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労働検討会(第24回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年7月18日(金) 10:00~12:30

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委員) 菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、春日偉知郎、熊谷毅、髙木剛、村中孝史、矢野弘典、山川隆一、山口幸雄(敬称略)
(事務局) 山崎潮事務局長、松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、齊藤友嘉参事官、松永邦男参事官、川畑正文参事官補佐

4 議題
(1) 検討の中間的な取りまとめについて①
(2) その他

5 配布資料
資料154 労働関係事件への総合的な対応強化に係る検討すべき論点項目(中間的な整理)[再配布]
資料155 今後の検討スケジュール
資料156 検討事項に関する主要な論点及び検討資料(労働調停、裁判制度、固有の訴訟手続関係)[再配布]
資料157 導入すべき労働調停についての検討のたたき台[再配布]
資料158 訴訟手続への外部の人材の関与制度の比較[再配布]
資料159 労働調停についての検討の概要〔3訂版〕[再配布]
資料160 雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否についての検討の概要〔5訂版〕
資料161 労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否についての検討の概要〔3訂版〕
資料162 春日偉知郎委員・村中孝史委員・山川隆一委員提出資料

6 議事

(1) 検討の中間的な取りまとめについて①

 労働検討会における「検討の中間取りまとめ」についての検討が行われた。
 はじめに、資料162「中間的な制度の方向性について」(春日委員、村中委員、山川委員提出)に基づき、春日委員及び村中委員から説明がなされた後、質疑応答及び意見交換が行われた(○:委員、□:座長)。

○ 前回提示された中間的な案は、裁定では法規範に基づき権利義務関係の存否についての判断を行うものとする案だったと理解したが、今回、3人の委員が提示した4つの案では、決定はいずれも法規範に基づく判断ではなく、事件の内容に即した解決案を示すという形になっているのはなぜか。

○ 法規範に基づき権利義務関係の存否を判断するというだけに限らず、権利義務関係を踏まえた上で、当該事件の具体的な内容に即したより妥当な解決案がありうるならば、それを探ることが適当なのではないかと考えた。労使双方から専門家が入ることになるので、そこで十分つめた妥当な結論が出されればよいのではないか。前回はたしかに、権利義務の判定が中心だということを申し上げており、今回の提案とは若干異なっているかもしれないが、考え方は両方ありうるのではないかと思っている。

○ 前回の案を前提とすると、権利義務関係の存否の判断に基づいて結論を出し、一定の法的効果が発生することとなるが、今回の案による裁定は、和解案や調停案よりは強いが、仲裁裁定には至らない程度の幅のあるものとなる。この案では、前回の案にあった権利義務関係の存否に基づく判断の部分が排斥されたことになるようにも見えるがどうか。それとも、そうではなく、権利義務関係についての決定も出せるとともに、場合によっては解決案の提示も含むこととなるとの理解でよいのか。

○ 個人的にはその部分はどのレベルで裁定を出すかという問題なのではないかと思っている。権利義務の判定だけで裁定を出したほうが妥当な解決だというのであればそういう場合もあり得るだろうし、権利義務関係も踏まえた上で、より柔軟な解決案を出して、当事者も納得するというのであれば、裁量的な部分があってもよく、そこは厳密に考える必要はないのではないか。

○ 今般の労働基準法の改正を巡る議論において、解雇無効の法的効果を、単なる労働契約関係の確認とその間の原状回復にとどめるのではなく、労働契約を終了させて一定の金銭補償を行うことを実体法上設けるべきではないかとの議論があったが、結局今国会での改正は見送られた。
 今回の案だと、例えば解雇が無効と判断されたときであっても、労働契約関係を終了させる代わりに金銭補償的な解決案を受け入れるように労働者が強要されることになるのではないかと懸念している。

○ 実体法で可能ではないことを手続法によって修正することが可能かどうかということだと思うが、例えば少額訴訟における分割弁済は、実体法が手続法によって修正されているものと一般的には理解されており、その意味では全く例がないということではないのではないか。

○ 資料162「中間的な制度の方向性について(メモ)」の中に、前回提示された案が出てこないのはなぜか。特に、解決案に権利義務関係の存否の判断を入れるということが盛り込まれていないのはなぜか。

