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労働検討会(第28回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年10月6日(月) 10:00~12:30

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第2会議室

3 出席者
(委員) 菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、春日偉知郎、熊谷毅、後藤博、髙木剛、村中孝史、山川隆一、山口幸雄(敬称略)
(事務局) 古口章事務局次長、松川忠晴事務局次長、齊藤友嘉参事官、松永邦男参事官、川畑正文企画官
※欠席の矢野弘典委員の意見を紹介するため、小島浩氏が同席した。

4 議題
(1) 「労働関係事件への総合的な対応強化についての中間取りまとめ」に関する意見募集の結果
  について
(2) 労働審判制度(仮称)の制度設計等について②
   ・ 制度上の主要な論点等についての検討
(3) その他

5 配布資料
資料195 「労働関係事件への総合的な対応強化についての中間取りまとめ」に関する意見募集の結果
資料196 「労働審判制度」(仮称)の導入に関する主要な論点(改訂版)
資料197 労働審判手続(仮称)と訴訟の係属について

6 議事

(1) 資料195「労働関係事件への総合的な対応強化についての中間取りまとめ」に関する意見募集の結果について事務局から説明がなされた。

(2) 「労働審判制度」(仮称)の制度設計等の詳細について、前回に引き続いて検討がなされた。(○:委員、□:座長、△:事務局)

<論点2及び4並びに資料197について>

○ 労働審判制度についての考え方について、前回の補足として意見を述べさせていただきたい。
 今後、検討を進めるに当たっては「中間取りまとめ」の趣旨に立ち返って考える必要があるのではないか。中間取りまとめのポイントは、簡易迅速な手続であること、労働調停を基礎とした互譲による解決を基本とすること、裁判官と雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者が、最終的には、権利義務関係を踏まえつつ、事件の内容に即した解決案を決することにある。 しかし、前回の検討会で出された多数意見は、審判の申立てがあれば、相手方に出頭義務を課すこととし、出頭しない者には過料の制裁を行うこと、解決案を示すことについては、相手方の同意は不要であり、その解決案は同一の紛争について訴えを提起した場合でなければ効力を失わないこと、その訴えを提起する者が印紙代の負担を行うこと、というものであったと理解しているが、これは強制手続に近く、中間取りまとめの考え方と合致していると言えるのか疑問である。
 労働審判制度の目的は、迅速に解決案を提示することにあるのではなく、紛争を迅速に終結させることにある。解決案を提示しても当事者に受け入れられなければ、訴訟になってしまい、結局紛争は長引くだけである。相手方が不同意でも解決案を示すこととするならば、手続を訴訟並みにきっちりと進めざるを得なくなり、迅速に進行できなくなる。
 相手方が手続に不同意のまま進めれば、闘わざるを得なくなるが、同意を得ていれば、解決案に自らの希望を反映させるよう努めるなどして、最終的な解決に結びつくこととなる。相手方の同意を必要とすることは重要である。不同意にもかかわらず解決案の受諾を無理に迫るよりも、手続の入口の段階で同意を得る方が、紛争の早期解決につながるのではないか。
 労働審判手続を進めること自体について相手方の同意を要するとするのは制度として異例ではないかとの意見があったが、例えば少額訴訟手続は、通常訴訟に比較してラフな手続であることを前提に、通常訴訟への移行の手続を設けて当事者の意向を反映させることとしており、制度として異例とは言えないのではないか。
 また、審判手続の相手方が必ずしも使用者側になるとは限らないことにも留意すべきである。
 また、かつて十分に機能しなかったと言われる機会均等調停委員会の二の舞にならないようにすべきとの意見があったが、同委員会は差別事件を対象としており、しかも、そうした事件は日本の雇用システムの在り方そのものに係わるような複雑で特殊な性格を有していたのである。しかし、労働審判制度で扱う紛争の多くは使用者と労働者個人との利益調整的なものになることが予想されるので、紛争のコストを考えれば、手続に同意することは十分考えられるところであり、同委員会と同列に議論する必要はないのではないか。
 さらに、3回目の期日を経た段階で不同意ということになると、それまでの手続が無駄になるのではないかとの意見があった。これについては、例えば、1回目の期日の最終段階で同意をとるようにするなどして、それまでの手続を無駄にしないような方策を考えるべきである。また、不同意であっても、調停を基礎とした制度なので、調停手続を続けることはありえる。
 最終的な紛争解決を容易にするという観点からは、労働審判手続は、入口の段階で同意を要することとし、出口の段階では、異議の申し立てによって解決案の効力が失われることとすべきである。
 権利義務関係を確定する訴訟や仮処分については別個に手続が進められることとし、労働審判制度とは全く別の制度と考えればよい。

