○菅野座長 それでは定刻になりましたので、ただいまから第24回労働検討会を開会いたします。
本日はお忙しい中をお集まりくださいましてありがとうございます。
本日は、都合により後藤委員が御欠席です。また、山川委員は遅れて御出席の予定です。
では、まず本日の配布資料の確認をお願いいたします。
○齊藤参事官 申し上げます。
資料154は、「労働関係事件への総合的な対応強化に係る検討すべき論点項目(中間的な整理)」でございます。
資料155は、「今後の検討スケジュール」でございます。
資料156は、「検討事項に関する主要な論点及び検討資料(労働調停、専門的な知見を有する者の関与する裁判制度、固有の訴訟手続関係)」でございます。
資料157は、「導入すべき労働調停についての検討のたたき台」でございます。
資料158は、「訴訟手続への外部の人材の関与制度の比較」でございます。
資料159は、「労働調停についての検討の概要(3訂版)」でございます。
資料160は、「雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否についての検討の概要(5訂版)」でございます。
資料161は、「労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否についての検討の概要(3訂版)」でございます。
資料162は、春日委員、村中委員、山川委員連名の本日の提出資料でございます。
委員の方から、前回の議論を踏まえて議論したいという御趣旨の御要望がございましたので、前回(第23回)の検討会の議事概要を参考資料として一番最後につけてありますので、ご参照いただければと存じます。
以上でございます。
○菅野座長 それでは本日の議題に入ります。
本日からは、労働検討会における「検討の中間取りまとめ」について御議論いただきたいと思います。中間取りまとめは、「労働関係事件への総合的な対応強化の在り方」に関する措置の方向性について、現時点で可能な範囲で検討会としての意見集約を行うものであると考えております。そして、それに基づいて広く国民からの意見募集を行った上で、9月以降、制度設計の詳細等についてさらに御検討いただきたいと考えております。
前回までに、労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方の論点を除いた3つの論点、すなわち労働調停の導入、雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否、労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否について、それぞれ3巡ずつ充実した御議論をいただきました。本日は今までの御議論を踏まえて、特に今申し上げた3つの論点に関して、8月に予定している意見募集に向けてどのような取りまとめをしたらよいか検討していただきたいと思います。本日は、3人の委員から事前に御意見をいただいております。資料162、先ほど御紹介のとおりです。また、労働調停の部分については、基本的には検討のたたき台(資料157)をもとに、これまでの議論を踏まえて、意見の分かれているところをなるべく1つに絞っていくことが必要になると考えられます。そこで、これらの御意見や資料を踏まえ、また、前回までの検討の概要を整理してもらった資料(資料159~161)も参照いただきながら議論していただきたいと思います。
では議論に入っていただきたいのですが、最初に、資料162という形で「中間的な制度の方向性について(メモ)」という資料を出していただきました3委員から、この内容についての御紹介をいただければありがたいと思いますが、春日委員お願いします。
○春日委員 それでは「中間的な制度の方向性」ということで、私から資料に即して手短に御説明させていただきたいと思います。
まず、この4案ですけれども、これは事務局からの説明がありましたように、菅野座長のもとで、本日まだお見えになっておりませんけれども山川委員、村中委員、それから私の3人で意見を出し合いまして、とりあえずまとめたものでございます。事務的な面では事務局の方にもいろいろお手数をおかけしたのですが、とりあえず我々の考え方として、ある程度具体的なものを提示する必要があるのではないかということで、本日提出いたしました。もっとも最初のバージョンですので、これは委員の皆様方に御検討いただく材料として提出するという意味合いでございます。したがいまして、細かな部分については我々内部でも十分な議論を経たと言うわけにはいきません。それから、この4案は一応代表的な形を挙げたにすぎませんので、制度上の問題について立ち入った検討をしているものでもないわけです。たたき台程度と御理解いただきたいと思います。そうは言えども、タイムスケジュールの関係もありますから、とりあえずはこの段階で提出して御検討いただければと思っております。
そこで、第1案から順番に具体的な内容について簡略に説明させていただきたいと思います。
第1案ですが、「調停・裁定選択型」という手続でございます。労働調停とともに、図にあるような裁定手続を新たにつくりまして、申立人の方でいずれかを選択する案でございます。特徴は、新たな裁定手続のほかに労働調停制度も創設する案でございます。この場合、労働調停制度を地裁に全く新しい制度として設けることも考えられるでしょうし、他方では新たに裁定手続を地裁に設ける、さらにこれに重ねて地裁にがっちりした調停制度を設けるのはどうかという御意見もあろうかと思います。仮に地裁に労働調停制度を設けるのが大変だということになれば、これはむしろアクセスの面ではすぐれている簡裁の民事調停の方の可能性もあるのではなかろうかと思います。その場合には、恐らくは雇用・労使関係についての専門的な知識等を有している調停委員を多数任命して、例えば社会保険労務士とか弁護士、あるいは労使の経験者を調停委員に任命していただくことも考えられるかと思います。これが第1案になります。
第2案は、「調停・裁定合体型」というものです。これは労働調停と裁定手続を一体化し、1つの紛争解決手続をつくってみてはどうかという案でございます。メモ書きの第2案の1に書いてありますように、調停の成立の見込みがないときには、労使の委員と裁判官との合議体で審理して決定あるいは裁定をする手続としてはどうかと考えております。
この第2案は、調停を行ってみて、成立の見込みがないという場合に裁定をしてくれという申立てがあって、それに相手方も応ずる、あるいは相手方に異議がない場合に決定を出す手続でございます。この手続も、ほかの手続もみなそうなのですけれども、基本的には3回程度の期日で終わらせたいと考えております。そうしますと、原則として最初の1回目で調停の成立の見込みがあるかないかということも見極める必要があるわけで、その見極めが可能かどうか。その点が第2案でのポイントになろうかと思います。比較的難しい労働事件の場合に、そういう見極めができるのだろうかという点は若干疑問があるかと思っております。
調停を先に持ってくると、資料や証拠が出ていない段階で調停の成立の見込みがあるかないかを見極めるのもなかなか難しいとは思いますけれども、こういう第2案についても検討の余地はあるということで、この第2案を提出した次第です。
第3案は、「調停・裁定融合型」というものです。これは労働調停の中で調停に代わる決定、いわゆる17条決定と同じような効力を持っている裁定制度を創設するという考え方です。基本的には調停手続をベースにするものです。
1に書いてありますように、調停成立の見込みがないときに労使の委員と裁判官との合議体で審理して決定あるいは裁定をすることにしてはどうかという提案です。この手続の特徴は他の3案とは異なっておりまして、調停手続の色彩が強いものですから、証拠調べがないところに特徴があるということになると思います。
第4案は、「裁定単独型」という名称をつけております。これは、労使の委員と裁判官との合議体で審理して決定あるいは裁定をする手続で、これを単独でつくってみてはどうかという案でございます。この第4案については、司法制度改革審議会の意見書で既にご存じと思いますが、課題が与えられておりまして、労働調停を導入するという課題があるわけですが、これとの関係については若干説明が要るかと思います。
改革審の意見書では労働調停を導入すべきであると言っていますが、その制度設計に当たっては、訴訟手続との連携を強化する、もう一つは調停の成立を促進するための仕組みを設けるようにという要望も他方でございます。そこで、そういう要望をも汲んだ制度づくりが必要だろうということでこの第4案を考えてみました。結果的には、この第4案ですと、少なくとも言葉の上では「調停」という言葉、あるいはそういうニュアンスが薄らいでいるということかと思いますけれど、しかし改革審の要請には応えている。あるいは、むしろ改革審の要請は十分に包摂していると理解しております。
以上が4案の簡単な説明ですが、最後に若干言及しておきたい点としましては、ここで言っている裁定、決定という手続の性質について、理論的な説明も加えさせていただきたいと思います。
ここで言っている4つの手続の中で、裁定あるいは決定ができると言っているわけですけれども、裁定あるいは決定については基本的には2つのタイプがあるように思っております。1つのタイプは、法規範あるいは実体法に基づいて権利関係についての判断を行う形、もう一つのタイプとしては、権利関係についての判断を踏まえた上で事案に即した裁量的な結論を出すものも考えられるかと思います。労働事件についてその特質はここでも盛んに議論されておりましたが、この4案で労使の専門的知見を持っている方が入っていただくわけですから、労使の実務感覚を生かすという意味でも、権利関係についての判断を踏まえた上で事案に即した裁量的な結論を出していただくことがいいのではないか。そういう意味で、ある種の幅あるいは含みを持たせてそれぞれの説明にはそういう言葉を使っておきました。
したがってここでの手続の性格は、いわゆる非訟手続でありながら当事者対立構造を前提として、基本的には証拠を突き合わせて権利関係について判断をして、それを踏まえた上で裁量的な結論を出すという手続でございます。ですから、いわゆる講学上の争訟的非訟事件というのでしょうか、非訟事件の中でも2種類あって、争訟性の強いものと争訟性がほとんどないものがあるわけですが、この手続は争訟性が強い争訟的非訟事件に位置づけられるのだろうと思っております。現行法の中で例を探してみると、例えば借地借家法41条以下の借地条件の変更事件、もっと典型的なものは恐らく家事審判法の9条1項乙類事件という人事事件などはいずれにしても争訟的非訟事件です。ですから、ここで我々グループが提案した制度はこういうものを踏まえている制度であって、従来の制度との整合性という点でも何ら問題はないというか、特異な制度ではない、あるいは従来の制度との整合性を十分考えたものであるということもつけ加えさせていただきたいと思います。
簡単ですけれども、この程度にさせていただきます。
○菅野座長 村中委員、補足してくださることはありますか。
