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労働検討会(第29回)議事録



1 日時
平成15年10月31日(金)14:00~16:05

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、春日偉知郎、熊谷毅、後藤博、髙木剛、村中孝史、矢野弘典、山川隆一、山口幸雄(敬称略)
(事務局)
山崎潮事務局長、古口章事務局次長、齊藤友嘉参事官、川畑正文企画官

4 議題
(1)労働審判制度(仮称)の制度設計等について③
  ・ 制度上の主要な論点等についての検討
(2) その他

5 議事

○菅野座長 それでは定刻になりましたので、ただいまから第29回労働検討会を開会いたします。
 本日は、お忙しいところ御出席いただきまして、まことにありがとうございます。
 本日は、熊谷委員が所用により途中で退席される御予定です。
 では、まず本日の配布資料の確認をお願いいたします。

○齊藤参事官 申し上げます。
 資料198は、「『労働審判制度』(仮称)の導入に関する主要な論点」、再配布でございます。
 資料199は、「労働審判手続(仮称)と訴訟の係属について」、これも再配布でございます。
 資料200は、「労働審判制度(仮称)の導入に関する主要な論点についての検討の概要」でございます。前々回と前回の議論を項目別に整理したものでございますので、御参照ください。
 資料201は、山川委員提出資料でございます。
 資料202は、髙木委員提出資料でございます。
 参考資料としまして、ファイルにしたものは前回と同様に配布させていただいております。
 それから、第23回の議事録の抜粋を参考資料として配布させていただいております。髙木委員からの御要請がございましたので配布させていただいております。なお、最終チェックが済んでおりませんので、未定稿という形で参考資料とさせていただいております。
 以上です。

○菅野座長 それでは、本日の議題に入ります。
 本日は、前回に引き続きまして、労働審判制度の導入に関する主要な論点についてさらに御検討いただきたいと思います。
 議論のための御参考として、前回と前々回の検討の概要を事務局にまとめていただきました。先ほどのように、資料200としてお配りしておりますので御参照ください。
 前回までで、主要な論点については概ね一通り御検討いただきましたが、その中では、特に制度の基本的な設計にかかわる「解決案を決することについての同意の要否」「解決案の効力」の2点について、委員間にまだ御意見の違いがあるように思われました。この点は制度の根幹をなす部分ですので、基本的な合意を得られるように、さらに御検討を深めていただきたいと思います。
 この点に関して、私の方から座長代理である山川委員に、これまでの議論を整理し、本日検討すべき論点を明確にする観点から、資料の作成をお願いいたしております。それが資料201の「労働審判制度(仮称)の制度設計の方向性について」という資料であります。また、髙木委員からは、資料202の「労働審判制度の制度設計について(意見)」という資料が提出されております。本日は、これらも踏まえて御議論をお願いできればと思います。
 初めに、山川委員から簡単に資料の説明をお願いいたします。

○山川委員 労働審判制度の制度設計の在り方につきましては、これまでも2回にわたって検討会で議論を行ってきたところであります。また、日弁連等でも議論がなされていると伺っております。
 いろいろな論点があるわけですけれども、特に手続の入口の問題と出口、つまり解決案の効力の問題は制度の最も根幹的な部分でありまして、この点について委員間の意見の一致を図ることが極めて重要であると認識しております。先ほど座長からお話がありましたように、本日の議論に資するために座長からの御指示を受けまして、制度設計についての基本的な考え方と方向性につきまして、これまでの議論等を踏まえて主要なポイントを絞り込んで論点を整理してみました。
 まず、第1が基本的な考え方という点ですが、(1)といたしまして、「労働審判手続は、労使関係の専門家の知識経験を生かしつつ、3回以内の期日で事件の解決を図ることを眼目としてはどうか」と書いております。また、(2)といたしまして、「労働審判手続においては、申立てがあれば、できる限り調停による解決又は解決案の提示にまで進むようにすることが望ましいのではないか」としております。これまでの議論で特に重要な点でありますのは、この1の(1)と(2)でありまして、この2点については、これまでの議論の中で概ね共通の認識ができたのではないかと理解しております。
 次が、制度設計に当たっての基本的な方向性に関する検討すべき点ということで整理してみたものでございます。これらの点につきましても、1に記載した基本的な考え方を踏まえてさらに具体的な議論をする必要があると思っております。つまり、労働審判制度の制度設計に当たっては、1の基本的な考え方を踏まえて、以下の3点について基本的な方向性を検討すべきではないか」というものでございます。
 (1)は手続の進行に関わることで、「手続の進行を相手方の意向に依存させることとする案と申立てがあれば相手方の意向にかかわらず手続を進行させることとする案について、更に比較検討してはどうか。また、事案の性質により、解決案を決しないこともできることとする案の当否についても検討してはどうか」ということでございます。
 (2)が出口といいますか、解決案の効力にかかわる問題ですけれども、「解決案に不服のある当事者が異議を述べるのみで失効するという案と解決案に不服のある当事者が訴訟を提起すれば失効するという案について、更に比較検討してはどうか」とという点が論点であると考えております。
 (3)は、(2)と関連しておりますが、訴訟手続との適切な連携についてであります。「労働審判手続と訴訟手続との適切な連携のための工夫について検討してはどうか」ということでございます。これは2の(2)との関係で労働審判手続と訴訟手続の適切な連携を工夫することも重要になるかと思いますので、ここに第3の論点として挙げさせていただきました。
 このような点が、これまでの議論を踏まえて論点を絞っていくという観点からすると挙げられるのではないかと思っておりますので、御参考になるのではないかという観点で提示させていただきました。

○菅野座長 ありがとうございました。引き続きまして、髙木委員から御提出の資料の御説明をお願いいたします。

○髙木委員 資料202を御参照いただきたいと思います。今、山川委員からも論点等について御報告がありましたが、多くの点で関係があると思います。
 まず、制度設計上の論点ということで、手続の進行につきましては、原則として申立てがあれば相手方の意向にかかわらず審判手続を進めるべきだということでございます。その上で例外的な場合、すなわち事案の性質により……「性質」という言葉がいいのかどうかよくわかりませんが、解決案を決定することが適当でない場合はどういうケースなのか、もっと詰めてみなければならないと思いますが、いずれにしても、例外的あるいは限定的に解決案を決定・提示しないケースがあるとしても、それは極めて限定的な場合という感覚ではないかと思います。
 解決案の効力につきましては、解決案に不服のある当事者が訴訟提起することにより解決案は失効するものとすべきであり、単なる異議申立によって解決案が失効するものとすべきではないと考えるべきと思います。
 そういう主要な論点を踏まえまして、我々のこれからの検討の順番でございますが、まず、解決案の効力から詰めていった方がいいのではないかと思います。解決案の効力をどうするかによりまして、手続の進行の具合にもいろいろな影響が出てまいります。そういう意味では解決案の効力の論点につきまして、単なる出口問題ということではなく、訴訟との関連性の問題が非常に重要という御意見も見られますが、解決案の効力をどうするのかを先行させて議論をすべきではないか。
 そのように訴える理由ですが、まず、解決案に対する不服申立のハードルが非常に低い形にいたしますと、解決案に重みが出てまいりません。そういう意味では当事者の意見対立が深くといいますか、強い意見対立があり、いずれか一方が解決案に異議を申し述べることが見込まれるケースについては、手続の入り口の段階で「事案の性質により解決案を決定することが適当ではない」と判断されかねず、労働審判手続に進行しないケースが増えてくるのではないか。あるいは、今のようなことに対しまして、解決案に対する不服申立のハードルが比較的高く、解決案に重みをつける制度設計とした場合には、当事者が解決案に多少の不服・不満を抱いても、解決案に服する可能性が高まる側面もあろうかと思います。そういう意味では当事者の対立が相当程度に高いケースでありましても、手続の入り口の段階で、事案の性質により解決案を決定することが適当でない場合には該当しないのだということで、審判手続を進行させていく方がよいのではないか。
 3番目に、労働審判制度の対象をどのようなものにするかという制度設計にも解決案の効力はかかわってくるのだろうと思います。権利の存否等をめぐる当事者の意見対立は相当程度に高度であるケースをも対象とし、労働審判で判定的な判断を下し、この判断に多少の不服のある当事者にもできるだけ従ってもらう、それとともに、当事者の意見対立がそうひどくないケースも対象として、利益調整的な判断を下す、それを労働審判制度の主たる目的であるとする。その両方があるわけですが、労働審判制度の在り方のまさに根幹にかかわる問題だと思います。そういう意味で、このどちらの感覚を強めて議論するのか。
 中間取りまとめの前に出されました春日委員の御説明がございましたが、春日委員の御説明はこういうニュアンスではなかったかと思いましたので、本日事務局にお願いして、その辺の御説明をされました第23回労働検討会の議事録をお手元に配っていただいたわけです。
 強いてつけ加えれば、当事者の意見対立がさほどでないケースのみを対象としている労働審判制度が存在する、いわば利益調整的な判断を下す制度を中心に考えるということであれば、労使関係に関する専門的知識経験を有する者が参画する必要性は余りないのではないかという批判も受けるのではないかと思います。
 解決案の効力をめぐる具体的な検討事項として、いわゆる17条決定に近い内容の設計になりかねない懸念があるように思いますので、資料に(1)から(4)、できるだけ単なる17条決定型にならないように、いろいろ御配慮をいただいた検討をお願い申し上げたいということが3ページに書いてございます。
 以上でございます。

