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裁判員制度・刑事検討会(第15回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年4月8日(火)13:30~18:05

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
池田修、井上正仁、大出良知、酒巻匡、四宮啓、髙井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(事務局)
山崎潮事務局長、大野恒太郎事務局次長、古口章事務局次長、松川忠晴事務局次長、辻裕教参事官

4 議題
「刑事訴訟手続への新たな参加制度の導入」について

5 議事

 前回に引き続き、第13回検討会配布資料1「裁判員制度について」(以下「たたき台」という。)に沿って、刑事訴訟手続への新たな参加制度の導入について議論が行われた。
 議論の概要は以下のとおりである。

(1) 裁判員及び補充裁判員の選任
 たたき台の「2 裁判員及び補充裁判員の選任」に関し、主として、以下のような意見が述べられた。

ア 欠格事由について(たたき台2(2)の関係)

・ アの(ア)及び(イ)は、このとおりでよい。(ウ)は、A案に賛成である。一般論として、心身に障害がある人の社会参加を進めるべきことは当然であるが、裁判員については、職務上、五感の作用により証拠の信用性を判断することが求められるのであり、例えば、視力が不十分であれば、実況見分調書の写真と供述の内容とを照合することができないなどの理由により、証拠の適切な判断に支障が生じることもあり得るから、心身の故障者は裁判員としての適格に欠けるものとせざるを得ない。

・ 事件の内容によっては、視力に障害のある人でも心証の形成に支障が生じないことはあり得ると思われるので、裁判員候補者が当該事件の職務を遂行することに支障があるかどうかについて、裁判官が個々の事件ごとに具体的に判断すべきである。

・ 心身に故障がある人が裁判員としての職務遂行に支障が生じる場合があり得ることは否定できないので、A案のような欠格事由を設けることはやむを得ない。しかし、職務遂行に支障が生じるか否かは、障害の程度や個々の事件の内容にも影響されるので、障害者を一律に排除するのではなく、裁判員としての職務遂行に支障が生じるか否かを、事件ごとに具体的に判断するものとするのが相当である。

・ 被告人や証人の供述・証言の真偽を判断するに当たっては、供述・証言時の態度の観察が、供述・証言の内容を聞くことと同じく重要となるので、そこに支障が生じては問題である。職務遂行に支障が生じる人は、原則として外すべきである。

・ 事件の内容や障害の程度は様々であるから、障害者を一律に外すことには賛成できない。しかし、事件によっては、証拠の判断に当たって聴覚や視覚を用いることが重要になることもあるので、職務遂行に支障が生じる場合には外さざるを得ないだろう。

・ 心身の故障があるから直ちに外すのではなく、障害の内容や程度により、職務の遂行に支障があるかどうかを具体的に判断すべきである。しかし、裁判員を選任する段階ではどのような証拠が法廷に顕出されるか分からないのだから、個々の事件ごとに判断できるかは疑問であり、一般的に証拠の判断に支障があるか否かという観点から判断しないと難しいのではないか。

・ コミュニケーションは、言葉だけで行うのではなく、身振り、手振りや声色も重要な要素であるから、全く目が見えない、耳が聞こえない、あるいは話ができない人に適した事件というものはあり得ないのではないか。

・ 視覚に障害がある人は、健常者と比べて聴覚が鋭敏であるなど、障害を補うために他の感覚を利用して判断できるともいえ、我々健常者が職務遂行の可否を決めつけるべきではない。一般的な規定を置くことはやむを得ないのかもしれないが、その場合でも、職務遂行に支障が生じた場合に補充員と替えることを前提に、欠格事由該当性をゆるやかに判断することもあり得る。欠格要件該当性の基準を形式的に定めることが困難であり、選任の段階で一律に排除することは妥当ではない。

・ 裁判員事件では、準備手続により事件の内容や証拠の性質がある程度判明することが期待されるから、裁判員の選任の段階で、心身故障者の職務遂行に支障がないと明らかに言える事件であるならば、心身故障者を排除する必要はない。

・ 証人の証言内容は証言時まで分からないのだから、準備手続の結果を踏まえても、心身故障者の職務遂行に支障が生じないと断言できる事件はあり得ない。そういう事件が存在すると想定することは、裁判における事実認定や証人の持つ意味を軽視するものである。