○村中委員 特にありませんけれども、最後の出口の違いだけつけ加えますと、1案、2案、4案は、裁定が出て、これに対して訴えを提起して初めてひっくり返せる構造ですけれども、3案の方は異議の申立てでひっくり返せ点で違っています。
○菅野座長 それでは、このメモ、たたき台の4案には限りませんが、これなども用いてさらに議論をしていただきたいと思います。
○春日委員 つくっていて、我々もいろいろ疑問が出ていまして、こちらからも幾つか質問させていただければと思っているのですが、よろしいですか。
○鵜飼委員 その前に質問したいのですが。前回の春日委員の案は、先ほどの裁定・決定の法的性格というのでしょうか、法規範に基づく権利義務関係の存否についての判断というふうに私は受けとめたんですね。前回そういう質問があり、春日委員もそのように明確におっしゃったわけです。ところが今回の4つの案は、いずれもすべて2番目のタイプになっていますね。これはどうしてそうなってしまったのか、その辺の説明をお願いしたいのですが。
○春日委員 2番目のタイプになっているかどうかということですが、恐らくおっしゃっている趣旨は、先ほど私もちょっと説明しましたように、「権利義務関係を踏まえつつ、事件の内容に即した解決案を示すこととしてはどうか」についてのことなのだろうと思います。確かに権利義務関係を踏まえてというか、あるいは権利義務関係を判断する判定手続という領域が労働実体法の方ではあるのだろうと思います。ただ、それだけでいいかというと、必ずしもそうは思えないというか、そうした事件以外の事件もあるのではないかということで、場合によっては権利義務関係あるいは権利義務の判定を踏まえた上で当該事件の具体的内容に即したもっと妥当な解決があるならばそれを探る必要があると考えました。これは労使双方の専門的な委員が入っているわけですから、そういう事件について裁定案を十分詰めていただいて出していただくというのでもいいのではないかと思った次第です。
前回、確かに私は基本的には権利義務の判定が中心だと言ったのだと思いますけれども、今回の提案としては文言が若干変わっていますが、両方あるのではないかと思っています。私は労働実体法の専門家でもないですし、具体的にどういう事件があるのかと言われると、むしろほかの労働法の先生の方が詳しいと思いますが、とりあえずそういう説明でよろしいでしょうか。
○鵜飼委員 再度質問したいのですが、権利義務関係の存否の判断をいたしますと、それに基づく一定の法的効果が発生しますね。それが結論になるわけですが、この解決案はそうではなくて、一定の幅を持った……我々で言うと和解案とか、調停案よりはもっと強い仲裁裁定の間ぐらいというふうにイメージするんですね。そういう意味では、この書き方からすると、1の権利義務関係の存否に基づく判断の部分は排斥された、入っていないと言うのではなくて、それも含むと。要するに労使と裁判官がその事案に即して1の形式の決定を出すこともできるし、場合によっては解決案という形で出すこともできると理解してよろしいのでしょうか。
○春日委員 私個人としては、どのレベルで裁定案を出すかという問題だと思うんですね。権利義務の判定だけで裁定案を出せるというもので、その方が妥当な解決だということならば、それはそういう場合もあるだろうし、そういう権利義務関係の判断を踏まえた上でもっと柔軟な解決策を出せるのであって、当事者もそれに応じてくれるというのであれば、それはある種の裁量的なものがあってもいいのではないか。その辺はそれほどリジッドに考える必要はないと考えているのですけれども。
○鵜飼委員 私が一番念頭にありますのは、この間の労基法の改正をめぐって、厚生労働省の労働政策審議会の答申の段階では解雇についての金銭補償の条項があったのです。要するに解雇が無効と判断された場合の法的効果として、単なる労働契約関係の確認とその間の原状回復という選択肢だけではなくて、労働契約を終了させるということで一定の金銭保障をする選択肢を実体法上設けるべきかどうかという大議論がありまして、今国会ではそれは見送られたわけですね。そうしますと、すぐに条件反射的に思い浮かぶのは、解雇が無効と判断される場合に金銭補償的な解決案、要するに労働契約関係は終了させる、そのかわり一定の金銭補償を提示する解決案まで許容されるのではないか。
○春日委員 質問の御趣旨としては、実体法ではそうなっていない部分を手続法で、ある種の実体法を修正するというか、そういうことまでできるのかという御質問なのでしょうか。
○鵜飼委員 はい。
○春日委員 そこは説明が難しいかもしれないけれども、例えば少額訴訟ではそういう部分はありますよね。
○鵜飼委員 分割払いするということはありますね。
○春日委員 分割弁済ですね。それも実体法を手続法によって修正しているという意味で理解されていますから、そういう意味では例がないというわけではないと思っています。
○鵜飼委員 それも可能というお考えですか。
○春日委員 はい。今言っているのはあくまで私の意見で、ほかの先生方はどういうふうにお考えかわかりませんが、少なくとも先ほどから問題になっている「権利義務関係を踏まえつつ」云々のところはそういうふうに、私個人としては考えているのですけれども。
○鵜飼委員 私は質問というよりも理解しがたいのですが、前回、春日委員が出された案がなぜこの中に出てこないのだろうかと。なぜ4つの案しかなくて、この前春日委員が出された案、特に3の部分ですね。要するに解決案の部分で権利義務関係の存否の判断を出すというものが何もないのはいかがなものか。それがどうも理解できないのですが。
○村中委員 その点については、春日委員の案は基本的には第4案だったのではなかろうかと思いますが、その場合にも権利義務関係の存否を踏まえてという御理解であって、権利義務をそのまま決定するという御趣旨ではなかったように私は理解しております。
そういうことにしてしまいますと、今度は判決手続と何が違うのかという話にもなってきます。それなら判決手続の中で参審・参与を考えましょうという議論にもつながると思うんです。それも1つの考え方だと私は思いますが、ただ、そのようにすると労働事件の特殊性に対する配慮は、現在の裁判、判決手続の中ではなかなか難しい面もあります。例えば解雇事件に関しても、労働者のほうが金銭補償を求めているケースについて最初から賠償を求めたらどうなるのかというと、それは無効確認ができたのだから賠償を求めても賠償を認められない、慰謝料しか認めないということも考えられるわけです。そういうリジッドさのようなものが判断にはありますから、柔軟な労使関係の紛争に実態を踏まえた解決を出せるのはやはり魅力だろうと思います。
また、そもそも権利義務の紛争ではなくて、利益紛争型のものも労働事件には非常に多いわけです。そうすると、例えば年俸制で、次年度はどうするのかということで話し合いがつかない事件がくるという場合、それは権利義務の判断が出るということを言ってしまうと、はなから排斥されてしまうことにもなる。ただ、権利紛争型と利益紛争型を泰然と区別できないところに労働事件の難しさがあって、そういうものもやんわりと全部包括しながら、しかし権利紛争型の色彩の強いものに関しては権利義務を踏まえて答えを出していく、そういうふんわりした制度の方がいいのではないかという議論をしたわけです。
○鵜飼委員 法律実務家としては、まずそこが目につくわけですね。それで、このスキームが一体どういう性格のものなのかということを考えるときに、ここはある意味では非常に核になる部分だと思います。先ほどの春日委員のお話では、それも含むと。要するに権利義務関係は存否の判断も含む、それは排斥しないという趣旨のことをおっしゃったのですが、私は少なくとも前回の御発言とそれぞれの質疑応答等の中で私自身がメモをしておりますし、間違いないと思っておりますのは、春日委員の案は基本的には権利義務関係の存否の判断、それに基づく結論、とはっきりおっしゃったと思います。
ですから、その案をなぜ外されたのかという点が私は疑問を感じているのと、確かに利益紛争型の年俸制の問題とか労働条件の変更の問題については利用価値が高いと思いますし、それはそれで借地借家法の手続に類似したものとしては私は利用価値が高いと思います。ただ、解雇という最も大きな労働事件の紛争類型で、これが利用された場合にどうなのか。特に3についてはどうなのか。これは余りボンヤリしたあいまいなものではだめなのじゃないか。少なくとも1つの選択肢としては、春日委員がこの前おっしゃったような案をこの中に入れるべきではないかというのが私の意見です。
○春日委員 前回、私もメモを自分で書いていて、案を提案したというか、1つの考え方としてこういうものもあるのではなかろうかという趣旨で言ったわけで、それが確定的なもののようにとらえられると私もちょっと困るのですけれども、第4案が私の個人的意見というふうに御理解いただいていいかと思います。
○髙木委員 時間がたつのに議論がなかなか収斂しない状況を慮っていただいて、前回、春日委員から私案、お考えが出されたのだと思います。率直に申し上げて、前回急にお話が出て、私自身、中間的な形態ということの意味もいろいろあるなと、そういう意味では我々は裁判制度の中で専門家の関与する仕組みをつくろうということで論議をしてきたはずでありますが、それなのに……ということは前回も申し上げたと思いますが、前回終了間際に山口委員は「私どもも検討してみる」と言われてお帰りになられた。今日の検討会を迎えるに当たって事務局の方が来られて、3委員のこのメモなるペーパーをいただいて、これは一体どういうことになっているのかと思いました。それも春日委員と鵜飼委員が議論されている点も含めて、春日委員がお話しされたニュアンス、イメージと若干修正されて…春日委員は4案が自分の意見に近いとおっしゃいましたが、それも少し修正されているし、そのほかにも3つの案を出されていますが、このような議論を今までどこで誰がしてきたのでしょうか。それは3委員、あるいは菅野座長、事務局の皆さんがいろいろな意味でどうやって収斂させるかというお考えの中での御判断もあったのかなと思います。これは推察ですけれど。他の3案は少なくとも春日委員のおっしゃったイメージからすると、率直に申し上げて換骨奪胎になるのではないか。そういう意味ではまた新たに論争の種を拡散される面も否定できないのではないか。
前回、春日委員がメモをもとにお話しされたことの一言一句、言葉じりをとらえて申し上げるつもりもございませんが、今日お配りいただきました議事概要(未定稿)の7ページの一番上に、これはそのときの石嵜委員と春日委員だったか、鵜飼委員とだったか、そのやりとりの中での話だったと思いますが、「単なる解決案の提示ではなく、権利義務関係を確定するものもイメージしている」というやりとりがあって、この部分は私も記憶に残っているつもりですけれど、この辺が春日委員のお考えの一番核心になるポイントかなということで前回、少なくとも私はお聞きして帰ったわけです。そういう意味では、いろいろ御苦労いただいていることには感謝申し上げながらも、これからのことも含めてこんなことでよろしいのかなという思いがしてなりません。