○ 紛争解決に非協力的な経営者の存在によって、多くの労働者が不利益を受け、解決を断念せざるを得ないという状況になっている。制度設計にあたっては、社会の全体像を把握し、このような経営者の存在もきちんと認識した上で検討すべきである。
 これまでも任意的な紛争解決手続は整備されてきたが、これではまだ不十分だという声が意見募集等を経て明らかになっており、労働審判制度への期待は高まっている。また、労働者のみならず使用者側や社会にとっても、法に基づいて簡易迅速に紛争が解決されるシステムが整備されることの意味は大きいのではないか。
 労働審判制度の大きなメリットは、他のADRにはない判定的機能を備えているところにある。最後には解決案が出される手続の中で、調整的解決を図ることがよいのである。手続の入口の段階で相手方の同意を要することとすると、同意をしなければ手続に応じなくてすむという認識が広まり、制度自体が機能しなくなるのではないか。
 訴訟との関係については、労働審判制度は訴訟とは制度趣旨が異なるので、両手続の併存を認めることとしてよいのではないか。労働審判は迅速な手続なので、解決案が出されれば訴訟の方も解決に向かう可能性がある。訴訟が提起された場合には訴訟手続を中止できることとし、労働審判手続の進行を見守るという方策が考えられるだろう。

○ 入口で同意を必要とした場合、労働審判手続を望まない相手方は訴訟を選択できることになるが果たしてそれでよいのか。今般の改革は裁判所による労働事件の解決について専門性が不十分であるという認識から始まっており、専門性を積極的に取り入れた形での解決を目指している。手続の最初の段階で同意を必要として、訴訟手続と労働審判手続の選択を当事者の意向に委ねるのであれば、訴訟手続における専門性の向上という議論が出てくる。
 そうした中で、今回、労働審判制度を検討しているのであるから、調停の枠にとらわれることなく、専門性のある紛争解決という全般的議論をすべきであり、多くの労働紛争が労働審判手続によって解決されるような制度設計にしておく必要がある。入口での同意を要件とすべきではない。訴訟との関係についても、なるべく労働審判が利用され、そこで解決が図られるようにすべきである。

○ 労働参審制を導入することは適当ではないということで、労働審判制度を作ることとしたところ、その場合には入口の段階で同意が必要であるという意見が出された。このような手続では、使いにくく、使われない制度になるおそれがある。検討会では、利用しやすく、迅速な紛争解決が図られる制度を作り、個別労働関係紛争の増加に対処しようと検討してきた。
 労働審判制度は、訴訟手続よりもラフだとは言っても使用者側も参加する制度であり、使用者側からみて信頼性がないというわけではないのではないか。手続を進めたくなければ不同意が言える制度ならば、労働者側も利用しなくなるのではないか。

○ 使用者側としては、労働参審制の導入は、現時点では時期尚早であるが、何らかの形で専門的な知識経験を生かしたシステムを作るべきだと考えており、そこで労働調停を導入し、少しパワーアップさせながら実績を作った上で、必要があればワンステップ上を議論すればよいという意見である。労働審判制度を労働参審制に代わるものとは考えていない。

○ 労働審判制度は労使が参加して解決案を示す点に意義がある。調停に代わる決定でさえ同意の有無にかかわらず出すことができることとされている。調停をパワーアップした制度であるならば、同意は不要であろう。また、裁判官と労使の専門家が加わって、責任を持った判断がされるので、同意が不要なのは当然ではないか。