・ 現在の我が国の法制が障害者にどう対応しているかを考慮する必要があり、検察審査会法が障害者を欠格事由者から外したことを参考にすべきである。同法改正の背景には、障害者でも、様々なサポート策を講じることにより、刑事事件についての判断ができるという政策判断があったと思われる。裁判員制度においては、障害者への具体的なサポート策として、証言者の表情を口頭で説明するなど、今までの訴訟活動の在り方を根本的に変えることも必要となる。様々なサポート体制を整備することにより障害者への対応は可能になるのではないか。準備手続段階で、どのような証拠が提出されるかにつき、裁判官及び両当事者の間で共通認識が形成されると思われるので、障害者の職務遂行に具体的な支障が生じるか否かを個々の事件ごとに判断できると思われる。逆に言えば、そのような判断が可能となるように準備手続を充実させる必要がある。こうした条件整備を前提として、個々の事件ごとに支障の有無を判断するのが適当である。

・ 障害者の社会参加を拡充すべきことは当然であるが、合理的理由がある場合に制限することはあり得る。証言者の表情について口頭で伝達するという方法については、伝達時に伝達者の評価が介在することになるので問題である。また、被告人の立場を考慮すれば、被告人が裁判員の事実認定能力に不安を抱かないよう配慮すべきである。

・ 裁判員制度の趣旨からして、裁判員として裁判に参加することは国民の権利とは言えない。一方、裁判員制度では、公判を円滑に運用する必要があり、職務の遂行に支障がある者を欠格事由として定めてその参加を制限することには合理性がある。結局、「職務の遂行に支障がある者」をいかに適切に認定するか、認定を類型化できるかどうかということが問題となる。

・ B案が妥当である。職務の遂行に支障がある場合には外さざるを得ないとしても、A案のような欠格要件を設けることには抵抗を感じる。要件該当性の判断も困難であろう。具体的な事件ごとに職務遂行の可否を判断し、職務遂行が困難な場合には辞退してもらえばよいのではないか。

・ (ア)の「中学校を卒業しない者」を欠格事由とすることには反対である。裁判員制度が国民主権から導かれるという私見によれば、教育の程度を裁判員就任の要件とすることには疑問がある。裁判員に求められる判断力は、通常の社会生活を営んでいる人には当然備わっている程度で足り、欠格事由を定めるとしても、「日本語を読み、理解できない者」とすべきである。

・ 被告人や被害者を、国民主権のための国民教育の手段としてはならない。(ア)については、ただし書きにより、学歴を有しなくても同程度の学識があれば足りるとされているので、このままでよい。

・ 人を裁く側に立つ人間には、国の定めた義務教育を終えた程度の学識は必要と思われる。

・ 裁判員の年齢要件に関し、衆議院議員の被選挙権と関連させる議論があったが、そうであるなら、被選挙権として学歴は要求されていないのだから、学歴を欠格事由とするのはおかしい。

・ 被選挙権と裁判員の資格を同列に論じることは妥当でない。

・ 刑訴法第377条により、欠格事由該当者の判決への関与は絶対的控訴事由とされているが、仮に、心身の故障により職務遂行に支障がある者を欠格事由該当者とし、個別事件ごとに、事件の内容や障害の程度を勘案して職務遂行に支障が生じる場合に欠格事由に該当するとするのであれば、(ウ)の欠格事由に該当する者の判決への関与は、相対的控訴事由としてもよいのではないか。相対的控訴事由としておけば、後に欠格事由該当者と判断された場合でも、判決には影響を及ぼさないとする柔軟な対処が可能となる。

・ 被告人の納得や裁判の公正性・正確性に対する国民の信頼を確保するためにも、欠格事由該当者の判決への関与は絶対的控訴事由とするのが相当である。

イ 就職禁止事由について(たたき台2(3)の関係)

・ 裁判員制度は司法の国民的基盤を確立するための制度であるから、就職禁止事由の範囲は極力狭くすべきであり、立法機関の関係者も、会期外には裁判員を務めることを可能とするべきである。行政機関の関係者が列挙されていることについては、公務員の負担が軽く民間人の負担が重いという印象を与えるので妥当でなく、むしろ、公務員は良質な裁判員の給源として認識すべきである。また、司法関係者を一律に外す必要はなく、具体的な事件との関連で裁判員就任の当否を判断すべきであり、基本的には、裁判官と当該刑事事件の関係者以外は、弁護士も含め、できるだけ参加してもらうのがよい。