○菅野座長 議論の経過については、私が皆様に問いかけをしてそういう流れをつくってきたわけですので、中間的な方向を議論いただきたいというのは私が申し上げてここで議論いただいているわけです。その中には、髙木委員からの御発言にもありますように、裁判手続の中での中間的方向も考えられるのかどうかを皆様に問いかけをしてきたわけですが、それは前回も申しましたように、例えば参与制度を支持する意見はないというようなこともあるわけです。片方で出てきているのは、労働調停程度を核として何らかの方向が探れないかということ、春日委員から出てきた労働関係の何らかの判定を行うということが出てきている。前回、春日委員はそれは今のところの案としておっしゃっていて、みんなの議論を聞いてさらに進めるという方向でやってきているわけで、前回こう言ったからそれを固守しなければいけないということではないと思うんですね。前回も春日委員の意見に対していろいろな質問があり、議論があった中で、今後どうしようというので3委員が考えられて、これまで出されたアイデアを核として考えるとこういうものが典型的なものとして考えられるのではないですかと出されて、議論をさらに進めようと努力されていることは、私はそれは多とすべきで、それを素材にしてさらに皆様の御意見をいただきたい。それぞれの案についてこの点はこうすべきだという形での御意見をいただきたいと思うのです。
○髙木委員 3委員なり座長としての御努力は多といたしますが、例えば今日は、前回の春日委員のものをきちんとペーパーにしていただいて、それをもとに議論するのかなと、あるいはもっと違う類型の議論もあるのかなと思っておりましたが、この4案……どの案がどうかなどと一々評価を申し上げるつもりはありませんし、何かで議論しなければいけないわけですから、そのことを否定するわけではありませんけれど、率直に言うと、この4案を見せられて驚きました。
○鵜飼委員 春日委員の案そのものについて、言葉をあげつらうつもりは全くないのですが、そもそも私が受けとめた春日委員案の一番核になる権利義務関係の存否についての判断を労使が裁判官とともに行う、それは判決と同じような既判力と執行力はないので、それは裁判へ移行していく、そこで最終的に裁判手続の中で判断される、こういう仕組みだと受けとめたわけです。この前もお話しいたしましたように、私個人としてはこれは非常に傾聴に値する案だと思いました。したがって、それについてどうなのかということで我々も検討してまいりまして、そのスキームでは、次の訴訟の連携の部分が非常に重要な問題になってくるのだろうと思っておりまして、その辺をどう議論するのかなと思っていたのですが、この4つの案はそういうイメージと、全く違うとは言いませんけれど、ほかの選択肢が出されまして、確かに私自身も戸惑っているわけです。もちろんこういうことを検討されたことについては私自身もありがたいと思っておりますが……。
そういう意味でありまして、前回の春日委員の言い方を一々問題にしているということではありません。そういう選択肢もその中に入れるべきではないかという意見です。
○菅野座長 そういう御意見としてうかがって、また御議論いただきたいと思います。
○春日委員 私の不手際もあるのかもしれませんが、4案あるというのですが、従来から一方で労働調停という議論もかなりやってきて、その中で地裁でやるか、それとも簡裁での労働調停を充実する方向でいくのかの議論がある。ですから、一方で労働調停という柱のようなものがあって、他方では本来の裁判手続の中で参審制という形でそういう手続を設けるべきということがあって、そういう広い幅の中で今の段階でどういうものが考えられるのだろうかということで4つの案を出したのであって、従来の議論からしたらそれほど不自然ではないと私は思っているんですね。
もちろん4案以上に鵜飼委員がおっしゃるような類型の手続も考えられるのではないかと言えば、それは私も否定するつもりはないし、そういう方向性も1つの考え方としてはあるだろうと思っています。ですから、それは鵜飼委員の御意見として当然ここでも議論すればいい話だと思っています。なにもこの4案だけ、ここできっちりどうこうというのでなくて、これ以外にも幾つかバラエティがあるというならば、ここで出していただいてむしろ検討していけばよしと思ったのですけれど。
○村中委員 中間的なものはなかなか考えるのが難しいわけです。春日委員が御提案された案は、今の1審、2審、3審という裁判の一応外側につくりましょうという形での中間案です。この4案も基本的にはそうなのですけれど、しかしそれは従来の調停や斡旋とは違う。限りなく裁判に近いものにしたいという形での制度設計になっているわけです。ですから、権利義務関係を踏まえる場合には、そこであるかないかという判断は多分するのだろうと思うわけです。ただ、それが解決案の中に明確な形で出るのかどうか。要するに主文のような形で出るのかということになると、それをやってしまうと判決と同じではないかということになるわけです。そうすると4審になってしまってやはりおかしい。少し違うところで線を引かざるを得なくて、恐らくこれが近づけ得る限度ではなかろうかと私は考えておりますが。
○鵜飼委員 その点ですが、司法手続だとすれば、どういうスキームであっても主文と理由は明確にすべきだと思いますね。ですから、主文をきちんと明確にして、その主文が命令型になるのか和解型になるかは議論がありますし、解決案となると和解型になるかもしれませんが、理由はきちんと明確にすべきだと思います。これは、調停に代わる決定もそうですね。文書で明確にするわけです。この4つの案を見て、これは共通ではないでしょうか。主文と理由、さらに事実。要するにどういう事実があったのか、証拠によってどういう事実が認められるのか、これは重要な事実ですね。それは認定して、この事実に基づいてこう判断される、そして主文に書く、こういうことになるのじゃないでしょうか。
○村中委員 どういう判断だったかということは理由の中には出てくるわけですね。
○鵜飼委員 はい。春日委員のイメージもそういうものでしょうか。
○春日委員 少なくとも3案は調停ベースですから、これは別として、1・2・4案は証拠調べをやって事実認定をするわけですから、それほど詳しくはないとしても理由中にそれなりに出てくると思っているのですが。
先ほど村中委員がおっしゃったように、限りなく訴訟手続に近づけつつ、しかし訴訟手続にしてしまえばこれは4審になってしまう。それはおっしゃるとおりなんですね。しかも、この手続は少なくとも3回ぐらいで終わらせたい。長くやっていても意味がない……というわけではないのですが、長くやる手続ではない。もともと改革審でも迅速性ということは言っているわけで、そういうことも踏まえるとここら辺が限度かなと、我々としてもない知恵を絞ってぎりぎり、こういうことかなとイメージしたわけです。
○鵜飼委員 いずれにしても債務名義になるんですよね、判決または裁判上の和解ですからね。
○春日委員 それはなりますね。
○鵜飼委員 それに対応する主文になりますよね。
○春日委員 そうですね。中身の点で御議論させていただいてもよろしいですか。入り口のところで4案を並べてというのは少し問題ではないかと髙木委員からは言われたのですけれど、私自身も幾つか案を考えつつ、自分ではこういう疑問点があるのかな、あんな疑問点があるのかなと思いつつ、皆さんと御相談したり、あるいは皆さんの御意見を伺ったのですが、1つは、先ほどは4案の議論が多かったのですが、第2案についてです。第2案は基本的には調停から入って裁定手続という、点線で真ん中を仕切ってある一応合体型というのですが、これで調停を先にもっていったときに、しかしこの第2案では調停成立の見込みがない場合に裁定手続の方に入っていく形になっていて、成立の見込みがないということを比較的早い段階で見極めできるのかできないのか、この辺は私も調停事件で3回以内で終わった経験が余り多くはないので、そうした見極めがつかないことを経験しておりますので、これは裁判官や実務家の御意見があれば伺わせてほしいと思っています。
○鵜飼委員 私も全く同じ意見です。なぜ今、調停が利用できないかといいますと、特に解雇事件では見通しの問題と迅速性の問題が要求されてくるのですが、調停成立の見込みがあるかないかというレベルは、事実調べをやったり、法を適用してどういう結論になるかという見通しをした中で初めて出てくるわけで、そういう意味では、争点整理をやって争点が明らかになって証拠調べをやって、それで大体どうなるかの帰趨がわかりますよね。それで初めて和解が高い確率で成立するわけですね。それが例えば3回以内にできるとなれば、このスキームで言うと1案と4案では和解が多く成立すると思います。ですから裁定にいく前に、ドイツとイギリスにありますように、多くの事件が和解で解決できると思います。それができないケースが裁定になると思うんですね。
ところが2案でいきますと、まず「調停成立の見込み」云々がそう簡単に判断できないと思います。次に裁定手続の移行は「当事者双方の意向を踏まえた上で」になっていますので、これを利用する場合は非常に不確実性が高い。解雇された労働者が今後の人生設計を考えていく中で、この手続を利用するかどうかを考えるわけですが、この手続の場合は非常に不透明ということになります。現実の例えば解雇紛争という典型的な紛争の場合は、せっかくの案ですけれどもこれは利用しにくい。利用されにくいという点で言うと、私はちょっと選択できないと思います。
○春日委員 鵜飼委員からお話がありましたのでもう一つお伺いしたいのですが、逆転させたらどんなものですか。つまり、裁定手続を先にもってきて、証拠や資料を出してもらう。
○鵜飼委員 それはもう現在裁判所で行われている和解です。裁定手続の中での和解は、和解の成立の可能性は非常に高いと思います。
○春日委員 そうすると鵜飼委員の場合は、2案は調停、裁定という順になっているけれど、私の場合は裁定を前にもっていって、調停の方を後半にという考えなのですが、鵜飼委員は全体として裁定で、調停ができるようなものならば和解で終わらせられるということですか。
○鵜飼委員 そうですね。実際は裁定型の中で和解の成立する可能性は非常に高いと思います。これは、もちろん最後の段階で、その裁定は強制力とか執行力とか既判力はありませんが、次の段階に訴訟がありますので、そうしますと多くの事件は、率直に言って和解で解決するケースは高いと思います。ところが、調停を入れることによって見通しが非常に不透明になってしまう。利用者側にとってみますと、ここが一番のポイントだと思います。
