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裁判員制度・刑事検討会(第16回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年4月25日(金)13:30~17:20

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
池田修、井上正仁、大出良知、酒巻匡、四宮啓、髙井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(事務局)
山崎潮事務局長、大野恒太郎事務局次長、辻裕教参事官

4 議題
「刑事訴訟手続への新たな参加制度の導入」について

5 議事

  前回に引き続き、第13回検討会配布資料1「裁判員制度について」(以下「たたき台」という。)に沿って、刑事訴訟手続への新たな参加制度の導入について議論が行われた。
 議論の概要は、以下のとおりである。

(1) 公判手続等
 たたき台の「4 公判手続等」に関し、主として、以下のような意見が述べられた。

ア 総論について(たたき台4(1)の関係)

・ 裁判員制度の下では、分かりやすい立証活動に努めなければならない。検察官は、迅速で、裁判員に分かりやすい立証に率先して取り組むべきである。第一に、収集した証拠を厳選し、迅速かつ分かりやすい立証のために特段の工夫が必要である。個々の検察官の公判遂行能力の向上を一層図り、検察庁全体としても、必要な研修、人員配置に積極的に取り組む必要がある。第二に、証言中心の立証活動への転換が必要である。捜査段階で作成された供述調書の証拠能力について無用な争いを減らし、裁判員にとって分かりやすい立証のために、証人が真実の証言をしないような場合には、検察官は安易に検察官面前調書に頼ろうとするのではなく、収集した証拠に基づき公判廷での証言を弾劾して虚偽の証言が通用しないことを証人に感得させるなどして、真実の証言を引き出すよう努めるべきである。

・ 裁判員が的確な心証形成ができるようにしなければならない。以前は、公判審理は基本的には従来のやり方のままでよいと思っていたが、具体的に裁判員の加わった場合をイメージして考えてみると、それでは裁判員に実質的に関与してもらえるかという懸念がある。これまでは公判廷外での記録の読み込み作業が心証形成に重要で不可欠と言われてきたが、裁判員にそれを望むことはできない。これまでの裁判では争点を絞り込めず五月雨式に審理をしているが、それでは問題があり、準備手続を必要的にして争点を絞り、公判も書証に依存せず真実の証言を得られるような立証活動が当事者にも求められる。供述調書の作成状況の立証についても、裁判員に分かりやすくすべきである。裁判員制度の特殊性にかんがみ、必要に応じて公判手続に関する特則を刑事訴訟法に設けて、たたき台のような総則規定を置くことも考えられよう。

・ 弁護人にとっても、これまでの弁護活動の在り方について見直し、工夫することが求められていると考える。公判にエネルギーを注げるような仕組み、準備手続の充実、争点整理とそのための証拠開示を充実させ、裁判員にとって自分達が判断すべき事項が分かるように、分かりやすい立証、弁論なども求められており、国民に理解できる新しい裁判システムを打ち立てられることを願っている。

イ 準備手続(刑事裁判の充実・迅速化関連)(たたき台4(2)の関係)

・ 裁判員として活動することが可能かどうかを判断できるためには、公判の見込日数があらかじめ分かっている必要があるという点については異論がないであろう。準備手続での争点整理やその前提としての証拠開示が必要であることはもちろん、準備手続の中で証拠請求、証拠採否の決定まで行われることも原則となろう。

・ 国民の負担という観点から、裁判員の原則的な出廷日数の上限を、例えば、20日間というかたちで明記してみたらどうか。スウェーデンの司法制度改革に関する報告書の中に参審員の負担の軽減という観点から職務日数の上限を年間20日間とするという提案があった。日本でも、負担の限度を明らかにした方が、裁判員候補者にとって予測が立ち、休暇も取りやすいであろう。原則として国民の負担は限定されるのだという強いメッセージを送る必要があるのではないか。20日を超えるような場合には、更新手続などの一種の延長手続を設けたり、それ以上続けることができない人には交代を認めるということも考えられる。
 統計によれば、法定合議事件の否認事件での審理回数は平均9.0回であり、審理に2年を超える期間を要している事件は200件余りであるから、20日間あれば大抵の事件は審理できると思われ、20日間を原則としてもよいのではないか。
 20日間で裁判員が代わるということが、迅速な審理を促すという点で、実務上大きな意味を持ち得るのではないか。

・ ドイツなど参審制度を採っている所では、多くの場合、参審員には出廷回数の制限があるが、それは参審員に任期があるからである。裁判員制度の場合は、一事件一回限りの選任ということであるから、年間の日数制限を設けるというのはいかがなものか。やはり、必要な日数に全部立ち会ってもらうのが原則ではないか。

