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裁判員制度・刑事検討会(第12回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日時
平成15年2月19日(水)13:30~17:40

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 池田修、井上正仁、大出良知、清原慶子、酒巻匡、四宮啓、髙井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(事務局) 古口章事務局次長、松川忠晴事務局次長、辻裕教参事官

4 議題
「公訴提起の在り方」について

5 配布資料
資料1 裁判の迅速化に関する法律案(仮称)について

6 議事

○井上座長 所定の時刻ですので、第12回の「裁判員制度・刑事検討会」を開会させていただきます。本日も御多忙の折、御参集いただきましてありがとうございます。
 本日も、前回に引き続きまして、「公訴提起の在り方」、つまり、検察審査会の一定の議決に法的拘束力を付与する制度の導入について御議論願いたいと思います。
 最初に、これまでの検討会でも検討状況の説明がありましたけれども、今国会に提出予定の、裁判の迅速化に関する法律案の概要につきまして、事務局の方から説明があるということです。お願いします。

○辻参事官 お手元の資料1を御覧ください。事務局において検討しております「裁判の迅速化に関する法律案」の概要につきまして、お手元の資料1に従って説明させていただきます。なお、より詳細な内容につきましても、資料1に添付しておりますので、併せて御覧いただければと思います。
 本法案におきましては、最初に、この法案によって実現しようとする「裁判の迅速化」の趣旨を明らかにすることとしております。それが、資料1に「裁判の迅速化」という枠の中に書かれているところでございます。
 そこでは、まず一つ目の柱として、「第一審の訴訟手続を2年以内のできるだけ短い期間内に終局させること」などを目標に掲げた上で、「充実した手続」とこれを支える「制度・体制の整備」により迅速化を実現するということにしております。
 次に、これを受けまして、迅速化の実現にとって重要となります制度・体制の整備につきまして、その基本的な内容を示したのが、「裁判の迅速化」の枠の中の二つ目の柱ということになります。
 さらに、「裁判の迅速化」を進めていくに当たって、これが拙速な裁判につながってはならないことは当然でございますので、迅速化の趣旨の三つつの目の柱といたしまして、「当事者の正当な権利利益が害されないよう、手続の公正・適正な実施を確保すること」が必要であることを明らかにしております。
 以上が、「裁判の迅速化」の趣旨であります。
 次に、これを受けまして、迅速化の担い手の責務を規定することとしております。
 ここでは、まず、「裁判の迅速化」の推進に必要な施策の策定・実施に関する国の責務と、政府の法制上・財政上の措置等を掲げております。
 次に、日本弁護士連合会の責務につきましても、「裁判の迅速化」に関する弁護士の体制の整備に努める責務として規定させていただきたいと考えております。
 さらに、運用面における取組に関しまして、まず、手続の実施主体である裁判所について、先ほど申し上げたような趣旨に従って、充実した手続を実施することにより、迅速化に関する目標を可能な限り実現するように努める責務を規定したいと考えております。また、当事者等につきましても、その手続上の権利の行使を誠実に行うことにより、迅速化に関する目標が可能な限り実現できるように努める責務を規定することを考えております。
 以上が迅速化の担い手の責務でございますが、さらに、従来から御説明しておりますとおり、目標の達成をより確実に担保するため、最高裁判所において、迅速化の推進に必要な事項を明らかにするための検証を行い、その結果を2年ごとに公表して国民に明らかにした上で、これを適切に活用して、更に総合的方策を推進していくという仕組みについても、規定を置きたいと考えております。
 以上が「裁判の迅速化に関する法律案」の概要でございます。
 

○井上座長 ありがとうございました。何か御質問がおありでしょうか。

○四宮委員 拝見しますと、2枚目のところに法律案の内容が書いてあって、2のところで、「迅速化は」ということで、迅速化の定義のようなものが書かれていますね。それを見ますと、迅速化は、これこれを目標として充実した手続を実施すること、並びにこれを支える制度及び体制の整備を図ることにより行われるものとする、とされています。そして、その制度・体制の整備について、(2)で更に広げておりまして、訴訟手続その他の裁判所における手続の整備、法曹人口の大幅な増加、裁判所及び検察庁の人的体制の充実、国民にとって利用しやすい弁護士の体制の整備等により行われるものとする、とされています。
 そうだとすると、この検討会でも、充実化の方策にとって非常に関連する部分も取り扱っておりますので、必要に応じて議論していく必要があるのではないかと思ったのですけれども、その辺りはどうなのですか。

○井上座長 何を議論するのですか。

○四宮委員 我々が今議論しているものです。

○辻参事官 ここに、裁判の迅速化の手段といいますか進め方としまして、制度及び体制の整備等と書いておりますが、これも従来から申し上げているとおり、具体的な制度あるいは体制の整備というのは、司法制度改革審議会の意見及び司法制度改革推進計画に従って、具体的に検討していくということでございまして、この検討会も、そういう意味でその一翼を担っていただくという趣旨になるかと思います。

○四宮委員 そういうことは十分承知をしているのですけれども、その一翼を担うに当たって、今度この迅速化の法案というものが出てきて、それを十分私たちも意識しながら検討していく必要があるのではないかという趣旨です。

○井上座長 今、辻参事官も言われたことですけれども、私も前から申し上げているように、この迅速化法案というのは、司法制度改革審議会の意見として出された提案をもう少しブレイクダウンしたというか、そういうことが中心になっているのではないかと考えています。裁判の迅速化の手段として、既に審議会意見として、いくつかの方策が提案されており、そのうちの刑事に関するものの具体的制度設計については、我々が検討するということになっていますので、それは、今までどおり検討していくという位置付けになるのではないかと思うのです。特に意識してとおっしゃるのは、それに加えて、他に何か検討すべきであるということですか。

○四宮委員 意見書が言っていることを具体化するのはもちろんですけれども、迅速化の精神に従って考えたときに、この前も私が申し上げて、座長から御意見がありましたけれども、より前進させるような方向への議論も必要になってくる場合があるのではないかと思っています。

○井上座長 基本的には、審議会意見とこの裁判の迅速化法案というのは同じ方向のものであって、審議会意見でこういう方策を取り入れたらどうかと提言されているものを具体化するための検討を行うということが、何よりもまず、この検討会の任務であろうという位置付けなのです。四宮委員が考えておられることとそれほど違っているとも思いませんけれども、具体的な論点の検討の際に、もし御意見があれば提案していただければと思います。
 ほかによろしいですか。

○髙井委員 資料1に添付してある法律案の内容の2ページですか、7の「当事者等の責務」として、「手続上の権利は誠実にこれを行使しなければならないこと」とされておりますが、この「誠実に」というのはどういうイメージですか。抽象的な表現でよく理解できないのですが。

○辻参事官 イメージと言いますと。 

○髙井委員 私らのイメージでは、例えば、適正とか、適切とか、公正とかいうことであれば一定のイメージとして湧いてくるわけです。しかし、誠実と言われると、余り今までの法律にないものですから、どういうイメージなのかと、少し疑問に思ったものですから。

○辻参事官 一般的に、権利の行使は誠実にというように言われるのと同様の意味ではないかと思っております。いわゆる権利濫用とか、信義誠実の原則と言われているものとか、それと同じような趣旨だと理解しておりますが。

○酒巻委員 刑事訴訟規則の冒頭に、訴訟上の権利行使に関して同じような表現の規定がありますね。

○井上座長 刑事訴訟規則1条2項は「訴訟上の権利は、誠実にこれを行使し、濫用してはならない。」と定めておりますね。一般的にそれが適用されるわけですけれども、特に迅速化との関係で誠実に行使しなさいということを規定したということになるのではないでしょうか。

○髙井委員 不誠実な行使はいけないということですね。

○辻参事官 そうですね。従来から当然そうなのかもしれませんけれども、少なくとも、不当に遅延のみを目的とした訴訟活動はいけないということになるでしょう。

○髙井委員 いい加減な弁護活動を行い、後になって、ここもやらなければいけない、あそこもやらなければいけないというのもいけませんということですね、多分。
 検察官の場合もあります。いい加減な立証をしている検察官もありますから(笑)。最初からきちっとした立証をしないで、適当な見通しで適当な立証をしたけれども、審理を進めていくうちに問題が生じてきて、立証をやり直すというようなこともいけないということなのでしょうね。

○辻参事官 そうでしょうね。資料1に記載してあるように、充実した手続ということも規定することも考えていますので、そういうことからしても、当初から充実した手続になるように各関係者が努めるべきだということにはなるかと思います。

○井上座長 よろしいですか。また関連するところで、御議論いただければと思います。
 それでは、本題の方に入らせていただきたいと思います。
 前回は、たたき台の1の(2)の「議決の要件」というところまで議論しましたが、本日は、次の項目である1の(3)の「いわゆる法的拘束力のある議決後の訴追及び公訴維持の在り方」についての議論に進みたいと思います。
 この項目は、具体的に申しますと、公訴提起の手続やそれを維持するための訴訟追行をだれが行うかというのがその中身です。この項目につきましても、たたき台の方では、A案からC案まで三つの考え方が併記されていますが、それぞれの考え方の当否、あるいは他の考え方があるということでも結構ですので、それらについて御議論いただければというふうに思います。
 どなたからでも結構ですが。どうぞ。

○本田委員 公訴提起、それから公訴維持をだれが行うかということですけれども、やはり検察官以外の者が行うべきだろうと考えています。そういう意味では、A案かB案ということになるのですけれども、どちらかといえば、B案の方が相当ではないかと考えます。
 検察官が不起訴とした事件について、検察審査会の議決に基づいて公訴が提起され、検察官がその公訴維持を行うということになると、被害者を始めとする審査申立人等から見て、有罪に向けての十分な立証活動がなされるかどうかという疑念を抱かせる可能性が多分にあるわけですね。殊に、無罪となった場合には、審査申立人等からの不信を招くことになりかねない。本来、こういう訴訟活動というのは、現実に公正になされなければならないというのは当然のことですけれども、それと同時に、公正らしさというのも十分に担保される必要があるだろうと考えます。
 それから、検察審査会が公訴提起を行うのか、指定弁護士が行うのかということですけれども、公訴提起を検察審査会が行うということになりますと、検察官の不起訴処分の当否を審査するという、検察審査会の本来の性格からすると、やや刑事手続の前面に出過ぎるのではないかという気がします。
 そのほか、事件によっては、略式命令請求を相当とするという事件も考えられないわけではなく、そういう場合を考えると、指定弁護士が公訴提起手続を行うこととすれば、略式命令請求をすることも可能となり、相当ではないかと考えます。

○井上座長 ほかの方の御意見はいかがですか。

○四宮委員 私も、本田委員の、検察官以外の者が担当すべきだという考えに賛成です。その理由も同じです。
 では、検察官以外の者として、検察審査会が行うのか指定弁護士が行うのかということですが、私は、第1ラウンドの議論のときには、指定弁護士が行うのがいいのではないかという意見を述べました。ただ、その後、いろいろ考えてみて、A案、検察審査会が公訴提起を行うということも十分考え得るのではないかというふうに思います。
 それは、一つは、やはり拘束力を認めるということで、民意を直截に反映させるということであれば、A案の構成が一番素直であろうということと、付審判の場合との整合性といいますか、それも保たれるのではないかと思います。つまり、付審判の場合には、裁判所の付審判決定そのものに起訴の効果を与えているわけで、それと同じように考えるということもできるのではないかというふうに思います。
 今の本田委員の御懸念の一つである、検察審査会が刑事手続の前面に出過ぎないか、つまり審査機能というものの本質と矛盾するおそれはないか、行き過ぎるのではないかという点については、議決に拘束力を認めるという政策判断は、そこから一歩踏み出す制度というふうに構成する考え方なんだろうと思います。
 ですから、起訴相当という議決に拘束力を認めるというように、前回の大方の意見のように限定して考えるのであれば、それで構わないのではないかと思います。
 略式命令の場合は、手続的にも厄介な問題があるかもしれません。検察審査会が起訴相当の議決を出して、その議決書をどこに出すかという問題も多分あるだろうと思うんですね。つまり、審査会が略式命令請求の判断までするのかどうか。ただ、それはなかなか難しい部分があるだろうと思います。
 そうだとすると、検察審査会が、所属している地方裁判所に議決書を出して、その後、何らかの形、例えば、これは全く思い付きですけれども、地方裁判所にも略式命令を発する権限があるというような形に変えて、略式命令への対応を何らかの方策で考えるということもあり得るのではないか。それやこれや考えて、A案ということも十分検討すべきではないかというふうに思います。

○平良木委員 私は、裁判手続を進めるに当たって、検察官の役割が大きいということはだれも否定しないところだろうと思います。やはり裁判がうまく進行するかどうかというのは、検察官にかかっているといってもある意味では過言ではないところがある。そういうことからすると、公訴の追行に当たる者の役割というものは極めて大きいということであって、そうなってくると、それに一番精通している者が担当するのが一番いいだろうと考えていたわけです。
 第1ラウンドのときに、私は検察官が適当だという話をいたしましたけれども、それも今のようなことを考えて言ったわけでありますが、そういうことからすると、検察官がまず良いという意味で、C案を私は主張したいというように思います。
 ただ、確かに、B案等を述べる人の意見にもありますように、いろいろ疑惑を招く余地というのがないわけではない。したがって、もし検察官でないということになるとすると、例えば、指定弁護士であるならば、補充捜査がちゃんとできるかとか、あるいは訴因の提示、あるいは証拠の請求、そういうことに遺漏のないような体制というものをつくっておくことが必要になってくるという気がしております。

○井上座長 補充捜査の点は、現行の付審判制度でも、指定弁護士に捜査の権限が認められているのですが、それをもっと強化すべきだという御意見でしょうか。

○平良木委員 そうですね。

○池田委員 第1ラウンドで言ったように、基本的にはC案でいいのではないかと思います。特に、今の付審判手続の指定弁護人の補充捜査の権限というのは、かなり制約されていて、実際に働くのは難しいというようなことを聞いたことがあり、あるいは付審判事件の公判を担当して記録を見ているんですけれども、その辺りかなり苦労しているのではないかと思うことがありまして、そういう面からすると、やはり、検察官が一番適切なのではないかと思うわけです。
 公正さと言われますけれども、確かに、検察官が1回あるいは前回議論に出た2回なり不起訴にしたような事件については難しいというのは分かるので、仮にそれが無罪になっても、そんなに、それを訴追した検察官にやる気がなかったんじゃないかということで非難されることはないのではないかと思います。そういう意味では、検察官が公訴維持を担当するというのも在るべき姿ではないかと思いますが。

○大出委員 私も3案ともあり得るとは思うんですが、ちょっと前回必ずしも私は明確にこの点については意見を申し上げなかったんですが、私もどちらかというとC案ではないかと思うんですね。先ほど本田委員の意見をお伺いしてみても、今、池田委員もおっしゃいましたけれども、公正らしさというのは、それ単独で機能する性格のものではないだろうという気がするわけです。公正であるということが重要なわけですから、検察官は公正に職務を遂行されるという、もちろん、当然そういう姿勢でおやりになるだろうと思いますから、やはり検察官がおやりなるということが、一番、平良木委員もおっしゃいましたけれども、手慣れたという言い方は適切かどうか分かりませんが、おやりになるのが好ましいという感じがするんですね。そのことによって、検察官は、公正に職務を遂行するという姿勢をお持ちでおやりになっている限りにおいては、少々いろいろと言われることがあるかもしれませんけれども、それに一々気を遣われることはまずないだろうと私なんか思いますので、なぜそのことを気にされるのかむしろ不思議なんですけれども。
 ですから、先ほど池田委員もおっしゃいましたけれども、どうも付審判のときの指定弁護士の方たち、それぞれ御努力なさって、もちろん、検察サイドもそれにいろいろ協力されているということは間違いないと思いますけれども、私もなかなかそこでの補充捜査というようなことがうまく機能していないのではないかという印象を持っておりまして、やはり、検察官は、そこを責任を持っておやりになるというのがどうも筋ではないかと思います。
 もちろん、前回、私も申し上げましたけれども、検察審査会の手続というのは、私は付審判と同一に考える必要は全くないというふうに思っていまして、付審判では、指定弁護士を指定する意味が手続の性格からあると考えていますので、それはそれでいいと思いますけれども、検察審査会のときは、やはり決定自体に民意が反映されるということに重要なポイントがあるわけですから、あとの手続は、それを受けて検察が責任を持って訴訟を追行するというようなことであっても、別に不思議はないという気がしております。

○酒巻委員 今までいろいろな御意見が出ましたが、それぞれ理由として挙げられた事柄について意見を述べさせていただきます。まず、補充捜査の困難を理由として、検察官が訴訟追行を担当するのが望ましいという御意見がありました。しかし、私はこれは決定的な理由にはならないと考えています。確かに、現行制度において指定弁護士が訴訟追行を担当する付審判請求事件では、付審判決定がなされて、裁判が始まる段階でも、いまだ十分な捜査が尽くされていないという事態は、対象事件の性質上、あり得ると思います。
 これに対して、検察審査会の事件には、様々な事件があり得るわけで、一般には、付審判対象事件のように、類型的に捜査が不十分となるきらいがあるとは言えないでしょう。そして、前回議論したように、二段階案を採れば、検察官の再捜査・再考を経た二段階目の起訴相当議決に法的拘束力が与えられることになります。また、一段階案であれ二段階案であれ、拘束力のある議決を行う前提として、検察官が不起訴処分の理由を検察審査会に説明することになりますが、その前提として、もし捜査が不十分だと思われれば、検察官としては、十分に捜査を尽くした上で、検察審査会に説明するのであろうと思います。こうして、検察審査会の事件の場合、法的拘束力のある起訴相当の議決がなされるまでの間に、十分な捜査が尽くされると予測されるので、付審判請求の事件のような、将来の補充捜査問題を、余り気にする必要はないのではないかというのが第一点です。
 次に、私はどちらかというと指定弁護士が訴訟追行をする方がよいという意見ですけれども、第1ラウンドで「公正らしさ」の外観は、個々の検察官の「公正」な職務遂行とは別に、制度として重要である旨述べたとおり、この観点を重視すべきだと考えます。検察審査会に審査申立てをしている方々の多くは犯罪の被害者・被害関係者であり、そのような被害者の方はもちろん、事件に関係がなく、外から見ている一般国民の目から見ても、やはり、検察が起訴しなかった事件について無理やり検事が公訴維持をさせられているように見えること自体が望ましくないだろうと思うのです。
 もちろん、個々の検察官は独任制官庁で、公判を担当する検事さんは別人という場合が幾らでもあり得るわけですが、他方で、検察官同一体の原則に基づき、組織体としての「検察」が一つの決断をして不起訴処分にしたように見える事件について、検察審査会の議決に基づき公訴が提起されて審判が行われることになり、それをやはり検察官が訴訟追行するというのは、まさに「公正らしさ」が問題となり、外から見たときに不信を招くのではないかと思います。
 それから、まれな事案とは思いますが、現在、検察官は、公判審理の過程で、「公益の代表者」として、法律家として、担当する事件が無罪であるとの心証に至った場合には、無罪を求める論告をすべきであると考えられます。しかし、検察審査会の起訴相当議決に基づき起訴された事件について、検察官が訴訟追行を担当して無罪論告をすることについては、審査申立人の理解を得ることは非常に困難だろうと思います。
 以上のことから、訴追追行については指定弁護士方式を採った方がよろしいのではないかと思います。なお、指定弁護士方式を採った場合でも、捜査が十分でないという事態に備えて、現行の付審判制度の場合と同様に、指定弁護士が捜査を行い得るような手当てをしておく必要はあると思います。
 最後にもう一点、先ほど、指定弁護士が訴訟追行する場合のA案とB案との違いとして、略式命令ができるかどうかということが問題になっておりました。確かに、現行の略式手続の制度では、略式命令請求に先立ち、被疑者に対し、略式手続によることについて異議がないかどうか確かめなければならないので、A案を採ると、略式命令を出すことはほとんど不可能になると考えられます。しかし、これは、実際上は仮想の問題ではないかと思います。事実と法適用に争いのない略式命令相当の事件については、恐らく、検察審査会が法的拘束力のある起訴相当の議決をするまでの間に、検察官が再考の結果略式命令請求をするのではないか。他方、検察官が再考の上なお不起訴処分を維持する事件は、おおむね、略式不相当の事件ではないかと思われる。そうすると、起訴相当の議決がなされる段階まで、略式命令相当の事案が残っているかというと、多分、ほとんどないのではないか。そうだとすると、A案とB案の当否を検討するに当たり、略式命令の可否の問題を余り重視する必要はないのではないかと思います。