○石嵜委員 実務家としてどう感じるかということですが、この件については労働法制委員会の中でも少し議論が出ました。つまり、最初の調停の世界で和解の成立見通しについては、ではドイツではなぜあれだけ速く済むのだという話になったときには、専門裁判官が事案ごとに判断するのだということで御説明があったわけですね。そうだとすれば、それに足りないものは日本では何かといったら、今の裁判官のいわゆる専門性の議論がある。こういうことをやっているわけですから、そこに労使が参画して、経験を持った人間を入れて、3人である程度補足して、いわゆる和解の解決の見通しということを見れば、今の形よりは確率は上がるのではないか。確かに、ある程度証拠を見なければいけないというのもわからないではないけれども、それは解決の適正と迅速のいわゆる調和論だと思うんですね。とすれば、1人の裁判官ではなくして労使を参画させて、3人で最初の早い段階で、1回ぐらいでいわゆる和解の見通しを立てて、確かに少しはラフになるにしても迅速性は維持できるのですから、そうすることで調停を優先させて、1回目での和解の見込み、ないしはそれがある程度の見通しがあるのであれば、そこで3人の和解案を出してしまって、これを受けないかという話も十分できるので、考え方としては4案でなければだめという話ではないのじゃないだろうか。これは2案でも十分あり得るだろう。
鵜飼委員はもともとおっしゃっている意見どおりなのですが、私のように考える人は別にもいましたし、その辺はもっと柔軟に考えていいのじゃないかと思っています。
○鵜飼委員 労働法制委員会の議論では2案はなかったわけですから。
○石嵜委員 2案という案ではなくて、最初の1回目のドイツの解決案……。
○鵜飼委員 あれは裁判手続ですから。
○石嵜委員 裁判手続とは違う……。
○鵜飼委員 裁判手続だから私はできると思っています。イギリスも裁判手続が一方で進行しているからACASの解決ができると思います。確かに労使が加わることによって専門性が高まる、したがって和解の成立する可能性が非常に高い、それはわかりますけれども、なぜ調停が初めにないといけないのか。裁定手続の中でその和解の確率は格段に高まると思います。それは意見は全く一致すると思います。
○石嵜委員 そう簡単にいくんですかね。どちらにしても労働調停にこういう形であげられれば、そこがまとまらなければ裁判にいく確率は高いわけですから、そこは労使が認識して対応するのではないでしょうか。使用者側も調停まであげられたら、まとまらなければ本人がそこであきらめるという確率は少ないし、それは訴訟にあげられる確率を考えながら対応すると思いますけれども。私ならそうしますから。
○鵜飼委員 ただ、この場合は調停があり、調停から裁定手続に移行するときに当事者の意向を踏まえるわけですから、使用者が裁定手続に移行するのは嫌だと言ったときには裁定手続にはいかないわけです。そうすると例えば解雇された労働者はこの手続を利用しますか、ということです。この手続は、調停がだめとなったら裁定手続にいかない可能性もある。これは現実の調停がそうなのですから。そういうスキームでいいかということです。
○石嵜委員 そうすると、裁定だけではなくて調停・裁定型であったとしても、2のところが鵜飼委員の御意見だと、そこに応ずる義務をつければ、それはそれでもいいというお話と聞いていいのですか。
○鵜飼委員 そこは絶対クリアしなければいけない部分だと思います。
○石嵜委員 そうですね。そういう意見がもう一つあるということでお聞きしておけばよろしいわけですね。
○鵜飼委員 もちろんそうです。
○矢野委員 議論の幅が広がるという意味でいろいろな選択肢を用意して、その長短を論議する意味で、3委員の労を多としたいとまず思っています。制度をつくる場合に、なるべく利用者の側に立ってわかりやすい制度であることが大事だろうと思うんですね。あれもこれもあって、こういうことがあってどれか選べというのも、専門家が見れば何でもないことなのですが、調停というなるべく門戸を広げて多くの問題をそこで吸収しようとするわけですから、基本的にわかりやすくてとりつきやすい制度である必要があるだろうと思います。
中身については、お伺いしたばかりなのでよく考えてみたいと思いますので、意見は改めて申し上げることにしたいと思いますが、4案について1、2質問したいのですけれど、4案は裁定手続前置ですから訴訟の選択はないわけですが、3案は今の調停と同じで、調停をするかしないかであって最初から訴えの提起もできるわけですね。1案と2案についてはどういう位置づけになるんでしょうか。調停なり裁定を経ずにというか、最初から訴えを起こすことが可能な仕組みになっているのかどうかを教えてください。
○春日委員 1・2・3・4案いずれにしてもそうなのですが、訴えの提起についてどうするかというのは、必ずしも十分考えておりませんでした。しかも1案と2案については、〔訴えの提起〕と括弧書きになっていていて、3案は訴えの提起がそのまま書いてあって、4案は書いていないということなのですが、この辺は議論が必ずしもまとまっていないというか、十分詰めていなかったのですけれども、4案でも紛争の一方当事者から訴訟を申し立てるという幅があってもいよいのではないかという議論も出ています。
それから、1案とか2案で括弧書きで〔訴えの提起〕と書いてあるのですが、ここについても括弧書きではなくて訴えの提起そのものでもいいのではないかという議論も出ていて、この辺は我々としても必ずしもまとまっていないところです。ですから4案についても、全て裁定手続前置という形でもっていくのかというところも議論の余地はあると思います。
○山口委員 3委員の御努力は多としたいと思います。私は春日委員の案についてしか考えていなかったので、十分なことはまだ検討していないのですが、2案について実務家の感覚はどうかというお尋ねがありましたので、その関係でお話しします。仮にこの制度をとって労使の専門家が入るにしても、1回で調停成立の見込みがないと判断できるかどうかはちょっと難しいのではなかろうかと思います。よほど請求が立たないことがはっきりしているとか、当事者同士が喧嘩状態で全く話がつかないような場合はともかくとしまして、普通の事件については調停という形できたらやはり当事者は調停を成立させようという思いできているわけですし、調停委員会のほうもそういう形で対応しますので、1回やって、ある程度時間をかけて話をするにしても、その段階でもこれは見込みがないという形で判断していくのは非常に難しい。現実の調停でやられているように、2回、3回の形で期日がかかっていくのではないだろうか。そうすると、合体型を仮にとるとすれば、3回程度で終わるのは少なくとも倍の期間は見ておかないとまずいのではなかろうかと思っております。それから、調停と裁定の関係がもう少しよくわからないのですが、必ずしも事件によっては調停にはなじむが裁定にはなじまない、あるいは裁定にはなじむが調停にはなじまないという事件もあるような気もしますので、それを全部つなげていっていいのかどうか。それから、調停の場合でありますと、前の議論では必ずしも労使の両方が入らなくても、例えば中立的な学者、あるいは社労士等の専門家を活用する余地があるのではないかという議論もされたと思うのですが、この合体型ではそういうことができなくなってしまうので、それはむしろかえってマイナスの要素も相当あるのではなかろうかという気もしますので、その辺を無理にくっつけるのが、メリットもあるかもしれませんが、デメリットも相当あるような感じはします。
○春日委員 確かに調停ということで、当事者もそのつもりでやってきたら最後まで調停でという、それで通常の調停では3回ではなかなか終わりにくい。私も経験としては3回で終わるのはなかなか難しい、よほど事前に当事者がいろいろな資料等を1回目から持ってきてもらわないと少し難しいかなとは思うんですけれども。
○矢野委員 裁判官と労使委員の役割は、4つの類型ともに同じような書き方がなされているのですが、実際に同じような役割なのでしょうか。
○春日委員 この辺は余り詰めていないのですが、恐らく争点整理とか証拠整理は、裁判官が専門家ですからそれをやっていただくよりしようがないと思っているんですね。ですから、むしろ労使の委員は、この間はイギリスとドイツの例がありましたように、雇用関係について専門的な知識を十分生かしてもらう形でこの手続に参加していただきたいというイメージなのですが。
○石嵜委員 調停と裁定が合体するかどうかは別として、山口委員から一般の調停のようなものが使えないかということだったのですけれども、これは地裁にこういう労使が参画するいわゆる調停なり裁定型を入れておいて、簡裁においては通常の民事で、そこに労働問題もあげてそれを利用し、かつそこに社会保険労務士等の人たちを入れる。この部分は排されているわけではないですよね。
○春日委員 従来の簡裁での労働調停の余地でしょうか。
○石嵜委員 いわば民事調停を利用する際に、労働事案があがれば、そこにはいわゆる専門的な社会保険労務士等を用意しておいて利用させる。
○春日委員 それは別に否定するわけではありません。
○石嵜委員 否定しておられませんね。ですから、そこは併用すれば十分対応できるのではないかと思いますので。
それともう一つ、私が解決案にこだわり、権利義務の確定に異議を述べていたのは4審制のこともあるのですけれども、迅速に処理し、これでまとまらなければ訴訟につなぐということがあるわけですから、そうすると解決案であれば、ある程度調整的なものがあれば証拠調べをそれほど固執しなければいけないだろうか。証拠調べをどの程度までやるかという問題はあるのではないかと思うんですね。権利義務の確定という形になると証拠調べはきちんとやらなければいけないし、誰かが言っていましたが、日本人の性格からいくとこれはガチガチにやるようなことになってしまうのではないか。そういう意味でも、ある程度の解決案、妥当な労使の実体験に基づくものも入れていただいて、疎明程度でもやることを考えてもいいのではないかと思うのですが。これはひとつ意見だけですけれども。
○春日委員 本来の証明まで必要か、それとも疎明の程度でいいか、あるいは証明だとしても、むしろ手続面では緩和して自由な証明でいいのか、その辺はいろいろ議論があると思うんですね。
○鵜飼委員 固有手続についての私自身の考えを後で述べさせていただきたいと思いますが、この手続で、私は多くの解雇事件のうち、かなり単純なといいますか、それほど複雑ではない解雇事件は、裁定型はかなり利用できると思うのですが、それは解雇理由に関する争点整理をし、証拠整理を早急に行って、1回での集中的な証人調べ、本人尋問が中心になると思いますけれども、そうすると多くの事件は心証を形成できると思うんです。私はそれほど難しくないと思います。今、仮処分でそれをやっているわけで、書面審理でそれをやっているわけです。それに争点整理とか証拠整理を経て証拠調べを行いますと、格段に心証形成はやりやすくなる。それで三者が、これではどうかという和解案の打診がありますよね。そこでほとんどの事件は私は解決すると思います。今、本当に裁判を利用できない多くの人たちがそこで利用できると思います。それができないものが裁定になりますね。そうすると、それは次の裁判にいく手続でそれがオーソライズされていくわけですけれども、裁判官はその判断は尊重するであろうと思います。ですから、私は非常に魅力的な案だと思っているわけですが、この前春日委員が言われた案ですね。私がいろいろ相談を受けている人たちのことを想定いたしますと、多くの人たちが利用できる可能性が高いと思います。
第3案はほとんど労働調停と同じというふうに考えざるを得ないので、選択肢として考えられても当然よいのでしょうが、ちょっと選択できない。労働調停が利用できない現状は余り変わらないと思います。