○菅野座長 ありがとうございました。それでは、委員の方々からの御意見をいただきたいと思います。どうぞどなたからでもお願いいたします。

○石嵜委員 この会は検討会のメンバーの発言の場であるという前提がありましたので、今回はペーパーを用意しなかったのですが、労働法制委員会でもいろいろな議論をしました。その中での、今の論点に関する意見がいろいろ出ていて、一応正副委員長で取りまとめた案があります。それについて私自身は、以前から申し上げますように、このシステムは簡易迅速に、加えて労使がこの問題に参画することによって、労使が今持っている体験をうまく生かして、紛争解決に当たることを目的としていると理解しております。したがって、システムをがちがちにするよりは、労使の持っている体験の知恵をいかに生かすかがこのシステムの根幹であるという考えがありますので、正直言いますと、解決案まで示すことについては本人の同意があった方がいいし、示された解決案については異議で失効するものだと。こういう形で裁判とは併存するような形は考えないという意見を私は今まで述べてきましたし、労働法制委員会でもその意見を述べましたが、多くの先生方の実務体験でいろいろな議論をして、労働法制委員会の副委員長の段階ではこういう案が出ています。
 それは、労働審判の申立てがあれば相手方の意向にかかわらず手続を進行させ、原則として調停による解決か、審判による解決案の決定まで進むものとする。ただし、当該事案の性質上、審判手続によることが適当でないと認められる場合には、解決案の決定をしないことができる。すべて解決案を出さなければいけないという強制をするものではないというただし書きを入れた形で、入口論と言っていいのかどうか、そういうふうに考えています。解決案の効力については、不服のある当事者が異議を述べることにより失効する。
 こういう意見を最終的に取りまとめたのは、どうしても裁判との併存という形での複雑なシステムにするよりは、やはり最終的に不服があれば異議でとぶのだという形にして、正式裁判の一本にした方がわかりやすくて、加えて利用しやすいのではないかというのが、実務体験者の弁護士としての意見だったと思います。もちろん、本当にそれでいいのかどうかは、皆さん悩みを持っておられた方が多かったです、労働側の先生たちにも。ただ、その中でも、裁判が併存するよりは、異議でとんで1つのシステムの方がいいのではないだろうか、ということだったと思います。ただし、そうすると申立人が異議だけでとんでしまっては、なぜ審判をやったかということもありますから、なお書きで「その際、訴訟との適切な連携のための仕組みを工夫すべき」と。1つの案は、申立人が相手方の異議によって解決案がとんだ場合に、訴訟を望んだ場合、書面で、それは簡単な定型訴状のようなものを用意しておいて、その書面で訴訟の意思表示を確定すれば、訴訟の提起の効果は申立時期により遡及する。そうすれば、時効問題やいわゆる遅延損害金の問題を解決することができる。こういうものを訴訟との連携で、申立人の方に相手方の異議で解決案がとんだ場合のいわゆる保護を図れないか。こういうことを議論しています。もちろん、これもまだ議論の余地があろうかと思いますが、そういう意見で、最終的には委員長・副委員長としてはこういう案でいかがかということがまとまっているということだけはご報告させていただきます。

○菅野座長 それでは、どうぞ引き続き御意見をいただきたいと思います。

○矢野委員 この労働審判制度を考えるに当たりましては、中間取りまとめの制度趣旨に立ち返って考えるべきだと思います。労働審判制度は労働調停をビルドインした制度であることを私は申し上げておきましたが、あくまでもその制度の中核は調停、あるいはそのファンクションに注目すれば話し合いということだと思います。背後に解決案が控えているとはいえ、労使相互の譲り合いによって、あるいは専門的意見を取り入れることによって、紛争が解決されることが大切でありまして、したがってその当事者の同意を入り口のところで要することが制度の基本になると思っております。ADR全体の仕組みの中で裁判所における労働審判制度を設ける異議ですが、多くの経営者、特に中小企業について言いますと、行政の場には必ずしも衡平性が担保されないという意見がしばしば出てくるわけで、躊躇がある。しかし、裁判所でやる制度であれば、使用者もこの制度を積極的に利用して労使紛争を早く解決したいと考えている人が多いと思います。そのためにはいろいろな縛りがあって使いにくい制度、わかりにくい制度ではまずいと思います。
 ところで、当事者の同意なくして手続が進行して、一方、当事者が出頭しない場合には申立当事者の言い分のみを聞いて解決案が出される、しかも不服のある当事者が訴訟を提起しない限り、効力は失効しないという考え方があるわけですが、これでは事実上の4審制でありまして、審判制度を設けようとしている趣旨とは違うのではないかと思うわけです。言ってみれば、当事者の同意が不要という点で、いわば話し合いが中核となるべき審判制度の趣旨から外れる。次に、早期の紛争解決という観点からも妥当ではない。さらに、調停のみの解決を求める当事者が利用しにくい重たい制度になる。そして、訴訟と労働審判双方を当事者が利用した場合、非常にわかりにくい複雑なものになってしまうことが考えられるわけでありまして、賛成できないと思っております。
 そこで、手続の進行につきましては、当事者の意向に依拠することにして、また、審判制度は簡易迅速な解決制度でありますから、複雑な事案については解決案を決しないこともできるようにすべきであると思います。そして、解決案の効力についても不服ある当事者の異議のみで失効するという案が妥当であると思います。訴訟手続との適切な連携についても、利用者の身になって考えるべきだと思います。
 ただいま日弁連の労働法制委員会の意見が出されましたが、次の機会でもいいのですが、それをきちんと出していただいて、私どもも検討することはやぶさかではないと考えております。

○髙木委員 ADRの中で裁判所を使ってやるADRという位置づけをこの審判制度に与えようとしていますが、そういう意味ではADRの中で、ほかの仕組みも若干はあるのかもしれませんが、判定機能まで付したADRというのは今後これが多分中心になっていくのだろう。そういう中で眼目となるのは、利用しやすく迅速な解決というところで、審判に付することを求める当事者は、もちろん途中で調停で解決すればそれはそれでいいんですが、それで解決しない場合には、判定的な意味での判断を決定という形で出していただくことを当事者は求めているのだろうというか、求めるのだろうと思うのです。それを場合によっては判定的な判断を与えないことがかなりの比率で起こるような仕組みになるのであれば、それは調停制度でしかないわけで、いわゆる判定機能を持つという名に値しないという批判を免れない。そういう制度にしてはいけないなということを、私自身は強く認識すべきではないかと思っております。

○石嵜委員 確かに審判を出すか出さないか、解決案を出すか出さないかについて、最終的に例外論のような形で規定することについて運用上の心配があることは事実なのだろうと思います。ただ、だからこそ裁判官に労使の体験を通した人を入れて、この人たちの三者の知恵で出すべき事案か、出さない事案かを決めてもらう。そこは信頼してやるという柔軟なシステムということで生かした方が、この制度は生きるし、利用されるのではないだろうかと考えています。

