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労働検討会(第5回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり


1 日時
平成14年7月1日(月) 13:30~17:00

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
菅野和夫座長、石嵜信憲、鵜飼良昭、岡崎淳一、春日偉知郎、後藤博、髙木剛、村中孝史、矢野弘典、山川隆一、山口幸雄(敬称略)

(説明者)
小山 正樹(JAM副書記長)
古山  修(日本労働組合総連合会東京都連合会組織局次長)
小島  浩(IBM World Trade Asia Corporation Director of Employee Relations)
杉山 幸一(三菱重工業株式会社特別顧問)

(事務局)
大野恒太郎事務局次長、松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、齊藤友嘉参事官、近藤昌昭参事官

4 議題
1.利用者側の立場から見た労働関係紛争処理制度の問題点等に関するヒアリング(2)
  • 労働者側からのヒアリング
  • 使用者側からのヒアリング
2.フリーディスカッション
3.その他

5 配布資料
資料25 労働者側ヒアリング資料
資料26 使用者側ヒアリング資料
資料27 第4回労働検討会におけるヒアリングの概要
資料28 労働検討会の検討事項
資料29 当面の検討スケジュール -たたき台-
資料30 ヒアリングの進め方について -たたき台-
資料31 最高裁判所提出資料
資料32 弁護士ヒアリング・労働者側追加資料
6 議事

 (1) 労働者側及び使用者側からのヒアリング

 労働者側の古山氏及び小山氏から資料25に基づいて説明がなされ、引き続いて、使用者側の小島氏及び杉山氏から資料26に基づいて説明がなされた。これに対して、次のような質疑がなされた。(□:座長、○:委員、●:説明者)

○ 使用者側は1審判決まで1年~1年半くらいであれば長いとは言えないと考えているようであるが、労働者側としてはどの程度の期間であれば許容範囲内か。

● 雇用保険の受給期間内(90日~330日)である。

○ 労働者側としては、労働調停や参審制度に関与する人材を十分に手当できると考えているのか。

● 労働組合では、各産別組織や地方組織の中に十分な専門家を擁しており、対応は可能と考えている。

○ 企業内のフォーマルな苦情処理機関はあまり利用されていないとのことであるが、その理由についてはどう考えているか。

● 苦情処理制度があるということ自体に意義があるのではないか。

● 本来、労働者の抱える苦情は上司との間で解決できればよいのであるが、処理のしにくい事件について、苦情処理制度がバイパスの役割を果たすのではないか。
 苦情処理制度に持ち込まれる事案の最近の傾向としては、上司との人間関係に関するもの、人事評価に関するもの、セクシュアル・ハラスメントに関するもの等がある。

○ 使用者側は審級省略には賛成できないと言うが、現に5回の関門をくぐることには違いないのであり、この点についてどのような改善策が考えられるか。

● 使用者側の労働委員会に対する期待と労働委員会が考えている役割に違いがあるのではないか。使用者側としては労働委員会には準司法的機関としての機能を期待しているが、労働委員会は行政機関としてあるべき労使関係の構築に向けて自由自在に決められると思っているのではないか。労働委員会制度を根本的に変えるのであれば、5段階の審級は不要かもしれない。

○ 具体的にはどのように変えればよいと考えているのか。

● 裁判所と同様の観点から、準司法機関にふさわしい活動をしてもらいたい。労働委員会は権利義務関係を確定することにより労働者を救済することとなるのか否かを判断する準司法的な機関であるべきであると考えている。また、非常勤の公益委員を中心とする労働委員会の判定と常勤の裁判官による判定では異なる点があるのではないか。労働委員会の存在意義についても再検討すべきではないか。

● 労働委員会は調整や和解では有効に機能している。したがって、例えば、労働委員会では調整機能をいかし、審査機能は廃止して、裁判所における労使の参与制に組み替えていくといったことも考えられるのではないか。