争点が多岐にわたって複雑な事件、当事者が多い事件とか、そういうケースをすべてこのプロセスでやっていいのかなという気持ちはありますので、裁定前置というのは強いのではないか。すべて労働紛争をこれでやらなければいけないという裁定前置は強過ぎると思いますね。
私も利用者にとってなるべくわかりやすい制度のほうがいいと思います。そして見通しの立つような制度ですね。
○春日委員 それはおっしゃるとおりだと思うんですね。手続ばかり複雑にしてしまうと、かえって当事者の選択というか、とりわけ本人でやるというときにはなかなか選べないということもあるでしょうし。
○菅野座長 1案という選択肢での調停と裁定についてですが、春日委員が最初に言われたように、調停は地裁に設けることも考えられるし、簡裁に設けることも考えられます。このあたりについて議論はありますか。地裁にこの2つの制度を設けるのはかなり重複的なところもあって意味がないとか、そういう感じもありますかね。
○鵜飼委員 もし地裁にこれを設けるのであれば、調停は簡裁にすべきだと思いますね。現在の簡裁で、先ほど言われたように労使だけではなくて、労使のOBでも結構だと思いますが、社労士の方とか我々弁護士とか、先ほど春日委員がおっしゃったような、この1案であれば私はその方がいいと思います。
○菅野座長 次に、4案では表向きには調停が出てこないようになっているのですが、この辺についてはどうですか。これは、それも含んだ制度であると見てよいのでしょうか。
○春日委員 裁定手続という形ですけれども、少なくとも裁定手続の過程では和解の勧試は十分できるわけで、そういう意味では調停の要素を否定しているということではないというか、その辺は仮にの話ですが、こういう手続ができたときにどういうふうに運用していくか、むしろ裁判官、労使委員のやり方の蓄積ではないかと思うんですね。
しかし、少なくとも裁定手続で早期に証拠や資料は出してもらって、それでできる限り迅速にやっていく、そういう手続だと思います。先ほど鵜飼委員が言われたように、ある種の保全手続のような要素も持っている。しかし、労使委員が入るという意味では違うという特徴だと思います。
○鵜飼委員 4案でも、簡裁の調停を少し強化していくことは特に排除されませんよね。
○春日委員 ええ、排除はしません。今の制度がそのままあるわけですから、それは別に排除しているわけではありません。
○菅野座長 簡裁の調停に「労働調停」という名前をつける必要があるかどうかについてはいかがですか。
○鵜飼委員 それは平仄を合わせるということですね。
○村中委員 裁定手続の方だと裁定というものが出てしまうわけです。それで後の制度設計の問題になると思いますけれども、放っておくとそのまま拘束力を持ってしまう、債務名義としての効力もある。当事者としては、そこまで望まないというか、とりあえず調停で話し合いだけ持ちたいというニーズがあるのかどうかです。裁定手続の中でも、例えば途中でやめられるというのであればいいのかもしれませんけれども、最後までいってしまうということであれば、そういうニーズはカバーできないわけです。ほとんどはカバーできるとは思うんですけれども。
先ほど山口委員がおっしゃったように、調停になじむものと裁定になじむものと、そういう事件の類型があるのではないかというのは私もそう思います。それには多分、裁定手続としてどういうものをイメージするかということもかかわると思うんです。ですから、裁定手続の中にも何か種類の違うものがある、権利義務的なものについては訴訟と同じような感じでやっているけれど、裁定手続の中では利益紛争的なものもあって、それは調停的な感じで利益調整的なこともやっている。要するに両方を包摂したような手続だと考えるのであれば、その点は裁定手続の方に利益調整型がきてもいける。そういう裁定手続のイメージの仕方によるのかなと思います。
○鵜飼委員 その労働調停のニーズがあるかどうかについてですが、1つは管轄の、例えば訴額が20万円とか30万円とか、これは少額訴訟が今度広がりますから、少額訴訟で使えばよいのかもしれませんが、単純な未払い事件の場合はどうでしょうか。この裁定型の場合は私は地裁だと思うのですが、例えば訴訟に移るときに簡裁管轄の場合にはどういうふうになるんでしょうね。自庁処理ができるのでしょうか。その辺も議論しなければいけないことだと思いますが、もしそれができなければ簡裁ということになりますね。
○春日委員 その辺は議論を詰めないといけませんし、技術的な問題も含めてということで。
○鵜飼委員 ええ、それは後で議論したいと思います。
簡裁の労働調停もニーズが全くないことはないとは思うのですけれども、ただ、裁定型ができればかなりの紛争がこちらにくるのではないかと私は思いますが、いかがですか。スクリーニングといいましょうか、やはりされるのではないかと思います。
○春日委員 前回、山川委員もスクリーニング機能は果たすだろうというようなことはおっしゃっていたと思うんですね。
○鵜飼委員 申立ての費用が低廉になり簡易化されてくると、多くの労働者にとっては利用勝手のいい制度になる可能性が高いと思いますね。ただ、そのスキームの3番目はこだわりたい部分があるのですけれども。
○春日委員 どの手続でもそうなのですが、後ろに訴訟があるわけですから、この手続自体を重くしてはもう意味がなくなってしまう……だからこそ期日3回、あるいはどういう形で迅速化を図るかという問題が当然あるだろうと思います。
○村中委員 調停と裁定で、裁定の方はどこまで証拠調べをするかという問題はあるのかもしれませんが、ある程度の争点になりますと、専門的な知識が当事者側にも要求される。だから弁護士が使われるケースが多くなるのではないか。そうすると、そこまではやりたくない、本人でやりたいというケースは案外調停にいくかもしれないですね。ですから、合体・融合案も裁定という形になってきたら、非常に強い効力になってきますので、弁護士がついていないとなかなか厳しいものがあると思われるので、そうすると調停が独自のものとしてあって、それは話し合いがつかなければ、それはそれで終わりにして、弁護士をつけるかどうかはまた後で考えるという可能性もあっていいのかなとも思います。
○山口委員 簡裁の民事調停で、というお考えなのですか。
○村中委員 それはどうでしょう。地裁で労働調停をやりますと、要するに労使も入ってという話になってきます。そういう道もあっていいのかなと思いますけれども、私はすごく欲張りで、簡裁でも社労士のような人が入るものもあったらよいし、これは多分民事調停の中で専門的な人を入れるということですので、地裁では調停手続と裁定手続の2つがある。当事者のニーズ、希望によって選ばせればよいと思います。そういう制度設計でいけるのじゃないかなと思います。最初のほうはそう考えたのですが。
○髙木委員 議論の進め方についてですが、要は裁判手続の中に労使を関与させることの当否についてはこの場ではノーだという結論を出したということですか。
○菅野座長 そのような趣旨ではありません。今回の3委員からの御提案としては出されなかったというだけです。
○髙木委員 私が申し上げてきた意見からすれば、参審制として、きちんと裁判内に入れてほしいという立場ですから、専門委員制度のような話もどうかと思いますし、参与制というのも本当によい制度かどうかの確信が持てませんから、そういう意味で参与制を中間形態、妥協の形態として考えることについての問題提起は確かにしませんでした。
今のお話ですと裁判内における関与についてはノーと。だから、審議会の意見書において示された事項についての「可否」は否という結論を出してなされるのであれば、その後の議論をしてください。
○菅野座長 裁判制度の中での参審制についてはご存じのような議論の状況、つまりは対立の状況があります。その中で裁判制度そのものについて中間的な方向がありますかということ、そういうアイデアをさらにこの場で念を押して議論していただきたいというふうに思っております。御意見は、参与制度を考えてほしいということでしょうか。
○鵜飼委員 固有の訴訟手続の整備に関する部分も今の問題と若干絡んでいるのでよろしいでしょうか。私、本来はペーパーを用意しないといけなかったのですが、先ほどの春日委員の案が非常に重いボールだったものですから、その議論に時間をとられてできなかったのですけれども、それを申し上げてよろしいでしょうか。
○菅野座長 はい、おっしゃってください。
○鵜飼委員 労働事件固有の訴訟手続についてもこの間議論してまいりましたが、少なくともこの時点でこのぐらいのルール化はぜひお願いしたいという点に絞ってお話ししたいと思います。ですから、それ以外の部分はあきらめたというわけではないのですけれども、少なくとも改革審の意見書を踏まえて、このぐらいはこの検討会で実現すべきではないかと私自身の思っているところについてです。
1つは、まず共通認識として、解雇事件を通常訴訟手続で処理できるようにすべきではないかという点が私の問題意識です。これはこの間の御議論の中で、どうでしょうか、コンセンサスができつつあるのではないかと私自身は勝手に思っているのですが、要するに現状は労働事件の最も中核をなす解雇事件、これは雇止めとか終了に関する紛争ですけれども、これをやむを得ず保全手続、仮処分で対応している。解雇事件を代表にあげますけれども、大きな流れが仮処分の方にいっている。仮処分から本訴とか、直接本訴にいくのは、時間の見通し等を考えるとなかなか難しい。この流れを、以前、矢野委員が外国に行っても胸を張れるような日本の労働裁判をというようなことをおっしゃって、私もつくづくそう思ったのですが、保全手続を利用しなければいけないこの現状は、何とかこの機会に変えないといけない。もちろん仮処分の本来の趣旨、保全制度の目的に沿った労働事件の利用の仕方はありますので、それを排斥する意味ではありません。しかし、最も典型的な解雇事件を利用できる本訴の手続は今考えないといけないのではないか。この部分をぜひ共通認識にしていただきたいという思いが1つです。
それができるのであれば、私のアイデアは1つのたたき台でありまして、あとは迅速性、適正性、そして納得性という3つのキーワードがあります。納得性は、まさに労働参審制に関連する部分であり、私はそこでさらに迅速性、適正性を担保するものであると私は思います。もし、どうしても参審制がだめというのであれば、少なくとも評決権はない、それ以前の段階までの参与制を求めたいと思うのですが、適正性、迅速性、納得性を担保する解雇事件を処理する訴訟システムとしては、まず1つには解雇事件の特性に鑑みて、特に「迅速な処理」をうたうべきではないかと思います。新しい民事訴訟法の2条で裁判所と当事者の責務として迅速処理等をうたっています。私は、解雇事件については特に迅速に処理しなければいけないと思います。要するに、解雇された労働者が裁判を利用するためには、何度も言っていますように、生活の基盤が奪われる中で裁判を利用するという非常に困難な状況にありますので、特に迅速。これは「優先処理義務」と言ったことがありますが、やはり迅速にしなければいけない。これは当事者、裁判所の責務として、運用の指針としてうたうべきではないか、裁判迅速化法もございますので。これが第1点です。