○井上座長 A案かB案のどちらかとういことで言うと、どちらが相当という御意見なのですか。

○酒巻委員 A案を採った場合、後で出てくるリーガルアドバイザーがいらっしゃるとはいえ、起訴状自体を検察審査会がお書きになるのはかなり難しいと思いますので、B案を採り、指定弁護士を決めて、その方に起訴状を書いていただくという方式の方がいいのではないかと思います。
 ただ、B案にしますと、起訴の時点がA案よりも遅くなりますから、時効が切迫している場合には、当然のことながら、迅速に手続を進める必要があることになろうと思われます。

○井上座長 ほかの方はいかがですか。

○髙井委員 結論的にはB案ということなのですが、この問題は、被害者がどう思うかということを抜きにしては考えられないと思います。法務省の方がおられるので若干申し上げにくい部分はありますが、現在、被害者問題が大きくなっているのは、その背景には、検察官に対する不信があるんです。これは、かなり深刻な程度になっていると思います。ですから、2度にわたって不起訴にした検察官が訴訟を追行すると言っても、被害者は納得しないと思います。有罪になればまだしも、それで無罪になったときには、被害者はほとんど納得しない。ですから、制度の公正らしさも当然必要ですけれども、その前に、被害者が納得するかということが一番大事なことで、被害者が納得しない制度は、幾ら公正らしくてもこれはだめだろうと思います。
 そういう意味では、検察官が訴訟を追行するということは、被害者から見て当然納得し得ない制度であると思います。
 それから、今までの議論では、2度にわたって不起訴にしても、検察審査会の起訴相当の議決が出れば、検察官は一生懸命訴訟追行をするだろうと言われますが、実際そうかというと、それは有罪を確信しているから一生懸命できるのであり、起訴猶予としたものが検察審査会によって起訴になりましたというのはまだいいのですが、嫌疑不十分で不起訴としたような事件、例えば、これは犯人ではなく人違いじゃないかと思っているようなものを、犯人だから起訴しろと言われた場合には、腹の中では、これは本当は犯人ではないのではないかと思っている人が訴訟追行する場合と、これは犯人に間違いないと思っている人が訴訟追行する場合とでは、やはり立証の濃度に差があるということは、実務上避けて通れないことであると思います。
 また、起訴検事がそのまま公判立会をしている場合に比べ、捜査に全く関係していない検事が公判を担当する場合、やはり立証に粗さが出てくるということは実務上あるわけで、そういう実務の状態を見ると、検察官が幾ら職責に従って忠実にやるだろうと言っても、実際問題なかなかそうはいかないのが人間だと思うのです。そういう意味でも、検察官に訴訟追行をさせるのはなかなか難しいだろうと思います。
 もう一つ、補充捜査の問題があるのですが、付審判請求の事件と、検察審査会の事件とは、本質的に違うのです。付審判請求の場合は、例えば、警察官を処罰しろという事件なわけですね。そういうときに警察官に補充捜査の指揮をしても、これも警察庁の方がおられるから申し上げにくいのですが、これも人間の常で、気分のいい問題と気分の悪い問題というのはあると思うのです。
 検察審査会の場合は、本来、例えば、警察は起訴してもらいたいと思った事件を検事が不起訴にしてしまったという場合が多いわけです。ですから、仮に、起訴になったから補充捜査をしてくださいと言えば、これは、警察の動きだって付審判請求の場合と同じだとは考えられないと、私は実務的には思うのです。意欲の問題としてです。ですから、付審判請求のときに補充捜査がうまくいっていないから検察審査会の場合も同じだというのは、そもそも比べること自体がおかしい。罪質が全然違うと思います。
 それでは、指定弁護士が、補充捜査を検察官経由でうまくできるかというと、それはなかなか難しい問題があるのですが、少なくとも、付審判請求の事件との比較でそういうことを論じるのは間違いだと思います。
 というわけで、結論的には、C案はだめで、A案かB案ということになるわけですが、A案の場合、略式請求ができないという問題は、先ほど酒巻委員が言われたように、多分、この時点まで略式相当事件が残っているとは思えないので、略式請求ができるかできないかは余り大きな問題ではないと思います。ただ、A案で行くと、検察審査会の議決書が起訴状と同様の効果を持つということになると思うのですが、そうなってくると、訴因がきちんと明示されるのかという問題があると思います。
 それやこれやを考えると、やはり、B案のように、指定弁護士を付けて、その指定弁護士が起訴状を書き、訴訟を追行するというのか最も妥当だと思うのです。
 そうすると、起訴相当の議決と起訴とのタイムラグができるけれどもどうするんだということになるのですが、私の考え方としては、リーガルアドバイザーを指定弁護士にするというような運用にするのが実務的には一番いい解決なのかなと思います。

○大出委員 実務経験に基づく非常に率直な御意見で、それ自体としてはなるほどと思わされるところもあるんですが、先ほどもちょっと言いましたように、今のお話を伺っていると、結局、公正らしさというよりも、むしろ公正性について自ら疑義がある、職務遂行に当たって実態として公正な職務遂行ができないという御主張のように聞こえてならないんです。そういうことを理由にして、この問題で検察官が職務を遂行するのを回避されるというのはどうも私は腑に落ちないんです。気分としてそういうことがあるということは、実態としては恐らくあるだろうと思いますけれども、先ほど申し上げましたように、検察官としては、職務遂行を公正におやりになっていらっしゃるという自信がおありであれば、何も臆することは私はないだろうと思うわけでして、確かに、納得の問題とおっしゃいますけれども、それはまさに検察が職務遂行することで納得していただくという、例えば、一遍不起訴にした検事がそのまま公判を担当するということではないと思うんです。当然代えられるんでしょうから、先ほど来、無罪だと確信している人間ができないだろうとおっしゃいますけれども、それはもう一度改めてそういう観点から、検察側としては、証拠を洗い直し、訴訟追行をされるというのが多分筋だろうと思いますし、なぜそれが理由になるかは分かりかねるというところがあるんです。

○髙井委員 まず、公正な仕事ができないと言っているわけではないのです。そこはちゃんと押さえてもらいたい。私はそんなことは一言も言っていません。
 検察官は公正なつもりで職務をやるんですが、例えば、ある立証方法を思い付けばその局面を打開できて有罪になるが、そのことを思い付かなければ無罪になってしまうという場面は幾らでもあるのです。要するに、これは、創造力を発揮しないとできない仕事ですから、立証活動というのは。自分としては主観的に一生懸命公正にしてやるんですけれども、そのときに、熱意で何とかして思い付く場合もあるし、思い付かない場合もあるわけです。熱意の問題として。もちろん、主観的にはいいかげんにやろうという気があるわけじゃないんです。主観的には、みんな公正に職務を行い、しかも、責任を全うするつもりで熱意を持ってやっているのです。ところが、熱意の量というのが違ってくるでしょうと私は言っているだけで、公正にできないということを言っているわけではないので、そこは正しく理解していただかないと困ります。

○井上座長 髙井委員のおっしゃっているのは、検察官が公正に職務を行使できないということではなく、むしろ、公正にやろうと思えば思うほど逆の方向になる。つまり、公正に見て、この事件は危ないのではないか、被疑者は犯人ではないのではないかと思えば、公訴維持に熱心にはなれない。そういうことなのではないかと理解しましたが。

○大出委員 それは、納得の問題というところまでつながっている問題だというお話もあったわけです。ですから、それは、被害者の方たちの納得を得るというのは重要なことだと私も思いますけれども、それは、そのことで納得が得られないから、それで検察官がやらない方がいいんだというところまですぐに行く話なのかどうかというのが、どうも私は分からないので。

○井上座長 大出委員の意見はそうでなのでしょう。しかし、違う見方もあって、審議会意見が公訴権行使に民意をより直截に反映させるべきであると言っているのは、被害者を始め一般の方々が、これまでの公訴提起の在り方に不服がある、おかしいのではないかと思っておられることから、それに対する対応策として、検察審査会の一定の議決に法的拘束力を付与するという提言が出てきている。そういう見方もあるわけです。そうであるとすると、それにもかかわらず、検察官が訴訟追行を担当した場合には、そういう不信や疑惑をかえって強くすることになるのではないか、そういうふうにも考えられるのです。大出委員は、そんなことにはならなないという意見なのでしょうが。

○本田委員 先ほど、検察官は、公正に職務を行えば、何も無罪になったからといって臆することはないのではないか、堂々とやればいいのではないかという御意見がありました。しかし、私が申し上げたのは、別に、検察官が批判されるからいやだと言っているわけではない。検察官が訴訟追行を担当すると、制度そのものに対する信頼が失われてしまうのではないか、検察という組織の中で、不起訴を2回にわたって行っている事件について、検察審査会の起訴相当の議決が出たから、では、もともとの検察官が公訴を維持しろという制度では、その制度そのものに対する信頼が担保できないのではないかということです。私の意見の趣旨はそういう趣旨です。そこは誤解のないようにお願いします。

○井上座長 先ほど補充捜査の問題が出ましたが、その点はいかがですか。

○樋口委員 両方の御意見がおありなんですけれども、検察審査会の判断は起訴相当ということで、民意が起訴の段階で反映されれば、その後の公判維持の実務は、やはりプロである検察官が担当されるのが一番いいのではないかなと思います。要するに、外見上の公正性といった観点からの評価をどう加えるかということもあろうかと思いますけれども、公判維持の実務が極めて実務的に効率的に行われることを制度面で保障するという観点も非常に重要ではないかなと思います。
 補充捜査についてですけれども、付審判の場合と違って、もちろん、事件の種類が違うわけですし、起訴に至る経緯にも大きな違いがあるかと思いますけれとも、やはり、検察事務官や司法警察職員が、補充捜査の指揮を受けることは大いにあり得るわけでございまして、その場合の人的なつながりでありますとか、実務上相互の連携がうまくいくかといった観点も重要ではないかと思います。

○井上座長 先ほど述べたような趣旨からいきますと、一般の方々、法律家以外の方々がどういうふうに見るのかという点が非常に重要になると思うのですが、いかがでしょうか。

○土屋委員 私は、結論的にはB案に魅力を感じています。というのは、本田委員もおっしゃったことなんですけれども、制度的に公正だと受け止められる制度設計になっている必要があるかどうかということが一番大きいのですが、もう一つ考えていることは、前回の議論なんですけれども、法的拘束力のある議決の要件ということで、一段階論という意見を私は申し述べました。ですけれども、全体の御意見を伺っていると、二段階論がかなり有力な意見として主張されたという印象もありまして、そのことを考えると、拘束力のある議決をするに当たっては、いずれにしても検察官の意見を聞くなどして、慎重な捜査を尽くすべきだという点では皆さん一致しているのではないかと私はそのとき思いました。
 そういう前提でいくと、やはり、公訴提起という段階になってしまうと、既にするべき捜査はされているということなんだと思うのです。検察庁としては、いったん検察官が審査会に呼ばれて意見を述べる、必要的意見聴取をしているということであれば、その段階で当然補充捜査もするでしょうから、することはしていると思うんです。そうすると、その上何をやるのかという問題が、それは検察官としてもあるんだと思うんです。
 そういう前提で行くと、その上更に検察官がまだ公訴の追行を担当するということは、ちょっと無理があるのではないかなという印象を私は持ちます。それは、当事者として審査の請求をした人が、不信感を持つと言うと変ですけれども、そこまでいろいろやって補充捜査などもお願いしたはずなのに、不起訴という結論が出ている。その結論を出した検察官がまたやるのかという印象をやはり持つだろうと思うんです。そういう意味で、B案がいいかなと私は思います。

○清原委員 私、前回欠席いたしましたけれども、その議論の流れを伺いまして、二段階案というのが大体皆様の共通の法的拘束力のある議決の要件であるとするならば、私は、その上で、法的拘束力のある議決後の訴追や公訴維持の在り方については、B案が三つの案の中では望ましいのではないかなと思っています。
 それは、今までの検察審査会の在り方の中から、特に被害者の視点で問題提起されてきたことを、やはり新たな制度では解決していきたいと思うからです。
 私も、当初は、検察官の方が、最後まで検察官としての責務で、この訴追、公訴維持をしていただくのが望ましいのではないかと考えておりました。それは、私の中に、検察官には検察官の責務、弁護士には弁護士の責務、裁判官には裁判官の責務があって、その上で、それぞれがその責務を果たしながら裁判というものが公正に運営されるという、従来の役割分担というか、責務の遂行に関する理想を私なりに考えていたからです。
 けれども、この間、検察審査会の機能というものをより充実させていくために新しい在り方を考えていくのであるならば、そういう既成の観念にとらわれずに、検察審査会の拘束力のある議決があった後に有効な公訴提起と訴訟追行がなされるためには、あえて新たな制度として、指定弁護士の方に、登場いただくのが望ましいのではないか、それも検察官として登場していただくわけですから、あくまでも検察官としての責務を裁判の中で果たしていただくのですけれども、新たな登場人物が現れても、それがより信頼のある公正な裁判をするのであれば望ましいのではないかと考えたわけです。それは、やはり繰り返しになりますが、今までの検察審査会の在り方の中から提起されてきた、ますますの公正さと、被害者の方の視点からの充実を図るという観点から、この在り方が有効ではないかと思います。ただ、弁護士の皆様におかれましては、検察官としてこのような役割を果たしていく機会が今までよりも新たに増えるわけですから、指定弁護士となられたときの公訴提起、訴訟追行に関しましては、新たな研修なりの取組をしていただかなければならないということは承知しておりますが、そのような取組を期待させていただいて、この在り方は望ましいのではないかなと思います。
 また、なぜA案ではなくてB案なのかということですけれども、それは、先ほど来お話がありました、ケースは少ないかもしれないけれども、略式手続ということがあったときに対応できる形であるということと、今後議論されるリーガルアドバイザーの役割に一定の条件とか制約とかを置かなければならないにしても、一つの可能性としては、リーガルアドバイザーの公正さを、B案ならばより担保できるのではないか。A案ですと、仮に、起訴状相当書面をリーガルアドバイザーの方が書くことが望まれていくかもしれませんが、そうなると、本来、リーガルアドバイザーにすぎない立場であったのに、それ以上の役割が期待され、役割が拡大していくというところが望ましいかどうかという議論も待たなければいけないと思っておりますので、そういう意味では、起訴相当の議決から起訴までに少し時間が掛かるという御指摘もあったのですけれども、B案の方で考えたらいかがかなというのが現時点での私の意見です。

○平良木委員 恐らく、裁判官が裁判をやっていて悩む事件の一つに、当初略式手続の事件だと思っていたのが、崩れて正式裁判になったというものがあると思うのです。これは、恐らく、極めて証拠が薄いというか、略式手続で済むということで、それほど証拠が集められていない、あるいは、被告人も本来認めていたのを途中から争ってきて、正式裁判になった場合に、これで有罪にできるのかという問題が出てくる。だから難しいんだと思うのですけれども、検察審査会の議決で起訴される事件についても、検察官としては、起訴しない、あるいは無罪だという心証であるとすると、どうしても、そういう心証を持っている人には、証拠の集め方に抜けるところが出てくるということがあるのだろうと思うのです。
 先ほど補充捜査ということを言ったのは、そういうことで、起訴するに足りるだけの証拠、あるいは有罪判決を得られるだけの証拠、しかもこれは証拠能力がある証拠でなければいけないのだけれども、これをしっかり集められるかという問題だと思うのです。そのような証拠を集めた段階で、起訴、不起訴ということになっていく。
 そうなってくるとすると、恐らく、公訴提起をする人、あるいは訴訟を追行する人には、かなりいろんな仕事が出てくるということも考えられる。そういう意味で、先ほど、手続に精通しているということが必要ではないかと述べたということです。

○井上座長 一段階案を前提にすれば、検察審査会が起訴相当の議決をする事件で、検察官は、あらかじめ意見を述べることができるけれども、十分な補充捜査の機会がないかもしれません。他方、二段階案であると、検察官にもう1度事件が戻ることになり、検察官としても、検察審査会が起訴相当と言っているわけですから、恐らく、起訴すべきか否かを再度判断するため、必死に証拠を集めるのではないかと思います。その場合には、おっしゃっている前提が欠けてきませんか。

○平良木委員 そうなるといいんですけれども。要するに、これは無罪だろうということになるとすると、そんなにしっかりした証拠を集めないのではないかという懸念がありますので。

○本田委員 現在の実務では、検察審査会から起訴相当の議決や、不起訴不当の議決があった場合には、検察審査会から指摘されたところについては、十分な捜査を尽くすのです。当然、それは、検察官の不起訴処分について批判を受けているわけですから、その批判に十分こたえられるだけの捜査を尽くした上で、再度全体を評価して、起訴・不起訴を決定するわけで、検察官としては、その段階で考えられる必要な捜査はすべて尽くしていると、それを前提に考えていただいた方がいいと思います。

○髙井委員 検察官としては、自分の心証に従って、忠実に起訴・不起訴を決めるというのは大原則であって、検察官にはすべてそういう教育がされているわけです。自分がこれは無罪だと思ったら、幾ら上司から起訴をしろと言われても起訴はしない。私は無罪だと思いますから、ほかの検事にやっていただいてくださいと言って、上司の事務引取移転権の発動を促すというのが正しいやり方だと教育をされているわけです。そういう教育は、私は正しいと思うのです。常に、検察官というのは、自分が有罪の心証を得たときにだけ起訴するということで、日本の検察官はしっかり教育されているわけです。そういうときに、検事は無罪だと思っている、ところが、ほかのところから起訴しろと言われたから、あなた起訴しなさいということを制度として認めると、日本の検察官の基本的な在り方というか、文化というものが私は壊れると思うのです。
 そういう意味でも、私は、起訴行為を検察官にさせるということは絶対あってはいけないことだと思います。

○井上座長 先ほどの略式手続の点なのですけれども、検察審査会の議決によって起訴される事件で、略式命令相当のものは考えられず、略式命令が可能かどうかということは仮想問題だという御指摘がありましたが、それはそうなのかということを確認したいのですが、検察官が起訴猶予にした事件の場合に、検察審査会が起訴相当の議決をすれば、検察官がそれでは略式命令請求にしようということで処理することがあるとは思います。他方、罪は軽い事件なのですけれども、検察官が嫌疑が不十分である、あるいは嫌疑なしであると判断して不起訴とした事件の場合、検察審査会が起訴相当の議決をする時点では、略式命令相当の事件というものは残らないものなのでしょうか。理屈の上では、残るはずだと思うのですが。

○本田委員 それは十分あり得ると思います。例えば、業務上過失傷害事件などで、傷害の程度はそう重くなく、検察官が、最初は過失を認めるのは困難だということで不起訴にしたところ、検察審査会が不起訴不当の議決を行い、その事件が検察官に戻ってきた場合に、再捜査したところ、嫌疑を認めるに十分な証拠が収集されるということはあり得るわけです。その場合に、傷害の程度、過失の程度を勘案して、これは略式相当だということで略式手続をするということは十分あると思います。

○髙井委員 座長が今おっしゃっているのは、二段階案を採った場合に、例えば、暴行の事件について、検察官が再考の結果、改めて嫌疑不十分を理由に不起訴として、事件を検察審査会に戻した場合ということですね。

○井上座長 そうです。それで、検察審査会は、やはりこの事件は起訴相当であるとして2度目の議決をする。その場合、業務上過失傷害や暴行のような事件については、略式命令の可能性はあり得るわけですね。ですから、検察審査会が法的拘束力のある起訴相当の議決をする時点で、略式命令相当の事件も存在するということが、本当に仮想問題なのかどうか。もし仮想問題である、つまり、実際にはあり得ないことだとすれば、余り真剣に議論する必要はないのですけれども、実際にもあり得るとすれば、その点も、A案とB案の当否を検討するに当たっての一つの論点にはなるだろうということです。別にそのどちらかに誘導しようというわけではありませんけれども。

○髙井委員 あり得るけれども、そのときに、被疑者から略式手続の請け書を取って略式手続に乗せられるかというと、実務的には、ほとんどそういうことは期待できないという意味で、排除することは可能だと思います。

○平良木委員 だから、略式命令をやるのだとすると、その点の手当てというのは必要になってくるのではないですか。恐らく、略式命令が可能であるということになってくると。つまり、検察審査会が、どういう起訴をするかということまで決めることになるわけだから。

○井上座長 そこは、もしC案を採らない場合に、A案かB案かを分ける上での論点にはなっており、A案を採った場合に、四宮委員が言われるような手当てが必要かどうかという話にもなるわけです。

○平良木委員 A案でもB案でも同じではないですか。

○井上座長 指定弁護士は検察官役ですから、略式命令請求の権限をも持つというのがB案です。A案は、今のままでは略式命令請求ができない。その場合、検察審査会がそこまで権限を持つのかどうか、そこは当然ではないと思うのですが。

○四宮委員 A案を採った場合でも、指定弁護士が、起訴の後になりますけれども、そこは制度を変えて、起訴後に、指定弁護士が略式命令請求をするという制度もあり得ると思います。

○井上座長 それはおかしくはないですか。通常公判で審理を行うというのが原則であり、そういう審理を求める形で起訴がなされているのに、それを事後的に略式命令請求に変えることを認めることになりますから。