・ 裁判員制度の趣旨は、一般国民の社会常識を刑事裁判に反映することであり、この一般国民とは、法律の専門家ではない人を指すものと解されるので、法律のプロが裁判員に就任することは適当でない。また、刑事裁判は、国家の刑事司法作用であるから、三権分立の観点からして、他の国権、すなわち立法権と行政権の行使に直接携わっている者が裁判に関与することも適当ではない。

・ プロの裁判官による裁判に素人の意見を加えるという裁判員制度導入の趣旨からして、法律の専門家が裁判員となることは妥当でない。国会議員については、様々な利害関係から、合議における自由な議論を阻害するおそれがあるので、裁判員となることを認めるべきではない。行政官については、裁判から官僚的な者を排除するという観点から、裁判員就任を禁止するのが妥当である。

・ 裁判員制度は国民主権に由来するという私見によれば、裁判員が法律専門家であってはならないということにはならない。現に、米国では、法律家も陪審員を務めることができるようになっている。三権分立に関しては、国会議員や国務大臣が裁判員になったとしても、それは、一個人として裁判体に加わるものであるし、裁判は行うとしても司法行政に関与するものではないから、三権分立の原則には反するとまでは言えない。三権分立を採る諸外国でも、国会議員や国務大臣であることを就職禁止事由としていない国もあるのであり、これらは辞退事由とすればよい。

・ 三権分立の原則と一般国民の健全な社会常識を反映させるという裁判員制度の趣旨を前提とすれば、たたき台に示された案は、基本的に妥当である。

・ たたき台に示された案では就職禁止事由該当者の範囲が広すぎる。法律専門家については、裁判に直接に関与する者は、警察関係者も含めて除外すべきだが、それ以外の者を除外する必要はない。

ウ 除籍事由について(たたき台2(4)の関係)

・ ケに「検察審査員又は補充員として職務を行った者」とあるが、補充員である限りは職務を行わないので、除斥事由にする必要はないのではないか。

エ 辞退事由について(たたき台2(5)の関係)

・ 裁判員を務めることは貴重な社会経験となるのだから、学生や生徒であるという理由だけで辞退を認めるのは適当でない。

・ 学生は、試験だけを受けて卒業すればよいというわけではなく、修業期間を通じて学業に専念すべきものであり、一般の仕事のように別の人が代替できるという性質のものではないので、辞退を認めるべきである。

・ 消防・救急隊員の活動は市民生活に大きな影響があるので、辞退を認めるべきである。

・ 辞退事由のキについては、裁判員制度を機能させるためには厳格に判断せざるを得ないだろうが、その判断にばらつきが生じるおそれがあるので、類型的に、例えば、社会的に影響の大きな職業、養育・介護の必要性、経済的な影響など、もう少し具体的な要件を例示することが望ましい。

・ キの要件該当性の判断基準をどう定めるかは、裁判員制度の運営に当たって極めて重要な点であり、国民の関心も非常に高いと思われる。国民の負担を過重なものとしないためにも、キの要件による辞退を緩やかに認めることとすべきであり、その結果として、裁判員制度の担い手の中心が退職者等の時間に余裕がある人になることもやむを得ないだろう。

・ キによる辞退を広く認めると裁判員制度の基盤が損なわれるので、厳格に運用すべきである。国民の負担の軽減は、社会的な制度を整備することにより図るべきである。

・ 国民に納得して裁判員を務めてもらうことが重要であり、キの要件を厳格に運用した結果、裁判員を嫌々務めるということになるのは好ましくない。

・ 拘束期間が長いと無理だけれど、短期間であれば務められるという人もいるだろう。審理に要する期間は、裁判員を選任する時点で見通しがついていると思われるので、裁判員候補者に所要見込み期間をあらかじめ告知すれば、辞退を申し出るかどうかの判断の一助となる。

・ 裁判員候補者の意向を聞いた上で、裁判所なり選任委員会が裁判員を選ぶ余地を残しておくべきである。辞退事由に該当するかについて裁判員候補者の意向を聞くことは、恣意的な判断を招くおそれがあり適当でない。

・ 経済的な理由による辞退については、明確な基準を設けないと、国民の間に不公平感が生じ、裁判員制度に対する信頼性が失われることになる。基本的には、キの要件は厳格に判断されるべきである。