○ 前回提示された案も、権利義務の存否を踏まえて行うものであって、権利義務をそのまま決定するという性質のものではなかったと理解している。権利義務をそのまま決定するとなると、判決手続との違いがなくなる。それでよいとするのも一つの考え方かもしれないが、労働事件の特殊性に対する行き届いた配慮ができなくなるのではないか。判決手続は厳格になされるものであり、例えば解雇事件において労働者側も金銭賠償を求めているにも関わらず、解雇無効が認められたため慰謝料しか認められなかったケースがあった。今回の案は、労使関係を踏まえて柔軟な解決を出すことができるというメリットがあるのではないか。
 また、そもそも労働事件には権利紛争型だけでなく利益紛争型にの事件も多い。また、両者の区別が難しいものもある。そうしたもの全てを包括できるようにしながら、権利紛争型の色彩の強いものについては、権利義務を踏まえた柔軟な解決ができるようなシステムを考えた方がよいのではないかと考えて、今回のような案を提示した。

○ この部分はスキームの中心である。今回の案においても権利義務関係の存否の判断が排斥されるものではないという説明だったが、前回の案は、基本的には権利義務関係の存否の判断を行うというものだった。確かに利益紛争型の年功賃金制や労働条件の変更の問題に関しては利用価値は高いと思うが、解雇について、今回の案を前提とした場合に、特に3案については適切な解決が図られるのか疑問である。少なくとも選択肢の1つとして、前回提示された案をこの中に入れるべきではないか。

○ 前回は、確定的な案を提示したというよりも、こういう考え方もありうるのではないかということを考えつつ申し上げたものであるが、個人的な考えは、今回の第4案と同じものである。

○ 議論がなかなか収斂しない状況をおもんぱかっての提案だと思うが、中間案の考え方もいろいろあろう。我々は裁判制度の中での専門家が関与する仕組みということで議論をしてきたのであり、今回提示された4つの案は唐突な感じがしている。特に第1~第3案はこれまでの意見を換骨奪胎したものであり、また新たに論争を拡散することになるのではないか。前回の提案は議事概要にもあるとおり、「単なる解決案ではなく、権利義務の確定をイメージ」したという所が核となるのではないか。今回の案を提示された委員の方々の御苦労には感謝したいが、このような形がよいのかという気がする

□ これまでの議論の経過の中で中間的な取りまとめに向けて議論をしていただきたいという方向が出てきたが、これまで、裁判手続に専門家を関与させる仕組みの議論をしてきて意見が様々あった中で、参与制を支持する意見はなかった。そして、前回示された案は労働調停のスキームに判定の要素を取り入れてはどうかというものであった。その案について様々な意見が出て議論してきたのであり、前回の意見を固定すべきということはない。その中で、3人の委員が、これまでの意見を踏まえ、考えられる典型案を提示し、議論を更に進めようと努力されているのであり、そのことを多としつつ、更に委員自身の御意見をいただきたい。

○ 今回の検討会では、前回提示された案について議論するものと思っていたところ、突如4つの案が出てきたので、驚いている。

○ 前回の案は、労使が権利義務関係の存否についての判断を行い、不服があれば裁判へ移行するという仕組みが核であると理解し、今回はこれについて検討し、更に訴訟との連携について議論することを考えていた。前回の案も選択肢として入れるべきである。今回提示された4つの案はイメージがかなり違っている。

○ 一方で労働調停を充実させることで対応すべき、他方で本来の裁判手続の中に参審制を導入すべき、といった様々な意見があった中で、それらを踏まえた上で考えられる案を出してみたものであり、従来の議論とそれほどかけ離れるものではないと思っている。今回の4案に固執するつもりはなく、他の案も含めて議論していただければよいと思っている。

○ 中間案を考え出すのは難しい作業であるが、今回の案は裁判の外に作るという形の中間案を考えてみた。しかし、従来の調停やあっせんとは異なり、限りなく裁判制度に近いものを目指した制度設計として考えている。権利義務関係の存否の判断を確定させるものとすると、結果として判決との相違がなくなり、事実上の4審制になってしまう。それを避けるためには、今回提示した案が判決に近づける限度になるのではないか。

○ 1案、2案、4案は、証拠調べをやって事実認定をするので、判決ほど厳密ではないにしても、理由の中にそれなりに判断の要素が入ってくるのではないか。訴訟手続に近づけつつ、4審制を防止することも考えている。また、この手続は2、3回程度で終了させることを想定しており、長期化させないイメージである。
 2案では、調停の成立の見込みがない場合に裁定手続に入ることとしているが、調停の成立の見込みがないということを、早い段階で見極められるのかどうか、実務的な観点からの意見をいただきたい。

○ 調停成立の見込みの有無の判断は、ある程度、争点整理や事実調べをやっていく中で初めて出てくるものであり、早期に判断できるかは疑問に思っている。
 1案と4案では和解の成立が増加するものと思われるが、2案では、調停の成立の見込みの判断が簡単にはいかないだろうし、裁定手続への移行は双方の意向を踏まえることが前提とされているため、利用されにくいという点でこの案は選択できない。裁定型の下では和解の成立の可能性は高くなるが、調停を入れることで見通しが不透明・不確実になる。

