事務局から、資料43及び資料44について説明がなされ、これらに関して、次のような質疑がなされたのち、一応これらの資料のとおり、検討すべき論点項目の中間的な整理が行われるとともに、今後の検討を進めていくこととされた。(□:座長、○:委員、△:事務局)
○ 労働裁判へのアクセスの検討については、司法アクセス検討会における検討との調整が必要と思うが、検討スケジュールはどのようになっているのか。
△ 訴え提起の手数料については、10月頃まで検討が行われる予定と聞いているが、司法アクセス検討会では民事訴訟手続全体の観点から検討が行われており、特定の分野における特例についての議論をどこまで反映していただけるかは難しいのではないか。
○ 解雇事件等では訴えの提起に当たり数万円の印紙が必要であるケースが多く、解雇された労働者には大きな負担となっている。したがって、よりアクセスしやすくする道を開くため、特別な取扱について意見集約できるとよいと考えており、労働検討会で検討してほしい。
△ 労働関係事件に関してのみ特別な取扱をすることについて社会的なコンセンサスを十分に得る必要があり、この辺をよく検討することが必要である。
弁護士報酬の敗訴者負担の取扱については、平成16年に措置を行う予定とされており、労働検討会でも検討の上、その意見を司法アクセス検討会での検討に際して伝えることは可能と考えられる。
○ 制度全般に関する一般論の検討と労働関係特有の観点からの検討とをどう連携させるか、その相互関連を調整する必要がある。
例えば、仲裁法制についても、一般論の議論はなされているが、労働分野も一部関係している部分がある。労働検討会の検討事項は従来からの資料にあるとおりの4点であるが、他との関連にも注意してほしいし、この場でも議論してほしい。
△ 各検討会の役割分担も見据えた上で、相互の連携を確保することも必要であるので、委員の皆様にもいろいろと御相談しながら進めて参りたい。
○ 仲裁検討会における議論の進捗状況を踏まえて、仲裁についても、労働関係事件に総合的に対応する観点から問題提起する必要があると考える。
△ 仲裁法制については来年の通常国会に関係法案を提出する予定であるが、個別に御意見があればお寄せいただき、仲裁検討会にお伝えしたいと考えている。
○ 我々も忙しいのであるから、事務局でも労働分野への影響の観点から注意してほしい。
△ 事務局としても検討して参りたい。
□ 論点項目の中間的な整理及び今後の検討スケジュールについては、資料のとおりとすることについては異論はないようなので、この方向で進めていくこととする。
資料43の「1 労働関係紛争処理の在り方について」の部分を中心に、次のような総論的な議論がなされた。(□:座長、○:委員)
○ 先進国における個別的労働関係紛争の増加の傾向は今後も続くのではないかと思う。私の実務上の経験でも事件数は増加しており、その内容も深刻なものが多い。
□ バブル崩壊後紛争は増えてきている。景気との関係があるとも考えられるが、今後、経済の安定成長が取り戻されたとしても、紛争は増えていくのだろうか。
○ 短期的には、景気が低迷し、企業の業績も悪化し、失業者も増えている。したがって、解雇や退職金不払いといった紛争が頻発することが予測できる。
長期的には、働き方の多様化が一層進むだろう。すなわち、定期採用から不定期採用への変化、IT化の進展による在宅勤務やSOHOの進展、パートタイム・派遣労働・プロジェクト単位の雇用といった雇用期間・就業期間の多様化、裁量労働の増加といった人事制度の複線化やオフィス・ワークのアウトソーシングが進み、それに伴って発生する問題も複雑化してくるものと考えられる。
こうした働き方の多様化の背景としては、企業側においては、競争力の強化の要請が、働く側においては、ライフステージごとの働き方のニーズの多様化が、また、社会的な背景としては情報化・サービス産業化・少子高齢化の進展等が考えられる。
我々としてはこのような現象を前向きに捉えて、考えていくことが必要ではないか。
○ マーケットのグローバル化の進展に伴い、国際競争に勝たなければならなくなるとともに、IT化が就労形態を変え、在宅勤務等が増えてくる。こうした現象の動向をしっかりと予測しておくことが必要である。
本日の参考資料にある「平成13年版労働経済の分析」では、IT化による雇用創出効果を論じているが、技術革新は必ずダウンサイジングにより余剰人員を生み出すこととなる。しかし、そうした人員を訓練することによって、企業内で職種の変更をしながら雇用し続けていくことができるであろうか。
また、労務管理の在り方も集団的なものから個別的なものへと変化する。
こうした中で、膨大な紛争が発生してきたらどのような紛争処理制度を作っても機能しないのではないか。現にイギリスでは、雇用審判所が機能しなくなってきており、まずは企業内で紛争を解決させようという方向に動いている。
すなわち、IT化の影響を把握することが必要であるとともに、企業内における自主的な紛争解決制度を作っておかないと、紛争の増加に対応できずに企業の外部の紛争処理制度はつぶれてしまうのではないか。
○ 客観的事実として働き方の多様化等は進行していくだろうが、この社会に労働に関する法・ルールを根付かせることが必要である。ルールなしに経済合理性を追求するのはいかがなものか。この10数年間を見てみても、例えば、過労死や自殺へと追い込まれることもあるような裁量労働制の実態、中高年や管理職を集中的に対象とした退職強要等の事例が発生している。職場における人間性の尊重を確保し、雇用社会に法・ルールを確立していくことが必要である。そうしたルールを行き渡らせる上で果たすべき司法制度の役割は大きく、まずはそれを強めていくことが必要である。