・ 制限を設けるとすると、最初から何か月も公判に要することが明らかな事件では、誰も裁判員になれないということになりかねない。

・ 例外的に20日間を超えることを認めるのでは、制限を定めない場合と変わりがないだろう。たたき台の案でも、選任後に特別の事情が生じれば解任され得るのであるから、20日間経てば、解任してもらうのに合理的な理由が必要かどうかという違いがあるに過ぎない。原則と例外が逆転させるだけで、適用上、実質的に変わりはないのではないか。

・ 20日間を過ぎると、審理に最初から立ち会っていない新たな裁判員ばかりが裁判体に加わり審理を続行するということになるが、本当にそれでいいのかという問題がある。

・ 上限を設けるという意見は、国民の負担の限度の指摘という意味で重要である。ただ、上限を設けると、その上限までの期間は公判をやっていいということになって、逆効果にならないかということを危惧する。

・ 裁判員裁判の場合、一度始まった公判が中断することは原則としてあってはならない。立証計画が非常に重要になるが、十分な証拠開示が前提として重要であり、それがなければ、審理の見通しを立てられない。

ウ 弁論の分離・併合について(たたき台4(3)関係)

・ 複数の被告人の審理を併合するという主観的併合については、裁判員が、ある証拠について、ある被告人との関係では証拠とできるが、別の被告人との関係では証拠とはできないという区別をして心証形成を行うのは困難と思われるから、基本的な証拠関係が同じでないと、併合審理は無理ではないか。証拠関係が異なるのであれば、分離することとし、証人が別々の審理で重ねて証言しなければならないという負担については、ビデオリンク方式の活用を考える余地もあろう。
 同じ被告人に対する複数の事件を併合するという客観的併合については、現行法上は裁判官の裁量に委ねられているが、併合罪規定により、被告人に量刑上の利益がある場合があるので、被告人が併合を求める場合には、なかなか分離しづらいというのが実情である。しかし、今後は、例えば、裁判員事件と非裁判員事件が起訴されている場合、最初に裁判員事件が起訴され、その事件について裁判員が選任された後に別の裁判員事件の追起訴があったような場合など、分離せざるを得ない場合もあるであろう。

・ 主観的併合については、証拠関係が別々になった場合には、分離すべきであろう。
 客観的併合については、併合審理すると、裁判員の負担が大きくなるが、社会的実態として一つと評価できるような事件、手口が同じで相互に立証上補完的な関係にある事件などの場合には、真相解明や適正な科刑の実現の観点から併合が必要ではないか。このような事件では、分離しても、それぞれの事件で全体像を明らかにしなければならず、分離することによる訴訟経済上の効果も少なくなると思われる。適正な科刑や真相解明がおろそかになることは許されないから、事件が相互に密接に関連している場合は、併合して審理すべきではないか。
 追起訴の問題については、併合が適当な場合は、起訴済みの事件について準備手続を行い、その間に追起訴を済ませて、追起訴がすべて終わった時点で裁判員を選任するという運用が相当である。裁判員の選任後に追起訴がされた場合でも、事案の真相解明や適正な科刑の実現という観点からどうしても併合審理が必要な場合は、裁判員には負担を我慢してもらう必要もあろう。

・ 主観的併合については、全員が一致して認めていれば併合でいいが、認否が分かれるような場合は分離すべきである。既に判明している余罪がある場合は、全部追起訴してから公判を始めればよい。追起訴は終わったと思っていたところ、新たに余罪が判明したような場合は、審理を中断せざるを得ないであろう。公判を中断して、追起訴が完了した時点で、すべての事件を併合して審理するというのが、事案の全ぼうの解明につながるし、適正な科刑も可能となる。裁判員の負担については、更新の手続で対応するしかないであろう。

・ 準備手続が行われるようになれば、これまでより公判開始まで時間を要することになると思われるので、追起訴を行うこともでき、他方、連日的開廷の下では、審理の途中で余罪が発覚するということは少なくなるであろう。しかし、そのような余罪が発覚した場合、審理を中断して裁判員を待機させた上で、余罪を併合するというのは、裁判員がそれまでに形成した心証を忘れてしまうし、裁判員の負担が重くなるという問題があるので、分離すべきである。法定刑に死刑又は無期懲役刑を含む刑法犯の事件が係属中に、更に同種犯罪の事件の追起訴があったというのは、東京地裁で過去4年間で119件あったが、そのうち、追起訴に6か月以上9か月未満を要したものが12件、9か月以上1年未満を要したものが5件あった。これだけの期間、裁判員を待たせるという訳にはいかないし、また、その間、何もせずに被告人の身柄拘束を続けてもよいかという問題もある。

