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労働検討会(第4回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり


1 日時
平成14年5月30日(木) 15:00~18:45

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、岡崎淳一、春日偉知郎、後藤博、髙木剛、村中孝史、矢野弘典、山川隆一、山口幸雄(敬称略)

(説明者)
井上 幸夫(弁護士)
鴨田 哲郎(弁護士)
角山 一俊(弁護士)
八代 徹也(弁護士)
岩城猪一郎(社会保険労務士)
大野  実(社会保険労務士) 

(事務局)
松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、齊藤友嘉参事官、近藤昌昭参事官

4 議題
1.利用者側の立場から見た労働関係紛争処理制度の問題点等に関するヒアリング(1)
  • 弁護士からのヒアリング
  • 社会保険労務士からのヒアリング
2.フリーディスカッション
3.その他

5 配布資料
資料17 弁護士ヒアリング資料
資料18 社会保険労務士ヒアリング資料
資料19 第3回労働検討会におけるヒアリングの概要
資料20 第3回労働検討会におけるフリーディスカッションの概要
資料21 労働検討会の検討事項
資料22 当面の検討スケジュール -たたき台-
資料23 ヒアリングの進め方について -たたき台-
資料24 厚生労働省提出資料

6 議事

 (1) 弁護士からのヒアリング

 労働者側弁護士及び使用者側弁護士から資料17に基づいて説明がなされた。これに対して、次のような質疑がなされた。(○:委員、●:説明者)
 なお、資料17中、事件名、裁判官名等の固有名詞については、制度の在り方を検討する検討会の趣旨に照らして、伏せて公開することとされた。

○ 仮処分についての使用者側弁護士の考え方如何。

● 労働事件の仮処分を特殊なものと見るべきではない。仮処分は権利関係について暫定的に定めるものであり、賃金仮払いを認める期間を限定して、事情の変更に応じてスクリーニングをすることは必要である。さもないと、仮処分で事件が実質的に決まることとなり、かつての「仮処分の本案化」に逆戻りしてしまう。

● 仮処分の手続が書面審理中心となってきたのは、仮処分の本来の趣旨に反する「仮処分の本案化」への反省からである。また、仮払いの期間を第1審判決の言渡しまでとすれば、いったん仮処分が出されると事件の解決が遅滞してしまうおそれがある。

○ 労働者が労働組合に所属しているか否かによる実態の相違如何。

● たとえ組合に所属していても、審理期間が1~2年もかかるとなると、なかなか裁判で争うということにはならないケースもある。したがって、迅速に仮処分決定が出されることが必要である。また、組合のサポートのない労働者は、事件を速く解決したいと望んでおり、審理に1年もかかることは裁判を利用する上での障害となる。

● 組織の大きな組合の組合員であれば援助を受けられることもあるが、そうでない組合の場合、組合が解雇された労働者の生活を補償するケースは少ない。雇用保険も半年で切れるため、自分の生活は自分で賄わないとならなくなるが、アルバイトをしたり、預金があったりすると仮処分の必要性を否定されてしまう。

○ 簡易裁判所での労働事件の民事調停についてどう考えるか。

● 地裁・簡裁の区別というのは特に関係ないのではないか。適切な者が得られれば、どちらでも良いだろう。

● 労働調停は紛争解決のチャンネルとしての意味はあると思うが、現状では、裁判所から民事調停を勧められても訴訟の担当裁判官の下で和解をやってくれと言うことになる。その方が解決が速いと考えている。判決が出されるということが背景にないと、解決が遅くなるのではないか。

● 簡裁の調停を経験したことは、これまでに1度しかない。例えば、解雇された労働者側に、内心退職してもよいと思っている等の裏の事情がある場合には、当初から簡裁の調停で適切な解決を求めるということはあり得るが、通常は訴訟が提起された後に、裁判所が適切に事件を振り分けるのがよいのではないか。