○鵜飼委員 日弁連の労働法制委員会、正副委員長会議でまとめた内容の中に、事案の性質上審判手続によることが適当でない場合に解決案の決定しないという道を認めるべきではないかという部分がありますが、そこで議論されている内容はどういうケースかといいますと、先ほど矢野委員も少しおっしゃいましたが、当事者が多数で事案が複雑など、審判手続では処理するのが適当でないと認められるケースがありますね。そういうレアケースといいましょうか、例外的な場合を考えて議論しておりますので、もしそういう事件が労働審判に申し立てられた場合に、必ず解決案を出さなければいけないということになると非常に窮屈になってしまうという配慮からそういうことを議論しているわけです。したがって、限定的なケースであるということがわかるような規定の表現が必要かなと思いますが、そういう意味では私自身は例外的な場合を考えています。したがって、原則的には調停による解決か、または解決案による解決が原則であると考えています。

○髙木委員 先ほど石嵜委員がおっしゃったお言葉を読む限りでは、例外的かどうかということは全然わかりませんし……。

○石嵜委員 ただ、原則として調停による解決か……文章にしなかったから、言葉になったのでわかりにくかったのかもしれませんが、手続を進行させ、原則として調停による解決か審判による解決の決定まで進むとする、但し書きという形で我々は考えています。ただしレアケースについてとか、「レア」とか「ケース」についてはいわゆる限定をするのか、私のように、まだ三者の知恵を利用するのか。ここについてはいろいろな意見は出てくるだろうと思っておりますが、少なくとも原則として出すということは表現としてはきちんとしてあります。したがって、但書きは例外であることは事実です。

○村中委員 今の例外というか、解決案を出さない場合についてですけれども、どういう場合かについて鵜飼委員が1つ例を挙げられましたが、要するに事件が多数当事者で複雑という場合とお聞きしたのですけれど、それは1つにすぎないという理解でいいのですか。ほかにもいろいろあるということですか。

○鵜飼委員 原則というか、そういうケースにおいて、訴訟手続では必ず判決が用意されていて必ず出さなければいけないのですけれども、この手続では事件が申し立てられた場合に、最後で解決案を出さないといけないということではちょっと窮屈なのではないかということで、一応想定している事案の性質上適切ではないケースを私自身は考えているわけです。労働検討会の中でもそういう議論がされたのではないかなと、私は受けとめています。

○村中委員 それは3回という回数の中では到底処理できないからというご意見ですか。

○鵜飼委員 そういうことです。

○村中委員 そうすると、それが例えば5回、6回、7回でやれば処理できるということですか。

○鵜飼委員 その辺も量と質の問題がありますけれども、4回、5回はどうかということですが、イギリスなどは10回とか20回というケースもあるみたいですが、そういう重い事件がありますよね。それを決定まで出せというのは、これは酷ではないかと思っていますので。

○石嵜委員 回数問題があるわけです。我々の方は3回で絶対に終わると。そうでないと、4回、5回のレアケースをつくり出すと、それこそこの審判制度がおかしくなる。時間だけかかって、訴訟に移れば長期化する。とすれば、この制度自体が意味がないから3回で終わる。3回で終わるという前提にたったときに、事案として出せないものもあるだろう。その部分で、鵜飼委員がおっしゃったような例が出されたことは事実です。けれども、それだけに限定したつもりはありません。ただ、そういうことが想定されるということで、3回を前提としてそういう議論をしたということになります。

○村中委員 ドイツの裁判官にヒアリングしたときは、どんな難しい事件でも同じようにやるとおっしゃっていましたよね。例えば、これは3回ではできないと、これは審判する人が決めるわけですね。しんどいなと思ったら、とても無理だと言って、出せませんということになりませんか。

○石嵜委員 そこを言い出すと、それは裁判官と労使2人を参画させた3人を信頼してお任せするしかないのではないかと。それも、いや違う、3人でさえそういうことも考え出して、システムでもっとかたくすると言えば、それならそのシステム自体が重くて利用しにくいものではないかというふうに考えると言っているんです。

○村中委員 3回で必ずやるのだから、重くはないわけです。どんな複雑なものでも3回ですべきでしょう。

○石嵜委員 3回で考え出せないようなものでも3回でやってしまえと、そういうことですか。

○村中委員 そうです。証拠が積み上げられて、これはとても読めないというようなケースは客観的に決まるのかもしれませんが、それだけではないとおっしゃいましたよね。それに加えて質的に難しいケースもあるということになれば、審判できるケースとできないケースを、一体誰が判断するのか……。

○石嵜委員 そこは、労使の体験を入れてこのシステムをやろうと言ったスタートの議論なのではないかと私は思っていますけれども。その3人の話し合いの知恵に任せるのじゃないですか。

○村中委員 そこで、当事者が求めるにもかかわらずできないという答えを出すわけですか。

○石嵜委員 そういう例外も出てくるのではないですか。

○村中委員 例外が全く必要ではないかと言われると、ちょっと即答はしかねますけれども、今のような例では例外にはならないと私は思いますけれども。

○鵜飼委員 私の言ったケースですか。

○村中委員 はい。

○鵜飼委員 関係者多数で事案が複雑で……。

○石嵜委員 客観的証拠が多ければ、それはなるとおっしゃっている。

○村中委員 それはいいんです。例えば物理的に読めないとか、人間が1時間に何ページ読めるということがあって、それか読み切れないというのであれば、それは難しいという話にはなるかもしれませんね。

○鵜飼委員 率直に言って、労働法制委員会ではそこまで突っ込んだ議論はしておりません。民事調停法にも同種の規定があって、あるいは少額訴訟の部分でも少額訴訟が相当ではないケースとか、判断者側がそれを裁量で判断してその手続にのらせないといいますか、そういうことがありますので。ただ、この手続は労使と裁判官が審判員として関わって解決していく手続ですので、私は原則はとにかくゴールまでいくとすべきだと思いますので、ただどうしてもというのは認めざるを得ないのではないかなと。どうしてもこの手続では処理できないケースが出てきたときには、解決案までいけないという道は残しておくべきではないかなという意見ではあるんですね。それは、先ほど想定したようなケースはないかなと思います。これらも労働法制委員会で議論して決めたわけではありません。

○石嵜委員 まだ個別に、具体的にA・B・C・Dとかここまでとか、こういう議論までは詰めていません。それは今日のお話をいただいて、恐らく私たちはもう一回議論するのではないかと思います。

○鵜飼委員 髙木委員のペーパーにありますように、もし、これはもうだめだという形で解決案を出さないことになってしまいますと、この制度そのものが実効性を全く持たなくなってしまう。易きについてしまうということであれば、何をかいわんやなのですけれども、そういうことを考えているような提案ではないということはご理解いただきたいと思います。どう歯止めをかけていくかということです。

○村中委員 御趣旨はよくわかりましたけれども、心配なのは、非常に緻密に3回ということにしたのだけれども、やることは従来と何も変わらず、非常に緻密に証拠も調べ、事実を認定する。そして3回ではとても終わらないから、3回におさまらないものは全部しないというようになっては困る。ですからそこが、しかし例外の決め方でそうなりかねないような……。

○鵜飼委員 そういう危惧は確かにありますね。

○村中委員 ですから、そうならなければ特に問題はないのだろうと思うのですが、そこはやはり注意しないといけないという意見です。

○髙木委員 質問してよろしいですか。山川委員に出していただいたペーパー(資料201)の2(1)、それと先ほどの日弁連の御説明での「事案の性質により」の「性質」というのはどういう意味ですか。

○山川委員 これは日弁連の「制度設計について」を、直接ではないのですが伺っていたもので、それを踏まえてということもあるのですけれども、私の念頭にあったのは、いわば事案自体の客観的な性質ということで、これまで労働検討会の場でも出てきたのは、例えば大量の昇進差別のような事件が上がってきた場合に、従来とは違う簡易迅速な手続をとっても3回では到底無理と思われる事件がありますので、自分としてはそういうものを念頭に置いておりました。

