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労働検討会(第31回)議事録



1 日時
平成15年12月19日(金)14:00~16:10

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、春日偉知郎、熊谷毅、後藤博、髙木剛、村中孝史、矢野弘典、山川隆一、山口幸雄(敬称略)
(事務局)
山崎潮局長、古口章事務局次長、松川忠晴事務局次長、齊藤友嘉参事官、松永邦男参事官、川畑正文企画官

4 議題
(1)労働委員会の救済命令の取消訴訟における新証拠の提出制限について②
(2)労働審判制度(仮称)の制度設計等について⑤
(3)その他

5 議事

○菅野座長 それでは、ただいまから第31回労働検討会を開会いたします。
 本日は、お忙しい中を御出席いただきまして、ありがとうございます。
 それではまず、本日の配布資料の確認をお願いいたします。

○齊藤参事官 申し上げます。
 まず資料210でございますが、「労働委員会の審査迅速化等を図るための方策について(厚生労働省労働政策審議会建議)」でございます。
 資料211は、「労働委員会の救済命令の取消訴訟における新証拠の提出制限について(案)」でございます。
 資料212は、「労働審判制度(仮称)の制度設計の骨子」でございます。
 資料213は、「労働審判制度(仮称)の概要(案)」 でございます。
 参考資料としまして、「中間取りまとめまでの主な検討状況」のファイルと、速記官制度を守り、司法の充実・強化を求める会からの要請書及び電子速記システム参考ビデオテープ及びその説明書でございます。さらに、日本労働弁護団の「敗訴者負担合意の排除を求める意見書」を参考資料とさせていただいております。
 以上です。

○菅野座長 それでは、本日の議題に入ります。
 本日ははじめに、前回に引き続きまして、労働委員会の救済命令の取消訴訟における新証拠の提出制限について、さらに御検討いただきたいと思います。
 次に、労働審判制度の制度設計について、さらに御検討いただきたいと思います。
 それではまず、「労働委員会の救済命令の取消訴訟における新証拠の提出制限について」御検討いただきたいと存じます。
 この検討事項については、前回御議論いただきましたが、その後、厚生労働省の労働政策審議会においてさらに検討が進められ、12月16日に、資料210としてお配りしている建議が取りまとめられました。
 本日は、この建議等を踏まえて、さらに御検討いただき、当検討会としても、この検討事項について一定の意見の取りまとめを行いたいと考えております。
 そこで、資料211として取りまとめの案もお配りしております。
 初めに、熊谷委員から、労働政策審議会の建議の内容について御説明をお願いいたします。

○熊谷委員 それでは、御説明させていただきます。資料210が12月16日に労働政策審議会から厚生労働大臣あてに提出されました建議でございます。
 内容を、証拠の関係に重点を置いて御説明いたしますが、まず、「別添」の1ページでございます。前書きでございますが、下から2段落目の「以上のような状況を踏まえ、」以下に書いてございますように、今回の見直しは審査の迅速化と的確化の2つを図ることが目的でございます。
 その上で、一番下の「今般」からのパラグラフにございますように、「不当労働行為審査制度については、公労使の三者構成で労使紛争を解決するという労働委員会の特性を十分考慮しつつ、法的措置を中心とする制度の抜本的な見直しを図ることが必要であり」、「下記のとおり措置を講ずることが必要であるとの結論に達した」ということでございます。
 2ページの「記」でございます。第1として「審査手続」でございますが、2として「事実認定に必要な証拠の確保等」で証拠提出命令が整理されております。
 基本的には、2の3行目からでございますが、「労働委員会が不当労働行為事件の審査において事実認定を行う上で必要な証拠を確保することができるようにするため、次のように、公益委員の判断により、証拠の提出、証人の出頭等を命ずることができるものとすることが適当である」ということでございます。
 証拠提出命令につきましては、次の3ページに入りますけれども、「労働委員会は、不当労働行為事件の審査に必要な帳簿書類その他の物件を証拠として提出させることを、当該物件の所持者に対し命ずることができるものとする」ということでございます。
 「この場合において」ということで、命令の権限行使手続、対象物件の範囲及び不服審査手続についての講ずべき措置が整理されております。
 まず、権限行使手続でありますが、当事者の申立てまたは職権によりまして、公益委員会議または公益委員による小委員会における合議に基づいて命ずる。事前に所持者から意見を聴取しなければならない。さらに、労使の参与委員が事前に意見を述べることができる。この3点が書かれております。
 次に、命令の対象物件の限定でございますが、証拠提出命令は、不当労働行為の有無に関する事実の認定に必要な限度を超えて行うことができないものとすること。労働者のプライバシー及び企業秘密について、稟議書、個人的なメモ等も含め、それらの保護に配慮して行うこと。部分提出命令ができること。当事者からの申立てについては、物件の表示、趣旨、所持者及び証明すべき事実を明らかにしなければならないこと。命令につきましても物件の表示、趣旨、証明すべき事実を明らかにして行わなければならないということで整理されております。
 次に、不服審査手続でございますが、この証拠提出命令を受けた者がその処分に不服があるときは、処分を受けた日から1週間以内に不服申立てをすることができるものとするということでありまして、具体的には、地方労働委員会による証拠提出命令につきましては、中央労働委員会に対する審査請求ができるものとする。中央労働委員会による証拠提出命令に対しては、異議申立てができるものとして、これは小委員会ではなく、公益委員全員の合議によって審理を行うということでございます。
 1枚おめくりいただきまして、証人出頭命令等を飛ばしまして、3の「審査手続の公正の確保」でございます。この不当労働行為事件の審査手続の公正を確保するために、公益委員の除斥と忌避の制度を設けることが指摘されております。
 続きまして5ページ、「第2 取消訴訟における新証拠の提出制限」でございます。この問題につきましては、第2の第2パラグラフでございますが、労働委員会で提出しなかった証拠を取消訴訟段階で提出することについて、信義則に反するおそれがあること、事件の解決が長期化し、正常な労使関係秩序の迅速な回復を目的とする制度の機能が著しく没却されるおそれがあること。こういう問題を避けるために、「労働委員会段階で証拠提出命令を受けたにもかかわらず当該命令に係る対象物件を提出しなかった者は、労働委員会に提出しなかったことにつき正当な理由がある場合を除き、労働委員会の命令に対する取消訴訟において当該物件について証拠の申出をすることができないものとすることが適当である」という指摘をされております。
 さらに、このほかの点といたしまして、第3で「審査体制」がございまして、(1)中央労働委員会に常勤の公益委員を配置すること、(2)中央労働委員会において小委員会方式を導入すること、(3)研修の充実等、事務局の審査体制の整備を図ることもあわせて指摘されているところでございます。
 以上でございます。

○菅野座長 ありがとうございました。それでは、事務局から資料211について説明をお願いいたします。

○齊藤参事官 資料211につきまして御説明申し上げます。
 ただいま、熊谷委員から御説明がありましたように、厚生労働省の労働政策審議会の建議では、不当労働行為事件の審査の迅速化及び的確化の観点から、労働委員会における証拠提出命令の制度の導入とともに、労働委員会命令の取消訴訟における新証拠の提出制限の措置を講ずることが提言されております。あわせて、労働委員会の審査手続及び審査体制の両面にわたる総合的な取組みが進められるべきとの認識のもと、各種の措置を講ずることが提言されております。
 当検討会におきましても、「労働関係事件への総合的な対応強化」の一環として、労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方について検討を行い、8月の「中間取りまとめ」におきましては、いわゆる新証拠の提出制限について、引き続き検討することとされていたところでございます。
 こうした検討の経緯を踏まえまして、資料211のような取りまとめとしてはどうかと考えているところでございます。
 内容を申し上げますと、労働委員会の救済命令の取消訴訟における新証拠の提出制限につきましては、厚生労働省労働政策審議会の12月16日の建議を踏まえまして、労働委員会での不当労働行為事件の審査手続における証拠提出命令の措置とともに、その他の審査手続及び審査体制の充実のための措置が講じられることを前提といたしまして、次のような新証拠の提出制限の制度を導入することとしてはどうかと考えております。
 すなわち、労働委員会における不当労働行為事件の審査の段階で証拠提出命令を受けたにもかかわらず当該命令に係る対象物件を提出しなかった者は、労働委員会に提出しなかったことにつき正当な理由がある場合を除き、労働委員会の命令に対する取消訴訟において当該物件について証拠の申出をすることができない、とするものです。
 なお、資料の(注1)及び(注2)では、労働委員会の証拠提出命令並びに労働委員会の審査手続及び審査体制の充実のための措置についての建議の提言を、確認的に注記いたしております。
 以上でございます。

