場で印象を申し上げてよろしいですか。このあたりの議論を聞いていて、事務局の立場で印象を持ったのは、労働関係事件について大量迅速処理という思想で徹底的に制度改善を図るということで考えるのか、それとも現状の日本が民事訴訟の在り方である丁寧な審理も尽くせるというスタイルを基本的には考えていくのかどうか。もちろんその間に、両者にバリエーションもあり得るかもしれませんが、その辺の基本的な考え方についてはある程度コンセンサスを得られた上で実際の制度設計の在り方をというふうに考えていくと、ある程度まとまりやすいのかなという印象は受けました。あえてもう少し言わせていただくと、大量迅速処理を日本の現状で一足飛びに徹底化を図るのは、いささか無理があるのかなという気もいたしました。これは印象ですので。

○鵜飼委員 その点は私も同じ意見ですね。大量迅速処理というシステムはもっと別のシステムがあるだろう。ただ、この10年間で労働訴訟は3倍に伸びていますね。一気に何万件、何十万件になるということはないだろう。しかし、この伸び率はこれから増えるだろう。労働訴訟協議会においても、対前年比2割増し、3割増しという東京地裁の状況があるわけですね。仮処分事件も、ある意味で裁判官は本当にひいひいされていると思いますよ。事件の袋を抱えながら自宅に戻っていらっしゃる。ある意味で言えば、事件数が増えていく傾向であることは間違いないわけです。そのニーズに応えて、その処理を現状の民事訴訟法のレベルでどれだけできるか。そのときに、全く運用でいいのか。そうではなくて一定のルールを明確にすべきではないか。仮処分にいっているという道を本案訴訟の方にパイプをつくるべきではないか、これだけの議論ですね。その上で、あとどれだけ事件が増えるかは我々はわかりません。それを決めるのは国民ですから。当面のところ、私は何万件、何十万件になるということはないだろうと思います。しかし、増えてきていることは間違いないし、3,000件の訴訟類型としてこれだけの事件数がある事件類型としては労働事件は非常に大きいし、ほかの事件類型に比べても大きいのではないかと思います。

○山口委員 確かに記録を家へ持って帰ったことは事実ですが、労働部に来たから持って帰ってきているわけではなく、前からの私の習慣で、仕事は家でやるということで誤解しないください。

○鵜飼委員 別に山口委員と言ったわけではないのですが。

○山口委員 確かに言われるように労働事件だけに限らないかもしれませんが、裁判の在り方としてラフジャッジでいいのか、それとも丁寧な審理をして丁寧な判決をというのでいいのかというのは、そこをどう考えるかによってほかのところの分野の考え方も変わってくるのかなという感じはしております。その辺は、私どもの世代はそれまでの積み重ねがありますので、権利義務の最終的な判断機関としてはきちんと、ある程度丁寧に審理した判決をという意識はなかなか抜けないのですが、その部分についてほかの方々の御意見も伺ってみたいのですが、いかがなものでしょうか。

○春日委員 解雇事件というと前からお話が出ていると思うのですが、ルールメーキングの必要性が強調されているわけで、そうすると迅速性もさりながら、適正な処理というか適正さが求められてくると思うんですね。そういう中で例えば一定の期間内に判決言い渡しまでというような、ある種のタイムターゲットを設定すること自体が果たしてどれだけ意味の持つだろうかという気がするんですね。少なくとも民訴では、大原則というか迅速にやるということも規定の上ではちゃんとあるわけで、あえて解雇事件についてだけ、なお一層強調する……鵜飼委員のおっしゃる趣旨はわからないでもないのですけれども、民訴の1つの事件として適正な処理を考えていくと、それほど解雇事件だけ際立てて規定を設けるのはまだ納得がいかないような気がするのですが。
 もう一つ、これは若干違う問題なのですが、証拠の面で、労働事件で労働者側にとって証拠が余りないと、ある種の証拠の偏在があるということで鵜飼委員は釈明処分をもっと強化したらどうかとおっしゃるわけで、それもわからないではないのですが、ただ、釈明処分を強化するという話になると、ある種の裁判所のパターナリズムに乗っかるというのが当事者の姿勢として果たしていいのだろうかという気がするわけです。紛争解決は当事者が主体になってやらなければ、いつまでたっても裁判所が何かやってくれる、あるいは裁判所側からの手続的な制裁がないとやらないという姿勢は余りよくないわけで、労使双方、特に代理人の先生方はそんなことはないだろうと思うのですが、紛争解決ということになると資料あるいは証拠等のできるだけ早期の提出は、なにも法律に書かなくても訴訟をやる以上は法律家としての当然のルールなのだという認識をある程度持ってもらってやっていく。そういう1つの姿勢をなお一層強く示していただきたいというか、釈明処分ばかりに頼るのは余りよくないのではないかという気がするんですが。また裁判所も釈明処分に頼られても、裁判所の側もある種困るのじゃないかと思うんですが。