○髙木委員 これは権利紛争がどうとか、利益紛争がどうとか、そういう紛争類型で分けるという意味ではないですね。

○山川委員 そういう切り口ではありません。

○山口委員 今の絡みでお尋ねしたいのですが、例えば一応3回の審理でやるとした場合に、1回目にある程度の争点整理をして、2回目に集中的に審尋なりをして、労使の方から聞いていくと思うのですが、3回目で解決案を出す形のシステムなのだろうと思いますが、ただ、実際問題として争点整理で争点がわかったにしても、審尋等で聞いていってもどちらが勝つのかよくわからないというケースもあるような気もするのですが、そういう場合は解決案を出すというお考えなのでしょうか。その辺はどういう感じでしょうか。

○菅野座長 どなたへのご質問ですか。

○山口委員 日弁連の方でもいいのですが。
 争点整理をして審尋はやって、労使の方から事情を聴きますし、裁判官と労使の専門家が合議をしますけれども、それでもどちらを勝たせていいかよくわからないというケースもないわけではないと思うのですが、そういうケースの場合は解決案を出すということで考えればいいのか、そういう場合に出すとすれば、申立人の方の申立棄却の内容になる解決案になる可能性が高いと思うので、それはそういう限られた中での審理なわけですから、おのずから限界があるので、したがってそういう場合も解決案を出すのは適当ではないというグループに含めていくのかどうか、その辺はどうなのかという質問です。

○鵜飼委員 私自身は、そういうケースはこの対象にはならないと思います。したがって、いわゆる主張立証責任をそこで入れていいかどうかわかりませんけれども、そこで最終的には認容するか棄却するかの内容の解決案が出されるのではないかと思っています。

○石嵜委員 正直言うと、その辺の議論はまだ十分に尽くされていないと思います。ですから、鵜飼委員はそういう意見ということで、確かに例外がないとやっていけないだろう、そして先ほどのような多数当事者の話が出たことは事実ですが、個別的に一つ一つは詰めていませんので、そういうところについての議論としては、私などが常に言っているのは、そういうときに出すか出さないかを三者に委ねる制度ではないかと考えているというのが私の案というだけで、その辺まで個別的には詰めておりません。

○春日委員 また質問で恐縮ですが、いわゆる真偽不明になるような状況の場合にどうするかという検討まではいっていないのですか。

○石嵜委員 まだ十分な意見交換はしていません。

○鵜飼委員 率直に言うと私自身は、先ほどの事案が複雑で当事者が多数であるようなケースだけを想定していたのですが、山川委員がおっしゃっいましたけれども、そういう場合にこの制度の趣旨からいって、事案の客観的性格からいって、とても解決案を出すことはできない、適切ではないというケースは解決案を出さないという選択肢を設けないと、ほかにどういう方法があるかどうかはあれですけれど、この制度自体としてはうまくいかないのではないかというのでそういうことを考えていたわけです。したがって、真偽不明の状況になったときにどうするかは、なるべく審理を尽くして解決案を出すように努力をして、なおかつこの制度の手続の枠の中でどうしても真偽不明になる場合は、主張立証責任の配分の中でやるしかないのではないか、割り切らざるを得ないのではないかという気がいたします。

○春日委員 もう一つよろしいですか。そうすると鵜飼委員の場合には、言葉だけでどうこう言うわけではないのですが、例外というのは「ある種の著しく不相当」とか修飾語のつくようなものという理解でしょうか。

○鵜飼委員 そうですね。民事訴訟法でどういう場合に計画審理を対象とするかというのは、事案が複雑で争点が多岐にわたり云々というのがありますよね。そういう例示をした規定ぶりもあるのではないかと思います。ただ、ここを余りクローズアップされますと、議論が変なところにいってしまうのではないかという気がします。ここをどうしてもと思って入れたわけではないので。ただ、審判手続の中で大きな事件がきたときに、全部3回の手続で出さなければいけないというのも、これはちょっと重いのではないかという素朴な疑問から出てきたのですけれども。

○山川委員 今の論点そのものではないのですが、別の視点もあり得るということで、先ほど村中委員が、当事者が求めているにもかかわらずというお話がありましたが、調停がビルドインされているという視点は常に出てくるのではないかという感じがします。裁判所においても立証責任の原則で判決を出さないわけにはいかないとしても、和解によって適切な解決を図るということは常に頭に置いてやられていると思いますので、先ほどの山口委員のご質問ともかかわりますが、調停という流れは常にあり得るということは、別の視点からですけれども留意しておく必要があると思います。

○石嵜委員 これも個人的な意見になってしまいますが、不明で立証責任の問題というのは4審制のような話ではなくて、そのときには和解案的な話の調停を延長した形での解決案の提示とか調停での提示とか、こういう方法もあるわけですし、だからこそこれは権利義務を踏まえてという話をしているのではないかと思っています。そういうときに原状復帰とか100対0とか、こういうものを不明のときに訴訟の立証責任で出すかというのは余り考えていなくて、そのときなら金銭賠償的な和解案も出せるのではないか。そういう柔軟性があるシステムではなかったのかと思っているということです。ただ、ここはまだそこまで詰めて議論していませんので。

○髙木委員 全く違う切り口の話ですが、日弁連の労働法制委員会で御議論いただいて、平たくいえばおとしどころを探っていただく努力をしていただいたのだろうと思うのですが、実務を日常的にやっておられる皆さんの御議論で、ちょっと失礼な言い方をすれば、実務をやっておられる方は、実務について新しい発想で何かやろうということには概して保守的ではないかという気もしないではありません。この御議論をいただいて、先ほど石嵜委員から御説明があったような感覚を整理していただいたということだけれども、今なぜ労働審判制度をつくるのか、どういう議論の経過でこういうものをやろうということにしてきたのか。また、審判制度に期待するものはこういうところなのだという本質論がどこまで吟味されてそういうお考えの整理になったのか、私どもはその議論に参加しておりませんから。矢野委員と私の意見が合わないから、どこかちょうどいいところで折り合いどころはないのかということをかわってやっていただいたということなのか。
 そういうことも含めまして、今日の山川委員のペーパーも、この日弁連の御説明の影響を受けた形でつくられたという趣旨の御発言がちょっとあったと思いますが、その辺、御努力は多といたしますが、単に足して2で割る話ではないと私は思っておりますので。
 そうでないと、私どもも委員としての推薦を受けている組織との関係でこちらは身がもちませんから、その辺も含めてどういうことなのか、事の本質を聞かせてほしいと思うのですが。

○石嵜委員 もし許していただけるなら、労働法制委員会としての議論をしましたので、髙木委員がおっしゃったような趣旨が全くなかったのかと言われたら、私たち自身も実務家としてまあ何とかというのはあったことは事実ですけれども、本質的には増加する個別労使紛争を労使の知恵を生かしながら、いかに紛争解決まで導くか、その枠で相手方の同意をとって進むべきなのか、異議でとばして訴訟と併存させた方がいいのか、その方が本当に利用者のためになるか。これは真剣に議論したつもりですので、その点は労働法制委員会で一緒に議論され、議長をされた豊川氏の意見を各委員に御許可いただけるのなら、その本質論と言われましたので、本質論についての御説明をさせていただきたいと思いますが。

○菅野座長 鵜飼委員、ほかにおっしゃることはありますか。

○鵜飼委員 御了解いただければぜひお願いしたいと思います。

○菅野座長 それではお聞きするということでよろしいですか。それではどうぞ。

○日弁連(豊川氏) どうもありがとうございます。髙木委員からお話があったことに関連して、要するに審判制度そのものが「事案の性格上」と言いましたのは、個別紛争の形はとっているけれど、実質は手段的な部分を持っているものが多々あると思うんですね。そういうケースはやはり入ってくると思うんです。だから、石嵜委員や鵜飼委員の意見、それから法制委員会にもさまざまな意見がある中で、ああいう形の案になりましたのは、簡易迅速な手続の中で3回できちんと判断をしていく、その事案にふさわしいものとふさわしくないものはやはりあるのではないか。当事者が求めているにもかかわらずその判断をしないということではなくて、その意味では髙木委員の資料201の1(1)は、そういうところを前提としながら、村中委員からお話がありました複雑なものであってもドイツでは3回でやるというものについては、まだ十分検討できておりませんし、さまざまなご意見をいただいているものについてはまだ深められる点はあるのですが、個別紛争、そして簡易迅速、3回で判断するという枠組みから外れた部分が入ってくる。端的なケースは、個別紛争、解雇のケースだけれど、その裏には実体的に見れば集団的な紛争があるというものも多々あるわけですね。そういうものが3回の審判手続ができるのかという点について言えば、どうかなという意見もありまして、その意味で事案の性質上と言いましたので、そういう審判手続の特別の簡易迅速性との関係の中で見ているわけです。真偽不明という部分については、真偽不明だから審判はしないということにはならないだろうと私自身は考えております。
 ですから、あくまで労働法制委員会の議論も、中をとったということではなくて、この手続そのものの中にそういう側面があるので、これはきちんと議論していただいたらいいのではないかということで、事案の性質上という形で文言を考えた1人でありますので、その点はぜひさらに考えていただいたらありがたいと考えております。
 貴重な時間をありがとうございました。