○ 確かに、証拠調べをする必要があるのは分かるが、そこは適正さと迅速さの調和論の問題ではないか。調停を先に行い、そこに労使を参画させ、早い段階で成立の見通しを立て、ある程度の見通しが立てば、裁判官と労使の3人による解決案のようなものを出していくということも考えられる。手続上、若干ラフになったとしても迅速化が図られることが重要であり、4案でなければだめだということではなく、2案も選択しうる。もっと柔軟に考えてよいのではないか。

○ 確かに、労使の関与によって専門性が高まり、和解成立の可能性が高まることは分かるが、なぜ調停を先にしなくてはならないかが分からない。

○ 労働調停がまとまらなければ裁判に行く可能性が高いのであるから、労使はそこを認識しつつ対応していくのではないか。

○ 2案では、使用者が拒否すれば裁定手続が利用されないことになる。それでは利用されないのではないか。

○ 選択肢が用意されたことでその長短を論議することが可能となり、議論の幅が広がったことについて、3委員の労を多としたい。
 なお、制度を作る際にはなるべく利用者が使いやすいものとなるよう考えることが必要である。今般、労働調停という形で紛争処理の門戸が広がり、多くの紛争が吸収されることになるのだから、分かりやすく利用しやすい制度にする必要があるのではないか。
 これらの案では、直接訴えを提起することはできるのか。

○ 4案でも直接訴えを提起することを認めることも考えられる。いろいろと議論の余地はあろう。

○ 仮に2案を採用して労使の専門家が入るにしても、1回で成立の見込みを判断することは難しいのではないか。3回程度の期間はみておく必要がある。
 調停にはなじむが裁定にはなじまないケースやその反対のケース等事件によって様々な類型があると思われるが、それらを全て一括りに考えてよいのか。また、労働調停では労使双方が入らずとも学者等の中立的な立場の専門家を活用する余地もあるのではないか、という議論もあったが、この案だとそれができなくなるのではないか。

○ 確かに、通常の調停でも3回の期日ではなかなか終了しない。よほど当事者の協力がないと難しいとは思う。

○ ある程度迅速に処理し、訴訟へつなぐことを考えるのであれば、証拠調べに固執する必要はないのではないか。妥当な解決案を疎明程度で示すことも考えられるのではないか。

○ 単純な個別紛争の多くについては、裁定型を利用できるのではないか。多くの解雇事件は、争点整理、証拠整理を早急に行い、1回の集中証拠調べを行うことで心証形成できるのではないかと思っている。それを経て裁定まで行くのは少なく、ほとんどの事件が和解で終了するのではないか。また、そうして出された裁定の判断は裁判でも尊重されることになるのではないか。3案は現状の調停とほとんど変わりない。その他、裁定前置とするのは強すぎる。いずれにせよ、利用者にとって分かりやすい見通しの立つ制度であることが必要である。

○ 地方裁判所に1案の仕組みを設けるならば、労働調停は簡易裁判所で行うべきである。

○ 4案は、手続の過程で和解が可能であり、調停の要素を全て排除しているわけでもない。手続が整備されたときにどのように運用していくかということが重要なのではないか。また、簡易裁判所の一般民事調停を排除するつもりはない。

○ 裁定までは望まないが、調停で話し合いをしたい、というニーズがあるのかどうか考える必要がある。また、裁定手続を中断して話し合いをすることができないとすると、そうしたニーズをカバーすることができない。
 また、調停になじむ事件と裁定になじむ事件等様々であるという指摘には同感である。裁定手続のイメージの仕方にも関わってくるのだろう。

○ 単純な賃金未払い事件等は簡裁で処理し、裁定制度は地裁に設けて必要があれば自庁調停を行うことも考えられよう。裁定型ができれば紛争のスクリーニング機能もあるだろう。

○ 裁定はある程度強い効力をもつことになるので、弁護士がつかないと厳しいケースもあるのではないか。したがって、調停を独自において、本人だけで進められる手続を設けることも必要と思う。地裁には調停手続と裁定手続の双方を置き、簡裁には社労士が入るような形の調停を置き、当事者に選択させるようなものを検討できないか。

○ 資料162に基づいて議論が行われているが、裁判手続に労使を関与させることの当否について、この検討会では「否」というの結論を出したということなのか。

□ そうではなく、今回の3委員の提案としては出されなかったということである。

○ このような議論は、審議会意見書にある「雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否」について、「否」という結論を出すのであれば出した上で議論をしていただきたい。
 参審制を導入すべきであると考えており、専門委員制度での対応には疑問があるし、参与制でよいとの確信ももてない。