○鵜飼委員 例えば解雇に限定して申し上げましたのは、ルールメーキングの判例の積み重ねによって解雇権の濫用法理として定着され、今回労働基準法という基本的な法律の中にそれが明確にうたわれたわけです。これは、そういう意味では労使の御努力と裁判所のこれまでの積み重ねが法律に結実したという意味では大きいと思います。そのもう一つに、解雇理由を就業規則に絶対的に書きなさいということになり、予告の段階で出しなさいとなる。そうすると、手続法のレベルでもそれは法律に書いてある、それを出さないのだから出しなさい、そして合理的な理由や社会的な相当性が解雇の要件になっている。これについてはどういう理由があるのか、基礎的事実はどうなるのかと、これはある意味では当然の訴訟の流れで、実体法を裏づける具体的な権利を実現するシステムの手続の中で釈明権や釈明処分という形で具体化するのが、別に何の不思議でもないと思います。それによって当事者がお任せしますとか、そういうことはちょっとあり得ないので、その辺について今の新民訴は、争点整理手続にしても何にしても、新民訴の基本的な思想は完全なるレッセフェールというか当事者任せではなくて、公益目的、迅速プラス適正な訴訟の運営のために、それは当事者も協力し、裁判所もその役割を果たさなければいけないという、単純に昔の当事者訴訟観から一歩前進しているところがあると思うんですね。労働事件は特に実体法でそういうものができていますから、手続法の分野で、春日委員には釈迦に説法ですけれども、私はそれによって当事者が依存体質になってしまうようなことはちょっと考えられないと思いますね。
 ラフジャスティスでいいのかどうかは、これも二項対立の議論ではなくて、今の社会のニーズに司法がどれだけ応えられるか。そのために迅速性と適正性の2つの要請にどう応えられるかということですので、10年たって適正な判決が幾ら出ても情勢は大きく変わっています。そのときに幾ら裁判官が英知を結集して、何十年もかけて証人調べ、証拠調べを行って、どんなにすぐれた判決を出しても、それは現実の解決に何の役にも立たない。やはり現実に起こっている紛争をなるべく早く迅速に、かつその段階でできるだけ適正に行うのは新民訴の思想でもあるわけでしょう。これをやり抜くために、一方では手続の整備と同時に我々弁護士の専門性、我々の努力、態勢が必要だということ。現状では必ずしも十分ではないけれど、それをやりましょうと言っているんです。
 もう一つは、私は参審制だと思います。今日、ドイツの裁判官とお話をしたのは、労働事件を30年間ずっとやっている専門的な裁判官が、今の激動するグローバル社会の中で労使の知見を聞くことは非常に参考になるとおっしゃっていました。次の議題になりますけれども、工夫しなければいけないと思います。

○菅野座長 今日、定型訴状が鵜飼委員の方から出ていますから、せっかくですので。

○鵜飼委員 皆さんの印象はいかがでしょうか。

○山川委員 とても細かいことですけれども、解雇権濫用法理で、就業規則に解雇事由が包括的に書いてあるときは、限定列挙説が最近は有力ですので、就業規則に掲げられた解雇事由がないという主張をする場合は、それは就業規則が限定列挙であると書けば、あとは使用者側が就業規則上の事由を主張立証することになるのですけれども、第2のところで、例えば就業規則に該当せずということと、または客観的に合理的な理由がない旨を書くとか、ここは2つの構成があり得るのではないでしょうか。

○鵜飼委員 そうですね。

○石嵜委員 就業規則に解雇事由を記載するという労働基準法のお話は、使用者と国の関係で、刑法をもって罰するという労働刑法の世界であって、それが即民事の社会で限定列挙になるのか、これについては東京地裁も意見はあるはずですよ。それは必ず限定列挙であるという前提で議論をされては、そこから大議論になると思いますので。

○鵜飼委員 これは訴状ですから。

○山川委員 これは実体法上の問題で、労働基準法上書くことを要求されたから、常に限定列挙の条文になるとは限らないかもしれませんが、通常の場合、こういう事由で解雇するということがまとめて書かれているときは限定列挙と推定されるだろうというのが私の見解なのですけれども、判例がどう言っているかはまた別で、いずれにしても、就業規則該当性で争われる方が訴訟における争点としては明確になるものですから、必ずしも限定列挙説だけで書くというよりも、就業規則該当事由が問題になるとしたら、そちらも記載できるような訴状の方が、より簡明といいますか、手続の進行上も簡単なのではないかという趣旨で申し上げただけです。

○鵜飼委員 それはそうだと思いますね。
 これは代理人の弁護士がやる場合もこれで使えるようにやりました。本来は本人訴訟だけを考えたのですが、弁護士の方も一応入れて。最近、我々側の話ですけれども、必ずしも労働事件をやっていない弁護士が代理人につくことも多くなっていますので、我々の研修も十分やらなければいけませんけれども。
 今日御覧になってすぐにはということはあると思いますので、もし御意見があったら次回ぐらいに御議論いただければと思います。

