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労働検討会(第28回)議事録



1 日時
平成15年10月6日(月)10:00~12:30

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第2会議室

3 出席者
(委 員)
菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、春日偉知郎、熊谷毅、後藤博、髙木剛、村中孝史、山川隆一、山口幸雄(敬称略)
(事務局)
古口章事務局次長、松川忠晴事務局次長、齊藤友嘉参事官、松永邦男参事官、川畑正文企画官
※欠席の矢野弘典委員の意見を紹介するため、小島浩氏が同席した。

4 議題
(1)「労働関係事件への総合的な対応強化についての中間取りまとめ」に関する意見募集の結果について
(2) 労働審判制度(仮称)の制度設計等について②
  ・ 制度上の主要な論点等についての検討
(3) その他

5 議事

○菅野座長 それでは定刻になりましたので、ただいまから第28回労働検討会を開会いたします。
 本日は御多忙中のところ、御出席をいただきましてありがとうございます。
 本日は、矢野委員が御欠席ですが、矢野委員の御意見を御紹介いただくため、日本経団連・司法制度労働検討部会部会長の小島浩氏にお越しいただいております。
 それでは、まず本日の配布資料の確認をお願いいたします。

○齊藤参事官 申し上げます。
 資料195は、「労働関係事件への総合的な対応強化についての中間取りまとめ」に関する意見募集の結果でございます。
 資料196は、「『労働審判制度』(仮称)の導入に関する主要な論点(改訂版)」でございます。
 資料197は、「労働審判手続(仮称)と訴訟の係属について」と題するペーパーでございます。
 参考資料としましては、中間取りまとめまでの主な検討状況に関する資料をファイルにして配布させていただいております。
 このほか、「速記官制度を守り、司法の充実・強化を求める会」からの要請書を参考資料とさせていただいております。
 以上です。

○菅野座長 それでは、本日の議題に入ります。
 本日は、初めに「労働関係事件への総合的な対応強化についての中間取りまとめ」に関して実施した意見募集の最終的な結果について、事務局から御報告いただきたいと思います。
 次に、前回に引き続いて、資料196の「主要な論点」についてさらに検討していただきたいと思います。
 それでは、まず「中間取りまとめ」に関する意見募集の結果について、事務局から御紹介をお願いいたします。

○齊藤参事官 それでは、資料195につきまして御説明いたします。
 前回、中間取りまとめに対する意見募集の結果の速報を御報告申し上げましたが、意見募集の結果の整理を終えましたので、改めて御報告申し上げます。
 今回の中間取りまとめに関する意見募集に寄せられた御意見の件数は、前回御紹介したとおり、合計で106件でございました。寄せられた意見の概要でございますが、資料195の2ページ以下の「第5 寄せられた主な意見の概要」において、幾つかの項目に分類した上で要約・整理させていただきました。労働審判制度につきましては、1の(1)にあるように、具体的な制度設計に関する意見も含めまして、多数の御意見を頂戴いたしました。このほか、1の(2)及び(3)にありますとおり、労働調停やいわゆる労働参審制についての御意見も寄せられております。また、7ページの2におきましては、労働関係事件の訴訟手続に関する御意見を整理しております。8ページの3におきましては、労働委員会の救済命令に対する司法審査のあり方についての御意見を整理しております。今後、当検討会で検討することとなっております「いわゆる新証拠の提出制限」につきましても、(3)にありますように、具体的な御意見をいただいております。
 なお、頂戴した御意見の詳細につきましては、前回御参考までにお配りした御意見の全文を御参照いただければと思います。
 以上、かいつまんでの御説明で恐縮ですが、意見募集の結果の概要を御紹介申し上げます。
 以上です。

○菅野座長 ありがとうございました。意見募集で頂戴した御意見については、労働審判制度の制度設計等個々の具体的な検討において、十分に参考にしていただければと思います。意見募集の結果等について、何か御発言がありましたらお願いいたします。
 それでは、次に本題に入っていただきますが、前回に引き続いて労働審判制度の制度設計等の詳細について、さらに御検討を深めていただきたいと思います。
 まず、前回の議論を踏まえて、主要な論点の追加をいたしましたので、事務局から簡単に説明願います。

○齊藤参事官 それでは申し上げます。
 まず、資料196を御参照ください。資料196では、論点の8の(1)で「手続の申立て」の項目を追加いたしました。申立ての方式や申し立てるべき内容等について御検討いただければと存じます。これに関連しまして、「既存の制度に関する参考条文」に8関係を追加しておりますので、御参照ください。
 また、論点10の(3)で「労働審判手続(仮称)の費用」の項目を追加いたしました。労働審判手続の申立てに必要な費用負担のあり方などにつきまして御検討いただければと存じます。
 次に、論点6に関連いたしまして、別途、資料197の論点を整理いたしましたので、これも御説明いたします。資料197を御参照ください。
 まず、1に書かれてありますのは、先に労働審判手続の申立てがなされている場合における訴えの提起についてでございます。
 1の(1)では、訴えの提起の可否という論点を記載しております。この論点は、憲法上の「裁判を受ける権利」に関連すると思われます。何らかの形で訴えの提起を制限する場合には、裁判を受ける権利の制約を認めるに足りる十分な根拠が必要になると思われます。
 次に1の(2)では、労働審判手続の係属中に訴えの提起が可能とされた場合に、両者の手続の進行がどのような影響を受けるのかという論点を記載しております。1の(2)のアでは、労働審判手続の進行がどのような影響を受けるかという論点です。例えば、訴えの提起によっても労働審判手続は終了せず、適宜、柔軟に手続を進められるようにする考え方があろうかと思われます。訴訟手続は権利義務関係を確定させる手続ですが、労働審判手続は「権利義務関係を踏まえつつ事件の内容に即した解決案を決する」という制度であり、両者の手続の制度趣旨は異なるものと考えられます。このように考えるとすれば、両者の手続が併存することは差し支えないという考え方もあろうかと思われます。他方、訴えの提起によりまして、労働審判手続が終了するなど、労働審判手続が影響を受けることとする考え方もあろうかと思われます。労働審判手続の制度設計が、判定的機能の強い訴訟手続に近いものとなる場合には、両者の手続を併存させるよりは、重複を避けるべく、労働審判手続を終了させることが合理的であろうと考えた場合には、そのような考え方に結び着くのではないかと思われます。また、仮に訴えが提起された後であっても、労働審判手続が進行するとした場合には、解決案の効力がどのような影響を受けるかという論点もあろうかと思われます。訴えが既に係属している場合に、訴えを提起しなければ効力を失わないという強い効力の解決案を出すということは、そもそも訴えが既に提起されているわけですから、不都合であるように思われます。この場合に、出される解決案の効力をどのように考えるかについて御議論いただければと存じます。
 1の(2)のイでは、仮に労働審判手続と訴訟手続とが併存するとした場合に、訴訟手続の進行がどのような影響を受けるかという論点を記載しております。この点につきましては、2枚目の参考条文にある民事調停規則5条や家事審判規則130条等を参考に、訴訟手続の中止を可能にするなどして、事案ごとに柔軟な対応ができることとすることなどが考えられるところだと存じます。
 続きまして、2の論点についてですが、2は先に訴えの提起がなされている場合における労働審判手続の申立てについてでございます。
 2の(1)では、「労働審判手続(仮称)の申立ての可否」という論点を記載しています。先ほど述べましたとおり、訴訟手続と労働審判手続との制度趣旨が異なると考えるとすると、専門家の関与による柔軟な解決を求めて労働審判手続の申立てがされることは差し支えなく、労働審判手続と訴訟手続との併存が生じ得るという考え方もあろうかと思われます。他方、両者の手続の制度趣旨が大差ないものとなるのだといたしますと、労働審判手続と訴訟手続とが併存することは不都合であるという考え方もあろうかと思われます。
 2の(2)では、労働審判手続の申立てが可能とされ、労働審判手続と訴訟手続とが併存した場合には、両者の手続の進行がどのような影響を受けるのかという論点を記載しております。1の(2)と同様に、解決案の効力の問題や、訴訟手続を中止することを可能とすべきかなどが、論点になるものと考えられます。
 最後に3の論点ですが、3では決せられた解決案の効力や相手方の同意の要否といった論点が労働審判手続と訴訟手続との関係の整理にどのようにかかわってくるのかという論点を記載しております。例えば、先ほど述べましたとおり、訴訟手続の係属中に訴えを提起しなければ効力が失われないという強い効力の解決案を決するということは不都合であるように思われます。この点が1つです。それから、労働審判手続が訴訟手続と大差ないものとなった場合には、両者の手続が併存することは不都合であるという考え方などもあろうかと思われます。
 なお、資料197の2枚目には、「既存の制度に関する参考条文」を付けておりますので、適宜御参照いただければと存じます。
 以上でございます。

○菅野座長 ありがとうございます。前回は、資料196で言いますと、論点1から6、1の解決案の内容、2の決せられた解決案の効力、3の確定した解決案の効力、4の労働審判手続(仮称)が進められること、解決案が決せられることについての相手方の同意の要否、5の相手方が期日に出頭しない場合の取扱い、6の訴訟手続との連携、このあたりを一通り御検討いただきました。論点6に関しては、さらに論点を整理したらどうかということで、御説明いただいた資料197を用意していただいたわけです。今日はまず、資料197を議論していただくとともに、それとの関連で、前回検討した論点で十分議論いただけなかった点等もあれば出していただこうと思います。休憩前まではこういう議論をして、その後、前回議論できなかった論点7から10について御検討いただきたいと思います。そういう運びでよろしいでしょうか。
 それでは、まず資料197について御意見をいただきたいと思います。
 まず、1の、「先に労働審判手続(仮称)の申立てがなされている場合」に、申立ての後に訴えの提起を行うことを可能とするかどうか、そのあたりから入っていただきたいと思います。