第2点は、計画審理の原則化です。これは民事訴訟法の改正で、複雑な事件について計画審理が導入されることになりました。私は解雇された労働者の現状を考えますと、例えば家族、中学生、高校生、大学生の子どもを抱えている、例えばお父さんが解雇されたという場合に、この裁判がどういう見通しで進んでいくのか、いつごろどういう結論が出るかという見通しの問題が非常に大きな要素を占めています。そのときに、子どもの進学をどうするかとかいろいろなことを考えながら、あるいは次の転職をどうするかと考えながら、しかし見通しが立たないのであればなかなか裁判は利用できません。
先日の労働訴訟協議会で東京地裁の労働部の裁判官と我々とで協議をしたのですが、その中でも解雇事件は計画審理に該当する事件ではないかという意見も出ました。私はまさに解雇事件については計画審理を導入すべきだと思います。これは改正民事訴訟法147条の2と3に、解雇事件は計画審理を導入するということをうたえばいいのではないか、私もそこまで詳しくは検討していませんけれども、そういうことではないかと思います。青写真なき解雇事件の紛争処理は当事者にとって非常に厳しいものがあります。
3番目は、迅速かつ見通しが立つようにするために必要なものとしては、争点整理と証拠整理をいかに速くするかということで、これも協議会の中でいろいろ議論しておりますけれども、やはり運用だけでは不十分で、指針を出すべきだと思います。解雇や雇止めの理由とか具体的な事実、主要事実や重要な間接事実、それを裏づける書証、さらには解雇理由に対する反論、あるいはそのための具体的な事実、主要事実や重要な間接事実、さらには裏づける書証、この争点整理と証拠整理をなるべく速くする。したがって、計画審理の段階でできるだけ早期にこの期間を定めて、争点整理、証拠収集の期間を早く終了させるなどの運用指針を出すべきではないかと思います。
4番目の証拠調べは、現在は集中的に行うことになっていますが、これは1回で集中的に行うようにする必要があるのではないかと思います。もちろんどうしてもだめな場合は別ですけれども、解雇事件では原則1回の期日で集中して行うこととすべきではないかと思います。
5番目はタイムターゲットですが、ドイツ、イギリスのいずれもタイムターゲットを設けています。ガイドラインということになると思うのですが、これはイギリスなどでは答弁書を2週間、集中審理は26週間以内、判決は直ちに、あるいは何週間以内ということになっていますし、ドイツでも同じようなものが、特に解雇事件については特に迅速に2週間以内に答弁せよ、というようにいろいろあります。それも現状の日本でどこまでできるかという問題はありますが、現行では規則で第1回の期日が30日以内、判決は2カ月以内となっていますが、これも現状との絡みがありますが、1つは、雇用保険の給付の期間がありまして、最大が10カ月です。これを1つの参考にしながら、タイムターゲットもガイドラインとして受理から判決まで10カ月を1つの目安にすべきではないか。そのために第1回期日、第2回期日をどうするかという点は、訴訟協議会でも議論がありまして、コンプリートに第1回期日を早くするのがいいのかどうかという議論もあります。ただし、少なくとも集中的な証拠調べの期日は例えば6カ月以内に入れるとか、そしてそれを目標にしながら争点整理、証拠収集の日程を設定するということになりますと、これも長めに見たものなのですけれども、大体6カ月以内にすべきではないか。あるいは判決は、結審後1カ月以内とすべきではないかと思います。これが5点目です。この辺は、どういう法形式にするかという問題もありますが、私はそう思います。
6番目は定型訴状ですけれども、これはこの間、私もモデルを出しまして、山川委員から就業規則についての言及がありましたので、それを入れて定型訴状をつくりたいと思いますが、それを各相談窓口に備えつけて周知徹底を図ることをぜひお願いしたいと思います。
最後に、訴訟の目的の価額の件ですが、現在は過去分と将来分を足して、将来1年分ということを計算して訴額を計算し、収入印紙の額を定めておりますが、これを1年以内に終らせる、10カ月以内に終らせるということを議論しているわけですから、労働契約関係の存在を確認するのが解雇事件の紛争の中核と考えますと、非財産上の請求で160万円を上限として訴額を計算することにしたらどうでしょうか。
今のところこの辺を考えておりまして、特に1から5の論点についてぜひご議論いただきたいと思います。
○菅野座長 時間の区切りですので休憩を入れましょう。それでは10分間休憩いたします。
(休 憩)
(再 開)
○菅野座長 それでは再開させていただきます。休憩前に、3委員が出された中間的な制度の方向性についての代表的な類型をめぐって議論していただきまして、それについての御意見が幾つか出ました。そのバリエーションがあるという内容も出ました。髙木委員からは、裁判制度そのものについて、その中での労使の参加について考えるべきだという御意見も出されました。鵜飼委員からはそれとの関連で、解雇事件を中心に労働事件固有の訴訟手続の整備に関する御提案があり、その中でも参審制がだめなら参与制を導入してはどうかという御提案もありました。これらの議論を続けていただきたいわけでありまして、私としましてはできるだけ徹底的におっしゃりたいことをおっしゃっていただきたいと思います。どうぞ忌憚のない御意見をいただきたいと思います。
○矢野委員 以前、それぞれの国にはそれぞれの国にふさわしい社会安定システムがあって機能しているというお話をしました。私どもは世界各国の経営者団体と非常に親しい関係にあるのですけれど、ヨーロッパの国がどのように参審制を考えているのかということについて意見を聞いたみたのですが、御参考までにオランダの回答を紹介したいと思います。オランダでは労働事件は職業裁判官により通常裁判所で民事事件として処理されています。これまでも何度か労働裁判所を別に設立しようという職業裁判官以外の人の参画による裁判ということが論議されてきたけれども、結局は今の制度を変えるつもりはない、変える必要はないという結論になったという報告です。現在の形によって公正性、あるいは判断の正当性は維持されていると信じているということです。
同じ地続きのヨーロッパでもいろいろな考え方があるという例だと思うんですね。私も何年かヨーロッパで勤務をしておりました。欧州労使協議会というところで、8カ国16人の労働組合の代表、あるいは労働組合のないところは従業員代表が参加して定期的に会合を開いていましたが、こうした問題について自分の国の制度と他国の制度を比べて、自分の国の方が優れていると言う人もいないし、ほかの国の方が優れていると言う人もいないしで、それぞれに歴史や文化を踏まえて、自分たちの国の制度のありようについてはそれなりに根付いているという印象を受けました。
ですから、日本で制度改革を考える場合に他国の例を参考にするのはよいと思うのですが、その必要性ということですね。私はその必要性の問題をこの場でも1、2度指摘したのですが、それに対して十分納得のいく説明がまだなされていないと思っております。国民参加という側面で紛争解決、問題解決のために労使というか中立的立場の第三者が入ってやる参加の仕方については、基本的にはいいことだと思いましたので、それは労働調停という形でやればいいと考えたわけですね。それでも今までの仕組みに比べれば大きな進歩だと思いますし、そこでしっかり事実を積み重ねて、そういうものに対する本当の信頼性が社会の中に高まっていくことがまず大事なのではないかと今は考えているわけです。ちょっと補足的な説明になりますが、申し上げておきます。
○髙木委員 また最初から参審制の長所、欠点論を議論しますか?先日、日弁連のシンポジウムにドイツやイギリスの裁判官に来ていただいた際のお話を聞いて、私は一層確信を持ったのですが、その国々にそれぞれに文化がある云々という文化論とか国民の意識論は審議会時代も、例えば陪審制、刑事の参審制等を含めていろいろな議論が行われて、文化論というのは論理としてはみんな反対の道具に使われる。それは日本で今はやっていないことですから、実施するに当たっては将来うまくいくかどうかという懸念があることは私も否定はいたしませんが、それでうまくやられている国がたくさんあるわけですし、そういう意味で非常に不安が大きいと言うなら、小さく産んで順番に育てていくやり方もあるのかなと思っております。オランダの仕組みは私も詳しく存じませんので、ほかのサブシステムも含めてどうなっているのか。私も一度勉強してみますけれども、世の中を大きく変えようというときに、あるいは21世紀の今、3,000件ぐらいの事件数が、恐らく数年のうちには5,000件になり、万の大台に達するのはそう遠い将来ではないと、いろいろな職場の実感を通じてそういうふうに予測するのがむべなるかなと実感することが多いものですから、そういう先々のことも踏まえて、事件数の大幅増に対処するという側面も含めて考えていく必要があるのではないでしょうか。事件が速く解決されるというとラフジャスティスという御批判をなさいますけれども。
次回で結構ですから、今までの議論を総括していただいておりますので、その中で有用性というか、効果・長所と言われている議論と否定的な議論の論拠をもう一遍両方を並べて配っていただくとよいかと思います。今までいろいろなことをいろいろな方がおっしゃってきたと思いますが、それは今まで大分議論してきた話ですから、私自身はここで繰り返しませんけれど。
裁判システムの中で労使を参画させるということも、例えば参審制についても、いきなりその体制がきちんとできるかという御懸念もありましたので、それでは事件類型を限ってそれでスタートしてみたらどうなのかという御意見も申し上げきたこともあると思いますし、専門委員制度は論外だとは思っておりましたが、例えば参与制でも運用の仕方の部分でいろいろな工夫があるのかなとも思ったりしておりました。私はともかく参与制よりは参審制がよいと確信しておりますから、参与制へのアレンジの仕方等を具体的にお話ししたこともありませんけれども、審議会の意見書が求めたのは労働参審制というか、それもヨーロッパのすべての国ではないかもしれませんが、多くの国々の参審型労働裁判に一定の評価を与えて、この検討会に検討を促したということなのでしょう。意見書を何度読んでみましても、私はそういうふうに読めるものですから。
○矢野委員 大体タネはつきましたね。
○髙木委員 2人に議論させておいたらいつまでもたっても埒があかないのではないかということだろうと思います。失言ついでに最後に申しますけれども、嫌なものは嫌と頑張っていたら物事は何も進まないわけです。いいとか悪いとか、それなりのことをおっしゃるわけですけれども、全体的にロジックなりをお伺いしたときにはやはり嫌なものは嫌と言っておられる。失礼ついでに申し上げておきますが、これから21世紀の労働秩序の安定は、労働者の立場もありますけれど、企業にとっても非常に大切なことで、先日、ドイツのドーデンホフ判事が、この制度をドイツの経営者は安心賃として見ている、経済、産業あるいは企業の労働秩序の安定のために経営者側はこの仕組みに参加する意味を高く見ているのではないかと、これは日弁連のシンポジウムの席だったでしょうか、そういう御発言があったことを御記憶の方も多いと思います。このぐらいにしておきます。
