○ 骨子(案)について意見はないが、制度設計に当たっての希望として、労働審判手続の申立人が訴訟手続による解決までは望まない場合には、訴えの取り下げを円滑に行うことができるよう定型的な取下げ書を準備する等の利便を図ってほしい。
○ 「解決案を定めずに労働審判手続を終了させることができる」場合については紛争解決という制度趣旨にかんがみて、裁判官と労使の委員が十分に相談して個々の事案ごとに判断することが適当である。訴訟手続との連携については訴訟を望む人の便宜を考慮したものだと思うが、専門家による公平な解決案の作成という観点から検討することが重要である。結論としては、この骨子案は妥当なのではないか。
○ 「事案の性質上、解決案を定めることが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でない」場合とはどのようなものを想定しているのか。
□ 中間取りまとめの趣旨からすると、労働審判制度のポイントは、簡易迅速な手続であること、雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者が関与すること、権利義務関係を踏まえつつ事件の内容に即した解決案を決することにある。そうした制度の性格からして、扱うことが難しい事案もあると思われる。制度になじまない事案を引き受けることによって、制度の本来の趣旨が損なわれることにならないよう例外的な場合を設けておく必要があるのではないか。具体的な判断は、最終的には裁判官と労使委員の三者に委ねるべきだが、あくまでも解決案を定めるという原則が損なわれないように留意する必要がある。
○ 解決案を定めずに労働審判手続を終了させるケースが多く出てくるようなことになれば、この制度の意義が減殺される。裁判官と労使委員の三者に具体的な判断を委ねるとのことだが、例外的なケースが広範囲にならないような歯止めが必要ではないか。
訴訟手続との連携については、労働審判手続で提出された証拠の取扱いについてはどう考えているのか。事件記録については、訴訟経済の観点から、原則として訴訟手続に引き継がれることとすべきではないか。
□ 労働審判手続で提出された証拠の取扱いについては、制度設計の骨子が決まった後に更に検討する必要があると考えている。
・ 「労働審判制度(仮称)の制度設計の骨子(案)」が了承され、次回の検討会では具体的な制度案の検討を行うこととされた。
はじめに、事務局から資料207について説明がなされた。続いて、熊谷委員から、厚生労働省の労働政策審議会における検討状況等について、資料208に基づいて説明がなされた後、資料207の主要な論点に沿って検討が行われた。
○ 審議会意見書は、労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方について、審級省略や実質的証拠法則の当否まで視野に入れて検討することを提言していたが、労働検討会ではこれらについては今後の課題とされた。せめて新証拠の提出制限については現段階で最低限措置すべきものだと考えており、是非とも実現させたい。
○ 新証拠の提出制限に関する論点については、どこが最終的な取りまとめを行うのか。労働政策審議会と労働検討会とはどのような関係になるのか。
□ この論点については、労働政策審議会における検討を参考にしつつ、労働検討会としても意見を取りまとめていただきたい。
○ 使用者側としても、裁判所の審理に耐えうる質の高い救済命令が出されることを望んでおり、労働委員会の判断が裁判所で覆されることを望んではいない。しかし、法律を改正してまで新証拠の提出を制限するまでの必要があるのか疑問である。使用者側も地方労働委員会の段階から勝ちたいと考えているのであり、労働委員会の段階で証拠を提出せず、訴訟の段階までしまっておくということは考えにくい。そもそも労働委員会の段階で証拠が提出されていない事例がどれほどあるのか疑問である。また、労働委員会側から証拠の提出を強く要請したことがどのくらいあるのか、その実態をみて検討する必要がある。
労働委員会の命令が取り消される原因の一つとして証拠の後出しがあるとのことであったが、実態は果たしてそうなのか。むしろ労働委員会の事実認定や不当労働行為の成否の判断の仕方に問題があるのではないか。実態として、使用者側の証拠の後出しにより取り消された事案が法改正を必要とするほど存在するのか疑問である。仮に合理的理由なく証拠提出を拒否したケースがあったとしても、信義則や時期に遅れた攻撃防御方法の却下といった訴訟法の一般原則を適用して判断すればよいのであり、不都合はないのではないか。
一般論として、労働委員会であっても裁判所であっても、それぞれの段階で不十分だったものを再度評価し、不足部分を補うために証拠を提出することは、当事者の当然の権利として認められるのではないか。新証拠の提出制限を行う必要はないと考えている。