○石嵜委員 論点7を議論するにしても結局、解決案の効力をどう考えるかによって、今言われた資料197の問題が関連すると思うんです。要するに異議申立てにより効力が失われればこういう難しさはないわけですね。申立ての問題は、最終的には採決でどうするかはありますが、したがって、できればお願いなのですが、民主主義社会の会議というのは少数意見が多数意見になれるチャンスをいただくということが原則ですから、前回完全に1から7も含めて、要するに私が主張したのは少数意見であったことはもう十分認識しておりますので、それを踏まえて一度、自分なりに全体の問題を考えてきましたので、もう一度私の意見を言わせていただいて、それは結局は7の出口論の効力論にもつながるし、それが最終的には訴訟手続との関連につながることなので、どちらにしても、休憩に入るまでには前回で言い足りなかった部分を話してもいいということなので、ひとつやらせていただけませんか。少し私の意見を聞いていただいて、また集中砲火を浴びるのかもしれませんけれども、それはそれで覚悟してやりますので。
 私、前回の意見を聞いておりまして、確かに自分の意見は別として、「中間取りまとめ」の趣旨にもう一度きっちり戻るべきではないだろうかという感覚があります。それは、中間取りまとめのポイントは4つあったと思います。1つは、簡易迅速な紛争解決手続であること。2番目は、労働調停制度を基礎とする。これは、確かに17条決定などいろいろな問題はあるにせよ、基礎的には両者の同意、互譲によって解決するシステムである。加えて3番目は、裁判官と労使関係に関する専門家の知識経験を生かしていく。そして、最終的に権利義務の関係を踏まえつつ事件の内容に即した解決案をつくる。この解決案が先ほどの3番の、いわゆる裁判官の法律知識等と労使の経験を生かした形で、事件に即した柔軟な解決案を見出すこと、そして最終的な解決に至るということだろうと思うのですが、これは私の整理がおかしければ後で御批判いただいて結構ですけれども、前回の労働検討会の多数の委員の意見は、申立てがあれば相手方に出頭義務を課して、不出頭者には過料の制裁を行う。そして、労働審判手続の進行、入口論ですけれども、解決案の提示については相手方の同意は要らない、不同意でも解決案を示す。出口論、3番にその解決案については、同一紛争について訴えを提起した場合にしかその効力を失わない。そして、訴えを提起する者は印紙代の手続料を負担するのもやむなしというふうに整理できると思うんです。
 そのシステムで整理すると、これはもう強制手続に近いものであって、最初に中間取りまとめで意図した事案に即した内容に対して解決案を提示して、お互いに互譲で解決することを基礎とする、この中間取りまとめの趣旨と相容れるかどうかです。
 問題について一つ一つお話しさせていただきますと、この制度の問題は迅速な解決案の提示を最終目的にしているのではない。当事者がその解決案を受け入れて、その紛争を迅速に終結させることに意味があるのであって、解決案が提示されても、それが訴訟にあがっていけば紛争が長引くだけになる。ここを考えるべきではないだろうかと思います。そうすると、3回の期日で迅速に最終的な終結を目指すとすれば、審判手続においても3回で速やかに終わる必要がある。そうすると不同意、つまり解決案の提示に不同意の人について解決案を出すとなれば、それは弁護士として徹底抗戦するしかない。主張立証を訴訟並みにやることになるだろうと思います。
 これでは労働審判が目指すその手続でさえ、迅速に進行しないのではないだろうか。加えて、解決案が相手方を含めて受諾されて初めて紛争の終結につながるとすると、その解決案づくりにも不同意の人間について、その解決案に対して審理に自分の意見を入れてもらおうという趣旨は余り出てこない。もう闘えばいいという話になる。解決案で解決したいという意思で同意してこそ、その解決案に本人が積極的な希望を述べる、その希望をある程度反映できることが最終的な解決案の受諾に結びついていくのではないか。したがって、解決案づくりについても不同意・同意という問題は非常に大きな論点ではないだろうか。加えて、最終的に不同意なものに対して解決案を示しても、受け入れる確率がそれほど高いものは考えられない。というのは、紛争の迅速な解決につながらないのではないだろうか。確かにここは労使が参画しますので、ここがポイントだろうと思っています。
 したがって、解決案が出て解決案をのみなさいよという説得は十分あると思うのですが、それならば、労使の知恵をその解決案を出すことについての同意をとる方の方向で説得された方が、解決案が出てのめと言われるより相手方も受け入れやすいのではないか。解決案を出すことについて同意して自分の意見をできる限りそこに反映させて、早期の解決を図った方がいいのではないか。こういう説得をした方が同意をとりやすい、解決案の受諾を迫るよりはこちらの方が確率が高いのではないだろうか。そうすることが最終的な迅速な紛争解決につながるのではないかというのが、訴訟担当者の弁護士としての感想です。
 続いて、前回いろいろな法的な御批判もいただいておりますので、それを含めて私の考え方をお話しさせていただくと、1つは、そういう審判をすることについて相手方の同意を得るシステムが異例かというお話があったかのように思っております。それは発言された趣旨は違うのかもしれませんが。ただ、少なくとも今回、私がラフだと言ったときに批判を受けたのですが、労働審判は通常訴訟手続に比較すればラフであることは間違いない。これは争いはないと思うんです。とすれば、少額訴訟については本人が望まなければ通常訴訟手続でいこうという、少額訴訟の決定を出すについては、それが手続が通常訴訟よりラフであるということを前提に本人の意向を反映させている。こういうシステムもあるのであって、必ずしも本人の同意を必要とすること自体がシステムとして異例とは思えない。そのように考えます。
 別の観点から、ある手続について、これは同意をとるかどうかは別としても、相手方に異議を述べる機会が与えられる手続であって、これは珍しくないわけですね。今の少額訴訟のそうですし、手形・小切手訴訟もそういうものがある。こういうことはこの中で意識してやりたい。ですから、相手方の同意をとることが少なくとも異例ではないのではないでしょうか。
 次に、入り口と出口論のセットの話ですね。要するに入り口は不同意でもやる、出口は訴訟を提起しなければいけない。とすると、相手方がその解決案を定めることに同意していなくても、不満であればとにかく訴訟を提起して印紙を払えと、これは労側の問題でしょうけれども、この問題でこれだけ強制的にすることは、このシステムは労使がともに訴えられる司法の場で、労使が紛争解決に利用する場として考えた場合については、労側についても当てはまることになる。とすると、年俸制のような形で、制度は別としても年俸制の評価をした評価実績に争いがあるときに、使用者側が労働審判を先に訴えてしまえば、そこの拘束で、そこから不満であったときに労側でさえ、本当に訴訟をあげて印紙を払わせるのか。これはほかの事案もあると思いますが、そういうものも含めて考えたときに、本当にこれだけ入り口と出口を厳しくしていくことがよいのか…。司法制度改革の意見書でも調停成立を促進するような方策を検討されているので、出口をかたくしろという御意見があったけれども、本当に司法制度改革はそういう場面も想定しているのでしょうか。もっと柔軟な、もっと事案に即したものを考えた意見だったはずであろうと私自身は考えます。
 加えて、中に手続にのるのに相手方の同意を必要とすれば、機会均等委員会による調停が機能しなかった、この二の舞になるのではないかという御心配、御意見もあったかと思います。これについては、機会均等委員会が扱ったものは女性差別事件なんですね。差別は複雑ですし、特に女性差別の問題は日本の戦後の雇用社会そのもののシステムの議論であって、加えて当該企業においても、いわゆるシステムの議論であって、確かに申立ての女性が1人、2人という少数でも、その結果は会社制度そのものになってしまう。そうすると、それは使用者側としては簡単に同意できない、そしてそこでは解決がなかなか難しい。これは実際上そういうことがあって機能しなかったのだと思います。使用者側の立場として、このような相談を受けたときに確かにこれに同意することは考えませんでした。ただ、今回話をしているいわゆる労働審判は、確かに制度問題から派生するものもあるかもしれませんが、多くは使用者と個人労働者の利益調整の場面が多いであろう。したがって、その解決内容は当事者に限られてくる。こういうことを考えると、その差別問題の機会均等委員会による調停と労働審判のものを同レベルで議論することはないだろう。したがって、企業側も紛争についてコストを考えると早い解決を望んでいる。そういう意味ではこれについて同意することは十分考えられる。そこで考えた場合は、労働審判の同意論と機会均等委員会の調停の同意論をパラレルに考える必要はないのではないか。
 最後に、皆さんに批判を受けたところで今でも私は意見が少し違うのですけれども、訴訟経済上の観点から、いつでも審判の段階で3回目でも不同意できるのだとなったら、1回目、2回目にこういう形で手続をとってきたものをどうするのかという御批判については、確かにそれは1回目、2回目をやってきた積み重ねを考えると、いつの段階でも同意・不同意という議論は問題がある。ですから、この点については私は、それなら1回目、最初に事案を見て調停を図り、互譲を考え、そしてその中での確率が低いときに、最初の段階で同意をとるということで、2回目、3回目の証拠調べを無駄にしないようにということは十分議論すべきだろう。ただし、本人が同意しない場合でもこのシステムが労働調停を基礎にしておりますので、本人が望むなら2回、3回の調停を続けるという流れがあってもいいのではないかと思っています。
 したがって私としては、最終的な紛争解決を迅速にするという点からすれば、解決案提出について同意をとることが一番いい方法ではないだろうかと考えております。
 次に、訴訟との関連で考えたときに、解決案の効力の問題については、これは簡易なシステムですから、あまり複雑にすると利用の問題が起きるような気がしてなりません。加えて訴訟は、先ほどの説明にあるように憲法上の権利ですから、そうすると訴訟と併存する、または並行の議論が常に出てくる。これを複雑にするよりは、異議申し立てで消えて、そこでもう訴訟は訴訟で処理をする方が簡便ではないかと考えています。ただ、私の今日の話の趣旨の中心は、前回私1人という形で行われた同意論について、自分なりに一度整理しましたので、これについて少し御検討いただければと思っています。

○菅野座長 石嵜委員、今の議論は、訴訟との関連で言えば、最初の段階で同意を要する、そして訴訟は併存していいということですか。

○石嵜委員 この段階で入口と出口の話であれば、私の方は入口はやはり確かに同意を必要とする。出口についても、今の原則であれば、異議があれば消える。このように考えています。

○菅野座長 訴え提起はそれと全く別個にあり得るということですか。

○石嵜委員 はい。仮処分も訴訟も従来どおりこのまま進めればいい。したがって、それはもともと権利義務を確定する制度と、いわゆる解決案という形で具体的な事実に即して出す解決案とは全く別制度でよろしいのではないかと考えています。