○ 使用者側の視点はアクセスしやすい制度を作るというところからスタートしている。そこで、調停を基礎として、多少拡張して重みを持たせた制度について議論してきた。労働審判制度は調停を基礎とするものである以上、同意を前提とするのは当然だと考えている。ただ、入口の段階で同意した以上、出口の段階で、異議申立てだけで解決案を失効させるべきでないという議論はあるのだろう。しかし、前回の検討会では、手続の入口段階での同意は不要とし、訴訟を提起しないと解決案を拒否できないという意見が多かった。使用者側の考え方とは相当異なるものである。
 また、かつての機会均等調停委員会の調停については、監督機関による指導、助言、勧告が前段階で行われており、労働審判手続とは性格が相当異なる。調停の件数が少ないと言われるが、指導や助言で解決しているものも多いのではないか。それに、同委員会の調停については、平成9年の法改正によって、調停を行うことについての相手方の同意が不要となったにも関わらず、その後、調停件数はほとんど増えていない。よって同意の有無というのはそれほど重大な問題ではなく、双方が同意をした上で調停が行われることの方が重要ではないか。
 訴訟の係属との関係については、先に労働審判の申立てがなされ、同意の上で進行しているところに訴えの提起が行われた場合には、労働審判手続は打ち切らざるを得ないのではないか。また、先に訴えの提起がされた後、労働審判の申立てがあった場合には、労働審判手続の進行について同意が成立しているのであれば、労働審判手続を優先させ、訴訟を中止し、解決案を提示する段階で訴訟を取り下げる旨の条項も含めることにすべきではないか。

○ 中間取りまとめの中でも、労働審判制度においては、調停を試みることとされていることから、労働調停がビルトインされており、当事者の意向を反映した解決というルートが含まれているといえるのではないか。
 また、利用しやすい制度とすることが重要であり、審尋を行って3回の期日で事案を把握して、背後に判定手続が控えていることが調停の成立を促進させる要因になるだろう。さらに、審判の後に訴訟につながっていくことも重要ではないか。あとは、実際に、調停や解決案の内容に労使の専門性を生かして、どれだけ納得性のあるものを出せるかが重要である。
 なお、現在の調停制度でも、調停手続の開始自体に同意を要することにはなっていないのではないか。
 訴訟との連携という観点からは、使用者側が労働審判を申し立てることもあり得るので、別途の検討が必要である。

○ 労働審判手続を申立てられた事件の全てについて解決案を決するとなると処理しきれないおそれがあるが、実際には調停で解決するケースが相当あるのではないか。その意味では、審判とは言っても調停の要素を十分取り込むことができるように期日の進め方を考えていく必要がある。
 また、出口の段階で訴訟を提起しなければ解決案を失効させることができないとすることについては、使用者側の負担が大きいとの意見があった。しかし労働審判は確かに労働者側からの申立てが多くなるとは思うが、解決案の結論についてはどちらかにとって有利なものが多くなるとは言えず、この負担は労使双方が同程度に負うものであると考えられる。事案によって労働者側が訴えを提起することとなる場合もあろう。

○ 当事者は、訴えを提起するか、解決案を受け入れるかの二者択一を迫られるということだが、多くの事件は解決案の提示によって解決するのではないか。

○ 労働審判手続の申立てがなされた後の訴えの提起を制限することは、憲法上保障されている裁判を受ける権利との関係からすると難しいのではないか。労働審判は権利義務関係を踏まえた解決案を出す制度であり、訴訟に近い性質もあると思われるので、二重の手続の併存を避けるためにも、訴えの提起がなされた場合には、その段階で労働審判手続を終了させるのが適当なのではないか。
 また、先に訴訟が提起されている場合には、その事件は基本的には難しい事件であると考えられるので、審判手続で扱うことは適当でないと考えられ、後から申し立てられた労働審判手続を中止させるとか、相手方の同意を得させる等の手当てが必要になるのではないか。
 いずれの場合についても、両手続を並行して進めることは適当ではないと考えられる。
 労働審判制度は、どれだけ簡易、迅速に、専門性を生かした解決ができるかにかかっている。裁判官と労使の専門家が加わって妥当な解決案を示せることが大前提である。非常に複雑で3回の期日では解決案が出せないような事件は、労使の専門家の意見が一致しないことがあり、軽々には結論が出せないので、そうした事件まで扱う必要はないのではないか。出される解決案のイメージとしては、比較的簡単な事件について、労使の専門家と裁判官の意見が概ね一致するものであることを念頭に置いて考えるべきであり、その場合には、解決案に一定の効力を認めてもよいのではないか。また、難しい事件が来ず、専門家が関与することで不適当な解決案は出ないという前提ならば、入口段階での同意は不要ではないか。
 3回の期日については、第1回の期日で双方の主張や資料を出してもらうとともに、労使の専門家が入って話し合いを進め、解決されない場合には2回目の期日で人証調べ等を実施し、3回目で最終的に解決案を提示するというものをイメージしているが、最終的に解決案まで出されるケースはそれほど多くはならないのではないか。