・ キの要件については、国民の間に不公平感が生じないよう、形式的な要件を定めて厳格に運用すべきである。

・ 実体的真実を発見し、被告人や被害者にとって納得のいく裁判をするという観点からすると、裁判員にはやる気と責任感を持った人になってもらう必要があり、嫌がる人に無理強いするのは問題である。

・ 裁判員を務めることに支障がないわけではなく、できれば免れたいと思う人でも、実際に選任されたならば真摯に務めてくれる人はかなりいるのではないか。

・ 裁判がやりがいのあるものであれば国民に満足してもらえるのであり、法律家の責任が重いことを自覚すべきである。

・ キの要件はもう少し具体的に規定すべきである。ドイツ裁判所構成法第35条の「本人又は第三者にとって、十分な経済的生活基盤を危険にさらす、あるいは著しく損なうことの故に、特別に過酷であることを疎明する者」、「家族の直接かつ個人的な世話が著しく困難になることを疎明する者」との規定が参考になるのではないか。

・ アの要件については、年齢を引き上げた上で欠格事由とすることも考えられる。最高裁及び簡裁判事の70歳定年、その他の裁判官の65歳定年には合理的な理由がある。高齢者が裁判員の任に耐えられないのであれば、その就任の可否を本人の意向に係らしめることは適当でない。

・ 歴史的に裁判は長老が行ってきたのであり、社会の高齢化が進展する中で高齢者を排除することは相当でない。

オ 裁判員候補者名簿の作成について(たたき台2(7)の関係)

・ 候補者名簿を作成した時点で、名簿登載者に告知すべきである。

・ ドイツの参審制度が評価されている理由の一つに、良質の参審員確保に成功していることが挙げられる。裁判員制度についても、裁判員の質の確保を図るため、法曹三者と有識者からなる選定委員会を設け、この委員会が無作為抽出された者の中から選考して裁判員名簿を作成し、名簿登載者の中から事件に応じて裁判所が裁判員を選任する仕組みとしてはどうか。

・ 選定委員会方式は、実質的には、一般国民から無作為に裁判員を選出するという意見書の核心部分に抵触するのではないか。また、選定委員会の構成の正当性や判断基準の明確性の確保にも問題がある。

・ 正しい裁判を行うために良質な裁判員を確保するという目的は、選定委員会方式によらずとも、たたき台の示す選任方式でも実現可能と思われる。

・ 選定委員会方式では、裁判員選任過程に対する信頼性確保が困難である。たたき台の案のとおり、当事者の関与する選任手続により選任することが適当である。

・ 選定委員会方式は、裁判員を一般国民から無作為に抽出するという、意見書が示した仕組みに反する。公正な裁判体の確保は、除斥や忌避の仕組みを設けることで図るべきである。また、法律家が選定委員として裁判員を選ぶことも、裁判員制度の趣旨に反する。

・ 裁判所が事件に応じて裁判員を選任するという方法は、選任基準が不明確であり、妥当でない。

・ 裁判員候補者のプライバシー保護の観点からは、裁判員候補者に関する情報は、当事者にすべて伝えるよりも、選定委員会限りでとどめる方が望ましい。また、審理に長期間を要する事件など特殊な事件については、裁判員の対象事件から外すという発想だけでなく、対処可能な裁判員を選び出すという対応策も考えるべきである。

カ 裁判員候補者の召喚について

(ア) 裁判員候補者の召喚(たたき台2(8)アの関係)

・ 制度の枠組みはたたき台のとおりでよいが、豊かな判断力と旺盛な責任感を有する裁判員を確保するため、召喚する「必要な数の裁判員候補者」は多く設定することが望ましく、裁判員の数の3倍以上の候補者を召喚することとすべきである。そして、召喚された裁判員候補者を、両当事者が忌避により順次除外して、裁判員の定数に達するまで絞り込んでいくという選任方法を採るべきである。

・ 召喚すべき、必要な裁判員候補者の数をあらかじめ固定してしまうと、事件によっては無駄が生じ得るので、準備手続の結果を踏まえて個別に必要な裁判員候補者数を決めるべきである。

・ 裁判員候補者の数は、事件ごとに予想される忌避や辞退者の数を踏まえて決めるのではなく、すべての事件で裁判員にふさわしい人を選ぶという観点から決めるべきものである。