また、労働委員会の公益委員会議又は小委員会に証拠提出命令の権限を付与するということだが、その権限が濫用されるおそれがあるのではないか。提出命令に対して異議が申したてられることによって審査の遅延が生じる可能性もある。また、提出を命ずるに当たっては労働者のプライバシーに配慮することが必要であるほか、使用者側には営業の秘密に関する文書もあるだろう。労働委員会は紛争の調整機能を果たす場であり、このような強制権限を公益委員に認めると、労働委員会の調整的機能を阻害することになるのではないか。同時に、参与委員の役割を見直す必要も出てくるのではないか。さらに、労働委員会の審査手続を民事訴訟の手続に近づけるのであれば、審問廷の秩序維持等に配慮する必要も出てこよう。このように多くの問題があることを指摘しておきたい。
○ 審査の長期化や不服率、取消率の高さが問題になっている中で、労働委員会本来の機能を回復させなくてはならないという認識は共有できているのではないか。審査手続の長期化の大きな要因として、特に組合差別事件等における使用者側の所有する資料の提出をめぐる攻防がある。証拠が提出されれば、客観的事実がすぐに分かりやすくなり、計画審理や的を絞った証人調べが可能になるだろう。労働委員会の救済的機能も大きな柱の1つであり、その機能回復は、いかに迅速かつ適正に証拠を提出させ事実認定を行うかにかかっている。新証拠提出制限は是非実現してほしい。これは証拠提出命令を設けることと表裏一体であり、提出命令をより実効あらしめるものである。これらは車の両輪の関係にあるのではないか。
○ 新証拠の提出制限は、労働委員会の証拠提出命令が実務で適正に運用されていくかどうかにかかっている。実務家の感覚からすると、労働委員会の証拠提出命令に対して、異議申立てがなされ、手続に混乱が生じるのではないかと懸念している。裁判所で文書提出命令がほとんど出されないのは、命令の当否に係る議論が生じるからである。このため実際には裁判官が代理人に強く提出を求める等非公式な形で文書提出を図る運用がなされている。証拠の提出は、公労使三者で説得をしていく機能を高めていくべきであり、提出命令と異議申立ての制度を導入することで本当に手続が迅速になるのか疑問である。
○ 資料208-2にあるとおり、裁判所での新証拠の提出による取消事案は平成6年から13年の間で3件あり、そのほかにも事実認定をめぐって取り消された事案がある。労働委員会において的確な事実認定が行われることが期待されているのではないか。
労働委員会から文書提出の要請があったにも関わらず提出されなかった事案の統計はないが、労働委員会の関係者等によればそのような事例もある程度見られるとのことであり、労働委員会において提出を要請したにもかかわらず証拠が提出されなかった事案は一定程度あるものと認識している。そのほか御指摘のあった点については、労働政策審議会等でも指摘されており、今後審議会で更に議論されていくことになると考えている。
○ 資料208-1によれば、証拠提出命令を出すに当たり物件の所持者からの意見聴取を行うこととする等手続を丁寧に行うために一定の配慮がなされている。このようにきちんとした手続により提出命令を受けたにも関わらず提出しなかった文書を、取消訴訟の段階で提出するというのは論理が一貫していないのではないか。
また、異議申立てが多く出されて混乱するのではないかとの意見については、実務をそのような方向にしていくという趣旨であれば遺憾である。
○ 理論的には、労働委員会という準司法的な手続にどれだけ固有の意義を認めるかということなのではないか。
固有の意義を認めないのであれば、取消訴訟での証拠提出は自由ということになる。
しかし、特別の機関を置いて審理を受けることとする以上、その意味をいかすことが必要となろう。そのような機関における審理を受けるメリットは、当事者双方が享受することになる。新証拠が取消訴訟で自由に提出されることになると、いわば前審を受ける意味が失われることとなる点で、信義に反することになり、労働委員会の手続の固有の意義がなくなるのではないか。
厚生労働省の研究会では、労働委員会の準司法機関としての機能を強化することもパッケージとして講ずれば、新証拠提出制限や文書提出命令等の措置も可能だという検討をしていたのではないか。
特許審判の取消訴訟の場合、実質的証拠法則は採用されていないが、一定の取消事由に限って主張立証ができるという扱いになっている。これは、特許審判の準司法的な性格を取消訴訟に生かしているということなのではないか。
証拠提出命令の運用に当たっては、参与委員の意見を聴かないと進められないと思われる。裁判所は文書提出命令をあまり行使せずに文書を提出させているというが、これが可能なのは文書提出命令の制度が伝家の宝刀のような形で存在しているからであり、権限がどの程度行使されるかということと制度を設けることの必要性とは必ずしもつながりはないのではないか。