□ 参審制の導入については意見が対立している状況だが、裁判制度そのものに関しても、中間的な方向性についてのアイデアがあるかを含めて、この場で更に議論していただきたい。

○ 労働関係事件固有の訴訟手続の整備に関して、最低限ルール化が図られるべきと考えられる事項について意見を述べたい。解雇事件については、通常の訴訟手続で迅速に処理できるようにすべきである。仮処分を利用せざる得ないという現状を変えないといけない。もちろん、本来の保全手続は必要であるが、典型的な労働事件である解雇について利用しやすい裁判手続を考えていくことについて共通意識の醸成を図りたい。その際には、迅速性、適正性、納得性の3点を確保することが必要である。訴訟制度としては、参与制を導入することもありえると考えられる。また、システムの在り方としては、①解雇事件の特性にかんがみて、迅速な処理を法律でうたうこととすべきである。②裁判の見通しを確保するため、計画審理の原則化を図るべきである。③争点整理、証拠整理を早急に行うための運用の指針を作るべきである。④証拠調べを原則1回で集中的に行うようにすべきである。⑤雇用保険の給付期間の最大10か月を一つの目安としつつ、タイムターゲットをガイドラインとして設けるべきである。⑥定型訴状を作成して相談窓口にそなえつけて周知徹底を図ってほしい。⑦解雇事件の訴訟の目的の価額について、非財産権的訴訟として扱うべきである。これらの論点をぜひ御議論いただきたい。

○ ヨーロッパにおける労働参審制についての考え方について各国の経営者団体の意見を聴いたところ、労働事件が通常裁判所で職業裁判官によって処理されているオランダでは、これまでも労働参審制導入の議論がなされてきたが、現状を変える必要はないと考えているとのことだった。一口にヨーロッパといっても考え方は様々であり、それぞれの歴史や文化を踏まえて国の制度が根付いている。他国の例を参考にするのはよいが、労働参審制の導入の必要性について、これまで納得のいく説明はなされていない。国民参加の観点はよいことであり、それは労働調停で実現を図ればよく、これまでの仕組みからすれば大きな進歩である。それによって社会での信頼性を高めていくことが重要である。

○ 文化論や国民の意識論は審議会においても議論されている。これらは新しい制度を導入する際に反対論に使われる傾向がある。今まで行ったことのない制度なので懸念があることは否定しないが、うまく機能している国もある。事件数の大幅増に対処するといったことも含めて長期的な視点で考えていくべきである。
 裁判システムの中で考えると、事件類型を限定して参審制を導入すること等も考えられる。意見書は、ヨーロッパの多くの国が導入している労働参審制について一定の評価を与えてそれについて検討を促している。労働秩序の安定のために、ドイツのように経営者側もこの仕組みに参加する意味を積極的に評価するべきなのではないか。

○ ドイツやイギリス等それぞれの国で、それらの制度が安定しているということを否定はしないが、一方で近隣諸国ではそうした制度は不要だと言っている所もある。改革の必要性を議論する際に ドイツやイギリスでうまくいっているからとの主張がなされているが、日本的なシステム設計としてそれは一つの参考にしかならない。今後個別労働紛争は増加していくだろうが、労働調停等のADRの充実を図ればかなりの紛争が解決されると考えている。

○ 4つの案を提示するに当たっては、改革審の指摘を踏まえた上で、現実的な制度設計という観点から検討をしており、また単に外国の制度が良いからそのまま取り入れるというものでもない。小さく産んで大きく育てるという考え方もあるだろう。現段階で一気に参審制を導入するのは難しいかもしれないが、裁定手続のようなものに労使が加わり、それが充実したものになれば、今後参審制の導入につながっていく可能性もあるだろうし、また、労使で適切な運用を編み出して、新たなワンステップを踏み出していただくことも考えられるのではないか。

○ ヨーロッパ諸国で労働関係事件固有の手続や、労働参審制を導入していない国はオランダだけなのではないか。労使の参加の有用性は普遍的なものであると考えられる。また、激動する雇用社会に対応して、日本の労働裁判システムを変えていかなくてはいけないという思いは共通するではないか。特に、解雇事件の多くについて保全手続を利用せざるを得ないという現状は世界に自慢できるようなものではないだろう。