□ 労働審判手続は、3回の期日で事件の処理が図られることを眼目としているので、この手続になじまない事件をどう取り扱うか、別途考えておく必要があるのではないか。

○ 手続の開始についてどうしても同意を取らなければならないような事件は、難しい事件であって、そもそもこの手続になじみにくいのではないか。そのような事件については、労働審判制度と訴訟との併存を認めて訴訟手続の中で処理できるような余地を残しておく必要があるのではないか。

○ 現行の調停制度では、調停をしない場合について定められているが、労働審判制度においても、申立てがあれば基本的には処理すべきであるが、事案によっては解決が難しいケースが考えられる。そのような事件については審判手続を終了させることができるような手続を考える必要があるのではないか。
 訴訟との関係については、基本的には訴訟と労働審判の制度趣旨は異なるので、両制度の併存を認めておいて、一定の段階で調整ができるように、訴訟を中止できるようにする仕組みを作っておくことがよいのではないか。一律に一方の手続をストップさせるというのは難しいのではないか。

○ 労働審判制度が入口で同意を要する制度となり、入口で相手方が同意をしないことが多くなると、最初から訴訟を利用しようということになってしまう。
 また、できるだけ柔軟な手続にすべきであるとの意見があるが、柔軟という言葉の意味をよく吟味する必要があるのではないか。ルーズなものでよいという趣旨ではない。

○ 3回の期日で最終的な紛争解決につなげる観点から考えると、不同意であるにも関わらず解決案を出したとしても、必ず訴訟に行くことになる。示された解決案を無理に受け入れさせるよりも、解決の筋道を示し、納得させた上で、利益調整の枠内で手続が進められていく方が、解決の可能性が高まるのではないか。

○ 仮に労働審判手続で進めることについて同意をしていないとしても、何らかの結論が目の前に出されることの意味は大きいのではないか。それによって、紛争の解決につながる可能性も十分出てくるのではないか。

○ 解決案を示してから当事者を説得するよりも、1回目の期日で事情を聞き、解決の道筋を示して同意がされるように説得した方がよいのではないか。

○ これまでの紛争解決制度には応じなかったような非協力的な相手方を手続に参加させることに大きな意味があるのではないか。

○ 当事者の意思を反映した解決の方法は、入口と出口の双方の段階で考えられるが、慎重な審理を希望するのであれば、仮処分異議のように訴訟に移行するという考え方もある。審判手続や解決案を無駄にしないように、訴訟費用は不服を申し立てる側に負担させるのが適当である。
 アメリカの訴訟付属型仲裁は、仲裁に対して異議を申し立てれば正式な審理がなされるが、その場合には、それまでの簡易迅速な手続に意味を持たせるために、不服を申し立てる側に仲裁人の報酬等を負担させるような仕組みとなっており、慎重な手続を利用できるようにする方策は考えられるのではないか。

○ 解決案について一定の期間内に提訴がなければ効力を発生させるというように、停止条件付きのものとする考え方もあり得るのではないか。

□ 労働審判が申し立てられてから、相手方が訴えを提起した場合、解決案を決することとすると、2(1)の立場に立っても、相手方は異議を述べるのみで失効することとなるのか。

○ 相手方の提起した訴訟に労働審判の申立て内容と同一性があるのであれば訴え提起という要件を満たしていると言えるのではないか。

○ 仮に労働審判と訴訟の併存を認める場合には、解決案に対して更に訴えを提起することは二重起訴となりできないと考えられるので、異議を述べるのみで失効することとしてよいのではないか。

○ 二重起訴は認められないので、異議を述べるのみで失効することとしてよいと考えられる。既に訴訟が提起されており、異議も述べられているので、特に問題はないと思われる。