・ 客観的併合の場合でも5件の殺人罪の事件を併合する場合のように、併合することによって被告人に不利益になる場合もあろう。現状と大きく異ならない量刑となるように、刑の調整をする必要があるのではないか。

・ 刑の調整は、量的な調整だけなら技術的に可能かもしれないが、刑種の選択にかかわるような場合は難しいのではないか。当初から審理に長期間を要すると認められる場合には、裁判員裁判の対象事件から外すという考え方もあり得るのではないか。

・ 審理に極めて長期を要するというものは、対象事件から除くのがよい。分離するという考え方もあるが、全く罪種が異なるような場合は別として、分離すると事件の実態解明ができないし、適正な科刑が実現されない。

・ 被告人に選択権を与えないというのが司法制度改革審議会の意見であるが、長期を要するものを対象事件から外すということにすると、場合によっては引き延ばし戦術をとることによって対象事件から外すことが可能となってしまう。また、意見書は、できる限り国民に負担に耐えてもらう一方、審理期間はできる限り短く内容的に充実したものにすべきだという考え方であろう。さらに、国民の関心の特に高い事件を対象から外すことにもなりかねず、国民の関心の高い法定刑の重い事件を対象事件とするという意見書の考え方にも反するのではないか。

・ 事案の全ぼう解明も国民の負担との関係で考えるべきである。真相解明のために国民は負担を甘受すべきと考えがちであるが、国民が耐えられるということをものさしに併合・分離の在り方を考えるべきである。

・ 引き延ばしにより事実上選択権が認められてしまうという問題については、引き延ばしによって裁判員制度の対象外の事件にできないような仕組みにすればよい。例外的に裁判員裁判の対象外となる事件があったとしても、司法の国民的基盤の強化という意見書の趣旨には反しないであろう。

・ 分離するかしないかによって、刑が質的に変わるような場合については、先に審理を終結する裁判体は犯罪事実の認定のみを行い、後で終結する裁判体が前者の事実認定を前提にして合わせて量刑判断をするという方法や、先に終結する裁判体も量刑判断をするが、後で終結する裁判体は先に下された量刑判断を考慮に入れて量刑判断をするという中間判決的な方法による解決、あるいは、それぞれの裁判体は独立して量刑判断を行うが、それらが確定したところでまとめて別の裁判所が改めて刑を決めるといった方法も考えられるのではないか。

エ 公判期日の指定(刑事裁判の充実・迅速化関連)(たたき台4(4)関係)

・ 一般の国民の間には、土曜日や日曜日に開廷してもらえれば、裁判員として裁判することが容易になるという声もある。例外的に土日開廷を認める制度を設ける必要があるのではないか。例えば、2日間で審理が終わる見込みの場合に、金曜日の後に土日を休んで月曜日に開廷するよりは、金曜日、土曜日と続けて開廷する方がよいのではないか。

・ 審理に6日間を要する見込みの時に、5日間を月曜日から開廷した後、最後の1日分を月曜日に開廷するのはいかがなものか。

・ 審理期間が5日や10日程度であれば、連日的開廷の方が裁判員に負担にならないとも言えようが、20日以上となると、連日的開廷の方が裁判員に負担になる場合もあるのではないか。土日開廷については、不可能ではないであろうが、戒護、庁舎警備の関係の問題など、実現のためには解決すべき問題が多いであろう。

・ 予想外の証言がなされた場合などに、補充捜査などのために審理を中断するということは許されるのか。

・ 基本的に、審理の中断が生じないように準備手続で対処すべきであろう。

・ さらに何人かの証人尋問が予定されている場合など審理期間に余裕があれば、その間に補充捜査ができる場合もあろうが、余裕がない場合に、補充捜査の必要が真相解明の上で決定的な場合などは、審理の中断を認めざるを得ないであろう。

・ 審理の中断については、例外を全く許さない訳にはいかないであろうが、例外を緩やかに認めると争点整理を踏まえた計画審理の意味が失われてしまう。原則として中断せず、例外を認める正当な理由があるか否か、あるとしても、その理由により正当化される期間はどれくらいかという問題であり、基本的には、訴訟指揮の問題であろう。

