労働者側の古山氏及び小山氏から資料25に基づいて説明がなされ、引き続いて、使用者側の小島氏及び杉山氏から資料26に基づいて説明がなされた。これに対して、次のような質疑がなされた。(□:座長、○:委員、●:説明者)
○ 使用者側は1審判決まで1年~1年半くらいであれば長いとは言えないと考えているようであるが、労働者側としてはどの程度の期間であれば許容範囲内か。
● 雇用保険の受給期間内(90日~330日)である。
○ 労働者側としては、労働調停や参審制度に関与する人材を十分に手当できると考えているのか。
● 労働組合では、各産別組織や地方組織の中に十分な専門家を擁しており、対応は可能と考えている。
○ 企業内のフォーマルな苦情処理機関はあまり利用されていないとのことであるが、その理由についてはどう考えているか。
● 苦情処理制度があるということ自体に意義があるのではないか。
● 本来、労働者の抱える苦情は上司との間で解決できればよいのであるが、処理のしにくい事件について、苦情処理制度がバイパスの役割を果たすのではないか。
苦情処理制度に持ち込まれる事案の最近の傾向としては、上司との人間関係に関するもの、人事評価に関するもの、セクシュアル・ハラスメントに関するもの等がある。
○ 使用者側は審級省略には賛成できないと言うが、現に5回の関門をくぐることには違いないのであり、この点についてどのような改善策が考えられるか。
● 使用者側の労働委員会に対する期待と労働委員会が考えている役割に違いがあるのではないか。使用者側としては労働委員会には準司法的機関としての機能を期待しているが、労働委員会は行政機関としてあるべき労使関係の構築に向けて自由自在に決められると思っているのではないか。労働委員会制度を根本的に変えるのであれば、5段階の審級は不要かもしれない。
○ 具体的にはどのように変えればよいと考えているのか。
● 裁判所と同様の観点から、準司法機関にふさわしい活動をしてもらいたい。労働委員会は権利義務関係を確定することにより労働者を救済することとなるのか否かを判断する準司法的な機関であるべきであると考えている。また、非常勤の公益委員を中心とする労働委員会の判定と常勤の裁判官による判定では異なる点があるのではないか。労働委員会の存在意義についても再検討すべきではないか。
● 労働委員会は調整や和解では有効に機能している。したがって、例えば、労働委員会では調整機能をいかし、審査機能は廃止して、裁判所における労使の参与制に組み替えていくといったことも考えられるのではないか。
○ 裁判所でも和解を勧められることが多いようだが、それとは別に労働調停を裁判所に導入するメリットは何か。
● 個別紛争については、より簡便に迅速な解決を話し合いで図っていくことが良いのではないか。
○ 労働調停を経てから裁判に移行することとなると、むしろ解決に時間がかかるのではないか。
● 労働調停であれば、専門家の関与が容易であり、法曹資格のない「人生の達人」のような専門家が広く関与できるようになるのではないか。
○ アメリカではオンブズパーソン制度が機能しており、ヨーロッパでは非常勤の労使の参審制が機能している。経済大国たる我が国で専門家の育成が困難というのは問題ではないか。人材の育成を是非お願いしたい。
● 労働組合としては、きちんとした労使関係を作ろうと努力しており、労使相互の事情を理解しているバランス感覚を持った人材が多くいる。職場にはそのような人材が相当いるのではないか。
● 私が考える専門家の水準は労働者側の想定する水準よりも高いのかもしれない。親身に話を聞いて解決策を提案してくれる「人生の達人」はたくさんいるだろうが、裁判官と一緒に議論できるような人材はどの程度いるのか。労使の経験の長い者というだけで天下り的に選任されることはとんでもないことだと考えている。
○ 現にドイツでは数千人の労使が非職業裁判官として関与しており、我が国でも人材育成が必要である。
● 労働問題の相談が気軽にできて、気軽に解決できるような制度が求められている。裁判所の判決に問題があるから専門家を入れるというのではない。裁判所は信頼に足りると考えている。未組織労働者も含めて親身になって対応してくれる仕組みが必要だということではないか。
● 法律の支配が行き渡っていない職場が多い中で、裁判所が中小企業の現場の実態をどこまで理解しているのだろうか疑問である。裁判の場で労働者側・使用者側が意見を率直に出し合うことは良いことだと思う。
● 裁判所の判断がそれほど問題であるとは考えていない。労使の関係者が入ることによってかえって混乱を招くのではないかということをおそれている。
○ 労働者側では労働調停についてはどう考えているのか。
● ADRはいろいろあってよいと思っているが、より便利で労働者に近いものが必要である。労働調停を否定はしないが、本当に必要なのか疑問の余地はあろう。
● 様々なADRがあってよいが、基本は裁判であると考える。
○ 今後、個別紛争は急激に増加していくと考えられるが、労働者側ではどう考えているのか。
● 労働相談の実績でも増えてきており、増加していくと思う。
○ 個別紛争の増加は、単に景気が悪いことのみが原因ではなく、雇用社会の変化に伴うものであると思われ、紛争の増加に伴い、一件当たりの処理に要する期間は短くならざるを得なくなるだろう。そうすると、電話で解決すべき事件、調停で解決すべき事件、裁判で解決すべき事件を振り分けていかないと対応できなくなるのではないか。その事件の割り振りには実情を知っている者が関与する必要があるのではないかと思われるが、労働者側ではどう考えているのか。
● そのとおりであると思う。
○ 労働問題に関する専門性に汎用性はあるのか。企業規模による違いや業種の違いを超えて活用できるのか。
● 労使関係に携わってきた人は一定程度の共通の専門性を持っているはずである。より一層の専門性ということになると、業種や企業規模により異なることはあると思う。どの分野にも100%対応できる人材はいないから、いくつかの分野から人材を得ることで対応が可能ではないか。
● 大企業では、企業グループ内や下請け・取引先に中小企業もあるから、大企業の経験者は中小企業のことも分かると思われるが、制度を設計していく上では、大企業の者と中小企業の者がともに参加していくのがよいのではないか。
□ 労働委員会制度の中で再審査が可能となっており、いわば2段階あることの意義についてはどう考えるか。
● 2段階あってもよいのではないかと考える。労委にはバランス感覚を持った公労使の委員がいて、労使の信頼関係の回復に向けてまとめようと努力している。審級制については、裁判所も含めて全体の在り方を考えるべきである。
● 中労委の再審査でも75%程度が和解で解決している。また、地労委は各都道府県で設置しており独立性が高く、判断の内容にばらつきがあることから、中労委がフィルターをかけることが必要ではないか。したがって、労働委員会制度を存続させるのであれば、2段階の審級は必要と考えている。
○ 裁判所については3段階の審級が必要か。
● 三権分立の下、司法権による行政のチェックは3審制により確保されるべきものと考えている。