○菅野座長 そういうお考えを述べられました。どうぞ、議論を続けていただきたいと思います。

○鵜飼委員 石嵜委員がお考えになっている労使、特に経営側はどういう経営側を想定されているかわかりませんが、今、個別的紛争が増えておりまして、相談を受ける中で使用者側の非協力によってなかなか話し合いの場ができない、あるいは任意的な調整的な場を利用してもなかなか解決しない、出頭すらしない、あるいは出頭しても証拠資料等の基本的なものを出さない、最終的に時間が長引くことによって不利益を受ける、そういう係争を続けることができない立場にあるのは労働者ですから、そういう状況の中で多くの人たちが本当に憤懣やる方ない気持ちで断念せざるを得ない状況になっている。この現実は、パブリック・コメントでも出されておりますし、私たちは日常的に痛感するところです。
 それは、石嵜委員のところにはなかなか出てこないかもしれません。石嵜委員が担当されているのは良識ある経営者かもしれません。しかし、制度設計を考えるときに全体像をきちんと把握し、「悪貨は良貨を駆逐する」ではありませんが、そのように協力しない、あるいは違法なことをしても労働者側が権利救済実現のための手段がとれないことによって、そういう状態を放置しているといいますか、一部かどうかわかりませんが、そういう経営者が存在することも十分認識の上で、きちんとした制度的な手当をすべきだと私は思います。
 そこで、任意的な調整的な解決制度はこの間いろいろ整備されてきました。それは個別紛争が増大していることが前提になっています。多くの人たちがそういうニーズがある。しかし、それではやはり不十分だという声はパブリック・コメントにも出てきているわけです。したがって、裁判所の中にきちんとした解決機能を持った手続を持ってほしいという声は、多くの人たちの声ではないかと思います。この労働審判制度はその中で提案されてきたわけで、私はパブリック・コメントの声を見ましても、多くの人たちがそれを支持して、いろいろ注文をつけていると思います。
 これは使用者にとっても、その紛争を労使及び裁判官の審判官の手続によって法に基づく適正な判断が下されることのメリットは非常に大きいと思います。それは使用者側が勝つこともありますし、負けることもあります。労働者側が勝つこともありますし、負けることもあります。しかし、現実に発生している紛争が法によって事実を認定し、法によって解決する手立て、それが簡易迅速に解決される制度ができることのメリットは、労使ともに大きなメリットがありますし、さらにそれは社会にとっても大きなメリットがあると思います。
 そういう前提の上で、同意を要件とすることは制度として、スタートラインで制度が機能するかどうかの最大のポイントではないかと思います。この労働審判制度の大きなメリットは、判定的な解決機能を後に備えているということです。それ以外のADRは判定的解決機能を持ちません。申立てをする側のニーズは、それを通じてお互いに論争し合ったり証拠を出し合ったりして、審判官が一定の心証を持つ。そのプロセスの中で一定の方向が出され、和解や調停で解決する可能性が非常に高いわけですが、最終的な段階になって、どうしても当事者が折り合わない段階では審判官が判定を下す、解決案を下す。私はその段階では、通常の労使であればほとんどが解決するのではないかと思います。しかし、それではどうしても折り合わないというときに提訴にいくわけですが、その手続を踏まえながら互譲、和解を進めていくことがこの労働審判制度の非常に大きなメリットでありまして、初めに同意にかからしめるということは、悪貨は良貨を駆逐するではありませんが、例えば機会均等法の調停委員会の場合もそうですけれども、いろいろなマニュアルなどが出回るわけです。これは同意が必要ない、そもそも申し立てられても同意しなければいいのだという、そういう意味では本当に嘆かわしいと思いますが、そういうものがどんどん出回っていくわけです。したがって、むしろ良識ある経営者の方が、本当はそこでのってきちんとした判定の解決をしていこうと思っている経営者が孤立するといいましょうか、あの制度は初めから同意なし、ノーと言えば解決案を出されないというものが出回るわけです。これは誰も阻止できません、そういう制度設計になってしまっているわけですから。私はそこはきちんと歯止めをかけて、この手続は申し立てられれば当事者がそれに応じて、審判官、三者が事実審理を行って、法律を適用して一定の判断を下す。そのプロセスの中で法に基づく解決を図っていく。お互いの譲歩によって問題を解決していく。最終的にどうしても譲歩できない場合に解決案が出される。それは労働者が勝つ場合もあるし負ける場合もある。しかし、それは当事者にとっても社会にとっても非常に大きなメリットがあると考えますので、石嵜委員が想定する労使の像がちょっと違っているのではないかと私は思います。
 どう考えても、同意を条件とするような手続はとても考えられません。もしそういうことになってしまうと、機能のほとんどが失われる可能性もあると思いますので、一々の反論はあれですけれども、根本的な議論として、以前にも申し上げましたように、同意は要件とすべきではないと思います。

○菅野座長 そういう考え方を前提として、訴訟との関係についてはいかがですか。

○鵜飼委員 訴訟との関係は、制度の趣旨は事務局がおっしゃっているように、違うことは間違いありませんので、究極の目的は個別紛争の解決ということになりますが、個別紛争の解決に向けた制度ですので、私はどういう場面でも両存・併存することを認めていいのではないか。ただ、例えば民事調停規則にありますように、労働審判制度は迅速な解決の制度設計がなされておりますし、解決案が出されれば、仮に訴訟が提起されていても、私は可能性としては解決案が出されれば、それで解決する可能性も高い、あり得ると思います。
 そういう点から言うと、私としては、裁判所の側が中止をすることもできるという規定を設けて、労働審判制度の推移を見守ることも1つの選択肢ではないか。併存を認めるというのが私の基本的な考えです。

○菅野座長 トータルのシステムとして議論がなされていい論点ですので、どうぞ1の(1)に限定せずに、審判手続をどう設計するか、そして、訴訟手続との関係を全体として設計するか、その辺で議論していただきたいと思います。

○村中委員 石嵜委員がおっしゃったことで、私もそうだなと思うところも幾つかあるのですが、ただ、1つ考えておかなければいけないのは、同意を必要だとしてしまうと、審判は嫌なので訴訟にする、と相手方は選べることになります。今度の司法制度改革の中では労働事件の解決に当たっては専門性が十分ではないのではないか、この点については御反論もあるかと思いますけれども、その中で専門性のある形でなるべく時間をかけずに解決しようというときに、いわば訴訟と審判の二本立てを最初から当然のこととしてしまいますと、もちろん最終的には二本立てになるのでしょうけれども、訴訟の方の専門性を高めることも考えなければいけないということになろうかと思います。しかし、それは参審という議論になりますので、現時点では置いておきましょうという話になって、そこで審判制度の議論へと発展してきたわけですね。
 私の理解では、調停についての議論から発展して審判制度の議論をしているというよりも、これは、参審というか訴訟とか労働事件の専門性を持った解決という全般的な議論から出てきたものであって、調停の枠内での議論ではなかろうと思います。そうしますと、審判というものが専門性を持って労働事件のかなり多くの部分を吸収する、実際にそこで多くが解決されるという状況をつくらないとやはり具合が悪いのではないかと私は思うわけです。そういう点から見ると、同意を必要とするのはちょっとマイナスであろうし、せっかく作る以上は、その結論にある程度の効力がつく制度設計にしておかないと、もう一度訴訟の話を一から始めないといけないということにもなりかねないと思います。
 そうしますと、訴訟手続の関係も、先ほど齊藤参事官は裁判を受ける権利ともかかわるという議論で、確かにそれはそのとおりだとは思うのですが、審判がなるべく最後までゆく状況、それが利用されたら結論が出る、労働事件に関しては審判で結論が出るのだという状況は確保してほしい。そうしないと、労働事件であれば審判で解決するのだということにはならないのではないかと考えております。

○髙木委員 石嵜委員、参審制をノーと言って、では労使の専門家も入れた仕組みとして審判制度を入れてはどうかと言って、その議論をすると今度は同意がないとだめと言われる。我々は何のために長い時間をかけて議論してきたのですか、と思います。できるだけ多くの人に利用しやすい、迅速かつ有効に問題解決できる仕組み、その中に労働に関するそれなりの経験なり知識を持っている人たちが参加している、とりあえず今は審判制度ということになっているわけですけれども、そういうものを設置して制度として設けて、個別労使紛争などの増大に対処していこうということで議論してきているはずで、そういう意味で案を出したら、同意しなければ解決案を示したらいけないとか、そもそも審判に入ることも同意がなければだめなどと言ったら、みんながこれをどれだけ使うか。あるいは使用者側の御推薦の人たちも入ってやる場所です。それはラフ云々というのは、何をしてラフであるないの定義とするのか、それはいろいろあるのだろうと思いますが、先ほど来の話を聞いていて、それならもう一遍裁判制度の話に戻ってやりましょうかと思わず言いたくなるようなおっしゃり方で、私もパブリック・コメントを読み返してみましたが、このコメントの中にもそういうことを求めている意見はほとんどない。誰が出したか出さないか、それはありますが、入口も出口も同意がないとだめなどという仕組みなら、嫌なものは全部不同意、もう出頭しませんと、そういうことをやられるのは見え見えですから、そんなものは私たちももうやめたいと思います。いきなり裁判にいきますかということです。
 ですから、どこまで議論を戻して…私は前回の議論でも、石嵜委員はそういう受けとめ方を自分は少数派だとおっしゃっていましたが、率直に言って少数派だったと思います。みんなが求めているものは何なのかということについて、それなりにお互いにイメージをつくり合ってきたけすからね。
 率直に言って、冒頭のお話を聞いて、何を思っておられるのか、その根本のところを疑ったなという感じがします。

○石嵜委員 ここまできたイメージは、髙木委員と少し違うところがあります。それは何かというと、確かに労働参審制の問題は議論しました。ただ、それはそれとして、いわゆる時期尚早じゃないかということで、何らかの形で労使の代表の経験を生かした解決案づくりの場をつくろう。それを使用者側は労働調停の場に組み込んで、その部分で調停の枠に労使の経験を生かした形でいい解決案、そしてそれが最終的な紛争解決に益する。こういう実績をつくった上で、ワンステップ先の問題を議論すべきではないだろうか。こういうことを議論して、加えてその部分について、労働調停を少しパワーアップした形での問題としてのシステムづくりということだったと私は理解しております。
 したがって、その部分については私が言っていることは、前の議論を蒸し返しているとは思っていません。ただ、この制度としてどういう形で最終的にまとめていくことが、労使の持っている知識を現実の労働紛争の解決に結びつけるか。それはあると思いますが、そこは一緒ですけれども、ただし最初から参審制をこちらから外した形で、したがってそれにかわるものという形での議論では使用者側はなかったはずです。これは一貫していたはずです。

○鵜飼委員 調停を基礎としてというのはいいのですが、調停を基礎として、しかし労使と裁判官が審理をして権利義務関係を踏まえて一定の解決案を出すという手続でしょう。だとすれば、それは労使にとってもメリットがあるというか、法律に基づく判断ですからメリットがあるわけですね。調停なら調停に代わる判断的要素、決定がありますが、これは御承知のとおり、当事者の意向に関係なく、当事者が同意するかどうかに関係なく、調停委員会の意見を聞いて裁判官が判断するわけです。それのパワーアップですから、そういう意味では労使が入った専門的な知識経験を生かした手続の中で解決案を出すわけですから、これはその段階では同意は必要ない、不要というのは当然ではないかと思うんですね。これに固執されることが私はちょっと理解できないんです。
 先ほど言いましたように、均等調停委員会の場でも、マニュアルなどで同意が必要なのだ、同意しなければいいのだというものが出回っていく社会なんですよ。労使関係紛争はシビアな対立関係にありますし、経営側の即時的な利益がありますので、その時々に対していろいろなアドバイスをする人がいるわけです。しかし、もっと大きな大局的な見地から言うと、法に基づく適正な解決が図られることが社会にとって望ましいわけです。そのために労働審判制度が考え出されて、制度設計についての議論がされているわけでしょう。そういうときに労使と裁判官が判断の責任者になるわけです。これは、最終的には解決案が出され、良識ある労使はそれには従うのじゃないでしょうか。これを同意ということをおっしゃるのは、時間を元に戻すような議論になってしまうと思います。

○山口委員 入口・出口の議論の関係もあるのですが、前回、矢野委員が途中で退席された関係もあるので、そのあたりの関係で使用者側から来られている小島氏の御意見も伺ってはどうかなという気もするのですが。