○菅野座長 それでは、ただいまの御説明を踏まえて、新証拠の提出制限についての御意見等をいただきたいと思います。どうぞ御発言をお願いいたします。

○矢野委員 この改正の趣旨は、取消訴訟におきまして労働委員会命令が取り消されることが多いという状況に鑑みて、労働委員会段階でできるだけ証拠を出させて裁判に耐え得る命令を出そうという趣旨であると理解しております。使用者側としても、信頼のおける質の高い命令が出されることを願っております。また、裁判での意図的な証拠の後出しがもしあるとすれば、適当なことではないとも考えております。しかし、裁判段階における新証拠の提出制限が妥当なものとなるかどうかは、労働委員会の証拠提出命令が的確に出されるかどうかにかかっていると思います。この点、今回の厚生労働省の建議が、労働委員会の手続を裁判手続に近づけている点、また、労働委員会の証拠提出命令などにつきましても、プライバシーや営業秘密の保護に配慮している点については一定の評価ができると考えております。
 しかしながら、なお、使用者側には労働委員会、特に地労委による証拠提出命令が濫用されるのではないかということについての危惧の念が存在しております。そこで、労働委員会の証拠提出命令等の法文化に当たりましては、濫用を防止するために証拠の特定、必要性の要件を厳格にするなど、民事訴訟法の文書提出命令に近いものにすべきであると考えます。
 また、加えまして、労働委員会のよさは公労使三者の信頼関係に基づく事件解決に向けての共同作業であると思います。これが労働委員会の調整的能力を高め、和解などの事件の解決、あるいは労使関係の安定に寄与してきたわけであります。そこで、公益委員会議の命令権限が法文化されたといたしましても、証拠の提出は、まず労使それぞれの委員を通じ、説得するなどの方法によりなされるべきであろうと思いますし、その意味では証拠提出命令は極めて例外的なものであるという運用がなされるべきだと思います。
 さらに、実務的な観点から申し上げますと、証拠の摘示をしていないような命令を出した労働委員会は、証拠による事実認定を重視していないとも推測されるわけでありまして、そのような労働委員会の証拠提出命令に新証拠提出制限のような強い効果を求めるのは合理性がないと思います。したがって、取消訴訟の対象となる救済命令が証拠の摘示を行っていることが要件となされるべきではないかと思います。
 また、新証拠提出制限が規定されるに当たりましては、裁判所は提出を制限することができるといった規定の仕方にすべきでありまして、さらに裁判所が必要、相当、もしくは労働委員会段階での証拠不提出に正当理由ありと認めたときは、制限の対象とならないというようなまとめ方もすべきではないかと考えております。
 基本的には賛成意見を述べた上で、以上のような意見をつけ加えておきたいと思います。

○山口委員 厚生労働省の建議の関係で、前回もちょっと話題になりましたが、証拠提出命令について中央労働委員会でも不服審査をすることになっておりますが、その不服審査について、さらに不服がある人は、証拠提出命令の取消を求めて行政訴訟が起こせるという理解なのでしょうか。そこはどういう理解でしょうか。

○熊谷委員 証拠提出命令は行政事件訴訟法の対象になるという理解ですね。

○山口委員 そうすると、証拠提出命令の取消を求めてまた別に行政訴訟は起こせるという理解でいいのですか。

○熊谷委員 はい。

○山口委員 そうだとしますと、結局、証拠提出命令をめぐってさらに裁判所に提出命令の取消訴訟が提起されることが一定程度予想されるわけですが、労働委員会の方でその証拠が必要だということで提出命令を出しているにもかかわらず、そういう形で取消訴訟が提起された場合には、普通は労働委員会の審査において、証拠提出命令の取消訴訟の結果を待ちましょうということになる可能性がないわけではないと思うんですね。その証拠が必要だから出せと言っているけれども、それをめぐって争っている以上は、その取消訴訟の判断を待つことになりかねない。そうすると、本来迅速に行うとされるべき労働委員会の本体である不当労働行為の審査が、ある意味では逆に遅延する可能性も出てくると思います。私はその辺を危惧しておりますので、私はユーザー主義ですから、労使がこういう取りまとめでいいとおっしゃるのであれば、それについて異論を差し挟むつもりはありませんが、何とか証拠提出命令をめぐる争いを、できれば労働委員会レベルで押さえられるような形のシステムをつくった方が、先ほど申し上げましたような、本体である不当労働行為の審査の遅延を避けられるのではないかと思います。
 そういう意味ではそういう工夫をできればしていただきたい。現在、御承知のように、ただでさえ裁判所は労働委員会から恨まれておりますので、これ以上恨まれるような制度はあまり好ましくないと思っておりますので、どうかその辺も検討していただきたいと思います。

○鵜飼委員 私も全く同じ意見で、結局、迅速性にもとる結果になる可能性があると思います。5審制という現状のままでいきますと、提出命令に対する取消訴訟がまた裁判で争われ、その間は審査手続を中断せざるを得ないということになりますと、遅延の大きな要因になると思うんですね。公害等調整委員会の制度では、取消訴訟ができないという制度設計になっているやに……これは正確ではありませんけれども、聞いておりますので、私は司法制度改革審議会の意見書の趣旨は迅速化、適正化というところにあるわけですから、せっかく提出命令と新証拠提出制限という仕組みをつくろうという段階で、さらに取消訴訟ということになりますと、それはその制度の趣旨にもとることにもなりますので、そういう制度的な工夫をぜひ御検討願いたい。もし万が一、それはどうしてもできないというのであれば、これは審級省略、実質的証拠法則を導入すべき、むしろ逆にそういうことが言えるという側面もあります。ほかの行政手続を見ますと、一方で審級省略等をやりながら、取消訴訟ということにもなっているようですので、そういう意味ではせっかくの的確性、迅速化のための制度であるにもかかわらず、取消訴訟ということになりますと、新証拠提出制限といいましても、何のための新証拠提出制限かということになってしまいますので、その辺は意見書の趣旨に合うような制度設計をぜひお願いしたいと思います。

○熊谷委員 行政事件訴訟法との関係につきましては、今ほど鵜飼委員からもお話がございましたように、公害紛争処理制度においてはその裁定自体について行政事件訴訟法の適用除外になっておりまして、その裁定及び手続に関する処分ということでセットで適用除外の形になっており、私どもが調べている限りではこれが唯一の例外と承知しております。ほかの公取委、公害等調整委員会でも土地利用調整制度や特許庁の審判制度とか、すべてその処分とその間の証拠提出命令の両方が適用対象になっておりますので、そういう並びから考えると、労働委員会も証拠提出命令について行政事件訴訟法の適用除外にするのは基本的に難しいのではないかと考えております。ただ、行政事件訴訟で争われることが遅延をもたらすということは御指摘のとおりでございます。もう一つの要請であります的確化のために、ある程度迅速性が犠牲になることもやむを得ないという判断でございますが、この建議の③の2に「不服審査については、その手続の迅速化に十分配慮することが必要」ということで、労働政策審議会でもこの点も含めてかなり議論はされたところでありますが、最終的には、先ほど御説明しましたような理解で公労使の御理解をいただいたということでございます。

○村中委員 今のはよくわからないのですが、提出命令が出て、それに対して不服という場合に、それで不服申立てをして取消しという間には、労働委員会のほうの手続はとめないといけないものでしょうか。それはそれとしてやっていても構わないのではないでしょうか。それはやはりとめざるを得ないのですか。

○山口委員 裁判所の場合も同じような問題があるのですが、提出命令の関係でどうしてもそれを調べないと進まないような場合は、ほかのできる部分はやりますが、それがまさに攻防の対象になっているような場合は、その結果を待たないとほかの部分は進められないという形になる場合の方が多いですので、その証拠提出命令について取消訴訟ができる場合に、どこまでできるかはわかりませんけれども、かなりの部分はとまらざるを得ないということはあると思いますね。