・ 忌避される人数の多寡は、実際に裁判員候補者を呼んでみないと分からない。当事者が納得し、公正らしい裁判員を確保するためには、裁判員の数の3倍以上の裁判員候補者を召喚すべきである。

(イ) 検察官及び弁護人に対する事前の情報開示(たたき台2(8)イの関係)

・ (ア)に関し、裁判員候補者の氏名を早く当事者に開示すると、当事者から裁判員候補者に対する働きかけや調査が行われる可能性が増えるので、個人情報を慎重に扱うという観点から望ましくない。当事者は、事前に事件記録に接するほか、質問票に対する回答も閲覧できるなど、質問手続に必要な情報の開示は保障されるのだから、裁判員候補者の氏名は直前に開示すれば足りる。

・ たたき台で示した案は、当事者が忌避等についての判断材料を得る必要性と裁判員候補者のプライバシーの保護や生活の平穏の保持への配慮の要請の調和を図るとの観点から示したものである。具体的には、事件関係者か否かを判断するために、氏名だけは事前に開示してもよいのではないかと考えたものである。

・ 裁判員制度の安定性・信頼性を確保するという観点から当事者による事前調査を禁止し、事前の情報開示は行わない代わりに、質問手続における当事者の質問権を認めた上で、忌避等についての判断は、すべて質問手続の際に行うこととするのが相当である。

・ 裁判員候補者が事件関係者であるか否かを調査し、質問手続において的確に質問できるよう準備するためには、質問手続開始前に候補者の名前を告知してもらう必要がある。

・ 訴追側と弁護側の調査能力は大きく異なるのだから、制度の公平らしさを確保する観点から、事前調査は一切認めないこととするのが相当である。

・ 事前調査は、裁判員候補者が公正な裁判をしないおそれがある者かどうかを確認するためのものであり、訴追側と弁護側の利害が対立するものではないから、調査能力の差異を理由にその必要性が否定されるべきものではない。

・ たたき台の案は、氏名が開示されただけでは詳細な調査を行うことはできないという前提で示したものである。

・ 両当事者の調査能力に差があるという前提であれば、事前の情報開示を禁じるのではなく、むしろ、氏名以外の事項も事前開示すべきである。両当事者の情報格差を埋めるためには、事前の情報開示を認めるほかなく、プライバシーの保護等は罰則規定を設けることで担保すればよい。

・ 事前に情報を開示すると、調査能力の格差による弊害が一層大きくなるので適当でない。

・ 当事者が忌避権を適切に行使するためには情報が多い方が望ましく、プライバシーの保護等は、開示情報の範囲の制限ではなく、情報の漏洩や候補者への接触を禁止するなど当事者の行動の制限により図るべきである。質問票に対する回答は、事前に当事者に開示されるべきである。

・ 開示される情報が限定されることになると、理由を示さない忌避を適切に行うことが難しくなるのではないか。

・ 事前の情報開示は、理由を示さない忌避を的確に行うために必ずしも必要ではなく、質問手続における質問の方法と内容を工夫することにより、的確に忌避することができる。

・ (イ)のA案とB案は対立せず、両立可能である。基本的には、裁判員候補者の情報の開示は制限せず、プライバシー等の保護は、B案のように、当事者の行動制限により図るべきだと思われるが、個人情報にも様々なものがあるので、A案のように、開示すべきでない情報は開示を制限することも可能にすべきである。

キ 質問手続について

(ア) 質問手続の出席者(たたき台2(9)アの関係)

・ たたき台の案でよい。

・ 被告人でないと判断できない質問もあり得るので、原則として被告人の同席を認め、例外的に退席させることとすべきである。

・ 裁判官が必要と認めるときには被告人を同席させることができるものとされているので、たたき台の案で対処できる。質問内容には裁判員候補者のプライバシーにわたる事項も含まれ得るのであり、被告人の同席を原則とするのは適当でない。

・ 被告人の目から見た公正らしさを重視するという観点から、原則として、被告人の出席を認めるべきである。イの(カ)で当事者による忌避を認めるのであれば、忌避の判断に必要な情報を得る必要があるから、被告人の出席を認めるのが相当である。刑訴法第21条第2項で、裁判官の忌避に関して、弁護人は被告人の明示した意思に反して裁判官忌避の申立をしてはならないとされていることや、刑訴規則第194条の2で、被告人の準備手続への出席が原則とされていることも参考になる。