・ 明文の規定がないと、裁判所が訴訟指揮権を行使しにくく、裁判所が当事者に押し切られることがあるのではないか。

・ 司法制度改革審議会では、出来る限り連日開廷すべきだとする現行の刑訴規則のような定めを法律に格上げして規定するだけでも意味があるのではないか、という意見があった。

オ 宣誓等(たたき台4(5)関係)

・ 「心得」「教示」という表現が、現代において適当かどうかは検討の必要がある。宣誓には賛成である。教示については、裁判員に、刑事裁判の諸原則についても、分かりやすく、その任務が重要であることが理解されるように、説明することが大切である。

・ 教示する刑事裁判の諸原則というのは、すべての事件に共通するものなのか、個別の事件によって決まるものなのか。

・ 教示の内容は、スタンダードなものを基本に、個別の事案に応じて適宜修正するというイメージである。

・ 裁判員は個別の事件ごとに選任されるので、教示する内容は、個別の事件に応じたものにするのがよいのではないか。

・ 教示は、検察官、弁護人が立ち会う公開の法廷で行うのがいい。

・ 公開の法廷で教示を行うまでの必要があるのか。裁判員の選任手続の段階で教示すればよいのではないか。

・ 教示の公開にはこだわらないが、検察官、弁護人が立ち会った中で、受訴裁判所の裁判官が教示すべきである。

・ 選任手続の段階ではなく、公判の審理が始まる直前に裁判員が宣誓するということもあり得るのではないか。また、我が国の宣誓には宗教的要素がないので、公開の法廷で宣誓するということに意味があるのではないか。刑事裁判の基本原則については、明確に教示してもらう必要がある。

・ 裁判員の選任手続の中で宣誓を済ませるというのもあり得る形だろう。

・ ドイツでは参審員は宣誓をしない。裁判員制度についてもドイツの参審制度に近いイメージを持っているので、裁判員が公開の法廷に行く前に宣誓などの手続を済ませておく方がよいように思う。

・ 教示の内容については、一般的なものはあらかじめ作っておいた方がよいのではないか。米国では、陪審員向けのハンドブックが作成されており、無罪の推定という刑事裁判の基本原則や法廷でのエチケットなどもその内容に含まれている。

・ 裁判員候補者が集まったところでビデオを上映するなど、様々な工夫があり得よう。

カ 新たな裁判員が加わる場合の措置(たたき台4(6)関係)

・ たたき台の案のとおりでよい。公判手続を初めからやり直すとすると、証人を再度召喚することになり過重な負担をかけるなど訴訟経済に反する。更新の方法は、新たな裁判員が実質的に心証を形成でき、かつ裁判員に負担が少ないものとすべきであるが、現在の実務で見られるような簡略化された方法ではだめであろう。裁判員が記録を法廷外で吟味するのを禁止するまでの必要はないが、可能な限り公判廷でそれまでの審理結果を理解できるようにすることが重要である。例えば、検察官、弁護人が、それぞれの立場で証拠の概要等を説明し、それに対し相手方が意見を述べることができるという方法も考えられるであろう。

・ 更新がないことが理想であるが、現実には裁判員が欠けることもあるので、更新手続の規定を設ける必要があろう。更新の方法としては、中間的な弁論又は第二次の冒頭陳述とでもいうもの、すなわち、当事者双方がそれぞれの主張や、重要と考える証拠の内容を提示するというような方法が考えられる。証人尋問などは録画しておき、重要な部分については、それを再生するといった工夫をすることも考えられよう。

・ 新しく加わった裁判員に事件の争点や証拠構造を理解してもらうのは、工夫次第で難しくないであろう。これに対し、「証拠調べの結果について実質的な心証をとることができる」ことを確保するのは容易ではないが、問題となる部分の全文朗読や、録画テープの再生といった方法によることになろう。

・ 証人尋問をビデオに録画しておいて再生するということも考えられ、当事者の合意があれば、一部分のみの再生もあり得よう。

・ まず第一に、更新という事態が生じないように努力すべきである。直接主義の要請からは、手続を初めからやり直すということにも一理あると考えるが、証拠調べが相当進んでしまっているような場合に例外を設けるのはやむを得ない。更新の具体的方法としては、主張の内容と審理の経過を説明することが必要である。証拠調べについては、例えば、重要な証人の証言については、調書の朗読や証言内容の説明では実質的な心証をとることが困難である場合もあるであろうから、ビデオ録画の利用による証人尋問の再現が必要な場合もあろう。

・ 更新は、やむを得ない場合には例外として認めるべきであろう。手続のやり直しは、証人だけではなくすべての訴訟関係人にとって無駄が多い。更新の方法は、新たに証拠調べをし直すという建前と整合するようなものでなければならないであろう。