● 裁判所による公権的な解決が背景としてないと和解が進まないのと同様に、簡裁の調停の場合、調停が不調に終わった場合にどうするかを考える必要がある。改めて地裁に訴えを提起するのでは、時間がかかることとなり、簡裁の事物管轄を拡大する等しないと、紛争解決全体のプロセスが長期化するだけである。
 低額の賃金不払い事件であれば、簡裁で調停を行い、不調の場合には簡裁で判決を得るという仕組みでもよいと思うが、解雇事件について簡裁で処理するのは難しいのではないか。

○ 労使各側の弁護士で、原告側となる割合と被告側となる割合はどうか。また、使用者側の迅速審理についての考え方は、企業の状況によって異なるのか。

● 会社も迅速な解決を望んでいるはずである。特に、外資系企業は、日本の裁判の中立公平性については全く不満はないが、迅速性の点については不満を持っている。

● 日本企業の場合、迅速性ということをあまり主張することはない。労働者側が主張される迅速性というのは、労働者側が勝訴する結論を迅速に出してほしいということではないか。公正な審理を行うためには、ある程度期間を取って行うことが必要であり、仮処分も2~3か月で処理することはできないのではないか。仮処分が7~8か月で出るというのは、かなり迅速なのではないか。会社側は裁判所から次々出される宿題にアップアップしながらも対応しており、会社側が審理の引き延ばしを図っているということはない。
 また、私は使用者側弁護士であるが、被告側となることが圧倒的に多い。

● 労使の対立が激しいときに、迅速な処理といってすぐに判決を出すのは本当に解決になるのだろうか。裁判所に訴えが提起されるような紛争は、こじれにこじれたものである。ときには、互いに主張を出し尽くさせて、疲れたところで和解で解決する方が、判決を得て上級審でさらに争うよりも、全体としては解決が速いかもしれない。

● 以前は、労使ががっぷり四つに組んで和解の機運を待つといった事件もあったが、最近は、解雇事件も差別事件も速く解決したいという切実な要望が強い。
 労働者側から見ると、外資系企業では迅速な解決を求めているのかもしれないが、日本の企業は千差万別であり、審理の引き延ばしを図っている企業も多い。合理的な経営者もいれば、不合理なワンマン経営者もいる。
 和解で解決する場合でも、公的な判断が示されないと決断できないということがある。裁判所の判断を一度示してもらい、次の舞台で和解するということもある。和解の前提として、仮処分や一審の判決が出され、又は裁判官による一定の発言がなされることが必要であり、それにより初めて解決できる事件も多い。

● 検討に当たっては、労働事件をひとくくりにすべきではない。①迅速に判断を出してほしい単純な賃金不払い事件、②中小企業に多い、正当な理由の必要性を知らずに、又は無視して行われる単純な解雇事件、③経営者側から見ると一定の正当な理由があるとされ、理由の合理性が議論となる解雇事件、④賃金差別事件等、類型に分けて議論すべきである。
 上記の③、④の類型では、迅速な解決のためには証拠開示の徹底を図ることが必要である。

○ 事実上の5審制の問題について、具体的にはどう対応すべきか。また、証拠の偏在の問題についてはどのような改善が必要か。

● 不当労働行為事件について、労働委員会、裁判所をトータルで見ると、審理期間に関して裁判所は随分改善している。
 しかし、労働委員会では、申立側が「自主交渉をしたい」として時間がかかるケースもある。したがって、①時間がかかっても和解で解決すべき事件と、②早急に命令を出すべき事件を振り分けることが必要である。それを区別せずに、審問をしているのか和解をしているのか分からないようなことがある。その振り分けをクリアにして、②については審理過程の計画化を図ることが必要である。その両者を曖昧にして、「とりあえず和解しよう」、「とりあえず話を聞こう」ということになってしまっている。公益委員の力量でその切り分けをしていけば、審査の長期化という問題にはならないのではないか。