○酒巻委員 先ほど、私は、略式命令の可否というのは、ほとんど仮想の問題だろうと言いましたけれども、仮にその余地があるとすれば、A案とB案を前提にすると、A案はこのままでは略式命令請求は無理でしょう。そこも考えた場合には、B案であれば、略式命令請求の余地はあるということなのでしょう。

○平良木委員 当然できるかどうかというと、問題でしょう。

○四宮委員 B案というのは、検察官と同等の権限を持つということにすればいいのではないですか。

○井上座長 要するに、公訴提起行為を指定弁護士が行うということは、指定弁護士に検察官として公訴を提起する権限を与えるということであるわけで、その権限には、通常の検察官についてと同様、略式命令請求の権限も含まれていると考えれば、可能である。もちろん、そこまで含ませないというつくり方も可能かもしれませんけれども、B案というのは、そういう権限をも含んだものというのが、このたたき台であるわけです。

○本田委員 検察審査会が起訴相当の議決をした略式相当の事案について、被疑者の方も納得しているという場合、本来、略式起訴をすべきであり、やはり、略式起訴はだめだ、正式裁判にしてやらなければいけないというと、被疑者の負担が大きくなり軽視できないですね。略式相当の事案で、被疑者が略式手続でいいと納得しているようなときには、略式手続が可能となるような制度設計をすべきだろうと思います。

○辻参事官 検察官の方が訴訟追行に手慣れているということが、C案の理由として挙げられているんですが、現在の法曹の資格制度というのは、弁護士は明日からでも検察官にも裁判官にもなれるし、逆に、検察官は、弁護士にも裁判官にもなれるという制度になっております。そのような法制に照らして、検察官の方が手慣れているからということが、訴訟追行の主体を、指定弁護士ではなく検察官にするということの理由としてなじむのかなという印象をやや受けるのですが。それを言い出すと、訴訟追行に当たる検察官の経験を問題にしなければいけないのではないかということにまで至ってしまうのではないかという感もします。問題提起として受け止めていただければと思います。

○四宮委員 同じことを感じていたのですけれども、少なくとも、今度の審議会意見書が考えている法曹像というのがありますね。それは、裁判官にも他職経験を求め、検察官にも他職経験を求め、また、弁護士任官を推奨している。
 今、参事官がおっしゃったように、そういういろいろな仕事を、それぞれ固定した役割ではなくて、いろんな仕事をあちこちで担当して国民に法的サービスを提供していくということを考えていると思いますので、むしろ、指定弁護士が担当していくという方向でもいいのではないかと思っています。
 もう一つ、先ほど、何となく、2度検察官が判断するので公正らしさをより強めなければいけないという議論があって、私は前回一段階説を述べておりましたので、そういうふうにとりまとめることにはちょっと疑義があります。

○井上座長 仮に二段階案を前提にするなら、特にそういう配慮が必要だと、そういう御意見だと思います。

○四宮委員 そういう趣旨だと思いますが、それをまず一つ確認しておきたいと思いまして。ただ、私が前回申し上げた一段階論でも、多くの方が主張しておられる公正らしさ、特に、被害者の方から御覧になったときの公正らしさの必要性というのは全く同じだろうと思います。
 それから、弁護士が担当する場合の補充捜査の点の御懸念も、むしろそれは検察官が担当するという方向で解決するのではなくて、補充捜査の権限を強化する方向で手当てをしていくべきではないかと思います。
 例えば、付審判では、捜査の指揮というものについて検察官に嘱託をするということになっているわけですけれども、解釈によると、検察官は嘱託に応ずる義務があると解釈をされているようですし、そうだとすれば、そういうことを明記していただくなり、あるいは、これは付審判事件も検察審査会にかかると言えばかかるんですけれども、特殊性のある付審判事件とは違う事件、今度は一般的な事件も扱うということを考えると、場合によっては、直接指定弁護士が捜査の指揮についても権限を持つ。人とのつながりということが先ほど出ましたけれども、その意味では、付審判とは少し様子が異なるので、その辺は先ほど髙井委員がおっしゃったように、同じ方向で協力をしていただけるという要素も強まってくるということもあって、そういった権限強化の方向で考えていただけたらと思います。
 もう一つ、訴因の明示の点の御懸念も、それこそ、これから議論されるリーガルアドバイザーがいるわけですので、十分可能ではないかと思います。

○井上座長 その点はまた後で議論しましょう。
 大出委員に度々質問して申し訳ないのですが、先ほどのお話ですと、付審判事件の場合は特殊な意味があるので指定弁護士が訴訟追行を担当すべきであるが、一般の事件の場合は、手慣れている検察官が担当するのがいいだろうという御意見であったのですけれども、補充捜査の点では、何人かの方が言われたように、付審判事件の場合、補充捜査がなかなかうまくいかないかもしれない。ところが、一般の事件の場合は、それとは違うだろうということだとしますと、付審判事件の場合には一層、指定弁護士ですと補充捜査の点で十分なことができないのではないか。そのようにも思うのですが、それでも、付審判事件の場合にはあくまで指定弁護士であり、一般の事件の場合は検察官とすべきだということでしょうか。

○大出委員 ちょっと趣旨が違うと思うのです。

○井上座長 付審判事件の場合には指定弁護士でなければならないという理由はどういうことなのですか。

○大出委員 そこは、立法論にまで及ぶ問題を含んでいると思いますから、ここでその議論をするのがいいのかどうかという問題はあると思いますから、どこまで申し上げるかというのは問題だと思うんですが、付審判の場合は、前回も申し上げましたように、公権力の行使にかかわる犯罪ということになっているわけですから、そういう意味では本田委員とか髙井委員がおっしゃっているように、対象とされている事件自体がそもそも公正性にかかわる問題であるという前提があると思うんです。それは、検察官役である弁護士をそこで起用するというのは、まさに実体としての公正性と公正らしさとを合わせたところで当然生じてくる問題だと私は思うわけでして、もちろん、補充捜査の問題となったときには、そこは先ほど言ったように、立法論にかかわる問題だということにならざるを得ないと思うんです。
 つまり、そういうことを前提として、十分に指定弁護士が補充捜査ができるような体制をつくるべきだと思うわけでして、実態としてそれが機能していないとすれば、そこは手当てをすべき問題だと私は思うわけです。
 ついでですから言わせていただきますけれども、手慣れたという言い方をしたとすると、それは誤解を招いたかもしれませんけれども、先ほどのお話からいっても、他職経験と言いますか、検察官としていろんな方がなられるんだったら、それはもちろんいいわけでして、むしろ、検察官にそういう方たちがなって公訴維持をされれば問題ないという話になる可能性があるわけですし、手慣れたというのは何も経験的にどうのこうのではなくて、それはお認めになると思うんですが、もちろん、独任官庁と言っても、公訴の提起・維持ということになったときには、もちろん、組織的におやりになるわけです。ですから、指定弁護士ということで、しかし、やはり全体として、組織として機能する力が発揮できるような体制を持っているかどうかということが最終的に問題になるわけでして、そこに弁護士からなった検察官の方がいれば、ますますそれに超したことはないわけで、そういう体制づくりがこれから行われるのであればそれでいいわけであって、検察官役の指定弁護士という形で現に今行われているようなことになるような、そこは条件整備が行われるということになるかもしれませんけれども、やはり実態からすれば、むしろ検察官という身分を持った方がおやりになる、そこにむしろ弁護士の方が検察官として入っていかれるという方がどうも合理的なような気がするのです。

○井上座長 後ろの方はちょっと話がそれたと思いますけれども。本田委員、どうぞ。

○本田委員 例えば、付審判請求の対象事件が検察審査会に審査申立てされますね。その場合に、拘束力のある起訴相当の議決があったときはどうなさるのですか。

○大出委員 検察審査会の方で決定があった場合には、検察官がやるということでいいのではないですか。この間も、それは申し上げましたけれども、そもそも手続としての理念が違うわけだと私は理解していますので。

○井上座長 大出委員はそういう御意見だということですね。
 既にこの問題について60分近く議論しているものですから、議事進行の必要もありますので、そろそろ先に進ませていただきたいと思うのですが、更に御意見をお述べになりたいという方はおられますか。

○酒巻委員 事務局に対する質問です。先ほど四宮委員が、指定弁護士が訴訟追行を担当するとしたときの、捜査の指揮にかかわることをおっしゃったのですけれども、このたたき台には、指定弁護士による補充捜査等の事項については、特に記載されておりません。これは、現行の付審判制度における指定弁護士の権限と基本的に同じということを前提としていると理解してよろしいですか。四宮委員は、指定弁護士の捜査権限をもっと強化すべきだという御意見でしたが。

○辻参事官 たたき台には、そういう意味では、指定弁護士の捜査権限の問題については触れていないということになりますけれども、たたき台を作成した前提としましては、基本的には、指定弁護士を付審判制度と同様にするということであれば、検察官と一点を除いて全く同じ権限ということになりますので、内容面で、それ以上に強化するというのは困難という感がいたしております。問題は、司法警察職員等に対して、直接の指揮ができることとするかどうかということになるのかもしれませんが、その点につきまして、もちろん、御議論をいただくことではあるのですが、先ほども御意見がありましたように、付審判請求制度の方で、検察官を介した間接的な指揮という制度になっている理由として挙げられているところが、捜査の指揮と言いますか、協力の依頼というものには、人とのつながりのようなものが必要であるからということであるとするならば、検察審査会の制度におきましても、間接的な指揮にする方がむしろスムーズにいくという考えも十分成り立つのではないか、直接指揮をするからうまくいくとは限らない面もあるのではないか、という気もしております。その辺りも踏まえて御議論いただければと思います。

○髙井委員 起訴案件については、指定弁護士は、検察官と同じ権限を持つということになるわけですから、直接に警察の方に指揮と言うか何と言うかは別にして、警察に補充捜査のお願いをするということも本来はできるということです。検察官と同じ権限があるということであれば。検察官経由でやるのではなくて、指定弁護士が、自ら検察官と同様の権限で、例えば、事件送致をした所轄署の警察官に補充捜査のお願いをするということができるということになると思います。

○辻参事官 付審判制度の例でいくと、司法警察職員等への捜査の指揮は、検察官に嘱託をして行うということになっておりますので、それと同じにするのであれば、検察審査会の制度でも、やはり、間接的な指揮になると思われますが。

○井上座長 付審判の場合は、訴追権限は、言わば付審判の審理をする裁判所が持っている。裁判所が審判に付すべきだという決定をすれば、それが起訴の効力を持つわけですね。そして、その後の公判での公訴追行の役割を指定弁護士が担うという構成になっている。ところが、髙井委員がおっしゃっているのは、今回の場合、もしB案のように、指定弁護士に、公訴提起の権限まで認めるとすれば、その権限に付随して、その権限を行使するため、あるいは公訴を維持するために補充捜査をする権限も付いてくるのではないか、ということなのでしょうか。

○髙井委員 わざわざ検事に嘱託をしなくても、直接、所轄署に補充捜査のお願いをするということは可能なのではないですか。ですから、付審判請求と同じように、検察官に嘱託をするという仕組みにしなくてはいけない理由は、むしろないのではないですかということなのです。

○井上座長 それは、両様あり得るのではないですか。

○平良木委員 両方あり得ると思うのだけれども、今、髙井委員が言ったように、これは、指定弁護士に検察官としての役割を行わせるということだとすると、そこはストレートに結び付いてもいいのではないかという議論が出てくる余地はある。

○井上座長 両様あり得ると言ったのは、補充捜査の権限なるものが何のためにあるのかということによるので、公訴提起のためだということならば訴追権限に付随するのかもしれないのですけれども、そうではなく、公訴を提起するかどうかの判断を検察審査会が行った後、公訴を維持するためには、手持ちの材料だけでは不十分であるということで補充捜査を行うという点に重点があるとすれば、訴追するかどうかの判断は検察審査会が行っており、指定弁護士は、そこから先の公判手続を担うだけということになりますから、現行の付審判の指定弁護士と同様、その権限は当然には付いてこないということになり得る。ですから、理屈としては両様あり得るということではないでしょうか。

○髙井委員 私が申し上げているのは、公訴を提起するかどうかのための補充捜査ではなくて、検察審査会の判断によって起訴した後、法廷に行ったら、被告人から従来なかった弁解が出てきましたというような場合に、その公訴を維持するための補充捜査という前提です。

○井上座長 それなら、付審判事件における指定弁護士の場合と同じではないですか。

○辻参事官 付審判の指定弁護士については、基本的には検察官と同じ権限ではあるものの、先ほど申し上げたように、人と人とのつながりが大事であるという別個の考慮から、間接的な協力依頼という形にされているわけです。今回の検察審査会の場合も、指定弁護士には、基本的には検察官と同等の権限を与えるとしても、その点について、同じ考慮をするかどうかという問題だと思われます。付審判と同様の考慮をするならば、間接的な仕組みというのは十分あり得るということで、直接つながるものではないのではないでしょうか。

○髙井委員 あり得ないとは思わないのだけれども、先ほどから申し上げているように、付審判請求の事案と今回の検察審査会の事案は、基本的に本質が違うので、その付審判請求との横並びという発想から始まるというのはややおかしくないかということです。

○井上座長 仮にそうだとしても、先ほど申し上げたように、理屈としては両方あり得て、どちらにするのかは実質論で決まってくると思うのです。事務局としても、原則は付審判制度と同様にすべきだということまで言っているわけではなく、現行法に一応のモデルとして、付審判制度の指定弁護士というものがあるので、それを前提に考えてみたということだと思うのです。そういうことでは実質的に不十分だということであれば、違う考え方を採ることは十分あり得るわけで、そういう問題ではないかなと思うのです。まだ議論しなければならないことがあるものですから、少し先に進ませていただきたいと思いますけれど、1点、A案を採った場合とB案を採った場合とで、もう一つ違いが出てくるのは、指定弁護士を指定する裁判所が違ってくるということであり、A案だと公判担当裁判所ということになるのですが、B案の場合は、国法上の裁判所ということにならざるを得ないだろう。その辺も違ってくるのかなと思います。ただ、この点は、ここでの議論にどれだけの意味を持つか分からないものですから、一応記録にとどめるために指摘させていただいておきます。
 ほかに、この点に関して議論しておくべき論点があれば御指摘いただきたいと思いますが、よろしいですか。

○四宮委員 弁護士の役割というものが、指定弁護士の場合、恐らく出てくると思います。後のリーガルアドバイザーの場合とも関係するのですけれども、恐らく、今後、公判なども、仮に公判が始まるということになると、集中審理という形になってくる。そうすると、今も議論が、付審判などでも議論があるにはありますけれども、弁護士の手当についても御配慮をいただきたい。

○井上座長 指定弁護士の手当ですね。そういう御意見もあったということで。

○四宮委員 何か指摘しておくべきものがあればとおっしゃったものですから(笑)。

○井上座長  少し先を急ぎますが、これも大きな問題なのですが、検察審査会の組織、権限、手続等の在り方ということで、たたき台では、これまでの議論をも踏まえまして、いわゆるリーガルアドバイザーというものの委嘱、検察審査員の義務と解任の在り方、関連する罰則の在り方、検察審査員の欠格事由等の見直し、付審判請求手続との調整、検察審査会の配置の見直しという六つの項目が挙げられているわけです。
 そのうち、最初の項目がリーガルアドバイザーの委嘱についてということでありますけれども、前回の事務局の説明にもありましたように、いわゆるリーガルアドバイザーの制度は、検察審査会の判断に基づいて公訴が提起されるということに伴って、その判断の前提となる検察審査会による審査を一層適正で充実したものにするということを期するために、法律専門家がその審査手続を補助する、そういう趣旨によるものといえます。
 具体的には、たたき台は、まずアとして、リーガルアドバイザーを委嘱する要件ないし手続について、3通りの考え方を挙げていますので、それぞれの当否、あるいはこの3案以外の考え方があれば、それについても御意見をいただきたいと思います。すべての事件に必ず付けるのか、それとも起訴相当の決議をするためには、その前提としてリーガルアドバイザーを付けなければならないとするのか、それとも検察審査会の裁量により必要と考えるときに付けるということにするのか、この3通りです。どなたからでもどうぞ。

○髙井委員 私はまず二段階論ですから、それを前提にしてということになりますが、まず、二段階論の二段階目ですね。検察審査会が最終的に拘束力を持つ判断をする場合、その検察審査会については、これは当初からリーガルアドバイザーを必須とする。
 第一段階目の検察審査会は、たたき台に書かれているB案で、起訴相当の議決を行うためにはリーガルアドバイザーを置かなければならない。これは、どうも起訴相当意見が出そうだなというような雰囲気になったときから、リーガルアドバイザーを置くべきではないかと思います。

○井上座長 二つの組合せということですね。第一段階はB案的な考え方で、第二段階はC案的な考え方だということですか。

○髙井委員 そうです。

○井上座長 第二段階は、当初から、必ず委嘱するということですね。

○髙井委員 そうです。

○井上座長 分かりました。

○髙井委員 要するに、第二段階目は、起訴相当意見になる可能性が非常に強いわけですね。検察審査会がいったん起訴相当で検察に戻して、検察がそれでも起訴しないでまた検察審査会に戻してきたというものですから、起訴相当になる可能性は第一段階のときよりも強いというふうに思われるので、最初から必須にするということです。

○四宮委員 2度議決するという立場ですか。

○髙井委員 そうです。二段階論の中の2度議決するという案です。

○井上座長 二段階案のうち、第一段階の議決を中間議決的なものとする案ではないということですね。

○本田委員 私も髙井委員と同じような意見でして、B案でいいのではないかと思います。私も二段階論の方がいいという意見をこの前申し上げたのですけれども、そうすると、必要的に委嘱しなければいけないのは、実際に法的拘束力のある議決をすることになる二段階目のところにするというのが相当と思います。

○井上座長 髙井委員の御意見とは違いますね。髙井委員は、第二段階目は最初から必ず委嘱するという御意見なのですが。

○本田委員 同じではないですか。

○井上座長 そうですか。髙井委員は、第二段階目をB案ではなくC案とする。全部に付けるという御意見です。第一段階目については、起訴相当の議決をするためにはリーガルアドバイザーを付けないといけないというB案を採られるのですが、二段階目については、全部の事件、つまり、検察官が起訴しないでもう一度検察審査会の審査にかけられた事件にはすべて、最初からリーガルアドバイザーを付けるべきだというもので、そこはC案なのです。

○本田委員 私の意見は、必要的に付けなければいけないというのは、拘束力のある議決をすることが予想されるときというものですが。

○井上座長 それはB案なのです。ですから、そこが高井委員の御意見とは違うのです。本田委員は、一段階目については付けなくていいということでしょうか。

○本田委員 それは任意的でもいいのではないですか。

○井上座長 その点も高井委員とはお考えが違いますね。

○髙井委員 そうすると、全部B案ということですね。

○井上座長 一段階目もそうですか。

○本田委員 B案は、法的拘束力のある議決を行うに当たっては、必ず委嘱するというものですから、実際に法的拘束力が生ずる議決をするときだけは必要的にするという考えです。

○井上座長 法的拘束力というのは、公訴提起の効果に直結するということで、そこの部分についてということですね。分かりました。

○平良木委員 私は、仮に二段階案を採るとしても、全部B案でいいと思います。つまり、2段階目のところで、事件が検察審査会に戻って、検察官の不起訴処分に納得がいったら、別にリーガルアドバイザーなどは要らないだろうということなのです。やはり納得がいかないから、もう一度これは法律的に大丈夫かということをチェックする意味でリーガルアドバイザーが必要になってくるので、その意味でB案でいいだろうと思います。

○樋口委員 質問があるんですけれども、審査と議決というのは、時間の流れからして線が引けるものなのですか。実務がよく分からないものですから。審査段階からリーガルアドバイザーを付けるべきという案と、法的拘束力を与える議決をする段階には付けなければいけないという書き分けになっていますね。

○井上座長 これは、法律の条文的な書き方なので、議決をするためには付けなければならないという書き方になっているのですけれども、当然、そういう議決が予想されるような段階に至ったらアドバイスを受けなさいという意味で、そうでないと意味がないわけですね。そういう理解を前提として皆さん御議論をなさっていると思います。

○樋口委員 ということは、事案ごとに、そこはかとなく、そういうものだという認識があるという前提なのですか。

○井上座長 具体的にどこまでの段階に至ったら、というのは一概には言えないでしょうね。最初からこれは起訴相当だとはいえないでしょうから、恐らく、いろいろ資料を見たり意見を聞いたりしているうちに、起訴相当の方へ行きそうだというときになったら、リーガルアドバイザーを付けなさい、ということではないでしょうか。