○ 準司法的性格の手続を経ることについて労使双方に固有のメリットがあるという話だったが、労働委員会への救済申立てが労働側からしかできないこととの関係はどのように考えるのか。
○ 労使の参与委員が参加しており、専門家が入っていることのメリットは当事者双方にあるのではないか。
○ 我が国では制度上、使用者側は被申立人にしかなり得ない。アメリカでは使用者側も救済の申立てを行うことができるのだが、我が国では、使用者側にも準司法手続を受けるメリットがあるのか疑問である。
○ アメリカでも労働組合の不当労働行為は少なく、労働者側と使用者側では不当労働行為の要件も違っている。
○ 使用者側からの申立てができないことと準司法的な手続を経ることのメリットとは別の問題ではないか。準司法手続を受けるメリットは、不当労働行為の成否に関して、専門性の高い迅速で適正な解決が得られ、不当な言いがかりをつけられなくなるというところにあるのではないか。
今般の労働委員会をめぐる議論は、地労委間の事件数の相違や審理の長期化等の問題がある中で、事件処理が当事者中心の形で流されていくことがないよう、公益委員のリーダーシップを確保することによって本来の判断機能を回復させるべきではないかというものである。
このため、ある程度職権主義的でしっかりとした手続とするため、証拠提出命令の導入を議論し、その延長として新証拠の提出制限を導入するという議論があってもよいのではないか。証拠提出命令の実際の機能は伝家の宝刀のようなものであり、頻繁に出されることにはならないだろうが、これは当事者のみならず地労委に対しての、審査の在り方を本来に戻すべきだというメッセージにもなるのではないか。
○ 新証拠の提出制限については、労働委員会で提出してしかるべき証拠を裁判所で初めて提出するのは信義則に反しないかという考え方は理解できるが、前提となる証拠提出命令の枠組みが固まらないと議論しにくいのではないか。労働委員会で出すべきものを出さなかったことについてのペナルティという発想なのであれば最終的には労働委員会レベルで決着をつけるということも考えられるが、提出命令に対して不服のある当事者はどうなるのか。提出命令に対する取消訴訟ができるのかという問題もある。不服の申立ては労働委員会限りで止めるのか、別途の不服申立ての道を設けるかについて検討する必要があるのではないか。
また、労働政策審議会の案によると、要証事実の関連で証拠提出命令が出せることになっているが、要証事実が異なれば新証拠の提出は制限されないことになるのかという問題もあろう。要証事実の範囲をどう考えるのかについても労働政策審議会で更に検討していただきたい。
○ 御指摘の問題は、労働委員会の権能をどう理解するかという本質論に関わる問題である。最終的には全て裁判所で判断すべきだという前提で考えているのか。
○ 証拠提出命令に不服な場合、異議の申立てを労働委員会段階に止めるか、行政処分の取消訴訟まで考えるかということである。考え方は様々あろうが、ユーザーの観点からこのような問題も議論する必要がある。全てを裁判所で判断すべきだということではない。
○ 個人的には、労働委員会での提出命令について行政訴訟を認めるべきではないと理解している。団結権侵害は公序に関わる紛争なので、労働委員会が専門的機関として職権的に証拠提出命令を行うことが認められるのではないか。
要証事実の同一性については、不当労働行為の判断基準について、労働委員会と裁判所の考え方が異なるので、基本的なところを一致させる努力が必要ではないか。
労働検討会に付託されたのは、事実上の5審制の解消など利用しにくい現状の改善についての検討だったのではないか。中間取りまとめには新証拠の提出制限の検討が取り入れられたが、一方で労働政策審議会では、労働委員会の審査機能強化のための方策について議論がされている。新証拠の提出制限を実施すべきことは当然だと考えているが、今後は労働政策審議会の議論を参考にしながら、5審制の解消に向けた検討もする必要があるのではないかと考えている。労働政策審議会の今後のスケジュールを教えていただきたい。
○ 労働政策審議会の部会は12月に3回予定されており、12月16日までには取りまとめていただきたいと考えている。
なお、証拠提出命令は、他の行政委員会の証拠提出命令と同様に、行政事件訴訟法の適用を受けるのではないかと考えているが、御指摘もあったことから、よく検討して審議会でも議論していただくようにしたい。
○ 証拠の所持者には第三者も該当することになるとすると、この第三者に対しても過料が科されるのであれば、不服申立ての手続を労働委員会内に止めるのは難しいのではないか。
○ 労働委員会の不当労働行為審査手続では誰がどのような文書を持っているのかが想定しにくいが、よく整理して検討したい。