○村中委員 先ほどのラフジャスティスでいいかということですが、鵜飼委員はそういうもの2つを比べるのはいかがなものかとおっしゃいますけれども、なかなか両立しないわけです。短くなれば丁寧さの程度はどうしても下がると思います。
 私はそうなっても仕方がないと考えています。今の労働裁判の一番の問題は、多くの紛争が裁判所にきて解決されていない、あるいはそもそもどこでも紛争が解決されていないという点にあるのであって、法をもう少しは雇用の場にも浸透させていかなければいけない状況になっていると思います。もちろんすべてを法で処理しなければならないと考える必要はなくて、雇用の場での慣行で処理するということも考えられるわけです。日本の場合はそういうことがうまく機能してきたのかもしれないのですけれども、その規範力というか、公正さへの信頼というのが揺らぎつつあるのが現在であって、そうであれば法がある程度出ていってあげないと、適正な解決はできにくくなっている。そうすると、それは裁判所にやってもらう以外にはないわけです。例えば調停なら調停でやったらいいではないかということもあり得ると思いますけれども、例えば調停の場でも法というものが基準になって解決がなされないと困ると思います。しかし、その基礎として、裁判による迅速な解決が担保されていないと、調停の場でも法がうまく実現できないわけですから、裁判というものが法を実効的に実現している状況は非常に重要であると思います。ですから、個々の事件に関しては公正というか適正というか丁寧な判断をするのは当然要求されるでしょうが、それと迅速さのどちらが今大事かと言われると、多少丁寧さを犠牲にしても、大量に事件処理できる体制を考えることが今は重要なのではないか。もちろん現実に事件がないのであれば考える必要はないのかもしれませんが、裁判になるケースでさえ徐々に増えているわけですね。背後にはそれ以上の多くの紛争が隠れており、それで、これはニワトリとタマゴの話なのかもしれませんが、早く処理できるようになればもっとくるという関係に多分なっていると思うんです。また、解雇の条文が1つできるということになれば、それだけでも相当事件は増えるように思います。そして、解雇訴訟は迅速にするという制度にすれば、それでまたどんどん増える。それだけ国民の間に浸透していきますと、そのことによってまた増える。そういうように増えるときは多分倍々ゲームで増える。それに対応できるようなこと、対応しなければならない状況がくるということまで含めて考えておかなければいけなくて、その場合にはある程度ラフな判断になっても仕方がないということまでは考えておかなければいけないと私は考えています。

○山川委員 私も同感のところがありまして、破産事件などは信じがたいぐらいに増えているので、労働事件も将来わからないということがあろうかと思います。トレードオフ、つまり迅速と適正は必ずしも両立できないということもあるのですが、その場合に当事者の選択できるようなメニューを用意する。先ほどおっしゃった調停や、それ以外にもあるかもしれませんけれども、アメリカでADRが発達したのは、ある意味では、正式な訴訟では時間も費用もかかるから、当事者が合意の上でいわばラフジャスティスを選んでいるという色彩があります。日本でそこまでいけば、それは自主的にやればいい話ですけれども、裁判手続の中でも、ラフジャスティスかもしれないけれど当事者が満足できるような仕組みを選びやすいように用意することは、1つのトレードオフの解決にはなるのかなと思います。
 その場合でも、村中委員も言われるように、幾ら遅くてもいい、適正が実現されてもいいということにはならないと思いますが、幾らかは当事者の選択によってトレードオフ問題を緩和することはあり得るかなと思います。

○菅野座長 時間の関係で、もしよろしければ、労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否に関する議論は今日はこのぐらいにさせていただきたいと思いますがよろしいでしょうか。
 本日は、もう少しで退席しなければならない委員が1、2名おられますので、ここで次回以降の検討スケジュールについて先にお諮りいたしたいと思います。
 次回以降の予定としては、資料135の「今後の検討スケジュール」にあるような進め方を考えております。前回、髙木委員から御指摘がありました検討会の日程の追加の件があるのですが、これまでの検討状況から今後のスケジュール等に鑑みますと、基本的には資料135にありますように8月1日までに中間取りまとめを行うことを目指したいとは思いますが、予備日ということでもう1日とれないかと考えております。8月4日の週に1回予備日をとっておけないかと、委員の皆様には大変御迷惑をおかけするのですが、私としてはそのように考えておりまして、その予備日を設定させていただければと思うのですが、よろしいでしょうか。

(日程調整)

○菅野座長 それでは8月8日午後に予備日をとらせていただきたいと思います。
 それでは休憩を10分間とりたいと思います。

(休 憩)

(再 開)

○菅野座長 再開させていただきます。前回に引き続いて雇用労使関係の専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否について議論を続けていただきたいと思います。
 前回は、労働参審制の導入の当否についての議論をしていただきましたのとあわせて、中間的な制度の方向性等に関しても御意見をいただきました。これらの両者についてさらに御意見をいただきたいと思います。
 山川委員からは、「専門家の関与形態の諸次元」と題する図の資料が出されていますので、山川委員、これについて説明していただけますか。