○鵜飼委員 先ほど事の本質と言われたので、私の意見としましては、確かに石嵜委員、矢野委員の、同意で解決案までいくというお考えは、それなりに解決をスムーズにするという点からいって傾聴に値する意見だと思いますが、この何回かの労働検討会の議論にありましたように、私は判定的な解決機能としてこの労働審判制度は非常に大きな役割を持つという前提から言いますと、同意にかからしめるということではこの制度の機能がほぼ半減してしまう……これは今まで検討会で主張しましたのでるる申し上げませんが、そういう意見であります。労働法制委員会でもその意見が大多数ということになりまして、したがって入口の段階で同意が必要であるというのは相当ではないだろうということになりました。
 解決案の効力について提訴によって失効すべきだという意見と異議だという意見は、労働法制委員会でもいろいろな意見がありましたが、しかし仮に異議を述べて失効した場合でも、異議の前の段階で解決するケースが非常に多いと思いますが、異議によって失効したケースにおいても、審判申立をする場合は労働者の割合が多いと思いますけれども、訴訟に移行することが簡易迅速、そして負担なくできるような手続が保障されていれば、それは実質的にはそれほど違いはないのではないかという意見交換をいたしまして、何とかここで労働審判、個別紛争が増大している中で判定的解決機能を裁判所が持つ、そのプロセスで調停がビルドインされるこの制度は、多くの労働者なり経営側にとっても、現在も個別紛争が増大する中で非常に有用な制度ではないか。それは労使の知恵が生かされるという意味で非常に前向きな制度なのではないかという意見が大勢を占めまして、何とかこれをいいものにしていきたい、具体的な形でスタートできるようにしていきたいという思いは共通なものがあります。したがって、若干先走りであったかもしれませんが、労働法制委員会で急きょまとめさせていただいたという経過がございます。したがって思いとしては、個別紛争の増大の中で、この間ずっとここで議論されてきた精神を何とか具体的な形にしたい、これを実現していきたい。実現した暁には我々も全力を挙げて利用できるようにしていきたいという思いで、これは労働法制委員会で期せずして意見が一致したところであります。ですから、先ほどの「事案の性質上」などいろいろな点で議論は十分尽くしていません、本当に短い時間で議論している部分がありますので、それはこれから労働検討会の中で我々も検討していきたいと思っています。

○矢野委員 山川委員のペーパーの一番最後に、「審判手続と訴訟手続との適切な連携のための工夫」と。私も似たようなことを言いましたが、どういう状態を想定しておられるか。審判が終わってからその後の訴訟との関係なのか、審判が始まったときからの関係なのか。どういう状況なのかお考えがあれば伺いしたいと思います。

○山川委員 このペーパーの趣旨そのものの問題にもかかわるのですが、日弁連の労働法制委員会のお話を伺ってはいましたが、もちろん直接に何かかかわったということではありませんで、この趣旨は、もうだんだん時間もなくっていることでもありますので、論点を絞るという意味で提出したという位置づけですので、何か特定の方向をあらかじめ決めてというものではありません。その意味で、念頭に置いていたものがこれに限られるということではないのですが、主としては解決案の効力とのかかわりで、つまり出口の問題で、それまでになされた審判手続あるいは審判が無駄にならないように、あるいは意味を持つようにするにはどうしたらいいかという観点から考えるべきではないかということです。したがって、念頭に置いていたのは解決案との効力との関係ということですが、どういう方向を念頭に置いていたかということについては、固定的に考えているわけではありません。

○髙木委員 先ほど、本質的な点はどうかという抽象的なお尋ねをしたのですが、審判制度ができて、当事者がこの審判制度、これは労使関係等に専門的なというか、知識経験を持つ人たちと裁判官が一緒に判断してくださる審判廷での解決案の提示を求めている。それがこの制度の本質、第一義的なねらいだとするならば、その解決案100%すべてが提示できるということではないというレアケースは私もあるのだろうと思いますので、私のペーパーにもそういうニュアンスは書いておきましたけれども、いろいろな工夫をしてできるだけ審判制度の本来の意図が当事者にとっても具現される制度にしていくべきではないか。そういう意味での本質論をこれから大切にして、制度の具体的な設計が考えられるべきだという意味で「本質」という言葉を使わせていただいたつもりです。
 出口論、効力の問題で、異議の申立てだけで失効だという御議論があり、けれども異議の申立てだけで失効させてしまったとしても、解決案の提示をされたという事実、あるいは提示された解決案の内容に、訴訟提起された後も訴訟の場でも当然その影響を受けるという御議論がよくなされますが、そういうケースはないとおっしゃる人もおられますけれども、解決案が異議が申し立てられて失効してしまったらもうこれでいいと、そこで切れる、解決のないままどこかへいってしまう。これは労働委員会などの印象が強いせいかもしれませんが、地労委、中労委の命令を裁判所の方にもっていかれますと、形式的には全く別物が裁判所にくる。労働委員会との連携は基本的にない仕組みであがってくる。そういう意味でそういう仕組みと仕組みのつなぎ方であるとしたら、まさに4審批判を免れないと思います。そういう意味では、山川委員のペーパーの2(3)をどうするかが非常に大きなポイント。
 制度の本質論から言えば、私は訴訟連動型が必要な仕組みではないかと思いますが、例えば異議で失効すると皆さんのお考えがなるとしても、訴訟との関係がきちんとしなければ、単に切れるとなると、労働委員会の救済命令と取消訴訟と同じ関係をこの場でつくるようなことになりかねない。その辺はどういう工夫があるのか、ここで工夫についてと書いてありますから、「工夫」というのはどういう意味かをお聞きしようかと思ったけれども、工夫は工夫だと言われたら終わりなので黙っておりますが、いろいろなミックスの中でシャビーでない、みんなに使い勝手のいい迅速な解決に付せる。
 例えば多数当事者の問題で、当事者が1件1件の中身が違うというケースはまた別かもしれませんが、同一事由による多数当事者はこの中で十分処理できるはずだと思います。そういう意味では、単に当事者が多数だけでは扱わない事件という判断にはならないと思います。そういう意味で、ぜひ実効性のある、シャビーでない制度にしなければいけないのではないかと思います。

○鵜飼委員 確かに髙木委員がおっしゃったように、まず多数当事者といっても賃金未払や退職金未払など、そういう意味では事案は単純で、当事者が多数いるというケースはあります。そういう意味ではできるだけ門戸を広げて、多くの事件が処理できるようにするのは当然ではないかと思います。
 もう一つ、訴訟との連携の関係ですが、どういう工夫があるかどうかは別といたしまして、率直に労働者側の立場で申し上げますと、調停不調になって2週間以内に訴訟を提起すれば調停申立の間に訴え提起したものとみなされまして、印紙などもその差額を支払えばいいということになるわけですが、ところが2週間以内に普通の労働者は裁判を出せないという現状がありまして、私のところにも間近にくるケースもかなりあります。したがって、この工夫はぜひきちんと簡易に、そして負担なく訴訟に移行できるようにぜひ知恵を働かせていただきたい。これがきちんとできることによって、この辺の利用者の側のニーズを満たすことになりますので、これはぜひ知恵を出し合って工夫をして、訴訟への連携がスムーズにいくようにしていきたいと思います。

