ドイツ、イギリス及びアメリカの労働関係紛争処理制度に関して、それぞれ専修大学法学部の毛塚勝利教授、北海学園大学法学部の小宮文人教授及び千葉大学法経学部の中窪裕也教授から、ヒアリング資料に基づいて説明がなされ、その後、次のような質疑が行われた。(○:委員、●:ヒアリング対象者)
○ ドイツ、イギリスでは、非職業裁判官は審理にどの程度積極的に関与しているのか。また、ドイツでは職権主義的に審理が行われているようであるが、裁判官のステータスが高いということもあって、当事者等に対して強く指導したりしているのか。
● ドイツでは、第1審の非職業裁判官(名誉職裁判官)は、事案に関して期日当日に初めて書面を読んだり、職業裁判官から説明を受けたりするようだが、事件の多くは定型的なものなので対応はできるようである。裁判所によっても異なるが、職業裁判官と名誉職裁判官はかなり真剣に合議しているようである。
また、第2審及び第3審では、名誉職裁判官は下級審の名誉職裁判官の経験者がなるなどしており、一般に第1審の名誉職裁判官よりも評価は高いとのことである。以前には、名誉職裁判官は不要だとの話も聞いたが、最近では、職業裁判官から、名誉職裁判官がいることで助けられていると聞いた。
審理が職権主義的に見えるのは、定型的な事件が多いからだろう。
● イギリスでは、訴訟指揮は職業裁判官(審判長)が行っているが、非職業裁判官(素人審判官)はあまり質問はしないようだ。審理のメモも審判長が取っているようだ。事実関係に関する書面等も審判長のみが読んでいるようであり、素人審判官の役割は大局的な見地からの助言を行うことに限られるのではないか。
労使の素人審判官を関与させることとしたのは、従来のコモンロー裁判所では職業裁判官が使用者に有利な判決を出すことが多かったことから、労働者側にも裁判の公正さについてのイメージを持ってもらう必要があったからではないかと考えている。
○ ドイツの職業裁判官は他の系統の裁判所に異動することはあるのか。
● 州内の他の労働裁判所に異動することはあるが、他の系統の裁判所に異動することはない。
○ ドイツの職業裁判官の専門性の程度はどうか。労働裁判所の職業裁判官には優秀な者がなることが多いと聞いたことがある。
● その点はよく承知していないが、州によっては企業内で人事労務の実務経験を有する者を職業裁判官に任命することとしているところもあるようだ。
○ イギリスの雇用審判所の審判長は、コモンロー裁判所の裁判官になることがあるのか。
● 雇用審判所の審判長は法曹として7年間以上の経験を有する者から任命することができるので、他の裁判所よりグレードは低いと考えられているのではないか。ただし、雇用控訴審判所の審判長は高等法院の判事から任命されるので、コモンロー裁判所への異動は想定されていると言えるだろう。
○ イギリスの雇用審判所の判決は執行力が弱いと聞くが、この点について見直しの議論はなされているのか。
● そのような議論はなされていないようだ。
○ イギリスの場合、執行力を得るためにさらに通常裁判所に訴えなければならず、結局審理が長期化するのでないか。
● そのような問題点はあるが、イギリス国内ではその点の見直しの議論はなされていないようだ。
○ ドイツの場合、解雇事件では、特に迅速な処理を図るために、主張や立証の時期などについての特別な手続を設けているが、準備の点や真実発見の要請等から当事者や代理人に不満の声はないのか。
● 準備期間が短すぎるといった不満は特に聞いたことはない。ドイツの場合、解雇事由は法律で規定されているので、定型的な処理が可能であり、主張立証の準備はそれほど難しくないのではないかという印象を受けている。