○山川委員 前回、専門家の関与に関しては3つの次元から考えられるということを申しましたが、図で描いた方がわかりやすいのではなかろうかと思って描いてみました。描いているうちにこの作業自体がおもしろくなって、方向性云々を示すということまではいかなくなってしまったのですけれども、一応こういう軸で考えられるのではないかということを御説明したいと思います。
 3つの軸のうちまず1つは専門家の「関与の度合い」があります。これは専門委員は「説明」のレベル、「意見陳述」は2通りあって、労働委員会型ですと意見陳述だけをしてあとは引っ込んでということになりますし、「意見」を述べるのみならず「評議」に加わるのは司法委員の場合です。参与委員はこのどちらに入るのかよくわかりませんけれども、家裁の場合もこういう形になるのかなと思います。「決定」は評議に加わるということですが、さらに強く言えば、裁判官自身は原則として関与しない、陪審制がさらにこの極の方に入るのかなと、今回のテーマには直接なっていませんけれども思います。これがいわばx軸で、y軸が手続の時間的な進行の段階です。これは訴訟をとりあえずモデルにしたために訴訟に即したものになっていますが、進行協議を行い、計画を立てて争点をクリアにして、証拠調べをして事実認定をし、法律判断をすることになります。いかなる段階においても和解の歓試ができるということで網かけの線を入れております。「判定・裁定」とありますのは、z軸に調停を加えましたので、調停案を作成するということまで考えると、案をつくるものも判定・裁定の中に入ってくることになるかと思います。最後のz軸は「手続のフォーマルさ」で、大まかに分けると訴訟、非訟という観点から「訴訟」「調停」になります。
 さらに若干細かな段階がありまして、仮処分や少額訴訟というインフォーマルなものもありますし、調停の場合で春日委員が言われた効力を強めるものは若干上の方に引っ張られるのではないかという感じがします。
 以上のx、y、zの軸があって、それぞれの値をいわば空間座標であらわすことになるのですけれども、ある1点だけ関与するということは関与の中では予定されていないと思われますので、単なる1点の座標ではなくて、比喩的ですけれども、一種の空間の方程式になるのかなと思います。ただ、それもある段階はこの程度の関与だけれど、時間が進むに連れてこういう関与になるとか、単に一直線だけになるわけではないというふうにも思われます。
 一応の図式ということですが、選択肢の数を考えると、x軸で4つでy軸で4つ、z軸で2つありますから、ごく単純にいくと32通りになります。もちろんそれは非現実的なことで、むしろここに描いた以外の「●」もあり得るのではないか、新たに創造するとしたら新たな「●」をつくるという案も考えられないではないという感じがします。
 どういう形がいいのかはなお改善の余地がああリ、この図自体が、ある意味で訴訟を前提にしてつくられていますので、例えば調停の場合に証拠調べは訴訟のように正式なものは予定されていない点など、ラフな図なのですけれども、3つの次元の組み合わせがあることを示すような意味で一応お出ししました。

○菅野座長 それでは、どうぞどなたからでも。

○春日委員 3次元の大変論理的な図式で明解だと思って感心しています。これは単なる質問なのですが、山川委員のお考えでは、参審制は大体どの組み合わせか。例えばx軸でいくと決定までとか、y軸では例えば判定とか裁定、z軸では訴訟というような理解でしょうか。

○山川委員 おっしゃるとおりです。ただ、参審がどの段階まで関与するのかということもあって、証拠調べから関与するところが、イギリスなどを見るとそうでしたので、y軸としては証拠調べから判定のところに線が引かれて、x軸、z軸はおっしゃるとおり、決定、訴訟に対応するということだと思います。

○春日委員 そうすると、参審といっても「進行協議」、「争点整理」については別に参審が関与するものにしなくてもいいと……。

○山川委員 それもあり得る、イギリスはそのようですね。

○春日委員 そういうふうに理解すればいいですね。

○鵜飼委員 ドイツの回答では争点整理が入っていますね。

○菅野座長 訴訟と調停というz軸はこういうふうに一直線になるのかなと、例えば斡旋は調停の下にくるのですか。

○山川委員 そうですね、調停のイメージが調停案を出すというようなことだとすると、斡旋はもっと低いのですが。

○菅野座長 和解というのが別の軸になっているんですね、調停はあくまでもその中の判定の作用だけを取り出しているんですかね。

○山川委員 そういうふうにだんだん細かく御質問を受けると破綻が生じるのですけれども、訴訟とパラレルに考えたような意味での作用という感じで考えていますが。

○矢野委員 専門委員はどの辺に入るのですか。

○山川委員 今度できた専門委員ですと、専門的知識をもって説明するということで、その関与の時点はいろいろあって、和解にも関与できますし、証拠調べ、争点整理、進行協議も入っていたと思いますので、流れとしては判定前の段階で連続的にといいますか、スポット的にどの段階でも関与できますけれども、関与は説明に限られる形だと思います。

○菅野座長 意味深長な図で飽きないようなところもありますけれども、ほかの御意見をいただきいと思います。

○村中委員 これはまた後で聞いたらいいのかもしれませんが、鵜飼委員、ドイツでは争点整理はとにかく期日前に、期日といっても当事者が来ておらずに、とにかく裁判官だけ集まって進行協議をするとか、そういうことはせずにとにかく法定の日からくるという発想をしているんでしょうか。

○鵜飼委員 明日、日弁連開催のシンポジウムに、英独の裁判官がいらっしゃいますので、その辺は御質問いただければと思いますが。

○春日委員 また質問ですが、z軸は調停と訴訟で、手続のフォーマルさでは2つ挙がっていて、調停の下に斡旋のようなものがあるのじゃないかというお話で、従来からの議論の流れでいくと地裁の調停という話が出ていて、地裁の調停はもちろん地裁の調停でいいのですが、それをもう少しパワーアップするというか、そういうところに専門的な知見を有する労使双方の方を関与するような手続が何かないのかなということをちょっと考えたものですから、そうすると調停と訴訟の間に、裁判の形式としては、訴訟なら判決ということになって、調停は拘束力のない調停案というものが出るだろうと思うのですが、調停のそれをもう少しパワーアップすると、例えば17条決定は今は例外的でもないのかもしれませんが、余り出さないけれども、もう少し17条決定のようなものをある種原則的に出すような手続のようなもの、しかし訴訟手続までというものではないという手続のフォーマルさの中にもポイントがあるのか、ないのか。そういうことは考えられないのかどうかという気がしたのですが。