キ 証拠調べ手続等(たたき台4(7)関係)

(ア) 冒頭陳述について(たたき台4(7)ア関係)

・ たたき台の案に賛成である。裁判員に争点を把握してもらうために、弁護人の冒頭陳述を必要的なものとすべきであろう。また、裁判員が立証を理解しやすくするために、冒頭陳述では証拠との関係を具体的に明示する必要がある。

・ 従来の冒頭陳述は物語式であったが、争いのないところは簡単にして、争点中心主義にすべきだと考える。全体の分量も従来より少なくし、簡潔で、どの証拠で何が立証されるのかをイメージさせるようなものにならなければならない。

・ これまで物語式の冒頭陳述が平板で長いものになったことには立証の対象が広範囲に及んだという事情があったので、立証の対象を公訴事実の存否に関わる事実や重要な情状事実に絞ることが必要である。他方、事案によっては、時系列一覧表のようなものを併用することも必要となるのではないか。
 弁護人にも冒頭陳述をしてもらう必要がある。これまで弁護側は、まず検察官立証をみた上で検察官立証の弱そうなところを突くというやり方をすることが少なくなかったが、充実した事前準備がなされ、証拠開示が拡充されれば、弁護側としても冒頭陳述をすることが可能となる場合が多くなるのではないか。弁護人による冒頭陳述もなされれば、裁判員にとって、何のために証拠調べが行われているのかがより分かりやすくなるであろう。

・ 検察官と弁護人とがそれぞれ、勝手に冒頭陳述を作成するのでは、論点がずれ、双方の主張がかみ合わなくなるおそれもあるので、第一回公判前に検察官と弁護人とが冒頭陳述案のやり取りをする制度とした方がよい。

・ 準備手続の段階で、双方が冒頭陳述をすることが可能になる程度にまで争点整理がなされるようにすべきであろう。裁判員に弁護側の主張が分からないまま証拠調べがなされるというのは弁護側にも有利ではないであろうから、弁護人も冒頭陳述をせざるを得ないであろう。

・ 冒頭陳述の目的は、裁判員にその仕事の指針を示すということになるから、充実した準備手続や十分な証拠開示を前提にすれば、弁護側としても公判に臨む方針を明らかにすることが重要で、弁護人による冒頭陳述が行われることになるであろう。検察側立証の弱いところを突くという防御方針もあろうが、それも冒頭陳述の在り方に反映されていくのではないか。

(イ) 証拠調べ等について(たたき台4(7)イ関係)

・ 第一回公判前の準備手続で争点整理を徹底して行うことが大切である。何のための立証が行われているのか分からなければ、裁判員は何を判断すべきであるのか理解できないことになる。準備手続においては、証拠調べの範囲や順序を具体的に定める必要がある。検察官としては、捜査によって明らかになった事実を漫然と立証するのではなく、立証する事実の範囲を適正妥当な刑罰権行使のために必要最小限のものに限定し、証拠を厳選して最良証拠により立証するよう、これまで以上に心がける必要がある。刑事訴訟法321条1項2号に基づく検察官調書、いわゆる2号書面の証拠調べ請求についても、犯罪の立証に必要不可欠な場合に限定すべきであり、他の客観的な証拠などにより立証できる場合には、検察官調書を請求しないようにすることも必要となろう。任意性、特信性、信用性についての争いを避けるためには、起訴前の証人尋問を活用することを考えるべきであり、そのために刑事訴訟法227条の要件を緩和することも検討すべきである。

・ 現状では、両当事者の立証活動が手厚くなりすぎて、かえって心証形成を妨げているのではないか。取り調べる証拠の量が多く、その範囲が広すぎるのではないかと感じる。公訴事実と重要な量刑事実の存否に重点を置き、争点に集中した無駄のない証拠調べを行うべきであり、証拠の総量を減らして最良証拠による簡潔な立証に心がけてもらう必要がある。また、これまでの立証活動は、書証に依存しすぎており、そのために法廷での心証形成を妨げているのではないか。裁判員制度の下では、公判で心証が形成できるように、書証に依存しない証拠調べが可能となるような方策を考えるべきである。また、供述調書の作成経過が争われた場合に、客観的に判断できる方法がないため、その点をめぐる証人尋問や被告人質問に時間がかかっているし、判断のための客観的な資料が乏しく、関連する証拠を法廷外でつぶさに検討しなければならなくなっているというのが現状であるが、そのようなことにならないような方策を考えるべきである。