○矢野委員 ドイツの経営者連盟やイギリス、イギリスは日本経団連のような組織になっていてドイツは前の日経連と経団連のように分かれているのですが、それぞれ自分の国の制度はそれなりに安定していると言っているんですね。私はそれを一度も否定したことはない。けれども、同じ地続きのところでそのような制度は必要ないと言っている国もあるということを知って議論するのも必要なのではないでしょうか。なぜこういうことを言うかというと、何度も言いますが、なぜ改革しなければならないかというその必要性の議論をするときに、大きな理由として挙がったのは、ドイツやイギリスでうまくいっているからということが1つと、もう一つは、日本でも国民参加が必要だろうという議論だと思うんですね。そして、個別紛争が増えていくだろうという認識も変わっていないのですが、第一の理由の、外国でやっているから日本でもやれないはずがないという御発言も大分前にあったのですが、しかしそれはそういうものではなくて、日本の中で本当にその必要性があるならやればいいのであって、1つの参考資料にすぎないということですから、国々によってはまだまだいろいろな意見があって、ドイツ・イギリス式が一番いい方法だという考え方は存在していないということを申し上げているだけなんですね。問題として、それは外部事情ですから置いておいて、日本の中でその必要性があるのかどうかということになったときに、これまた同じ議論になってしまうのですが、ある意味では日本的なシステム設計だと思うのですけれども、労働調停まで含めてADRをどんどん拡大していけば、そこで多くは吸収できるだろう。確かに紛争は増えるに違いない、この認識はのっけから申し上げているわけですが、相当数の問題は途中で解決されて、裁判も増えるでしょうけれども、よく引用されるドイツの60万件というような形にはならないわけで、60万件のうちの大部分は日本ではADRで解決されていくわけですから、そこに制度設計の視点がないと現実的ではないのではないかと思うんですね。私は反対のための反対はやったことがありませんので、必要性の議論から考えて必要がないと言っているわけであって、そういう観点でいろいろな人の意見に耳を傾けると、そんなにおかしな意見でもないのかなと自分で思いながら主張しているのですけれども。
こういう議論をして、どこに落ちつくのかなと思うのですが、そういう意味で髙木委員から見られるとほんの少し進歩していない意見なのかもしれないけれど、私は3人の委員がこういう状況を慮って、これに賛成・反対は今は言いませんが、出していただいたことについては、時間も切迫しておりますから大変ありがたいことだと思っています。
○春日委員 我々の提案を尊重していただいて大変ありがたいと思うのですが、矢野委員と髙木委員のおっしゃることも、双方それぞれもっともだと思うんですね。なおそれにつけ加えて、我々のこの案についてもう一言だけ言わせていただきたいと思います。
まず、矢野委員は制度設計の現実性、外国のものはしょせん外国のものというか、それを尊重しないわけではないけれど、日本独自のものがあるとおっしゃっているわけで、我々の案も改革審の適正・迅速な労働紛争の解決ということで、外国のものも考えつつ、日本型のものとして出そうと思ったんです。そういう意味では、なにも外国の制度が云々とそれだけでこの提案をしているのではないということは御理解いただきたいと思います。
髙木委員からは、小さく産んで大きく育てると。我々としても、一気に参審制にいけるか等いろいろなことを考えると、そこまでは無理かもしれないけれど、とにかくここで言っている裁定手続のようなもので労使双方に加わっていただいて、そこで充実した手続をやっていければ、それは参審制に弾みもついていくだろうし、そういう含みもあって、とりあえず小さく産んでそれを労使双方でうまく運用していただいて新たなワンステップをつくっていただきたい。そういう気持ちでこれをつくっているわけで、そういうことを御理解いただきいということだけ、申し上げさせていただきたいと思います。
○鵜飼委員 矢野委員と髙木委員は日本を代表する経営側と労働側の方ですし、矢野委員も髙木委員も外国の経験が深くていらっしゃるので、私が意見を言えるのかどうか自信がないのですが、ただ、労働裁判の問題ですから若干言わせていただきますと、ヨーロッパで労働裁判所あるいは労働裁判手続、労働参審制を導入していない国は、私が調べたところオランダだけなんですね。イタリアやスペインも労働裁判の特別な手続を設けております。イタリアについては労働参審制があったのですが、ムッソリーニの時代になくなったと物の本で読みましたが、外国のものをそのまま引き継ぐべきだと私は思いませんが、ただ、ドイツとイギリスは法体系も司法制度も歴史は非常に異なっている国であることは矢野委員も十分ご存じだと思いますけれども、それでもなおかつ普遍的な共通性が、特に労使が参与することによる教訓といいましょうか、有用性といいましょうか、激動しグローバル化する社会の中でその知見を導入することの意味、それが双方にとって有用性がある。これは矢野委員が一番ご存じなので詳しく言うまでもないと思いますが、それをその間、特にドイツとイギリスの裁判官がいらして、両方に対して同じ質問をして同じ答えが出てくることを体験して、やはりなるほどなと思ったんです。普遍性があるのではないかという思いがいたしました。したがって、日本の労働裁判はこの50年間、戦後直後の状態から現在に至るまで、一般民事訴訟手続を使って非専門的な……ということを申し上げると怒られますけれども、通常の裁判官がローテーション人事でやっていらっしゃる。こういうやり方は、激動する雇用社会、グローバル化の中でやはり変えないといけないだろうという思いは、皆さんの共通な思いではないかと思います。
そして、先ほどの仮処分のところはぜひ皆さんの御意見をお聞きしたいのですが、保全手続は本案訴訟の権利実現のための暫定的、仮定的な権利の保全なんですね。それを利用せざるを得なかったということは、胸を張って世界に説明できないと私は思います。例えば解雇事件で解雇された労働者が迅速にこういう形で処理するシステムがある、そして多くの人たちがこれを利用しているということを、外国に行ったら何とか説明したい。そうすると、保全手続ではいかにもおかしいのではないかと私は思っているのですが、これは私の一方的な意見なのでしょうか。保全手続は労働事件でも利用されるケースがあることは否定しません、しかし解雇事件の多くがそちらにいくという状態は、私はおかしいと思います。
○村中委員 迅速な処理については私もそのとおりだと思います。仮処分がそういう形で利用されているのは本来の筋とは違うだろうと私も思いますから、今回せっかくの機会ですし、とにかく迅速に事案が処理できるようなシステムをつくりたいと思います。
矢野委員がおっしゃるように、調停であれば確かに迅速な処理もある程度可能になるかもしれませんし、日本人の国民性からは調停がなじむという議論も結構強いと思います。私は労働事件の調停に対しては懐疑的な立場を以前からとっておりますが、ただし実際にニーズがあることも確かなのだろうと思います。調停でかなりの事件数が今後処理されるだろうとも思いますが、しかし調停を生かすも殺すも、その背後に判定的な手続がどのような形でひかえているかです。訴訟手続でも何でもいいですから、とにかく結論が出て、それが強制力を持つような手続が迅速になされるということがないと、調停においてもその調停はまとまるものもなかなかまとまらないのが真理だろうと思います。
そういう点から考えると、専門性を高めて迅速・適正に事案を処理できる制度であることが調停を生かすための最低条件で、それが訴訟手続であるというのが本当の姿なのかもしれませんが、日本の現状を考えたときに、裁判所にそこまでの専門性を訴訟手続の中で求めるのはなかなか難しい状況にあるのかもしれません。そうすると労使の方に入っていただいて、今日御提案させていただいたようなものの中で専門性を高めた形で迅速・適正に一定の判定を下すものがあれば、調停もよりよく機能することになるのだろうと思います。調停だけということになりますと、調停も機能しなくなると私は思います。
○山川委員 遅れてきまして失礼しました。したがって、発言がピンボケになる可能性も高いのですけれども、補足的なことですが、制度の位置づけについて、特に裁定については、判定作用、権利義務の判断を実体法を適用して行った上で解決案を下すスキームになっております。その趣旨は、村中委員がおっしゃったように、調停のような解決案の提示のみではないということが1つあります。一方で、しかし権利義務関係についてずっと以前に申し上げたのですが、労働関係上の紛争は継続的な関係等から訴訟物という形で判断をしただけでは解決できない側面があります。したがって実体法がそれを反映して、つまり裁判所独自にさまざまな形成的な判断を下せるという実体法と救済法が合体したようなものがあれば話は別なのですけれども、そうでない現状のもとでは、権利義務の判断をした上で当事者にとってより有効な紛争解決案を提示するシステムがあった方がよいのではないかと考えました。労働委員会もある意味ではそのようなもので、労組法7条の該当性という、権利義務ではありませんが実体法上の判断を行って適切な解決を下すことを担っていて、ただし命令は行政処分ですから、取消訴訟でいろいろな課題が生じているところですけれども、それを裁定という形で行うとすれば、一種の裁判ではあることになります。裁判ではあるけれども一種の形成的な作用を持ってくる。しかし、それは訴えの提起のような形の手続で、簡易な形といいますか、労働委員会のような行政処分という形をとらないという説明になるのではないかと思っております。
したがって、現行の実体法のもとでの労働裁判、労働訴訟の限界に一定程度の対応をし得る仕組みではないかと思っております。一方で前回も申しましたような迅速性の要請もこれで満たし得るのではないか。具体的に詰めるべき点はあろうかと思いますが。
ちなみに外国の例で言いますと、アメリカは勧告的な仲裁を訴訟において前置する仕組みをとっているところがかなり増えています。ある意味では今回の案もそれと似たようなところがあります。ただ、訴えの提起というフォーマルな道はたどらなくて、裁定ないし調停の申請というインフォーマルなところから入ってくる。そういう位置づけになろうかと思います。また、アメリカは州によって違うのですが、勧告的な仲裁を前置する仕組みも結構あるわけで、しかしこれまでの議論ですと、調停前置など前置的な仕組みは必ずしも有力ではなかったと思いますので、複数の手続の調整は詰めるべき点はなおあるとは思いますが、それよりも別の手続を創設することでやってみたらどうか。私自身としてはそういう思いもあって、幾つかの選択肢の議論に参加させていただきました。