○山川委員 フォーマルさの意味をどのようにとらえるかということで、仮処分とか少額訴訟も入れていますし、先ほどの斡旋ということになりますと、フォーマルかフォーマルでないか、z軸に入りきるかどうかわからないのですが、一応大まかにとらえればいろいろなものが入り得るかとは思います。

○菅野座長 春日委員の言われるパワーアップされた調停の決定は、権利義務関係について判断するのか、紛争の解決について解決案を定めるというか、どちらのほうでしょうか。

○春日委員 そこは私も具体的にこういうものと必ずしもイメージできないのですが、少なくとも調停ですと手続の流れから見ると入り口段階で、まず一方の当事者は応じたくないと言ったらもうそれまでですよね。けれど、その入り口段階では一方の申立てがあればそれに応じなければいけないという手続にしておいて、しかも調停委員としては裁判官である調停主任のほかに労使双方の調停委員が関与していただいて、それで最後の出口の段階としては、途中はもちろん証拠調べとか、それほどフォーマルなものではないかもしれないけれども、争点整理まではちょっとわかりませんが、証拠調べのようなものも3人で関与していただいて、一番終わりのところで、調停は17条決定は例外的ですけれども、そういう決定まで出す。
 調停では17条決定があって異議があれば、それでもう効力がなくなってしまうけれど、そうではなくて異議があったときには例えば訴訟手続にいく。ただし、訴訟手続のようなフォーマルのものを考えるとすると、これは訴訟と同じで参審制になってしまうので、そこまではいかないで、もっとコンパクトで期日もそれほどたくさん入れないようなイメージですけれども。それが調停のパワーアップというのかどうかはちょっとわかりませんけれども、一定の結論はもちろん出す。それが従来の17条決定のような例外的なものではなくて、ある程度原則的なものにするというのは、1つの考え方としてはあり得るのかなと、その程度なのですが。
 強いて言えば、訴訟まではいかない、しかし非訟手続ともやや違うというか、もうちょっと、若干訴訟に近いようなものかなと思います。

○鵜飼委員 17条は調停委員会が相当であると認めたときということですね。

○春日委員 そうですね。

○鵜飼委員 先ほどの春日委員のお話では、調停に代わる決定を出すかださないかの場合に当事者の一方で申立てをした場合も入ってくるのですか。

○春日委員 申立て如何にかかわらず……。

○鵜飼委員 現状の17条のとおりということですか。

○春日委員 そこはわからないのですが、今は少なくとも相当と認める場合は余り出しませんよね。けれど、そこは原則出すという方向はどうかなということですけれども。

○鵜飼委員 今は異議の申立が当然出るだろうから、やってもむだという感じも一方であるんですね。

○春日委員 そうですよね。

○鵜飼委員 特定調停で当事者が合意した場合に調停委員会が案を出して拘束力を持つというのはありますね。

○春日委員 異議が出て効力がなくなってしまえば、あとは訴訟をやるかどうかは当事者がもう1回判断し直すわけですね。だから、そこはある種の訴訟につなげるとか、異議があるのだったら訴訟の方でやってもらうとか。

○鵜飼委員 調停に代わる決定は訴訟との連続性はどうなってくるのでしょうか。調停に代わる決定は訴訟に移行したときにどういう役割を果たすのでしょうか。

○春日委員 法的な効力はなくなってしまうのかもしれないけれど、しかし前段階では証拠調べをやっていて、調停委員会での判断ですから、従来の調停案の提示とはかなり違うと思います。

○鵜飼委員 どこが違うのですか。

○春日委員 これは事実上かもしれませんが……。

○鵜飼委員 専門調停でやっているものですよね。専門調停なら調停に代わる決定が……。

○春日委員 そう言われれば、専門調停もそういうものに似ていると言えば似ているのかもしれませんが、必ずしも詰めて考えているわけではないのですが、この図を見ていて、漠然と何か……中間案云々と言っているものですから、何か示さなければいけないかと、この場の話なのですけれど。

○石嵜委員 今のお話を聞いていますと、一番大事なのは、菅野座長がおっしゃったように、その決定案がその権利義務を判断するのか、紛争解決案を出すのか、これは決定的な問題ではないかと思うんですね、裁判所につなぐ話と。そうすると、これこそまさに大量画一的にラフでやっていいという話でいくのか、そこにある程度の適正さを求めるなら、権利義務をここで確定することになると、また大議論になるのではないかと。

○春日委員 権利義務の確定ということになれは、その手続自体も、例えば手続段階とかフォーマルさとか関与の度合いについてもかなりしっかりあれしなければいけないし、いや必ずしもそうではなくて、従来の調停案に似たようなものだということになれば比較的…、そこはもちろん御議論いただかないといけないわけです。そういう意味では、座長がおっしゃるように最終的な権利義務の判断までするような中間的な手続を考えるのか、そうではなくて、そういう法的拘束力のあるようなものではないという中間案という選択肢もあると思うんですね。そこは幅があると思うのですが。