○ 裁判所でも和解を勧められることが多いようだが、それとは別に労働調停を裁判所に導入するメリットは何か。

● 個別紛争については、より簡便に迅速な解決を話し合いで図っていくことが良いのではないか。

○ 労働調停を経てから裁判に移行することとなると、むしろ解決に時間がかかるのではないか。

● 労働調停であれば、専門家の関与が容易であり、法曹資格のない「人生の達人」のような専門家が広く関与できるようになるのではないか。

○ アメリカではオンブズパーソン制度が機能しており、ヨーロッパでは非常勤の労使の参審制が機能している。経済大国たる我が国で専門家の育成が困難というのは問題ではないか。人材の育成を是非お願いしたい。

● 労働組合としては、きちんとした労使関係を作ろうと努力しており、労使相互の事情を理解しているバランス感覚を持った人材が多くいる。職場にはそのような人材が相当いるのではないか。

● 私が考える専門家の水準は労働者側の想定する水準よりも高いのかもしれない。親身に話を聞いて解決策を提案してくれる「人生の達人」はたくさんいるだろうが、裁判官と一緒に議論できるような人材はどの程度いるのか。労使の経験の長い者というだけで天下り的に選任されることはとんでもないことだと考えている。

○ 現にドイツでは数千人の労使が非職業裁判官として関与しており、我が国でも人材育成が必要である。

● 労働問題の相談が気軽にできて、気軽に解決できるような制度が求められている。裁判所の判決に問題があるから専門家を入れるというのではない。裁判所は信頼に足りると考えている。未組織労働者も含めて親身になって対応してくれる仕組みが必要だということではないか。

● 法律の支配が行き渡っていない職場が多い中で、裁判所が中小企業の現場の実態をどこまで理解しているのだろうか疑問である。裁判の場で労働者側・使用者側が意見を率直に出し合うことは良いことだと思う。

● 裁判所の判断がそれほど問題であるとは考えていない。労使の関係者が入ることによってかえって混乱を招くのではないかということをおそれている。

○ 労働者側では労働調停についてはどう考えているのか。

● ADRはいろいろあってよいと思っているが、より便利で労働者に近いものが必要である。労働調停を否定はしないが、本当に必要なのか疑問の余地はあろう。

● 様々なADRがあってよいが、基本は裁判であると考える。

○ 今後、個別紛争は急激に増加していくと考えられるが、労働者側ではどう考えているのか。

● 労働相談の実績でも増えてきており、増加していくと思う。

○ 個別紛争の増加は、単に景気が悪いことのみが原因ではなく、雇用社会の変化に伴うものであると思われ、紛争の増加に伴い、一件当たりの処理に要する期間は短くならざるを得なくなるだろう。そうすると、電話で解決すべき事件、調停で解決すべき事件、裁判で解決すべき事件を振り分けていかないと対応できなくなるのではないか。その事件の割り振りには実情を知っている者が関与する必要があるのではないかと思われるが、労働者側ではどう考えているのか。

● そのとおりであると思う。

○ 労働問題に関する専門性に汎用性はあるのか。企業規模による違いや業種の違いを超えて活用できるのか。

● 労使関係に携わってきた人は一定程度の共通の専門性を持っているはずである。より一層の専門性ということになると、業種や企業規模により異なることはあると思う。どの分野にも100%対応できる人材はいないから、いくつかの分野から人材を得ることで対応が可能ではないか。

● 大企業では、企業グループ内や下請け・取引先に中小企業もあるから、大企業の経験者は中小企業のことも分かると思われるが、制度を設計していく上では、大企業の者と中小企業の者がともに参加していくのがよいのではないか。

□ 労働委員会制度の中で再審査が可能となっており、いわば2段階あることの意義についてはどう考えるか。

● 2段階あってもよいのではないかと考える。労委にはバランス感覚を持った公労使の委員がいて、労使の信頼関係の回復に向けてまとめようと努力している。審級制については、裁判所も含めて全体の在り方を考えるべきである。

● 中労委の再審査でも75%程度が和解で解決している。また、地労委は各都道府県で設置しており独立性が高く、判断の内容にばらつきがあることから、中労委がフィルターをかけることが必要ではないか。したがって、労働委員会制度を存続させるのであれば、2段階の審級は必要と考えている。