● 不当労働行為の審査を行う公益委員は非常勤で忙しい人が多く、膨大な資料が提出される複雑な事件を精査することはたいへんである。公益委員の人数を増やしたり、米国のNLRBの行政裁判官のように常勤化することが必要ではないか。ただし、事件数等から見て社会的なリソースをそこに振り向けられるかどうかの問題がある。

● 非常勤の公益委員が命令を出すというのが労働委員会制度のメリットであると言われており、まず、労働委員会の事務局の専門性を高めることが必要である。
 証拠開示については、会社側の主張を裏付ける証拠がない場合に、裁判所は、証拠を出させるよう積極的に訴訟指揮してほしい。

○ 裁判外の和解を効果的に進めるには、結果の予測がついていることが必要だと思うが、事実関係について労使双方の代理人が共通認識を持っていないとうまくいかないのではないか。その場合に、手持ちの証拠を相手方代理人にどの程度示すのか。
 また、最近、当事者照会制度が使われていないと聞くがどうか。

● 解雇事件では、解雇に正当な理由があることについての立証責任は実質的には会社側に転換されており、会社としては必死に資料を提出する。
 裁判外の和解において、手持ちの資料を示すことが和解に結びつくかどうかは疑問である。むしろ、双方が事実関係についてあいまいなままに進めた方が解決に結びつくのではないか。
 当事者照会はほとんどない。訴訟では裁判所に理解してもらうための資料が必要なのであり、当事者同士の場合、感情的な対立のため、必要のない資料についても照会するようなことになるからである。

● 和解による解決のためには、当事者間に共通の認識がある場合よりも、会社の立場、労働者の立場が異なっていた方が妥協しやすいという面もある。

○ 労働調停を導入するに当たり、大企業・中小企業、国内企業・外資系企業等全ての事件に対応できる調停委員を確保することは可能か。

● 業界ごとに多様な慣行、用語等があるので、全ての事件に対応できる人材をそろえることは難しい。現場の状況を汲み取ろうと努力し、労働関係に一定の経験のある者が得られればよいのではないか。

● 全ての分野にわたって経験がある者はいない。複数の者を組み合わせて集めるしかないだろう。
 特に、地方では十分な人材を確保できるかどうかという問題がある。

○ 迅速に処理すべき事件とそうでもない事件の振り分けは、審理計画の作成段階で可能か。

● 代理人にその気があれば可能だろう。

● 当事者双方の代理人を裁判所が呼んで意見交換するということは考えられるのではないか。弁論準備手続(組合員等の支援者が傍聴している場合がある。)ではどうしても形式的な主張に終始しがちであるから、裁判所が非公式に呼んで、訴訟の進行の見込みについて本音を聞くという方法はあり得る。

 (2) 社会保険労務士からのヒアリング

 社会保険労務士から資料18に基づいて説明がなされた。これに対して、次のような質疑がなされた。(○:委員、●:説明者、△:事務局)

○ 開業するには、社会保険労務士試験に合格するほか、何らかの条件があるのか。

● 2年以上の実務経験があれば登録をすることができる。

○ どのような実務経験が必要か。

● 会社等における労働社会保険諸法令に関する実務、社会保険労務士事務所での勤務等である。また、指定した講習を修了することが必要である。

△ 社会保険労務士の中には、使用者側と労働者側からの依頼をともに受ける者はいるのか。

● 企業との顧問契約の中で企業から報酬を得ているが、相談には中立公正な立場で対応することとなる。労働者側からの相談に対応することもある。

○ 弁護士は、多様な事件に対応できるよう、事務所の規模を拡大する方向にあるが、社会保険労務士の事務所の大きさ如何。

● 50~100人の規模の事務所というのはほとんどない。事務職員も含めて20~30人の規模でも大きい方だろう。

● イメージとしては、2,3名の事務所が多い。中堅クラスだと10名を超える程度だろう。

○ 社会保険労務士事務所の顧問契約数如何。

● 平均して35社程度である。

● 社会保険労務士の場合、継続的な顧問契約を締結して、企業と安定的な関係を構築している。

 (3) 厚生労働省提出資料の説明

 岡崎委員から資料24に基づいて説明がなされた。これに対して、次のような質疑がなされた。(○:委員、●:説明者)