自主的な紛争解決はいわば車の両輪の一方であり、外部の紛争処理制度が整備されなければ、内部における自主的な紛争解決も機能しない。
○ 例えば、派遣労働の拡大など、一定の方向を目指すことに伴う陰の部分について、実際に働いている生身の人間がどう思っているのかについての議論がないのではないか。そうした陰の部分が、紛争の増大の背景となっている。
現在は、雇用・就業形態の多様化等に伴い、従来の労働秩序の制度疲労が進んできている。これまで日本の労組は企業別に正社員を組織してきた。このままであれば労組の組織率はますます下がっていく。労組が個別労働紛争の受け皿になれていない。経営者は企業別労組が大事だというが、それではどうしていくのかという議論がなされていない。
我が国は従来の労働システムの良いところを失いつつあるのでないか。やりたいことはやるが、それに備える仕組みが作られていないということだと、いろいろの問題が生じる。
今後、個別紛争を中心に紛争は増えてくると思う。それに備えるための社会的な仕組み、労使内の仕組みを用意することが必要ではないか。
本日の参考資料中にもあるが、労組の組織率は低下しており、その要因としては、企業内における労組の空洞化と中小企業での低い組織率が挙げられよう。
○ 国際競争に勝ち抜いていくためには企業としても良い人材に頑張ってもらうことが必要である。これまでどおりの処遇であれば良い人材は来なくなる。核になる人材は長期間在職してもらわないと困るので、そのための処遇改善をしなければならない。このままでは知識労働者の空洞化が進んでくるのではないか。魅力ある企業作りは経営側としても必要なことである。
こうした専門的な知識労働者が増えてくると、他人と同じ処遇では満足しなくなってくるので、労組の有無にかかわらず、企業内での紛争解決能力を強めなければならない。それでも紛争が増えてくるだろうから、その場合に備えて相談窓口を広げることが必要であり、労働局等におけるあっせん制度が制度化された理由はそこにあるのだろう。しかし、我が国では法律家に対する信頼感があると考えられるが、その一方で、裁判所は敷居が高くて行きにくいと言う人も多い。このため、裁判所を相談に行きやすいようにすることが必要である。
○ 会社と労働者の間に信頼関係がないと企業はやっていけない。法を浸透させることは必要であるが、例えば、テレワーク等が増えて来ている中で、従来の労働基準法や労働安全衛生法を雇用社会に対応したものに変えていく必要がある。これからは実体法と雇用社会との隔絶がもっと進んでいくおそれがある。
○ 労働法が新しい事態に対応していくことは必要であるが、民法上のルールさえわきまえないような企業が増えている。企業の不祥事が相次いでいる中、企業組織について、性善説に立つのではなく、また、企業内の自浄能力に委ねるのではなく、最低限のことは外部の力で守らせることが必要ではないか。そこは裁判所の役割であり、少なくとも司法の存在感が大きくなり、「裁判所に行けばこうなる」という予測可能性が浸透していくことにより、企業も変わっていくのではないか。例えばサービス残業といったことが起こらないようにするためには、外部、特に司法による監視が必要である。この辺りの認識を持つことが重要である。
○ 好きなことを勝手にやらせよということではない。時代に合わない規制は改めるべきであることを述べただけである。なお、組織の在り方の問題ということでは、企業だけに限らず、労組でも同様ではないか。
○ 不況を脱しても、構造的な側面からして紛争は増えていくのではないか。また、雇用の流動化や年功的な処遇の消滅に伴い、紛争は表面化しやすくなるのではないか。さらに、法の整備が進んでいくことによっても紛争は増加していくのではないか。
紛争を、単なるトラブルととらえるか、ゆがみを正す契機ととらえるかによって、紛争処理システムの在り方は変わってこよう。前者の観点からは権利実現のプロセスとしての位置付けが、後者の観点からは組織内の問題の発見のプロセスとしての位置付けが必要だろう。おそらくはこの両面があるのではないかと考えられる。
○ 雇用の流動化が進むと紛争の数は増えると考えられる。どの国でも紛争は雇用関係の終了を契機として発生するからである。
しかし、その紛争が裁判という形で顕在化するか否かは別の問題である。日本でも紛争は増えつつあるが、裁判に至っているものは少ない。それは日本の労働行政の在り方、監督機関の努力が大きく影響しているのではないか。ドイツやフランスでは、日本では労働基準監督署の指導で済むことでも裁判所に出てくることとなる。したがって、日本ではそれほど裁判は多くならないと感じられる。
○ 各国は、それなりの伝統があって紛争解決を行っている。日本では行政機関等の紛争処理機関が多様化していて、裁判所に来る前の段階で解決されている紛争が多いと感じている。したがって、紛争は増加するだろうが、訴訟になるかどうかはよく分からない。もっとも、行政指導等では満足しきれない部分が、国民性の変化もあって、訴訟として顕在化してくることは考えられる。
また、紛争の予防との関係も重要である。裁判や行政以外の事案に応じた多様な処理制度を有していた方が良いだろう。
□ 裁判所に持ち込まれるか否かは別にして、労働関係紛争が増加していく構造的な要因はあると考えられること、それは例えば、技術革新、働き方の多様化、企業内での紛争解決機能の弱体化等であること。紛争処理には、裁判所、行政機関、企業、労組等の間での役割分担が必要であること。これらについては共通の認識となっているのではないか。
また、これからの議論は紛争の解決だけでなく、雇用社会におけるルールの実現をどう図るのかも重要であるとの指摘もあった。
次回、引き続き御議論いただきたい。