○鵜飼委員 これはぜひ御検討いただきたいのですが、利益紛争と権利紛争とよくいわれるのですけれど、その限界線上で労働条件の変更は職種等の変更の場合や配置転換などになるのですが、労働条件の内容の変更は非常に大きな労働紛争の1つのジャンルをなしているわけですね。一方で調整的な機能が必要と同時に、最終的にはどこで均衡点を見出すかという権利義務関係の判断も必要とされるのですが、ここは労働調停がもし利用できれば、使用者側も申立てをするというニーズがあるという話もありましたし。

○石嵜委員 使用者側が申し立てたときに、決定が出て、それで異議があれば裁判所まで労働者を連れていくかとかこういう議論も出てくるので……。

○春日委員 それは選択肢として出てくるでしょうね。

○石嵜委員 したがって、それも含めて議論しなければいけない。ただ、紛争解決案という形でこの決定が、ここをキーに出すのであればそれは十分意味がありそうですが、権利義務の確定となるとまた大議論になりそうな気がしていて。

○菅野座長 石嵜委員が調停から訴訟への連携につなげるように工夫したらどうかと言っておられる、そのイメージはどういうものですか。

○石嵜委員 私はあくまでも調停としての解決案を提示し当事者にのませる。特に私は解雇事件については、いい悪いは別として、多くは金銭で解決されるとすれば、訴訟とつなげておいて、付審判するかどうかといったらまた議論が大ありの話ですけれども、実際上、運用でもいいですから、解雇事件になれば調停に戻してもらう。

○菅野座長 付調停ですね。

○石嵜委員 はい。付調停制度は大議論ありますから、運用として、今のような形で解決案を提示するのも1つの道ではないかと思うんですね。ここで権利義務を確定するとすると、裁判所をまたもう一つここにつくった形にならないかという4審制のような形になるので、そこは議論が出るのだろうと思っているのですが、今までのような調停で、ここまでで専門性の関与をとめるのか、少しパワーアップした形で労使の専門性を生かす方法としてならば、私個人としては最終解決案は示す方がいいと思っています。

○春日委員 もし石嵜委員がおっしゃるように、解決案なのか権利義務なのか、それは争いがありますが、そういう結論を示して、仮にそういう手続を入れてやると実質的に4審制になるのではないかとか、あるいは新たな手続が前置のようになるのではないかという御議論も多分あるのだろうと思うんですね。

○石嵜委員 私自身は調停前置的なイメージを持っているわけです。4審制はとれないけれども、調停前置はいいのではないだろうか。ただし、裁判所も準備としては答弁書……、調停に上がった場合もありますし、裁判所から流れて、2方法があることを考えているのですが、裁判所との連携であれば、解雇事件は金銭賠償の可能性が高いものはもう放っておいていただいてそこでやってくる。その間に、裁判所の方の書面の提出の期限だけは決めておくとか、調停を延々とはやらない。こちらこそタイムターゲットを決めるとか。

○鵜飼委員 ACASとかETのようなもの。

○春日委員 かもしれないですね。

○石嵜委員 それに少し近いところなら、私は十分議論ができるのではないかと思っています。

○春日委員 もちろん、そこで言っておきたいのは、労使双方が加わるということ。

○石嵜委員 そういうことです。それを入れていただきたいというのは私の方の従来からの考え方です。

○鵜飼委員 そこまでいって、なぜ訴訟ではだめなのでしょうか。

○石嵜委員 そうはいかないんですよ。それだったら正面からいきましょうと。

○鵜飼委員 わかりました。

○石嵜委員 お気持ちはよくわかっていますので。

○鵜飼委員 調停にそこまで大きな役割を果させることができるかどうかですね。

○石嵜委員 ただ、議論の蒸し返しになるのですけれども、一たんはこういう形で実績をつくるということは、今の裁判所とか、ユーザーでも一方の使用者がこういうところに御理解いただいてコンセンサスづくりをしていくことは、これだけの改革ですし、もし本当に参審制をやったら混乱するのは当たり前で、混乱するからいけないなどと言っては始まらないと思っているんですね、正直言うと。混乱を乗り越えてもっと大きな利益があるのじゃないか、そういうところを考えての議論をしているのだろうと思ってはいるのですけれど、参審制を今の段階で一気に入れるということで、コンセンサスづくりは到底難しいと認識していまして、そういう意味ではこういう形で1回、実績をつくりながら前に進むのが現実だと言ったら怒られてしまいますが、現実的かなと。ですから、春日委員がおっしゃっている調停にプラスアルファをつけるのはそういう意味でもいいのではないだろうかと。

○鵜飼委員 y軸のレベルで言うと、裁定までいくのですか。

○春日委員 y軸から言えば結論まで出すということでしょうね。

○鵜飼委員 それは石嵜委員も同じですか。

○石嵜委員 労働委員会でも労使の参与は紛争解決案、和解案のようなものには実質上関与してやっているのと近いところがありますから、そのイメージを申し上げているので、それは現実に機能していることは誰も否定しないと思うんですが。

○鵜飼委員 調停のところでy軸とx軸はフルコースをやるということですね、決定までやるということですか。

○石嵜委員 紛争解決案を定めるものについて。紛争解決案だったら、それは当事者の勝ち負けを決めるわけではないですから、これは三者で裁判官が入って労使で調整できると思っているんです。