○辻参事官 その点は、基本的には、検察審査会の議論の中で、リーガルアドバイザーを付けるか付けないかを協議して決めていただくということだと思います。検察審査会によっては、およそ起訴相当の議決の可能性があるからという考え方で付ける場合もあるかもしれないし、起訴相当の議決が確実となった段階に至って付ける場合もあるかもしれず、いろいろあるのだと思いますが、少なくとも、最終的に起訴相当の議決を行うまでには、必ずリーガルアドバイザーを付けてくださいというのが、たたき台のB案の趣旨でございます。

○大出委員 今、樋口委員のおっしゃった点、実務的にどうなのかというのはちょっと分からなかったんですが、私は一段階説ですので、それを前提に言いますが、もちろん、今、辻参事官の御説明でもあったように、検察審査会で決めて呼ばれればいいという話なんですけれども、もちろん、それは個々の審査会の権限でそういう判断をされるということ自体、あっても悪いことではないような気がしますが、ただ、リーガルアドバイザーがどういう役割を果たすのかということにもかかわると思いますけれども、やはり、積極的、介入的に意見を言うということでない限りは、やはり、法的な点について何か疑義が生じたときにはいつでも聞けるという状態でのアドバイザーが要るということが重要だということになるんだろうと思うんです。ですから、最終的には法的拘束力を与えるということなわけですから、重たい決定になるということでもあるわけです。
 そういうことでいけば、私は、C案を採るべきなんだろうと思うわけでして、問題は、そういう態勢が取れるのかどうかという問題はあろうかと思いますけれども、最初から居て、必要なときに検察審査員からの質問に答えるということを考えておく必要があるのではないかと私は思います。

○井上座長 ほかの方どうぞ。

○池田委員 私は、一段階案の場合でも二段階案の場合でも、B案でいいのではないかと思うのですが、全件について付けるというC案は無駄が多くないかなと思います。特に、検察審査員自体が、だれが考えても、この不起訴処分は相当だと思っているのに、リーガルアドバイザーにわざわざ来てもらってアドバイスを受けるというのは、そこまで必要ではないのではないかと思います。当然、検察審査員の方で聞いてみたいと、従来ない見方をすればどうなるのか聞いてみたいというようなことがあれば、リーガルアドバイザーを付けることができるという、その道を残しておけばいいのではないかという気がします。
 ただ、現行の検察審査会法38条でも、法律家から専門的助言を徴することができるとされており、この規定とはどういう関連になるわけでしょうか。

○井上座長 それは、38条とA案との関係ですか。B案の場合は、一定の場合には必ず付けないといけないとなっており、また、C案の場合には、必ず全件に付けないといけないとなっているのに対し、A案の場合は、38条と同様に、裁量的な形になっておりますね。

○池田委員 B案だと、38条の規定を残しておいて、更にリーガルアドバイザーが必要的である場合を付加すればいいわけですね。

○井上座長 その点の整理はいかがですか。

○辻参事官 そういう意味では、ただ今御指摘のとおり、リーガルアドバイザーがどのような場合に委嘱されるのか、その職務内容がどのような内容になるのかということが、まだ議論がされていませんので、その辺りを踏まえませんと、整理は難しいと思います。例えば、リーガルアドバイザーの職務内容として、たたき台では、議決書の起案のようなものも一応議論の素材として挙げておりますが、そういうところも職務内容に含まれることになると、38条の専門的助言者とは若干性格が変わってくるという整理ということになろうかと思われます。リーガルアドバイザーの職務内容や、どういう場合に委嘱するのかということを議論していただいた上で、最終的には整理したいと思います。

○井上座長 A案を前提にしても、その職務内容、役割、権限によっては別途規定を設けざるを得ないということですか。

○辻参事官 そういうこともあり得るかもしれないということです。

○井上座長 分かりました。それでよろしいですか。ほかにどうぞ。

○土屋委員 私はB案と考えています。というのは、ちょっと違った言い方になるかもしれませんけれども、リーガルアドバイザーをどういうふうに設計するかというのが一つかかわるので、何とも言いにくいのですが、いずれにしても、例えば、弁護士さんに委嘱するにしても、コストがかかる問題であり、財政的な手当てが必要な問題です。だから、全件に付けるというのは、先ほど池田委員が言われたように無駄が大きいと思います。
 実際の、起訴相当という拘束力のある議決をする場合には必要とし、そのほかの場合には、検察審査会の判断に任せて必要な場合にはお願いするという制度にしておく方が、財政的な面というんでしょうか、これは結局は国民の負担にもなるわけでしょうけれども、そういった点から考えても妥当なところかな、均衡が取れるところかなと私は考えています。

○四宮委員 例えば、濫訴的な申立ても恐らく中にはあるのでしょう。そういう場合を考えた、無駄という意見には十分耳を傾けなければいけないと思うのです。ただ、起訴相当の場合にということで、いつごろからそういった必要性が出てきて、みんなで一致したからそこから呼べばいいということなのか。もちろん、リーガルアドバイザーがどの程度意見を言えるのかというのは非常に問題があって、専門家が検察審査員の議論に影響を与えるようなことは厳に慎むべきだと思うんですけれども、理想を言えば、いろいろな事件で、法的なアドバイスを受けるというチャンスを確保しておくという必要性もあると思いますし、現に検察審査会の事務局の皆さんが、その点でも非常に大きな貢献をしておられるということも聞いていますので、私は、弁護士会の協力も得た上でのことですけれども、C案でいいのではないかと考えます。

○酒巻委員 私は、B案が妥当だと思っております。その理由は、皆さんがほとんど述べてくれましたので、一つだけ付け加えます。なぜこのリーガルアドバイザーが必要かという根本に立ち返りますと、これは、起訴相当の議決に法的拘束力が出てくるからこういう人が必要なのではないか。それはなぜ必要なのかと言いますと、後で議論する、リーガルアドバイザーが一体何のためにいるのかという役割の問題と深く関係してくるわけですけれども、要するに、検察審査会の議決によって起訴という重大な効力が発生するようになることから、一般国民である検察審査会の方々がその判断をするに当たり、法律的な側面でもアドバイスを受けることができるようにして、その審査及び議決が一層充実し、かつ慎重なものとなるようにする。そして、起訴される可能性がある被疑者の観点からも、手続が一層適正なものになるようにする。そういう必要から、リーガルアドバイザーの制度が入れられるのだとすれば、まさに、起訴相当の議決を行うときには必要的にアドバイザーを委嘱するという制度設計が、制度の趣旨に最も整合的だと思います。
 そして、既にB案の御意見の方が言われましたとおり、全件というC案の御意見に対しては、人的態勢の面で難しいところがあるのではないかと思います。それから、先ほど四宮委員が、検察審査会の事務局の方の役割に触れられましたが、実務的には、審査をしていて、いよいよこれは起訴相当になりそうだなという段階に至ってからではなく、もう少し早い段階になるかもしれませんけれども、その辺りで、弁護士さんに来ていただき、慎重に、意見を聞き、アドバイスを受けるという形で的確に対処できるのではないかと思っています。

○井上座長 最後の点は、次の論点である、リーガルアドバイザーの職務内容の問題と関係してくるのだろうと思います。ほかに御意見をどうぞ。

○髙井委員 被害者の立場から言いますと、今の大勢になろうとしているB案、あるいはB案とC案の併用案には多分異論があると思うのです。というのは、B案というのは、起訴方向について慎重に考えましょうという政策判断をしているところです。ところが、このB案ですと、本来起訴相当なのにそれが見過されてしまうという、その辺のリスクは無視されているということになります。B案だと、検察審査会の方々が、これは起訴相当じゃないかなと思い始めると、弁護士をリーガルアドバイザーに委嘱しなければならないことになってくるわけですね。だけれども、本当は起訴相当の事案なのに、起訴相当だと検察審査会の人が思わなければ弁護士をそこに入れる保障はないわけです。ですから、起訴を慎重にさせる方向としてリーガルアドバイザーを使っているということになるので、被害者から見れば、起訴をしてもらうという方向からもリーガルアドバイザーを使ってもらうべきではないかという意見は必ず出てくると思うのです。
 したがって、もしB案を採るのであれば、その点をどう説明するのかということが問題となり、それがきちっとクリアされないと、B案を採るという最終判断はできないと思うのです。

○井上座長 リーガルアドバイザーの役割論とも相関してくると思いますが、髙井委員は、最初の段階はB案とおっしゃったのですけれども、そこはどう説明するのですか。

○髙井委員 そうするとC案になるわけです。ただ、C案になると、濫訴的な事件が必ずありますから、そのような事件も含めて全部に付くことになります。そういうものだけにはリーガルアドバイザーは付けませんよという仕切りができるかというと、なかなかそれは書き方が難しいと思います。そうすると、B案から始まる以外ないかと思います。私が、B案とC案の併用ということを申し上げているのは、最初に申し上げた私の問題意識があるものですから、せめて二段階目のときには、最初から付けるべきではないのかというように私は思っているわけです。

○土屋委員 被害者の立場というのは分かるのですが、逆に、今度、被疑者、被告人の立場の方から見ると、いったん不起訴処分という処分を受けて得ている安定した地位と言うと変ですけれども、法的地位とまで言えないのもしれませんが、自分は起訴されないんだという安定した状態というのが、仮の状態であってもあるわけですね。それを起訴の方向というか、逆の方向に持っていく、そのためにリーガルアドバイザーが付いてくるというような逆の考え方はありませんか。

○髙井委員 これは、逆に言うと、B案というのは、被疑者寄りのバランサーとしてリーガルアドバイザーが機能するということなんです。リーガルアドバイザーはどちらにも公平なバランサーとして機能しなくではいけないという立場からすると、本来、私はそうすべきだと思うのですが、そうであれば全件に付けるべきではないかということになると思うのです。

○井上座長 髙井委員の御意見は分かりました。これは、リーガルアドバイザーの職務権限をどこまで認めるのかという問題と相関するものですから、そちらの方の議論に進ませていただきたいと思います。これで、リーガルアドバイザーの委嘱の要件・手続についての議論が終わりというわけではないと思いますので、次の職務権限の議論を踏まえて更に議論していくということにさせていただきたいと思いますけれども、いかがでしょうか。

○清原委員 その方向でお願いします。

○井上座長 もし御異存なければ、ここで10分くらい休憩を入れさせていただきたいと思います。

(休  憩)

○井上座長 それでは、再開させていただきます。
 次は、リーガルアドバイザーの職務内容、権限等の点についてどう考えるべきかという論点ですが、たたき台のイに職務内容として記載されているところを材料としながら、リーガルアドバイザーというのは何をするのか、あるいはどういうことはしてはいけないのかという点について御議論いただければと思います。
 どなたからでも、どうぞ。

○清原委員 まず、現状の検察審査会のことで確認をさせていただきたいと思っていますのは、ここのイに例示されている、審査に係る事件の、事実認定上及び法律上の問題点の整理というようなところは、当然、リーガルアドバイザーによらなくても、検察審査会事務局の方で御準備されるような内容ではないかなと思うのです。つまり、どういうような問題が、現状の審査手続においては存在するのかということについて確認させていただきたいのです。
 ですから、審査会事務局のほかに更にリーガルアドバイザーを付ける必要があるというのであれば、それは、どのような理由によるのかということが、まず一つだと思うのです。
 さらに、リーガルアドバイザーはあくまでもアドバイザーなのであって、検察審査会のメンバーではないわけですね。その位置付けなのであれば、先ほどB案、C案の区別等々で御議論があったこととも関係するのですけれども、やはり、明確に、その役割について一定の指針がないと、頼まれたリーガルアドバイザーも職務を行いにくいというふうに思います。それが2点目です。
 3点目は、議決書の起案の職務というのは、恐らく、私たちが最も議論しておかなければいけないところで、リーガルアドバイザーが、C案のように必ずすべての事件で付くということであれば、リーガルアドバイザーが議決書の起案その職務を行うということは、すべての事件で、リーガルアドバイザーがそれを行うことになるのですが、A案又はB案を採った場合に、議決書の起案の職務も行うとすると、リーガルアドバイザーがいない事件のときには、だれが起案するのか、リーガルアドバイザーがいる事件といない事件との整合性をどうするかといった問題もあるかと思いますし、議決書の起案の職務については、特に、慎重に議論する必要があるというふうに思います。

○井上座長 まず、現在の制度についての御質問ですが、これは事務局の方でお答え願います。

○辻参事官 検察審査会の事務局の方で、審査の補助をするということで、記録の関連部分の整理をするというようなことは行われているやに聞いておりますけれども、その実態については、必ずしも承知しておりません。
 次に、検察審査会事務局に加えてリーガルアドバイザーを付けるのはなぜかという御質問がありましたが、その点につきましては、たたき台を作成した立場から申し上げますと、審査会事務局の方も裁判所の職員の方ですので、一定の法律の素養というのは当然おありなのですけれども、特に起訴相当の議決に基づいて公訴が提起されるということになりますと、非常に専門的な法律上の問題点等について、より正確な助言や整理というものがあった方が望ましいのではないかというような趣旨でございます。

○清原委員 基本的な事柄については、もちろん審査会事務局が準備していただいているんですね。

○辻参事官 そこまで言い切れるほど、実態を承知しておりませんが。

○井上座長 実態がはっきりしないということなので、委員で実情を御存知の方がいらっしゃいますか。あるいは出席していただいている関係機関のどなたか御存知ですか。審査会事務局がどこまで補助しているのかについてですが。

○清原委員 運用上ですね。もちろん、そういったことの望ましさ、在り方は議論となる部分であると思うのですが。

○井上座長 私の乏しい知識では、恐らくそういうこともあるのかとは思うのですけれども、ここで書かれている職務、例えば、事実関係でここが最も難しいポイントであるとか、争いになっている点であるといったことを示すなどといったことまで踏み込んだ補助をしているとは思えません。定かではありませんが。

○池田委員 私もよく分かりませんが、現在は、審査会事務局が、このたたき台のいう、事実認定上あるいは法律上の論点について、何らかのアドバイスをすることができるかということについて、明確に規定したものはないわけですね。ですから、検察審査員の手足として、便宜を供与するというだけですので、多分、審査する事件がどういうものであるかということや、記録をどう読むのか、記録のどういうところに、どういうものがあるのかとか、そういう説明はすると思いますけれども、それ以上に、この人のこの証拠がどうのとか、そこまではいかないだろうと思うのです。
 それから、法律論についても、こういう問題点があって、ここはどういう解釈の方が多いというようなことは言えても、この解釈が相当ですとか、そんなことは到底言えないはずですので、ですから、そういう意味では、多分、かなり制約をされた事実上の補佐しかできないだろうと思いますので、リーガルアドバイザーにそういうことができる権限があることを明確に規定した方がいいのではないかと思います。

○髙井委員 私の経験で言いますと、例えば、道路交通法違反と業務上過失致死傷とが全く区別されないで、検察審査会から、不起訴不当ということで、検察官に返ってくる例が結構あるのです。ですから、そのような事例を見ていると、きちっとした整理がされてない。法律上の問題点とか、実務上の問題点がきちっと整理されて議論された結果不起訴不当になったとは到底思えない議決が、私の経験から言うと相当数あるというふうに思います。
 ですから、リーガルアドバイザーが付く場合は、その権限として、事実認定上及び法律上の問題点の整理をその職務とするということは必須だと思います。

○酒巻委員 今の髙井委員の御説明について、これをもう少し具体的な例で考えてみますと、例えば、こういうことだと思います。酒を飲んで運転して人をひいて死なせてしまったという事件を想定すると、酒を飲んで運転するのは道路交通法違反になります。しかし、人をひいて死なせてしまった部分については、運転手としては、いかにしても避けることができなかったということで、これまでの裁判例や学説の蓄積からいって、過失が認められないため、業務上過失致死罪は認められないから不起訴処分という事案があり得るわけです。
 しかし、リーガルアドバイザーがいない現在の制度では、検察審査会が、検察官は過失が認められないというが、酒を飲んで運転して人をひいて死なせているからけしからぬ、起訴相当ないし不起訴不当だ、と即断して、検察官にその事件が返ってくる例があり得るということなのだろうと思います。
 しかし、リーガルアドバイザーがいれば、今のような、業務上過失致死と道路交通法違反との区別といったところまでは、的確な仕分けや御説明はできるのではないかと思います。
 ただし、これから先は私の意見ですけれども、法律専門家であるリーガルアドバイザーが、だからこの事件は不起訴でいいのだというようなところまでアドバイスしてしまいますと、それは本来検察審査会の判断すべき事柄を誘導してしまったということになるのではないか。法律問題・事実関係の整理・説明と、判断すべき結論の教示との仕分けは非常に微妙だとは思いますが、結論の教示まではやってはいけないのではないかというのが私の意見です。

○井上座長 清原委員が2番目におっしゃったことは、今、酒巻委員が最後に言われたことと同様の趣旨ですか。

○清原委員 はい。ですから、そういうことになりますと、私が心配いたしましたのは、仮に、そのような基本的な事件の事実認定や法律上の問題点の整理がされていないということが現状に近いとすると、リーガルアドバイザーがすべての案件で委嘱されていなければ、まず最初の出発点が成り立たないというふうに聞こえてしまったのです。
 けれども、私は、むしろ、それは、リーガルアドバイザーが付く付かないにかかわらず、一般国民が参加する検察審査会で審査をしていただくときの基本的なベースの問題なので、リーガルアドバイザーの職務内容の問題というよりも、検察審査会そのものの審査の基本として、まずは保障しなければいけない出発点なのではないかと思うのです。
 さらに、それを法的拘束力のある起訴相当の議決に至るまでに、もちろん、詳細な、より専門的な、法令とか判例とか、そういうことが必要になるような案件に、本来的リーガルアドバイザーが必要なのではないかと私などは思っておりまして、いわゆる議論の出発のところの仕事から入るとすると、それは、先ほどのA案、B案という発想ではなく、C案しかないのではないかというようにも思いました。それはまた行き過ぎた判断でしょうか。

○井上座長 例えば、事実認定上の論点とか、法律上の基本的な枠組みの整理、これが出発点であるというのがおっしゃっている意味だと思うのですけれども、それをリーガルアドバイザー以外の人でもできるかどうかということですね。できるのであれば、リーガルな専門家とは違う人が行ってもよいのではないかということなのでしょう。
 ただ、その問題と、すべての事件でそのようなことが必要なのかということとの間には、もう一段階あるという感じがしますね。
 ほかの方の御意見も伺いたいと思います。先ほどの3番目の議決書の起案の問題は、もう少し後で議論させていただければと思いますので。

○清原委員 誤解があるといけないんですが、私は、C案というわけではないんです。私は、国民のコスト感覚というのは、土屋委員と同じで、やはり大事なポイントですし、この制度が本当に円滑にいくためには、すべてに付けるということを必ずしも自分の意見として持っているわけではありません。ただ、先ほどの御説明を聞いて、むしろ、私は意見を修正しなければいけないのかなと思ったものですから、あえて申し上げただけです。
 以上です。

○井上座長 先ほど、清原委員が提起された、2番目の問題に入ってきているのかなという気がするのですけれども、リーガルアドバイザーに、どこまでやってもらうのかという問題です。
 例えば、この事件では、事実認定上ここがポイントですよとか、あるいは、法律の枠組みはこうなっていて、ここのところを仕分けしないといけないですよと、そういった問題点の整理は、リーガルアドバイザーの職務に含める方がいいという方向の御議論なのですが、議論のための議論としていえば、そのような問題点の整理すらも、検察審査会の判断を方向付けすることになるのではないかという、そういう考え方もあり得ると思うのです。その点はいかがでしょうか。

○本田委員 私は、リーガルアドバイザーの職務内容は、このたたき台の案でいいのではないかと考えるのですが、やはり、先ほど、酒巻委員の方からお話が出たんですけれども、リーガルアドバイザーというのは、検察審査会の構成員ではないのです。だから、実体判断にわたる事項について意見を述べることができるというのは、やはり制限しておくべきではないかと思います。
 また、リーガルアドバイザーが付かないと、法律上の問題点等がきちんと整理されないまま不起訴不当の議決が返ってくるということが、現実にあるのですけれども、だからといって、全部の事件に付けるということにはならないと思うんですね。少なくとも、その議決が法的拘束力のある処分になる場合とならない場合というのは、恐らく、質的な違いがあると思います。法的拘束力のない議決の事件の場合、この不起訴処分はけしからぬという、検察審査会の意見が返ってくれば、それは、検察官として、その後、どういう対応をしていくかということについての一つの判断材料にもなるでしょうが、最終的には、検察官が、それは過失にならないから不起訴であるということを決めてしまえばそこで終わるわけですから、全部の事件にリーガルアドバイザーを付ける必要はない。しかし、法的拘束力のある議決を行う場合には、法律上の問題点などが十分に整理されないまま、いい加減なことで、起訴ということが決まってしまったのでは、被疑者・被告人の地位というのが、極めて危いものになってしまうということだろうと思うのです。