・ 被告人が常時出席しなければならない理由はなく、たたき台の案でよい。裁かれる人が裁く人を選定することは相当でなく、裁判員の選定手続は法律家が関与して行うものとするのが妥当である。

・ 裁かれる人間も、手続の公正性を確保してもらう権利は有しており、そのために理由を示さない忌避が認められている。忌避に係る判断を的確に行えるように被告人の出席を保障すべきである。

・ 忌避に係る判断に必要な情報は、弁護人の質問により十分得られる。

・ 被告人の権利保護も重要であるが、裁判員候補者のプライバシー保護も同じく重要であり、両者の調整をどう図るかという問題である。特に必要性が認められる場合以外にまで被告人の出席を認める必要はなく、たたき台の案が相当である。

(イ) 質問手続(たたき台2(9)イの関係)

・ (イ)に関して、当事者の質問権を認めるべきである。裁判官を通じた質問は、当事者が自ら発する質問とは本質的に異なるものであるし、裁判官が質問の意図や妥当性について的確に判断できない場合もあり得る。

・ 質問手続は公正な裁判体を構成するための手続であり、証人尋問とは目的が異なるから、当事者が必ず行うべきものとまでする理由はない。裁判官を通じた質問であっても、忌避に係る判断の材料とすることはできるし、質問手続を、当事者にとって好ましい裁判員を選び出すための手続と位置付けること自体が失当である。

・ 当事者の質問権を認める理由は、当事者に都合のいい裁判員を選び出すためではなく、実体的に正しい事実認定ができる裁判体を構成するためである。当事者の質問権を認めることによるデメリットはないと思われる。

・ 米国では、当事者が質問の機会を利用して、裁判員候補者に自己の側の主張の刷り込みをしようとすることが少なくない。

・ 不当な質問は裁判官が制限すればよい。

・ 裁判員の負担を軽くするため、質問手続はできるだけ簡潔にする必要があるが、当事者による質問を認めている国では、質問手続に時間がかかると聞いており、望ましくない。また、質問手続の段階では、当事者が直接質問しなければならないような微妙な問題はないと思われる。

・ 当事者は、裁判員候補者に不快感を与えれば最終的に自分に不利が及ぶのだから、候補者に過重な負担がかからないように配慮するだろう。時間の問題は、必要があれば質問時間を制限をすれば足りる。

・ 原則として、当事者にも質問を認めるべきであり、不当な質問は裁判官が制限すればよい。事前に裁判員候補者について調査することを制限するのであれば、質問手続の中で十分に情報を収集できる制度とすべきである。質問手続の段階であっても、例えば、裁判員候補者に特定の職業に対する考え方を尋ねるなど、微妙な質問をすることはあり得るのであり、忌避に係る判断に必要な心証を形成するためには、直接に質問する必要がある。また、(8)イ(イ)で示されているように、個々の候補者に関する情報が質問手続の当日まで開示されないのであれば、個々の候補者に対する質問について裁判官と打ち合わせる時間が足りないし、米国でも、当事者からの質問を認めている法域が多いことを考慮しても、当事者による質問は認められるべきである。

・ 事件によっては、召喚後の候補者に対して、個別の事件に特有の質問票を配布することも認めるべきであり、その場合、検察官及び弁護人が質問票の作成に関与することを認めるべきである。

・ (オ)で、理由付き忌避の申立てを却下する決定に対しては不服申立てをすることができるものとされているが、刑訴法第23条で裁判官の忌避の申立てに対しては裁判所が合議体で決定をしなければならないとされていて、その不服申立て手段は即時抗告とされている。裁判員候補者の忌避についても、これと同様の手続とすると、高裁が不服申立てについて判断するまでの間、手続が止まってしてしまう。裁判員候補者の忌避については、迅速に処理できるように裁判長による却下を認め、これに不服があるときは準抗告のような形で当該地裁レベルで処置するものとするのが望ましい。

(ウ) 裁判員及び補充裁判員の選任(たたき台2(9)ウの関係)

・ 当事者の納得を得るという観点から、裁判員候補者を両当事者が順次忌避していき、最終的に裁判員の定数に達するまで絞り込んでいく方法が妥当である。

・ 理由を示さない忌避には、裁かれる者が裁く者を選ぶという性格があることは否定できないが、再び無作為抽出することには違和感があるので、最後は当事者が選ぶこととするのが相当である。