・ たたき台に挙げられている項目は訓示的なものとすればもっともな事柄ばかりだと思われるが、義務的なものとするのであれば、なお検討すべき問題もあろう。総論としては、裁判員制度導入のための環境整備であるからといって、捜査も含めた刑事司法制度全体の本質を損なうことになってはならないと思う。手間がかかるといった類のことなら程度の問題であるから、適宜対応策が検討されればよいが、制度の本質に触れるものについては、慎重に考えるべきである。

・ 検察官は、従来、いったん自白調書の証拠調べを請求し、その任意性が争われた場合には、被害者がある事件のように、犯罪事実の立証に自白調書は不可欠ではないときであっても、任意性の立証を行い、その自白調書を証拠採用してもらうことにこだわってきたように思う。今後は、いわば面子を捨てて、自白調書の証拠請求を撤回するという方向もあるのではないのか。一方、裁判官が主体的に訴訟指揮をすれば、争点に集中して無駄のない証拠調べを確保することは可能なのではないか。

・ 犯罪の主観的な要素や、計画性、動機などの重要な犯情に関する部分は、被告人の供述がないと明らかにすることは困難なので、法定刑の幅が広い現行法の下で適正な量刑を確保するためには、自白調書を証拠とすることが必要で、そのために任意性の立証が必要となる場合が多いのではないか。

・ 当事者から見ても重複になる立証や周辺的な証拠による立証は当事者自身がしないようにするべきである。裁判所は無駄な立証だと思えば立証を制限できるが、立証してみてはじめて結果的に無駄であったことが分かるということもあるので、裁判所がすべての場合に、不要な立証活動を制限できるわけではない。

・ 「証人等の尋問は、争点を中心に簡潔なものとすること」「証人等の反対尋問は、原則として、主尋問終了後直ちに行うこと」というたたき台の案に賛成である。現在の実務では、主尋問が終わってから何日も経過した後に、記録を見ながら反対尋問をするというようなことが行われている。しかし、反対尋問は本来、主尋問に対する証人の証言を即座に弾劾するためのものであるし、連日的開廷の実現のためにも、主尋問終了後直ちに反対尋問をするということを徹底すべきである。

・ 現状では、裁判官は記録に依存するところが大きいので、反対尋問も尋問結果を記録に残すためのものになっている。裁判員裁判では、法廷で心証をとってもらう必要があり、その場で決着がつくような尋問をする必要がある。

・ これまでの実務は、証人の供述調書の開示が主尋問終了後に行われるという事情もあり、やむを得ない面もあった。これからは、争点整理とそれを可能とするような十分な証拠開示がなされるので、主尋問終了後直ちに反対尋問をすべきである。これからは裁判員に聞いて理解してもらえるような証人尋問をしなければならならないし、証人の数も増えるであろうから、なおさらその場で反対尋問をすることが必要となろう。

・ 主尋問終了後直ちに反対尋問を行うのが原則であるが、予想外の証言が出た場合には、その場で水掛け論をしても反対尋問は成功しないので、そのような場合には事実関係の調査のための時間が必要であり、例外を認めるべきであろう。

・ 今の実務では公判廷での証言が軽視されていると思うが、それは供述調書を証拠として出せばいいと考えられているからではないかと感じる。公判で偽証するのを放置していたのでは、いつまでも検察官調書を中心とした立証になる。一方で、偽証罪の摘発もほとんどなされていないが、偽証のうちひどいものについては偽証罪として摘発すべきであろう。

・ 裁判所における偽証罪事件の終局人員(被告人数)は、平成9年は3名、平成10年は3名、平成11年は2名、平成12年は6名、平成13年は3名であった。

・ これまで偽証罪の適用例が少なかった理由としては、いわゆる2号書面としての検察官調書の証拠調べで本体の事件の立証としては解決がついていたということや、大きな事件での偽証について偽証罪で起訴すると結局同じ事件をもう一度審理するのと同じだけの手間がかかるということなどがあったと思われる。また、本体の事件の審理中に偽証罪を摘発すると、本体の事件の弁護活動に対する妨害であるという批判を受けることもあった。しかし、今後は、裁判員制度が導入され、本体の事件についても審理期間が比較的短期になると思われるので、摘発の環境も整うことになろう。