○ 裁判所については3段階の審級が必要か。

● 三権分立の下、司法権による行政のチェックは3審制により確保されるべきものと考えている。

 (2) 最高裁判所提出資料の説明

 最高裁判所事務総局行政局・定塚第一課長から資料31に基づいて説明がなされた。これに対して、次のような質疑がなされた。(○:委員、●:説明者)

○ 仮処分の賃金仮払い期間の取扱い(資料31中の資料4)については、東京と大阪では本質的に考え方に違いがあるのではないか。

● 東京と大阪の違いは、保全の必要性についての考え方の違いではないか。東京では、1年間程度は現状の保全の必要性が続くだろうという考え方であり、大阪では、労働者が再就職した等事情が変わった場合には、民事保全法第38条により債務者の申立に基づき保全命令を取り消せばよいという考え方ではないかと想像される。
 しかし、現在、大阪の一審の平均審理期間は1年程度であるが、大阪でも本案訴訟の審理期間が長期にわたっているのであれば、仮払いの期間を一審判決までとはしないのではないかと推測される。保全の必要性が変わらないであろうとする期間については、東京と大阪で基本的認識に違いがあるとは考えていない。

 (3) フリーディスカッション

 今回のヒアリングを踏まえて、また、中間的な論点整理に向けて、フリーディスカッションが行われた。その主な発言の内容は以下のとおりである。(□:座長、○:委員)
 また、9月4日の労働検討会で諸外国の制度に関するヒアリングを実施することとされた。

○ 労働問題の専門家というものについての認識が労使で一致していないのではないか。専門性としてどのようなレベルのものを想定するのか。専門家に何を行ってもらうのか、そのような者がどのくらい居るのかという点を総論として議論して詰めていかないとならない。

○ 圧倒的多数を占める未組織労働者に関する紛争解決を迅速、気軽、適正に進めるにはどうすればよいかが問題だ。
 労働委員会の労使の参与委員については、特に和解の面で労使共通の評価があったように思うが、個別紛争を考える上でも紛争処理に関与する人材に何を要求していくのか、現状を踏まえて考えることが必要だ。専門家の供給源については、労使で確かに認識にずれがある。

○ 8割以上の未組織労働者について、20年~30年後の状況をどう見るべきかを考える必要がある。激しい価格競争やIT化によるダウンサイジングに伴うリストラが進行していくと考えられ、個別紛争を中心に考えるべきではないか。集団紛争については労使でかなり見方が異なるので、ここは、集団紛争と個別紛争とを分けて考えていくべきである。

○ 個別紛争が増加していく中で、迅速、適切に紛争解決を図るためには、労使自治の下、現場でぎりぎりの折衝をしている労使の能力を活用しない手はないのではないか。

○ 確かに労働委員会の参与委員の和解への努力は評価されているが、果たしてこの能力が個別紛争にどの程度活用できるのか疑問がある。
 集団紛争では労使の信頼関係の回復にはある程度時間がかかるから、時間をかけた説得が有効である。他方、個別紛争では労働調停を活用することでかえって時間がかかってしまうのではないか。参審制や参与制を導入するにしても同様である。それを回避する制度設計が必要である。
 人材面では、「人生の達人」としての専門性と法律に関する専門性を有する人材をどう確保するかが重要である。

□ 関与する専門家に何を求めるかという問題があろう。労働委員会や労働調停では、当事者に接して本音を聞きだし説得をする等の調整能力が参与する者に求められるが、ヨーロッパの労働裁判所の労使裁判官には、調整の機能ではなく、むしろ判断の機能が担わされている。

○ マンパワーの問題は、何を期待するかによって異なるが、労働者側では、専門家に何を期待するかという点について、あまり議論されていないのが実情である。むしろ、私は、労働者側の人材は不足しているのではないかと思っている。

○ 労働基準法違反等に関する事件であれば、裁判官に判断を任せてしっかりやってもらえばよいのではないか。他方、解雇事件や労働条件の切り下げ事件等の合理性の判断が必要となるような事件については、労使関係の現場の体験をいかせないかということが問題となる。