○小島氏 私どももイメージとしては、石嵜委員が言われたようなことを描いておりましたので、決して石嵜委員1人が孤立しているわけではないと思うんですね。もともとの出発点が裁判所はアクセスしにくいとかいろいろなことがあって、できるだけ大勢の人がアクセスしやすい制度ということから議論が始まっているのではないかと思うんですね。それで調停を基礎にして、調停を拡張して、そして調停に重みを持たせてという議論が中間取りまとめの間でなされてきたと理解しておりますので、私どもは当然、調停である以上は同意という前提で考えていたわけです。ただ、もしかすると、議論としては同意をした以上、異議を申し立てただけで調停案が成立しないというようなことはまずいのではないかという議論は出てくるだろうと思っておりましたが、先日の議論からすると、同意は当然のこと、そして訴訟を起こさない限りはひっくり返せないということなので、私どもの描いていたイメージとは著しく異なっているということです。
 先ほど来、機会均等調停委員会に触れている委員が多いのですけれども、私は、あちらとこの調停とは性質が相当違うのではないかと思っています。あちらの方は、言ってみれば取締機関が指導・助言・勧告を行うことがあらかじめありまして、さらに調停委員会をそこに設けているということですので、実際は指導・助言・勧告のところで問題が相当解決されていたのではないかと思われるんですね。もう一つは、調停を申し立てたけれど使用者側が同意しなかったために調停にならなかったというものがどの程度あったのか、これもよくわからない。男女雇用機会均等法は平成9年に改正になりまして、実際には平成11年から施行されているわけですけれども、改正均等法では同意は不要ということになったのですが、その結果、飛躍的に数が増えたということがあるのかどうか。私の理解では実際には3件とか5件というレベルの話ではなかったかなと思うんですね。平成11年は確かに2桁になっていたような記憶があるのですが、これは複数で出した人を1件と勘定したからという説明を受けたような記憶があります。我々は今、3件とか5件という議論をしているのではなくて、恐らく何千件、何万件という話に最終的になっていくものを議論しているわけで、同意の有無がそれほど大事な問題になるのかどうか。むしろ同意をして調停をすることの意義の方がよほど重要ではなかろうかと思うんですね。
 今日いただいた訴訟手続との関係ですが、そういう観点からすると、先に労働審判手続が申し立てられていて、かつ同意をして進行している場合に、訴訟を起こしたということになればこの労働審判手続は打ち切らざるを得ないのではないかと思います。
 2の、先に訴えの提起がなされていて、そこで労働審判手続を利用したいという申立てがあった場合には、もし同意が成立すれば、これは労働審判手続が優先して訴訟は一休みしてもらうことになるのではなかろうか。そして、労働審判手続の解決案を出す段階では、必ず訴訟は取り下げるという1項が入るということなのではないかと思います。
 以上、簡単でございますが、矢野委員の意見ということで申し上げました。

○山川委員 先ほどの入口と出口との関係で、確かに紛争の解決において当事者の意思を反映した形で解決案を出すのは重要であるという感じはいたします。
 その調停の意味ですけれども、労働調停というものが全くなくなってしまうかのようなイメージのお話がなきにしもあらずなのですが、中間取りまとめの中でも適宜調停を試みという表現が出ていたと思いますので、これは矢野委員が前回おっしゃった、労働調停をビルトインしているという表現が極めて適切であると思います。
 そうなると、調停で当事者の意思を反映した解決を行うルートも含まれている手続であるということが言えます。また、当事者が調停の成立に応じやすいようにといいますか、調停の成立が促進しやすいようにする仕組みをどのようにつくるかがもう一つの論点になるわけですけれども、その点では、例えば3回の中で迅速に事案の把握を行うことは、これまで調停が成立しにくかったのは長々と意向聴取が続くからであるということだったのですが、事案の審理、審尋等を行うことで成立しやすくなるということが1つありますし、もう一つは、これは村中委員が前回おっしゃていたのですが、後に何らかの形の判定手続が備わっていることで調停が成立しやすくなるという要素は大きいのではないかと思います。これは判決手続の中でも、最終的に判決があるから和解が成立しやすくなるということと似ている面があります。
 その場合に審判が控えていることが1つなのですが、さらには、異議を唱えれば、いろいろな形があるにしても訴訟が後に控えていることも随分大きいように思います。いざとなったらそちらの手続もあるという意味でも、調停をビルトインしたことは、調停を成立しやすい方向に動くであろうという、これは外部からの観察者としての予想ですが、実体は、現実に調停なり解決案なりがどれだけ適切な内容のものかによっても違ってくる。それは労使の専門性をどれだけ生かした調停案なり解決案ができるかによるかと思います。
 ということからすると、これまでも調停をビルトインした形で当事者の意思を反映させるような手続は既に組み込まれているのではなかろうかと思います。それとの関係で、改めて手続の開始に当たって同意を要するかということになりますと、現在の調停でも、調停手続の開始自体といいますか、それについて同意が要るということでは多分なくて、出頭義務は現在の民事調停法でも課しているわけですから、改めて調停の中に独自の要件として同意を入れるのは、現行法の中でも必ずしも必要ではないのではないかと私としては理解しております。
 若干話が長くなりますけれども、訴訟との連携という観点では別個の問題もあろうかと思います。これも石嵜委員が言われた点なのですが、これは双方とも利用できるのが審判手続ですから、例えば、何となく労働側だけが申立人になるイメージのようですが、そうではないケースも先ほども言われたようにありまして、極端なケースで余りないかもしれませんが、大量差別事件についての債務不存在確認の審判申立をしてきたからどうするかなどという問題があります。あるいは競業避止義務違反の損害賠償請求のようなものにつき企業側が審判申立をしてきたらどうするかということがありますので、訴訟手続の連携という点では別途考える必要があると思います。その場合も2通りのルートがあって、最初にどうしても訴訟でやりたいといった場合は訴訟でやってもらうルートか、あるいは審判手続の中で異議を申立てれば訴訟にいくなど、費用負担等の問題はあるのですが、審判の効力の問題として考えるルートかという、そこでは2通りの位置づけがあり得るのではないかと思っています。

○春日委員 労使双方の御意見を伺ってもっともだなという点と、そうでもないような点もあるように思いますので、石嵜委員の最初に4つの重要なポイントがあるということを中心に少し意見を述べさせていただきたいと思います。
 4つの重要なポイントがあるという点ですけれども、石嵜委員が御指摘になったことは、要するに調停をベースにするという話であったのに調停ではないのではないかという御議論がまず1つあると思います。それと、解決案については事件の内容に即した柔軟な解決を審判でするのは疑問なのではないかという、この2点が石嵜委員の最も主張されたかった点ではないかと思います。この問題は、矢野委員は先ほど山川委員がおっしゃったように、調停をビルトインした手続だというふうに理解されているようですが、後から論点の中に入っている労働審判手続の具体的な進行のイメージということで、一体労働審判手続をどういう内容のものとするかということに非常にかかわってくると思います。私自身としては、3回の期日の中で調停の手続のようなものが全くないのかというとそんなことはないわけで、恐らく通常は第2回期日あたりで集中的に証拠調べはしても、3回目の段階ではある種の解決案を提示して、それについて双方当事者から検討してもらうという段階が当然あると思うんですね。実際に、全部審判で申し立てられた事件について3人の審判員が審判主文と理由も書かなければいけないとなったら、大変な負担となるわけであって、実際上は和解のような形で解決していくものが相当数あると思います。ですから、審判の過程では2回目の最後のほうや3回目の期日ではある種の解決案を提示して、そして実際には調停あるいは和解のような形で解決していくことがかなり多いと思います。そういう意味では、審判といって調停ではないのじゃないかとおっしゃるのだけれど、矢野委員がおっしゃっているように、調停のよさは十分取り込むという期日を考えていくべきではなかろうかと思っています。その点が第1点です。
 もう一つ、出口の方で訴訟を提起しないと審判の効力を覆せない、これは非常に負担がかかる、おまけに訴訟費用もかかるとおっしゃるのですが、これは労使双方、基本的にはる全くフィフティ・フィフティだと思います。確かに申立て自体は労働者側から申し立てる件数が、この審判手続をつくった場合にはたくさんあるのだろうと思います。労使双方の申立件数については、使用者側から申し立てるのは比較的少ないということになるのかもしれません。ただ、その審判手続を進めていった結論がどうなるかは、労使双方フィフティ・フィフティで、事案によってどういう解決案が出るかは別の問題であって、その段階で不利な内容が出たら訴訟を起こさなければならない、それは非常に負担だとおっしゃるのだけれども、これは労使双方共に同じだと思うんですね。場合によっては使用者側に大変有利な判断が出て、労働者側の方でむしろ訴訟提起をして、訴訟費用も払ってということも十分あり得るわけです。ですから、後ろの出口で訴訟を起こさなければいけないかどうかという問題は若干議論がずれているというか、少し違うような気がいたします。要するに言いたいのは、審判手続の中身をどのようにするか、これが非常に重要だということで、そこを言いたかったということです。

○菅野座長 ほかにございますか。

○鵜飼委員 現実的には提訴するのか、解決案で解決するのかという選択に迫られるのは最後の段階ですよね。これは、私は率直に言って多くのケースはそこで解決すると思いますね。どうしてもこの解決案では納得できないというケースが、次に訴訟にいくわけです。その段階で、これは同じ屋上屋を架すような形でやってもらっては困るということを前から申し上げていて、訴訟が十分機能していくことによって、初めてもう一回元に戻って解決案で解決するのがより強くなる。訴訟が何年もかかるということであるなら訴訟にいこうということになってしまいますから、そういう意味で提訴するかどうかを判断する段階で訴訟手続が十分機能するものであれば解決案で解決しようというインセンティブが強く働くと思います。