・ 米国では、証人の証言につき調査が必要となったような場合、再度の尋問権を留保して、いったん証人尋問を終えるというやり方をすることがある。

・ 偽証罪の適用は、運用によっては極めて危険である。かつて、検察官調書の内容とは異なる証言をした証人について、証人尋問終了後すぐに検察官が取り調べようとしたことがあり、弁護側の立証に対する妨害であり、証言の自由の侵害だという批判を受けた。そのために、偽証罪については謙抑的な運用になり、本体の事件について第一審判決があるまでは偽証罪は立件しないというのが不文律となったが、その方針は正しいと思う。本体の事件について第一審判決が出た後なら、証拠をそろえて偽証罪を立件するということは考えられる。いわゆる2号書面としての検察官調書の採用に頼った立証が行われているというが、その採用が問題となるのは、主に共犯者の供述を内容とする検察官調書の場合であり、それに対して、被害者の場合などは、検察官は証人尋問で勝負しなければならないから、法廷できちんと尋問しているはずである。

・ 証人の供述調書を主尋問前に開示しても、本質的でない細かい点を延々と尋問するといった無駄で冗長な反対尋問が行われることが実際にあった。的確な反対尋問が行われるよう、裁判所がき然と訴訟指揮をする必要もある。

・ 裁判所としては、争点が明確にされていなかったので、何のための尋問か判断が難しく、そのために尋問を制限できなかったという面もある。これからは、争点整理がなされ、証人調べについても立証事項が明らかにされるはずなので、尋問の制限をすることは容易になるであろう。

・ 「集中審理」方式が励行された時代には、主尋問終了後直ちに反対尋問を行うことは当然と考えられていた。それが行われなくなったのは、当事者の準備が不十分であったのと、裁判所が拙速という批判をおそれたからだと思われる。証拠開示に関しては、最近では、主尋問前に証人の供述調書を開示している例が増えているのではないかと思われるので、今でも主尋問終了後直ちに反対尋問をすることはできるはずであり、そういう経験を積み重ねて、裁判員裁判に役立てていくということも考えるべきではないか。

・ 供述調書の用語や体裁、内容をもっと分かりやすくする必要がある。何を立証するためのものかを意識して調書を作成しなければならない。この点を、今後より一層留意して工夫する必要がある。立証事項ごとに別個の書類にすることも考えられよう。

・ 警察での捜査の段階では、事件の筋が見えない混沌としたなかで捜査書類が作成されることが多いので、工夫は必要だが、立証事項ごとに個別に調書を作成するというのは難しいところもある。様々な可能性がある以上、広めに証拠を収集するというのが、警察捜査の段階ではあるべき姿だと思う。

・ 争いがない事実については、公判前の準備の段階で合意書面を作り、それを証拠にすれば、分かりやすくなるであろう。

・ 今後の立証活動は、法廷での証言を中心とした立証に転換し、そのために、証人が公判廷で真実を述べやすい環境整備をする必要がある。例えば、偽証罪の可能性の周知も重要になってくるし、起訴前の証人尋問の活用も重要になってくるであろう。
 ただ、自白調書などの供述調書が重要な証拠になる場合も残ると思われるから、その任意性や信用性の立証のために、それについての争点整理の徹底が必要である。どういう理由で任意性、信用性を争うのかが不明確なままでは、取調べの過程を総花的に立証せざるを得なくなり、いきおい主尋問の時間が長くなり、反対尋問も長くなる。したがって、被告人側は、任意性や信用性を争うのなら、その根拠となる具体的事実を明らかにし、具体的な争点をめぐって審理を行うことが不可欠である。
 任意性に関する具体的な争点が明らかにされたときは、それを踏まえて、取調官自身の証言により取調べ状況を具体的に立証することが必要である。「取調官は被告人が主張する事実を否定するだけで、取調状況を具体的に明らかにしようとしない」との指摘もあるが、事件関係者のプライバシーの保護や今後の捜査に多大な支障が生じることを避けるなどのやむを得ない事情がある場合を除き、取調官の証人尋問により可能な限り取調べの具体的状況を明らかにするよう、検察官の尋問技術の向上を含め、最大限の努力をすべきであると考えている。
 また、信用性の立証については、供述の裏付け捜査の徹底に今後一層努めていくべきであると考える。
 供述調書の任意性、信用性の担保は、書面による取調べ過程の記録の制度が有効で、任意性の立証にも役立つであろう。また、被疑者段階での公的弁護制度の導入により、弁護人から適切な助言を受けられるようになるということも、任意性の担保にとって有用であろう。
 実況見分の際の被疑者による犯行状況の再現などについて、特に弊害がない場合には、録画することも考えられる。それは、任意性や信用性の担保にもなり、犯罪事実の立証にも役立つであろう。
 もっとも、供述調書の信用性等を分かりやすく立証するための方策は以上に尽きるものではなく、今後も引き続き様々な角度から検討していかなければならないと考える。