○井上座長 ほかの方も、御意見をどうぞ。

○髙井委員 議論を深めるために、あえて言います。確かに、リーガルアドバイザーが実体判断の意見を言ってはいけないということは、当然一つあり得る意見だと思うのですけれども、そうしてくると、リーガルアドバイザーは一応交通整理をしました、だけれども、先ほどの酒巻委員の御意見のように、やはり、この被疑者は、呼気中のアルコール濃度が0.6 ミリリットルも出るような、こんな大酒を飲んで車を運転して事故を起こしているのに、これが不起訴では世の中真っ暗闇だということで、この事件は起訴相当だという意見になったとします。そのような場合に、法律家から見て、このような事件を起訴しても一発で無罪だと思いながら、検察審査会の手続が起訴に向けて進んでいくのを眺めているというのも、なかなかつらいものがあると思うのです。
 おまけに、そのリーガルアドバイザーが指定弁護士に指定され、あなたは指定弁護士だから起訴状を書きなさいということになると、果たして起訴状を書くことができるのだろうか、起訴状をどうやって書くのだろうかという問題もあります。

○酒巻委員 私も、髙井委員の想定されたような事例の場合、リーガルアドバイザーは一体どうするんだということが、最も問題になると思います。何も意見が言えないとすると、何のためにリーガルアドバイザーがいるんだという御意見もあると思いますが、しかし、そこで、リーガルアドバイザーが実体判断にかかわる意見を言えるというような制度にしますと、検察審査会の制度趣旨、すなわち一般国民の方のみで、不起訴処分の当否を審査判断するという制度の建前が全部崩れると思うのです。ですから、そこは、やはり、そのような場合でも意見を言えないものと、あきらめないといけないと思います。
 11人の検察審査員の方々に、リーガルアドバイザーが、法律上の問題点等を諄々と説明しても、不幸にして遂に理屈が通じなかったということはあるかもしれませんが、更に進んで、この事件は不起訴相当であるというような意見までは言えないということです。

○井上座長 リーガルアドバイザーが問題点を説明するというときに、どこまで説明するのでしょうか。ここが論点ですよということだけではなく、こういう条件であるとこれは成り立ちませんが、しかし、こういう条件であれば成り立ちます、というところまで説明するということですか。

○酒巻委員 そうですね。それが限度だろうと思います。その上で、例えば、検事は過失が認められないと言っているけれども、我々は認められると考えるというように検察審査会が判断をするところには、やはり、リーガルアドバイザーが明らかに過失が認められないという意見を述べて介入することはできないとする以外にないのではないでしょうか。

○井上座長 アドバイザーから見れば、明らかに過失が認定できないということは、事実認定上の判断ですか。それとも、検察審査会が因果関係がなくとも過失は成立する考えている場合のように、法律上無理であるという判断なのですか。

○髙井委員 例えば、被疑者が法定速度以内で幹線道路を走っていた。そこへ、本当の直前に、被害者の方も泥酔していて飛び出して来た。これは、もうどう見ても、被疑者としては避けようがないし、予見可能性もないということで、被疑者の過失が認められないような事例があるわけですね。ところが、運転する被疑者の方もべろべろに酔っぱらっていたとすると、やはりこんなにべろべろになって運転して、しかも被疑者が運転する車両がダンプカーであったりすると、検察審査会では、それは、被疑者がけしらぬではないかという意見が当然出てくると思うのです。

○酒巻委員 感情的には、そういう判断になるおそれがあるのではないかと思います。

○井上座長 しかし、そこで、リーガルアドバイザーが意見を言うことができないとしてもやむを得ないというのが、酒巻委員の御意見ですか。それを言うことができるようになれば、全体の仕組みが崩れるということですか。

○酒巻委員 はい。検察審査会は、一般国民だけの御判断にゆだねる制度である以上、そうならざるを得ないと思います。

○井上座長 髙井委員は、この点について、どういう御意見なのですか。

○髙井委員 私は、そのような事件では、仮に、私が指定弁護士として起訴状を書けと言われても、書けないと思うのです。起訴状を書けないような事件を起訴決定してもらっても困りますから、そういう場合は、例外的に、リーガルアドバイザーが意見を言えるということも考えられるのではないかと思います。しかし、そこで言えるということにしてしまうと、全部言えてしまうようになるのではないかという批判は当然出ると思いますから、そのような例外的な場合しか言えないものとするような仕切りの仕方がないのかと思いますけれども。

○井上座長 例えば、明らかに犯罪が成立しないというような場合には、リーガルアドバイザーは、例外的に意見を言うことができる、というふうにすべきだということでしょうか。

○髙井委員 法律の書き方としては、多分そうなるのでしょうね。しかし、そうなると、どこが明らかであるのか、リーガルアドバイザーから見れば明らかなのだけれども、検察審査員から見れば明らかではないではないかという話になって、その「明らか」に該当するかどうかをめぐって議論が起きることも考えられるので、なかなか運用上は難しいかなと思います。法律に書くだけであれば何とか書けるだろうと思います。

○井上座長 四宮委員、どうぞ。

○四宮委員 明らかに犯罪が成立しない場合というのは、法律的にもいろいろな段階があるわけですね。事実の段階でもあるわけで、そうやっていくと、やはり、酒巻委員がおっしゃったように、いろいろ結論部分についての意見が言えるということになってしまうと思います。今、非常に分かりやすい事例について、そういう場合が起こったらどうするんだという議論をしているんですけれども、もうそういう場合はしようがない、それはまた裁判所という判断の場所があるわけですから、起訴した後、最終的には裁判所で決めてもらうということになると思います。
 もちろん、もし仮にある人が誤っていると思ったときに、誤りが早い段階で正せるのはいいことですけれども、しかし、この制度は、国民の意見を聞いてそれを尊重しましょうという制度ですから、それは、最終的には裁判所で判断してもらうという形しかないんじゃないでしょうか。

○井上座長 起訴状を書けるかどうかという問題はどうですか。

○四宮委員 書けますよ。

○井上座長 ただ、法律はとても無理だという場合はどうですか。事実の判断は評価の問題ですから、検察審査会の結論に従ったものを書くしかないかと思うのですけれども、法律上犯罪を構成し得ないという場合はどうですか。

○四宮委員 どういう場合でしょう。

○井上座長 法律上犯罪が成立するための要件が欠けているということは分かっているけれども、けしからぬということで起訴相当とされたような場合ですね。

○四宮委員 それは、要件があるものとして検察審査会が判断したということですね。

○井上座長 そういう法の解釈はおかしいということは、検察審査会として言えるとは思いますが。

○四宮委員 少なくとも、議決書の中に、要件はないけれども、けしからぬから起訴するとは、書くことはできないと思うのです。そうだとすると、検察審査会の意見というのは、要件があるという判断なのですから、あるものとして起訴状を書くことになると思います。

○井上座長 抽象的な議論をするとすれ違うだけですので、そういう議論はこれくらいでやめておきましょう。ほかに御意見があれば、どうぞ。

○平良木委員 事実と法律がうまく区別できるのかというのは、これはもう昔からある議論で、これはできないというのが一般的なので、そういったときに、今のようなぎりぎりの問題になってきたときにどうするかというと、私は、リーガルアドバイザーは、公訴提起するだけの事実としては書けないということは、言って構わないと思うのです。ただ、判断として、だれが最終的に決めるかというと、リーガルアドバイザーはやはり審査員ではないから、その意見だけを述べておいて、これは決めるのはあなた方ですから、あなた方で決めてくださいということまでは言えるのではないかと思います。

○池田委員 もちろん、リーガルアドバイザーには最終的な判断権はないわけですが、せっかく法律の専門家として呼ばれるわけですから、法的にはこれが間違っていると思っても言えないという話はないのではないか。それを言えなければ、助言者、アドバイザーとして呼ばれている意味はないのではないかと思うのです。もちろん、そんなことを言っても、検察審査会が、法律家はそういう意見かも知れないが、それは国民一般の感情から納得できないということであれば、それはそれで構わないわけです。しかし、法律家はこれは法的には合いませんよという意見であるということをある程度分かってないと、それを知らないで、最終的な判断をされたら困るわけで、それを聞いた上でどうするかというのを決めればいいわけですから、リーガルアドバイザーの権限としては、いろんなものを与えておいてもいいのではないか、どういうことを言えるかということについては、言うことだけは言ってもらっていいのではないかと思います。

○井上座長 証拠関係上の問題についてもそうですか。今、法律問題ということでお話になったのですけれども、証拠関係から見て全然成り立たないですよということも、法律の専門家としてはアドバイスした方がいいのではないかということでしょうか。

○池田委員 確かに、それはやり方の問題かもしれないなと思いますし、その人がどういう人かによるかと思います。

○大出委員 方法にかかわることかもしれませんが、酒巻委員とか、四宮委員の場合、質問があっても答えてはいけないということなんですか。

○井上座長 その点は、次の問題として御意見を伺おうと思っています。今議論していただいているのは、リーガルアドバイザー自らの判断で意見を言ってよいのかどうかという問題です。

○土屋委員 非法律家として一言言わせていただきたいのは、素人であっても頑迷固陋ではないということです。意を尽くして言っていただければ理解できると、証拠がないものはないというのは分かると思います。
 それから、法律上、ここをクリアしなければ起訴できないということもきっと理解できます。そういう前提がないと、審査会制度自体が成り立たない、この法律自体が成り立たない制度になると思います。そこは信頼していただくしかないだろうと思います。それで起訴できないのだったら、それはあきらめるしかないというか、それだけ材料がないのだったらあきらめるしかない。
 ただ、材料がなくても起訴すべきであるというふうにみんなが議論して結論を出せば、それは、いろんな面で引っかかりを感じているというんでしょうか、この結論に対して社会的に正当ではないのではないかという感覚を、恐らく皆さん共通して持ったから、そういう帰結になるのだろうと思います。そのことを信頼しなければいけないと私は思うのですけれども。むしろ、法律家の方に信頼していただきたい。
 そういうところまで放っておくのではなくて、そのもっと前の段階で検察官の意見を聞いたり、二段階論だとかいろいろあるわけですから、証拠がないのだったら出されるようにしなければいけないし、そういう作業をすることが検察審査会の役割でもあり、リーガルアドバイザーの役割なのかもしれないと思うのです。
 むしろ、こういう壁があるなら壁があるということをはっきり言っていただいて、それがどういう手段を尽くしたら克服できるのかということを言っていただくということの方が大事なんだと思います。まさに、池田委員が言われるとおり、法律家がいる意味というのは、そういうことなんだと思います。
 ただ、私が思うのは、法律家が言う意見というのは、やはり決定的な意味を持つんだろうということです。ですから、そういう意見を言うにしても、たたき台の書き振りではなくて、逆の、反対側から書くような書き方がないかと思います。例えば、検察審査会の議決を誘導するような意見を言ってはいけないと、特に、ここの審査に係る事件の事実認定上及び法律上の問題点の整理というところにかかわるんだと思うのですけれど、そのほかは余り問題はないと思うんですけれども、そういう事実認定と法律上の問題点について、結論を誘導するような意見を言ってはいけませんと、そういう働きかけをしてはいけませんと、そういうやってはならないことを法律上にきちんと書く、あとは全部必要なことなんだから必要なことはできますという書き方をしておいたらどうかなと思ったりもします。
 是非、素人を信頼していただいて、その上で議論を組み立てていただいた方がいいのではないかと思います。

○髙井委員 今の、信頼してもらいたいというのは、両方の意味があると思うのですけれども、要するに、しっかりしているんだから、アドバイザーが結論にわたる意見を言っても、むやみに左右されることはないから、そんなことは心配しないで、プロはプロとしての結論的な意見まで言ってもらってもいいんですよという趣旨なのか、それとも、プロのアドバイザーに何も言ってもらわなくてもちゃんとした結論を出せるから、そんな意見にわたるものまで言ってもらう必要はないですということなのか、どちらでしょうか。

○土屋委員 そうではなくて、私の意見は、むしろ前段の方で、結論的に起訴相当で起訴しなければならなくても、裁判所で無罪になる場合は相当多いのだろうと思います。ですけれども、それも一種の制度のリスクであって、最初からそれを法律家が見たら分かったではないかと、証拠もないし、法律上の問題点も最初から明らかではないかと、それなのに起訴しろということを言ったら無茶じゃないかという意見があるのは分かるのですけれども、この検察審査会法ができたときから、この制度が持っているリスクなんだろうと思います。そういう趣旨です。

○髙井委員 リーガルアドバイザーが結論的な意見まで言ってしまうと誘導することになるから、そもそも意見を言うこと自体がいけないのだという考え方は、多分、裁判員裁判における裁判官と裁判員の数の関係のときとは違うことを想定しているわけです。裁判員裁判のときには、そういうことはみんなで評議しているのだから、裁判官が何を言ってもいいんだと、協働してやりましょうと言っているわけですね。
 にもかかわらず、検察審査会の参加者に限っては、リーガルアドバイザーが何か言うと、全部それになびいてしまって、結局意味がないのではないかという議論がされるとなると、それはおかしくないかなという気がします。
 そういう意味では、今、土屋委員が言われたように、リーガルアドバイザーは別に評決権はないわけだから、参考意見として、何を言ってもいいのではないですかと、その意見はそれとして、ちゃんと一般人は一般人の良識で判断しますという考え方も、すっきりして分かりやすいなと思います。

○井上座長 そこは、微妙ですね。参考意見なら言ってよいけれど、結論を誘導するような意見は言ってはいけないというのは。言葉ではそういうふうに書き分けられるとしても、実際の区別となるとなかなか微妙になりませんか。

○髙井委員 土屋委員の意見は、仮にアドバイザーが誘導しようとしたとしても、そんなものは一般人は誘導されませんと、その辺のことは信頼してくださいという御意見ではないんですか。ただ、リーガルアドバイザーの姿勢としては、結論は言うのはいいけれども誘導はしてはいけませんと書くべきだと。

○井上座長 仮に踏み越えられても、そんなものは影響しないということですか。

○髙井委員 はい。

○本田委員 非常に微妙で悩ましい問題だと思うのですけれども、私自身は、基本的には一定方向に誘導するようなことをリーガルアドバイザーは言うべきではないだろうと思います。やはり検察審査会のメンバーではないのですから。
 ただ、確かに、先ほど髙井委員の方から問題提起されているような事案で、これで起訴だと言われると、これもつらいと思います。
 今後慎重な検討が必要だと思うのですけれども、そういう起訴すべきでないことが明白なものについてネガティブなチェックをする場合に、何か制限的に認めるということができるならば、一方では被告人の利益の問題があるわけですから、できるならその可能性を探ってみるということもあるかもしれません。しかし、ここは、難しい問題であり、すぐには結論が出ないですね。

○井上座長 確かに、ネガティブ・チェックと言われるとそうかなとも思うのですけれども、では、明らかな場合というのはどういう場合なのか。本当に明らかといえるのかという、先ほどの問題に戻ってくることになりませんか。

○本田委員 評価の問題がどうしても入ってくるので、やはり難しいのかとは思いますけれども。

○井上座長 問題点はかなり明らかになったと思いますので、ここで、先ほど大出委員が提起された、リーガルアドバイザー自らの判断ではなく、検察審査会の方から意見を求められた場合、例えば、我々はこの点について悩んでいるのだけれども、あなたは専門家としてどう思いますかと聞かれたような場合に、リーガルアドバイザーが意見を言ってよいかどうかという点については、いかがでしょうか。
 この問題については、むしろ、犯罪の成否がはっきりしないような場合が想定されますが。

○髙井委員 聞かれたら当然答えていいということになるのではないでしょうか。アドバイザーどうですか、これを起訴して有罪になりますかと聞かれたときに、それは私は言えません、自分たちで判断してください、ということになると、これでは、リーガルアドバイザーがいる意味がないのではないかと思います。

○井上座長 ただ、リーガルアドバイザーの権限として、仮に一般的には、実体判断にわたる意見は言ってはいけない、そういう権限はないものと定めてしまいますと、そもそも権限がないわけですから、そのような意見を求めることすらできないのではないかということが問題とはなり得るように思います。また、議論のための議論として言えば、検察審査員が安易にリーガルアドバイザーに依存してしまわないか、自分たちの責任で判断しないといけないのに、安易にリーガルアドバイザーに答えを求めることになるのではないか、という問題もあることを指摘できるように思います。そうなってきますと、先ほどの一連の問題意識とつながってくるのです。
 問題点はそういうところだと思うのですが、それらの点も踏まえて御議論いただきたいと思います。

○髙井委員 リーガルアドバイザーの個性というか、やり方にもよるわけです。その問題は、もう少し自分たちで考えてください、最終的には私の意見も言いますから、というような答え方もあるでしょうし、すぐに質問に答えてしまう人もいるかもしれませんが、そういう実務的な対応で解決されるという部分もあると思います。
 ただ、制度としては、聞かれても意見を言ってはいけないというようなことになってしまうと、これは本当に意味がないのではないかなと思います。リーガルアドバイザーが自分から進んでああだこうだと言うのはいけないけれども、検察審査員の方が本当に悩んで困って、どうですかと聞いてきたときに言えませんというのは、制度としておかしくないかということだと思うのです。

○井上座長 逆に、リーガルアドバイザーの立場としては、非常につらい立場に立つかもしれませんね。自分の答えが決定的になりますから。

○髙井委員 それはそれでやむを得ないのではないですか。
 また、先ほどの土屋委員の御意見であれば、意見は意見として聞き、検察審査会が独立して判断されるということになるんではないでしょうか。

○井上座長 それは前提と矛盾してこないですか。

○辻参事官 先ほど、裁判員制度との比較がありましたけれども、裁判員制度の場合は、裁判官というプロの人間が、正式なメンバーなわけですが、検察審査会制度では、そもそもの構成上、非専門家だけで組織するという前提があるから、リーガルアドバイザーが意見を言っていいか悪いかということが問題になるということであり、そもそもの構造が違うので、単純に比較することは難しいのではないかという気がしますけれども。

○髙井委員 私が先ほど申し上げたのは、そういう制度のことを言っているのではなくて、その制度を考えるときの人間像がずれていませんかということです。片方は正式のメンバーだし、片方はメンバーではないのだから、それは分かるのです。ただ、言える言えないの理屈を立てるときの、人間像がずれているでしょうということです。

○井上座長 人間像というのは、一般の方から選ばれた人たちの人間像ということですね。

○髙井委員 そうです。一般の人たちの人間像です。要するに、片や専門家に言われても独立して判断ができるという人間像が前提とされ、こちらで議論されているときには、リーガルアドバイザーが何か言うとすぐそっちになびいてしまうという独立性のない人間像が想定されているように見え、制度を考えるときに、その人間像に乖離があっていいのですかということを言っているわけです。

○辻参事官 あえて申し上げると、検察審査会の制度を考える場合でも、両方の人間像を多分考えなければいけなくて、リーガルアドバイザーが何か言ってしまうとなびいてしまう人もいるでしょうし、逆に、起訴すべきではないことが明らかな事件について、リーガルアドバイザーが、法律上の問題点はここです、こういう問題があるんですと言っても、そのアドバイスを聞こうとしないで、あえて起訴してしまおうとする人もいるでしょう。その両方の危険があると、つまり、その両方の人間像を想定しないといけないのではないかという気がするのですけれども。

○髙井委員 今の参事官の御意見は、リーガルアドバイザーを考える上での人間像ですね。

○辻参事官 そうです。

○髙井委員 私が先ほど裁判員裁判のことを言ったのは、裁判員裁判においては、裁判官が何か言ったら裁判員がすぐなびいてしまうかどうかと、これは裁判員裁判をやるときにまた議論になると思いますが、裁判官はメンバーだから言う言わないではなくて、裁判官が何か言っても、しかしそれとは別にきちんと判断ができるという人を大体中心的に想定されていますね。

○井上座長 ただ、そこも微妙な問題で、余りやり過ぎたら、裁判員が実質的判断ができないということも言われているわけです。ですから、その辺をどう制度設計するかということなのですが。

○髙井委員 ただ、私が言っているのは、今の最初の議論が、メンバーではないから余り言ってはいけませんよということではなくて、何か言うとすぐになびいてしまうから言えないのではないかという意見があったから、そういう言い方をしていると人間像が乖離してくるからよくないんではないですかということを申し上げたわけです。

○酒巻委員 大出委員の御質問で、リーガルアドバイザーに質問があったときにどうするのですかということなのですけれども、私が先ほど述べた意見との整合性をとるとすれば、一つは質問の内容にもよるのだと思うのです。
 ここのたたき台に書いてあるような、法律がどうなっていますかとか、判例はどうですかという部分の質問だったら、説明しても問題ないと思います。しかし、ぎりぎりのところで、最終的に検察官の不起訴処分が相当かどうかを決めるのは検察審査会であり、リーガルアドバイザーは検察審査会のメンバーではないですから、起訴が相当かどうかについてどう思いますかというような結論部分の質問はもちろん、その結論の前提になる、個別の事実の認定や、証拠の評価についてどう考えたらいいんでしょうかというような質問については、検察審査会の構成員が判断すべきことであり、リーガルアドバイザーとしては、そのような質問をされても、それはあなた方の判断するべきことであると言って、その点についての意見を述べるべきではないという整理になると思います。