○村中委員 提出命令を出しても、それが有効なものであると確認されても、それには従わないという可能性もあるわけですね。

○山口委員 ございますね。

○村中委員 でも、出た以上従うかもしれないので、その可能性を待つということですかね。

○山口委員 従ってもらって、中央労働委員会の段階では審査請求なり何なりで出してもらえればいいのですが、徹底的に争う場合は取消訴訟を起こすのでしょうから、それこそ徹底的に争うような文書なり何なりになるだろうと思うんです、そこまでやるというのは。そうすると、出してほしい方はぜひ出してもらいたいという形になるし、それをめぐって具体的な立証を考えていくということになりますから、その占めるウエートは相当大きいのではないでしょうか。
 それと、先ほどの厚生労働省のお話の件ですが、確かにほかの場合は、証拠提出命令等について行政訴訟が起こせるような形にはなっているとは思うのですが、私はちょっと勉強不足なのですけれども、実際にそういう証拠提出命令なり、あるいはそれについての行政処分として取消訴訟がどの程度起こされたかはおわかりになるのでしょうか。

○熊谷委員 命令自体が出されている例が、調べたところでは極めて少なかったということで、1件とかゼロということです。

○山口委員 労働事件は紛争の特殊性があるのかもしれませんが、必ずしもほかの制度とイコールではないようなところもあるかと思いますので、先ほど申し上げたような趣旨で、その辺も検討していただければと思っております。

○鵜飼委員 ほかの制度では審級省略とか実質的証拠法則とか、そういうものが手当がされているんですね。そもそも現状では5審制という状況になっているわけですよね。そういう状況だからなおさらのこと、さらに行政訴訟でということになりますと、ますます遅れてしまう。少なくとも意見書のメッセージにもとることになると思うんですね。何か一工夫をお願いしたいと思います。

○村中委員 今の事案で、例えば提出命令を出したといった場合にどうなるかという個別の事案を見ると、確かに遅延するかもしれませんね。しかし、全体として提出命令が出る可能性があって、それが新証拠提出につながるという、全体を見たときのそれが持つ効果。それが、要するに全体として的確性、迅速化をもたらすのであれば、それは十分に入れる余地があるということだと思います。ただ、制度というのは……。

○山口委員 そこまではいいのですが、そういう意味で言うなら、証拠提出命令をめぐる紛争は労働委員会レベルでおさめられた方が、より迅速かつ的確になるわけなので、そういう観点から配慮があってもいいのではないかということなのですが。

○鵜飼委員 行政訴訟の意味がもう一つ分からないのですけれども、救済命令の取消訴訟の中で提出命令の当否の判断はできないものでしょうか。それは、行政訴訟手続法に特別な規定を設ければいいのだろうと思いますが。

○熊谷委員 御指摘の点について、私どももこれまでも検討はしたところでございますが、行政事件訴訟法では行政庁の処分、その他公権力の行使に当たる行為について取消訴訟ができるという基本的な枠組みをつくっておりますので、今回の証拠提出命令が労働委員会という行政庁の強制力を伴う処分であるということは否定しがたい事実でありますので、この特例はなかなか難しいではないかというのが私どもの考えでございます。
 おっしゃっている問題意識自体はよく分かりますし、そういう実害が生じないような工夫を重ねたいとは考えております。

○山川委員 確かにそういう工夫ができればいいと考えておりますが、1つは、最終的な命令と一緒に争う場合には、例えば命令に基づいて出した証拠による事実認定のようなものが前提にならざるを得ないような気がしますので、もしそれで認定をした上で命令を出すということになりますと、例えば新たな証拠が別に申立人側、被申立人側から出てきて、それに基づいて認定をするということになると、逆に提出命令自体の必要性が事後的に失われて、提出命令自体を取り消すシチュエーションになるので、どういうシチュエーションで最終的な命令と一緒に争うことが可能になるか考える必要がありそうな感じがします。個別的な事件でも、遅延についてはケースによるので何とも言えないところがあると思いますが、取消訴訟が出されたときの資料の提出の仕方などと1つはかかわっておりますし、もう一つは、相対的な話で適切に表現しがたいところもあるのですが、もし必要な証拠が全く出ないとなると一体どのぐらい遅延するのかということとの比較で考えざるを得ないので、全体として迅速化を図るとしても、それがない場合の遅延状態がどのぐらいになるかの比較で考えざるを得ないような面が、実態としてはあるように思います。

○菅野座長 その他の点はいかがでしょうか。

○鵜飼委員 除斥と忌避の問題も、これが下手に濫用されると遅延の原因になる面がありますね。回避を特に入れなかったのは何か理由はあるのでしょうか。また、忌避の申立ての濫用等に対する措置に対してはどのようにお考えでしょうか。

○熊谷委員 まず回避については、民事訴訟法等においても法律上措置されているものではないということで、ほかの制度との法的措置としての並びとして、回避については取り上げていないということでございます。忌避につきましては、私どもも調べた限りでは滅多に認められるようなものではないと承知しておりまして、制度としてはきちんとつくらなければいけないと思いますが、これにつきましても、この建議の4ページになお書きで、「忌避については、その趣旨を超えて濫用をされることがないよう、配慮することが必要である」ということで議論もされてきたところでございますし、この忌避の制度の趣旨や、実際にどういう場合に認められるかという民事訴訟等の実例もあろうかと思いますので、そういうものを周知することによって濫用はされないようにということで考えております。

○菅野座長 そのほかにいかがでしょうか。

○髙木委員 実質8審制までいくことになるのかどうかよくわからないけれど、山口委員が言われたように、労働委員会内で何とか整理することができないのかと。そうすると、裁判所で判断を求める権利がどういう論理ならとめられるのか、その方法論があるのですか。

○菅野座長 制度上は、言われているように難しいと思いますね。

○熊谷委員 制度として、法律上対象から外す処理は難しいと思いますけれども、実際に利用されないように、利用されずに済むような工夫を重ねたいとは考えております。

○菅野座長 行訴法もですね。

○熊谷委員 そうですね。もともとの命令の出し方からだと思いますので、制度として絶対使えないようにするというのは、方向的に規定するのは難しいと思っております。

○菅野座長 それにもかかわらず、審議会としてはこの制度を設けるべきだという判断に立っているということですね。

○熊谷委員 労働政策審議会としてはそういうことでございます。

○鵜飼委員 労働検討会に対する私自身の希望ですけれども、労働委員会の迅速かつ的確な審査手続が整理されていく中でこういう問題が起こってくるということでもありますが、そういうものが整理されて実際の機能を発揮する状況になれば、また必然的に実質的証拠法則や審級省略問題を現実的な問題として考えなければいけないと思うんです。したがって、そういうものについて将来の先の課題ではなくて、近いうちに実績を踏まえてその問題を検討することをぜひ近いうちに検討するような……将来の見通しと言いましょうか、担保と言いましょうか、そういうものをぜひお願いしたいと思います。

○菅野座長 鵜飼委員の御意見は、「中間取りまとめ」において、審級省略等の問題は、「今後の労働委員会における不当労働行為審査制度の改善状況等を踏まえ、さらに検討されるべき重要な課題である」としたところでありまして、現在検討している新証拠提出制限の議論をいわばまとめて、その上で今後、この辺をどのようにするかということとして受けとめたいと思います。
 そのほかにいかがでしょうか。
 最初に矢野委員が言われたのは、資料211にあるような証拠の申出をすることができないものとするという規定ではなく、裁判所が制限できる規定にしてほしいという御趣旨ですか。

○矢野委員 はい、そうです。

○菅野座長 その点はほかの委員の御意見はいかがでしょうか。
 熊谷委員、これについてはいかがですか。

○熊谷委員 私どもでは、裁判所の判断で制限できるということではなくて、労働委員会で提出しなかった証拠については証拠の申出ができないものとするということで考えておりまして、そういうことで労働政策審議会からの建議をちょうだいしているということでございます。

○石嵜委員 質問してよろしいですか。ただし、ここも労働委員会に提出しなかった点につき、正当な理由がある場合を除き提出することができない、申出ができない、になりますから、「正当な理由がある場合を除き」は、正当な理由があったかどうかは取消訴訟の中で裁判所が判断するのではないですか。そう思ったので、実質変わらない話ではないかと思うのですが。