○ 救済命令の取消率を一部取消の場合には訴訟費用の負担割合に基づいて算出しているが、訴訟費用の負担割合の決定は裁判所の裁量であるから、訴訟費用に基づいて算出するのはどうかと思う。また、終結件数に対する割合で取消率を出しているが、和解や取下げで終わった事件の中にも命令が維持できないものもある。あくまで厚生労働省が便宜的な基準としてお考えになったものであると理解する。

● 一部取消も全部取消と同じ取消件数として数えると、取消率が過大に見られることとなるので、訴訟費用の負担割合に基づいて算出した。取消状況についての見方はいろいろあると思う。

 (4) フリーディスカッション

 今回のヒアリングを踏まえて、フリーディスカッションを行った。その主な発言の内容は以下のとおりである。(□:座長、○:委員、△事務局)

○ 紛争解決の迅速化についての使用者側の考え方であるが、企業規模や使用者の性格にもよるが、企業はコスト意識を強く持っている。裁判のための陳述書や証拠資料の作成等には多くのコストがかかるのであり、速く紛争を解決したいと考えているはずである。

○ 公的な場で労使の弁護士が同席して議論できるようになったことは夢のようなことであり、時代は変わったと感じる。
 こうした話し合いをする機会をこれからも作っていきたい。日弁連でも取り組んでいるが、裁判所、労働委員会との実務家同士の協議の場の設定を是非お願いしたい。

○ 労使によって評価は異なるが、紛争解決の在り方が現状のままでよいとの認識ではないという点は一致しているだろう。それぞれ立場に違いはあるが、それを乗り越えて、議論のための共通の土俵を作ることは可能ではないかと感じる。また、共通の認識を持てれば、制度設計に入る前の改善も、裁判所、労使代理人含めて実施していくべきである。

□ 労働委員会は労使関係の安定に腐心してきたが、事件を振り分けて速く命令を出すべきものは出すという提案は耳を傾けるべきものだろう。労働委員会は調整的解決に比重をかけすぎてきた面はあると思うが、集団的労使紛争はどの国でも独特の世界を形成している分野であり、調整機能と判定機能の整理を行うことが重要である。
 労働調停に関しては、現状では、判決という公的な判断が後ろに控えている裁判での和解による解決が中心であるとの指摘はもっともだと思う。例えば、英国の雇用審判所とACASとの関係等も参考にしながら、労働調停の設計を考えていくべきだろう。

○ 労使も紛争解決の問題に積極的に参加してほしい。

○ 紛争が発生して裁判になる前の段階をどうするかをよく考えることが重要だろう。紛争を自主的に現場で解決する能力が弱ってきているのかもしれない。小さな芽の段階で紛争を解決する能力が必要である。
 労働事件の専門性とは、医療過誤事件等とは異なり、人間関係の絡むどろどろとした紛争を扱う難しさなのだろう。しかし、その難しさにも軽重はあるのでわり、その点を整理すべきだろう。

○ 労働事件における専門性というのは、紛争解決についての経験・熟練が必要であるということを意味するのかもしれない。

 (5) 今後の検討会の進め方について

 今後の検討会の進め方について議論が行われ、諸外国の制度に関するヒアリングにおけるヒアリング対象者の人選については、座長において選定することとされた。
 この他、中間的な論点整理の進め方等について議論が行われた。

 (6) 次回の日程

 次回(第5回)は、平成14年7月1日(月) 13:30~17:00に開催することとし、紛争処理制度の利用者側からヒアリングを実施することを予定している。