○大出委員 そうすると、先ほどの髙井委員の例でいくと、これは法律的に事件を構成することになるのかどうかという質問をされたときには、今の酒巻委員の意見だとどういうお答えになるんですか。

○酒巻委員 現在の判例や学説の立場によると、こういう条件であれば、過失がないという判断になる、というところまでは説明として言っていいのではないかと思います。それは、先ほどの池田委員の意見とそれほど変わらないと思います。しかし、更に進んで、あなた方検察審査会は、この事件についてこうすべきだというところまで、私はこの事件についてこう思いますというところまで言うことはできない。ただ、その仕分けは微妙ですけれども。

○池田委員 私は、そこで、権限として何か仕切りを設けるというのではなくて、やはりここは、現行の専門的助言者というのがどこまでできるかというのも、余り解釈上はそんなに明確ではないと思うのですが、やはり助言と書いてある以上は助言ができるにすぎず、判断者ではないわけですから、判断者をリードするようなことは助言とはいえないと思います。
 ですから、助言者として助言を求められ、法律家としてこれは解釈上どうなるでしょうかと、助言を求められている以上は、結論的なことを言っても構わないと思うのです。最終的には、土屋委員も言われたように、検察審査員が、健全な常識で判断されれば、その助言を採用するか採用しないか決めることができるわけですから。
 このリーガルアドバイザーという言葉が、法律になったときに、どういう言葉になるのか、このままの言葉になるのか、日本語に直るのか分かりませんし、また、アドバイザーという言葉だと、助言より広い含みが入ってきて少し問題があるかなと思うのですが、助言という言葉であれば、制約はおのずとあるのではないかという気がするんですけれども。

○井上座長 土屋委員どうぞ。

○土屋委員 私は、今、アメリカの陪審裁判のことを思ったのですけれども、評議の段階だと、陪審員だけ集まって結論を出しますね。別席に移りますね。これと同じような形で、リーガルアドバイザーがどこまで同席するのかという問題があろうかと思うのです。
 前段の段階で、みんながいろんな意見を闘わせて、事実を確認して、何が問題かという討議をして、まさに助言を求める段階は、リーガルアドバイザーがいてもいいけれども、最後に結論を出す段階は別に考えるというのは、そういうこともあり得るのかなと思ったりしているのです。
 そうすると、助言者が結論を誘導することになるかどうかという、その影響力を排除した方がいいという問題というのは、そういう席を移すと、何かワンクッション置くということによって、ひょっとするとクリアできるのかどうなのか、そんなことを考えたりしたのですけれども。どうなのでしょうか。

○四宮委員 助言性を担保する一つの制度になると思いますね。

○井上座長 それがどこまで実効性があるかという点は、議論の余地があるかもしれませんけれども。

○平良木委員 私は、結論から言うと、たたき台に書いてある程度のことでいいので、このことを前提にして、今の場合どうしなければいけないかということまでここで明らかにしておかなければいけないのかどうかというと、必ずしもその必要なく、むしろ、その点は、言ってみればリーガルアドバイザーの良識に任せるといいますか、その程度で足りるのではないかという気がするのです。

○井上座長 ありがとうございました。
 次に、もう一点議論していただかないといけないと思っていることなのですけれども、仮に、リーガルアドバイザーの職権に限界があるとして、それをはっきりした形で規定しておくのか、リーガルアドバイザーの良識に任せるのか、あるいは解釈に任せるのかという違いはあるのでしょうが、そのような限界を踏み越えさせないようにするために、どのような措置があるのかということについて議論していただければと思います。この問題は、リーガルアドバイザーが仮に限界を踏み越えたときにどうするのか、踏み越えたかどうかの判断をどうするのかということとも結び付いてきますが、そういう権限を越えた行為をしないようにするために、ではどういう措置があるのかということです。

○平良木委員 そのときには二つあって、一つは、そこのところを罰則的なものでもって対処しなければいけないというと、確かに、リーガルアドバイザーがどこまでできるかということをはっきりさせておかないと、これは構成要件上問題になってくると思います。

○井上座長 リーガルアドバイザーに罰則をかけるということですか。

○平良木委員 仮に、そうするのであればということです。
 もう一つは、そうではなくて、リーガルアドバイザーが権限外の行為をしたときに、いわゆる決議無効に持っていくのだとすると、これもやはりある程度のことは明らかにしておく必要があるだろうと思います。
 ところが、そこのところを全くいじらないのだということになるとすると、これは、ある程度のことは、裁量にゆだねられているというふうに考えることは可能なので、そういう法律的な効果に結び付かないんだとすると、今の程度で足りるのではないかということです。

○井上座長 もう一つの考え方として、権限を明確に規定することによって担保する。もちろん、規定しても無視されてしまえば意味がないのですけれども、明確に規定することによってかなり制御できるのではないかという考え方はあり得ると思うのですが、その点はどうですか。

○平良木委員 あり得ますけれども、これでいいと言ったのは、要するに、先ほどから出ているように、リーガルアドバイザーというのは、やはり、審査員ではなくてリーガルアドバイザーなんだということだとすると、おのずから一つの制約があるはずだろうし、審査の場ではいろんなことを言うけれども、決めるのはあくまでも審査員なのであって、リーガルアドバイザーではないというところが踏まえられていれば、やはり、当然、助言的なものにとどまっていくだろうということです。

○井上座長 分かりました。この点は、これくらいでよろしいですか。
 リーガルアドバイザーに関して、これまで御議論いただいたことのほかにも検討すべき事項があるとか、あるいはこうすべきだという御意見があれば伺っておきたいと思うのですが。
 先ほど、清原委員は、仮に訴訟追行を指定弁護士がするとすれば、それがリーガルアドバイザーと一致するのかどうかという問題点を出されたと思うのですが、なお補充して御意見があれば、伺いたいと思いますけれども。

○清原委員 裁判の迅速化とか、あるいは、検察審査会とその後の公訴提起の問題などを考えますと、一致するというのは一つの選択肢だと思うのですが、反面、そういうことにしてしまいますと、やはり、法律的な専門家であるリーガルアドバイザーの方が、起訴が相当であるという結論を誘導して自ら起訴状を書くというような誤解を招くおそれがあるのではないか、一方的にそういうふうに誘導したのではないかというような印象を持たれるおそれがあるのではないかということもあると思います。そうすると、先ほど議論されましたように、公正らしさという点を考え、訴訟追行を担当するのが、検察官の方ではなく、指定弁護士の方がいいとなったのと同じように、今度はリーガルアドバイザーと指定弁護士との一致がもたらす公正らしさの薄れがないかどうかを考えなければいけないなということなのです。
 ただ、一方で、裁判の迅速化とか、公正な裁判のことを考えると、一致する選択肢もあり得るので、この辺りはまだ私は判断がつきませんが、多面的に見ると問題があるかなと思います。

○酒巻委員 今の点ですけれども、先ほど検討したようなぎりぎりの限界事例はともかく、通常の事件で、リーガルアドバイザーがいて、起訴相当の結果になったというような場合には、そのリーガルアドバイザーは、当然ながらその事件についてアドバイスをしたということから、事件のことをよく認識しているわけです。そこで、その方が、そのまま指定弁護士になられて訴訟追行を担当するというのは、合理的な運用だと私は思います。
 ただ、必ずそうしなければならないというように法律に規定するまでの話ではないと思います。運用として、リーガルアドバイザーが指定弁護士になるようにすることは、先ほど来出ている、裁判の迅速化ということだけではなく、よく事実関係を知っている人がそのまま訴訟追行するということになり、合理的な運用ではないかと思います。

○井上座長 法律の規定で、必ずリーガルアドバイザーが指定弁護士になるものとするということにしては、なぜいけないのですか。

○酒巻委員 法律としてそういうふうに決めてしまうと、いろんな事情で、リーガルアドバイザーが更に指定弁護士をすることができない場合に困るのではないかと思います。

○井上座長 職務が続けられないということですか。

○酒巻委員 はい。その点を考えると、そこまでリジットにすると、かえって、うまく制度が動かせないような事態が出てくるような気がします。

○井上座長 分かりました。どうぞ。

○髙井委員 リーガル・アドバイザーについては、除斥事由ですね。これは、やはり考えておかなければいけないと思います。
 特に、狭い地方に行くと、弁護士の数が少ないですから、いろんなところに利害関係があるという場合がありますので、その辺のことは詰めておかなければいけないと思います。

○池田委員 検察審査会法38条に専門的助言者という規定があるものの、余り活用されていない。その理由の一つには、専門的助言を求める人を呼ぶにしては、十分な手当が払えないということがあるらしいのです。そういう意味では、先ほど出ました指定弁護士の手当の金額の話ではないですけれども(笑)、リーガルアドバイザーにも、そういう配慮も必要ではないかなと思います。そうなれば、検察審査会の方で呼びたいというときに呼んで、十分活用していただけるのではないかと思います。

○井上座長 現行制度では、何を根拠に、報酬とか手当を払っているのですか。

○池田委員 余りよく分かっていないんですけれども。

○辻参事官 政令です。

○井上座長 証人に準ずるようなものですか。

○辻参事官 そうです。

○井上座長 今資料を見せてもらいましたが、検察審査員等の旅費、日当及び宿泊料を定める政令に基づき、検察審査会の証人と同様の報酬等が給付されるということですね。

○四宮委員 幾らですか。

○井上座長 1日当たり8,200 円以内の日当のほか、同政令所定の旅費、宿泊料が支給されるということになっているようです。

○四宮委員 ありがとうございました。

○平良木委員 除斥事由を考えるのはいいけれども、結論的に言うと、そこまで必要はないだろうという気がします。要するに、リーガルアドバイザーは、結論を出す人ではなくて、あくまでもアドバイザーなのだというのが前提としてあると思うのですけれども。

○髙井委員 でも、地方に行ったら、やくざの顧問弁護士のような人もいますよ。

○平良木委員 それは、いろいろいますよ。だけど、その人がリーガルアドバイザーになるとは限らないじゃないですか。

○井上座長 よろしいですか。先を急ぐようですけれども、まだまだ検討しなければならない事項はたくさんありますし、大分予定の時刻を超過しそうですから、御発言はなるべく簡潔にお願いしたいと思います。
 次に、検察審査員の義務や解任の在り方、罰則、検察審査員の欠格事由等の見直しという項目に移りたいと思います。
 これらの点に関しましては、たたき台では具体的な案は示されておらず、裁判員制度に関する検討結果を踏まえて、この点も検討するのが相当だろうということですが、私も、そのような考え方で行くのが妥当なのではないかと思います。ただ、せっかくの機会ですので、そもそも、検察審査員の義務、解任の在り方を検討するということ自体、あるいは、現行の罰則、これは現行の検察審査会法でも罰則が付いているわけですが、そういう罰則や現行の欠格事由等を見直すこと自体必要であるかどうかといったことをも含めて、御意見や、あるいは今後検討していく際に、こういう点に注意をして議論した方がいいのではないかとか、こういう点も取り上げた方がいいのではないかといった御指摘などがあれば、出していただいて、この段階でも、ある程度議論しておくことは有益ではないかと思いますので、いかがでしょうか。

○土屋委員 二つほどあります。一つは質問で、もう一つは私の意見です。
 質問は、罰則なんです。私は、現行の検察審査会法の罰則の適用例というのはどのぐらいあるのか一生懸命調べてみたんです。結果的には無駄な努力で、報道されているようなケースは全然見つかりませんでした。
 ですけれども、この罰則があることが、一体どういう意味があるのかということを考えるに当たって、現実的に適用事例がどのぐらいあるのか、そういうことを知っておく必要があるだろうというふうに考えますので。

○井上座長 具体的には、検察審査会法に三つの罰則の条文があって、43条は、検察審査員や証人等が、正当な理由がなく、招集・召喚に応じないとか、宣誓を拒んだという場合についての罰則です。そして、44条が秘密を漏らす罪、45条が不正請託罪をそれぞれ処罰する規定であり、43条と44条は検察審査員が一定の行為をした場合についての罰則であるのに対して、45条の方は、検察審査員に対して不正の請託、働きかけをしたという場合の罰則になっています。
 この三つの罰則についてということでしょうか。

○土屋委員 そうですね。それぞれ、どの程度の事例があるのかということです。

○井上座長 適用事例ですね。

○土屋委員 はい。

○井上座長 これは、裁判所の方でお分かりですか。

○最高裁判所(今崎幸彦刑事局第一課長) 43条1項1号では、検察審査員又は補充員が、正当な理由なく招集に応じない場合ということが規定されているわけでございますが、この場合に、検察審査会長が過料の制裁を科するよう管轄裁判所に通告した例として、13件をこれまでに承知しております。このうち、過料の制裁を実際に科された者は8人であり、残りの5人は不処分ということになっているようでございます。
 過料に処せられた8人のうち、直近の例は昭和46年のものであります。
 それから、43条1項2号で、検察審査員又は補充員が宣誓を拒んだということが、やはり挙がっておりますが、これは1件だけあって、このときは1人が過料の裁判を受けております。これは昭和48年の例でございます。
 それから、43条2項によりますと、召喚を受けた証人が正当な理由なく召喚に応じないという場合が挙がっておりますが、その場合には、同様に通告がされた例が8件ございまして、うち過料の制裁を科された者は7人、不処分は1人となっております。過料に処せられた例で直近のものは、昭和46年になります。
 それから、44条でございますが、会議の模様を漏らしたという秘密漏洩では、昭和40年に1件不起訴になったという例を承知しております。しかし、44条2項の例は承知しておりません。
 それから、45条の不正の請託という例は、昭和39年に4件不起訴になったという例を承知しております。その例では、嫌疑なしという理由で不起訴になったというふうに聞いております。
 ただ、44条、45条の関係は、自動的にすべてこちらの方に報告が入るというシステムに必ずしもなっておりませんので、ほかになかったかということは、必ずしも全件こちらが承知しているわけではないということです。
 以上です。

○井上座長 裁判所に報告があった限りにおいては、そういう数字だということですね。

○最高裁判所(今崎課長) そのとおりです。この資料の方は、検察審査会長の方から管轄地方裁判所の方に報告するようになっておりますから、一応分かるようになっております。

○井上座長 それでよろしいですか。

○土屋委員 結構です。44条2項の報道関係の実例が一つもないというので安心しました。

○井上座長 少なくとも報告された限りでは、ということです。

○土屋委員 そういうことです。今の件はそれでいいのですが、もう一つ意見として、考えていることがありまして、言わせていただきたいと思います。それは、検察審査会の制度の中で、私が一番大事だと思うのは、審査員の確保の問題だということなのです。出頭の確保と言うのでしょうか、実は、推進本部事務局でパブリック・コメントを集めたときに、東京第一検察審査会と札幌検察審査会の事務局長の方が、それぞれ御意見を寄せていらっしゃいます。
 これを拝見して、私はもっともだと思ったのですが、お二人とも、出頭の確保にすごい苦労をされていて、本当に涙ぐましい努力を審査会の事務局がしていらっしゃるというのが分かりました。
 大体、11人を確保するのは非常に大変で、ぎりぎりの人数で審査会をやったりしている事例が幾つもここに書かれていて、こういう、出頭ができる状態をつくることが、検察審査会制度であっても非常に重要だなというふうに私は感じています。
 その上で、これはお願いなんですが、東京第一検察審査会の事務局長さんが、現行法の改正を検討する際に、4点の検討をしていただきたいということを言っていらっしゃいます。
 一つは、辞退事由に挙げてある60歳以上という年齢です。これを70歳程度まで引き上げて、高齢者を活用していただかないと、審査員が確保できないということを一つ言っていらっしゃる。
 二つ目は、審査員の職務を辞める人が結構いて、そういうように職務を辞した場合に、その補充を認める、そういう手続を設けて欲しいということを言っていらっしゃいます。
 三つ目は、管轄区域外に転出したり、あるいは離島のために来れないというような人については、そもそも、選挙管理委員会が検察審査員候補者を選定する際に、最初から名簿から除外できるようにしてほしいということを言っていらっしゃいます。
 四点目は、補充員の数を、11人ではなくて、20人から30人ぐらいまでにして確保しておいてほしいということを言っていらっしゃるんです。これは、私は非常に重要だと思います。離島の方の場合だと、検察審査会1回のために2泊3日で出てくる方がいらっしゃるということが書いてあって、大変だなと思いました。
 札幌も同じようなことが書いてありまして、実は、札幌から岡山に転出した方が審査員に当たってしまったと。しかし、その方は、岡山から毎回通ってきてくださったそうです。そういう事例が書いてあります。
 札幌の検察審査会の事務局長の方も同じような問題点を言っていらっしゃいまして、出頭が不能な方とか、そういう人はもともと最初から予定者から除くとか、選定のやり直しができるような手続をしてほしいということを言っていらっしゃるんです。
 私は、二つの意見書を拝見して、もっともだなと思うような内容なものですから、この辺りを是非この中でも考えていきたいと思います。
 私からは以上です。

○井上座長 土屋委員から今いくつかの問題点の指摘がありましたが、その点についてでも結構ですし、別の点でも結構ですので、御意見をどうぞ。

○清原委員 今、土屋委員がおっしゃったところで、私も同様の認識を持っておりまして、これは、検察審査会の審査員をお願いすることだけではなくて、今後、裁判員制度の裁判員の方をお願いするところと同じだと思うのですが、(4)の欠格事由等の見直しで、「裁判員制度における検討を踏まえ、見直すものとする」とありますが、まさに、そこに関連する御意見だと思います。年齢の問題、それから職業の問題、そういうことについては、非常に多くの方が参加しやすいような方向にしていただきたいのと、「欠格事由」という表現自体も、これは前にも申し上げましたが、余り好ましくない表現なので、「忌避」とか「欠格」という用語は、ちょっとふさわしくないなと思いまして、できる限り、両制度とも、多くの国民の方が参加いただけるように見直すということを私も提案します。

○井上座長 裁判員のところで検討していただいて、それを踏まえてこちらでも更に検討するということなのですが、先ほど土屋委員が紹介された意見の中で、管轄区域外に転出したという場合については理解できる気がするのですが、離島に住んでおられる方の場合には、最初からあなたは検察審査員になれないものとするべきだというお考えですか。除外にするほかに、辞退とか免除を認めるという方法もあるように思うのですが。

○土屋委員 そうですね。最初から抜けてしまうというのは、私はいかがなものかと思います。先ほどお話ししたみたいに、実際に、離島の方でも、泊まりがけで来ていらっしゃるケースがあるのです。そこまでして来てくださると。

○井上座長 そういう人に最初から来るなと言えるかどうかですね。

○土屋委員 そこを除外にするというのは行き過ぎだと思います。

○井上座長 そこもまた裁判員のところで御議論いただくということで、問題点だけ指摘させていただきました。
 ほかに御意見があれば、どうぞ。

○四宮委員 私も、国民が参加しやすい方向に、今議論になった資格も含めて、特に2の(4)まで含めて議論してよろしいんだとすれば、職業による制限は非常に多くありますので、そこも含めた見直しが必要だと思います。
 ということで、今度は、検察審査員の義務、解任等が出たのは、起訴相当という法的効果を与える方向での権限強化ということとの関連で出てきたのかもしれませんけれども、少なくとも現行法以上に新たな義務を課したりすることには賛成できません。
 逆に、今度は、例えば、秘密を漏らす罪の内容で、これは日本の陪審法をそのまま持って来たのかもしれませんけれども、例えば、一般的に会議の模様を、また各委員の意見となっていますけれども、もちろん、他の審査員の意見ですとか、具体的な議事の内容について明らかにするということに制限がつくのは当然だと思いますが、すべて44条で禁止をするということがいいのか。これは、裁判員と報道の関係でも以前に土屋委員が指摘された部分とも関係しますけれども、この構成要件についても、例えば、当人の意見とか、当人が例えば審査員を経験した感想ですとか、そういったものが国民に伝えられるということは、むしろプラスという面もあると思いますので、そこも裁判員の検討のときということになるのかもしれませんが、併せて検討していただきたいと思います。