△ 労働審判の申立人が解決案に不服の場合はどうか。

○ 当事者のいずれかから訴えが提起されているのであれば、異議のみで失効することとしてよいのではないか。

△ 訴訟を提起しなければ失効させられないという仕組みが、不服がある人に重い負担を課すべきだという考え方を前提としているのであれば、その前提がなくなるケースが出てくることについて別途検討する必要があるのではないか。

<論点8及び9について>

○ 労働審判の申立ては、当事者が簡易に行えるようにすべきである。
 1回目の期日前には、裁判所が事前に当事者に対して資料や主張の提出を求めることが考えられる。また、当事者の出頭を確保することが重要であり、当事者が欠席しないように期日を設定すべきである。
 手続は1,2回で終了する場合もあろうし、4,5回かかる場合もあると考えられる。柔軟に対応すればよいのではないか。
 また、労働審判は、非訟手続ではあるが、権利義務関係を踏まえた解決案を示す制度であるから、手続の公開性を担保しておくべきである。
 申立ての費用については、家事審判と同様に、特に低廉な費用とすべきである。

○ 労働審判制度は簡易迅速に紛争を処理することが重要であり、難しい事件であっても3回で手続を終えるべきである。それを超えてしまうと制度のメリットが失われるのではないか。したがって、3回の期日の中でできる範囲のことを行うこととすべきであり、手続の進行を当事者に委ねるのではなく、多少職権主義的な色彩の強い手続でないと対応できないのではないか。

○ 手続の迅速性を確保するためには、期間の問題もある。1回目の期日で資料を十分に用意できるかというとなかなか難しいのではないか。1回目と2回目の間に、資料を出してもらう等の準備のための手続を入れることが必要ではないか。本人に1回目の期日までに全て準備させることは困難であろう。

○ 労働審判は、原則として3回の期日で行うことを守る姿勢が必要であろう。
 手続の公開については、非訟手続なので非公開が原則である。非訟事件手続法第13条のように、例外的に傍聴を許すことができることとすればよいのではないか。

○ 労働審判で必要となる資料については、1回目の期日までの準備の段階で必要な事項の一覧表を示して、用意してもらうことが考えられる。あらかじめ主張や資料を出しておいてもらうことが必要であろう。
 また、公開の場で調停を行うことは考えられない。労働審判手続の公開については、審尋等は公開してもよいかも知れないが、調停手続との関係を考える必要がある。

○ 労働審判では計画審理が必要である。1回目の期日に必要な資料を出してもらうとともに、期日前の釈明等を行って、2回目の期日までには争点を絞る等していくことが必要である。証拠の後出しには一定の制限を課すべきであろう。
 また、労働審判制度は非訟手続であるとはいえ、労働関係紛争には争訟性があるので、証拠調べ等の手続は、どのようなプロセスで解決案が出されるのかが分かるようにするためにも、公開すべきである。

○ 訴訟で2年もかかっている事件を3回の期日で処理できるとは考えられない。イメージとしては、申立書や答弁書も各1枚程度であり、若干の証拠調べをする程度ではないか。公開の手続で証人調べ等を行うとなると、とても3回では終わらないだろう。むしろ多数の事件をこなすというイメージである。

○ 事実の認定・評価が難しい事案については、証人調べや本人尋問を行うことになるが、集中的に実施するイメージである。

○ 1回目の期日が終わったところで、審判を行うのか、調停手続を続けるのか、あるいは職権で裁判へ移行させるのかを仕分けるステージが必要ではないか。

○ 労働審判の申立てはできる限り簡便なものとすべきである。
 この制度は迅速性がポイントであり、処理期間も3か月程度とすべきである。この期間内であれば、期日を1回程度追加することはあり得るが、4審制になってしまうという批判もあるので、簡便に短期間で処理されることが大原則ではないか。
 また、1回目の期日の前に、証拠や主張について相当の準備をするとともに、手続は計画的に進めるべきである。1回目の期日には、調停的な手続も進め、2回目には審理を行い、3回目には解決案を示すというイメージではないか。
 手続の公開については、調停的な手続の部分の公開は適当ではないが、事実の審理や解決案の提示の部分は傍聴や記録の閲覧を認めるべきである。単に当該事件の解決を図るというだけでなく、広く解決案の妥当性を吟味・検討できるようにすることが必要だと考えられる。