○熊谷委員 そういう内容です。

○石嵜委員 そこはそこで、やはり裁判所の判断なんでしょうね。

○熊谷委員 正当な理由があったかどうかは裁判所の判断だと思います。

○春日委員 そういう意味では裁判所の方で正当な理由を判断するときに、ある種の裁量が入るから、これはやむを得ないのだろうとは思います。最終的な判断権限は裁判所にあるのかなと、これを拝見したときに考えたのですが。

○菅野座長 「正当な理由がある場合」は、客観的に定まるようなイメージなのですか。

○熊谷委員 私どもが今考えております正当な理由は、天災地変とか当該物件の所在がわからなくて出せなかった場合を想定しております。

○石嵜委員 その正当な理由は、具体的な限定列挙のような列記事項があるわけですか。

○熊谷委員 列挙することにはならないだろうと思います。

○石嵜委員 そうですよね。

○菅野座長 制限できるということになると、裁量性が少し入るのではないですか。それはそういう趣旨ではないと思いますが。

○石嵜委員 でも、最終的には両方とも裁判所の裁量の範囲内になってしまうのではないですかね。

○山川委員 正当な理由があるかないかは、この制度趣旨に照らして判断することになると思いますので、もしできるとした場合のぎりぎり詰めていった違いは、正当な理由がなくても証拠を採用できる、あるいは証拠の申出ができて、それが採用できるということになると思いますが、それはこの制度としては想定されていないのではないかというのが1つあります。ただし行政事件訴訟法ですから、職権証拠調べの規定自体は特段排除されていないということがありますので、そういうところから特に行政事件訴訟の特質に即した取扱いまでは完全には排除されていないということは言えると思いますが、正当な理由がなくても裁判所が裁量で採用できるということではないと思います。

○山口委員 裁判所の立場から言いますと、「正当な理由がある場合を除く」となっていますから、その正当な理由とは何ぞやということになるので、これはある意味でかなり不確定概念ですので、どこまで何を盛り込むかという意味では必ずしも一義的ではない。制度の趣旨から考えていけというのは、わかってはおりますが、それだけで十分意を尽くされているかとなるとなかなか難しいので、例えばこういう場合は正当な理由があると考えるとか、逆にこういう場合は正当な理由とは言えないのではないかということをもう少し具体的に明らかにしてほしいとは思います。

○熊谷委員 それは法文の中で、ということでしょうか。

○山口委員 法文の中でもいいですし、あるいは解説書の中でも構いませんが、何らかの基準というか例がないと、実際上はやりにくいところがありますので。

○熊谷委員 法文は難しいところなのですけれども、解釈等については御指摘のような観点を踏まえて、なるべく具体的に整理して周知できるようにしてまいりたいと考えております。

○矢野委員 そもそも、労働委員会の証拠提出命令の妥当性ということだと思うんですね。ですから、「命令の対象物件の限定」という項が建議書にあるのですが、できる範囲で具体的に、誤解を生じないような書き方をしておくことが大事ではないかと思います。漠然とした根拠で証拠提出命令が出れば、それを取消訴訟で論議するときにまた一層漠然としたところから始まるわけで、それはちょっとまずいのではないかと思います。
 事例列挙といっても、余り細々したところ、何から何までというのは実際には想定しかねるところがあるので難しいとは思うのですが、大事だと思われることを書いておくことは親切だし、そうだとすると、当事者も判断しやすくなると思います。

○山口委員 矢野委員の関係ですが、証拠提出命令についてある程度理由を書いていただいて、どういう審理の過程でこの証拠が必要になるのでこういう理由で出すということをある程度書いていただかないと、裁判所の方でそれが本当に正当な理由があるかどうかの判断をする場合でもわかりやすさが違ってくると思いますので、どういう形で証拠提出命令を出したかは、どこまで詳しく書くかという問題はあるにしろ、ある程度は裁判所にもわかるような形で書いていただきたいと思っています。

○村中委員 例えばプライバシーや営業秘密に配慮して命令は出しなさいということになっているので、場合によっては出せないことも出てくるわけですね。しかし、それも出した。ところが、実はそれはプライバシーへの配慮を欠いていて、提出命令自体が違法であった。これは取消訴訟で争われるんですね。
 それが取消訴訟で争われずに、救済命令の取消訴訟になって出てきた。そのときに、新証拠の提出制限という話になったときに、その正当な理由というところで許すというときの判断で、それは営業秘密にかかわって出せなかったのだというようなことを許すと、本来は提出命令の取消訴訟で争わないといけないものがこちらでも争うことになるので、やはりここはちょっとおかしい感じがするんですね。
 新証拠の提出制限についての正当な理由は、先ほどおっしゃったように天災地変や、出せなかった客観的な事情に限定して連ねておくという整理をしておかないと難しいのではないかという気がします。

○山口委員 そこはしっかり書いておいていただきたいと思います。

○菅野座長 ほかにいかがでしょうか。
 もしなければ、資料211の案自体について問題になっているのは、1つは、新証拠の提出命令についての行政訴訟が起こせることによる審査手続の遅延のおそれという問題意識に基づいて、何とか行政訴訟なしの制度にできないのかという点ですが、そういう問題意識を当検討会で持ったということを受けとめて、なお御検討はいただきたいと思いますが、しかし厚生労働省の方も大分検討された上で、それは難しいが、行政訴訟があることを前提としても運用上の工夫を図り、その上で取消訴訟における新証拠の提出制限の制度を設けるのが必要であるという御判断になったということでありまして、当検討会としてもそういう御検討を参考にして、資料211の案のようにまとめ、なお今後そういう配慮をしていくということにしてはいかがかと思います。この点が1つです。
 もう一つは、正当な理由がある場合を除き証拠提出の申出をすることができないものとするというような書き方で、これはなお法文化する過程での御検討はいただきたいと思いますが、この趣旨としては、こういう書き方の方がよろしいのではないかという気がいたします。正当な理由の意味内容をより明らかにしていただくという留保もつけてのことですが、そういう考えでありまして、座長としてはそういうことで資料211の案を当検討会の案として取りまとめできないか。ただ、労働委員会における証拠提出命令の在り方については御意見がありますので、それは厚生労働省の方でも参考にしていただくということにしてはいかがかと思いますが、いかがでしょうか。
 それでは、そのように取りまとめさせていただきます。
 では、厚生労働省におかれましては、当検討会の取りまとめや、ただいまの御議論でちょうだいした御意見を参考にして、新証拠の提出制限についての立案を進めていただきますようお願いいたします。
 ここで10分間休憩いたします。

(休 憩)

(再 開)

○菅野座長 それでは再開いたします。
 次に、労働審判の制度設計について御議論いただきたいと思います。前回、私から提案させていただきました「労働審判制度(仮称)の制度設計の骨子」の案について御了承いただきましたので、改めて資料212としてお配りしてあります。
 本日は、8月の「中間取りまとめ」と、この「骨子」、そしてこれまでの検討会での御議論を踏まえまして、労働審判制度の全体像についてのある程度具体的な概要案を、私と事務局で整理させていただきましたので、そのたたき台を資料213としてお配りしてあります。本日は、この概要案に基づいて、検討会における議論の集約に向け、制度設計の全体像を議論していただきたいと思います。
 それでは、事務局から、資料213の「労働審判制度(仮称)の概要(案)」について説明をお願いいたします。

○齊藤参事官 御説明申し上げます。
 前回の検討会におきまして、座長から、労働審判制度のある程度具体的な制度設計案について検討するよう、御指示をいただきました。このため、事務局におきまして、座長とも十分に御相談申し上げ、また御指導いただきながら、これまでの検討会の御議論や前回御了解をいただきました「制度設計の骨子」を踏まえまして、当検討会における議論の集約を図る観点から、労働審判制度の全体像についてのたたき台を整理させていただいたところです。以下、その内容を資料に沿って読み上げながら、若干コメントさせていただきます。
 初めに、制度趣旨でございます。

 労働審判制度は、個別労働関係事件について、3回以内の期日で、裁判官と雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者が、当該事件について審理し、調停による解決の見込みがある場合にはこれを試みつつ、合議により、権利義務関係を踏まえて事件の内容に即した解決案を決すること(労働審判)によって事件の解決を図る手続(労働審判手続)を設け、あわせて、これと訴訟手続とを連携させることにより、事件の内容に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とする。
 ここでは、制度趣旨には訴訟手続との連携の点も盛り込んでおります。