○井上座長 一般の合議の秘密との関係とか、そういうことですね。
 もう一つ、少し触れられましたが、解任につきましても、今日は踏み込んで議論はできないと思いますけれど、この点も、論点ではありますので、裁判員のところでまず検討し、それを踏まえて、検察審査会の方も同じでよいのかどうかという形で御議論をしていただければと思います。
 ほかに、この点について御意見がなければ、次の2(5)の「付審判請求手続との調整」という項目に移らさせていただきたいと思います。
 かなりお疲れとは思いますが、次回以降の検討との関係もありますので、もう少し御協力いただければと思います。
 この問題につきましては、事務局から説明がありましたように、裁判所の付審判決定によって公訴が提起されるということが現行法ですが、今回の改正によって、検察審査会の起訴相当の議決に基づき公訴が提起され得ることにもなるということから、二つの制度の間において、何らかの調整規定が必要になるのではないかという趣旨で、この論点が提示されているわけです。
 そのうち、まずアの論点から御検討いただきたいのですけれども、これは、検察審査会への審査申立てについて期間の制限を置くかどうかということです。
 この前の事務局の説明では、今回の改正によって検察審査会の議決に基づき公訴が提起されることになりますと、付審判請求の制度にしても検察審査会制度にしても、検察官の不起訴処分に対して、私人の申立てによって手続が開始され公訴提起に至ることがあるという点では変わりがない。特に、被疑者の立場から見ると変わるところがないのに、一方の付審判請求については期間が定められており、検察審査会に対する審査申立てについては期間の定めがないというのは制度間のバランスを失するきらいがあるのではないか。そういうことが、この論点を提示した趣旨だということです。そういうことをも踏まえた上で、御議論いただければというふうに思います。

○酒巻委員 この点につきましては、私は、A案の、検察審査会に対する審査申立期間は定めず、今のままでよいと思います。
 座長から説明がありましたとおり、B案は、検察審査会の判断の一部に法的拘束力が認められるようになることを理由にして、付審判請求手続とのバランスから、新たに審査申立期間を設けるというわけですが、私は、それが果たして妥当な立法政策であるか、疑問を感じております。
 確かに、事務局の説明にもありましたとおり、付審判手続と検察審査会を、一般的、抽象的な次元で対比して、検察官の不起訴処分を突破して私人の申立てにより起訴される可能性が生じるという被疑者の立場だけに着目しますと、一方に申立期間があるのに、他方については結局時効まで私人から検察審査会に持ち込まれて更に起訴のおそれがあるという浮動状態に置かれるのは、バランスを失しているように見える。しかしこれは、理論的に必ずB案のようにしなければ筋が通らないという話ではなくて、立法政策の問題でしょう。立法政策の問題であるとすれば、ほかにも着目しておく点は幾つかあるのではないかと思います。
 それを幾つか述べますと、まず、申立期間の制限を設けると、当然ながら、検察審査会に申立てを行おうとする人、それは先ほどから話が出ていますとおり、多くは犯罪被害者や、その遺族であり、そのような立場の人に対して、一定期間内にかなり切迫した形で申立てをするかどうかの決断を迫ることになる。それが、特にこのような立場の人にとって適切かどうかということも考えなければいけないと思います。
 また、これまでは何も期間の制限がなかったところに期間制限を持ってくるということになりますと、これが申立てを萎縮する方向に働くのではないかという感じがしますので、やはり、今まで制限がなかったものを制限するという場合には、慎重を要するのではないかと思います。
 もう一つは、検察審査会の事件は、付審判のように必ず裁判になるかそうでないかという二者択一の結論に至るわけではなく、検察審査会に申立てをすれば、不起訴相当とか、不起訴不当という議決で終わる事例の方が、恐らく今後もはるかに多いのだろうと思います。それは、確かに、起訴の効果に結び付くわけではなく、したがって、被疑者の立場に変動を及ぼすわけではありませんけれども、検察審査会の本来の役割である、検察官の不起訴処分に対して民意の反映を求めるという制度が的確に作動したという点において、これまで同様に大いに意味があるということだと思います。それを、拘束力ある議決部分と付審判とのバランス論だけで申立期間の制限を設けるということになりますと、やはり、状況によっては申立て自体を萎縮させる方向に作用するのではないか。もしそうだとすると、それは適切ではないと思います。
 それから、申立期間の制限を設けるということは、その前提として、期間の始期を明確にして、申立権者に対して十分にこれを認識して考える余地を与える必要があるわけですから、申立権者に対し、不起訴処分があったということの通知を徹底しなければ適切ではない。しかし、付審判とは違って、検察審査会への申立権者というのはもう少し広い。その点で、十分に通知や知る機会を与える制度がうまく働くことになるのかどうか、やや疑問があると思います。

○井上座長 最後に言われました、申立権者の範囲が広いというのは、被害者で告訴まではしていない人も入っているということですか。

○酒巻委員 はい。

○井上座長 分かりました。そのような御意見ですが、他の方もどうぞ。

○本田委員 私は、やはりB案で、一定期間内に審査申立てを行うものとする、そういう意味では期間制限を設けるべきであると思います。
 今、酒巻委員の方から、これまで期間の制限がなかったのに、新たに制限するというのは萎縮させるのではないかという話がありましたけれども、要するに、これまでとは、検察審査会の議決の効力が全く違ってくるわけです。今までは拘束力がなかったのですが、今度は拘束力があるようになったということです。そこを考えていくと、事務局の論点提示の趣旨説明にもありましたように、一方は期間の定めがある、一方はないというのはどうしてもバランスが悪いという感がします。
 それから、審査申立権者に対する不起訴処分の通知等をきちんとしなければいけないという点は、現在でも、申立権者のうち、告訴人、告発人、請求人に対しては、刑訴法260条により不起訴処分の通知をしなければならないことになっておりますので、これらの場合には、当然通知されることになります。
 また、現在の実務上の運用として、希望があれば、そのほかの人についても不起訴処分の通知がなされているのです。

○井上座長 そのほかの人とは、だれのことですか。

○本田委員 犯罪の被害者やその親族等についても、運用によって、希望があれば通知をするようになっております。
 ですから、審査申立権者が、不起訴処分がなされたことを知った日から一定期間に申立てを行わなければならないという制度を取ったとしても、十分機能するのではないかと思います。
 いずれにしても、一方の制度では期間があり、他方の制度では期間がないというのはバランスが悪いという気がします。

○髙井委員 私も、結論的にはB案なんですが、やはり、起訴議決に拘束力があるということになりますと、被疑者の身分が非常に長期間にわたって不安定化するということを考えると、一定の期間的制限を設けなければいけないかなというふうに思います。
 ただ、性的犯罪の被害者については、告訴期限が撤廃されていますね。それとの関係で、性的犯罪の被害者についても申立ての期間の制限をかけるべきかどうかについては、もう少し考えなければいけないと思います。

○井上座長 告訴期間を撤廃したとき、髙井委員も参加されていた法制審議会の刑事法部会で議論したと思うのですが、その趣旨は、性犯罪の被害者の場合、被害を受けたことによるトラウマがずっと続いていて、そこから解放されるのに随分時間がかかるからということでしたね。
 しかし、検察審査会への審査申立については、被害者は既に告訴している場合のことですので、少し前提が違うのではないでしょうか。ですから、不起訴になった場合には、一般の事件の被害者と同様に、すぐ検察審査会へ審査申立てをするかどうかの判断をすることはできるのではないかとも思われるのですが、その辺は、被害者に接してこられた方としてはいかがですか。

○髙井委員 今の座長のような考え方も十分成立し得ると思います。ですから、告訴期間は撤廃されたけれども、それとはやはり違うんだから、検察審査会への審査申立てについては期間制限を設けるという考え方も十分成立するとは思います。

○井上座長 ただ、慎重に検討した方がいいということでしょうか。

○髙井委員 いずれにしろ、検討した上で結論を出す必要があると思います。

○井上座長 分かりました。どうぞ。

○池田委員 B案の意見の方は、被疑者の地位の安定ということを言われましたが、検察官の不起訴処分には拘束力がないから、今でも、検察官は、いったん不起訴処分とした事件について、公訴時効が完成するまでは、いつでも起訴することができるわけです。それとの関係はどうなるのですか。
 仮に、検察審査会へ申立てがあって、そして検察審査会でも起訴相当にはならなかったという場合には、検察官も何もできなくなるわけですか。

○髙井委員 理論的には再起訴をすることができますけれども、実務上、いったん不起訴処分にした被疑者について、例えば、起訴猶予にした被疑者がまた何か犯罪に及んだときに、その起訴猶予事件を再起して起訴するということはありますけれども、何の事情変更もないのに、いきなり、不起訴にした事件を再起して起訴するということは、実務上は、ないわけですね。ですから、法的には確かにおっしゃるとおりなんですが、実務的には、いったん不起訴処分にすると、事実上そのままの状態が維持されることになります。検察審査会に申立てをするということは、その状態を破る行為ですね。それに、起訴相当意見に拘束力を持たせるということになると、従来のような自然な状態を強制的に破ることになるわけですから、そこはやはり同列には論じられないのではないかと思います。

○池田委員 今の点もあるんですが、私は、A案の意見で、特に申立期間を設ける必要はないのではないかと思います。
 酒巻委員が言われた中でも、特に一番実務的に問題になるのは、公訴を提起しない処分がなされたことを知った日ということが、非常に認定上難しくなりはしないかということです。特に、検察審査会の申立権者はかなり広く、被害者の遺族の場合、その直系の親族などが申立てをできるようになっていますし、その人たちには必ずしも不起訴処分の通知が行くとは限らないわけで、そういう人の場合には非常に認定が難しいと思います。そういう問題を残しながらこういう制限を設ける必要はないのではないかという気がいたします。

○井上座長 先ほど、本田委員は、その問題について、実務上対処し得るとおっしゃられましたが。

○本田委員 通知してくださいという希望があれば、被害者、その親族、若しくはこれに準ずる者というように、かなり広い範囲で処分結果の通知を行っているのです。

○井上座長 通知があったということは確認できるわけですね。通知を出しているわけですから。

○池田委員 通知があれば、全然問題ないと思います。

○井上座長 通知があった場合には、少なくともそこから申立期間の起算ができると思いますし、他方、確認の方法がなければ、それは、申立権者が不起訴処分がなされたことを知った日というのは分からないわけですから、いまだ申立期間は満了していないということになる。そういう考え方もできなくはないと思うのですけれども、それでも不安定になるのでしょうか。検察審査会では、いつでも申立てを受理できますが、しかし、不起訴処分の通知があったということが確認できた場合は、そこから一定期間内に申し立ててもらうということも、論理的にはあり得ると思うのですけれども。

○池田委員 基本的には、親告罪の告訴期間の起算点である「犯人を知った日から」というものの認定というのが難しくなる事件があるものですから、それと同じようなことが起こりはしないかという懸念ですけれども。

○井上座長 確かに、「犯人を知った日」というものの確認はなかなか難しいでしょうが、不起訴処分があったことを知ったというのは、先ほどのような形であれば、一応確認はできるようにも思うのですけれども。

○酒巻委員 1点だけ補充します。付審判請求の申立期間というのは、請求権者は限られていますし、はっきり通知が行われていますし、そして、期間を徒過しているかどうかも判断するのは裁判所で非常に明確に行われるわけですけれども、もし検察審査会への申立てについて期間を設けるとなると、申立てが期間内に行われたのかどうなのかということは、結局、検察審査会が判断するということにならざるを得ないと思います。それ自体が検察審査会の本来の仕事以外の事項を増やし、非常に煩瑣になるのではないでしょうか。

○井上座長 認定がきちんとできるのかということと、余分な仕事を増やすのではないかということですか。

○酒巻委員 ええ、本来の仕事ではないと思うのです。今まではそういうことはなかったのですから。

○辻参事官 先ほど、検察官の処分との関係についてのお尋ねがあったのですが、その関係で、たたき台を作成した立場から申し上げますと、親告罪の告訴期間の限定や、付審判請求の期間の限定というものの趣旨の一つは、恐らく、被害者あるいはその周辺の私人の意思にかからしめる期間を無制限にするのが、被疑者の立場の安定という点から見て望ましくないという考慮ではないかと思われることに照らしますと、検察官という公の国家機関のイニシアチブによる行為とはまた別に考えられるということではないかとも思えるわけです。
 そうだといたしますと、この場合も、検察審査会という国家機関が取り上げるというのは、別途考えられるという整理はあり得ると、つまり、検察審査会の職権による審査の開始というのは、また別の話であるという整理はあり得るのではないかと思います。

○四宮委員 今の参事官のお話は、仮にB案を採って、申立権者すべてについて期間が徒過したという場合でも、職権でできるということですか。

○辻参事官 という組立て方はあり得るんではないかというだけです。

○四宮委員 何かしっくりこないですね。被疑者の地位の安定が、だれがやるかによって変わってしまうというのも少しおかしいと思うのです。
 もう一つ、私は、A案がいいと思うのですが、いろんな方がおっしゃったことに付け加えると、やはり、申立権者が非常に広いということです。特に、被害者が死亡した場合には、配偶者、直系の親族、または兄弟姉妹にまで申立権が広がっているわけで、先ほどの本田委員のお話ですと、聞いてくれば通知をするということですが、そうではない人がたくさんいる場合に、一部の人だけについて始まって、あとはよく分からないと。我々も、実務的には相続人の確定というのは非常に難儀する仕事の一つですけれども、そちらについてはずっとそのままになっているということの意味がどのぐらいあるのかなという気がするのです。期間制限を設ける制度としてです。

○井上座長 告訴期間は、各告訴権者によって相対的に進行するのではないでしょうか。

○四宮委員 そうですけれども、何か不都合が現行法ではあるのかなという気もするので、私はA案の方がいいのではないかと思います。

○井上座長 分かりました。これくらいでよろしいですか。
 次のイの論点は、付審判請求対象事件に限った話ですけれど、付審判請求と検察審査会への審査申立てが並行してなされるということは、制度としてあり得ることですし、現実にもあるわけですが、そういう場合についての調整規定を設けるかどうかということです。
 つまり、付審判請求の対象事件は、御存知のように公務員職権濫用罪等ですが、これについては、現行制度でも、裁判所に付審判請求をするということと並行して、検察審査会に審査申立てを行うということは可能なわけです。
 そして、現行法では、付審判請求の方は、審判に付するという決定があれば、公訴提起の効力を持つのに対し、検察審査会の方は、起訴相当あるいは不起訴不当という議決が出ても法的な拘束力は持たないとされているわけですが、今回の改革によって、そこが変わり、いずれのルートによっても公訴が提起され得る、あるいは公訴提起の効果を持ち得るということになるために、何らかの調整規定が必要になるのではないかということから提示された論点だということであります。
 この前の事務局からの説明によりますと、たたき台のA案というのは、最も問題になると思われる場合であり、いずれか一方の手続で公訴が提起され、あるいは、どちらかの手続で公訴提起の効果が生じるに至った場合に、他方の手続はどうなるのかということです。
 この点について、現行制度でも、直結はしないのですけれども、両方の手続が並行しているときに、検察審査会の議決がなされ、それを踏まえて検察官が起訴するということがあるわけで、そういう場合に同じ問題が生じ得ます。また、片面的ですが、付審判決定の方が先行すれば、同じような問題が生じます。
 そのような場合に、現行制度では、解釈で解決をしてきているわけですが、新たな制度でも、同じように解釈によって解決できるのだから、あえて調整規定を置く必要はないというのが、たたき台のA案の趣旨だということです。
 他方、B案の方は、付審判請求手続が先行して、請求の理由はないということから、付審判請求を棄却する決定が行われて、それが確定したというときには、検察官が不起訴としたのみならず、裁判所もまた、公訴提起をしないのが相当であるという判断をしたわけですので、被疑者の立場を考えると、それでもなお検察審査会が拘束力のある起訴相当の議決を行うことができるというのは相当でないのではないかということから、こういう案が考えられるのではないかということで示されたものだというように理解しております。
 これらを出発点として御議論いただきたいと思います。
 そこで、私から質問なのですけれども、A案とB案は、必ずしも択一関係に立たない、特に、A案の方で例示されているような、どちらかの手続で起訴がなされたというときには調整規定を設けないということに限って読むと、両案とも成り立つということもあるし、片方の案だけということもあると思うのですが、このたたき台では、その関係はどういうふうな整理になっているのですか。

○辻参事官 関係につきましては、文字どおりには、A案は、一切調整規定を設けないというもので、B案は、たたき台に記載した限りで設けるというものです。厳密に申しますと、括弧内に書きましたように、どちらかの手続で訴追が行われたという場合の調整規定を設けるという案ももちろんあり得るということであります。そういう意味で、括弧内の記載がやや誤解を招くのかもしれませんけれども、問題が明らかであるだけに、その問題に対するA案を採った場合の解決法だけは、A案の中身として示させていただいたということです。

○井上座長 分かりました。括弧内を除けば、要するに、一切調整規定を設けない、解釈ですべて対処するという案と、少なくともB案的なものを設けるという案という対比をたたき台としては示したということですね。それを前提に御議論いただければと思うのですが、いかがでしょうか。

○本田委員 私は、B案の方向で検討すべきだろうと考えております。請求の理由がないとして、付審判請求の棄却決定がなされたということは、単に検察官が不起訴処分としただけではなくて、公正中立の立場にある裁判所が審理の上、付審判請求を棄却して、公訴提起しないことが相当であると判断しているわけです。そういう場合にまで、なおその事件について検察審査会の権限に基づいて公訴が提起され得るというのは、これはやはり適切ではないのではないかというような気がします。

○大出委員 何度も座長から質問されている手続の違い云々について申し上げるつもりはないのですが、今の本田委員のお考えとの関係でいきますと、もちろん、そういう考え方はあり得ることは当然だと思いますが、しかし、検察審査会の趣旨からすれば、まさに民意を反映させるということであるわけですし、特に、付審判事件というのは、何度も申し上げますように、公権力の行使にかかわる犯罪行為にかかわった問題ですから、確かに、今、二度の判断があったというのはそのとおりかもしれませんけれども、そもそも前にも申し上げましたように、この手続自体、公権力行使の判断についての不信の表明から出発しているというところがあるわけですから、改めて、それは民意として、この問題についてどういう判断を行うべきなのかということが、別に審査されるということは矛盾することではないですし、むしろ、民意による判断を経るということがあってしかるべきということも言えるだろうと思います。
 先ほど、辻参事官から説明がありましたが、調整を全面的に設けないかどうかということは少し検討の余地があるかもしれないと思いますが、基本的にはA案でいいだろうというふうに私は考えています。

○井上座長 御意見の趣旨なのですけれども、公権力行使に対する不信というのは、被疑者とされている、あるいは嫌疑を持たれている公務員の権限行使に対する不信なのですか。それとも検察官の不起訴処分に対する不信なのですか。

○大出委員 検察官、つまり判断です。公権力行使にかかわる犯罪についての公権力による判断に対する不信です。

○井上座長 二重に不信があるというお考えなのでしょうか。

○大出委員 はい。

○髙井委員 裁判官に対する不信も含まれているわけですか。

○大出委員 最終的には入ると思います。そこまで不信というのが正確かどうかという問題がありますけれども、ただ、それを民意によって再度チェックをすることがあるということ自体は、当然あってしかるべきだと思います。

○井上座長 裁判官の判断に対して審査をするわけではないのですから、そこは違うのだろうと思うのですけれども。

○髙井委員 私も、結論的には、大出委員と同じでA案なんです。
 一つは、付審判請求の本質がどうかという点はさておいて、付審判請求と検察審査会とで制度の趣旨が違うことは事実ですから、少なくとも、付審判請求には民意は反映されていないわけです。そういう意味では、付審判請求棄却決定が確定したからといって、検察審査会の活動が終わってしまうというのはどうかなと思うということです。
 これは、例えば、たまたま検察審査会が先に起訴相当の議決をしたという場合に、付審判請求が先行していれば、これは棄却決定をするはずだったということだって、論理的には考え得るわけです。
 ところが、先後関係が逆になれば、その場合には検察審査会の議決で起訴されてしまうわけです。そうすると、これは少し跛行的な制度になりますから、やはりそういう意味でB案は若干問題かなというふうに思うのです。そういう意味でA案になるということです。

○井上座長 ほかに御意見はおありでしょうか。

○四宮委員 私も、A案に賛成です。今の髙井委員の御意見に一つ付け加えると、付審判事件は、裁判官だけで行われるわけです。事件の中には、例えば、特別公務員職権濫用致死、特別公務員暴行陵虐致死、これは法定合議になるわけで、裁判員裁判が始まって、仮に、法定合議事件を対象事件とする場合には、これらの事件が裁判員裁判になる可能性があるわけです。
 そうだとすると、やはり、国民がその事件をどう判断するかという道を残しておけなくなるという扱いはおかしいのではないかと思う点を1つ付け加えたいと思います。

○井上座長 裁判員が参加する裁判体によって判断してもらう可能性を広いものとしておくべきだということでしょうか。

○四宮委員 よく分らないのですけれども、それを残しておくという意味ですか。

○井上座長 これによってシャットアウトされるということではなくて、裁判員が参加する裁判体で審理される可能性を広く取っておきたいという御趣旨なのですか。

○四宮委員 特に、民意によって起訴する事件が、国民が参加する裁判で審判されるという道を残しておくべきだということです。

○本田委員 髙井委員の方から、先後関係で、例えば、裁判所が先に付審判請求を棄却すれば、検察審査会は起訴相当の議決をすることができないが、たまたま、先に検察審査会の方が起訴相当の議決を行うと、裁判所は請求を棄却しようと考えていた場合であっても起訴されることになり、跛行的な制度になるんではないかという指摘があったんですが、確かにそういう事態が生ずるのでしょうけれども、それは、裁判所の明確な判断が出る前と出た後では状況が異なり、やむを得ないのではないかという気がするのです。
 ですから、少なくとも、裁判所が明確にこれは請求棄却であると、その時点で起訴すべきではないと判断しているものについて、もう一度蒸し返すというのはいかがかなと、いずれにしても、最終的には裁判所が審理して判断するわけですから、そこはどうなのかなという気がしています。
 両様考えはあると思うのですけれども、裁判所まで判断したものについてまた審理して起訴できるというのは、少し適切ではないような気がするのですけれども。