○村中委員 使いやすい制度をつくるのは当然大事で、権利の侵害や紛争が起こっているところにできるだけ法的なルールで処理することを希望する人には、それをなるべく使いやすい形で提供することは当然国としてやらなければいけないと思うわけです。しかし、前にも申し上げたと思いますが、国が提供できるものには限度があるわけで、限られた人的資源やお金の中でそういうことをするときには、どうしても効率的に制度が動かないとだめだということもあると思います。労働審判制度というのは専門性があるということですけれども、これは事案に即した解決ができるということもありますが、他面、専門性があるがゆえに事件の本質を素早く見抜いて迅速に処理できるという側面もあるわけです。効率的な処理という観点から見ても、この専門性は非常に重要な点であると思います。
 効率的な解決ということから見ると、もし労働審判をやったとしたら、なるべくそれで事件が解決してしまう、そこから上へはいかないということを考えないといけないと思います。入口・出口論の議論をしていると思うのですが、そのときにもなるべく審判制度で解決できるという視点も忘れてはいけない。ですから、なかなか難しいのですが、一方で使いやすいこととともに、他方でそこで何とかおさまるという両にらみをしながら制度設計をする必要があると思います。

○矢野委員 先ほどのご発言を聞いてから考えていたのですが、こちらの審判制度は個別紛争を扱うとした場合に、中には個別紛争の顔をした集団紛争が出てくる心配がある。同様に、労働委員会の方も集団紛争の顔をした個別紛争があるということになるわけで、その辺をどう整理するのかなと考えるんですね。門前払いすればそれでいいのか、できるのかという両方の問題があるのですが、少しぐらいまざっていてもいいからやってしまおうかということなのか、そこは3人で相談して決めるというのか。その辺も論議した方がいいかなという気がしているのですが、どうでしょうか。

○菅野座長 中間的取りまとめでは、労働審判制度の対象となる紛争について個別労働紛争の解決促進に関する法律の条文から引用していますが、そこはもう少し議論しなければいけない論点ですね。

○髙木委員 実際には職場では個別紛争なのですが、企業の中のいわゆる苦情処理やら、それに組合が関わって労使協議の対象になったり、事件の中身をきちんと見ていけば個別紛争なのだけれど、そういう集団的な問題解決の手続の中を一遍くぐってきたようなものが、矢野委員がおっしゃるように、どっちがどっちなのか見分けがつかない部分があるのだと思います。今、労働委員会に個別労使紛争を集団的な関係ということでもってきている件数はかなりありますが、これはトータルで言うと現在の日本の制度の不備の問題もある面もあるのかもしれませんし、労働組合の組織形態が個人加盟型が余りないことによる……一部の個人加盟型の組合に問題があがっていって、それが集団的労使紛争という着物を着て出てくる。いずれにしても、その両面がある話だろうと思います。私どもも具体的な事案の中身でどっちがどっちということはおのずと判断されるのではないかと思いますけれども。
 山川委員が御説明されました労働審判手続と訴訟手続との関係で、労使のいわゆる審判員も参加して解決案を提示して、ここで異議申立でおしまいということであれば、参加・参画していただく審判員の人も、苦労のしがいがあるとかないという次元で言えば、いろいろやったのにこれで終わりかという意味ではその苦労は、当然マンパワーの関係やら費用の関係でも国費をかけてやるわけですから、費用の有効的・効率的な使い方という面も含めて、解決内容がどこかにフィードバックされていく形での訴訟手続との連携は、制度の信頼性といいますか、クレディビリティを高めるという意味でも、重要なポイントではないかと思います。

○鵜飼委員 私も全く同感なのですが、異議で失効という場合は、訴訟への連携を本当に最大限工夫して、特に労働側にとっては負担なく、本人が訴訟への移行を希望する場合は訴訟にいけるように、それは何とか担保しなければいけない。そういうことが担保されますと、逆に異議があったら99%以上は訴訟にいくということが事実として制度的にあれば、一方で解決案によって解決することにもなりますので、訴訟へ移行する段階はもうひと山、ふた山あるということになりますと、それは特に利用者、労働者にとってはきついものがありますので、そこは制度の出口の大事な部分ではないかと考えています。

○菅野座長 ちょっと早いのですが、この辺で休憩を入れたらどうかと思います。よろしいでしょうか。
 それでは、10分間休憩いたします。

(休 憩)

(再 開)

○菅野座長 それでは再開いたします。
 休憩前においていろいろ御議論いただきましたが、その中で特に髙木委員から、本質的な議論をしないでいたずらに合意形成ということにはならないようにという御注意もございました。それはそのとおりだと思いまして、私の方から申し上げたいのは、私どもが議論しているのは中間取りまとめの中にある「裁判所における個別労働関係事件についての簡易迅速な紛争解決手続として、労働調停制度を基礎としつつ、裁判官と雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者が当該事件について審理し、合議により、権利義務関係を踏まえつつ、事件の内容に即した解決案を決するものとする新しい制度、(以下全体としてこれを「労働審判制度」と仮称する。)」となっていますが、これを導入するということの内容でありまして、中間取りまとめにおいては新しい制度についてさらにそのイメージとして、「事件を審理しつつ、調停を試み、調停によって解決し難い事件について解決案を決するものとすることが考えられる」、その後に「その手続の内容、決せられた解決案の効力、及びこれとの関連における当事者の意向への考慮の在り方・・・等、制度の詳細についてはなお検討する」ことになっていまして、それを検討しているわけであります。
 このように新しい制度を検討しているわけで、私は日弁連の労働法制委員会でもそういう新しい制度を考えてどうしたらいいかということを、知恵を出して一定の提案をされているものだと理解しております。ただ、本日の山川委員の資料201にありますように、まだ基本的な点においてなお意見の対立があるということですので、さらに御検討いただくわけですが、今日の資料201の中では、基本的な考え方として2つの点を書かせていただきました。これは、休憩前に髙木委員も述べられましたが、この労働審判制度の本質的な内容をさらに中間取りまとめに加えて、このようなことはもう共通の理解としているのではないかとして書かせていただいたわけです。
 そういう基本的な観点を踏まえつつ、この制度設計の根幹にかかわる基本的な論点について御議論いただきまして、皆様から建設的な御意見をいただいておりますので、どうぞ休憩後もそれを補うような形で御議論を続けていただければありがたく存じます。

○鵜飼委員 日弁連の労働法制委員会の議論を若干御紹介しますと、もう何度も申し上げていますように、労働法制委員会は経営側を代理している弁護士と労働側を代理する弁護士、さらには労働委員会の公益委員や地方労働局のあっせん委員をしている弁護士、労働法学者が全国それぞれ選ばれて、全体の委員会としては二月に1回ぐらいですが、今回は急遽招集いたしまして、それも20名近くに参加していただいて議論しました。
 それぞれ立場が違うといいますか、労働事件を処理している実務家でありますが、労働審判制度の意味・意義は共通の理解として、これは非常に大きな意義があるのではないかと。もちろん制度設計をきちんとしなければいけないことが前提ですけれども、個別紛争が増えている、これを調停及び解決案の提示という形で、労使が参加して解決する。これは非常に大きな意義があるのではないか。これは共通の認識ができました。さらに、なるべくここで解決するような制度にしたいということも共通の認識としてあります。うまくきちんとやれば、ほとんどの事件がここで解決するのではないかということについては、それぞれが期待を込めた意見が出されたと私は思っています。
 そういう意味では、異議によって失効するか、提訴によって失効するかは、私たち実務家からすると、印象的にはかなり大きいように見えますが、それほど大きな差異はないのではないかというのが率直な意見で、異議による失効の場合は訴訟への引き継ぎ、移行をきちんと手当すれば、そういう意味ではそれほど大差はないのではないかというのが率直な意見です。提訴で失効する場合の法技術上の難しさといいましょうか、反訴を提起しなければいけないとか、原告と申立人の立場が逆転するとか、いろいろ不自然な状況もありますので、どうしてもというのは、異議による失効であった場合の訴訟への移行をきちんと工夫することでもその辺はクリアできると考えられて、あのような取りまとめになったわけです。
 これもタイムリミットがいずれにしてもあると思いますので、どこかの段階までは一定のものを決断しないといけない段階があると思います。私たちも、労働法制委員会での意見がコンクリートなものとは思っていませんので、最終的には労働検討会の中で合意ができれば、それが一番いいのではないかと思いますが、先ほどの異議による失効の場合でも、提訴がスムーズにできるような仕組みをどう工夫するかということについては、事務局を含めてぜひ検討していただきたい。私自身も検討したいと思っていますが、その辺がクリアされていけば、非常に利用しやすくて、審判手続で解決する制度になるのではないかと思っています。