○春日委員 そこの考え方で、解決案だけにするか、もう少しある種の法的効力を持ったものにするか、それも幾つかのバラエティがあるのだろうと思うんですね。

○菅野座長 労働委員会のことをおっしゃっているけれど、労働委員会の和解案は確かに公労使三者一体でつくっていますし、むしろ労使がリードしてつくったような感じですが、「法のルールよりは」と言うと怒られるけれども、いかに労使関係が安定させるか、現実の紛争をいかに解決するか、それが強いんですね。だから、いわゆる解決案も権利義務について裁判所のような判断をするのではないのけれど、それも考えての、権利義務を基本にしたようなものもあり得るし、それから労働委員会のように本当の和解案のようなものもあり得ますね。

○石嵜委員 労働委員会の和解案は集団的労使紛争の将来的な安定だと思うんです。こちらは個別労使紛争ですから、したがって解雇の場合、原職復帰だとオール・オア・ナッシングになってしまいますから、その紛争は両方が10対0かというと、7対3とか6対4もある。そういうところをちゃんと見て、その事件の使用者と労側のいわゆる調整に立った最終的な金額的なものの話は十分あり得るのではないかと。

○鵜飼委員 それを裁定するわけですね。

○石嵜委員 はい。

○鵜飼委員 それはある種の法的拘束力を持たせるというのはどういうことに……。

○石嵜委員 ただし異議が提出されれば、これは訴訟手続につなげるしか仕方ないだろうと。

○鵜飼委員 つなげるといいますと、決定は決定として、訴訟の中に資料として残っていくわけですか。

○春日委員 残るんでしょうね。

○石嵜委員 残ったとしても、それは権利義務を確定していないという前提ですから、権利義務については裁判所が訴訟の手続でもう1回見るという話ですね。

○鵜飼委員 先ほどの話で、訴訟は訴訟でy軸の手続は一方で進むんですよね。

○石嵜委員 私の発想はそうです。

○鵜飼委員 一方で調停は調停でやるわけですね。

○石嵜委員 はい。

○鵜飼委員 二重になりませんかね。

○石嵜委員 それは訴訟に上げられた場合の話ですよ。訴訟に上げられた場合についての、解雇事件に一定の期間ACASに戻すように一たん戻すという話で、それは調停から上がるものもあるわけですから、そこは調停の世界だけになりますから。

○春日委員 そういう選択肢もあるのだろうと思うんですね。けれど、もう一つの選択肢としては先にそういう手続をして、それで不服ならば訴訟にきなさいというのも……。

○石嵜委員 それは完全な調停前置主義ですね。

○春日委員 はい、そういうものもあると思うんですね。

○鵜飼委員 現在なぜそれが解雇事件で利用できないかというと、時間がかかってしまって、とても裁判はできないというのが現実なんですよね。その辺の工夫をしないといけないと思いますね。もしお説の立場でお考えになるなら、現状の労働調停は利用できない理由の大きな原因になっていますからね。

○春日委員 調停のパワーアップというと言葉が悪いのかもしれないので、あるいは調停と保全、仮処分とかそういうものをまぜたようなもののパワーアップと言ったら、むしろ鵜飼委員にはある種受け入れやすいというか。

○鵜飼委員 一定の法的拘束力というのがちょっとわかりにくいのですけれど。

○春日委員 私もそんなに詰めて考えているわけではないので、中間案というとそういうイメージも1つ……。山川先生にこれを出していただいたので、この座標軸で見るとそういうものもあり得るのではないかという発言なのですけれども。

○鵜飼委員 先ほどの労働条件の変更に労働調停が活用できるのではないかという意見についてはいかがでしょうか、特に労働法の先生方は。

○石嵜委員 これはまさにそうですよ。それなら、先に入口が恐らく多くは調停から入る確率が出てくるし。

○鵜飼委員 使用者側の申立てもありますしね。強行実施しないでやるなという予防の意味にもなりますよね。

○石嵜委員 配転命令を出しておいて拒絶されたときに、解雇にいくのかどうかといったときに、調停に一たん上げるのは使用者側から十分あり得ると思うんです。

○鵜飼委員 なるべくそういうふうにいくように誘導できるような制度設計になればいいですね。

○石嵜委員 それなら相談を受けたときでさえ、それは解雇を待つより労働調停、あるいは労使が一緒にいるから、転勤理由も会社は自信があると言っていれば、それを労使の参与に聞いてもらって本当にそれでいけるかどうかとか。

○鵜飼委員 契約関係を維持しつつやるというのだったら、労働調停は十分役に立つと思うんです。そして労使が間に入って双方の一種の調整の部分もありますからね。

○石嵜委員 そのときに本当に解決案を示せるかというと、今度はなかなか難しくなりますね。そういう配転の場合は命令の正当性でいくかいかないかという話になってくる。したがって、配転は使いやすいけれども解決案はどうなのか。ただ、労働条件不利益変更なら賃金の再配分など取り入れようはありますから、これは解決案を待つ。これは事案の類型によっては少し変わるかもしれませんが、十分機能していくと思います。