○ この解雇は許されるのかといった利害の調整のバランスをどう見るかという点に、現場でぎりぎりの交渉を行っている人材を活用できないかということが問題である。確かに、法律を適用して一義的に判断できる論点について専門家を活用するまでの必要はないだろう。

○ ADRとしての労働調停の利点を考えることが必要である。訴訟ではうまく解決できない利益紛争的なものについて調停で解決するのがよいのではないか。そうだとすれば、そのような方向に引きつけて制度設計をすることが必要ではないか。
 賃金不払い等の権利紛争については、労働調停にかけることによりかえって時間がかかる結果となるおそれがあろう。
 労働調停がその利点を発揮できるように、利益紛争の解決に資する人材を選ぶことが必要だ。そのような人材は「人生の達人」というよりも、労働法の専門的知識を有している者でないとならないのではないか。争点は利益紛争でも、その周辺に権利に関わる問題点が付随していることが多い。裁判所が行う調停制度としては、法律を無視した調停であってはならないのではないか。

○ 労働関係紛争の解決はワンストップ・サービスでどこへ行っても話を聞いてもらえるようにすることが必要であり、紛争の相談、あっせんまでは間口を広くすべきである。しかし、調停制度については、司法制度として整備することがふさわしい。
 この場合、使いやすくする観点から、訴訟の際に勧められて和解を実施するよりも、全国にたくさんある簡易裁判所で調停を受けられるようにすれば、訴訟まで行かずに解決できることがあるのではないか。こうした選択肢を増やしていくことにより、司法制度に対する国民の支持も得られるのではないか。簡易裁判所での使いやすい労働調停制度という点を議論してほしい。
 また、確かに個別紛争は主に未組織労働者の多い中小企業で多くなると思われるが、大企業でも就業形態の多様化等により自力での紛争解決能力が弱ってくることがあるのではないか。一方、中小企業でも労務管理をしっかりやっているところもある。紛争処理能力については企業規模や労働組合の有無だけでなく、様々な原因があるのではないか。

○ 専門家がどのような立場で入ってくるのかも議論すべきである。利益代表としてか、現場の経験を反映させる者としてか。後者であれば労使の利害から一歩引いた者でなければならない。
 また、今後、個別労使紛争が増加するというのであれば、労働関係の実体法の整備についても検討する必要があるのではないか。判例は解釈する人によってその射程範囲についての考え方も異なり、安定性に欠ける面がある。判例に任せるだけでなく、実体法を整備することである程度紛争を防止できるのではないか。

○ 実体法を整備して判例の基準をより明確にすることは必要である。しかし、最後の利益衡量では、正当性や相当性の判断が必要となるだろう。
 また、解雇事件等では、迅速性が必要であり、調整的な解決手法と判定的な解決手法の役割分担が問題である。労働調停は労働条件の不利益変更等の事件で活用できると思うが、判定的な解決手法とどのようにかみ合わせていくかが問題だ。

○ 労働調停と専門家を入れた裁判制度との役割分担や連携をどう考えるかが一つの論点だと思う。
 実体法整備の必要性については同感である。日本では実体法と手続法が明確に区別されているが、アメリカでは実体法の中で手続に関する規定も存在しており、必ずしも分離されていない。

□ 日本では通常訴訟(本案)と保全訴訟(仮処分)で手続が2分されているが、そのような仕組みが労働関係事件訴訟で必要かどうかについても検討が必要だ。労働裁判所のある国では、こうした区分はされていない。

○ 外国の制度に関しては、本案判決までの所要期間や労使裁判官の選出手続、人材の供給源等の資料を調べることが必要だ。
 また、労働関係事件は労働者側が訴えることがほとんどであるから、迅速性ということの持つ意味も労使で捉え方が異なるのではないか。したがって、総論をきちんと位置付けてほしい。

○ 労働関係事件では、雇用関係の継続を求めていくものと雇用関係の断絶も致し方ないとするものがある。紛争の類型を分けて議論することが必要ではないか。

 (4) 次回の日程

 次回(第6回)は、平成14年7月29日(月) 13:30~17:00に開催することとし、中間的な論点整理等を実施することを予定している。