・ 供述調書の作成状況が問題となる事件では、その審理に時間がかかり、多大な労力を要しているというのが現状である。今年の1月末、東京高裁に係属する控訴事件について、第一審における刑事訴訟法321条1項2号、322条による供述調書の採用状況を調査したところ、法定刑に死刑又は無期懲役刑が含まれる事件では被告人133人中71人が否認事件であり、そのうち21人の事件で321条1項2号に基づく検察官調書の証拠調べ請求がなされており、調書の数は、平均で、一人の事件当たり5.7通、分量は87.9丁であった。これらは、主として、共犯者的な立場にある者の供述調書であると思われる。また、322条に基づく被告人の供述調書の証拠調べ請求があったのは14人の事件であり、その中には、捜査官6人の尋問に11期日、被告人質問に4期日要したものや、捜査官5人の尋問に7期日、被告人質問に6期日要したもの、捜査官3人の尋問に5期日、被告人質問に5期日要したものがあった。今までは、このような事件では、被告人と捜査官の供述が対立し、客観的な資料が少ない中で、どちらを信用すべきかということで判断していたが、できれば客観的な判断資料があると望ましい。取調べ状況・過程の書面による記録の作成や犯行再現の状況をビデオ録画するということは可能であろうが、最初に不利益な供述をした状況などについて客観的に明らかにする資料がないと、特に裁判員については、的確な判断ができるのか懸念されるので、その具体的方策をさらに検討していただきたい。

・ 任意性の立証は、被告人質問で目的を達している場合も多い。現に、東京地裁で約2か月間に第一審判決のあった約450件のうち、任意性が争われたのは2件だけであったが、そのうち一件は2時間の被告人質問で、もう一件は2時間の取調官の証人尋問で終わっている。

・ 刑事訴訟法227条による公判前の証人尋問制度を活用することは良い提案であると思う。法律上の要件を改めることについても賛成である。その制度を使うことは、外国人である事件関係者が退去強制されるような場合にも有用であろう。
 任意性に関する争点整理については、今でも被告人質問を先行させるようにしている。自分が扱った殺人事件でも、最初の2回は被告人質問を行い争点を明らかにしたが、それでも、警察官に対する尋問に5期日、検察官に対する尋問に1期日、被告人質問に2期日を要し、全体で約半年かかったことがあった。今後も調書の作成状況について争いは残ると思うが、その点の判断のために何らかの客観的な手がかりがあると助かるので、取調べ過程のビデオ録画化なども検討してほしい。

・ 刑事訴訟法227条を利用した公判前の証人尋問についての全国的な統計はないが、平成10年から平成14年にかけての期間における東京地裁の実績では、平成11年に1件あっただけである。大阪地裁の実績では、刑事訴訟法226条による証人尋問も含めて、平成10年に2件、平成11年に4件、平成12年と平成13年は0、平成14年に1件あったが、そのうちの多くは刑事訴訟法226条による証人尋問だと思われる。

・ 刑事訴訟法227条による証人尋問については、弁護人の立会いを必要的にするかどうかも検討すべきであろう。

・ 裁判員が証拠調べの内容を十分理解し的確な判断ができるように、図面やプレゼンテーション用ソフトウェアなどの利用によるヴィジュアル化を図ることも考えるべきであろう。

・ 法廷もより情報技術(IT)化を促進する必要があろう。

・ 証人の証言の食い違いを分かりやすく提示する工夫なども必要になるのではないか。

・ 当事者、裁判官、裁判員のために適切な公判記録の作成が重要であり、そのための新しい技術の適切な活用を検討していただきたい。

・ 反対尋問は主尋問終了後直ちに行われるし、心証形成も新鮮な記憶に基づいて行われるので、公判審理のために必要な記録は確認的なもので足り、必ずしも速記録である必要はない。テープやビデオによる録音録画でも足りるのではないか。

・ 国際会議では、会議のあった日に議事録が作成されている。最近の速記者は優秀であり、速記官の活用も検討してはどうか。

(2) その他

 今後の検討の参考とするため、次回(5月16日)、日本新聞協会、日本雑誌協会、日本民間放送連盟からヒアリングを行うこととされた。

(3) 次回以降の予定
 次回(4月25日)は、引き続き、刑事訴訟手続への新たな参加制度の導入に関する検討を行う予定である。

(以上)