○菅野座長 賃金引下げなどの労働条件の不利益変更で和解を試みても全然だめという場合でも、労使が入った判断として、労働条件変更はいわば合理性があるかどうかという、労使が入った上での判断はあり得るのではないかと思いますね。

○石嵜委員 今、一番相談が多いのは、実績成果主義の賃金体系に変える。これは不安定な賃金体系を入れること自体が不利益変更と、これは大体固まってきた。合理性の議論になりますと、常に1年でどの程度のパーセンテージを動かせるのだろうか、そしてそれが急激の問題で、かつ大幅な問題として、悪い人をどこまで下げられるのだろうかという、そこのパーセンテージの見解を求められるんですね。20%ないし30%という大幅な切り下げはあるわけないと最初は言いながらやるわけですが、そういう意味では会社側がそれを7%だと言った、労側はそれは大きいと言って争う。労使が入った枠の中で、ここは生活を考えると5%とか4%ではないかというのは十分あってしかるべきだと思うんですね。

○山川委員 労働法の観点からも労働条件変更は実質は利益紛争ですから、むしろ調整的判断に合っていると思いますし、訴訟経済を考えても今の最高裁判例のもとではあらゆることを考えるという感じになって、経営状況から同種の企業の状況から主張立証すると大変なことになりますが、結果的に行く着くところは余り変わらないのではないかという感じもしますので、調停をどういう形で関係させるかの問題はあるにしても、時間を余りかけないようにすることと、解決案に誘導するようなインセンティブ、あるいはペナルティと言ってもいいかもしれませんが、そういうものを何かつくっていくこと。そうでないと、今の労働調停だけでいいのではないかということにもなりますから、その辺の工夫はあるのかなと思います。

○石嵜委員 労働条件の不利益変更なら、ある程度ラフでもいいんですよね。解雇で原職復帰を言うから、これは適正議論を詰めてくれという話になる。本当に裁判官の方に判断を任せて金銭賠償で解雇事件を処理する道も認められるなら、ある程度ラフでもいいだろう。そうして迅速を優先するとか、その辺の類型別にしておいて、議論を整理しておけば、こういう話は現実にこれならば何となく……ある程度コンセンサスを求められていくのではないかと思います。

○鵜飼委員 私自身はいまだ労働参審制を支持する意見を下げたわけではありませんけれども、労働条件の変更についての調整的な紛争解決機能を持たせるのは、ある意味ではこれまでも労働法の永遠の課題でしたよね。これをきっかけにそのスキームを、インセンティブを与えて、借地借家の調停のようなものも参考にしながら、制度設計をすればこれらはかなり利用価値があるのではないかと思いますので、どなたかにスキームをつくっていただければと思うのですが。
 強行実施しないで不利益変更について労使の意見が一致しないときに調停を利用できて、そこで労使の調停委員がいて、主任調停委員とともに調整を図っていく。そのときに当然、法というものがあって、法に基づきながらぎりぎりの利益調整を図る。むしろ労使自治、労使交渉の延長線上みたいなものですね。そこでできた結論は私は相当重みがあるのではないかと思いますね。

○石嵜委員 ちょっと今気がついたのは、そうなると、解雇事件は確かに個別労使紛争で流れてくる問題ですから、ただ、賃金の切下げになると、1人が争うと多数には実施してしまっている形になると調整の余地がないものもあるんですね。その辺は考えておかないといけないですね。ただ、実績主義で一律5%切り下げるという不況下の賃金切下げでは調停は難しいのかなと、少数者が争うだけだったら。ところが、実績主義・成果主義で個別的に本人が評価によって5%とか7%下げられたという話だと、それはその人で調整してもそれほど大勢に影響はありませんので、そうするとその調停は生きるのかなと。こういうことを少し議論を詰める必要があるのだろうと思います。

○鵜飼委員 前者の部分は集団的な紛争になりますね。

○石嵜委員 そうすると労働委員会問題なのかなと。

○鵜飼委員 ただ、不当労働行為問題はないですからね。

○石嵜委員 現実に労働委員会に上げると、集団労使紛争の場合は調整は議論することは十分できるので。

○春日委員 でも、集団だからといって手続に乗せられないということはないですよね。

○石嵜委員 ですから、そこをどうするかが労働調停、今までは個別労使紛争というイメージでずっときていましたので。

○春日委員 そういう意味では、1つの手続を考えろと言われると大変難しいのだけれど、幾つかの要素を絡めてみたらという、山川委員もせっかくこういう図式を出していただいたので、この検討会で要素を幾つか考えると、少しは従来の二元論のようなことではなくて、もう少し多元的な角度から議論ができそうな、ただ時間の問題がありますけれども。

○菅野座長 大体時間になってきたのですが、ほかに御意見はありますでしょうか。
 それでは今日はこのぐらいにいたしまして、また本日ちょうだいした御意見等を踏まえて引き続き次回以降も議論をして、資料135のようなスケジュールで行いたいと思います。
 最後に事務局から次回の日程をお願いします。

○齊藤参事官 次回は7月11日(金)午前10時から12時30分を予定しております。よろしくお願いいたします。

○菅野座長 ほかに何かありますでしょうか。

○鵜飼委員 明日、日弁連で行いますドイツとイギリスの裁判官との意見交換会は9時30分から行う予定です。

○菅野座長 それでは、本日の検討会でこれで終わります。ありがとうございました。(了)