○菅野座長 どうぞ、ほかに御意見をいただきたいと思います。

○髙木委員 今の鵜飼委員の御意見、結果論としては同じだという意味はあるにしても、問題のとらえ方としては私は賛成できないんです。そういう意味では、提示された解決案に対する申立てが簡単にできればできるほど、その決定に従わず不服申立というか、解決案を回避する可能性が高くなるのだろうと、これは世間一般的にそういうことではないかと思うんです。そういう意味では、審判の過程を通じてつくり上げていただいた解決案が無になるような可能性は高まるのだろうと思います。
 極端な言い方をすると、解決案の決定に当事者が従う可能性が相当程度見込まれる事件でなければ解決案の提示を実際にはできないというか、しない。そういう自己撞着に陥る可能性は否定できない。それでは結局同じではないかということでは問題の整理の仕方としてどうなんでしょうか。

○鵜飼委員 確かに髙木委員がおっしゃるように、解決案が受け入れられる見込みがなければ解決案を出さないということになってしまえば、この手続は機能を果たし得ないと思うわけです。したがって、当事者のニーズは紛争の迅速な解決を望んでいるわけで、それを調停を試みながら審理をして法令の解釈を適用して事案の解決を図っていく、その1つの手段として調停と解決案の提示があるわけです。したがって、解決案がのまれなければ解決案を出さないということになると、まさに自己撞着も甚だしいわけで、何とかそういうことをしないように……労使と裁判所の審判員の三者で構成しているわけで、安易な方向に流れないような仕組みはどうしても必要で、制度的な担保は必要だとは思いますけれども、具体的にどういう担保を考えたらいいのかということですが、先ほど申し上げましたように、事案が複雑で3回の審理ではとても解決案が出せないような事件は、一応そこで排除するというか、解決案を出さないのはどこかで組み込んでいく。そのことが逆に、髙木委員がおっしゃるようなことに流れないような歯止めをどうかけるかということがひとつ工夫しなければいけないところではないかと思っています。
 私も実際に労働相談を受けていて、現在はADRがありますけれども、労働審判制度を利用するであろうという人たちのケースはどうしても対立関係といいますか、先鋭な対立がないわけではないんですね。そういうケースが審判の申立てがされて利用されるということになりますので、審判を担う人たちは、これは山口委員などは十分御承知だと思いますが、非常に感情的な対立関係が持ち込まれることがあり、しかしなおかつ、それを短期間に適正な解決を図ることが求められているわけです。それが難しいから調停しない、解決案を出さないというふうに易きに流れることだけは食いとめないといけないという気持ちは非常に強くあります。したがって、解決案を出さない場合をどのように歯止めをかけて、先ほど言った特殊なケースだけに限定するかというのが非常に大事なところではないかと考えています。

○村中委員 しつこいようで恐縮ですが、解決しないこともあるということで、例外としてあるだろう、そういうこともあるのかなとは思うのですけれども、そういうことはなるべくしない形でないと、それを利用しようとする側も、持っていっても出ないかもしれない、そういう可能性も結構あるということになれば、そこを利用するかどうかの決断にも影響が出る。持っていけば何か解決案が出る、まれには例外的に出ないこともあるかもしれないけれど、普通は出るということにしておかないと利用も促進されないのではないかと思います。

○石嵜委員 最終的には今のお話になるのですが、使用者側も含めて、これだけ導入されたら利用しようかと言っているのは、労使が参画した形で紛争の解決システムをつくった労働委員会で使用者側は、労使が参画したらさらにトラブるという形で非常に抵抗感が強い。そういう枠でスタートした。これも審議2年間、聞いていただいたとおりなんです。そういう枠の中で私個人としては、それは集団紛争、ある種のイデオロギーも含めた事案だった。今度は、個別労使紛争だったら労使が参画して、自分たちの体験を通せば、この人たちの知恵を使ってやれば、はっきり言うと審判を出すか、解決案を出すか、労働調停での解決案か、これは判定機能と調停的な話と違っても、実際上は裁判官もおられて、そして三者の知恵を出されれば、それは解決につながるのだろう。またそれを積み重ねていくことによって、初めて労使が参画して紛争解決、個別労使紛争を含めて参与することに信頼が得られるだろう。そのためにも労使の知恵を生かそうという根本があったと思っているわけです。
 したがって、確かに例外をどうするかということもあるけれども、労使が参画したもの、いわゆる裁判官を入れたものを信じて柔軟性を与えることの方が、逆に言うといい解決ができるのではないか。これは本気で思っています。したがって例外論についてはどういう形にするかはまだ議論しなければいけないと思ってはいますけれど、そういう形で労使の知恵を生かすところがこの基本ではないかと思います。

○村中委員 労使の知恵を生かす点については私も全く同意見ですが、結局その生かし方について石嵜委員と意見が違うと思います。知恵の生かし方としては、出さないということも知恵の出し方だという石嵜委員の意見だと思いますが、私はどんな場合でも知恵を出してくださいと考えたいわけです。確かに個々の紛争だけを見ると、石嵜委員のおっしゃる方が適切かなと私も思います。ただ、制度全体の効果等を見たときに、必ず出ることにしておいた方がいろいろ利点があると考えます。私自身は石嵜委員のおっしゃることがおかしいとか、それが見当外れだと申し上げているのではなくて、それも大事なことであるけれども、制度全体を見るときにその視点だけでなく、もう少し違う角度も考えなければいけないのではないかと考えるということです。

○菅野座長 ほかにいかがですか。

○矢野委員 解決案を出せないという判断をいつするかも、現実問題としては大事だと思うんですね。3回やったけれどやはりできませんでしたというのでは、ちょっと情けないと思うんです。最初によくやって当事者と3人の審判員で相談して、これは無理だという判断を最初にするということでないと、本当のいいサービスにならないのではないかと思います。
 どういうものを例外として掲げるかということですが、一々想定して、こういうケース、ああいうケースというのは実際にできるのでしょうか。最後は、裁判長を中心にして労使委員3人で相談して決めることになってしまうのではないかという気がするのですが、それがまた制度の趣旨を生かすことにもなるような気がします。

○髙木委員 極端なことを言うと、3人の意見が全く同一の判断でかたまって、出された解決案まで異議の申立てがあるのか……これは日本の場合はあると思うんです。やはり嫌なものは嫌だと言って頑張る人にとって、異議の申立てで失効というのはどうなのか。これは公正・中立、労働委員会とは違うということをよくわきまえた労使とプロの3人が、三人三様にこういう解決案でいいのだという感覚で解決案をつくられたにもかかわらず、異議が申し立てられるケースは、山口委員は実際に判断されていて、絶対にこういうことだと確信をもって判断しても上にいくとか、いろいろおありになるのじゃないでしょうか。

○石嵜委員 それはいきますよ。ただ、そのときに訴訟を強制して、雇用の問題だと雇用関係の不存在を使用者が訴えてしまうとすると、労働側はどうしても反訴で雇用関係の存在を訴えていかないと結局実効性がなくなるとか、そういう訴訟の複雑な併存も、労働側の先生も一部の方が嫌がっていたのが会議の状況なんです。それはどっちをどう優先させるかという難しい複雑なシステムをつくるよりは、それは最初に1回とばして、そのかわり申立人の意向で簡便な方法でつないであげて、訴訟は1つにしておいた方が申立人にとって利用しやすいのではないかという議論です。確かに鵜飼委員がおっしゃったことも事実ですし、私たちの中でもこういう意見もあって、特に全体会議では、確かに異議でとんだ方がいいかどうか、訴訟を提起した方がいいかどうか、それは今確定的に話せない……それは想定の問題になってしまいますので。しかし、労働側としてはそういう訴訟の併存的な状態はつらい。これは多くの先生もおっしゃっていました。その辺も踏まえて、委員会についてはこういうことが中心になって議論された。それでいいですね、鵜飼委員。