2 労働審判手続の主体

○ 主体
 労働審判手続は、裁判官である労働審判官1名、労働者としての知識経験を有する労働審判員1名及び使用者としての知識経験を有する労働審判員1名で構成する審判体で行う。

○ 決議要件
 労働審判官及び労働審判員の過半数の意見による。

3 労働審判手続の対象
 個別労働関係に係る権利義務関係をめぐる紛争を対象とする。

4 手続

○ 申立て
 当事者は、地方裁判所に、申立ての趣旨及び原因を記載した書面により、労働審判手続の申立てをすることができることとし、申立書については、簡易な記載が可能となるように配慮する。

○ 手続の進行
 相手方の意向にかかわらず、手続を進行させ、原則として、調停により解決し又は労働審判を行う。

 ここで、ここに言う原則に対する例外は、後ろに記載してございます「労働審判を行わない場合」が対応しております。

○ 審理
 審判体は、調停による解決の見込みがある場合にはこれを試みつつ、速やかに争点及び証拠の整理等を行って、審理を進め、調停が成立しない場合には、権利義務関係を踏まえつつ事件の内容に即した解決案を決する。

○ 3回以内審理の原則
 特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日で審理を完了し、解決案を決する。

○ 審理の方法
 申立て又は職権により、書証の取調べ及び参考人又は当事者本人の審尋等の民事訴訟の例による証拠調べ等をすることができる。

○ 手続の指揮
 手続の指揮は労働審判官が行う。

○ 調停
 審判体は、審判の期日において、いつでも調停を試みることができ、調停が成立した場合には、裁判上の和解と同一の効力を有するものとする。

○ 手続の公開
 手続は公開しないが、審判体は相当と認める者の傍聴を許すことができるものとする。

○ 出頭の確保
 呼出しを受けて出頭しない当事者に対しては、 過料の制裁を科するものとする。

5 労働審判

○ 労働審判
 審判体は、権利義務関係を踏まえつつ事件の内容に即した解決案を決する(労働審判)。労働審判は、原則として、理由の要旨を記載した署名で行う。

○ 異議申立て
 労働審判に不服のある当事者は、2週間以内に異議の申立てをすることができ、その場合には、労働審判は効力を失う。

○ 確定した労働審判の効力
 上記期間内に異議の申立てがないときは、労働審判は、裁判上の和解と同一の効力を有する。

○ 労働審判を行わない場合
 審判体は、事案の性質上、労働審判を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判を行うことなく労働審判手続を終了させることができる。

6 訴訟手続との連携

○ 訴え提起の擬制
 労働審判に対して異議が申し立てられた場合には、労働審判手続の申立てがあった時に、労働審判がなされた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなす。
 労働審判を行うことなく労働審判手続を終了させた場合も同様とする。
 この場合も、訴えの提起があったものとみなすことが相当と考えております。

 これらの場合の訴えの提起の手数料については、労働審判手続の申立てについて納めた手数料の額に相当する額は、納められたものとみなす。

○ 労働審判手続の記録の取扱い
 労働審判手続に関する記録の取扱いについては、訴えの提起があったものとみなされた場合に、当事者が必要な証拠等を選択して裁判所に提出し、訴訟の資料に供することができるよう工夫することとする。

 記録を当然に訴訟に引き継ぐことは制度上困難であると考えられますが、こうした工夫は十分検討すべきものと考えております。

○ 労働審判手続と訴訟手続との併存
 労働審判事件係属中の訴えの提起及び訴訟係属中の数審判手続の申立てを認めて、両手続の併存を認めることとした上で、労働審判事件係属中、訴訟手続を中止することができるものとする。

7 その他

○ 管轄
 相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所、当事者である労働者が当事者である事業主との間の労働契約に基づいて現に就業し若しくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所の管轄とする。

○ 準用規定の整備
 労働審判手続が非訟手続であることを踏まえ、その性質に反しない限り、非訟事件手続法及び民事調停法等を必要な範囲で準用する。

 なお、末尾に(注)としまして、制度、手続等の名称が仮称である旨を記載しておりますが、これは、この資料の作成に当たりまして、法制上の詳細にわたる検討を行うまでに至っておりませんので、名称等について現時点では仮称とさせていただいているところです。
 このほか、制度全般について、今後、十分な法制上の検討を行いつつ、法案の作成作業を進めていくことが必要であると考えております。
 以上でございます。

○菅野座長 それでは、この概要案について御質問や御意見がありましたら、御発言をお願いします。

○矢野委員 この概要案は、全体的に妥当なものであると判断いたしております。
 今後の課題ですが、2つばかり申し上げたいと思います。1つは、紛争当事者の利便に供する観点から、簡易裁判所の調停制度も運用によって充実すべきであると思います。具体的に申し上げますと、労働審判制度の審判員との兼ね合いもいろいろあるのですが、簡裁の調停委員に専門的な知見を持った人をさらに補充して、例えばリーフレットなどを発行して、解決案をもらうまでもないような簡易な労働事件は簡裁でも処理できるということを広報して、なるべく利用者の便を図ることが必要なのではないかと思います。何でも地裁に持ってくるのではなく、簡単な事案は簡裁でできるということをよく知らせるのはサービスとして大事なことだと思います。
 もう1点は労働審判員の人選ですが、労使団体の推薦でリストを作成し、そのリストの中からどういう選び方になるんでしょうか、最高裁あるいは各地方裁判所が選任する方法がいいのではないかと思っております。もちろん、労使団体といっても中立公正な審判員を選任するのは当然の義務ですし、また私どももそうしようと思っておりますが、それぞれの団体で選ばれた審判員の研修も行う必要があるだろうと思っております。研修の面はもっと広い意味での公的な研修も必要だと思いますが、労使団体でもそれぞれ行うことが必要ではないかと思います。将来の制度設計を具体的に行う場合の点なのですが、2つ申し上げておきたいと思います。

○髙木委員 何点か御質問したいのですが、まず、労働審判手続の対象は「個別労働関係に係る権利義務関係をめぐる紛争」ということですが、この定義で、例えば個別労使紛争であるけれど、その中に不当労働行為的なニュアンスがあるとこの対象から排除されるということにはならないのでしょうねと。その辺は「権利義務関係をめぐる」の権利義務関係のとらえ方になるのだろうと思いますが、どういうふうにとらえたらいいかを御説明いただければと思います。
 2ページの手続の指揮ですが、「労働審判官が行う」。もちろん訴訟手続、特に訴訟法に基づく措置はプロの裁判官にお願いするということだろうと思いますが、審判員の方がそういう指揮について発言させていただいたり、あるいは意見を言わせていただくことは当然、こういう表現でありますが、あり得るということでいいのかどうか。
 それと手続の公開は、確かに和解というか調停的なところは非公開だろうと思いますけれども、事実審理をやる部分は、「傍聴を許すことができる」と書いてありますが、この傍聴が許される対象はそう厳格に絞り上げるということではなく、かなり公開に近い運用にしていただく必要があるのではないか。
 労働審判手続の記録の取扱いは、私も実務のことはよくわかりませんが、文書送付嘱託というやり方があることも聞いておりまして、そういう発想も審判と裁判の訴訟の連携という意味であり得るのではないかと思っておりましたが、そういうお考えがない整理になっているという意味なのかどうか。
 ここでは「必要な証拠等を選択して裁判所に提出し」というのですが、記録の閲覧の関係、どういうタイミングでどういう方法論でできるのか。特に証人の証言は調書になるのかテープになるのかも含めて、そういうものが手に入れられないとしたら、いわゆる防御可能不可能の問題にもかかわってくるのではないか。とにかく「労働審判手続の記録の取扱い」の部分はもう少し具体的にどういうイメージでお考えなのか、クラリファイしていただければと思います。
 全般的には、矢野委員もおっしゃったのですが、私どもは、1つはマンニングの準備をしなければいけませんが、その議論まだ余りしていないものですから、どういうイメージで、あるいはどのぐらいのボリュームで考えておかなければいけないのか。そういう意味では年が明けてからのことになると思いますが、どういう場でどういう形がいいのかもよくわかりませんけれど、いろいろ対応していくためにも、できるだけ早くそのイメージないしは大体どのぐらいの審判ケースになるのか、その辺もシミュレーションというか、予測していただいて、それならこういうことでこういうやり方があるのではないかとか、このぐらいのボリュームとか、その辺も早急に御検討いただくなり、お考えをいただきたいと思います。
 1件言い忘れましたが、個別労使紛争の中で、例えば郵便局の短時間勤務者が大分おられて、もう10万人を超えたと聞いております。こういう人たちはこの対象になるのかならないのか。公務員の解雇を例に挙げると行政処分の世界になるようですし、その辺は細かいというか、細部を具体的にというところに入るのかもしれませんが、そういう質問も出ておりましたので。
 この後は法案要綱等をおつくりいただき、法律をつくっていただく作業にもかかっていただいていると思いますが、法案要綱ぐらいは、できた時点でも当検討会にその内容をおろしていただく方がいいのではないかともと思っております。
 質問やらお願いやら、とりとめなく申し上げましたが、よろしくお答えいただきたいと思います。