○菅野座長 訴訟との関係が直接のテーマなものですから、もう少しそこをお聞きしたいのですが。

○山口委員 入口論、出口論についてはまた今日の御意見も踏まえて考えてみたいと思うのですが、訴訟の係属との関係でいいますと、これは労働審判と訴訟をどういう関係にあるかと考えるかだろうと思うのですが、制度としては調停、審判、訴訟があるわけです。先ほどの労働審判の内容からしますと、調停というよりか、権利義務を踏まえた解決案を出すということからしますと、強いて言えば訴訟に近いような形の制度かなと思っておりますが、そうだとすると、基本的に労働審判の申立てがされた後に訴訟の提起を起こすということは、労働審判における解決案に基本的には従わないという意向の反映と見た方がいいのではないか。そういう観点からしますと、基本的に労働審判の申立てがされた後、訴訟が起こせないということも裁判における権利の関係から言うと難しいでしょうから、裁判を起こせるといわざるを得ないでしょうから、そうなるとその段階で労働審手続は原則的には終わらせる形の方が、二重の手続の併存を認めてもその実効性がどこまであるかという問題がありますので、いいのではないかと思っています。
 先に訴訟の提起がされている場合に、労働審判を後で申し立てることができるかは、まだ十分考えがまとまっておりませんが、私のように、訴訟の方で解決するという選択がされている以上、基本的には難しいタイプの事件ということになるわけですから、それは労働審判制度でやるのが適当かどうかというと、むしろ適当な場合は少ないのではなかろうか。そうだとすると、訴訟が提起された後に労働審判の申立てを行っても、例えば中止するとか、あるいはどうしても進めるというのであれば相手方の同意を得るというような何らかの形の工夫をしないと、両方並行する意味がどこまであるかというと、率直に言うと疑問かなと思っています。
 訴訟の係属の関係はそういうことなのですが、石嵜委員から4点ほどありましたので、それに関係してついでによろしいでしょうか。
 基本的に簡易迅速な手続で、調停を基礎として、専門家を入れた解決案作成システムという労働審判制度についての理解は私と石嵜委員とでも、あるいはほかの委員でも変わっていないと思うのですが、これは簡易迅速に一定の解決案を労使の専門家が入った形で出せるシステムで、これをうまく機能させるのがこの制度が生きるかどうかの分かれ目だと思いますから、そういう意味で言えば、解決案が出せる場合は労使の専門家が入って、それから裁判官が入って、労使の実情を踏まえた具体的、妥当な内容の解決案を出せることがあくまでも制度の大前提となる。そういう意味で言えば、事件が非常に複雑困難でとても3回では終わらないような場合、とても解決案を出せないような場合にまで解決案を出せということではないのだろうと思いますから、3回の審理でわかる範囲の事件を基本的には念頭に置くことになるのだろうと思うんです。そうなると、比較的簡単な事件についてそういう場合には労使の専門家の意見が一致するのでしょうから、裁判官の意見と三者が一致するわけですから、そういう場合に余り適当でない解決案が出されるのは考えにくいのではなかろうかと思います。そういう事件について専門家の意見が分かれるということは、ある意味ではその事件は難しい。事実認定なり判断が難しい事件ですから、そういう事件についてどちらかを勝たせるような内容の解決案は出しにくい。あるいは、そういう場合も解決案が出せない場合とするということも考えられるし、そういう場合にどうしても解決案を出せということであれば、それこそ労使の専門家が入ってお互いに意見が違うので非常に難しい。間に入った裁判官が、労使の意見が中立的な立場から、なおかつそれまでの経験を踏まえた意見であるという前提が満たされるということであれば、その裁判官も軽々に結論は出しにくいことになるわけですから、もし解決案を出せとおっしゃるのであれば、立証責任の問題で片づけることも十分あり得る。
 そういう意味で言えば、ここで労働審判手続で出されるであろうと予想される解決案は比較的簡単な事件について労使の専門家の意見が、裁判官も含めてですが、概ね一致するであろう事案を基本的には念頭に置いておくべきだろうと思うんですね。そうだとすると、その解決案について一定の効力を持たせないと余り意味がないのではないか。そういう解決案であれば、先ほどの同意の問題に戻りますと、制度設計としてそういうものだとするのであれば、そんなに変な内容の解決案が出るわけではないですから、労使の専門家が入って十分現場を踏まえた形での意見を出されて、裁判官と協議して結論に達するわけですから、そういうことからしても最初の段階で同意がないといけないというのはどうかなと思います。もしどうしても同意をするというのであれば、訴訟手続の過程で審理の中身や力の入れ方が変わっていくのは適当ではないと思いますから、どこかの段階で区切るような形にしないといけないとは思いますが、ここで予想される紛争類型は、労働審判手続でやられる事件はそんなに難しいものがきてここでけんけんがくがくでやられるわけではないのではないか。そういう意味で言えば、そういうイメージで解決案なり同意の問題も考えていけばいいと思います。
 先ほどの調停の関係から言えば、春日委員は2回目からとおっしゃいましたが、多分最初から話し合いをやると思うんです。基本的には紛争の解決のための制度ですから、紛争の解決ができればそれにこしたことはないわけですから、私のイメージは、第1回期日に基本的には双方の主張なり、基本的な書証が出る。そうなるとある程度はわかりますから、その段階で労使の専門家も入った審判官の方でも話し合いを進めると思うんですね。そこで話し合いができればある程度の事件は片づいていく。訴訟の場合でも、証拠調べにまでいく事件よりは、争点整理の段階で話し合いで解決する事件が多いわけですから、少なくとも第1回期日で、調停といいますか話し合いを進めて、そこで事件は終わる。その話し合いでもうまくいかない場合に2回目の期日で審尋なり一定の人証なりを行う形になると思うので、その人証を行ったところでも、そこで暫定的な合意を労使の専門家と裁判官が入ってやって、最終的なところはもう少し追加の立証なり主張なりを見るかもしれませんが、今のところはこういうことでどうですかというような話を2回目もすると思います。そこでもだめなら3回目で追加の主張立証もあって、そこでその段階ならある程度解決案を腹案で持ちながら話し合いを進めていく。そういう形になっていくのだろうと私は思っています。そういう意味で言えば、しゃにむに何が何でも解決案が出されるケースは、ある意味ではそんなに多くはない。やはりある程度の事件は、調停といいますか話し合いで解決されていくのではないか。私はそういうイメージでとらえています。

○菅野座長 今の御意見については私も考えていまして、論点になるなと思っているのは、大体3回で終わることがこの手続の眼目で、それをできるだけ維持していきたいということであると、この簡易な手続にふさわしくない事件が労働事件には多々あり得るわけで、それについて手続上どうするかを定めておかなければいけないのではないかということですね。そういうものではなくて、普通の事件を労使も入って処理していけるような手続にする必要があるかなと、私もそういうイメージでありまして、そうであればそういう事件について今のような議論もするということになると私も考えておりますが。

○春日委員 山口委員がおっしゃるように、どうしても同意をとらなければいけない事件は、通常は集団事件など難しい事件で、そういうものが労働審判手続にのってくるかというと、のってきにくい事件だと思います。そういう意味では後の問題と関連するのですが、訴訟との関係ということで、私は労働審判と訴訟とは併存を認めるといいますか、そういう方向でいって、労働審判手続にのりにくい事件をある種の例外的に、どうしても訴訟でやらざるを得ないというときにはそちらでやってもらう。技術的にいろいろな問題があるのかもしれないけれど、そういう余地だけは残しておくような必要性があるという気がします。普通の比較的重くない事件であったら労働審判手続にのってくると理解しているのですが。

○鵜飼委員 現行の調停でも調停ができないケースは、かなり厳しい要件ですがありますよね。余り安易にできないということで追い返すのは許されないと思いますので、申立てをされた以上は基本的に労働審判の手続の中でやっていただきたいと思います。ただ、調停ができない場合と同様に厳しい要件の下で審判手続を終了することができるようにすることも考えなければいけないのではないかと私自身は思っています。
 そうしますと、先ほどの山口委員のイメージと余り変わらなくて、ほとんど同じイメージなのですが、訴訟に近いとおっしゃいましたが、調停にも非常に近いといいましょうか、ビルトインされていますので。そういう意味で紛争解決の究極の目的は同じくしながら、手法あるいは判断者ではかなり違うと思いますので、現実に訴訟の併存との関係を制度的に考えると非常に難しいことなんですね。例えば、仮に労働者が申し立てて、手続が進行して解決案が出されそうな段階で使用者側が、これはだめだから提訴するとなった段階で、果たしてその間の1回、2回、3回の今までの審理期日を無駄にしていいのかという問題もあると思います。解決案が出されれば、紛争というのは非常に流動的で発展的な要素がありますので、この手続で事実審理を行って解決案が出された段階で、労使がもう一回思い直して解決をしていく可能性は十分あり得ると思います。そういう点からいいますと、いろいろなバリエーション、労働者側が申し立てた場合、使用者側が申し立てた場合、申立て前に裁判が出された場合、その裁判が使用者側が出した場合、労働者側が出した場合、その組み合わせが8つぐらいありますけれども、それぞれのケースごとにどうするかということを決めるのも不可能だと思いますので、併存を認めて、どこかの段階で調整するような仕組みをつくっておく。
 1つは、今の民事調停で言うと、受訴裁判所が争点整理、証拠整理がされる前の段階では場合によっては中止することができる。証拠整理が終わった後の段階では当事者の合意の上で中止することができる仕組みがありますが、私も同じような仕組みをつくって、具体的な状況に応じて対応していくことがいいのではないかと思います。このケースはストップする、このケースは進行させると一律に決めることはなかなか難しいのではないかと思います。

○髙木委員 春日委員、今起こっている個別労使紛争の実態、内容をどのように御認識になっておられるのか、例えば経営者自身も自分はやり過ぎだという自覚症状を持っている経営者が仮にいたとします。けれど、労働者がそれに異議を唱えてどうこうというのは絶対に撤回する気などはない。平たく言えば、やり得のような。そのうち、今のような仕組みの中で裁判にはなかなかいけない、解決の手段もなかなか持てない人たちはほとんど泣き寝入りしているんですね。そういう人たちがこの審判制度にいったときに、入り口で審判などは受けないという対応、それなりに経営者もよくわかっているのでそういうことはないと石嵜委員はおっしゃるかもしれないけれど。

○石嵜委員 ないとは言いませんけれども…。

○髙木委員 我々が毎日ぶつかっている現実は……我々もそういう人が相手ならこの労働審判制度は、とりわけ同意がないなどと言ったらもう使いません。いきなり裁判所へいかせてもらうことなんですね。ですから、そういうやり得のある、乱暴過ぎるということを自覚している経営者とか、そういう議論を本筋の議論とするとおかしくなるから余りしませんけれども、実態はそういうふうに感じなければいけない個別労使紛争はたくさんあるわけですね。
 確かに、この労働審判制度はプロの裁判官と労使双方が推薦する人と3人で、これが乱暴なものかそうでないかは見たら大体分かるのだろうと思うんです。3人とも何となく1回や2回やって、これはちょっと乱暴だと。あるいはそれは労働者の方が無茶を言っているケースもあるかもしれない。そういうことを客観的に見て判断していただくということなので、先ほど男女雇用機会均等法の調停の手続は一種の差別紛争だから云々と言われましたけれども、あちらは経営者の皆さんが調停同意が前提ということで頑張って、結果的にはほとんど使われない、使われたのは1件だけですか、かなり多くの国の費用も使い、体制もつくり、ということになったわけです。経営者のお立場がありますから、こういう部分は権利の権利だということで頑張っておかなければいけないという頑張り論を否定はしませんが、社会的な制度をつくろうと言っているわけですから、その辺の社会的な意義、できるだけ民主的にきちんとした権利は権利として救済される仕組みづくりの議論をしているわけですから、入口だか出口だか知りませんけれども。私は「柔軟」という言葉はよく吟味しなければいけないと思っているんです。社会のどんなことでも、「柔軟=ルーズ」であっていいということではないんですね。

○石嵜委員 ルーズにやろうと言っているわけでもなければ、そういうことをやっているわけでもないし、それはおわかりになっているはずで、それは正直、同意を必要とするか、出口をどうするかといういろいろな議論は議論として、しかし最終的にこの案を3回でやって、先ほどからおっしゃるように、解決案を迅速に提示するのではなくて、本当に最終的に紛争解決につながるにはどれが一番いいかといったときに、確かに髙木委員がおっしゃったような経営者がいるかといえば、それはいますよ、私を怒鳴る人もいるわけですから。ただ、彼らを見たときに、不同意にもかかわらず審判に出してもそれはもう従わない、裁判をやってしまうので、という思いが私もあるので、できればコストをかけず、早期に誰かの判断があれば、それで処理していく。それは労使の利益調整の枠で処理するということになったときに、本当に不同意のものも無理やり連れていって最終的な紛争解決になるのだろうかということについて、根本的に私自身も疑問があるということで一生懸命お話ししているわけで、制度的にいろいろな形のことを考えているわけではありませんので。

○春日委員 髙木委員の私に対する誤解があるといけないのですが、私は同意は要らないと言っているので、そこはお間違いないのようにお願いいたします。石嵜委員とお間違いだと思いますが…。私は同意は要らないとする考えです。

○村中委員 最終的にはどうしたら紛争の解決につながるかということですが、いかに同意をしていない人でも一定の結論を前にすると、私は紛争の解決の可能性は出てくると思います。例えば、どうしても訴訟で争うと言っていて、一審で一応結論が出ますね。やはり結論が出た段階で誰もが考えるわけです。お金や時間のことも考えるわけです。一たん結論が出るということが非常に大事なのではないでしょうか。

○石嵜委員 それは分かっているんです。和解でも訴訟がバックにあるということも十分分かっています。ただ、それならば労使の代表がそこにいるのだから、審判という解決案ではなくても調停である一定程度の解決の道筋はあるわけですから、それを示すことによって使用者を説得した方が、出されたものをのませるよりは、私はそちらの方が解決につながるのではないかと思います。ですから、その辺も含めて一生懸命この話をしているんです。