○鵜飼委員 はい。

○石嵜委員 一応確認しておかないと、また勝手言っていると思われると困るので。

○髙木委員 そういう意味で訴訟の提起をもって効力云々という議論かなと思ってきたのですが、百歩譲ってというか、審判の申立てがあったことをもって訴訟の提起があったものとみなすとか、これは具体的には審判手続での争点整理や証拠調べの結果を訴訟手続に引き継いで、審判手続の結果が訴訟の迅速化等に生かしていける。そういう審判と訴訟のつなぎ方というのでしょうか、その辺のことがそれなりにないと、異議の申立てっぱなしで終わりということで。それから解雇された労働者等も、これでもうやらないならもう結構ですと、どこかへいって、自分は新しく探すということで結局、審判にしても問題解決の役に立てなかったということだけが残ってしまうことになるのではないか。
 この辺のことを資料198あるいは資料199に、今のような切り口の論点がないので、強いて言えば、資料198の2にはそういうことも含意されているのかもしれませんが。

○村中委員 訴訟との連携など問題はいろいろあると思うのですが、訴訟を提起しなければ消せないというのは、その解決に重みをつけようということだったと思います。それはつまるところいろいろな含みがあると思いますが、1つには、労働審判というものにおいて、真剣に当事者に議論してもらう、十分な証拠も出してもらうということがあったかと思います。確かに訴訟移行のときの複雑さなどいろいろな問題があるのかもしれませんので、そのあたりは考えなければいけないのかもしれませんが、先ほど少し言いましたように、なるべく効率的に解決してもらうためには、労働審判の中で当事者も自分の言いたいことはきちんと言った、それで結論も出たという状況をつくることが大事なのだろうと思います。
 そういう観点から見たときに、本当に異議申立で失効させてしまえるということでいいのか。そこはもう一工夫しておかないと、真剣味のある手続にならないのではないか。これは、事実を知らないのだと言われたらそれまでなのですが、抽象的・理念的に考えると、そういうことを思います。

○鵜飼委員 異議申立か提訴かによって解決案の効力がなくなって、次に訴訟に移ると、どちらの案でもそうなるわけですが、異議の場合は提訴に移るかどうかが1つの問題だと思います。訴訟に移行することについての工夫が必要ということになりますが、私はもう一つ、労働審判制度が利用されて解決案までいって、訴訟に移行する時点の訴訟の在り方も、先ほど髙木委員がおっしゃったように、迅速に、そして審判手続の存在が先行していることについて十分尊重するといいますか、さらに訴訟記録等についても十分引き継げるような工夫が必要ではないか。せっかくこれだけの人的に、あるいはコストも大きくかけて新しい制度をつくるわけですから、その場合にどうしても解決案で解決できないケースも出てくるだろうと思いますが、その次に訴訟にスムーズに移行させると同時に、訴訟手続をも迅速かつ適正にできるような配慮は絶対必要であると考えます。

○春日委員 手続の進行についてというテーマから解決案の効力、訴訟手続との適切な連携の方にだんだん議論が移っているようなので、効力と適切な連携の方でもよろしいでしょうか。
 髙木委員が、異議があったときに失効してしまうのは問題だとおっしゃって、異議があったときに「みなす」とおっしゃったのは、訴訟提起とみなすという御趣旨かなと思ったのですが、そうでしょうか。

○髙木委員 はい。

○春日委員 今までの御議論を伺っていると、全体的には新しい制度をつくるというときの、主としては法政策的というのでしょうか、そういう政策面からの議論だと思うんですね。それはそれで十分意義のあることで、この検討会ではそれが前面にでることは当然だと思いますが、私も手続法学者のはしくれというかそういう立場から若干お話ししますと、そういう政策的な面に御議論は十分詰めていただかないといけないと思うのですが、もう一つ、解決案の効力との関係では、理論的というか手続法制面のことも少し考えていただきたいと思っております。
 労働審判の解決案の効力ということになりますと、他の制度とのつながり等もそれなりには考えないといけないだろうと思います。一番典型的なのは、従来からお話が出ている民事調停法の17条決定の効力。これは、17条決定が出ても異議があれば失効するという形になっているわけですね。例えばほかの仮処分では保全異議という形で、保全異議を出さないと争えない形になっているわけです。そうすると、一方は失効で、他一方は何かの手続を踏まないと争えないという、2つのものがあって、それでは労働審判はどうなのか。効力の問題ということになると、ここが議論の中心だと思います。その場合に、ほかの手続との兼ね合いも少し考える必要があるように思いますが、私自身は、後者の方向が適切なように思っています。
 これは抽象的にしか今は言えませんが、むしろ事務局などにお知恵を出していただかないと、わかりかねる問題なので、少なくとも17条決定のような場合には失効する。そちらの方へ向けるのか、それとも、例えば仮処分の場合の保全異議のような方向にするのか、理論面からの検討も必要なのではないかと思います。もちろん、そのときに最終的には政策的な考量がウエートを占めるわけですから、それはここで十分御議論していただく。しかし、理論的な面も少しは考慮するという視点も必要ではないかということです。

○髙木委員 この審判制度は17条決定と同じような仕組み、枠組みではないのではないか。そういう意味では他の制度との整合性の関係が整理されなければいけないという切り口はわからないでもありませんけれども、17条決定と同じ扱いでは少し不十分なのではないかという観点から申し上げております。

○菅野座長 いかがでしょうか。今日は非常に本質的なところから制度的なところまでいろいろな御意見をいただきまして、私としては大変参考になりました。ただ、御存じのように残された検討の時間も限られてきております。そういうことから次回はどうするか、この制度を新しい制度として何とかまとめ上げたいというお気持ちは皆様共通ではないかと思っています。私としても今日の御議論をよくかみしめさせていただきまして、次回はどうするかをまた考えて、皆様に御相談申し上げたいと思います。そのようなことでよろしいでしょうか。
 なお次回は、労働委員会の救済命令の取消訴訟における新証拠の提出制限の問題についてもある程度は議論しなければならないと思っております。そういうことでよろしいでしょうか。
 それでは、事務局から次回の日程をお願いします。

○齊藤参事官 次回は11月26日(水)午前10時から12時30分を予定しております。よろしくお願いいたします。

○菅野座長 特に御発言がなければ……。

○髙木委員 質問があるのですが、この労働検討会で議論して、ある方向性を出したと。私が別途参加しております社会保障審議会等は、法案に係る内容を含むものについては法案要綱についての審議があるのですが、この検討会は法案要綱の段階での審議はあるのですか。

○古口次長 そこまで詰めては考えておりませんが、実際の作業のテンポと、どのあたりまで議論していただくことが適切なのかという事案ごとの判断だろうと思うんです。手続法ではありますけれども、基本的なところの御議論をいただいて、まず事務局の方で詰めて検討してみる。その段階でどういうお諮りをするか、また相談させていただくということだと思います。

○髙木委員 議論に供されることもあるし、ないときもあると。

○古口次長 そうですね。要綱までいくか、その前段階ぐらいのものは、むしろ経過を追ってお示ししたり御意見を伺うことは十分あり得るのではないかと思いますが、どこまで細かいもので議論していただくかは、時間との競争も含めて難しい面があるかもしれません。

○髙木委員 ついでに、この検討会と直接関係ないのですが、司法制度改革審議会の意見書に、最高裁裁判所の裁判官の国民審査の改善ということがあったと思います。今回また衆議院選挙で国民審査が行われますけれども、どういうふうに変えられたか、わかっていたら教えてもらいたいのですが。

○齊藤参事官 この点は私どもの担当ラインではよく承知しておりませんので、別途確認して、御報告できるようなことがありましたらば御報告させていただきたいと思います

○菅野座長 ほかにいかがですか、よろしいでしょうか。
 それでは本日の検討会はこれで終わります。どうもありがとうございました。(了)