○菅野座長 不当労働行為ですが、個別労働関係は個々の労働者と使用者の間の労働関係にかかわる権利義務関係ということだと思うんですね。例えば解雇は労働契約関係というか労働契約上の権利義務関係の存否という典型的な紛争だと思います。解雇あるいは配置転換の有効性などですね。その理由の中に、これは不当労働行為ではないかということが出てくるのも当然予想されるのではないかと思っておりまして、それだけ除くわけにはいかないのではないかというのが私の今のイメージです。これは労働委員会との棲み分けという基本問題があるのですが、集団的労使関係として取り扱うということなのかなと……個別的労働関係に入ってくる限りは解雇権濫用の問題の1つとして出てきたり、配置転換の必要性や理由の存否の争いの中で出てくるという限りでは入れざるを得ないのではないかという気がしておりますが、そのほかは事務局から説明いただきます。

○齊藤参事官 それでは私から、お答えできる範囲で答えさせていただきたいと思います。
 手続の指揮は労働審判官が行うとされている点につきまして、労使の専門家の方が発言や意見が言えるのかどうかという御指摘だったと思いますが、これは基本的に手続の指揮は裁判官たる労働審判官が行うことが適当だろうという考えでおります。その際に適宜、労使の専門家たる労働審判員の方が、運用上サジェスチョンしたり、あるいは意見交換するということはおそらく妨げられないだろうと思います。ただ、手続上の権限の切り分けはしておいた方がよろしいのではないかと思われます。
 手続の公開は、傍聴を許す運用はできるだけ公開に近い運用が望ましいのではないかという御指摘ですが、これも労働審判制度の趣旨に沿ってどのように運用されていくか、その趣旨に沿って個別のケースごとに労働審判体の方で判断して対応していただくことであろうかと思います。
 記録の取扱いのところで、文書送付嘱託制度の活用という点について御指摘があったと思いますが、これは当然、文書送付嘱託もできるだけ円滑に活用できるのが望ましいと思っています。この概要ペーパーにもありますように、異議が出て訴訟に移行する、解決案を出さずに訴訟に移行する場合に、労働審判を行った裁判所に訴訟係属することになり、単所としての裁判所の一つ屋根の下に記録があるようにすれば、閲覧等も容易にできるでしょうし、仮に送付嘱託という手続を踏む場合でも、時間的なロスなどもないようにかなり便宜を図っていけるのではないかと思っています。
 証人尋問のテープとその反訳の入手の点は細部にわたりますので、今の時点では私からも明確にはお答えしかねるところでございます。
 郵便局の短時間労働者に係る紛争が労働審判手続の対象事件になり得るかどうかという点につきましては、行政事件という形で明確に切り分けられるようなものは、労働審判制度の対象にはなってこないと思うのですが、紛争が一般民事としての性格であれば、労働審判事件の対象に含まれてくる可能性は十分あると考えられるのではないかと思います。

○髙木委員 手続の指揮は労働裁判官が行うというのは、手続に一番詳しいのは裁判官なのでそういう意味ではわかるのですが、労使審判員も評決権を持って参加するわけですね。そういう意味で指揮は労働審判官と審判員が「共同して行う」とは書けないのかもしれませんが、「労働審判官が行う」という表現だけでいいのか、もうちょっと書き方があるのではないかという感じがするのですが。

○菅野座長 労働委員会でも指揮は公益委員がやっているのですが、重要な問題については労使の参与委員に御相談するわけで、私は自然にそういうふうになるのではないかという気がしているのですけれど。

○髙木委員 こうして文字に書くとこういうことになってしまうので、ただし書か何かで書いてもらうなり……これは素っ気ない書き方ですよね。申し上げたいことはわかっていただけると思うのですが。

○鵜飼委員 齊藤参事官の御説明は、私は若干違うのですが、この書き方はこれでいいと思います。労働委員会は参与委員が審査委員長の許可を得て質問することができるということだと思います。あれは評決権はありませんが、みずから心証を形成しなければいけない立場にある審判員として、今の合議体の陪席裁判官と同じように、裁判長に告げて質問することになっているはずですから、私はそういうふうに受けとめているのですが。

○齊藤参事官 そこは、私もそこまで申し上げたつもりはなかったんですね。基本的に手続を指揮する権限をだれが持つかというところの一つの切り分けは、裁判官たる労働審判官であろうというところまで申し上げたつもりでした。実際に審理の際に、どこまで実質的に参加できるかということは、手続の指揮とはまた別の問題ではないかと思います。

○鵜飼委員 民事訴訟法では、陪席裁判官はそういうふうにできることになっていますから。

○春日委員 髙木委員の御意見もあるのですが、私も基本的にはこの文章でいいのではないかと思っています。例えば証人尋問でも、普通は審判員の方は質問したければ審判官に、この質問をしてもよろしいでしょうかねという形でちょっと聞いて、そうすると審判官もどうぞ質問してくださいということになると思うんですね。だから、この手続の仕組みのこの文章で変だということはないし、文章もこれでいいのではなかろうかと思いますが。

○髙木委員 質問してはいけないと言われませんか。

○春日委員 いえ、それはないでしょう。それは山口委員に伺ってみてください。

○山口委員 実際は3回のケースでやっていくわけですから、争点整理をするにしろ、証拠調べをするにしろ、事前に審判体できちんと話し合ったり議論をしないと手続は進まないと思うんです。そういう意味で言えば、争点整理の段階ではここが争点ですねとお互いに意見交換をしますし、証拠調べの関係では、この人の関係はこの点がポイントだからここを重点的に聴くようにしましょうという話をして行うと思います。そういう意味で言えば、いきなり審判廷でそれぞれてんでんばらばらに意見を言うのはかえって好ましくないので、十分に事前の話し合い、あるいは事後の話し合いをして、基本的には手続指揮は審判官が行いますが、審判官の行う手続指揮についてはほかの審判員の御意見も反映された形で行われていくのだろうと思います。もし証拠調べ等の場合で必要になってくれば、それは審判員と審判官が意見交換して、必要があれば審判員に発言してもらうこともあり得るだろうと思っていますので、審判官1人で何でもやって、審判員の意見を聴かないという趣旨では全くないと私は理解しております。むしろ逆に、そういう形であれば、それこそ審判体は分裂してしまうわけですから、いい調停案なりいい解決案は出ないことになりますので、それは3人がお互いに自然に意見交換をして、十分意思疎通を図って手続を進行させていくことが当然の前提になっているのではないかと思います。

○髙木委員 手続の公開の方はあれだけれど、確かに調停作業のようなところは非公開でやるのでしょうが、証人から証言を受けるようなところは原則公開ではないかと私は思うのですが。

○齊藤参事官 その点は制度設計として、実際問題としては調停手続的な場面と事実審理的な場面とが輻輳的にそれぞれの期日で進められる可能性もあると思われますので、明確に切り分けて、この部分は公開、この部分は非公開という制度設計はいささか難しいのではないかと思われるわけです。ですから、原則は非訟事件手続の原則にのっとって非公開とさせていただき、しかし傍聴を許容するところをうまく運用しながら、バランスをとっていくことなのかなと考えています。

○髙木委員 傍聴を許すということができると書いてあるから、一部そういうニュアンスも入っているかなと思いますが、私は事実審理の状況等は公開するのが原則だという感覚で考えていただくべきではないかと思うのですが。

○矢野委員 原案の考え方は、審判制度はもともと調停をビルトインした制度であって、そこに問題解決に向かう妙味があるのではないかと思うんですね。しかも、3人の合議体があってやっていくわけですから、原案の考え方で実際の運用をしていくということではないのかなと理解しました。