○村中委員 同意をしている人についてはもちろんそうですが、同意のない人に対してもそれをしてあげましょうということです。

○石嵜委員 1回目で同意をとれない人に対して、同意をするように説得する、一応1回目で事案を見れば、先ほどから山口委員がおっしゃるように、正直言うと複雑な事案については無理だと思っているんです。最初に1回見て、それはいろいろな調整はあるにせよ、権利義務を最初に確定させるためにはいろいろなものもあるかもしれないけれども、事案を見たら恐らくはそういう形で解決できる事案で、相手方がそれを受諾するというイメージのものは、1回目で恐らく3人で事実関係を聞けばある程度具体的に、あなたは審判は嫌だと言っているけれども、大体解決の道筋はこういうものが考えられて、したがってのりませんかとか、こういう話は十分できるのではないかという気はしているのですが。ただ、それを相手方はいいから、とにかく審判まで連れてきて、審判に出して説得しろと言うか……。

○村中委員 先ほどから山口委員もおっしゃっているように、手続の中では最初は調停的にやっているわけですね。そこでまとまるのが大半なわけです。最後に残ったものというか、どうしても渋っているものについて一定の結論を出してあげるかどうかということです。

○鵜飼委員 私は想定される経営者の人たちの対象が違うのではないかと思うんです。私は神奈川県下で労政事務所の職員の方々の研修等をやっておりまして、あちこちに行っていろいろな事例検討をしていますが、その中で各地域には中小零細企業が多いわけですけれども、労働法、判例法理も含めて本当に守られていない現実があります。例えば労政事務所が何とか仲介の労をとろうとしても、全く応じようとしない。あなた方はどういう権限があるのかということで逆に居直る。労働者に対してこういう手続があるということを教えても、例えば地方労働局の今の個別紛争解決制度も相手が応じなければできない制度です。そういう相談、個別紛争が存在しておりまして、しかしそういう労働者は裁判をなかなか利用できない現実があるわけです。その人たちにとって、簡易迅速なこの手続は非常に利用しやすい。そして判定的機能が後にありますから、使用者に対してもこういう判定が出ると、それを前提とした一定の圧力を相手方に与えることも可能ですし、そういう意味で今までになかった新しい手続だと思うんですね、これはもちろん調停をベースにしておりますけれども。そういう人たちを手続にのせることが必要なのですが、そのときに、これは同意が要件で、同意がなければこの手続にのる必要はないということは、その分野にはこの手続を利用できないことを宣言するに等しいわけです。そこはやはりわかっていただきたい。
 良識ある経営者は同意・不同意に関係なくこの手続にのってきますよ。しかし、法は関係ない、そんなことは関係ないという経営者もいます。これは間違いなくいるわけです。その分野で行政も我々も非常に困っているわけです。そこを、この手続にのって、法に基づくきちんとした判定的な解決。これは「判定的な調整」と言ってもいいし、「判定的な調停」と言ってもいいわけですが、労使と裁判官が事実と法に基づいて一定の方向性を示して、それによる解決ですから、足して2で割る解決ではありませんので、手続が設けられてそれが利用できることの意味は大きいわけです。そこは理解していただきたいと思いますね。

○山川委員 当事者の意思を反映した解決は入口のところでも出口のところでもあり得て、解決案に対してどうしても不満ならば訴訟にいけるというのが1つの意思の反映の仕方でもあると思いますし、その点で前回、鵜飼委員から御指摘があって、前回も申し上げましたのは、債務不存在確認という形で原告・被告が逆になると、例えば債務名義がとれない、あるいはとるのに反訴を要するという問題があったと思います。その点では、むしろ慎重な審理を希望する場合はそちらに移行させるという観点からは、一種の仮処分異議のような形で、慎重な手続である訴訟に移行するという考え方もあり得ると思います。ただしその場合は、訴訟費用についてほかにもいろいろバリエーションはあると思いますが、その場合には申し立てた側の方が負担するのが、これまでの手続を無駄にしないとか、あるいは調停なり解決案による最終解決を促進する観点からは妥当かなと思っています。それは仕組み方はいろいろあると思います。例えば前回はアメリカの話をしましたけれども、アメリカの訴訟附属型仲裁では仲裁に対して異議を申し立てれば正式な審理はなされるけれども、その場合には仲裁人報酬を申立人が払わなければいけないとか、あるいは訴訟費用を払わなければいけない、場合によっては相手方の弁護士報酬も払わなければいけないなど、そこまで行くとかなり強いかと思いますが、そういう形で、これまで行ってきた簡易迅速な手続に意味を持たせるような仕組みがありますので、慎重な手続を用意するということがあるにしても、そうした仕組みを考える余地はあるのではないかと思います。

○鵜飼委員 私もその辺を考えたのですが、例えばこういう考え方もあり得ると思います。解決案の効力は停止条件的に一定の期間などにして提訴がなければ発生する、もし提訴があった場合は、提訴されたものが認められないと請求棄却などされた場合に効力が発生する、停止条件的な効力を持つという考え方も、これはほかにどういう制度があるかわかりませんが、考えられるのではないかと思ったのですが。

○菅野座長 休憩の時間になったのですが、できれば今日で論点を一通り検討したいと思いますので、その辺も考慮していただきたいと思います。それでは10分間休憩いたします。

(休 憩)

○菅野座長 それではおそろいですので、再開させていただきます。
 資料196の7以降も今日やりたいのですが、資料197との関係では1点だけ私の方からもう少しお聞きしておきたいという気持ちがあります。それは、訴訟との関係で審判手続の入口との関係等は大分議論されたのですが、出口の効力との関係のあたりで、資料197の1の(2)のアに書いてあることですね。端的に、訴えの提起をしなければ執行しないという解決案を考えた場合で、審判手続の途中に訴えの提起があって併存を認める場合には、最後のところの効力はどうなるか。最後の解決案が決定されて、それに対して異議を出している当事者が既に訴えを提起するような状況では異議だけでよいということになりますか。その点、鵜飼委員はどうですか。

○鵜飼委員 申立人が解決案に異議があったときに訴えを提起するのは普通の姿ですよね。申立ての途中で申立人が自ら訴え提起をするケースと相手方が訴えを提起するケースがありますね。申立人が異議があって自ら訴えを提起するということはちょっと…急に言われましたので。

○菅野座長 1つ考えられるケースは、審判の申立てがあって、相手方がこれに対する訴えを提起した、それでもし併存を認めるやり方をとって、最後に審判、解決案の決定がなされて、それに相手方が不満である場合で、制度としてはいわゆる強い効力のものにしている場合でも、既に不満のある当事者は訴えを提起している…。

○鵜飼委員 同一性があるのであれば、それで訴え提起という要件は満たしていますよね。

○山口委員 私は併存を認めるべきではないという考え方ですが、仮に併存を認めると考えた場合、異議があって、なおかつ訴訟の提起まで義務づけされるとすると、後訴の方も二重起訴の問題でできないという理屈もあると思うんです。そういう意味で言えば、前に既に訴えを提起しているわけですから、異議があれば当然解決案は効力を失う形になるとした方が筋ではないかと思います。

○春日委員 私も、今回幾つかの議論が出てそのことを考えてみました。座長がおっしゃっている前提は、審判の申立てがあったけれども相手方が審判に不服だから訴訟をやる、そして訴えを提起した。この訴え提起があって、しかし先に審判の結論が出て、それが訴えを提起した側にとって不服である。こういうことで訴訟を提起した側が今度は審判に対して不服だから異議を申し立てて、そのときに強い効力だと異議プラス訴訟となって、訴訟が2つ併存するのではないかという御議論だと思うんですね。
 山口委員がおっしゃるように、二重起訴はやはり認められないと思います。ただ、この場合は異議だけでいいという理解でいいと思うんですね。なぜかというと、もともと相手方が審判に不服で訴訟を提起する……訴訟を提起できるかできないかは、山口委員がおっしゃるように前提の問題としてはまだ別途あるのですが、少なくとも要件としては、異議と訴訟は2つそろっているわけですね。だからこれで強い効果なのだという理解で、何の問題もないと思うのですが。その点では山口委員と一致していると思うけれども、前提で訴訟を起こせるかどうかは、山口委員は訴訟を起こせない方向でとおっしゃっていまして…。

○菅野座長 そうではなく反対ですね。

○山口委員 訴訟が起きた場合には労働審判手続はもう終了すべきだということです。

○春日委員 わかりました。しかし、少なくとも今の問題はそういう状況下では異議だけでもいいと思うんですね。もともと相手方というか、審判手続に不服な方は訴訟を起こしているわけですから、少なくとも要件としてはきちんと2つそろっているわけです。

○古口次長 細かいことなのですが、今の件で、まず審判を起こした相手方が途中で訴訟を起こす、その度に審判が出て、相手方が異議ある場合についての議論があったのですけれども、申立人が異議がある場合、相手方が訴訟を起こしても係属中である、同一性もある。申立人が意義ある場合に同じでいいのでしょうか、大分混乱して整理に苦労しているのですが。

○春日委員 質問の趣旨はわかります。申立人が審判に不服があって異議を提出するときに、申立人側からもう1つ、例えば反訴のような訴訟を起こさないとだめかということですね。

○古口次長 反訴を起こす余地はあり得るわけですね。

○春日委員 それはあり得るでしょうね。

○古口次長 けれども、反訴を起こさなくてもその訴訟物自体は訴訟係属しているからいいのだという考え方もあるかもしれませんし、異議を出す側が自ら訴訟を提起しなくても異議が出てしまってひっくり返せるということで本当にいいかどうか、その制度の整合性もあるかもしれませんので、本当に難しいなと思います。

○春日委員 ただ、少なくとも訴訟が1つ、どちらの当事者側からにしろ、きちんと出ているわけですね。おっしゃる趣旨は、要するに両方、異議のある者が訴訟も提起しなければいけないと、それは常にそうしなければいけないかどうかという問題なのではないですか。

○古口次長 制度設計として、例えば訴訟を提起しなければ、異議だけでは覆せないというのは、不満がある人にある意味では重い負担を課する仕組みなんですね。それは、そういう機能、その場面ではいいとすると、そういう負担はないままできることになり、それがいいかどうかの問題もまたあるかなとも思うんです。

○春日委員 費用の問題も含めてそうですね。原則は、先ほど言ったように2つの要件、異議プラス訴訟でそろっている。ただ、一番最後のケースの場合には異議だけでよくて、訴え提起をしないで訴訟費用も負担しないのがいいのかどうかという御質問の趣旨だと思うのですが。

○菅野座長 そういう問題もあるということで、今日はできれば7以降の問題を残りの時間で議論したいと思いますが、そちらに移ってよろしいでしょうか。
 それでは、資料196の1、8、9、10ですが、最初に7は8と9の後ろに置いて、8、9の手続の具体的なイメージを議論していただければと思います。申立て、第1回期日か第3回期日までで今のところどのように考えておられるか、そこで何をやるか。手続の公開ということもありますが、その辺をまとめて、実際的なシステムのイメージをお話しいただければと思います。