・ 法律の素人である一般国民を裁判員として裁判に関与させる以上、裁かれる者に裁く者を選ぶことを認めるのは当然である。自分が選んだ人に裁かれるからこそ裁判の結果に納得できることになる。

・ 米国では、当事者が自分の側に有利と思われる者を選ぶという傾向が強いことや、選任手続が過度に戦略的に運用されることにより、手続が長期化する弊害が指摘されている。そういうことからすると、当事者が選ぶという観点や当事者の納得という観点から考えるだけでよいのか、検討が必要ではないか。

・ (ア)は妥当な案である。選任手続が過度に戦略的に運用されることによる弊害を考慮すれば、最後はくじ引きで選ぶのが公正であり望ましい。

・ 選任手続から戦略的要素を排除すべきとの意見には賛成するが、そこまで至らない範囲で、当事者に選択の余地を認める制度が望ましい。

・ 最後にくじで無作為抽出するのか、それとも、最初から順番を決めておき、定数に達するまで順次選んでいくのか、最後の選任の方法は両様あり得るだろう。

ク 裁判員に対する補償について(たたき台2(10)の関係)

・ 要介護者がいる者に対する介護費用の補償や環境整備について検討すべきである。

・ 仕事を休む者が損失感を抱かないよう、金銭的補償を充実する必要がある。地方最低賃金審議会の定める地域別最低賃金が目安になるのではないか。

・ 「裁判員等であった者」も職務に関連して受けた負傷に対する補償の対象とすべきである。

・ 「証人等の被害についての給付に関する法律」では、証人等であった者も補償の対象とされていることを参考にすべきである。

(2) 裁判員等の義務及び解任
 たたき台の「3 裁判員等の義務及び解任」に関し、主として、以下のような意見が述べられた。

・ 辞退事由に該当することが明確な者にまで出頭義務を課すことは適当でない。

・ 辞退事由の有無を確認する手続が必要ないのか検討する必要がある。

・ (2)のウで、裁判員及び補充裁判員だけでなく、これらの職にあった者にも、裁判の公正さに対する信頼を損なう行為をしてはならないとの義務を課しているが、裁判員等の職を離れた者にまで、このような要件の不明確な義務を課すことは適当でない。オで、評議の秘密等を保持する義務を課しており、これで十分である。

・ 裁判の公正らしさを維持することは裁判員制度の運営上不可欠であり、裁判員等の職にあった者にこのような義務を課すことには合理的理由が認められる。

・ 評議の内容に関して虚偽の事実を述べた場合には、裁判の公正さに対する信頼を損なう行為ではあるが、オの義務違反には当たらず、それではカヴァーされないから、ウの規定は必要である。

・ 国民に義務を課す規定はできるだけ少なくすることが望ましい。

・ 裁判員等が自分の意見を述べることを認めるべきであり、罰則を設けて制限することには反対である。評議の秘密について守秘義務を設けるとしても、一定の期間経過後は義務を解除してよいし、守秘義務の対象事項は、合議体構成員の意見内容、評議の結果、及び非公開とすることについて合議体で合意した事項に限定すべきである。

・ 裁判員が評議において述べた自分の意見は、他人の意見に対する誹謗中傷に当たらなければ、発言者個人の責任において公開することを認めてよい。

・ 評議の秘密保持の趣旨は、自由に意見を交換できる環境を保護することにあるのだから、自分の意見だから公表してよいということにはならない。仮に全員が自分の述べた意見を公開することになれば、評議の全体像が明らかになってしまうことになる。

・ 裁判体の判断の内容について、個人が自由に意見を述べることを認めては、裁判に対する信頼が失われてしまうだろう。また、合議体で合意したからといって、他人のプライバシーに関する事項を公開することは認められないのであり、合意の有無に関わらず、保護すべきものは保護しなければならない。

・ 裁判において、自由な評議の確保は非常に重要であり、それは事後的にも脅かされてはならないから、たたき台の案が相当である。

・ 自分の意見だから公開してよいということにはならない。意見の公表が禁止されなければ、その意見を明らかにしようと取材を試みる者が現れ、裁判員の生活の平穏が侵害されるなどの弊害が生じるおそれがある。

(3) 次回以降の予定
 次回(4月25日)は、引き続き、刑事訴訟手続への新たな参加制度の導入に関する検討を行う予定である。

(以上)