○鵜飼委員 確認ですけれども、いわゆる民事調停でも証人調べを行ったときには調書化するというか、その義務がありますよね。それと同じに考えてよろしいわけでしょう。人証調べについてテープをとっておいて、異議申立てがあったときには調書にして、訴訟手続で利用できるようにするということですね。
 先ほど髙木委員も言われましたように、法案要綱の段階でぜひ検討会の場に出していただいて検討する機会を与えていただきたいと思います。その辺の齟齬や思い違いがあったら困りますので。

○齊藤参事官 鵜飼委員から御指摘の、仮にテープができ上がったときに、それを反訳して調書化しておくなど、その辺の細部までは私どもも今は的確にお答えしかねるものですから、回答の仕方を考えさせてください。裁判所にもよく聞いてみますので。

○鵜飼委員 最後の検討会で、法案要綱の段階でこの場で検討する機会を与えてほしいという点はいかがでしょうか。

○齊藤参事官 いずれにしましても、この後、法案提出の締め切りを目指してかなり集中的に立案作業にかからざるを得ないと考えています。今日、仮に概要案が御了解いただいた場合には、これを最大限尊重して立案作業を進めていくわけですが、立案化作業の過程で御報告することについては十分考えてみたいと思っております。いつどういうタイミングでどういう御報告ができるかは、本日の時点で1月、2月にかけてどういう状況になるかということも、ある程度予測しつつ、踏まえつつでないと、今は明確なことは申し上げにくいものですから。ただ、御要望の趣旨は十分理解しているつもりですので、そこは座長とも御相談しながら、何とか適切な対応をとらせていただきたいと思っております。1月、2月の段階では、かなりいろいろなことが錯綜するはずですので、必ずこういう御報告ができるということを今お約束するのは難しいかと思うんです。

○鵜飼委員 報告というのはこういう場を設けて報告するということですね。検討会を開いてやるということですか。

○齊藤参事官 そのこと自体も含めて検討させていただきたいと思うんです。検討会を開いてということももちろん1つの方法ですし、ある意味でそれぞれの方々に御報告という形もあり得るかもしれませんし。もちろんこういうふうにオープンにできれば、それが一番いいのかもしれませんが、立案作業の過程でどういう形がとれるかは見通しが必ずしも明確ではありませんので、よく検討させていただきたいと思います。

○鵜飼委員 2ページの労働審判で、労働審判は「原則として、理由の要旨を記載した書面で行う」は、私はちょっと理解に苦しむわけで、要旨はわかりますけれども、やはり主文及び理由ではないでしょうか。事実に違いがなく理由が非常に簡潔な場合と、事案に即して証拠を適用して争いのある事実を認定する場合と、それはいろいろあり得ますね。非常に簡単な事件は相当と認めるということでいいわけですから。「理由の要旨」というのは、法文にはなじまないと思います。

○山口委員 私のイメージ的には、審理は3回でやるという形になってくると、1回目はかなり争点整理にウエートが置かれて、2回目は当事者から事情聴取をやっていく形になるので、多分審尋が主体になるのではないかというイメージを持っておりますので、どこまで調書の方につながっていくのかなと、そういうケースもあるかもしれませんが、ケース・バイ・ケースのような感じも受けております。
 理由の要旨の点は、当然主文があって理由だけということはないのでしょうから、民事保全法にもこういう形の条文もありますし、どちらでも、理由としてもいいし、その要旨としてもいいとは思いますが、簡単な要旨で足りる場合もあるということが前提であれば、それはそれで構わないのかなと思います。
 この制度の関係で何点か。実際上のことで後からまたお話があるかもしれませんが、基本的には制度をつくって、問題はその制度にどういう人を労働審判官あるいは労働審判員として充てていくかが非常に大事なことだと思っています。制度をつくっても、実際にそれを動かす人がその制度を担うだけのものでなければ、その制度は機能しないと思っておりますので、十分な能力といいますか、労働審判にふさわしい審判官あるいは審判員を確保していくこと、そのための具体的方策は、制度ができた後は関係者の方で十分議論していただきたいと思っております。
 そういう観点からしますと、地裁の方でやるという形でかなり重たい形の手続になってくるので、どれだけのマンニングを確保できるかという問題も、制度の出発当時にはあるのだろうと思います。そういう意味で言えば、管轄とされる地方裁判所は一定の人数の確保が見込めるような地裁の本庁という形で動かすのが適当ではないかと思っています。
 実際の審理のイメージとの関係ですが、事件によっては多数の申立人が事件を1つとして起こす場合、あるいは1人の申立人であっても、たくさんの申立てを1回で起こす場合といろいろあると思うので、場合によっては分けてやった方が手続的には早く済む場合もあると思いますので、審判というか事件といいますか、そういうものの分離併合は柔軟にできるような形の規定が置ければいいかなと、実際の感覚としてはそういうふうに思っております。
 先ほども申し上げましたように、3回の審理で行うことが売であるわけですし、その解決案は基本的には労働法を踏まえたものになると、私は申立てについては弁護士に関与してもらった方が手続的にはスムーズにいくと考えますので、これは弁護士会あたりでも労働事件は敬遠されている方も多かったように思いますので、最近は市民紛争の一環であるとなってきているかとは思いますけれども、労働審判手続の制度を十分PRしていただいて、申立人については弁護士が代理となるような形の方向性をとっていただければと思っています。
 もう一つは、矢野委員からも話が出ましたが、簡裁の調停の充実をPRすることも大事なことだと思いますし、新しい労働審判制度自体のPRもぜひやっていただきたいと思っています。具体的な手続が国民の方々の目に見えるような形で、わかりやすい制度として新しくできたのだということを、できるだけいろいろな関係機関、あるいは関係団体を通じてPRしていただいて、しかも、できれば文字情報だけではなく、目に訴えるような情報があってもいいと思いますが、わかりやすい形で伝えていただいて、制度が十分理解された上で使っていただくような形にしていただければと思っております。

○菅野座長 「理由の要旨」にするか「理由」にするかについて、春日委員は何か御意見はありますか。

○春日委員 特にありませんが、私も読んでいたときに、理由の要旨というのは当然主文はあるものだと思いました。だから何の疑問もなかったのですが、どちらでもいいのではないかと思います。ただ、山口委員がおっしゃったように、事件の分離と併合の件はあった方がいいような気がします。

○村中委員 審判を行わない場合は、やはり書面を作成するのでしょうか。そして、行わない理由を書くのでしょうか。

○齊藤参事官 そうですね。

○村中委員 行わないと決定してしまったら、そのこと自体はもう争えないですよね。容認するんでしょうね。そしてそのまま訴訟に移行すると……理由を書いても余り意味がないといいますか。

○齊藤参事官 そこは少し検討させていただけますでしょうか。その細部までは私どもも詰めた議論はしていませんでしたので。

○菅野座長 ほかにいかがでしょうか。
 なければ、この概要案の中で、例えば「理由の要旨」にするという書き方を残すか、「理由」にするか、「主文」も加えるか、審判の併合分離を加えるか、審尋等の場合に審判員が審判官に引き続いて質問できるということを書き加えるかなど、その辺は私に検討させていただいて、御一任いただけますでしょうか。
 また、この概要案をまとめた上での今後の大事な問題を幾つか指摘いただきました。その最大のものはマンニングといいますか、適切な質量の審判官を確保する、あるいはその研修を行うということですが、どのレベルでこれを施行するか、それとPR等々がありますが、これは法案化の後にできるだけ早く検討すべき問題として受けとめさせていただきたいと思います。そういうことで、この概要案を当検討会の意見として取りまとめることでよろしいでしょうか。
 それでは、私に御一任いただいたのはしかるべくように検討して御報告したいと思います。それも含めて、この制度の概要と本日ちょうだいした御意見を十分踏まえて、事務局において法案の作成作業を進めていただくようにお願いいたします。

○齊藤参事官 どうもありがとうございました。それでは、この制度の概要案や本日ちょうだいしました御意見を踏まえまして、法案の作成作業を進めさせていただきたいと存じます。ありがとうございます。

○菅野座長 それでは、今後の検討会の予定についてお願いします。

○齊藤参事官 今後は、本日御了承いただきました労働審判制度の概要を踏まえまして、事務局におきまして法案の作成作業を進めてまいりたいと考えておりますが、その上で、必要な御報告は、よく検討した上で対応させていただきたいと思います。その具体的な報告の要領や日時等につきましては、追って調整させていただきたいと存じます。よろしくお願いいたします。