○鵜飼委員 手続の申立ての段階は、私は労働事件固有の訴訟手続の要否の論点のところでこの間何回も申し上げましたけれども、ぜひこれは簡易な申立ての書式を事件類型ごとに用意して、当事者でも書き込んで申し立てできるようにしていただきたいと思っています。
 先ほど山口委員がおっしゃったように、第1回期日にお互いの主張・争点を整理して大体の輪郭がわかって、場合によってはそこで調停の努力をする。もしそれができない場合に、2回目か3回目ぐらいに証人調べになりますが、証人調べの前の段階が1つのチャンスになりますので、私は第1回期日が重要だと思うわけですね。そういう意味では、これは裁判官たる審判員が第1回期日までには事前に当事者双方に対して主張・証拠の提出を求め、できれば第1回期日までにそれがある程度そろう。第1回期日にそろうケースが多いと思いますけれども、事前の準備が必要になっているのではないか。第1回期日の出頭の確保といいましょうか、これも非常に大事だと思いますので、20日か30日ぐらいの間に第1回期日が入るというある程度のタイムターゲット的なものを設けて、双方当事者本人の出頭確保、期日等を調整して、欠席ということのないような手配をして必ず出席できるようにして、そこで少なくとも第1回期日に争点整理、証拠整理ができるようにして、調停と、できない場合の証拠調べ。そして解決案の提示、解決案の決定まで、その過程の中では調停がかなり試みられると思いますが、そういうことになるのではないか。
 これは原則は3回ですが、1~2回で終わるケースもあるでしょうし、単純な賃金未払い事件などは1~2回で解決するケースが多いと思いますが、少し難しい事件は4~5回になるケースもあるのではないか。その辺は柔軟に考えた方がいいのではないかと思います。
 私は手続の公開の問題については、公開にしてほしいというのが強い要望です。非訟事件手続法にも債権者代位については手続の公開制が保障されておりますし、これは争訟事件であることが理由になっておりますけれども、この手続は労使紛争の権利義務関係の存否を踏まえつつ解決案を模索する手続なものですから、公開制を担保することによって、手続そのものが十分正当性なり公平性が担保できるような、そういう意味では通常の訴訟手続に近いものとして公開制を何とか実現していただきたいと思います。
 費用の問題は、現在の家事審判の費用はたしか900円だったと思いますが、簡易な申立書を用意すると同時に、例えば解雇事件などの場合に労働者側は非常に困っておりますので、そういう意味では特別な費用を、低廉な費用でできるようにぜひ考えてほしいと思います。

○村中委員 具体的な進行についてですけれども、鵜飼委員から難しい事件については4~5回というご発言がありましたが、石嵜委員が先ほどおっしゃったように、簡易迅速性がこの制度の基本ですので、難しい事件でも3回までということを踏み外すとこの制度は死ぬのではないかと思います。ドイツの裁判官が来られたときに、いかに難しい事件であっても同じ回数でやっているとおっしゃっていましたね。ですから、一種の割り切りだと思うのです。証拠を出すようにと言ったら次から次へと出てきて、争うつもりであれば、それは幾らでも積めるわけですね。それを一から全部読んでいたら、結局は今の訴訟と同じようなものになってしまって、それでは意味がないわけです。ですから、3回なら3回の中でできる範囲で、当事者に対してもその中であなたが一番言いたいことは何ですかという形で、それをとにかく3回の期日で述べられるものを持ってきなさいという形で運営しないと、余り当事者に任せるととても3回は無理だと思います。ですから、職権主義的な色彩の濃い運営が避けられないと思います。それをしないと制度が死ぬのではないかと思います。

○石嵜委員 3回というイメージでいいのですが、これは回数論であって、迅速な解決というのは期間の問題なのだと思います。そうすると、この3回をどのぐらいの期間内で処理するかのイメージをきちんとしておかないといけないのではないか。
 あと、労働訴訟協議会でも協議しておりますように、1回期日までに本当にすべてが用意できるかということを考えると、本当に3回でやるとするならば、1回目と2回目の間に準備的な形での何かを用意しないと、実際問題処理ができるのかなと…そうすると4回やるのかと言われると困るのですが、それは証拠とか主張とか、その書面の提出。本人に1回目に全部準備してこいというのはなかなか難しいと思うんですね。そうすると、1回目で調停を試みて、なかなか難しい。入り口は別として、実際は難しいけれども仮に審判に流れるとすれば、それなら2回目までにその期間内にこれとこれは欲しいというような話をして、そこに現実に出してもらう。それが集まるのが裁判官だけなのか、誰かというのはありますけれども、3人そろうこともないでしょうし、そういうことを考えないといけないのではないか。
 抽象的ですけれども、回数だけではなく期間問題と、もう一つは現実の処理として1回目と2回目の間に何らかの形を加えないと難しいのではないか。これが4回目になるような形ではないようにして欲しいというのが私の意見です。

○春日委員 何回にするか、期間の問題もあってなかなか難しいのですが、私は原則として3回にする……少額訴訟も原則1回だけれど崩れ始めているような話も聞いています。実際にそうなのかどうかわかりませんけれども。やはり基本的には3回というのは守っていただく、少なくとも姿勢はそうでないと、この手続のうま味は発揮できないのではないかと思っています。期間の問題については、これも技術的にどうするかという問題もあると思いますが、考えてもいいかなとは思っています。
 もう一つ、手続の公開の問題が出ましたが、この手続は非訟手続の中に位置づけるのだとすれば、非公開が原則であると考えています。非訟事件手続法13条には、例外的に相当と認める者に傍聴を許すことができるということがありますから、原則は非公開でいいのではないかと思っています。

○山川委員 提出すべき資料等については、先ほど鵜飼委員からもお話があったかもしれませんが、途中の準備と、もう一つは第1回までの準備の中に定型訴状のみならず、こういうものが標準的に必要であるというリストのようなものをつくって、それをそれぞれが第1回のときに持ってくる。それでケースによって足りなければ、さらにこれを出してくださいという形で、2回目、3回目の間に連絡をして、書記官等にも活躍していただくことになるかもしれませんが、そういう形をとる方法があり得ると思いますので、できるだけ想定されている事件についてどういう主張が出てきて、どういう資料が必要かをあらかじめ何らかの形で公開しておくことが有効かなと思います。
 あとは、逆に手続の公開の点ですが、審尋等証人尋問に近いものについては公開ということもイメージとしてはあり得るのですが、1つは調停を組み込んであることをどう考えるかということがありまして、公開の場で調停というのは何となくイメージに合わないので、その辺の使い分けというのでしょうか、あるいは原則非公開にして、場合によって公開にするなど、まだ余り成案がありませんけれども、工夫を考える必要があろうかと思います。

○鵜飼委員 先ほど言い忘れたのですが、原則3回ということで私も賛成ですけれども、計画審理が新しい民事訴訟法で導入されますが、この審判手続はまさに計画審理が必要なケースだと思います。そういう意味では、第1回の期日までに、先ほど山川委員がおっしゃったような、定型的というか、そういう事件類型に必要なもの出せるようにして、それを前提として3回の手続でどのように進めていくかということを、ただ、第1回期日ですぐに三者が集まってできるかという問題はありますけれども、イギリスなどではそれもやっているようなので、裁判官たる審判員の役割は非常に大きいと思うのですが、その辺で計画審理、いつまでにこういう主張を出し、こういう証拠をいつまで出すという期日外の釈明が必要になってくると思いますので、そういうものも組み合わせながら、少なくとも第2回期日までには必要な争点が明確になり、そして証拠も提出され、事件の見通しが立ちという……後出しの主張や証拠は、計画審理の要件に則して原則的に出せないようにするとか、そういうことで3回以内に充実した審理をして解決を図るようにする。それがまず原則だと思います。
  公開の問題につきましては、非訟事件手続法にも、御存じとは思いますけれども、債権者代位については公開制が認められておりまして非公開の制限が外されているわけですが、それは争訟事件であることが理由の1つのようですが、証人調べなどのレベルについては公開を認め、証人調べの調書等については後で第三者もチェックできることにして、要するに労働審判制度がどのように機能しているのか、例えばどういう経過でどういう解決案が出されているのかというプロセスを外部の人がフォローできるような、もちろん調停部分については公開にすべきではないと思いますが、証人調べ等には必要なのかなという感じがいたします。

○小島氏 イメージとしましては、現在例えば2年かかっている訴訟事件が、この場へ出てきて3回で済むというようなことはちょっと考えられないので、申立書は例えば紙1枚だけ、そこへ記入をする。答弁書あるいは反論書という類のものも紙1枚という程度のもので若干の証拠調べあるというようなものが、今議論しているこの制度に最もなじむのではないかと思うんですね。公開の証人調べなど始めたら、とても3回では済まないと思うんですね。だから、そういうものとはちょっと違うのではないかと思います。どちらかというとたくさんの数をこなすというイメージではないかなと思います。

○鵜飼委員 公開の証人調べでありましても、例えば解雇事件が多いと思うのですが、解雇事件の場合にお互いの主張が対立しまして、果たしてある一定の事実があるかないか、あるいはその事実についてどういう評価をすべきなのかは、書面だけではなかなか審理が難しいケースがございます。そういうときに本人尋問とか証人調べをすることによって心証形成ができるのは、裁判で通常行われている現状ですけれども、それにはかなり集中的に争点整理、証拠整理をした上で、最終的に心証形成するために証人調べや本人尋問を行うというイメージですね。ですから、延々と2回、3回行われるということではなくて、本当に集中的に一日で限定して行う。それで裁判官が心証形成するというイメージです。

○小島氏 私のイメージでは、1回目を終わったぐらいのところで調停を続けるのか、あるいは審判に進むことに同意するのか、あるいは職権で裁判の方へいかせるようなことにするのか、そういうステップが必要になるのではないかと思います。

○髙木委員 申立ての手続はできるだけ簡便にしていただき、その後、いろいろな文書で補強・補完することが必要だろうと思いますが、申立ての手続は極力簡便にして欲しいと思います。
 迅速な解決が非常に大きなポイントという意味では、回数の問題もあるかもしれませんが、例えば3カ月程度とか期間でそうしていただき、1カ月に1回とすれば3回ですが、場合によってはその期間内であればもう1回ぐらい、事件の内容によっては4回もあり得るのかなと思ったりもしますが、いずれにしても、逆に長くかかるようなら、よく言われる4審に近いなどいろいろな御批判もありますから、先ほどの訴訟提起との関係でも、期間が長くなるとまたいろいろなケースも出てくるでしょうから、簡便に短期間でというのが大原則ではないかと思います。
 恐らく1回目が始まる前に準備をしていただけるものはしていただいて、証拠の関係あるいは双方の主張等も、いわゆる計画審理という感覚で進められるように、第1回の期日までの準備がうまくできるかできないかが大きなポイントではないか。そういう準備がある程度できているという前提で、恐らく第1回目は調停的な進め方になり、調停的な解決に影響がないときには事実審理は2回目を中心に、3回目も若干の事実審理と解決案の提示と、典型的なパターンで言えばそういうことかなと思います。
 確かに調停との関係があって、ドイツの労働参審制でも第1回はプロの裁判官だけで、いわゆる調停的な仕事をされ、2回目以降に労使推薦の参審員が参加するのもその辺を慮った仕組みではないかと思いますので、調停的なところを公開するかどうかはともかくとして、事実の審理というのでしょうか、あるいは解決案の提示等のステージは関係者の傍聴、あるいは記録・閲覧という形でしょうか、これは公開にするなら単にその事件だけ解決案を得る得ないということだけではなくて、そういうもので出された解決内容の妥当性なりが後々いろいろな形で吟味・検証される必要性も、将来の制度設計などを考えると出てくるのではないか。そういうことも含めて、先ほど傍聴にもお話が触れられておりましたが、傍聴なり記録の閲覧は保障される必要があるのではないかと思っています。
 調停的なところをどうするかはまた議論していただいたらいいのではないかと思いますが。