○ 労働審判制度は3回の期日で終了することを売りにすべきである。4,5回と期日が延びることは適当ではない。
 3回目の期日では解決案を提示することになるだろうから、1,2回目の期日で争点整理や審尋を実施することをイメージしている。また、1回目の期日で調停成立に向けた話合いが進まずに、多くの事件が審尋等の手続に流れていくこととなると、事件が滞留する恐れもある。1回目の期日から、争点整理の結果や大体の書証等を見て、調停に向けた話合いが進むようにすることが必要である。
 手続は、1回目の期日を充実させることが必要である。1回目の期日までに多少時間がかかってもよいと思うが、その間に十分な準備をしてもらうことが必要である。事件の大体の様子が1回目の期日で分かるようにすべきである。
 1回目の期日で解決しない事件について、審尋等の手続を行うことになる。審尋等のポイントを絞るためにも、1回目の期日における争点整理等を充実させることが重要である。
 また、申立ての書式の整備等も必要ではないか。
 手続の公開については、簡易迅速に行う非訟手続なので非公開を原則とすべきである。重い手続とすると迅速性が損なわれることになる。

○ 労働審判制度ではどのような紛争を対象とするのか。公務員の非常勤職員や請負形態で労働者性の強い者に関する紛争の扱いをどうするかについても議論が必要ではないか。また、労働審判制度では、労働組合の役員等に当事者の代理人をさせても対応できるのではないかと思われるので、この点も検討していただきたい。

<論点7について>

○ 研修の内容としては、例えば、最新の労働法令や判例の動向、最新の人事管理の動向、紛争解決システムの仕組み、労働紛争の特質、適正な解決案の在り方、コミュニケーション能力や説得力、事件の筋や供述の信用性を判断する事実認定の能力、解決案の作成の仕方、倫理等が考えられよう。

○ 専門的な知識経験を有する者は裁判所が任命することになると考えられるが、実際には、裁判所に適任者か否かの判断は困難だと思われるので、候補者の推薦母体としてどのようなものを考えるかが重要である。大規模な労働組合だけでよいのか、8割を占める未組織労働者の代表をどう考えるのか、労使ともに考えていただきたい。

○ 労使関係の専門家といっても多様である。多様な専門家を確保できるようにすることが必要である。労働委員会の労使委員は比較的大手の企業の出身者が中心であり、中小企業のことをよく分からない場合もあると言われている。専門家の選任に当たっては、産業別、規模別を反映できるようにすることが必要である。

○ 未組織労働者の代表をどう考えるかは難しい問題であり、よく議論したい。
 労働組合のナショナル・センターは2,3あるが、その間での調整を行うことは可能であると思っている。
 研修については、どの程度のレベルが必要かを示していただき、それに見合った内容のものを受講してもらうことが考えられる。また、研修の内容が労使間で異なるのも妥当ではないから、可能であれば、労使が一緒になって同様の内容の研修を実施することが適当ではないか。
 専門的な知識経験を有する者は、裁判官とともに解決案を決する合議に参加して、同等の評決権を有することが適当である。なお、審判の手続面については、裁判官にリードしていただくのが適当であろう。

○ 使用者側でも、これまで労働委員会の使用者委員の研修を実施してきており、労働審判に参加する者に対する研修も実施できると思う。その際には、労使が一緒に実施することも考えられるのではないか。また、裁判所が企画する研修も必要になるのではないか。

○ 専門的な知識経験を有する者を推薦するに当たっては、制度の施行時に全国で何人程度の専門家が必要になるかをシミュレーションしながら議論していくことが必要であろう。

○ 専門的な知識経験を有する者については、業種ごとや地方ごとの団体があるので、それらを考慮しながら推薦することになろう。また、使用者側では日本経団連だけでなく、商工会議所や中小企業団体中央会も推薦母体となり得ると考えられる。いずれにしても、各団体の代表ということではなく、労使関係の専門家がどこにいるかを考えることが必要である。サラリーマン代表を選任することは難しい。
 また、裁判所に専門家の選考委員会を設けるようなことも必要になるのではないか。

(2) その他

 次回(第29回)は、10月31日(金)14:00~17:00に開催し、引き続き「労働審判制度」(仮称)の制度設計等について検討を行うこととされた。