○菅野座長 ほかに御意見等はございますでしょうか。

○鵜飼委員 敗訴者負担の問題ですが、今日も日本労働弁護団から意見書が出ておりますし、実は今日、日弁連でも理事会が開かれておりまして、私が今から申し上げるような内容での意見がまとめられるはずです。司法アクセス検討会で弁護士費用の敗訴者負担の問題が議論されてまいりまして、この間は基本的に敗訴者負担制度を導入しつつ、しかしふさわしくない事件類型については導入しないという方向で議論されたやに聞いておりますが、この2~3カ月の間に急展開いたしまして、原則各自負担という従来どおりにして、訴訟当事者による合意によって弁護士報酬の敗訴者負担制度を導入しようという新しい制度が浮上し、これがアクセス検討会では12月25日にまとめられると聞いております。
 ここは労働紛争に絞って申し上げたいと思いますが、労働紛争に絞って申し上げますと、日弁連の意見でもそうですが、適用対象から労働紛争を外していただきたいと思います。
 各自負担で訴訟上の合意に基づく敗訴者負担という制度の立法趣旨は何だろうかと考えてみたのですが、これは敗訴者負担制度をもろに導入しますと、労働事件等についてはいろいろな弊害ある。しかしながら、訴訟上の合意になった場合、双方弁護士がついた場合は、立場の対等性や真意に基づく合意ができないようなおそれはないということで、そういう点が担保されるのではないかというのが立法趣旨ではないか。それによって敗訴者負担制度を導入することによるメリットが生かされるということではないかと私は理解します。
 しかし、労働紛争におきましては、仮に裁判になりましても、立場の対等性等は解消されないのが実態です。仮に我々弁護士をつけましても、労使関係の非対等性、格差等を我々弁護士が埋めることはできないわけです。労働法の理念は、それに対して労働者保護法を設け、一方では団結権を保障するということでやっているわけですから、労働紛争については訴訟上の合意による敗訴者負担制度の特別な例外の対象にすべきではない。一方、現実的に新しい制度が導入されるとどういう弊害が考えられるかといいますと、仲裁と同じような問題がありまして、一種のアナウンスメント効果といいましょうか、そういう制度が新たに導入されたということになりますと、現実に今はほとんど存在しませんが、事前合意として就業規則や労働契約の中で、裁判所に提訴した場合は敗訴者が相手方の弁護士費用を負担するという約款が設けられるおそれが十分あります。そうなると、これはもともと事前の合意ですから、労働者は拒否できないという実情がありますし、実体法上の効果といいますと、労働基準法16条が言われていますが、労働基準法の16条がそれを無効にする根拠規定になり得ない。これは労働法の常識だろうと思います。そういう点からいって、新しい制度が導入されると事前の合意が普及するといいますか、誘因になることがおそれとしては十分あります。仲裁と同じような問題だと思います。
 もう一つは、訴訟上の合意が強制されてしまう。事前に合意があれば、それに伴った訴訟上の合意が悪用されるということもありますし、事前の合意という点からいいますと、訴訟への萎縮効果があります。相手方の弁護士費用を負担しなければいけない、弁護士費用というと、事前合意ですから実体法上の効果があるとしますと、労使の弁護士費用はそれぞれかなり違いますので、そういう意味で労働者側が相手方の弁護士費用を負担しなければいけないことになると、訴訟に対する萎縮効果が非常に大きいと思います。
 当事者と代理人弁護士の間の委任契約上の信頼関係という点からいっても、最近の労働紛争や個別紛争はいろいろな相談窓口から回ってくる……一見さんといいましょうか、今まではなじみのルートを通じて労働事件を依頼されるケースがあったのですが、非常に増えてきますので、信頼関係という問題に非常に大きな亀裂をもたらす可能性があります。訴訟の見通しについて問われますと、労働事件は一般条項等が多いわけですから、見通しを言いにくい。訴訟の当事者は勝てる確信がある場合に、しかし説得して敗訴者負担制度については合意しないとかするとか、仮にその見通しが間違った場合は、弁護士の責任はどうかと問われる。そういう意味では信頼関係に一定の障害をもたらす危険性が大きい。
 翻って考えますと、もともと労働紛争については適用除外と議論されていたわけですので、私は、これは日弁連の意見でもありますけれども、訴訟上の合意による弁護士費用敗訴者負担制度が導入されたとしても、労働紛争については適用除外にすべきであると思います。
 そうしますと、実体法上、事前の合意の効力をどうするかという問題も、できれば無効であることを仲裁と同じような形でうたってもらうのが一番いいと思いますし、それが不可能ではないと思いますが、仮にそれが難しいとしても、事前合意の新しい制度から労働紛争を除外するということになりますと、逆のアナウンスメント効果で事前の合意がされないということになりますし、解釈論としても、労働紛争が外されることの立法趣旨からいって事前の合意も効力を有しないということにもなると思いますので、本当は法的に事前合意は無効であることをうたうべきだと思いますが、仮にそれが難しいとしても、少なくとも新しい制度から労働紛争は除外すべきということを明示していただきたいと思っています。
 そういう意味で、司法アクセス検討会で12月25日に議論されるということですので、ぜひ労働検討会での議論を反映させるような方策を考えていただきたいと思っています。

○石嵜委員 敗訴者負担の問題について、もちろん日本労働弁護団の幹事長がおっしゃるように、労働者は勝訴したときのみ敗訴した使用者に労働者側の弁護士費用を負担させる片面的敗訴者負担制度の導入というのは論外ですけれども、実務上考えたときに、労働事件について敗訴者負担制度を入れるのは、使用者側の弁護士としても実際的ではないのではないか。正直言いまして、最初の着手金でも、労働側で受ける場合と使用者側で受ける場合は、弁護士会の基準とは別にやはり格差があるのが現実ですし、そういうことを踏まえた考えたときに、使用者側の弁護士も難しくなると考えております。これは本当に現実論としても、事件を受ける弁護士と依頼者の信頼関係を変にかき回すことになりかねないのではないかと、使用者側の弁護士としても思っております。

○髙木委員 司法アクセス検討でいろいろ御検討があったのだろうと思いますが、司法制度改革審議会の意見書のその下りをもう一度読んでみたのですが、意見書をそのまま読むと、労働事件は別扱いしてくださるのだなあと読めるのですが、ここへ来て、嫌なら使わなければいいじゃないかというポジションを労働事件にも受けとめろ、受け入れろというお話なので、そもそも意見書の書きぶりからしても、こういう形になるとはだれが思ったでしょうかという印象がないではありません。そういう意味で、何でいけないのだ、嫌ならやらなければいいのじゃないかという論理だけではなかなか受けとめられない。労働事件等の定義やら境目やらいろいろあるのかもしれませんが、原則は労働事件は外していただく。そもそも敗訴者負担制度の外に出していただくという仕切り方にぜひしていただきたいと思います。

○齊藤参事官 担当のラインの立場でお答えしたいと思うのですが、敗訴者負担制度の問題は、本籍の検討会は司法アクセス検討会であると考えております。そこで、労働検討会は部分的な制度設計について一定の意見集約を図っても、全体の制度設計と最終的にどう調整するのかという問題がどうしても残りますので、今日お伺いした御意見は貴重な御意見としてきちんと司法アクセス検討会に伝えて、司法アクセス検討会の方で十分御検討いただくという形にさせていただければと思います。

○菅野座長 ほかに御意見はございませんでしょうか。
 それでは、本日の検討はこの程度にいたしたいと思いますが、年内の検討会は本日で最後になります。委員の皆様には御多忙の中、多大な御協力を賜りまして誠にありがとうございました。座長といたしまして厚く御礼申し上げます。来年も引き続きよろしくお願いいたします。

○古口事務局次長 事務局からも一言述べさせていただきます。皆様にはこの1年間、大変お忙しい中を御熱心な議論をいただきまして、本当にありがとうございました。事務局を代表して心より御礼申し上げます。また、来年も法案づくりということでかなり具体的なことになりますし、その後に残された課題の議論もしなければならないところです。ぜひ今後ともよろしくお願いしたいと思います。

○菅野座長 それでは、本日の検討会はこれで終了いたします。ありがとうございました。