○村中委員 私はもう一つ重要な点として、国民に対するアピール度のようなもの、やはり労働裁判は変わる、裁判所は労働事件に対して変わるのだというアピールが必要だと常々考えていて、そういう意味でも参審制は非常にアピール度が強いだろうと今でも思っております。ただ、1つは裁判というものに対する意識はなかなか変わらないかもしれません。参審も裁判なわけで、そうするとそれだけで当事者がしり込みする可能性が相当あって、アピールはしたけれどユーザーはしり込みしているという状況が当初はあるかもしれないです。その心配が若干あると思います。そういうことであれば、裁判ではない、しかし一定の判定を下す、強制力もあるというものを外につくった方が、国民にとってはなじみやすいのかもしれないし、訴える力も参審と変わらないでしょうから、実際にそれでできるという部分があるのだろう、それがさらに迅速化を担保しているのではあれば、より使いやすくなるだろうと思います。
労働参審制度をとって、労働事件に関して特別な手続をとって例えば3回で終わるような手続をということもあり得るのかもしれませんが、そうすると同じ裁判の中で労働裁判だけを特別にすることが、要するに裁判とはこういうものだという国民の意識との関係から、労働裁判だけ簡単にやられているというか、粗雑にされているという意識も逆に持たれやすいのではないかという心配もあります。そうであれば、当面は訴訟手続とは区別されたところからスタートした方が、国民の側からは利用しやすいことになるのではなかろうかとも思います。それほど強い説得性をもつ議論ではないかもしれませんが、そういう側面も考えられるだろうと思います。
○山川委員 先ほど1つ言い忘れたのですが、鵜飼委員が言われた仮処分との関係です。仮処分は本来的には本案訴訟の枠内で保全の必要性に応じて暫定的な救済を与えるという観点からいわば請求を限定するような仕組みになっていると思います。したがって、解決案の提示という意味では本案訴訟と同様の制約を免れなくて、しかも救済が本案訴訟よりも限定されるようなものになってくる。その意味で提案した幾つかの手続とは違っているという位置づけが可能だと思います。逆に言いますと、ある意味で仮処分が本来の、といいますか、他の分野で使われているようなものに純化しつつ、このような別個の手続を違う観点から設ける、つまり暫定性という観点から本案の請求を限定する手続とは別の解決案を出す手続として、仮処分とは区別できるのではないかと思います。
○山口委員 1案から4案までをいただいたのが間際だったもので、まだ十分に検討しておりません。ただ、春日委員が前回おっしゃった案は第4案ということでしたので、この関係で考えてきたことを申し上げさせていただきます。
1つは訴訟手続の中に参審制を導入するかどうかということですが、参審制の導入については賛成論と消極論の両説がありまして、その膠着状態は容易に融きかねるのではないかと思っています。
私は前にも申し上げましたが、現状で直ちに参審・参与を入れることについては、基本的には実証的な検討が十分されていない状況で入れるのはいかがなものかというスタンスで申し上げてきたと思います。1つは、労働事件の専門性についてはどの程度の専門性があるかということについても、必ずしも私自身も納得したわけではありません。判例法なり人事制度等一般的な理解の点はともかくとして、個別の事柄は立証の問題ではなかろうか、どこまで専門性があるのだろうかという思いは、率直に言ってぬぐえないところもあり、足りないところは専門委員制度では補えばいいのではないかという思いはまだなおあります。もう一つ申し上げたのは、中立的な立場からの意見が述べられるかどうか。また、その事実認定なり判断能力が権利義務の確定という観点からして十分適切なのかどうかということについても、これもそういう方はあるとおっしゃいますが、それについても検証がされていないのは私が申し上げてきたとおりだと思います。
仮にそういう事実認定なり判断能力があるとしても、その事実認定なり判断能力に基づいて判断をすることと、それが第三者から見て中立的な立場から判断しているのだと見られることとは、また少し違うのではないか。例えば労働委員会の公益委員の中に弁護士も入っておりますが、労働者側の弁護士、使用者側の弁護士が入っている例はそう多くない。そういう中立的な判断をすることについて端から見られることについての検証というか実績というのか、それがないような状況にあるのではなかろうか。そういう他者の目から見てどうかという問題もあるのではないか。そういうことから考えると、参審制を訴訟の中に取り入れることについてのコンセンサスを得るためには、国民の理解を得るための実績を積む必要があるのではないか。そういう意味で言えば、成熟論だと言って怒られましたけれども、やはり今の段階では難しいのではなかろうかと申し上げてきたと思います。それは基本的には参与制度についても言えるのだろうと思っています。
春日委員の第4案については、労使を入れて決定をするということで、しかもその決定が権利義務関係を踏まえたところにどの程度のウエートを置くかは、もう少し議論しないといけないとは思うのですが、基本的には権利義務関係を踏まえて解決案を示すということですから、ある意味で判定的な部分も相当取り込んでいることになりますから、そういう意味で言いますと、労使の中立性なり、あるいは事実認定判断能力に本当にふさわしい方にやっていただけるのかどうかについて、その実績を積むことにもなるとは思います。そういう形で関与することによって、言われておりましたように、労使の現場へ還元する。それは貢献するだろうと思いますし、労使の専門家が入っていることによって判断についての受容性が高まると、日弁連のシンポジウムでは外国の方がおっしゃっていましたが、本当にそうかどうかの検証にもある意味では役立つのかなとは思っております。
回数制限については、迅速処理に資する点で一定程度の回数制限をお考えになったのは、それなりのメリットがあるのだろうと思っています。あとは異議が出たら起訴、強制という形で一定の効力を認めることによって、訴訟へつなげていくということですので、それなりに考え抜かれた案だと思ってはみました。みましたけれども、幾つか問題があるような感じもします。
余り立法の専門家ではない裁判官が言うのはちょっとどうかなとも思いますが、1つは、別の手続を創設するということになると、労働事件かどうかの仕分けはよほどきちんとしておかないと、その辺の判定で渋滞が生じかねない。別のトラックでやるということですから、その点を1つ手当する必要があるだろうと思っています。それから、これをやるとすると申立てがあると必ず相手の方が引っ張り込まれる形になっていますが、では出てこなかったときにどうするのかということも1つあるのではないか。何らかの欠席的な判定をするのか、それとも出てこなかったらそれで終わりなのか。その辺も考えておかないと、出てこなければ何もないというのであれば、余り利用されなくなるだろうという気はしております。
一番の問題として、マンニングの問題はどうしても残るのだろうと思います。訴訟ではない別個の裁定手続ですから、訴訟ほどの認定判断、権利義務の確定という認定判断能力までは仮に要らないとしましても、これによって一定の権利義務について、それを踏まえた解決案を示すということですから、それなりの労働法なり、あるいは人事制度その他労働実務について精通した方でないと、労使の委員としては適当ではないのではなかろうか。そうなりますとマンニングの問題は残る。それについて対応できるかどうかが1つの問題としてあるのではないかと思っております。
もう一つ、実際にやっていくとなると、裁判官の負担は率直に言ってかなり大変だと思っています。労使の専門家が入って、それをリードしつつ短期間内に争点整理をして何らかの解決案を示す。場合によっては和解案も示すということをやらなければいけないので、これは専門部なり集中部があるところならともかくも、全国の地裁あるいは支部にこういう形でつくっていくとなると、担当する裁判官の負担は、かなり大変かなという思いでは見ております。それについては当然、努力することによって労働裁判官の専門性が高められるという反論が委員からは出るだろうと思いますけれども、現実問題としてはかなり大変だという思いはぬぐえません。以上です。
○春日委員 幾つかの問題点を挙げていただきまして、大変ありがとうございます。とりわけマンニングの問題など全部で4点あったかと思います。これ以外にもあるのだろうと思いますが、とりあえず4点ということで、これはまた十分考えさせていただきたいと思います。
○菅野座長 座長が意見を言うのはよくないのかもしれませんが、 訴訟手続の中に参与制度を入れてはどうかという意見が出てきて、それについては私も大分前にそういう考え方を論文の中で書いたこともあります。この検討会でも議論されてきまして、髙木委員が評決権という責任を持った形でないとだめなのだという議論をされました。私は、それはそのとおりだと実は思っているんですね。しかし、参与制度をその運用において参審制度に近づけるという可能性はあるのですが、これまでの議論を追いますと、それに近づければ近づけるほど、今度は参審制の方のデッドロックがかかってくる、こういうことを感じております。そういう中で、今までこの中でなされてきた議論を見ながらそういう精神をどういう形で生かせるのかということにおいて、今日の3委員の訴訟手続そのもの、判決手続ではないけれど、春日委員が争訟的非訟事件と言われましたけれど、それも一種の裁判と言えば裁判ですね。そういう中で労使が裁判官と一体となって何らかの判定をしてみるという提案になったのだろうと見ております。
○髙木委員 菅野座長が参審制のデッドロックと言われましたが、そのデッドロックは経営側、矢野委員に乗り越えていただけるのではないかと思っていました。けれども、どうも最後まで乗り越えていただくことにならないという御判断でしょうか。
これは座長にお尋ねする話ではないかもしれませんが。
○矢野委員 座長が調停委員のようになってしまいますね。
○菅野座長 今日のところはこのくらいにして、さらに議論を続けていただくことになります。次回は今日の3つの論点に加えて、労働委員会の救済命令に対する司法審査のあり方について、厚生労働省の不当労働行為審査制度のあり方に関する研究会において取りまとめられる予定の最終報告の御紹介をいただいて、この課題についても議論していただいて、これも中間取りまとめの中にどう入れられるか入れられないか、これも議論していただくということで、いよいよ大詰めに近づいていくわけであります。もう1回予備日を設定し、それは使うということを申しましたが、それ以上はやらないとお約束しておりますのでやりません。それをお考えいただきたいと思います。また、次回をどのようにするかは御相談申し上げて、今日の御意見を踏まえてお諮りしたいと思います。よろしいでしょうか。
それではほかにありませんでしょうか。
次回の予定をお願いします。
○齊藤参事官 それでは次回の予定を申し上げます。8月1日(金)午後1時30分から4時30分を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。
○菅野座長 それでは本日の検討会を終わります。どうもありがとうございました。(了)