○井上座長 ほかの方はいかがですか。どうぞ。

○池田委員 付審判請求の事件というのは、かなり件数があるんですが、典型的なのは、本当に正当な職務行為をしているのに付審判請求を起こすというものがいっぱいあって、私も、有罪判決をして、付審判を申し立てられて被疑者になったことがありますけれども、そういう意味からすると、1回で終わるというのはいいのかなとは思うのですが、ただ、付審判請求を棄却する、もう一つの類型に、何らかの犯罪にはなるかもしれないけれども、しかし、公務員職権濫用等の付審判請求手続の対象事件にはならないということを理由として、そこだけ判断して棄却してしまうものもいっぱいあるのです。
 その場合に、もちろん、請求が棄却されたからといって、単なる暴行罪とか傷害罪というものもだめになるという趣旨では多分ないと思うのです。そうすると、その範囲というのは非常に難しくなってくるわけです。ですから、付審判請求棄却決定の確定ということで、全部ができなくなるようなものにするわけにはいかないのではないか、B案を採ると、そこは非常に難しくなりはしないかと思います。

○井上座長 たたき台のB案の趣旨としては、そういう場合については、どのような考え方なのですか。

○辻参事官 いずれにしても、請求棄却決定確定の場合には、おっしゃるような場合のほかにも、手続違背や請求期間徒過という場合もありますので、説明で申し上げたとおりに、判断の理由によるということになるのかなとは思いますけれども。

○井上座長 事件の同一性との関係はどうでしょうか。今、問題提起されたのは、そういうことですね。

○辻参事官 おっしゃるとおりに、例えば、公務員ではなかったとか、極端な場合はそういうことですね。

○池田委員 あるいは、職務行為ではないということもありましたね、何かの犯罪にはなるけれども。

○井上座長 付審判請求手続の対象犯罪にならないという理由で棄却したということですね。

○辻参事官 そういう場合には、その趣旨からして、それ以外の純粋な暴行があるということになると、そこについて検察審査会が審査をできないというのは、おかしいということになるのだろうとは思います。

○井上座長 もし、そういう考え方を採るとすると、判決の確定とか、一事不再理の効力とか、それとは違う基準を持ち込まなければならなくなる、そういうことですね。
 ほかに、よろしいですか。先を急いで申し訳ないのですが、あと二つ御議論いただきたい点があります。
 1点は、検察審査会の配置の見直しの問題です。検察審査会法第1条第1項ただし書で、検察審査会の数は200を下ってはならない、各地方裁判所の管轄区域内に少なくともその一を置かなければならないと規定されているのですが、このただし書の規定を見直したらどうかというのがたたき台の案です。
 その趣旨は、これも説明がありましたように、各検察審査会が、これまで以上に適正かつ充実した審査を行うことができるようするという観点からすると、現状では各審査会の間の事件負担のアンバランスがひど過ぎるのではないかということです。つまり、多数の事件がある大都市部では検察審査会の数が少な過ぎるため、審査までに時間かなりかかってしまう。ところが他方、年に1件も審査の申立てがなく、審査対象事件がないという検察審査会もかなりの数あるということであったと思いますが、そういう検察審査会の配置を合理的なものに見直す必要があるのではないか。合理的に見直すことにより、各検察審査会が、これまで以上に適正かつ充実した審査を行うことを担保すべきだということであります。
 ところが、検察審査会の配置を見直す前提として、200を下ってはならない、かつ、各地方裁判所の管轄区域内に、少なくともその一を置かなければならないという、ただし書の規定が障害になり得るので、それを見直す必要があるというのが、たたき台の趣旨でありました。
 これについて議論をしていただきたいのですが、ただし書に二つのことを書いてありますけれども、たたき台で言っている見直しというのは、具体的には、どこをどう見直すということを想定しているのでしょうか。

○辻参事官 たたき台といたしましては、200を下ってはならないという部分、検察審査会の総数を一定数以上にしなければならないという制約を廃するということが考えられるのではないかということであります。

○井上座長 ただし書の「かつ」以下のところの見直しは、考えていないということですね。

○辻参事官 そうです。御指摘の部分は、各地方裁判所に対応して各地方検察庁がございますので、各地裁の管轄区域内に一つも検察審査会がないというのは、これはさすがに考え難いと思います。

○井上座長 そういう趣旨だということです。その点をも踏まえ、御議論いただければと思いますが、いかがでしょうか。

○清原委員 私も、各地方裁判所の管轄区域内に、少なくとも一つ置かなければならないとするところはそのまま残していただいて、きちんと検察のお仕事に関して審査をするという趣旨は、そのまま残していただきたいと思うのですが、「200を下ってはならず」という数の問題は、余りこれまでの御説明を伺っても、根拠が鮮明に理解できない数でありますし、むしろ、適正配置を阻害している数字ではないかと思いますので、これについては、削除することを提案したいと思います。

○井上座長 ほかの方は御意見いかがですか。なぜ200という数になっているのかという点については、そのような丸い数字ではなく、もう少し細かな数字になっていれば、当時の何かの数を基準にしたとも思えるのですけれども、必ずしもそうではないようですね。

○酒巻委員 清原委員の御意見に賛成です。私も少し調べてみたのですが、検察審査会法ができた当時に、なぜ200という数字を設定したのか判然としませんでした。恐らく、当時のあまり便利でない交通事情とか、民意を反映するという制度の趣旨からいって、地方に住んでいる人が参加しやすいようにということで、200ぐらいが適当ではないかと、そういうふうにして設けられたのではないかなと想像しています。
 ただ、今は交通事情も随分変わっていると思いますので、現在の交通事情を踏まえつつ、その一方で、民意を反映するという制度本来の趣旨を活かすことができるよう、国民の負担とか、あるいは一般の方が参加しやすいかどうかという観点から、検察審査会の配置を考える必要があると思います。また先ほども話が出ていた地域による事件数も考慮しなければならないでしょう。このような多様なことを考慮して検察審査会を弾力的に配置することができるような法律にする必要があると思います。そして、現行法の200という数字が、現に、適正配置をする上で、障害といいますか足かせになっているとすれば、適正配置の結果として200という数を下回ることになるかもしれませんけれども、ただし書を削除するのが妥当な方向であろうと思います。

○井上座長 削除した場合に、具体的な数は何で定めることになるのですか。

○辻参事官 現在、検察審査会の具体的な配置は政令で決まっております。

○井上座長 別途法律で定めるのではなく、検察審査会法によって、検察審査会を設けなければならないと定められているところに基づいて、政令で具体的な配置を定めているということですね。

○辻参事官 そうです。かつ、検察審査会法1条1項ただし書の、200という制限を満たすように政令で配置するということです。

○井上座長 そうすると、置かなければならないということは、検察審査会法自体から来ており、ただし書の「200」という数字は、その内容を規定しているというか、配置の条件としているということですね。

○辻参事官 はい。

○大出委員 私も、適正配置ということは、もちろん考えざるを得ない面があることは否定しないのですが、これは、私は記憶が定かではないので、推測にすぎないかもしれませんが、200というのは、恐らく、簡易裁判所の数との関係があったのではないかという気もするのですが。簡易裁判所は今は200ですか。もっと多いですか。では、それは私の記憶違いかもしれませんが。

○辻参事官 立法の経過については、私どもが目にした範囲では、100だとか、200だとか、300だとか、そういう意味では余り根拠のはっきりしない数字がいろいろ出た末に200になったようです。

○大出委員 いずれにせよ、先ほど少し酒巻委員からも話が出ましたけれども、民意を反映するのに、便宜ということが配慮されていただろうということは推測に難くないわけですね。
 先ほど土屋委員の方からも御紹介がありましたけれども、年配の方たちを審査員に加えるという配慮ということになってきたときに、交通手段の問題とかはやはりどうしても問題になってくる。
 前に、裁判所の方で、いろいろと支部の統廃合とかで、簡裁の配置の問題をお考えになって、いろいろと御提案になって、それから実際にやられたわけですけれども、あのときの基準、車でといいますか、公共交通機関ということもあったと思いますが、ちょっと記憶が定かではないんですが、いずれにしろ、あのときの基準なんかも私は見ていて、やはり、今言ったようなことが、単に利用が少ないからということで、本当に検察審査員に選ばれたときに通っていくということの利便性を考えたときに、適切なのかどうかということで疑義が出てくるようなケースが起こってくると思うのです。
 ですから、数の問題ではないのかもしれませんけれども、その辺のところを配慮して見直しをすることができるような配慮が必要なんだろうという感じがするのです。
 ですから、事件の数がないということは、確かに効率性の問題から言って考え直さなければいけないという面があるかもしれませんけれども、そういった効率性だけでは判断できない面が、司法機能と言いますか、こういうものにはあるということも間違いないところだと思いますので、その辺をどう配慮するのか、慎重に検討していただいた方がいいだろうというふうに思います。

○井上座長 その配慮をどう担保するかということでしょう。

○大出委員 ですから、200というのは、確かに規定上残すかどうかというのは微妙だと思いますけれども、その点について配慮した規定を全くなしにしてしまっていいのかどうかということですね。

○酒巻委員 現行のただし書きの規定と数字は、その合理性が考えにくいと思います。200というだけの数字であれば、例えば、東京地裁の管内だけに100数十個の検察審査会を置き、その他の地裁管内には1個だけ置いても、ただし書の条件を満たしてしまうのです。

○大出委員 それは難しいのかもしれませんが、具体的な配置案みたいなものを考えられるのかどうかということにかかわると思うのです。
 つまり、それを削るということ自体は、適正配置ということで具体的に動かすということになるわけですね。そのときに、どういう動かし方が可能なのかということについてのイメージが全然ないまま、それだけ外せばいいということにはならないのではないかという感じがするのです。

○井上座長 ここで、具体的な配置案を検討するわけにもいかないので、おっしゃるような趣旨を生かせるような制度枠組みにしてもらいたいと、そういうことではないでしょうか。

○平良木委員 そのときに、この200という数字も含めて見直しをするということで、特に問題ないわけでしょう。

○井上座長 場合によっては200よりもっと増えるかもしれないですし、減るかもしれない。しかし、それは結果であって、現行のただし書のように、最初から数を決めてそれに拘束されるという性質のものではないのではないかというのが、提案の趣旨だろうと思います。

○大出委員 繰り返しになりますけれども、そのときに、具体的なところが見えないと、この間の経緯からすると、削るという方向に流れる危険性がないのかなという気もするものですから、そのときに、やはり検察審査員の利便性がどこまで配慮されているのかというのが見えない状態でこちらが断を下したような形になるのは避けた方がいいという感じがするものですから、ということです。

○井上座長 実質的には、それほど大きく御意見が違っているとは思わないのですけれども。だれも、不便なところはすべて統廃合してしまってよい、効率だけを考慮し、事件数が少ないところは統廃合して、検察審査会が遠いところになってもいいんだとは考えていないと思うのです。
 それでは、最後の論点なのですけれども、3の「建議・勧告制度の改革」という点です。これについても、説明がありましたように、司法制度改革審議会の意見は、検察審査会が検察事務の改善に関し検事正に対して行う建議・勧告の制度を充実・実質化するものとしております。つまり、これまで議論しました、具体的な事件を訴追するかどうか、その事件の不起訴処分の当否の審査に関するものではなく、検察審査会が検察事務の改善に対して建議・勧告をするという制度、これを充実・実質化することを提言しており、これを受けて、たたき台では、審議会意見で例示してある検事正の回答義務を法律で明示するという案が掲げられているわけです。この案についてでも結構ですし、また、この案以外にこういうアイデアもあるのではないかということもありましたら、御意見をいただければと思います。

○大出委員 これは、前から重要な規定だと思っていたわけですが、それを、明確に法律で、回答ということを要求するのは好ましいことだと思っているのですが、それ以外に、それをさらに実効的なものにするかどうかということですが、公表ということを考えなくていいのかどうかということなんですが、せっかく検察側でもお考えになって回答されるわけですし、検察審査会からの質問というのも、なかなか検察機能というのは国民サイドからすると見えにくいとか、なじみが少ないということでもあるわけですが、せっかくこういう制度を更に実効的なものにしようということであれば、それが更に広く認識されるようなことをお考えいただいた方がいいと思うので、せっかく回答していただいた以上、公表するということを考えていただいた方がいいのではないかと思っています。

○本田委員 建議又は勧告を実質化する方策として、回答義務を法律に明示するというのはそれなりに意義のあることで、これはやるべきだと私は考えます。しかし、公表義務の法定化ということになると、また問題が複雑になってくるのかなと思います。実際には、法律上の公表義務がなくても、建議・勧告及びこれに対する回答の要旨等を公表することは広報として可能なのです。
 一方では、建議・勧告の内容や、これに対する回答の内容によっては、事件関係者のプライバシー、あるいは捜査上の秘密にわたる事項など、公表になじまないものもあり、特に、建議・勧告の議決が具体的な事件に言及して行われることもあるわけです。したがって、公表義務を法律に明記すると、今述べましたように、公表によって支障が生ずる場合に柔軟な対応ができなくなってしまう。こういうことを考えると、性質によって公表できるものは公表すればいいわけですけれども、これを法的な義務とまでするのは適当ではないと考えます。

○井上座長 ほかの方いかがですか。よろしいですか。

○髙井委員 これは、回答すること自体が目的ではなくて、今、本田委員が言われたように、建議・勧告を実践することの担保として回答というのがあるわけですね。ですから、むしろ、回答するかどうかというよりも、本当に建議・勧告に対応した施策を講じるかどうかの方が本当はポイントであって、そういう意味では、公表するしないという問題ではないのではないかと思うということです。
 やはり、公表するとなると、プライバシーであるとか、プライバシー以外でも、本来公表になじまない事項というのがあるわけで、そういうものに絡んだ改善事項という場合に、仮にどうしてもそれが公表されるとなると、非常に抽象的な、公表されても当たり触りのない回答になってしまうわけで、むしろ、回答の中身が薄くなってしまう。かえって、この制度の趣旨が十全には活かされないということになるおそれもあるのではないかと思います。

○四宮委員 いろいろ伺いましたけれども、弊害がある場合にも何でもかんでも出せということではないと思うのです。検察庁で扱う業務の性質上、それはいろいろな制限があることはそのとおりだと思いますけれども、この改革は、審議会意見書で言っているほかの検察庁の改革、特に検察庁運営への国民の参加ですとか、特に国民への説明責任というものともリンクする事柄だと思うのです。ですから、例外は例外として考慮した上で、しかも、建議・勧告というのが国民から構成される検察審査会によって行われているわけですから、限界を十分に気をつけた上で、可能な範囲で公表していくという方法はいいことではないかと思います。

○本田委員 要するに、一切公表しないということを私は申し上げているわけではないので、法律に書かなくても、公表できるものはきちんと公表します。しかし、内容によっては公表できないものはあります。それを法律できちっと、公表できる場合と公表できない場合とを仕分けして書くことができるとは到底思えないのです。それは、公表が必要なものは、特にそういった弊害がないものについて、殊更隠す必要はない。そういうところできちっとやっておけば、少なくとも回答義務をきちっと法律で明記しておけば、検察庁としても、それは検察審査会からの建議・勧告は十分に受け止めて回答をする努力をしていくということになると思います。

○樋口委員 この建議・勧告をいかに担保するかという意味であれば、尊重義務なのか、更に回答義務まで書くのか、これはまたこれからだと思うのですけれども、公表になると、やはり、問題が違うのかなと思います。ですから、公表と言うと、一般的には透明性の拡大であるとか、別の考慮の実現のための施策ではあり得ると思うんですが、この建議・勧告の充実・実質化という話とは、一体の話ではないのではないかという感じがいたします。

○井上座長 御意見は大体出たと思いますが、更にあえてという方がおられましたら。と言いいますと、これ以上発言するなと言っているように聞こえるかもしれませんが(笑)。

○四宮委員 仮に、公表しないという前提になったときに、建議・勧告に対する回答を、検察審査員が外部に出した場合のことまで考えるのですか。

○井上座長 それは、検察審査員の義務とか罰則とか、そういうことの関連の中でまた議論をすればいいのではないかと思います。公表義務まで課すかどうかということとは別の問題ではないですか。

○四宮委員 ただ、回答が来るということになりますと、検察審査員は、それを知るという、当然ですけれども、知るということになりますので、そこが義務の関係でまた議論されるのかなと思ったんです。

○井上座長 現行法の規定を前提にするとどうなのですか。

○辻参事官 現行の検察審査会法で漏えいが禁止されている秘密は、その書き振りが限定されていまして、会議の模様、各員の意見、その多少ということになっています。会議の模様というものの解釈が、余り適用例もないので、それほどはっきりしていないのかもしれませんが、そこの解釈次第になってしまうかなと思います。

○井上座長 少なくとも、建議をするときにどういう議論をしたかということは、会議の模様には入るのでしょうね。回答を受け取ったときの、その受け取ったものについてはどうなのかというのは分からないのですか。

○辻参事官 会議で報告されれば会議の模様だという解釈もあり得るのかもしれませんが、いずれにしてもはっきりしません。

○井上座長 その辺も、もし論点として議論すべきだということならば、また、後で議論をすることはできると思いますが、よろしいですか。
 私自身の心づもりでは、1時間くらい前に議事を終えることができると思っていたのですが、それは甘い見通しでした(笑)。このくらいで中身の議論はよろしいですか。
 検察審査会制度についてのたたき台を素材とした議論は、一通り行ったものですから、次回からは、裁判員制度に関する議論に移りたいと思っております。この裁判員制度は、言うまでもなく、今回の司法制度改革の目玉といいますか、最も主要な点の一つでありますので、今までにも増して充実した議論をお願いしたいと思います。
 次回以降御議論いただくのですが、もし、特に何かありましたら。なければ、事務局の方から事務連絡をしていただきたいと思います。

○辻参事官 席上にお配りしている答申に関してでございますが、本検討会の第1回会合の内容を記録した録音テープに対する情報公開請求に関し、情報公開審査会の答申がございましたので、御説明申し上げます。
 以前にもお知らせしているところでありますが、本検討会の第1回会合の内容を記録した録音テープについての不開示決定に対し、異義申立てが行われ、当本部からの諮問によりまして、情報公開審査会で審議中でありましたが、本年2月7日付で、議事の公開の協議の部分は不開示が妥当であるが、その他の部分は開示すべきてあるとの答申がなされたところであります。詳細につきましては、御参考までに、答申をお手元にお配りさせていただきましたので、御参照いただければと思います。
 事務局といたしましては、答申の内容を踏まえまして、適切に対応してまいりたいと考えております。

○井上座長 どうもありがとうございました。今の説明について、何か特に御質問があれば。よろしいですか。

○四宮委員 適切な対応というのは、具体的にはどういうことですか。

○辻参事官 よく検討して対応するということです。

○井上座長 もう一つ事務連絡がありますね。

○辻参事官 もう一点は、いつも申し上げていることでございまして、国民の皆様から事務局に寄せられた御意見の目録をお配りしておりますので、御参照いただくとともに、御意見そのものについて御覧になりたいということがございましたら、お申し付けいただければということでございます。

○井上座長 それでは、本当に長時間ありがとうございました。これで、今日の議事を終了したいと思います。次回ですが、3月11日の午後2時からということですので、よろしくお願いします。開始時刻が、今日とはずれていますので、お間違いのないようにお願いします。
 どうもありがとうございました。ごめんなさい。どうぞ。

○清原委員 私の都合で午後2時に延ばしていただいたと思うのですが、その用件がなくなりましたので、皆様お間違いのないように、午後1時半に変更していただいても大丈夫かと思いますが、会議室等の都合はいかがですか。

○井上座長 皆さん、委員の方々の御都合はいかがですか。大丈夫ですか。今日もこのくらい長くなりましたので、次回のテーマの大きさを考えると、30分でも前倒しできれば有り難いことです。どうもありがとうございました。

○辻参事官 それでは、午後1時半ということにいたします。

○井上座長 陪席されている方々も、午後1時半ということですので、よろしくお願いします。それでは、午後1時半に修正させていただきます。どうもありがとうございました。いましたが、本日の議事はこれで終了したいと思います。次回は、2月19日の午後1時30分からということになっておりますので、よろしくお願いいたします。