□ 本日の議論を踏まえ、次回には検討会としての意見の集約を図りたい。
東京地裁労働部の裁判官、弁護士等によって開催されている労働訴訟協議会の検討状況について、資料209に沿って石嵜委員から報告がなされた後、意見交換が行われた。
○ 協議会はたいへん意義の高いものだと思う。訴訟手続のタイムターゲットは、どのように決めていくことを考えているのか。
○ 複雑で争点が多岐にわたる事件ではなく、平均的な事件を念頭において、争点及び証拠の整理、集中的な証拠調べのしかた等を検討している。その中で審理計画を立てることについては、共通の認識が得られつつあるのではないか。裁判所とも率直に意見交換ができており、利用者のニーズに応えていきたいと考えている。
○ 協議会では手続面について実務的な観点から検討が進められている。
例えば被告は第1回期日までに弁護士を探して依頼し、第2回期日までにはきちんとした答弁書を出してもらうことはどうかといった議論や、証人尋問の時間は、計画審理の下で裁判所が枠を決め、その中での時間の割り振りや証人の人数については当事者に委ねてはどうかといった議論がなされている。
○ 法曹の事情のみならず利用者事情も考えて、そのニーズにも応えていかなくてはならない。
○ 労働事件を専門的に扱う弁護士と一般の民事事件を扱う弁護士とでは、イメージが若干異なるのではないか。協議会の議論はあくまでも労働事件を多く扱う弁護士の意見だということに留意する必要がある。
○ 労働訴訟協議会のメンバー間で労働訴訟のあり方がこのままではいけないという共通認識があり、改善点や疑問点について率直に議論できたのではないかと思っている。現時点でも多くの基本的な了解事項があると考えているので、今後何らかの形で公表したいと考えている。今後はこれをどのように浸透させ、どこまで協力していただけるか、どう目標を実行に移していくかが課題となるだろう。広範囲の人々に理解していただければ、労働訴訟は相当改善していくと思われる。
○ 裁判所と弁護士との協議は、今後も何らかの形で続けていきたい。また、労働委員会と裁判所の意見交換の場を設けることも有益なのではないか。
○ 労働訴訟協議会の位置付けはどのようなものか。協議会の成果は雑誌等への公表をもって終わりということなのか。協議会で検討された結果を踏まえて、労働検討会において、手続改正の要否について検証等を行う必要があるのではないか。
△ 労働訴訟協議会は、裁判官、弁護士の有志が集まって検討する場を設けていただいたというものであり、ある意味ではインフォーマルな検討の場と言える。ただ、協議会で検討された成果を労働検討会に報告していただく等何らかの連携や工夫の方法はあるのではないか。中間取りまとめとの関係では、労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否については、まずは「訴訟実務における運用の改善に努めるものとすることはどうか」とされているので、当面は更に運用改善の検討を深めていくということではないか。
○ 運用の改善だけで足りるかについては、協議会の報告を聞いた上で、最終的には労働検討会で更に吟味する必要があるのではないか。協議会の成果は労働検討会にフィードバックされるべきである。
○ 労働検討会では制度改正について検討し、労働訴訟協議会では運用改善について議論するものと理解しており、協議会では制度論については検討テーマとしていない。
○ 協議会の検討結果は雑誌等に公表するだけでは不十分だと思うので、労働検討会に御報告いただきたい。
□ 中間取りまとめの段階では、労働関係事件固有の訴訟手続の要否については運用改善に努めることとされたため、労働訴訟協議会での検討をお願いしてきた。また、9月以降は、当検討会では制度改正を要する事項を優先して検討してきた。しかし、制度改正の議論の終了後にどうするかについては、協議会の検討内容も踏まえて、別途考えさせていただきたい。
○ 運用改善の方法等についてはこの検討会で検討しないと世間の納得が得られないのではないか。仮に運用改善では不十分ということであれば制度改正もあり得るのではないかと考えている。また、運用改善の事項であっても規則等で明示的にルール化していくべきものもあり得るのではないか。いずれにしても、協議会へ丸投げしたということにはならないように配慮していただきたい。
○ 労働訴訟協議会での検討成果は強制力があるわけでもないので、すぐに実行に移すことは難しいだろう。しかし、仮に合理的なものであれば関係者の了解が得られていくし、不十分なものであればさらに検討が必要となろう。いずれにしても協議会の成果は今後の課題に関する一つの指標にはなっていくのではないか。
次回(第31回)は、12月19日(水)14:00~17:00に開催し、労働審判制度(仮称)の具体的な制度案及び労働委員会の救済命令の取消訴訟における新証拠の提出制限について検討を行うこととされた。