○ 仮処分が解雇事件に利用されている現状は確かに本来の筋とは異なる。迅速に紛争処理ができる制度を作る必要がある。
 労働事件を調停で処理することについては懐疑的ではあるが、ニーズはあるだろう。その場合でも、調停は背後に判定的な手続がなければうまく生かせないのではないか。専門性を高め、迅速、適正に事案を処理できる制度であることが、調停を生かすための最低条件になるのではないか。ただ、現在の日本では、訴訟手続の中にすぐにそうした制度を導入することは難しいのかもしれず、提案させていただいたようなスキームの中に労使が入って、専門性を高めた形で迅速性、適正性を確保し、一定の判定を下すということになれば、調停も有用なものとなるのではないか。調停だけを置くとなると、調停自体も機能しなくなるのではないか。

○ 裁定に権利義務の判断を入れて、解決案を示すこととしたのは、労働関係紛争には訴訟物について判断しただけでは解決できない側面もあり、当事者により有用な紛争解決案を提示するという要素を取り入れることが適切なのではないかと考えたからである。
 裁定は一種の形成的な作用を有するため、裁判のようではあるが、訴えの提起により失効させられる形になっており、労働委員会のような行政処分の形式はとっておらず、現行の実体法の中における訴訟の限界に一定程度対応しうる仕組みなのではないかと考えている。これまでの議論では訴訟に前置する仕組みをよしとする意見は多くはなかったので、別個の手続を創設するものを提示してみたものである。
 なお、仮処分は、本来は本案訴訟の枠内で保全の必要性によって請求を限定するような仕組みになっているため、本案訴訟より救済範囲が限定される。その意味では今回提案した手続は仮処分手続とも区別されているということができる。

○ 労働裁判が変わることについて、国民に対してアピールするという意味では、参審制はアピール度が高いだろう。ただ、裁判を敬遠する意識はなかなかすぐには変わらない。そうなると、裁判ではないが、一定の判定を行う制度を別途作った方が国民にとってはなじみやすいのかもしれない。更に迅速化が図られればより使いやすくなるだろう。労働参審もありうるかもしれないが、裁判官以外の者を関与させて、同じ裁判の中で労働裁判だけが簡単な手続で雑に扱われているという意識を持たれる可能性もある。その意味では訴訟手続とは区別されたところから制度設計をした方が国民の側からは利用しやすくなるのではないか。

○ 労働参審の導入については、意見が分かれているが、現状で直ちに参審制、参与制を導入することについては、実証的な検証が十分されていない状況の中では疑問であるとの観点からこれまで意見を述べてきた。労働事件特有の専門性についても十分に納得できておらず、個別の事情は当事者が立証すべきであり、足りないところは専門委員制度を利用すべきである。専門委員制度では不十分であることの理由、また、労使が中立的な立場から意見を述べることができるかどうか、事実認定等の判断能力が適切なのか、についても十分な検証がなされていない。仮に判断能力があるとしても、第三者からみて中立的な判断がなされていることになること、実際に中立的に判断しているということとは別問題であり、外部からみて労使が参加して手続を行うことの信頼性があるか疑問であるので、参審制・参与制の導入は現段階では難しいのではないか。今回提示された4案については、権利義務を踏まえての判定的なものを含んでおり、労使の中立性が確保できるか、事実認定の能力や判断能力を十分備えた人が関与できるかどうかの実績を積むことになるだろう。労使の関与が労使の現場に対してフィードバック機能を有することについては理解している。また、労使が参加した判断の受容性の検証にも役立つだろう。
 期日に一定の回数制限を設けることにはそれなりのメリットがあるのだろう。また、裁定に一定の効力を付与し、訴訟への移行を確保していることについては考え抜かれた案だと思っている。ただ、訴訟とは別途の手続を創設することになると、労働事件かどうかの仕分けをきちんとする手当てが必要である。また、相手方が欠席した場合に、それでも裁定を出すのか、そこで手続は終わるのかも問題である。そして、人材確保の問題が一番大きいだろう。権利義務を踏まえた解決案を示すのであれば、それなりに労働法や労使の事情に精通した人であることが必要である。また、裁判官にとっては、労使の委員をリードして、短時間で争点整理等を行い、解決案を示さなければならないので全国で実施するとなるとかなり大変だろう。

□ 訴訟手続の中に参与制を導入するに当たっては、責任を持った形にしなければならないとの指摘には同感である。参与制を運用によって参審制の形に近づけることも考えられるが、近づけようとするほど、参審制のデッドロックに乗り上げる。参審制の精神をどういう形で生かせるかについて検討すると、今日の提案のような形になるのだろう。

○ 経営側ではデッドロックを乗り越えられないという判断なのだとすると残念である。

(2) その他

 次回(第25回)は、平成15年8月1日(金)13:30~16:30に開催することとされ、引き続き中間取りまとめの議論を行うとともに、「労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方」の中間取りまとめについても議論することとされた。