○山口委員 この進行のイメージについては先ほど申し上げましたように、私のイメージとしては、基本的には簡易迅速な紛争解決手続ということですから3回で終わる、これを売りにしないといけないと思いますから、それが4回5回という形になるのは適当ではないのだろうと思います。そういうことで基本的に3回で行うことを考えますと、3回目は解決できない場合の解決案の作成と提示、それに基づく当事者の説得になるわけでしょうから、1回目、2回目で争点整理あるいは審尋等を行う形になると思うんです。しかも、これは3回で一定程度多数の紛争を処理するということになると、1回目で調停といいますか、ある程度話し合いができないと、1回目の多数の事件がそのまま審尋なり解決案の作成という形に流れていくとすると、場合によっては事件の滞留という現象すら招きかねないおそれがあると思います。したがってそういう意味で言えば、第1回の期日でもある程度話し合いができるようなシステムも考えなければいけない。そのためには、第1回の段階で基本的な争点整理と基本的な書証を見て、それを踏まえてお互いにどうですかと言えるような形にしないといけない。
 そう考えますと、第1回の期日をいかに充実させるかがこの制度が有効に機能するかどうかの1つのポイントかなと思っています。そういう意味では、第1回期日まで多少の時間はあってもいいと思うのですが、それまでの間に双方の基本的な主張、基本的な書証が出されるように、これは第1回期日前の準備をきちんとしなければいけない。第1回期日でその辺がかたまらないと、第1回で調停でまとめようと思っても、それはまとまりません。要するに、第2回の方に流れていくだけの話ですから、それは2回目でもまとまらない、3回目と後ずさりになっていくだけの話なので、第1回できちんと争点整理をして大体のことが裁判所も言えて、当事者に対して話ができるような形にして調停をできるだけ成立させるような形にする。そこでできなかったものについては、審尋等で人証等を聞いていく形になって、そこでまたやっていくわけでしょうから、その人証等を聞くまでの間に争点整理がきちんと出ていないと、どこにポイントを置いて人証を聞いていけばいいのかが、労使の専門家もわからないと思うんですね。そういう意味で言えば、第1回期日でいかに争点整理をし、話し合いをし、充実させた手続ができるかが、繰り返すようですがポイントになっていくと思います。
 そこをうまくクリアして次の段階へという形にする必要があり、そのためには、先ほど言われたように、申立ての書式等の整備等も当然必要になってくる事柄ではあろうかと思います。そういう意味で言えば、第1回期日は裁判所任せということではなく、労使の方にも入っていただきたいと私は思っておりますが。
 手続的には、そういう形で簡易迅速に処理をするということで非訟手続の一環として行われるわけですから、非公開を原則として行って、早く解決案をつくっていくような形にする方がいいと思いますし、余り重たい制度の仕組みにしてしまうと、迅速さは場合によっては犠牲にされかねないという思いはあります。

○髙木委員 つけ加えさせていただきたいのですが、この主要な論点の中でどういう事件を制度の対象とするかの部分が、中間取りまとめでは個別労働関係紛争解決をと第1条にも書いてありますが、これも読みようによっては、例えば公務サービスについている非常勤の人たち、あるいは請負契約の中で働いているけれど労働者性が非常に高いような人たちがどうなのだろうかという質問があって、ちょっと答えづらくて、そういう意味では全般的に議論される場面になるかどうかわかりませんけれども、どういう事件なりどういう労働者の関わる紛争がこういう制度の対象として扱われるのかについても、どこかで一度整理をしていただければと思います。
 事件数がどのぐらいになるかもよくわかりませんが、労働組合の役員なり職員をしているような者に、どの程度の複雑さになるかによって手に負えないものもあるかもしれませんが、ごく簡単な内容であったら、組合の役員が代理人のような仕事をさせていただいても対応できるのではないかということも思ったりしますので、その辺についても、これは弁護士さんやらおられるので、弁護士法72条がどうかよくわかりませんが、事件によっては一々弁護士の手を煩わせるまでもないと思うようなものもあるのではないか。それについてもどこかで一度御議論いただければと思います。今日である必要はありません。

○菅野座長 8と9については大体御意見を伺ったということでよろしいでしょうか。
 それでは、よろしければ7の「雇用・労使関係に関する専門家」の権限及び選任、研修と、今日は限られた時間ですが、ぜひおっしゃっておきたいということをお聞きしておきたいと思います。

○山川委員 前にこういう研修といいますか、こういう能力を身につけたらどうかとか、そういうシステムをつくったらどうかということを少し話しましたけれども、どういう研修内容・目的が考えられるかといいますと、1つは労働法令、判例の最新の知識を含めて習得することと、これはある程度わかっていることが前提で専門性のある方が参与するということではあるのですが、人事管理や労使関係の最新の知識と、OBも人材として招かざるを得なくなった場合には最新の動向も知っていただく必要があるのではないかということがあります。紛争解決システムそのものの知識、例えば手続、運用等も必要になると思います。さらには、これも当然知っている方が参加するということですが、労働紛争の特質の理解、あるいは適切な解決案はどういうものかという理解があります。最後に、紛争解決能力といいますか、スキルの問題がありまして、それもさらにいろいろ分かれて、1つは特に調停等で重要なのがコミュニケーション能力で、事実や当事者の思いのようなものを聴取して理解する能力と、逆に解決案等について説得をする能力があります。それと、事実認定もいろいろあると思います。これも専門性があることを前提にしてですけれども、供述の信用性、あるいは事件全体の流れ、筋と言われるもの、あるいは労使慣行の持つ意味についての認定のスキルがあると思います。さらに、具体的な解決案の作成の仕方、提示の仕方、さらには審判する主体としての倫理の問題ですとか、思いつくだけでもこれだけあって、これを100%持っていたら相当すばらしい解決主体になるかと思います。どのぐらいできるかわかりませんが、項目としてはそういうことがあり得ると思います。

○山口委員 専門家の選任の関係で、これは怒られるかもしれませんが、あえて問題提起はしておいた方が後々いいかなと思ってするのですけれども、基本的に労使の専門家を選任する場合に多分、裁判所の方が選任する形になるのかもしれませんが、裁判所の方もどの人が専門家として適当かはわかりませんので、どこかの団体から推薦をしてもらうことになるのだろうと思います。その推薦母体としてどういうものを考えればいいのかが1つあると思います。ある特定の大きな労働組合だけでいいのか、そうでないものもあるのか、あるいは、お話によると労働者の組織率が2割程度だとすると、8割の未組織労働者を代表する労働の専門家は一体どのような形で確保していけばいいのかという問題も詰めておかないと、せっかく専門家を選んだけれど、必ずしも労側あるいは使側を代表していないと言われかねないこともなきにしもあらずと思いますので、その辺は労側あるいは使側もそうですが、一度お考えになっていただきたいと思っています。

○村中委員 山口委員が言われたことは重要なことだと思いますが、労使関係の専門家という場合には、労使関係というのは非常に多様ですので、それぞれ特殊なところでの専門性を積まれますけれども、ほかのところはよくわからない場合が多いと思います。ですから、なるべく多様性を確保できるような選任の仕組みを工夫しないといけないと思います。労働委員会でも労使の委員は、使用者側も比較的大手の会社から出ているケースが多くて、中小の労使関係について必ずしも事情をわかってもらえなかったということを漏れ聞いたりもしますから、なるべく産業別、企業の規模別等が反映できるような仕組みが必要だと思います。

○髙木委員 労働側としてどういう推薦の仕方がいいのかと詰めた議論をまだしておりませんが、今言われた未組織の8割近い人たちをどう代表するのかという議論は非常に難しいと思います。その辺はいい方法やリーズナブルなアプローチの仕方があるかないかの議論をしてみたいとは思っておりますが。
 ナショナルセンターといいましても2つ3つありますから、その辺の団体間の合議はそう難しくなくできると思っております。
 次に研修をどういうものにするかは、先ほど山川委員におっしゃっていただいたことをすべてどの程度できるのかということかもしれませんが、大体このぐらいのレベルはクリアしておかなければいけないのではないかというものを、逆に客観的に……どうしても抽象的になるかもしれませんが、ある程度お示しいただいて、それに見合う研修を受けてもらうということではないかと思っております。研修は、日本経団連がどうお考えなのか知りませんが、労働側と経営者で研修内容が大分違うというのもおかしいと思いますので、一緒にやるかどうかは別にして、ハードルの高さや内容はほぼ同じようなことを、できれば一緒に合同でできるような研修の場をお考えいただくのがいいのではないかと思っています。
 労使推薦のいわゆる審判官は、少なくとも解決案に対する合議には裁判官と一緒に参加させていただいて、その解決案に対する……どういう表現がいいかわかりませんが、採決権というか評決権は同等に持たせていただくのがいいのではないかと思います。プロの裁判官には訴訟法のことやら訴訟実務のことで当然リードしていただくお役目を担っていただくのは当然のことだと思います。

○小島氏 使用者側はこれまで労働委員会の使用者委員の研修などをやっておりますので、そういうものも延長線上で何かできるのかなと思います。髙木委員がおっしゃったように、労使一緒にやるということも考えられると思いますし、裁判所の側で企画される研修も必要になるのだろうと思っております。

○髙木委員 どういう形でスタートさせていくかによりまして、とりあえず用意ドンのときに全国で何百名いるのかをできるだけ早めにシミュレーションしていただいて、それに合わせてリクルートというか目星をつけていかなければいけませんから、できましたら、スタート時点のある時期に大体こういう規模だとチェックを入れていただくといいと思います。

○小島氏 日本経団連の場合は地方の経営者団体と業種の経営者団体と両方ございますので、そういうバランスを考えながら推薦することは可能だと思っています。それと日本商工会議所であるとか、あるいは中小企業中央会等の団体も推薦母体になるだろうと思うんですね。これは推薦母体を代表するということになると話がおかしくなると思いますので、要はどこに専門家がいるのかと考えないといけないと思うんですね。労働側にしても、なるほど組織率は低いのですが、専門家はもしかすると連合に集中していることも考えられるわけですし、その辺が難しいと思うんですね。サラリーマン代表というのが選べるのならいいのかもしれないのですが、ただ、どういう人が労使専門家なのかというとまた難しい問題になりますね。場合によれば、裁判所に選考委員会のようなものをつくらなければいけないのではないかとも感じております。

○菅野座長 大体時間になりましたので、「その他」の論点は残っていますけれども、本日の検討はこのぐらいにしたいと思います。よろしいでしょうか。
 次回は、さらに労働審判制度の制度設計について御検討をお願いしたいと思いますが、どういう検討の仕方にするかは、私の方で考えて事前に御相談申し上げるということにさせていただければと思います。
 そういうことで本日の会は終了することにいたしたいのですが、最後に事務局から次回の日程の御説明をお願いいたします。

○齊藤参事官 次回(第29回)は10月31日(金)午後2時から5時を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。

○菅野座長 それでは、特にございませんでしたら、本日の検討会はこれで終わります。どうもありがとうございました。(了)